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  • 特開-織編物及び織編物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021872
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】織編物及び織編物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/27 20060101AFI20220127BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20220127BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20220127BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20220127BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
D06M15/27
D06M15/53
D03D15/00 E
D04B1/16
D06M101:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020125737
(22)【出願日】2020-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】八木 優子
(72)【発明者】
【氏名】樋口 眞矢
(72)【発明者】
【氏名】高月 珠里
【テーマコード(参考)】
4L002
4L033
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA07
4L002AB01
4L002AB02
4L002AB04
4L002AC07
4L002BA01
4L002BA04
4L002BB01
4L002BB03
4L002DA03
4L002EA00
4L002FA02
4L002FA03
4L033AA07
4L033AB05
4L033AB06
4L033AC07
4L033AC10
4L033CA20
4L033CA45
4L033CA48
4L048AA20
4L048AA34
4L048AB07
4L048AB11
4L048AB21
4L048BA01
4L048CA00
4L048CA15
4L048DA01
4L048EB00
4L048EB05
(57)【要約】
【課題】ポリエステル系繊維を含む織編物であって、着用と洗濯を繰り返しても残留汚れの蓄積を抑えることができ、その結果、不快な臭気の発生や繊維の変色が少ない織編物を提供する
【解決手段】ポリエステル系繊維を含む織編物であって、下臭い成分付着処理後の臭気強度試験における臭気強度が1200以下、皮脂残留性能試験における黄変色の性能等級が3級以上である織編物は、着用と洗濯を繰り返しても残留汚れの蓄積が抑えられ、不快な臭気の発生や繊維の変色が少ない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系繊維を含む織編物であって、下記条件で行う臭い成分付着処理後の臭気強度試験における臭気強度が1200以下、皮脂残留性能試験における黄変色の性能等級が3級以上である織編物。
〔臭い成分付着処理〕
前記織編物にオレイン酸(2ml)を均一に塗布し、37℃±2℃の乾燥機中に6時間放置し乾燥させた後、JISL1930C4M法に従って洗濯処理を1回行い、20℃×65%RHの環境下で18時間吊干し乾燥する。
【請求項2】
前記ポリエステル系繊維の表面に、ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーが重合したビニル系ポリマーが付着されてなる、請求項1に記載の織編物。
【請求項3】
前記皮脂残留性能試験後の吸水性が5秒以下である請求項1又は2のいずれかに記載の織編物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の織編物の製造方法であって、
ポリエステル系繊維を含む織編物を吸水剤と二官能ビニル系モノマーを含有する処理液中で、ポリエステル系繊維の表面に二官能ビニル系モノマーを接触させてラジカル重合する工程
を含む、製造方法。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系繊維を含む織編物であって、着用と洗濯を繰り返すことで蓄積した、残留汚れにより生じる不快な臭気や繊維の変色の少ない織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の生活環境の変化に伴い、身の回りの不快な臭気を除去することが望まれている。中でも、ヒトの汗や皮脂、表皮角質といった身体由来の汚れから生じる臭気は、洗濯をするたびに強度を増したり、着用を重ねると一度の洗濯で臭気を除去できなくなる。そのため、衣服全般、特に健康志向への関心の高まりから、インナーウェアやスポーツ用途においては、これらの臭気に対する消臭性の要望が高まっている。
【0003】
これらの身体由来の汚れは、衣服と体が接触することで日常的に衣服に付着するが、いずれも衣服等の繊維製品の繊維間に潜り込んでしまうと、十分な機械力がないと除去が困難となる。そして、繊維製品の着用と洗濯を繰り返す中で残留汚れが蓄積されることで不快な臭気が生じ、さらにその臭気も蓄積された結果、一度の洗濯では消臭、脱臭が困難となり、不快な臭気の強度が増して繊維製品に染みついてしまう。さらに、蓄積した残留汚れは、時間が経つにつれ変質し着色することで、黄変や黒ずみを生じる等、視覚的にも目立つという問題も生じる。
