(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021299
(43)【公開日】2022-02-02
(54)【発明の名称】血液凝固系解析装置、血液凝固系測定装置、血液凝固系測定システム、血液凝固系解析方法及び血液凝固系測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/02 20060101AFI20220126BHJP
G01N 33/86 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
G01N27/02 D
G01N33/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021073648
(22)【出願日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2020124431
(32)【優先日】2020-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) 「日本麻酔科学会第67回学術集会」の抄録 2020年4月28日公開 (2) 「日本麻酔科学会第67回学術集会」のプログラム 2020年6月4日公開
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】林 義人
(72)【発明者】
【氏名】内田 篤治郎
【テーマコード(参考)】
2G045
2G060
【Fターム(参考)】
2G045AA10
2G045AA13
2G045CA25
2G045FA34
2G045FB01
2G060AA07
2G060AE21
2G060AF03
2G060AF06
2G060AF08
2G060AF11
2G060AG03
2G060AG11
2G060AG15
2G060FA01
2G060FA10
2G060HA02
2G060HC10
2G060HE03
2G060KA07
(57)【要約】
【課題】薬効評価の対象となる薬剤がターゲットとする血液凝固因子に起因する血液凝固能を、高精度に評価し得る技術を提供すること。
【解決手段】Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、が添加された血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析部を備える血液凝固系解析装置を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、
が添加された血液試料について、
特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析部を備える血液凝固系解析装置。
【請求項2】
前記X因子活性化剤は、蛇毒由来のX因子活性化酵素である、請求項1に記載の血液凝固系解析装置。
【請求項3】
前記試薬の添加量を算出する試薬添加量算出部を備える、請求項1に記載の血液凝固系解析装置。
【請求項4】
前記試薬添加量算出部では、健常者の前記血液試料から得られた前記経時変化データに基づいて、前記試薬の添加量が算出される、請求項3に記載の血液凝固系解析装置。
【請求項5】
前記試薬添加量算出部では、前記健常者の前記血液試料から得られた前記経時変化データが所定の範囲となる前記試薬の添加量を1としたときに、前記試薬の添加量が0.5~2となるように算出される、請求項4に記載の血液凝固系解析装置。
【請求項6】
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する凝固因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析部を備える血液凝固系解析装置。
【請求項7】
前記解析部では、前記第2の経時変化データを、前記第1の経時変化データで補正することにより、前記試薬が作用する凝固因子より上流の凝固因子の影響を解析する、請求項6に記載の血液凝固系解析装置。
【請求項8】
抗凝固剤、および、該抗凝固剤が作用する凝固因子の前駆体を活性化させる試薬が添加された血液試料について、
特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記抗凝固剤の血液凝固系への影響を解析する解析部を備える血液凝固系解析装置。
【請求項9】
Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、
が添加された血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定部と、
測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析部と、
を備える血液凝固系測定装置。
【請求項10】
Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試
薬と、
が添加された血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定装置と、
測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析装置と、
を備える血液凝固系測定システム。
【請求項11】
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料と、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料と、について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定部と、
前記第1の血液試料から測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記第2の血液試料から測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する凝固因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析部と、
を備える血液凝固系測定装置。
【請求項12】
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料と、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料と、について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定装置と、
前記第1の血液試料から測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記第2の血液試料から測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する凝固因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析装置と、
を備える血液凝固系測定システム。
【請求項13】
Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、
が添加された血液試料について、
特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析工程を行う血液凝固系解析方法。
【請求項14】
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する凝固因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析工程を行う血液凝固系解析方法。
【請求項15】
Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、
が添加された血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定工程と、
測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析工程と、
を行う血液凝固系測定方法。
【請求項16】
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料と、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料と、について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定工程と、
前記第1の血液試料から測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記第2の血液試料から測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する凝固因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析工程と、
