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特開2022-21931パラメトリックスピーカの音圧改善方法、及び、パラメトリックスピーカ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021931
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】パラメトリックスピーカの音圧改善方法、及び、パラメトリックスピーカ
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20220127BHJP
【FI】
H04R3/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020125841
(22)【出願日】2020-07-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年3月2日、電子情報通信学会 関西支部 第25回 学生会研究発表講演会 講演論文集発行
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(71)【出願人】
【識別番号】591141784
【氏名又は名称】学校法人大阪産業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】西浦 敬信
(72)【発明者】
【氏名】旭 浩平
(72)【発明者】
【氏名】中山 雅人
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220AA44
5D220AB01
5D220AB08
(57)【要約】
【課題】パラメトリックスピーカの復調音の音圧を改善させるパラメトリックスピーカを提供する。
【解決手段】パラメトリックスピーカの音圧改善方法は、可聴音の目標信号60に応じてキャリアの振幅又は周波数を変調し、前記変調により生成された変調信号65を超音波発生素子30から出力すること、を備える。前記キャリアは、パルス変調キャリア62である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可聴音の目標信号に応じてキャリアの振幅又は周波数を変調し、
前記変調により生成された変調信号を超音波発生素子から出力すること、を備え、
前記キャリアは、パルス変調キャリアである
パラメトリックスピーカの音圧改善方法。
【請求項2】
前記変調は、前記目標信号に応じて前記パルス変調キャリアの振幅を変化させるパルス振幅変調である
請求項1に記載のパラメトリックスピーカの音圧改善方法。
【請求項3】
キャリアを生成するキャリア生成器と、
前記キャリアの振幅又は周波数を可聴音の目標信号に応じて変調する変調回路と、
前記変調回路によって変調した変調信号を放射する超音波発生素子と、を備え、
前記キャリア生成器は、パルス変調キャリアを生成するパルス変調キャリア生成器である
パラメトリックスピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パラメトリックスピーカの音圧改善方法、及び、パラメトリックスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、パラメトリックスピーカを開示している。パラメトリックスピーカは、超音波帯域のキャリアを可聴音である目標信号に応じて変調した変調信号を、超音波発生素子を介して放射するよう構成されている。放射された変調信号は、空気の非線形性に基づいて自己復調することで復調される。パラメトリックスピーカは、復調された変調信号によって生じた可聴音である復調音を伝えるよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-349816号公報
【発明の概要】
【0004】
パラメトリックスピーカは、空気の非線形性に基づいて変調信号を自己復調するため、復調音圧が小さいという課題がある。そのため、パラメトリックスピーカにおいて復調音の音圧改善が望まれる。
【0005】
本開示のある側面は、パラメトリックスピーカの音圧改善方法である。開示のパラメトリックスピーカの音圧改善方法は、可聴音である目標信号に応じてキャリアの振幅又は周波数を変調し、前記変調により生成された変調信号を超音波発生素子から出力すること、を備える。前記キャリアは、パルス変調キャリアである。
