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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021277
(43)【公開日】2022-02-02
(54)【発明の名称】ガイドワイヤーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/09 20060101AFI20220126BHJP
【FI】
A61M25/09 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020136850
(22)【出願日】2020-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】520306233
【氏名又は名称】山内 清
(72)【発明者】
【氏名】山内 清
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267BB02
4C267BB12
4C267BB13
4C267BB26
4C267BB40
4C267CC07
4C267FF03
4C267GG03
4C267GG05
4C267HH06
4C267HH30
(57)【要約】
【課題】 Ti-Ni合金の先端部材と異種金属の基部を接合した構成のカテーテル用ガイドワイヤーにおける接合界面を、溶接などの加熱手段を用いることなく形成してなるガイドワイヤーと、その製造方法を提供する
【解決手段】 先端部材として、Ti-Ni合金からなるチューブを用い、基部材として、片側にテーパーを設けたピアノ線などの材料を用い、基部材のテーパーを有する側に、先端部材のチューブを挿入し、スエージング加工を施して縮径して組込み部材とし、500℃超弾性処理した後、氷点下までの冷却することで、基部材と先端部材との嵌合に、膨張収縮効果による緩みを生じさせ、さらに先端部材を基部材のテーパー部の拡径側にスライドして密着させる。その後の室温放置に伴って、両部材はTi-Niチューブの形状回復収縮とピアノ線の熱膨張によって、その組込みを一層強固にできる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti-Ni系合金材料からなるチューブ状の先端部と、前記先端部を構成する材料を除くバネ材料からなる基部を有するガイドワイヤーであって、前記先端部の内腔の少なくとも一部に、前記基部の端部が挿入され、前記先端部と前記基部の端部の少なくとも一部が密着されてなることを特徴とするガイドワイヤー。
【請求項2】
前記先端部の前記基部が挿入されない他の端部が、細径化されたテーパー形状をなしていることを特徴とする請求項1に記載のガイドワイヤー。
【請求項3】
前記先端部の前記基部が挿入されていない他の端部に、一端が細径化されたテーパー形状をなしており、他端に径大部を有するTi-Ni系合金材料からなる最先端部の前記径大部が挿入され、前記径大部と前記先端部の少なくとも一部が密着されてなることを特徴とする請求項1記載のガイドワイヤー。
【請求項4】
前記先端部は、Ti40at%以上60at%以下、残部NiであるTi-Ni合金、または前記Ti-Ni合金のNiもしくはTiの一部をCu、Fe、Cr、Al、V、Pd、Ag、Mn、Co、Nb、Hf、Zrの内の一種もしくは二種以上で置換したTi-Ni-X合金のいずれかを用いてなり、直線形状となる超弾性処理が施されてなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のガイドワイヤー。
【請求項5】
前記基部は、前記先端部を構成する材料を除くステンレス、Fe基合金、Ni基合金、Ti基合金、Cu基合金から選択されてなるバネ材料を用いてなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のガイドワイヤー。
【請求項6】
