(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021205
(43)【公開日】2022-02-02
(54)【発明の名称】乳風味改善剤および飲食品の乳風味改善方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/20 20160101AFI20220126BHJP
A23L 27/21 20160101ALI20220126BHJP
A23L 2/00 20060101ALN20220126BHJP
A23G 9/00 20060101ALN20220126BHJP
A23D 7/005 20060101ALN20220126BHJP
A23G 9/40 20060101ALN20220126BHJP
A23D 7/00 20060101ALN20220126BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20220126BHJP
A23L 2/38 20210101ALN20220126BHJP
A23C 9/123 20060101ALN20220126BHJP
【FI】
A23L27/20 A
A23L27/21 B
A23L2/00 B
A23G9/00 101
A23D7/005
A23G9/40
A23D7/00 500
A23L2/52
A23L2/38 P
A23C9/123
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020124667
(22)【出願日】2020-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000208086
【氏名又は名称】大洋香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085316
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】100171572
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100213425
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 正憲
(74)【代理人】
【識別番号】100221707
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100221718
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 誠悟
(72)【発明者】
【氏名】青石 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】山岡 優
【テーマコード(参考)】
4B001
4B014
4B026
4B047
4B117
【Fターム(参考)】
4B001AC06
4B001AC31
4B001BC08
4B001BC14
4B001EC01
4B014GB18
4B014GG11
4B014GK02
4B014GL09
4B026DC01
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4B047LG59
4B047LP19
4B117LC03
4B117LG17
4B117LK14
4B117LK18
4B117LL09
(57)【要約】
【課題】 乳関連製品に対して、香味バランスに影響を与えることなく乳の甘味を増強させ味質を向上させる方法の開発が強く望まれている。
【解決手段】 D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、及びD-セリンを含有する乳風味改善剤の添加により、飲食品の乳の甘味、後キレ、味のバランスを向上させ、自然な甘味を有する飲食品とすることができる。また、乳酸菌による発酵処理によって生成された発酵物に混合されたD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、及びD-セリンを含有する乳風味改善剤の添加により、さらに飲食品の乳の甘味、後キレ、味のバランスを向上させ、より自然で甘味を有する飲食品とすることができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、及びD-セリンを含有する乳風味改善剤。
【請求項2】
前記D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、及びD-セリンが、乳酸菌による発酵処理によって生成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の乳風味改善剤。
【請求項3】
前記D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、及びD-セリンが、その生成と同時に前記発酵処理された発酵物に混合されてなる混合物を含有する請求項2に記載の乳風味改善剤。
【請求項4】
前記乳酸菌がラクトバチルス属から選ばれる乳酸菌である請求項2又は3に記載の乳風味改善剤。
【請求項5】
前記乳酸菌がラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・カゼイから選ばれる乳酸菌である請求項4に記載の乳風味改善剤。
【請求項6】
改善される風味が乳の甘味であることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかに記載の乳風味改善剤。
【請求項7】
改善される風味が、乳の甘味及び後キレの向上による味のバランスであることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかに記載の乳風味改善剤。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれかに記載の乳風味改善剤が含まれてなる飲食品。
【請求項9】
請求項1~請求項7のいずれかに記載の乳風味改善剤が含まれてなる冷菓。
【請求項10】
請求項1~請求項7のいずれかに記載の乳風味改善剤が含まれてなる飲料。
【請求項11】
請求項1~請求項7のいずれかに記載の乳風味改善剤が含まれてなる食用油脂組成物。
【請求項12】
請求項1~請求項7のいずれかに記載の乳風味改善剤を添加することを特徴とする飲食品の乳風味改善方法。
【請求項13】
