(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021635
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】滑り免震装置を構成する沓とその前駆体、及びその製作方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20220127BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
F16F15/02 M
F16F15/02 E
E04H9/02 331E
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020125339
(22)【出願日】2020-07-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2020-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 伸介
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC04
2E139AC19
2E139CA22
2E139CA24
3J048AA07
3J048AC01
3J048BE11
3J048BG01
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】製作コストが増加することなく、製作手間のかからない滑り免震装置を構成する沓の製作方法と、沓と、沓の前駆体を提供すること。
【解決手段】滑り免震装置100,200を構成する沓40の第一摺動面12において、摺動体60,70の第二摺動面62,72,73に取り付けられている摩擦材64,74の相手材20を設置する、滑り免震装置を構成する沓の製作方法であり、平面視円形の第一摺動面12を備える第一分割沓11に対して、摺動体の摺動範囲を規定する平面視円形のストッパーリング16を備えている第二分割沓15を取り付けることにより沓本体10を製作し、ストッパーリング16の内周の直径よりも大きな直径を有する平面視円形の相手材20をストッパーリング16に対して同心に位置合わせし、相手材20を第一摺動面に押し付けることにより、相手材20を湾曲に変形させてストッパーリング16内に嵌め込む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑り免震装置を構成する沓の凹球状の第一摺動面において、摺動体の凸球状の第二摺動面に取り付けられている摩擦材の相手材を設置する、滑り免震装置を構成する沓の製作方法であって、
平面視円形の前記第一摺動面を備える第一分割沓に対して、前記摺動体の摺動範囲を規定する平面視円形のストッパーリングを備えている第二分割沓を取り付けることにより、沓本体を製作し、
前記ストッパーリングの内周の直径よりも大きな直径を有する平面視円形の前記相手材を、前記ストッパーリングに対して同心に位置合わせし、該相手材を前記第一摺動面に押し付けることにより、該相手材を湾曲に変形させて該ストッパーリング内に嵌め込むことを特徴とする、滑り免震装置を構成する沓の製作方法。
【請求項2】
二つの第三分割沓を相互に取り付けることにより前記第二分割沓を製作し、該第二分割沓を前記第一分割沓に取り付けることを特徴とする、請求項1に記載の滑り免震装置を構成する沓の製作方法。
【請求項3】
前記第一分割沓における前記第一摺動面の周囲に環状溝が設けられており、
前記第二分割沓において前記環状溝に対応する位置に環状せん断キーが設けられており、
前記環状溝に前記環状せん断キーを嵌め込むことにより、該第二分割沓を前記第一分割沓に取り付けることを特徴とする、請求項1又は2に記載の滑り免震装置を構成する沓の製作方法。
【請求項4】
前記相手材は、前記ストッパーリング内の前記第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の滑り免震装置を構成する沓の製作方法。
【請求項5】
前記相手材を前記第一摺動面に押し付ける際に押し付け治具を適用し、該押し付け治具は、前記第一摺動面と同じ曲率を有する中空もしくは中実なブロック体、もしくは、前記第一摺動面と同じ曲率の押し付け面を有する複数の押し付け片を放射状に備えている線状体、のいずれか一種であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の滑り免震装置を構成する沓の製作方法。
【請求項6】
前記ストッパーリングの内周面が、前記第一摺動面側から外側に向かって末広がりのテーパー面であり、該テーパー面に沿って前記相手材を前記第一摺動面に嵌め込むことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の滑り免震装置を構成する沓の製作方法。
【請求項7】
前記相手材はステンレス製の相手材であり、該相手材の厚みが1mm以上であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の滑り免震装置を構成する沓の製作方法。
【請求項8】
滑り免震装置を構成する沓であって、
前記沓は、
凹球状の第一摺動面を備える沓本体と、
前記第一摺動面に設置される相手材であって、摺動体の凸球状の第二摺動面に取り付けられている摩擦材の相手材と、を有する、滑り免震装置を構成する沓において、
前記沓本体は、平面視円形の前記第一摺動面を備える第一分割沓に対して、前記摺動体の摺動範囲を規定する平面視円形のストッパーリングを備えている第二分割沓が取り付けられることにより形成されており、
平面視円形の前記相手材は、前記ストッパーリング内の前記第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していて、前記ストッパーリング内に嵌め込まれていることにより、該ストッパーリング内において該相手材はその径方向に圧縮力を有する状態となっていることを特徴とする、滑り免震装置を構成する沓。
