(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021090
(43)【公開日】2022-02-02
(54)【発明の名称】逆浸透膜装置の運転方法及び水処理システム
(51)【国際特許分類】
B01D 61/10 20060101AFI20220126BHJP
B01D 65/06 20060101ALI20220126BHJP
B01D 65/02 20060101ALI20220126BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20220126BHJP
B01D 65/10 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
B01D61/10
B01D65/06
B01D65/02 530
C02F1/44 A
B01D65/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020124471
(22)【出願日】2020-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇規
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006HA61
4D006JA65Z
4D006JA67Z
4D006KA52
4D006KA54
4D006KA56
4D006KA67
4D006KC02
4D006KC16
4D006KD11
4D006KD12
4D006KD17
4D006KE03P
4D006KE04P
4D006KE07P
4D006KE08P
4D006KE09P
4D006KE09Q
4D006KE12P
4D006KE15P
4D006KE16P
4D006KE19P
4D006LA06
4D006MA03
4D006MC54
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB08
(57)【要約】
【課題】 本発明は、水透過係数を正確に算出して、効率的な洗浄が可能なタイミングを得ることによって逆浸透膜装置の洗浄の効率化を可能とする逆浸透膜装置の運転方法、及びこの運転方法の実施に好適な水処理システムを提供する。
【解決手段】 被処理水を逆浸透膜装置に供給して透過水及び濃縮水を得る通常運転工程と、前記透過水を被処理水として前記逆浸透膜装置に供給し、透過水及び濃縮水を得る膜閉塞診断工程とを実施し、前記膜閉塞診断工程における水透過係数を指標にして前記逆浸透膜装置の洗浄の要否を判定することを含む、逆浸透膜装置の運転方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を逆浸透膜装置に供給して透過水及び濃縮水を得る通常運転工程と、
前記透過水を被処理水として前記逆浸透膜装置に供給し、透過水及び濃縮水を得る膜閉塞診断工程とを実施し、
前記膜閉塞診断工程における水透過係数を指標にして前記逆浸透膜装置の洗浄の要否を判定することを含む、逆浸透膜装置の運転方法。
【請求項2】
前記通常運転工程と前記膜閉塞診断工程とを交互に実施する、請求項1記載の逆浸透膜装置の運転方法。
【請求項3】
前記膜閉塞診断工程における前記透過水の供給圧力が、前記通常運転工程における前記被処理水の供給圧力の50~100%であり、前記膜閉塞診断工程における濃縮水量が、前記通常運転工程における濃縮水量の50~100流量%である、請求項1又は2記載の逆浸透膜装置の運転方法。
【請求項4】
前記判定結果に基づく前記逆浸透膜装置の洗浄を、前記被処理水中に洗浄薬液を添加して前記逆浸透膜装置を運転することにより行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の逆浸透膜装置の運転方法。
【請求項5】
前記水透過係数に基づき前記洗浄薬液の前記被処理水中への添加量を制御する、請求項4記載の逆浸透膜装置の運転方法。
【請求項6】
前記判定結果に基づく前記逆浸透膜装置の洗浄を、洗浄液タンク中の洗浄液を前記逆浸透膜装置の供給側に供給し、濃縮側から排出される該洗浄液を前記洗浄液タンクへと戻す洗浄システムを稼働させることにより実施する、請求項1~3のいずれか1項に記載の逆浸透膜装置の運転方法。
【請求項7】
被処理水を逆浸透膜処理して濃縮水と透過水とを得る逆浸透膜装置と、
前記逆浸透膜装置の供給側に前記透過水を供給する透過水供給ラインと、
前記逆浸透膜装置の供給側圧力を測定する圧力測定手段と、
前記透過水の流量を測定する流量測定手段と、
前記透過水を被処理水として前記逆浸透膜装置で処理しているときに、前記圧力測定手段及び前記流量測定手段により測定された供給側圧力及び透過水流量に基づいて水透過係数を算出し、算出された水透過係数を指標にして前記逆浸透膜装置の洗浄の要否を判定する制御部と
を含む、水処理システム。
【請求項8】
前記水処理システムが、被処理水を逆浸透膜装置に供給して透過水及び濃縮水を得る通常運転工程と、前記透過水を被処理水として前記逆浸透膜装置に供給して透過水及び濃縮水を得る膜閉塞診断工程とを交互に実施するものである、請求項7に記載の水処理システム。
【請求項9】
前記制御部の指示に基づいて、前記被処理水中に洗浄薬液を添加する薬液注入手段を有する、請求項7又は8に記載の水処理システム。
【請求項10】
