(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022224
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】近赤外線センサカバー
(51)【国際特許分類】
G01S 7/481 20060101AFI20220127BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20220127BHJP
G01S 17/931 20200101ALI20220127BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
G01S7/481 Z
G01J1/02 H
G01S17/931
G02B5/26
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183070
(22)【出願日】2021-11-10
(62)【分割の表示】P 2018054500の分割
【原出願日】2018-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】奥村 晃司
(72)【発明者】
【氏名】大川 新太朗
(72)【発明者】
【氏名】安藤 宏明
(57)【要約】
【課題】近赤外線センサの検出機能を確保しながら、意匠性の向上を図る。
【解決手段】近赤外線センサカバー17は、車両の外部へ向けて近赤外線IR1を送信する送信部と、車両の外部の対象物に当たって反射されて戻ってきた近赤外線IR2を受信する受信部とを備える近赤外線センサ11に適用され、送信部及び受信部を覆う。近赤外線センサカバー17のカバー本体部19は、フィラー25を塗膜に分散することにより形成された光輝層24を備える。光輝層24中のフィラー25は、コアと、コアとは異なる屈折率を有する材料によりコアを被覆するシェルとからなる。近赤外線センサカバー17における近赤外線IR1,IR2の光線透過率は60%以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の外部へ向けて近赤外線を送信する送信部と、前記車両の外部の対象物に当たって反射されて戻ってきた近赤外線を受信する受信部とを備える近赤外線センサに適用され、前記送信部及び前記受信部を覆う近赤外線センサカバーであり、
コアと、前記コアとは異なる屈折率を有する材料により前記コアを被覆するシェルとからなるフィラーを塗膜に分散させることにより形成された光輝層を備え、近赤外線の光線透過率が60%以上であり、
前記フィラーは、低屈折率材料によって形成された前記コアと、前記コアを形成する材料より高屈折率な高屈折率材料によって形成された前記シェルとからなる近赤外線センサカバー。
【請求項2】
前記光輝層における前記フィラーの含有量は2重量%以下である請求項1に記載の近赤外線センサカバー。
【請求項3】
前記フィラーは、前記コアが酸化アルミニウムにより形成され、かつ前記シェルが酸化スズ又は酸化ジルコニウムにより形成されたパールマイカにより構成されている請求項1又は2に記載の近赤外線センサカバー。
【請求項4】
前記フィラーは、前記コアが二酸化ケイ素により形成され、かつ前記シェルが酸化チタンにより形成されたガラスフィラーにより構成されている請求項1又は2に記載の近赤外線センサカバー。
【請求項5】
顔料及び染料の少なくとも一方が着色剤として含有された塗膜からなる加飾層をさらに備える請求項1~4のいずれか1項に記載の近赤外線センサカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線センサにおける近赤外線の送信部及び受信部を覆う近赤外線センサカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の分野では、送信部及び受信部を有する近赤外線センサを用い、先行車両、歩行者等を含む対象物との距離や相対速度を検出する技術の開発が進められている。検出は、送信部から近赤外線を車両の外部へ向けて送信し、車両の外部の対象物に当たり反射されて戻ってきた近赤外線を受信部で受信することでなされる。
【0003】
上記近赤外線センサがむき出しの状態で車両に取り付けられると、車両の前方からは送信部及び受信部が直接見えてしまう。このことが原因で、近赤外線センサ自体はもちろんのこと、車両において近赤外線センサ周辺の見栄えが損なわれる。
【0004】