【0006】
本開示の他の側面は、パラメトリックスピーカである。開示のパラメトリックスピーカは、キャリアを生成するキャリア生成器と、前記キャリアの振幅又は周波数を可聴音の目標信号に応じて変調する変調回路と、前記変調回路によって変調した変調信号を放射する超音波発生素子と、を備える。前記キャリア生成器は、パルス変調キャリアを生成するパルス変調キャリア生成器である。
【0007】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態におけるパラメトリックスピーカの概略構成を表すブロック図である。
図2図2は、図1のパラメトリックスピーカにおける目標信号(可聴音)の再生原理(変調波出力方法)を表す概略図である。
図3図3は、第2実施形態におけるパラメトリックスピーカの概略構成を表すブロック図である。
図4図4は、図3のパラメトリックスピーカにおける目標信号(可聴音)の再生原理(変調波出力方法)を表す概略図である。
図5図5は、パラメトリックスピーカのキャリアに純音(余弦波)キャリアを用いた場合の、振幅変調方式、及び、周波数変調方式に関する概略図である。
図6図6は、純音(余弦波)のキャリアの波形の持つエネルギーを示す図である。
図7図7は、パルス変調のキャリアの波形の持つエネルギーを示す図である。
図8図8は、変調波におけるキャリアの音圧と復調音の音圧の関係を示す図である。
図9図9は、評価実験において、各変調方式における復調音の音圧レベルを示すグラフ図である。
図10図10は、パラメトリックスピーカのキャリアに三角波キャリアを用いた場合の、振幅変調方式を表す概略図である。
図11図11は、検証実験1において、各キャリアにおける復調音の音圧レベルの比較結果を示す図である。
図12図12は、検証実験2において、各キャリアにおける復調音の音圧レベルの比較結果を示す図である。
図13図13は、検証実験3において、各変調方式における高調波歪率を示す図である。
図14図14は、検証実験4において、各変調方式における男声のPESQ値を示す図である。
図15図15は、検証実験4において、各変調方式における女声のPESQ値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<1.パラメトリックスピーカの音圧改善方法、及び、パラメトリックスピーカの概要>
【0010】
(1)実施形態に係るパラメトリックスピーカの音圧改善方法は、可聴音の目標信号に応じてキャリアの振幅又は周波数を変調し、前記変調により生成された変調信号を超音波発生素子から出力すること、を備える。前記キャリアは、パルス変調キャリアである。パルス変調キャリアの波形エネルギーは大きいため、キャリアをパルス変調キャリアにすることで、キャリアの音圧は増加する。これにより、生成された変調信号の音圧が増幅する。その結果、超音波発生素子から生じる可聴音の音圧を改善することができる。
【0011】
(2)前記変調は、前記目標信号に応じて前記パルス変調キャリアの振幅を変化させるパルス振幅変調である。この場合、パルス振幅変調により、音圧の増幅した変調信号が生成される。これにより、音圧の増幅した変調信号が超音波発生素子に入力される。その結果、超音波発生素子から生じる可聴音の音圧を改善することができる。
【0012】
(3)実施形態に係るパラメトリックスピーカは、キャリアを生成するキャリア生成器と、前記キャリアの振幅又は周波数を可聴音の目標信号に応じて変調する変調回路と、前記変調回路によって変調した変調信号を放射する超音波発生素子と、を備え、前記キャリア生成器は、パルス変調キャリアを生成することを特徴とする。パルス変調キャリア生成器によって、音圧が増幅するパルス変調キャリアが生成されることで、変調回路によって変調した変調信号の音圧も増幅する。その結果、超音波発生素子から生じる可聴音の音圧を改善することができる。
【0013】
<2.パラメトリックスピーカの音圧改善方法、及び、パラメトリックスピーカの例>
【0014】
<2.1 第1実施形態>
【0015】
<第1実施形態における構造>
【0016】
図1は、第1実施形態に係るパラメトリックスピーカを示している。図1に示す第1パラメトリックスピーカ1は、超音波帯域のキャリアを、可聴音である目標信号60の振幅に応じて変調した変調信号65を、放射するよう構成されている。第1実施形態においては、キャリアは、目標信号60の振幅に応じて、振幅が変調される。
【0017】
