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  • 特開-癒着防止用高分子組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022031
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】癒着防止用高分子組成物
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/06 20060101AFI20220127BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20220127BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20220127BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20220127BHJP
   A61L 33/06 20060101ALI20220127BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20220127BHJP
   A61L 33/12 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/14
A61L31/16
A61L31/04 120
A61L33/06 300
A61L31/12 100
A61L33/12
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020134967
(22)【出願日】2020-08-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-08-11
(31)【優先権主張番号】10-2020-0092274
(32)【優先日】2020-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】515207651
【氏名又は名称】シージー バイオ カンパニー,リミテッド
【住所又は居所原語表記】244 Galmachi-ro,Jungwon-gu,Seongnam-si,Gyeonggi-do 13211 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】チョ・ヒ・パク
(72)【発明者】
【氏名】ホン・スン・ユン
(72)【発明者】
【氏名】ヒ・ジュン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ボ・ミ・ムン
(72)【発明者】
【氏名】グィ・ジェ・キム
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081BA11
4C081BA14
4C081BB04
4C081CA181
4C081CC02
4C081CD27
4C081CD29
4C081CE11
4C081DA02
4C081EA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、癒着防止用高分子組成物に関する。
【解決手段】本発明による癒着防止用高分子組成物は、癒着防止機能を効果的に発揮しながらも手術時に発生する傷部位に持続的によく付着できるように付着性能に優れており、抗菌性や止血性も有し、剤型安定性に優れている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化1で表されるポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコール(PEG-PPG-PEG)ブロック共重合体24~50重量%と、ゼラチン0.03~5重量%と、キトサン0.03~5重量%と、
酸溶液0.01~1重量%と、を含む、癒着防止用高分子組成物。
【化1】
前記化1において、x及びzは、それぞれ独立して75~110の整数であり、yは、20~70の整数であり、PEG-PPG-PEGブロック共重合体の分子量は、6,000~20,000Daである。
【請求項2】
PEG-PPG-PEGブロック共重合体は、2種以上のPEG-PPG-PEGブロック共重合体の混合物であるものである、請求項1に記載の癒着防止用高分子組成物。
【請求項3】
2種のPEG-PPG-PEGブロック共重合体を使用するとき、
一つのPEG-PPG-PEGブロック共重合体において、x及びzは、それぞれ独立して90~110の整数であり、yは、40~70の整数であり、
もう一つのPEG-PPG-PEGブロック共重合体において、x及びzは、それぞれ独立して75~90の整数であり、yは、20~40の整数であるものである、請求項2に記載の癒着防止用高分子組成物。
【請求項4】
2種のPEG-PPG-PEGブロック共重合体を使用するとき、1つのPEG-PPG-PEGブロック共重合体及びもう一つのPEG-PPG-PEGブロック共重合体の含量は、それぞれ12~25重量%であるものである、請求項2に記載の癒着防止用高分子組成物。
【請求項5】
酸溶液において、酸は、塩酸、酢酸、アスコルビン酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸、クエン酸、乳酸、及びギ酸からなるグループから選ばれた一つ以上を含むものである、請求項1に記載の癒着防止用高分子組成物。
【請求項6】
成長因子をさらに含み、
前記成長因子は、上皮細胞成長因子(Epidermal growth factors;EGF、beta-urogastrone)、ヘパリン結合性EGF類似成長因子(Heparin-binding EGF-like growth factor; HB-EGF)、形質転換成長因子-α(transforming growth factor-α;TGF-α)、及び繊維芽細胞成長因子(Fibroblast growth factors; FGFs)からなるグループから選ばれた一つ以上を含むものである、請求項1に記載の癒着防止用高分子組成物。
【請求項7】
安定化剤をさらに含み、
前記安定化剤は、グリセロール、グリセリド類及びグリコール類からなるグループから選ばれた一つ以上を含むものである、請求項1に記載の癒着防止用高分子組成物。
【請求項8】
pHは、3.5以上であるものである、請求項1に記載の癒着防止用高分子組成物。
【請求項9】
ゼラチン0.03~5重量%、キトサン0.03~5重量%及び酸溶液0.01~1重量%を蒸留水に添加し、50~70℃で10~60分間攪拌する段階と、
