(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021975
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置及びヘッドアップディスプレイ用拡散板
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20220127BHJP
G02B 5/02 20060101ALI20220127BHJP
B60K 35/00 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
G02B27/01
G02B5/02 C
B60K35/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020125908
(22)【出願日】2020-07-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】591162273
【氏名又は名称】株式会社ツジデン
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】三宅 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】横江 潤也
(72)【発明者】
【氏名】南原 孝啓
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 竜
【テーマコード(参考)】
2H042
2H199
3D344
【Fターム(参考)】
2H042BA05
2H042BA14
2H042BA20
2H199DA03
2H199DA12
2H199DA15
2H199DA18
2H199DA33
2H199DA43
2H199DA46
3D344AA21
3D344AA27
3D344AB01
3D344AC25
(57)【要約】
【課題】視認領域の任意の位置から虚像の良好な視認性を得ることができるHUD装置及びHUD用拡散板を提供する。
【解決手段】HUD装置は、照明光を発する光源部と、照明光の部分的な透過により、画像を形成する画像素子と、光源部と画像素子との間の光路上に配置され、延設基準面SPに沿って拡がる板状に形成され、照明光を拡散する拡散板40と、を備える。拡散板40は、等方的な拡散角にて照明光を拡散する等方性拡散ゾーンIDZと、異方的な拡散角にて照明光を拡散する異方性拡散ゾーンADZと、を有する。等方性拡散ゾーンIDZと異方性拡散ゾーンADZとは、延設基準面SPに沿って交互に配置されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(1)に搭載されるように構成され、投影部(3a)に画像を投影することにより、視認領域(EB)から視認可能な虚像(VRI)を表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
照明光を発する光源部(34)と、
照明光の部分的な透過により、前記画像を形成する画像素子(54)と、
前記光源部と前記画像素子との間の光路上に配置され、延設基準面(SP)に沿って拡がる板状に形成され、照明光を拡散する拡散板(40)と、を備え、
前記拡散板は、
等方的な拡散角にて照明光を拡散する等方性拡散ゾーン(IDZ)と、
異方的な拡散角にて照明光を拡散する異方性拡散ゾーン(ADZ)と、を有し、
前記等方性拡散ゾーンと前記異方性拡散ゾーンとは、前記延設基準面に沿って交互に配置されているヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記拡散板は、拡散層(41)とプリズム層(42)とを積層した状態にて有し、
前記拡散層は、前記等方性拡散ゾーン及び前記異方性拡散ゾーンの両方において、照明光に対して等方的な拡散角を付与し、
前記プリズム層は、前記延設基準面に沿って設けられて前記拡散層による拡散角を維持し、前記等方性拡散ゾーンを形成する第1界面部(44)と、前記第1界面部に対して傾斜して設けられて前記拡散層による拡散角に異方性を付与し、前記異方性拡散ゾーンを形成する第2界面部(45)と、を有する請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記プリズム層は、前記第1界面部を上底に対応させると共に前記第2界面部を脚に対応させた台形断面(43a)をもつ複数のプリズム素子(43)を、前記延設基準面に沿って配列したプリズムアレイ状に形成されている請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
