(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021687
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】N-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 231/14 20060101AFI20220127BHJP
C07C 233/09 20060101ALI20220127BHJP
C07C 231/02 20060101ALI20220127BHJP
C07C 235/06 20060101ALI20220127BHJP
C07C 235/16 20060101ALI20220127BHJP
C07D 295/185 20060101ALI20220127BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
C07C231/14
C07C233/09 B
C07C231/02
C07C235/06
C07C235/16 Z
C07D295/185
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020125435
(22)【出願日】2020-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】314001841
【氏名又は名称】KJケミカルズ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】光富 大貴
(72)【発明者】
【氏名】安永 篤史
(72)【発明者】
【氏名】平田 明理
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC13
4H006AC53
4H006BA67
4H006BA71
4H006BA80
4H006BC37
4H006BD70
4H006BJ20
4H006BJ50
4H006BN10
4H006BV22
4H006BV34
4H039CA29
4H039CG10
(57)【要約】
【課題】バイオマス由来の有機酸等又は天然素材由来の有機酸等を出発原料とするN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【解決手段】
バイオマス由来の乳酸、ラクチド、3-ヒドロキシプロピオン酸、乳酸オリゴマー、ポリ乳酸、又は天然素材由来の2-ヒドロキシイソ酪酸、3-ヒドロキシイソ酪酸、ヒドロキシイソ酪酸オリゴマー、ポリヒドロキシイソ酪酸からなる群より選択される一種以上の有機酸又はその誘導体とアミン化合物を原料として用い、下記工程(A)と(B)を含むことを特徴とするN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法。(A)有機酸又はその誘導体とアミン化合物を分子間で脱水縮合又は開環反応させ、アミド化合物を得る工程;(B)(A)で得られたアミド化合物を分子内で脱水させ、N-置換(メタ)アクリルアミド得る工程。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス由来の乳酸、ラクチド、3-ヒドロキシプロピオン酸、乳酸オリゴマー、ポリ乳酸、又は天然素材由来の2-ヒドロキシイソ酪酸、3-ヒドロキシイソ酪酸、ヒドロキシイソ酪酸オリゴマー、ポリヒドロキシイソ酪酸からなる群より選択される一種以上の有機酸又はその誘導体とアミン又はアミン塩類を原料として用い、下記工程(A)と(B)を含むことを特徴とするN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法。
(A)有機酸又はその誘導体とアミン又はアミン塩類を分子間で脱水縮合又は開環反応させ、アミド化合物を得る工程
(B)(A)で得られたアミド化合物を分子内で脱水させ、N-置換(メタ)アクリルアミド得る工程
【請求項2】
アミンは一般式[1]で示される第一級アミン又は第二級アミンであることを特徴とする請求項1に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【化1】
(式中、R
1とR
2は各々水素原子(但し、R
1とR
2が同時に水素原子である場合を除く。)又は炭素数1~36の直鎖状のアルキル基或いはヒドロキシアルキレン基、炭素数2~36のアルケニル基或いはアルキルエーテル基、炭素数3~36の分岐状のアルキル基或脂環式炭化水素、炭素数6~36の芳香族炭化水素を表し、また、R
1とR
2はそれらを担持する窒素原子と一緒になって、酸素原子を有する飽和5~7員環を形成してもよい。)
【請求項3】
アミン塩類は第一級アミン又は第二級アミンが酸との中和反応によって生じた塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項4】
酸は、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸、炭酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、アジピン酸、グルタル酸、サリチル酸、コハク酸、マロン酸、p-トルエンスルホン酸であることを特徴とする請求項3に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項5】
工程(A)の反応は触媒としてルイス酸の存在下で行うことを特徴とする請求項1に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項6】
ルイス酸はホウ素化合物であることを特徴とする請求項5に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項7】
ルイス酸は有機ホウ素化合物であることを特徴とする請求項5に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項8】
有機ホウ素化合物はボロン酸又はボロン酸誘導体であることを特徴とする請求項7に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項9】
工程(A)の反応は更に助触媒として第三級アミン化合物を用いることを特徴とする請求項5に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項10】
工程(B)の反応は無機多孔質触媒の存在下で行うことを特徴とする請求項1に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項11】
無機多孔質触媒はシリカを30モル%以上含有することを特徴とする請求項10に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項12】
無機多孔質触媒はシリカゲル、メソポーラスシリカ、シリカアルミナ、ゼオライト、アルミノケイ酸塩、珪砂、カオリン、ケイ酸アルミニウムからなる群より選択された一種又は二種以上であることを特徴とする請求項10又は11に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【請求項13】
N-置換(メタ)アクリルアミドは一般式[2]で示されるN-単置換(メタ)アクリルアミドとN,N-二置換(メタ)アクリルアミドであることを特徴とする請求項1~12の何れか一項に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法。
【化2】
(式中、R
1とR
2は各々水素原子(但し、R
1とR
2が同時に水素原子である場合を除く。)又は炭素数1~36の直鎖状のアルキル基或いはヒドロキシアルキレン基、炭素数2~36のアルケニル基或いはアルキルエーテル基、炭素数3~36の分岐状のアルキル基或脂環式炭化水素、分炭素数6~36の芳香族炭化水を表し、また、R
1とR
2は、それらを担持する窒素原子と一緒になって、酸素原子を有する飽和5~7員環を形成してもよい。R
