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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021906
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】グラファイト体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/205 20170101AFI20220127BHJP
   B29C 41/12 20060101ALI20220127BHJP
   B29C 43/02 20060101ALI20220127BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
C01B32/205
B29C41/12
B29C43/02
B32B27/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020125783
(22)【出願日】2020-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 直樹
(72)【発明者】
【氏名】奥山 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】松山 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼田 桂也
(72)【発明者】
【氏名】前田 郷司
【テーマコード(参考)】
4F100
4F204
4F205
4G146
【Fターム(参考)】
4F100AK80A
4F100AK80B
4F100BA02
4F100DE01
4F100EJ16
4F100EJ17
4F100EJ41
4F100GB41
4F100JL02
4F204AA40
4F204AC04
4F204AG01
4F204AG03
4F204FA01
4F204FB01
4F204FF01
4F204FN11
4F204FQ15
4F204FW05
4F205AC05
4F205AG01
4F205AG03
4F205GA07
4F205GB01
4F205GC06
4F205GN21
4F205GW05
4G146AA02
4G146AB07
4G146AC26B
4G146AD13
4G146AD19
4G146AD22
4G146AD23
4G146AD40
4G146BA15
4G146BA42
4G146BC04
4G146BC23
4G146BC34A
4G146BC35A
4G146BC36A
4G146BC36B
4G146BC37B
4G146CB03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】熱処理時の形状保持性が高く、かつ高熱伝導性のグラファイト体を製造する方法の提供。
【解決手段】厚さ3μm以上200μm以下のポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムであり、複数のポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムを積層して得られる厚さ50μm以上10000μm以下の積層板であり、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂を50質量%以上含有する粉末を加圧加熱成形して得られた成形体である、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂のフィルム、積層板、あるいは粉末成形体を原料として、不活性ガス中で1000℃~4000℃の範囲で熱処理を行う。得られるグラファイト体は、ほぼ熱処理前の形状を維持しており、高い熱伝導係数、熱拡散係数を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物を原料として、不活性ガス中で1000℃~4000℃の範囲で熱処理を行うことを特徴とするグラファイト体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物が、厚さ3μm以上200μm以下のポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1に記載のグラファイト体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物が、複数のポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムを積層して得られる、厚さ50μm以上10000μm以下の積層板であることを特徴とする請求項1に記載のグラファイト体の製造方法。
【請求項4】
前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物が、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂を50質量%以上含有する粉末を加圧加熱成形して得られた成形体であることを特徴とする請求項1に記載のグラファイト体の製造方法。
【請求項5】
前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物が、あらかじめ、目的とするグラファイト体の形状に外形加工されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のグラファイト体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトフィルム、グラファイトシート、グラファイト立体部品などのグラファイト体の製造方法に関する。さらに詳しくは、焼成前の原料段階で目的とするグラファイト体の形状に加工を行い、次いで高温熱処理してグラファイトを行うグラファイト体の製造方法であり、焼成前の形状寸法と、得られるグラファイト体の形状寸法差が極めて小さく収めることができるグラファイト体の製造方法である。
【背景技術】
【0002】
グラファイトは、その耐熱性、耐薬品性、高電気伝導性等のために工業材料として重要な地位を占め、熱伝導材、耐熱シ-ル、摺動材、電動機のブラシ、各種電極、二次電池のセパレータ、から、原子炉などの耐熱、対放射線ブロックにまで広く使用されている。
【0003】
特許文献1には、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリチアゾールのうちから選ばれた少なくとも一種類の高分子のフィルムあるいは繊維を真空又は不活性ガス中400~700℃の温度で張力をかけながら熱処理し、しかるのちに不活性ガス中又は真空中1600℃以上の温度で熱処理することによってグラファイト化して、グラファイトフィルムおよび繊維を得る技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリ(ピロメリットイミド)、ポリ(フェニレンイソフタルアミド)、ポリ(フェニレンベンゾイミタゾール)、ポリ(フェニレンベンゾビスイミタゾール)、ポリチアゾール、ポリパラフェニレンビニレンのうちから選ばれた少なくとも1種の高分子のフィルムを2400℃以上で熱処理して得られたグラファイトフィルムをさらに圧延加工してフィルム状グラファイト得る技術が開示されている。
特許文献1、および特許文献2に示されるように、ポリ(ベンゾ)アゾール類のフィルムないし繊維を高温で炭化してグラファイトを得ることは公知である。
【0005】
特許文献3には、ポリイミドフィルムを原料として、不活性ガス中で上限温度を1000℃~1600℃までの範囲で熱処理を行う第1の熱処理工程と、第1の熱処理工程後更に不活性ガス中で上限温度2500℃~3100℃の範囲で熱処理を行う第2の熱処理工程とを有することを特徴とする発泡状態を呈するグラファイトシートの製造方法が開示されている。