前記制御部の指示に基づいて、洗浄液タンク中の洗浄液を前記逆浸透膜装置の供給側に供給し、濃縮側から排出される該洗浄液を前記洗浄液タンクへと戻す洗浄システムを有する、請求項7又は8に記載の水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
逆浸透膜装置の運転方法及び水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜(以下、RO膜ともいう)装置を長期に亘り運転し続けると、原水等の被処理水由来の成分(油分、懸濁物質、イオン成分等)がRO膜の膜面に堆積していき、RO膜は徐々に閉塞していく。RO膜の閉塞状態が進行するにつれて、RO膜装置の透過水量や透過水質は低下していく。したがって、上記の透過水量の変動を検知することにより、RO膜装置の膜閉塞の状態を把握することができる。この透過水量の変動による膜閉塞の検出は、供給水側の膜面浸透圧を考慮した水透過係数を指標にして判断される(例えば、特許文献1)。
RO膜装置に生じた膜閉塞は、定期的に酸やアルカリ、酸化剤や還元剤等の洗浄薬剤を含む洗浄液を流通させることにより洗浄され除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
膜閉塞物質を効果的に除去するには、RO膜装置の運転中に膜閉塞の兆候を正確に検出して、洗浄処理に切り替えることが重要である。しかし、RO膜装置の通常運転時に水透過係数の挙動を正確に分析して、膜閉塞の兆候を適切に捉えることは難しい。これは、水透過係数の算出において考慮される浸透圧が、被処理水(原水)中の成分組成、温度、回収率等の変動によって変化するためである。
例えば、供給水の浸透圧の経時変化を評価する方法として、あらかじめ測定もしくは算出された浸透圧と導電率(電気伝導度)との関係から、測定された導電率の増減によって浸透圧を算出する。しかし供給水の導電率が一定であっても、含まれる成分種が変わると浸透圧は変化する。すなわち、この方法では原水成分組成が変わった時の正確な浸透圧を算出することは困難である。
【0005】
また、浸透圧の算出には膜面濃度を用いるが、RO膜装置の運転においては、濃度分極現象によって供給水濃度に比べて、膜面濃度が高くなる。膜面濃度は計測が難しいため、水透過係数算出のためには、供給水濃度に、透過流束と物質移動係数から導いたパラメータをかけた算出値を用いる。パラメータには経験値を用い、通常、1.0~1.2をかけることが一般的である。しかし、膜面濃度の算出に用いるパラメータは、回収率や透過水量、濃縮水量、膜の閉塞度によって変化する。よって、パラメータが一定との前提で水透過係数を算出すると、算出値は、実際の水透過係数とは異なるものとなってしまう。したがって、パラメータが一定との前提で水透過係数を算出した場合、水透過係数を正確に捉えることができない。このような被処理水の水質変動や回収率の変動は、水透過係数の低下を指標とした膜閉塞の状態の把握において誤認を招く原因となり、ひいては、本来は、まだ洗浄が不要な状態のRO膜装置に対して、洗浄処理の実施を行ってしまうことにも繋がる。また、洗浄が必要な状態のRO膜装置に対して、洗浄処理の実施が遅れてしまうことにもなる。
【0006】
本発明は、RO膜装置の水透過係数の経時的な変化を正確に捉えてRO膜装置に生じた膜閉塞の状態を適切に把握し、逆浸透膜装置の洗浄を無駄なく効率的に行うことを可能とする逆浸透膜装置の運転方法、及びこの運転方法の実施に好適な水処理システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は、以下の手段によって解決された。
[1]
被処理水を逆浸透膜装置に供給して透過水及び濃縮水を得る通常運転工程と、
前記透過水を被処理水として前記逆浸透膜装置に供給し、透過水及び濃縮水を得る膜閉塞診断工程とを実施し、
前記膜閉塞診断工程における水透過係数を指標にして前記逆浸透膜装置の洗浄の要否を判定することを含む、逆浸透膜装置の運転方法。
[2]
前記通常運転工程と前記膜閉塞診断工程とを交互に実施する、[1]記載の逆浸透膜装置の運転方法。
[3]
前記膜閉塞診断工程における前記透過水の供給圧力が、前記通常運転工程における前記被処理水の供給圧力の50~100%であり、前記膜閉塞診断工程における濃縮水量が、前記通常運転工程における濃縮水量の50~100流量%である、[1]又は[2]記載の逆浸透膜装置の運転方法。
[4]
前記判定結果に基づく前記逆浸透膜装置の洗浄を、前記被処理水中に洗浄薬液を添加して前記逆浸透膜装置を運転することにより行う、[1]~[3]のいずれかに記載の逆浸透膜装置の運転方法。
[5]
前記水透過係数に基づき前記洗浄薬液の前記被処理水中への添加量を制御する、[4]記載の逆浸透膜装置の運転方法。
[6]
前記判定結果に基づく前記逆浸透膜装置の洗浄を、洗浄液タンク中の洗浄液を前記逆浸透膜装置の供給側に供給し、濃縮側から排出される該洗浄液を前記洗浄液タンクへと戻す洗浄システムを稼働させることにより実施する、[1]~[3]のいずれかに記載の逆浸透膜装置の運転方法。
[7]
被処理水を逆浸透膜処理して濃縮水と透過水とを得る逆浸透膜装置と、
前記逆浸透膜装置の供給側に前記透過水を供給する透過水供給ラインと、
前記逆浸透膜装置の供給側圧力を測定する圧力測定手段と、
前記透過水の流量を測定する流量測定手段と、
前記透過水を被処理水として前記逆浸透膜装置で処理しているときに、前記圧力測定手段及び前記流量測定手段により測定された供給側圧力及び透過水流量に基づいて水透過係数を算出し、算出された水透過係数を指標にして前記逆浸透膜装置の洗浄の要否を判定する制御部と
