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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021160
(43)【公開日】2022-02-02
(54)【発明の名称】発進用推進装置
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/06 20060101AFI20220126BHJP
【FI】
E21D9/06 301E
E21D9/06 311C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020124608
(22)【出願日】2020-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】592192907
【氏名又は名称】日建リース工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100155608
【弁理士】
【氏名又は名称】大日方 崇
(72)【発明者】
【氏名】布村 進
(72)【発明者】
【氏名】添田 良介
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AD33
2D054EA03
2D054EA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】発進坑内で掘進機と後部壁との間に十分なスペースが確保できない場合でも、推進のための設備の移設作業を必要とすることなく掘進機の発進を完了させることが可能な発進用推進装置を提供する。
【解決手段】この発進用推進装置100は、掘進方向に移動可能な可動部材11と、可動部材11に対して掘進方向の推進力を付与する駆動部12と、坑口壁1aと後部壁1bとの間で掘進方向に延び、駆動部12の推進力の反力を支持するガイド梁13と、を含む推進機構10と、発進坑1内に配置されたシールド機5に対して掘進方向後側に配置された推進部材20と、推進部材20と可動部材11とを連結する連結機構30と、を備える。連結機構30は、推進部材20を、可動部材11に対して掘進方向後方へ移動可能に連結し、可動部材11と推進部材20との間隔を変更および固定可能に構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘進方向前側の坑口壁と掘進方向後側の後部壁とを有する発進坑内に配置された掘進機を前記発進坑内から発進させるための発進用推進装置であって、
掘進方向に移動可能な可動部材と、前記可動部材に対して掘進方向の推進力を付与する駆動部と、前記坑口壁と前記後部壁との間で掘進方向に延び、前記駆動部の推進力の反力を支持する支持部材と、を含む推進機構と、
前記発進坑内に配置された前記掘進機に対して掘進方向後側に配置された推進部材と、
前記推進部材と前記可動部材とを連結する連結機構と、を備え、
前記連結機構は、前記推進部材を、前記可動部材に対して掘進方向後方へ移動可能に連結し、前記可動部材と前記推進部材との間隔を変更および固定可能に構成されている、発進用推進装置。
【請求項2】
前記可動部材は、前記坑口壁側に配置された前部可動部材と、前記後部壁側に配置された後部可動部材とを含み、
前記前部可動部材と前記後部可動部材とは、それぞれ、前記支持部材に沿って移動可能な状態と固定された状態とを切り替え可能に構成されており、
前記駆動部は、一端が前記前部可動部材に接続され、他端が前記後部可動部材に接続されて伸縮動作を行う推進ジャッキを含み、
前記連結機構は、前記前部可動部材に対して相対移動可能に前記推進部材を連結している、請求項1に記載の発進用推進装置。
【請求項3】
前記連結機構は、掘進方向において、前記推進部材を、前記前部可動部材と前記後部可動部材とのうち、前記前部可動部材側となる位置と、前記後部可動部材側となる位置と、に移動可能に構成されている、請求項2に記載の発進用推進装置。
【請求項4】
前記支持部材は、前記坑口壁と前記後部壁との間に跨がって設けられた梁状部材であり、前記掘進機から遠い側の外側支持部と、前記掘進機に近い側の内側支持部とを有し、
前記推進機構は、前記外側支持部に設けられ、前記外側支持部に沿って移動し、
前記推進部材は、前記内側支持部に設けられ、前記内側支持部に沿って移動するように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の発進用推進装置。
【請求項5】
前記連結機構は、前記外側支持部に配置された前記可動部材と、前記内側支持部に配置された前記推進部材とを、相対移動可能に連結する連結部材を含み、
前記連結部材は、前記外側支持部と前記内側支持部との間で、掘進方向に延びるように設けられている、請求項4に記載の発進用推進装置。
【請求項6】
掘進方向前側の坑口壁と掘進方向後側の後部壁とを有する発進坑内に配置された掘進機を前記発進坑内から発進させるための発進用推進装置であって、
前記坑口壁と前記後部壁との間で掘進方向に延びるねじ軸と、前記ねじ軸に螺合するナット部材と、前記ねじ軸と前記ナット部材とを相対回転させることにより前記ナット部材を前記ねじ軸に沿って移動させる駆動部と、を含む推進機構と、
前記ナット部材に連結され、前記発進坑内に配置された前記掘進機に対して掘進方向後側に配置された推進部材と、を備え、
前記推進機構は、前記ナット部材を移動させることにより、前記推進部材を、前記発進坑内の初期位置における前記掘進機の後方位置から、前記坑口壁の近傍となる発進完了位置までの範囲に亘って移動可能に構成されている、発進用推進装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発進用推進装置に関し、特に、トンネル掘削のために発進坑内に配置された掘進機を発進坑内から発進させるための発進用推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発進坑内に配置された掘進機を発進坑内から発進させるための発進用推進装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、発進方向に沿って架設される梁と、上記梁の発進口側端部に先端が固定されたガイド材と、ガイド材に対する固定およびその解放が可能な前後一対の固定装置と、両端が一対の固定装置に対して連結された油圧ジャッキと、を備えた発進口における推進体の推進装置が開示されている。上記特許文献1では、シールドマシン(掘進機)の後面と、発進立坑の後部壁との間のスペースに、シールドマシンを押し出すための推進部材と、一対の固定装置および油圧ジャッキが設置される。推進装置は、前側の固定装置を開放状態、後側の固定装置を固定状態にして、油圧ジャッキを伸張させることにより、前側の固定装置に連結された推進部材を介してシールドマシンを前進させる。油圧ジャッキが1ストローク分伸張すると、推進装置は、前側の固定装置を固定状態、後側の固定装置を開放状態に切り替え、油圧ジャッキを収縮させることにより、後側の固定装置を前進させる。以後、この動作を繰り返すことにより、シールドマシンを前進させる。
【0004】
また、上記特許文献1には、発進当初は推進部材の前側に油圧ジャッキおよび一対の固定装置を配置して、後にこれらを推進部材の後側に盛りかえ配置する手法を採用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3753614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1には明示されていないが、発進当初は推進部材の前側に推進装置を配置して、後に推進部材の後側に盛りかえ配置する手法は、シールドマシンと発進立坑の後部壁との間のスペースが確保できない場合に必要となる。
【0007】
すなわち、シールドマシンの後面と発進立坑の後部壁との間に、推進部材、油圧ジャッキおよび一対の固定装置を並べて配置するスペースが確保できない場合、油圧ジャッキおよび一対の固定装置を推進部材よりも前側に配置して、推進部材を前方へ向けて牽引するようにして前進させる必要が生じる。しかし、油圧ジャッキおよび一対の固定装置が推進部材よりも前側に配置されているため、収縮状態の油圧ジャッキおよび一対の固定装置の全長分だけ発進口から離れた位置までしか、推進部材を前進させることができない。そこで、初期推進によりシールドマシンの後方のスペースが十分に確保できた段階で、油圧ジャッキおよび一対の固定装置を分解し、推進部材の後側へ移動させて組み立て直す移設作業が行われる。油圧ジャッキおよび一対の固定装置が推進部材を後側から押す配置に変更されることにより、推進部材を発進口付近まで前進させることが可能となる。
