(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021751
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂用コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 163/00 20060101AFI20220127BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220127BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220127BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D7/63
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020125533
(22)【出願日】2020-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 康英
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DB061
4J038JC35
4J038JC37
4J038NA12
4J038NA26
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】ポリカーボネート樹脂基材上にコーティング層を形成可能なコーティング組成物であって、常温で硬化させることができ、かつ、基板密着性及び貯蔵安定性に優れたコーティング組成物等を提供する。
【解決手段】(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);及び
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
を含有し、エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、(a)上記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物のアミノ基の総モル数の30%以下である、ポリカーボネート樹脂用コーティング組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);及び
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
を含有し、エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、(a)上記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物のアミノ基の総モル数の30%以下である、ポリカーボネート樹脂用コーティング組成物。
【請求項2】
ポリカーボネート樹脂への塗布にあたり、(c)エポキシ樹脂を含有する組成物と混合して使用される、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物。
【請求項3】
(c)エポキシ樹脂の使用量が、(a)上記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物の量の10質量%以上である、請求項2に記載のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物。
【請求項4】
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);及び
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
を含有する成分Aと、
(c)エポキシ樹脂を含有する成分Bと、を有する、
ポリカーボネート樹脂用2液型コーティング剤。
【請求項5】
上記成分Aが、エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、(a)上記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物のアミノ基の総モル数の30%以下である、請求項4に記載のポリカーボネート樹脂用2液型コーティング剤。
【請求項6】
(c)エポキシ樹脂の量が、(a)上記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物の量の10質量%以上である、請求項4又は5に記載のポリカーボネート樹脂用2液型コーティング剤。
【請求項7】
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);及び
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
を含有する成分Aと、
(c)エポキシ樹脂を含有する成分Bとを混合して混合液を形成する工程1、並びに
上記工程で得られた混合液をポリカーボネート樹脂基材上に塗布する工程2、を有するコーティング層の形成方法。
【請求項8】
上記成分Aが、エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、(a)上記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物のアミノ基の総モル数の30%以下である、請求項7に記載のコーティング層の形成方法。
【請求項9】
(c)エポキシ樹脂の量が、(a)上記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物の量の10質量%以上である、請求項7又は8に記載のコーティング層の形成方法。
【請求項10】
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);及び
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;から導かれる化学構造、並びに
(c)エポキシ樹脂から導かれる化学構造、
を有するコーティング層が設けられた、ポリカーボネート部材。
【請求項11】
請求項10に記載のポリカーボネート部材を有する、光学部品、電気電子部品、又は窓材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂用コーティング組成物に関し、より具体的には、ポリカーボネート樹脂基材への密着性に優れるとともに、貯蔵安定性にも優れる、ポリカーボネート樹脂用コーティング組成物、コーティング形成方法、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、軽量で、透明性、耐衝撃性、耐熱性、難燃性などの性能が優れていることから、安価な汎用品から特殊品まで広く利用されている。一方、耐候性、耐溶剤性、耐擦過性については必ずしも十分な特性が得られていないため、これをコーティングで補うことが広く行われている。