視認領域(EB)から視認可能な虚像(VRI)を表示するヘッドアップディスプレイ装置に用いられ、延設基準面(SP)に沿って拡がる板状に形成されたヘッドアップディスプレイ用拡散板であって、
等方的な拡散角にて光を拡散する等方性拡散ゾーン(IDZ)と、
異方的な拡散角にて光を拡散する異方性拡散ゾーン(ADZ)と、を備え、
前記等方性拡散ゾーンと前記異方性拡散ゾーンとは、前記延設基準面に沿って交互に配置されているヘッドアップディスプレイ用拡散板。
【請求項5】
拡散層(41)とプリズム層(42)とを積層した状態にて備え、
前記拡散層は、前記等方性拡散ゾーン及び前記異方性拡散ゾーンの両方において、光に対して等方的な拡散角を付与し、
前記プリズム層は、前記延設基準面に沿って設けられて前記拡散層による拡散角を維持し、前記等方性拡散ゾーンを形成する第1界面部(44)と、前記第1界面部に対して傾斜して設けられて前記拡散層による拡散角に異方性を付与し、前記異方性拡散ゾーンを形成する第2界面部(45)と、有する請求項4に記載のヘッドアップディスプレイ用拡散板。
【請求項6】
前記プリズム層は、前記第1界面部を上底に対応させると共に前記第2界面部を脚に対応させた台形断面(43a)をもつ複数のプリズム素子(43)を、前記延設基準面に沿って配列したプリズムアレイ状に形成されている請求項5に記載のヘッドアップディスプレイ用拡散板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書による開示は、ヘッドアップディスプレイ装置及びヘッドアップディスプレイ用拡散板に関する。
【背景技術】
【0002】
視認領域から視認可能な虚像を表示するヘッドアップディスプレイ装置が知られている。特許文献1に開示の装置は、光源部、画像素子及び拡散板を備えている。光源部は、照明光を発する。画像素子は、照明光の部分的な透過により、画像を形成する。拡散板は、三角形断面をもつプリズム素子を配列した異方性プリズムアレイ層を有し、異方的な拡散角にて照明光を拡散する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の拡散板は、照明光源からの照明光を全て異方的な拡散角にて拡散してしまう。すなわち、プリズム素子の三角形断面の頂部方向に進行する光の光量が減少する。このため、例えば視認者が視認領域の中心部から虚像を正面視した場合に、虚像の輝度が低下することが懸念されている。
【0005】
この明細書の開示による目的の1つは、視認領域の任意の位置から虚像の良好な視認性を得ることができるヘッドアップディスプレイ装置及びヘッドアップディスプレイ用拡散板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示された態様の1つは、車両(1)に搭載されるように構成され、投影部(3a)に画像を投影することにより、視認領域(EB)から視認可能な虚像(VRI)を表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
照明光を発する光源部(34)と、
照明光の部分的な透過により、画像を形成する画像素子(54)と、
光源部と画像素子との間の光路上に配置され、延設基準面(SP)に沿って拡がる板状に形成され、照明光を拡散する拡散板(40)と、を備え、
拡散板は、
等方的な拡散角にて照明光を拡散する等方性拡散ゾーン(IDZ)と、
異方的な拡散角にて照明光を拡散する異方性拡散ゾーン(ADZ)と、を有し、
等方性拡散ゾーンと異方性拡散ゾーンとは、延設基準面に沿って交互に配置されている。
【0007】
また、開示された態様の他の1つは、視認領域(EB)から視認可能な虚像(VRI)を表示するヘッドアップディスプレイ装置に用いられ、延設基準面(SP)に沿って拡がる板状に形成されたヘッドアップディスプレイ用拡散板であって、
等方的な拡散角にて光を拡散する等方性拡散ゾーン(IDZ)と、
異方的な拡散角にて光を拡散する異方性拡散ゾーン(ADZ)と、を備え、
等方性拡散ゾーンと異方性拡散ゾーンとは、延設基準面に沿って交互に配置されている。
【0008】