発酵対象物を乳酸菌により発酵処理させて発酵物を生成すると共に、前記発酵処理によってD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸とD-セリンを生成させることを特徴とする乳風味改善剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食品、又は乳製品代用品の風味を改善させる風味改善剤に関する。また、本発明は、当該風味改善剤を添加した乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食品、又は乳製品代用品に関する。さらに、本発明は、乳若しくは乳製品を含有する飲食品あるいは乳製品代用品の風味改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳製品は世界各国で古来より慣れ親しまれた食品であり、牛乳だけでなく、発酵や加工をすることで様々な製品が開発、流通している。具体的には発酵によりチーズやヨーグルト、加工によりバターなどが製造されている。近年、穀物の国際価格高騰化や円安の影響による飼料価格上昇などにより、乳製品の原料が不足傾向にある。それに伴い多くの乳製品が値上がりする事態が生じている。これに対応するために、乳脂肪等を原料としないマーガリンやファットスプレッド等の乳製品代用品も種々開発され、チーズ類ではチーズ代替食品であるチーズフード、バターでは原料の一部にバターを使用した乳等を主要原料とする食品などの需要が高まってきており、今後も市場は成長するものと予測されている。(以下、「乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食品、乳製品代用品、チーズ代替食品であるチーズフード、又は原料の一部にバターを使用した乳等を主要原料とする食品」を総じて「乳関連製品」と称する。)
【0003】
一般に、乳関連製品は、独特な好ましい香味や自然な甘味を有しており、これが乳関連製品の美味しさに大きく寄与していると考えられる。
【0004】
従来、乳、乳製品や乳製品代用品の甘味や後キレを増強させ乳製品等の味質を向上させる方法としては数々の提案がなされている。例えば、2種類以上の乳を含む原料のプロテアーゼ処理物による、乳の甘さを含むフレッシュな乳感付与剤が提案されている(特許文献1)。また、乳の後キレ感を改善する呈味改善剤および呈味の改善方法として、没食子酸エステルからなる乳添加嗜好飲料の呈味改善剤が提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、上記従来技術にはさらなる改善が求められており、香味のバランスに影響を与えることなく、乳関連製品の風味を改善するような製品の開発が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-296381号公報
【特許文献2】特開2012-110246号公報
【特許文献3】特許第6449418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、乳関連製品の香味のバランスに影響を与えることなく、乳の甘味と後キレの両方が改良された乳関連製品を提供することができる、新規な乳風味改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、前記課題を解決する手段は、以下のとおりである。
〔1〕 D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、及びD-セリンを含有する乳風味改善剤。
〔2〕 前記D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、及びD-セリンが、乳酸菌による発酵処理によって生成されたものであることを特徴とする〔1〕に記載の乳風味改善剤。
〔3〕 前記D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、及びD-セリンが、その生成と同時に前記発酵処理された発酵物に混合されてなる混合物を含有する〔2〕に記載の乳風味改善剤。
〔4〕 前記乳酸菌がラクトバチルス属から選ばれる乳酸菌である〔2〕または〔3〕に記載の乳風味改善剤。
〔5〕 前記乳酸菌が、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・カゼイから選ばれる乳酸菌である〔4〕に記載の乳風味改善剤。
〔6〕 改善される風味が乳の甘味であることを特徴とする〔1〕~〔5〕の乳風味改善剤。
〔7〕 改善される風味が乳の甘味と後キレの両立であることを特徴とする〔1〕~〔6〕の乳風味改善剤。
〔8〕 〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の乳風味改善剤が含まれてなる飲食品。
〔9〕 〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の乳風味改善剤が含まれてなる冷菓。
〔10〕 〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の乳風味改善剤が含まれてなる飲料。
〔11〕 〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の乳風味改善剤が含まれてなる食用油脂組成物。
〔12〕 〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の乳風味改善剤を添加することを特徴とする飲食品の乳風味改善方法。
〔13〕 発酵対象物を乳酸菌により発酵処理させると同時に、前記発酵処理によってD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、及びD-セリンを生成させることを特徴とする乳風味改善剤の製造方法。
【0009】
本発明は、乳酸菌発酵によりD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、及びD-セリンを生成させることを特徴とする、乳の甘味と後キレを増強させる乳風味改善剤に関する。
【0010】
本発明に記載している「乳の甘味」とは、甘味を付与する単一の物質を添加するのみでは表現できない、乳関連製品にて感じられる複雑な風味を伴う、自然でまろやかな甘味を表す言葉である。乳に含まれる甘味を持つ成分としては乳糖が挙げられるが、この他にも乳に含まれる乳脂肪分やたんぱく質の有する風味、殺菌等の製造工程で生じる香気成分等が合わさることで、乳感を想起させる自然な甘味として感じられると考えられる。
【0011】