第1パラメトリックスピーカ1は、複数の超音波発生素子30を備える。複数の超音波発生素子30それぞれは、変調信号65を放射する。放射された変調信号65は、空気の非線形性の影響により自己復調することで復調され、可聴音である復調音70が生じる。キャリアとしては、パルス変調キャリア62が用いられる。
【0018】
第1パラメトリックスピーカ1は、超音波発生素子30から放射される変調信号65を生成する信号処理回路10を備える。信号処理回路10は、パルス変調キャリア生成器11を備える。パルス変調キャリア生成器11は、パルス変調キャリア62を生成する。パルス変調キャリア生成器11は、例えば、水晶振動子等を用いた高周波発振器を含んで構成されている。
【0019】
信号処理回路10は、パルス振幅変調回路13を備える。パルス振幅変調回路13は、パルス変調キャリア生成器11からパルス変調キャリア62の入力を受け付けるとともに、目標信号60の入力を受け付ける。パルス振幅変調回路13は、目標信号60の振幅に基づいてパルス変調キャリア62の振幅を変調し、パルス振幅変調信号65を生成する。
【0020】
パルス振幅変調回路13は、例えば、デジタル回路によって構成されていてもよいし、アナログ回路によって構成されていてもよい。デジタル回路は、例えばCPU等のプロセッサ、及び、メモリを備えたコンピュータによって構成される。プロセッサは、メモリに格納されたコンピュータプログラムを実行する。コンピュータプログラムは、コンピュータを、例えば、パルス振幅変調回路13として機能させるよう構成されている。
【0021】
パルス振幅変調回路13は、増幅器20に接続されている。増幅器20は、パルス振幅変調回路13からパルス振幅変調信号65の入力を受け付ける。増幅器20は、パルス振幅変調信号65を増幅し、増幅したパルス振幅変調信号65を超音波発生素子30に入力する。増幅器20は、例えば、超音波帯域の増幅特性が良好なオペアンプ等を用いて構成されている。増幅器20で増幅されたパルス振幅変調信号65は、超音波発生素子30に入力され、超音波発生素子30から放射される。
【0022】
<第1実施形態における変調波出力>
【0023】
図2は、第1実施形態におけるパラメトリックスピーカ1の原理を示す。第1パラメトリックスピーカ1は、変調方式として、パルス振幅変調方式を用いる。
【0024】
目標信号60は、可聴域における音を表す信号である。可聴域は、周波数(低い音である20[Hz]~高い音である20[kHz])の範囲を示す。目標信号60は、音響信号ともいう。
【0025】
パルス変調キャリア62は、パルス変調に用いられるキャリアである。パルス変調は、パルス状のキャリアの振幅又は周波数を変調することである。パルス変調キャリアは、余弦波のキャリアと比較して、キャリアエネルギーが大きい。パルス変調キャリアは、例えば、矩形波である。矩形波のキャリアは、余弦波のキャリアと比較して、キャリアエネルギーが大きい。パルス変調キャリアは、波形の立ち上がり及び立下りが矩形波に比べて緩やかである台形波であってもよい。台形波も、余弦波のキャリアと比較して、キャリアエネルギーが大きい。立ち上がり及び立下りは、直線状であってもよいし、曲線状であってもよい。矩形波又は台形波のようなパルス状のキャリアは、波形の立ち上がりと立ち下がりとの間に、値がほぼ一定の区間を有するとともに、立ち下がりと立ち上がりとの間に値がほぼ一定の区間を有する。
【0026】
これに対して三角波のキャリアは、パルス状ではなく、余弦波のキャリアと比較して、キャリアエネルギーが小さい。パルス状のキャリアには含まれない。キャリアの波形が持つエネルギーに関しては、後述によって説明する。
【0027】
目標信号60の振幅に基づいてパルス変調キャリア62の振幅を変調するパルス振幅変調方式によって、パルス振幅変調信号65が生成される。パルス振幅変調信号65は、複数の超音波発生素子30に入力され、空気中に放射される。空気中に放射されたパルス振幅変調信号65は、空気中を伝搬する過程で空気の非線形性により歪みを生じ、この歪みによって自己復調する。これにより、空気中に放射されたパルス振幅変調信号65は、人間が音として知覚することができる復調音70となる。
【0028】
<2.2 第2実施形態>
【0029】
<第2実施形態における構造>
【0030】
図3は、第2実施形態に係るパラメトリックスピーカ1を示している。第2実施形態に係るパラメトリックスピーカ1は、超音波帯域のキャリアの周波数を、可聴音である目標信号60の振幅に応じてパルス変調キャリア62の周波数を変調した変調信号67を、放射するよう構成されている。
