(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021827
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】膨張弁
(51)【国際特許分類】
F16K 31/68 20060101AFI20220127BHJP
F25B 41/335 20210101ALI20220127BHJP
【FI】
F16K31/68 S
F25B41/06 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020125660
(22)【出願日】2020-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志村 智紀
(72)【発明者】
【氏名】早川 潤哉
【テーマコード(参考)】
3H057
【Fターム(参考)】
3H057AA04
3H057BB43
3H057CC05
3H057CC15
3H057DD04
3H057EE01
3H057FA24
3H057FD14
3H057HH18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】安価でありながら、所望の温度/流量特性を得ることができるパワーエレメント及びそれを用いた膨張弁を提供する。
【解決手段】膨張弁1は、ダイアフラム83と、前記ダイアフラム83の一方の面との間に圧力作動室POを配置する上蓋部材82と、前記ダイアフラム83の他方の面との間に流体流入室LSを配置する受け部材86とを備えたパワーエレメント8と、第3配管53を接続可能な冷媒の戻り流路23と、前記流体流入室LSと前記戻り流路23とを連通する連通路2bと、弁室VSと、弁座20とを備えた弁本体2と、前記弁室VSに配置された弁体3と、前記弁体3を前記弁座20に向けて押圧するコイルばね41と、前記弁体3に一端を当接させ、前記ダイアフラム83によって駆動される作動棒と、前記戻り流路23内に挿入されることにより、前記連通路2bの一部を遮蔽する遮蔽部材と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体を弁座に向けて押圧する作動棒を駆動するダイアフラムと、前記ダイアフラムの一方の面との間に圧力作動室を配置する上蓋部材と、前記ダイアフラムの他方の面との間に流体流入室を配置する受け部材とを備えたパワーエレメントと、
配管を接続可能な冷媒流路と、
前記流体流入室と前記冷媒流路とを連通する連通路と、
前記冷媒流路内に挿入されることにより、前記連通路の一部を遮蔽する遮蔽部材と、を有することを特徴とする膨張弁。
【請求項2】
前記遮蔽部材は、前記冷媒流路に接続される配管であり、前記配管の先端が前記連通路の一部を遮蔽することを特徴とする請求項1に記載の膨張弁。
【請求項3】
前記遮蔽部材は、前記冷媒流路に接続される配管に取り付けられる円筒部材であり、前記円筒部材の先端が前記連通路の一部を遮蔽することを特徴とする請求項1に記載の膨張弁。
【請求項4】
前記連通路に前記作動棒が挿通されており、前記先端には、前記作動棒との干渉を回避するための切欠が形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の膨張弁。
【請求項5】
前記先端の外周には、テーパ面が形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の膨張弁。
【請求項6】
前記遮蔽部材と前記連通路との重なり量を調整する調整部材を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の膨張弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に搭載される空調装置等に用いる冷凍サイクルにおいては、冷媒の通過量を温度に応じて調整する感温式の温度膨張弁が使用されている。このような温度膨張弁において、封入した作動ガスの圧力で弁体を駆動するパワーエレメントが採用されている。
【0003】
膨張弁に備えられたパワーエレメントは、一般的に、ダイアフラムと、前記ダイアフラムとの間で作動ガスが封入される圧力作動室を配置する上蓋部材と、中央部に貫通孔を備えるとともに前記ダイアフラムに関して前記上蓋部材と反対側に配置される受け部材と、前記ダイアフラムと前記受け部材との間に形成される流体流入室に配置され、弁体を駆動する作動棒に連結されたストッパ部材と、を備える。ダイアフラムは、薄く可撓性を有する金属製の板から形成されている。