を含む、水処理システム。
[8]
前記水処理システムが、被処理水を逆浸透膜装置に供給して透過水及び濃縮水を得る通常運転工程と、前記透過水を被処理水として前記逆浸透膜装置に供給して透過水及び濃縮水を得る膜閉塞診断工程とを交互に実施するものである、[7]に記載の水処理システム。
[9]
前記制御部の指示に基づいて、前記被処理水中に洗浄薬液を添加する薬液注入手段を有する、[7]又は[8]に記載の水処理システム。
[10]
前記制御部の指示に基づいて、洗浄液タンク中の洗浄液を前記逆浸透膜装置の供給側に供給し、濃縮側から排出される該洗浄液を前記洗浄液タンクへと戻す洗浄システムを有する、[7]又は[8]に記載の水処理システム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の逆浸透膜装置の運転方法によれば、RO膜装置の水透過係数の経時的な変化を正確に捉えてRO膜装置に生じた膜閉塞の状態を適切に把握し、逆浸透膜装置の洗浄を無駄なく効率的に行うことが可能となる。また、本発明の水処理システムは、本発明の逆浸透膜装置の運転方法を実施するのに好適なシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る水処理システムの好ましい一実施形態を示したシステム構成図である。
【
図2】水透過係数と逆浸透膜装置の運転時間との関係を示したグラフであり、縦軸に水透過係数[m/day(日)/MPa]を示し、横軸に通水時間[day(日)]を示した。
【
図3】本発明に係る薬液添加手段及び洗浄システムを含む水処理システムの好ましい一実施形態を示したシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の好ましい実施形態を、必要により図面を参照して説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外、これらの実施形態に限定されるものではない。
本発明に係る逆浸透膜装置の運転方法(以下、単に「本発明の運転方法」とも称す。)では、被処理水をRO膜装置で処理した透過水を当該RO膜装置に再度供給することにより、当該RO膜装置の水透過係数を正確に捉え、この水透過係数を指標にして逆浸透膜装置の洗浄の要否を判定する。このように、透過水を通水させることによりRO膜装置の水透過係数を正確に把握することができ、RO膜装置の膜閉塞の状態を適切に把握することができる。
なお、本発明において膜閉塞がどの程度生じた場合に(水透過係数がどの程度低下した場合に)RO膜装置の洗浄を開始するのかは、水処理の目的、透過水の純度等、目的に応じて適宜に設定される。
【0011】
<水処理システム>
本発明の洗浄方法を行うのに好適な水処理システムの一例を
図1に示す。
水処理システム1(1A)は、被処理水(原水)を処理するRO膜装置10を備える。
RO膜装置10に用いられるRO膜は、特に限定はしないが、例えば芳香族ポリアミドを構成材料としたスパイラル型RO膜が好ましい。
【0012】
RO膜装置10に被処理水を供給する好ましい構成の一例について説明する。
水処理システム1(1A)は、被処理水(原水)が貯液される原水タンク51を備えることが好ましい。原水タンク51には、該原水タンク51に被処理水を供給するタンク供給ライン53と、被処理水をRO膜装置10に供給する原水供給ライン55とが接続されることが好ましい。本発明における「ライン」とは水が通る流路を意味する。
原水供給ライン55には送液ポンプとして第1ポンプP1が配されることが好ましい。第1ポンプP1には、ポンプに印加される交流電圧及び周波数を適切なる値に変換するインバータINVが接続されることが好ましい。これによって、第1ポンプP1の出力や回転数を制御することで送水圧力や送水流量を調整することができる。したがって、第1ポンプP1によって、原水タンク51に貯液されている被処理水を、RO膜装置10に所望の圧力をかけて所望の流量にして供給することができる。
【0013】
上記RO膜装置10は、一例として、前段に第1RO膜装置10(10A)が配され、後段に第1RO膜装置10Aに対して直列に第2RO膜装置10Bが配されて構成されている。第1RO膜装置10Aは、複数本(図示例は2本)の並列に配したRO膜ベッセル(以下、ベッセルという)Va1、Va2によってRO膜バンク(以下バンクという)が構成される。各ベッセルVa1、Va2には、通常は複数本のRO膜エレメント(図示せず、以下、エレメントという)が直列に配されることが好ましい。第2RO膜装置10Bは、1本又は複数本(図示例は1本)のベッセルVb1によってバンクが構成され、ベッセルVb1には、複数本のエレメント(図示せず)が直列に配されることが好ましい。
【0014】
具体的には、原水供給ライン55がベッセルVa1の供給側As1に接続され、原水供給ライン55の一部であり原水供給ライン55から分岐点B1で分岐された原水供給ライン56がベッセルVa2の供給側As2に接続される。この原水供給ライン56は、原水供給ライン55の分岐点B1から分岐されるが、第1ポンプP1に直接接続されていてもよい。上記RO膜装置の構成は一例であり、前段に3個以上のベッセルを配し、後段に2個以上のベッセルを配することもできる。また、バンクは、図示例のような2段構成に限定されることはなく、1段構成又は3段以上の多段構成とすることもできる。
【0015】