そこで、送信部及び受信部を近赤外線センサカバーによって覆うことが考えられている。この近赤外線センサカバーとしては、可視光線を透過しにくく、近赤外線を透過しやすいといった光学特性を確保するために、黒色に着色された透明又は半透明の樹脂により形成されたものが用いられる。
【0005】
上記近赤外線センサカバーが車両に搭載された場合、搭載箇所の周辺に配置された意匠部品の色等と異なると、意匠性が低下する。そこで、色等を意匠部品に合わせて意匠性を高めることのできる近赤外線センサカバーが種々検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、充分な加飾性を有するとともに近赤外線の透過性を有する近赤外線センサカバーが未だ得られていない。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、近赤外線センサの検出機能を確保しながら、意匠性の向上を図ることのできる近赤外線センサカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する近赤外線センサカバーは、車両の外部へ向けて近赤外線を送信する送信部と、前記車両の外部の対象物に当たって反射されて戻ってきた近赤外線を受信する受信部とを備える近赤外線センサに適用され、前記送信部及び前記受信部を覆う近赤外線センサカバーであり、コアと、前記コアとは異なる屈折率を有する材料により前記コアを被覆するシェルとからなるフィラーを塗膜に分散することにより形成された光輝層を備え、近赤外線の光線透過率が60%以上である。
【0009】
上記の構成によれば、車両外部の光源(太陽、電灯等)から光が近赤外線センサカバーに照射されると、光輝層では、その光の一部がシェルの表面で反射する。また、光の別の一部は、シェルの表面で屈折してから同シェルの中に入り、シェルとコアとの境界で反射して再びシェルの外に出ていく。こうした2種類の光は、位相が揃うことで互いに強め合い(干渉し)、その色の光のみが強められる。どの色の光が強められるかは、シェルの厚みによって異なる。そのため、シェルの厚みを調整することで、厚みに対応した波長を有する特定の色の光を強めることが可能である。車両の外部からは、反射された光が、特定の色を帯びた状態で金属のように輝いて見える(金属光沢を伴う色が見える)。
【0010】
さらに、シェル及びコアで反射されて強められる光の色が、車両において近赤外線センサカバーの周辺の意匠部品の色に合わせられることで、意匠部品との一体感が得られ、意匠性が高められる。
【0011】
また、上記意匠部品が金属光沢を有する場合には、光輝層の金属光沢により、意匠部品との一体感がより高められ、意匠性が一層良好なものとなる。
近赤外線センサの送信部から近赤外線が送信されると、その近赤外線は、近赤外線センサカバーを透過する。この近赤外線は、先行車両、歩行者等を含む対象物に当たって反射された後、再び近赤外線センサカバーを透過し、受信部によって受信される。この近赤外線センサカバーは、近赤外線の光線透過率が60%以上であるため、近赤外線の透過の妨げとなりにくい。そのため、近赤外線センサは、車両と上記対象物との距離や相対速度を検出する機能を発揮しやすい。
【0012】
上記近赤外線センサカバーにおいて、前記フィラーは、前記コアが酸化アルミニウム又は酸化チタンにより形成され、かつ前記シェルが酸化スズ又は酸化ジルコニウムにより形成されたパールマイカにより構成されているものであってもよい。また、前記フィラーは、前記コアが二酸化ケイ素により形成され、かつ前記シェルが酸化チタンにより形成されたガラスフィラーにより構成されているものであってもよい。
【0013】
上記近赤外線センサカバーにおいて、顔料及び染料の少なくとも一方が着色剤として含有された塗膜からなる加飾層をさらに備えることが好ましい。
上記の構成によれば、車両外部の光源から光が近赤外線センサカバーに照射されると、加飾層では光の一部が反射される。車両の外部からは、光輝層におけるシェル及びコアで反射されて強められる光の色と、加飾層で反射された光の色とが混ざって見えることとなる。
【0014】
従って、近赤外線センサカバーの色を、光輝層におけるシェル及びコアで反射されて強められる光の色のみで、車両において近赤外線センサカバーの周辺の意匠部品の色に合わせる場合に比べ、色合わせが容易となる。
【発明の効果】
【0015】
上記近赤外線センサカバーによれば、近赤外線センサの検出機能を確保しながら、意匠性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態の近赤外線センサカバーが適用された車両の斜視図。
【
