(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021342
(43)【公開日】2022-02-02
(54)【発明の名称】加飾品の製造方法、および加飾品
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20220126BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20220126BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20220126BHJP
D06P 5/24 20060101ALI20220126BHJP
D06P 3/60 20060101ALI20220126BHJP
D06P 3/52 20060101ALI20220126BHJP
D06P 1/44 20060101ALI20220126BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
B41M5/00 100
C09D11/322
C09D11/54
D06P5/24 Z
D06P3/60 Z
D06P3/52 Z
D06P1/44 H
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 134
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119847
(22)【出願日】2021-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2020124353
(32)【優先日】2020-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】田渕 新二
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FB02
2C056FC01
2H186AB05
2H186AB09
2H186AB15
2H186AB23
2H186AB39
2H186AB44
2H186AB47
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2H186AB54
2H186BA08
2H186DA09
2H186DA10
2H186FB11
2H186FB15
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2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
2H186FB56
2H186FB58
4H157AA01
4H157AA02
4H157BA15
4H157CA12
4H157CA29
4H157CB08
4H157DA01
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4H157FA46
4H157GA05
4H157JA10
4H157JB03
4J039AE04
4J039BC07
4J039BC57
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039BE25
4J039EA48
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】オンデマンドで多種のデザインを少量印刷可能であって、発色性が高く、布帛の風合いを損ね難い、加飾品の製造方法を提供する。
【解決手段】水、顔料、水溶性有機溶剤成分、シリコーン系界面活性剤、および樹脂微粒子を含有する水性インクジェットインクであって、インクは、水溶性有機溶剤成分として、3-メトキシ-1-ブタノールおよび3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の置換ブタノールを9質量%以上27質量%以下含有し、樹脂微粒子はガラス転移温度が0℃以下のウレタン樹脂の微粒子であり、樹脂微粒子のインク中の含有量は2.5質量%以上である、水性インクジェットインクを用いて、基材上に直接形成された印刷層を備える転写フィルムを用意する工程と、転写フィルムの印刷層と、布帛の被転写面とを貼り合わせて、印刷層を転写する工程と、を包含する加飾品の製造方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水(A)、顔料(B)、水溶性有機溶剤成分(C)、シリコーン系界面活性剤(D)、および樹脂微粒子(E)を含有する水性インクジェットインクであって、
前記インクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、3-メトキシ-1-ブタノール、および3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の置換ブタノールを、9質量%以上27質量%以下含有し、
前記樹脂微粒子(E)は、ガラス転移温度が0℃以下のウレタン樹脂の微粒子であり、
前記樹脂微粒子(E)の前記インク中の含有量は、2.5質量%以上である、
水性インクジェットインクを用いて、基材上に直接形成された印刷層を備える転写フィルムを用意する工程と、
前記転写フィルムの印刷層と、布帛の被転写面とを貼り合わせて、前記印刷層を転写する工程と、
を包含する、加飾品の製造方法。
【請求項2】
前記印刷層を転写する工程の前に、前記布帛の被転写面に、少なくとも水(A’)を含有する前処理液を塗布する工程をさらに備える、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記印刷層を転写する工程の後に、前記印刷層が転写された布帛の被転写面に、少なくとも水(A’’)と樹脂微粒子(F)とを含む後処理液を塗布し、加熱する工程をさらに備える、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記後処理液が、さらに架橋剤を含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記印刷層を転写する工程の前に、前記布帛の被転写面に、前処理液を塗布し、
前記印刷層を転写する工程の後に、前記印刷層が転写された布帛の被転写面に、後処理液を塗布し、加熱する工程をさらに備え、
前記布帛の素材が綿であり、
前記前処理液および前記後処理液がそれぞれ、水(A-a)、カルボキシレートアニオン、1価のカチオン、ウレタン樹脂微粒子(F-a)、および界面活性剤(H-a)を含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記印刷層を転写する工程の前に、前記布帛の被転写面に、前処理液を塗布し、
前記印刷層を転写する工程の後に、前記印刷層が転写された布帛の被転写面に、後処理液を塗布し、加熱する工程をさらに備え、
前記布帛の素材がポリエステルであり、
前記前処理液および前記後処理液がそれぞれ、水(A-b)、ウレタン樹脂微粒子(F-b)、および界面活性剤(H-b)を含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記印刷層を転写する工程の前に、前記布帛の被転写面に、前処理液を塗布し、
前記印刷層を転写する工程の後に、前記印刷層が転写された布帛の被転写面に、後処理液を塗布し、加熱する工程をさらに備え、
前記前処理液が、水(A-c1);カルボキシレートアニオンおよび1価のカチオンの組み合わせ、および架橋剤(G-c)のいずれかまたは両方;ウレタン樹脂微粒子(F-c1);および界面活性剤(H-c1)を含有し、
前記後処理液が、水(A-c2)、アクリル樹脂微粒子(F-c2)、および界面活性剤(H-c2)を含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記基材が、ポリエステル系フィルム、ポリオレフィン系フィルム、またはポリウレタン系フィルムを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
布帛と、前記布帛に接する印刷層とを備える加飾品であって、
前記印刷層は、少なくとも水(A)、顔料(B)、水溶性有機溶剤成分(C)、シリコーン系界面活性剤(D)、および樹脂微粒子(E)を含有する水性インクジェットインクであって、前記インクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、3-メトキシ-1-ブタノール、および3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の置換ブタノールを、9質量%以上27質量%以下含有し、前記樹脂微粒子(E)は、ガラス転移温度が0℃以下のウレタン樹脂の微粒子であり、前記樹脂微粒子(E)の前記インク中の含有量は、2.5質量%以上である水性インクジェットインクを用いて形成されたものであり、
かつ前記印刷層は、前記布帛上に転写されたものである、
加飾品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛に印刷を施した加飾品の製造方法に関する。本発明はまた、布帛に印刷を施した加飾品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、布帛を加飾するために、文字、画像等を布帛表面に印刷することが行われている。具体的には、古くから、スクリーン印刷法によって、同じデザインの柄を大量印刷することが行われているが、近年、オンデマンドで多種のデザインを少量印刷可能な加飾方法への需要が高まっている。
【0003】
オンデマンドでの多種のデザインの少量印刷に適した方法の一つとしては、DTG(direct to garment)プリンタを用いて、インクジェットインクにより布帛に画像等を形成する方法が挙げられる。しかしながら、この方法では、高い発色が得られ難いという欠点があり、多量のインクを使用した場合には高い発色を得ることは可能ではあるが、この場合には、印刷層の厚みが大きくなり、布帛の風合いが損なわれるという欠点がある。
【0004】
オンデマンドでの多種のデザインの少量印刷に適した別の方法としては、転写フィルムを用いて、画像等を布帛に転写して形成する方法が挙げられる(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-38112号公報
【特許文献2】特開平10-315695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の記載の技術では、インク層と共にインク受容層が布帛に転写されるため、布帛の風合いが損なわれるという欠点がある。特許文献2に記載の技術でも、インク層と共に熱転写層が布帛に転写されるため、布帛の風合いが損なわれるという欠点がある。
【0007】