上記分岐点B1と、第1ポンプP1との間の原水供給ライン55には、分岐点B2から圧力測定ライン31が分岐し、該圧力測定ライン31に圧力測定手段としての圧力計PI1が接続されることが好ましい。また、原水タンク51と第1ポンプP1の間の原水供給ライン55には、電気伝導率計EC1が配されることが好ましい。この電気伝導率計EC1によって、原水供給ライン55中を流れる被処理水の電気伝導度が測定され、被処理水中の成分濃度が計測される。
【0016】
ベッセルVa1の濃縮水側Ac1には、濃縮水通水ライン41(41A)の一方側が接続され、その他方側は第2RO膜装置10BのベッセルVb1の供給側Bsに接続される。またベッセルVa2の濃縮水側Ac2には濃縮水通水ライン41(41B)の一方側が接続され、この他方側は、合流点C1にて濃縮水通水ライン41Aに合流される。なお、濃縮水ライン41Bは、濃縮水通水ライン41Aと合流せずに直接、ベッセルVa2の濃縮水側Ac2に接続されてもよい。これらの場合、ベッセルVa1、Va2の濃縮水が被処理水として第2RO膜装置10B(ベッセルVb1)の供給側Bsに供給される。
ベッセルVb1の濃縮水側Bcには、濃縮水通水ライン41(41C)が配される。濃縮水通水ライン41Cには、圧力調整弁V1が配されることが好ましい。ベッセルVb1の濃縮水側Bcと圧力調整弁V1との間の濃縮水通水ライン41Cには、分岐点B3で分岐する圧力測定ライン32が配され、圧力測定ライン32の他端に圧力計PI2が接続されることが好ましい。さらに、濃縮水通水ライン41には、圧力調整弁V1と分岐点B4との間に、濃縮水通水ライン41内を流れる流量を測定する流量計FI2が配されることが好ましい。
【0017】
濃縮水通水ライン41(41C)は、分岐点B4においてブローライン43と、原水タンク51の受給側Brに接続される濃縮水戻しライン61とに分岐されることが好ましい。ブローライン43には、仕切弁V2が配され、濃縮水戻しライン61には、仕切弁V3が配されることが好ましい。
【0018】
ベッセルVa1の透過水側At1には透過水通水ライン42Aが接続されることが好ましい。透過水通水ライン42Aには、ベッセルVa2の透過水側At2に接続される透過水通水ライン42Bが合流点C2にて合流され、ベッセルVb1の透過水側Btに接続される透過水通水ライン42Cが合流点C3にて合流されることが好ましい。上記合流点C2及びC3よりも下流側の透過水通水ライン42Aには、例えば、下流側の合流点C3側から順に、分岐点B5から分岐する圧力測定ライン33に接続する圧力測定手段としての圧力計PI3が配されることが好ましい。さらに、透過水の電気伝導度を測定する電気伝導率計EC2及び透過水通水ライン42A内を流れる流量を測定する流量測定手段としての流量計FI1が配されることが好ましい。「下流側」とは水が流れ行く側を意味する。
【0019】
また透過水通水ライン42Aには、流量計FI1よりも下流側に、透過水を貯液する透過水タンク57が配されることが好ましい。透過水タンク57には透過水供給ライン58の一端側が接続され、その他端側は合流点C4にて原水供給ライン55と合流される。この透過水供給ライン58には、透過水タンク57側から順に第2ポンプP2、仕切弁V4が配されることが好ましい。
また、原水供給ライン55の、第1ポンプP1と合流点C4との間には、仕切弁V5が配されることが好ましい。
したがって、原水供給ライン55は、原水タンク51側から順に、電気伝導率計EC1、第1ポンプP1、仕切弁V5、合流点C4、分岐点B2、分岐点B1が配され、逆浸透膜装置10に接続される。
【0020】
<運転方法>
次に、上記水処理システム1のRO膜装置10の運転方法を、
図1を参照して説明する。
RO膜装置10の運転では、被処理水をRO膜装置10に通水して透過水及び濃縮水を得る通常運転工程と、透過水を被処理水として逆浸透膜装置10に供給し、透過水及び濃縮水を得る膜閉塞診断工程とを実施する。そして、膜閉塞診断工程における被処理水(透過水)の水圧(圧力計PI1の測定値)、及び当該被処理水の透過水(透過水をRO膜装置10に通水して得られる透過水)の流量(流量計FI1の測定値)に基づき算出される水透過係数を指標にして、洗浄が必要な程度に膜閉塞が生じているか否かを判断する。
【0021】
<通常運転工程>
上記通常運転工程は、圧力調整弁V1、仕切弁V2、V5を開けた状態にし、仕切弁V3、V4を閉じた状態にする。その際、圧力調整弁V1は、背圧弁としての機能が有効な状態になるように、弁の開度が調整されることが好ましい。
このような状態で、インバータINVによる第1ポンプP1のインバータ制御を行うとともに、圧力調整弁V1の開度を調整する。なお、第2ポンプP2は停止状態とする。そして、原水タンク51から供給される被処理水を、第1ポンプP1によって加圧し、原水供給ライン55、56を通じてRO膜装置10に通水して処理し、透過水と濃縮水とを得る。得られた透過水は透過水タンク57に貯える。
通常運転工程では、例えば、濃縮水の総溶解固形分を2000ppm以上、濃縮水の全有機炭素を2ppm以上とすることができる。また、回収率は50%以上とすることが好ましい。
【0022】