また、皮脂汚れのような油性汚れは吸汗性を低下させ、さらに、繊維の隙間を埋め通気性も低下させてしまい、着用時の快適性を下げることになりうる。そのため、油性汚れに対しては、布帛に十分な吸水性を付与させることで洗濯時に洗剤液となじみやすくして汚れを落としやすくし、同時にすすぎ時に油性汚れによる再汚染を防止する等対策が必要となる。
【0004】
ところで、ポリエステル系繊維は、強度、イージーケア性、乾燥速度、染色堅牢度等に優れており、加えて加工性に優れるため、ユニフォームやスポーツ用途等の幅広い分野の用途において利用されている。しかしながら、ポリエステル系繊維は、綿等のセルロース繊維と比較すると、親水性に劣るものである。そのため油性汚れが付着しやすいという問題があり、ポリエステル系繊維からなる布帛の防汚性を改善するために、種々の検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2-77466号公報
【0006】
上記のような問題を解決するために、例えば特許文献1には、ポリオキシエチレングリコールを配合してなるポリエステル組成物から得られた繊維に、前記ポリオキシエチレングリコールを架橋させるための架橋処理を施した後、更にアルカリ減量処理を施すことで、ポリエステル繊維の親水性を改善し、吸水性を高めることにより、防汚性が改善されたことが開示されている。しかし、繰り返し着用と洗濯を繰り返すうちに消臭性が低下し、また消臭性を高めるために消臭剤やバインダーの使用量を増やすことで、風合い等の品位を損ねる等、インナーウェアやスポーツ用途を含む衣料全般に用いるには不十分であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記のような問題点を解決するものであり、ポリエステル系繊維を含む織編物であって、着用と洗濯を繰り返しても残留汚れの蓄積を抑えることができ、その結果、不快な臭気の発生や繊維の変色が少ない織編物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行い、本発明に到達したものである。
【0009】
即ち、本発明は、以下の(1)~(4)を要旨とするものである。
(1)ポリエステル系繊維を含む織編物であって、下記条件で行う臭い成分付着処理後の臭気強度試験における臭気強度が1200以下、皮脂残留性能試験における黄変色の性能等級が3級以上である織編物。
〔臭い成分付着処理〕
前記織編物にオレイン酸(2ml)を均一に塗布し、37℃±2℃の乾燥機中に6時間放置し乾燥させた後、JISL1930C4M法に従って洗濯処理を1回行い、20℃×65%RHの環境下で18時間吊干し乾燥する。
(2)前記ポリエステル系繊維の表面に、ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーが重合したビニル系ポリマーが付着されてなる、(1)に記載の織編物。
(3)前記皮脂残留性能試験後の吸水性が5秒以下である(1)又は(2)のいずれかに記載の織編物。
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の織編物の製造方法であって、ポリエステル系繊維を含む織編物を吸水剤と二官能ビニル系モノマーを含有する処理液中で、ポリエステル系繊維の表面に二官能ビニル系モノマーを接触させてラジカル重合する工程を含む、製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステル系繊維を含む織編物(以下、本発明の織編物と称することがある)は、洗濯時に繊維から汚れを除去しやすく残留汚れの蓄積を抑えられるため、本発明の織編物からなる衣服の着用と洗濯を繰り返しても、残留汚れによる不快な臭気が発生しにくく、繊維の黄変や黒ずみも少ない。また、洗濯耐久性にも優れており、着用と洗濯を繰り返し回数が多くなった場合にも前記の効果が維持されるため、インナーウェアやスポーツ用途への衣料素材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例2及び比較例2で得た編地の編組織である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の織編物は、ポリエステル系繊維を含む織編物であって、後述する臭い成分付着処理後の臭気強度試験における臭気強度及び皮脂残留性能試験における黄変色の性能等級が特定の範囲であることを特徴とする。
【0013】
[構成糸]
本発明の織編物は、構成糸として、ポリエステル系繊維を含む。
【0014】
ポリエステル系繊維を構成するポリエステル樹脂の種類については、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;カチオン染色可染性ポリエステル、ポリ乳酸等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは芳香族ポリエステル、更に好ましくはポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0015】
ポリエステル系繊維の単繊維繊度については、特に制限されないが、例えば、0.1~10.0dtex、好ましくは0.3~8.0dtex、更に好ましくは0.3~6.0dtexが挙げられる。単繊維繊度が、0.1dtex以上であれば、適度な柔らかさとハリコシ感が付与され、衣料にした際に着用し易くなる。また、単繊維繊度が、10.0dtex以下であれば、硬くなり過ぎず、風合いが良好になる。
【0016】
ポリエステル系繊維の形態は特に限定されず、例えばモノフィラメント、マルチフィラメント等のいずれであっても良く、また長繊維、短繊維等のいずれであっても良い。また、短繊維を用いた紡績糸であっても良い。また、仮撚加工が施されていない原糸、仮撚加工糸、原糸や仮撚加工糸を撚糸したものであってもよい。
【0017】