を行う血液凝固系測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、血液凝固系解析装置、血液凝固系測定装置、血液凝固系測定システム、血液凝固系解析方法及び血液凝固系測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOACs)の利用が増加している。DOACsは、ワルファリンと比べ、作用発現が早い、頭蓋内出血が少ない、食事の制限がない等の点から、ワルファリンの利用に代わる代替薬として、近年、使用が増えている。
【0003】
一方、高齢者や腎障害患者に対しては投与量の減量が必要であり、血中DOACs濃度の治療域を超えた上昇に注意が必要である。また、手術などの観血的な処置を行う際、予定手術においては休薬が必要となるが、薬効が残存した状態で、頭蓋内出血・消化管出血などの合併症や、外傷性出血が起こった場合には、出血そのものが重篤化し、緊急手術などにおいても止血が困難な状況となる場合がある。その場合は、新鮮凍結血漿の大量投与が必要となったり、あるいはオフラベルでの凝固因子製剤(プロトロンビン複合体製剤)の投与が必要な状況に発展する可能性がある。
【0004】
DOACsに対する中和薬が開発されている国もあるが、中和薬の使用に際しては、介入の適応を決める目的や、DOACsの薬効評価の目的で血液凝固能を評価することは不可欠であると考えられる。例えば、DOACsの中で、抗第X因子直接阻害薬であるエドキサバン、アピキサバン、リバロキサバンの通常処方量の1回内服後の最大血中濃度(Cmax)は、それぞれ、355ng/mL、176ng/mL、348ng/mLである。また、通常休薬期間で設定される期間の目安として、Rosencherらが提唱するように、血中消失半減期の2倍の時間を考慮した場合、出血性のリスクを回避する目安としては、それぞれ、Cmaxの25%に相当する89ng/mL、44ng/mL、87ng/mLをカットオフとすることが想定される。
【0005】
一般的な血液凝固検査としては、プロトロンビン時間国際標準化比(PT-INR)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)に代表される、血液凝固検査が知られている。これらの方法は、血液試料を遠心分離して得られる血漿中に含まれ、凝固反応に関与するタンパク質による凝固反応性を分析する方法である。
【0006】
これらの検査方法は、外因系凝固能及び内因系凝固能の機能検査を評価するために用いられる。これらの検査では、外因系凝固反応と内因系凝固反応とを惹起する物質を大過剰に添加し、短時間で検査結果が得られるようにしている。これらの検査は、血液試料を遠心分離して得られる血漿を用いて行われるが、生体内の血液凝固反応において重要な役割を果たす血小板や赤血球等の細胞成分が遠心分離により除去されてしまうため、検査結果と実際の臨床的病態とで齟齬が生じる場合も多い。
【0007】
別の機能検査として、トロンボエラストグラフィーやトロンボエラストメトリーがあり、これらはそれぞれTEG(登録商標)やROTEM(登録商標)として製品化されている。トロンボエラストグラフィーは、血液サンプルを振動させて共振周波数を測定し、粘弾性の増加に伴う共振周波数の増高を測定する方法である。また、トロンボエラストメトリーは、カップに充填した血液サンプルに対して回転するピンを接触させてピンが発生させるずり応力を粘弾性として評価する方法である。そのため、血餅の形成過程における未熟な血餅にストレスをかけながら計測を行う欠点が指摘されており、DOACsモニタリングに関する有望性も見出されていない。
【0008】
その他、近年、血液凝固測定を簡便かつ正確に評価することができる別の手法として、血液凝固過程において誘電測定を行う方法も提案されている(例えば、特許文献1及び2)。この手法では、1組の電極対などからなるコンデンサー状の試料部に血液試料を充填し、それに交流電場を印加して血液試料の凝固過程に伴う複素誘電率の変化を測定する方法である。非特許文献1には、この手法を用いることで、簡便に凝固及び線溶反応のプロセスをモニタリングできることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010-181400号公報
【特許文献2】特開2012-194087号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Y. Hayashi et al., Analytical Chemistry 87(19), 10072-10079 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
血液の凝固反応は、
図1に示す血液凝固カスケードと呼ばれる連鎖反応が進行する反応である。具体的には、不活性型で血液中に存在する血液凝固因子が、凝固反応が開始されると活性型に変換され、それがさらに次の不活性型血液凝固因子を活性化することで、凝固反応が進行する。
【0012】
前述の通り、血液凝固測定を簡便かつ正確に評価することができる手法として、血液凝固過程において誘電測定を行う方法があるが、この方法は、凝固反応の開始に組織因子(外因系凝固過程活性化)またはエラグ酸(内因系凝固過程活性化)を用いる手法である。即ち、血液凝固カスケード上流の因子を活性化させることにより、血液凝固反応を進行させて、血液凝固の程度を測定する方法である。
【0013】
一方、DOACs等の抗凝固剤の薬効評価の目的で血液凝固能を評価する際は、DOACs等の抗凝固剤がターゲットとしているXa因子やトロンビン等に起因する血液凝固能を評価する必要があるが、従来の手法では、血液凝固カスケード上流の因子を活性化させるため、DOACs等の抗凝固剤がターゲットとしているXa因子やトロンビン等の血液凝固カスケード下流の反応が、上流の凝固活性に大きく依存してしまうという問題がある。
【0014】
そこで、本技術では、薬効評価の対象となる薬剤がターゲットとする血液凝固因子に起因する血液凝固能を、高精度に評価し得る技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者らは、薬効評価の対象となる薬剤がターゲットとする血液凝固因子に起因する血液凝固能を、高精度に評価し得る技術について、鋭意研究を行った結果、薬効評価の対象となる薬剤が作用する凝固因子の前駆体を活性化させる試薬を使用することにより、当該前駆体よりも上流の凝固活性の影響を排除できることを見出し、本技術を完成させるに至った。
【0016】
即ち、本技術では、Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、
が添加された血液試料について、
特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析部を備える血液凝固系解析装置を提供する。
前記X因子活性化剤としては、蛇毒由来のX因子活性化酵素を用いることができる。
本技術に係る血液凝固系解析装置には、前記試薬の添加量を算出する試薬添加量算出部を備えることができる。
前記試薬添加量算出部では、健常者の前記血液試料から得られた前記経時変化データに基づいて、前記試薬の添加量を算出することができる。
前記試薬添加量算出部では、前記健常者の前記血液試料から得られた前記経時変化データが所定の範囲となる前記試薬の添加量を1としたときに、前記試薬の添加量が0.5~2となるように算出することができる。
【0017】
本技術では、X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する凝固因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析部を備える血液凝固系解析装置を提供する。
前記解析部では、前記第2の経時変化データを、前記第1の経時変化データで補正することにより、前記試薬が作用する凝固因子より上流の凝固因子の影響を解析することができる。
【0018】
本技術では、抗凝固剤、および、該抗凝固剤が作用する凝固因子の前駆体を活性化させる試薬が添加された血液試料について、
特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記抗凝固剤の血液凝固系への影響を解析する解析部を備える血液凝固系解析装置を提供する。
【0019】
本技術では、Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、
が添加された血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定部と、
測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析部と、
を備える血液凝固系測定装置を提供する。
本技術では、また、Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、