本発明に記載している「後キレ」とは、後味のべとつくような持続がなくすっきりとした感覚を意味する。脂肪や糖を多く含む飲食品では、脂肪や糖の風味が後味まで持続することで、べとつくような異味に感じられる場合がある。特に、乳には乳脂肪や乳糖が多く含まれるため、乳関連製品もこの後味のべとつきが課題となる場合が多い。
【0012】
従来、D-アミノ酸による風味改善としては、例えばD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-プロリン全てを共存させた際の濃厚さ、持続性、煮込み感の向上が報告されている(特許文献3)。しかしながら、この方法では、乳関連製品に対しては、乳の甘味のみを強めることはできず、更に風味の持続性が強まることで後キレは寧ろ悪くなるという欠点があった。本発明で得られる風味改善剤は、自然に乳の甘味を増強しつつ、同時に後キレも向上させることが可能である。このような風味面での優位性は、D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-セリンにより得られるものであり、格別顕著な効果である。
【0013】
上記のD-アミノ酸は、それぞれを単体で添加した場合は、自然な乳の甘味と後キレを共存させることは難しい。例えば、D-アラニンはそれ自体が甘味を呈し、飲食品へ添加した際も甘味を付与するが、それだけではすっきりとした強い甘味となり、自然な乳の甘味とは異なって感じられてしまう。D-アスパラギン酸とD-グルタミン酸は、それ自体には味は感じられず、飲食品へ添加した際にボリューム感を強めるが、同じく単体で乳の甘味や後キレを向上させる効果は弱い。そこで、D-セリンを加えることでD-アラニンの強い甘味を乳の甘味へと変化させることができると共に、D-アスパラギン酸及びD-グルタミン酸のボリューム感と相まって明確な後キレを実現することができることが分かった。また、本発明では、D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、及びD-セリンが乳酸菌による発酵処理によって生成されると共に、その生成と同時に前記発酵処理によって生成された発酵物に混合されてなることで、乳の甘味をさらに違和感なく向上させる顕著な風味改善効果が得られる。
【0014】
また、本発明は、D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、及びD-セリンが、発酵処理によって生成された発酵物と同時に混合された混合物であることにより、それぞれのD-アミノ酸を、塩とする処理をすることなく飲食品に容易に溶解させることができる。これにより、D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、及びD-セリンの塩に由来する異味を生じさせることなく、乳風味を改善させることができる。
【0015】
本発明に係る発酵処理に使用される乳酸菌としては、ラクトバチルス・ガセリ(Lb.gasseri)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lb.helveticus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lb.casei)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lb.paracasei)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lb.acidophilus)、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lb.delbruekii ssp. bulgaricus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lb.reuteri)、ラクトバチルス・ブレビス(Lb.brevis)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lb.fermentum)、ラクトバチルス・プランタラム(Lb.plantarum)、ラクトバチルス・ブフネリ(Lb.buchneri)、ラクトバチルス・サンフランシセンシス(Lb.sanfranciscensis)、ラクトバチルス・マリ(Lb.mali)、などが挙げられ、これらから選ばれる一種または二種以上を使用することができる。
【0016】
上記の菌種の菌株としては、ラクトバチルス・ガセリとしては、ラクトバチルス・ガセリJCM1017等の菌株が挙げられる。また、ラクトバチルス・ヘルベティカスとしては、ラクトバチルス・ヘルベティカス FL-65株(NITE AP-02246)等の菌株が挙げられる。また、ラクトバチルス・カゼイとしては、ラクトバチルス・カゼイJCM1134等の菌株が挙げられる。また、ラクトバチルス・パラカゼイとしては、ラクトバチルス・パラカゼイJCM20315等の菌株が挙げられる。ラクトバチルス・アシドフィルスとしては、ラクトバチルス・アシドフィルスJCM1132等の菌株が挙げられる。また、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスとしてはラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスJCM1002等の菌株が挙げられる。ラクトバチルス・ロイテリとしては、ラクトバチルス・ロイテリJCM1112等の菌株が、ラクトバチルス・ブレビスとしては、ラクトバチルス・ブレビス JCM1059等の菌株が挙げられる。また、ラクトバチルス・ファーメンタムとしては、ラクトバチルス・ファーメンタムJCM1137等の菌株が挙げられる。また、ラクトバチルス・プランタラムとしては、ラクトバチルス・プランタラムJCM1149等の菌株が挙げられ、ラクトバチルス・ブフネリとしては、ラクトバチルス・ブフネリJCM1115等の菌株が挙げられる。また、ラクトバチルス・サンフランシセンシスとしては、ラクトバチルス・サンフランシセンシスJCM5668等の菌株が挙げられ、ラクトバチルス・マリとしてはラクトバチルス・マリJCM1116等の菌株が挙げられる。以上の菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターなど国内外の公的微生物保存機関から分譲を受けることが可能である。
【0017】