本発明は、オンデマンドで多種のデザインを少量印刷可能であって、発色性が高く、布帛の風合いを損ね難い、加飾品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る加飾品の製造方法は、少なくとも水(A)、顔料(B)、水溶性有機溶剤成分(C)、シリコーン系界面活性剤(D)、および樹脂微粒子(E)を含有する水性インクジェットインクであって、前記インクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、3-メトキシ-1-ブタノール、および3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の置換ブタノールを、9質量%以上27質量%以下含有し、前記樹脂微粒子(E)は、ガラス転移温度が0℃以下のウレタン樹脂の微粒子であり、前記樹脂微粒子(E)の前記インク中の含有量は、2.5質量%以上である、水性インクジェットインクを用いて、フィルム基材上に直接形成された印刷層を備える転写フィルムを準備する工程と、前記転写フィルムの印刷層と、布帛の被転写面とを貼り合わせて、前記印刷層を転写する工程と、を包含する。
【0009】
別の側面から、本発明に係る加飾品は、布帛と、前記布帛に接する印刷層とを備える。前記印刷層は、少なくとも水(A)、顔料(B)、水溶性有機溶剤成分(C)、シリコーン系界面活性剤(D)、および樹脂微粒子(E)を含有する水性インクジェットインクであって、前記インクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、3-メトキシ-1-ブタノール、および3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の置換ブタノールを、9質量%以上27質量%以下含有し、前記樹脂微粒子(E)は、ガラス転移温度が0℃以下のウレタン樹脂の微粒子であり、前記樹脂微粒子(E)の前記インク中の含有量は、2.5質量%以上である水性インクジェットインクを用いて形成されたものであり、かつ前記印刷層は、前記布帛上に転写されたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オンデマンドで、多種のデザインを少量印刷可能であって、発色性が高く、布帛の風合いを損ね難い、加飾品の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る加飾品の製造方法は、少なくとも水(A)、顔料(B)、水溶性有機溶剤成分(C)、シリコーン系界面活性剤(D)、および樹脂微粒子(E)を含有する水性インクジェットインクであって、当該インクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、3-メトキシ-1-ブタノール、および3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の置換ブタノールを、9質量%以上27質量%以下含有し、当該樹脂微粒子(E)は、ガラス転移温度が0℃以下のウレタン樹脂の微粒子であり、当該樹脂微粒子(E)の当該インク中の含有量は、2.5質量%以上である、水性インクジェットインクを用いて、フィルム基材上に直接形成された印刷層を備える転写フィルムを準備する工程(転写フィルム準備工程)と、当該転写フィルムの印刷層と、布帛の被転写面とを貼り合わせて、当該印刷層を転写する工程(転写工程)と、を包含する。
【0012】
<転写フィルム準備工程>
典型的には、転写フィルムは、フィルム基材に対して、以下に説明する成分(A)~(E)を少なくとも含有する水性インクジェットインクを用いてインクジェット記録方式で印刷を行うことにより準備することができる。フィルム基材上に、当該水性インクジェットインクを用いてインクジェット記録方式で印刷を行うことによって作製された転写フィルムを購入するなどによって準備してもよい。
【0013】
〔水(A)〕
水性インクジェットインクは、水(A)を含有する。水(A)を含有することにより、水性インクジェットインクは、環境負荷が小さいという利点を有する。使用される水(A)には特に制限はないが、不純物の混入を防止する観点から、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水、または超純水が好ましく、イオン交換水がより好ましい。
【0014】
水性インクジェットインク中の水(A)の含有量は、40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。一方、水(A)の含有量は、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
【0015】
〔顔料(B)〕
顔料(B)としては、無機顔料と有機顔料の何れも使用することができる。顔料(B)は、1種単独で、または2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
【0016】
有機顔料の例としては、アゾ顔料(例、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料など)、多環式顔料(例、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等が挙げられる。
【0017】
無機顔料の例としては、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、鉛白、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、ホワイトカーボン、アルミナホワイト、カオリンクレー、タルク、ベントナイト、黒色酸化鉄、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、モリブデートオレンジ、クロムバーミリオン、黄鉛、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、コバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、ビクトリアグリーン、群青、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトシリカブルー、コバルト亜鉛シリカブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット等が挙げられる。
【0018】
より具体的には、ブラック系顔料としては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類;銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)等の金属類;酸化チタン等の金属酸化物類;アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料が挙げられる。
【0019】
シアン系顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1,2,3,15:1,15:3,15:4,15:6,16,21,22,60,64等が挙げられる。
【0020】
マゼンタ系顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5,7,9,12,31,48,49,52,53,57,97,112,120,122,146,147,149,150,168,170,177,178,179,184,188,202,206,207,209,238,242,254,255,264,269,282;C.I.ピグメントバイオレット19,23,29,30,32,36,37,38,40,50等が挙げられる。
【0021】
イエロー系顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1,2,3,12,13,14,16,17,20,24,74,83,86,93,94,95,109,110,117,120,125,128,129,137,138,139,147,148,150,151,154,155,166,168,180,185,213等が挙げられる。
【0022】
その他の色の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン7,10,36;C.I.ピグメントブラウン3,5,25,26;C.I.ピグメントオレンジ2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,62,63,64,71等が挙げられる。
【0023】
また、表面に、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ヒドロキシル基等の親水性基を有する顔料(いわゆる「自己分散顔料」)を使用することができる。カーボンブラック系自己分散顔料としては、例えば、CAB-O-JET200、300、352K、400(以上、キャボット社製)等が挙げられる。シアン系自己分散顔料としては、例えば、CAB-O-JET250C、450C、554B(以上、キャボット社製)等が挙げられる。マゼンタ系自己分散顔料としては、例えば、CAB-O-JET260M、265M、465M(以上、キャボット社製)等が挙げられる。イエロー系自己分散顔料としては、例えば、CAB-O-JET270、470Y、740Y(以上、キャボット社製)等が挙げられる。分散剤を用いることなく水(A)に分散可能であることから、色材(B)としては、自己分散顔料が好ましい。
【0024】
水性インクジェットインク中の顔料(B)の含有量は、固形分量(固形分濃度)として、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。一方、顔料(B)の含有量は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、12質量%以下がさらに好ましい。
【0025】
〔水溶性有機溶剤成分(C)〕
本明細書において、水溶性有機溶剤成分(C)を構成する「水溶性有機溶剤」とは、水に対する20℃における溶解度が500g/L以上である有機溶剤のことをいう。水溶性有機溶剤として好ましくは、20℃において水に任意の割合で均一に混和する有機溶剤である。
【0026】