3は水素原子又はメチル基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオベース出発物質からN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N-置換(メタ)アクリルアミドは、種々の重合方法により単独重合又は他の重合性モノマーと共重合することができるため、塗料、粘着剤、接着剤、各種コーティング剤、紙力増強剤などの製紙用薬剤、産業排水や生活排水の処理に用いる高分子凝集剤、高分子改質剤、分散剤、増粘剤、コンタクトレンズや生体用ゲルなどの合成原料、UV硬化樹脂用反応性希釈剤など、極めて多様な分野において使用されている。N-置換(メタ)アクリルアミドの工業的製造方法は従来から盛んに検討、報告されてきた。
【0003】
N-置換(メタ)アクリルアミドは、通常出発物質として(メタ)アクリルアミド(特許文献1)、(メタ)アクリル酸エステル(特許文献2)、(メタ)アクリロニトリル(特許文献3)、(メタ)アクリル酸(特許文献4)から工業的に製造されている。しかし、これらの方法では、強塩基や強酸性触媒を使用することや、高温、高圧等過酷な条件を必要すること、不飽和結合の保護、脱保護、中和処理等多数の反応工程と煩雑な操作も必要すること、さらに、毒性を有する触媒を使用することや毒性の副生成物が発生する場合があり、それら毒性物質の分離、回収、除害などの措置を取らなければならないため、過大なエネルギー消耗と高価な設備投資を招き、いずれも工業生産に適した安全、簡便な方法ではなかった。
【0004】
また、前記各種の出発物質は全て石油ベースで作られたものであり、近年、石油資源の枯渇と環境汚染が問題視されており、非石油資源のバイオベースの製造方法が注目されてきた。例えば、特許文献5は、乳酸とその誘導体を原料として、銅等の金属触媒の存在下で、高温高圧水を用いた処理を施すことにより、アクリル酸とその誘導体を合成する技術を提案した。しかしながら、この方法においても反応容器に耐熱性と耐圧性を持たせる必要があり、また高温高圧水中で脱水させるため、反応収率が低く、水媒体からアクリル酸とその誘導体を分離、精製することは極めて困難であり、高純度品を高収率で製造できない問題があった。
【0005】
以上述べたように、N-置換(メタ)アクリルアミドを高純度、高収率、安全且つ簡便な工業的製造方法、特に、グリーンサスティナブルケミストリーの観点から、水しか副生しないバイオベース有機酸を原料として用いたプロセスは、まだ確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58-18346号公報
【特許文献2】特開2012-97005号公報
【特許文献3】特開2000-264865号公報
【特許文献4】特開2012-46431号公報
【特許文献5】特開2017-14144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、バイオベース出発物質からN-置換(メタ)アクリルアミドを製造する方法を提供するものである。本発明の全製造工程において、副生成物水しか出さず、様々なN-置換(メタ)アクリルアミドを高純度、高収率、安全且つ簡便に製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはこれらの課題を解決するために鋭意検討を行った結果、バイオマス由来の乳酸、ラクチド、3-ヒドロキシプロピオン酸、乳酸オリゴマー、ポリ乳酸、又は天然素材由来の2-ヒドロキシイソ酪酸、3-ヒドロキシイソ酪酸、ヒドロキシイソ酪酸オリゴマー、ポリヒドロキシイソ酪酸からなる群より選択される一種以上の有機酸又はその誘導体(有機酸の環状二量体、オリゴマーとポリマー)とアミン又はアミン塩類を原料として用い、分子間で脱水縮合又は開環反応させることにより中間体としてアミド化合物を得、その後得られたアミド化合物を分子内で脱水させることにより目的化合物N-置換(メタ)アクリルアミド得ることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)バイオマス由来の乳酸、ラクチド、3-ヒドロキシプロピオン酸、乳酸オリゴマー、ポリ乳酸、又は天然素材由来の2-ヒドロキシイソ酪酸、3-ヒドロキシイソ酪酸、ヒドロキシイソ酪酸オリゴマー、ポリヒドロキシイソ酪酸からなる群より選択される一種以上の有機酸又はその誘導体とアミン又はアミン塩類を原料として用い、下記工程(A)と(B)を含むことを特徴とするN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法、
(A)有機酸又はその誘導体とアミン又はアミン塩類を分子間で脱水縮合又は開環反応させ、アミド化合物を得る工程
(B)(A)で得られたアミド化合物を分子内で脱水させ、N-置換(メタ)アクリルアミド得る工程
(2)アミンは一般式[1]で示される第一級アミン又は第二級アミンであることを特徴とする前記(1)に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法、
【化1】
(式中、R
1とR
2は各々水素原子(但し、R
1とR
2が同時に水素原子である場合を除く。)又は炭素数1~36の直鎖状のアルキル基或いはヒドロキシアルキレン基、炭素数2~36のアルケニル基或いはアルキルエーテル基、炭素数3~36の分岐状のアルキル基或脂環式炭化水素、炭素数6~36の芳香族炭化水素を表し、また、R
1とR
2はそれらを担持する窒素原子と一緒になって、酸素原子を有する飽和5~7員環を形成してもよい。)
(3)アミン塩類は第一級アミン又は第二級アミンが酸との中和反応によって生じた塩であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法、
(4)酸は、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸、炭酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、アジピン酸、グルタル酸、サリチル酸、コハク酸、マロン酸、p-トルエンスルホン酸であることを特徴とする前記(3)に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法、
(5)工程(A)の反応は触媒としてルイス酸の存在下で行うことを特徴とする前記(1)に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法、
(6)ルイス酸はホウ素化合物であることを特徴とする前記(5)に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法、
(7)ルイス酸は有機ホウ素化合物であることを特徴とする前記(5)に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法、
(8)有機ホウ素化合物はボロン酸又はボロン酸誘導体であることを特徴とする前記(7)に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法、
(9)工程(A)の反応は更に助触媒として第三級アミン化合物を用いることを特徴とする前記(5)に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法、
(10)工程(B)の反応は無機多孔質触媒の存在下で行うことを特徴とする前記(1)に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法、
(11)無機多孔質触媒はシリカを30モル%以上含有することを特徴とする前記(10)に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法、
(12)無機多孔質触媒はシリカゲル、メソポーラスシリカ、シリカアルミナ、ゼオライト、アルミノケイ酸塩、珪砂、カオリン、ケイ酸アルミニウムからなる群より選択された一種又は二種以上であることを特徴とする前記(10)又は(11)に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法、
(13)N-置換(メタ)アクリルアミドは一般式[2]で示されるN-単置換(メタ)アクリルアミドとN,N-二置換(メタ)アクリルアミドであることを特徴とする前記(1)~(12)の何れか一項に記載のN-置換(メタ)アクリルアミドの製造方法
【化2】
(式中、R
1とR
2は各々水素原子(但し、R
1とR
2が同時に水素原子である場合を除く。)又は炭素数1~36の直鎖状のアルキル基或いはヒドロキシアルキレン基、炭素数2~36のアルケニル基或いはアルキルエーテル基、炭素数3~36の分岐状のアルキル基或脂環式炭化水素、分炭素数6~36の芳香族炭化水を表し、また、R