特許文献3および、一部は特許文献2でも開示されているがポリイミドを高温で炭化してグラファイトを得ることは公知である。
【0006】
特許文献4には、炭素骨材粉末に適宜の結合材を添加混合した混合体を、常法のカーボン若しくはグラファイト焼成成形体製造法、またはホットプレス法により、密度60~95%に焼成成形したものを一次焼成成形体とし、該-次焼成成形体を加圧する加圧軸方向と直角方向の周囲に適宜の雰囲気の自由空間を有せしめた状態で前記加圧軸方向に一軸加圧しつつ、前記-次焼成成形体に通電して加熱し、該通電加熱と前記加圧とを前記-次焼成成形体が前記加圧軸方向と直角方向に圧縮変形を開始する以上の時間継続して前記変形を生ぜしめることを特徴とする高密度カーボン、またはグラファイト焼成成形体の製造方法が開示されている。
特許文献4はグラファイトを含む、粉末の炭素材料を所定の形状に加圧加熱して成形し、立体部品を得るための基本的な技術の一例の開示である。ここでは通電過熱を用いることが特徴とされているが、一般的には各種の加熱技術と加圧プレスが組み合わされて使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61-275116号公報
【特許文献2】特許2976481号公報
【特許文献3】特開2000-178016号公報
【特許文献4】特開昭54-139899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、グラファイトの原材料に張力を加えた状態で熱処理を行っている。これは熱処理中に原材料が熱収縮を生じ、変形することを防止するとともに、熱収縮と共に原材料の分子配向が乱れることを抑制するためである。しかしながら原材料がグラファイト化する過程での材料収率は数分の一程度と低く、体積収縮は本質的に極めて大であるため、原材料を過剰に拘束すると、破断やクラックなどが生じ、目的とする形状のグラファイトを得ることは難しい。
特許文献2では熱処理により得られたグラファイト材料を圧延加工してグラファイトフィルムとしている。これは特許文献1と同様、原材料に平面性のあるフィルムを用いたとしても熱処理中に変形してしまうために熱処理で得られるグラファイトでは平面性が失われているからである。
さらに、ここではポリ(ベンゾ)アゾールのフィルムを原材料に用いるとされているが、ポリ(ベンゾ)アゾールを工業的にフィルム化する方法は一部の例外を除いて未確立であるため、これらの方法を工業的に実施することは極めて困難である。
【0009】
特許文献3では ポリイミドフィルムを原材料として用いているが、得られるグラファイトは多孔質体であるため、忠実なグラファイトフィルムないし成形体とするためには、特許文献2と同様に、圧延加工などの二次的な加工が必要となる。
さらに、グラファイトの立体部品を作成するためには、特許文献4にみられるような粉体成形的な手法を使用せざるを得ない。これは、あらかじめ原材料の形状を整えていたとしても、熱処理過程で大きく変形してしまうためである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、かかる状況に鑑み鋭意研究を重ねた結果、熱処理時の変形が極めて小さいグラファイト体の製造方法およびその原材料を見出すに至り、本発明に到達した。すなわち本発明は以下の構成である。
[1] ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物を原料として、不活性ガス中で1000℃~4000℃の範囲で熱処理を行うことを特徴とするグラファイト体の製造方法。
[2] 前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物が、厚さ3μm以上200μm以下のポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムであることを特徴とする[1]に記載のグラファイト体の製造方法。
[3] 前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物が、複数のポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムを積層して得られる、厚さ50μm以上10000μm以下の積層板であることを特徴とする[1]に記載のグラファイト体の製造方法。
[4] 前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物が、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂を50質量%以上含有する粉末を加圧加熱成型して得られた成形体であることを特徴とする[1]に記載のグラファイト体の製造方法。
[5] 前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物が、あらかじめ、目的とするグラファイト体の形状に外形加工されていることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載のグラファイト体の製造方法。
【0011】
本発明はさらに以下の構成を含むことが好ましい。
[6] 前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物が、あらかじめ、目的とするグラファイト体の形状に外形加工されている場合において、熱処理により得られたグラファイト形状の外形寸法が、熱処理前のポリイミドベンゾオキサゾール樹脂形状の外形寸法との差が、+0%~-5%の範囲であることを特徴とする[5]に記載のグラファイト体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明で用いられるポリイミドベンゾオキサゾール樹脂は、ポリ(ベンゾ)アゾール樹脂に比較するとフィルム化が容易であり、広い温度範囲において、低熱収縮で、かつ低CTEの、高耐熱性フィルムを得ることができる。ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂のフィルムは、さらに表裏の熱収縮率差も極めて小さくなるように制御することができるため、そのようにして得られたフィルムは温度変化によるバイメタル効果が生じず、加熱によるフィルムの反りが極めて小さい。このような特性は室温から500℃を超える範囲まで保たれるため、熱処理時の熱分解開始以前の領域での変形は他素材に比較すると皆無といってよいレベルであり、熱分解開始後も大きく変形せずに、元の形状を保ったままグラファイト化が進行する。もちろんグラファイト化の過程でポリイミドベンゾオキサゾール樹脂の一部はガス化して失われるわけであるが、変形が極めて小さいことからも演繹できるように、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物の均質性が高く、体積収縮の偏りは生じがたい。結果としてガス化して失われた分だけ密度は低くなるが、大きな空隙などは生じず(巨視的観点から多孔質にはならず)、形状的にはほぼ原材料の形状が保たれる。
このような特性はポリイミドベンゾオキサゾール樹脂を50質量%以上含むポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物においても発現する。ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物とは、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂を含む組成物であり、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムと他素材を組み合わせて得られる積層体、あるいはポリイミドベンゾオキサゾール樹脂粉末を含む粉体成形品などである。