ここで用いられる水性インクジェットインクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、3-メトキシ-1-ブタノール、および3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の置換ブタノールを、9質量%以上27質量%以下含有する。この置換ブタノールは、水性インクジェットインクの初期乾燥速度を向上させる成分である。置換ブタノールの含有量が9質量%未満だと、初期乾燥速度が遅くなり、画像滲みが発生して画像品位が低下し、その結果、発色性が低下する。水性インクジェットインク中の置換ブタノールの含有量は、10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましい。一方、置換ブタノールの含有量が27質量%を超えると、初期乾燥速度が早くなり過ぎて、印刷層にひび割れが生じて画像品位が低下し、その結果、発色性が低下する。置換ブタノールの含有量は、25質量%以下が好ましく、23質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0027】
水性インクジェットインクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、上記置換ブタノール以外の水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。上記置換ブタノール以外の水溶性有機溶剤としては、水性インクジェットインクの水溶性有機溶剤として公知のものを特に制限なく用いることができる。
【0028】
水性インクジェットインクの水分保持性が向上することから、上記置換ブタノール以外の水溶性有機溶剤として好適には、ジオール類である。ジオール類の例としては、エチレングリコール(沸点:約196℃)、ジエチレングリコール(沸点:約244℃)、トリエチレングリコール(沸点:約287℃)、プロピレングリコール(沸点:約188℃)、ジプロピレングリコール(沸点:約230℃)、1,3-プロパンジオール(沸点:約213℃)、1,2-ブタンジオール(沸点:約194℃)、2,3-ブタンジオール(沸点:約183℃)、1,3-ブタンジオール(沸点:約208℃)、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(沸点:約208℃)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(沸点:約213℃)、1,2-ペンタンジオール(沸点:約206℃)、2,4-ペンタンジオール(沸点:約201℃)、2-メチル-2,4-ペンタンジオール(沸点:約198℃)、1,5-ペンタンジオール(沸点:約242℃)、1,2-ヘキサンジオール(沸点:約224℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点:約250℃)、2-エチルー1,3-ヘキサンジオール(沸点:約243℃)等が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。ジオール類としては、炭素数3~6(特に炭素数4~5)の直鎖状または分岐状のアルキレン鎖を有するジオールが好ましい。また、ジオール類としては、3-メチル-1,5-ペンタンジオールと、炭素数3~5のジオール類との組み合わせが好ましい。水性インクジェットインク中のジオール類の含有量は、1.5質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましい。一方、ジオール類の含有量は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0029】
画像品質が特に高くなることから、上記置換ブタノール以外の水溶性有機溶剤として好適には、グリコールモノエーテル類である。グリコールモノエーテル類の例としては、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:約278℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:約190℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:約242℃)、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル(沸点:約171℃)、プロピレングリコール-t-ブチルエーテル(沸点:約153℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:約230℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点:約202℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:約194℃)、エチレングリコール-n-プロピルエーテル(沸点:約150℃)、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(沸点:約171℃)等のグリコールモノエーテル類などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。グリコールモノエーテル類としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、またはトリプロピレングリコールの、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、またはブチルエーテルが好ましく、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルがより好ましい。水性インクジェットインク中のグリコールモノエーテル類の含有量は、1質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がより好ましく、3.0質量%以上がさらに好ましい。一方、グリコールモノエーテル類の含有量は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0030】
水性インクジェットインクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、上記ジオール類およびグリコールモノエーテル類の両方を含むことが好ましい。
【0031】
水性インクジェットインク中の水溶性有機溶剤成分(C)の含有量が少な過ぎると、乾燥性が低下する傾向にあり、また、転写フィルムに対する濡れ性が低下するおそれがある。そのため、水性インクジェットインク中の水溶性有機溶剤成分(C)の含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、25質量%以上が最も好ましい。一方、水溶性有機溶剤成分(C)の含有量が多すぎると、インク粘度が上昇する傾向にある。そのため、水溶性有機溶剤成分(C)の含有量は、55質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0032】
本実施形態において、水性インクジェットインクの好ましい一態様は、水溶性有機溶剤成分(C)として、12質量%以上20質量%以下の3-メトキシ-1-ブタノールと、1質量%以上8質量%以下のトリプロピレングリコールモノメチルエーテルと、3-メチル-1,5-ペンタンジオールと、炭素数3~5のジオール類と、を含有し、当該インク中の水溶性有機溶剤成分(C)の含有量が、25質量%以上である。
【0033】
この水性インクジェットインクの好ましい一態様によれば、ビーディングおよびひび割れの発生が抑制されており、耐ブロッキング性に優れる、転写フィルムの印刷層を形成可能である。
【0034】
この好ましい一態様において、インク中の3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有量は、好ましくは2質量%以上11質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上10質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%9質量%以下である。インク中の炭素数3~5のジオール類の含有量は、好ましくは2質量%以上11質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上10質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%9質量%以下である。
【0035】
〔シリコーン系界面活性剤(D)〕
シリコーン系界面活性剤(D)としては、公知のシリコーン系界面活性剤を特に制限なく用いることができ、市販品としても入手可能である。市販品の例としては、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(以上、ビックケミー・ジャパン社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、(以上、信越化学工業社製)、シルフェイスSAG002、SAG005、SAG503A、SAG008(以上、日信化学工業社製)等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤(D)としては、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が好ましい。
【0036】
インクジェットインク中のシリコーン系界面活性剤(D)の含有量は、使用するシリコーン系界面活性剤の種類に応じて、インクの表面張力および界面張力が適正化されるように適宜決定すればよい。水性インクジェットインク中のシリコーン系界面活性剤(D)の含有量は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。一方、当該含有量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下である。
【0037】
〔樹脂微粒子(E)〕
樹脂微粒子(E)としては、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下のウレタン樹脂の微粒子が用いられる。水性インクジェットインクが、ガラス転移温度が0℃以下のウレタン樹脂の微粒子を含有することにより、形成される印刷層が、耐屈曲性および布帛への接着性に優れるようになり、優れた転写品位で印刷層を布帛に転写することができる。また、印刷層のみを、布帛に直接転写できるようになる。
【0038】
ウレタン樹脂のガラス転移温度は、好ましくは-5℃以下であり、より好ましくは-10℃以下であり、さらに好ましくは-15℃以下である。ウレタン樹脂のガラス転移温度の下限には特に制限はない。ウレタン樹脂のガラス転移温度は、好ましくは-65℃以上、より好ましくは-55℃以上、さらに好ましくは-45℃以上である。なお、ガラス転移温度は、公知方法に従い測定することができ、例えば、示差走査熱量計(DSC)等の熱分析装置を用いて測定することができる。
【0039】