前記最先端部は、Ti40at%以上60at%以下、残部NiであるTi-Ni合金、または前記Ti-Ni合金のNiもしくはTiの一部をCu、Fe、Cr、Al、V、Pd、Ag、Mn、Co、Nb、Hf、Zrの内の一種もしくは二種以上で置換したTi-Ni-X合金のいずれかを用いてなり、直線形状となる超弾性処理が施されてなることを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載のガイドワイヤー。
【請求項7】
Ti-Ni系合金材料からなるチューブ状の先端部の端部に、前記先端部を構成する材料を除くバネ材料からなり、少なくとも直線部とテーパー加工部を有する基部の前記テーパー加工部の少なくとも一部を挿入して挿入部位を形成する工程と、前記挿入部位を少なくとも前記直線部の外径と等しくなるまで縮径する工程と、前記先端部を300℃以上500℃以下で熱処理することによって、前記先端部に超弾性特性を付与するとともに前記先端部に挿入された前記テーパー加工部を拡径する工程と、前記挿入部位を氷点下に冷却して少なくとも前記テーパー加工部を縮径した状態で前記テーパー加工部の全部を前記先端部に挿入する工程と、室温で前記先端部と前記テーパー加工部とを密着嵌合させる工程を順次行うことを特徴とするガイドワイヤーの製造方法。
【請求項8】
前記先端部の、前記基部が挿入されない他の端部を細径化し、テーパー形状とする工程を、前述の前記先端部を300℃以上500℃以下で熱処理する工程以前で行うことを特徴とする請求項7記載のガイドワイヤーの製造方法。
【請求項9】
Ti-Ni系合金材料からなるチューブの先端部の端部に前記先端部を構成する材料を除くバネ材料からなり、少なくとも直線部とテーパー加工部を有する基部の前記テーパー加工部の少なくとも一部を挿入し、前記先端部の他の端部にTi-Ni系合金材料からなり一端が細径化されテーパー形状をなしている最先端部の径大部を挿入して挿入部位を形成する工程と、前記挿入部位を少なくとも前記直線部の外径と等しくなるまでに縮径する工程と、前記先端部を300℃以上500℃以下で熱処理することによって、前記先端部に超弾性特性を付与するとともに前記先端部に挿入された前記テーパー加工部および前記最先端部の径大部を拡径する工程と、前記挿入部位を氷点下に冷却して少なくとも前記テーパー加工部を縮径した状態で前記テーパー加工部の全部を前記先端部に挿入するとともに、前記最先端部の径大部の全部を前記先端部に挿入する工程と、室温で前記先端部と前記テーパー加工部および前記先端部と前記最先端部の径大部を密着嵌合させる工程とを順次行うことを特徴とするガイドワイヤーの製造方法。
【請求項10】
前記先端部は、Ti40at%以上60at%以下、残部NiであるTi-Ni合金、または前記Ti-Ni合金のNiもしくはTiの一部をCu、Fe、Cr、Al、V、Pd、Ag、Mn、Co、Nb、Hf,Zrの内の一種もしくは二種以上で置換したTiNi―X合金のいずれかを用いてなり、直線形状となる超弾性処理が施されてなることを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載のガイドワイヤーの製造方法。
【請求項11】
前記基部は、前記先端部を構成する材料を除くステンレス、Fe基合金、Ni基合金、Ti基合金、Cu基合金から選択されてなるバネ材料を用いてなることを特徴とする請求項7ないし10のいずれかに記載のガイドワイヤーの製造方法。
【請求項12】
前記最先端部は、Ti40at%以上60at%以下、残部NiであるTi-Ni合金、または前記Ti-Ni合金のNiもしくはTiの一部をCu、Fe、Cr、Al、V、Pd、Ag、Mn、Co、Nb、Hf,Zrの内の一種もしくは二種以上で置換したTi-Ni―X合金のいずれかを用いてなり、直線形状となる超弾性処理が施されてなることを特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載のガイドワイヤーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカテーテルガイドワイヤーに関するもので、特に形状記憶特性や超弾性特性を有するTi-Ni系合金部材と異種金属部材もしくは異種合金部材とを接合した構造のガイドワイヤー及びその製造方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