なお、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)FL-65株は、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)FL-65株(NITE AP-02246)として、2016年4月25日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託されている。
【0018】
培地に用いられる乳としては、例えば牛乳、山羊乳等の獣乳の生乳、これら獣乳の脱脂乳、粉乳、若しくは脱脂粉乳からの還元乳、或いは豆乳、アーモンド乳、ココナッツミルク等の植物乳の各種乳蛋白含有物を用いることができる。特に、乳酸発酵を行った後の処理が容易であること、管理が容易であること等から脱脂粉乳、若しくは脱脂乳が好ましい。また、必要に応じて、バター、クリーム、食用植物油脂等の油脂含有物を添加することもできる。
【0019】
培地には、必要に応じて加糖、pH調整、香料添加などを行うことも可能である。加糖では、ぶどう糖、果糖ぶどう糖液糖、麦芽糖等の乳酸菌の発酵に適する糖を添加することができる。pH調整の範囲、使用する物質は特に限定されず、水酸化ナトリウムや炭酸カリウム等の無機塩の他、乳酸やクエン酸、リンゴ酸、酢酸等の有機酸を使用し、乳酸菌発酵に適したpH帯に調整することができる。使用する香料の種類や量も特に限定されず、必要な風味に合わせて調整することができる。
【0020】
培地には、一部の乳酸菌が生育に必要とするL-システイン、マンガン、オレイン酸等の栄養素を添加することも可能である。これらはそのまま用いることも、これらを含有する食品を添加することも可能である。
【0021】
培地は、必要に応じて酵素処理を行うことも可能である。例えば、プロテアーゼを用いて、タンパク質から遊離状態のアミノ酸を増加させ、プロテアーゼ活性が弱い乳酸菌の発酵を促進させると同時に、D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、及びD-セリンの出発物質となるL-アラニン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、およびL-セリンを供給することが可能である。これらのアミノ酸は、乳酸菌の有するラセマーゼ活性により、乳酸菌発酵処理によってL-体からD-体へと変換されると考えられている。この際に使用する酵素の種類や酵素処理の条件は、酵素によって適宜選択することが可能である。
【0022】
本発明における発酵時間は、原料、使用微生物、発酵温度、目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約8時間~約108時間、好ましくは約12時間~約96時間、より好ましくは約16時間~約72時間であるが、これらの時間に限定されない。
【0023】
本発明における発酵温度は、原料、使用微生物、発酵時間、目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約15~約45℃、好ましくは約18~約43℃、より好ましくは約20~約40℃であるが、これらの温度に限定されない。
【0024】
本発明の製造方法で得られる乳風味改善剤は、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、または乳酸菌飲料のいずれの形態とすることもできる。未殺菌とすることも、殺菌することもできる。
【0025】
ここで本発明に係る乳風味改善剤を好適に用いることができる飲食品としては、乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食品、乳製品代用品、チーズ代替食品であるチーズフード、又は原料の一部にバターを使用した乳等を主要原料とする食品であることが好ましい。
【0026】
ここで、冷菓とは、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベットまたは氷菓に限定されることなく、冷凍して供されるフローズンヨーグルト、フローズンムースおよびフローズンゼリー等を包含する。特に、前記乳風味改善剤を好適に用いることができる飲食品に含まれる冷菓であることがより好ましい。
【0027】
ここで、飲料とは、飲用に供する液体であり、例えば、緑茶、ウーロン茶、紅茶(レモンティ、ミルクティを含む)、ハーブティー等の茶系飲料、濃縮果汁、濃縮還元ジュース、ストレートジュース、果実ミックスジュース、果粒入り果実ジュース、果汁入り飲料、果実・野菜ミックスジュース、野菜ジュース、炭酸飲料、清涼飲料、乳飲料、日本酒、ビール、ワイン、カクテル、焼酎、ウィスキー等が挙げられる。特に、前記乳風味改善剤を好適に用いることができる飲食品に含まれる飲料であることがより好ましい。
【0028】
ここで、食用油脂組成物とは例えばショートニング、マーガリン、ファットスプレッド、乳化油脂、クリーム類、フラワーペースト等の、油脂を主原料とした食品全般をいう。特に、前記乳風味改善剤を好適に用いることができる飲食品に含まれる食用油脂組成物であることがより好ましい。
【0029】
飲食品への乳風味改善剤の添加量としては、乳風味改善効果を示せれば特に限定されないが、飲食品100gに対して、乳風味改善剤を0.01g~10g用いるのが好ましく、より好ましくは0.05g~5g、さらに好ましくは0.1g~3g用いるのが好ましい。各種飲食品に添加することで、自然な風味バランスを維持しつつ、乳の甘味と後キレを改善させることが可能となる。
【0030】
本発明の乳風味改善剤は、減圧濃縮、膜濃縮、ドラムドライ、エアードライ、噴霧乾燥、真空乾燥若しくは凍結乾燥、又はそれらの組み合わせ等により、濃縮品や乾燥品とすることができる。
【0031】
本発明における乳風味改善剤は、発酵処理と同時にD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸及びD-セリンを生成することが可能である。これにより、これらを単体で添加することが不要となり得る。特に、通常D-アスパラギン酸とD-グルタミン酸は溶解性を上げるためにナトリウム塩などの形態で用いられるが、ナトリウムに由来する塩味により風味へと影響を及ぼすことが懸念される。一方、本発明における乳風味改善剤では、このようなナトリウムによる影響を防ぐことが可能である。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る乳風味改善剤を飲食品に添加することで、従来よりも自然な乳の甘味の向上効果を発揮することができる。この効果は特に、乳関連製品に効果的に発揮することができる。
【0033】