【0008】
このように、上記特許文献1に記載された推進装置では、シールドマシンと後部壁との間のスペースが確保できない場合に、推進装置の移設作業が必要となるという問題点がある。また、シールドマシンには、地山からの土圧および/または水圧により後退方向へ押し戻す力が作用する場合がある。この場合、移設作業の際に推進装置を分解したときに、シールドマシンの後退を防止するための設備を追加で設ける必要も生じる。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、発進坑内で掘進機と後部壁との間に十分なスペースが確保できない場合でも、推進のための設備の移設作業を必要とすることなく掘進機の発進を完了させることが可能な発進用推進装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1の発明による発進用推進装置は、掘進方向前側の坑口壁と掘進方向後側の後部壁とを有する発進坑内に配置された掘進機を発進坑内から発進させるための発進用推進装置であって、掘進方向に移動可能な可動部材と、可動部材に対して掘進方向の推進力を付与する駆動部と、坑口壁と後部壁との間で掘進方向に延び、駆動部の推進力の反力を支持する支持部材と、を含む推進機構と、発進坑内に配置された掘進機に対して掘進方向後側に配置された推進部材と、推進部材と可動部材とを連結する連結機構と、を備え、連結機構は、推進部材を、可動部材に対して掘進方向後方へ移動可能に連結し、可動部材と推進部材との間隔を変更および固定可能に構成されている。
【0011】
第1の発明による発進用推進装置では、上記のように、推進部材と可動部材とを連結する連結機構と、を備え、連結機構は、推進部材を、可動部材に対して掘進方向後方へ移動可能に連結し、可動部材と推進部材との間隔を変更および固定可能に構成されている。これによって、発進坑内で掘進機と後部壁との間に十分なスペースが確保できない場合には、連結機構によって、可動部材と推進部材との間隔を大きくし、推進部材を、可動部材に対して掘進方向後方へ離れた位置に配置できる。この結果、可動部材や駆動部を推進部材よりも前側のスペースに配置した状態で、可動部材が連結機構を介して推進部材を前方へ牽引する態様で、掘進機を前進させることができる。そして、前進の途中で、連結機構によって、可動部材と推進部材との間隔を小さくし、推進部材を、可動部材に接近させることができる。この状態で、可動部材を坑口壁側の前進限の位置まで前進させれば、連結機構によって可動部材と推進部材との間隔を小さくした分だけ、推進部材(すなわち、掘進機)を坑口壁に近い位置まで前進させることができる。この結果、可動部材を推進部材よりも後側へ移設する作業を行うことなく、掘進機を発進完了位置まで前進させることができる。また、設備の分解、再組み立てを伴わないため、掘進機は、常時、推進部材、連結機構、可動部材を介して支持部材に反力が支持された状態を維持できる。そのため、地山からの土圧等による後退を防止するための設備を追加で設ける必要がなく、発進作業の安全性を向上させることができる。以上から、発進坑内で掘進機と後部壁との間に十分なスペースが確保できない場合でも、推進のための設備の移設作業を必要とすることなく掘進機の発進を完了させることができる。
【0012】
上記第1の発明による発進用推進装置において、好ましくは、可動部材は、坑口壁側に配置された前部可動部材と、後部壁側に配置された後部可動部材とを含み、前部可動部材と後部可動部材とは、それぞれ、支持部材に沿って移動可能な状態と固定された状態とを切り替え可能に構成されており、駆動部は、一端が前部可動部材に接続され、他端が後部可動部材に接続されて伸縮動作を行う推進ジャッキを含み、連結機構は、前部可動部材に対して相対移動可能に推進部材を連結している。このように推進機構を構成した場合、前部可動部材、推進ジャッキ、後部可動部材が掘進方向に並び、推進ジャッキが伸縮動作を行うことから、掘進方向の全長が大きくなり、掘進機と後部壁との間に前部可動部材、推進ジャッキ、後部可動部材の全体を配置するスペースを確保することが難しくなる。この場合でも、連結機構によって前部可動部材と推進部材との間隔を変更できることにより、掘進機と後部壁との間に前部可動部材、推進ジャッキ、後部可動部材の全体を配置する必要がないので、発進坑を小さくできる。
【0013】
この場合において、好ましくは、連結機構は、掘進方向において、推進部材を、前部可動部材と後部可動部材とのうち、前部可動部材側となる位置と、後部可動部材側となる位置と、に移動可能に構成されている。このように構成すれば、発進初期には、推進部材を後部可動部材側となる位置に配置して、全長の大きい推進機構(前部可動部材、推進ジャッキ、後部可動部材)の設置スペースを容易に確保できる。言い換えると、発進に必要なスペースを抑制して発進坑のサイズを小さくできる。そして、推進途中で、推進部材を前部可動部材側となる位置に配置して、推進部材を坑口壁に極力近い位置まで推進させることができる。
【0014】
上記第1の発明による発進用推進装置において、好ましくは、支持部材は、坑口壁と後部壁との間に跨がって設けられた梁状部材であり、掘進機から遠い側の外側支持部と、掘進機に近い側の内側支持部とを有し、推進機構は、外側支持部に設けられ、外側支持部に沿って移動し、推進部材は、内側支持部に設けられ、内側支持部に沿って移動するように構成されている。このように構成すれば、支持部材の外側に可動部材および駆動部を設置し、支持部材の内側に推進部材を設置して、それぞれ支持部材によって掘進方向への移動をガイドすることができる。そのため、推進機構を支持およびガイドする支持部材と、推進部材を支持およびガイドする部材とを、別々に設ける場合と比べて、装置構成を簡素化することができる。
【0015】
この場合において、好ましくは、連結機構は、外側支持部に配置された可動部材と、内側支持部に配置された推進部材とを、相対移動可能に連結する連結部材を含み、連結部材は、外側支持部と内側支持部との間で、掘進方向に延びるように設けられている。このように構成すれば、外側支持部と内側支持部との間に連結機構を配置できるので、推進機構を構成する可動部材および駆動部と、推進部材と、連結機構とを、共通の支持部材に集約して設置できる。その結果、発進用推進装置を小型化できる。言い換えると、発進に必要なスペースを抑制して発進坑のサイズを効果的に小さくできる。
【0016】
第2の発明による発進用推進装置は、掘進方向前側の坑口壁と掘進方向後側の後部壁とを有する発進坑内に配置された掘進機を発進坑内から発進させるための発進用推進装置であって、坑口壁と後部壁との間で掘進方向に延びるねじ軸と、ねじ軸に螺合するナット部材と、ねじ軸とナット部材とを相対回転させることによりナット部材をねじ軸に沿って移動させる駆動部と、を含む推進機構と、ナット部材に連結され、発進坑内に配置された掘進機に対して掘進方向後側に配置された推進部材と、を備え、推進機構は、ナット部材を移動させることにより、推進部材を、発進坑内の初期位置における掘進機の後方位置から、坑口壁の近傍となる発進完了位置までの範囲に亘って移動可能に構成されている。
【0017】
第2の発明による発進用推進装置では、上記のように、坑口壁と後部壁との間で掘進方向に延びるねじ軸とナット部材とを含む推進機構が、ナット部材を移動させることにより、推進部材を、発進坑内の初期位置における掘進機の後方位置から、坑口壁の近傍となる発進完了位置までの範囲に亘って移動可能に構成されている。このように、ねじ送り方式の推進機構を採用することにより、可動部分の長さを小さくできる。すなわち、油圧ジャッキの伸縮によって推進部材を推進させる構成では、上記の通り、一対の固定装置と油圧ジャッキとを掘進方向に沿って並べる必要があり、全長が大きくなる。これに対して、ねじ送り方式の推進機構では、ねじ軸に螺合させたナット部材の部分だけで推進(前進)ができ、推進時にナット部材に作用する反力はねじ軸によって支持できる。このため、後部壁近傍の位置から、坑口壁近傍の位置までの広い範囲に亘って、ナット部材を移動させることができる。このナット部材に推進部材を連結するので、発進坑内で掘進機と後部壁との間に十分なスペースが確保できない場合でも、推進のための設備の移設作業を必要とすることなく初期位置から発進完了位置まで推進部材を前進移動させることができる。また、設備の分解、再組み立てを伴わないため、掘進機は、常時、推進部材およびナット部材を介してねじ軸に反力が支持された状態を維持できる。そのため、地山からの土圧等による後退を防止するための設備を追加で設ける必要がなく、発進作業の安全性を向上させることができる。以上から、発進坑内で掘進機と後部壁との間に十分なスペースが確保できない場合でも、推進のための設備の移設作業を必要とすることなく掘進機の発進を完了させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上記のように、発進坑内で掘進機と後部壁との間に十分なスペースが確保できない場合でも、推進のための設備の移設作業を必要とすることなく掘進機の発進を完了させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態による発進用推進装置を示す500-500線に沿った断面図(A)および後面図(B)である。
