(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021762
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】ウインドレギュレータ
(51)【国際特許分類】
E05F 11/48 20060101AFI20220127BHJP
B60J 1/17 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
E05F11/48 F
E05F11/48 B
B60J1/17 C
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020125548
(22)【出願日】2020-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000146434
【氏名又は名称】株式会社城南製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城間 朝敬
(72)【発明者】
【氏名】古市 航輔
【テーマコード(参考)】
3D127
【Fターム(参考)】
3D127BB01
3D127CB05
3D127CC05
3D127DF09
3D127DF26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ウインドレギュレータを長期的に使用した場合にも、異音の発生を抑制することができるウインドレギュレータを提供する。
【解決手段】キャリアプレート3と、下降側ワイヤ5と、下降側ワイヤ5の端部に取り付けられた本体部91、及び本体部91の基端部に形成された鍔部92を有する下降側スライドブッシュ9と、を備え、キャリアプレート3は、導出溝34cが形成された底面34bを有すると共に、下降側スライドブッシュ9を、本体部91の先端面91aが底面34bと対向するように収容する下降側収容部34を有し、鍔部92と底面34bとの間には、グリス貯留部が形成され、底面34bには、底面34bから突出して先端面91aに当接し、下降側スライドブッシュ9の進退位置を規制する規制突起101が形成され、規制突起101は、上記当接によって、突出量が減少するように変形する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓ガラスが取り付けられたキャリアプレートと、
前記キャリアプレートを牽引するワイヤと、
前記ワイヤの端部に取り付けられた本体部、及び前記本体部の基端部に形成された鍔部を有するスライド部材と、
前記ワイヤに張力を付与するスプリングと、を備え、
前記キャリアプレートは、前記ワイヤを外部に導出する導出部が形成された底面を有する有底孔状に形成され、前記スライド部材を進退自在且つ前記本体部の先端面が前記底面と対向するように収容すると共に、前記スプリングを前記鍔部と前記底面との間に圧縮状態で収容する収容部を有し、
前記鍔部と前記底面との間には、グリスを貯留するグリス貯留部が形成され、
前記底面及び前記先端面の一方の面には、当該一方の面から突出して前記底面及び前記先端面の他方の面に当接し、前記スライド部材の進退位置を規制する突出部が形成され、
前記突出部は、前記当接によって、突出量が減少するように変形することを特徴とするウインドレギュレータ。
【請求項2】
前記突出部は、前記底面に形成され、前記先端面に当接することを特徴とする請求項1に記載のウインドレギュレータ。
【請求項3】
前記突出部は、前記導出部の少なくとも一部を囲うように形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のウインドレギュレータ。
【請求項4】
前記突出部は、前記他方の面に当接する当接面と、前記グリス貯留部に貯留されたグリスを前記当接面に導く傾斜面と、を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のウインドレギュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウインドレギュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ウインドレギュレータとして、例えば、ワイヤ駆動でキャリアプレートを昇降させて、窓ガラスを昇降するワイヤ式のウインドレギュレータがある(特許文献1参照)。このウインドレギュレータは、窓ガラスと共に移動するキャリアプレートと、キャリアプレートを牽引するワイヤと、ワイヤのキャリアプレート側端部に固定されたワイヤエンドと、ワイヤエンドが係止するスライドブッシュと、ワイヤに張力を付与するコイルスプリングと、を含んでいる。また、キャリアプレートには、ワイヤエンド、スライドブッシュ及びコイルスプリングを収容する収容部(ワイヤエンド収容部)と、収容部の底面からキャリアプレートの外側に向かってワイヤを導出する導出溝と、が形成されている。