温度を3~7℃に下げた後、下記化1で表されるポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコール(PEG-PPG-PEG)ブロック共重合体24~50重量%を添加し、1~10時間の間攪拌する段階と、を含む、癒着防止用高分子組成物の製造方法。
【化2】
前記化1において、x及びzは、それぞれ独立して75~110の整数であり、yは、20~70の整数であり、PEG-PPG-PEGブロック共重合体の分子量は、6,000~20,000Daである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癒着防止用高分子組成物に関し、特に癒着防止機能を効果的に発揮しながらも傷部位に持続的によく付着できるように付着性能に優れており、抗菌性及び止血性を有しているだけでなく、最小侵襲手術法、腹腔鏡手術などに適するように注射可能な剤型からなり、成長因子の担持が可能な癒着防止用高分子組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癒着とは、炎症、創傷、摩擦、手術などによる創傷などの傷の治癒過程で血液が流出して凝固して、周辺の臓器や組織と一次的な癒着が発生し、ここに細胞が浸透して組織化されながら繊維組織が過度に生成されるか、血液が流出して凝固して互いに分離されていなければならない周辺の臓器や組織が互いにくっつく現象を意味する。また、手術部位で発生する炎症反応によって手術部位の周辺でフィブリン(fibrin)の数値が増加するが、このとき、繊維素分解作用(fibrinolysis)が正常的に行われれば、癒着が発生しないが、何らかの原因によって繊維素分解作用反応が抑制されると、それによって癒着が発生することになる。
【0003】
このような癒着現象は、特に手術後に深刻な問題を起こす。癒着現象は、一般的に、あらゆる種類の手術後に発生することがあり、これによって手術後の回復過程で手術周辺部位の臓器や組織が互いに付着して深刻な臨床的後遺症が発生することがある。一般的に、開腹手術後に67~93%程度の頻度で癒着が発生し、このうち一部は、自発的に分解されることもあるが、ほとんどの場合、傷の治癒後にも癒着が存在して各種の後遺症を誘発する。癒着によって発生する後遺症としては、腹腔手術の場合、腸機能障害、腸閉塞、慢性痛などがあり、特に産婦人科手術後の癒着は、不妊を誘発することが知られている。(Eur.J.Surg.1997,Supplement 577,32-39)癒着防止剤は、手術後に発生する組織間の癒着を防止して2次疾患の発生の可能性を除去することで、患者の安全に直結する非常に重要な医療用製品である。
【0004】
このような癒着の防止のため、1)手術時の傷を最小化する方法と、2)抗炎症剤の使用または繊維素の形成を防ぐために組織プラスミノーゲン活性化剤(tissue plasminogen activator)で活性化させる方法と、3)物理的な障壁(anti-adhesion barrier)を使用する方法と、が開発されて使用されている。
【0005】
この中で、物理的な障壁を使用する場合、組織の傷が治癒される間、隣接する組織の間に癒着が形成されることを防ぐ。このような物理的な癒着防止剤は、組織の傷が治癒される間、隣接組織との癒着の形成を防止するとともに、一定期間後には自然に分解または吸収されて除去されなければならず、癒着防止剤に使用される材料自体またはその分解産物が人体に無害でなければならない。
【0006】
現在、商業化された癒着防止剤として、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール[Polyethylene glycol-polypropylene glycol(PEG-PPG)]、ポリエチレンオキシド[Polyethylene Oxide(PEO)]、ポリ乳酸[Poly(lactic acid)(PLA)]、ヒアルロン酸[Hyaluronic acid]、カルボキシメチルセルロース[Carboxymethylcellulose(CMC)]、フィブリノゲン[Fibrinogen]、塩化カルシウム溶液[Calcium chloride solution]、デキストラン[Dextran]、イコデキストリン重合体[Icodextrin compound]、テフロン[TeflonTM]、酸化再生セルロース[Oxidized regenerated cellulose]、ポリグリカンエステル[Polyglycan ester]、ポロキサマー[poloxamer]などが使用されてきた。
【0007】
しかし、このような癒着防止剤のうち、セルロース類やデキストラン類などは、天然高分子であるが、生体を構成する成分ではないので、生体内に挿入時に異物反応を引き起こす可能性があることが知られている。また、生体内にこのような材料に対する分解酵素がなくて分解が発生しないため、酸化させたり、加水分解されるように操作しなければならないことが知られている。一方、ヒアルロン酸を主成分とする癒着防止溶液が使用されているが、ヒアルロン酸は、生体内で半減期が3日に過ぎず、容易に分解されるため、癒着防止の役割に制約がある。そして、合成高分子のうちポリ乳酸[Poly(lactic acid)(PLA)]は、分解生成物が酸性を帯びているため、炎症反応と異物反応を引き起こすことがあるという短所を持つ。
【0008】
また、癒着防止剤として使用された物質には、PEG-PPG-PEGブロック共重合体がある。合成高分子であるPEG-PPG-PEGブロック共重合体は、ビーエーエスエフ社(BASF)で生産される高分子であって、低温では溶液状態で存在するが、温度が上がるとゲル化される温度感応性材料として知られている(米国特許番号第4,188,373号;第4,478,822号;第4,474,751号)。このようなPEG-PPG-PEGブロック共重合体は、PEGとPPGの割合に応じていくつかの種類に分けられるが、ポロキサマー407として知られているPEG-PPG-PEGブロック共重合体は、PPGブロックの分子量(polyoxypropylene molecular mass)が4,000g/molであり、70%のポリオキシエチレン(polyoxyethylene、PEG)含量(content)を有する。また、ポロキサマー188として知られているPEG-PPG-PEGブロック共重合体は、PPGブロックの分子量(polyoxypropylene molecular mass)が1,800g/molであり、80%のポリオキシエチレン(polyoxyethylene、PEG)含量(content)を有する。このようなPEG部分とPPG部分の割合、分子量及び酸度と添加剤によってゲル化や物性に影響を及ぼす。