本発明の織編物の構成糸としてポリエステル系長繊維からなるマルチフィラメント糸を用いる場合、マルチフィラメント糸の総繊度については、特に制限されないが、例えば、10~300dtex、好ましくは30~250dtex、更に好ましくは50~180dtexが挙げられる。総繊度が50dtex以上であれば、織編物に十分な強度を付与することができ、また、総繊度が300dtex以下であれば、硬くなり過ぎず、風合いが良好になる。
また、本発明の織編物の構成糸としてポリエステル系短繊維からなる紡績糸を用いる場合、紡績糸の番手は、例えば、英式綿番手で10~100番手、好ましくは20~80番手、更に好ましくは30~60番手が挙げられる。紡績糸の番手が10番手以上であれば、硬くなり過ぎず、風合いが良好になり、また、総繊度が100番手以下であれば、織編物に十分な強度を付与することができる。
【0018】
ポリエステル系繊維の構成フィラメント数については、使用する単繊維の単繊維繊度と総繊度に応じて定まるが、例えば、1~400本、好ましくは10~300本、更に好ましくは12~150本が挙げられる。
【0019】
ポリエステル系繊維の単繊維の断面形状については、特に制限されず、円形断面又は異形断面のいずれであってもよい。
【0020】
また、ポリエステル系繊維には、付与すべき特性等に応じて、二酸化チタン、二酸化ケイ素、顔料等が含まれていてもよい。
【0021】
本発明の織編物は、本発明の効果を損なわない範囲では、ポリエステル系繊維以外に他の繊維が構成繊維として含まれていてもよい。このような他の繊維としては、例えば、ナイロン、アクリル等の合成繊維;レーヨン等の再生繊維;アセテート等の半合成繊維;綿、羊毛等の天然繊維等が挙げられる。
【0022】
本発明の織編物において、ポリエステル系繊維の混用率としては、所望の臭気強度、皮脂残留性能、及び吸水性が発現できることを限度として特に制限されないが、例えば、50質量%以上、好ましくは75質量%以上、更に好ましくは100質量%が挙げられる。
【0023】
[織編物の組織及び密度]
本発明の織編物が織物である場合、少なくとも経糸及び緯糸の一方、好ましくは双方にポリエステル系繊維を使用し、経糸と緯糸で交差させて組織を形成すればよい。本発明の織編物を織物にする場合、その組織については、特に制限されないが、例えば、平、綾、朱子、及びこれらの変化組織等が挙げられる。
【0024】
また、本発明の織編物が編物である場合、ポリエステル系繊維を用いて、糸のループの連続によって組織を形成すればよい。本発明の織編物を編物にする場合、その組織については、特に制限されず、経編物又は緯編物のいずれであってもよい。経編物としては、例えば、デンビー編、コード編、アトラス編等が挙げられ、具体的にはトリコットハーフ、トリコットサテン等が例示される。また、緯編物としては、例えば、平編、ゴム編、パール編、スムース編等が挙げられ、具体的には、天竺、鹿の子、スムース、メッシュ等が例示される。
【0025】
本発明の織編物が織物である場合、織密度については、当該織物の用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、経糸密度が、30~250本/2.54cm、好ましくは50~200本/2.54cm、更に好ましくは60~150本/2.54cm;且つ緯糸密度が、30~250本/2.54cm、好ましくは50~200本/2.54cm、更に好ましくは55~150本/2.54cmが挙げられる。
【0026】
また、本発明の織編物が編物である場合、編密度については、当該編物の用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、30~100コース/2.54cm、好ましくは40~80コース/2.54cm;且つ20~80ウェール/2.54cm、好ましくは30~60ウェール/2.54cmが挙げられる。
【0027】
[特性]
本発明の織編物は、着用と洗濯を繰り返すことで蓄積した残留汚れにより生じる不快な臭気や繊維の変色の少ない織編物である。具体的には、以下の条件で行う臭い成分付着処理後の臭気強度試験における臭気強度が1200以下であり、皮脂残留性能試験における黄変色の性能等級が3級以上である。また、布帛に十分な吸水性を付与させるために、以下の条件で行う吸水性の評価が5秒以下であることが好ましい。
本発明の織編物に上記のような性能を付与するには、後述する、ポリエステル系繊維を含む織編物を吸水剤と二官能ビニル系モノマーを含有する処理液中で、ポリエステル系繊維の表面に二官能ビニル系モノマーを接触させてラジカル重合する工程を行うことにより可能となる。この工程を行うことにより、得られる本発明の織編物は洗濯時に繊維表面から汚れを除去しやすく残留汚れの少ないものとなるため、上記のような特性を有するものとなる。
【0028】
〔臭い成分付着処理〕
以下の手順に従って、臭い成分を付着した試験片Aを得る。
(1)10cm×10cmの本発明の織編物を試験片とし、試験片にオレイン酸(2ml)を均一に塗布し、37℃±2℃の乾燥機中に6時間放置し乾燥させる
(2)JISL1930C4M法に従って洗濯処理を1回行う
(3)20℃×65%RHの環境下で生地が十分に乾燥するまで18時間吊干し乾燥させ、試験片Aを得る
【0029】
〔臭気強度試験〕
以下の手順に従って、臭気強度試験を行う。
(ア)上記臭い成分付着処理により得られた試験片Aを105℃の乾燥機内に平置きし、48時間熱処理を加える
(イ)乾燥熱処理後の試験片Aの4辺の端部約5mm(洗濯用のオーバーロック部分)をカットする
(ウ)前記(イ)の工程でカットした試験片Aを準備し、近江オドエアーサービス株式会社製の嗅覚測定用器材のにおい袋(におい袋のサイズ3L(250mm×250mm)、参考URL:http://www.shoshu.com/service/sokutei/smell#post434)に入れて、Nガスを充てんする