ポリカーボネート樹脂に被膜形成が可能なコーティング組成物として、ポリカーボネートジオールと所定のアルコキシシラン、及びポリシロキサンオリゴマーを含むコーティング組成物が提案されているが(例えば、特許文献1参照。)、乾燥工程に加熱処理が必要であった。
【0003】
常温硬化性コーティング組成物として、有機シラン化合物とホウ素化合物からなる高分子が提案されているが(例えば、特許文献2参照。)、ポリカーボネート樹脂への密着性は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-63654号公報
【特許文献2】国際公開第2006/129695 A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術の問題点に鑑み、本発明の課題は、ポリカーボネート樹脂基材上にコーティング層を形成可能なコーティング組成物であって、常温で硬化させることができ、かつ、基板密着性及び貯蔵安定性に優れたコーティング組成物等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の構造を有するアミノ基を有する有機シラン化合物と特定の構造を有するホウ素化合物とエポキシ樹脂との組み合わせにより、常温硬化可能でポリカーボネート樹脂基板への密着性に優れたコーティング層を形成可能であること、及び該アミノ基を含むシラン化合物のアミノ基に対する、エポキシ基含有化合物のエポキシ基のモル比を所定値以下に保つことが貯蔵安定性を顕著に向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本願第1発明は、
[1]
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);及び
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
を含有し、エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、(a)上記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物のアミノ基の総モル数の30%以下である、ポリカーボネート樹脂用コーティング組成物、
に関する。
【0007】
また、下記[2]及び[3]は、いずれも本願第1発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[2]
ポリカーボネート樹脂への塗布にあたり、(c)エポキシ樹脂を含有する組成物と混合して使用される、[1]に記載のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物。
[3]
(c)エポキシ樹脂の使用量が、(a)上記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物の量の10質量%以上である、[2]に記載のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物。
【0008】
更に、本願第2発明は、
[4]
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);及び
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
を含有する成分Aと、
(c)エポキシ樹脂を含有する成分Bと、を有する、
ポリカーボネート樹脂用2液型コーティング剤、
に関する。
【0009】
また、下記[5]及び[6]は、いずれも本願第2発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[5]
上記成分Aが、エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、(a)上記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物のアミノ基の総モル数の30%以下である、請求項[4]に記載のポリカーボネート樹脂用2液型コーティング剤。
[6]
(c)エポキシ樹脂の量が、(a)上記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物の量の10質量%以上である、[4]又は[5]に記載のポリカーボネート樹脂用2液型コーティング剤。
【0010】
更に、本願第3発明は、
[7]
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);及び
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
を含有する成分Aと、
(c)エポキシ樹脂を含有する成分Bとを混合して混合液を形成する工程1、並びに
上記工程で得られた混合液をポリカーボネート樹脂基材上に塗布する工程2、を有するコーティング層の形成方法、
に関する。
【0011】
また、下記[8]及び[9]は、いずれも本願第3発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[8]
上記成分Aが、エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、(a)上記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物のアミノ基の総モル数の30%以下である、請求項[7]に記載のコーティング層の形成方法。
[9]
(c)エポキシ樹脂の量が、(a)上記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物の量の10質量%以上である、[7]又は[8]に記載のコーティング層の形成方法。
【0012】
更に、本願第4発明は、
[10]
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);及び
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;から導かれる化学構造、並びに
(c)エポキシ樹脂から導かれる化学構造、
を有するコーティング層が設けられた、ポリカーボネート部材、
に関する。
【0013】
また、下記[11]は、本願第4発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[11]
[10]に記載のポリカーボネート部材を有する、光学部品、電気電子部品、又は窓材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、貯蔵安定性に優れ、常温でコーティング層を形成可能であり、またそれから得られるコーティング層の基板密着性に優れるなど、従来技術の限界を超えた高いレベルで実用上高い価値を有する諸特性を兼ね備えた、ポリカーボネート樹脂用コーティング組成物が提供される。