【0009】
また、現在、商用化されている癒着防止用製剤は、形態的に溶液、フィルム及びゲル状のものに区分される。
【0010】
第一に、溶液状の癒着防止用製剤は、癒着防止機能を行う前に、他の部位に流れ込んだり、あまりにも早く分解される場合があり、癒着防止機能を適切に行えない場合が多いという短所がある。
【0011】
第二に、フィルム状の癒着防止用製剤は、Seprafilm(Hyaluronic acid-CMC)、Medishield(CMC-PEO)、INTERCEEDTM(Oxidized regenerated cellulose)、SurgiWrap(PLA)などの製品があるが、これらの製品は、内部の臓器に適用時に臓器の表面によく付着されず、付着しても臓器の運動によって傷部位に持続して位置できないという問題点、及び組織自体に異物として認識されて、互いに固まって臓器癒着防止効果が不十分であると報告されている。しかし、このような短所にもかかわらず、癒着防止の原理の一つである物理的な障壁(anti-adhesion barrier)を確実に提供できる形態であるという点で、これを代替できる製品が未だ確実にないのが現状である。このようなフィルム状の製品は、主に産婦人科や脊椎手術などに制限的に用いられており、現在の手術トレンドである最小侵襲手術法、腹腔鏡手術などに適用するには形態的な制約が大きい。したがって、癒着防止機能を確実に行うためには、手術時に発生する傷部位に持続してよく付着できる付着性に優れており、現在の手術トレンドである最小侵襲手術法、腹腔鏡手術などに適するように注射可能な剤型の癒着防止剤が必要な実情である。
【0012】
最後に、ゲル状の癒着防止用製剤は、注射可能な剤型としてフィルムの溶液状の短所を克服するために開発されている。現在、HyskonTMというデキストラン70(Dextran70)を使用した製品、FlowgelTMというPEG-PPG-PEG共重合体を使用した製品、ADCONというゼラチン(gelatin)を使用した製品、INTERGELというヒアルロン酸(Hyaluronic acid)を使用した製品、GUARDIX-solというヒアルロン酸-カルボキシメチルセルロース(Hyaluronic acid-CMC)を使用した製品などがある。傷の治癒に要する期間は、傷の程度によって差があるが、一般的に7日程度であるため、癒着防止効果を期待し得るためには、7日程度の期間の間は傷部位が正常に再生されるように助けなければならず、7日程度の期間の間は傷の隣接組織と線維組織が形成されないようにし、以後には、自然に分解、吸収、及び除去されなければならない。しかし、前記ゲル状の癒着防止剤の場合には、傷が治癒される前に溶けて排出され、傷組織にとどまる時間が不足して癒着防止効果を適切に示さないだけではなく、セルロース系(CMC)とデキストランなどの非生体由来の物質は、生体内で異物反応などの問題点がある。
【0013】
韓国特許第1082935号は、多孔性組織癒着防止用徐放性製剤フィルムの製造方法に関し、ポリラクチドをメチルアルコール、エチルアルコール及びアセトンなどの有機溶媒に溶かして多孔性フィルムを製造し、表面と内部に形成された微細気孔に抗生剤及び消炎剤を塗布したことを開示している。しかし、ポリラクチドは、ポリ乳酸(polylactic acid:PLA)と呼ばれる合成高分子であって、分解産物が酸性を帯びているため、生体内で分解される場合、生体内に酸性の環境を作るために有害であり、生体適合性が低下するという短所を有する。また、フィルムを製造する際、ポリラクチドをメチルアルコール、エチルアルコール及びアセトンなどの毒性のある有機溶媒を使用することにより、これらの有機溶媒が製造過程において完全に削除されない場合、生体内で毒性が現れる可能性が高いという問題を持つ。
【0014】
また、韓国特許第1070358号は、ゲル化が発生するセルロース系短繊維で製造した医療用不織布癒着防止膜を開示している。この特許では、天然セルロースまたは再生セルロース素材を使用するため、材料が天然高分子であるが、生体を構成する成分ではないので、生体内に挿入時に異物反応を引き起こすことがあるという限界がある。また、生体内にセルロース系の材料に対する分解酵素がないため、完全に分解されて分解生成物として処理されて生体外に排出されないという短所を持つ。
【0015】
一方、米国特許第6,294,202号は、ヒアルロン酸(hyaluronic acid:HA)及びカルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose:CMC)などのアニオン性多糖類とポリグリコライドの疎水性高分子を結合させて非水溶性のゲル、膜、フォーム、繊維などの形態で製造した癒着防止組成物を開示している。しかし、カルボキシメチルセルロースは、生体由来物質ではないので、生体内で異物反応や炎症反応を引き起こすことがある。一方、ポリグリコライド(Polyglycolic acid(PGA))は、分解生成物としてグリコール酸(glycolic acid)を放出して周辺の酸度を酸性に下げて周辺の組織を刺激して炎症反応を引き起こすことがある。また、膜状に製造する場合、乾燥状態で、材料自体が柔軟ではなく、硬くて壊れやすく、水分に接触する場合に巻かれて、膜、フォーム、または繊維状に製造する場合には、生体内で固定されず、折れたり癒着防止が必要な部分に接着できないなど取り扱いにおいて不便である。
【0016】
また、米国特許第6,280,745号には、癒着を防止する目的で使用される薬物運搬用組成物が開示されている。この組成物は、ポリオキシアルキレンブロック共重合体などの1つ以上の構成高分子(constitutive polymer)とセルロースエーテル類、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びポリアクリレート類の変性高分子(modifier polymer)及び脂肪酸石鹸系のオレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウムの補助界面活性剤(co-surfactant)を含み、ここに抗生剤、抗炎症剤などを含むいくつかの薬物の中から選ばれたものをさらに含む。このうち、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)は、生体由来物質ではない植物から得られたセルロースを加工して製造されたもので、生体内で異物反応を引き起こすことがあることが知られており、ポリアクリレート類などの他の変性高分子も生体由来物質ではないので、生体適合性が低く、これも異物反応を引き起こすことがあるという問題点を有する。
【0017】