【0004】
流体流入室に流入する冷媒の温度が低ければ、圧力作動室の作動ガスから熱を奪うことで収縮が生じ、また該冷媒の温度が高ければ、圧力作動室の作動ガスに熱を付与することで膨張が生じる。作動ガスの収縮/膨張に応じてダイアフラムが変形するため、その変形量に応じて、ストッパ部材及び作動棒を介して弁体を開閉させることができ、それにより膨張弁を通過する冷媒の流量調整を行うことができる。
【0005】
ところで、流体流入室に流入する冷媒の量や温度は、冷凍サイクルの稼働状況によって刻々と変化する。したがって、条件によってはダイアフラムが過敏に反応し、それにより弁体の繰り返し開閉動作を招き、冷媒の温度制御が不安定になることがある。これをハンチング現象という。ハンチング現象が生じると、空調装置における空気の温度制御が安定せず、空調装置の使用者に不快感を与える恐れがある。
【0006】
これに対し、膨張弁の冷媒流路と、パワーエレメントの流体流入室とをつなぐ通路に、冷媒の流入を制限する孔を形成したディスクを配置することにより、ハンチング現象を抑制することができる膨張弁が、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、膨張弁を備えた冷凍サイクルの使用条件は、これが適用される空調装置や外部温度環境によって、さまざまに変化する。したがって、ある使用条件下では、膨張弁に取り付けたディスクによりハンチング現象を有効に抑制できたとしても、別の使用条件下では、ハンチング現象を抑制できない場合もある。
【0009】
このような場合、例えば孔径を変えたディスクに交換することにより、ハンチング現象を抑制することも一案である。しかしながら、特許文献1の膨張弁では、ディスクを交換するにはパワーエレメントを取り外さなくてはならず、交換作業が大掛かりになり手間がかかる。またパワーエレメントを脱着することで、流体流入室の容積が変わるなどの条件変化を招き、ディスクの孔径を変えたのにハンチング現象が治まらないなどの不具合も想定される。
【0010】
そこで本発明は、容易にハンチング現象を抑制することができる膨張弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明による膨張弁は、
弁体を弁座に向けて押圧する作動棒を駆動するダイアフラムと、前記ダイアフラムの一方の面との間に圧力作動室を配置する上蓋部材と、前記ダイアフラムの他方の面との間に流体流入室を配置する受け部材とを備えたパワーエレメントと、
配管を接続可能な冷媒流路と、
前記流体流入室と前記冷媒流路とを連通する連通路と、
前記冷媒流路内に挿入されることにより、前記連通路の一部を遮蔽する遮蔽部材と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、容易にハンチング現象を抑制することができる膨張弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1実施形態における膨張弁を、冷媒循環システムに適用した例を模式的に示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、第2実施形態の膨張弁の縦断面図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態の変形例にかかる膨張弁の縦断面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態の別な変形例にかかる
図4と同様な断面図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態にかかる
図4と同様な断面図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態の変形例にかかる
図4と同様な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明にかかる実施形態について説明する。
【0015】
(方向の定義)
本明細書において、弁体3から作動棒5に向かう方向を「上方向」と定義し、作動棒5から弁体3に向かう方向を「下方向」と定義する。よって、本明細書では、膨張弁1の姿勢に関わらず、弁体3から作動棒5に向かう方向を「上方向」と呼ぶ。
【0016】
(第1実施形態)