これらの態様によると、交互に配置された等方性拡散ゾーンと異方性拡散ゾーンとが拡散板に設けられている。こうした交互配置により、虚像として結像される画像全体に対する照明態様の均一性を高めつつ、視認領域全体に対する照明ムラを低下することができる。詳細に、光源部から発せられて等方性拡散ゾーンを経由した照明光は、等方的な拡散角によって拡散されるので、視認領域のうち中心部を主とした照明を、視認領域に対して行なう。一方、光源部から発せられて異方性拡散ゾーンを経由した照明光は、異方的な拡散角によって拡散されるので、視認領域のうち等方性拡散ゾーンによる照明において照度が低い部分(例えば外周部)を主とした照明を、視認領域に対して行なう。両拡散ゾーンが互いに補完し合うように視認領域は照明されるので、当該視認領域における照明ムラが低下されるのである。以上により、虚像の視認者は、視認領域の任意の位置から虚像の良好な視認性を得ることができる。
【0009】
なお、括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】HUD装置の車両への搭載状態を示す図である。
【
図3】拡散板の一部分を拡大して示す拡大断面図である。
【
図4】1つのプリズム素子を
図3よりもさらに拡大して示す拡大断面図である。
【
図5】拡散ゾーンと視認領域の照度との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1に示すように、本開示の第1実施形態によるヘッドアップディスプレイ(Head Up Display、HUD)装置10は、車両1に搭載されるように構成されている。HUD装置10は、車両1のインストルメントパネル2に設置されている。HUD装置10は、車両1のウインドシールド3に設けられた投影部3aへ向けて画像の光を投影する。投影部3aにて反射された画像の光は、車両1の室内に設定された視認領域EBに到達する。こうしてHUD装置10は、視認領域EBとはウインドシールド3を挟んだ反対側の室外空間に、視認領域EBから視認可能な虚像VRIを表示する。
【0013】
したがって、視認領域EBにアイポイントEPを位置させた視認者としての乗員は、虚像VRIに表示される各種情報を認識することができる。表示される各種情報としては、例えば車速等の車両1の状態を示す情報、視界補助情報、道路情報等が挙げられる。
【0014】
以下において、特に断り書きがない限り、前、後、上、下、左及び右が示す各方向は、水平面HP上の車両1を基準として記載される。
【0015】
車両1のウインドシールド3は、例えばガラスないし合成樹脂により透光性の板状に形成された透過部材である、ウインドシールド3は、インストルメントパネル2よりも上方に配置されている。ウインドシールド3は、前方から後方へ向かう程、インストルメントパネル2との間隔を大きくするように傾斜して配置されている。ウインドシールド3は、HUD装置10から光が投影される投影部3aを、滑らかな凹面状又は平面状に形成している。こうした投影部3aは、HUD装置10からの光を反射するように構成されている。
【0016】
なお、投影部3aは、ウインドシールド3に設けられていなくてもよい。例えば車両1と別体となっているコンバイナを車両1の室内に設置して、当該コンバイナに投影部3aが設けられていてもよい。
【0017】
視認領域EBは、HUD装置10により表示される虚像VRIが所定の視認性を満たすように(例えば虚像VRI全体が所定の輝度以上となるように)視認可能となる空間領域であり、アイボックスとも称される。視認領域EBは、車両1の室内空間に設定される。視認領域EBは、典型的には、車両1に設定されたアイリプスと重なるように配置される。アイリプスは、両眼それぞれに対して設定され、乗員のアイポイントEPの空間分布を統計的に表したアイレンジに基づいて、楕円体状の仮想的な空間として設定されている(詳細はJISD0021:1998も参照)。
【0018】
視認領域EBは、例えば両眼に対応した一対のアイリプスを両方包含するように設定され得る。具体的に、座席に着座する乗員が虚像VRIを視認しやすいように、乗員の両眼が並ぶ方向が車両1の左右方向に沿っていることを考慮して、視認領域EBの左右方向の幅が上下方向の幅よりも大きくなるように、設定されている。
【0019】
このようなHUD装置10の具体的構成を、以下に説明する。HUD装置10は、ハウジング11、導光部21及び表示器31等を含む構成である。
【0020】
ハウジング11は、例えば合成樹脂ないし金属により遮光性に形成され、車両1のインストルメントパネル2内に設置されている。ハウジング11は、導光部21、表示器31及び制御ユニット等を収容する中空形状を呈している。ハウジング11は、投影部3aと対向する上面部に、光学的に開口する窓部12を有している。窓部12は、例えば虚像VRIとして結像される画像の光を透過可能な防塵シート13で覆われている。
【0021】