このウインドレギュレータでは、スライドブッシュは、先端面が収容部の底面に対向する形で、収容部内に進退自在に配置され、コイルスプリングは、スライドブッシュの鍔部と収容部の底面との間に圧縮状態で配置されている。これによって、スライドブッシュの鍔部が底面から遠ざかる方向の付勢力を受け、ワイヤの弛みが抑制される、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のウインドレギュレータでは、ウインドレギュレータを長期的に使用すると、異音抑制用のグリス(グリース)が、導出溝から外部に流出し枯渇してしまうため、異音の発生が抑制できなくなってしまうという問題があった。
すなわち、上記したように、スライドブッシュは、先端面が収容部の底面に対向する形で収容部内に進退自在に配置されている。そのため、ウインドレギュレータの昇降動作の中で、コイルスプリングの付勢力に抗して、スライドブッシュの先端面が収容部の底面に当接し、この当接によって異音が発生する。これに対し、収容部内にグリスを注入し、スライドブッシュの先端面周りにグリスが供給されることで異音を抑制できるが、上記従来のウインドレギュレータでは、スライドブッシュの先端面が収容部の底面に当接するとき、スライドブッシュの先端面が、シリンジの様に、その周りのグリスを積極的に導出溝に押し出す形になるため、スライドブッシュの先端面周りのグリスの大部分が導出溝から外部に流出してしまう。このような当接を繰り返すことで、スライドブッシュの先端面周りに供給されるグリスが枯渇し、異音の発生を抑制することができなくなってしまう。これにより、ウインドレギュレータを長期的に使用した場合に、異音の発生が抑制できなくなる。
【0005】
そこで、本発明は、ウインドレギュレータを長期的に使用した場合にも、異音の発生を抑制することができるウインドレギュレータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、窓ガラスが取り付けられたキャリアプレートと、前記キャリアプレートを牽引するワイヤと、前記ワイヤの端部に取り付けられた本体部、及び前記本体部の基端部に形成された鍔部を有するスライド部材と、前記ワイヤに張力を付与するスプリングと、を備え、前記キャリアプレートは、前記ワイヤを外部に導出する導出部が形成された底面を有する有底孔状に形成され、前記スライド部材を進退自在且つ前記本体部の先端面が前記底面と対向するように収容すると共に、前記スプリングを前記鍔部と前記底面との間に圧縮状態で収容する収容部を有し、前記鍔部と前記底面との間には、グリスを貯留するグリス貯留部が形成され、前記底面及び前記先端面の一方の面には、当該一方の面から突出して前記底面及び前記先端面の他方の面に当接し、前記スライド部材の進退位置を規制する突出部が形成され、前記突出部は、前記当接によって、突出量が減少するように変形することを特徴とするウインドレギュレータを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るウインドレギュレータは、ウインドレギュレータを長期的に使用した場合にも、異音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るウインドレギュレータ、及びウインドレギュレータが設けられる車両のドアを示す全体概略図である。
【
図2】ウインドレギュレータを示した正面図である。
【
図3】キャリアプレート周りを示した部分断面図である。
【
図4】キャリアプレートを示した正面図(a)、平面図(b)及び裏面図(c)である。
【