1とR
2は、それらを担持する窒素原子と一緒になって、酸素原子を有する飽和5~7員環を形成してもよい。R
3は水素原子又はメチル基を表す。)
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によると、N-置換(メタ)アクリルアミドをバイオマス由来の有機酸又はその誘導体又は天然素材由来の有機酸(以下有機酸化合物等と称する)から高収率で安全かつ簡便に製造することができる。また、本発明の方法では、反応工程の数が少なく、副生成物として水しか出さず、環境負荷が低く、安全かつ簡便で、汎用のN-置換(メタ)アクリルアミドから嵩高い環状置換基を有する(メタ)アクリルアミド、長鎖アルキル(メタ)アクリルアミド等の特殊品まで、高純度品を高収率で取得することができる。
【0011】
本発明の製造方法において、有機酸化合物等とアミン又はアミン塩類(以下アミン化合物等と称する)の脱水縮合反応におけるルイス酸の触媒メカニズムについて、反応機構は必ずしも明らかではないが、アミン化合物等がルイス塩基であるため、ルイス酸の金属の空配位座に配位、或いは、金属の既存配位子を置換して配位されやすく、そのことによりアミン化合物等が活性化され、温和な条件下でも反応がスムーズに進行していくことを発明者らは推測している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、下記(A)と(B)の二つの工程からなる、N-置換(メタ)アクリルアミドとしてN-単置換(メタ)アクリルアミドとN,N-二置換(メタ)アクリアミドを効率よく工業的に製造する方法を提供する。
【0013】
(A)工程は、ルイス酸触媒存在下で有機酸化合物等とアミン化合物等とを反応させることによって行われ、煩雑な操作を伴わずに収率よく、中間体としてヒドロキシプロピオン酸アミド又はヒドロキシイソ酪酸アミドを取得することができる。また、ラクチドとアミン化合物等の開環反応は無触媒でも十分に進行するが、分岐鎖状の置換基又は環状置換基を有する嵩高いアミン化合物等である場合、立体的障害が大きいため、ルイス酸触媒により反応が促進され、低温、短時間でも反応が完結することができ、好ましい。
【0014】
(B)工程は、(A)工程において得られた中間体であるアミド化合物を、無機多孔質触媒存在下で分子内脱水することにより目的化合物であるN-置換(メタ)アクリルアミドをすることができる。中間体及び目的化合物の構造によって気相脱水と液相脱水を選択することができる。また、得られるN-置換(メタ)アクリルアミドは重合しやすいため、ラジカル重合禁止剤の存在下で実施することが好ましい。
【0015】
以下、本発明の各工程を詳述する。
(A)工程
(A)工程に用いられる有機酸化合物等は、バイオマス由来の乳酸、ラクチド、3-ヒドロキシプロピオン酸、乳酸オリゴマー、ポリ乳酸、又は天然素材由来の2-ヒドロキシイソ酪酸、3-ヒドロキシイソ酪酸、ヒドロキシイソ酪酸オリゴマー、ポリヒドロキシイソ酪酸からなる群より選択される一種以上の有機酸又はその誘導体である。乳酸は発酵法で作られ、乳酸の加熱脱水重合によって乳酸オリゴマーやポリ乳酸が得られる。ラクチドは2分子のヒドロキシカルボン酸において、互いのヒドロキシ基とカルボキシル基が脱水縮合してできたエステル結合を分子内に2つもつ環状化合物であって、バイオマス由来の観点から2分子の乳酸からのラクチド(乳酸ラクチド)が好ましい。乳酸ラクチドは乳酸の脱水縮合から作られ、又乳酸の脱水縮重合により得られた低分子量体ポリ乳酸(乳酸オリゴマー)を、一旦減圧下に加熱分解して環状二量体であるラクチドを合成することができる。さらに、2-ヒドロキシイソ酪酸は発酵生産のアセトンからも、発酵生産のピルピン酸のアルキルエステルからも、発酵生産の乳酸エステルからも合成することができる。3-ヒドロキシプロピオン酸は微生物を使用して砂糖を発酵させ方法で作ることができ、触媒存在下グリセリンを原料として用い、3-ヒドロキシプロピオンアルデヒドを経由して製造することもできる。
【0016】
(A)工程に用いられるアミン化合物等はアミン又はアミン塩類である。アミンは一般式[3]で示される第一級アミン又は第二級アミンであり、アミン塩類はこれらの第一級アミン又は第二級アミンが酸との中和反応によって生じた塩である。(A)工程の反応において、アミンとアミン塩類が同じ反応に用いることができるが、反応条件やアミンとアミン塩類の取り扱いの容易さ、目的生成物との分離可能性等を総合的に考慮して選択すればよい。アミンは有機酸化合物等と直接反応することができ、アミン塩類は第三級アミンや他の塩基性物質によりアミンまで遊離化させてから有機酸化合物等と反応することである。
【化3】
(式中、R
1とR
2は各々水素原子(但し、R
1とR
2が同時に水素原子である場合を除く。)又は炭素数1~36の直鎖状のアルキル基或いはヒドロキシアルキレン基、炭素数2~36のアルケニル基或いはアルキルエーテル基、炭素数3~36の分岐状のアルキル基或脂環式炭化水素、炭素数6~36の芳香族炭化水素を表し、また、R
1とR
2はそれらを担持する窒素原子と一緒になって、酸素原子を有する飽和5~7員環を形成してもよい。)
【0017】
(A)工程に用いられるアミンは、直鎖又は分岐鎖状の飽和或いは不飽和の脂肪族第一級アミンと第二級アミン、ヒドロキシル基を有する第一級アルカノールアミンと第二級アルカノールアミン、エーテル基を有する第一級アルキルエーテルアミンと第二級アルカノールアミン、脂環式炭化水素を有する前記第一級アミンと第二級アミン、芳香族炭化水素を有する前記第一級アミンと第二級アミンとモルフォリンである。具体的には、(ジ)メチルアミン、(ジ)エチルアミン、(ジ)プロピルアミン、(ジ)イソプロピルアミン、(ジ)ブチルアミン、(ジ)イソブチルアミン、(ジ)ペンチルアミン、(ジ)ヘキシルアミン、(ジ)ヘプチルアミン、(ジ)オクチルアミン、(ジ)ノニルアミン、(ジ)デシルアミン、(ジ)オレイルアミン、ジステアリルアミン、メチルエチルアミン、メチル(イソ)プロピルアミン、メチル(イソ)ブチルアミン、メチル(イソ)ヘキシルアミン、エチル(イソ)プロピルアミン、エチル(イソ)ブチルアミン、エチル(イソ)ヘキシルアミン、プロピルイソプロピルアミン、プロピルブチルアミン、プロピルヘキシルアミン、イソプロピルブチルアミン、イソプロピルイソブチルアミン、イソプロピルヘキシルアミン、ブチルイソブチルアミン、ブチルヘキシルアミン、オレイルステアリルアミン、モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、プロパノールアミン;イソプロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ヘキサノールアミン、(ジ)シクロプロピルアミン、(ジ)シクロブチルアミン、(ジ)シクロペンチルアミン、(ジ)シクロヘキシルアミン、(ジ)フェニルアミン、(ジ)ベンジルアミン、モルフォリン等が挙げられる。
【0018】
(A)工程に用いられるアミン塩類は前記第一級アミン又は第二級アミンが酸との中和反応によって生じた塩である。中和反応に使用される酸は、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸、炭酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、アジピン酸、グルタル酸、サリチル酸、コハク酸、マロン酸、p-トルエンスルホン酸であり、又安全性、取り扱い易さ、コスト等を考慮し、塩酸、硫酸、酢酸、サリチル酸が好ましい。
【0019】
(A)工程に用いられる触媒はルイス酸であり、具体的に中心となる金属及びその金属に結合する電子吸引基から構成され、非共有電子対を受け取ることができる物質であれば、特に限定することはない。金属元素としてホウ素、アルミニウム、スカンジウム、チタン、鉄、亜鉛、 ヒ素、ジルコニウム、ニオブ、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、ハフニウム、水銀、ランタノイド等が挙げられ、電子吸引基としてはハロゲン基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメタンスルホニル(トリフラート)、スルホニル基、メタンスルホニル基、トリフルオロアセチル基、ニトロ基等が挙げられ、これらの金属と電子吸引基を組み合わせるとルイス酸ができる。例えば、金属ハロゲ化物として三フッ化ホウ素、塩化アルミニウムと塩化チタン(三塩化チタニウム)等、金属トリフルオロメタンスルホナート(トリフラート)としてランタノイドトリフラート、イッテルビウムトリフラート、鉄(II)、銅(II)、亜鉛(II)、カドミウム(II)、鉛(II)などのトリフラートが挙げられる。これらのルイス酸は一種を単独使用しても良く、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