(エ)前記におい袋を20℃×65%RHの環境下に30分間放置する
(オ)前記におい袋に試験片Aを入れた状態で、Nガスを抜いて24時間放置する
(カ)前記におい袋に再びNガスを充てんし、20℃×65%RHの環境下に30分間放置した後、前記におい袋内の臭気について、e-nose integralIII(光明理化学工業社製)を用いて臭気強度を測定する
【0030】
つまり、本発明における臭気強度とは、上記の臭気強度試験の(カ)で測定された値をいうものである。
本発明の織編物は、臭気強度が1200以下であり、より好ましくは1050以下である。臭気強度が1200以下であると、織編物からの不快な臭気が少なく消臭性に優れる。すなわち、洗濯後に本発明の織編物から十分に汚れが除去され、残留汚れが少ないことが示される。臭気強度の下限はNガスのみを充てんしたときの臭気強度である700程度が挙げられるが、これに限定されない。
【0031】
〔皮脂残留性能試験における黄変色の性能等級〕
以下の手順に従って、皮脂残留性能試験を行い、黄変色の性能等級を判定する。
(ア)上記と同様の臭い成分付着処理により得られた試験片Aを105℃の乾燥機内に平置きし、18時間熱処理を加え、試験片Bを得る
(イ)試験片Bの黄変色の程度を変退色用グレースケールを用いて等級判定する
【0032】
本発明の織編物は、上記のようにして判定した皮脂残留性能試験における黄変色の性能等級が3級以上であり、より好ましくは4級以上である。黄変色の性能等級が3級以上であると、着用と洗濯を繰り返した際にも、織編物の黄変や黒ずみ等の変色が少ない。すなわち、洗濯後に本発明の織編物から十分に汚れが除去され、残留汚れが少ないことが示される。
【0033】
〔吸水性〕
以下の手順に従って、吸水性を評価する。
(未処理の織編物の評価)
(ア)20cm×20cmの本発明の織編物を試験片Cとし、試験片Cの吸水速度をJIS L-1907:2010の「7.1.1 滴下法」に規定されている方法により測定する
(皮脂残留性能試験後の織編物の評価)
(ア)20cm×20cmの本発明の織編物を試験片とした以外は前記の臭い成分付着処理と同様にして、試験片A2を得る
(イ)試験片A2を105℃の乾燥機内に平置きし、18時間熱処理を加え、試験片Dを得る
(ウ)試験片Dの吸水速度をJIS L-1907:2010の「7.1.1 滴下法」に規定されている方法により測定する
【0034】
本発明の織編物は、上記のようにして測定した皮脂残留性能試験後の吸水性の評価が5秒以下であることが好ましく、3秒以下がより好ましく、1秒以下が更に好ましい。5秒以下であれば、布帛に十分な吸水性を付与させることができ、洗濯時に洗剤液となじみやすくなることで、油性汚れを除去しやすくなる。すなわち、洗濯後に本発明織編物から十分に汚れが除去され、残留汚れが少ないため、着用と洗濯を繰り返した後にも、不快な臭気の発生や繊維の変色を抑えることができる。
【0035】
本発明の織編物は、上記の臭い成分付着処理後の臭気強度試験における臭気強度及び皮脂残留性能試験における黄変色の性能等級が特定の範囲であることで、不快な臭気の発生が少なく、また、着用と洗濯の繰り返しによる繊維の変色が少ないものとなる。
次に、上記のような特性値を有する本発明の織編物の製造方法について説明する。
【0036】
本発明の製造方法においては、ポリエステル系繊維を含む織編物を吸水剤と二官能ビニル系モノマーを含有する処理液中で、ポリエステル系繊維の表面に二官能ビニル系モノマーを接触させてラジカル重合する工程を行うことが最適である。
【0037】
〔吸水剤付着処理〕
本発明の織編物は、織編物の表面に吸水剤が付着していることが好ましい。後述のように吸水剤と二官能ビニル系モノマーを含有する処理液中に含浸させて、ビニル系ポリマーによる表面処理と並行して吸着剤付着処理を行うことで、織編物に吸水性が発現する。その結果、織編物が洗濯時に繊維表面から汚れを除去しやすく残留汚れの少ないものとなるため、上記のような特性を有するものとなる。このとき、吸水剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド付加ポリエステル系化合物(ポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートのブロック共重合体等)、ポリエチレンオキサイド付加フッ素系化合物、ポリエチレンオキサイド付加シリコン系化合物等のポリエチレンオキサイド系化合物;ジオレイルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩等が挙げられる。これらの吸水剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの吸水剤の中でも、好ましくはポリエチレンオキサイド系化合物、更に好ましくはポリエチレンオキサイド付加ポリエステル系化合物が挙げられる。
【0038】
[ビニル系ポリマーによる表面処理]
本発明の織編物は、構成繊維であるポリエステル系繊維の表面に、ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーがラジカル重合したビニル系ポリマーが付着していることが好ましい。特定構造のビニル系ポリマーでポリエステル系繊維が被覆されることによって、本発明の上記効果を奏することが可能になる。
【0039】
二官能ビニル系モノマーに含まれるアルキレンオキサイドを構成するアルキレン基の炭素数については、特に制限されないが、例えば、2~5個、好ましくは2又は3個、更に好ましくは2個が挙げられる。また、当該アルキレン基の炭素数が3以上の場合、当該アルキレン基は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。