【請求項9】
滑り免震装置を構成する沓の前駆体であって、
凹球状の第一摺動面を備える沓本体と、
前記第一摺動面に設置される相手材であって、摺動体の凸球状の第二摺動面に取り付けられている摩擦材の相手材と、を有し、
前記沓本体は、平面視円形の前記第一摺動面を備える第一分割沓に対して、前記摺動体の摺動範囲を規定する平面視円形のストッパーリングを備えている第二分割沓が取り付けられることにより形成されており、
平面視円形の前記相手材は、前記ストッパーリング内の前記第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していることを特徴とする、滑り免震装置を構成する沓の前駆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り免震装置を構成する沓とその前駆体、及びその製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震国であるわが国においては、ビルや橋梁、高架道路、戸建の住宅といった様々な構造物に対して、地震力に抗する技術、構造物に入る地震力を低減する技術など、様々な耐震技術や免震技術、制震技術が開発され、各種構造物に適用されている。中でも免震技術は、構造物に入る地震力そのものを低減する技術であることから、地震時の構造物の振動は効果的に低減される。この免震技術を概説すると、下部構造物である基礎と上部構造物との間に免震装置を介在させ、地震による基礎の振動の上部構造物への伝達を低減し、上部構造物の振動を低減して構造安定性を保証するものである。尚、この免震装置は、地震時のみならず、構造物に対して常時作用する交通振動の上部構造物への影響低減にも効果を発揮する。
【0003】
免震装置には、鉛プラグ入り積層ゴム支承装置や高減衰積層ゴム支承装置、積層ゴム支承とダンパーを組み合わせた装置、滑り免震装置など、様々な形態の装置が存在している。その中で、滑り免震装置には平面滑り免震装置と球面滑り免震装置があり、平面滑り免震装置は復元力を有しないが、球面滑り免震装置は復元力を有し、地震時のセルフセンタリング機能を有する。
【0004】
球面滑り免震装置には、摺動体の上下いずれか一方に沓が配設されている片面滑り免震装置と、摺動体の上下に沓(上沓及び下沓)が配設され、上下の沓の間で摺動体が摺動する両面滑り免震装置があるが、いずれの免震装置においても、例えば、摺動体の有する凸球状の摺動面に摩擦材が取り付けられ、沓の有する凹球状の摺動面に摩擦材の相手材(滑り板)が取り付けられている。例えば、特許文献1に記載の免震構造においては、球面滑り支承のうち、両面滑り免震支承が開示されており、上下の沓に相当する上部プレートと下部プレートの凹球面においてそれぞれ、相手材に相当する滑り板が取り付けられている構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の沓の製作方法の一例を概説すると以下の通りとなる。まず、所定の曲率を有する成形型のキャビティに相手材形成用の金属板を収容し、金属板をプレス冷間加工等して塑性変形させることにより、所定の曲率を有する相手材を製作する。次に、製作された曲率を有する相手材を、沓本体の有する同様の曲率を備えた凹球状の摺動面に取り付けることにより、沓本体に相手材が取り付けられた沓が製作される。
【0007】
しかしながら、この製作方法では、製作される相手材の有する曲率面に応じたキャビティを有する成形型を都度用意する必要があり、結果として沓の製作コストの増加に繋がる。さらに、沓本体に相手材を取り付けるに当たり、相手材を冷間プレスする工程と、冷間プレスされた相手材を沓本体に取り付ける工程といった複数の工程を要することから、自ずと製作手間がかかる。
【0008】
本発明は、製作コストが増加することなく、製作手間のかからない滑り免震装置を構成する沓の製作方法と、この製作方法により製作された沓、さらには、この沓の前駆体を提供することを目的としている。
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一態様は、
滑り免震装置を構成する沓の凹球状の第一摺動面において、摺動体の凸球状の第二摺動面に取り付けられている摩擦材の相手材を設置する、滑り免震装置を構成する沓の製作方法であって、
平面視円形の前記第一摺動面を備える第一分割沓に対して、前記摺動体の摺動範囲を規定する平面視円形のストッパーリングを備えている第二分割沓を取り付けることにより、沓本体を製作し、
前記ストッパーリングの内周の直径よりも大きな直径を有する平面視円形の前記相手材を、前記ストッパーリングに対して同心に位置合わせし、該相手材を前記第一摺動面に押し付けることにより、該相手材を湾曲に変形させて該ストッパーリング内に嵌め込むことを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、ストッパーリングの内周の直径よりも大きな直径を有する平面視円形の相手材(もしくは滑り板)を、第一摺動面に押し付け、湾曲に変形させてストッパーリング内に嵌め込むことにより、手間のかからない製作方法にて沓を製作することができる。また、沓が、第一摺動面を備える第一分割沓とストッパーリングを備えている第二分割沓とにより構成されていることから、ストッパーリング内に嵌め込まれている相手材をストッパーリングから取り外す際に、第一分割沓から第二分割沓を取り外し、第二分割沓から相手材を容易に取り外すことができる。例えば、ストッパーリング内に湾曲した状態で嵌め込まれている相手材に対して、窪んでいる側から相手材を押し込むことにより、第二分割体から相手材を容易に取り外すことができる。仮に、沓が分割体でない場合は、ストッパーリング内に嵌め込まれている相手材の取り外しが容易でなく、取り外しに手間と時間を要することに加えて、ストッパーリングに対して強固に固定されている相手材を取り外す際に当該相手材を損傷させる可能性がある。
【0011】