導光部21は、表示器31から発せられた画像の光を投影部3a経由にて視認領域EBへと導光する。導光部21は、例えば平面鏡22及び凹面鏡24を有している。平面鏡22は、例えば合成樹脂ないしガラスからなる基材の表面に、アルミニウム等の金属膜を蒸着形成すること等により、反射面23を有している。平面鏡22の反射面23は、滑らかな平面状に形成されている。表示器31から平面鏡22に入射した画像の光は、その反射面23により凹面鏡24へ向けて反射される。
【0022】
凹面鏡24は、例えば合成樹脂ないしガラスからなる基材の表面に、アルミニウム等の金属膜を蒸着形成すること等により、反射面25を有している。凹面鏡24の反射面25は、凹状に湾曲することで、滑らかな凹面状に形成されている。平面鏡22から凹面鏡24に入射した光は、その反射面25により投影部3aへ向けて反射される。
【0023】
また、凹面鏡24は、アクチュエータの駆動に応じて、左右方向に伸びる回転軸24aのまわりに回動可能となっている。こうした回動によって虚像VRIの表示位置及び視認領域EBの位置を上下方向に全体的に変位するように調整することができる。
【0024】
表示器31は、長方形状の表示画面56に画像を表示し、画像を虚像VRIとして結像させるための画像の光を導光部21へ向けて射出する。ここで本実施形態では、画像が虚像表示されるときに、当該画像において車両1の上下方向に対応する方向に画像上下軸A1を定義し、当該画像において画像上下軸A1と垂直な方向に画像左右軸A2を定義する。本実施形態では、表示画面56が矩形状に形成されており、表示画面56の短手方向が画像上下軸A1に対応し、表示画面56の長手方向が画像左右軸A2に対応している。
【0025】
本実施形態の表示器31は、液晶表示器となっている。表示器31は、
図2に示すように、ケーシング32、光源部34、集光レンズ38、画像素子54及び拡散板40等を含む構成である。
【0026】
光源部34は、複数の照明光源36を光源用回路基板35上に実装して形成されている。光源用回路基板35は、例えばガラスエポキシ樹脂等の合成樹脂を基材とした平板状のリジッド基板である。本実施形態の照明光源36には、例えば点状光源としてのLED(Light Emitting Diode)光源が採用されている。各照明光源36は、光源用回路基板35の表面に対する垂直方向のうち、画像素子54へ向かう方向を主な進行方向DTとして、白色の照明光を発光する。「主な」進行方向DTとは、照明光の強度が最大となる方向である。
【0027】
集光レンズ38は、光源部34と拡散板40との間の光路上に配置されている。集光レンズ38は、光源部34から発せられた照明光を、集光する光学素子である。集光レンズ38は、レンズアレイであってもよく、単一のレンズ面による単一レンズであってもよい。集光レンズ38は1つであってもよく、複数設けられてもよい。
【0028】
画像素子54は、パネル状(平板状)に形成されている。画像素子54は、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、TFT)を用いた透過型のTFT液晶パネルであって、例えば2次元配列にて配列された複数の画素を形成しているアクティブマトリクス型の液晶パネルである。ここでいう画素は、例えばサブ画素と称されている。
【0029】
画像素子54は、光を透過可能に形成されて光学的に開口する光学的開口部を形成している。光学的開口部は、画素が前述のように並べられた形態にて、長手方向及び短手方向を有する矩形状、すなわち長方形状に形成されている。光学的開口部において導光部21側を向く表面は、画像を表示するための表示画面56となっている。一方、光学的開口部において光源部34側を向く表面は、照明光を受光する受光面55となっている。
【0030】
画像素子54は、画素毎に透過率を制御されることが可能である。画像素子54は、光源部34から発せられ、受光面55にて受光した照明光の少なくとも一部を遮光することによって、照明光のうち他部(これが前述の画像の光となる)を透過させて、表示画面56上に画像を形成可能である。隣り合う画素には、互いに異なる色(例えば赤、緑及び青)のカラーフィルタが設けられており、これらの組み合わせにより、様々な色が再現されるようになっている。本実施形態において画像素子54の表示画面56及び受光面55は、光源用回路基板35の表面に対して、例えば10~20度程度の傾斜角にて傾斜して配置されている。
【0031】