【0040】
二官能ビニル系モノマーに含まれるアルキレンオキサイドの付加モル数については、特に制限されないが、例えば3~30個、好ましくは10~26個が挙げられる。このようなアルキレンオキサイドの付加モル数を充足することにより、特に油性汚れの除去がしやすくなり、また洗濯耐久性に優れたものとなる。
【0041】
ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーとしては、具体的には、ポリオキシアルキレンの両端にアクリル基及び/又はメタクリル基が連結している化合物が挙げられ、より具体的には、ポリオキシアルキレンを含む、ジアクリレート、ジメタクリレート、エポキシジアクリレート、エポキシジメタクリレート等が例示される。
【0042】
ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーの好適な例として、以下の一般式(1)又は(2)に示す化合物が挙げられる。
【化1】
【0043】
一般式(1)において、R1及びR2は同一又は異なる水素原子又はメチル基である。R1及びR2として、好ましくはメチル基が挙げられる。
【0044】
一般式(1)において、R3は炭素数2~5のアルキレン基である。R3として、好ましくは炭素数2又は3のアルキレン基(即ち、メチレン基又はプロピレン基)、更に好ましくは炭素数2アルキレン基(即ち、メチレン基)が挙げられる。R3のアルキレン基は、炭素数が3~5の場合には、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。
【0045】
一般式(1)において、nは3~30の整数であり、好ましくは10~26挙げられる。
【0046】
一般式(2)において、R4及びR5は同一又は異なる水素原子又はメチル基である。R1及びR2として、好ましくはメチル基が挙げられる。
【0047】
一般式(2)において、R6は炭素数2~5のアルキレン基である。R6として、好ましくは炭素数2又は3のアルキレン基(即ち、メチレン基又はプロピレン基)が挙げられる。R6のアルキレン基は、炭素数が3~5の場合には、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよい。
【0048】
一般式(2)において、nは3~30の整数であり、好ましくは10~26が挙げられる。
【0049】
ポリオキシアルキレンを含む二官能ビニル系モノマーがラジカル重合したビニル系ポリマーには、当該二官能ビニル系モノマー以外の樹脂が含まれていてもよい。このような樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。メラミン樹脂は、前記ビニル系ポリマーに架橋することによって、より油性汚れの除去をしやすくなり、また、洗濯耐久性を向上させることが可能になる。また、ポリエステル樹脂は、前記ビニル系ポリマーと結合又は混合された状態で存在することによって、より油性汚れの除去をしやすくなり、また、洗濯耐久性を向上させることが可能になる。
【0050】
メラミン樹脂は、トリアジン環を含有し重合性官能基を少なくとも2個有する化合物が縮合して得られる熱硬化樹脂であればよく、具体的にはトリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等が挙げられる。当該メラミン樹脂としては、例えば、「リケンレジンMM-3C」、「リケンレジンMM-35」(以上、三木理研工業株式会社製)、「ベッカミンM-3」(DIC北日本ポリマ株式会社製)等のトリメチロールメラミン;「リケンレジンMM-601」、「リケンレジンMM-630」(以上、三木理研工業株式会社製)(以上、三木理研工業株式会社製)等のヘキサメチロールメラミン等の市販品を使用することができる。
【0051】
前記ビニル系ポリマーにメラミン樹脂を含有させる場合、使用する二官能ビニル系モノマー100質量部当たり、メラミン樹脂が1~100質量部、好ましくは5~50質量部、更に好ましくは10~30質量部となる比率で用いればよい。
【0052】
ポリエステル樹脂は、酸性分、グリコール成分からなるポリエステルセグメントにポリエチレングリコールを共重合せしめた親水性ポリエステルエーテル共重合体であればよい。酸成分としては、例えば、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸等が挙げられる。これらの酸成分は、ポリエステル樹脂中で、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等が挙げられる。これらのグリコール成分は、ポリエステル樹脂中で、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。当該ポリエステル樹脂としては、例えば、「SR-1000」、「SR-1800」、「SR-6200」(以上、高松油脂株式会社製)、「パラソルブPET-2」(大原パラヂウム化学株式会社製)、「ナイスポールPR-99」(日華化学株式会社製)等の市販品を使用することができる。
【0053】
前記ビニル系ポリマーにポリエステル樹脂を含有させる場合、使用する二官能ビニル系モノマー100質量部当たり、ポリエステル樹脂が1~100質量部、好ましくは5~50質量部、更に好ましくは10~30質量部となる比率で用いればよい。
【0054】
本発明の織編物において、構成繊維であるポリエステル系繊維の表面に付着させるビニル系ポリマーの付着量については、所望の洗濯耐久性や汚れの除去の程度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、構成繊維の総量100質量部当たり、ビニル系ポリマーが0.5~5質量部、好ましくは0.5~4質量部、更に好ましくは1~3質量部が挙げられる。