ウレタン樹脂の種類は、ガラス転移温度が上記の範囲内である限り特に制限はない。ウレタン樹脂として好ましくは、モノマーとして無黄変型ポリイソシアネート化合物とカーボネートポリオール化合物とを用いたウレタン樹脂(すなわち、無黄変型ポリイソシアネート化合物とカーボネートポリオール化合物との重合物)である。このようなウレタン樹脂の例としては、第一工業製薬社製のスーパーフレックス420、420NS、460、460S、470、650などが挙げられる。
【0040】
樹脂微粒子(E)の体積平均粒径は、特に制限はないが、10~1000nmが好ましく、10~200nmがより好ましく、10~50nmがさらに好ましい。なお、体積平均粒径は、例えば、粒度分布測定装置を用いて求めることができる。
【0041】
樹脂微粒子(E)の含有量が少な過ぎると、転写品位向上効果が十分に得られない。そのため、水性インクジェットインク中の樹脂微粒子(E)の含有量は、固形分量(固形分濃度)として、2.5質量%以上であり、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは3.5質量%以上である。一方、水性インクジェットインク中の樹脂微粒子(E)の含有量には特に制限はないが、15質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましい。
【0042】
樹脂微粒子(E)に対する顔料(B)の質量比(顔料(B)/樹脂微粒子(E))は、特に限定されないが、当該質量比が大きくなると、転写品位向上効果が小さくなる傾向にある。そのため、当該質量比(顔料(B)/樹脂微粒子(E))は、5以下が好まく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。
【0043】
〔フィルム基材〕
フィルム基材としては、布帛に対する転写印刷法で用いられている公知の転写用のフィルム基材を用いてよい。フィルム基材は、ベースフィルムのみからなる単層構造であってよく、ベースフィルム上にその他の層が形成された複層構造であってもよい。フィルム基材は、ベースフィルムと、剥離コート層とを有する複層構造であることが好ましい。
【0044】
ベースフィルムの例としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等のポリオレフィン系フィルム;ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム等のセルロース系フィルム;ポリウレタン系フィルム;ポリアミド系フィルム;ポリイミド系フィルム;ポリアクリレート系フィルム;ポリメタクリレート系フィルム;ポリカーボネート系フィルム等の樹脂フィルムが挙げられる。優れた転写品位および高い発色性の観点からは、ポリエステル系フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましい。一方、フィルムが布帛の繊維の網目の凹凸に追従して高い定着性が得られることから、ポリオレフィン系フィルムおよびポリウレタン系フィルムが好ましい。したがって、有利には、フィルム基材は、ポリエステル系フィルム、ポリオレフィン系フィルム、またはポリウレタン系フィルムを含む。
【0045】
剥離コート層は、公知の複層構造の転写フィルムが有する剥離コート層と同様であってよい。剥離コート層は、シリコーン層であっても、非シリコーン層であってもよい。
【0046】
フィルム基材が複層構造を有する場合、ベースフィルムおよび剥離コート層以外の層を有していてもよい。その例としては、帯電防止処理層などが挙げられる。
【0047】
このようなフィルム基材に対し、インクジェット記録装置を用いて、インクジェット方式で上記の水性インクジェットインクを吐出し、吐出された水性インクジェットインクを乾燥して印刷層を形成することにより、転写フィルムを作製することができる。このとき、フィルム基材を予備加熱することが好ましい。インクジェット記録装置としては、公知のインクジェット記録装置を用いてよい。
【0048】
予備加熱は、例えば、プレヒータ付きのインクジェット記録装置を用いて、当該プレヒータによってフィルム基材を加熱することにより、行うことができる。あるいは、インクジェット記録装置とは独立したヒータによってフィルム基材を加熱することにより、行うことができる。この加熱は、フィルム基材が35℃以上45℃以下の温度になるよう行うことが好ましい。予備加熱を行うことにより、フィルム基材上に形成される画像の品位をより高くすることができる。
【0049】
水性インクジェットインク吐出は、公知方法に従い、インクジェット記録装置のインクジェットヘッドから、フィルム基材の表面に水性インクジェットインクを吐出することにより、行うことができる。
【0050】
乾燥は、例えば、ヒータ、ホットプレート等の加熱装置を用いて、吐出された水性インクジェットインクを加熱することにより行うことができる。なお、水性インクジェットインクに含まれる溶剤が印刷層に残存すると、被転写体への転写のために転写フィルムを加熱した際に、残存した溶剤が揮発して転写品位が低くなるおそれがある。そこで、乾燥温度は、好ましくは60℃以上120℃以下であり、より好ましくは80℃以上100℃以下である。乾燥時間は、乾燥温度に応じて適宜設定すればよく、例えば5分以上60分以下である。
【0051】
〔転写フィルム〕
以上のようにして、発色性に優れた印刷層を形成して転写フィルムを作製することができ、この印刷層は、耐屈曲性および布帛への接着性に優れており、優れた転写品位で布帛に転写することができる。この転写フィルムによれば、印刷層のみが布帛に転写されるため、布帛の風合いを損ね難い。
【0052】
この転写フィルムは、フィルム基材上に直接形成された印刷層を備える。すなわち、転写フィルムは、フィルム基材と、当該フィルム基材と接している印刷層とを備える。よって、この転写フィルは、基材と印刷層との間に中間層(例、インク受容層、熱転写層、接着層等)を有していない。したがって、転写フィルムは、典型的には、フィルム基材および印刷層のみを備える。しかしながら、転写フィルムに、印刷層を保護することを目的として剥離ライナー等を設けてもよい。
【0053】
<前処理液塗布工程>
本発明に係る加飾品の製造方法は、転写工程の前に、布帛の被転写面に、少なくとも水(A’)を含有する前処理液を塗布する工程(前処理液塗布工程)をさらに含むことが好ましい。前処理液塗布工程を行うことにより、転写品位を向上させることができる。特に、布帛の素材が親水性基を有する場合(例えば、布帛の素材が綿である場合)は、樹脂微粒子(E)を構成するウレタン樹脂が、ファンデルワールス力や水素結合によって布帛の素材の構成分子と結合しやすく、印刷層が布帛に対する接着性が得られて転写品位が高くなり易いが、布帛の素材が親水性基を有しない場合(例、布帛の素材がポリエステル素材である場合、布帛の素材が綿であるが布帛が染色されて親水性基が消費されている場合など)は、印刷層が布帛に対する接着性が得られにくく、転写品位が低下する傾向にある。しかしながら、前処理液に含まれる水が転写の際の加熱により気化して、布帛の素材の構成分子間に保持される等によって、印刷層の布帛に対する接着性が向上する。したがって、布帛の素材が親水性基を有しない場合においては、転写品位を顕著に向上させることができる。加えて、前処理液に含まれる水が転写の際の加熱により気化することによって、転写フィルムのフィルム基材が、転写時に布帛に融着することを抑制することができる。
【0054】
布帛の素材としては、特に限定されず、その例としては、綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維;ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、アセテート、トリアセテート、ポリウレタン等の合成繊維;ポリ乳酸等の生分解性繊維;およびこれらの混紡繊維などが挙げられる。布帛の形態としては、特に限定されず、織物、編物、不織布等であってよい。布帛は、例えば、Tシャツ、ポロシャツ、ジーンズ等の衣料品の生地である。
【0055】
前処理液に使用される水(A’)としては、水性インクジェットインクに使用される水(A)と同様である。前処理液は、一例として水(A’)のみを含むが、その他の成分(例、水溶性有機溶媒、界面活性剤、樹脂微粒子、架橋剤等)を含有していてもよい。前処理液に含有されていてもよい樹脂微粒子および架橋剤は、後述の後処理液に使用されるものと同様である。
【0056】
前処理液の塗布は、例えば、前処理液をスプレー噴霧して布帛に塗布する;前処理液をインクジェット方式で布帛に塗布する;前処理液をロールコータ等のコータを用いて布帛に塗布する;前処理液をヘラ等を用いて布帛に塗布する;布帛を前処理液に浸漬する等の方法によって実施することができる。なかでも、容易に所望の箇所に塗布できることから、前処理液をスプレー噴霧して布帛に塗布する方法、および前処理液をインクジェット方式で布帛に塗布する方法が好ましく、前処理液をスプレー噴霧して布帛に塗布する方法がより好ましい。
【0057】
<転写工程>
転写工程は、典型的には、上記準備した転写フィルムの印刷層と、布帛の被転写面とを貼り合わせ、加熱しながら加圧することにより、行うことができる。
【0058】
加熱温度は、印刷層を転写可能な限り特に制限はなく、例えば125℃以上、好ましくは130℃以上である。一方、加熱温度は、転写フィルムのフィルム基材の融点未満であり、例えば200℃以下、好ましくは185℃以下である。また、加熱温度が、転写フィルムのフィルム基材の軟化点以上であると、フィルム基材を布帛の繊維の網目の凹凸に追従させることができ、これによって転写される印刷層の布帛への定着性を向上させることができるため、有利である。圧力は、印刷層を転写可能な限り特に制限はなく、例えば100g/cm2以上10kg/cm2以下であり、好ましくは200g/cm2以上5kg/cm2以下である。加圧時間は、印刷層を転写可能な限り特に制限はなく、例えば、10秒以上10分以下であり、好ましくは30秒以上5分以下である。
【0059】
加熱しながら加圧することにより、転写フィルムから布帛の被転写面に印刷層が転写され、印刷層を備える布帛が加飾品として得られる。
【0060】
<定着工程>
本発明に係る加飾品の製造方法は、前記印刷層を転写する工程の後に、前記印刷層が転写された布帛の被転写面に、少なくとも水(A’’)と樹脂微粒子(F)とを含む後処理液を塗布し、加熱する工程(定着工程)をさらに含むことが好ましい。定着工程を行うことにより、転写された印刷層に、布帛に対する優れた定着性を付与することができる。
【0061】
後処理液に含有される水(A’’)としては、水性インクジェットインクに使用される水(A)と同様である。
【0062】