通常運転工程では、被処理水のRO膜処理を連続的に行っていると、経時的にRO膜の膜閉塞が生じ、水透過係数の値が低下する。したがって、理論的には、通常運転工程における水透過係数の経時的な低下を捉えることにより、膜閉塞の状態ないし程度を評価することが可能となる。しかし実際には、被処理水中の成分濃度は通常は一定ではなく、経時的に変動する。そのため、水透過係数の変動を正確に捉えることができず、膜閉塞の状態を正確に把握することができない。つまり、水透過係数が低下または上昇する時間帯があっても、この水透過係数の低下または上昇は膜閉塞に起因するものではなく、単に、被処理水中の成分濃度の変動や回収率の変動に起因する場合がある。したがって、通常運転工程において、水透過係数の変動を正確に捉えて膜閉塞の状態を適切に把握し、洗浄の必要性を判断するには、供給水側膜面浸透圧を常時、正確に捉え続ける必要が生じる。
そこで本発明の運転方法では、通常運転工程とは別に膜閉塞診断工程を実施する。この膜閉塞診断工程では、RO膜装置の透過水を被処理水として使用するため、被処理水はいわゆる純水とみなすことができ、浸透圧を事実上無視できる(浸透圧をゼロとみなすことができる)。したがって、膜閉塞診断工程では水透過係数を正確に算出することができ、膜閉塞に起因する水透過係数の低下を的確に捉えてRO膜装置の洗浄を、無駄なく効率的に行うことが可能になる。
【0023】
<膜閉塞診断工程>
膜閉塞診断工程では、RO膜装置の透過水を被処理水としてRO膜装置10に供給して、RO膜装置10に供給される被処理水の水圧(圧力計PI1の測定値)、及び、透過水(透過水を被処理水として得られる透過水)の流量(流量計FI1の測定値)を測定する。それらの測定値に基づいて水透過係数の値を下記式によって正確に導くことができる。
【0024】
水透過係数A[m/day(日)/MPa]は、以下の(1)式によって求めることができる。なお、水透過係数の算出には、以下の方法に限らず公知のものを使用することができる。例えば、供給水圧力Pfとして、RO膜一次側の平均圧力(PI1とPI2の平均値)を用いてもよいし、供給水濃度Cbとして、RO膜一次側の平均濃度を測定もしくは算出して用いてもよい。
【0025】
A=Jv/{(ΔP-Δπ)}× Ct (1)
ただし、
A:水透過係数
Jv:水の透過流束(m3/m2/d)=Qp/F
Ct:温度補正係数
Qp:透過水流量(m3/day)
ΔP:膜間差圧(MPa)
Δπ:膜間の浸透圧(MPa)
F:RO膜面積(m2)
ΔP=Pf-Pp
Pf:供給水圧力(圧力計PI1の測定値、MPa)
Pp:透過水圧力(圧力計PI3の測定値、MPa)
Δπ=πm-πp
πm:供給水側(1次側)の浸透圧(MPa)
πp:透過水側(2次側)の浸透圧(MPa)
πm=Kπ・Temp・Cm
Kπ:パラメータ
Temp:供給水の水温
Cm:膜面濃度(mg/L)
Cm=Cb×exp(Jv/k)
Cb:供給水濃度(mg/L)
k:物質移動係数
である。
【0026】
上記の通り、水透過係数を算出するには膜間の浸透圧を把握する必要があり、そのために、膜面濃度(Cm)を把握する必要がある。Cmは、被処理水の濃度(電気伝導度)や回収率によって値が変化する。回収率=透過水量/原水量である。ここでいう原水量は、第1ポンプP1を流れる流量ではなく、タンク供給ライン53の流量である。濃縮水の循環がなければ、タンク供給ライン53と第1ポンプP1には同じ流量が流れる。しかし、濃縮水の循環がある場合、この流量は等しくならない。本発明における回収率はタンク供給ライン53の流量を用いて定義される。被処理水濃度や回収率が十分安定して一定であれば水透過係数を正確に算出するこが可能である。しかし、被処理水濃度や回収率に変動がある場合には、Cmが変動するため、変動したCmを常に捉えていないと、水透過係数を正確に計算することができない。また、水透過係数Aは、水温によっても変化するため、上記の(1)式においては、温度補正係数Ctを乗じることが好ましい。通常は、水温が25℃の時の水透過係数Aとなるように、温度補正係数Ctを乗じる。
これに対し、膜閉塞診断工程のように、RO膜装置10の透過水を被処理水として用いて、RO膜装置10にて処理を行ったときの水透過係数を指標にして膜閉塞の状態を把握すれば、当該水透過係数の算出において膜面濃度(Cm)をゼロとみなすことができ、膜面浸透圧(πm)もゼロとみなすことができる。その結果、膜間の浸透圧(Δπ)もゼロとみなすことができる。したがって、水透過係数を正確に捉えることが可能となる。膜閉塞診断工程は、定期的(2日(48時間)に1~6回程度、1回あたり1~60分間程度)に実施することが好ましい。膜閉塞診断工程は、水透過係数を算出するための流量、圧力等を測定できる時間だけ行えばよく、例えば、1回当たり1~10分間実施すれば足りる。
【0027】
膜閉塞診断工程の具体的な実施方法を、
図1を参照して説明する。膜閉塞診断工程では、圧力調整弁V1及び仕切弁V3、V4は開けた状態にして、仕切弁V2、V5は閉じた状態にする。
このような状態で、第2ポンプP2を稼働するとともに、圧力調整弁V1の開度を調整する。その際、圧力調整弁V1は、背圧弁としての機能が有効な状態になるように、弁の開度が調整されることが好ましい。なお、第1ポンプP1は停止状態とする。そして、透過水タンク57から供給された透過水を、第2ポンプP2によって加圧し、透過水供給ライン58、原水供給ライン55、56を通してRO膜装置10に通水して処理し、透過水と濃縮水とを得る。透過水は再び透過水タンク57に貯えられる。濃縮水は濃縮水通水ライン41、濃縮水戻しライン61を通じて原水タンク51に戻される。又は、必要に応じて、膜閉塞診断工程における濃縮水は、透過水タンク57に戻してもよい。この場合、図示はしていないが、透過水タンク57に戻すラインを配することが好ましい。その場合の透過水タンク57に戻すラインには、仕切弁(図示せず)を配することが好ましい。又は、膜閉塞診断工程における濃縮水は、仕切弁V2を開けて系外にブローしても好ましい。
