(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021655
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】コンクリート壁体およびコンクリートブロック
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20220127BHJP
E02D 29/02 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
E02D17/20 103H
E02D29/02 304
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020125381
(22)【出願日】2020-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】513112326
【氏名又は名称】株式会社九コン
(74)【代理人】
【識別番号】100172225
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 宏行
(72)【発明者】
【氏名】下瀬 裕一
(72)【発明者】
【氏名】川原 敬介
【テーマコード(参考)】
2D044
2D048
【Fターム(参考)】
2D044DB53
2D048AA33
(57)【要約】
【課題】平面的な形状だけでなく曲面的な形状の壁面を形成できるコンクリート壁体およびこのようなコンクリート壁体の構築に使用できるコンクリートブロックを提供することを目的とする。
【解決手段】横方向に並べられた複数の標準ブロック10から成るブロック層が上下方向に複数層積み重ねられて構成されるコンクリート壁体1Aにおいて、各標準ブロック10は、上面12側に一の方向に延びた溝部13を有するとともに下面15側に下方に突出した2つの突出部16を有し、2つの突出部16を、1つ下層側のブロック層を構成する2つの標準ブロック10それぞれが有する溝部13内に1つずつ嵌入させている。そして、2つの突出部16の一方側を、溝部13と同じ溝幅を有する他の溝部内に嵌入させた場合に、2つの突出部16の他方側を、一方側の突出部16を中心に円弧軌道で移動させることが可能になっている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
横方向に並べられた複数のコンクリートブロックから成るブロック層が上下方向に複数層積み重ねられて構成されるコンクリート壁体であって、
各コンクリートブロックは、上面側に一の方向に延びた溝部を有するとともに下面側に下方に突出した2つの突出部を有し、前記2つの突出部を、1つ下層側のブロック層を構成する2つのコンクリートブロックそれぞれが有する前記溝部内に1つずつ嵌入させている、コンクリート壁体。
【請求項2】
各コンクリートブロックは、前記2つの突出部の一方側を、前記溝部と同じ溝幅を有する他の溝部内に嵌入させた場合に、前記2つの突出部の他方側を、前記一方側の突出部を中心に円弧軌道で移動させることが可能である、請求項1に記載のコンクリート壁体。
【請求項3】
前記2つの突出部それぞれの形状は、下方に窄まる円錐台形状もしくは円柱形状である、請求項1または2に記載のコンクリート壁体。
【請求項4】
少なくとも1つのコンクリートブロックは、1つ下層側のブロック層を構成する直線状に並んでいない2つのコンクリートブロックそれぞれの前記溝部内に前記2つの突出部を1つずつ嵌入させている、請求項1~3のいずれかに記載のコンクリート壁体。
【請求項5】
前記溝部の底面は、前記溝部の長手方向の中央部から両方の端部それぞれに向けて下降する2つの傾斜面を有する、請求項1~4のいずれかに記載のコンクリート壁体。
【請求項6】
最下層のブロック層を構成する各コンクリートブロックは、前記2つの突出部に変えてスパイク部を有する、請求項1~5のいずれかに記載のコンクリート壁体。
【請求項7】
前記スパイク部は下方に突出する形状を有して縦横に並んだ複数の突起から成る、請求項6に記載のコンクリート壁体。
【請求項8】
上面側に一の方向に延びた溝部を有するとともに下面側に下方に突出した2つの突出部を有し、
前記2つの突出部の一方側を、前記溝部と同じ溝幅を有する他の溝部内に嵌入させた場合に、前記2つの突出部の他方側を、前記一方側の突出部を中心に円弧軌道で移動させることが可能である、コンクリートブロック。
【請求項9】
前記2つの突出部それぞれの形状は、下方に窄まる円錐台形状もしくは円柱形状である、請求項8に記載のコンクリートブロック。
【請求項10】