Ti-Ni合金は外力による変形がその解放と同時に元の形状に回復する超弾性と加熱することで回復する形状記憶効果を示す。この場合、前者は形状回復温度より高い温度のオーステナイト相(高温相)で利用する場合に起き、後者は低温のマルテンサイト相(低温相)の場合に起きる。
【0003】
医療の分野では、前述の効果に基づいて超弾性を発現するTi-Ni系合金が血管内治療用カテーテルデバイスの基幹部材として使用されている。カテーテルはシリコーン、ポリウレタン、フッ素樹脂などから構成される柔らかい管で、消化管や尿管、血管などに挿入し、体液の排出、薬液や造影剤などの注入に用いられる。
【0004】
血管内治療は血管に導入されたカテーテルを経由して疾患の診断や治療を行うもので、例えば、動脈硬化などの原因で生じた狭窄血管を拡張したり、動脈瘤への血流を止めたりするものである。その際、ガイドワイヤーはカテーテルの先導役として疾患部位に真っ先に送られる。
【0005】
心疾患の場合、ガイドワイヤーは1.8mに及ぶ血管の中を多くの分岐血管を選択しながら目的部位に挿入される。その機能は、先端部の屈曲した血管を自在に通過できるしなやかさと血管を傷付けない柔軟性、及び基部の手元操作を先端部に伝える高剛性バネ特性を有することが必要となる。
【0006】
TiーNi系合金超弾性ガイドワイヤーは、基部の剛性に若干の不満は残るものの先端部の復元性としなやかさでは他の金属の置き換えを許さないものであり、今日では疾患部の診断・治療に広く使われている。
【0007】
このような特性を発現するデバイスとして、特許文献1には超弾性金属ワイヤーを芯材としたガイドワイヤーにおいて、本体側内芯部の断面積を比較的大とし先端側内芯部の断面積を比較的小とすることによって、本体側内芯部を有してなる本体部を比較的剛性の高いものとし、先端側内芯部を有してなる先端部を比較的柔軟なものとすることが開示されている。
【0008】
また、特許文献2には熱弾性型マルテンサイト変態を示すTi-Ni合金からなる芯線を外周部材でコーティングすることにより、ひずみ特性を改善した繰り返し使用可能なカテーテル用ガイドワイヤーが開示されている。
【0009】
一方で先端部の柔軟性と基部の剛性を改善するために、先端部をTi-Ni系合金超弾性材とし基部をステンレス鋼などのバネ材とした組み込み技術、即ち異種金属の突合せ部を溶着、圧接する技術が開示されている。
【0010】
そのような事例として、特許文献3にはTi-Ni系合金と異種金属とを加熱と加圧により接合する技術、また特許文献4にはチタンを含まない合金から作られたガイドワイヤー芯線を対象として、溶接継ぎ手、ロウ付け継ぎ手、または接着継ぎ手のうち、一つ以上によって相互に接合する技術が示されている。詳しくは、前記文献3にTi-Ni系合金部材と異種金属部材とを接合するにあたり、両部材の被接合面を互いに接触させ、その接合部を局部的に反応溶融し、その溶融部に接する部分の両部材を高温軟化せしめ、同時に接合部を高圧力で圧縮加工することにより接合界面に熱間鍛造組織を形成させる技術が示されている。
【0011】
一般に異種金属の接合は、電極に電流を流した状態で被接合体と接触し引き離す時に起こるアーク放電で接触界面を溶融して押し付ける手法である。しかし、Ti-Ni系合金では合金中のTiは酸素との親和力が強く、界面融解と同時に酸化被膜を生じるため、接合境界は酸化物に阻まれて所要の接合強度を得ることが困難である。このため、Tiフレームメガネでは、テンプルやリムなどの組込みをそれぞれに機械的にカシメたステンレスパイプ同士の溶接が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭60-007862号公報
【特許文献2】特開昭61-106173号公報
【特許文献3】特開平05-185251号公報