図1を参照して、第1実施形態におけるパワーエレメントを含む膨張弁1の概要について説明する。
図1は、本実施形態における膨張弁1を、冷媒循環システム100に適用した例を模式的に示す概略断面図である。本実施例では、膨張弁1は、コンプレッサ101と、コンデンサ102と、エバポレータ104とに流体接続されている。膨張弁1の軸線をLとする。
【0017】
図1において、膨張弁1は、弁室VSを備える弁本体2と、弁体3と、付勢装置4と、作動棒5と、パワーエレメント8を具備する。
【0018】
弁本体2は、弁室VSに加え、第1流路21と、第2流路22と、中間室221と、戻り流路(冷媒流路ともいう)23とを備える。第1流路21は供給側流路であり、弁室VSには、供給側流路を介して冷媒が供給される。第2流路22は排出側流路であり、弁室VS内の流体は、弁通孔27、中間室221及び排出側流路を介して膨張弁外に排出される。
【0019】
第1流路21には、コンデンサ102に接続された金属製の第1配管51の端部が内挿されており、第1配管51の外周に形成された周溝51a内に配置されたO-リングOR1により、第1流路21と第1配管51との間が密封されている。
【0020】
第2流路22には、エバポレータ104の入口に接続された金属製の第2配管52の端部が内挿されており、第2配管52の外周に形成された周溝52a内に配置されたO-リングOR2により、第2流路22と第2配管52との間が密封されている。
【0021】
第1流路21と弁室VSとの間は、第1流路21より小径の接続路21aにより連通している。弁室VSと中間室221との間は、弁座20及び弁通孔27を介して連通している。
【0022】
中間室221の上方に形成された作動棒挿通孔28は、作動棒5をガイドする機能を有し、作動棒挿通孔28の上方に形成された環状凹部29は、リングばね6を収容する機能を有する。リングばね6は、作動棒5の外周に複数のばね片を当接させて、所定の付勢力を付与するものである。
【0023】
弁本体2の戻り流路23は、環状凹部29に隣接して弁本体2を貫通して形成されている。戻り流路23の軸線Oは、膨張弁1の軸線Lに直交している。戻り流路23は、パワーエレメント8を取り付ける凹部2aの内部空間に連通する円筒状の連通路2bに接続されている。連通路2bを作動棒5が貫通している。
【0024】
戻り流路23の入口側(
図1で左側)には、エバポレータ104の出口に接続された金属製の第3配管53の端部が内挿されており、第3配管53の外周に形成された周溝53a内に配置されたO-リングOR3により、戻り流路23と第3配管53との間が密封されている。第3配管53の端部外径は、戻り流路23の内径にほぼ等しい。
【0025】
また戻り流路23の出口側(
図1で右側)には、大径部23a(後述する
図2参照)が形成されている。この大径部23aに、コンプレッサ101に接続された金属製の第4配管54の端部が内挿されており、第4配管54の外周に形成された周溝54a内に配置されたO-リングOR4により、戻り流路23と第4配管54との間が密封されている。
【0026】
図2は、
図2のA-A矢視断面図である。作動棒5の軸方向に見た
図2において、第3配管53の先端は、連通路2bに対して重なり量Δを持って重なっている。換言すれば、連通路2bの一部は、遮蔽部材である第3配管53により遮蔽されている。重なり量Δは1mm以上であると好ましい。また連通路2bが遮蔽される面積は、連通路2bの最小断面積に対して10%以上であると好ましい。
【0027】
例えば第3配管53の外周に雌ねじを形成し、点線で示すような環状部材RGの内周に雄ねじを形成して、これらのねじを螺合させて第3配管53の外周に環状部材RGを軸線Oに沿った方向に位置調整可能に取り付けることができる。環状部材RGを取り付けた第3配管53を戻り流路23に挿入し、環状部材RGを弁本体2に突き当てることで、所望の重なり量Δを確保できる。重なり量Δを変更したい場合、第3配管53に対して環状部材RGを螺動させればよい。「螺動」とは、係合するねじ同士を相対回転させることにより、ねじ同士が軸線方向に相対移動することをいう。環状部材RGが調整部材を構成する。
【0028】
ただし、調整部材としては、環状部材RGに限られない。例えば第3配管53の外周に軸線Oに沿って複数の小孔を形成し、調整部材としてのピンをいずれかの小孔に外方より差し込んで、第3配管53を戻り流路23に挿入する際に弁本体2に当接させてもよい。なお、第3配管53の先端近傍には、テーパ内周面53bが形成されている。