【0031】
第2実施形態に係るパラメトリックスピーカ1は、第1実施形態に係るパラメトリックスピーカ1のパルス振幅変調回路13に替えて、パルス周波数変調回路15を備える。第2実施形態において、説明を省略した点は、第1実施形態と同様である。
【0032】
パルス周波数変調回路15は、パルス変調キャリア生成器11からパルス変調キャリア62の入力を受け付けるとともに、目標信号60の入力を受け付ける。パルス周波数変調回路15は、目標信号60の振幅に基づいてパルス変調キャリア62の周波数を変調し、パルス周波数変調信号67を生成する。
【0033】
パルス周波数変調回路15は、例えば、デジタル回路によって構成されていてもよいし、アナログ回路によって構成されていてもよい。デジタル回路は、例えばCPU等のプロセッサ、及び、メモリを備えたコンピュータによって構成される。プロセッサは、メモリに格納されたコンピュータプログラムを実行する。コンピュータプログラムは、コンピュータを、例えば、パルス周波数変調回路15として機能させるよう構成されている。
【0034】
パルス周波数変調回路15は、第1実施形態と同様に、増幅器20に接続される。増幅器20は、パルス周波数変調回路15からパルス周波数変調信号67の入力を受け付ける。増幅器20は、パルス周波数変調信号67を増幅し、増幅したパルス周波数変調信号67を超音波発生素子30に入力する。増幅器20で増幅されたパルス周波数変調信号67は、超音波発生素子30に入力され、超音波発生素子30から放射される。
【0035】
<第2実施形態における変調波出力方法>
【0036】
図4は、第2実施形態におけるパラメトリックスピーカ1の原理を示す。パラメトリックスピーカ1は、変調方式として、パルス周波数変調方式を用いる。
【0037】
目標信号60は、第1実施形態と同様の信号である。
【0038】
パルス変調キャリア62は、第1実施形態と同様に、パルス変調に用いられるキャリアである。
【0039】
目標信号60の振幅に基づいてパルス変調キャリア62の周波数を変調するパルス周波数変調方式によって、パルス周波数変調信号67が生成される。パルス周波数変調信号67は、複数の超音波発生素子30に入力され、空気中に放射される。空気中に放射されたパルス周波数変調信号67は、空気中を伝搬する過程で空気の非線形性により歪みを生じ、この歪みによって自己復調する。これにより、空気中に放射されたパルス周波数変調信号67は、人間が音として知覚することができる復調音70となる。
【0040】
<3.キャリアの波形が持つエネルギー>
【0041】
パラメトリックスピーカ1に用いられるキャリアには、パルス変調キャリア62の他に、例えば、純音(余弦波)キャリア82がある。以下では、キャリアの波形が持つエネルギーに関して、純音(余弦波)キャリア82と、パルス変調キャリア62と、それぞれの波形が持つエネルギーを比較する。キャリアの波形のエネルギーとは、キャリアの波形の強さを示す。キャリアの波形の強さは、キャリアの音圧を示す。
【0042】
まず、パラメトリックスピーカ1のキャリアに純音(余弦波)キャリア82を用いた場合における、振幅変調方式、及び、周波数変調方式を、図5に示す。目標信号60は、第1実施形態、及び、第2実施形態と同様の信号である。
【0043】
純音(余弦波)キャリア82は、周期的に余弦波形を描く波動を持つ。純音キャリアは、完全な余弦波形を描くものであってもよいし、余弦波形の近似波形を描くものであってもよい。純音とは、単一の振動数で、完全な正弦波形(余弦波形)を描く音のことであり、例えば、音叉又は真空管発振器などが発する音のことである。
【0044】
目標信号60の振幅に基づいて純音(余弦波)キャリア82の振幅を変調する振幅変調方式によって、振幅変調信号85が生成される。また、目標信号60の振幅に基づいて純音(余弦波)キャリア82の周波数を変調する周波数変調方式によって、周波数変調信号87が生成される。
【0045】
図6には、純音(余弦波)キャリア82に基づいて、純音(余弦波)の波形、及び、純音(余弦波)の波形が持つエネルギーE1を表す式を示す。ここで、波形1周期の長さ(時刻)をN、波形の最大振幅をAとすると、純音(余弦波)の波形の持つエネルギーE1は式(1)で表すことができる。式(1)に示すように、純音(余弦波)の波形の持つエネルギーE1(余弦波エネルギー)は、N/2A である。
【0046】