図5】(a)は、下降側スライドブッシュが底面から離間した状態の下降側収容部周りを示したA‐A´線断面図であり、(b)は、下降側スライドブッシュが底面に近接した状態の下降側収容部周りを示したA‐A´線断面図であり、(c)は、グリスを図示した、下降側スライドブッシュが底面に近接した状態の下降側収容部周りを示したA‐A´線断面図である。
【
図6】(a)は、規制突起を示したA‐A´線断面図であり、(b)は、規制突起を示した平面図(b)であり、(c)は、グリスの流れを示したA‐A´線断面図である。
【
図7】(a)は、初期の状態における下降側収容部周りを示したA‐A´線断面図であり、(b)は、スライドブッシュと規制突起との当接を1万回行った後の状態における下降側収容部周りを示したA‐A´線断面図であり、(c)は、スライドブッシュと規制突起との当接を2万回行った後の状態における下降側収容部周りを示したA‐A´線断面図である。
【
図8】(a)は、規制突起の第1変形例を示したA‐A´線断面図であり、(b)は、規制突起の第2変形例を示した平面図であり、(c)は、規制突起の第3変形例を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るウインドレギュレータについて説明する。このウインドレギュレータは、自動車(車両)のドアパネルに取り付けられ、自動車に設けられたドアの窓ガラスを昇降する昇降装置である。特に、本ウインドレギュレータは、キャリアプレート内におけるグリスの供給構造を改善し、ウインドレギュレータを長期的に使用した場合にも、異音の発生を抑制することができるようにしたものである。なお、以下、窓ガラスの昇降方向、上昇方向及び下降方向を、単に昇降方向、上昇方向及び下降方向と呼称する。また、以下、各図に示す通り、左右、前後及び上下を規定して説明する。
【0010】
図1及び
図2に示すように、ウインドレギュレータ1は、ドアパネル(不図示)の内部に取り付けられており、窓ガラスGの昇降方向に沿って設けられたガイドレール2と、窓ガラスGが取り付けられると共にガイドレール2と摺動して移動するキャリアプレート3と、キャリアプレート3を牽引する上昇側ワイヤ4及び下降側ワイヤ5(ワイヤ)と、ガイドレール2の上端に配設され、上昇側ワイヤ4を方向転換するプーリー6と、上昇側ワイヤ4及び下降側ワイヤ5の巻き取り及び繰り出しを行う駆動部7と、を備えている。また、
図3に示すように、ウインドレギュレータ1は、上昇側ワイヤ4のキャリアプレート3側の端部に取り付けられた上昇側スライドブッシュ8と、上昇側スライドブッシュ8を介して、上昇側ワイヤ4に張力を付与する上昇側スプリング10と、下降側ワイヤ5のキャリアプレート3側の端部に取り付けられた下降側スライドブッシュ9(スライド部材)と、下降側スライドブッシュ9を介して下降側ワイヤ5に張力を付与する下降側スプリング11(スプリング)と、を備えている。すなわち、このウインドレギュレータ1は、いわゆるワイヤ式且つシングルレール式のウインドレギュレータ1である。
【0011】
図1及び
図2に示すように、ガイドレール2は、長板状の金属板を所定の曲率で折り曲げて形成され、ドアDに対して車両前後方向の後方側に傾いて配置されている。そして、ガイドレール2は、キャリアプレート3を昇降自在に支持している。
【0012】
上昇側ワイヤ4は、一端部がキャリアプレート3に取り付けられ、プーリー6を介して、他端部が駆動部7のドラム72(後述する)に連結されている。一方、下降側ワイヤ5は、一端部がキャリアプレート3に取り付けられ、他端部がドラム72に連結されている。
【0013】
駆動部7は、減速機付きのモータ71と、モータ71によって回転駆動され、回転することにより上昇側ワイヤ4及び下降側ワイヤ5の巻き取り及び繰り出しを行う円筒状のドラム72と、ガイドレール2の下端に設けられ、モータ71を保持すると共に、ドラム72を収容するハウジング73と、を有している。
【0014】
モータ71を正転駆動すると、ドラム72が正転し、これに伴って、下降側ワイヤ5が繰り出されつつ上昇側ワイヤ4が巻き取られる。これによって、キャリアプレート3が上昇側ワイヤ4に引っ張られ上昇方向に移動する。これにより、キャリアプレート3に取り付けられた窓ガラスGが上昇する。一方、モータ71を逆転駆動すると、ドラム72が逆転し、これに伴って、上昇側ワイヤ4が繰り出されつつ下降側ワイヤ5が巻き取られる。これによって、キャリアプレート3が下降側ワイヤ5に引っ張られ下降方向に移動する。これにより、キャリアプレート3に取り付けられた窓ガラスGが下降する。