【0055】
本発明の織編物において、構成繊維であるポリエステル系繊維の表面に付着させるビニル系ポリマーの膜厚については、所望の洗濯耐久性や汚れの除去の程度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、50~200nm、好ましくは50~100nmが挙げられる。このような膜厚を充足することにより、洗濯耐久性に優れ吸水性をより一層好適に具備させつつ、加工ムラをより効果的に抑制することが可能になる。
【0056】
ポリエステル系繊維の表面へのビニル系ポリマーの付着は、後述するように、ポリエステル系繊維を含む編物に対して、二官能ビニル系モノマーと吸水剤を付着させてラジカル重合させることにより行われる。そのため、本発明の織編物において、ポリエステル系繊維の表面に対するビニル系ポリマーの付着態様としては、(i)ポリエステル系繊維の表面にビニル系ポリマーが化学的に結合している態様、(ii)ポリエステル系繊維の表面で化学的結合を介することなく前記ビニル系ポリマーが付着している態様の内、いずれか一方の態様又は双方の態様の組み合わせが想定される。
【0057】
[ラジカル重合する工程]
本発明の織編物は、ポリエステル系繊維を含む織編物を吸水剤と二官能ビニル系モノマーを含有する処理液中に含浸した後、ラジカル重合を行い、ポリエステル系繊維の表面への吸水剤とビニル系ポリマーの付着とを並行して行うことによって得ることができる。以下、本発明の織編物においてポリエステル系繊維の表面に吸水剤とビニル系ポリマーを付着させる方法について説明する。
【0058】
ポリエステル系繊維を用いて製織編された織編物を準備する。織編物は前記の工程前に、必要に応じて、糊抜き精練、プレセット、染色等の加工に供されていてもよい。
次いで、準備した織編物を吸水剤と二官能ビニル系モノマーを含有する処理液中に含浸させることで、ポリエステル系繊維の表面に二官能ビニル系モノマーが接触する。その後、ラジカル重合をすることで、織編物を構成する繊維の表面に吸水剤とビニル系ポリマーが付着される。
【0059】
前記処理液としては、二官能ビニル系モノマー、必要に応じてメラミン樹脂及び/又はポリエステル樹脂を分散又は溶解させた水溶液が挙げられる。前記処理液における二官能ビニル系モノマーの濃度については、付着させるビニル系ポリマーの量、ラジカル重合の条件等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.5~10質量%、好ましくは1~7質量%が挙げられる。また、処理液中の吸水剤の含有量は0.5~5.0質量%とすることが好ましい。
【0060】
また、前記処理液には、二官能ビニル系モノマーのラジカル重合を促進させるために、重合開始剤が含まれていてもよい。重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、硝酸セリウムアンモニウム、過酸化水素等の無機系重合開始剤;2,2′-アゾビス(2-アミディノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2′-アゾビス(N,N′-ジメチレンイソブチラミディン)ジハイドロクロライド、2-(カルバモイラゾ)イソブチロニトリル等の有機系ラジカル開始剤等のラジカル開始剤等が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。前記処理液における重合開始剤の濃度については、特に制限されず、使用する重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、二官能ビニル系モノマー100質量部当たり、重合開始剤が0.1~20質量部、好ましくは0.3~15質量部、更に好ましくは0.5~10質量部が挙げられる。
【0061】
また、前記処理液には、必要に応じて、重合抑制剤が含まれていてもよい。重合抑制剤が含まれている場合には、低温域での重合を抑制することができ、所望の重合度を有するビニル系ポリマーを得ることが容易になる。重合抑制剤としては、例えば、ベンゾキノン、ハイドロキノン、メトキシフェノール等のキノン類;第三ブチルカテコール等のポリオキ化合物;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルヒドロキシルアミン等の有機硫黄化合物;ニトロ化合物;ジエチルヒドロキシルアミン、イソプロピルヒドロキシルアミン等のアミノ化合物等が挙げられる。これらの重合抑制剤は、1種単独で使用しても
よく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。前記処理液における重合抑制剤の濃度については、特に制限されず、使用する重合抑制剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、二官能ビニル系モノマー100質量部当たり、重合抑制剤が0.01~2質量部、好ましくは0.015~1.5質量部、更に好ましくは0.02~1質量部が挙げられる。
【0062】
また、前記処理液には、重合効率を高めるために、必要に応じて、過酸化物と還元性物質とからなるレドックス系開始剤が含まれていてもよい。レドックス系開始剤に使用される過酸化物としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等が挙げられ、レドックス系開始剤に使用される還元性物質として、スルホキシル酸ナトリウムとホルマリンとの反応物、ハイドロサルファイト等が挙げられる。
【0063】
織編物に対して前記処理液を含浸させる量については前記、処理液中の二官能ビニル系モノマーの濃度、付着させるビニル系ポリマーの量、ラジカル重合の条件等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、織編物100質量部当たり、前記処理液が20~150質量部、好ましくは30~120質量部、更に好ましくは50~100質量部が挙げられる。