が添加された血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定装置と、
測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析装置と、
を備える血液凝固系測定システムを提供する。
【0020】
本技術では、X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択され
る一以上の試薬が添加された第1の血液試料と、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料と、について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定部と、
前記第1の血液試料から測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記第2の血液試料から測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する凝固因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析部と、
を備える血液凝固系測定装置を提供する。
本技術では、また、X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料と、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料と、について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定装置と、
前記第1の血液試料から測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記第2の血液試料から測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する凝固因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析装置と、
を備える血液凝固系測定システムを提供する。
【0021】
本技術では、Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、
が添加された血液試料について、
特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析工程を行う血液凝固系解析方法を提供する。
【0022】
本技術では、X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する凝固因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析工程を行う血液凝固系解析方法を提供する。
【0023】
本技術では、Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、
が添加された血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定工程と、
測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析工程と、
を行う血液凝固系測定方法を提供する。
【0024】
本技術では、X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料と、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料と、について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定工程と、
前記第1の血液試料から測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記第2の血液試料から測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する凝固因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析工程
と、
を行う血液凝固系測定方法を提供する。
【0025】
本技術において、「血液試料」とは、赤血球と血漿等の液体成分とを含む試料であればよく、血液自体に限定されるものではない。より具体的には、例えば、全血、血漿、又はこれらの希釈液及び/又は薬剤添加物等の血液成分を含有する液体試料等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】本技術に係る血液凝固系解析装置1の実施形態の一例を示すブロック図である。
【
図3】本技術に係る血液凝固系解析システム10の実施形態の一例を示すブロック図である。
【
図4】本技術に係る血液凝固系測定装置2の実施形態の一例を示すブロック図である。
【
図5】本技術に係る血液凝固系測定システム20の実施形態の一例を示すブロック図である。
【
図6】本技術に係る血液凝固系測定システム20の実施形態の
図5とは異なる一例を示す概念図である。
【
図7】本技術に係る血液凝固系測定システム20の実施形態の
図5および
図6とは異なる一例を示すブロック図である。
【
図8】本技術に係る血液凝固系解析方法の実施形態の一例を示すフローチャートである。
【
図9】本技術に係る血液凝固系測定方法の実施形態の一例を示すフローチャートである。
【
図10】血液試料保持部211の実施形態の一例を模式的に示す断面模式図である。
【
図11】誘電コアグロメーター測定における、1MHzのデータの継時的変化として典型的なグラフである。
【
図12】実験例1において、蛇毒RVV-Xの添加量を、血液180μL当たり、10μLの容量で使用したとき、DOACs(リバロキサバン、または、エドキサバン)濃度に対するDBCM-CTの変化をプロットしたグラフである。
【
図13】実験例1において、蛇毒RVV-Xの添加量を、血液180μL当たり、20μLの容量で使用したとき、DOACs(リバロキサバン、または、エドキサバン)濃度に対するDBCM-CTの変化をプロットしたグラフである。
【
図14】実験例1において、蛇毒RVV-Xの添加量を、血液180μL当たり、40μLの容量で使用したとき、DOACs(エドキサバン)濃度に対するDBCM-CTの変化をプロットしたグラフである。
【
図15】実験例2において、リバロキサバンの血中濃度に対するDBCM-CT値を示すグラフである。
【
図16】血液凝固検査装置として血液の粘弾性を測定する装置であるTEG-6S(登録商標)やROTEM(登録商標)を用いて、アピキサバンまたはリバロキサバンの各濃度における凝固時間を測定した結果を引用したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本技術を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。
以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。なお、説明は以下の順序で行う。
1.本技術の主な課題および基本概念
2.血液凝固系解析装置1、血液凝固系解析システム10
(1)信号取得部11
(2)解析部12
(3)試薬添加量算出部13
(4)出力部14
(5)記憶部15、記憶装置105
(6)表示部16、表示装置106
(7)ユーザーインターフェース17,107
3.血液凝固系測定装置2、血液凝固系測定システム20
(1)測定部21、測定装置201
(1-1)血液試料保持部211
(1-2)一対の電極212a,212b
(1-3)印加部213
(1-4)測定機構
(2)薬剤添加部22
(3)制御部23、制御装置203
4.血液凝固系解析方法、血液凝固系測定方法
5.コンピュータプログラム
【0028】
1.本技術の主な課題および基本概念
前述の通り、DOACs等の抗凝固剤の薬効評価の目的で血液凝固能を評価する際は、DOACs等の抗凝固剤がターゲットとしているXa因子やトロンビン等に起因する血液凝固能を評価する必要がある。しかしながら、従来のように、凝固反応の開始に組織因子(外因系凝固過程活性化)またはエラグ酸(内因系凝固過程活性化)を用いる血液凝固測定方法は、血液凝固カスケード上流の因子を活性化させることにより、血液凝固反応を進行させて、血液凝固の程度を測定する方法であるため、血液凝固カスケード上流の凝固活性が大きく影響し、DOACs等の抗凝固剤がターゲットとしているXa因子やトロンビン等に起因する血液凝固能を、正確に評価することが難しかった。
【0029】
一方、本技術では、薬効評価の対象となる薬剤が作用する凝固因子の前駆体を活性化させる試薬を使用することにより、当該前駆体よりも上流の凝固活性の影響を排除することができる。
【0030】