【0029】
図1において、弁体3は弁室VS内に配置される。弁体3が弁本体2の弁座20に着座しているとき、弁通孔27の冷媒の流れが制限される。この状態を非連通状態という。ただし、弁体3が弁座20に着座した場合でも、制限された量の冷媒を流すこともある。一方、弁体3が弁座20から離間しているとき、弁通孔27を通過する冷媒の流れが増大する。この状態を連通状態という。
【0030】
作動棒5は、弁通孔27に所定の隙間を持って挿通されている。作動棒5の下端は、弁体3の上面に接触している。作動棒5の上端は、後述するストッパ部材84の嵌合孔84cに嵌合している。
【0031】
作動棒5は、付勢装置4による付勢力に抗して弁体3を開弁方向に押圧することができる。作動棒5が下方向に移動するとき、弁体3は、弁座20から離間し、膨張弁1が開状態となる。
【0032】
図1において、付勢装置4は、断面円形の線材を螺旋状に巻いたコイルばね41と、弁体サポート42と、ばね受け部材43とを有する。
【0033】
弁体サポート42は、コイルばね41の上端に取り付けられており、その上面には球状の弁体3が溶接され、両者は一体となっている。
【0034】
コイルばね41の下端を支持するばね受け部材43は、弁本体2に対して螺合可能となっていて、弁室VSを密封する機能と、コイルばね41の付勢力を調整する機能とを有する。
【0035】
次に、パワーエレメント8について説明する。パワーエレメント8は、栓81と、上蓋部材82と、ダイアフラム83と、受け部材86と、ストッパ部材84とを有する。
【0036】
上蓋部材82は、例えば金属製の板材をプレスにより成形することによって形成される。ドーム状となった上蓋部材82の中央には開口82aが形成され、栓81により封止可能となっている。
【0037】
上蓋部材82に対向する受け部材86は、例えば金属製の板材をプレスにより成形することによって形成され、その下部に形成された中空円筒部86dの外周には雄ねじ86eが刻設されている。
【0038】
一方、
図1に示すように、中空円筒部86dが取り付けられる弁本体2の凹部2aの内周には、雄ねじ86eに螺合する雌ねじ2cが形成されている。
【0039】
上蓋部材82と受け部材86との間に挟持されるダイアフラム83は、薄く可撓性を有する金属(たとえばSUS)製の板材からなり、上蓋部材82及び受け部材86の外径とほぼ同じ外径を有する。
【0040】
ストッパ部材84は、上端に鍔部を備えた円筒状の本体84aと、本体84aの下面中央に形成された袋穴状の嵌合孔84cとを有する。本体84aの中央頂面は、ダイアフラム83の中央下面と接している。
【0041】
パワーエレメント8は、上蓋部材82とダイアフラム83と受け部材86とをこの順序で重ね合わせ軸方向に押圧しつつ、その外周を例えばTIG溶接やレーザ溶接、プラズマ溶接等により溶接して全周にわたって溶接されることで、一体化される。
【0042】
続いて、上蓋部材82に形成された開口82aから、上蓋部材82とダイアフラム83の上面とで囲われる空間(圧力作動室PO)内に作動ガスを封入した後、開口82aを栓81で封止し、更にプロジェクション溶接等を用いて、栓81を上蓋部材82に固定する。ダイアフラム83の下面と受け部材86とで囲われる空間(下部空間LS)を、流体流入室とする。
【0043】
以上のようにアッセンブリ化したパワーエレメント8を、弁本体2に組み付けるときは、受け部材86の中空円筒部86dの下端外周の雄ねじ86eを、弁本体2の凹部2aの内周に形成した雌ねじ2cに螺合させる。中空円筒部86dの雄ねじ86eを雌ねじ2cに対して螺進させてゆくと、受け部材86の肩部が弁本体2の上端面に当接する。これによりパワーエレメント8を弁本体2に固定できる。
【0044】
このとき、パワーエレメント8と弁本体2との間には、パッキンPKが介装され、下部空間LSにつながる凹部2a内の空間が封止されて、凹部2aからの冷媒のリークを防止する。かかる状態で、パワーエレメント8の下部空間LSは、連通路2bを介して戻り流路23と連通している。
【0045】
(膨張弁の動作)
図1を参照して、膨張弁1の動作例について説明する。コンプレッサ101で加圧された冷媒は、コンデンサ102で液化され、膨張弁1に送られる。また、膨張弁1で断熱膨張された冷媒はエバポレータ104に送り出され、エバポレータ104で、エバポレータの周囲を流れる空気と熱交換される。エバポレータ104から戻る冷媒は、膨張弁1の戻り流路23を通ってコンプレッサ101側へ戻される。このとき、エバポレータ104を通過することで、第2流路22内の流体圧は、戻り流路23の流体圧より大きくなる。