韓国特許第1330652号は、PEG-PPG-PEGブロック共重合体にゼラチン及びキトサンを添加して癒着防止機能に優れており、手術時に発生する傷部位に持続してよく付着できるように付着性能に優れた癒着防止用組成物が開示されている。しかし、このような癒着防止用組成物は、保管時間の経過によりキトサンが析出される剤型安定性に対する問題点が存在し、これにより癒着が発生するおそれが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】韓国特許第1082935号
【特許文献2】韓国特許第1070358号
【特許文献3】米国特許第6,294,202号
【特許文献4】米国特許第6,280,745号
【特許文献5】韓国特許第1330652号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、癒着防止機能を効果的に発揮しながらも手術時に発生する傷部位に持続してよく付着できるように付着性能に優れており、抗菌性や止血性も有し、剤型安定性に優れた癒着防止用高分子組成物を提供することを目的とする。
【0020】
本発明は、現在の手術トレンドである最小侵襲手術法、腹腔鏡手術などに適した癒着防止用高分子組成物を提供することを目的とする。
【0021】
本発明は、生体内で炎症反応や異物反応を可能な限り抑制し、生体適合性に優れた癒着防止用高分子組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、下記化1で表されるポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコール(PEG-PPG-PEG)ブロック共重合体24~50重量%と、ゼラチン0.03~5重量%と、キトサン0.03~5重量%と、
酸溶液0.01~1重量%を含む癒着防止用高分子組成物を提供する。
【0023】
【化1】
【0024】
前記化1において、x及びzは、それぞれ独立して75~110の整数であり、yは、20~70の整数であり、PEG-PPG-PEGブロック共重合体の分子量は、6,000~20,000Daである。
【0025】
また、本発明は、ゼラチン0.03~5重量%、キトサン0.03~5重量%及び酸溶液0.01~1重量%を蒸留水に添加し、50~70℃で10~60分間攪拌する段階と、
温度を3~7℃に下げた後、化1で表されるポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコール(PEG-PPG-PEG)ブロック共重合体24~50重量%を添加し、1~10時間の間攪拌する段階と、を含む癒着防止用高分子組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明による癒着防止用高分子組成物は、外科、腹腔鏡及び内視鏡手術による傷部位に溶液状で注射されて塗布され、体温によってゲル化されることにより傷部位の癒着を抑制する機能を発揮し得る。また、本発明の組成物は、酸溶液を含んで組成物の剤型安定性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、酸添加によるキトサン安定化測定結果を示す。
図2図2は、本発明の癒着防止用高分子組成物の癒着防止効果に対する評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、化1で表されるポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコール(PEG-PPG-PEG)ブロック共重合体24~50重量%と、ゼラチン0.03~5重量%と、キトサン0.03~5重量%と、
酸溶液0.01~1重量%を含む癒着防止用高分子組成物に関する。
【0029】
以下、本発明の構成を具体的に説明する。
【0030】
本発明による癒着防止用高分子組成物は、外科、腹腔鏡及び内視鏡手術による傷部位に溶液状で注射されて塗布され、体温によってゲル化されることにより傷部位の癒着を抑制する機能を発揮し得る。
【0031】
本発明において、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコール(PEG-PPG-PEG)ブロック共重合体は、低温では、溶液状態で存在するが、温度が上がると、ゲル化される温度感応性材料である。本発明では、PEG-PPG-PEGブロック共重合体を使用して人体に無害で、温度感応特性を活用して使用に便利で、癒着防止の効果を増進させた癒着防止用高分子組成物を製造できる。
【0032】
本発明において、PEG-PPG-PEGブロック共重合体は、下記化1で表される。
【0033】
【化2】
【0034】
一具体例で、化1において、x及びzは、それぞれ独立して75~110の整数であり、yは、20~70の整数であってもよい。また、PEG-PPG-PEGブロック共重合体におけるポリエチレングリコール(PEG)の含量は、65~85重量%、68~82重量%または70~80重量%であってもよい。前記PEG-PPG-PEGブロック共重合体は、PEGとPPG部分の割合や分子量によってゲル化及び物性に影響を及ぼすことがある。特に、PEGの含量は、剤型の親水性を決める重要な因子であって、その含量が少なすぎると、剤型の混合が困難となるおそれがある。したがって、x、y及びzを前述の範囲内に調節するのがよい。
【0035】
また、PEG-PPG-PEGブロック共重合体の分子量は、6,000~20,000Da、または8,000~10,000Daであってもよい。前記PEG-PPG-PEGブロック共重合体は、分子量によってゲル化温度及び混合性に影響を受けるため、分子量が大きくなるとゲル化温度が高くなり、組成物の製造時の混合性が低下することになる。したがって、本発明では、PEG-PPG-PEGブロック共重合体の分子量を6,000~20,000Daに調節して、癒着防止用高分子組成物の剤型を最適化できる。
【0036】
一具体例において、PEG-PPG-PEGブロック共重合体は、2種以上のPEG-PPG-PEGブロック共重合体の混合物であってもよく、具体的に、2種のPEG-PPG-PEGブロック共重合体の混合物であってもよい。
【0037】
2種のPEG-PPG-PEGブロック共重合体を使用するとき、1つのPEG-PPG-PEGブロック共重合体において、x及びzは、それぞれ独立して、90~110の整数であり、yは、40~70の整数であってもよい。また、もう一つのPEG-PPG-PEGブロック共重合体において、x及びzは、それぞれ独立して75~90の整数であり、yは、20~40の整数であってもよい。
【0038】