【特許文献4】特表2015-511833公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、特性の異なる材料、即ちTi-Ni系合金の先端部と前記先端部を構成する材料を除くバネ材料からなる基部を接合する構成のガイドワイヤーにおいて、その接合界面を溶接などの手段を用いることなく形成してなるガイドワイヤー、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の課題解決に向け、本発明者はTi-Ni系合金からなる先端部と前記先端部を構成する材料を除くバネ材料からなる基部との組み込み検討の結果、以下の成果を得るに及んだ。即ち、前記先端部はチューブ状とすることでガイドワイヤー外径を太くすることなくテーパー加工した前記基部をその内腔に挿入することができる。更に、室温から氷点下への冷却によって、前記先端部のTi-Ni系合金特性は高温相の超弾性から低温相の外力で変形容易な形状記憶となるが、一方の前記基部のバネ材(例えばピアノ線)特性は温度変化に依存せず室温の剛性を残しており、その挿入界面は前記先端部の内腔奥へと進行させることができる。その後、室温に戻すことで、該チューブ状前記先端部は形状記憶効果(形状回復)と超弾性によってその組み込み締め付け力を高めることができる。
【0015】
本発明によれば、Ti-Ni系合金材料からなるチューブ状の先端部と、前記先端部を構成する材料を除くバネ材料からなる基部を有するガイドワイヤーであって、前記先端部の内腔の少なくとも一部に前記基部の端部が挿入され、前記先端部と前記基部の端部の少なくとも一部が密着されてなるガイドワイヤーが得られる。
【0016】
本発明によれば、前記先端部の前記基部が挿入されない他の端部が、細径化されたテーパー形状をなしているガイドワイヤーが得られる。
【0017】
本発明によれば、前記先端部の前記基部が挿入されていない他の端部に、一端が細径化されたテーパー形状をなしており、他端に径大部を有するTi-Ni系合金材料からなる最先端部の前記径大部が挿入され、前記径大部と前記先端部の少なくとも一部が密着されてなるガイドワイヤーが得られる。
【0018】
本発明によれば、前記先端部は、Ti40at%以上60at%以下、残部NiであるTi-Ni合金、または前記Ti-Ni合金のNiもしくはTiの一部をCu、Fe、Cr、Al、V、Pd、Ag、Mn、Co、Nb、Hf、Zrの内の一種もしくは二種以上で置換したTi-Ni-X合金のいずれかを用いてなり、直線形状となる超弾性処理が施されてなるガイドワイヤーが得られる。
【0019】
本発明によれば、前記基部は、前記先端部を構成する材料を除くステンレス、Fe基合金、Ni基合金、Ti基合金、Cu基合金から選択されてなるバネ材料を用いてなるガイドワイヤーが得られる。
【0020】
本発明によれば、前記最先端部は、Ti40at%以上60at%以下、残部NiであるTi-Ni合金、または前記Ti-Ni合金のNiもしくはTiの一部をCu、Fe、Cr、Al、V、Pd、Ag、Mn、Co、Nb、Hf、Zrの内の一種もしくは二種以上で置換したTi-Ni-X合金のいずれかを用いてなり、直線形状となる超弾性処理が施されてなるガイドワイヤーが得られる。
【0021】
本発明によれば、Ti-Ni系合金材料からなるチューブ状の先端部の端部に、前記先端部を構成する材料を除くバネ材料からなり、少なくとも直線部とテーパー加工部を有する基部の前記テーパー加工部の少なくとも一部を挿入して挿入部位を形成する工程と、前記挿入部位を少なくとも前記直線部の外径と等しくなるまで縮径する工程と、前記先端部を300℃以上500℃以下で熱処理することによって、前記先端部に超弾性特性を付与するとともに前記先端部に挿入された前記テーパー加工部を拡径する工程と、前記挿入部位を氷点下に冷却して少なくとも前記テーパー加工部を縮径した状態で前記テーパー加工部の全部を前記先端部に挿入する工程と、室温で前記先端部と前記テーパー加工部とを密着嵌合させる工程を順次行うガイドワイヤーの製造方法が得られる。
【0022】
本発明によれば、前記先端部の、前記基部が挿入されない他の端部を細径化し、テーパー形状とする工程を、前述の前記先端部を300℃以上500℃以下で熱処理する工程以前のどこかで行うガイドワイヤーの製造方法が得られる。