【0046】
膨張弁1には、コンデンサ102から高圧冷媒が供給される。より具体的には、コンデンサ102からの高圧冷媒は、第1流路21を介して弁室VSに供給される。
【0047】
弁体3が、弁座20に着座しているとき(非連通状態のとき)には、弁室VSから弁通孔27、中間室221及び第2流路22を通ってエバポレータ104へ送り出される冷媒の流量が制限される。他方、弁体3が、弁座20から離間しているとき(連通状態のとき)には、弁室VSから弁通孔27、中間室221及び第2流路22を通って、エバポレータ104へ送り出される冷媒の流量が増大する。膨張弁1の閉状態と開状態との間の切り換えは、ストッパ部材84を介してパワーエレメント8に接続された作動棒5によって行われる。
【0048】
図1において、パワーエレメント8の内部には、ダイアフラム83により仕切られた圧力作動室POと下部空間LSとが設けられている。このため、圧力作動室PO内の作動ガスが液化されると、ダイアフラム83が上昇するため、コイルばね41の付勢力に応じてストッパ部材84及び作動棒5が上方向に移動する。一方、液化された作動ガスが気化されると、ダイアフラム83とストッパ部材84が下方に押圧されるため、作動棒5は下方向に移動する。このようにして、膨張弁1の開状態と閉状態との間の切り換えが行われる。
【0049】
更に、パワーエレメント8の下部空間LSは、連通路2bを介して戻り流路23と連通している。このため、戻り流路23を流れる冷媒が連通路2bを介して下部空間LSに流入し、その冷媒の温度・圧力に応じて、圧力作動室PO内の作動ガスの体積が変化し、作動棒5が駆動される。換言すれば、
図1に記載の膨張弁1では、エバポレータ104から膨張弁1に戻る冷媒の温度・圧力に応じて、膨張弁1からエバポレータ104に向けて供給される冷媒の量が自動的に調整される。
【0050】
第3配管53の先端と連通路2bとの重なり量Δが規定値であるときに、戻り流路23から下部空間LSに流入する冷媒の量と温度によって、圧力作動室PO内の作動ガスの体積変化が周期的に起こり、それによりダイアフラム83が敏感に反応して、弁体3が開閉動作を繰り返すハンチング現象が生じる場合がある。
【0051】
本実施形態によれば、例えば重なり量Δが規定値であるときにハンチング現象が生じた場合には、環状部材RGを螺動させて第3配管53の挿入量を変え、重なり量Δを変更することができる。これにより戻り流路23から下部空間LSに進入する冷媒の量を調整し、ハンチング現象を抑制することができる。
【0052】
また、実際の冷凍サイクルを稼働させながら、環状部材RGを螺動させることで、ハンチング現象が生じない最適な重なり量Δの範囲を探ることもできる。なお、環状部材RGが第3配管53に接合されている場合には、戻り流路23への挿入サイズが異なる第3配管53に交換することで、重なり量Δを変更することができる。
【0053】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態の膨張弁の縦断面図である。
図4は、
図3のB-B矢視断面図である。本実施形態の膨張弁1Aは、上述した実施形態に対して、第3配管53Aに対して、円筒部材55を取り付けた点が異なる。それ以外の第1実施形態と同様な構成は、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0054】
第2実施形態の固有な構成について説明する。
図4において、第3配管53Aは、その先端に形成された縮径外周部53cと、縮径外周部53cの端部に形成された外周環状突起53dとを有している。外周環状突起53dは、端部に向かって縮径したテーパ面53eを外周に備える。図示していないが、第3配管53Aは環状部材RGを取り付け可能となっている。
【0055】
また、樹脂製の円筒部材55は、薄肉円筒部55aと、厚肉円筒部55bとを軸方向に連設している。厚肉円筒部55bは、第3配管53Aと同じ外径と内径を備えている。薄肉円筒部55aの端部に内周環状突起55cが形成され、厚肉円筒部55bの対向端側にテーパ内周面55dが形成されている。円筒部材55が遮蔽部材を構成する。
【0056】