(A)工程に用いられる触媒であるルイス酸はホウ素化合物であることが好ましい。ホウ素化合物はホウ素を有する化合物であり、具体的に、ホウ酸、ホウフッ化水素酸等の酸、四ホウ酸ナトリウムと過ホウ酸ナトリウム、ホウフッ化カリウム等の塩、三酸化二ホウ素等の酸化物、三塩化ホウ素、三フッ化ホウ素等のハロゲン化物、トリエチルボラン、エノールボラン、アルキニルボラン、ボロン酸、ボロン酸エステル、ボラジン誘導体等の有機ホウ素化合物が挙げられる。ホウ素化合物はカルボン酸とアミンからアミドを合成する際に有用なルイス酸として触媒として働き、そのメカニズムは解明されたものではないが、ホウ素が金属元素と非金属元素の中間性質を有する半金属であることに起因すると発明者らが考えている。中でも、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウ、三酸化二ホウ素、有機ホウ素化合物等の三核ホウ素化合物がルイス酸として適切な強度を示し、より好ましい。
【0021】
(A)工程に用いられる触媒であるルイス酸は有機ホウ素化合物であることが特に好ましい。有機ホウ素化合物はホウ素原子に結合する置換基の種類と数によって、トリアルキルボラン、ジアルコキシアルキニルボラン、トリフェニルボラン等の有機ボラン化合物、脂肪族や芳香族ボロン酸、脂肪族や芳香族ボリン酸及びそれらのエステル型誘導体等が挙げられる。中でも、ボロン酸はホウ酸のヒドロキシ基をアルキル基やアリール基で置換した構造を有し、ルイス酸として働く同時に、原料の有機酸化合物等と可逆な共有結合錯体を形成されやすく、アミン化合物等とより接近、反応しやすいため、最も好ましい。
【0022】
前記のボロン酸は代表的な化合物はアルキルボロン酸、アルケニルボロン酸、アリールボロン酸(芳香族ボロン酸)であり、具体的には、メチルボロン酸、エチルボロン酸、シクロプロピルボロン酸、イソプロピルボロン酸、n-プロピルボロン酸、シクロブチルボロン酸、n-ブチルボロン酸、t-ブチルボロン酸、4-ブロモブチルボロン酸、2-メチルプロピルボロン酸、シクロペンチルボロン酸、5-ブロモペンチルボロン酸、シクロヘキシルボロン酸、6-ブロモヘキシルボロン酸、2,6-ジクロロベンジルボロン酸、シクロヘキシルメチルボロン酸、フェネチルボロン酸、トランス-2-クロロメチルビニルボロン酸、シス-1-プロペン-1-イルボロン酸、トランス-1-プロペン-1-イルボロン酸、2,2-ジメチルエチレンボロン酸、ブタ-3エニルボロン酸、シクロペンテン-1-イルボロン酸、1-ペンテン-1-イルボロン酸、3-メチル-2-ブテン-2-イルボロン酸、4-ペンテニルボロン酸、ビニルボロン酸無水物ピリジン錯体、1-シクロヘキセン-1-イルボロン酸、4-メチル-1-ペンテニルボロン酸、5-ヘキセニルボロン酸、1-シクロヘプテン-1-イルボロン酸、2-(シクロペンチル)エテニル-1-ボロン酸、4-メチル-1-シクロヘキセン-1-イルボロン酸、4-エチルシクロヘキセン-1-イルボロン酸、トランス-1-ヘプテニルボロン酸アルケニルボロン酸、トランス-1-オクテン-1-イルボロン酸、フェニルボロン酸、4-エチルフェニルボロン酸、2-ナフチルボロン酸、ナフタレン-1-ボロン酸、フルオレン-2-ボロン酸、9-アントラセンボロン酸、9-フェナントラセニルボロン酸、ピレン-1-ボロン酸、トランス-2-(4-クロロフェニル)ビニルボロン酸、トランス-2-(4-クロロフェニル)ビニルボロン酸、トランス-2-(3-フルオロフェニル)ビニルボロン酸、トランス-2-(4-フルオロフェニル)ビニルボロン酸、1-フェニルビニルボロン酸、トランス-2-フェニルビニルボロン酸、トランス-2-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)ビニルボロン酸、トランス-2-(4-メチルフェニル)ビニルボロン酸、トランス-3-フェニル-1-プロペン-1-イルボロン酸、トランス-2-(4-メトキシフェニル)ビニルボロン酸、4-t-ブチルシクロヘキセン-1-イルボロン酸等が挙げられる。
【0023】
(A)工程において、有機酸化合物等に対するアミン化合物等は化学量論的な量を使用することができ、又はそれよりも過剰に用いることで反応が促進されるため、好ましい。一般的に、有機酸化合物等に有するカルボキシル基の数(モル数)に対して、アミン化合物等は1~30倍モルの範囲で用いられる。即ち、乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、3-ヒドロキシイソ酪酸等は単官能有機酸化合物に該当し、アミン化合物等はこれらの有機酸化合物の1~30倍モルの範囲で用いられ、また1.05~20倍モルの範囲が好ましく、1.1~10倍モルの範囲がより好ましい。ラクチドは二官能の有機酸化合物に該当し、アミン化合物等はラクチドの2~50倍モルの範囲で用いられ、また2.05~40倍モルの範囲が好ましく、2.1~30倍モルの範囲がより好ましい。乳酸オリゴマー、ポリ乳酸、ヒドロキシイソ酪酸オリゴマー、ポリヒドロキシイソ酪酸は多官能の有機酸化合物に該当し、アミン化合物等はこれらの有機酸化合物のカルボキシル基の数に対して1~10倍モルの範囲で用いられ、また1.05~8倍モルの範囲が好ましく、1.1~5倍モルの範囲がより好ましい。
【0024】
(A)工程において、反応温度と反応時間は有機酸化合物等、アミン化合物等の種類、仕込みモル比、触媒の種類、使用の量に応じて、適切に選定することができる。通常、反応温度は20~160℃程度で、反応時間は0.5~48時間の範囲である。また、好ましい反応温度は20~100℃程度で、反応時間は1~36時間の範囲である。反応温度は20℃未満、または反応時間は0.5時間未満であると、反応の速度が著しく低下するおそれがあり、一方、反応温度は160℃超えると、有機酸化合物やアミン化合物等が反応系外へ脱離しやすくなり、副反応が多発するため好ましくない。また、反応時間は48時間を超える場合、生産性やコストにはデメリットが発生する。
【0025】
(A)工程において、ルイス酸触媒の使用量は、有機酸化合物等とアミン化合物等の種類や性状(反応温度における液体または固体)と溶解性、反応温度、反応時間及び溶媒の有無によって適切に調整することができるが、通常、有機酸化合物等に有するカルボキシル基の数(モル数)に対して、ルイス酸触媒は0.1~200mol%の範囲、好ましくは0.5~100mol%の範囲、特に好ましくは1~50mol%の範囲である。触媒の使用量は0.1mol%未満の場合、触媒の種類によって有機酸化合物等とアミン化合物等との反応は48時間内に完結できない可能性があり、触媒の使用量は200mol%を超えると、反応後目的生成物の分離、精製には時間と手間が掛かる場合があり、好ましくない。
【0026】
(A)工程において、更に助触媒として第三級アミン化合物を用いることができる。第三級アミン化合物は窒素原子に三つの炭化水素基を結合した化合物である。炭化水素基は炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、炭素数3~20の脂環式炭化水素基又は炭素数6~20の芳香族炭化水素基から群より任意に選択すれ、同一であっても異なっていてもよく、三つの窒素と炭素の結合を形成された化合物であればよい。炭素数1~20の脂肪族炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、各種ヘキシル基(「各種」は、直鎖状及びあらゆる分岐鎖状のものを含み、以下同様である。)、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種ノナデシル基、各種エイコシル基などが挙げられる。これらの中でも、炭素数2~10の脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数2~6の脂肪族炭化水素基がより好ましく、第三級アミンの助触媒としての作用効果の観点から、とりわけ分岐鎖状の脂肪族炭化水素基であるのが好ましく、イソプロピル基、イソブチル基、イソヘキシル基がより好ましい。なお、該脂肪族炭化水素基は、フェニル基、ナフチル基などの炭素数6~10の芳香族炭化水素基で置換されていてもよい。炭素数3~20の脂環式炭化水素基としては、例えばシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基などが挙げられる。こられの中でも、炭素数3~10の脂環式炭化水素基が好ましく、炭素数3~6の脂環式炭化水素基がより好ましい。炭素数6~20の芳香族炭化水素基としては、例えばフェニル基、トリル基、ナフチル基、アントリル基などが挙げられる。こられの中でも、炭素数6~10の芳香族炭化水素基が好ましい。また、助触媒の作用効果の観点から嵩高い構造を有する第三級アミン化合物が好ましく、分岐鎖状や環状の脂肪族炭化水素基を一つ以上有する第三級アミン化合物が特に好ましい。これらの第三級アミン化合物は一種を単独使用しても良く、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