第一分割沓と第二分割沓は、対応するボルト孔に対してボルトを螺合すること等により、双方を取り外し自在に固定することができる。ここで、「ストッパーリングの内周の直径よりも大きな直径を有する平面視円形の相手材」とは、例えば、相手材の直径がストッパーリングの内周の直径よりも僅かに大きいことを意味している。すなわち、相手材の直径がストッパーリングの内周の直径よりも大き過ぎては相手材を変形させてストッパーリング内に嵌め込むことができなくなることから、嵌め込みが可能な程度に大きいことを意味するものである。
【0012】
設計例を挙げると、第一摺動面の直径を2000mm、曲率半径を2500mmとした場合、相手材の直径は2057mmとなり、従って、直径2000mmのストッパーリングの内周の直径よりも相手材の直径が57mm大きく設定される。また、第一摺動面の直径を500mm、曲率半径を4500mmとした場合、相手材の直径は500.25mmとなり、直径500mmのストッパーリングの内周の直径よりも相手材の直径が0.25mm大きく設定される。
【0013】
このように湾曲に変形してストッパーリング内に嵌め込まれた平面視円形の相手材には、その径方向に圧縮力が作用しており、その反力がストッパーリングの内周面に作用することから、ストッパーリング内に相手材を湾曲に変形させて嵌め込むことにより、ストッパーリングに対して相手材を強固に取り付けることができる。
【0014】
第二分割沓の内部に平面視円形の開口が設けられ、この開口の壁面(内周面)がストッパーリングとなる。このストッパーリングの内周面は、垂直に立ち上がる形態であってもよいし、テーパー状に立ち上がる形態であってもよいし、垂直に立ち上がった後にテーパー状に立ち上がる形態であってもよい。
【0015】
ここで、滑り免震装置が片面滑り免震装置の場合は、製作対象の沓は上沓もしくは下沓であり、滑り免震装置が両面滑り免震装置の場合は、製作対象の沓は上沓及び下沓となる。
【0016】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様は、二つの第三分割沓を相互に取り付けることにより前記第二分割沓を製作し、該第二分割沓を前記第一分割沓に取り付けることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、第二分割沓がさらに二つの第三分割沓により形成されることにより、ストッパーリング内に嵌め込まれている相手材をストッパーリングから取り外す際に、第一分割沓から第二分割沓を取り外し、第二分割沓を二つの第三分割沓に分割することにより、第二分割沓から相手材をより一層容易に取り外すことができる。例えば、ストッパーリング(の内周面)に対して相手材が強固に摩擦係合している場合、窪んでいる側から相手材を押し込むだけでは簡単に相手材を取り外しできない事態も生じ得るが、第二分割沓を例えば半割りの二つの第三分割沓に分割することにより、相手材の取り外しが容易になる。
【0018】
ここで、双方の第三分割沓の端面同士が面接触するのみで第二分割沓を形成する形態であってもよいし、双方の第三分割沓の端部が備える雄部と雌部が相互に係合することにより第二分割沓を形成する形態等であってもよい。
【0019】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様は、前記第一分割沓における前記第一摺動面の周囲に環状溝が設けられており、
前記第二分割沓において前記環状溝に対応する位置に環状せん断キーが設けられており、
前記環状溝に前記環状せん断キーを嵌め込むことにより、該第二分割沓を前記第一分割沓に取り付けることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、第一分割沓における第一摺動面の周囲にある環状溝に対して、第二分割沓において環状溝に対応する位置に設けられている環状せん断キーを嵌め込むことにより、第二分割沓のストッパーリング内に嵌め込まれた相手材により第二分割沓の径方向外側に反力が作用する場合に、この反力に対して環状せん断キーが対抗することができる。尚、第一分割沓と第二分割沓がボルト接合される場合に、この第二分割沓の径方向外側に作用する反力をボルトにて対抗することができるが、環状せん断キーを備える形態ではボルトの負担分を低減することが可能になる。ここで、環状せん断キーは、連続した環状の形態の他にも、不連続(間欠的)な環状の形態がある。
【0021】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様において、前記相手材は、前記ストッパーリング内の前記第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、相手材が、ストッパーリング内の第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していることにより、相手材を、その周方向に圧縮力を有する状態で第一摺動面に嵌め込むことができる。
【0023】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様において、前記相手材を前記第一摺動面に押し付ける際に押し付け治具を適用し、該押し付け治具は、前記第一摺動面と同じ曲率を有する中空もしくは中実なブロック体、もしくは、前記第一摺動面と同じ曲率の押し付け面を有する複数の押し付け片を放射状に備えている線状体、のいずれか一種であることを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、第一摺動面と同じ曲率を有する中空もしくは中実なブロック体、もしくは、第一摺動面と同じ曲率の押し付け面を有する複数の押し付け片を放射状に備えている線状体、のいずれかの形態の押し付け治具を適用することにより、簡易な構成の押し付け治具にて、平面視円形の相手材の全面を可及的均一で、かつ効率的に沓本体の第一摺動面に押し付けることができる。尚、線状体を構成する複数の押し付け片の表面に、第一摺動面と同じ曲率を有する面材が取り付けられている形態であってもよい。