図2】発進用推進装置を半径方向から見た平面図(A)および周方向から見た縦断面図(B)である。
図3図2の510-510線に沿った発進用推進装置の断面図である。
図4図2の520-520線に沿った発進用推進装置の断面図である。
図5】連結機構により可動部材と推進部材との間隔を最大化した状態(A)および間隔を最小化した状態(B)を示した模式図である。
図6】第1実施形態の発進用推進装置による発進動作を説明するための第1の図である。
図7】第1実施形態の発進用推進装置による発進動作を説明するための第2の図である。
図8】間隔変更処理を説明するための第1の図である。
図9】間隔変更処理の手順(A)および(B)を示した図である。
図10】間隔変更処理の終了時の状態を示した図である。
図11】発進完了位置に到達した状態を示した図である。
図12】比較例による発進動作の各段階を示した図(A)~(C)である。
図13】第2実施形態による発進用推進装置を示す540-540線に沿った断面図(A)および後面図(B)である。
図14】第3実施形態による発進用推進装置を示す550-550線に沿った断面図(A)および後面図(B)である。
図15】シールド機の後部スペースが大きい場合について説明するための参考例1の図である。
図16】シールド機の後部スペースが大きい場合について説明するための参考例2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
[第1実施形態]
図1図5を参照して、第1実施形態による発進用推進装置100の構成について説明する。
【0022】
(発進用推進装置の全体構成)
図1に示す発進用推進装置100は、トンネル掘進工事において、発進坑1内に据え付けられたシールド機5を、発進坑1内から発進させるために押し出す推進装置である。シールド機5は、特許請求の範囲の「掘進機」の一例である。
【0023】
発進坑1は、トンネル工事の始点において、地上から、掘進予定の地中深さへシールド機5を搬送および設置するために構築される仮設構造である。発進坑1は、地上から下方に延びる立坑である。ただし、発進坑1は、立坑には限定されず、下り傾斜のトンネルなどであってもよい。発進坑1は、掘進方向(X方向)前側の坑口壁1aと掘進方向後側の後部壁1bとを有する空間として構築される。シールド機5は、坑口壁1aに向けて推進し、坑口壁1aからトンネルを掘り進めていく。
【0024】
シールド機5は、掘削断面(ここでは円形)に応じた形状のシールド部(前面部)を推進させて地盤を掘進するとともに、掘削したトンネル内周面に沿ってセグメントを環状(リング状)に組み立ててトンネル内壁を構築しながら進行する装置である。シールド機5は、シールドジャッキ5aにより、構築済みのセグメントを後方に押圧し、セグメントからシールド機5自身を押し出すことにより推進する。セグメントは、推進反力の支持体として機能する。
【0025】
シールド機5が発進坑1から発進する段階では、トンネル内に構築したセグメントが存在しないので、推進反力の支持体をセグメントの代わりに別途設けるか、シールド機5に推進力を付与する装置が必要となる。そこで、発進用推進装置100は、発進坑1内に設置され、シールド機5に推進力を与えるとともに推進反力を支持することにより、発進坑1からシールド機5を発進させる。シールド機5は、地上から発進坑1内に搬送されるか、発進坑1内で組み立てられることにより、発進坑1内の初期位置P1に据え付けられる。なお、本明細書では、説明の便宜のため、シールド機5の掘進方向の位置を、後述する推進部材20の前面位置を基準として説明する。
【0026】
図1(A)および図1(B)に示すように、発進坑1の底部に、発進架台2が設けられている。発進架台2は、シールド機5を発進(前進)可能に支持する。発進架台2は、シールド機5の前面を掘進方向前方の坑口壁1aへ向けて、シールド機5を下方から支持する。
【0027】
掘進方向前方の坑口壁1aには、止水部材であるエントランスパッキン(図示せず)が構築され、シールド機5が坑口壁1aを通過する時に地中の地下水等が噴発することを防止している。図1(A)の例では、掘進方向後方の後部壁1bには、シールド機5の発進時に発生する推進反力を支持するための反力部材1cが設けられている。後部壁1b自体によって推進反力を支持できる場合、反力部材1cは不要である。
【0028】
図1(B)に示す例では、発進用推進装置100が、4基設けられている。4基の発進用推進装置100は、掘進方向に沿って見た場合に、発進架台2上のシールド機5を中心として、シールド機5の周囲に間隔を隔てて配置されている。図1(B)では、シールド機5を中心とした四隅(右上、左上、右下、左下)の各位置に、発進用推進装置100が1基ずつ設けられている。ただし、後述する推進部材20は、4基の発進用推進装置100に対して1つだけ設けられている。4基の発進用推進装置100によって1つの推進部材20を推進させる方式が採用されている。第1実施形態では、発進用推進装置100は4基で構成しているが、1基~3基または5基以上設けられてもよく、シールド機5の発進に必要な総推進推力に応じて、発進用推進装置100の推力や台数が設定される。
【0029】
4基の発進用推進装置100は、同一構造を有する。以下では、4基のうちの1基の発進用推進装置100の構造について、詳細に説明し、他の発進用推進装置100についての説明を省略する。また、以下の説明に際して、掘進方向に延びるシールド機5の中心軸線を中心とした半径方向を、「半径方向(R方向)」とし、このシールド機5の中心軸線周りの方向を「周方向(C方向)」と呼ぶ。半径方向のうち、シールド機5に近付く方向を内側とし、シールド機5から離れる方向を外側とする。たとえば図1(B)では、4基の発進用推進装置100が、シールド機5に対して半径方向外側において、周方向に等角度間隔(90度間隔)で配置されていることになる。
【0030】
(発進用推進装置の各部の構成)
図1(A)に示すように、発進用推進装置100は、推進機構10と、推進部材20と、連結機構30と、を備えている。
【0031】
〈推進機構〉
推進機構10は、推進部材20を掘進方向前方に移動させることにより、シールド機5を推進させるように構成されている。推進機構10は、可動部材11と、駆動部12と、ガイド梁13とを含む。ガイド梁13は、特許請求の範囲の「支持部材」の一例である。
【0032】
可動部材11は、掘進方向に移動可能に構成されている。可動部材11は、ガイド梁13に沿って移動可能なように、ガイド梁13に設けられている。駆動部12は、可動部材11に対して掘進方向の推進力を付与するように構成されている。ガイド梁13は、坑口壁1aと後部壁1bとの間で掘進方向に延びるように設けられている。ガイド梁13は、直線状に延びる。ガイド梁13の前側端部が坑口壁1aに固定されており、ガイド梁13の後側端部が反力部材1cに固定されている。これにより、ガイド梁13は、駆動部12の推進力の反力を支持するように構成されている。ガイド梁13は、坑口壁1aと後部壁1b(反力部材1c)との間に跨がって設けられた梁状部材である。
【0033】
可動部材11は、坑口壁1a側に配置された前部可動部材11aと、後部壁1b側に配置された後部可動部材11bとを含む。前部可動部材11aと後部可動部材11bとは、それぞれ、ガイド梁13に沿って移動可能な状態と固定された状態とを切り替え可能に構成されている。駆動部12は、一端が前部可動部材11aに接続され、他端が後部可動部材11bに接続されて伸縮動作を行う推進ジャッキ12aを含む。前部可動部材11a、推進ジャッキ12aおよび後部可動部材11bの掘進方向の全長は、シールド機5と後部壁1b(反力部材1c)との間のスペースD2よりも大きい。