(A)工程において、助触媒として第三級アミン化合物の使用量は、ルイス酸触媒の有機酸化合物等とアミン化合物等の種類や性状、反応温度、反応時間及び溶媒の有無によって適切に調整することができるが、通常、ルイス酸触媒に対して、0~1000mol%の範囲、好ましくは0.5~150mol%の範囲、特に好ましくは1~100mol%の範囲である。助触媒の作用は明確ではないが、有機酸化合物等とアミン化合物等の間で中和塩の形成を抑制する効果を有し、その結果、アミド化反応が速やかに進行することでできたと発明者らが考えている。有機酸化合物等は乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、3-ヒドロキシイソ酪酸であり、且つアミン化合物等は第一級アミン又は第二級アミンである場合、助触媒の使用量はルイス酸触媒に対して100mol%以上であることが好ましい。また、有機酸化合物等はラクチド、乳酸オリゴマー、ポリ乳酸、ヒドロキシイソ酪酸オリゴマー、ポリヒドロキシイソ酪酸である場合やアミン化合物等はアミン塩類である場合、カルボン酸基とアミン基の中和塩を容易に形成しないため、助触媒の第三級アミン化合物を使用しなくてもよい。助触媒の使用量は1000mol%を超えると、反応後目的生成物の分離、精製には時間と手間が掛かる場合があり、好ましくない。
【0028】
(A)工程の反応は常圧下、耐圧性反応装置を用いる加圧下、又真空ポンプ等減圧可能な装置を用いる減圧下で実施することができる。有機酸化合物等やアミン化合物等は低沸点である場合、原料を加圧可能の装置に閉じ込め、加圧や加熱条件下で反応させ、その後副生成する水を常圧又は減圧下で加熱して除去することができる。有機酸化合物等はオリゴマーやポリマーである場合、加圧や加熱条件下で単量体に加水分解させてからあるいは加水分解させながらアミン化合物等とアミド化反応することができる。ラクチドの場合、開環反応とアミド化反応が同時に進行するため、低コストの常圧反応でも容易に完結することができる。乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、3-ヒドロキシイソ酪酸等の単官能有機酸化合物と沸点100℃以上のアミン化合物等反応させる場合、減圧下で副生成する水を抜きながらアミド化することができる。また、原料の転化率と目的生成物の収率を解析しながら、反応系内の圧力を変化することができる。
【0029】
(A)工程の反応は無溶媒でも十分の選択率と収率で進行することができる。また、必要に応じて溶媒を使用してもよい。有機酸化合物等やアミン化合物等は所定の反応温度において液体である場合、特にアミン化合物類を過剰に使用される場合、反応の原料であると同時に反応の溶媒としての効果もある。アミン化合物等はアミン塩類である場合、アミン塩類からアミン化合物を遊離させるため、アミン塩類に対して当量以上の無機又は有機のアルカリを併用する必要があり、また、アミン塩類は反応温度における固体である場合、それらを溶かすための溶剤を用いることが好ましい。反応溶媒は、特に限定するものではなく、反応の出発原料、生成物およびルイス酸触媒との副反応を起さなければ、一般的な溶媒を使用することができる。例えば、トルエン、キシレンなどの疎水性溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-ブチルピロリドンなどの親水性溶媒が挙げられる。溶媒を使用する場合、その使用量としては、通常、有機酸化合物等とアミン化合物等の合計に対して20~1000重量%の範囲、好ましくは50~500重量%の範囲、特に好ましくは100~300重量%の範囲である。反応溶媒が、原料の溶解や撹拌効率向上などの目的で使用される場合、20重量%未満と十分な効果が期待できない可能性があり、また、1000重量%を超えると、不経済である同時に反応速度の低下を招くことがある。
【0030】
(A)工程の反応は、バッチ方式でも、連続方式でもよく、又ルイス酸触媒の状態において均一系でも不均一系でもよく、さらに触媒の供給方式は流動床でも固定床でもよい。バッチ方式の場合は、例えば、反応容器に原料である有機酸化合物等、アミン化合物等、ルイス酸触媒及び溶媒を仕込み、必要に応じて反応装置内および反応液内を不活性ガスで置換した後、撹拌により懸濁或いは溶解状態を維持しながら、反応温度と圧力を所定値に調整し、所定時間で反応を行う。また、反応終了後の反応液混合物は、例えば、触媒が固形状に存在する場合は、それをフィルターで濾別や遠心分離によって固液を分離して回収してもよいし、分離せず、デカンテーションや濃縮などを行い、その後、そのまま再利用(A工程)するか次工程(B工程)に持ち越してもよい。一方、反応終了後の触媒が反応液に溶解した場合は、反応液を濃縮して、その後、そのまま再利用(A工程)するか次工程(B工程)に持ち越してもよい。さらに、反応終了後の触媒の溶解状態又は分散状態によらず、反応液を濃縮しないまま次工程(B工程)に持ち越すこともできる。
【0031】
(A)工程の反応において、有機酸化合物等はラクチド、乳酸オリゴマー、ポリ乳酸、ヒドロキシイソ酪酸オリゴマー、ポリヒドロキシイソ酪酸である場合、有機酸化合物等、アミン化合物等、ルイス酸触媒、第三級アミン化合物を反応系内に加える順番は特に制限することがないが、有機酸化合物等は乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、3-ヒドロキシイソ酪酸である場合、有機酸化合物等、ルイス酸触媒、アミン化合物等の順で反応容器に仕込んだ方がよい。また、助触媒である第三級アミン化合物を使用する場合は、アミン化合物等の前に加えることが好ましい。
【0032】
(A)工程の反応において、アミン化合物等はアミン塩類である場合、無機又は有機のアルカリを用いて、アミン塩類からアミンを遊離させてから有機酸化合物等と反応させるため、その際に副生成の水について、反応前に減圧や加熱で除去することができ、又、アミド化反応で副生成する水を除去するとともに除去すればよい。
【0033】
(B)工程
(B)の工程は、(A)工程で得られた中間体であるアミド化合物を用いて、無機多孔質触媒存在下、所定の反応温度と操作圧力において、液相或いは気相熱分解(分子内脱水)反応によるアミド化合物から水を脱離させ、N-置換(メタ)アクリルアミドを製造するものである。(A)工程から持ち込んだ反応溶媒や未反応の原料、副生成物等と共に沸点順で蒸留、回収し、留出成分或いは留出残分として、目的のN-置換(メタ)アクリルアミドを得ることができる。また、目的生成物、原料、副生成物と反応溶媒の物性によって、蒸留の代わりに、沈殿、洗浄、抽出、遠心分離、イオン交換樹脂による分離など公知な方法により目的生成物を分離、精製して取得することができる。さらに、必要に応じて、得られた目的生成物を精密蒸留、再結晶、昇華、浸透、吸着など公知な方法により高純度の目的生成物を得ることができる。該工程の反応は、(A)工程から得られたアミド化合物を用いて無機多孔質触媒に接触させながら脱水反応を行うことができ、粗アミド化合物でも十分に速度で反応が進行するが、分離、精製したアミド化合物を用いた場合はN-置換(メタ)アクリルアミドを高収率、高選択率で取得することができ、好ましい。(B)工程の反応は重合禁止剤の存在下で実施することが好ましい。また、重合禁止剤としては公知のラジカル重合禁止剤が使用できる。