前記溝部の底面は、前記溝部の長手方向の中央部から両方の端部それぞれに向けて下降する2つの傾斜面を有する、請求項8または9に記載のコンクリートブロック。
【請求項11】
前記溝部の長手方向に対向する2つの側面の一方に外方に突出した形状の凸部を有し、前記2つの側面の他方に前記凸部と係合し得る形状の凹部を有する、請求項8~10のいずれかに記載のコンクリートブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートブロックが積み重ねられて構築されるコンクリート壁体およびコンクリート壁体の構築に使用されるコンクリートブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直方体形状のコンクリートブロックが上下方向に積み重ねられて構築されるコンクリート壁体が知られており、斜面の土留を行う擁壁のほか、災害時における土砂止め壁や落石防護壁等として用いられている。このようなコンクリート壁体では、一部のコンクリートブロックが横ずれ(スライド)を起こすとこれに連動して他のコンクリートブロックも横ずれを起こし、コンクリート壁体の全体の安定度が低下するおそれがある。このため横方向に並ぶコンクリートブロックは連結具によって連結し、上下方向に並ぶ(積み重ねられる)コンクリートブロックは上下の縁部同士を係合させることによって、コンクリート壁体の全体の安定度が高められるようにしている(例えば、下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のコンクリート壁体では、コンクリートブロックを横方向に直線状に整列して配置することが前提であるため、横方向に平面的に延びる形状の壁面しか形成することができなかった。コンクリート壁体を構築する現場では、その構築領域内に種々の障害物等が存在することが多いことから、横方向に平面的に延びる壁面だけでなく、横方向に曲面的に延びる壁面も形成できることが望ましい。
【0005】
そこで本発明は、平面的な形状だけでなく曲面的な形状の壁面を形成できるコンクリート壁体およびこのようなコンクリート壁体の構築に使用できるコンクリートブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のコンクリート壁体は、横方向に並べられた複数のコンクリートブロックから成るブロック層が上下方向に複数層積み重ねられて構成されるコンクリート壁体であって、各コンクリートブロックは、上面側に一の方向に延びた溝部を有するとともに下面側に下方に突出した2つの突出部を有し、前記2つの突出部を、1つ下層側のブロック層を構成する2つのコンクリートブロックそれぞれが有する前記溝部内に1つずつ嵌入させている。
【0007】
本発明のコンクリートブロックは、上面側に一の方向に延びた溝部を有するとともに下面側に下方に突出した2つの突出部を有し、前記2つの突出部の一方側を、前記溝部と同じ溝幅を有する他の溝部内に嵌入させた場合に、前記2つの突出部の他方側を、前記一方側の突出部を中心に円弧軌道で移動させることが可能である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、平面的な形状だけでなく曲面的な形状の壁面を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態1におけるコンクリート壁体の斜視図
【
図2】本発明の実施の形態1におけるコンクリート壁体の構築に使用される標準ブロックの(a)斜視図(b)平面図(c)断面図
【
図3】(a)(b)本発明の実施の形態1における下層側の標準ブロックに上層側の標準ブロックを積み重ねる例を示す斜視図
【
図4】本発明の実施の形態1における標準ブロックの一方の突出部を他の標準ブロックの溝部内に嵌入させた状態の(a)(b)側面図(c)平面図
【
図5】(a)(b)本発明の実施の形態1における下層側の標準ブロックに上層側の標準ブロックを積み重ねる例を示す平面図
【
図6】(a)(b)本発明の実施の形態1における下層側の標準ブロックに上層側の標準ブロックを積み重ねる例を示す斜視図
【
図7】(a)(b)本発明の実施の形態1における下層側の標準ブロックに上層側の標準ブロックを積み重ねる例を示す平面図
【
図8】本発明の実施の形態1におけるコンクリート壁体の(a)仮想壁面ラインを示す図(b)仮想壁面ラインに沿って配置した最下層のブロック層の平面図(c)最下層のブロック層と第2層の標準ブロック層の平面図
【
図9】本発明の実施の形態1におけるコンクリート壁体の一部の(a)正面図(b)平面図
【
図10】本発明の実施の形態2におけるコンクリート壁体の斜視図
【