【0015】
図3に示すように、上昇側スライドブッシュ8は、樹脂で形成されており、筒状の本体部81と、本体部81の基端部(
図3中下端部)から径方向に突出した鍔部82と、を有している。本体部81の内部には、上昇側ワイヤ4の端部に形成された上昇側ワイヤエンド41が係止されている。上昇側ワイヤエンド41が本体部81に係止させることで、上昇側ワイヤ4の端部に上昇側スライドブッシュ8が取り付けられている。
【0016】
上昇側スプリング10は、コイルスプリング(コイルバネ)により構成されている。また、上昇側スプリング10は、上昇側スライドブッシュ8の本体部81を挿通すると共に、下端が上昇側スライドブッシュ8の鍔部82に当接している。
【0017】
下降側スライドブッシュ9は、樹脂で形成されており、筒状の本体部91と、本体部91の基端部(
図3中上端部)から径方向に突出した鍔部92と、を有している。本体部91の内部には、下降側ワイヤ5の端部に形成された下降側ワイヤエンド51が係止されている。下降側ワイヤエンド51を本体部91に係止させることで、下降側ワイヤ5の端部に下降側スライドブッシュ9が取り付けられている。
【0018】
下降側スプリング11は、コイルスプリングにより構成されている。また、下降側スプリング11は、下降側スライドブッシュ9の本体部91を挿通すると共に、上端が下降側スライドブッシュ9の鍔部92に当接している。
【0019】
次に
図3及び
図4を参照して、キャリアプレート3について説明する。
図3及び
図4に示すように、キャリアプレート3は、樹脂で形成されており、窓ガラスGを取り付けるための左右2つの取付け孔31、31と、後面側(
図3中奥側)の略中央に配設されたレール取付け部32と、レール取付け部32の左側に配設され、上昇側スライドブッシュ8及び上昇側スプリング10を収容する上昇側収容部33と、レール取付け部32の右側に配設され、下降側スライドブッシュ9及び下降側スプリング11を収容する下降側収容部34(収容部)と、を有している。なお、キャリアプレート3は、上昇側スライドブッシュ8及び下降側スライドブッシュ9に比べ、軟質の樹脂で形成されている。なお、キャリアプレート3は、上昇側スライドブッシュ8及び下降側スライドブッシュ9に比べ、硬質の樹脂で形成されていても良いし、上昇側スライドブッシュ8及び下降側スライドブッシュ9と同一の硬さの樹脂で形成されていても良い。
【0020】
取付け孔31、31は、窓ガラスGに固定された図略のガラスホルダをボルト締結するためのものである。ボルトによって、取付け孔31、31にガラスホルダを締結することで、窓ガラスGがガラスホルダを介して、キャリアプレート3に取り付けられている。
【0021】
レール取付け部32は、ガイドレール2に対し摺動自在に取り付けられている。すなわち、キャリアプレート3は、このレール取付け部32によって、ガイドレール2に対し昇降自在に支持されている。
【0022】
図3に示すように、上昇側収容部33は、八角柱状の中空部を有し且つ上側を底側とする有底孔状に形成されており、内側面33aと底面33bとを有している。上昇側収容部33は、当該中空部内において、上昇側スライドブッシュ8を、上下方向に進退自在且つ本体部81の先端面81a(上面)が底面33bと対向するように収容している。また、上昇側収容部33は、上昇側スライドブッシュ8の鍔部82と底面33bとの間において、上昇側スプリング10を圧縮状態で収容している。さらに、上昇側収容部33の底面33bには、前側(
図3中手前側)を底側とする、上昇側ワイヤ4をキャリアプレート3の外部に導出する導出溝33cが形成されている。上昇側収容部33内では、上昇側スプリング10が底面33bを受けとして上昇側スライドブッシュ8の鍔部82を下方に押圧し、これによって、上昇側スライドブッシュ8を介して、上昇側ワイヤ4に張力が付与されている。これにより、上昇側ワイヤ4の弛みが抑制されている。
【0023】
図3及び
図5に示すように、下降側収容部34は、八角柱状の中空部を有し且つ下側を底側とする有底孔状に形成されており、内側面34aと底面34bとを有している。下降側収容部34は、当該中空部内において、下降側スライドブッシュ9を、上下方向に進退自在且つ本体部91の先端面91a(下面)が底面34bと対向するように収容している。また、下降側収容部34は、下降側スライドブッシュ9の鍔部92と底面34bとの間において、下降側スプリング11を圧縮状態で収容している。さらに、下降側収容部34の底面34bには、前側(