縮径外周部53cに予めO-リングOR3を配置しつつ、第3配管53Aの縮径外周部53cに対して、円筒部材55の薄肉円筒部55aを同軸に対向させて接近させると、まず外周環状突起53dに内周環状突起55cが当接する。さらに両者を接近させると、樹脂製である内周環状突起55cがテーパ面53eにより拡径するよう弾性変形させられて外周環状突起53dを乗り越え、縮径外周部53cに至った時点で弾性変形から復帰して、縮径外周部53cに全周で当接する。また外周環状突起53dも薄肉円筒部55aに密着当接する。これにより、第3配管53Aの先端に対して円筒部材55を取り付けることができる。第3配管53Aから円筒部材55を取り外す場合、上述とは逆方向に力を付与すればよい。
【0057】
円筒部材55を取り付けた第3配管53Aを戻り流路23に挿入したときに、O-リングOR3により戻り流路23と第3配管53Aとの間が密封される。本実施形態によれば、第3配管53Aを組付けた状態で、円筒部材55により連通路2bの一部を遮蔽することができるため、上述した実施形態と同様にハンチング現象を抑制することができる。
【0058】
また、円筒部材55の外径が第3配管53Aの外径と同じであるため、円筒部材55及び第3配管53Aを戻り流路23にスムーズに挿入できる。また、円筒部材55の内周と第3配管53Aの内周との間に段差がないため、第3配管53Aから円筒部材55を介して戻り流路23に冷媒をスムーズに流すことができる。
【0059】
なお、本実施形態で、全長の異なる円筒部材55を複数種類準備しておくと好ましい。例えば、ある円筒部材55を使用したときにハンチング現象が生じた場合、これを取り付けた第3配管53Aを抜き出して、長さの異なる円筒部材55に変えて再度挿入すれば、重なり量Δ(
図2参照)を容易に変更でき、ハンチング現象の抑制に効果がある。
【0060】
(変形例1)
図5は、第2実施形態の変形例にかかる膨張弁の縦断面図である。本変形例の膨張弁1Bは、第2実施形態に対して、円筒部材55Bの形状が異なる。具体的には、円筒部材55Bの端部近傍には、テーパ内周面55dに対向してテーパ外周面55eが形成されている。それ以外の第2実施形態と同様な構成は、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0061】
本変形例によれば、連通路2bに対向してテーパ外周面55eが形成されているため、下部空間LSから連通路2bを通って戻り流路23側へ向かう冷媒を、矢印Cに示すように、スムーズに戻り流路23へと戻すことが可能になり、また下部空間LSへの冷媒の還流を抑制してハンチング現象をさらに抑えることができる。
【0062】
さらに、環状凹部29に対向してテーパ外周面55eが形成されているため、中間室221から、作動棒5と作動棒挿通孔28及び環状凹部29との隙間を介して漏れ出る冷媒を、矢印Dに示すように、スムーズに戻り流路23へと戻すことが可能になり、それにより連通路2bに向かう冷媒を抑制してハンチング現象をさらに抑えることができる。同様なテーパ外周面を、例えば第1実施形態の第3配管に設けてもよい。
【0063】
(変形例2)
図6は、第2実施形態の別な変形例にかかる
図4と同様な断面図である。本変形例の膨張弁1Cは、第2実施形態に対して、円筒部材55Cの形状が異なる。具体的には、円筒部材55Cの端部には、作動棒5との干渉を防ぐように、半円弧状の切欠55fが180度位相で2か所に形成されている。それ以外の第2実施形態と同様な構成は、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0064】
本変形例によれば、円筒部材55Cに切欠55fを形成しているため、連通路2b内に作動棒5が挿通されていても、連通路2bとの重なり量を増大させることができる。
図6の例では、円筒部材55Cにより、連通路2bの約半分の断面積を遮蔽できる。これによりハンチング現象をさらに有効に抑制できる。
【0065】
(第3実施形態)
図7は、第3実施形態にかかる
図4と同様な断面図である。本実施形態の膨張弁1Dは、第2実施形態に対して、第4配管54Dにも円筒部材56を取り付けている。それ以外の第2実施形態と同様な構成は、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0066】
第3実施形態の固有な構成について説明する。
図7において、第4配管54Dは、戻り流路23の大径部23aの内径にほぼ等しい外径を持つ第1縮径外周部54gと、第1縮径外周部54gに形成された周溝54bと、第1縮径外周部54gより小径の第2縮径外周部54cと、第2縮径外周部54cの先端に形成された外周環状突起54dとを有している。外周環状突起54dは、端部に向かって縮径したテーパ面54eを外周に備える。