当該ポリカーボネート樹脂用コーティング組成物は、耐候性、耐溶剤性、耐擦過性等のポリカーボネート樹脂の欠点を効果的に補うことができるので、光学部品、電気電子部品、又は窓材等、ポリカーボネート樹脂の長所を活かした各種用途において、特に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1発明
本願第1発明は、下記(a)成分、及び(b)成分を含有する、ポリカーボネート樹脂用コーティング組成物である。
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。)
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物
本願第1発明の組成物は、エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、(a)アミノ基を含むシラン化合物のアミノ基の総モル数の30%以下である。
【0016】
すなわち本願第1発明のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物は、上記(a)成分(アミノ基を含むシラン化合物)、及び(b)成分(ホウ素化合物)を含有するので、本願第1発明のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物を硬化させて得られるポリカーボネート樹脂用コーティング層は、通常、これら(a)成分及び(b)成分を反応させ得られる化学構造を、その少なくとも一部に含む化合物を含有する。また、本願第1発明のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物は、硬化前においても(a)成分及び(b)成分が一部反応していてもよく、(a)成分及び(b)成分の反応生成物を一部含有していてもよい。
上述の(a)成分(アミノ基を含むシラン化合物)、及び(b)成分(ホウ素化合物)、並びに所望により他の成分、を反応させて得られる化学構造は、多くの場合、高分子構造を形成する。典型的には、(b)ホウ素化合物が、(a)アミノ基を含むシラン化合物中のアミノ基を介して架橋剤として働き、これらの成分を高分子化させて、(a)アミノ基を含むシラン化合物から導かれる構成単位と(b)ホウ素化合物から導かれる構成単位とを有する高分子構造が形成される。このような高分子構造は、化学的に安定であり、必要に応じて他の成分を安定的に分散又は結合させることができるという好ましい性質を有している。
この好ましい実施形態のコーティング組成物は、(a)成分と(b)成分とが、典型的には10~50℃の条件下で、高分子構造を有する反応生成物を形成可能な組み合わせとなっている。すなわち当該反応生成物は、(a)成分から導かれる構成単位、と(b)成分から導かれる構成単位とを有する高分子構造を有するものであり、該高分子構造においては、(a)成分から導かれる構成単位と(b)成分から導かれる構成単位との比率が、(a)成分から導かれる構成単位1モルに対して(b)成分から導かれる構成単位0.02モル以上であることが好ましい。
【0017】
またこの実施形態においては、(a)成分から導かれる構成単位、と(b)成分から導かれる構成単位とを有する高分子構造中に、後述の(c)エポキシ樹脂等が安定的に結合し、又は分散した構造となっていることが好ましい。
【0018】
(a)アミノ基を含むシラン化合物
本願第1発明において用いられる(a)成分は、以下の式で表わされる特定の構造を有する、アミノ基を含むシラン化合物である。
R4-n-Si-(OR’)n
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。)
【0019】
ここで、Rはアミノ基含有の有機基を表わすが、たとえば、モノアミノメチル、ジアミノメチル、トリアミノメチル、モノアミノエチル、ジアミノエチル、トリアミノエチル、モノアミノプロピル、ジアミノプロピル、トリアミノプロピル、モノアミノブチル、ジアミノブチル、トリアミノブチル、及びこれらよりも炭素数の多いアルキル基またはアリール基を有する有機基を挙げることができるが、それらに限定されない。γ―アミノプロピルや、アミノエチルアミノプロピルが特に好ましく、γ―アミノプロピルが最も好ましい。
【0020】
(a)成分中のR’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わす。その中でも、メチル基及びエチル基が好ましい。
【0021】
(a)成分中のnは1~3から選択される整数を表わす。その中でも、nは2~3であるのが好ましく、nは3であるのが特に好ましい。
したがって、(a)成分としては、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどが特に好ましい。
【0022】
(b)ホウ素化合物
本願第1発明において用いられる(b)成分は、H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物である。(b)成分は、好ましくは、H3BO3である。
【0023】
本実施形態のコーティング組成物における(a)成分と(b)成分との反応における両成分の使用量は、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル以上の比率であることが好ましく、より好ましくは、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル~10モルの比率、更に好ましくは、0.02モル~7モルの比率である。
(a)成分1モルに対し、(b)成分が0.02モル以上であることで、固化に要する時間が過度に長くなったり、充分に固化しなかったりする等の問題を効果的に抑制できる。また、(a)成分1モルに対し(b)成分が10モル以下であることで、(b)成分が(a)成分に溶解せず残ってしまう等の問題を効果的に抑制できる。
【0024】
(a)アミノ基を含むシラン化合物と(b)ホウ素化合物とを反応させる際の混合条件(温度、混合時間、混合方法など)は、適宜選択することができる。通常の室温条件では、数分から数十分で透明で粘稠な液体となり、固化する。固化する時間や得られる反応生成物の粘度や剛性はホウ素化合物の割合でも異なるため、(c)エポキシ樹脂等のそれ以外の成分や、得るべき反応生成物やコーティングの物性や使用目的に応じて、これらの条件を適宜調節することが好ましい。
【0025】
前記ホウ素化合物(b)は、好ましくは、炭素数1~7のアルコールに溶解したホウ素化合物アルコール溶液の形態で用いることができる。炭素数1~7のアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、各種プロピルアルコール、各種ブチルアルコール、及びグリセリンなどが挙げられるが、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましい。当該アルコール溶液を使用することにより、(b)成分を(a)成分に溶解する時間を短縮できる。なお、取り扱い上アルコール中のホウ素化合物の濃度は高いほうが好ましい。
【0026】