図3中手前側)を底側とする、下降側ワイヤ5をキャリアプレート3の外部に導出する導出溝34c(導出部)が形成されている。下降側収容部34内では、下降側スプリング11が底面34bを受けとして下降側スライドブッシュ9の鍔部92を上方に押圧し、これによって、下降側スライドブッシュ9を介して、下降側ワイヤ5に張力が付与されている。これにより、下降側ワイヤ5の弛みが抑制されている。
【0024】
なお、下降側収容部34内では、下降側ワイヤ5が引っ張られるとき、
図5(b)及び(c)に示すように、下降側スライドブッシュ9が下降側スプリング11の付勢力に抗して底面34bに近接し、下降側ワイヤ5が引っ張られていないときには、
図5(a)に示すように、下降側スプリング11の付勢力によって、下降側スライドブッシュ9が底面34bから離間する。そのため、ウインドレギュレータ1の昇降動作(主に下降動作)の中で、下降側スライドブッシュ9は、底面34bへの近接と底面34bからの離間とを繰り返すことになる。
【0025】
また、
図5に示すように、下降側収容部34では、下降側スライドブッシュ9の鍔部92と底面34bとの間に、異音抑制用のグリスBを貯留するグリス貯留部34dが形成されている。厳密には、下降側スライドブッシュ9の鍔部92と、下降側スライドブッシュ9の本体部91の外側面と、下降側収容部34の底面34bと、下降側収容部34の内側面34aとで、グリス貯留部34dが形成されている。
図5(c)に示すように、当該グリス貯留部34dには、グリスBが貯留されている。当該グリスBは、下降側スライドブッシュ9が下降側収容部34の底面34b周りに当接したときの異音の発生を抑制するためのものである。上記したように、キャリアプレート3が下降側ワイヤ5に引っ張られるとき、下降側スライドブッシュ9が下降側収容部34の底面34bに近接するが、このとき、下降側スライドブッシュ9の鍔部92が、グリス貯留部34d内のグリスBを押し出すことで、グリス貯留部34d内のグリスBが、下降側スライドブッシュ9(の本体部91)の先端面91aと底面34bとの間に供給される。
【0026】
また、
図6に示すように、下降側収容部34の底面34bには、グリス貯留部34dに隣接して、当該底面34bから突出した規制突起101(突出部)が形成されている。規制突起101は、断面半円状に形成され、且つ一部が欠けた円環状に延在している。詳細には、
図6(b)に示すように、規制突起101は、底面34bの中心に位置する導出溝34cの底部34eを囲い、且つ、導出溝34cとの交点の部分で欠けた円環状に形成されている。規制突起101は、下降側スライドブッシュ9が下降側収容部34の底面34bに近接したとき、下降側スライドブッシュ9の先端面91aに当接して、下降側スライドブッシュ9の進退位置を規制する(下限規制)。すなわち、規制突起101の突出量によって、下降側スライドブッシュ9が下降側収容部34の底面34bに近接したときの、下降側スライドブッシュ9の進退位置が制御されている。これにより、下降側スライドブッシュ9が底面34bに近接したときの、下降側スライドブッシュ9の鍔部92と底面34bとの距離が制御され、鍔部92と底面34bとの間に形成されたグリス貯留部34dの容積が制御されている。
【0027】
図6(a)及び(c)に示すように、規制突起101は、頂部101aが下降側スライドブッシュ9に当接する当接面を成し、外側面101bがグリス貯留部34dに貯留されたグリスBを頂部101aに導く傾斜面を成している。
図6(c)に示すように、下降側スライドブッシュ9が下降側収容部34の底面34bに近接し、グリス貯留部34dに貯留されたグリスBが、下降側スライドブッシュ9の先端面91aと底面34bとの間に供給されたとき、供給されたグリスBが、規制突起101の外側面101bを経て頂部101aに到り、下降側スライドブッシュ9の先端面91aと規制突起101との間に供給される。供給されたグリスBは、下降側スライドブッシュ9の上記近接と上記離間との繰返しによって、規制突起101の内側の底面34bを経て導出溝34cに到り、導出溝34cからキャリアプレート3の外部に流出する。
【0028】