特に、本発明に係る乳風味改善剤を添加して飲食品を調製すると、飲食品の乳の甘味及び後キレの向上を両立して得ることができる。一般に飲食品の甘味を強めると、後口にべとつくような味残りが感じられやすく、後キレは悪くなる傾向がある。一方で、本発明に係る乳風味改善剤を用いることで、乳の甘味を高めつつ後キレを損なわない乳風味改善剤を実現することができる。これらの効果は特に、乳関連製品に効果的に発揮することができる。
【0034】
さらに、本発明に係る乳風味改善剤を飲食品に添加することで、飲食品の乳の甘味、後キレ、及び味のバランスの向上効果を得ることができる。さらにまた、これらの評価全てにおいてブランクに対する明確な向上効果を発揮し得ることにより、飲食品としての総合評価についても高い評価を得ることができる。これらの効果は特に、乳関連製品に効果的に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、アイスクリームに本開示の発酵乳を添加した場合の官能評価の生データを示す。
【
図2】
図2は、アイスクリームに本開示の乳製品乳酸菌飲料を添加した場合の官能評価の生データを示す。
【
図3】
図3は、ラクトアイスに本開示の発酵乳を添加した場合の官能評価の生データを示す。
【
図4】
図4は、清涼飲料水に本開示の発酵乳を添加した場合の官能評価の生データを示す。
【
図5】
図5は、乳製品乳酸菌飲料に本開示の発酵乳を添加した場合の官能評価の生データを示す。
【
図6】
図6は、乳飲料に本開示の発酵乳を添加した場合の官能評価の生データを示す。
【
図7】
図7は、ファットスプレッドに本開示の発酵乳を添加した場合の官能評価の生データを示す。
【
図8】
図8は、マーガリンに本開示の発酵乳を添加した場合の官能評価の生データを示す。
【実施例0036】
<乳酸菌スターターの調製例>
水90重量部、脱脂粉乳9重量部からなる培養基を調製し、該培養基を121℃で15分間殺菌し、その後37℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基にラクトバチルス・ガセリ(Lb.gaseri)JCM1017株1重量部を接種し、37℃で20時間培養させた発酵物をJCM1017スターターとした。
【0037】
水90重量部、脱脂粉乳9重量部からなる培養基を調製し、該培養基を121℃で15分間殺菌し、その後37℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基にラクトバチルス・ヘルベティカス(Lb.helveticus)FL-65株1重量部を接種し、37℃で20時間培養させた発酵物をFL-65スターターとした。
【0038】
水90重量部、脱脂粉乳9重量部からなる培養基を調製し、該培養基を121℃で15分間殺菌し、その後37℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基にラクトバチルス・カゼイ(Lb.casei)JCM1134株1重量部を接種し、37℃で20時間培養させた発酵物をJCM1134スターターとした。
【0039】
<実施例1-1:発酵乳の調製例>
脱脂粉乳20重量部、水79重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後37℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したJCM1017スターターを1重量部接種し、37℃で24時間発酵させた。得られた発酵物を実施例1-1とした。
【0040】
<実施例1-2:発酵乳の調製例>
脱脂粉乳20重量部、水79重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後37℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したFL-65スターターを1重量部接種し、37℃で24時間発酵させた。得られた発酵物を実施例1-2とした。
【0041】
<実施例1-3:発酵乳の調製例>
脱脂粉乳20重量部、水79重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後37℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したJCM1134スターターを1重量部接種し、37℃で24時間発酵させた。得られた発酵物を実施例1-3とした。
【0042】
<実施例1-4:D-アミノ酸添加未発酵乳の調製例>
前記実施例1-1のうち、JCM1017スターターを水で置き換え、乳酸菌発酵工程以外で同等の操作を行い、更に、実施例1-1と等濃度となるようにD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-セリンを添加し、得られたD-アミノ酸添加未発酵物を実施例1-4とした。
【0043】
<比較例1:未発酵乳の調製例>
前記実施例1-1のうち、JCM1017スターターを水で置き換え、乳酸菌発酵工程以外で同様の操作を行い、得られた未発酵物を比較例1として調製した。
【0044】
<実施例2:乳製品乳酸菌飲料の調製例>
脱脂粉乳5重量部、水44.5重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後37℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したJCM1017スターターを0.5重量部接種し、37℃で24時間発酵後、砂糖50重量部を混合し、80℃で1分間加熱することで得られた発酵物を実施例2とした。
【0045】
<比較例2:未発酵乳製品乳酸菌飲料の調製例>
前記実施例2のうち、JCM1017スターターを水で置き換え、乳酸菌発酵工程以外で同様の操作を行い、得られた未発酵物を比較例2として調製した。
【0046】
<D-アミノ酸量の測定>
実施例1-1~1-3(発酵乳)、実施例2(乳製品乳酸菌飲料)、並びに実施例1-4、比較例1、比較例2中のD-アラニン(D-Ala)、L-アラニン(L-Ala)、D-アスパラギン酸(D-Asp)、L-アスパラギン酸(L-Asp)、D-グルタミン酸(D-Glu)、L-グルタミン酸(L-Glu)、D-セリン(D-Ser)及びL-セリン(L-Ser)の含有量は、次に示すオルトフタルアルデヒド・N-アセチル-L-システインキラル誘導体化法(OPA-NACキラル誘導体化法)を用いたアミノ酸定量分析により測定した。
【0047】
まず、それぞれの実施例に係る液体状の発酵物に対し、2倍量のメタノールを加え撹拌後、遠心分離機にかけて得られる上清を蒸留水で3倍に希釈したものをキラル誘導体化用試料とした。なお、発酵物に含まれるアミノ酸量に応じ、上清を直接もしくは、蒸留水にて2倍から5倍に希釈したものをキラル誘導体化用試料とすることができる。