【0023】
本発明によれば、Ti-Ni系合金材料からなるチューブの先端部の端部に前記先端部を構成する材料を除くバネ材料からなり、少なくとも直線部とテーパー加工部を有する基部の前記テーパー加工部の少なくとも一部を挿入し、前記先端部の他の端部にTi-Ni系合金材料からなり一端が細径化されたテーパー形状をなしている最先端部の径大部を挿入して挿入部位を形成する工程と、前記挿入部位を少なくとも前記直線部の外径と等しくなるまでに縮径する工程と、前記先端部を300℃以上500℃以下で熱処理することによって、前記先端部に超弾性特性を付与するとともに前記先端部に挿入された基部の前記テーパー加工部および前記最先端部の径大部を拡径する工程と、前記挿入部位を氷点下に冷却して少なくとも前記テーパー加工部を縮径した状態で前記テーパー加工部の全部を前記先端部に挿入するとともに、前記最先端部の径大部の全部を前記先端部に挿入する工程と、室温で前記先端部と前記テーパー加工部および前記先端部と前記最先端部の径大部を密着嵌合させる工程とを順次行うガイドワイヤーの製造方法が得られる。
【0024】
本発明によれば、前記先端部は、Ti40at%以上60at%以下、残部NiであるTi-Ni合金、または前記Ti-Ni合金のNiもしくはTiの一部をCu、Fe、Cr、Al、V、Pd、Ag、Mn、Co、Nb、Hf,Zrの内の一種もしくは二種以上で置換したTiNi-X合金のいずれかを用いてなり、直線形状となる超弾性処理が施されてなるガイドワイヤーの製造方法が得られる。
【0025】
本発明によれば、前記基部は、前記先端部を構成する材料を除くステンレス、Fe基合金、Ni基合金、Ti基合金、Cu基合金から選択されてなるバネ材料を用いてなるガイドワイヤーの製造方法が得られる。
【0026】
本発明によれば、前記最先端部は、Ti40at%以上60at%以下、残部NiであるTi-Ni合金、または前記Ti-Ni合金のNiもしくはTiの一部をCu、Fe、Cr、Al、V、Pd、Ag、Mn、Co、Nb、Hf,Zrの内の一種もしくは二種以上で置換したTi-Ni-X合金のいずれかを用いてなり、直線形状となる超弾性処理が施されてなるガイドワイヤーの製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、バネ材料からなる基部と、Ti-Ni系合金材料からなる先端部の接続に際して、前記先端部をチューブ状とし、接合に際して形状記憶効果及び超弾性を発現させることにより、前記先端部と前記基部の接合に溶接などの処理を行わないことで、接合界面への酸化被膜形成がない信頼性の高いガイドワイヤーとその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係るガイドワイヤーの代表的な構成の一例を示す斜視図。図1(a)は先端部1、図1(b)は最先端部2、図1(c)は基部3を示す図。
図2】本発明に係るガイドワイヤーの実施例を示す図。図2(a)は先端部1と基部3の組み込み外観の斜視図、図2(b)は先端部1と基部3の組み込み状態を示す断面図、図2(c)は先端部1と基部3の組み込み部位をスエージング加工した状態を示し、先端部1の基部3に嵌合されていない側を細径化し、テーパー形状とした場合の断面図。
図3】本発明に係るガイドワイヤーの実施例を示し、組み込み加工における各工程の先端部1と基部3の接合部分を拡大した断面図。図3(a)は先端部1と基部3のテーパー加工部をスエージング加工後、超弾性処理によって全長真直とした状態、図3(b)は先端部1と基部3のテーパー加工部を氷点下に冷却した状態、図3(c)は先端部1と基部3のテーパー加工部を冷却状態でスライドし、基部3のテーパー加工部の全部を先端部1に挿入した後、室温放置した状態を示す。
図4】本発明に係るガイドワイヤーの他の実施例を示す断面図。図4(a)は先端部1に基部3および最先端部2を挿入し、組み込込んだ状態、図4(b)は組込み後に先端部1をスエージング加工した状態を示す。
図5】本発明の最先端部2としてTi-51at%Ni合金を500℃で処理したワイヤーを用いた場合の引っ張り試験結果を示すグラフ。