図7には、パルス変調キャリア62に基づいて、矩形波の波形、及び、矩形波の波形が持つエネルギーE2(矩形波エネルギー)を表す式を示す。ここで、波形1周期の長さ(時刻)をN、波形の最大振幅をAとすると、矩形波の波形の持つエネルギーE2は式(2)で表すことができる。式(2)に示すように、矩形波の波形が持つエネルギーE2は、NA である。
【0047】
純音(余弦波)の波形と矩形波の波形それぞれの最大振幅Aが同等であっても、矩形波の波形のエネルギーE2は、純音(余弦波)の波形のエネルギーE1の2倍になる。これにより、矩形波の波形は、純音(余弦波)の波形に比べて、波形の持つエネルギーが大きいことがわかる。すなわち、矩形波の波形は、純音(余弦波)の波形に比べて、音圧が大きいことを示している。
【0048】
したがって、パルス変調キャリア62を用いて生成されたパルス振幅変調信号65、及び、パルス周波数変調信号67は、音圧が大きい。その結果、複数の超音波発生素子30から放射されるパルス振幅変調信号65、及び、パルス周波数変調信号67の音圧も大きくなる。これにより、人間が音として知覚することができる復調音70は、音圧が大きくなる。言い換えると、キャリアの波形のエネルギーが大きくなることで、キャリアの音圧が大きくなる。キャリアの音圧が大きくなることで、復調音の音圧が大きくなる。すなわち、キャリアの波形のエネルギーが大きくなることで、復調音70の音圧が大きくなる。その結果、復調音70の音圧が改善される。
【0049】
純音(余弦波)のキャリアの波形のエネルギーとパルス変調キャリア62の波形のエネルギーとの比較により、図8に示すように、キャリアの音圧が大きくなると、復調音の音圧も大きくなることがわかる。図8に示すグラフ図の横軸はキャリアの音圧レベル[dB]を、縦軸は復調音70の音圧レベル[dB]を、示す。
【0050】
音圧レベルとは、大気圧からの圧力変化量である音圧の圧力の強さを表す。音圧レベルが大きいとは、すなわち、音圧が大きいことを示す。
【0051】
<4.評価実験>
【0052】
本出願の発明者は、パルス変調キャリア62が、パラメトリックスピーカ1の復調音70の音圧改善に有効であることを確認するために評価実験を行った。具体的には、パラメトリックスピーカ1から放射した復調音70を含む音波をマイクロホンで収録し、収録した復調音70の音圧の大きさを音圧レベル[dB]として算出した。
【0053】
マイクロホンは、パラメトリックスピーカ1から0.8mの間隔をあけた場所に配置した。その他実験条件は、以下のとおりである。実験環境は防音室、残響時間は0.15[s]、暗騒音レベルは21.0[dB]、温度及び湿度は20.3度及び38.7パーセント、音源は白色雑音(0~8[kHz])、入力電圧10[V]とした。
【0054】
実験を行った変調方式は、次の3つである。実験例1は、純音(余弦波)キャリア82を用いた振幅変調方式である。実験例2は、純音(余弦波)キャリア82を用いた周波数変調方式である。実験例3は、パルス変調キャリア62を用いたパルス振幅変調方式である。
【0055】
図9には、各変調方式における復調音70の音圧レベル[dB]を示す。横軸は、実験例1、2、3における各変調方式を示す。縦軸は、復調音70の音圧レベル[dB]を示す。実験例のグラフにそれぞれ記入されている値は、復調音70の音圧レベル[dB]の値を示す。図9では、復調音70の音圧レベル[dB]の値が大きいほど、復調音70の音圧がより改善されていることを示す。
【0056】
図9に示すように、実験例1、2、3の中で最も音圧レベル[dB]が高いのは、復調音の音圧レベルが77.4[dB]である実験例3のパルス変調方式であることがわかる。これは、パルス変調キャリア62を用いたパルス振幅変調方式の復調音70の音圧レベル[dB]が、純音(余弦波)キャリア82を用いた振幅変調方式、もしくは、周波数変調方式の復調音70の音圧レベル[dB]に比べて、より大きいことを示している。言い換えると、キャリアの波形のエネルギーが大きいパルス変調キャリア62を用いることで、キャリアの音圧が大きくなり、復調音70の音圧がより改善したことがわかる。この結果から、キャリアの音圧が大きくなると、復調音の音圧も大きくなることが示された。
【0057】
復調音70の音圧レベル[dB]に関して、純音(余弦波)キャリア82を用いた振幅変調方式と周波数変調方式とを比較した結果、周波数変調方式の復調音70の音圧レベル[dB]の方が大きい結果であった。しかしながら、驚くべきことに、パルス変調キャリア62を用いたパルス振幅変調方式と純音(余弦波)キャリア82を用いた周波数変調方式とを比較した結果、パルス変調キャリア62を用いたパルス振幅変調方式の復調音70の音圧レベル[dB]が上回る結果となった。