前記好ましい態様における(a)成分と(b)成分との反応生成物は、水を添加して加水分解する工程を経ないで(a)成分と(b)成分を反応させて得られる反応生成物であることが好ましい。このとき、水を添加して加水分解する工程を要さないため、ゾル・ゲル形成等の複雑な工程を要せず、しかも、長時間を要することなく、上記反応生成物を製造することができる。
【0027】
ポリカーボネート樹脂用コーティング組成物
本願第1発明のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物は、エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、(a)上記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物のアミノ基の総モル数の30%以下である。
エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、所定量以下であることによって、本願第1発明のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物は、貯蔵安定性に優れ、より具体的には長期の貯蔵を経た後であっても、ポリカーボネート樹脂基板に対する高い密着性を有するコーティング層を形成することができる。
エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、所定量以下であることによって貯蔵安定性が向上する機構は必ずしも明らかではないが、エポキシ基とアミノ基との反応性が比較的高いところ、貯蔵中にエポキシ基が、(a)アミノ基を含むシラン化合物中のアミノ基と反応し、(a)アミノ基を含むシラン化合物の反応性に影響を与え得ることと何らかの関連があると推定される。
【0028】
エポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数は、(a)アミノ基を含むシラン化合物のアミノ基の総モル数の20%以下であることが好ましく、10%以下であることが特に好ましい。
エポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数は、エポキシ基含有化合物の種類やその添加量を選択することで、適宜調整することができる。
【0029】
(c)エポキシ樹脂
本願第1発明のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物は、ポリカーボネート樹脂への塗布にあたり、(c)エポキシ樹脂を含有する組成物と混合して使用することが好ましい。
本願第1発明のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物を、(c)エポキシ樹脂を含有する組成物と混合して使用することで、当該混合物から形成されたコーティングは、塗膜外観に優れ、クラック等の発生が抑制されたものとなる。
一方で上述の様に、貯蔵安定性等の観点から、本願第1発明のコーティング組成物は、エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が所定量以下であることを要するので、コーティング組成物に添加できる(c)エポキシ樹脂の量には限界がある。
そこで本実施形態においては、本願第1発明のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物とは別途、(c)エポキシ樹脂を含有する組成物を用意し、ポリカーボネート樹脂への塗布にあたり、好ましくは塗布の直前に、本願第1発明のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物と(c)エポキシ樹脂を含有する組成物と混合することで、貯蔵安定性と、塗膜外観とを両立させることができる。
【0030】
(c)エポキシ樹脂は、硬化にあたって、上記(a)成分及び(b)成分で構成される高分子構造に取り込まれて高分子構造の一部を構成してもよく、また、該高分子構造を架橋するなどして、(a)成分及び(b)成分の反応生成物の化学構造や物性を変更したりすることができる。本態様においては、この様に(c)エポキシ樹脂を別途導入することで、上記塗膜外観の改善をはじめとして、硬化後のコーティングを構成する反応生成物の化学構造や物性に影響を与え、コーティングの反応性や機械的性質等を制御することができる。
【0031】
本態様において好ましく使用することができる(c)エポキシ樹脂には特に限定はなく、当業界においてエポキシ樹脂に分類される樹脂、すなわち、高分子構造中のエポキシ基で架橋ネットワークを形成することで硬化することが可能な熱硬化性樹脂であればよく、様々な重合度(分子量)を有するエポキシ樹脂を使用することができる。その中でも、ビスフェノールAまたはビスフェノールFのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、及び、ポリグリコール型エポキシ樹脂から成る群から選択される少なくとも1種のエポキシ樹脂などを好ましく使用することができる。
【0032】
(c)エポキシ樹脂の使用量には特に制限はなく、コーティングの塗工形態や硬化後に求められる物性等に応じて適宜設定することができるが、コーティングの外観の向上やクラック防止の観点からは、(a)アミノ基を含むシラン化合物の量の10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。
(c)エポキシ樹脂の使用量には特に上限は存在しないが、硬度の低下を抑制する等の観点から、(a)アミノ基を含むシラン化合物の量の300質量%以下であることが好ましく、200質量%以下であることがより好ましい。
コーティング組成物の一般的な使用形態を前提とすれば、(c)エポキシ樹脂の使用量は、前記(a)成分1gに対し、0.01~3gであるのが好ましく、0.1~2gであるのが、より好ましい。すなわち、(c)エポキシ樹脂の添加量が過大でなければ、硬度の低下が抑制される傾向があり、逆に過小でなければ、外観の向上や化学的耐久性の維持が容易となる傾向がある。
取り扱いや、上記ポリカーボネート樹脂用コーティング組成物との混合の便宜などから、(c)エポキシ樹脂を含有する組成物における(c)エポキシ樹脂の含有量は、ポリカーボネート樹脂用コーティング組成物と(c)エポキシ樹脂を含有する組成物との合計量100質量%に対して、1.5~40質量%とすることが好ましく、3.5~30質量%とすることが特に好ましい。
【0033】
(c)エポキシ樹脂(及び存在する場合にはそれ以外のエポキシ基含有化合物)によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、(a)上記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物のアミノ基の総モル数の30%以下であるという条件を満たす限りにおいて、本願第1発明のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物に、上記の(c)エポキシ樹脂を添加してもよい。