本発明のポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物の熱処理により得られたグラファイト形状の外形寸法は、熱処理前のポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物形状の外形寸法と比較して、+0%~-5%の範囲に抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においてグラファイト体の原材料となるのは、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂を含むポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物である。前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物を原料として不活性ガス中で1000~4000℃の範囲で熱処理することでグラファイト体を製造することができる。不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン等の希ガス、窒素ガスが挙げられる。熱処理時の不活性ガス中の酸素濃度は、5000ppm(mg/L)以下であることが好ましい。グラファイト体の純度が良好となることから、より好ましくは500ppm以下であり、さらに好ましくは50ppm以下である。
【0014】
前記熱処理とは、前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂を原料として前記不活性ガス中で1000~4000℃に加熱することである。好ましくは前記範囲内で予備焼成工程と高温焼成工程を設け、それぞれ段階的に昇温しながら加熱することもできる。具体的には、予備焼成の第1工程として、好ましくは1000~1500℃、より好ましくは1000~1200℃で、好ましくは10分~5時間、より好ましくは30分~2時間保持して熱処理を行う。次いで、予備焼成の第2工程として、好ましくは1200~2000℃、より好ましくは1500~1800℃で、好ましくは10分~5時間、より好ましくは30分~2時間保持して熱処理を行う。予備焼成後、次いで高温焼成を行うことが好ましい。高温焼成は予備焼成後、一旦室温まで冷却してから行っても良いし、冷却せずにそのまま引き続き加温しても良いが、一旦室温まで冷却することが好ましい。高温焼成は、好ましくは2000~4000℃、より好ましくは2500~3000℃で、好ましくは10分~5時間、より好ましくは30分~2時間保持して熱処理を行う。高温焼成後、室温まで冷却し、高温焼成を終了することで本発明のグラファイト体を得ることができる。
【0015】
本発明におけるポリイミドベンゾオキサゾール樹脂とは、主鎖にイミド結合とベンゾオキサゾール結合の両方を含有する高分子化合物である。ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物とは、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂を主たる成分とする樹脂配合物である。
ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物に含まれるポリイミドベンゾオキサゾール樹脂の含有量は50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であっても差し支えない。ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂組成物中に50質量%未満の割合で、他の樹脂成分を混合しても良い。ここで混合できる他の樹脂成分は、好ましくはポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、、ポリ(フェニレンイソフタルアミド)、ポリ(フェニレンベンゾイミタゾール)、ポリ(フェニレンベンゾビスイミタゾール)、ポリチアゾール、ポリパラフェニレンビスベンゾオキサゾールである。
【0016】
ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂は、例えば主としてベンゾオキサゾール骨格を有する芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸類とを反応させて得ることができる。
上述の「反応」は、まず、溶媒中でベンゾオキサゾール骨格を有する芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類とを開環重付加反応に供してポリアミド酸溶液を得て、次いで、このポリアミド酸溶液をフィルム形状などに加工した後に脱水縮合(イミド化)することによりなされる。なお、本明細書中にて特に説明が無い場合には「ポリアミド酸」はポリイミドベンゾオキサゾール樹脂の前駆体となるポリアミド酸を示すものとする。
本発明で用いられるベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類としては、具体的には以下のものが挙げられる。
【0017】
【化1】
【0018】
【化2】
【0019】
【化3】
【0020】
【化4】
【0021】
【化5】
【0022】
【化6】
【0023】
【化7】
【0024】
【化8】
【0025】
【化9】
【0026】
【化10】
【0027】
【化11】
【0028】
【化12】
【0029】
【化13】
【0030】
これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基が配位位置に応じて定められる各異性体である(例;上記「化1」~「化4」に記載の各化合物)。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
本発明においては、前記ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミンを全芳香族ジアミンに対して75モル%以上好ましくは80モル%以上使用することが好ましい。
【0031】
本発明において、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミンを主として使用するものであるが、全芳香族ジアミンの好ましくは25%以下、より好ましくは25モル%未満、さらに好ましくは20モル%以下であれば下記に例示されるベンゾオキサゾール構造を有しないジアミン類を一種又は二種以上を併用してもよい。
そのようなジアミン類としては、例えば、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-アミノベンジルアミン、p-アミノベンジルアミンが挙げられる。
【0032】
また、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンが挙げられる。
【0033】
また、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノシ)フェニル]ブタン、2,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンが挙げられる。
【0034】
また、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’-ビス[(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィドが挙げられる。
【0035】
また、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’-ビス[3-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4-{4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-フルオロフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-メチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-シアノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼンが挙げられる。