図11】本発明の実施の形態2におけるコンクリート壁体の構築に使用される基礎ブロックの(a)斜視図(b)平面図(c)断面図
【
図12】(a)(b)本発明の実施の形態2における基礎ブロックに標準ブロックを積み重ねる例を示す斜視図
【
図13】(a)(b)本発明の実施の形態2における基礎ブロックに標準ブロックを積み重ねる例を示す斜視図
【
図14】(a)(b)本発明の実施の形態2における基礎ブロックに標準ブロックを積み重ねる例を示す平面図
【
図15】本発明の実施の形態3におけるコンクリート壁体の斜視図
【
図16】(a)(b)本発明の実施の形態3における基礎ブロックにより最下層のブロック層を形成する手順を示す斜視図
【
図17】(a)(b)本発明の実施の形態3における下層側の基礎ブロックに標準ブロックを積み重ねる手順を示す斜視図
【
図18】(a)(b)本発明の実施の形態3における下層側の標準ブロックに標準ブロックを積み重ねる手順を示す斜視図
【
図19】(a)(b)本発明の実施の形態3における標準ブロックによりブロック層を形成する手順を示す斜視図
【
図20】本発明の実施の形態3におけるコンクリート壁体の一部の(a)正面図(b)平面図
【
図21】本発明の実施の形態4におけるコンクリート壁体の側面図
【
図22】本発明の実施の形態5におけるコンクリート壁体の側面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1におけるコンクリート壁体1Aを示している。コンクリート壁体1Aは、横方向に並べられた複数のコンクリートブロックから成るブロック層が上下方向に複数層積み重ねられて構成される。コンクリートブロックは、実施の形態1では、次に示す標準ブロック10が使用されている。
【0011】
標準ブロック10は、
図2(a),(b)に示すように、横方向に延びたほぼ直方体形状の本体部11をベースとしている。本体部11の上面12側には、上方に開口して一の方向(本体部11の長手方向)に延びた一つの溝部13が形成されている。溝部13の底面14は、
図2(c)(
図2(b)における矢視V1-V1から見た断面図)に示すように、溝部13の長手方向の中央部CHから両方の端部TBそれぞれに向けて下降する2つの傾斜面14Mを有している(
図2(a)も参照)。
【0012】
図2(a),(c)において、本体部11の下面15側には、下方に突出した2つの突出部16が設けられている。これら2つの突出部16は、上面12側に設けられた溝部13と平行な方向に並んで一列に設けられている。
【0013】
2つの突出部16はそれぞれ下方に窄まる円錐台形状部から成っている。従って2つの突出部16それぞれの断面は円形であり、その最大径D(下面15との接続部分、すなわち突出部16の付け根の外径。
図2(b),(c))は、溝部13の溝幅Wよりもわずかに小さい寸法となっている(
図2(b))。
【0014】
図2(a),(b),(c)において、本体部11の長手方向(すなわち溝部13の長手方向)に対向する2つの側面11Sの一方には、外方に突出した形状の凸部17が設けられており、2つの側面11Sの他方には、凸部17と係合し得る形状(凸部17の形状を反転させた形状)の凹部18が設けられている。凸部17は本体部11の厚さ(本体部11の下面15から溝部13の底面14までの距離)に相当する厚さT1(
図2(c))を有している。また、凹部18は厚さT1に対応した深さF1を有している(
図2(c))。
【0015】
コンクリート壁体1Aでは、相対的に上層側のブロック層を構成する各標準ブロック10は、相対的に下層側のブロック層を構成する2つの標準ブロック10それぞれが有する溝部13内に2つの突出部16を1つずつ嵌入させている(
図3(a)→
図3(b)。詳細には、上層側の標準ブロック10は、2つの突出部16のうちの一方側を下層側の2つの標準ブロック10のうちの一方の溝部13に嵌入させており、2つの突出部16のうちの他方側を下層側の2つの標準ブロック10のうちの他方の溝部13に嵌入させている。
【0016】
前述したように、突出部16付け根の外径は溝部13の溝幅Wよりもわずかに小さい寸法となっている。このため、突出部16とその突出部16が嵌入した溝部13との間には若干の遊びが生じ、突出部16は溝部13に対して遊びがある状態で嵌入(すなわち遊嵌)した状態となっている。なお、この遊びは、下層側の標準ブロック10の上に上層側の標準ブロック10を積み重ねる際に、上層側の標準ブロック10の突出部16を下層側の標準ブロック10の溝部13内に嵌入し易くするために設けられている。
【0017】
標準ブロック10は、