【0058】
パルス変調キャリア62を用いたパルス周波数変調方式の復調音70の音圧レベル[dB]は、純音(余弦波)キャリア82を用いた振幅変調方式、もしくは、周波数変調方式の復調音70の音圧レベル[dB]に比べて、より大きくなる。さらに、パルス変調キャリア62を用いたパルス周波数変調方式の復調音70の音圧レベル[dB]は、パルス変調キャリア62を用いたパルス振幅変調方式の復調音70の音圧レベル[dB]よりも大きくなる。
【0059】
このように、各キャリアそれぞれを用いて収録した復調音70の音圧の大きさを音圧レベル[dB]として算出した結果、パルス変調キャリア62は、復調音70の音圧の改善に有効であることが示された。さらに、キャリアの音圧が大きくなると、復調音の音圧も大きくなることが示された(図8参照)。
【0060】
<5.検証実験>
本出願の発明者は、パラメトリックスピーカ1に用いるパルス変調キャリア65が、パラメトリックスピーカ1の復調音70の音圧改善に有効であること確認するために検証実験を行った。
【0061】
<5.1 検証実験1>
【0062】
パラメトリックスピーカ1に用いるキャリアには、パルス変調キャリア62、及び、純音(余弦波)キャリア82の他に、例えば、三角波キャリア83がある。図10には、目標信号60の振幅に基づいて三角波キャリア83の振幅を変調し、生成される三角波振幅変調信号86を示す。
【0063】
まず、パラメトリックスピーカ1のキャリアに三角波キャリア83を用いた場合の、三角波振幅変調方式に関して、図10に示す。目標信号60は、第1実施形態、及び、第2実施形態と同様の信号である。目標信号60の振幅に基づいて三角波キャリア83の振幅を変調する三角波振幅変調方式によって、三角波振幅変調信号86が生成される。
【0064】
検証実験1は、具体的には、パラメトリックスピーカ1のキャリアとして純音(余弦波)キャリア82、及び、三角波キャリア83を用いた場合の三角波振幅変調方式にて生成された復調音70を含む音波をマイクロホンで収録した。マイクロホンで収録した復調音70の音圧の大きさは、音圧レベル[dB]として算出した。
【0065】
マイクロホンは、評価実験と同様に、パラメトリックスピーカ1から0.8mの間隔をあけた場所に配置した。その他実験条件は、以下のとおりである。実験環境はオフィス環境、騒音レベルは36.6[dB]、温度及び湿度は24.9度及び69.3パーセント、サンプリング周波数は192[kHz]、音源はTSP信号(0~8[kHz])、入力電圧16[V]とした。
【0066】
実験に用いたキャリアは、第1キャリアと第2キャリアの2つである。第1キャリアは、純音(余弦波)キャリア82(図5参照)である。第2キャリアは、三角波キャリア83(図10参照)である。
【0067】
図11には、各キャリアにおける復調音70の音圧レベル[dB]を示す。横軸は、第1キャリア、及び、第2キャリアといった各キャリアを示す。縦軸は、復調音70の音圧レベル[dB]を示す。各キャリアのグラフにそれぞれ記入されている値は、復調音70の音圧レベル[dB]の値を示す。図11では、復調音70の音圧レベル[dB]の値が大きいほど、復調音70がより改善されていることを示す。
【0068】
図11に示すように、三角波キャリア83である第2キャリアの復調音70の音圧レベルが63.3[dB]を示し、純音(余弦波)キャリア82である第1キャリアの復調音70の音圧レベル71.9[dB]よりも小さいことがわかった。これは、三角波キャリア83の波形の持つエネルギーが、純音(余弦波)キャリア82の波形の持つエネルギーよりも小さい値であることを示す。つまり、キャリアの波形が持つエネルギーが減少すると、キャリアの音圧も減少し、復調音70の音圧が減少することを示している。
【0069】
検証実験1より、三角波キャリア83が復調音70の音圧の改善に有効ではないことが示された。さらに、キャリアの音圧が大きくなると、復調音の音圧も大きくなることが示された(図8参照)。
【0070】
<5.2 検証実験2>
【0071】
検証実験2は、具体的には、パラメトリックスピーカ1のキャリアとしてパルス変調キャリア62、純音(余弦波)キャリア82、及び、ノコギリ波キャリアを用いた場合のノコギリ波振幅変調方式にて生成された復調音70を含む音波をマイクロホンで収録した。マイクロホンで収録した復調音70の音圧の大きさは、音圧レベル[dB]として算出した。