【0034】
この構成により、推進機構10は、前部可動部材11aを移動可能な状態にし、後部可動部材11bを固定された状態にして、推進ジャッキ12aを収縮状態から伸張させることによって、前部可動部材11aを前進(掘進方向前方に移動)させることができる。そして、推進機構10は、前部可動部材11aを固定された状態にし、後部可動部材11bを移動可能な状態にして、推進ジャッキ12aを伸張状態から収縮させることによって、後部可動部材11bを前進(掘進方向前方に移動)させることができる。推進機構10は、前部可動部材11aの前進動作と、後部可動部材11bの前進動作とを、交互に実行することによって、推進ジャッキ12aの1ストローク分ずつ、可動部材11(前部可動部材11a)を前進させることが可能である。
【0035】
より具体的には、図2(B)に示すように、ガイド梁13は、シールド機5から遠い側(半径方向外側)の外側支持部13aと、シールド機5に近い側(半径方向内側)の内側支持部13bとを有している。ガイド梁13は、矩形断面(図3および図4参照)の中間部13cを有し、中間部13cのR方向外側端面に外側支持部13aが設けられ、中間部13cのR方向内側端面に内側支持部13bが設けられている。推進機構10は、外側支持部13aに設けられ、外側支持部13aに沿って移動する。
【0036】
外側支持部13aは、中間部13cの外側端面において中間部13cよりも幅広に形成された平板状形状を有する。このため、図3に示すように、外側支持部13aの幅方向両端は、それぞれ中間部13cの両側面よりも幅方向外側に張り出している。同様に、内側支持部13bは、中間部13cの内側端面において中間部13cよりも幅広に形成された平板状形状を有する。内側支持部13bの幅方向両端は、それぞれ中間部13cの両側面よりも幅方向外側に張り出している。ガイド梁13は、外側支持部13aと、内側支持部13bと、中間部13cとによって、全体として横向きのH字形状の断面を有する。
【0037】
図2(A)に示すように、外側支持部13aには、掘進方向に沿って間隔を隔てて複数の固定ピン穴14aが設けられている。また、内側支持部13b(図2(B)参照)にも、掘進方向に沿って間隔を隔てて複数の固定ピン穴14bが設けられている。複数の固定ピン穴14a、複数の固定ピン穴14bは、どちらも、推進ジャッキ12aのストローク長に応じた所定間隔で形成されている。
【0038】
図2(A)および図2(B)に示すように、外側支持部13aには、前部可動部材11aおよび後部可動部材11bが、外側支持部13aをガイドとして前後に往復摺動可能なように設けられている。前部可動部材11aおよび後部可動部材11b(図4参照)は、それぞれ、外側支持部13aの幅方向端部を、一方表面から他方表面に跨がって抱き込むように形成されている。これにより、前部可動部材11aおよび後部可動部材11bが外側支持部13aから脱落または幅方向に位置ずれすることなく、掘進方向のみに摺動可能である。
【0039】
推進ジャッキ12aは、前部可動部材11aおよび後部可動部材11bの間に配置され、掘進方向に沿って伸縮するように設けられている。推進ジャッキ12aは、油圧ジャッキであり、図示省略の油圧制御装置からの作動油の供給により伸張し、作動油の排出により収縮する。駆動部12は、推進ジャッキ12aに代えて、ねじ送り機構によるスクリュージャッキや、油圧およびねじ送り以外の他の方式によるジャッキを含んでいてもよい。
【0040】
前部可動部材11aは、外側支持部13aに固定可能に構成されている。前部可動部材11aは、固定ピン15を外側支持部13aの固定ピン穴14aに挿入することにより、外側支持部13aに固定された状態となる。前部可動部材11aは、固定ピン15を外側支持部13aの固定ピン穴14aから抜き取ることにより、ガイド梁13(外側支持部13a)に沿って移動可能な状態となる。
【0041】
同様に、後部可動部材11bは、外側支持部13aに固定可能に構成されている。後部可動部材11b(図4参照)は、固定ピン15を外側支持部13aの固定ピン穴14aに挿入することにより、外側支持部13aに固定された状態となる。後部可動部材11bは、固定ピン15を外側支持部13aの固定ピン穴14aから抜き取ることにより、ガイド梁13(外側支持部13a)に沿って移動可能な状態となる。
【0042】
図示を省略するが、固定ピン15の挿入、抜き取りは、油圧シリンダ、ソレノイド、電動モータ等のアクチュエータにより行われる。固定ピン15の挿入、抜き取りを作業者が手作業で行ってもよい。前部可動部材11aおよび後部可動部材11bの固定は、油圧等によりガイド梁13をクランプし摩擦により固定するクランパ機構を用いてもよい。
【0043】
〈推進部材〉
図1(A)に示すように、推進部材20は、発進坑1内に配置されたシールド機5に対して掘進方向後側に配置されている。推進部材20は、シールド機5と接触して、シールド機5に推進力を作用させる(掘進方向前方へ向けて押し出す)ように設けられている。推進部材20は、シールド機5に推進力を伝達できれば、シールド機5の後部に直接接触してもよいし、図1(A)のように仮セグメント6を介して接触してもよい。図1(A)では、発進前に円環状に仮組み立てされた仮セグメント6が、推進ジャッキ12aと推進部材20との間に挟み込まれるように配置される。推進部材20が前進すると、仮セグメント6を介して推進ジャッキ12aに推進力が作用し、その結果、シールド機5の全体が前進する。
【0044】
推進部材20は、内側支持部13bに設けられ、内側支持部13bに沿って移動するように構成されている。図2(B)に示すように、推進部材20は、内側支持部13bに移動可能に取り付けられた推進固定部25を介して、内側支持部13bに支持されている。推進固定部25は、内側支持部13bをガイドとして前後に往復摺動可能なように設けられている。図3に示すように、推進固定部25は、内側支持部13bの幅方向端部を、一方表面から他方表面に跨がって抱き込むように形成されている。これにより、推進固定部25が内側支持部13bから脱落または幅方向に位置ずれすることなく、掘進方向のみに摺動可能である。推進部材20は、半径方向の外側端部において、連結ピン25aを介して推進固定部25に連結されている。連結ピン25a(図2(B)参照)は、掘進方向と直交し、推進部材20が連結ピン25aを中心として掘進方向の前後に回動可能な自由度を有した状態で、推進部材20と推進固定部25を連結している。後述するが、この推進固定部25が、連結機構30を介して前部可動部材11aに連結されており、推進機構10が発生させる推進力が、連結機構30、推進固定部25を介して推進部材20に伝達される。
【0045】
推進固定部25は、ガイド梁13(内側支持部13b)に沿って移動可能な状態と固定された状態とを切り替え可能に構成されている。具体的には、図4に示すように、推進固定部25は、固定ピン26を内側支持部13bの固定ピン穴14bに挿入することにより、内側支持部13bに固定された状態となる。推進固定部25は、固定ピン26を内側支持部13bの固定ピン穴14bから抜き取ることにより、ガイド梁13(外側支持部13a)に沿って移動可能な状態となる。固定ピン26の挿入、抜き取りは、図示省略の油圧シリンダ、ソレノイド、電動モータ等のアクチュエータにより行われる。固定ピン26の挿入、抜き取りを作業者が手作業で行ってもよい。推進固定部25の固定は、油圧等によりガイド梁13をクランプし摩擦により固定するクランパ機構を用いてもよい。
【0046】
第1実施形態では、上記のように、4基の発進用推進装置100に対して推進部材20が1つ設けられている。この1つの推進部材20は、図1(B)に示すように、シールド機5の外形に応じた概略円形(八角形)の環状形状に形成されている。推進部材20は、シールド機5の後部において、シールド機5の外周部の近傍に沿うように設けられている。そして、推進部材20は、シールド機5を中心とした四隅(右上、左上、右下、左下)の各位置に配置された各発進用推進装置100の推進固定部25に、それぞれ連結されている。このように、推進部材20は、4基の発進用推進装置100に連結されるが、推進部材20の重量が大きい場合、発進用推進装置100とは別に、重量を支持する構造を設けてもよい。たとえば、発進架台2が、推進部材20を摺動支持するように構成されていてもよいし、推進部材20の下部を摺動可能に支持する摺動ガイド等を発進架台2上に設けてもよい。