【0036】
また、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-ビフェノキシベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリルが挙げられる。さらに上記芳香族ジアミンにおける芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基又はアルコキシル基、シアノ基、又はアルキル基又はアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1~3のハロゲン化アルキル基又はアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0037】
本発明で用いられる芳香族テトラカルボン酸類は、例えば芳香族テトラカルボン酸無水物である。芳香族テトラカルボン酸無水物としては、具体的には、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4.4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物である。 これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明においては、全テトラカルボン酸二無水物の好ましくは25モル%以下、より好ましくは25モル%未満、さらに好ましくは20モル%以下であれば下記に例示される非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種又は二種以上、併用しても構わない。そのようなテトラカルボン酸無水物としては、例えば、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ペンタン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ-1-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、3-エチルシクロヘキサ-1-エン-3-(1,2),5,6-テトラカルボン酸二無水物、1-メチル-3-エチルシクロヘキサン-3-(1,2),5,6-テトラカルボン酸二無水物、1-メチル-3-エチルシクロヘキサ-1-エン-3-(1,2),5,6-テトラカルボン酸二無水物、1-エチルシクロヘキサン-1-(1,2),3,4-テトラカルボン酸二無水物、1-プロピルシクロヘキサン-1-(2,3),3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,3-ジプロピルシクロヘキサン-1-(2,3),3-(2,3)-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、1-プロピルシクロヘキサン-1-(2,3),3,4-テトラカルボン酸二無水物、1,3-ジプロピルシクロヘキサン-1-(2,3),3-(2,3)-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0039】
ベンゾオキサゾール骨格を有するジアミンと、芳香族テトラカルボン酸無水物とを重合してポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマーおよび生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-アセチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられる。これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、溶解する目的物(ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂ないし、その前駆体化合物であるアミド酸)を溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、樹脂を溶解した溶液に占める樹脂の質量が、通常5~40質量%、好ましくは10~30質量%となるような量が挙げられる。
【0040】
ポリアミド酸を得るための重合反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0~80℃の温度範囲で、10分~30時間連続して撹拌および/又は混合することが挙げられる。必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の質量は、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは10~2000Pa・sであり、より好ましくは100~1000Pa・sである。本発明におけるポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)は、特に限定するものではないが3.0以上が好ましく、4.0dl/g以上がさらに好ましく、なおさらに5.0dl/g以上が好ましい。
【0041】
重合反応により得られたポリアミド酸溶液を、貧溶媒、例えば水、低級アルコール、水と低級アルコールの混合溶媒に滴下すれば、ポリアミド酸が粉末として析出する。かかる粉末を加熱すればポリイミドベンゾオキサゾール樹脂の粉末を得ることができる。
得られるポリイミドベンゾオキサゾール樹脂粉末を加圧加熱成形すればポリイミドベンゾオキサゾール樹脂の成形体を得ることができる。前記成形体に含まれるポリイミドベンゾオキサゾール樹脂成分は50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であっても差し支えない。この際に、好ましくは、50質量%未満の割合で、他の樹脂成分を混合しても良い。ここ混合できる他の樹脂成分は、好ましくはポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾビスチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾビスオキサゾール、、ポリ(フェニレンイソフタルアミド)、ポリ(フェニレンベンゾイミタゾール)、ポリ(フェニレンベンゾビスイミタゾール)、ポリチアゾール、ポリパラフェニレンビスベンゾオキサゾールである。
【0042】
またポリイミドベンゾオキサゾール樹脂粉末に、ポリアミド酸粉末を10質量%以下の割合で混合して加熱加圧して成形体を得ることもできる。この場合アミド酸成分は加熱加圧時に脱水縮合してポリイミドベンゾオキサゾール樹脂に転化する。また脱水縮合により生じた水分子は、ポリアミド酸の含有量が所定の範囲であれば、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂に固溶するため水泡などは形成されず、成形後に乾燥すれば成形体内部から系外に排出できる。
【0043】
ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂粉末の比表面積は0.1m/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.5m/g以上であり、さらに好ましくは1m/g以上である。また、10m/g以下であることが好ましく、より好ましくは8m/g以下であり、さらに好ましくは5m/g以下である。また、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂粉末の粒度分布は、d50が2~80μmであることが好ましく、より好ましくは5~50μmであり、さらに好ましくは10~30μmである。