【0025】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様において、前記ストッパーリングの内周面が、前記第一摺動面側から外側に向かって末広がりのテーパー面であり、該テーパー面に沿って前記相手材を前記第一摺動面に嵌め込むことを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、ストッパーリングの内周面が第一摺動面側から外側に向かって末広がりのテーパー面であることにより、相手材を湾曲に変形させて第一摺動面に嵌め込む際に、相手材の端部をテーパー面に沿って湾曲に変形させ易くなり、相手材の全体をスムーズに湾曲に変形させてストッパーリング内に嵌め込むことができる。ここで、「第一摺動面側から外側に向かって末広がりのテーパー面である」とは、ストッパーリングの内周面が全てテーパー面である形態の他に、第一摺動面側から鉛直に立ち上がり、その後、外側に向かって末広がりのテーパー面を有している形態等も含んでいる。
【0027】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様において、前記相手材はステンレス製の相手材であり、該相手材の厚みが1mm以上であることを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、ステンレス製の相手材の厚みが1mm以上であることにより、相手材を湾曲に弾性変形させて第一摺動面に嵌め込む際に、当該相手材に皺が発生するのを抑制することができる。また、滑り免震装置の供用後、第一摺動面に嵌め込まれた相手材に沿って摺動体が繰り返し摺動する過程においても、相手材に皺が発生するのを抑制することができる。ここで、厚みが1mm以上とは、例えば厚みが3mm乃至10mm程度の範囲の厚みを例示できる。
【0029】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の一態様において、
前記沓は、
凹球状の第一摺動面を備える沓本体と、
前記第一摺動面に設置される相手材であって、摺動体の凸球状の第二摺動面に取り付けられている摩擦材の相手材と、を有する、滑り免震装置を構成する沓において、
前記沓本体は、平面視円形の前記第一摺動面を備える第一分割沓に対して、前記摺動体の摺動範囲を規定する平面視円形のストッパーリングを備えている第二分割沓が取り付けられることにより形成されており、
平面視円形の前記相手材は、前記ストッパーリング内の前記第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していて、前記ストッパーリング内に嵌め込まれていることにより、該ストッパーリング内において該相手材はその径方向に圧縮力を有する状態となっていることを特徴とする。
【0030】
本態様によれば、本発明の製作方法によって製作されていることにより、相手材が湾曲に変形してストッパーリング内に嵌め込まれている状態において、相手材は弾性変形して収縮し、その径方向に圧縮力を有する状態となっている。尚、この「弾性変形」は、原則的には相手材が完全に弾性変形していることを意味しているが、その他、弾性変形に加えて塑性変形が多少進んでいる状態も含むものとする。相手材がその径方向に圧縮力が作用した状態でストッパーリング内に嵌め込まれていることにより、径方向の圧縮力の反力がストッパーリングの内周面に作用することになり、ストッパーリングに対して相手材が強固に取り付けられる。また、第一摺動面に対する相手材の取り付けに際して、接着剤等は一切不要になる。
【0031】
また、ストッパーリングの内周面は、既述するように、第一摺動面側から外側に向かって末広がりのテーパー面であるのがよく、さらに、当該内周面の根元(第一摺動面との界面)には、周方向に連続した溝条が設けられていてもよい。湾曲に変形した相手材は外側に膨らんで元に戻ろうとするため、ストッパーリングの内周面の根元に連続した溝条が設けられていることにより、この溝条に相手材の端部が入り込んで係合し、ストッパーリングから相手材が係脱するのを防止することができる。また、溝条の代わりに、ストッパーリングの内周面の下方位置(第一摺動面よりも僅かに上方の位置)に、ストッパーリングの周方向に間隔を置いて複数のボルトを径方向内側に突出する態様で固定しておき、複数のボルトに相手材を係止することにより、ストッパーリングから相手材が係脱するのを防止してもよい。
【0032】
また、既述するように、沓が、第一摺動面を備える第一分割沓とストッパーリングを備えている第二分割沓とにより構成されていることから、ストッパーリング内に嵌め込まれている相手材をストッパーリングから取り外す際に、第一分割沓から第二分割沓を取り外し、第二分割沓から相手材を容易に取り外すことができる。
【0033】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の前駆体の一態様は、
凹球状の第一摺動面を備える沓本体と、
前記第一摺動面に設置される相手材であって、摺動体の凸球状の第二摺動面に取り付けられている摩擦材の相手材と、を有し、
前記沓本体は、平面視円形の前記第一摺動面を備える第一分割沓に対して、前記摺動体の摺動範囲を規定する平面視円形のストッパーリングを備えている第二分割沓が取り付けられることにより形成されており、
平面視円形の前記相手材は、前記ストッパーリング内の前記第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していることを特徴とする。
【0034】
本態様によれば、沓本体と、ストッパーリング内の第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有している相手材とを備えることにより、相手材がその周方向に圧縮力を有する状態で第一摺動面に嵌め込まれるとともに、相手材を第一摺動面に密着させて取り付けることができる。
【0035】
また、既述するように、沓が、第一摺動面を備える第一分割沓とストッパーリングを備えている第二分割沓とにより構成されていることから、ストッパーリング内に一度嵌め込んだ相手材をストッパーリングから取り外す際に、第一分割沓から第二分割沓を取り外し、第二分割沓から相手材を容易に取り外すことができる。