【0048】
<キラル誘導体化手順>
キラル誘導体化用試料60μlに1%四ホウ酸ナトリウム水溶液40μl、1%N-アセチル-L-システイン水溶液20μl、1.6%オルトーフタルアルデヒドメタノール溶液20μlを添加し、0.45μmセルロースアセテート製メンブレンフィルター(アドバンテック社製)でろ過したものをキラル誘導体化処理液とした。キラル誘導体化処理液を分析用試料として、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、(株)島津製作所製、検出限界値:0.5ppm)によるアミノ酸分析を行った。
【0049】
また、キラル誘導体化処理液を分析用試料としたHPLCによるアミノ酸分析にあたり、分析条件としては、次の表1に示す条件を選択した。また、分析の結果を表2に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
表2より、未発酵の比較例1及び2からはD-アラニン、D-グルタミン酸、D-セリンの含有量はHPLCの検出限界値である0.5ppmよりも低い値であり、D-アスパラギン酸のみ検出限界値付近の低濃度が検出された。一方、乳酸菌により発酵処理された発酵物である実施例1-1~1-3、及び実施例2からは高い濃度のD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸及びD-セリンが検出された。また、実施例1-4では、未発酵の状態のまま実施例1-1とほぼ同濃度のD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-セリンが含まれていることが確認された。表2の結果より、発酵処理前にはほとんど存在していなかったD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-セリンを発酵処理によって高濃度に生成すると共に、その生成と同時に発酵物に混合された状態の乳風味改善剤を製造することができた。
【0053】
<乳風味改善剤を添加した冷菓の呈味官能試験>
【0054】
前記実施例1-1~1-4、及び実施例2に係る乳風味改善剤を添加した冷菓の呈味について、前記比較例1、及び比較例2を添加した冷菓の呈味と比較しつつ、官能試験を行った。
【0055】
表3に官能試験の対象とした評価試験区の処方の一覧を示す。なお、表3においては、ブランクとなるアイスクリーム、若しくはラクトアイス100重量部に対して、実施例1-1~1-4、及び実施例2に係る乳風味改善剤、並びに比較例1、及び比較例2のいずれかを1重量部添加して調製した。
【0056】
【0057】
各評価試験区を官能評価試験に供した。具体的には良く訓練され、日常飲食品の評価を行っているパネラー10人(n=10)が試食し、乳の甘味、後キレ、味のバランス、総合評価について採点し、10人がつけた点数の平均値を評価として採用した。なお、評価点は、対象となる冷菓そのもの(ブランク)の各項目の評価点を一律に2.0とし、この2.0点を基準として各比較例及び実施例における各項目の呈味が良い評価であれば大きい点をつけることとして、「1、2、3、4、5」のいずれかの点数をつけることによって採点した。なお総合評価は、乳の甘味、後キレ、及び味のバランスの3つの評価点を加算した値を3で除した値を小数点第二位の四捨五入により算出したものである。
【0058】
以上の評価基準をもとに官能評価を行った各評価試験区の評価結果を表4~表6に示す。
【0059】
表4には、冷菓に係るブランクとしてアイスクリーム(株式会社ロッテアイス製 レディボーデン(登録商標))を使用したもの(以下、ブランク1という。)の前記評価項目を2.0とした場合の、ブランク1に実施例1-1~1-3に係る発酵乳を添加したものを表3の処方に従って作製してそれぞれ実施例3-1~3-3としたものの官能評価結果を示す。また、ブランク1に実施例1-4を添加したものを表3の処方に従って作製して実施例3-4としたものの官能評価結果を示す。さらに、ブランク1に比較例1を添加したものを表3の処方に従って作製して比較例3としたものの官能評価結果を示す。なお、
図1には、表4の評価結果の生データを示している。
【0060】
【0061】
表4の結果より、実施例3-1~3-4は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク1の評価点2.0を上回り、かつ比較例3以上の結果を得た。ここで、比較例3と実施例3-4を比較すると、実施例3-4はいずれの評価項目においても比較例3を上回っており、D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-セリンの添加により官能評価結果が向上することが示された。さらに、実施例3-4と実施例3-1を比較すると、実施例3-1はいずれの評価項目においても実施例3-4を上回る結果を得た。実施例3-4と実施例3-1はほぼ同量のD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-セリンを含有しているため、乳酸菌により発酵処理された発酵物との混合物が構成されてなることにより、さらに評価結果が向上することが示された。
【0062】
特に、実施例3-1~3-3は、全ての評価項目において3.5以上であり、かつ、全ての評価項目において実施例3-4の評価を上回ったことから、D-アミノ酸以外に乳酸菌により発酵処理された発酵処理物を含有する発酵物を構成することによって、単にD-アミノ酸を添加した場合よりも高い乳風味の改善効果が得られることがわかった。
【0063】
表5には、前記ブランク1の前記評価項目を2.0とした場合の、ブランク1に実施例2に係る乳製品乳酸菌飲料を添加したものを表3の処方に従って作製して実施例4としたもの、及び、ブランク1に比較例2に係る未発酵乳製品乳酸菌飲料を添加したものを表3の処方に従って作製して比較例4としたものの官能評価結果を示す。なお、
図2には、表5の評価結果の生データを示している。
【0064】
【0065】
表5の結果より、実施例4は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク1の評価点2.0を上回り、かつ比較例4以上の結果を得た。また、実施例4にも乳酸菌により発酵処理された発酵処理物が含有されてなり、評価結果は全ての評価項目において3.5以上であった。
【0066】