図4(a)に示すように、2つの突出部16のうちの一方側を、溝部13と同じ溝幅Wを有する他の溝部(ここでは他の標準ブロック10の溝部13とする)内に嵌入させた場合に、2つの突出部16のうちの他方側を、一方側の突出部16を嵌入させた他の溝部の延びる方向に移動させることができるとともに(
図4(b)中に示す矢印G)、一方側の突出部16を中心に円弧軌道(水平面内での円弧軌道)で移動させることができる(
図4(c)中に示す矢印R)。このため標準ブロック10は、一方側の突出部16が他の標準ブロック10の溝部13内に位置している場合であっても、それだけで他方側の突出部16の位置が決まってしまうわけではなく、或る程度の範囲で他方側の突出部16の位置を選択することが可能である。
図4(c)に示すように、一方側の突出部16を他の溝部の端部に位置させた場合には、他端側の突出部16は、一方側の突出部16を嵌入させている他の溝部の外側(溝部の側方の外側)の領域を含む範囲で移動(円弧軌道で移動)させることが可能である。
【0018】
このことから、標準ブロック10は、
図5(a)に示すように、長手方向の軸線J1,J2が交差している下層側の2つの標準ブロック10に対し、2つの突出部16を1つずつ、その下層側の2つの標準ブロック10それぞれの溝部13に嵌入させることができる(
図5(b)および
図6(a),(b))。また、
図7(a)に示すように、長手方向の軸線J1,J2が平行の位置にある下層側の2つの標準ブロック10に対し、2つの突出部16を1つずつ、その下層側の2つの標準ブロック10それぞれの溝部13に嵌入させることができる(
図7(b))。
【0019】
すなわち標準ブロック10は、1つ下層側のブロック層を構成する2つの標準ブロック10が直線状に並んでいない場合であっても、2つの突出部16をその下層側の2つの標準ブロック10それぞれの溝部13に1つずつ嵌入させることができ、これら下層側の2つの標準ブロック10に跨って積み重ねることが可能である。
【0020】
2つの突出部16を下層側の2つの標準ブロック10それぞれの溝部13内に嵌入させた状態の標準ブロック10は、突出部16と溝部13との間の干渉によって、水平方向の移動と倒伏が規制される。このため上層側の標準ブロック10の下層側の標準ブロック10に対する安定度は極めて高いものとなるが、設計的には、各突出部16は、下層側の標準ブロック10の溝部13に嵌入することによって、上層側の標準ブロック10の水平方向の移動と倒伏を規制できるだけの形状と寸法を有していることが必要である。
【0021】
ここで、突出部16の断面形状は円形であることから、下層側の標準ブロック10に対する上層側の標準ブロック10の姿勢(平面視における2つの標準ブロック10の軸線J1,J2の角度)によらず、突出部16は常にその外径の最大部分を溝部13の内壁に近づける状態で溝部13内に嵌入することになる。このため下層側の標準ブロック10に対する上層側の標準ブロック10の位置関係によらず、下層側の標準ブロック10に対する上層側に標準ブロック10の安定度を高めることができる。
【0022】
上層側の標準ブロック10の突出部16と下層側の標準ブロック10の溝部13との間に形成される遊びは、下層側の標準ブロック10に対する上層側の標準ブロック10の安定度を高める観点からすると、できるだけ小さい方が望ましい。しかし、前述したように、突出部16と溝部13の間に形成される遊びは、突出部16を溝部13内に嵌入し易くするためのものであるので、上層側の標準ブロック10の安定度と、作業の行い易さとの両面の観点からその大きさが決定される。
【0023】
実施の形態1におけるコンクリート壁体1Aを構築する場合には、先ず、地面JM(
図1)の上に標準ブロック10を並べて配置することによって、最下層のブロック層を形成する。標準ブロック10の設置は、例えば、クレーン等の重機によって行う。最下層のブロック層を形成したら、最下層のブロック層の上に、第2層のブロック層を形成する。
【0024】
第2層のブロック層の形成は、最下層のブロック層を構成する複数の標準ブロック10のうち、隣接して位置する2つの標準ブロック10の上に跨るように1つの標準ブロック10を積み重ねて行う。このとき、上層側の標準ブロック10が備える2つの突出部16が、下層側の2つの標準ブロック10それぞれの溝部13に1つずつ入り込む(嵌入する)ようにする(
図3(a)→
図3(b))。下層側の2つの標準ブロック10が平面視において直線状に並んでいない場合であっても、それら直線状に並んでいない2つの標準ブロック10に跨るように、上層側の標準ブロック10を積み重ねていく(
図5(a)→
図5(b)および
図7(a)→
図7(b))。第2層よりも上層側のブロック層の形成も、同様にして行う。
【0025】