後処理液に含有される樹脂微粒子(F)としては、例えば、水性インクジェットインクに定着樹脂として一般的に使用される樹脂の微粒子を用いることができる。樹脂微粒子を構成する樹脂の例としては、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フルオロオレフィン樹脂、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂、スチレン-アクリル樹脂、エチレン-アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル-シリコーン樹脂などが挙げられる。樹脂微粒子は、好ましくはウレタン樹脂の微粒子であり、より好ましくはガラス転移温度(Tg)が0℃以下のウレタン樹脂の微粒子であり、さらに好ましくは転写フィルムの印刷層の形成に用いられる上述の水性インクジェットインクに含まれる樹脂微粒子(E)と同じ樹脂微粒子である。
【0063】
なお、樹脂微粒子(F)は、1種の樹脂によって構成されている必要はなく、2種以上の樹脂によって構成されていてもよい。例えば、コア部とシェル部で樹脂の組成が異なるコア-シェル型の樹脂微粒子や、粒径を制御するために予め作製されたアクリル系微粒子(シード粒子)に対して、さらに異種のモノマーを乳化重合させることにより得られる微粒子などを用いることができる。さらには、アクリル樹脂からなる微粒子とウレタン樹脂からなる微粒子など、異なる樹脂によって構成された樹脂微粒子を化学的に結合させたハイブリッド型の樹脂微粒子などを用いることができる。
【0064】
後処理液中の樹脂微粒子(F)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.05質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上3質量%以下である。
【0065】
後処理液は、水(A’’)と樹脂微粒子(F)以外の成分を含有していてもよい。当該成分の例としては、架橋剤(G)、界面活性剤、水溶性有機溶剤等が挙げられる。
【0066】
後処理液は、布帛の被転写面の転写部以外の変色(特に白化)を抑制できることから、架橋剤(G)を含有することが有利である。架橋剤(G)は、後処理液に含まれる樹脂微粒子(F)の樹脂を架橋する成分であり、その種類は、樹脂微粒子(F)の樹脂種に応じて適宜選択すればよい。樹脂微粒子(F)がウレタン樹脂である場合には、架橋剤(G)として、例えば、カルボジイミド化合物を用いることができる。
【0067】
カルボジイミド化合物は、カルボジイミド基(-N=C=N-)を有する化合物である。カルボジイミド化合物は、ポリカルボジイミド樹脂であることが好ましい。カルボジイミド化合物は、親水性基(例、ポリオキシアルキレン基)を有することが好ましく、水溶性であるか、または水性エマルジョンを形成可能であることが好ましい。
【0068】
カルボジイミド化合物としては、例えば、特許第6291621号公報に記載のポリカルボジイミドを用いることができる。また、市販品としても入手可能であり、市販品の例としては、カルボジライトV-02、V-02-L2、SV-02、V-04、V-10、E-02、E-03A、E-05(以上、日清紡ケミカル社製)等が挙げられる。
【0069】
後処理液中のカルボジイミド化合物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%以上2質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上0.5質量%以下である。
【0070】
樹脂微粒子(F)に対する架橋剤(G)の質量比が、0.001以上0.2以下であることが好ましく、0.005以上0.10以下であることがより好ましい。このとき、布帛の被転写面の転写部以外の変色(特に茶色化)をより抑制することできる。また、印刷層をより強固にすることができ、印刷層のベタツキを抑制することができる。
【0071】
後処理液の塗布は、例えば、後処理液をスプレー噴霧して布帛に塗布する;後処理液をインクジェット方式で布帛に塗布する;後処理液をロールコータ等のコータを用いて布帛に塗布する;後処理液をヘラ等を用いて布帛に塗布する;布帛を後処理液に浸漬する等の方法によって実施することができる。なかでも、容易に所望の箇所に塗布できることから、後処理液をスプレー噴霧して布帛に塗布する方法、および後処理液をインクジェット方式で布帛に塗布する方法が好ましく、後処理液をスプレー噴霧して布帛に塗布する方法がより好ましい。
【0072】
加熱温度は、特に制限はなく、例えば125℃以上、好ましくは130℃以上である。一方、加熱温度は、例えば200℃以下、好ましくは185℃以下である、加熱時間は、特に制限はなく、例えば、10秒以上10分以下であり、好ましくは20秒以上5分以下である。
【0073】
前処理液および後処理液の好適な一態様(a)では、前処理液(a)、および後処理液(a)がそれぞれ、水(A-a)、カルボキシレートアニオン、1価のカチオン、ウレタン樹脂微粒子(F-a)、および界面活性剤(H-a)を含有する。
【0074】
この好適な一態様(a)は、布帛の素材が綿である場合に特に好適であり、綿素材の布帛に対し、転写フィルムの印刷層の転写性および転写された印刷層の洗濯堅牢性に特に優れている。また、この好適な一態様においては、転写された印刷層によって綿素材の布帛の風合いが損なわれることが高度に抑制されている。
【0075】
水(A-a)としては、水性インクジェットインクに使用される水(A)と同様である。処理液(a)および後処理液(a)のそれぞれにおいて、水(A-a)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは85質量%以上であり、好ましくは90質量%以上である。
【0076】
カルボキシレートアニオンは、1価または多価のカルボン酸化合物からH+が解離したアニオンである。当該カルボン酸化合物の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、乳酸等の1価のカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、リンゴ酸等の2価のカルボン酸;クエン酸等の3価のカルボン酸などが挙げられる。なかでも、安全性の観点から、食品類に使用可能な酸(例、酢酸、コハク酸、クエン酸など)が好ましい。1価のカチオンとしては、カリウムイオン(K+)、ナトリウムイオン(Na+)等のアルカリ金属のカチオンなどが挙げられる。カルボキシレートアニオンは、ウレタン樹脂微粒子(F-a)と水素結合し、カルボキシレートアニオンが2価以上のアニオンである場合には、ウレタン樹脂微粒子(F-a)を架橋させることができる。よって、上記カルボン酸化合物は、2価以上であることが好ましい。上記カルボン酸化合物としては、コハク酸およびクエン酸がより好ましく、クエン酸がさらに好ましい。
【0077】
処理液(a)および後処理液(a)のそれぞれにおけるカルボキシレートアニオンおよび1価のカチオンの含有量は、特に限定されない。これらの含有量が多いほど、転写性が向上する傾向があるが、多過ぎると、布帛が茶色に変色するおそれがある。処理液(a)および後処理液(a)のそれぞれにおけるこれらの含有量は、これらのカルボン酸塩換算で、好ましくは0.05質量%1.0質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上0.6質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上0.4質量%以下である。
【0078】
カルボキシレートアニオンおよび1価のカチオンは、前処理液(a)および後処理液(a)にカルボン酸塩またはその水和物を溶解させたものであってもよいし、前処理液(a)および後処理液(a)にカルボン酸と、1価のカチオンを含む塩を溶解させたものであってもよい。
【0079】
前処理液(a)および後処理液(a)がそれぞれ、カルボキシレートアニオンおよび1価のカチオンを含むため、これらの液におけるpHは、弱アルカリ性の範囲にあり得る。前処理液(a)および後処理液(a)のpHはそれぞれ、8以上11未満であることが好ましい。
【0080】
ウレタン樹脂微粒子(F-a)は、特に限定されないが、水性インクジェットインクの定着樹脂として使用される公知のウレタン樹脂微粒子を用いることができる。ウレタン樹脂微粒子(F-a)は、Tgが0℃以下のものが好ましく、Tgが-10℃以下のものがより好ましい。前処理液(a)および後処理液(a)のそれぞれにおいて、ウレタン樹脂微粒子(F-a)の含有量は、特に限定されないが、少なすぎると洗濯堅牢性が低下する傾向にあり、多過ぎると布帛の風合い低減抑制効果が小さくなるおそれがある。ウレタン樹脂微粒子(F-a)の含有量は、好ましくは1.5質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上7質量%以下である。
【0081】
界面活性剤(H-a)としては、特に限定されないが、シリコーン系界面活性剤が好ましく、その具体例としては、シリコーン系界面活性剤(D)と同様である。前処理液(a)および後処理液(a)のそれぞれにおいて、界面活性剤(H-a)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.05質量%以上5.0質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上1.0質量以下である。
【0082】
前処理液(a)および後処理液(a)は、本発明の効果を顕著に阻害しない限り、その他の成分を含有していてもよい。
【0083】
好適な一態様(a)において、前処理液(a)および後処理液(a)の組成は同じであっても異なっていてもよく、一つの液剤を、前処理液(a)および後処理液(a)の両方に使えることから、同じであることが好ましい。
【0084】
前処理液および後処理液の好適な一態様(b)では、前処理液(b)および後処理液(b)がそれぞれ、水(A-b)、ウレタン樹脂微粒子(F-b)、および界面活性剤(H-b)を含有する。前処理液(b)および後処理液(b)は、カルボジイミド系架橋剤(G-b)をさらに含有していてもよい。
【0085】
この好適な一態様(b)は、布帛の素材がポリエステルである場合に特に好適であり、ポリエステル素材の布帛に対し、転写フィルムの印刷層の転写性および転写された印刷層の洗濯堅牢性に特に優れている。また、この好適な一態様においては、転写された印刷層によってポリエステル素材の布帛の風合いが損なわれることが高度に抑制されている。
【0086】
水(A-b)としては、水性インクジェットインクに使用される水(A)と同様である。処理液(b)および後処理液(b)のそれぞれにおいて、水(A-b)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは85質量%以上であり、好ましくは90質量%以上である。
【0087】