また、規制突起101は、下降側スライドブッシュ9との当接によって、底面34bに対する突出量(高さ)が減少するように圧縮変形する。すなわち、規制突起101は、下降側スライドブッシュ9との当接の繰返し(厳密には、上記近接に伴う当接と上記離間との繰返し)によって、徐々に、底面34bに対する突出量が少なくように圧縮変形する。上記したように、規制突起101の突出量によって、下降側スライドブッシュ9が下降側収容部34の底面34bに近接したときの、下降側スライドブッシュ9の鍔部92と底面34bとの距離が制御され、またグリス貯留部34dの容積が制御されている。そのため、上記当接の繰返しによって、突出量が徐々に少なくなることで、下降側スライドブッシュ9の鍔部92と底面34bとの距離が徐々に短くなり、グリス貯留部34dの容積が徐々に減少する。これにより、上記当接を繰り返す中で、グリス貯留部34dの容積が減少した分だけ、グリス貯留部34d内のグリスBが徐々に、下降側スライドブッシュ9の先端面91aと下降側収容部34の底面34bとの間に供給され、先端面91aと規制突起101との間に供給される。なお、規制突起101は、上記当接の回数の増加に伴って、突出量が減少するように圧縮変形していく、ともいえる。
【0029】
図7は、上記当接の繰返しによる規制突起101の変形を示した下降側収容部34周りの断面図である。
図7(a)に示すように、初期の状態では、規制突起101の突出量が0.5mmであり、下降側スライドブッシュ9の鍔部92と底面34bとの距離が11.7mmである。そして、
図7(b)に示すように、下降側スライドブッシュ9と規制突起101との当接が1万回行われると、規制突起101の頂部101aが凹むように圧縮変形し、規制突起101の突出量が0.4mmになる。これに伴って、下降側スライドブッシュ9の鍔部92と底面34bとの距離が11.6mmとなり、グリス貯留部34dの容積が減少する。また、
図7(c)に示すように、上記当接が2万回行われると、規制突起101の頂部101aがさらに凹むように圧縮変形し、規制突起101の突出量が0.3mmになる。これに伴って、下降側スライドブッシュ9の鍔部92と底面34bとの距離が11.5mmとなり、グリス貯留部34dの容積がさらに減少する。2万回の当接の中で、このグリス貯留部34dの容積の減少分だけ、グリス貯留部34d内のグリスBが徐々に、下降側スライドブッシュ9の先端面91aと下降側収容部34の底面34bとの間に供給され続け、先端面91aと規制突起101との間に供給され続けることになる。
【0030】
規制突起101の1回の当接当たりの変形量(突出量の減少量)は、グリス貯留部34dの容積の減少に伴う、下降側スライドブッシュ9の先端面91aと下降側収容部34の底面34bとの間へのグリス供給量を考慮して設定されている。すなわち、規制突起101の1回の当接当たりの変形量は、先端面91aと底面34bとの間へのグリス供給量が、上記当接時の異音を抑制できるのに十分な量となるように設定されている。規制突起101は、この設定された1回の当接当たりの変形量になるような寸法(幅や高さ等)で形成されている。その結果、規制突起101は、上記当接の繰返しによって、グリス貯留部34dの容積が徐々に減少するように変形し、上記当接の繰返しによって、上記当接時の異音が抑制できるのに十分な量のグリスBがグリス貯留部34dから供給され続けるように変形する構成となっている。
【0031】
(実施形態の作用及び効果)
以上、上記実施形態によれば、下降側スライドブッシュ9と規制突起101との当接の繰返しの中で、規制突起101が徐々に圧縮変形し、これに伴って、グリス貯留部34d内のグリスBが、下降側スライドブッシュ9の先端面91aと底面34bとの間に徐々に供給される。これによって、ウインドレギュレータ1を長期的に使用したときに、下降側スライドブッシュ9の先端面91aと底面34bとの間にグリスBを供給し続けることができ、先端面91aと底面34bとの間においてグリスBが枯渇するのを抑制することができる。よって、ウインドレギュレータ1を長期的に使用した場合にも、下降側スライドブッシュ9と規制突起101との当接による異音の発生を抑制することができる。
【0032】
また、規制突起101によって、下降側スライドブッシュ9の先端面91aと底面34bとが面接触するのを避けることができるため、下降側スライドブッシュ9が底面34bに近接したとき、シリンジの様に、グリスBが導出溝34cから積極的に押し出されるのを抑制することができる。これにより、グリスBが導出溝34cから流出するのを抑制することができる。
