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  • 特開-屋根の融雪構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021227
(43)【公開日】2022-02-02
(54)【発明の名称】屋根の融雪構造
(51)【国際特許分類】
   E04D 13/00 20060101AFI20220126BHJP
   E04D 3/35 20060101ALI20220126BHJP
   E04H 9/16 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
E04D13/00 D
E04D3/35 G
E04H9/16 H
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020124706
(22)【出願日】2020-07-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】519452998
【氏名又は名称】東京新建装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 史朗
(72)【発明者】
【氏名】北村 透
【テーマコード(参考)】
2E108
2E139
【Fターム(参考)】
2E108AA02
2E108AZ01
2E108BN01
2E108CC01
2E108GG01
2E108GG12
2E139AA03
2E139DA04
2E139DB01
2E139DC13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】施工が容易であり、屋根に対して水平方向に効率よく熱を伝播する屋根の融雪構造を提供する。
【解決手段】屋根に配置される融雪構造体であって、屋根材2側に配置されるヒーター5と、ヒーター5の表面に設けられている撥水性を有する断熱層4と、を有し、断熱層4は、樹脂層中に分散された複数の中空ガラスビーズを含む。さらに、屋根材2とヒーター5の間に介在する、伝熱プライマー層3を有し、伝熱プライマー層3は、樹脂層中に多数含有されたフレーク状のアルミ粉を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根に配置される融雪構造であって、
屋根材側に配置されるヒーターと、
前記ヒーターの表面に設けられる撥水性を有する断熱層と、を有することを特徴とする屋根の融雪構造。
【請求項2】
さらに、前記屋根材と前記ヒーターの間に介在する、伝熱プライマー層を有することを特徴とする請求項1に記載の屋根の融雪構造。
【請求項3】
前記伝熱プライマー層は、樹脂層中に多数含有されたフレーク状のアルミ粉を含むことを特徴とする請求項2に記載の屋根の融雪構造。
【請求項4】
前記断熱層は、樹脂層中に分散された複数の中空ガラスビーズを含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の屋根の融雪構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、屋根の上の積もった雪を融かすために用いる融雪構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積雪地域において、屋根に降り積もった雪を熱によって融雪し、除去する技術が知られている。例えば、特許文献1では、屋根上に形成される密閉空間に、加熱された空気を送ることで融雪する融雪システムが記載されている。
【0003】
また、特許文献2では、面状発熱体と、面状発熱体の積雪側の表面をフッ素樹脂フィルムからなる被覆層を有する除雪シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-177859号公報