【0064】
織編物に対して前記処理液を含浸させる手法については、特に制限されず、パディング法、スプレー法、キスロールコータ法、スリットコータ法等の公知の方法を適宜用いればよい。
【0065】
織編物に前記処理液を含浸させた後に、二官能ビニル系モノマーをラジカル重合させる。
【0066】
二官能ビニル系モノマーをラジカル重合させるには、例えば、湿熱処理、吸尽処理、電子線処理、紫外線処理、マイクロ波処理等を行えばよい。ラジカル重合の条件については、採用する処理の種類、処理液中の二官能ビニル系モノマーの濃度、付着させるビニル系ポリマーの量等に応じて適宜選定すればよいが、例えば、湿熱処理の場合であれば、80~180℃、好ましくは98~150℃のスチームの存在下で1~30分間、好ましくは3~10分間処理すればよい。
【0067】
二官能ビニル系モノマーのラジカル重合の後に、得られた織編物(ポリエステル系繊維の表面にビニル系ポリマーが付着している織編物)を高速液流処理による洗浄に供することが好ましい。このように高速液流処理に供することによって、残存するモノマー及び繊維間に付着した余剰のポリマーが高度に除去され、ポリエステル系繊維の表面にビニル系ポリマーの膜が均一に形成された状態になる。これによって、加工ムラを抑制することが可能になる。また、このような高速液流処理によって、織編物が硬い風合いになるのを抑制し、更に残存するモノマーの溶出によって変色が発現したり、染色堅牢度が低下したりするのを抑制することも可能になる。
【0068】
本発明においては、上記のようにポリエステル系繊維を含む織編物を吸水剤と二官能ビニル系モノマーを含有する処理液中で、吸水剤の付着とポリエステル系繊維の表面に二官能ビニル系モノマーを接触させてラジカル重合する工程とを並行して行うことが最適である。このような製造方法をとることで、本発明の織編物は、上記のような特性値を有するものとなる。
また、その他の製造方法としては、ポリエステル系繊維を含む織編物を吸水剤を含有する染色浴中で染色する工程と、染色後の織編物のポリエステル系繊維の表面に二官能ビニル系モノマーを接触させてラジカル重合する工程をこの順で行う方法や、ポリエステル系繊維を含む織編物のポリエステル系繊維の表面に二官能ビニル系モノマーを接触させてラジカル重合する工程を行った後に、得られた織編物(ポリエステル系繊維の表面にビニル系ポリマーが付着している織編物)に吸水剤をパディングにより付着させる方法が挙げられる。本発明の製造方法がこれらのいずれかであるとき、本発明の織編物は上記のような特性値を有するものとなる。
【0069】
[用途]
本発明織の編物は、洗濯時に油性汚れを除去しやすいため、本発明の織編物からなる衣服の着用と洗濯を繰り返しても、残留汚れによる不快な臭気が発生しにくく、繊維の黄変や黒ずみ等の変色も少ない。また、洗濯耐久性にも優れており、着用と洗濯を繰り返し回数が多くなった場合にも前記の効果が維持されるため、消臭性や洗濯耐久性が要求される衣料の素材として好適に使用される。消臭性や洗濯耐久性が要求される衣料としては、例えば肌着等のインナーウェアやスポーツウェア、工場作業服やナースウェア、学生服のようなユニフォームウェア、介護服、パジャマ等が挙げられる。
【実施例0070】
以下、実施例によって本発明を詳しく説明する。但し、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0071】
1.測定・試験方法
以下の実施例及び比較例における測定及び評価は下記の方法に従って行った。
(i)臭い成分付着処理
以下の手順に従って、臭い成分を付着した試験片Aを得た。
(ア)10cm×10cmの本発明の織編物を試験片とし、試験片にオレイン酸(2ml)を均一に塗布し、37℃±2℃の乾燥機中に6時間放置し乾燥させた
(イ)JISL1930C4M法に従って洗濯処理を1回行った
(ウ)20℃×65%RHの環境下で生地が十分に乾燥するまで18時間吊干し乾燥させ、試験片Aを得た
【0072】
(ii)臭気強度試験
以下の手順に従って、臭気強度試験を行った。
(ア)上記臭い成分付着処理により得られた試験片Aを105℃の乾燥機内に平置きし、48時間熱処理を加えた
(イ)乾燥熱処理後の試験片Aの4辺の端部約5mm(洗濯用のオーバーロック部分)をカットした
(ウ)前記(イ)の工程でカットした試験片Aを準備し、近江オドエアーサービス株式会社製の嗅覚測定用器材のにおい袋(におい袋のサイズ3L(250mm×250mm))に入れて、Nガスを充てんした
(エ)前記におい袋を20℃×65%RHの環境下に30分間放置した
(オ)前記におい袋に試験片Aを入れた状態で、Nガスを抜いて24時間放置した
(カ)前記におい袋に再びNガスを充てんし、20℃×65%RHの環境下に30分間放置した後、前記におい袋内の臭気について、e-nose integralIII(光明理化学工業社製)を用いて臭気強度を測定した
【0073】
(iii)皮脂残留性能試験における黄変色の性能等級
以下の手順に従って、皮脂残留性能試験を行い、黄変色の性能等級を判定した。
(ア)上記と同様の臭い成分付着処理により得られた試験片Aを105℃の乾燥機内に平置きし、18時間熱処理を加え、試験片Bを得た
(イ)試験片Bの黄変色の程度を変退色用グレースケールを用いて等級判定した
【0074】
(iv) 吸水性
以下の手順に従って、吸水性を評価した。
(未処理の織編物の評価)
(ア)20cm×20cmの本発明の織編物を試験片Cとし、試験片Cの吸水速度をJIS L-1907:2010の「7.1.1 滴下法」に規定されている方法により測定した
(皮脂残留性能試験後の織編物の評価)