具体的には、例えば、DOACs等の抗凝固剤の薬効評価を確認する場合、DOACs等の抗凝固剤がターゲットとしているXa因子やトロンビンの前駆体であるX因子やプロトロンビンを活性化させる試薬を血液試料に添加することで、X因子よりも上流の凝固活性の影響を排除することができる。その結果、DOACs等の抗凝固剤がターゲットとしているXa因子やトロンビンに起因する血液凝固能を、高精度に評価することができる。この際、DOACs等の抗凝固剤がターゲットとしているXa因子自体を血液試料に添加しても同様の効果を得ることができる。
【0031】
また、この技術の視点を変更することで、例えば、Xa因子やトロンビンの前駆体であるX因子やプロトロンビンを活性化させる試薬や、Xa因子自体を添加した血液試料から得られる血液凝固能の評価結果を用いて、これらの試薬が添加されていない血液試料(組織因子(外因系凝固過程活性化)やエラグ酸(内因系凝固過程活性化)を用いた血液試料)から得られる血液凝固能の評価結果を補正することで、X因子よりも上流の凝固因子に起因する血液凝固能を、正確に評価することもできる。
【0032】
2.血液凝固系解析装置1、血液凝固系解析システム10
図2は、本技術に係る血液凝固系解析装置1の実施形態の一例を示すブロック図である。本技術に係る血液凝固系解析装置1は、信号取得部11と、解析部12と、出力部14と、を備える。また、必要に応じて、試薬添加量算出部13、記憶部15、表示部16、ユーザーインターフェース17等を備えることもできる。
【0033】
なお、信号取得部11、解析部12、出力部14、試薬添加量算出部13、記憶部15、表示部16、ユーザーインターフェース17等については、
図2に示す血液凝固系解析装置1のように、解析装置1内に設けてもよいし、
図3に示すように、信号取得部11と、解析部12と、出力部14と、必要に応じて、試薬添加量算出部13と、を備えた解析装置101と、必要に応じて、記憶装置105、表示装置106、ユーザーインターフェース107等とを、ネットワークを介して接続した血液凝固系解析システム10とすることもできる。
【0034】
また、解析部12または解析装置101、記憶部15または記憶装置105、表示部16または表示装置106を、クラウド環境に設けて、ネットワークを介して、後述する測定部21または測定装置201と接続することも可能である。この場合、解析部12または解析装置101における解析結果等を、クラウド上の記憶部15または記憶装置105に記憶して、記憶部15または記憶装置105に記憶された各種情報を、複数のユーザーで共有することも可能である。
【0035】
以下、各部および各装置等について、詳細に説明する。
【0036】
(1)信号取得部11
本技術に係る血液凝固系解析装置1および血液凝固系解析システム10の解析装置101には、信号取得部11を備えることができる。信号取得部11では、血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データの取得が行われる。例えば、後述する測定部21や測定装置201において測定された血液試料の電気的特性の経時変化データが、信号取得部11によって取得される。
【0037】
(2)解析部12
本技術に係る血液凝固系解析装置1および血液凝固系解析システム10の解析装置101には、解析部12を備える。解析部12では、抗凝固剤の血液凝固系への影響や、血液凝固カスケードにおける特定の凝固因子の影響の解析が行われる。以下、各実施形態に分けて、具体的な解析方法を説明する。
【0038】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る解析方法は、抗凝固剤、および、該抗凝固剤が作用する凝固因子の前駆体を活性化させる試薬が添加された血液試料を用いて、抗凝固剤の血液凝固系への影響を解析する方法である。
【0039】
従来の血液凝固測定では、前述したように、凝固反応の開始に組織因子(外因系凝固過程活性化)またはエラグ酸(内因系凝固過程活性化)等の血液凝固カスケード上流の因子を活性化させることにより、血液凝固反応を進行させるため、抗凝固剤がターゲットとする血液凝固因子よりも上流の凝固活性に大きく依存してしまい、抗凝固剤がターゲットとする血液凝固因子にだけに起因する血液凝固能を評価することが難しかった。
【0040】
一方、本技術では、血液試料に、抗凝固剤と、該抗凝固剤が作用する凝固因子の前駆体を活性化させる試薬とを、添加した状態で測定を行うため、当該前駆体よりも上流の凝固活性の影響を排除することができる。その結果、薬効評価の対象となる薬剤がターゲットとする血液凝固因子に起因する血液凝固能を、高精度に評価することができる。
【0041】
なお、本技術において、従来の血液凝固測定のように、外因系の凝固活性剤である組織因子を低濃度(例えば、終濃度1pM以下等)で添加することも可能であるが、例えば、後述するように、試薬としてX因子活性化剤等を用いる場合、凝固反応は、組織因子が関係するVII因子よりもX因子が活性化されることで強力に開始されるため、必須ではない。一方、外因系の凝固活性剤である組織因子を高濃度に添加することは、血液凝固カスケード下流の凝固活性化能に対して無視できない凝固活性を示す可能性があるため、好ましくない。
【0042】
抗凝固剤と、該抗凝固剤が作用する凝固因子の前駆体を活性化させる試薬との組み合わせとしては、例えば、Xa因子阻害剤とX因子活性化剤、トロンビン阻害剤とプロトロンビン活性化剤等が挙げられる。また、Xa因子阻害剤の血液凝固系への影響を解析する場合は、Xa因子自体を用いても、同様の効果を得ることができる。
【0043】
Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤としては、例えば、エドキサバン、アピキサバン、リバロキサバン、ダビガトラン等が挙げられる。
【0044】
X因子活性化剤としては、例えば、蛇毒(ラッセルクサリヘビ毒素)RVV-X等が挙げられる。
【0045】
プロトロンビン活性化剤としては、例えば、Xa因子、蛇毒由来等トロンビン様酵素等が挙げられる。
【0046】
後述する実施例で示す通り、抗凝固剤、および、該抗凝固剤が作用する凝固因子の前駆体を活性化させる試薬が添加された血液試料から得られる電気的特性の経時変化データは、抗凝固剤の薬効と相関関係を示すため、前記経時変化データを利用することで、解析部12は阻害剤の血液凝固系への影響を高精度に解析することができる。
【0047】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る解析方法は、X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料と、前記試薬が添加されていない第2の血液試料と、を用いて、前記試薬が作用する凝固因子より上流の凝固因子の影響を解析する方法である。
【0048】
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料から得られる電気的特性の経時変化データは、前記試薬が作用する凝固因子より下流の凝固因子に起因する血液凝固能と相関する。したがって、前記試薬が添加されていない第2の血液試料から得られる電気的特性の経時変化データを、前記第1の血液試料から得られる電気的特性の経時変化データで補正することにより、前記試薬が作用する凝固因子より上流の凝固因子の影響を解析することができる。
【0049】
(3)試薬添加量算出部13
本技術に係る血液凝固系解析装置1および血液凝固系解析システム10の解析装置101には、前記試薬の添加量を算出する試薬添加量算出部13を備えることができる。本技術において、試薬添加量算出部13は必須ではなく、例えば、前述のように、解析部12または解析装置101をクラウド上に設ける場合には、他のユーザーが算出した試薬添加量を用いて、試薬の添加を行うことも可能である。
【0050】
試薬添加量算出部13では、健常者の前記血液試料から得られた前記経時変化データに基づいて、前記試薬の添加量が算出することができる。より具体的には、前記健常者の前記血液試料から得られた前記経時変化データが所定の範囲となる前記試薬の添加量を1としたときに、前記試薬の添加量が0.5~2となるように算出することができる。
【0051】
(4)出力部14
本技術に係る血液凝固系解析装置1および血液凝固系解析システム10の解析装置101には、出力部14を備えることができる。出力部14は、前記解析部12において解析された解析データや、前記試薬添加量算出部13において算出された試薬の添加量等を、後述する記憶部15や記憶装置105、表示部16や表示装置106、測定部21や測定装置201へ出力することができる。
【0052】
また、出力部14は、例えば、後述する測定部21や測定装置201での測定中に異常な解析結果が得られた場合にのみ、特定の時点で通知信号を発生し、その結果をリアルタイムでユーザーに通知する構成とすることができる。これにより、異常な解析結果が確定された特定の時点でのみユーザーに解析結果が通知されるため、ユーザービリティが向上する。
【0053】