【0034】
(B)工程に用いられる無機多孔質触媒は多孔質ガラスや多孔質セラミックスのように内部に無数の微細な孔を有した無機材料であり、またその細孔の大きさによって、ミクロポーラス材料、メソポーラス材料、マクロポーラス材料に分けられる。例えば、ゼオライト等のミクロポーラス無機系材料、メソポーラスシリカ等のメソポーラス無機系材料、軽石等のマクロポーラス無機系材料等が挙げられる。(B)工程の反応は、中間体のアミド化合物及び生成物のN-置換(メタ)アクリルアミドの沸点、分子サイズ等の物性値により、気相或いは液相で行うことが調整させる。沸点が低く、分子サイズが小さい場合、アミド化合物が気化されやすく、気化後の分子がミクロポーラスを通過しながら脱水反応を完結することができ、気相反応が好ましい。一方、沸点が高く、分子サイズが大きい場合、アミド化合物が気化され難く、液体の状態でメソポーラスやマクロポーラスを利用して脱水反応を行うため、液相反応が好ましい。
【0035】
(B)工程に用いられる無機多孔質触媒の形状は、特に制限することがなく、粉末状、微粒子状、顆粒状、薄膜等成型品など、反応方法に応じて流動床、固定床等に適した形状を適宜選択することができる。具体的にシリカゲル、メソポーラスシリカ、シリカアルミナ、ゼオライト、アルミノケイ酸塩、ケイソウ土、天然砂、珪砂、セラミクス、活性白土、酸性白土、カオリン、合成ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。また、無機多孔質触媒はシリカ(二酸化ケイ素)を30モル%以上含有すること(以下「多孔質シリカ」と称する。)が好ましい。シリカを30モル%以上含有する場合、無機多孔質触媒の耐水性が高温においても十分に高いので、脱水反応の触媒としては最適である。また、脱水反応はバッチ方式でも連続方式であってもよい。例えば、バッチ式の液相脱水反応の場合は、反応活性点から考えると、触媒の形状は粉末状又は微粒子状が好ましい。また、微粒子状において、水や有機溶剤による均一に分散された分散液の状態では取り扱い易いので、用いることはできる。分散液として用いる場合、反応系に加え、分散剤を蒸留等によって除去してから、所定条件に調整し、脱水反応を行うことができる。
【0036】
(B)工程に用いられる多孔質シリカは、例えばシリカゲル、メソポーラスシリカ、シリカアルミナ、ゼオライト、アルミノケイ酸塩、天然砂、珪砂、セラミクス、カオリン、合成ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。これらの多孔質シリカから選択された一種又は二種以上を用いることができる。
【0037】
本発明において、多孔質シリカゲルとは、細孔を有するシリカゲルであり、製造方法等により限定することなく使用できる。多孔質シリカゲルの形状は、破砕した非球状のシリカゲルであっても、球状のシリカゲルであってもよいが、球状のシリカゲルは強度が高く、リサイクル使用しやすいので、より好ましい。また、本発明における「球状」とは真球に限定されるものではなく、楕円球などやや変形した球形を含み、平均球形度0.5以上であり、0.85以上のもがより好ましくい。球状のシリカゲルにおいて、通常、平均粒径は0.1~10,000μmであり、好ましくは1~5,000μmである。平均細孔径は0.5~100nmであり、2~50nmが好ましい。比表面積は10~10000m2/gであり、30~1000m2/gであることがより好ましい。これらの範囲を外れる場合、有効粒子や細孔の含有率が低下し、脱水反応速度の低下、副反応の進行等を招いてしまう可能性がある。本発明で用いられる多孔質シリカゲルは、市販の工業品として容易に入手可能、また、公知の方法により合成や処理することも可能である。例えば、クロマトの担体としてもよく利用されているシルカゲル40、シリカゲル60、Wakosil C-200、WakosilC-300等が挙げられる。
【0038】
本発明において、メソポーラスシリカとは、均一で規則的なメソ孔(直径2~50nmの細孔)を持つ二酸化ケイ素主成分の無機物である。メソポーラスシリカは粉末であっても、微粒子であっても、薄膜等成型品であってもよい。また、比表面積が大きく、強度が高く、リサイクル使用しやすく、簡便に工業化生産できる面から、球状の微粒子がより好ましい。メソポーラスシリカの細孔径は2~50nmであり、2nm~10nmが好ましい。メソポーラスシリカの細孔径が2nmより小さくなると、アミド化合物やN-置換(メタ)アクリルアミドの分子の拡散速度が低く、反応性が低下する恐れがある。一方、メソポーラスシリカの細孔径が50nmより大きくなると、アミド化合物やN-置換(メタ)アクリルアミドの分子の間で遷移状態が形成され難く、N-置換(メタ)アクリルアミドを高選択率、高収率で得られなくなる。
【0039】
メソポーラスシリカの比表面積は10~3000m2/gであり、50~3000m2/gが好ましい。粒子系触媒としてこの範囲の比表面積のものが容易に製造でき、またアミド化合物の分子が効率よく触媒に接触して作用することが可能である。なお、比表面積は、例えば窒素ガスを吸着させて比表面積を測定するBET法によって求めることができる。また、平均粒径は0.2~10,000μmであり、好ましくは1~5,000μmである。
【0040】
メソポーラスシリカの代表的な例として、MCM-41、MCM-48、MCM-50、SBA-1、SBA-11、SBA-15、SBA-16、FSM-16、KIT-5、KIT-6、HMS(六方晶)、MSU-F、MSU-Hなど挙げられる。これらのメソポーラスシリカは市販されているものを入手して使用することができ、又は公知の方法を利用して合成することができる。
【0041】
メソポーラスシリカの合成方法に特に制限はないが、基本的にシリカ源と型剤であるカチオン性もしくは中性の界面活性剤の反応複合体を焼成処理する公知の方法を利用することができる。シリカ源の種類としては、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウムなどの珪酸塩、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどのアルコキシシランを単独、あるいは混合して使用することができる。型剤(テンプレート)としては炭素数8以上のアルキル基を有する四級アンモニウム塩、特にハロゲン化アルキルトリメチルアンモニウム系陽イオン型界面活性剤やポリ(エチレングリコール-エチレン)ブロック共重合体系中性界面活性剤を好適に用いることができる。また、反応複合体中に残存する型剤は酸性溶液で処理した後、焼成することにより除去してメソポーラスシリカが合成される。
【0042】
前記の焼成処理は空気や酸素の存在下で行うことが好ましい。焼成温度は200~800℃、また300~700℃がより好ましい。焼成温度が200℃未満であると型剤の燃焼が遅くなり、十分に除去できない可能性がある。また、焼成温度が800℃以上であると、細孔壁を構成しているシリカが部分的に崩壊する欠点がある。
【0043】
本発明において、シリカアルミナとは、シリカ(SiO2)とアルミナ(Al2O3)を主成分とする複合酸化物であり、結晶性のものであっても、非晶質のものであってもよい。シリカアルミナのシリカ及びアルミナの含有率の合計は95重量%以上であり、且つシリカの含有率は30mol%以上であることが好ましい。本発明で用いるシリカアルミナ触媒は、粉末であっても、微粒子であっても、薄膜等成型品であってもよい。また、比表面積が大きく、強度が高く、リサイクル使用しやすく、簡便に工業化生産できる面から、球状の微粒子がより好ましい。球状の粒子系シリカアルミナにおいて、通常、平均粒径は0.2~20,000μmであり、好ましくは1~10,000μmである。平均細孔径は1~100nmであり、2~50nmが好ましい。比表面積は10~10000m2/gであり、30~1000m2/gであることがより好ましい。球状の粒子系触媒としてこの範囲の平均粒径や比表面積のものが容易に製造でき、またアミド化合物やN-置換(メタ)アクリルアミドの分子の拡散速度が高く、遷移状態が形成され易く、高選択率、高収率で目的化合物が得られる利点がある。
【0044】