【発明の効果】
【0036】
以上の説明から理解できるように、本発明の滑り免震装置を構成する沓とその前駆体、及びその製作方法によれば、製作コストを増加させることなく、製作手間のかからない方法で滑り免震装置を構成する沓を製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】第1実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の前駆体の一例を示すとともに、第1実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一例を説明する斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一例を説明する縦断面図である。
【
図3A】第二分割沓のストッパーリングの内周面の形状形態の一例を示す図である。
【
図3B】第二分割沓のストッパーリングの内周面の形状形態の他例を示す図である。
【
図4】
図2に続いて、第1実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一例を説明する斜視図である。
【
図5】
図4に続いて、第1実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一例を説明する縦断面図であって、ストッパーリングのテーパー面に沿って相手材が徐々に押し込まれている状態をともに示す図である。
【
図6】
図5に続いて、第1実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一例の斜視図であって、第1実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓をともに示す図である。
【
図7】第2実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の前駆体の一例を示すとともに、第2実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一例を説明する斜視図である。
【
図8】第3実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の前駆体の一例を示すとともに、第3実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一例を説明する斜視図である。
【
図9A】実施形態に係る沓を含む滑り免震装置(片面滑り免震装置)の一例の縦断面図である。
【
図9B】実施形態に係る沓を含む滑り免震装置(両面滑り免震装置)の一例の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓とその前駆体、及びその製作方法の一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0039】
[第1実施形態]
はじめに、
図1乃至
図6を参照して、第1実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓とその前駆体、及びその製作方法の一例について説明する。ここで、
図1は、第1実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の前駆体の一例を示すとともに、第1実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一例を説明する斜視図である。そして、
図2,4,5,6は順に、第1実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の製作方法を説明する図であり、
図2は、
図1の第一摺動面の中心及び相手材の中心で切断して示した縦断面図である。さらに、
図6は、第1実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の一例をともに示す図である。
【0040】
図1に示すように、滑り免震装置100,200(
図9A及び
図9B参照)を構成する沓40(
図9A及び
図9B参照)の前駆体30は、凹球状で平面視円形の第一摺動面12を備える沓本体10と、第一摺動面12に設置される相手材20(滑り板)とを有する。この相手材20は、摺動体60,70(
図9A及び
図9B参照)の凸球状の第二摺動面62,72,73に取り付けられている、摩擦材64、74(
図9A及び
図9B参照)の相手材である。
【0041】
沓本体10は、第一摺動面12を備える第一分割沓11と、摺動体60,70の摺動範囲を規定する平面視円形のストッパーリング16を備えている第二分割沓15とを有する。図示例の第一分割沓11は、扁平な直方体の四つの隅角部が取り除かれた形状を呈しており、第二分割沓15も第一分割沓11と相補的な平面形状を呈している。第一分割沓11と第二分割沓15の各四つの隅角部の対応する位置にボルト孔13,18が開設されており、第一分割沓11の上に第二分割沓15が載置され、相互の連通するボルト孔13,18にボルト25が螺合されることにより、沓本体10が製作される。
【0042】
沓本体10においては、第二分割沓15の中央に平面視円形のストッパーリング16が設けられており、ストッパーリング16の内側には、第一分割沓11の備える第一摺動面12が配設される。
【0043】
沓本体10を構成する第一分割沓11と第二分割沓15はいずれも、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)、あるいは鋳鋼材、鋳鉄等から形成されている。また、相手材20は、ステンレス材(SUS材)により形成されており、その厚みは1mm以上であって、例えば3mm乃至10mm程度の厚みの板材が適用される。ステンレス製の相手材20の厚みが1mm以上であることにより、以下で説明するように、相手材20を湾曲に弾性変形させてストッパーリング16に嵌め込んで第一摺動面12に当接させる際に、相手材20に皺が発生するのを抑制できる。また、滑り免震装置100,200の供用後、ストッパーリング16に嵌め込まれた相手材20に沿って摺動体60,70が繰り返し摺動する過程においても、相手材20に皺が発生するのを抑制できる。