(ア)20cm×20cmの本発明の織編物を試験片とした以外は前記の臭い成分付着処理と同様にして、試験片A2を得た
(イ)試験片A2を105℃の乾燥機内に平置きし、18時間熱処理を加え、試験片Dを得た
(ウ)試験片Dの吸水速度をJIS L-1907:2010の「7.1.1 滴下法」に規定されている方法により測定した
【0075】
(vi)着用試験
実施例、比較例に記載の編地でTシャツを作製し、被験者15名による着用試験を行った。被験者が実施例に記載の編地から作成したTシャツと、比較例に記載の編地から作成したTシャツとをそれぞれ8時間着用した後、家庭洗濯を行い、吊干し乾燥するサイクルを30回繰り返した。次いで、被験者にそれぞれのTシャツの臭い残りについて、4段階で点数化してもらい、平均値を求めた。
1点…臭い残りがする
2点…若干臭い残りがする
3点…ほとんど臭い残りがしない
4点…まったく臭い残りがしない
【0076】
2.織物の製造
(実施例1)
経糸として総繊度167デシテックス/144フィラメントのポリエステル仮撚糸を用い、緯糸として総繊度167dtex/72フィラメントのポリエステル仮撚糸を引き揃えて用い、経糸密度102本/2.54cm、緯糸密度68本/2.54cmの2/2綾織物の生機を製織した。得られた綾織物の生機を通常の方法で精練し、テンター(株式会社市金工業社製)にて190℃で30秒間プレセットを行った。次いで、液流染色機(「サーキュラーMF」、株式会社日阪製作所製)を用いて、下記染色処方1で、温度130℃、時間30分の条件で染色し、蛍光白色の綾織物を得た。
<染色処方1>
・蛍光染料 1%o.m.f
・酢酸(48%) 0.2cc/l
・水 残部
なお、蛍光染料として、「Hakkol STR」(昭和化学工業株式会社製)を使用した。
【0077】
次に、この綾織物を下記処方1に示す処理液に浸漬した後、マングルで70質量%の絞り率で絞り、乾燥することなく、Jボックススチーマー(京都機械株式会社製)にて103℃の飽和蒸気処理を5分間行い、二官能ビニル系モノマーのラジカル重合を行った。
<処方1>
・二官能ビニル系モノマーA 3質量%
・過硫酸アンモニウム 0.15質量%
・吸水加工剤 2.0%omf
・水 残部
なお、二官能ビニル系モノマーAは、ポリエチレングリコールジメタクリレート(一般式(1)において、R1及びR2がメチル基、R3がエチレン基、nが14である化合物)(新中村化学工業株式会社製)を使用し、吸水加工剤としてポリエステル系SR剤である「SR-1000」(高松油脂株式会社製)を使用した。
【0078】
その後、高速液流処理を行った。高速液流処理は、具体的には、液流染色機(「サーキュラーMF」、株式会社日阪製作所製)を用いて、洗浄液の噴射角度(織物の進行方向に対する洗浄水の噴射角度)が40°であるフィラメントノズル(ノズル径90mm、洗浄液を噴射する隙間4mm)を装着し、洗浄水として水を使用して、ノズル圧0.2Mpa、洗浄液の噴射時の流量1200l/分、布速300m/分、浴比1:10、温度60℃で5分間の条件で、織物(長さ(50m/反×6反=300m)をエンドレスのロープ状にして循環させることにより行った。
【0079】
次いで、ドラム乾燥機にて120℃、2分間の条件で乾燥を行い、テンターにて160℃、1分間のファイナルセットを行い、経糸密度118本/2.54cm、緯糸密度72本/2.54cm、目付210g/mの綾織物を得た。
【0080】
(実施例2)
33インチ、22ゲージの丸編機を用い、表面にポリエステル繊維100%からなる英式綿番手40番手の紡績糸を用い、裏面に総繊度84dtex/48フィラメントのポリエステル仮撚糸と総繊度56dtex/48フィラメントのポリエステル仮撚糸を用いて、図1に記載の裏面3コースメッシュの生機を製編した。得られた編物を実施例1と同様に染色、ラジカル重合、高速液流処理、乾燥(120℃、2分間)、及びファイナルセットを行い、編密度46コース/2.54cm、33ウェール/2.54cm、目付155g/mの蛍光白色の裏メッシュ編物を得た。
【0081】
(比較例1)
実施例1に記載の綾織物の生機を用い、上記染色処方1で温度130℃、時間30分の条件で染色した後、ラジカル重合の工程を行うことなく、脱水及び乾燥(120℃、2分間)を行い、テンターにて160℃、1分間のファイナルセットを行い、経糸密度118本/2.54cm、緯糸密度72本/2.54cm、目付210g/mの蛍光白色の綾織物を得た。
【0082】
(比較例2)
実施例2に記載の裏面3コースメッシュの生機を用い、比較例1と同様にして染色した後、ラジカル重合の工程を行うことなく脱水、乾燥(120℃、2分間)、及びファイナルセットを行い、編密度46コース/2.54cm、33ウェール/2.54cm、目付155g/mの蛍光白色の裏メッシュ編物を得た。
【0083】
3.結果
結果を表1に示す。この結果、実施例1、2の織編物では臭気強度が1200未満であり、かつ、着用試験の結果からも不快な臭気の発生が少ないものであった。また、皮脂残留性能試験における黄変も4-5級で良好であった。これに対して、比較例1、2の織編物では、臭気強度は1300を超え、かつ、着用試験の結果からも不快な臭気が残留するものであった。また、皮脂残留性能試験における黄変も1-2級であり、洗濯によって油性成分が十分に除去できておらず、油性成分がポリエステル繊維上に残留していることが分かった。
【0084】
以上の結果から、吸水剤と二官能ビニル系モノマーを含有する処理液中に含浸させて、ビニル系ポリマーによる表面処理と並行して吸着剤付着処理を行うことによって、ポリエステル系繊維を含む織編物の吸水性が向上し、洗濯時に繊維表面から汚れを除去しやすいものとなるため、着用と洗濯を繰り返しても残留汚れの蓄積を抑えることができ、その結果、不快な臭気の発生や繊維の変色が少ない織編物が得られることが明らかとなった。
【0085】
【表1】





図1