また、ユーザーへの通知方法も特に限定されず、例えば、後述する表示部16、ディスプレイ、プリンタ、スピーカー、照明等を介して通知することができる。また、例えば、出力部14には、携帯電話、スマートフォン等のモバイル機器へ向け、通知信号が発生したことを知らせるための電子メール等を送信するための通信機能を備える装置も併用することもできる。
【0054】
(5)記憶部15、記憶装置105
本技術に係る血液凝固系解析装置1および血液凝固系解析システム10には、各種データを記憶する記憶部15や記憶装置105を備えることができる。記憶部15および記憶装置105では、前記信号取得部11で取得された各種データ、前記解析部12で解析された解析データ、前記試薬添加量算出部13で算出された試薬の添加量等、血液凝固系解析に関する様々なデータ、後述する測定部21や測定装置201で測定された測定データ等の血液凝固系測定に関する様々なデータ等、あらゆるデータを蓄積して記憶することができる。
【0055】
記憶部15および記憶装置105は、本技術に係る血液凝固系解析装置1および血液凝固系解析システム10においては必須ではなく、前記出力部14から、各データを装置やシステム外部へ出力し、外部の記憶装置に記憶させることも可能である。記憶装置105は、クラウド環境に設けることもでき、ネットワークを介して、本技術に係る血液凝固系解析装置1および血液凝固系解析システム10と接続することも可能である。この場合、クラウド上の記憶装置105に記憶された各種データを、複数のユーザーで共有することも可能である。
【0056】
記憶部15および記憶装置105には、血液凝固系解析に関する様々なデータや、後述する血液凝固系測定に関する様々なデータに基づいてデータベースを構築することができる。この場合、前記解析部12や前記試薬添加量算出部13では、データベースを参照して各種解析や算出を行うことも可能である。
【0057】
例えば、過去に行った解析データや算出データ、後述する
図7に示すような外部の測定装置201A~201D等で測定された測定データ、他のサンプルにて収集された測定データ等を参照することで、より精度の高い解析や算出を行うことが可能となる。
【0058】
記憶部15および記憶装置105の構成は特に限定されず、例えば、ハードディスク(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、SSD(Solid State Drive)等を採用することができる。
【0059】
また、本技術では、本技術に係る血液凝固系解析装置1および血液凝固系解析システム1やの動作プログラム等が記憶部15や記憶装置105に保存されていてもよい。
【0060】
(6)表示部16、表示装置106
本技術に係る血液凝固系解析装置1および血液凝固系解析システム10には、各種データを表示するする表示部16や表示装置106を備えることができる。表示部16および表示装置106では、前記信号取得部11で取得された各種データ、前記解析部12で解析された解析データ、前記試薬添加量算出部13で算出された試薬の添加量等、血液凝固系解析に関する様々なデータ、後述する測定部21や測定装置201で測定された測定データ等の血液凝固系測定に関する様々なデータ等、あらゆるデータを表示することができる。
【0061】
表示部16および表示装置106の構成は特に限定されず、例えば、ディスプレイやプリンタなどの一般的な表示装置を用いることができる。なお、本技術に係る血液凝固系解析装置1および血液凝固系解析システム10には、表示部16や表示装置106は必須ではなく、前記出力部14から、各データを装置やシステム外部へ出力し、外部の表示装置に表示させることも可能である。
【0062】
(7)ユーザーインターフェース17,107
本技術に係る血液凝固系解析装置1および血液凝固系解析システム10には、ユーザーが操作するためのユーザーインターフェース17,107を更に備えることができる。ユーザーは、ユーザーインターフェース17,107を通じて、各部や各装置にアクセスし、各部や各装置を操作することができる。
【0063】
本技術において、ユーザーインターフェース17,107は必須ではなく、外部の操作装置を接続してもよい。ユーザーインターフェース17,107としては、例えば、マウスやキーボード等を用いることができる。
【0064】
3.血液凝固系測定装置2、血液凝固系測定システム20
図4は、本技術に係る血液凝固系測定装置2の実施形態の一例を示すブロック図である。本技術に係る血液凝固系測定装置2は、測定部21と、信号取得部11と、解析部12と、出力部14と、を備える。また、必要に応じて、試薬添加量算出部13、記憶部15、表示部16、ユーザーインターフェース17、薬剤添加部22、制御部23等を備えることもできる。
【0065】
なお、測定部21、解析部12、試薬添加量算出部13、記憶部15、表示部16、ユーザーインターフェース17等については、
図4に示す血液凝固系測定装置2のように、解析装置1内に設けてもよいし、
図5に示すように、信号取得部11と、解析部12と、出力部14と、必要に応じて、試薬添加量算出部13と、を備えた解析装置101と、測定装置201と、必要に応じて、制御装置203、記憶装置105、表示装置106、ユーザーインターフェース107等とを、ネットワークを介して接続した血液凝固系測定システム20とすることもできる。
【0066】
また、解析部12または解析装置101、記憶部15または記憶装置105、表示部16または表示装置106を、クラウド環境に設けて、ネットワークを介して、測定部21または測定装置201と接続することも可能である。この場合、解析部12または解析装置101における解析結果等を、クラウド上の記憶部15または記憶装置105に記憶して、記憶部15または記憶装置105に記憶された各種情報を、複数のユーザーで共有することも可能である。
【0067】
図6は、本技術に係る血液凝固系測定システム20の実施形態の
図5とは異なる一例を示す概念図である。
図6の実施形態に係る血液凝固系測定システム20は、測定装置201と、本技術に係る解析装置101で行われる解析と同一の解析をコンピュータに実現させるための後述するプログラムと、を有する。
【0068】
図7は、本技術に係る血液凝固系測定システム20の実施形態の
図5および
図6とは異なる一例を示すブロック図である。
図7の実施形態に係る血液凝固系測定システム20は、本技術に係る解析装置101と、複数の測定装置201A~Dと、必要に応じて、記憶装置105とを、ネットワークを介して接続した例である。
【0069】
図7の実施形態に係る血液凝固系測定システム20では、複数の測定装置201A~Dにおいて血液試料から測定された電気的特性の経時変化データを、一つの解析装置101で解析することができる。これにより、異なる測定装置201A~Dの測定データを解析装置101にて参照することができるため、より精度の高い解析や算出を行うことが可能となる。
【0070】
また、例えば、一つの測定装置201Aにおいて、健常者の血液試料を用いた測定を行い、その結果に基づいて解析部101の試薬添加量算出部13において、試薬の添加量の算出を行い、算出された添加量の試薬が添加された患者の血液試料を用いて、別の測定装置201Bでの測定を行う等、各測定装置201A~Dの役割を明確に分担することも可能である。
【0071】
以下、各部および各装置等について、詳細に説明する。なお、信号取得部11、解析部12、出力部14、試薬添加量算出部13、記憶部15、表示部16、ユーザーインターフェース17、解析装置101、記憶装置105、表示装置106、ユーザーインターフェース107については、前述した血液凝固系解析装置1、および血液凝固系解析システム10と同様であるため、ここでは説明を割愛する。
【0072】
(1)測定部21、測定装置201
測定部21および測定装置201は、血液試料保持部211と、測定機構と、を少なくとも有する。また、必要に応じて、一対の電極212a,212bと、印加部213と、を備えることができる。
【0073】
(1-1)血液試料保持部211
血液試料保持部211は、血液試料Bを保持する部分である。本技術に係る血液凝固系測定装置2および血液凝固系測定システム20では、血液試料保持部211の形態は特に限定されず、血液試料Bの電気的特性を測定する際に、一定時間保持可能な形態であれば、形態は特定されない。
【0074】
図10は、血液試料保持部211の実施形態の一例を模式的に示す断面模式図である。
図10の実施形態に係る血液試料保持部211は、血液試料保持容器211aと、該血液試料保持容器211aを保持する容器保持部211bからなる。
【0075】
血液試料保持容器211aには、解析対象である血液試料Bが保持される。本技術に係る血液凝固系測定装置2および血液凝固系測定システム20では、血液試料保持容器211aに血液試料Bを保持した状態で、血液試料Bの電気的特性の測定が行われる。そのため、血液試料保持容器211aは、血液試料Bを保持した状態で密封可能な構成であることが好ましい。ただし、電気的特性を測定するのに要する時間停滞可能であって、測定に影響がなければ、気密な構成でなくてもよい。
【0076】