カルボジイミド系架橋剤(G-b)としては、上記架橋剤(G)として用いられるカルボジイミド化合物を好適に用いることができる。カルボジイミド系架橋剤(G-b)は、ウレタン樹脂微粒子(F-b)の架橋剤であるが、ポリエステルも架橋することができ、洗濯堅牢性をより向上させる成分である。前処理液(b)および後処理液(b)のそれぞれにおいて、カルボジイミド系架橋剤(G-b)の含有量は、特に限定されないが、少な過ぎるとウレタン樹脂微粒子(F-b)の架橋が不十分となるおそれがあり、多過ぎると、布帛の風合い低減抑制効果が小さくなるおそれがある。カルボジイミド系架橋剤(G-b)の含有量は、好ましくは0.05質量%以上1.5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下である。
【0088】
ウレタン樹脂微粒子(F-b)は、特に限定されないが、水性インクジェットインクの定着樹脂として使用される公知のウレタン樹脂微粒子を用いることができる。ウレタン樹脂微粒子(F-b)は、Tgが0℃以下のものが好ましく、Tgが-10℃以下のものがより好ましい。前処理液(b)および後処理液(b)のそれぞれにおいて、ウレタン樹脂微粒子(F-b)の含有量は、特に限定されないが、少なすぎると洗濯堅牢性が低下する傾向にあり、多過ぎると布帛の風合い低減抑制効果が小さくなるおそれがある。ウレタン樹脂微粒子(F-b)の含有量は、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.7質量%以上7質量%以下である。
【0089】
ウレタン樹脂微粒子(F-b)に対するカルボジイミド系架橋剤(G-b)の割合(カルボジイミド系架橋剤(G-b)/ウレタン樹脂微粒子(F-b))は、特に限定されないが、1質量%以上50質量%以下が好ましく、1質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0090】
界面活性剤(H-b)としては、特に限定されないが、シリコーン系界面活性剤が好ましく、その具体例としては、シリコーン系界面活性剤(D)と同様である。前処理液(b)および後処理液(b)のそれぞれにおいて、界面活性剤(H-b)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.05質量%以上5.0質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上1.0質量以下である。
【0091】
前処理液(b)および後処理液(b)は、本発明の効果を顕著に阻害しない限り、その他の成分を含有していてもよい。
【0092】
好適な一態様(b)において、前処理液(b)および後処理液(b)の組成は同じであっても異なっていてもよく、一つの液剤を、前処理液(b)および後処理液(b)の両方に使えることから、同じであることが好ましい。
【0093】
前処理液および後処理液の別の好適な一態様(c)では、前処理液が、水(A-c1);カルボキシレートアニオンおよび1価のカチオンの組み合わせ、および架橋剤(G-c)のいずれかまたは両方;ウレタン樹脂微粒子(F-c1);および界面活性剤(H-c1)を含有し、後処理液が、水(A-c2)、アクリル樹脂微粒子(F-c2)、および界面活性剤(H-c2)を含有する。
【0094】
この好適な一態様(c)では、布帛の素材がポリエステルおよび綿のいずれである場合でも好適であり、綿素材およびポリエステル素材の布帛に対し、転写フィルムの印刷層の転写性および転写された印刷層の洗濯堅牢性に特に優れている。また、この好適な一態様においては、転写された印刷層によって綿素材およびポリエステル素材の布帛の風合いが損なわれることが抑制されている。また、転写された印刷層が、布帛または他の印刷層に再転写されることが抑制されている。
【0095】
水(A-c1)としては、水性インクジェットインクに使用される水(A)と同様である。前処理液(c)において、水(A-c1)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは85質量%以上であり、好ましくは90質量%以上である。
【0096】
前処理液(c)は、カルボキシレートアニオンおよび1価のカチオンの組み合わせを含有するか、カルボジイミド系架橋剤(G-c1)を含有するか、またはカルボキシレートアニオンおよび1価のカチオンの組み合わせとカルボジイミド系架橋剤(G-c)との両方を含有する。
【0097】
カルボキシレートアニオンおよび1価のカチオンとしては、上記前処理液(a)および後処理液(a)に用いられるカルボキシレートアニオンおよび1価のカチオンと同様である。前処理液(c)におけるこれらの含有量は、特に限定されないが、これらのカルボン酸塩換算で、好ましくは0.05質量%1.0質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上0.6質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上0.4質量%以下である。
【0098】
カルボジイミド系架橋剤(G-c)としては、上記架橋剤(G)として用いられるカルボジイミド化合物を好適に用いることができる。前処理液(c)において、カルボジイミド系架橋剤(G-c)の含有量は、特に限定されないが、少な過ぎるとウレタン樹脂微粒子(F-c)の架橋が不十分となるおそれがあり、多過ぎると、布帛の風合い低減抑制効果が小さくなるおそれがある。カルボジイミド系架橋剤(G-c)の含有量は、好ましくは0.05質量%以上1.5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下である。
【0099】
ウレタン樹脂微粒子(F-c1)は、特に限定されないが、水性インクジェットインクの定着樹脂として使用される公知のウレタン樹脂微粒子を用いることができる。ウレタン樹脂微粒子(F-c1)は、Tgが0℃以下のものが好ましく、Tgが-10℃以下のものがより好ましい。前処理液(c)において、ウレタン樹脂微粒子(F-c1)の含有量は、特に限定されないが、少なすぎると洗濯堅牢性が低下する傾向にあり、多過ぎると布帛の風合い低減抑制効果が小さくなるおそれがある。ウレタン樹脂微粒子(F-c1)の含有量は、好ましくは0.5質量%以上15質量%以下であり、より好ましくは4質量%以上12質量%以下である。
【0100】
界面活性剤(H-c1)としては、特に限定されないが、シリコーン系界面活性剤が好ましく、その具体例としては、シリコーン系界面活性剤(D)と同様である。前処理液(c)において、界面活性剤(H-c1)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.05質量%以上5.0質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上1.0質量以下である。
【0101】
水(A-c2)としては、水性インクジェットインクに使用される水(A)と同様である。後処理液(c)において、水(A-c2)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは85質量%以上であり、好ましくは90質量%以上である。
【0102】
アクリル樹脂微粒子(F-c2)としては、水性インクジェットインクの定着樹脂として使用される公知のアクリル樹脂微粒子を用いることができる。アクリル樹脂微粒子は、アクリル系モノマー(特にアクリル酸エステル)の単独重合体の微粒子であってよく、アクリル系モノマー(特にアクリル酸エステル)が共重合された共重合体(例えば、スチレン-アクリル酸エステル共重合体など)の微粒子であってもよい。アクリル樹脂微粒子(F-c2)は、公知方法に従い合成することができ、市販品としてエマルジョンの形態で入手することもできる。市販品の例としては、ジャパンコーティングレジン社製のモビニール6960、6963,6718、6751D、6750、6760、6770、6901、6951、6940、6950等が挙げられる。アクリル樹脂微粒子(F-c2)としては、Tgが0℃以下のものが好ましく、Tgが-10℃以下のものがより好ましい。
【0103】
後処理液(c)におけるアクリル樹脂微粒子(F-c2)の含有量は特に限定されないが、少なすぎると最転写抑制効果が低下する傾向にあり、多過ぎると洗濯堅牢性向上効果が小さくなるおそれがある。後処理液(c)におけるアクリル樹脂微粒子(F-c2)の含有量は、好ましくは1質量%以上18質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上7質量%以下である。
【0104】
後処理液(c)は、ウレタン樹脂微粒子をさらに含有することが好ましい。後処理液(c)が、アクリル樹脂微粒子(F-c2)に加えてウレタン樹脂微粒子を含有することにより、洗濯堅牢性がより向上する。後処理液(c)におけるウレタン樹脂微粒子の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上7質量%以下である。
【0105】
界面活性剤(H-c2)としては、特に限定されないが、シリコーン系界面活性剤が好ましく、その具体例としては、シリコーン系界面活性剤(D)と同様である。前処理液(c)において、界面活性剤(H-c2)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.05質量%以上5.0質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上1.0質量以下である。
【0106】
前処理液(c)および後処理液(c)は、本発明の効果を顕著に阻害しない限り、その他の成分を含有していてもよい。
【0107】
以上のようにして、布帛に印刷を施した加飾品を得ることができる。本発明の製造方法においては、インクジェット法により作製可能な転写フィルムを用いるため、布帛に対してオンデマンドで多種のデザインを少量印刷することが可能である。また、当該転写フィルムの印刷層が特定の組成の水性インクジェットインクによって形成されるため、発色性が高い。また、特定の組成の水性インクジェットインクによって形成された印刷層は、転写フィルムのフィルム基材から布帛へ印刷層のみを転写することが可能である。そのため、布帛の風合いを損ねずに印刷を行うことが可能である。
【0108】
本発明は別の観点から、布帛と、前記布帛に接する印刷層とを備える加飾品であって、当該印刷層は、上述の水性インクジェットインクを用いて形成されたものであり、かつ当該印刷層は、当該布帛上に転写されたものである。
【0109】
このような加飾品は、印刷層の発色に優れ、印刷層によって布帛の風合いが、ほとんどまたは全く損なわれていないものとなっている。
【実施例0110】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0111】