拡散板40は、HUD装置10による虚像VRIの表示のために最適化されたヘッドアップディスプレイ用拡散板となっている。拡散板40は、光源部34と画像素子54との間、より詳細には集光レンズ38と画像素子54との間に配置されている。拡散板40は、画像素子54の受光面55に近接されるか、貼り付けられた状態にて配置されることが好ましい。
【0032】
拡散板40は、仮想の延設基準面SPに沿って拡がる板状に形成されている。延設基準面SPは、拡散板40が平板状であるのか又は湾曲板状であるのか、拡散板40の巨視的な形状を規定する面である。延設基準面SPは、照明光による光学系においては、光源部34からの照明光の主な進行方向DTを横切るように設定される。詳細に、延設基準面SPは、画像素子54の表示画面56及び受光面55に対する平行方向に沿って設定されている。
【0033】
特に本実施形態では、延設基準面SPが平面状に設定されることで、拡散板40は平板状を呈している。拡散板40は、可撓性を有していてもよいが、使用時には撓み難いようにケーシング32に固定される。拡散板40の外周輪郭は、例えば表示画面56の矩形の形状及びサイズに合わせられている。
【0034】
拡散板40は、照明光を拡散するように形成されている。拡散板40は、
図3にも拡大図を示すように、等方性拡散ゾーンIDZと異方性拡散ゾーンADZとを、延設基準面SPに沿って交互に配置した構成である。等方性拡散ゾーンIDZは、等方的な拡散角にて照明光を拡散するゾーン(換言すると拡散板40上の領域)である。異方性拡散ゾーンADZとは、異方的な拡散角にて照明光を拡散するゾーン(換言すると拡散板40上の領域)である。ここでゾーンとは、拡散板40上に所定の面積を占める領域であって、光学系の少なくとも一部を横切るように配置された領域を意味する。
【0035】
本実施形態における拡散角とは、仮に、平行光束が進行方向に沿って拡散主体に入射し拡散主体を透過した後の光の強度の放射角度分布において、光の強度が最大値を示すピーク角における光の強度に対して、光の強度が半値以上となる範囲の角度を示している。
【0036】
さらに等方的な拡散角による拡散とは、上述の放射角度分布が、平行光束の入射側における進行方向を拡散主体よりも射出側へそのまま直線的に延長した延長線が回転中心とされた回転対称性を、実質的に有していることを意味する。異方的な拡散角による拡散とは、上述の放射角度分布が、この延長線が回転中心とされた回転対称性を有していないことを意味する。
【0037】
なお、本実施形態において照明光の主な進行方向DTに対して拡散板40が傾斜して配置されている。このため、例えば光がその進行方向に対して傾斜配置された平行平面板を透過する場合に僅かな収差(例えばコマ収差)が発生するように、拡散板40の等方性拡散ゾーンIDZでの拡散による放射角度分布が完全な回転対称性を有するものとはならない。故に、回転対称性の乱れが僅かに生じ得る。しかしながら拡散板40の傾斜影響程度の意図的でない回転対称性の乱れについては無視されるものとし、回転対称性が実質的に実現されているものとみなす。
【0038】
拡散板40は、拡散層41とプリズム層42とを互いに積層した状態で有している。拡散層41及びプリズム層42は、等方性拡散ゾーンIDZ及び異方性拡散ゾーンADZの全領域に跨って配置されている。本実施形態においてプリズム層42は、拡散層41よりも画像素子54側に配置されている。したがって照明光は、拡散層41に入射した後、プリズム層42に入射する。
【0039】
拡散層41は、例えばアクリル樹脂ないしはポリカーボネイト樹脂等の透過率の高い透光性合成樹脂からなる基材に、マイクロビーズ等の拡散粒子を多数混合することにより、平坦なシート状又は板状に形成されている。拡散層41において拡散板40の外部のうち光源部側に露出する露出界面部41aは、延設基準面SPに対する平行方向に沿っている。
【0040】
拡散粒子は、基材の内部に分散配置されていてもよく、基材の表面に分散配置されていてもよい。また、拡散粒子のサイズ及び形状は、揃っていても、不揃いであってもよい。拡散粒子が不揃いであっても、多数の拡散粒子が基材に対してランダムに分散配置されることにより、等方性拡散ゾーンIDZ及び異方性拡散ゾーンADZに関係なく、拡散板40の全体に亘って均質的に、略等方的な拡散角が実現され得る。ここで、拡散層41における等方的な拡散角は、延設基準面SPに対して垂直な任意の断面における角度として、例えば5~25度程度に設定される。拡散層41は、等方性拡散ゾーンIDZ及び異方性拡散ゾーンADZの両方に、照明光に対して等方的な拡散角を付与する機能を有する。
【0041】