なお、透過水供給ライン58に第2ポンプP2を配さず、透過水供給ライン58の原水供給ライン55への合流点C4を原水タンク51と第1ポンプP1との間に配することで、第2ポンプP2を省略することが可能である。このように第2ポンプP2を省略して、透過水の送液に第1ポンプP1を使用しても問題は生じない。
【0028】
また、この膜閉塞診断工程では被処理水としてRO膜装置の透過水を用いるため、逆浸透膜装置10の供給側As1、As2への透過水の供給水側圧力値(圧力計PI1の測定値)は、通常運転工程における供給水側圧力値(圧力計PI1の測定値)以下となるのが通常であり、通常運転工程における供給水側圧力値の50~100%であることが好ましい。また、省エネルギーおよびポンプ熱による水温上昇防止という観点から、膜閉塞診断工程において流量計FI2により測定される濃縮水量が、通常運転工程において流量計FI2により測定される濃縮水量以下であることが好ましく、通常運転工程において流量計FI2により測定される濃縮水量の50~100流量%であることが好ましい。
【0029】
図2に、本発明の運転方法を実施したときの、水透過係数の経時的変化の一例を示す。水透過係数は、経時的に、徐々に低下していくものであるが、
図2に示すように、通常運転工程では、算出される水透過係数は経時的に上昇したり下降したりしながら推移し、水透過係数の経時変化を正確に捉えていないことがわかる。
これに対し、膜閉塞診断工程では、透過水を被処理水としてRO膜装置10に供給しているため、供給水側の膜面濃度(Cm)ないし膜面浸透圧(πm)を事実上無視できる。したがって、水透過係数は、供給側の圧力(透過水の供給時の水圧)(Pf)と透過水の流量(Qp)だけに依存し、
図2に示す通り水透過係数の経時変化を正確に捉えることが可能となる。
【0030】
本発明の運転方法では、通常運転工程と膜閉塞診断工程とを交互に実施することが好ましい。その際、膜閉塞診断工程は上述のように、一定の短時間実施すれば足りる。膜閉塞診断工程における水透過係数の値が基準値に達するまでに低下したとき、要洗浄と判定され、例えば後述する制御部に信号が送信されて、洗浄工程に移行することができる。上記基準値は、水処理の目的、透過水の純度、回収率等、目的に応じて適宜に設定される。
【0031】
<薬液注入手段>
上記水処理システム1は、膜閉塞診断工程における水透過係数の値が基準値に達するまでに低下したことに基づく制御部(図示せず)の指示に基づいて、被処理水中に洗浄薬液を添加する薬液注入手段を有することが好ましい。
【0032】
図3に、水処理システム1が薬液注入手段を有する好ましい一実施形態を示す。この水処理システム1(1B)は、上記水処理システム1Aにおいて、薬液注入手段70を有する。この薬液注入手段70は、薬液タンク71を備え、薬液タンク71の薬液供給側から、原水タンク51と第1ポンプP1との間の原水供給ライン55の合流点C5にて接続する薬液供給ライン72が配されることが好ましい。この薬液供給ライン72には、薬液を注入するための第3ポンプP3が配されることが好ましい。
【0033】
<薬液注入方法>
上記の洗浄の要否判定の結果が要洗浄の場合、被処理水中に洗浄薬液を、その注入量を制御しつつ添加することが好ましい。
薬液の添加量は、制御部(図示せず)からの指示に基づいて、例えば第3ポンプP3の稼働状態を制御することによって、調整することができる。又は、薬液供給ライン72に薬液の流量を調整する流量調整弁(図示せず)を設けて、弁操作によって薬液の流量を調整してもよい。
【0034】
具体的には、水透過係数が薬液添加開始を示す基準値になった時点で、被処理水中に洗浄薬液を添加し、RO膜の洗浄を開始する。例えば、膜閉塞物質が炭酸カルシウム(CaCO3)を含む場合は、上記洗浄薬液として、酸性薬液である塩酸(HCl)、硫酸(H2SO4)等を添加してCaの溶解度を高めることができる。例えば、逆浸透膜装置10の水透過係数と、運転当初の水透過係数との差から、例えばPID制御(Proportional-Integral-Differential 制御)を実施し、洗浄薬液の注入量を制御することが好ましい。PID制御は、制御工学におけるフィードバック制御の一種であり、入力値の制御を出力値と目標値との偏差、その積分、および微分の3つの要素によって行う方法である。上記制御は、PID制御に限定されず、入力値の制御を、出力値と目標値とのP(偏差)制御、I(積分)制御、D(微分)制御のいずれか、またはそれらの組合せで行ってもよく、一般的なフィードバック制御を用いることができる。
また、閉塞物質がシリカ(二酸化ケイ素)を含む場合は、アルカリ性の洗浄薬液である、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を添加してシリカの溶解度を高めて洗浄することができる。この場合も上記と同様に、水透過係数に基づいて制御することでアルカリ性の薬液の添加量を制御することができる。上記の各制御は、上記制御部(図示せず)によって行うことが好ましい。
【0035】
<洗浄システム>
水処理システム1Bは、水処理システム1Aにおいて、洗浄液を循環させてRO膜装置10の膜閉塞を洗浄する洗浄システムを有することが好ましい。
図3にはこの洗浄システムの好ましい一実施形態を示した。