【特許文献2】特開2008-266962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、大掛かりな装置であり、施工の煩雑さ及び、工事費の高騰などの問題がある。また、特許文献2に記載の発明は、積雪側表面の被覆層の断熱性が不十分であり、屋根に対して水平方向に効率よく熱が伝播しないと考えられる。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、簡単な構造で、融雪効果の高い屋根の融雪構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の屋根の融雪構造は、屋根に配置される融雪構造であって、屋根材側に配置されるヒーターと、前記ヒーターの表面に設けられている撥水性を有する断熱層と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明では、さらに、前記屋根材と前記ヒーターの間に介在する、伝熱プライマー層を有することが好ましい。
【0009】
本発明では、前記伝熱プライマー層は、樹脂層中に多数含有されたフレーク状のアルミ粉を含むことが好ましい。
【0010】
本発明では、前記断熱層は、樹脂層中に分散された複数の中空ガラスビーズを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の屋根の融雪構造によれば、簡単な構造で、融雪効果を高めることができる。特に、施工が容易であり、屋根に対して水平方向に効率よく熱を伝播することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施の形態の融雪構造の断面図である。
図2図1に示す融雪構造の一部を拡大して示した部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、数値範囲を示す「~」の表記は、下限値と上限値を含む意味である。
【0014】
従来より、様々な融雪方法が知られている。例えば、床暖房のような熱源を屋根全体に設置し、雪を解かす工法、軒先に熱源を設置し屋根に積もった雪を解かす工法、屋根に塗装し、親水性活性剤の働きで、雪が自然に滑りやすくする滑雪塗膜工法などである。
【0015】
しかしながら、従来の方法では、融雪効果が十分でなく、降雪量などによって雪下ろしを必要とし、あるいは安全性に問題があるなど、簡単な構造で、十分な融雪効果を有し且つ安全性に優れた融雪構造には至っていない。
【0016】
本発明者らは、屋根に配置される融雪構造に関して、鋭意研究を重ねた結果、塗料及び積層構造を改良し、これにより、施工を容易化でき、屋根に対して水平方向に効率よく熱を伝播することができ、融雪効果を高めた耐雪構造を開発するに至った。
【0017】
図1において、本実施の形態における融雪構造1の断面構造を示す。本実施の形態における融雪構造1は、屋根材2側から、伝熱プライマー層3/ヒーター5/撥水性を有する断熱層4の順に積層されている。なお、屋根材2は、特に限定されず、一般的に用いられる屋根材を使用することができる。例えば、スレート屋根材や、金属屋根材を用いることができる。
【0018】
<伝熱プライマー層3>
本実施の形態において、伝熱プライマー層3は、屋根材2の表面に塗布して形成される。「伝熱プライマー」とは、熱伝導性を有する下塗り材である。本実施の形態では、図2に示すように、樹脂層3a中にフレーク状のアルミ粉3bが大量に混ざっている。「フレーク状」とは、板状や鱗片状等の平板状の形状を包含し、アスペクト比を限定するものではないが、概ね2~50程度である。「大量(多数)」とは、重量比で50%以上を指す。このように、大量のアルミ粉3bを含有することで、伝熱プライマー層3の熱伝導性を向上させることができ、ヒーター5の熱を迅速に広範囲に伝播させることが可能になる。また、図2に示すように、多くのアルミ粉3bが屋根材2の表面と平行な水平方向に配向していることが、ヒーター5の熱をより迅速に水平方向に伝播させることができ好適である。
【0019】
本実施の形態の伝熱プライマー層3の膜厚は、限定するものではないが、平均膜厚は、0.5~2.0mm程度である。「平均膜厚」は、例えば、塗膜断面を走査型電子顕微鏡で観察し、壁面からの法線方向の厚みの平均値で表すことができる。測定箇所はランダムに選んだ複数点(5点以上が好ましい)の膜厚を測定し、平均化する。
【0020】
本実施の形態では、市販されている全てのフレーク状アルミ粉を使用することができる。また、塗布液を調整する際、フレーク状アルミ粉を主成分とするアルミペーストを用いることが好ましい。例えば、アルペースト(登録商標)1109MF(東洋アルミ(株)製)を使用することが好ましい。