図6】本発明の基部3としてピアノ線を用いた場合の引張試験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明において、バネ材料からなる基部と、超弾性を有するTi-Ni系合金からなる先端部を以下の手順で密着嵌合、即ち組み込みを行う。
【0030】
例えば、先端部1は、予め700℃溶体化処理したTi-Ni系合金をチューブ状とし、内腔にピアノ線等からなるワイヤー状の基部3を容易に組み込むことができる程度の遊び(緩み)を持たせ、組み込み工程において、先端部1と基部3に隙間を持たせて突き合わせ、例えば、スエージング加工等により縮径した後、500℃形状記憶処理とする。なお、溶体化処理および形状記憶処理は、先端部1の材料組成に応じた任意の温度で行う。
【0031】
続いて、先端部1に基部3を組み込んだ部分を氷点下で冷却することにより、先端部1は低温相の変形容易な柔軟組織となり、先端部1の内腔は基部3のテーパー加工部の全部を先端部1に挿入する際のスライドに応じて拡張される。基部3のテーパー加工部の全部を先端部1に挿入した後、室温に放置することで、先端部1は形状回復の高温相となって収縮して組み込みを完了する。
【0032】
次に図を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【実施例0033】
図1(a)に示すように、ガイドワイヤーの先端部分となる先端部1はTi-51at%Ni合金を用い、合金バー材をガンドリルによって外径20mm×肉厚2.5mm×長さ200mmのくり抜き中空部材とした後、ロール圧延およびダイス引き伸線によって外径0.5mm×肉厚0.1mmのチューブ状とし、700℃溶体化処理後約100mm長さとした。
【0034】
図1(c)に示すように、基部3は高強度炭素鋼SW-Aの市販ピアノ線径0.3mmとして、一端にテーパー加工部を形成した。該テーパー加工の目的は先端部1との組み込みを容易とすることであり、その形状やテーパー角度は、図1(c)の形状に限定されるものではなく、必要に応じて任意に設定してよい。
【0035】
図2(b)に示すように、先端部1の一端に、直線部とテーパー加工部を有する基部3のテーパー加工部の一部を挿入し、挿入部位を形成した。なお、先端部1と基部3のテーパー加工部の端部4bとの間隙Lbを50mmとした。
【0036】
次に、径0.5mmの先端部1の径が基部3の直線部と同径の0.3mmとなるようにスエージング加工を施し、さらに先端部1の基部3を挿入していない他端から50mm程度を径0.1mm程度に細径化し、テーパー形状とした後、500℃超弾性処理を行い、全長真直とした。この状態を図2(c)および図3(a)に示す。この時、先端部1は、前記のスエージング加工径に対し500℃処理の加熱効果で1~2%形状回復した。続いて、先端部1と基部3のテーパー加工部をドライアイスで氷点下に冷却した。この冷却により先端部1と基部3との挿入部位はそれぞれの熱による膨張収縮効果によって緩みが生じ、図3(b)に示す状態となった。
【0037】
さらに、前述の冷却により柔軟な形状記憶組織とされた先端部1は、基部3のテーパー加工部の挿入に伴いその内腔を拡げ、先端部1と基部3のテーパー加工部の端部4bとの間隙Lbを0mmとした。続く、室温放置に伴い、先端部1の形状回復収縮と基部3の熱膨張によって、挿入部位は、図3(c)に示すように密着嵌合し、一層強固な組み込みとなった。なお、先端部1の基部3を挿入していない他端の細径化によるテーパー形状とする加工は、前記500℃超弾性処理の前であれば任意のタイミングで行ってもよい。
【0038】
図2(a)は、上述により作製した、本実施例に係るガイドワイヤーの先端部1とピアノ線からなる基部3の組み込み完了後の外観である。
【実施例0039】
実施例1と同様に、先端部1はTi-51at%Ni合金を用い、合金バー材をガンドリルによって外径20mm×肉厚2.5mm×長さ200mmのくり抜き中空部材とした後、ロール圧延およびダイス引き伸線によって外径0.5mm×肉厚0.1mmのチューブとし、700℃溶体化処理後約100mm長さとした。
【0040】