<実施例1~13>
〔転写フィルムの作製〕
下記の表1に示す成分を常法に従って混合して、シアン(C)インク、マゼンタ(M)インク、イエロー(Y)インク、ブラック(K)インク、およびホワイト(Wh)インクを調製し、水性インクジェットインクセットを得た。
【0112】
【0113】
(表中の各成分についての数値は、質量割合(%)を示す。)
CAB-O-JET260C(キャボット社製):シアン系自己分散顔料(固形分10質量%の水性エマルジョン)
CAB-O-JET260M(キャボット社製):マゼンタ系自己分散顔料(固形分10質量%の水性エマルジョン)
CAB-O-JET270(キャボット社製):イエロー系自己分散顔料(固形分10質量%の水性エマルジョン)
CAB-O-JET300(キャボット社製):ブラック系自己分散顔料(固形分15質量%の水性エマルジョン)
WD-0024(テイカ社製):酸化チタン(固形分45%の水性エマルジョン)
SAG503A(日信化学工業社製):シリコーン系界面活性剤「シルフェイスSAG503A」
スーパーフレックス460(第一工業製薬社製):ウレタン樹脂の水性エマルジョン(樹脂Tg:-21℃、固形分38質量%)
【0114】
転写フィルムのフィルム基材として、以下を用意した。
フィルム基材1:パナック社製ポリエチレンテレフタレート離型・転写用フィルム「TP-01」
フィルム基材2:東レ社製オレフィン離型フィルム「DECOFIT」
【0115】
表1の水性インクジェットインクセットをローランドディー.ジー.社製のインクジェットプリンタ「VS-3000i」に搭載させた。このプリンタのプレヒータの温度を45℃に設定し、上記のフィルム基材1またはフィルム基材2上に印刷を行った。印刷後のフィルム基材を100℃に設定したホットプレート上で30分間乾燥して、フィルム基材上に印刷層を備える転写フィルムを得た。印刷層の画像は、C、M、Y、K、Whの5色のベタ画像であり、大きさは40mm×40mm×とした。
【0116】
布帛品として、綿100%白Tシャツ(キャブ社製「United Athel 5.6オンス ハイクオリティー Tシャツ」)、綿100%黒Tシャツ(TOMS社製「Printstar 6.6オンス ハイグレードTシャツ」)、およびポリエステル100%白Tシャツ(キャブ社製「United Athel 4.1オンス ドライアスレチック Tシャツ」)を用意した。
【0117】
一部の実施例において、前処理液塗布工程として、これらのTシャツの被転写面に前処理液として水をスプレー塗布した。
【0118】
ハシマ社製平型昇華転写プレス装置「HSP-5400」において、これらのTシャツの被転写面に転写フィルムの印刷層が接触するように、Tシャツと転写フィルムを重ね合わせた。さらにその上に、シリコンペーパーおよびゴム板を載せた。このプレス装置により、表2に示す温度と約300g/cm2の圧力で60秒間熱プレスを行うことにより、印刷層を、転写フィルムからTシャツに転写した。
【0119】
以上の方法により得られた布帛品(Tシャツ)に印刷層が転写された加飾品について、次の評価を行った。
【0120】
〔転写品位〕
印刷層の状態について目視で観察を行い、転写品位を以下の基準で評価した。結果を表2および3に示す。なお「〇」と「△」を合格とした。
〇:印刷層全体がTシャツに密着している
△:Tシャツ上の印刷層に一部浮きが見られる
×:印刷層が転写できていない、印刷層の一部のみが転写されている、またはフィルムが融着して剥がれない
【0121】
〔発色性〕
Tシャツ上の印刷層について目視で観察を行い、発色性を以下の基準で評価した。結果を表2および3に示す。なお「〇」と「△」を合格とした。
〇:色に濃淡なく印刷層を転写でき、転写フィルム基材にも印刷層が残っていない
△:色に濃淡なく印刷層を転写できたが、転写フィルム基材に色がわかる程度に印刷層がごく薄く残っている
×:転写フィルム基材に印刷層が厚く残り、転写された印刷層の色の濃度に濃淡が現れている
【0122】
〔定着性〕
水に濡らした布を用意し、この布をTシャツ上の印刷層と擦り合わせ、印刷層の一部が脱離するかどうかを目視で観察を行い、定着性を以下の基準で評価した。さらに定着性が悪かった実施例について、定着工程として、Tシャツの被転写面に、後処理液をスプレー塗布した。その上にシリコンペーパーを載せ、上記のプレス装置を用いて、加圧せずに150℃で60秒間加熱を行い、その後の定着性を評価した。なお、後処理液としては、水94.8質量%、SAG503A(シリコーン系界面活性剤)0.2質量%、およびスーパーフレックス460(ウレタン樹脂微粒子を38質量%含有するエマルジョン)5質量%を含有するものを用いた。結果を表2および3に示す。なお「〇」を合格とした。
〇:印刷層の脱離が起こらない
×:印刷層が一部脱離した
【0123】
【0124】
【0125】
表2および3の結果が示すように、特定の組成を有するインクジェットインクを用いて転写フィルムを作製し、布帛に転写することにより、高い発色性が得られることがわかる。また、実施例1~13において、印刷層のみが単層で布帛に転写されるため、布帛の風合いが損なわれていなかった。また、表2の結果より、前処理液塗布工程を行うことにより、転写品位が向上することがわかる。また、表2および3の結果より、定着工程を行うことにより、定着性が向上することがわかる。
【0126】
さらに、本発明者は水性インクジェットインクの組成について検討し、インク中の置換ブタノールの含有量が9質量%以上27質量%以下であれば、発色性が高いことを確認した。また、インク中の樹脂微粒子(E)のインク中の含有量が2.5質量%以上であれば、印刷層を単層で転写できることを確認した。
【0127】
〔実施例14~17および参考例1~3〕
表4に示す組成の処理液を調製した。一方で、上記の水性インクジェットインクセットと、フィルム基材1(パナック社製ポリエチレンテレフタレート離型・転写用フィルム「TP-01」)とを用いて、上記と同様にして転写フィルムを作製した。上記綿100%白Tシャツを用意し、このTシャツの被転写面に上記作製した処理液をスプレー塗布した。ハシマ社製平型昇華転写プレス装置「HSP-5400」において、上記綿100%白Tシャツの被転写面にこの転写フィルムの印刷層が接触するように、Tシャツと転写フィルムとを重ね合わせた。さらにその上に、シリコンペーパーとゴム板とを載せた。このプレス装置により、150℃で約300g/cm2の圧力で20秒間熱プレスを行うことにより、印刷層を、転写フィルムからTシャツに転写した。
【0128】
Tシャツの被転写面の印刷層を含む領域に、上記作製した処理液をスプレー塗布した。その上にシリコンペーパーを載せ、上記のプレス装置を用いて、加圧せずに150℃で60秒間加熱を行った。このようにして、印刷層が転写されたTシャツを得た。
【0129】
印刷層が転写されたTシャツにおける、定着性、白ボケ、茶色化、ベタツキについて下記のように評価した。結果を表4に示す。
【0130】
〔定着性〕
Tシャツに転写された印刷層を爪で擦り、印刷層に剥離が起きるかどうかを目視で観察して、以下の基準で評価した。
〇:印刷層が剥離しない
×:印刷層の一部に剥離が起きる
【0131】
〔白ボケ〕
Tシャツの被転写面の非転写部の生地に白化が起きているかどうかを目視で観察して、以下の基準で評価した。
〇:生地が白っぽくなっていない
△:生地が少し白っぽくなった
×:生地が白っぽくなった
【0132】
〔茶色化〕
Tシャツの被転写面の非転写部の生地に茶色化が起きているかどうかを目視で観察して、以下の基準で評価した。
〇:生地が茶色味を帯びていない
△:転写フィルムとの境界において生地が少し茶色味を帯びた
×:転写フィルムとの境界において生地が茶色味を帯びた
【0133】
〔ベタツキ〕
Tシャツに転写された印刷層の表面にベタツキがあるかどうかを指で触って確認し、以下の基準で評価した。
〇:印刷層の表面がべたつかない
△:印刷層の表面が少しべたつく
×:印刷層の表面がべたつく
【0134】
【0135】
(表中の各成分についての数値は、質量割合(%)を示す。)
V-04(日清紡ケミカル社製):水溶性ポリカルボジイミド樹脂水溶液「カルボジライトV-04」(固形分40質量%)
ウレタン樹脂エマルジョン:スーパーフレックス460(第一工業製薬社製、樹脂Tg:-21℃、固形分38質量%)
【0136】
表4の結果(特に実施例14~16と参考例1~3との比較)より、後処理液が水と樹脂微粒子を少なくとも含有することにより、定着性を向上させることができることがわかる。そして、実施例14と、実施例15および16との比較より、後処理液が架橋剤をさらに含有することにより、布帛の被転写面の転写部以外の白化を抑制できることがわかる。また、実施例15と実施例16との比較より、後処理液に含まれる樹脂微粒子に対する架橋剤の質量割合を調製することによって、布帛の被転写面の転写部以外の茶色化を抑制できると共に、印刷層のべたつきを抑制できることがわかる。
【0137】
〔実施例18~28〕
表1の水性インクジェットインクセットをローランドディー.ジー.社製のインクジェットプリンタ「VS-3000i」に搭載させた。このプリンタのプレヒータの温度を40℃に設定し、フィルム基材(パナック社製ポリエチレンテレフタレート離型・転写用フィルム「TP-05」)上に印刷を行った。このとき、CMYKのフルベタ層の上に、Wを重ねて印刷した。印刷後のフィルム基材を100℃に設定したホットプレート上で3分間乾燥して、フィルム基材上に印刷層を備える転写フィルムを得た。なお、転写フィルムのサイズは、160mm×160mm×とした。
【0138】
表5に示す組成の処理液を作製して、ハンディスプレーに充填した。綿100%白Tシャツ(キャブ社製「United Athel 5.6オンス ハイクオリティー Tシャツ5100」)を用意し、このTシャツの被転写面に上記作製した処理液をスプレー塗布した。処理液の塗布量は、0.010~0.015g/cm2とした。ハシマ社製平型昇華転写プレス装置「HSP-5400」において、Tシャツの被転写面にこの転写フィルムの印刷層が接触するように、Tシャツと転写フィルムとを重ね合わせた。さらにその上に、シリコンペーパーとゴム板とを載せた。このプレス装置により、180℃で約300g/cm2の圧力で1分間熱プレスを行って、印刷層を、転写フィルムからTシャツに転写した。
【0139】
Tシャツの被転写面の印刷層を含む領域に、上記作製した処理液をスプレー塗布した。よって実施例では前処理液と後処理液に同じものを用いた。処理液の塗布量は、0.010~0.015g/cm2とした。その上にシリコンペーパーを載せ、上記のプレス装置を用いて、180℃で約300g/cm2の圧力で1分間熱プレスを行って、印刷層の定着を行った。このようにして、印刷層が転写されたTシャツを得た。
【0140】
印刷層が転写されたTシャツについて、転写性、風合いの維持、および洗濯堅牢性について下記のように評価した。結果を表5に示す。