シリカアルミナは、市販の工業品として容易に入手可能、また、公知の方法により合成や処理することも可能である。例えば、水ガラスやシリカゲル等のシリカ源、及び硫酸アルミニウム、アルミン酸ソーダやアルミナゲル等のアルミナ源から共沈法、ゲル混錬法、ゲル沈着法、共ゲル化法、含浸法等で調製されるシリカアルミナヒドロゲルを乾燥、焼成することにより製造することができる。また、テトラエトキシシランとアルミニウムイソプロポキシドとの混合溶液を加水分解するアルコキシド法(ゾルゲル法)及び化学蒸着法等により製造することもできる。このように製造されたシリカアルミナを十分に水洗して、400~700℃程度で数~十数時間焼成することにより、高純度化することができる。市販品であれば、例えば、富士シリシア化学社製シリカアルミナ308、日揮触媒化成社製N633HN、N631HN、N633L、N631L、シグマアルドリッチ社製Al-MCM-41、Al-MSU-F等が挙げられる。
【0045】
本発明において、ゼオライトとは規則性の微細孔(マイクロポア)を有するケイ素とアルミニウムの結晶性複合酸化物であり、天然品或いは合成品のいずれでも良い。また、構造タイプとしてMFI型、β型、モルデナイト型(MOR)、フォージャサイト型(FAU)、フェリエライト型(FER)、LTL型、LTA型、MWW型、MSE型、Y型FAU、X型FAUが挙げられる。ゼオライトの構成成分であるSiO2/Al2O3モル比は1以上、好ましくは2以上である。SiO2/Al2O3モル比は1未満の場合、アルミナ由来の酸点の量が増加し、副反応が発生しやすくなる。また、ゼオライトは粉末、粒状、成形体のいずれでもよい。比表面積が大きく、強度が高く、リサイクル使用しやすく、簡便に工業化生産できる面から、球状の微粒子がより好ましい。球状の粒子系ゼオライトにおいて、通常、平均粒径は1~500μm、比表面積が150m2 /g以上、細孔容積は0.1~2cm3/g程度である。比表面積と細孔容積がこれらの範囲内にあれば、触媒の活性が低下することはなく、好適である。本発明に用いられるゼオライトは市販のものでもよいし、公知の方法で調製して使用してもよい。市販品であれば、例えば、東ソー社製のY型320HOA、FER型720KOA、MOR型640HOA、690HOA、MFI型890HOA等が挙げられる。
【0046】
本発明において、アルミノケイ酸塩とはケイ酸塩中にあるケイ素原子の一部をアルミニウム原子に置き換えた構造を持つ化合物であり、置き換えることにより失われる正電荷を補償する形でナトリウム、カリウム、カルシウム等の金属イオンを含んでいる。天然鉱物の例として、ムライト、カオリナイト、イライト、長石、沸石が挙げられる。
【0047】
本発明において、ケイ酸アルミニウムとはケイ酸塩類の一種であり、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、水等が様々な割合で結合した組成物の総称である。天然鉱物の例として、イモゴライト、ハロイサイトが挙げられ、合成ケイ酸アルミニウムの例として、非晶質のキョーワード700(協和化学工業株式会社製)が挙げられる。また、天然砂や珪砂はトーヨーシリカサンド(トーヨーマテラン株式会社製)等が挙げられ、カオリンは湿式カオリン、メタカオリンと焼成カオリン等が挙げられる。
【0048】
(B)工程において、無機多孔質触媒の使用量は反応の状態(液相反応又は気相反応)、反応温度と操作圧力、無機多孔質触媒の形状や用いる方式(流動床或いは固定床)等によって、適宜に調整すればよい。通常、液相熱分解反応における触媒の使用量は(B)工程の原料アミド化合物に対しては0.1~100重量%である。また、無機多孔質触媒の使用量は1~80重量%であることが好ましく、2~50重量%であることが特に好ましい。無機多孔質触媒の使用量は0.1重量%未満であれば、熱分解反応の速度が十分に満足できない可能性があり、又使用量は100重量%を超えると、粉末状触媒における反応液の粘度上昇が起こりやすくなり、好ましくない。
【0049】
(B)工程の反応はラジカル重合禁止剤の存在下で行うことが好ましい。重合禁止剤としては公知のものが使用できるが、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、tert-ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-tert-ブチルパラハイドロキノン、2,5-ジ-tert-ブチルハイドロキノン、2,4-ジメチル-6-tertブチルフェノ-ル、ハイドロキノンモノメチルエーテル等のフェノ-ル化合物、N-イソプロピル-N'-フェニル-パラ-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N'-フェニル-パラ-フェニレンジアミン、N-(1-メチルヘプチル)-N'-フェニル-パラ-フェニレンジアミン、N,N'-ジフェニル-パラ-フェニレンジアミン、N,N'-ジ-2-ナフチル-パラ-フェニレンジアミン等のパラフェニレンジアミン類、チオジフェニルアミン等のアミン化合物、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、アセトアミドテトラメチルピペリジン-1-オキシル等のピペリジン-1-オキシルフリ-ラジカル化合物類等を例示することができる。これらの重合禁止剤は、一種又は二種以上を併用しても構わない。また、重合禁止剤の添加量は、アミド化合物に対して1~10000ppm、好ましくは5~5000ppmである。
【0050】
(B)工程の反応温度と反応時間は、反応状態によって異なり、適宜に調整すればよい。液相反応の場合は、反応温度が80~250℃程度、反応時間は1~40時間の範囲である。また、好ましい反応温度は100~200℃程度で、反応時間は1~30時間の範囲である。反応温度が80℃未満、または反応時間が1時間未満であると、熱分解反応速度が著しく低下し、一方、反応温度が250℃超えると、生成物の重合や他の副反応が増加するので好ましくない。また、反応時間が40時間を超える場合、生産性の低下やコストの増加等が発生し、好ましくない。
【0051】
(B)工程の反応は気相で行う場合、(A)工程で得られたアミド化合物を蒸発させ、気相状態で熱分解(分子内脱水)反応によりN-置換(メタ)アクリルアミドを製造することができる。また、無機多孔質触媒の存在下で反応を行う場合、N-置換(メタ)アクリルアミドを高選択率、高収率で取得することができ、好ましい。無機多孔質触媒は市販品をそのまま用いることもできるが、事前に乾燥空気中で焼成した後使用することが好ましい。焼成温度は300~1000℃、好ましくは500~700℃の範囲であり、焼成時間は0.5~10時間程度である。
【0052】
(B)工程の気相熱分解反応において、無機多孔質触媒の使用量はアミド化合物の供給量により異なってくるが、触媒1kgに対しアミド化合物を0.05~10kg/h供給する程度が好ましく、この条件で100時間以上連続して反応を実施することが可能である。触媒1kg当たりのアミド化合物の供給量が0.05kg/hより小さいと、アミド化合物が触媒との接触時間が長くなり、副反応の進行により反応の選択率が低下し、一方、供給量が10kg/hより大きいと接触時間が不十分のためアミド化合物の転化率が低下してしまい、好ましくない。無機多孔質触媒は、乾燥空気気流下、コーキング物を燃焼することで再使用することができる。
【0053】
(B)工程の気相熱分解反応において、反応温度は250~500℃、好ましくは300~400℃の範囲が適当である。反応温度が250℃より低いと、アミド化合物の転化率が低くなり、生産性の低下を招く。一方、反応温度が500℃より高いと、コーキング発生等副反応の割合が増加し、N-置換(メタ)アクリルアミドの収率低下や急激に触媒活性低下の可能性があり、好ましくない。気相熱分解の場合は、重合禁止剤を使用しなくてもN-置換(メタ)アクリルアミドを好収率で製造することができるが、得られるN-置換(メタ)アクリルアミドの粗モノマーの保管、精製中の重合防止の観点から、熱分解工程において、重合禁止剤を使用することが好ましい。また、重合禁止剤としては前記の液相熱分解反応に用いられる公知のラジカル重合禁止剤が使用できる。
【0054】
(B)工程の気相熱分解反応において、アミド化合物を減圧下、流下膜蒸発器、薄膜蒸発器、蒸発釜等を用いて加熱蒸発しガス化させ、無機多孔質触媒層へ通気さればよい。減圧度は10~130hPa、好ましくは40~100hPa、蒸発させるための加熱温度は240~270℃である。また、蒸発させる際に、窒素、ヘリウム、アルゴン、炭化水素等の反応に不活性な物質を通じてアミド化合物のガスを希釈しても構わない。
【0055】