【0034】
(d)有機官能基含有シラン化合物
本願第1発明のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物は、好ましくは更に(d)有機官能基含有シラン化合物((a)成分に該当するものを除く)を含有することができる。
したがって、本実施形態のコーティング組成物の反応により形成され得る高分子物質は、上記(a)成分及び(b)成分の反応生成物である高分子構造が、更に(d)有機官能基含有シラン化合物で変性された構造を有していてもよい。
(d)有機官能基含有シラン化合物、好ましくは金属アルコキシド、を添加することにより、反応生成物の高分子構造を適宜調整したり、機械特性、化学特性等をより向上させることができるとともに、硬化前の組成物を粘稠な液体の状態とすることができるので、コーティング組成物の塗工性、性状、物性を用途に応じて適宜調整することができる。
【0035】
本願第1発明においては、(d)有機官能基含有シラン化合物は、アルコキシ基含有シラン化合物(以下、「金属アルコキシド」ともいう。)であることが好ましい。
また、エポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、(a)アミノ基を含むシラン化合物のアミノ基の総モル数の30%以下である、という条件を満たす限りにおいて、良好な基板密着性を実現する等の目的で、エポキシ基含有シラン化合物を用いてもよい。
(d)成分として好ましく用いられる金属アルコキシドからは、上記(a)成分に該当する化合物(特定の構造を有する、アミノ基を含むシラン化合物)は除外されるが、それ以外の制限は適用されず、上記(a)成分に該当しない限り、一般に金属アルコキシドに分類される化合物、すなわち少なくとも1の金属原子と、少なくとも1のアルコキシ基を有する化合物を、金属アルコキシドとして使用することができる。
【0036】
(d)成分として好ましく用いられる金属アルコキシドの金属としては、Siに加えて、Ta、Nb、Ti、Zr、Al、Ge、B、Na、Ga、Ce、V、Ta、P、Sb、などを挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、アルコキシドの形成の容易さなどから、Si、Ti、Zrであり、また、(d)成分は液体であることが好ましいため、これを実現する観点からSi、Tiが特に好ましい。金属アルコキシドのアルコキシド(アルコキシ基)としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、及びそれ以上の炭素数を有するアルコキシ基を挙げることができる。メトキシ、エトキシ、プロポキシ、及びブトキシが好ましく、メトキシ及びエトキシがより好ましい。特に好ましい金属アルコキシドとしては、テトラメトキシシラン(正珪酸メチル)及びテトラエトキシシランなどを挙げることができる。
金属アルコキシドは多量体であってもよく、例えばテトラエトキシシランの5量体等を好適に使用することができる。単量体と5量体とを組み合わせて使用してもよい。
【0037】
(d)有機官能基含有シラン化合物の使用量には特に制限はなく、得られるコーティングの用途、所望の特性等に応じて適宜設定することができるが、例えば(a)成分1モルに対して10モル以下の比率で用いることが好ましい。より好ましくは、(a)成分1モルに対して0.1モル~8モルの比率である。(a)成分1モルに対し、(d)成分が0.1モル以上とすることで、基板密着性の向上等の、(d)成分を添加する効果を十分に発現することができる。また、(d)成分を10モル以下とすることで、白濁の発生等を効果的に抑制することができる。
(d)成分がアルコキシ基含有シラン化合物である場合、その含有量は、コーティング組成物全体の質量を基準として、0.1~30質量%であることが好ましく、0.5~25質量%であることが特に好ましい。
【0038】
(e)有機溶媒
本願第1発明のコーティング組成物は、反応の速度や均一性、コーティング塗工の容易性などの観点から、(e)有機溶媒を含むことが好ましい。
上記(e)有機溶媒には特に制限はなく、常温において液体であり、上記各成分、とりわけ(a)及び(b)成分を溶解又は分散することができる有機溶媒を適宜使用することができる。
【0039】
一部極性基を有する上記各成分との親和性や、コーティングの被塗工物との親和性との観点からは、上記(e)有機溶媒が、一定の極性を有し水と相溶性を有する、いわゆる水溶性有機溶媒であることが好ましい。
(e)成分として好ましく用いられる水溶性有機溶媒は、希釈剤として働き、水溶性であれば特に限定されないが、例えばアルコール類を好ましく使用することができる。なかでも炭素数2から5のアルコールを含む有機溶媒を、(e)成分として用いることが好ましい。
また、メトキシメチルブタノール(MMB)等の、より高分子量のアルコールを使用又は併用することもできる。
【0040】
(e)有機溶媒は1種類のみを使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、あらかじめ混合溶媒を形成してから使用してもよいし、2種以上の溶媒それぞれに、上記各成分の一部を溶解又は分散させてから、それらを組み合わせてもよい。例えば、(b)ホウ素化合物を(e)有機溶媒に溶解又は分散させてから、それ以外の成分と組み合わせてもよい。
【0041】
(e)有機溶媒の使用量には特に制限はなく、上記(a)成分及び(b)成分をはじめとする各成分間の反応効率や、コーティングの塗工における効率や作業性、得られるコーティングの品質等を考慮しながら適宜設定すればよい。
ポリカーボネート樹脂用コーティングの一般的な使用形態を前提とすれば、(e)有機溶媒の使用量が、コーティング組成物全体の30~90質量%であることが好ましく、40~75質量%であることがより好ましい。
【0042】
上記の、本願第1発明のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物を、ポリカーボネート樹脂への塗布にあたり、(c)エポキシ樹脂を含有する組成物と混合して使用する態様においては、該(c)エポキシ樹脂を含有する組成物にも、(e)有機溶媒を添加することが好ましい。
【0043】
(f)界面活性剤
本願第1発明のコーティング組成物、及び/又はこれと組み合わせて好ましく使用できる(c)エポキシ樹脂を含有する組成物には、平滑なコーティング層形成のためのレベリング性の向上や基板密着性の向上等を目的として、界面活性剤(f)を添加してもよい。
界面活性剤(f)の種類には特に制限はなく、コーティングの塗工形態や、他の成分、とりわけ(e)有機溶媒との親和性などに応じて適宜選択することができる。界面活性剤(f)は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン界面活性剤のいずれであってもよい。
【0044】
レベリング性や浸透性向上等の観点から、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アルキルエーテル系界面活性剤等を使用することが特に好ましい。中でも、レベリング性等の観点から、シリコーン系界面活性剤を用いることが好ましい。