血液試料保持容器211aへの血液試料Bの具体的な導入及び密閉方法は特に限定されず、血液試料保持容器211aの形態等に応じて、適宜自由な方法で導入することができる。例えば、血液試料保持容器211aに蓋部を設け、ピペット等を用いて血液試料Bを導入した後に蓋部を閉じて密閉する方法等が挙げられる。
【0077】
血液試料保持容器211aの形態は、解析対象である血液試料Bを装置内に保持することができれば特に限定されず、適宜自由に設計することができる。また、血液試料保持容器211aは、一又は複数の容器からなるものとすることができる。
【0078】
血液試料保持容器211aの具体的な形態は特に限定されず、解析対象である血液試料Bを保持可能であれば、円筒体、断面が多角(三角、四角或いはそれ以上)の多角筒体、円錐体、断面が多角(三角、四角或いはそれ以上)の多角錐体、或いはこれらを1種又は2種以上組み合わせた形態など、血液試料Bの状態等に応じて、適宜自由に設計することができる。
【0079】
また、血液試料保持容器211aを構成する素材についても特に限定されず、解析対象である血液試料Bの状態等に影響のない範囲で、適宜自由に選択することができる。本技術では特に、加工成形のし易さなどの観点から、血液試料保持容器211aが樹脂により構成されていることが好ましい。本技術において、用いることができる樹脂の種類等も特に限定されず、血液試料Bの保持に適用可能な樹脂を、1種又は2種以上適宜自由に選択して用いることができる。例えば、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、アクリル、ポリサルホン、ポリテトラフルオロエチレンなどの疎水性かつ絶縁性のポリマーやコポリマー、ブレンドポリマー等が挙げられる。
【0080】
本技術では、これらの中でも特に、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル、及びポリサルホンから選ばれる一種以上の樹脂で血液試料保持容器211aを形成することが好ましい。これらの樹脂は、血液試料に対して低凝固活性であるという性質を有するため、血液試料の測定に好適である。
【0081】
なお、本技術では、血液試料保持容器211aとして、公知の使い捨てカートリッジタイプのものを用いることもできる。
【0082】
本技術では、各種薬剤や各種試薬等を用いる場合、血液試料保持容器211aには、予め所定の薬剤や試薬を、固体化して、或いは液体のまま収容しておくことも可能である。例えば、Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤等の抗凝固剤、X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、Xa因子等の試薬等を予め血液試料保持容器211aに入れておくことができる。このように、血液試料保持容器211aに予め薬剤や試薬等を収容しておくことで、後述する薬剤添加部22や薬剤や試薬を保持する部位が不要となり、装置の小型化やコストの低減が可能である。また、ユーザーの薬剤交換等の手間が不要となり、薬剤添加部22や薬剤や試薬を保持する部位等の装置メンテナンスも不要となるためにユーザービリティを向上させることもできる。
【0083】
本技術に係る血液凝固系測定装置2および血液凝固系測定システム20において、この血液試料保持容器211aの個数は特に限定されず、解析対象である血液試料Bの量、種類等に応じて、一又は複数の血液試料保持容器211aを適宜自由に配置することができる。
【0084】
容器保持部211bは、血液試料保持容器211aを保持する。容器保持部211bの具体的な形態は特に限定されず、解析対象である血液試料Bが収容された血液試料保持容器211aを保持可能であれば、適宜自由に設計することができる。
【0085】
容器保持部211bを構成する素材についても特に限定されず、血液試料保持容器211aの形態等に応じて、適宜自由に選択することができる。
【0086】
また、本技術では、容器保持部211bは、血液試料保持容器211aに備えられた情報記録媒体から、血液試料保持容器211aに関する情報を、自動的に読み取る機能(バーコードリーターなど)を備えていてもよい。前記情報記憶媒体とは、例えば、ICカード、ICタグ、バーコードやマトリックス型二次元コードを備えるカード、バーコードやマトリックス型二次元コードを印字した紙又はシール等が挙げられる。
【0087】
(1-2)一対の電極212a,212b
一対の電極212a,212bは、測定時に血液試料Bと接触し、血液試料Bに必要な電圧を印加する。
【0088】
一対の電極212a,212bの配置や形態などは特に限定されず、血液試料Bに必要な電圧を印加することができれば適宜自由に設計することができる。本実施形態では、一対の電極212a,212bは、前記血液試料保持容器211aに一体成形された構成であるが、これに限定されず、外部から電極を挿入する構成としてもよい。
【0089】
電極212a,212bを構成する素材についても特に限定されず、解析対象である血液試料Bの状態等に影響がない範囲で、公知の電気伝導性素材を1種又は2種以上適宜自由に選択して用いることができる。具体的には、例えば、チタン、アルミニウム、ステンレス、白金、金、銅、黒鉛等が挙げられる。
【0090】
本技術では、これらの中でも特に、チタンを含む電気伝導性素材で電極212a,212bを形成することが好ましい。チタンは、血液試料に対して低凝固活性であるという性質を有するため、血液試料Bの測定に好適である。
【0091】
(1-3)印加部213
印加部213は、一対の電極212a,212bに対して交番電圧を所定の時間間隔で印加する。より具体的には、例えば、印加部213は、測定を開始すべき命令を受けた時点又は装置100の電源が投入された時点を開始時点として、一対の電極212a,212bに交番電圧を印加する。より具体的には、印加部213は、設定された測定間隔または後述する制御部23や制御装置203において制御された測定間隔ごとに、一対の電極212a,212bに対して、設定された周波数または後述する制御部23において制御された周波数の交番電圧を印加する。
【0092】
(1-4)測定機構
測定部21および測定装置201における測定機構では、特定の周波数又は周波数帯域で、一対の電極212a,212b間に配される血液試料の電気的特性の測定が行われる。測定部21および測定装置201で測定される電気的特性は、例えば、インピーダンス、コンダクタンス、アドミッタンス、キャパシタンス、誘電率、導電率、位相角及びこれらを電気量変換することにより得られる量が挙げられる。なお、本技術に係る血液凝固系測定装置2および血液凝固系測定システム20では、これらの電気的特性のうち1種で評価可能であるが、2種以上の電気的特性を利用することもできる。
【0093】
測定部21および測定装置201における測定機構の構成は、特に限定されるものではなく、測定する電気的特性に応じて、適宜設定することができる。例えば、電極対間に交流電圧を印加し、血液のインピーダンスや複素誘電率を測定する場合は、インピーダンスアナライザーやネットワークアナライザーを使用することもできる。なお、本技術では、前記解析部12や解析装置101において利用する周波数又は周波数帯域についてのみ測定を行ってもよいが、周波数を変えて広帯域で電気的特性を測定し、得られたスペクトルから評価に利用する周波数又は周波数帯域を抽出することもできる。
【0094】
(2)薬剤添加部22
本技術に係る血液凝固系測定装置2および血液凝固系測定システム20には、薬剤添加部22を備えることができる。薬剤添加部22は、前記測定部21または前記測定装置201の血液試料保持部211に、1種又は2種以上の薬剤(試薬を含む、以下同様)を自動的に供給する。本技術に係る血液凝固系測定装置2および血液凝固系測定システム20において、この薬剤添加部22は必須ではないが、薬剤添加部22を備えることで、血液凝固系測定の各工程をオートマチックに行うことができる。
【0095】
薬剤添加部22では、予め設定した種類や添加量の薬剤を、血液試料保持部211に供給することもできるが、前記試薬添加量算出部13において算出された添加量の薬剤を、血液試料保持部211に供給することもできる。
【0096】
薬剤の具体的な供給方法は特に限定されず、例えば、ピペッターとその先端に装着するチップを用いて、血液試料保持部211の血液試料保持容器211aに、薬剤を自動的に供給することができる。この場合、測定誤差等を防止するためにも、前記チップは使い捨てにすることが好ましい。また、薬剤の貯蔵庫から、ポンプ等を用いて血液試料保持容器211aに薬剤を自動的に供給することもできる。更に、常設のノズル等を用いて血液試料保持容器211aに薬剤を自動的に供給することも可能である。この場合、ノズルには、測定誤差等を防止するためにも、洗浄機能を付与することが好ましい。
【0097】