このようにして構築されるコンクリート壁体1Aが曲面的な形状(曲面形状)を有するようにする場合には、最下層のブロック層を地面JM上に配列する際に、形成したい曲面形状を想定してこれを仮想壁面ラインKLとして地面JMに投影し(
図8(a))、その地面JM上に投影した仮想壁面ラインKLに沿って標準ブロック10を飛び飛びに配置する(
図8(b))。そして、仮想壁面ラインKLに沿って配置した標準ブロック10から成る最下層のブロック層の上に、第2層のブロック層を構成する標準ブロック10を積み重ねていく(
図8(c)〉。
【0026】
このようにして形成されたコンクリート壁体1Aでは、仮想壁面ラインKLに沿って配置されたために平面視において直線状に配置されなかった標準ブロック10の上には同様に仮想壁面ラインKLに沿った向きで標準ブロック10が積み重ねられていくので、完成したコンクリート壁体1Aには、想定した曲面形状の壁面が形成されることになる。このようにして形成された曲面状の壁面を有するコンクリート壁体1Aは、少なくとも1つの標準ブロック10が、1つ下層側のブロック層を構成する直線状に並んでいない2つの標準ブロック10それぞれの溝部13内に2つの突出部16を1つずつ嵌入させた状態となる(
図5(b)、
図7(b))。
【0027】
このように、実施の形態1におけるコンクリート壁体1Aは、横方向に並べられた複数の標準ブロック10から成るブロック層が上下方向に複数層積み重ねられた構成となっている。そして、各標準ブロック10は、上面12側に一の方向に延びた溝部13を有するとともに、下面側に下方に突出した2つの突出部16を有し、2つの突出部16を、1つ下層側のブロック層を構成する2つの標準ブロック10それぞれが有する溝部13内に1つずつ嵌入させたものとなっている。
【0028】
各標準ブロック10は、2つの突出部16の一方側を、溝部13と同じ溝幅Wを有する他の溝部内(例えば他の標準ブロック10の溝部13内)に嵌入させた場合に、2つの突出部16の他方側を、一方側の突出部16を中心に円弧軌道で移動させることが可能な構成となっており、一方側の突出部16を他の標準ブロック10の溝部13内に位置させた場合であっても、それだけで他方側の突出部16の位置が決まってしまうわけではなく、或る程度の範囲で他方側の突出部16の位置を選択することが可能である。よって、1つ下層側のブロック層を構成する2つの標準ブロック10が直線状に並んでいない場合であっても、これら2つの標準ブロック10それぞれの溝部13内に、2つの突出部16を1つずつ嵌入させることができる。このため、構築されるコンクリート壁体1Aが、横方向に平面的に延びる壁面だけでなく、横方向に曲面的に延びる壁面も有する形状とすることが可能である。
【0029】
ところで、このようにして構築されたコンクリート壁体1Aの各標準ブロック10の溝部13は、前述したように、長手方向の中央部CHから両方の端部TBそれぞれに向けて下降する2つの傾斜面14Mを有している(
図2(c))。このため、雨天時においてコンクリート壁体1Aの内部に入り込んだ雨水は、各標準ブロック10が有する傾斜面14Mを伝って溝部13の端部TBに向かって流れた後(
図9(a),(b))、各標準ブロック10の本体部11の側面11Sおよび上下の標準ブロック10の間から各標準ブロック10の本体部11の(すなわちコンクリート壁体1Aの)外面を伝って流れ、最終的に地面JMの上に排出される。
【0030】
このように実施の形態1におけるコンクリート壁体1Aでは、各標準ブロック10が有する溝部13の傾斜面14Mが水路(排水路)を形成するので、コンクリート壁体1Aが受ける雨水を効率よくコンクリート壁体1Aの外部に流すことができ、雨水の排出水路管理を適切に行うことができる。
【0031】
(実施の形態2)
図10は本発明の実施の形態2におけるコンクリート壁体1Bを示している。実施の形態2におけるコンクリート壁体1Bは、実施の形態1において示したコンクリート壁体1Aの最下層のブロック層を構成するコンクリートブロックを、標準ブロック10とは異なる基礎ブロック20に替えたものである。
【0032】
基礎ブロック20は、
図11(a),(b)に示すように、標準ブロック10の本体部11と同様に、横方向に延びたほぼ直方体形状の本体部21をベースとしている。そして、標準ブロック10の本体部11と同様に、基礎ブロック20の本体部21の上面22側には、上方に開口して本体部21の長手方向に延びた1つの溝部23が形成されている。溝部23の底面24は、
図11(c)(
図11(b)における矢視V2-V2から見た断面図)に示すように、溝部23の長手方向の中央部CHから両方の端部TBそれぞれに向けて下降する2つの傾斜面24Mを有している(
図11(a)も参照)。