一具体例において、PEG-PPG-PEGブロック共重合体は、ドイツのBASF社で生産される高分子を使用してもよく、具体的に、市販の商品名「プルロニック(Pluronic)」または「ポロキサマー(Poloxamer)」などを使用してもよい。「プルロニック(Pluronic)」または「ポロキサマー(Poloxamer)」のPEG-PPG-PEGブロック共重合体は、PEGとPPGの割合に応じて、いくつかの種類に分けられるが、本発明では、前記製品のうち2種以上を混合して使用してもよい。
【0039】
本発明の実施例では、PEG-PPG-PEGブロック共重合体としてポロキサマー407及びポロキサマー188を使用した。ポロキサマー407は、PPGブロックの分子量(polyoxypropylene molecular mass)が4,000Daであり、70%PEG含量(content)を有する。また、ポロキサマー188は、PPGブロックの分子量が1,800Daであり、80%PEG含量を有する。本発明では、前記二つの成分を混合して癒着防止効果に優れた癒着防止用高分子組成物を製造してもよい。
【0040】
一具体例において、PEG-PPG-PEGブロック共重合体の含量は、特に制限されず、組成物の全重量に対して24~50重量%であってもよい。2種のPEG-PPG-PEGブロック共重合体を使用する場合、一つのPEG-PPG-PEGブロック共重合体及びもう一つのPEG-PPG-PEGブロック共重合体の含量は、それぞれ12~25重量%であってもよい。前記PEG-PPG-PEGブロック共重合体の含量が少なすぎると、温度が増加してもゲルを形成しにくく、含量が多すぎる場合、低温でもゲル化されているので、含量に対する適切な制御が必要である。すなわち、前記含量の範囲でブロック共重合体は、好ましいゲル化特性を示すことができる。
【0041】
本発明においてゼラチン及びキトサンは、生体由来高分子であって、PEG-PPG-PEGブロック共重合体との間にO2----H、N3----Hイオンの間の水素結合及び/又はNH3+---OH官能基の間のイオン結合によって結合を形成する。このような生体由来高分子は、高分子組成物の付着性能を向上させて前記組成物が傷部位に固定されることにより他の部位に移動しないようにし、これによって傷部位の癒着防止効果を増大させることができる。
【0042】
本発明において、ゼラチンは、水を吸収して膨潤する性質を持つ。また、腸表面は、全体的に負電荷(negative charge)を帯びることが知られているのに対し、腸表面付着性高分子であるゼラチンは、カチオン性グループ(Cationic group)であって全体的に正電荷(positive charge)を帯びるため、腸表面とゼラチンの間に電気的な結合(electrostatic bonds)が生成されて接着を持続することにより、優れた腸表面に対する付着性、すなわち、生体付着性(bioadhesive)を持つことができる。さらに、ゼラチンは、傷部位の浸透圧を増加させ、血小板の活性化を促進させるので(TISSUE ENGINEERING、Volume11、Number7/8、2005)、ゼラチンを含む本発明の高分子組成物は、血液凝固を促進する止血特性を持つことができる。
【0043】
一具体例において、ゼラチンの分子量は、200~300bloomであってもよい。
【0044】
一方、キトサンは、ハイドロゲル類の腸付着性高分子のうちカチオン性グループ(Cationic group)に属する高分子で、全体的に正電荷を帯びるため、腸表面と電気的結合(electrostatic bonds)が可能であり、腸表面付着性に関する電気的理論(electronic theory)によって腸表面にとどまって付着してもよい。したがって、前記キトサンは、ゼラチンの腸表面付着性を補助的に助けて付着性をより向上させることができる。また、キトサンは、-NH3官能基を介して追加の抗菌効果を付与して(J.Ocul.Pharmacol.Ther.16(2000)261270)(J.Appl.Polym.Sci.79(2001)13241335)、本発明の高分子組成物は、優れた抗菌特性を示すことができる。
【0045】
一具体例において、キトサンの脱アセチル化度は、70~90%であってもよい。
【0046】
一具体例において、ゼラチンの含量は、特に制限されず、0.03~5重量%であってもよい。
【0047】
また、一具体例において、キトサンの含量は、特に制限されず、0.03~5重量%であってもよい。前記ゼラチン及び/又はキトサンの含量が少ない場合、これらの成分の添加効果を実質的に期待し難い。また、ゼラチン及び/又はキトサンの含量が多い場合、その含量が高すぎて高分子組成物内で一部が溶解しないまま残留する可能性があり、3ヶ月程度の長期間保管時に組成物の中でキトサンとゼラチンが分離される現象が現れることがあり、長期安定性の側面から好ましくない。すなわち、前述のゼラチン及びキトサンの含量の範囲で癒着防止用高分子組成物は、生体温度で好ましいゲル化特性を示すことができ、生体適合性を与えることができる。
【0048】
また、本発明の癒着防止用高分子組成物は、酸溶液を含む。前記酸溶液は、キトサンの溶解度を高めることができ、癒着防止用高分子組成物の剤型安定性を向上させることができる。
【0049】
一具体例において、酸の種類は、特に制限されず、塩酸、酢酸、アスコルビン酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸、クエン酸、乳酸、及びギ酸からなるグループから選ばれた一つ以上であってもよい。
【0050】
一具体例において、酸溶液として濃度が99.9%または100%である高純度の酸を使用してもよい。前記酸を希釈して使用してもよいが、本発明の実施例では、高純度の酸を使用した。
【0051】
また、一具体例において、酸溶液の含量は、特に制限されず、癒着防止用高分子組成物の全重量に対して0.01~1重量%であってもよい。前記含量の範囲においてキトサンの溶解度に優れており、含量が1重量%を超える場合、組成物のpHが低くなり、体内に適用時に副作用が発生するおそれがある。
【0052】
本発明による癒着防止用高分子組成物は、前述の成分の他に成長因子をさらに含んでもよい。
【0053】
一具体例において、成長因子の種類は特に制限されず、傷部位の組織再生を促進させることができる上皮細胞成長因子(Epidermal growth factors;EGF、beta-urogastrone)、ヘパリン結合性EGF類似成長因子(Heparin-binding EGF-like growth factor;HB-EGF)、形質転換成長因子-α(transforming growth factor-α;TGF-α)及び繊維芽細胞成長因子(Fibroblast growth factors;FGFs)からなるグループから選ばれた一つ以上を使用してもよい。