好ましいシリコーン系界面活性剤の具体例としては、DOW社製「VORASURF SZ-1919」、ビックケミー・ジャパン社製「BYK-307」等を、好ましいフッ素系界面活性剤の具体例としては、AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロン」シリーズ、DIC株式会社製「メガファック」シリーズ、株式会社ネオス製「フタージェント」シリーズ等を挙げることができる。
【0045】
界面活性剤(f)の添加量には特に制限はなく、コーティングの塗工形態や硬化後に求められる物性等に応じて適宜設定することができる。
コーティング組成物の一般的な使用形態を前提とすれば、界面活性剤(f)の使用量が、コーティング組成物((c)エポキシ樹脂を含有する組成物と組み合わせて使用する場合には、コーティング組成物と(c)エポキシ樹脂を含有する組成物との合計)の0.01~5.0質量%であることが好ましく、0.1~1.0質量%であることが特に好ましい。
【0046】
その他の成分
本願第1発明のコーティング組成物、及び/又はこれと組み合わせて好ましく使用できる(c)エポキシ樹脂を含有する組成物には、本発明の目的に反しない限りにおいて、各種添加剤等の、上記以外の成分を添加してもよい。
例えば、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱線吸収剤、レベリング剤、金属酸化物のコロイド粒子等、を添加してもよい。さらに改めて硬化触媒、反応触媒を混合してもよい。
また、(c)エポキシ樹脂以外の各種合成樹脂等を添加してもよい。本実施形態において使用することができる合成樹脂は、特に限定されないが、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂を挙げることができ、様々な重合度(分子量)を有する合成樹脂を使用することができる。また、ビニルエステル樹脂、エポキシアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなども好ましく使用することができる。
【0047】
ポリカーボネート樹脂基材
本願第1発明のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物を適用することができるポリカーボネート樹脂基材を構成するポリカーボネート樹脂は、分子の主鎖中に炭酸エステル結合を含む構造、即ち、-(O-R-OCO)-(ここで、Rは脂肪族基、芳香族基又は脂肪族基と芳香族基の両者を含むもの、さらに直鎖構造又は分岐構造を持つもの)を単位構造として有する高分子であればよく、それ以外には特に限定はなく、工業的に入手可能な各種ポリカーボネート樹脂を使用することができる。
例えば、ビスフェノール類(ビスフェノールA等)をベースとする芳香族ポリカーボネート樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート等の脂肪族ポリカーボネート樹脂を、好ましい例として挙げることができる。
ポリカーボネート樹脂基材は、ポリカーボネート樹脂だけで構成されていてもよく、各種添加剤等の、それ以外の成分を含有していてもよい。好ましい添加剤の例として、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂、紫外線吸収剤、熱安定剤、着色剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤等を挙げることができる。
【0048】
第2発明
本願第2発明は、下記成分Aと成分Bとを有する、ポリカーボネート樹脂用2液型コーティング剤である。
・成分A:
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);及び
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
を含有する成分。
・成分B:
(c)エポキシ樹脂を含有する成分。
【0049】
成分A
本願第2発明のポリカーボネート樹脂用2液型コーティング剤を構成する成分Aは、(a)アミノ基を含むシラン化合物、及び(b)ホウ素化合物、を含有する。
成分Aにおける、(a)アミノ基を含むシラン化合物、及び(b)ホウ素化合物の詳細、及びその好ましい形態は、本願第1発明に関連して上記で説明したものと同様である。
成分Aの好ましい組成、より具体的には、成分Aにおける(a)アミノ基を含むシラン化合物と(b)ホウ素化合物との好ましい構成比率、(a)アミノ基を含むシラン化合物、及び(b)ホウ素化合物以外に成分Aに使用できる各種成分等の詳細も、本願第1発明のコーティング組成物に関連して上記で説明したものと同様である。
【0050】
上記成分Aは、エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、(a)アミノ基を含むシラン化合物のアミノ基の総モル数の30%以下であることが好ましい。
エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、所定量以下であることによって、上記成分Aの貯蔵安定性は大幅に向上し、より具体的には長期の貯蔵を経た後に成分Bと混合した場合であっても、ポリカーボネート樹脂基材に対する高い密着性を有するコーティング層を形成することができる。
エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、所定量以下であることによって成分Aの貯蔵安定性が向上する機構は必ずしも明らかではないが、エポキシ基とアミノ基との反応性が比較的高いところ、貯蔵中にエポキシ基が、成分A中の(a)アミノ基を含むシラン化合物中のアミノ基と反応し、(a)アミノ基を含むシラン化合物の反応性に影響を与え得ることと何らかの関連があるものと推定される。
【0051】
成分A中のエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数は、(a)アミノ基を含むシラン化合物のアミノ基の総モル数の20%以下であることが好ましく、10%以下であることが特に好ましい。
エポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数は、エポキシ基含有化合物の種類やその添加量を選択することで、適宜調整することができる。
【0052】
成分B
本願第2発明のポリカーボネート樹脂用2液型コーティング剤を構成する成分Bは、(c)エポキシ樹脂、を含有する。
成分Bにおける、(c)エポキシ樹脂の詳細、及びその好ましい形態は、本願第1発明に関連して上記で説明したものと同様である。
成分Bの好ましい組成、より具体的には、成分Bにおける(c)エポキシ樹脂の使用量、(c)エポキシ樹脂以外に成分Bに使用できる各種成分等の詳細も、本願第1発明に関連して、特に本願第1発明のコーティング組成物と組み合わせて用いられる(c)エポキシ樹脂を含有する組成物に関連して、上記で説明したものと同様である。