【0033】
基礎ブロック20が有する溝部23の幅は、標準ブロック10が有する溝部13の溝幅Wと同じに大きさに設定されている(
図11(b))。このため、標準ブロック10の2つの突出部16それぞれの最大径Dは、基礎ブロック20の溝部23の溝幅Wよりもわずかに小さい寸法となっている。このため、基礎ブロック20の上に標準ブロック10を積み重ねた場合(
図12(a)→
図12(b))、標準ブロック10の突出部16と基礎ブロック20の溝部23との間に若干の遊びが生じ、突出部16は溝部23に対して遊びがある状態で嵌入(すなわち遊嵌)した状態となるのは、実施の形態1の場合(標準ブロック10の場合)と同じである。
【0034】
図11(a),(c)において、基礎ブロック20の下面側には、標準ブロック10における2つの突出部16に替えて、縦横に(例えばマトリクス状に)並んだ複数の突起26から成るスパイク部を有している。これら複数の突起26はそれぞれ、下方に窄まる円錐台形状を有しており、基礎ブロック20が地面JMの上に設置された場合に地面JMにめり込むことで、地面JMに対するスパイク機能を発揮するようになっている。
【0035】
図11(a),(b),(c)において、各基礎ブロック20の本体部21の長手方向(すなわち溝部23の長手方向)に対向する2つの側面21Sの一方には、外方に突出した形状の凸部27が設けられており、2つの側面21Sの他方には、凸部27と係合し得る形状(凸部27の形状を反転させた形状)の凹部28が設けられている。凸部27は、溝部23の下面25から下方に一定の厚さT2を有した形状に形成されており、凹部28は凸部27に対応した位置に、凸部27の厚さT2に対応した深さF2(
図11(c))を有した形状に形成されている。すなわち、凸部27の底面と凹部28の底面は、ほぼ同じ高さとなっている。
【0036】
第2層の標準ブロック10は、最下層の2つの基礎ブロック20それぞれが有する溝部23内に、2つの突出部16を1つずつ嵌入(遊嵌)させている。詳細には、第2層の標準ブロック10は、2つの突出部16のうちの一方側を最下層の2つの基礎ブロック20のうちの一方の溝部23に嵌入させており、2つの突出部16のうちの他方側を、最下層の2つの基礎ブロック20のうちの他方の溝部23に嵌入させている(
図12(b))。
【0037】
ここで、基礎ブロック20の溝部23は、標準ブロック10の溝部13と同じ溝幅Wを有しているので、標準ブロック10は、一方側の突出部16が基礎ブロック20の溝部13内に位置している場合であっても、それだけで他方側の突出部16の位置が決まってしまうわけではなく、或る程度の範囲で他方側の突出部16の位置を選択することが可能である。
【0038】
実施の形態2におけるコンクリート壁体1Bを構築する場合には、先ず、地面JMの上に基礎ブロック20を並べて配置することによって、最下層のブロック層を形成する。最下層のブロック層を形成したら、最下層のブロック層の上に、第2層のブロック層を形成する。第2層のブロック層の形成は、最下層のブロック層を構成する複数の基礎ブロック20のうち、隣接して位置する2つの基礎ブロック20の上に跨るように1つの標準ブロック10を積み重ねて行う。このとき、上層側の標準ブロック10が備える2つの突出部16が、下層側の2つの基礎ブロック20それぞれの溝部23に1つずつ入り込む(嵌入する)ようにする(
図12(a)→
図12(b))。実施の形態1の場合と同様、下層側の2つの基礎ブロック20が平面視において直線状に並んでいない場合であっても、上層側の標準ブロック10を積み重ねていく(
図13(a)→
図13(b)および
図14(a)→
図14(b)。第2層よりも上層側のブロック層の形成も、同様にして行う。
【0039】
このようにして形成されたコンクリート壁体1Bは、実施の形態1におけるコンクリート壁体1Aの効果に加え、最下層のブロック層を構成する基礎ブロック20がスパイク部を備えているので、地面JMが不整地である場合等において、コンクリート壁体1Bの地面JMに対する安定度を高めることできるといる効果を有する。
【0040】
実施の形態2におけるコンクリート壁体1Bにおいても、各標準ブロック10が有する溝部13の傾斜面14Mと各基礎ブロック20が有する溝部23の傾斜面24Mとから、実施の形態1におけるコンクリート壁体1Aの場合と同様の雨水の排水路が形成される。このため、実施の形態1におけるコンクリート壁体1Aの場合と同様に、雨水を効率よく地面JMの上に排水でき、雨水の排出水路管理を適切に行うことが可能である。
【0041】
(実施の形態3)