【0021】
本実施の形態では、伝熱プライマー層中のフレーク状アルミ粉3bは、伝熱プライマー層3の全重量に対して、50質量%以上70質量%以下の範囲で含まれることが好ましく、より好ましくは、60質量%以上65質量%以下であり、更に好ましくは、63~64重量%の範囲で含まれることが好ましい。残りが樹脂層3aの重量比である。
【0022】
本実施の形態の伝熱プライマー層3を構成する樹脂層3aは、アクリル樹脂及びエポキシ樹脂のうち少なくともいずれか1種から選択されることが好ましい。本実施の形態では、特に、エポキシ樹脂を選択することが好ましい。
【0023】
伝熱プライマー層3は、フレーク状のアルミ粉を主成分とするアルミペーストと、アクリル樹脂あるいはエポキシ樹脂とを混合して調製した塗料を屋根材2の表面に塗布することで得ることができる。このように、製造工程は混合するだけで簡単に調製することができる。
【0024】
なお、塗布液を、屋根材2の表面に塗布した後の乾燥工程については、自然乾燥であっても加熱乾燥であってもよい。
【0025】
<ヒーター>
本実施の形態におけるヒーター5は、伝熱プライマー層3の表面に配置される。ヒーター5は電源ケーブル6によって、図示しない電源と接続している。ヒーター5の種類を限定するものではないが、例えば、市販の防水性を備えた帯状の電気ヒーターを用いることができる。また、降雪時と平時でスイッチのON/OFFを自動的に切り替える自動制御されたヒーターを用いてもよい。例えば、図示しないセンサにより降雪を感知したときに、自動的にヒーター5のスイッチがオンとなるように制御することが可能である。ヒーター5は、伝熱プライマー層3の表面の面性よりも小さい。このように、ヒーター5の面積が小さくても、次に説明する断熱層4を含めた融雪構造1により、屋根材2の表面と水平方向への熱の伝播を効率よく行うことができ、融雪効果を高めることができる。また、小型のヒーター5の使用を可能とするため、コストダウンを図ることも可能である。なおヒーター5は、複数用いることもできる。このとき、用いるヒーター5の種類は同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0026】
<断熱層4>
本実施の形態における断熱層4は、図1に示すように、ヒーター5の全表面を覆っている。また、断熱層4は、ヒーター5が配置されていない位置では伝熱プライマー層3の表面にも重ねて形成されている。したがって、融雪構造1の表面は、断熱層4の表面であり、ヒーター5及び伝熱プライマー層3が露出していないことが好ましい。
【0027】
本実施の形態における断熱層4は、樹脂層4a中に、複数の中空ガラスビーズ4bを含むことが好ましい。このように、断熱層4に、中空ガラスビーズ4bを含むことで、断熱層4中に空気を含み、ヒーター5の熱を無駄に大気中に放散させず、熱を水平方向(屋根材2の表面と平行な方向)に伝えることができる。これにより屋根全体を効率よく温めることができ、融雪効果を高めることができる。
【0028】
本実施の形態の断熱層4の厚みは、限定するものではないが、平均層厚は、0.5~2.0mm程度である。平均層厚は、例えば、塗膜断面を走査型電子顕微鏡で観察し、壁面からの法線方向の厚みの平均値で表すことができる。測定箇所はランダムに選んだ複数点(5点以上が好ましい)の膜厚を測定し、平均化する。
【0029】
断熱層4の厚みは、伝熱プライマー層3よりも厚いことが好ましい。断熱層4は、厚塗りすることで、熱を水平方向により効果的に伝えることができ、融雪効果をより高めることができる。また、伝熱プライマー層3に含まれているのはフレーク状のアルミ粉3bであるため、大量のアルミ粉3bは屋根材2の表面と平行な水平方向へ配向しやすく、伝熱プライマー層3を薄く形成することができる。一方、断熱層4に含まれるのは中空ガラスビーズ4bであり、厚塗りすることで、中空ガラスビーズ4bを樹脂層4aに適切に保持することができる。また、断熱層4を厚くすることで、水分が断熱層4を介してヒーター5にまで至る不具合を抑制することができる。
【0030】
なお、本実施の形態の断熱層の表面は平滑で、美しい外観であることが、後述する実験により証明されている。