【0053】
本願第2発明のポリカーボネート樹脂用2液型コーティング剤を使用するにあたっては、上記成分Aと成分Bとを混合してからポリカーボネート樹脂基材に塗布することで、コーティング層を形成することができる。
ここで、ポリカーボネート樹脂基材の詳細及びその好ましい形態は、本願第1発明に関連して上記にて説明したものと同様である。
成分Aと成分Bとの混合比率には特に限定はないが、成分B中の(c)エポキシ樹脂の量(成分Aもまた(c)エポキシ樹脂を含有する場合には、成分A及び成分B中の(c)エポキシ樹脂の合計量)が、(a)アミノ基を含むシラン化合物の量の10質量%以上であることが好ましい。
(c)エポキシ樹脂の量は、(a)アミノ基を含むシラン化合物の量の12.5~350質量%であることがより好ましく、30~250質量%であることが特に好ましい。
【0054】
本願第2発明においては、上記成分Aと成分Bとを混合してから、速やかにポリカーボネート樹脂基材に塗布することが好ましく、より具体的には、混合後360分以内に塗布することが好ましく、混合後60分以内に塗布することがより好ましい。
上記成分Aと成分Bとを混合する方法には特に制限はなく、当該技術分野において公知、又は慣用された方法で実施することができる。
上記成分Aと成分Bとを、別々に供給等してもよいが、コーティング塗工の際の便宜を考慮すれば、ポリカーボネート樹脂用コーティング剤キットとして、成分Aと成分Bとを一緒に供給することが好ましい。
【0055】
第3発明
本願第3発明は、
下記成分Aと成分Bとを混合して混合液を形成する工程1、並びに
上記工程で得られた混合液をポリカーボネート樹脂基材上に塗布する工程2、
を有するコーティング層の形成方法、である。
・成分A:
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);及び
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
を含有する成分。
・成分B:
(c)エポキシ樹脂を含有する成分。
【0056】
工程1
本願第3発明では、まずその工程1において、上記成分Aと成分Bとを混合して混合液を形成する。
上記成分Aと成分Bとを混合する方法には特に制限はなく、当該技術分野において公知、又は慣用された方法で実施することができるが、例えば小型撹拌機等により混合することが好ましい。
成分Aと成分Bとの混合比率には特に限定はないが、コーティングの外観の向上やクラック防止の観点からは、成分B中の(c)エポキシ樹脂の量(成分Aもまた(c)エポキシ樹脂を含有する場合には、成分A及び成分B中の(c)エポキシ樹脂の合計量)が、(a)アミノ基を含むシラン化合物の量の10質量%以上となる様な比率で混合することが好ましく、20質量%以上となる様な比率で混合することが特に好ましい。
【0057】
本願第3発明における成分A及び成分Bの詳細、及び好ましい形態は、本願第2発明に関連して上記で説明したものと同様である。
したがって、上記成分Aは、エポキシ基含有化合物を含有しないか、又はエポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、(a)アミノ基を含むシラン化合物のアミノ基の総モル数の30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが特に好ましい。
上記エポキシ基の総モル数が所定量以下であることによって、成分Aは貯蔵安定性に優れ、長期間貯蔵した後の成分Aを使用したとしても、本願第3発明の方法で形成されたコーティング層は、ポリカーボネート樹脂基板に対する高い密着性を示す。
【0058】
工程2
本願第3発明では、次いでその工程2において、上記工程1で得られた混合液をポリカーボネート樹脂基材上に塗布する。基材上に塗布した混合液を反応、硬化させることで、基材上にコーティング層を形成することができる。
ここで、ポリカーボネート樹脂基材の詳細及びその好ましい形態は、本願第1発明に関連して上記にて説明したものと同様である。
温度にも依存するが、工程2は工程1の後速やかに実施することが好ましく、例えば25℃の条件では、工程1での混合液の形成後360分以内に実施することが好ましく、60分以内に実施することが特に好ましい。
【0059】
工程2においては、上記混合液をディッピング、スプレー塗布、ロール塗布、刷毛塗り等の方法で基材の表面に塗布することができる。1回の塗布でコーティング層を形成してもよいし、2回以上の塗布を繰り返すことでコーティング層を形成してもよい。2回以上の塗布を繰り返すことでコーティング層を形成する場合には、塗布後にコーティング組成物を硬化させた後に、更に塗布を行ってもよいし、硬化させないまま塗布を繰り返し、全ての塗布が終了した後に、コーティング組成物を硬化させてもよい。
硬化にあたり加熱は必須ではないが、加熱することにより硬化時間を短縮することができる。
【0060】
工程2における混合液の塗布量には特に制限は無いが、基材の面積100cm2あたり、1g~50gであることが好ましく、2g~40gであることが特に好ましく、5.0g以上であることがとりわけ好ましい。塗布量が基材の面積100cm2あたり、5g以上であることで、十分な厚さのコーティング層を形成することができる。
【0061】
硬化後のコーティング層の厚みには特に限定はなく、当該コーティングの目的、要求物性、コーティング付き部材の使用態様等に応じて適宜設定することが可能であるが、0.1~20μmであることが好ましく、0.5~10μmであることが特に好ましい。
【0062】
第4発明
本願第4発明は、
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R4-n-Si-(OR’)n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);及び
(b)H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;から導かれる化学構造、並びに
(c)エポキシ樹脂から導かれる化学構造、
を有するコーティング層が設けられた、ポリカーボネート部材、である。
【0063】
本願第4発明中のコーティング層を構成する化学構造を導く、(a)アミノ基を含むシラン化合物、(b)ホウ素化合物、及び(c)エポキシ樹脂の詳細、並びにその好ましい形態及び使用形態は、本願第1から第3発明に関連して上記にて説明したものと同様である。
本願第4発明中のコーティング層を構成する(a)アミノ基を含むシラン化合物、及び(b)ホウ素化合物から導かれる構造、及び(c)エポキシ樹脂から導かれる化学構造の詳細、及びその好ましい形態は、本願第1発明に関連して上記にて説明したものと同様である。
【0064】
本願第4発明のポリカーボネート部材を構成するコーティング層は、本願第1発明のコーティング組成物、及び/若しくは本願第2発明の2液型コーティング剤を用いて、又は本願第3発明の方法にしたがって、形成することができる。また、当該コーティング層の厚み等の詳細及びその好ましい形態は、本願第3発明に関連して上記にて説明したものと同様である。