【0054】
一具体例において、成長因子の含量は、特に制限されず、生体恒常性及び副作用を減らす観点から、先行研究の動物実験の結果を基準に1μg/ml~1mg/mlが適当である。
【0055】
また、本発明による癒着防止用高分子組成物は、前述の成分の他に、高分子組成物の相分離を抑制するための安定化剤をさらに含んでもよい。前記安定化剤は、グリセロール、グリセリド類及びグリコール類からなるグループから選ばれた一つ以上であってもよい。
【0056】
一具体例において、安定化剤は、1~20重量%の含量で使用されてもよい。
【0057】
本発明による癒着防止用高分子組成物のpHは、3.5以上であってもよい。前記pHは、4.0以上または4.1以上であってもよく、その上限は、6.0以下であってもよい。血液のpHは、7.4であり、体内の場合、7.3~7.5と弱アルカリ性である。したがって、強い酸性の製品が触れる場合、体内のpHによる副作用が発生するおそれがある。本発明では、pH3.5以上の癒着防止用高分子組成物を使用し、体内に使用時に臓器に影響を与えず、優れた癒着防止特性を持つことができる。
【0058】
また、本発明による癒着防止用高分子組成物の粘度は、25℃で1500~5000cPsであってもよく、27℃で15,000~50,000cPsであってもよい。前記粘度は、ブルックフィールド粘度計を使用して測定した結果を意味する。前記粘度範囲において癒着防止用高分子組成物は、腸などの臓器に容易に付着され、また容易に分解され得る。特に、37℃で15,000cPs以下の粘度を有する場合、流動性が生じて癒着効果が減少する恐れがある。また、前記範囲の粘度において組成物が成長因子を含む場合、前記成長因子が容易に放出され得る。粘度が低すぎると、腸付着能力が低下し、また、高すぎると、かえって前記組成物による癒着が発生することがあるので、前記範囲で調節するのがよい。
【0059】
また、本発明は、前述の癒着防止用高分子組成物の製造方法に関する。
【0060】
前記癒着防止用高分子組成物は、(S1)ゼラチン0.03~5重量%、キトサン0.03~5重量%及び酸溶液0.01~1重量%を蒸留水に添加し、50~70℃で10~60分間攪拌する段階と、
(S2)温度を3~7℃に下げた後、化1で表されるポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコール(PEG-PPG-PEG)ブロック共重合体24~50重量%を添加し、1~10時間の間攪拌する段階と、を通じて製造されてもよい。
【0061】
段階(S1)は、ゼラチン及びキトサンを蒸留水に添加して攪拌する段階である。
【0062】
一具体例において、ゼラチン及びキトサンは、前述のゼラチン及びキトサンを使用してもよく、その含量は、癒着防止用高分子組成物の製造時に使用される成分の総重量(100重量%)に対してそれぞれ0.03~5重量%であってもよい。
【0063】
一具体例において、前記段階は、50~70℃で10~60分間行われてもよい。
【0064】
一具体例において、前記段階は、100~300rpmで、湯煎攪拌によって行われてもよい。
【0065】
段階(S2)は、温度を3~7℃に下げた後、化1で表されるPEG-PPG-PEGブロック共重合体を添加した後、攪拌する段階である。前記段階を通じて本発明による癒着防止用高分子組成物が製造されてもよい。
【0066】
一具体例において、段階(S2)を行う前に安定化剤を添加する段階をさらに含んでもよい。前記安定化剤として、前述の種類の安定化剤を使用してもよく、本発明では、グリセリンを使用してもよい。
【0067】
一具体例において、前記段階は、徐々に温度を3~7℃に下げることができる。
【0068】
一具体例において、前記段階でPEG-PPG-PEGブロック共重合体は、前述のPEG-PPG-PEGブロック共重合体を使用してもよく、その含量は、癒着防止用高分子組成物の製造時に使用される成分の総重量(100重量%)に対して24~50重量%であってもよい。特に、2種のPEG-PPG-PEGブロック共重合体を使用してもよく、この場合、1つのPEG-PPG-PEGブロック共重合体及びもう一つのPEG-PPG-PEGブロック共重合体の含量は、それぞれ12~25重量%であってもよい。
【0069】
一具体例において、前記段階は、攪拌下で1~10時間の間行われてもよい。
【0070】
一具体例において、本発明による癒着防止用高分子組成物は、製造過程中に成長因子を添加する段階をさらに行うか、または傷部位に塗布する前に成長因子を含ませて構成されてもよい。この場合、傷部位に適用する前にin situ注射器で成長因子を注入して混合した後に使用してもよい。本発明による癒着防止用高分子組成物は、体温によって前記癒着防止用高分子組成物が傷部位に癒着が発生しないように膜を形成し、ゲル化されることにより成長因子の放出が行われてもよい。
【0071】
また、本発明は、前述の癒着防止用高分子組成物の適用方法に関する。
【0072】
本発明による癒着防止用高分子組成物は、第一に、手術時または手術後に溶液状の高分子組成物を傷部位に注射する段階と、第二に、高分子組成物に含まれている生体由来高分子によって高分子組成物が傷部位に固定される段階と、第三に、体温によって温度が上昇しながら溶液状の高分子組成物がゲル化される段階と、を通じて適用されてもよい。
【0073】
本発明の癒着防止用高分子組成物は、適切な組成で化学的に結合されたPEG-PPG-PEGブロック共重合体の温度感応性によって常温では溶液状態で存在し、体内に適用されると、37℃の温度によってゲル化されて傷組織の部位に癒着を防止する障壁として作用することになる。常温では溶液状態で存在するため傷部位に注射でき、適用後にゲル化されて傷部位に局所的に集中するため、癒着に対する障壁効果を向上させることができる。
【0074】
前記癒着防止用高分子組成物は、ゲル化された後、時間経過により体内分解酵素及び代謝によって前記組成物が分解され、排出されてもよい。
【0075】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。下記実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範囲が下記実施例に限定されるものではない。本実施例は、本発明の開示を完全にして、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものであり、本発明は、請求項の範疇によって定義されるだけである。
【0076】
実施例
比較例1.