【0141】
〔転写性〕
印刷層を転写フィルムからTシャツに転写した際に、印刷層のすべてがTシャツに転写されるかどうかを評価した。
〇:印刷層の全面が転写される
×:印刷層の一部または全面が転写されない
【0142】
〔風合いの維持〕
印刷層が転写されたTシャツを着用する際に、Tシャツの生地の伸び具合に違和感を感じるかどうかを評価した。また、違和感を全く感じないものについて、Tシャツの生地の黄ばみの有無を評価した。これに基づき、下記の基準に従って、風合いの維持について評価した。
〇:違和感を全く感じない
△:違和感を少し感じる
×:違和感を感じる
▲:少し黄ばむが目立たない
【0143】
〔選択堅牢性〕
印刷層が転写されたTシャツを、家庭用洗濯機で10回選択し、印刷層のCMYKのフルベタ層の洗濯前後での色差ΔEを測定した。この色差ΔEより、下記の基準で選択堅牢性を評価した。
〇:色差ΔEが10以下
△:色差ΔEが10超15未満
×:色差ΔEが15以上
【0144】
【0145】
(表中の各成分についての数値は、質量割合(%)を示す。)
スーパーフレックス460(第一工業製薬社製):ウレタン樹脂エマルジョン(樹脂Tg:-21℃、固形分38質量%)
ST-053D(宇部興産社製):ウレタン樹脂エマルジョン(樹脂Tg:-20℃以下、固形分30質量%)
SAG503A(日信化学工業社製):シリコーン系界面活性剤「シルフェイスSAG503A」
【0146】
また表5において、pH領域は、6未満を「酸性」、6以上8未満を「中性」、8以上11未満を「弱アルカリ性」、11以上を「アルカリ性」とした。
【0147】
表5の結果(特に実施例18~25と実施例26~28との比較)より、布帛の素材が綿であり、前処理液および後処理液がそれぞれ、水、カルボキシレートアニオン、1価のカチオン、ウレタン樹脂微粒子、および界面活性剤を含有する場合に、高い転写性と風合いの維持だけでなく、高い洗濯堅牢性が得られることがわかる。
【0148】
〔実施例29~37〕
表1の水性インクジェットインクセットをローランドディー.ジー.社製のインクジェットプリンタ「VS-3000i」に搭載させた。このプリンタのプレヒータの温度を40℃に設定し、フィルム基材(パナック社製ポリエチレンテレフタレート離型・転写用フィルム「TP-05」)上に印刷を行った。このとき、CMYKのフルベタ層の上に、Wを重ねて印刷した。印刷後のフィルム基材を100℃に設定したホットプレート上で3分間乾燥して、フィルム基材上に印刷層を備える転写フィルムを得た。なお、転写フィルムのサイズは、160mm×160mm×とした。
【0149】
表6に示す組成の処理液を作製して、ハンディスプレーに充填した。ポリエステル100%白Tシャツ(キャブ社製「United Athel 4.1オンス ドライアスレチック Tシャツ」)を用意し、このTシャツの被転写面に上記作製した処理液をスプレー塗布した。処理液の塗布量は、0.010~0.015g/cm2とした。ハシマ社製平型昇華転写プレス装置「HSP-5400」において、Tシャツの被転写面にこの転写フィルムの印刷層が接触するように、Tシャツと転写フィルムとを重ね合わせた。さらにその上に、シリコンペーパーとゴム板とを載せた。このプレス装置により、160℃で約300g/cm2の圧力で1分間熱プレスを行うことにより、印刷層を、転写フィルムからTシャツに転写した。
【0150】
Tシャツの被転写面の印刷層を含む領域に、上記作製した処理液をスプレー塗布した。よって実施例では前処理液と後処理液に同じものを用いた。処理液の塗布量は、0.010~0.015g/cm2とした。その上にシリコンペーパーを載せ、上記のプレス装置を用いて、160℃で約300g/cm2の圧力で1分間熱プレスを行うことにより、印刷層の定着を行った。このようにして、印刷層が転写されたTシャツを得た。
【0151】
印刷層が転写されたTシャツについて、転写性、洗濯堅牢性、および風合いの維持について下記のように評価した。結果を表6に示す。
【0152】
〔転写性〕
印刷層を転写フィルムからTシャツに転写した際に、印刷層のすべてがTシャツに転写されるかどうかを評価した。
〇:印刷層の全面が転写される
×:印刷層の一部または全面が転写されない
【0153】
〔洗濯堅牢性〕
印刷層が転写されたTシャツを、家庭用洗濯機で10回選択し、印刷層のCMYKのフルベタ層の洗濯前後での色差ΔEを測定した。この色差ΔEより、下記の基準で選択堅牢性を評価した。
〇:色差ΔEが10以下
△:色差ΔEが10超15未満
×:色差ΔEが15以上
【0154】
〔風合いの維持〕
印刷層が転写されたTシャツを着用する際に、Tシャツの生地の伸び具合に違和感を感じるかどうかを評価した。これに基づき、下記の基準に従って、風合いの維持について評価した。
〇:違和感を全く感じない
△:違和感を少し感じる
×:違和感を感じる
【0155】
【0156】
(表中の各成分についての数値は、質量割合(%)を示す。)
V-02(日清紡ケミカル社製):水溶性ポリカルボジイミド樹脂水溶液「カルボジライトV-02」(固形分40質量%)
E-05(日清紡ケミカル社製):水溶性ポリカルボジイミド樹脂水溶液「カルボジライトE-05」(固形分40質量%)
スーパーフレックス460(第一工業製薬社製):ウレタン樹脂エマルジョン(樹脂Tg:-21℃、固形分38質量%)
ST-053D(宇部興産社製):ウレタン樹脂エマルジョン(樹脂Tg:-20℃以下、固形分30質量%)
SAG503A(日信化学工業社製):シリコーン系界面活性剤「シルフェイスSAG503A」
【0157】
表6の結果より、布帛の素材がポリエステルであり、前処理液および前記後処理液がそれぞれ、水、ウレタン樹脂微粒子、および界面活性剤を含有する場合に、高い転写性と風合いの維持だけでなく、高い洗濯堅牢性が得られることがわかる。
【0158】
〔実施例38~51〕
表1の水性インクジェットインクセットをローランドディー.ジー.社製のインクジェットプリンタ「VS-3000i」に搭載させた。このプリンタのプレヒータの温度を40℃に設定し、フィルム基材(パナック社製ポリエチレンテレフタレート離型・転写用フィルム「TP-05」)上に印刷を行った。このとき、CMYKのフルベタ層の上に、Wを重ねて印刷した。印刷後のフィルム基材を100℃に設定したホットプレート上で3分間乾燥して、フィルム基材上に印刷層を備える転写フィルムを得た。なお、転写フィルムのサイズは、160mm×160mm×とした。
【0159】
表7に示す組成の前処理液と、表8に示す組成の後処理液とを作製して、ハンディスプレーに充填した。綿100%白Tシャツ(キャブ社製「United Athel 5.6オンス ハイクオリティー Tシャツ5100」)およびポリエステル100%白Tシャツ(キャブ社製「United Athel 4.1オンス ドライアスレチック Tシャツ」)を用意し、これらのTシャツの被転写面に表9に示す前処理液をスプレー塗布した。前処理液の塗布量は、0.010~0.015g/cm2とした。ハシマ社製平型昇華転写プレス装置「HSP-5400」において、Tシャツの被転写面にこの転写フィルムの印刷層が接触するように、Tシャツと転写フィルムとを重ね合わせた。さらにその上に、シリコンペーパーとゴム板とを載せた。このプレス装置により、綿100%白Tシャツについては180℃で約300g/cm2の圧力で1分間熱プレスを行い、ポリエステル100%白Tシャツについては160℃で約300g/cm2の圧力で1分間熱プレスを行って、印刷層を、転写フィルムからTシャツに転写した。
【0160】
Tシャツの被転写面の印刷層を含む領域に、表9に示す後処理液をスプレー塗布した。後処理液の塗布量は、0.010~0.015g/cm2とした。その上にシリコンペーパーを載せ、上記のプレス装置を用いて、綿100%白Tシャツについては180℃で約300g/cm2の圧力で1分間熱プレスを行い、ポリエステル100%白Tシャツについては160℃で約300g/cm2の圧力で1分間熱プレスを行って、印刷層の定着を行った。このようにして、印刷層が転写されたTシャツを得た。
【0161】
印刷層が転写されたTシャツについて、転写性、風合いの維持、再転写抑制性、および洗濯堅牢性について下記のように評価した。結果を表9に示す。
【0162】
〔転写性〕
印刷層を転写フィルムからTシャツに転写した際に、印刷層のすべてがTシャツに転写されるかどうかを評価した。
〇:印刷層の全面が転写される
×:印刷層の一部または全面が転写されない
【0163】
〔風合いの維持〕
印刷層が転写されたTシャツを着用する際に、Tシャツの生地の伸び具合に違和感を感じるかどうかを評価した。これに基づき、下記の基準に従って、風合いの維持について評価した。
〇:違和感を全く感じない
△:違和感を少し感じる
×:違和感を感じる
【0164】
〔再転写抑制性〕
定着を行った後すぐにTシャツの印刷層が転写された面を折りたたみ、転写された印刷層の剥がれの有無を目視で観察し、以下の基準に従って、評価した。
〇:印刷層に剥がれがなく、再転写が起こらない
△:印刷層の一部が剥がれて他の面に再転写した
×:印刷層の全面が剥がれて他の面に再転写した
【0165】
〔選択堅牢性〕
印刷層が転写されたTシャツを、家庭用洗濯機で10回選択し、印刷層のCMYKのフルベタ層の洗濯前後での色差ΔEを測定した。この色差ΔEより、下記の基準で選択堅牢性を評価した。
〇:色差ΔEが10以下
△:色差ΔEが10超15未満
×:色差ΔEが15以上
【0166】
【0167】
【0168】
(表中の各成分についての数値は、質量割合(%)を示す。)
V-02(日清紡ケミカル社製):水溶性ポリカルボジイミド樹脂水溶液「カルボジライトV-02」(固形分40質量%)
E-05(日清紡ケミカル社製):水溶性ポリカルボジイミド樹脂水溶液「カルボジライトE-05」(固形分40質量%)
スーパーフレックス460(第一工業製薬社製):ウレタン樹脂エマルジョン(樹脂Tg:-21℃、固形分38質量%)
モビニール6963(ジャパンコーティングレジン社製):スチレン-アクリル樹脂エマルジョン(樹脂Tg:-26℃、固形分45質量%)
モビニール6751D(ジャパンコーティングレジン社製):アクリル樹脂エマルジョン(樹脂Tg:-32℃、固形分50質量%)
ST-053D(宇部興産社製):ウレタン樹脂エマルジョン、樹脂Tg:-20℃以下、固形分30質量%)
SAG503A(日信化学工業社製):シリコーン系界面活性剤「シルフェイスSAG503A」
【0169】
【0170】
表7~9の結果より、前処理液が、水;カルボキシレートアニオンおよび1価のカチオンの組み合わせ、および架橋剤のいずれかまたは両方;ウレタン樹脂微粒子;および界面活性剤を含有し、後処理液が、水、アクリル樹脂微粒子、および界面活性剤を含有する場合に、綿素材およびポリエステル素材の布帛に対する高い転写性と風合いの維持だけでなく、高い洗濯堅牢性と高い再転写抑制性が得られることがわかる。