また、実施例1と同様に、基部3は高強度炭素鋼SW-Aの市販ピアノ線径0.3mmとして、一端にテーパー加工部を形成した。該テーパー加工の目的は先端部2との組み込みを容易とすることであり、その形状やテーパー角度は、図1(c)の形状に限定されるものではなく、必要に応じて任意に設定してよい。
【0041】
最先端部2は、先端部1と同様の合金バー材を熱間ロールおよび伸線・焼鈍の繰り返しによって径0.3mm、および一端から50mm程度を径0.1mm程度に細径化したテーパー形状とし、先端部1に挿入する他端の径大部にテーパー加工部を形成した。なお、前述テーパー加工の目的は、径大部と先端部1との組み込みを容易とすることであり、その形状やテーパー角度は、図1(b)の形状に限定されるものではなく、必要に応じて任意に設定してよい。
【0042】
図4(a)に示すように、先端部1の一端に、直線部とテーパー加工部を有する基部3のテーパー加工部の一部を挿入し、先端部1の他端に、テーパー形状およびテーパー加工部を有する最先端部2のテーパー加工部の一部を挿入し、挿入部位を形成した。なお、先端部1と基部3のテーパー加工部の端部4bおよびの先端部1と最先端部2のテーパー加工部の端部4aとの間隙(Lb、La)をそれぞれ50mmとした。
【0043】
次に、径0.5mmの先端部1の径が少なくとも基部3の直線部と同径の0.3mmとなるよう、スエージング加工を施した。この状態を、図4(b)に示す。続いて、実施例1と同様に、500℃超弾性処理を行い、全長真直とした。この時、先端部1は、前記のスエージング加工径に対し500℃処理の加熱効果で1~2%形状回復した。続いて、先端部1と最先端部2のテーパー加工部および基部3のテーパー加工部をドライアイスで氷点下に冷却した。この冷却により先端部1と、最先端部2および基部3との挿入部位はそれぞれの熱による膨張収縮効果によって緩みが生じた。
【0044】
さらに、前述の冷却により柔軟な形状記憶組織とされた先端部1は、基部3のテーパー加工部の全部、および最先端部2の全部の挿入に伴いその内腔を拡げ、先端部1と基部3のテーパー加工部の端部4bおよび先端部1と最先端部2のテーパー加工部の端部4aとの間隙(Lb、La)をそれぞれ0mmとした。続く、室温放置に伴い、先端部1および最先端部2の形状回復収縮と基部3の熱膨張によって、挿入部位は、密着嵌合し、一層強固な組み込みとなった。
【実施例0045】
次に、異なる条件で組み込み製造したガイドワイヤーの試料と、用いた材料について引っ張り試験(組み込み完了後の引抜試験)を行った。試料No.1およびNo.2は、図2(b)の先端部1と基部3のテーパー加工部の端部4bとの間隙Lbを0mmおよび20mmとした実施例1に基づくもの、試料No.3は、実施例1で得たもの、試料No.4は、前述の間隙Lbを0mmとし、シリコーン樹脂系接着剤を注入した以外は、実施例1に基づくものである。
【0046】
また、試料No.5およびNo.6は、図4(a)の先端部1と最先端部2のテーパー加工部の端部4aとの間隙Laを20mmおよび50mmとし先端部1と基部3のテーパー加工端部4bとの間隙Lbを双方50mmとした実施例2に基づくもの、尚、試料No.6は実施例2で得たものである。試料No.7は、最先端部2に用いたTi-51at%Ni合金線、試料No.8は、基部3に用いたピアノ線である。
【0047】
表1にその結果を示す。また、図5に試料No.7のTi-51at%Ni合金500℃処理ワイヤーの引っ張り試験の結果を、図6に試料No.8のピアノ線の引っ張り試験の結果を示した。
【表1】
【0048】
表1の評価欄には、特許文献3に開示されている事項を参考にして引抜耐力が300N/mm以上のものを○、200N/mm以上のものを△、200N/mm未満のものを×として判定した結果を示した。
【0049】
試料No.1は、スエージング加工後の新しい突合せ面がなく、その後の処理で十分な耐力を付与することができなかったが、例えば、試料No.4のように、シリコーン樹脂系接着剤等の接着剤を注入することで十分な引抜耐力を付与することができた。また、間隙(LbおよびLa)=20mmの試料No.2およびNo.5の引抜耐力は200N/mm以上を示し、間隙(LbおよびLa)=50mmの試験片No.3およびNo.6の引抜耐力は300N/mm以上であった。