表6には、冷菓に係るブランクとしてラクトアイス(明治乳業株式会社製 エッセルスーパーカップ 超バニラ(登録商標))を使用したもの(以下、ブランク2という。)の前記評価項目を2.0とした場合の、ブランク2に実施例1-1に係る発酵乳を添加したものを表3の処方に従って作製して実施例5としたもの、及び、ブランク2に比較例1に係る未発酵乳を添加したものを表3の処方に従って作製して比較例5としたものの官能評価結果を示す。なお、
図3には、表6の評価結果の生データを示している。
【0067】
【0068】
表6の結果より、実施例5は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク2の評価点2.0を上回り、かつ比較例5以上の結果を得た。また、実施例5にも乳酸菌により発酵処理された発酵処理物が含有されてなり、評価結果は全ての評価項目において3.5以上であった。
【0069】
<乳風味改善剤を添加した飲料の呈味官能試験>
【0070】
前記実施例1-1~1-4に係る乳風味改善剤を添加した飲料の呈味について、前記比較例1を添加した飲料の呈味と比較しつつ、官能試験を行った。
【0071】
表7に官能試験の対象とした評価試験区の処方の一覧を示す。なお、表7においては、ブランクとなる清涼飲料水、乳製品乳酸菌飲料、若しくは乳飲料100重量部に対して、実施例1-1~1-4、及び比較例1のいずれかを1重量部添加して調製した。
【0072】
【0073】
各評価試験区を官能評価試験に供した。具体的には良く訓練され、日常飲食品の評価を行っているパネラー10人(n=10)が試食し、乳の甘味、後キレ、味のバランス、総合評価について採点し、10人がつけた点数の平均値を評価として採用した。なお、評価点は、対象となる飲料そのもの(ブランク)の各項目の評価点を一律に2.0とし、この2.0点を基準として各比較例及び実施例における各項目の呈味が良い評価であれば大きい点をつけることとして、「1、2、3、4、5」のいずれかの点数をつけることによって採点した。
【0074】
以上の評価基準をもとに官能評価を行った各評価試験区の評価結果を表8~表11に示す。
【0075】
表8には、飲料に係るブランクとして清涼飲料水(アサヒ飲料株式会社製 カルピスウォーター(登録商標))を使用したもの(以下、ブランク3という。)の前記評価項目を2.0とした場合の、ブランク3に実施例1-1~1-3に係る発酵乳を添加したものを表3の処方に従って作製してそれぞれ実施例6-1~6-3としたものの官能評価結果を示す。また、ブランク3に実施例1-4を添加したものを表7の処方に従って作製して実施例6-4としたものの官能評価結果を示す。さらに、ブランク3に比較例1を添加したものを表7の処方に従って作製して比較例6としたものの官能評価結果を示す。なお、
図4には、表8の評価結果の生データを示している。
【0076】
【0077】
表8の結果より、実施例6-1~6-4は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク3の評価点2.0を上回り、かつ比較例6以上の結果を得た。ここで、比較例6と実施例6-4を比較すると、実施例6-4はいずれの評価項目においても比較例6を上回っており、D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-セリンの添加により官能評価結果が向上することが示された。さらに、実施例6-4と実施例6-1を比較すると、実施例6-1はいずれの評価項目においても実施例6-4を上回る結果を得た。実施例6-4と実施例6-1はほぼ同量のD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-セリンを含有しているため、乳酸菌により発酵処理された発酵物との混合物が構成されてなることにより、さらに評価結果が向上することが示された。
【0078】
特に、実施例6-1~6-3は、全ての評価項目において3.5以上であり、かつ、全ての評価項目において実施例6-4の評価を上回ったことから、D-アミノ酸以外に乳酸菌により発酵処理された発酵処理物を含有する発酵物を構成することによって、単にD-アミノ酸を添加した場合よりも高い乳風味の改善効果が得られることがわかった。
【0079】
表9には、飲料に係るブランクとして乳製品乳酸菌飲料(日清ヨーク株式会社製 ピルクル(登録商標))を使用したもの(以下、ブランク4という。)の前記評価項目を2.0とした場合の、ブランク4に実施例1-1に係る発酵乳を添加したものを表7の処方に従って作製して実施例7としたもの、及び、ブランク4に比較例1に係る未発酵乳を添加したものを表7の処方に従って作製して比較例7としたものの官能評価結果を示す。なお、
図5には、表9の評価結果の生データを示している。
【0080】
【0081】
表9の結果より、実施例7は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク4の評価点2.0を上回り、かつ比較例7以上の結果を得た。また、実施例7にも乳酸菌により発酵処理された発酵処理物が含有されてなり、評価結果は全ての評価項目において3.5以上であった。
【0082】
表10には、飲料に係るブランクとして乳飲料(江崎グリコ株式会社製 カフェオーレ(登録商標))を使用したもの(以下、ブランク5という。)の前記評価項目を2.0とした場合の、ブランク5に実施例1-1に係る発酵乳を添加したものを表7の処方に従って作製して実施例8としたもの、及び、ブランク5に比較例1に係る未発酵乳を添加したものを表7の処方に従って作製して比較例8としたものの官能評価結果を示す。なお、
図6には、表10の評価結果の生データを示している。
【0083】
【0084】
表10の結果より、実施例8は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク5の評価点2.0を上回り、かつ比較例8以上の結果を得た。また、実施例8にも乳酸菌により発酵処理された発酵処理物が含有されてなり、評価結果は全ての評価項目において3.5以上であった。
【0085】
<乳風味改善剤を添加した食用油脂組成物の呈味官能試験>
【0086】
前記実施例1-1~1-4に係る乳風味改善剤を添加した食用油脂組成物の呈味について、前記比較例1を添加した食用油脂組成物の呈味と比較しつつ、官能試験を行った。
【0087】
表11に官能試験の対象とした評価試験区の処方の一覧を示す。なお、表11においては、ブランクとなるファットスプレッド、若しくはマーガリン100重量部に対して、実施例1-1~1-4、及び比較例1のいずれかを1重量部添加して調製した。
【0088】
【0089】