ゼラチン0.05重量%、キトサン0.3重量%を滅菌蒸留水に入れ、55~60℃で150rpm、30分湯煎攪拌した。その後、グリセリン10重量%を入れて徐々に温度を4~6℃に下げて同じ条件で攪拌した。温度が下がると、ポロキサマー188 17重量%、ポロキサマー407 15重量%を入れ、100rpm、3時間の間攪拌して癒着防止用高分子組成物を製造した。
【0077】
実施例1.
ゼラチン0.05重量%、キトサン0.3重量%、100%酢酸0.01重量%を滅菌蒸留水に入れ、55~60℃で150rpm、30分湯煎攪拌した。グリセリン10重量%を入れ、徐々に温度を4~6℃に下げて同じ条件で攪拌した。温度が下がると、ポロキサマー188 17重量%、ポロキサマー407 15重量%を入れ、100rpm、3時間撹拌して癒着防止用高分子組成物を製造した。
【0078】
実施例2.
酢酸0.01重量%の代わりに酢酸0.1重量%を使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で癒着防止用高分子組成物を製造した。
【0079】
実施例3.
酢酸0.01重量%の代わりに酢酸0.5重量%を使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で癒着防止用高分子組成物を製造した。
【0080】
実施例4.
酢酸0.01重量%の代わりに酢酸1重量%を使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で癒着防止用高分子組成物を製造した。
【0081】
比較例2.
酢酸0.01重量%の代わりに酢酸3重量%を使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で癒着防止用高分子組成物を製造した。
【0082】
実施例5.
酢酸0.01重量%の代わりに100%塩酸0.01重量%を使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で癒着防止用高分子組成物を製造した。
【0083】
実施例6.
酢酸0.01重量%の代わりに100%リン酸0.01重量%を使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で癒着防止用高分子組成物を製造した。
【0084】
実施例7.
酢酸0.01重量%の代わりに100%クエン酸0.01重量%を使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で癒着防止用高分子組成物を製造した。
【0085】
実施例8.
酢酸0.01重量%の代わりに100%乳酸0.01重量%を使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で癒着防止用高分子組成物を製造した。
【0086】
実験例1.酸添加によるキトサン安定化の影響
酸添加によるキトサン安定化は、実施例及び比較例で製造された癒着防止用高分子組成物を4℃、25℃及び40℃で1日、7日、28日、60日の間保管し、キトサンの析出の有無を観察する方法で評価した。
【0087】
前記評価結果を表1及び図1に示した。
【0088】
【表1】
【0089】
前記表1及び図1に示すように、水溶性キトサンを使用しても前記キトサンが他の物質と混合して溶解されている場合、安定化されることなく析出されることが確認できる。キトサンが析出される場合、短くは7日、長くは28日以内に析出現象が現れた(比較例1)。
【0090】
前記結果から、本発明による癒着防止用高分子組成物に酸を添加することにより、キトサンの溶解度を高め、剤型の安定化がなされることが確認できる。
【0091】
実験例2.酸の種類による粘度の影響
様々な酸の添加によって製品の特性である粘度に影響を及ぼすのか確認した。
【0092】
具体的に、実施例及び比較例で製造された癒着防止用高分子組成物に対して、温度による粘度の変化をブルックフィールド(Brookfield)粘度計を用いて測定した。
【0093】
測定された粘度を表2に示した。
【0094】
【表2】
【0095】
前記表2に示すように、酸の含量によって粘度に大きな影響を及ぼさず、癒着防止用高分子組成物は、常温では流動性を有し、体温で高粘度のゲルを形成することが分かる。これにより、癒着防止用高分子組成物が体内に付着可能であることを予想できる。
【0096】
実験例3.酸の含量によるpHの測定
癒着防止用高分子組成物に酸が添加されることにより、物質のpHに及ぼす影響を確認し、体内の使用に適したpHの範囲を設定するため、実施例及び比較例で製造された癒着防止用高分子組成物のpHを測定した。
【0097】
測定結果を下記の表に示した。
【0098】
【表3】
【0099】
血液のpHは7.4であり、体内の場合、7.3~7.5と弱アルカリ性である。したがって、強い酸性の製品が触れる場合、体内のpHによる副作用が発生することがある。
【0100】
本実施例の癒着防止用高分子組成物は、pHが3.5以上であり、体内の使用に適することが確認できる。酸溶液を3重量%含む比較例2は、pHが3.5未満であるため、体内に適用時に副作用が発生するおそれがある。
【0101】
実験例4.応力測定
様々な酸の添加により、癒着防止用高分子組成物の付着性能に影響を及ぼすのか確認した。
【0102】
具体的に、実施例及び比較例で製造された癒着防止用高分子組成物に対して応力を測定し、本発明の実施例1と韓国特許第1330652号の組成(実施例1)との間の応力を比較した。