【0044】
前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂粉末を成形体にする際の圧力は、50~300Kgf/平方cmであることが好ましく、より好ましくは80~250kgf/平方cmである。また温度は10~600℃であることが好ましく、より好ましくは100~500℃である。具体的には、段階的に加圧加熱することが好ましく、まず第1段階の仮成形としては室温(10~40℃)で50~150kgf/平方cmで行うことが好ましい。次いで好ましくは150~300kgf/平方cmの圧力をかけながら、100~200℃で10分~1時間、200~400で10分~1時間、400~600℃で10分~1時間加圧加熱することが好ましい。
【0045】
本発明では得られたポリアミド酸溶液からポリイミドベンゾオキサゾール樹脂のフィルムを得ることができる。ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムを形成するためには、ポリアミド酸溶液を支持体上に塗布して乾燥するなどによりグリーンフィルムを得て、次いで、グリーンフィルムを熱処理に供することでイミド化反応させる方法が挙げられる。
【0046】
ポリアミド酸溶液を塗布する支持体は、ポリアミド酸溶液をフィルム状に成形するに足る程度の平滑性、剛性を有していればよく、表面が金属、プラスチック、ガラス、磁器などであるドラム又はベルト状回転体などが挙げられる。また、適度な剛性と高い平滑性を有する高分子フィルムを利用する方法も好ましい態様である。中でも、支持体の表面は好ましくは金属であり、より好ましくは錆びなくて耐腐食に優れるステンレスである。支持体の表面にはCr、Ni、Snなどの金属メッキを施してもよい。支持体表面は必要に応じて鏡面にしたり、あるいは梨地状に加工することができる。支持体へのポリアミド酸溶液の塗布は、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し、スキージコーティング、リバースコーティング、ダイコーティング、アプリケータコーティング、ワイヤーバーコーティング等を含むが、これらに限られず、従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
得られたグリーンフィルムをイミド化することで、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムが得られる。その具体的なイミド化方法としては、従来公知のイミド化反応を適宜用いることが可能である。例えば、閉環触媒や脱水剤を含まないポリアミド酸溶液を用いて、加熱処理に供することでイミド化反応を進行させる方法(所謂、熱閉環法)やポリアミド酸溶液に閉環触媒および脱水剤を含有させておいて、上記閉環触媒および脱水剤の作用によってイミド化反応を行わせる、化学閉環法を挙げることができるが、表裏面の物性差が小さいポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムを得るためには、熱閉環法が好ましい。
【0047】
熱閉環法の加熱最高温度は、250~550℃が例示され、好ましくは300~510℃である。加熱最高温度を所定範囲とすることで、十分にイミド化範囲が進み、かつ熱劣化度合いの小さい、すぐれた物性を有するポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムを得ることができる。より好ましい熱処理の態様としては、150~250℃で3~20分間処理した後に300~510℃で3~20分間処理する2段階熱処理が挙げられる。
化学閉環法では、ポリアミド酸溶液を支持体に塗布した後、イミド化反応を一部進行させて自己支持性を有するフィルムを形成した後に、加熱によってイミド化を完全に行わせることができる。この場合、イミド化反応を一部進行させる条件としては、好ましくは100~200℃による3~20分間の熱処理であり、イミド化反応を完全に行わせるための条件は、好ましくは200~400℃による3~20分間の熱処理である。
【0048】
閉環触媒をポリアミド酸溶液に加えるタイミングは特に限定はなく、ポリアミド酸を得るための重合反応を行う前に予め加えておいてもよい。閉環触媒の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどといった脂肪族第3級アミンや、イソキノリン、ピリジン、ベータピコリンなどといった複素環式第3級アミンなどが挙げられ、中でも、複素環式第3級アミンから選ばれる少なくとも一種のアミンが好ましい。ポリアミド酸1モルに対する閉環触媒の使用量は特に限定はないが、好ましくは0.5~8モルである。
脱水剤をポリアミド酸溶液に加えるタイミングも特に限定はなく、ポリアミド酸を得るための重合反応を行う前に予め加えておいてもよい。脱水剤の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などといった脂肪族カルボン酸無水物や、無水安息香酸などといった芳香族カルボン酸無水物などが挙げられ、中でも、無水酢酸、無水安息香酸あるいはそれらの混合物が好ましい。また、ポリアミド酸1モルに対する脱水剤の使用量は特に限定はないが、好ましくは0.1~4モルである。脱水剤を用いる場合には、アセチルアセトンなどといったゲル化遅延剤を併用してもよい。
【0049】
熱閉環反応であっても、化学閉環法であっても、支持体に形成されたポリイミドフィルムの前駆体(グリーンシート、フィルム)を完全にイミド化する前に支持体から剥離してもよいし、イミド化後に剥離してもよい。
本発明におけるポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの厚さは、厚さ3μm以上200μm以下の範囲が好ましい。厚さの下限は好ましくは7μmであり、さらに好ましくは12μmであり、なおさらに好ましくは24μmである。またフィルム厚さの上限は好ましくは160μmであり、さらに好ましくは105μmであり、なおさらに好ましくは60μmである。この厚さはポリアミド酸溶液を支持体に塗布する際の塗布量や、ポリアミド酸溶液の濃度によって容易に制御し得る。フィルム厚さを所定の範囲に収めることにより、面方向への分子配向が進み、グラファイト体の原料として好ましい構造を有するポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムを得ることができる。
【0050】
本発明のポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムには、滑剤をポリアミド酸中に添加含有せしめるなどしてフィルム表面に微細な凹凸を付与しフィルムの滑り性を改善することが好ましい。
滑剤としては、無機や有機の0.03μm~3μm程度の平均粒子径を有する微粒子が使用でき、具体例として、酸化チタン、アルミナ、シリカ、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、ピロ燐酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、粘土鉱物などが挙げられる。
【0051】
本発明のポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムは、通常は無延伸フィルムであるが、1軸又は2軸に延伸しても構わない。ここで、無延伸フィルムとは、テンター延伸、ロール延伸、インフレーション延伸などによってフィルムの面拡張方向に機械的な外力を意図的に加えずに得られるフィルムをいう。
【0052】
本発明におけるポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの線膨張係数(CTE)は-10~+12ppm/Kが好ましく、-5~+9ppm/Kの範囲がさらに好ましく、さらに-2~+5ppm/℃の範囲が好ましい。
ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの線膨張係数はベンゾオキサゾール骨格を有するジアミンの選定とその使用比率、芳香族テトラカルボン酸類の選定とその使用量およびポリアミド酸の還元粘度、さらにグリーンフィルムの成形方法、脱水縮合(イミド化)方法によって制御され、これらの選定によって所定範囲の線膨張係数を有するポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムを得ることができる。
【0053】
ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの引張弾性率は、1GPa以上が好ましく、より好ましくは2GPa以上であり、さらに好ましくは3GPa以上である。前記引張弾性率が、1GPa以上であると、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの伸び変形が少なく、取り扱い性に優れる。前記引張弾性率は、20GPa以下が好ましく、より好ましくは12GPa以下であり、さらに好ましくは10GPa以下である。前記引張弾性率が、20GPa以下であると、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムをフレキシブルなフィルムとして使用できる。なお、引張弾性率とは、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの流れ方向(MD方向)の引張弾性率及び幅方向(TD方向)の引張弾性率の平均値を指す。前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの引張弾性率の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0054】
前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの引張破断伸度は、1%以上が好ましく、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは20%以上である。また、100%以下であることが好ましく、より好ましくは90%以下であり、さらに好ましくは80%以下である。前記範囲内であると、取り扱い性に優れる。なお、前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの引張破断伸度とは、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの流れ方向(MD方向)の引張破断伸度及び幅方向(TD方向)の引張破断伸度の平均値を指す。前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの引張破断伸度の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0055】
前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの引張破断強度は、60MPa以上が好ましく、より好ましくは120MPa以上であり、さらに好ましくは240MPa以上である。引張破断強度の上限は特に制限されないが、事実上1000MPa程度未満である。なお、前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの引張破断強度とは、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの流れ方向(MD方向)の引張破断強度及び幅方向(TD方向)の引張破断強度の平均値を指す。前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの引張破断強度の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0056】
本発明のポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムは、従来のポリイミドフィルムに比べて、高い剛性、強度、耐熱性を有し、かつ、無機物質に近い、ほぼ零に近い極めて低い線膨張係数を有している。さらに、熱収縮率についても400℃加熱で0.1%程度と極めて低く、優れた寸法安定性を示している。そのため、本発明のポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムは、1000℃~4000℃の高温で焼成した場合でも、昇温過程で収縮や変形が生じず、当初のフィルム形状を維持したままグラファイト化が進行する。
【0057】
本発明では、複数の前記ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムを積層して得られる、厚さ50μm以上10000μm以下の積層板をグラファイト体の原料として用いることができる。前記積層体の好ましい厚さは100μm以上9500μm以下であり、さらに好ましくは500μm以上9000μm以下である。
ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムを積層する方法としては、耐熱接着剤または熱可塑性のポリイミドを介してフィルム間を接着して積層する方法、フッ素樹脂を介して、フッ素樹脂の融点近傍の温度にて加熱加圧することでフィルムどうしを接着して積層する方法、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルム表面を、プラズマ処理、あるいはアルカリ処理などで活性化し、多価アミン化合物ないしカップリング剤を介在させてフィルム表面どうしを共有結合ないし水素結合で結び付けて接着して積層する方法、 あるいは、プラズマ処理、アルカリ処理、UVオゾン処理などで活性化させたフィルム表面どうしを密着させ、加圧加熱により接着して積層する方法などを用いることができる。
より具体的には、特許第5310345号公報、あるいは特許第5545033号公報に開示されるポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムを積層して得られる積層板を利用することができる。
ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムを積層して得られた積層板は、先に説明したポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムの特性をそのまま引き継ぐため、グラファイト体の原材料としては非常に優れた特性を保持している。
【0058】
本発明のグラファイト体の熱拡散係数(平方cm・秒)は、1以上であることが好ましく、より好ましくは3以上であり、さらに好ましくは5以上である。また20以下であることが好ましく、より好ましくは18以下であり、さらに好ましくは15以下である。前記グラファイト体の熱拡散係数の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0059】
本発明のグラファイト体の熱伝導率(W/mK)は、20以上であることが好ましく、より好ましくは40以上であり、さらに好ましくは60以上である。また200以下であることが好ましく、より好ましくは180以下であり、さらに好ましくは150以下である。前記グラファイの熱伝導率の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0060】