【0067】
第4配管54Dは、第1縮径外周部54gを大径部23a内に挿入可能となっており、第4配管54Dの外周部と第1縮径外周部54gとの間の段部54fを弁本体2に当接させることで、軸線方向に位置決めされる。周溝54bに予めO-リングOR4を配置しておくことで、大径部23aと第4配管54Dとの間が密封される。
【0068】
また、樹脂製の円筒部材56は、薄肉円筒部56aと、厚肉円筒部56bとを軸方向に連設している。厚肉円筒部56bは、第4配管54Dと同じ内径を備え、また戻り流路23と同じ内径を備えている。薄肉円筒部56aの先端に内周環状突起56cが形成されている。厚肉円筒部56bの端部外周に、テーパ面を形成してもよい(
図5参照)。
【0069】
第4配管54Dの第2縮径外周部54cに対して、円筒部材56の薄肉円筒部56aを同軸に対向させて接近させると、まず外周環状突起54dに内周環状突起56cが当接する。さらに両者を接近させると、樹脂製である内周環状突起56cがテーパ面54eにより拡径するよう弾性変形させられて外周環状突起54dを乗り越え、第2縮径外周部54cに至った時点で弾性変形から復帰して、第2縮径外周部54cに全周で当接する。また外周環状突起54dも薄肉円筒部56aに密着当接する。これにより、第4配管54Dの先端に対して円筒部材56を取り付けることができる。円筒部材56の端面と、第1縮径外周部54gとの間に隙間を形成しているが、両者を密着当接させてもよい。
【0070】
本実施形態によれば、円筒部材56を取り付けた第4配管54Dを戻り流路23の大径部23aに挿入したときに、円筒部材56により連通路2bの下流側の一部を遮蔽することができる。そのため、第3配管53に取り付けた円筒部材55により連通路2bの上流側の一部を遮蔽することと相まって、上述した実施形態と同様にハンチング現象を抑制することができる。
【0071】
(変形例)
図8は、第3実施形態の変形例にかかる
図4と同様な断面図である。
図9は、
図8のE部を拡大して示す図である。本変形例の膨張弁1Eは、第3実施形態に対して、円筒部材55E、56Eの形状が異なる。具体的には、円筒部材55Eの端部には、作動棒5との干渉を防ぐように、半円弧状の切欠55gが180度位相で2か所に形成され、円筒部材56Eの端部には、作動棒5との干渉を防ぐように、半円弧状の切欠56gが180度位相で2か所に形成されている。また、円筒部材55Eと円筒部材56Eとは、対向端面を当接させた状態で、膨張弁1Eに組み付けられている。それ以外の第2実施形態と同様な構成は、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0072】
図9に示すように、円筒部材55Eと円筒部材56Eとが対向端面を当接させた状態で、切欠55gと切欠56gとで単一の円筒を形成し、その内径Xは、作動棒5の外径Yより0.1mm~0.2mm程度大きくなっている。この隙間の面積(X
2-Y
2)π/4が連通路2dの有効断面積となる。このように連通路2dの有効断面積を極力小さくすることにより、ハンチング現象をさらに有効に抑制できる。
【0073】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されない。本発明の範囲内において、上述の実施形態の任意の構成要素の変形が可能である。また、上述の実施形態において任意の構成要素の追加または省略が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1,1A,1B,1C,1D,1E :膨張弁
2 :弁本体
3 :弁体
4 :付勢装置
5 :作動棒
6 :リングばね
8:パワーエレメント
20 :弁座
21 :第1流路
22 :第2流路
221 :中間室
23 :戻り流路
27 :弁通孔
28 :作動棒挿通孔
29 :環状凹部
41 :コイルばね
42 :弁体サポート
43 :ばね受け部材
51 :第1配管
52 :第2配管
53,53A :第3配管
54、54D :第4配管
55,55B,55C,55E :円筒部材
56、56E :円筒部材
81 :栓
82 :上蓋部材
83 :ダイアフラム
84 :ストッパ部材
86 :受け部材
100 :冷媒循環システム
101 :コンプレッサ
102 :コンデンサ
104 :エバポレータ
VS :弁室