プリズム層42は、複数のプリズム素子43を延設基準面SPに沿って配列したプリズムアレイ状に形成されている。例えば本実施形態のプリズム層42は、シート状又は板状に形成され、接着により拡散層41と一体化されている。なお、拡散層41とプリズム層42とは、同一材料により一体成型されていてもよい。
【0042】
各プリズム素子43は、延伸方向D1に沿って延伸する細長い形状となっている。各プリズム素子43は、延設基準面SPに対する垂直方向に沿い、延伸方向D1と直交する断面において、台形状の断面(以下、台形断面43a)をもつように形成されている。本実施形態において台形断面43aは、下底部分を拡散層41側に配置し、上底部分を拡散板40の外部、詳細には画像素子54側へ突出させた配置となっている。台形断面43aは、プリズム素子43における任意の箇所において、実質的に同一サイズ及び同一形状を保っている。各プリズム素子43は、
図4にさらなる拡大図を示すように、台形断面43aのうち上底部分に対応した第1界面部44と、脚部分に対応した一対の第2界面部45とを、拡散板40の外部のうち画像素子54側に露出させるように形成している。
【0043】
第1界面部44は、延設基準面SPに対する平行方向に沿って、例えば平面状かつ滑らかな鏡面状に設けられている。第1界面部44は、拡散層41における等方的な拡散角を維持し、等方性拡散ゾーンIDZを形成する。
【0044】
例えば拡散板40において、拡散層41及びプリズム層42のうち第1界面部44を透過する照明光は、まず、露出界面部41aにて屈折された後、拡散層41にて等方的な拡散角を付与される。その後、照明光は、プリズム層42のうち第1界面部44にて屈折されて射出される。ところが、露出界面部41aと第1界面部44がそれぞれ延設基準面SPに対する平行方向に沿っている結果、第1界面部44屈折後の照明光は、拡散板40入射前の照明光の進行方向DTを略維持し、拡散層41における拡散による放射角度分布を略維持する。故に、第1界面部44は、拡散層41による等方的な拡散角を維持する機能を有するといえる。拡散板40のうち第1界面部44が配置されている部分が、等方性拡散ゾーンIDZとしての機能を発揮する。
【0045】
一対の第2界面部45は、各プリズム素子43において、第1界面部44を延伸方向D1の直交方向D2における両側から挟む配置にて、第1界面部44と接続されるように形成されている。各第2界面部45は、同じ台形断面43aを構成する第1界面部44から離れる程、拡散層41との間隔を狭めるように、第1界面部44に対して傾斜して設けられている。本実施形態では、一対の第2界面部45は、第1界面部44を挟んだ対称形状に形成されていることで、互いに逆勾配であるが、延設基準面SPに対する傾斜角度自体は実質的に同じとなるように形成されている。各第2界面部45は、例えば平面状かつ滑らかな鏡面状に設けられている。
【0046】
各第2界面部45は、第1界面部44と角度をなす接続部分を、ピン角形状に形成していてもよく、湾曲面を以て両界面部が滑らかに接続されるような面取り形状に形成していてもよい。
【0047】
各第2界面部45は、拡散層41による等方的な拡散角に異方性を付与し、異方性拡散ゾーンADZを形成する。例えば拡散板40において、拡散層41及びプリズム層42のうち第2界面部45を透過する照明光は、まず、露出界面部41aにて屈折された後、拡散層41にて等方的な拡散角を付与される。その後、照明光は、プリズム層42のうち第2界面部45にて屈折されて射出される。第2界面部45は、第1界面部44ないし延設基準面SPに対して傾斜して構成されているため、第2界面部45屈折後の照明光は、拡散板40入射前の照明光の進行方向DTを大きく曲げることとなる。故に、拡散板40入射前の照明光の主な進行方向DTの延長線を回転中心とした放射角度分布の回転対称性は、大きく失われることとなる。拡散板40のうち第2界面部45が配置されている部分が、異方性拡散ゾーンADZとしての機能を発揮する。
【0048】
複数のプリズム素子43は、延伸方向D1の直交方向D2を配列方向として、隙間少なく又は隙間なく敷き詰められた状態にて、1次元配列にて配列されている。隣接するプリズム素子43間では、第2界面部45の勾配が逆勾配となるものの、2つのプリズム素子43にそれぞれ属する第2界面部45が接続されて谷部を形成している。したがって、異方性拡散ゾーンADZは、互いに接続された2つの第2界面部45に跨る形態にて配置される。
【0049】
ここで、各プリズム素子43の高さHpeは、0.1μm以上100μm以下の範囲に設定されることが好ましい。プリズム素子43の高さHpeは、延設基準面SPに対する垂直方向に沿った寸法であって、隣接するプリズム素子43間に形成される谷部から第1界面部44までの寸法を意味する。