図15は実施の形態3におけるコンクリート壁体1Cを示している。実施の形態3におけるコンクリート壁体1Cは、前述した標準ブロック10と基礎ブロック20とを用いて構築されており、横方向に平面的に延びる壁面のみを有している。
【0042】
コンクリート壁体1Cでは、基礎ブロック20によって最下層のブロック層を形成する際に、直線状に配置された2つの基礎ブロック20のうちの一方が有する凸部27が、他方の基礎ブロック20が有する凹部28に上方から嵌入するようにする(
図16(a)→
図16(b))。前述したように、凸部27の底面と凹部28の底面はほぼ同じ高さであることから、隣接して配置される2つの基礎ブロック20の底面14は、ほぼ同じ高さに揃えられた状態となる。
【0043】
第2層のブロック層を構成する各標準ブロック10は、その下層側(最下層)の隣接した2つの基礎ブロック20に跨った状態で積み重ねられる(
図17(a)→
図17(b))。同様に、第2層よりも上層側の標準ブロック10は、その1つ下層側の2つの標準ブロック10に跨った状態で積み重ねられる(
図18(a)→
図18(b))。このため各ブロック層を構成する各標準ブロック10は、平面視において、最下層において直線状に並んだ基礎ブロック20と同じ直線上に並んだ状態となっている。
【0044】
第2層およびその上層の各ブロック層を構成する標準ブロック10は、隣接するもの同士において、凸部17と凹部18が係合される(
図19(a)→
図19(b)。このため、隣接して位置する2つの標準ブロック10同士も、平面視において直線状に並ぶように高精度に位置決めされた状態となり、コンクリート壁体1Cの壁面形状を正確な平面形状にすることができる。また、同一のブロック層における標準ブロック10同士が、凸部17と凹部18を介して互いに横方向への移動を規制するので、コンクリート壁体1Cの全体の安定度は極めて高いものとなる。
【0045】
このように実施の形態3においても、一のブロック層を構成する標準ブロック10が、その1つ下層側のブロック層を構成する2つの標準ブロック10それぞれの溝部13内(或いは2つの基礎ブロック20の溝部23内)に2つの突出部16を1つずつ嵌入させているので、上層側の標準ブロック10は、その突出部16の外面が下層側の標準ブロック10の溝部13(あるいは基礎ブロック20の溝部23)の内面と干渉することで、下層側の標準ブロック10(或いは基礎ブロック20)に対する移動と倒伏とが規制される。このため上層側の標準ブロック10の下層側の標準ブロック10に対する安定度は、実施の形態1および実施の形態2の場合と同様に極めて高いものとなっている。
【0046】
実施の形態3におけるコンクリート壁体1Cにおいても、コンクリート壁体1Cの内部に入り込んだ雨水は、各標準ブロック10が有する傾斜面14Mを伝って溝部13の端部TB側に向かって流れた後(
図20(a),(b))、各標準ブロック10の本体部11の側面11Sおよび上下の標準ブロック10の間から標準ブロック10の本体部11の(すなわちコンクリート壁体1Cの)外面を伝って流れる。そして、最終的に地面JMの上に排出される(
図20(a)中に示す矢印参照)。このためコンクリート壁体1Cにおいても、コンクリート壁体1Aおよびコンクリート壁体1Bの場合と同様に、雨水を効率よく地面JMの上に排水でき、雨水の排出水路管理を適切に行うことが可能である。
【0047】
(実施の形態4)
図21は実施の形態4におけるコンクリート壁体1Dを示している。実施の形態4では変形タイプの基礎ブロック(符号を「20A」とする)を使用している。変形タイプの基礎ブロック20Aは、互いに平行に配置された複数の溝部23(ここでは2つ)を有している。そして、これら複数の溝部23のそれぞれに、その溝部23の長手方向に並んで標準ブロック10が積み重ねられている。このような構成を有するコンクリート壁体1Dでは全体の厚さ(標準ブロック10の短辺方向の寸法)が極めて大きいものとなる。このため災害現場等において、流れてきた土砂等に対する耐久度を増大させることができる。
【0048】
(実施の形態5)
図22は実施の形態5におけるコンクリート壁体1Eを示している。実施の形態5では、実施の形態4で示した変形タイプの基礎ブロック20Aに加えて、変形タイプの標準ブロック(符号を「10A」とする)を使用している。変形タイプの標準ブロック10Aは、本体部11の長手方向に延びて本体部11の幅方向(短辺方向)に対向する一対の側面(長手方向側面11H)が、互いに平行なまま、溝部13の幅方向(本体部21の短辺方向であり、
図22における左右方向)の一方側に傾斜したものとなっている。
【0049】
実施の形態5におけるコンクリート壁体1Eは、