【0047】
〈連結機構〉
図2(B)に示すように、連結機構30は、推進部材20と可動部材11(前部可動部材11a)とを連結している。これにより、連結機構30は、推進機構10が可動部材11を前進させる推進力を、推進部材20に伝達する機能を有する。伝達された推進力によって、推進部材20がシールド機5とともに一体的に前進する。第1実施形態では、連結機構30は、推進部材20を、可動部材11に対して掘進方向後方へ移動可能に連結し、可動部材11と推進部材20との間隔D1を変更および固定可能に構成されている。この構成により、連結機構30は、発進当初では、推進部材20を可動部材11(前部可動部材11a)から後方に離れた位置(図5(A)参照)で連結し、推進機構10がある程度、シールド機5を前進させて後方のスペースが確保された段階で、推進部材20を可動部材11に近づけて可動部材11と推進部材20との間隔D1を小さくすること(図5(B)参照)が可能なように構成されている。
【0048】
具体的には、連結機構30は、前部可動部材11aに対して相対移動可能に推進部材20を連結している。すなわち、連結機構30の前側に前部可動部材11aが移動可能に接続され、連結機構30の後側に推進固定部25が移動可能に接続されている。連結機構30は、外側支持部13aに配置された可動部材11(前部可動部材11a)と、内側支持部13bに配置された推進部材20(推進固定部25)とを、相対移動可能に連結する連結部材31を含んでいる。
【0049】
連結部材31は、半径方向(R方向)において外側支持部13aと内側支持部13bとの間で、掘進方向に延びるように設けられている。第1実施形態では、連結部材31は、ねじ軸31aと、前部可動部材11aを係止する係止ナット31bと、推進固定部25を係止する係止ナット31cと、を含む。係止ナット31bおよび係止ナット31cは、ねじ軸31aに螺合している。螺合とは、雄ねじ部と雌ねじ部とが噛み合った状態で取り付けられていることである。
【0050】
ねじ軸31aは、前部可動部材11aに設けられた連結部16の貫通孔と、推進固定部25に設けられた連結部27の貫通孔と、に挿通されている。連結部16の貫通孔と連結部27の貫通孔とは、ねじ軸31aよりも大径でねじ軸31aと螺合しておらず、ねじ軸31aは、連結部16および連結部27に対して軸方向(掘進方向)に相対移動可能である。係止ナット31bは、前部可動部材11aの連結部16に対して掘進方向前側に位置し、前部可動部材11aの連結部16の前方への移動を係止している。係止ナット31cは、推進固定部25の連結部27に対して掘進方向後側に位置し、推進固定部25の連結部27の後方への移動を係止している。図2(A)および図3に示した例では、連結機構30は、これらのねじ軸31a、係止ナット31bおよび係止ナット31cからなる連結部材31を、ガイド梁13(中間部13c)の両側方(C方向の両側)に1セットずつ備えている。
【0051】
発進時の推進反力や、地山からの土圧、水圧などによる後退力(掘進方向後方へ向かう力)は、シールド機5から推進部材20に伝わり、推進固定部25の連結部27から後方の係止ナット31cへ作用する。後退力は、係止ナット31c、ねじ軸31aを介して係止ナット31bから前部可動部材11aの連結部16へ作用し、いずれかの固定ピン穴14aに挿入された固定ピン15を介してガイド梁13に作用する。このようにして、推進部材20に作用した後退力が連結機構30を介して推進機構10に伝達し、ガイド梁13(後部壁1b)により受け止められる。
【0052】
図2(B)において、係止ナット31bとねじ軸31aとを相対回転させることにより、連結機構30における前部可動部材11aと係止ナット31bとの接触位置(つまり、前部可動部材11aの位置)を、前後に相対移動させることができる。係止ナット31cとねじ軸31aとを相対回転させることにより、連結機構30における係止ナット31cと推進固定部25との接触位置(つまり、推進固定部25の位置)を、前後に相対移動させることができる。これにより、前部可動部材11aと、推進固定部25に連結された推進部材20との掘進方向の間隔D1が変更可能である。すなわち、係止ナット31bと係止ナット31cとの間隔によって、前部可動部材11aと推進固定部25(推進部材20)との間隔D1が決まる。このように、第1実施形態では、連結部材31をねじ送り機構によって構成しているが、連結部材31を油圧シリンダなどにより構成してもよい。連結機構30は、前部可動部材11aと推進固定部25との間隔D1を調整でき、かつ駆動部12の推進力を推進部材20に伝達できる機構であれば、その構造は特に限定されない。
【0053】
ねじ軸31aと、係止ナット31bおよび係止ナット31cとの相対回転は、電動モータなどの図示省略の回転機械によって実行できる。作業者が工具などを用いて回転させてもよい。係止ナット31bおよび係止ナット31cを回転させてもよいし、ねじ軸31aと係止ナット31bおよび係止ナット31cとの両方を回転させてもよい。
【0054】
図5(A)および図5(B)に示すように、連結機構30は、掘進方向において、推進部材20を、前部可動部材11aと後部可動部材11bとのうち、前部可動部材11a側となる位置と、後部可動部材11b側となる位置と、に移動可能に構成されている。具体的には、連結部材31の長さL1が、推進ジャッキ12aを収縮させた状態における前部可動部材11aと後部可動部材11bとの間隔L2と概ね等しい。つまり、連結機構30は、係止ナット31bと係止ナット31cとの間隔を、前部可動部材11aと後部可動部材11bとの間隔L2と同等の範囲で変更できる。そのため、推進部材20は、推進ジャッキ12aを収縮させた状態の前部可動部材11aの位置から後部可動部材11bの位置までの範囲に亘って掘進方向に移動可能である。言い換えると、連結機構30は、ガイド梁13を除いた推進機構10の後方端部(後部可動部材11bの位置)と推進機構10の前方端部(前部可動部材11aの位置)との間で、推進部材20を推進機構10に対して相対移動させることができる。
【0055】
(発進用推進装置の動作)
次に、図6図11を参照して、発進用推進装置100の動作を説明する。
【0056】
図6は推進ジャッキ12aを伸張してシールド機5を推進している図である。発進当初、連結機構30は、推進部材20を前部可動部材11aに対して最大限後方となる位置で保持する。つまり、図2(B)のように、前部可動部材11aと推進部材20との間隔D1が最大となる。
【0057】
推進ジャッキ12aを伸張させると、推進力で押された前部可動部材11aは掘進方向(X方向)前方に移動する。このとき、後部可動部材11bは固定ピン15を固定ピン穴14aに挿入して固定された状態とされる。推進ジャッキ12aの推進反力は、後部可動部材11bを介してガイド梁13により支持される。前部可動部材11aの固定ピン15は固定ピン穴14aから抜き取られ、前部可動部材11aは移動可能な状態とされる。
【0058】
前部可動部材11aが前進するのに伴って、連結部材31により、推進固定部25が牽引され前方に移動する。このとき、推進固定部25の固定ピン26は固定ピン穴14bから抜き取られ、推進固定部25は移動可能な状態とされる。推進固定部25の前進により、これに連結されている推進部材20も前進し、その結果、仮セグメント6を介して押されたシールド機5が前進する。
【0059】
推進ジャッキ12aがフルストローク伸張すると、次の推進のために後部可動部材11bが前進される。図7に示すように、前進後の前部可動部材11aの固定ピン15が固定ピン穴14aに挿入され、前部可動部材11aが固定状態とされる。その後、後部可動部材11bの固定ピン15が固定ピン穴14aから抜き取られ、後部可動部材11bが移動可能な状態とされる。次に、伸張状態の推進ジャッキ12aが収縮駆動され、牽引された後部可動部材11bが前進する。前進の後、後部可動部材11bの固定ピン15が固定ピン穴14aに挿入され、後部可動部材11bが固定状態とされた後、前部可動部材11aの固定ピン15が固定ピン穴14aから抜き取られて、次の推進のために前部可動部材11aが移動可能な状態とされる。この過程で、推進固定部25の固定ピン26は、固定ピン穴14bから抜き取られたままであり、推進固定部25が移動可能な状態が継続される。
【0060】