【0031】
中空ガラスビーズ4bについて説明する。「中空ガラスビーズ4b」とは、内部に空気層4cを含んだ微細なガラス球体であり、断熱特性などを付与するフィラー材として用いられる。本実施の形態では、市販されている全ての中空ガラスビーズを使用することができる。例えば、Q-CEL5020(ポッターズバロティーニ製)を使用することができる。中空ガラスビーズ4bは球状、或いは球体に近い形状(例えば楕円体)であるが、球状であることが施工性や、断熱層4の美的外観にも優れるので好ましい。
【0032】
本実施の形態では、断熱層4中の中空ガラスビーズ4bは、断熱層の全重量に対して10質量%以上30質量%以下の範囲で含まれることが好ましく、より好ましくは、20質量%以上26質量%以下であり、更に好ましくは、25~24重量%の範囲で含まれることが好ましいである。残りが樹脂層4aの重量比である。
【0033】
図2に示すように、中空ガラスビーズ4bの一部は、断熱層4の表面に露出しており、断熱層4の表面に高い撥水性を付与することができる。一般的に、降雨や降雪の水分が屋根の表層から浸潤すると、浸潤した水分により、断熱性能が低下し、屋根材2と水平方向への熱の伝播が妨げられる。これに対し、本実施の形態では、断熱層4の表面は高撥水性である。これにより、例えば、冬季の降雪による水分の浸潤を抑制することができ、融雪構造1の優れた断熱性能を維持することができ、断熱層4内での熱の伝播を効率よく行うことが可能となる。
【0034】
また、断熱層4に中空ガラスビーズ4bを含むことで、断熱塗料を塗布する際、高い流動性を維持することができる。すなわち、通常の不規則形状の断熱塗料用骨材は少量の配合でもすぐに流動性が低下してしまう。このため、施工作業の効率を著しく低下させてしまう。これに対し、本実施の形態で用いる中空ガラスビーズ4bの形状は球体或いは球体に近いため、ニュートン流体に近い流動性を得ることができる。したがって、中空ガラスビーズを骨材にして断熱塗料を調整することで、中空ガラスビーズ4bを高い配合比率で含有しても、高い流動性を維持することができ、容易に施工することが可能となる。また、本実施の形態では、スプレー施工なども可能であり、平滑面を形成しやすい。これにより、屋根の美観を良好に仕上げることが可能である。
【0035】
本実施の形態の断熱層4を構成する樹脂層4aの材質を限定するものではないが、例えば、アクリル樹脂、スチレン・アクリル樹脂、酢酸ビニル、及び、酢酸ビニル-スチレンのうち少なくともいずれか1種から選択されることが好ましい。本実施の形態では、特に、アクリル樹脂を選択することが好適である。これにより、断熱層4の耐水性を効果的に向上させることができ、また厚膜形成を容易にでき、塗膜の優れた耐候性を得ることできる。
【0036】
また、本実施の形態の断熱層4を構成する樹脂層4aは、断熱塗料の調整の際、樹脂エマルジョンを用いるのが好ましい。「樹脂エマルジョン」とは、樹脂を含有するエマルジョンを意味し、アクリル樹脂エマルジョン、スチレン・アクリル樹脂エマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、及び、酢酸ビニル-スチレンエマルジョンのうち少なくともいずれか1種から選択されることが好ましい。本実施の形態では、特に、アクリル樹脂エマルジョンを選択することが好適である。上述の中空ガラスビーズとアクリル樹脂エマルジョンとは親和性が高く、均一に混合することができる。また、アクリル樹脂エマルジョンは、水性アクリル樹脂エマルジョンであることが好ましく、例えば、ボンコート(登録商標)CE8510(DIC社製)を用いることができる。
【0037】
断熱層4を形成するための断熱塗料について説明する。断熱塗料に関しては、上記に記載したように、例えば、アクリル樹脂エマルジョンに中空ガラスビーズを加えて混合することで得ることができる。
【0038】
断熱塗料の粘度を、限定するものではないが、25℃における粘度を2000cP程度に調整することが好ましい。これにより、良好な施工作業性を得ることができるとともに、塗布した後、適度な平滑性を得ることができ、良好な美観を有する塗布面を得ることができる。
【0039】
なお、断熱塗料を、壁面に塗布した後の乾燥工程については、自然乾燥であっても加熱乾燥であってもよい。