本発明では、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルム、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムを積層して得られる積層板、またはポリイミドベンゾオキサゾール樹脂粉末から得られる成形体を、熱処理する前にあらかじめ目的とするグラファイト体の所定の形状に加工しておくことができる。フィルムについては、機械的な裁断、パンチング、プレ図打ち抜き、トムソン刃およびレーザー加工などの加工方法を適用することができる。また積層板と成形体については、フライス盤、旋盤、ボール盤、レーザー加工、放電加工などによる機械加工を適用することができる。
【実施例0061】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
<ポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)>
ポリマー(ポリアミド酸)濃度が0.2g/dlとなるようにN-メチル-2-ピロリドンに溶解した溶液をウベローデ型の粘度管により30℃で測定した。
<ポリイミドフィルムの厚さ測定>
マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定した。
【0063】
<引張弾性率、引張強度(破断強度)、および、破断伸度>
フィルムを、塗布時の流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)にそれぞれ100mm×10mmの短冊状に切り出したものを試験片とした。引張試験機(島津製作所製、オートグラフ(R) 機種名AG-5000A)を用い、引張速度50mm/分、チャック間距離40mmの条件で、MD方向、TD方向それぞれについて、引張弾性率、引張強度及び破断伸度を求め、MD方向とTD方向の測定値の平均値を求めた。
【0064】
<線膨張係数(CTE)>
フィルムを、塗布時の流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)において、下記条件にて伸縮率を測定し、30℃~45℃、45℃~60℃のように15℃の間隔での伸縮率/温度を測定し、この測定を300℃まで行い、全測定値の平均値をCTEとして算出し、さらにMD方向とTD方向の測定値の平均値を求めた。
機器名 ; MACサイエンス社製TMA4000S
試料長さ ; 20mm
試料幅 ; 2mm
昇温開始温度 ; 25℃
昇温終了温度 ; 300℃
昇温速度 ; 5℃/min
雰囲気 ; アルゴン
<熱収縮率>
IEC 61189-2、12.1 Test 2X02: Dimensional stability of thin laminatesに規定される方法で、加熱条件を400℃1時間として、測定した。
【0065】
<熱拡散係数>
NETZSCH株式会社製の熱伝導率測定装置LFA447を用い、キセノンフラッシュ法、測定温度:25℃、光源:キセノンフラッシュランプ、IR検出器:InSb検出器(液体窒素冷却)の条件で面方向の熱拡散係数を評価した。
良好(○):7cm/s以上
不良(×):7cm/s未満
【0066】
(熱伝導率)
作製したサンプルの熱伝導率を評価した。具体的には、サンプルの「熱拡散率α」、「比熱Cp」および「密度ρ」を測定し、それらの測定値を以下の数式1にあてはめて算出した。
(数式1) 熱伝導率λ=熱拡散率α×比熱Cp×密度ρ
熱拡散率はレーザーフラッシュ法にて測定した。測定装置はレーザーフラッシュ法熱定数測定装置(TC-9000、アルバック理工社製)とした。比熱はDSC法によって測定した。測定装置はDiamond DSC装置(パーキンエルマー社製)とした。電子天秤にて重量を測定し、サンプルの幾何学的寸法から体積を算出して、密度を算出した。
【0067】
(寸法変化率)
熱処理前後の試料の各辺の長さをノギスで測長し、下記式より寸法変化率を求めた。
寸法変化率=100×(熱処理前寸法-熱処理後寸法)/熱処理前寸法 [%]
なお測定は平面試料についてはX方向とY方向それぞれ二辺の測定値の平均値とした。、立体試料についてはXYZ方向それぞれ4辺の平均値とした。
【0068】
(ポリアミド酸溶液Aの調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、223質量部の5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール(DAMBO)を入れた。次いで、4000質量部のN-メチル-2-ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、217質量部のピロメリット酸二無水物(PMDA)を加えて、25℃にて48時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液が得られた。この還元粘度(ηsp/C)は5.5dl/gであった。得られたポリアミド酸溶液に、滑剤としてコロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなる分散体(日産化学工業製「スノーテックス(登録商標)DMAC-ST-ZL」)とをシリカ(滑剤)がポリアミド酸溶液中のポリマー固形分総量にて0.5質量%)になるように加え滑剤入りポリアミド酸溶液Aを得た。
【0069】
(ポリアミド酸溶液Bの調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、108質量部のフェニレンジアミン(PDA)を入れた。次いで、3600質量部のN-メチル-2-ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、先に得た予備分散液を420質量部と292.5質量部のジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を加えて、25℃にて12時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液が得られた。この還元粘度(ηsp/C)は4.5dl/gであった。以下ポリアミド酸溶液Aの調製と同様にコロイダルシリカを加え、滑剤入りポリアミド酸溶液Bを得た。
【0070】
(ポリアミド酸溶液Cの調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、200質量部のジアミノジフェニルエーテル(ODA)を入れた。次いで、3800質量部のN-メチル-2-ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、先に得た予備分散液を390質量部と217質量部のピロメリット酸二無水物(PMDA)を加えて、25℃にて5時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液が得られた。この還元粘度(ηsp/C)は3.7dl/gであった。以下同様にコロイダルシリカを加え、滑剤入りポリアミド酸溶液Cを得た。
得られたポリアミド酸の一覧を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
[フィルムの製造例]
前記ポリアミド酸溶液Aを送液し、ポリエチレンテレフタレート製フィルムの支持体上に最終厚さが38μmとなるようにコーティングし、110℃にて30分間乾燥した。乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムを支持体から剥離してポリアミド酸フィルム(グリーンフィルム)を得た。
得られたグリーンフィルムを、連続式の熱処理炉に通し、第1段が200℃で3分、昇温速度4℃/秒で昇温して第2段として480℃で5分の条件で2段階の加熱を施して、イミド化反応を進行させた。その後、5分間で室温にまで冷却し、さらに両端部(耳部)をスリットし、中央部のみの幅524mm、長さ約200m、厚さ38μmのポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムFAを得た。