上記した前部可動部材11aの前進動作と、後部可動部材11bの前進動作とが順番に繰り返されることにより、シールド機5が前進される。第1実施形態では、発進開始から、発進完了までの間の所定タイミングで、前部可動部材11aと推進固定部25との間隔D1(図2(B)参照)を変更する処理(間隔変更処理)が実行される。すなわち、連結機構30が、推進部材20を、前部可動部材11aに対して最大限後方となる位置から、前部可動部材11aに対して最大限接近した位置へ移動させる。つまり、前部可動部材11aと推進部材20との間隔が最小となる。以下、この前部可動部材11aと推進部材20との間隔変更処理を説明する。
【0061】
前部可動部材11aと推進部材20との間隔変更処理は、図8図10の手順で実施する。図8に示すように、固定ピン15の挿抜により前部可動部材11aを移動可能な状態、後部可動部材11bを固定状態とした後、収縮状態の推進ジャッキ12aを伸張させ、シールド機5を前進させる。次に、図9(A)に示すように、推進固定部25の固定ピン26を固定ピン穴14bに挿入して、推進固定部25を固定された状態にする。その後、伸張状態の推進ジャッキ12aを収縮駆動して、前部可動部材11aを引き戻す。この引き戻し動作により、前部可動部材11aの連結部16が係止ナット31bから離れて推進固定部25に接近する。
【0062】
次に、係止ナット31bが前部可動部材11aの連結部16に当接するまでねじ軸31aを後方に移動させる。そして、図9(B)に示すように、推進固定部25側の係止ナット31cを回転させて係止ナット31cが推進固定部25の連結部27に当接するまで係止ナット31cを前方に移動させる。これにより、前部可動部材11aの連結部16と推進固定部25の連結部27との間隔が固定される。つまり、前部可動部材11aと推進固定部25との間隔D1が最小の状態で固定される。
【0063】
その後、図10に示すように、次の推進のため、推進固定部25の固定ピン26を固定ピン穴14bから抜き取り、推進固定部25を移動可能な状態にする。なお、連結機構30を用いた前部可動部材11aと推進部材20との間隔変更処理の手順は、ここで説明した手順に限られない。
【0064】
間隔変更処理の後、前部可動部材11aの前進動作と、後部可動部材11bの前進動作とが繰り返され、シールド機5がさらに前進される。図11に示したように、前部可動部材11aが坑口壁1aに近接する発進完了位置P2に到達すると、発進用推進装置100による推進(シールド機5の発進)は終了となる。発進完了位置P2は、前部可動部材11aの坑口壁1aとの距離に加え、坑口壁1aに設けられたエントランスパッキン(図示せず)とシールド機5のテールシール5bの位置との関係によっても決まる。つまり、発進完了位置P2は、シールド機5のテールシール5bと坑口壁1aのエントランスパッキンとによって、坑口から発進坑1側への地下水などの噴発が防止可能となる位置である。
【0065】
発進用推進装置100での推進(発進)が終了すると、推進固定部25の固定ピン26が固定ピン穴14bに挿入され、推進部材20がガイド梁13に固定される。そして、推進部材20による推進に代えて、シールド機5自体による推進が開始される。つまり、シールド機5が、シールドジャッキ5aによる推進とセグメントの組み立てとを繰り返して推進する。この際、推進部材20、固定ピン26により固定状態の推進固定部25、およびガイド梁13が、シールド機5の推進反力を支持する反力体(バックアンカー)としての役割を果たす。前部可動部材11a、後部可動部材11b、推進ジャッキ12a等は、解体することができる。掘進が進み、既設のセグメントと地山との摩擦力によって推進反力を支持できるようになると、推進部材20、推進固定部25およびガイド梁13も解体可能である。
【0066】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0067】
第1実施形態では、上記のように、推進部材20と可動部材11とを連結する連結機構30と、を備え、連結機構30は、推進部材20を、可動部材11に対して掘進方向後方へ移動可能に連結し、可動部材11と推進部材20との間隔D1を変更および固定可能に構成されている。これによって、発進坑1内でシールド機5と後部壁1bとの間に十分なスペースが確保できない場合には、連結機構30によって、可動部材11と推進部材20との間隔D1を大きくし、推進部材20を、可動部材11に対して掘進方向後方へ離れた位置に配置できる。この結果、可動部材11や駆動部12を推進部材20よりも前側のスペースに配置した状態で、可動部材11が連結機構30を介して推進部材20を前方へ牽引する態様で、シールド機5を前進させることができる。そして、前進の途中で、連結機構30によって、可動部材11と推進部材20との間隔D1を小さくし、推進部材20を、可動部材11に接近させることができる。この状態で、可動部材11を坑口壁1a側の前進限の位置まで前進させれば、連結機構30によって可動部材11と推進部材20との間隔D1を小さくした分だけ、推進部材20(すなわち、シールド機5)を坑口壁1aに近い位置まで前進させることができる。この結果、可動部材11を推進部材20よりも後側へ移設する作業を行うことなく、シールド機5を発進完了位置P2まで前進させることができる。また、設備の分解、再組み立てを伴わないため、シールド機5は、常時、推進部材20、連結機構30、可動部材11を介してガイド梁13に反力が支持された状態を維持できる。そのため、地山からの土圧等による後退を防止するための設備を追加で設ける必要がなく、発進作業の安全性を向上させることができる。発進坑1内でシールド機5と後部壁1bとの間に十分なスペースが確保できない場合でも、推進のための設備の移設作業を必要とすることなくシールド機5の発進を完了させることができる。
【0068】
この点について詳しく説明する。図12(A)~図12(C)に示した比較例のように、前後一対の可動部材901と伸縮装置902とからなる推進機構900を、推進部材910に直接連結する場合(連結機構30を介さずに連結する場合)、狭い発進坑1内でシールド機5の後方のスペースD2に推進機構900の全長L3が収まらない場合がある。この場合、図12(A)のように、推進機構900を推進部材910の前側に配置して、前方から牽引する必要がある。その場合、図12(B)のように、推進機構900の全長L3だけ坑口壁1aから離れた位置までしか推進部材910を推進(牽引)できない。そのため、図12(C)のように、推進機構900を推進部材910の後側へ移動させ、後方から押し出す方式に変更する移設作業の必要が生じる。その際、シールド機5が支持されない状態になるので、推進部材910を固定する後退防止手段920を設ける必要がある。これに対して、上記第1実施形態では、連結機構30によって、推進機構10に対する推進部材20の位置を推進機構10と連結したまま変更できるので、移設作業を行う必要がなく、後退防止手段920を設ける必要もない。
【0069】
また、第1実施形態では、上記のように、可動部材11は、坑口壁1a側に配置された前部可動部材11aと、後部壁1b側に配置された後部可動部材11bとを含み、前部可動部材11aと後部可動部材11bとは、それぞれ、ガイド梁13に沿って移動可能な状態と固定された状態とを切り替え可能に構成されており、駆動部12は、一端が前部可動部材11aに接続され、他端が後部可動部材11bに接続されて伸縮動作を行う推進ジャッキ12aを含み、連結機構30は、前部可動部材11aに対して相対移動可能に推進部材20を連結している。このように推進機構10を構成した場合、前部可動部材11a、推進ジャッキ12a、後部可動部材11bが掘進方向に並び、推進ジャッキ12aが伸縮動作を行うことから、掘進方向の全長が大きくなり、シールド機5と後部壁1bとの間に前部可動部材11a、推進ジャッキ12a、後部可動部材11bの全体を配置するスペースD2を確保することが難しくなる。この場合でも、連結機構30によって前部可動部材11aと推進部材20との間隔D1を変更できることにより、シールド機5と後部壁1bとの間に前部可動部材11a、推進ジャッキ12a、後部可動部材11bの全体を配置する必要がないので、発進坑1(スペースD2)を小さくできる。
【0070】
また、第1実施形態では、上記のように、連結機構30は、掘進方向において、推進部材20を、前部可動部材11aと後部可動部材11bとのうち、前部可動部材11a側となる位置と、後部可動部材11b側となる位置と、に移動可能に構成されている。このように構成すれば、発進初期には、推進部材20を後部可動部材11b側となる位置に配置して、全長の大きい推進機構10(前部可動部材11a、推進ジャッキ12a、後部可動部材11b)の設置スペースを容易に確保できる。言い換えると、発進に必要なスペースを抑制して発進坑1のサイズを小さくできる。そして、推進途中で、推進部材20を前部可動部材11a側となる位置に配置して、推進部材20を坑口壁1aに極力近い位置まで推進させることができる。