【0040】
以上、詳述したように、本実施の形態の融雪構造1は、屋根材2側から、伝熱プライマー層3/ヒーター5/撥水性を有する断熱層4の順に積層された構造であり、これにより、施工を容易化でき、屋根に対して水平方向に効率よく熱を伝播することができ、融雪効果を高めることができる。これにより、雪下ろし作業を軽減することができる。またヒーター5の表面は高撥水の断熱層4により保護されており、水分の浸透を抑制でき安全性にも優れる。また、別の効果としては、屋根が断熱層4で覆われることで、夏季の日差しによる室内温度の上昇を抑制することもできる。
【0041】
本実施の形態の融雪構造1は、少なくとも、屋根材2側に配置されるヒーター5と、ヒーター5の表面に設けられる撥水性を有する断熱層4と、を有する積層構造であってもよい。ただし、伝熱プライマー層3を、屋根材2とヒーター5の間に介在させることで(すなわち3層構造とすることで)、屋根材2の表面と平行な水平方向への熱の伝達をより促進でき、より優れた融雪効果を得ることができる。
【実施例0042】
以下、本発明の実施例及び比較例により本発明の効果を説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0043】
<断熱塗料の施工性の評価>
以下に示すように、本発明の実施例及び比較例として、特に、異なる断熱塗料を用いて、その施工性を評価した。
【0044】
[実施例1]
水性アクリル樹脂エマルジョン「ボンコートCE8510(DIC社製)」85質量部に、中空ガラスビーズ「Q―CEL5020(ポッターズバロティーニ(株)製品)15重量部を加えて、均一になるまでよく攪拌して、実施例の断熱塗料を得た。ボンコートCE8510の不揮発分は55質量%であるから、この断熱塗料に占める不揮発分は、61.75質量%であることがわかった。これにより、中空ガラスビーズは、15/61.75により、不揮発成分中、約24質量%であった。すなわち、中空ガラスビーズは、断熱層中に、約24質量%含まれることになる。また、塗膜比重は、およそ0.7(g/cm)であり、厚み2mmの乾燥塗膜を得るためには、2000×0.7÷0.6175=2267(g/m)の塗布量が必要であった。調整した断熱塗料の粘度は、2000cP前後であり、良好な施工性を得ることができた。調整した断熱塗料を、鎖骨ローラーによる配り塗りで基材上に塗布し、乾燥後の塗布面を調べたところ、十分な平滑性を有し、良好な美観を得ることができた。
【0045】
[比較例1]
実施例1で用いた中空ガラスビーズの替わりに、微粉末炭酸カルシウム「KS#1000(林化成(株)製品)」を用い、その他は、実施例1と同じとして断熱塗料を調整した。しかしながら、調整した断熱塗料は粘度が高すぎるため、施工性が悪く、鎖骨ローラーによる配り塗りでは平滑な塗布面の形成が不可能であった。
【0046】
以上の結果から、断熱塗料に、中空ガラスビーズを混合することで、良好な施工性を得ることができ、十分な平滑性と、良好な美観を有する断熱層の塗布面を得ることができるとわかった。
【0047】
<融雪試験:実験室内>
次に、以下の実施例及び比較例としての融雪構造を用いて、室内での融雪試験を行った。
【0048】
[実施例2]
(伝熱プライマー塗料の調整)
屋根材の表面に塗布する伝熱プライマー塗料を調整した。すなわち、エポキシ樹脂のキシレン溶液「JER1001X70(三菱ケミカル(株)製品)」25重量部に、キシレン25重量部を加えて希釈し、そこへフレーク状の金属アルミ粉ペーストである「アルペースト1109MF(東洋アルミ(株)製品)」50重量部を加えて、均一になるまで攪拌して伝熱プライマー塗料を調製した。アルペースト1109MFの不揮発分を実測すると62質量%であったことから、この塗料は、不揮発分換算でエポキシ樹脂17.5重量部、アルミフレーク31重量部よりなる、全不揮発分48.5質量%の塗料であることがわかった。したがって、アルミフレークの顔料質量濃度PWCは、31/48.5により、不揮発成分中、63.9%であることがわかった。すなわち、アルミフレークは、伝熱プライマー層中、63.9質量%程度含まれる。そして、調整した伝熱プライマー塗料を塗布し、乾燥させることで塗膜を得た。
【0049】