特に、薬剤の供給は、血液試料保持容器211aに接触することなく、一定量の薬剤を供給できる方法が好ましい。例えば、液体状の薬剤であれば、吐出による供給を行うことができる。より具体的には、例えば、予め薬液を吐出管内へ導入しておき、これに接続される管路を介して、別途接続される加圧空気を短時間管路へ吹き込むことにより、血液試料保持容器211aへ薬液を吐出供給することができる。この際、空気圧とバルブ開閉時間を調整することにより、薬液の吐出量を調整可能とすることもできる。
【0098】
また、空気を吹き込む以外に、加熱により薬液自体、或いはそれに溶存する空気の気化を利用して、血液試料保持容器211aへ薬液を吐出供給することもできる。この際、発熱素子等を設置した気化室への印加電圧と時間を調整することにより、発生気泡容積を調整し、薬液の吐出量を調整することもできる。
【0099】
更に、空気を使わず、圧電素子(ピエゾ素子)等を用いて、管路内に設けられた可動部を駆動し、可動部容積で定まる量の薬液を送出することにより、血液試料保持容器211aへ薬液を供給することもできる。また、例えば、薬液を微滴化し、所望の血液試料保持容器211aへ直接吹き付ける、所謂、インクジェット方式を用いることにより、薬剤を供給することも可能である。
【0100】
また、本技術では、薬剤添加部22に、撹拌機能、温度制御機能、薬剤の種類等を識別し、自動的に読み取る機能(バーコードリーダーなど)等を備えることも可能である。
【0101】
(3)制御部23、制御装置203
本技術に係る血液凝固系測定装置2および血液凝固系測定システム20には、測定時の周波数、血液試料や薬剤の温度、測定時間、測定間隔等の測定条件の制御を行う制御部23や制御装置203を備えることができる。本技術において、制御部23および制御装置203は必須ではなく、外部の制御装置を用いて、測定条件の制御を行うことも可能である。
【0102】
測定条件の制御の例として、例えば、測定時間制御の具体的な方法としては、目的の解析に必要なデータ量等に応じて測定間隔の制御を行ったり、測定値がほぼ横ばいになった場合等に測定終了のタイミングの制御を行ったりすることができる。
【0103】
また、例えば、測定周波数の制御の具体的な方法としては、電極212a,212b間に印加する交流電圧の周波数を変化させたり、複数の周波数を重畳させて、複数の周波数でのインピーダンス測定を行ったりする方法等が挙げられる。その具体的な方法としては、複数の単周波数アナライザーを並設する方法、周波数をスイープする方法、周波数を重畳させてフィルターで各周波数の情報を抽出する方法、インパルスに対するレスポンスで測定する方法等が挙げられる。
【0104】
また、例えば、温度制御の具体的な方法としては、血液試料Bが待機する部位や、薬剤添加部22等の薬剤が待機する部位、あるいは、血液試料保持部211に温度調整機能を持たせることで、測定時の血液試料Bおよび薬剤の温度制御を行うことができる。
【0105】
4.血液凝固系解析方法、血液凝固系測定方法
図8は、本技術に係る血液凝固系解析方法の実施形態の一例を示すフローチャートである。本技術に係る血液凝固系解析方法は、信号取得工程S11と、解析工程S12と、出力工程S14と、を有する。また、必要に応じて、試薬添加量算出工程S13、記憶工程S15、表示工程S16等を行うことも可能である。
【0106】
図9は、本技術に係る血液凝固系測定方法の実施形態の一例を示すフローチャートである。本技術に係る血液凝固系測定方法は、測定工程S21と、信号取得工程S11と、解析工程S12と、出力工程S14と、を有する。また、必要に応じて、試薬添加量算出工程S13、記憶工程S15、表示工程S16、薬剤添加工程S22、制御工程S23等を行うことも可能である。
【0107】
各工程は、前述した本技術に係る血液凝固系解析装置1および血液凝固系測定装置2の各部が行う工程と同一であるため、ここでは説明を割愛する。
【0108】
5.コンピュータプログラム
<第1実施形態>
第1実施形態に係るコンピュータプログラムは、Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、
が添加された血液試料について、
特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析機能を、コンピュータに実現させるためのプログラムである。
【0109】
<第2実施形態>
第2実施形態に係るコンピュータプログラムは、X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析機能を、コンピュータに実現させるためのプログラムである。
【0110】
<第3実施形態>
第3実施形態に係るコンピュータプログラムは、抗凝固剤、および、該抗凝固剤が作用する凝固因子の前駆体を活性化させる試薬が添加された血液試料について、
特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記抗凝固剤の血液凝固系への影響を解析する解析機能を、コンピュータに実現させるためのプログラムである。
【0111】
本技術に係るコンピュータプログラムは、適切な記録媒体に記録される。また、本技術に係るコンピュータプログラムは、クラウド環境等に格納して、ユーザーがネットワークを通じて、パーソナルコンピュータ等にダウンロードして用いることも可能である。なお、本技術に係るコンピュータプログラムにおける前記解析機能は、前述した本技術に係る血液凝固系解析装置1の解析部12が行う機能と同一であるため、ここでは説明を省略する。
【実施例0112】
以下、実施例に基づいて本技術を更に詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0113】
<実験例1>
[検体]
健常人ボランティア10名の静脈血を、クエン酸を抗凝固材として用いた一般的な真空採血管(血液9容に対して1容の3.2%クエン酸を含む採血管)に採血した。DOACsとして広く用いられているXa阻害剤であるリバロキサバン、または、エドキサバンを臨床的に重要な濃度域である0~400ng/mLの濃度で加えた。
【0114】
[試薬]
クエン酸による抗凝固作用を解くために、塩化カルシウムを通常誘電コアグロメーターで用いられる量(2.4μmol)で用いた。
【0115】
また、X因子活性化剤の一例として、蛇毒(ラッセルクサリヘビ毒素)RVV-Xを用いた。RVV-Xは、Lupus Anticoagulantsテスト用試薬を、BioMedica Diagnostics社から購入し、メーカー規定の方法で溶解した溶液を血液180μLに対して10μL,20μL,または40μLの容量で使用した。
【0116】
これらの試薬は、誘電コアグロメーター用測定カートリッジ内に予め入れて置き、誘電コアグロメーター装置内で測定前に37℃となるように加温した。
【0117】
[測定]
測定は、誘電コアグロメーター(DBCM(dielectric blood coagulometry))で行った。採血管を装置内にセットすると37℃に加温され、測定開始直前に自動ピペッティングでの撹拌と測定カートリッジへの分注撹拌を行った。誘電スペクトルデータは測定が終了するまで継時的に計測記録した。
【0118】
[解析]
解析に用いるパラメーター抽出法は特に限定されないが、本実験例では特に1MHzにおけるデータに注目した。1MHz近辺の周波数では、
図11のように二峰性となることが多いため、本実験例では、2つ目のピークを与える時間をDBCM-CTとして定義して用いたが、より一般的には誘電率変化を用いた血液凝固系解析装置で測定される凝固時間として左記2つ目のピークを与える時間と相関する特徴時間を用いることができる。なお、
図11のグラフは、誘電コアグロメーター測定における、1MHzのデータの継時的変化として典型的なグラフである。測定開始直後の誘電率で除算することで変化を明示している。
【0119】
[結果]
図12~14は、蛇毒RVV-Xの添加量を、血液180μL当たり、それぞれ10μL,20μL,または40μLの容量で使用したとき、DOACs濃度に対するDBCM-CTの変化をプロットしたグラフである。
【0120】
図12に示すように、低濃度のRVV-X(血液血液180μL当たり10μL添加)では全体的にはDOACs濃度の増加に伴いDBCM-CTの延長が見られているが、DOACs0~50ng/mLの低DOACs濃度域での立ち上がりが低く、DOACs低濃度域での感度が低いという問題を見出した。
【0121】
また、
図14に示すように、高濃度のRVV-X(血液血液180μL当たり40μL添加)ではDOACs高濃度側でDBCM-CTの変化が頭打ちになってしまうことが分かり、DOACs高濃度域での感度が低いという問題を見出した。
【0122】
一方、
図13は、中濃度のRVV-X(血液血液180μL当たり20μL添加)した場合であり、臨床的に重要なDOACs血中濃度である0~400ng/mL全領域に対して良好なDBCM-CT変化を得ることができた。
【0123】
以上の結果から、DOACsのモニタリングとしては、
図13に対応するRVV-X試薬量またはその近傍濃度が最適であることが分かった。
【0124】
[考察]