【0071】
また、第1実施形態では、上記のように、ガイド梁13は、坑口壁1aと後部壁1bとの間に跨がって設けられた梁状部材であり、シールド機5から遠い側の外側支持部13aと、シールド機5に近い側の内側支持部13bとを有し、推進機構10は、外側支持部13aに設けられ、外側支持部13aに沿って移動し、推進部材20は、内側支持部13bに設けられ、内側支持部13bに沿って移動するように構成されている。このように構成すれば、ガイド梁13の外側に可動部材11および駆動部12を設置し、ガイド梁13の内側に推進部材20を設置して、それぞれガイド梁13によって掘進方向への移動をガイドすることができる。そのため、推進機構10を支持およびガイドするガイド梁13と、推進部材20を支持およびガイドする部材とを、別々に設ける場合と比べて、装置構成を簡素化することができる。
【0072】
また、第1実施形態では、上記のように、連結機構30は、外側支持部13aに配置された可動部材11と、内側支持部13bに配置された推進部材20とを、相対移動可能に連結する連結部材31を含み、連結部材31は、外側支持部13aと内側支持部13bとの間で、掘進方向に延びるように設けられている。このように構成すれば、外側支持部13aと内側支持部13bとの間に連結機構30を配置できるので、推進機構10を構成する可動部材11および駆動部12と、推進部材20と、連結機構30とを、共通のガイド梁13に集約して設置できる。その結果、発進用推進装置100を小型化できる。言い換えると、発進に必要なスペースを抑制して発進坑1のサイズを効果的に小さくできる。
【0073】
[第2実施形態]
図13を参照して、第2実施形態について説明する。この第2実施形態は、連結機構30を設けた上記第1実施形態とは異なり、連結機構30を設けることなく、ねじ送り方式の推進機構によって推進機構の移設作業なしで発進を可能とする構成例について説明する。なお、図中において、上記第1実施形態と同様の構成には、同じ符号を付して図示する。
【0074】
図13(A)および図13(B)に示すように、第2実施形態における発進用推進装置200は、推進機構110と、推進機構110に連結された推進部材20と、を備えている。第2実施形態では、上記第1実施形態の連結機構30が設けられていない。また、上記第1実施形態では、推進機構10が、推進ジャッキ12aと一対の可動部材11(前部可動部材11aおよび後部可動部材11b)とにより構成されていたのに対して、第2実施形態では、推進機構110が、ねじ軸111と、ナット部材112と、駆動部113とを含む、ねじ送り機構(スクリュージャッキ機構)により構成されている。
【0075】
ねじ軸111は、坑口壁1aと後部壁1b(反力部材1c)との間で掘進方向に延びるように設けられている。ねじ軸111の前側端部は、坑口壁1aに設けられた前部軸受114に支持されている。ねじ軸111の後側端部は、後部壁1b(反力部材1c)に設けられた後部軸受115に支持されている。これにより、ねじ軸111は、中心軸周りに回転可能に支持されている。
【0076】
ナット部材112は、ねじ軸111に螺合した状態で設置されている。ナット部材112は、ねじ軸111に対して相対回転することにより、掘進方向前後に推進される。第2実施形態では、ナット部材112は、回転不能に設けられており、ねじ軸111が駆動部113によって回転されることにより、推進される。また、ナット部材112は、推進部材20と接続されている。ねじ軸111およびナット部材112はボールスクリューを構成する。つまり、ねじ軸111およびナット部材112の間に無限循環するボール(転動体、図示せず)を含む。これにより、摩擦損失が低く高い回転効率が得られる。ねじ軸111は、台形ねじ等でもよく、回転運動を直線運動に変換できる機械要素であればよい。
【0077】
駆動部113は、ねじ軸111とナット部材112とを相対回転させることによりナット部材112をねじ軸111に沿って移動させる。上記のように、第2実施形態では、駆動部113は、ねじ軸111を回転駆動する。駆動部113は、後部壁1b(反力部材1c)に設置されている。駆動部113は、油圧モータ、電動モータなどの回転機械である。駆動部113の出力軸が、伝達機構117を介して、ねじ軸31aに接続されている。伝達機構117は、駆動部113の出力軸に設けられたスプロケット117aと、ねじ軸111の後端部に設けられたスプロケット117bと、スプロケット117aおよび117bに架け渡されたチェーン117cとを含む。これにより、駆動部113の動力が伝達機構117を介してねじ軸111に伝達される。
【0078】
駆動部113および伝達機構117は、後部壁1b側に設けられているが、前方の坑口壁1aに設置されてもよい。伝達機構117による動力伝達方式は、スプロケット-チェーン方式に限らず、歯車伝達方式や、ベルト伝達方式でもよい。また、駆動部113が直接ねじ軸111を回転駆動してもよい。
【0079】
推進部材20の構造は、上記第1実施形態と同様である。推進部材20は、発進坑1内に配置されたシールド機5に対して掘進方向後側に配置されている。第2実施形態では、推進部材20は、ナット部材112に連結されている。推進部材20は、連結ピン116を介してナット部材112に直接連結されている。推進部材20は、掘進方向において、ナット部材112と略同じ位置に設けられている。推進部材20は、ナット部材112と半径方向に並んでいる。
【0080】
第2実施形態では、推進機構110は、ナット部材112を移動させることにより、推進部材20を、発進坑1内の初期位置P1におけるシールド機5の後方位置から、坑口壁1aの近傍となる発進完了位置P2までの範囲に亘って移動可能に構成されている。ねじ軸111は、前部軸受114から後部軸受115までの範囲L20に亘って、ねじ溝が形成され、この範囲L20において推進部材20(ナット部材112)を移動させること可能である。範囲L20は、初期位置P1および発進完了位置P2を含む範囲である。
【0081】
駆動部113によりねじ軸111が回転されると、ナット部材112に推進力が発生し、推進部材20、仮セグメント6と推進力が伝達され、シールド機5が前進する。ナット部材112の推進方向はねじ軸111の回転方向により決定される。第2実施形態では、上記第1実施形態の推進ジャッキ12aと異なり、伸張動作と収縮動作とを繰り返す必要がないため、ねじ軸111の回転だけで連続した推進が可能である。また、推進停止時における後退防止は、駆動部113のブレーキにより実施される。ねじ軸111が回転しなければよいので、ねじ軸111を固定してもよい。ねじ軸111は、回転により、ナット部材112を介して推進部材20を推進するだけでなく、推進力の反力や、地山から推進部材20に作用する後退力を支持する支持部材としても機能する。
【0082】
また、ナット部材112の推進力は、駆動部113によるねじ軸111の回転トルクと、ねじ軸111のねじピッチ(リード)との関数で求められる。ナット部材112の推進速度は、駆動部113によるねじ軸111の回転数(回転速度)とねじ軸111のねじピッチ(リード)との関数で求められる。第2実施形態でも、発進用推進装置200は4基設けられているが、シールド機5の総推進力により、発進用推進装置200の推力と設置数は決められる。
【0083】
第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0084】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0085】