【0065】
本願第4発明のポリカーボネート部材を構成するポリカーボネート樹脂の詳細及びその好ましい形態は、本願第1発明に関連して上記にて説明したものと同様である。
本願第4発明においてコーティング層が形成される基材は、ポリカーボネート樹脂を含有すればよく、それ以外の限定は存在しないが、フィルム、シート、射出成形体、樹脂製ガラス、プラスチックレンズ等を、好ましく採用することができる。
【0066】
本願第4発明のポリカーボネート部材は、軽量性、透明性等のポリカーボネート樹脂の好ましい特性を活用し、かつ耐候性、耐溶剤性、耐擦過性をコーティング層によって補うことができるので、各種の用途に好適に使用することができ、特に光学部品、電気電子部品、窓材等の部材において特に好適に使用することができる。
【実施例0067】
以下、本発明を実施例/比較例を参照しながら更に詳細に説明するが、本発明は、これにより何ら限定されるものではない。
【0068】
以下の実施例/比較例において、物性/特性の評価は下記の方法で行った。
(貯蔵安定性)
実施例/比較例のコーティング組成物を調製し、調製から1日、及び1ケ月間、25℃で貯蔵した後、下記の手順にしたがって試験片を作成して、基板密着性及び塗膜外観を評価し、1日貯蔵の結果と、1ケ月間貯蔵の結果とを比較することで、コーティング組成物の貯蔵安定性を評価した。
(試験片作製)
各実施例/比較例で得られたコーティング組成物を、1液式コーティング組成物についてはそのまま、2液式コーティング組成物については第一液と第二液との混合後速やかに、ポリカーボネート樹脂基板(タキロンシーアイ株式会社製、銘柄名:1600)にローラで約40g/m2の塗布量になるように塗布して室温で自然硬化させることで試験片を作製し、下記の手順に従って、基板密着性、及び塗膜外観を評価した。
(基板密着性)
上述にて作製した試験片を用いて、JIS K5600-5-6準拠によるクロスカット法にて、基板(ガラス板)への密着性を、以下の基準に従い評価した。
〇:クロスカット部分で影響を受けるのは10%未満
×:クロスカット部分で影響を受けるのは10%以上
(塗膜外観)
上述にて作製した試験片を目視にて観察し、コーティングの外観を以下の基準に従って評価した。
〇:均一な被膜が形成され、クラックは観測されなかった。
△:均一な被膜が形成され、僅かなクラックが生じた。
×:不均一な被膜が形成され、クラックが生じた。
【0069】
実施例/比較例で使用した各成分は、以下のとおりである。
・a成分(アミノ基を含むシラン化合物)
a-1:γ-アミノプロピルトリエトキシシラン液を使用した。
・b成分(ホウ素化合物)
b-1:H3BO3粉末を使用した。
・c成分(エポキシ樹脂)
c-1:水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、デナコール EX-252)を使用した。
・d成分(有機官能基含有シラン化合物)
d-1:正珪酸メチル(多摩化学工業株式会社製)を使用した。
・e成分(有機溶媒)
e-1:メトキシメチルブタノールを使用した。
e-2:エタノール、メタノール、n-プロピルアルコール混合物(大伸化学株式会社製、ネオエタノールPM)を使用した。
e-3:
・f成分(界面活性剤)
シリコーン系界面活性剤(Dow社製、VORASURFTM SZ-1919)を使用した。
【0070】
(実施例1)
表1に示す質量比で、a成分(アミノ基を含むシラン化合物)、b成分(ホウ素化合物)、及びd成分(有機官能基含有シラン化合物)を混合し、第一液を調製した。
同じく表1に示す質量比で、c成分(エポキシ樹脂)、e成分(有機溶媒)、及びf成分(界面活性剤)を混合し、第二液を調製した。
上記条件に従って、調製から1日、及び1ケ月間貯蔵した後、第一液と第二液とを混合して、ポリカーボネート樹脂基板に塗布し、塗膜外観及び塗膜密着性の評価を行った。
結果を、表1に示す。
【0071】
(実施例2から4、比較例1)
第一液及び第二液の配合を、表1に示すものに変更したことを除くほか、実施例1と同様にして第一液と第二液を調製、貯蔵、混合、塗布して、評価を行った。
なお、実施例4及び比較例1においては、第一液にもc成分(エポキシ樹脂)を配合した。
結果を、表1に示す。
【0072】
【表1】
第一液が(c-1)エポキシ基含有化合物を含有しないか、又は(c-1)エポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、本発明の範囲内である各実施例においては、貯蔵1ヵ月後においても、良好な外観と基板密着性を有する塗膜を形成することができた。
第一液の(c-1)エポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、本発明の範囲外である比較例1においては、貯蔵後1日では良好な外観と基板密着性が得られたものの、貯蔵1ヵ月後においては、基板密着性が低下した。
【0073】
(比較例2)
表2に示す質量比で、c成分(エポキシ樹脂)、b成分(ホウ素化合物)、及びd成分(有機官能基含有シラン化合物)を混合し、第一液を調製した。
同じく表2に示す質量比で、a成分(アミノ基を含むシラン化合物)、e成分(有機溶媒)、及びf成分(界面活性剤)を混合し、第二液を調製した。
上記条件に従って、調製から1日、及び1ケ月間貯蔵した後、第一液と第二液とを混合して、ポリカーボネート樹脂基板に塗布し、塗膜外観及び塗膜密着性の評価を行った。
結果を、表2に示す。
【0074】
【表2】
第一液がa成分(アミノ基を含むシラン化合物)を含有せず、第二液がb成分(ホウ素化合物)を含有しない本比較例においては、十分な基板密着性が得られなかった。
【0075】
(比較例3)
表3に示す質量比で、a成分(アミノ基を含むシラン化合物)、b成分(ホウ素化合物)、d成分(有機官能基含有シラン化合物)、c成分(エポキシ樹脂)、e成分(有機溶媒)、及びf成分(界面活性剤)を混合し、1液式コーティング組成物を調製した。
該1液式コーティング組成物を、上記条件に従って、調製から1日、及び1ケ月間貯蔵した後、ポリカーボネート樹脂基板に塗布し、塗膜外観及び塗膜密着性の評価を行った。
結果を、表3に示す。
【0076】
【表3】
(c-1)エポキシ基含有化合物によりもたらされるエポキシ基の総モル数が、本発明の範囲外である本比較例においては、貯蔵後1日では良好な外観と基板密着性が得られたものの、貯蔵1ヵ月後においては、基板密着性が低下した。
本発明のポリカーボネート樹脂用コーティング組成物は、貯蔵安定性に優れ、常温でコーティング層を形成可能であり、またそれから得られるコーティング層の基板密着性に優れるなど、従来技術の限界を超えた高いレベルで実用上高い価値を有する諸特性を兼ね備えるので、光学部品、電気電子部品、窓材等のポリカーボネート樹脂の透明性等の優れた特性を活用する用途においてポリカーボネート樹脂を適切に保護することが可能であり、光学機器産業、電気電子機器産業、建築、建設産業、自動車等の輸送機械産業等の産業の各分野において、高い利用可能性を有する。