図22に示すように垂直面VMから傾いたものとなるため、斜面を有する土壌DJの擁壁としての使用が適したものとなる。ここでは、変形タイプの標準ブロック10Aは実施の形態4で示した変形タイプの基礎ブロック20Aに積み重ねられた構成となっているが、実施の形態2および実施の形態3で示した溝部23が1つである基礎ブロック20に積み重ねられていても構わない。
【0050】
以上説明したように、上述の実施の形態1および2で示したコンクリート壁体1A,1B,1C,1D,1Eでは、これを構築するコンクリートブロック(標準ブロック10)が、上面12側に一の方向に延びた溝部13を有するとともに、下面側に下方に突出した2つの突出部16を有し、2つの突出部16を、1つ下層側のブロック層を構成する2つの標準ブロック10それぞれが有する溝部13(または基礎ブロック20が有する溝部23)内に1つずつ嵌入させたものとなっている。そして、2つの突出部16の一方側を、溝部13と同じ溝幅Wを有する他の溝部内に嵌入させた場合に、2つの突出部16の他方側を、一方側の突出部16を中心に円弧軌道で移動させることが可能な構成となっているので、1つ下層側のブロック層を構成する2つの標準ブロック10が直線状に並んでいない場合であっても、これら2つの標準ブロック10それぞれの溝部13内に2つの突出部16を1つずつ嵌入させることができる。このため構築されるコンクリート壁体1A,1Bのように、横方向に平面的に延びる壁面だけでなく、横方向に曲面的に延びる壁面も有する形状とすることが可能である。
【0051】
また、各標準ブロック10が有する溝部13の底面14は、溝部13の長手方向の中央部CHから両方の端部TBそれぞれに向けて下降する2つの傾斜面14Mを有しており、各基礎ブロック20が有する溝部23の底面24は、溝部23の長手方向の中央部CHから両方の端部TBそれぞれに向けて下降する2つの傾斜面24Mを有している。このような標準ブロック10の溝部13および基礎ブロック20の溝部23はコンクリート壁体1A,1B,1C,1D,1E内に入った雨水を効率よく排水する機能を有するので、雨水の排出水路管理を適切に行うことができる。
【0052】
これまで本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上述したものに限定されず、種々の変形等が可能である。例えば、上述の実施の形態1~5において、各標準ブロック10が備える2つの突出部16はそれぞれ下方に窄まる円錐台形状を有するものであったが、円柱形状を有するものであってもよい。更には、断面が円形でない他の形状のものであってもよいが、断面が円形であれば、下層側の標準ブロック10(或いは基礎ブロック10)に対する上層側の標準ブロック10の位置関係によらず、下層側の標準ブロック10に対する上層側に標準ブロック10の安定度を高めることができるという利点がある。
【0053】
また、上述の実施の形態では、標準ブロック10が備える各突出部16はそれぞれ円錐台形状を有するひとつの突起部から成っていたが、複数の突起部が集まってひとつの突出部を形成しているのであってもよい。例えば、複数の突起部が円形に並んで配置されてひとつの突出部16を形成しているのであってもよい。標準ブロック10が備える突出部16は、下層側の標準ブロック10の溝部12(或いは基礎ブロック20の溝部23)に嵌入してその突出部16を備える標準ブロック10の下層側の標準ブロック10(或いは基礎ブロック20)に対する移動と倒伏を規制する機能を果たすものであるので、標準ブロック10の下面側に上記機能を果たさない突起状のものが標準ブロック10の下面側に設けられていたとしても、そのような突起状のものは本発明における突出部16には該当しない。
【0054】
また、上述の実施の形態では、標準ブロック10の底面14は傾斜面14Mを有するものであったが、これは必須ではなく、傾斜面14Mを有しない水平面であってもよい。同様に、基礎ブロック20の底面14は傾斜面24Mを有するものであったが、これは必須ではなく、傾斜面24Mを有しない水平面であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
災害現場等において緊急にコンクリート壁体を構築する場合は勿論、通常時においてコンクリート壁体を構築する場合等において利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1A,1B,1C,1D,1E コンクリート壁体
10,10A 標準ブロック
20,20A 基礎ブロック
11S,21S 側面
12,22 上面
13,23 溝部
14,24 底面
14M,24M 傾斜面
15,25 下面
16 突出部
17,27 凸部
18,28 凹部
26 突起(スパイク部)
CH 中央部
TB 端部