第2実施形態では、上記のように、坑口壁1aと後部壁1bとの間で掘進方向に延びるねじ軸31aとナット部材112とを含む推進機構10が、ナット部材112を移動させることにより、推進部材20を、発進坑1内の初期位置P1におけるシールド機5の後方位置から、坑口壁1aの近傍となる発進完了位置P2までの範囲に亘って移動可能に構成されている。このように、ねじ送り方式の推進機構10を採用することにより、可動部分の長さを小さくできる。すなわち、油圧ジャッキの伸縮によって推進部材20を推進させる構成では、上記の通り、一対の固定装置と油圧ジャッキとを掘進方向に沿って並べる必要があり、全長が大きくなる。これに対して、ねじ送り方式の推進機構10では、ねじ軸31aに螺合させたナット部材112の部分だけで推進(前進)ができ、推進時にナット部材112に作用する反力はねじ軸31aによって支持できる。このため、後部壁1b近傍の位置から、坑口壁1a近傍の位置までの広い範囲L20に亘って、ナット部材112を移動させることができる。このナット部材112に推進部材20を連結するので、発進坑1内でシールド機5と後部壁1bとの間に十分なスペースが確保できない場合でも、推進のための設備の移設作業を必要とすることなく初期位置P1から発進完了位置P2まで推進部材20を前進移動させることができる。また、設備の分解、再組み立てを伴わないため、シールド機5は、常時、推進部材20およびナット部材112を介してねじ軸31aに反力が支持された状態を維持できる。そのため、地山からの土圧等による後退を防止するための設備を追加で設ける必要がなく、発進作業の安全性を向上させることができる。以上から、発進坑1内でシールド機5と後部壁1bとの間に十分なスペースが確保できない場合でも、推進のための設備の移設作業を必要とすることなくシールド機5の発進を完了させることができる。
【0086】
第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0087】
[第3実施形態]
図14を参照して、第3実施形態について説明する。この第3実施形態は、連結機構30を設けた上記第1実施形態と、ねじ送り方式の推進機構を設けた第2実施形態とを、組み合わせた構成例について説明する。なお、図中において、上記第1実施形態、第2実施形態と同様の構成には、同じ符号を付して図示する。
【0088】
図14(A)および図14(B)に示すように、第3実施形態の発進用推進装置300は、上記第2実施形態で示した推進機構110と、上記第1実施形態で示した連結機構30とを備えている。
【0089】
また、発進用推進装置300は、第1実施形態で用いられていた可動部材11(前部可動部材11a、後部可動部材11b)に代えて、1つの可動部材210を、ガイド梁13上に備える。可動部材210は、外側支持部13aに対して、掘進方向に摺動可能に取り付けられている。可動部材210は、連結機構30により推進固定部25に連結されている。連結機構30、推進固定部25、推進部材20の構成は第1実施形態と同じである。
【0090】
推進機構110の構成は、上記第2実施形態と同様である。上記第2実施形態との相違点として、ナット部材112が可動部材210に連結されている。これにより、駆動部113がねじ軸111を回転駆動し、ナット部材112を掘進方向に移動させると、ナット部材112とともに可動部材210が掘進方向に移動する。
【0091】
駆動部113によりねじ軸111が回転されると、ナット部材112に推進力が発生し、可動部材210、連結機構30、推進固定部25、推進部材20、仮セグメント6と推進力が伝達され、シールド機5が前進する。なお、ナット部材112の推進方向はねじ軸111の回転方向により決定される。
【0092】
第3実施形態においても、発進用推進装置300は4基設けられているが、シールド機5の総推進力により発進用推進装置300の推力と設置数は決められる。
【0093】
第3実施形態でも、上記第2実施形態と同様、ねじ軸111の回転だけで連続した推進が可能である。ただし、発進後の途中タイミングで、可動部材210と推進固定部25との間隔D1を縮める間隔変更処理が行われる。間隔変更処理は、上記第1実施形態で説明したのと同様の作業で行われ、発進完了までに1回実施される。
【0094】
第3実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態および第2実施形態と同様である。
【0095】
(第3施形態の効果)
第3実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0096】
第3実施形態では、上記第1実施形態および第2実施形態と同様に、発進坑1内でシールド機5と後部壁1bとの間に十分なスペースが確保できない場合でも、推進のための設備の移設作業を必要とすることなくシールド機5の発進を完了させることができる。第3実施形態では、図14(A)から分かるように、連結部材31が、ねじ軸111におけるねじ溝の形成範囲よりもさらに後部壁1b(反力部材1c)に近い位置(後部軸受115の位置)まで推進部材20を後退させることができる。そのため、発進位置におけるシールド機5後方のスペースをさらに小さくできる。そして、ねじ軸111の回転駆動により、間隔変更処理を除いて連続的に推進を行えるので、簡素かつ効率的な推進を行える。
【0097】
第3実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態および第2実施形態と同様である。
【0098】
[変形例]
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であり制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更(変形例)が含まれる。
【0099】
たとえば、上記第1実施形態では、発進位置におけるシールド機5の後方のスペースD2(図12参照)が、推進機構10の全長よりも小さくなる場合に、特に有用であることを説明したが、本発明はこれに限られない。本発明では、シールド機5の後方のスペースD2が、推進機構10の全長よりも大きくてもよい。もっとも、シールド機5の後方のスペースD2が推進機構10の全長よりも大きく確保されている場合には、図15に示す参考例1や、図16に示す参考例2のように、連結機構30を設けることなく、推進機構10をシールド機5の後方に配置して、推進部材20を押し出す方式により推進すればよい。
【0100】
図15に示す参考例1は、推進ジャッキ810により、推進固定部820を直接推進させる構成である。また、推進固定部820がガイド梁830の外側支持部831と内側支持部832とに跨っている。第1実施形態で示した連結機構30および前部可動部材11aは削除している。
【0101】
図16に示す参考例2は、参考例1と同様に、推進ジャッキ810により、推進固定部850を直接推進させる構成である。後部可動部材811、推進ジャッキ810、および推進固定部850を、共にガイド梁830の同一面(内側支持部832)に設置している点で、上記参考例1と異なる。
【0102】
また、上記第1~第3実施形態では、環状の1つの推進部材20を、4基の発進用推進装置100が共有する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、発進用推進装置100に1つずつ推進部材20が設けられていてもよい。また、たとえば推進部材20を上側と下側とに1つずつ配置し、上側の2基の発進用推進装置100が上側の1つの推進部材20に接続され、下側の2基の発進用推進装置100が下側の1つの推進部材20に接続されてもよい。同じく、推進部材20を左右に1つずつ配置してもよい。
【0103】
また、上記第1および第3実施形態では、ガイド梁13が外側支持部13aと内側支持部13bとを備える例を示したが、本発明はこれに限られない。推進機構10を支持する支持部材と、推進部材20(推進固定部25)を支持する支持部材とを、別々に設けてもよい。また、ガイド梁に推進機構10の支持部および推進部材20(推進固定部25)の支持部を設ける場合、半径方向の内側面と外側面とに支持部を設けることに限らず、ガイド梁の異なる2つの側面にそれぞれの支持部を設けてよい。
【0104】
また、上記第1~第3実施形態では、特許請求の範囲の掘進機の一例としてシールド機5を示したが、本発明はこれに限られない。掘進機はシールド機以外であってもよい。たとえば、掘進機がトンネルボーリングマシン(TBM)であってもよい。
【符号の説明】
【0105】
1 発進坑
1a 坑口壁
1b 後部壁
5 シールド機(掘進機)
10 推進機構
11、210 可動部材
11a 前部可動部材
11b 後部可動部材
12 駆動部
12a 推進ジャッキ
13 ガイド梁(支持部材)
13a 外側支持部
13b 内側支持部
20 推進部材
30 連結機構
31 連結部材
100、200、300 発進用推進装置
110 推進機構
111 ねじ軸
112 ナット部材
113 駆動部
D1 間隔(可動部材と推進部材との間隔)
P1 初期位置
P2 発進完了位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16