【0044】
図2及び
図3Aに明りょうに示すように、ストッパーリング16の内周面は、第一摺動面12側から外側(外側斜め上方)に向かって末広がりのテーパー面となっており、内周面16の根元(第一摺動面12との界面)には、周方向に連続した溝条17が設けられている。以下で詳説するように、相手材20はストッパーリング16の内部に嵌め込まれ、その径方向に圧縮力が付与された状態でストッパーリング16に取り付けられるが、ストッパーリング16の根元に溝条17が設けられていることにより、溝条17に相手材20の端部が入り込んで係合し、ストッパーリングから相手材が係脱するのを防止することができる。
【0045】
尚、
図3Bに示す変形例の第二分割沓15'のように、ストッパーリング16の内周面の根元に垂直に立ち上がる垂直面17aが設けられている形態であってもよい。この形態では、相手材20は、その径方向に圧縮力が付与された状態でストッパーリング16の根元の垂直面17aに対して、摩擦係合した状態で取り付けられる。
【0046】
図1及び
図2に戻り、平面視円形の相手材20は、ストッパーリング16の内周の直径よりも大きな直径を有しており、より詳細には、ストッパーリング16内の第一摺動面12における中心O1を通る弧の長さL1以上の長さL2の直径(相手材20の中心O2を通る直径)を有している。ここで、長さL2は長さL1と同じか、長さL1に比べて僅かに長く設定されている。より詳細には、相手材20が湾曲に弾性変形してストッパーリング16内に嵌め込まれた際に、相手材20は弾性変形して収縮した状態となるが、この弾性変形範囲内にある長さ分だけ長さL1よりも直径の長さL2が長く設定されている。
【0047】
沓の製作方法に関しては、まず、第一分割沓11に対して第二分割沓15をX1方向に載置し、第一分割沓11と第二分割沓15をボルト接合することにより、沓本体10を製作する。
【0048】
次いで、ストッパーリング16内の第一摺動面12における中心O1を通る弧の長さL1以上の長さL2の直径を有する相手材20を、ストッパーリング16に対してX2方向に載置し、双方を同心に位置合わせする。
【0049】
次いで、
図4に示すように、押し付け治具80により、ストッパーリング16上に載置されている相手材20を第一摺動面12側へX3方向に押し付けていく。
【0050】
ここで、
図4及び
図5に示すように、押し付け治具80は、第一摺動面12と同じ曲率の押し付け面83を有する複数の押し付け片82を、中心軸81を中心に放射状に備えている線状体である。尚、図示を省略するが、複数の押し付け片82の表面に、第一摺動面12と同じ曲率を有する面材が取り付けられている形態であってもよい。また、押し付け治具の他の形態として、第一摺動面と同じ曲率を有する中空もしくは中実なブロック体であってもよい。
【0051】
図5に示すように、押し付け治具80により相手材20をX3方向に押し付けていくと、ストッパーリング16の内周面(テーパー面)に沿って相手材20が湾曲状に弾性変形していき、テーパー面の根元の溝条17に嵌り込む。押し付け治具80を、例えば5t(≒50kN)乃至10t(≒100kN)程度の押圧力にて押し付けることにより、相手材20を湾曲状に弾性変形させてストッパーリング16内に嵌め込むことができる。
【0052】
図1及び
図2に示すように、平面視円形の相手材20が、ストッパーリング16内の第一摺動面12における中心O1を通る弧の長さL1以上の長さL2の直径を有していることにより、
図6に示すように、相手材20が湾曲に弾性変形してストッパーリング16内に嵌め込まれて沓40が形成された状態において、相手材20は、ストッパーリング16から径方向内側に圧縮力Q1を受ける。そして、相手材20は、ストッパーリング16から受ける径方向内側の圧縮力Q1に対する径方向外側の反力Q2をストッパーリング16の内周面に作用させ、この反力Q2にてストッパーリング16に対して強固に取り付けられる。この際、ストッパーリング16の内周面の根元に設けられている周方向に連続した溝条17に相手材20の端部が嵌まり込んでいることにより、湾曲に変形した相手材20が外側に膨らんで元に戻ろうとして、ストッパーリング16から係脱するのを防止することができる。
【0053】
尚、図示例のように溝条17が設けられている形態以外にも、ストッパーリングの内周面の下方位置(第一摺動面よりも僅かに上方の位置)に、ストッパーリングの周方向に間隔を置いて複数のボルトが径方向内側に突出する態様で取り付けられている形態であってもよい。この形態では、複数のボルトに相手材が係止されることにより、ストッパーリングから相手材が係脱するのを防止することができる。
【0054】
このように、押し付け治具80にて相手材20を第一摺動面12側に押し付け、相手材20を湾曲に弾性変形させてストッパーリング16内に嵌め込むことにより、手間のかからない製作方法にて沓40を製作することができる。そして、第一摺動面12と同じ曲率の押し付け面83を有する複数の押し付け片82を放射状に備えている押し付け治具80を適用することにより、簡易な構成の押し付け治具80にて、平面視円形の相手材20の全面を可及的均一で、かつ効率的に沓本体10の第一摺動面12に押し付けることができる。
【0055】
また、沓40が、第一摺動面12を備える第一分割沓11と、ストッパーリング16を備えている第二分割沓15とにより構成されていることにより、ストッパーリング16内に強固に嵌め込まれている相手材20をストッパーリング16から取り外す際に、第一分割沓11から第二分割沓15を取り外し、第二分割沓15から相手材20を容易に取り外すことができる。例えば、ストッパーリング16内に湾曲した状態で嵌め込まれている相手材20に対して、窪んでいる側から相手材20を押し込むことにより、比較的簡単に第二分割沓15から相手材20を取り外すことができる。仮に、沓が分割体でない場合は、ストッパーリング内に嵌め込まれている相手材の取り外しが容易でなく、手間と時間を要することとなり、取り外しの際に相手材を破損する恐れがあるが、実施形態に係る製作方法により製作される沓40によれば、このような課題は生じない。