【0103】
組成物をそれぞれ1mLずつ含むサンプルをスライドガラスに塗布し、37℃のインキュベーターに10分程度入れておき、ゲル化させた後、万能試験機にサンプルを塗布したスライドグラスを固定し、高分子組成物とアダプタの表面を接着させた後、高分子組成物とアダプタが接着されてから分離したときの最大応力を測定した。
【0104】
測定結果を表4に示した。
【0105】
【表4】
【0106】
前記表4に示すように、韓国特許第1330652号の組成物と本発明の実施例1の癒着防止用高分子組成物の最大応力に差がないことが確認できる。これにより、酸の添加が癒着防止用高分子組成物の付着能に影響を及ぼさないことが確認できる。
【0107】
実験例5.癒着防止試験
ラットの盲腸表面と腹膜に人為的な傷をつけて強制癒着を起こし、比較例1と実施例1によって製造した本発明の癒着防止用高分子組成物を傷部位に処理した後、1週間後にラットの盲腸と腹膜の癒着防止効果を観察した。癒着の程度は、0から5まで区分して評価(癒着の程度を示すスコア;0=癒着が発生しない場合、1=点状(focal)の癒着が一部発生した場合、2=点状の癒着が多い場合、3=面状の癒着が発生した場合、4=面状の癒着が深く発生した場合、5=面状の癒着とともに血管が形成された場合)し、その結果を図2に示した。
【0108】
図2に示すように、生理食塩水群では、癒着が発生し、比較例1では、実施例1よりも高い癒着率を示すことが確認できる。これにより、酸を添加することにより、剤型の安定性が維持され、癒着防止効果に影響を及ぼすことが確認できる。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2021-01-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化1で表されるポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコール(PEG-PPG-PEG)ブロック共重合体24~50重量%と、ゼラチン0.03~5重量%と、キトサン0.03~5重量%と、
酸溶液0.01~1重量%と、を含み、pHは、3.5以上であるものである、癒着防止用高分子組成物。
【化1】
前記化1において、x及びzは、それぞれ独立して75~110の整数であり、yは、20~70の整数であり、PEG-PPG-PEGブロック共重合体の分子量は、6,000~20,000Daである。
【請求項2】
PEG-PPG-PEGブロック共重合体は、2種以上のPEG-PPG-PEGブロック共重合体の混合物であるものである、請求項1に記載の癒着防止用高分子組成物。
【請求項3】
2種のPEG-PPG-PEGブロック共重合体を使用するとき、
一つのPEG-PPG-PEGブロック共重合体において、x及びzは、それぞれ独立して90~110の整数であり、yは、40~70の整数であり、
もう一つのPEG-PPG-PEGブロック共重合体において、x及びzは、それぞれ独立して75~90の整数であり、yは、20~40の整数であるものである、請求項2に記載の癒着防止用高分子組成物。
【請求項4】
2種のPEG-PPG-PEGブロック共重合体を使用するとき、1つのPEG-PPG-PEGブロック共重合体及びもう一つのPEG-PPG-PEGブロック共重合体の含量は、それぞれ12~25重量%であるものである、請求項2に記載の癒着防止用高分子組成物。
【請求項5】
酸溶液において、酸は、塩酸、酢酸、アスコルビン酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸、クエン酸、乳酸、及びギ酸からなるグループから選ばれた一つ以上を含むものである、請求項1に記載の癒着防止用高分子組成物。
【請求項6】
成長因子をさらに含み、
前記成長因子は、上皮細胞成長因子(Epidermal growth factors;EGF、beta-urogastrone)、ヘパリン結合性EGF類似成長因子(Heparin-binding EGF-like growth factor; HB-EGF)、形質転換成長因子-α(transforming growth factor-α;TGF-α)、及び繊維芽細胞成長因子(Fibroblast growth factors; FGFs)からなるグループから選ばれた一つ以上を含むものである、請求項1に記載の癒着防止用高分子組成物。
【請求項7】
安定化剤をさらに含み、
前記安定化剤は、グリセロール、グリセリド類及びグリコール類からなるグループから選ばれた一つ以上を含むものである、請求項1に記載の癒着防止用高分子組成物。
【請求項8】
ゼラチン0.03~5重量%、キトサン0.03~5重量%及び酸溶液0.01~1重量%を蒸留水に添加し、50~70℃で10~60分間攪拌する段階と、
温度を3~7℃に下げた後、下記化1で表されるポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコール(PEG-PPG-PEG)ブロック共重合体24~50重量%を添加し、1~10時間の間攪拌する段階と、を含む、癒着防止用高分子組成物の製造方法。
【化2】
前記化1において、x及びzは、それぞれ独立して75~110の整数であり、yは、20~70の整数であり、PEG-PPG-PEGブロック共重合体の分子量は、6,000~20,000Daである。