【0072】
マイクロホンは、評価実験と同様に、パラメトリックスピーカ1から0.8mの間隔をあけた場所に配置した。その他実験条件は、以下のとおりである。実験環境はオフィス環境、騒音レベルは25.7[dB]、温度及び湿度は20.2度及び64.1パーセント、サンプリング周波数は192[kHz]、量子化ビット数16bit(出力)、32bit(収録)、音源は白色雑音(0~8[kHz])、入力電圧10[V]とした。
【0073】
実験に用いたキャリアは、第1キャリア、第2キャリア、第3キャリアの3つである。第1キャリアは、純音(余弦波)キャリア82である。第2キャリアは、ノコギリ波キャリアである。第3キャリアは、パルス変調キャリア62である。
【0074】
図12には、各キャリアにおける復調音70の音圧レベル[dB]を示す。横軸は、第1キャリア、第2キャリア、第3キャリアを示す。縦軸は、復調音70の音圧レベル[dB]を示す。各キャリアのグラフにそれぞれ記入されている値は、復調音70の音圧レベル[dB]の値を示す。図12では、復調音70の音圧レベル[dB]の値が大きいほど、復調音70がより改善されていることを示す。
【0075】
図12に示すように、第1キャリア、第2キャリア、第3キャリアの中で最も復調音70の音圧レベル[dB]が高いのは、復調音の音圧レベルが129.9[dB]である第3キャリアであることがわかった。
【0076】
すなわち、パルス変調キャリア62を用いたパルス振幅変調方式の復調音70の音圧レベル[dB]が、純音(余弦波)キャリア82を用いた振幅変調方式より大きい値であることを示している。また、パルス変調キャリアを用いたパルス振幅変調方式の復調音70の音圧レベル[dB]が、ノコギリ波キャリアを用いたノコギリ波振幅変調方式の復調音70の音圧レベル[dB]に比べて、より大きい値であることを示している。
【0077】
パルス変調キャリア62の波形が持つエネルギーは、純音(余弦波)キャリア82の波形の持つエネルギーよりも大きい。また、パルス変調キャリア62の波形が持つエネルギーは、ノコギリ波キャリアの波形が持つエネルギーよりも大きい。このことから、波形の持つエネルギーが増幅すると、復調音70の音圧も増幅することを示している。
【0078】
検証実験2より、改めて、パルス変調キャリア62が復調音70の音圧の改善に有効であることが示された。さらに、キャリアの音圧が大きくなると、復調音の音圧も大きくなることが示された(図8参照)。
【0079】
<5.3 検証実験3>
【0080】
検証実験3は、具体的には、パラメトリックスピーカ1から放射した復調音70を含む音波をマイクロホンで収録し、収録した復調音70における高調波歪率 [dB]を算出した。
【0081】
高調波歪率とは、高い周波数の波形のみを除去し、高周波数成分を除いた高調波歪成分とノイズ成分の大きさを、基本波との比率で示したものである。
【0082】
マイクロホンは、評価実験と同様に、パラメトリックスピーカ1から0.8mの間隔をあけた場所に配置した。その他実験条件は、以下のとおりである。実験環境はオフィス環境、騒音レベルは36.6[dB]、温度及び湿度は24.9度及び69.3パーセント、サンプリング周波数は192[kHz]、音源はLog-upTSP(0~8[kHz])、入力電圧16[V]とした。
【0083】
実験を行った変調方式は、次の3つである。実験例1は、純音(余弦波)キャリア82を用いた振幅変調方式である。実験例2は、純音(余弦波)キャリア82を用いた周波数変調方式である。実験例3は、パルス変調キャリア62を用いたパルス振幅変調方式である。
【0084】
図13には、各変調方式における復調音70の高調波歪率[dB]を示す。横軸は、実験例1、2、3における各変調方式を示す。縦軸は、各変調方式における復調音70の高調波歪率[dB]を示す。各変調方式のグラフに記入されている数値は、各変調方式における復調音70の高調波歪率[dB]の値を示す。したがって、図13では、高調波歪率[dB]の値が小さいほど、高調波歪率[dB]が低く、復調音70に悪影響を与えていないことを示す。
【0085】