【0056】
[第2実施形態]
次に、
図7を参照して、第2実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の前駆体と、沓の製作方法の一例について説明する。ここで、
図7は、第2実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の前駆体の一例を示すとともに、第2実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一例を説明する斜視図である。
【0057】
図示する沓の前駆体30Aは、二つの半割りの第三分割沓15aにより形成される第二分割沓15Aと、第一分割沓11とにより構成される沓本体10Aを有する。
【0058】
第二分割沓15Aは、二つの半割りの第三分割沓15aの端面同士を相互に当接することにより形成される。例えば、
図1等に示す第二分割沓15をその中心線(線対称線)に沿って切断することにより、二つの第三分割沓15aが製作される。尚、図示を省略するが、第三分割沓15aの端部同士が、雄雌継手や差し込みピン継手等を介して相互に接続される形態であってもよい。
【0059】
本実施形態に係る沓の製作方法は、二つの第三分割沓15aの端面同士をX4方向に当接させることにより第二分割沓15Aを製作し、第一分割沓11に第二分割沓15Aを載置し、双方をボルト接合する。次いで、第1実施形態に係る製作方法と同様に、相手材20をストッパーリング16の上方に載置して双方を同心に位置合わせし、押し付け治具80により、相手材20を第一摺動面12側へ押し付けることにより、相手材20を湾曲に弾性変形させてストッパーリング16内に嵌め込み、沓40を製作する。
【0060】
図示例の沓によれば、第二分割沓15Aが二つの第三分割沓15aにより形成されることにより、ストッパーリング16内に嵌め込まれている相手材20をストッパーリング16から取り外す際に、第一分割沓11から第二分割沓15Aを取り外し、第二分割沓15Aを二つの第三分割沓15aに分割することにより、第二分割沓15Aから相手材20をより一層容易に取り外すことができる。例えば、ストッパーリング16の内周面に対して相手材20が強固に摩擦係合している場合(例えば、
図3Bに示す垂直面17aに相手材20の端面が摩擦係合している場合)、窪んでいる側から相手材20を押し込むだけでは簡単に相手材20を取り外しできない事態も生じ得るが、第二分割沓15Aを半割りの二つの第三分割沓15aに分割することにより、相手材20の取り外しが容易になる。
【0061】
[第3実施形態]
次に、
図8を参照して、第3実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の前駆体と、沓の製作方法の一例について説明する。ここで、
図8は、第3実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の前駆体の一例を示すとともに、第3実施形態に係る滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一例を説明する斜視図である。
【0062】
図示する沓の前駆体30Bは、第一摺動面12の周囲に環状溝14が設けられている第一分割沓11Bと、環状溝14に対応する位置に環状せん断キー19が設けられている第二分割沓15Bとにより構成される沓本体10Bを有する。
【0063】
図示する沓の前駆体30Bによれば、第一分割沓11Bにおける第一摺動面12の周囲にある環状溝14に対して、第二分割沓15Bにおいて環状溝14に対応する位置に設けられている環状せん断キー19が嵌め込まれていることから、第二分割沓15Bのストッパーリング16内に嵌め込まれた相手材20により第二分割沓15Bの径方向外側に反力Q2が作用する際に、この反力Q2に対して環状せん断キー19が対抗することができる。尚、第一分割沓11Bと第二分割沓15Bがボルト接合されることから、この第二分割沓15Bの径方向外側に作用する反力Q2をボルト25にて対抗することができるが、環状せん断キー19によりボルト25の負担分を低減することができる。
【0064】
本実施形態に係る沓の製作方法は、環状溝14に対して環状せん断キー19を嵌め込み、第一分割沓11Bと第二分割沓15Bをボルト接合する。次いで、第1,第2実施形態に係る沓の製作方法と同様に、相手材20をストッパーリング16の上方に載置して双方を同心に位置合わせし、押し付け治具80により、相手材20を第一摺動面12側へ押し付けることにより、相手材20を湾曲に弾性変形させてストッパーリング16内に嵌め込み、沓40を製作する。
【0065】
[実施形態に係る沓を備えた滑り免震装置]
次に、
図9A及び
図9Bを参照して、実施形態に係る製作方法により製作された沓40を備えている、二種類の滑り免震装置の一例について説明する。ここで、
図9Aは、実施形態に係る沓を含む滑り免震装置(片面滑り免震装置)の一例の縦断面図であり、
図9Bは、実施形態に係る沓を含む滑り免震装置(両面滑り免震装置)の一例の縦断面図である。
【0066】
まず、
図9Aに示す片面滑り免震装置100は、受け台50と、受け台50の表面に配設されて第二凹球面52を備えている球座51と、摺動体本体61と摩擦材64とを有する摺動体60と、摺動体60の第二摺動面62(第一凸球面)が摺動する第一摺動面12(第一凹球面)を下面に備えている沓40とを有する。
【0067】
沓40を構成する、摺動体60の有する摩擦材64の相手材20は既述するようにステンレス材により形成されており、相手材20の摺動面には鏡面仕上げ加工が施されている。
【0068】