(B)工程の反応は必要に応じて、溶媒を使用してもよい。反応溶媒は、特に限定するものではなく、反応の出発物質、生成物や触媒との副反応を起こさなければ、一般的な溶媒を使用することができる。溶媒を使用される場合の適切範囲が、通常、液相熱分解の場合はアミド化合物に対して、10~1000重量%の範囲、好ましくは50~500重量%の範囲である。
【0056】
(B)工程の反応において、液相又は気相の熱分解(分子内脱水)反応後、生成したN-置換(メタ)アクリルアミドと水を水冷凝縮器等で冷却され、粗モノマーとして取得することができる。粗モノマーはそのまま蒸留、溶剤による洗浄、抽出、再沈殿、再結晶等の手段によりN-置換(メタ)アクリルアミドを単離することができ、高純度の精製品を取得することができる。使用できる洗浄や抽出、再結晶用の有機溶媒としては、N-置換(メタ)アクリルアミドの種類によって適宜に選定すればよく、例えば、トルエン、ベンゼン、ジイソプロピルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、オクタノール、デカノール、n-ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【実施例0057】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。実施例及び比較例に記載するルイス酸触媒(a)、無機多孔質触媒(b)、有機酸又はその誘導体(c)、アミン又はアミン塩類(d)、その他の化合物(e)及びN-置換(メタ)アクリルアミド(f)の略称は以下の通りである。
(a):ルイス酸触媒
a-1: ランタントリフラート(東京化成工業社の試薬)
a-2:亜鉛トリフラート(東京化成工業社の試薬)
a-3:ホウ酸(富士フイルム和光純薬の試薬)
a-4:フェニルボロン酸(東京化成工業社の試薬)
a-5:2,4-ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸(東京化成工業社の試薬)
a-6:メチルボロン酸(Sigma Aldrich社の試薬)
(b):無機多孔質触媒
b-1:シリカゲル(東京化成工業社の試薬、球状、60μm)
b-2:メソポーラスシリカ(Sigma Aldrich社の試薬、SBA-15)
b-3:シリカアルミナ(日揮触媒化成社のN631HN、粒子、)
b-4:珪砂(東海工業社のパウダーシリーズTH1325、シリカ66mol%))
b-5:カオリン(林化成社のEckalite 1、粉体、シリカ46mol%)
b-6:合成ケイ酸アルミニウム(協和化学工業社のキョーワード700PEL、微粉末)
(c):有機酸又はその誘導体
c-1:乳酸(富士フイルム和光純薬社の試薬)
c-2:DL-ラクチド(東京化成工業社の試薬)
c-3:2-ヒドロキシイソ酪酸(東京化成工業社の試薬)
c-4:3-ヒドロキシプロピオン酸(東京化成工業社の試薬)
c-5:ポリ乳酸(Sigma Aldrich社の試薬、Resomer R202H)
(d)アミン又はアミン塩類
d-1:モルフォリン
d-2:ジエチルアミン
d-3:ステアリルアミン
d-4:フェニルアミン
d-5:ジメチルアミン塩酸塩
(e):その他の化合物
e-1:トリエチルアミン(三級アミン化合物)
e-2:4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン(三級アミン化合物)
e-3:水酸化ナトリウム飽和水溶液(無機アルカリ)
e-4:キシレン(溶媒)
e-5:N-ブチルピロリドン(溶媒)
e-6:ハイドロキノンモノメチルエーテル(重合禁止剤)
e-7:2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(重合禁止剤)
(f):N-置換(メタ)アクリルアミド
f-1:アクリロイルモルフォリン(ACMO、KJケミカルズ社の登録商標)
f-2:N,N-ジエチルアクリルアミド(DEAA、KJケミカルズ社の登録商標)
f-3:N-ステアリルメタクリルアミド
f-4:N-フェニルアクリルアミド
f-5:N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA、KJケミカルズ社の登録商標)
【0058】
実施例1
(A-1) 攪拌装置、温度計と蒸留塔付きのコンデンサーを備えた1000mLのフラスコに、乳酸(c-1)180.2g(2.0mol)、ランタントリフラート(a-1)234.4g(0.40mol)とモルフォリン(d-1)174.2(2.0mol)を仕込んで、撹拌して混合液を調製した。混合液を撹拌しながら120℃に昇温し、副生成する水を留出させながら反応を0.5時間行った。その後、反応液を室温に戻し、ガスクロマトグラフィー分析法(GC)及びクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS) により反応液の分析を行い、中間体のアミド化合物の生成を確認し、収率は88%であった。
【0059】
(B-1) 触媒としてシリカゲル(b-1)を、乾燥空気気流下500℃で3時間焼成して用いた。縦型ステンレス鋼製反応管(内径23.0mm、長さ600mm)に焼成後の触媒(b-1)150gを充填した。反応管を40Torrの減圧下、電気炉で触媒層を250℃~280℃に加熱し、(A-1)工程で得られた中間体のアミド化合物を反応管の上部に供給し、反応管から出たガスを20℃の冷却水で凝縮させた。気相熱分解反応は20時間行い、その後反応管を室温、常圧に戻し、凝縮液のGC、GC-MS分析を行い、目的化合物のアクリロイルモルフォリン(f-1)の生成を確認し、収率は82%であった。
【0060】
実施例2~8
実施例1において、出発原料、触媒、その他の化合物(溶媒、助触媒、重合禁止剤等)及び各工程の反応条件を表1に示す通りに変更し、実施例1と同様に実施例2~8を行い、それぞれの目的化合物を取得した。結果を表1に示す。なお、(A)工程の反応は減圧、加圧の条件下で行う場合、それぞれは減圧装置と加圧対応可能の装置を用いて実施する。(B)工程の反応は液相で行う場合、(A)工程の反応終了後、反応装置を変更せず、得られた生成物混合液中に(B)工程で使用する触媒等を加え、(B)工程の反応を継続して行うことができる。(B)工程において、中間体のアミド化合物の粗製品でもよく、必要に応じて脱溶媒又は蒸留で得られる精製品を使用することがよい。
【0061】
【0062】
比較例1~3と参考例1
実施例1において、出発原料、触媒、その他の化合物(溶媒、助触媒、重合禁止剤等)及び各工程の反応条件を表2に示す通りに変更し、実施例1と同様に比較例1~3及び参考例1を行い、結果を表2に示す。なお、比較例1と2は共に、(A)工程において中間体のアミド化合物は殆ど生成されなかったため、(B)工程の反応は行わなかった。反応液分析の結果は、比較例1では、不飽和基含有のカルボン酸を用いたため、殆どの生成物はアクリル酸とモルフォリンのマイケル付加体であって、中間体のアミド化合物が僅かにしか得られなかった。また、比較例2において、ルイス酸触媒を使用しなかったため、中間体のアミド化合物が検出されなかった。比較例3の結果から、(B)工程で無機多孔質触媒を使用しない場合、アミド化合物の分子内脱水反応は進行しないことが分かった。また、参考例1の結果から、無機多孔質触媒としてアルミナを用いても目的のN-置換(メタ)アクリルアミドを取得することができるが、無機多孔質触媒中のシリカの含有量が30mol%以上であれば、反応収率が著しく向上されることは明らかである。
【0063】
以上説明してきたように、本発明の方法は、バイオマス由来の有機酸等又は天然素材由来の有機酸等を出発原料とし、触媒としてルイス酸の存在下、アミン又はアミン塩類と反応することによってアミド化合物を得ることができ、得られたアミド化合物が無機多孔質触媒の存在下で分子内脱水によりN-置換(メタ)アクリルアミドを製造することができる。本発明の製法方法で取得するN-置換(メタ)アクリルアミドは、単独または他の重合性モノマーと共重合することで容易に様々な機能性ポリマーを取得することができる。N-置換(メタ)アクリルアミドは塗料、粘着剤、接着剤、各種コ-ティング剤、紙力増強剤などの製紙用薬剤、産業排水や生活排水の処理に用いる高分子凝集剤、高分子改質剤、分散剤、増粘剤、コンタクトレンズや生体用ゲルなどの合成原料、UV硬化樹脂用反応性希釈剤など、極めて多様な分野において好適に使用することができる。