【0050】
以上により、本発明方法による組み込みを行ったガイドワイヤーは、チューブ状Ti-Ni合金先端部1への基部3および最先端部2の挿入組込みに当たり、先端部1と基部3および最先端部2のテーパー加工部の端部(4b、4a)との間隙(Lb、La)を長くすることで、その後の処理での先端部1の形状記憶効果によってその組み込み締め付け力を高めることができるといえる。本試験評価では前述の間隙(Lb、La)を実用上50mmで十分としたが、その長さはデバイスに用いる部材性状や構成などによって適宜選択することができる。
【0051】
実施例1では先端部1の処理を図2図3に示した手順に分けて示したが、図2(c)のスエージング加工と図3(c)の500℃超弾性処理は、例えば、材料準備段階で先端部1の内腔と基部3のテーパー加工部の形状とのクリアランスを調整することにより省略してもよい。
【0052】
この場合、先端部1をチューブ状に加工する際、700℃溶体化ではなく500℃超弾性処理が必要となる。
【0053】
本実施例において、先端部1および基部3の表面粗さは、メッシュ♯500以下としたが、例えばメッシュ♯100以下とすればその引き抜き強度はより高まるので、必要に応じて表面粗さを調整してもよい。
【0054】
本実施例では、先端部1および最先端部2に用いるTi-Ni系合金として、Ti-51at%Ni合金を用いたが、より加工性に優れるTi-50at%Ni合金を用いてもよく、Ti40at%以上60at%以下、残部NiであるTi-Ni合金、または前記Ti-Ni合金のNiもしくはTiの一部をCu、Fe、Cr、Al、V、Pd、Ag、Mn、Co、Nb、Hf,Zrの内の一種もしくは二種以上で置換したTi-Ni-X合金のいずれかであればよい。また、先端部1と最先端部2には異なるTi-Ni系合金を用いてもよい。
【0055】
例えば、先端部1または最先端部2のような、ガイドワイヤーの先端となる部分をTi-50at%Ni合金とすることで、ガイドワイヤー使用者が必要に応じて、先端となる部分に曲げクセを施す等、自在に変形することが容易な柔軟超弾性を持つガイドワイヤーを提供することができる。
【0056】
なお、例えばTi-51at%Ni合金は減面加工率30~40%毎の焼鈍繰り返しと、その後の500℃処理で室温超弾性にできる。一方、Ti-50at%Ni合金は通常の加工/処理では室温形状記憶であるが、加工率60%強加工とその後の300℃~400℃処理によって室温超弾性となる。
【0057】
本実施例において、Ti-51at%Ni合金材料のスエージング加工後の超弾性処理温度は500℃としたが1000℃以下であれば良く、好ましくはTi-50at%Ni合金を含め300℃ないし500℃であればよい。
【0058】
本実施例において、基部3はピアノ線を用いたが、先端部1を構成する材料を除くステンレス、Fe基合金、Ni基合金、Ti基合金、Cu基合金から選択されてなるバネ材料であれば、いずれを用いてもよい。
【0059】
以上説明したように、本発明によれば、チューブ状に加工したTi-Ni系合金が持つ形状記憶効果と超弾性機能を活用することで、異なる材料からなる基部と、ガイドワイヤーの先端となる部分の組み込みによる連結が容易になるとともに、突合せ部分の外径太りのないガイドワイヤーを提供することができる。
【0060】
また、本発明によれば、従来の接合界面溶融に伴い生成される酸化物等による、特性劣化要因を考慮した設計を必要としない。
【0061】
本発明は前記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1 先端部
2 最先端部
3 基部
4a 最先端部のテーパー加工の端部
4b 基部のテーパー加工部の端部
La 先端部と最先端部のテーパー加工部の端部4aとの間隙
Lb 先端部と基部のテーパー加工部の端部4bとの間隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6