各評価試験区を官能評価試験に供した。具体的には良く訓練され、日常飲食品の評価を行っているパネラー10人(n=10)が試食し、乳の甘味、後キレ、味のバランス、総合評価について採点し、10人がつけた点数の平均値を評価として採用した。なお、評価点は、対象となる食用油脂組成物そのもの(ブランク)の各項目の評価点を一律に2.0とし、この2.0点を基準として各比較例及び実施例における各項目の呈味が良い評価であれば大きい点をつけることとして、「1、2、3、4、5」のいずれかの点数をつけることによって採点した。
【0090】
以上の評価基準をもとに官能評価を行った各評価試験区の評価結果を表12~表13に示す。
【0091】
表12には、食用油脂組成物に係るブランクとしてファットスプレッド(雪印メグミルク株式会社製 ネオソフト(登録商標))を使用したもの(以下、ブランク6という。)の前記評価項目を2.0とした場合の、ブランク6に実施例1-1~1-3に係る発酵乳を添加したものを表11の処方に従って作製してそれぞれ実施例9-1~9-3としたものの官能評価結果を示す。また、ブランク6に実施例1-4を添加したものを表11の処方に従って作製して実施例9-4としたものの官能評価結果を示す。さらに、ブランク6に比較例1を添加したものを表11の処方に従って作製して比較例9としたものの官能評価結果を示す。なお、
図7には、表12の評価結果の生データを示している。
【0092】
【0093】
表12の結果より、実施例9-1~9-4は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク6の評価点2.0を上回り、かつ比較例9以上の結果を得た。ここで、比較例9と実施例9-4を比較すると、実施例9-4はいずれの評価項目においても比較例9を上回っており、D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-セリンの添加により官能評価結果が向上することが示された。さらに、実施例9-4と実施例9-1を比較すると、実施例9-1はいずれの評価項目においても実施例9-4を上回る結果を得た。実施例9-4と実施例9-1はほぼ同量のD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-セリンを含有しているため、乳酸菌により発酵処理された発酵物との混合物が構成されてなることにより、さらに評価結果が向上することが示された。
【0094】
特に、実施例9-1~9-3は、全ての評価項目において3.5以上であり、かつ、全ての評価項目において実施例9-4の評価を上回ったことから、D-アミノ酸以外に乳酸菌により発酵処理された発酵処理物を含有する発酵物を構成することによって、単にD-アミノ酸を添加した場合よりも高い乳風味の改善効果が得られることがわかった。
【0095】
表13には、食用油脂組成物に係るブランクとしてマーガリン(月島食品工業株式会社製 ホテルマーガリン)を使用したもの(以下、ブランク7という。)の前記評価項目を2.0とした場合の、ブランク7に実施例1-1に係る発酵乳を添加したものを表11の処方に従って作製して実施例10としたもの、及び、ブランク7に比較例1に係る未発酵乳を添加したものを表11の処方に従って作製して比較例10としたものの官能評価結果を示す。なお、
図8には、表13の評価結果の生データを示している。
【0096】
【0097】
表13の結果より、実施例10は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク7の評価点2.0を上回り、かつ比較例10以上の結果を得た。また、実施例10にも乳酸菌により発酵処理された発酵処理物が含有されてなり、評価結果は全ての評価項目において3.5以上であった。
【0098】
実施例3~実施例10の全てにおいて、いずれの項目においても評価点2.5を上回っており、ブランクに対して明確な味の向上が得られたことを示すものである。ブランク1~2の冷菓(評価点2.0)、ブランク3~5の飲料(評価点2.0)、ブランク6~7の食用油脂組成物(評価点2.0)の全てに対して、本発明に係る風味改善剤を添加して実施例3~実施例10を調製すると、その全てにおいて乳の甘味、後キレ、味のバランスが標準の評価点3.0を上回る評価が得られ、いずれの飲食品にも十分な乳の甘味と後キレを付与しつつ、かつ自然な風味バランスを維持する効果を発揮できることが明らかとなった。
【0099】
一方、比較例3~比較例10の全てにおいて、いずれの項目においても評価点2.5を上回るものはなかった。これにより、これらの項目の評価点が3.0を上回った実施例3~10との顕著な差異が明らかとなった。
【0100】
また、実施例3-4、実施例6-4、及び実施例9-4においては、いずれの項目においても評価点2.5を上回っており、D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-セリンを添加することで、対応するブランクに対して乳の甘味、後キレ、味のバランスが向上することが明確に示された。さらに、実施例3-4と実施例3-1、実施例6-4と実施例6-1、及び実施例9-4と実施例9-1を比較すると、それぞれほぼ同量のD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-セリンを含有しているにも関わらず、いずれの項目においても実施例3-1、実施例6-1、及び実施例9-1のほうが高い評価点を示した。すなわち、D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-セリンに加えて乳酸菌により発酵処理された発酵処理物も含有する発酵物を構成することにより、さらに乳の甘味、後キレ、味のバランス等が向上することが示された。
【0101】
一般に乳酸菌の発酵では、主要な生成物である乳酸以外に酢酸等の有機酸や、ジアセチル、アセトイン、アセトアルデヒドといった香気成分が多数生じることが知られている。これらのうち、有機酸は後キレに、香気成分は乳的な風味の付与へとそれぞれ寄与することが考えられる。D-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-セリンに加えて、これらの発酵で生じる多様な成分が共存することで、乳の甘味、後キレがより向上すると共に、食品としての総合評価を高める効果が得られると推測された。
【0102】
本発明に係る乳酸菌により発酵処理された発酵物であって、当該発酵処理によって生成されたD-アラニン、D-アスパラギン酸、D-グルタミン酸、D-セリンを含有する乳風味改善剤を添加することによって、幅広い飲食品に対して、乳の甘味と後キレを向上させ、かつ自然な風味バランスを維持した飲食品とすることができる。