洗浄システム80は、洗浄液が貯液される洗浄液タンク81を有することが好ましい。洗浄液としては、上述した洗浄薬液ないしその希釈液を用いることができる。洗浄液タンク81は、洗浄液供給ライン82を介して、分岐点B2と分岐点B1との間の原水通水ライン55の合流点C6にて接続されることが好ましい。また洗浄液供給ライン82には、洗浄タンク81側から順に、洗浄液を供給する第4ポンプP4及び仕切弁V12が配されることが好ましい。また、逆浸透膜装置10Bの濃縮水側Bcと分岐点B3との間の濃縮水通水ライン41の分岐点B6から分岐して洗浄液タンク81に接続する洗浄液戻しライン83が配されており、洗浄液戻しライン83には仕切弁V11が配されていることが好ましい。
洗浄システム80は、水処理システムに備え付けられていてもよく、洗浄するときだけ取り付けるような可搬性のものでもよい。
【0036】
なお、透過水通水ライン42Aには、ベッセルVa1の透過水側At1と流量計FI1との間の透過水通水ライン42Aに仕切弁(図示せず)が配されることが好ましい。また、透過水通水ライン42Bには仕切弁(図示せず)、透過水通水ライン42Cにも仕切弁(図示せず)が配されることが好ましい。
【0037】
<洗浄システムを用いた洗浄方法>
上記洗浄システムを用いることにより、洗浄液タンク中の洗浄液を前記逆浸透膜装置の供給側に供給し、濃縮側から排出される該洗浄液を前記洗浄液タンクへと戻す循環系を稼働させ、RO膜装置を洗浄することができる。上記洗浄システムを用いたRO膜装置の洗浄方法の好ましい一実施形態について説明する。なお、洗浄の前に、清澄な水(例えばRO処理水)で被処理水を押し出すフラッシング工程を設けてもよい。
制御部から洗浄開始の指示が出されたら洗浄を開始する。例えば、圧力調整弁V1、仕切弁V4~V5を閉じた状態にして、仕切弁V11、V12を開けた状態にする。その他の仕切弁V2、V3は閉じた状態であっても、開けた状態であってもよい。そして第4ポンプP4を稼働して、洗浄液タンク81内の洗浄液を洗浄液供給ライン82から原水通水ライン55、56に通水して、第1、第2RO膜装置10A、10Bの各RO膜に洗浄液を接触させて洗浄を行うことができる。洗浄は、ほぼ無圧状態(洗浄液が逆浸透膜を透過しない状態)で行うことができるため、洗浄液は透過水側には流れず、濃縮水側に流れる。なお、各透過水通水ライン42のそれぞれに、仕切弁(図示せず)が設けられている場合には、それらの仕切弁を閉じた状態にしてもよい。このような状態で、RO膜装置10の各RO膜に付着している膜閉塞物質が洗浄液に接触して溶解される。そして、洗浄後の洗浄液は、濃縮水側を流れ、濃縮水通水ライン41、洗浄液戻しライン83を経て、洗浄液タンク81に戻される。
【0038】
RO膜装置の洗浄において、第4ポンプP4は常に稼働状態とする必要はない。例えば、洗浄液タンク81、洗浄液供給ライン82、原水供給ライン55、56、RO膜装置10、濃縮水通水ライン41、及び洗浄液戻しライン83で構成される洗浄液循環系を洗浄液で満たした後、洗浄中に第4ポンプP4を停止し、RO膜を洗浄薬液中に浸して静置したような状態としてもよい。
【0039】
洗浄を所定時間行った後、洗浄を終了する。所定時間とは、洗浄開始直前に測定した水透過係数の値に対応する、あらかじめ決定しておいた洗浄時間とすることができる。そして洗浄が終了した時点で、仕切弁V3、V4、V11、V12を閉じた状態にし、圧力調整弁V1、仕切弁V2、V5を開けた状態にして、第1ポンプP1を稼働状態にする。それとともに第4ポンプP4の稼働を停止する。こうして、上記の通常運転工程に戻す。通常運転工程に戻す前に、清澄な水(例えばRO処理水)で薬液を押し出すフラッシング工程を設けてもよい。
【0040】
RO膜装置の閉塞物質がシリカ等の無機物が主体の場合、膜閉塞は、後段側のバンク(第2RO膜装置10B)においてより顕在化する。したがって、最後段のバンク(第2RO膜装置10B)側から新しい洗浄液を供給することにより、膜閉塞をより効率的に回復させることができる。
また、膜閉塞物質が有機物の場合には、先の実施形態と同様に洗浄液を通液して洗浄を行えばよい。有機物は前段側のバンク(第1RO膜装置10A)に蓄積しやすいからである。
【0041】
上記の洗浄液を循環する洗浄システムを用いた洗浄は、膜閉塞が比較的進行しているときに実施することが好ましい。この洗浄システムを用いた洗浄は、洗浄効果は高いが、洗浄中は採水を停止しなければならない。
一方、上記の薬液注入による洗浄は、膜閉塞が比較的軽微な時に実施することが好ましい。この薬液注入による洗浄は、洗浄システムを用いた洗浄よりも洗浄効果は劣るが、採水を停止せずに水処理システムの運転を継続することができる。
【0042】
上述した水処理システム1は、本発明の運転方法の実施に好適な水処理システムの一例である。当該水処理システムは、通常使用時においては、本発明の効果を損なわない範囲で、一般的な水処理システムの種々の構成を適用することができる。例えば、被処理水の前処理システムを有してもよく、また超純水製造装置の形態とすることもできる。
【0043】
上述した水処理システムは、水回収率や透過水質の向上等を目的としており、水処理システムの回収率が自動で変更されるようなシステムに用いることが好適である。たとえば、原水、濃縮水、透過水のいずれか一つ以上の水温、pH、全有機炭素(TOC)、およびカルシウム、シリカ、フッ素、鉄、アルミニウム、炭酸等の濃度の少なくとも一つ以上の測定/算出値と、システムの回収率(すなわち濃縮倍率)から算出される濃縮水中成分濃度が、あらかじめ設定された許容値を満たすよう、システム回収率を制御するような水処理システムである。このような水処理システムでは、水質変動や装置の運転状況により回収率が変化しやすいため、水透過係数の算出に関する課題が回収率一定のRO膜を用いた水処理システムに比べて顕在化しやすくなる。