図13に示すように、実験例1、実験例2、実験例3の中で高調波歪率[dB]の値が最も低いのは、高調波歪率の値が-8.18[dB]である実験例3であることがわかった。これは、パルス変調キャリア62を用いたパルス振幅変調方式の高調波歪率[dB]が、純音(余弦波)キャリア82を用いた振幅変調方式より小さい値であることを示す。また、パルス変調キャリア62を用いたパルス振幅変調方式の高調波歪率[dB]が、周波数変調方式の高調波歪率[dB]に比べて、より小さい値であることを示す。
【0086】
この結果より、パルス変調キャリア62を用いた復調音70が最も高調波歪率[dB]が低いことがわかる。すなわち、高調波歪率[dB]が復調音70の改善に悪影響を与えていないことが示された。
【0087】
検証実験3より、高調波歪率[dB]の観点において、パルス変調キャリア62が復調音70の音圧の改善に有効であることが示された。
【0088】
<5.4 検証実験4>
【0089】
検証実験4は、具体的には、パラメトリックスピーカ1から放射した復調音70をマイクロホンで収録し、収録した復調音70における音声品質の評価を行った。
【0090】
音声品質の評価指標には、PESQ(Perceptual Evaluation of Speech Quality)という客観的音声品質評価法を用いた。これは、国際規格化されている電話音声の品質評価基準であって、指標は-0.5~4.5の範囲に分布し、該指標の値が大きいほど品質が良いとされている。
【0091】
マイクロホンは、評価実験と同様に、パラメトリックスピーカ1から0.8mの間隔をあけた場所に配置した。その他実験条件は、以下のとおりである。実験環境はオフィス環境、騒音レベルは36.6[dB]、温度及び湿度は24.9度及び69.3パーセント、サンプリング周波数は192[kHz]、音源は評価実験と異なる実験条件を中心に説明する。音源は男声(3話者×5音源)及び女声(3話者×5音源)、入力電圧16[V]とした。
【0092】
実験を行った変調方式は、次の3つである。実験例1は、純音(余弦波)キャリアを用いた振幅変調方式である。実験例2は、純音(余弦波)キャリアを用いた周波数変調方式である。実験例3は、パルス変調キャリアを用いたパルス振幅変調方式である。
【0093】
図14には各変調方式における男声のPESQ値を、図15には各変調方式における女声のPESQ値を、示す。横軸は、実験例1、2、3における各変調方式を示す。縦軸は、PESQ値を示す。グラフ図に記入されている数値は、各変調方式におけるPESQ値を示す。さらに、グラフ図は、実験例1~3それぞれに1パーセントの有意差があるか否かを示す。
【0094】
図14に示すように、実験例1と実験例3、もしくは、実験例2と実験例3、いずれも1パーセントの有意差があると判定された。また、男声のPESQ値の中で最も値が高いのは、実験例3であるパルス変調キャリアを用いたパルス振幅変調方式であり、2.79であった。
【0095】
図15に示すように、実験例1と実験例3は1パーセントの有意差があり、実験例2と実験例3は1パーセントの有意差がないと判定された。また、女声のPESQ値の中で最も値が高いのは、実験例3であるパルス変調キャリアを用いたパルス振幅変調方式であり、2.59であった。
【0096】
このように、パルス変調キャリア62を用いたパルス振幅変調方式におけるPESQ値が、純音(余弦波)キャリア82を用いた振幅変調方式、もしくは、周波数変調方式のPESQ値に比べて、男声・女声ともに、約0.1向上している。これにより、パルス変調キャリア62を用いたパルス振幅変調方式における復調音70は、音質を劣化させることなく人間が音として知覚していることがわかる。
【0097】
検証実験4より、音声品質の観点において、パルス変調キャリア62が復調音70の音圧の改善に有効であることが示された。
【0098】
<6.付記>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 パラメトリックスピーカ、第1パラメトリックスピーカ、第2パラメトリックスピーカ
10 信号処理回路
11 パルス変調キャリア生成器
13 パルス振幅変調回路
20 増幅器
30 超音波発生素子
15 パルス周波数変調回路
60 目標信号(可聴音)
62 パルス変調キャリア
65 パルス振幅変調信号
67 パルス周波数変調信号
70 復調音
82 純音(余弦波)キャリア
85 振幅変調信号
87 周波数変調信号
83 三角波キャリア
86 三角波振幅変調信号
E1 純音(余弦波)の波形のエネルギー
E2 パルス変調波の波形のエネルギー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15