摺動体本体61は、第二凹球面52に収容されてY1方向に回動する第二凸球面63と、第一摺動面12内を摺動してその表面に摩擦材64が取り付けられている第一凸球面62とを備えている。
【0069】
受け台50は、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)、あるいはステンレス材(SUS材)や鋳鋼材、鋳鉄、鉄筋コンクリート、高硬度プラスチック等から形成されている。
【0070】
摺動体本体61は、溶接鋼材用圧延鋼材(SM490A、B、C、もしくはSN490B、C、もしくはS45C)等から形成され、面圧60N/mm2(60MPa)程度の耐荷強度を有している。
【0071】
ここで、摩擦材64は、例えば、少なくともPTFEを素材とする摩擦材である。摩擦材64は二重織物により形成され、二重織物は、PTFE繊維(polytetrafluoroethylene、ポリテトラフルオロエチレン)と、PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維(高強度繊維)とにより形成される。ここで、「PTFE繊維よりも引張強度の高い繊維」としては、ナイロン6・6、ナイロン6、ナイロン4・6などのポリアミドやポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルやパラアラミドなどの繊維を挙げることができる。また、メタアラミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ガラス、カーボン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、LCP、ポリイミド、PEEKなどの繊維を挙げることができる。また、さらに、熱融着繊維や綿、ウールなどの繊維を適用してもよい。その中でも、耐薬品性、耐加水分解性に優れ、引張強度の極めて高いPPS繊維が望ましい。
【0072】
尚、少なくともPTFEを素材とする摩擦材64としては、二重織物以外のPTFE繊維を含む織物でもよく、また、PTFEのみを素材とする摩擦材、PTFEと他の樹脂の複合素材からなる摩擦材、PTFEを素材とする摩擦材と他の樹脂を素材とする摩擦材との積層構造の摩擦材などであってもよい。
【0073】
図示を省略するが、鉄筋コンクリート製の立ち上り部と、立ち上り部の上面に配設されている鋼製のベースプレートとを有する下部構造体に対して、受け台50が複数のアンカーボルトを介して固定される。また、鉄筋コンクリート製もしくは鋼製の柱と柱の下面に配設されている鋼製のベースプレートとを有する上部構造体に対して、沓40が複数のアンカーボルトを介して固定されることにより、上部構造体と下部構造体の間に滑り免震装置100が取り付けられる。尚、この形態とは逆に、上部構造体に対して受け台50が複数のアンカーボルトを介して固定され、沓40が下部構造体の上に載置されるようにして滑り免震装置100が取り付けられる形態であってもよい。
【0074】
図示例の滑り免震装置100は片面滑り免震装置であり、建物に地震力が作用した際に、球座51の第二凹球面52内で摺動体60がY1方向に回動し、摺動体60の第一凸球面62上において沓40がY2方向にスライドすることにより、地震力を低減する。
【0075】
一方、
図9Bに示す両面滑り免震装置200は、沓40が上沓及び下沓として適用され、上下の沓40と、これらの間に摺動自在に配設されている摺動体70とを有する。摺動体70を構成する摺動体本体71の上下には第一凸球面72,73が設けられ、それぞれの第一凸球面72,73の表面には摩擦材74が取り付けられている。
【0076】
図示例の滑り免震装置200は両面滑り免震装置であり、建物に地震力が作用した際に、下沓(沓40)の第一摺動面12内で摺動体70がY3方向に摺動し、摺動体70の第一凸球面72上において上沓(沓40)がY4方向にスライドすることにより、地震力を低減する。
【0077】
[沓の第一摺動面と相手材の設計例]
次に、沓の第一摺動面と、第一摺動面に嵌め込まれる相手材の設計例について説明する。沓の第一摺動面の曲率半径を4500mmとした場合、第一摺動面の投影面の直径(第一摺動面の球面に対する弦の長さ)は669mmとなり、第一摺動面の弧の長さ(平面視円形の第一摺動面の中心を通る弧の長さ)は670.6mmとなる。そして、第一摺動面の中心(弧の中心)と投影面の中心の間の距離(第一摺動面の中心の深さ)は、12.47mmとなる。
【0078】
これに対して、本発明者等は、直径が670.6mmの相手材をコンピュータ内でモデル化し、その直径が669.0mmになるまで、相手材の外周においてその径方向に半径0.8mmの強制変位を付与する解析を行った。
【0079】
解析の結果、相手材モデルは湾曲に弾性変形し、その中心は鉛直方向に14.96mm変位することが分かり、上記する12.47mm以上変位することから、湾曲状に弾性変形した相手材は、第一摺動面に対して圧力を付与しながら密着することが検証されている。
【0080】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0081】
10,10A、10B:沓本体
11:第一分割沓
12:第一摺動面(第一凹球面)
13:ボルト孔
14:環状溝
15、15'、15A、15B:第二分割沓
16:ストッパーリング(の内周面)
17:溝条
17a:垂直面
18:ボルト孔
19:環状せん断キー
20:相手材
25:ボルト
30、30A、30B:沓の前駆体
40:沓
50:受け台
51:球座
52:第二凹球面
60:摺動体
61:摺動体本体
62:第二摺動面(第一凸球面)
63:第二凸球面
64:摩擦材
70:摺動体
71:摺動体本体
72,73:第二摺動面(第一凸球面)
74:摩擦材
80:押し付け治具
81:中心軸
82:押し付け片
83:押し付け面
100:滑り免震装置(片面滑り免震装置)
200:滑り免震装置(両面滑り免震装置)
O1:第一摺動面の中心
O2:相手材の中心
L1:第一摺動面の弧長
L2:相手材の直径
Q1:圧縮力
Q2:反力