【0050】
さらに、複数のプリズム素子43の配列ピッチPpeは、0.1μm以上100μm以下の範囲に設定されることが好ましい。また、複数のプリズム素子43の配列ピッチPpeは、画像素子54における画素ピッチ以下となることが好ましい。そうすることで、同じ画素に、等方性拡散ゾーンIDZを経由した照明光と、異方性拡散ゾーンADZを経由した照明光とを両方入射させることは、容易に実現される。
【0051】
延設基準面SPに沿った拡散板40の面積において、等方性拡散ゾーンIDZの面積及び異方性拡散ゾーンADZの面積の合計面積に対する異方性拡散ゾーンADZの面積の割合は、10%以上90%以下の範囲に設定されることが好ましい。この面積の割合は、台形断面43aの具体的形状を適宜調整することで任意に設定可能である。
【0052】
本実施形態において、各プリズム素子43における台形断面43aのサイズ及び形状は、実質的に、全て同一形状となっている。したがって、等方性拡散ゾーンIDZと異方性拡散ゾーンADZが交互配置されてなるゾーン周期は、拡散板40の全体に亘って一定周期である。そして、前述の面積の割合も、拡散板40の全体に亘って一定割合を保っている。
【0053】
さらに本実施形態では、各プリズム素子43の延伸方向D1が表示画面56の短手方向に沿って配置され、当該延伸方向D1の直交方向D2が表示画面56の長手方向に沿って配置されている。そして、台形断面43aは、直交方向D2に沿った断面上に形成されている。すなわち、第2界面部45での屈折により照明光が偏向される偏向方向は、直交方向D2、換言すると表示画面56の長手方向、さらに画像左右軸A2に対応したものとなる。
【0054】
したがって、
図5に示すように、本実施形態の第2界面部45によって付与される異方性は、視認領域EBにおける左右方向への照明光の拡張を意味する。異方性拡散ゾーンADZによって拡散された照明光は、視認領域EBのうち外周部にピークを有する照度分布ILA(
図5の上側の二点鎖線グラフ)を以て、視認領域EBを照明する。すなわち、異方性拡散ゾーンADZは、視認領域EBにアイポイントEPを位置させた乗員が頭を左右方向へ移動させた場合の虚像VRIの視認性向上に寄与する。
【0055】
対して等方性拡散ゾーンIDZによって拡散された照明光は、視認領域EBのうち中心部にピークを有する照度分布ILI(
図5の上側の破線グラフ)を以て、視認領域EBを照明する。等方性拡散ゾーンIDZは、異方性拡散ゾーンADZによるアイポイントEP移動時の視認性と、視認領域EBの中心部から虚像VRIを視認する、いわゆる正面視における視認性とを、バランスさせる。異方性拡散ゾーンADZによる照度分布ILAと、等方性拡散ゾーンIDZによる照度分布ILIとの重ね合わせ分布ILS(
図5の上側の実線グラフ)は、視認領域EBにおける照度ムラを飛躍的に改善している。
【0056】
(作用効果)
以上説明した第1実施形態の作用効果を以下に改めて説明する。
【0057】
第1実施形態によると、交互に配置された等方性拡散ゾーンIDZと異方性拡散ゾーンADZとが拡散板40に設けられている。こうした交互配置により、虚像VRIとして結像される画像全体に対する照明態様の均一性を高めつつ、視認領域EB全体に対する照明ムラを低下することができる。詳細に、光源部34から発せられて等方性拡散ゾーンIDZを経由した照明光は、等方的な拡散角によって拡散されるので、視認領域EBのうち中心部を主とした照明を、視認領域EBに対して行なう。一方、光源部34から発せられて異方性拡散ゾーンADZを経由した照明光は、異方的な拡散角によって拡散される。そのため、こうした照明光は、視認領域EBのうち等方性拡散ゾーンIDZによる照明において照度が低い部分(例えば外周部)を主とした照明を、視認領域EBに対して行なう。両拡散ゾーンIDZ,ADZが互いに補完し合うように視認領域EBは照明されるので、当該視認領域EBにおける照明ムラが低下されるのである。以上により、虚像VRIの視認者は、視認領域EBの任意の位置から虚像VRIの良好な視認性を得ることができる。
【0058】
また、第1実施形態によると、等方性拡散ゾーンIDZ及び異方性拡散ゾーンADZの両方において、照明光に対して等方的な拡散角を付与する拡散層41が設けられている。そして、拡散層41に対して積層されるプリズム層42は、第1界面部44と第2界面部45とを有する。この第1界面部44は、延設基準面SPに沿って設けられ、拡散層41による拡散角を維持し、等方性拡散ゾーンIDZを形成する。また、第2界面部45は、第1界面部44に対して傾斜して設けられ、拡散層41による拡散角に異方性を付与し、異方性拡散ゾーンADZを形成する。これにより、プリズム界面の傾斜有無によって、製造容易かつ高精度に、等方性拡散ゾーンIDZと異方性拡散ゾーンADZとを区分することが可能となる。故に、虚像VRIとして結像される画像全体に対する照明態様の均一性と視認領域EB全体に対する照明ムラの低下とを高い次元にて両立することができる。