以下同様にポリアミド酸溶液と塗布厚、熱処理条件を適宜調整し、ポリアミド酸溶液BからポリイミドフィルムFB、ポリアミド酸溶液CからポリイミドフィルムFCを得た。
得られたフィルムの一覧を表2に示す。なお表中MDはフィルム製膜時の長手方向、TDはフィルム製膜時の幅方向である。
【0073】
【表2】
【0074】
[ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルム積層板の作製]
得られたポリイミドベンゾオキサゾール樹脂フィルムFAを、連続式の真空プラズマ処理装置にて両面に窒素プラズマ処理を行った。次いで大気圧下にて、100mm×100mmに裁断し、MD方向TD方向が交互に直行するように26枚を重ね、さらに上下にガラステフロン(登録商標)製の厚さ3mmのクッション板を置いて、真空プレス装置を用いて280℃、130kg/cm2の条件で30分プレスし、100℃に冷却後圧力を開放し、積層板を取り出し、厚さ約1mmのポリイミドベンゾオキサゾール積層板を得た。同じ操作を8回繰り返して得られた、厚さ1mmの積層板8枚を重ね、上下にクッション材を挟んで280℃、130kgf/平方cmの条件で30分プレスし、厚さ8mmのポリイミドベンゾオキサゾール積層板FAbを得た。
【0075】
[ポリイミドフィルム積層板の作製]
ポリイミドフィルムFB、およびFCを用いて、以下同様に操作を行い、ポリイミドフィルムFBからポリイミドフィルム積層板FBbを、ポリイミドフィルムFCからポリイミドフィルム積層板FCbを得た。
【0076】
[PBO繊維補強樹脂基板の作製]
東洋紡株式会社製PBO繊維ザイロン(登録商標)の織布に、液状のフェノールノボラック形エポキシ樹脂と硬化剤(ポリアミン)の9/1(質量比)混合樹脂を含侵させ、16層となるように折りたたみ、上下にフッ素樹脂クッション材を挟んで150℃8時間加熱+加圧を行ってエポキシ樹脂を硬化させ、厚さ8mmのPBO繊維/エポキシ樹脂のFRP板「XFRP-b」を得た。なおザイロン(登録商標)はポリパラフェニレンビスベンゾオキサゾールの繊維である。
得られたフィルム積層板、およびPBO繊維補強樹脂基板の一覧を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
[ポリイミドベンゾオキサゾール粉末、およびポリイミドベンゾオキサゾール樹脂粉末成形体の作製]
前記ポリアミド酸溶液Aを、室温、攪拌下に、体積比で溶液の300倍量のイオン交換水に、緩やかに滴下し、凝集析出した固体を濾過にて回収し、さらに水洗、脱水後に真空乾燥器を用いて80℃にて24時間乾燥し、ポリアミド酸の粉体Aapを得た。さらにポリアミド酸の粉体Aapをイナート炉にて窒素中で340℃にて60分間熱処理し、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂の粉末Aipを得た。
得られたポリアミド酸の粉体Aapを8質量部、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂粉末92質量部を混合し、鋳物製の型に仕込んで、室温にて100kgf/平方cmにて仮成形し、さらに温度を150℃、350℃、480℃と30分ごとに段階的に上げつつ200kgf/平方cmの圧力を加えて加圧成形を行い、ポリイミドベンゾオキサゾール樹脂からなる20mm×30mm×100mmの立方体SAを得た。
【0079】
[ポリイミドフィルム粉末、およびポリイミド樹脂粉末成形体の作製]
前記ポリアミド酸B、ポリアミド酸Cを用い、同様のプロセスにて粉体化を行い、さらに同様に加熱成形して、各々のポリアミド酸溶液から、20mm×30mm×100mmの立方体SBとSCを得た。
粉末成形品の物性は、ほぼ等方的と見なせるが、ここでは便宜上20mmの辺をX方向30mmの辺をY方向、100mmの辺をZ方向とした。
【0080】
[PBO粉末/ポリイミド樹脂成形体の作製]
東洋紡株式会社製PBO繊維ザイロン(登録商標)を裁断し、長さ3mmのPBOチョップドファイバーを得た。得られたPBOチョップドファイバーをPBOの粉末と見なし、ポリアミド酸Cの溶液(コロイダルシリカ未添加)と混合し、スラリーを得た、なおPBOチョップドファイバー/ポリアミド酸Cの樹脂成分の質量比が70/30となるように配合し、混合時に今練可能な粘度となるように適宜溶剤を添加した。
得られたスラリーを型に注型し、真空乾燥器で100℃24時間乾燥後、加圧成形し、さらに200℃C1時間加熱後、再び加圧成形を行い、最後に350℃1時間の熱処理を行い、型から取り出して20mm×30mm×100mmの立方体のPBO繊維粉末/ポリイミド樹脂成形体ZPRP-Sを得た。
得られた粉末成形体の一覧を表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
<実施例1、比較例1、2>
(予備焼成および高温焼成)
表2に示すフィルムFA、FB、FCを、それぞれMD方向200mm×TD方向100mmの長方形に切断し、グラファイト製の円筒形の保持容器にフィルム面を垂直に立てて入れた。続いてアルゴンガス中で3℃/分で1000℃まで昇温させて1時間保持し、次いで、5℃/分にて1600℃まで昇温し、1600℃で1時間保持した後、室温まで降温し、予備焼成とした。予備焼成終了後、窒素ガス雰囲気中で、室温から昇温速度として3℃/分で昇温させ、2700℃からは1℃/分で3000℃まで昇温し、3000℃にて1時間保持した後、室温まで降温し、高温焼成を終了し、グラファイトフィルムFAg、FBg、FCgを得た。
(圧延処理)
得られたグラファイトフィルムを2対の圧延ロール間に挟み込み、圧延処理を行って圧延し、厚さ15~16μmの圧延グラファイトフィルムFAc、FBc、FCcを得た。
得られたグラファイトフィルムおよび圧延グラファイトフィルムの評価結果を表5に示す。実施例1のグラファイトフィルムは、焼成前と比較して寸法変化が非常に小さいことが解る。また圧延グラファイトフィルムも高い熱拡散係数を有していた。比較例1、比較例2においては全体的に収縮が見られるとともに、フィルム形状のゆがみが生じていた。
【0083】
【表5】
【0084】
<実施例2、比較例3~5>
表3に示すフィルム積層板およびPBO/エポキシFRP板を切削加工して、80mm×80mm×8mmの切削加工平板を得た。なおフィルム積層板FAb、FBb、FCbについて一般のエンジニアプラスチックと同様に良好な切削加工性をしめした。しかしながらZFRP-bについては、繊維が切削工具の刃先に絡み、加工途中で刃先の清掃を頻繁に行う必要があった。さらに切削面には繊維の突出による毛羽が残った。
得られた切削加工平板を実施例1と同様に予備焼成と高温焼成を行い、グラファイト板FAbg、FBbg、FCbg、ZFRP-bgを得た。それぞれの評価結果を表6に示す。
実施例2のグラファイト板は、実施例1と同様に、非常に小さな寸法変化率を示している。熱拡散係数も高い値を示した。なお比較例5においては焼成後に形状が崩れており、取り出し時に崩壊したため、以後の評価は中止した。
【0085】
【表6】
【0086】
<実施例3、比較例6~8>
表4に示す成形体SA、SB、SC、ZPRP-Sを実施例1と同様に予備焼成と高温焼成を行い、グラファイトブロックSAg、SBg、SCg、ZFRP-Sgを得た。それぞれの評価結果を表7に示す。
実施例3の成形体は、実施例1、実施例2と同様に、寸法変化が小さく、さらに高い熱伝導率を有することがわかる。
【0087】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上述べてきたように、本発明のグラファイト体の製造方法を用いれば、形状制御が容易で、かつ高い熱伝導率、熱拡散係数を有するグラファイトのフィルム、板、成形体などを作製することが可能であり、熱伝導材、耐熱シ-ル、摺動材、電動機のブラシ、各種電極、二次電池のセパレータ、から、原子炉などの耐熱、対放射線ブロックにまで広く利用することが可能である。