【0033】
さらに、規制突起101が、導出溝34cの底部34eを囲うように延在していることで、グリスBが、規制突起101を避けて導出溝34cに到達し外部に流出するのを抑制することができる。
【0034】
またさらに、規制突起101の外側面101bが傾斜面となっていることで、グリスBを規制突起101の頂部101a(当接面)に誘導することができる。
【0035】
(その他の実施形態について)
なお、上記実施形態においては、規制突起101が、断面半円状を有する構成であったが、例えば、
図8(a)に示すように、規制突起101が、頂部101aを欠いた断面半円状を有する構成であっても良い。すなわち、下降側スライドブッシュ9に対する当接面として、先端面91aに対面する平坦な面を有する構成であっても良い。さらにいえば、規制突起101が、断面正方形の形状や断面三角形の形状、断面台形の形状であっても良い。
【0036】
また、上記実施形態においては、規制突起101が、導出溝34cとの交点部分を欠いた円環状に延在する構成であったが、例えば、
図8(b)に示すように、規制突起101が、導出溝34cとの交点部分を欠いた円環状に延在しつつ、当該交点部分から導出溝34cに沿って延在する構成であっても良い。また、
図8(c)に示すように、規制突起101が、導出溝34cとの交点部分を欠いた矩形状に延在する構成であっても良い。
【0037】
なお、上記実施形態においては、規制突起101が、下降側スライドブッシュ9との当接の繰返しによって、圧縮変形する構成であったが、突出量が少なくなるように変形する構成であれば、圧縮変形するものに限るものではない。例えば、規制突起101が、上記当接の繰り返しによって、突出量が少なくなるように湾曲変形又は屈曲変形する構成であっても良いし、上記当接の繰り返しによって、突出量が少なくなるように摩耗する(すり減る)構成であっても良い。
【0038】
また、上記実施形態においては、規制突起101を下降側収容部34の底面34bに形成する構成であったが、規制突起101を下降側スライドブッシュ9(の本体部91)の先端面91aに形成する構成であっても良い。かかる場合、規制突起101は、先端面91aから突出し、下降側収容部34の底面34bに当接して、下降側スライドブッシュ9の進退位置を規制する。
【0039】
さらに、上記実施形態においては、下降側収容部34周りに規制突起101を形成する構成であったが、上昇側収容部33周りにも規制突起101を形成する構成であっても良い。すなわち、上昇側収容部33の底面33b又は上昇側スライドブッシュ8(の本体部81)の先端面81aに、上昇側スライドブッシュ8の進退位置を規制する規制突起101を形成する構成であっても良い。かかる場合、上昇側収容部33において、上昇側スライドブッシュ8の鍔部82と上昇側収容部33の底面33bとの間に、グリス貯留部34dを形成されている構成とする。
【0040】
また、規制突起101の1回の当接当たりの変形量及びこれに基づく規制突起101の寸法は、グリス貯留部34dの単位高さ当たりのグリス貯留量に応じて変更することが好ましい。例えば、グリス貯留部34d内に配置する下降側スプリング11の線材の太さ等によって、グリス貯留部34dの単位高さ当たりのグリス貯留量が変化するので、これに合わせて規制突起101の1回の当接当たりの変形量及びこれに基づく規制突起101の寸法を変更する。
【0041】
なお、上記実施形態においては、シングルレール式のウインドレギュレータ1に本発明を適用したが、ワイヤ式のウインドレギュレータであれば、ダブルレール式のウインドレギュレータやレールレスのウインドレギュレータに本発明を適用しても良い。
【0042】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記した実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1:ウインドレギュレータ、 3:キャリアプレート、 5:下降側ワイヤ、 9:下降側スライドブッシュ、 11:下降側スプリング、 34:下降側収容部、 34b:底面、 34c:導出溝、 34d:グリス貯留部、 34e:底部、 91:本体部、 91a:先端面、 92:鍔部、 101:規制突起、 101a:頂部、 101b:外側面、 B:グリス、 G:窓ガラス