【0059】
また、第1実施形態によると、プリズム層42は、第1界面部44を上底に対応させると共に第2界面部45を脚に対応させた台形断面43aをもつプリズム素子43を、延設基準面SPに沿って配列したプリズムアレイ状に形成されている。こうした台形断面プリズムアレイの構成によれば、強度の安定した形状にて第1界面部44及び第2界面部45が実現される。したがって、虚像VRIとして結像される画像全体に対する照明態様の均一性と視認領域EB全体に対する照明ムラの低下との両立が、容易かつ持続的に実現可能となる。
【0060】
(他の実施形態)
以上、一実施形態について説明したが、本開示は、当該実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0061】
具体的に変形例1としては、
図6に示すように、台形断面43aは、上底部分を拡散板40の外部から内部の拡散層41側へ凹ませた形状となっていてもよい。
図6の例では、プリズム層42は、第2界面部45を形成する三角断面をもつ複数のプリズム素子43Xを、第1界面部44に対応した平面部Pを素子間に空けるように、配列した構成であるともいえる。
【0062】
変形例2としては、
図7に示すように、プリズム層42は、第2界面部45を形成する多角形断面(例えば五角形断面)をもつ複数のプリズム素子43Yを、第1界面部44に対応した平面部Pを素子間に空けるように、配列した構成であってもよい。
【0063】
変形例3としては、
図8に示すように、第2界面部45は、凹状湾曲又は凸状湾曲をもつ湾曲面状に形成されていてもよい。
【0064】
変形例4としては、第1界面部44及び第2界面部45は、鏡面状に限らず、粗面状に形成されて補助的な拡散機能を有していてもよい。また、プリズム層42に拡散粒子が混合されて補助的な拡散機能を有していてもよい。
【0065】
変形例5としては、各プリズム素子43は、例えば円錐、四角錐等の錐状に形成されていてもよい。この場合に、プリズム層42は、複数のプリズム素子43を2次元配列にて配列した構成であってもよい。
【0066】
変形例6としては、等方性拡散ゾーンIDZと異方性拡散ゾーンADZが交互配置されてなるゾーン周期は、拡散板40の中心部から外周部へ向かうに従って、漸次拡大又は漸次縮小するように、変調していてもよい。
【0067】
変形例7としては、等方性拡散ゾーンIDZの面積及び異方性拡散ゾーンADZの面積の合計面積に対する異方性拡散ゾーンADZの面積の割合は、拡散板40の中心部から外周部へ向かうに従って、漸次増大又は漸次減少するように、変調していてもよい。
【0068】
変形例8としては、拡散板40は、画像素子54の表示画面56及び受光面55に対する平行方向に沿って配置されていなくてもよく、光源用回路基板35の表面に対する平行方向に沿って配置されていてもよい。
【0069】
変形例9としては、プリズム層42は、拡散層41よりも光源部34側に配置され、照明光は、プリズム層42に入射した後、拡散層41に入射するようになっていてもよい。このような配置であっても、拡散層41による拡散角を維持する第1界面部44の機能は順序可換的に発揮され、拡散層41による拡散角に異方性を付与する第2界面部45の機能は順序可換的に発揮され得る。
【0070】
変形例10としては、光源部34は、照明光源36が1つだけ設けられる構成であってもよい。照明光源36は、LED光源以外の面状光源等であってもよい。
【0071】
変形例11としては、導光部21は、平面鏡に代えて、凸面状の反射面を有する凸面鏡を有する構成であってもよい。また導光部21は、レンズ、プリズム、ホログラフィック光学素子等を含む構成であってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1:車両、3a:投影部、34:光源部、10:HUD装置(ヘッドアップディスプレイ装置)、40:拡散板(HUD用拡散板)、41:拡散層、42:プリズム層、43:プリズム素子、43a:台形断面、44:第1界面部、45:第2界面部、54:画像素子、EB:視認領域、VRI:虚像、SP:延設基準面、IDZ:等方性拡散ゾーン、ADZ:異方性拡散ゾーン