実施例2では、スレート屋根の表面に、上記の伝熱プライマー塗料を塗布して伝熱プライマー層を得た。そして、伝熱プライマー層の表面に電気ヒーターを設置し、更に、実施例1で用いた断熱塗料を用いて断熱層を得た。
[実施例3]
金属屋根材の表面に、電気ヒーターを配置して、さらに、実施例1の断熱塗料を塗布して断熱層を形成した。
【0050】
[比較例2]
スレート屋根材の表面に、電気ヒーターを配置して、さらに市販の厚塗り塗料を塗布した。
【0051】
[比較例3]
金属屋根材の表面に、電気ヒーターを配置して、さらに市販の厚塗り塗料を塗布した。
【0052】
(試験方法)
埼玉県産業技術総合センター(SAITEC)の気象再現室において、室内温度を-15℃に設定して、実施例及び比較例の各融雪構造の表面に人工雪を降らせた。実施例及び比較例の各電気ヒーターをオンにして、実施例及び比較例の屋根構造の表面温度を計測し、融雪性能を評価した。
【0053】
その結果、実施例2、3では、比較例2、3に比較して、ヒーターの熱を、効率よく屋根横方向に伝播することができ、融雪性能が高いことがわかった。また、伝熱プライマー層を有する実施例2のほうが、伝熱プライマー層を有さない実施例3に比べて、より効率的に屋根横方向への伝搬が可能であるとわかった。
【0054】
<融雪試験:屋外>
次に、以下の実施例及び比較例としての融雪構造を用いて、屋外での融雪試験を行った。
【0055】
[実施例4]
実施例2と同様の構成とした。
【0056】
[実施例5]
スレート屋根材の表面に、実施例4に比べて、伝熱プライマー層が厚くなるように、伝熱プライマー塗料を塗布して、厚塗りの伝熱プライマー層を形成した。それ以外は、実施例4と同様とした。
【0057】
[比較例4]
スレート屋根材の表面に、電気ヒーターを配置したのみとした。
【0058】
(試験方法)
上記の実施例及び比較例の各融雪構造を、降雪天候下で屋外曝露した。実施例及び比較例の各電気ヒーターをオンにして、実施例及び比較例の屋根構造の表面温度を計測し、融雪性能を評価した。
【0059】
上記試験の結果、実施例では、比較例と比較してヒーターの熱が屋根横方向に効率よく伝播することがわかった。また、屋外曝露条件の結果では、ヒーターの過熱抑制効果も確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の屋根の融雪構造によれば、施工が容易であり、屋根に対して水平方向に効率よく熱を伝播することができ、融雪効果を高めることができる。この結果、降雪地域では、雪下ろしの軽減を図ることができ、更には、冬季の部屋の保温効果や、夏の日差しを防ぐ効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 :融雪構造
2 :屋根材
3 :伝熱プライマー層
3a :樹脂層
3b :アルミ粉
4 :断熱層
4a :樹脂層
4b :中空ガラスビーズ
4c :空気層
5 :ヒーター
6 :電源ケーブル
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2021-06-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根に配置される融雪構造であって、
屋根材側に配置されるヒーターと、
前記ヒーターの表面に設けられる撥水性を有する断熱層と、
前記屋根材と前記ヒーターの間に介在する、伝熱プライマー層と、を有することを特徴とする屋根の融雪構造。
【請求項2】
前記伝熱プライマー層は、樹脂層中に多数含有されたフレーク状のアルミ粉を含むことを特徴とする請求項に記載の屋根の融雪構造。
【請求項3】
前記断熱層は、樹脂層中に分散された複数の中空ガラスビーズを含むことを特徴とする請求項1または請求項に記載の屋根の融雪構造。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明の屋根の融雪構造は、屋根に配置される融雪構造であって、屋根材側に配置されるヒーターと、前記ヒーターの表面に設けられている撥水性を有する断熱層と、前記屋根材と前記ヒーターの間に介在する、伝熱プライマー層と、を有することを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】削除
【補正の内容】