X因子活性化剤等の試薬の活性が、試薬入手先やロット間差などによって変化した場合に、現実的にどのように対応して試薬量を決めればよいかという課題がある。これに対しては、健常者血液にDOACs等の抗凝固剤を加えたとき、例えば、200ng/mLのエドキサバン濃度血液に対して、DBCM-CTが400から500秒となる試薬量(あるいは、試薬濃度、試薬活性度)を求めれば良い。この時の試薬量(あるいは、試薬濃度、試薬活性度)をxとしたとき、0.5x~2.0xの範囲から逸脱する試薬量(あるいは、試薬濃度、試薬活性度)は、
図12や
図14に示す通り、低濃度域あるいは高濃度域で感度が低下するため相応しくない。最適な試薬量(あるいは、試薬濃度、試薬活性度)はxであるが、その前後、0.7x~1.7x程度の範囲でも実用可能だと推測される。
【0125】
<実験例2>
[検体]
健常人ボランティア10名の静脈血を、前記実験例1と同様の真空採血管(血液9容に対して1容の3.2%クエン酸を含む採血管)に採血した。DOACsとして広く用いられているXa阻害剤であるリバロキサバンを臨床的に重要な濃度域である0~400ng/mLの濃度で加えた。
【0126】
[試薬]
クエン酸による抗凝固作用を解くために、塩化カルシウムを通常誘電コアグロメーターで用いられる量(2.4μmol)で用いた。
【0127】
また、X因子活性化剤の一例として、蛇毒(ラッセルクサリヘビ毒素)RVV-Xを用いた。RVV-Xは、前記実験例1と同様に購入し、メーカー規定の方法で溶解した溶液を血液180μLに対して20μLの容量で使用した。
【0128】
これらの試薬は、誘電コアグロメーター用測定カートリッジ内に予め入れて置き、誘電コアグロメーター装置内で測定前に37℃となるように加温した。
【0129】
[測定]
前記実験例1と同様の方法で、誘電スペクトルデータを継時的に計測記録した。
【0130】
[解析]
前記実験例1と同様に、DBCM-CTを解析に使用した。
【0131】
[結果]
図15は、リバロキサバンの血中濃度に対するDBCM-CT値を示すグラフである。
図15に示す通り、X因子活性化剤を用いた場合、血液試料の電気的特性が、リバロキサバンの血中濃度を良く反映することが分かった。
【0132】
一方、
図16は、血液凝固検査装置として血液の粘弾性を測定する装置であるTEG-6S(登録商標)やROTEM(登録商標)を用いて、アピキサバンまたはリバロキサバンの各濃度における凝固時間を測定した結果である。いずれも、アピキサバンまたはリバロキサバンの濃度が0の場合の凝固時間を1とした場合の%変化で示したものである。なお、
図16のグラフは、文献(Lapichino GE et al. Semin Thromb Hemost 2017;43:423-432)から引用したものである。
図16に示すように、X因子活性化剤を用いない場合、バラつきが大きく、抗凝固剤の薬効評価を行うのは困難であると考えられる。
【0133】
これらの結果から、抗凝固剤のモニタリングを行う際、抗凝固剤が作用する凝固因子の前駆体を活性化させる試薬を用いることで、血液試料の電気的特性の経時変化データから、抗凝固剤の薬効評価を正確に行うことが可能であることが分かった。
【0134】
なお、本技術では、以下の構成を取ることもできる。
(1)
Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、
が添加された血液試料について、
特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析部を備える血液凝固系解析装置。
(2)
前記X因子活性化剤は、蛇毒由来のX因子活性化酵素である、(1)に記載の血液凝固系解析装置。
(3)
前記試薬の添加量を算出する試薬添加量算出部を備える、(1)または(2)に記載の血液凝固系解析装置。
(4)
前記試薬添加量算出部では、健常者の前記血液試料から得られた前記経時変化データに基づいて、前記試薬の添加量が算出される、(3)に記載の血液凝固系解析装置。
(5)
前記試薬添加量算出部では、前記健常者の前記血液試料から得られた前記経時変化データが所定の範囲となる前記試薬の添加量を1としたときに、前記試薬の添加量が0.5~2となるように算出される、(4)に記載の血液凝固系解析装置。
(6)
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析部を備える血液凝固系解析装置。
(7)
前記解析部では、前記第2の経時変化データを、前記第1の経時変化データで補正することにより、前記試薬が作用する因子より上流の凝固因子の影響を解析する、(6)に記載の血液凝固系解析装置。
(8)
抗凝固剤、および、該抗凝固剤が作用する凝固因子の前駆体を活性化させる試薬が添加された血液試料について、
特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記抗凝固剤の血液凝固系への影響を解析する解析部を備える血液凝固系解析装置。(9)
Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、
が添加された血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定部と、
測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析部と、
を備える血液凝固系測定装置。
(10)
Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、
が添加された血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定装置と、
測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析装置と、
を備える血液凝固系測定システム。
(11)
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料と、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料と、について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定部と、
前記第1の血液試料から測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記第2の血液試料から測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析部と、
を備える血液凝固系測定装置。
(12)
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料と、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料と、について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定装置と、
前記第1の血液試料から測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記第2の血液試料から測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析装置と、
を備える血液凝固系測定システム。
(13)
Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、
が添加された血液試料について、
特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析工程を行う血液凝固系解析方法。
(14)
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域において測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析工程を行う血液凝固系解析方法。
(15)
Xa因子および/またはトロンビンを阻害する阻害剤と、
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬と、
が添加された血液試料について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定工程と、
測定された電気的特性の経時変化データを利用して、前記阻害剤の血液凝固系への影響を解析する解析工程と、
を行う血液凝固系測定方法。
(16)
X因子活性化剤、プロトロンビン活性化剤、およびXa因子から選択される一以上の試薬が添加された第1の血液試料と、
前記試薬が添加されていない第2の血液試料と、について、特定の周波数又は周波数帯域における電気的特性を測定する測定工程と、
前記第1の血液試料から測定された電気的特性の第1の経時変化データと、
前記第2の血液試料から測定された電気的特性の第2の経時変化データと、
を利用して、前記試薬が作用する因子より上流の凝固因子の影響を解析する解析工程と、
を行う血液凝固系測定方法。