【0044】
本発明の水処理システムに用いられるRO膜装置に使用されるRO膜は、使用用途や被処理水水質、求められる透過水水質、回収率等によって適宜に選定することができ、極超低圧型、超低圧型、低圧型、中圧型、高圧型のいずれのRO膜であってもよい。RO膜としては、芳香族ポリアミドを構成材料としたスパイラル型逆浸透膜が好ましい。
低圧~超低圧型RO膜として、例えば、日東電工社製ESシリーズ(ES15-D8、ES20-U8)(商品名)、HYDRANAUTICS社製ESPAシリーズ(ESPAB、ESPA2、ESPA2-LD-MAX)(商品名)、CPAシリーズ(CPA5-MAX、CPA7-LD)(商品名)、東レ社製TMGシリーズ(TMG20-400、TMG20D-440)(商品名)、TM700シリーズ(TM720-440、TM720D-440)(商品名)、ダウケミカル社製BWシリーズ(BW30HR、BW30XFR-400/34i)、SGシリーズ(SG30LE-440、SG30-400)、FORTILIFE(登録商標)CR100などが挙げられる。
高圧型RO膜としては、例えば、HYDRANAUTICS社製SWCシリーズ(SWC4、SWC5、SWC6)(商品名)、東レ社製TM800シリーズ(TM820V、TM820M)(商品名)、ダウケミカル社製SWシリーズ(SW30HRLE、SW30ULE)(商品名)などを挙げることができる。
【0045】
本発明の水処理システムは、RO膜を用いた水処理システム全般に用いることができる。純水を製造する純水製造システムや、工場からの排水を回収するための排水回収システムに、特に好適に用いられる。
【実施例0046】
[参考例1]
図1に示した水処理システム1Aを用いて、通常運転工程と膜閉塞診断工程とを交互に行った。
【0047】
<通常運転工程>
図1に示した水処理システム1Aを用いて、先ず通常運転工程を行った。通常運転工程では、圧力調整弁V1、仕切弁V2、V5を開けた状態にし、仕切弁V3、V4を閉じた状態にした。その際、圧力調整弁V1は、背圧弁としての機能が有効な状態になるように、弁の開度を調整した。
またインバータINVによる第1ポンプP1のインバータ制御を行った。なお、第2ポンプP2は停止状態とした。そして、原水タンク51から供給された被処理水を、第1ポンプP1によって加圧し、原水供給ライン55、56に通じてRO膜装置10に通水して処理し、透過水と濃縮水とを得た。透過水は透過水通水ライン42A~42Cを通して透過水タンク57に貯えた。
被処理水のRO膜装置10への供給圧力は1.0MPaとした。被処理水の電気伝導度は600~1500μS/cmの間で変動し、平均的な電気伝導度は1000μS/cm、濃縮水の平均的な電気伝導度は5000μS/cmであり、透過水通水ライン42Aを流れる透過水の電気伝導度は約20μS/cmであった。被処理水の流量Qpおよび濃縮水量は、電気伝導度の変動に影響を受けて増減したが、それぞれ約10m
3/h(時間)、約2m
3/h(時間)であった。
【0048】
<膜閉塞診断工程>
水処理システム1Aにおいて、膜閉塞診断工程を行った。すなわち、圧力調整弁V1及び仕切弁V3、V4は開けた状態にして、仕切弁V2、V5は閉じた状態にした。
この状態で、第2ポンプP2を稼働するとともに、圧力調整弁V1の開度を調整した。その際、圧力調整弁V1は、背圧弁としての機能が有効な状態になるように、弁の開度を調整した。第1ポンプP1は停止状態とした。透過水タンク57から供給された透過水を、透過水供給ライン58に通水して、第2ポンプP2によって加圧し、さらに透過水供給ライン58、原水供給ライン55、56を通してRO膜装置10に通水して処理し、透過水と濃縮水とを得た。透過水は再び透過水タンク57に貯えた。濃縮水は濃縮水通水ライン41、濃縮水戻しライン61を通じて原水タンク51に戻した。
被処理水(RO透過水)量は10m3/h(時間)、被処理水とした透過水のRO膜装置10への供給圧力は0.75MPa、濃縮水流量は2m3/h(時間)であった。また、被処理水とした透過水の電気伝導度は20μS/cmであり、透過水通水ライン42Aを流れる透過水の電気伝導度は2μS/cmであった。
【0049】
上記の通常運転工程と膜閉塞診断工程とを24時間に各1回ずつ、交互に繰り返し(通常運転工程23時間50分/24時間、膜閉塞診断工程10分/24時間)、30日間経過するまで、各工程において水透過係数を算出した。その際、通常運転工程では、供給水側膜面浸透圧を一次側平均浸透圧の1.1倍である0.12MPaとして水透過係数を算出した。また、膜閉塞診断工程では、供給水側膜面浸透圧は0(ゼロ)MPaとして水透過係数を算出した。縦軸を水透過係数、横軸に経過時間として、水透過係数をプロットして各プロットを線で繋いだグラフを
図2に示す。
【0050】
図2に示したように、通常運転工程では、供給水圧力を一定としても被処理水の水質によって透過水量が変化し、本来、水透過係数は経時的に低下していくところ、ノイズが多く検出された。
これに対し、膜閉塞診断工程では、通水時間の経過に伴う水透過係数の低下を、ノイズを生じることなくきれいな曲線で表せることがわかる。
したがって、通常運転構成の合間に膜閉塞診断工程を挟むことによって、経時的に変化する水透過係数の値を正確に捉えて、RO膜装置の洗浄の要否を適切に判定できることがわかる。