図2】第1実施形態における近赤外線センサカバーによりカバーが兼ねられた近赤外線センサの側断面図。
【
図3】第1実施形態の近赤外線センサカバーにおけるカバー本体部の部分拡大側断面図。
【
図4】(a)は第1実施形態におけるフィラーの概略構成を示す断面図、(b)は
図4(a)の部分拡大断面図。
【
図5】第2実施形態の近赤外線センサカバーを示す図であり、
図3に対応するカバー本体部の部分拡大側断面図。
【
図6】変形例の近赤外線センサカバーが用いられて構成された近赤外線センサを示す側断面図。
【
図7】近赤外線センサとは別に設けられた変形例の近赤外線センサカバーを、近赤外線センサとともに示す側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、近赤外線センサカバーの第1実施形態について、
図1~
図4を参照して説明する。
【0018】
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって車両の前進時の左右方向と一致するものとする。
【0019】
図1及び
図2に示すように、車両10の平面視における四隅(右前部、左前部、右後部、左後部)には、近赤外線センサ11が取り付けられている。なお、
図1は、車両10の左前部に取り付けられた近赤外線センサ11のみを示している。また、4箇所の近赤外線センサ11は、互いに同一の構成を有している。そのため、以下では、車両10の左前部に取り付けられた近赤外線センサ11のみについて説明し、他の3箇所の近赤外線センサ11については説明を割愛する。
【0020】
近赤外線センサ11は、近赤外線レーダ装置の一部を構成する部品であり、近赤外線IR1を車両10の前方へ向けて送信し、かつ先行車両、歩行者等を含む車外の対象物に当たって反射された近赤外線IR2を受信することで、対象物との距離や相対速度を検出する。検出結果は、衝突被害軽減制御、誤発進抑制制御等に用いられる。
【0021】
赤外線は、電磁波の一種であり、可視光の波長(0.36μm~0.83μm)よりも長い波長を有する。近赤外線IR1,IR2は、赤外線の中で最も短い波長(0.83μm~3μm)を有している。
【0022】
上記近赤外線レーダ装置と類似した機能を有するものとしてミリ波レーダ装置がある。ミリ波レーダ装置は、車両10の外方の所定の角度範囲へ向けてミリ波を発し、送信波と受信波との時間差や受信波の強度等から、先行車両との車間距離や相対速度を検出する。
【0023】
近赤外線レーダ装置における近赤外線センサ11は、上記ミリ波レーダ装置よりも広い角度範囲へ向けて近赤外線IR1を発する。また、近赤外線センサ11はミリ波レーダ装置よりも近い距離離れた対象物を検出対象とする。
【0024】
近赤外線センサ11の外殻部分の後半部はケース12によって構成され、前半部分はカバーによって構成されている。近赤外線センサ11は、車両10のボディに固定されている。
【0025】
ケース12は、筒状をなす周壁部13と、周壁部13の後端部に形成された底壁部14とを備えており、前面が開放された有底筒状をなしている。ケース12の全体は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の樹脂材料によって形成されている。底壁部14の前面には、上記近赤外線IR1を送信する送信部15と、上記近赤外線IR2を受信する受信部16とが取り付けられている。
【0026】
近赤外線センサ11のカバーは、近赤外線センサカバー17によって構成されている。近赤外線センサカバー17は、筒状をなす周壁部18と、周壁部18の前端部に形成された板状のカバー本体部19とを備えている。近赤外線センサカバー17の周壁部18は、ケース12の周壁部13の前側に隣接している。カバー本体部19の周縁部分は、周壁部18よりも外方へ拡張されている。カバー本体部19は、前方へ膨らむように湾曲している。カバー本体部19の大部分は底壁部14の前方に位置しており、送信部15及び受信部16を前方から覆っている。
【0027】
図2及び
図3に示すように、カバー本体部19の厚み方向は、車両10の前後方向と略合致している。上記近赤外線IR1,IR2は、カバー本体部19を厚み方向に透過する。近赤外線センサカバー17は、近赤外線センサ11のカバーとしての機能を有するほかに、車両10の前部を装飾するガーニッシュとしての機能も有している。
【0028】
カバー本体部19の厚み方向における後部は、基材21によって構成されている。基材21は、AES(アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合)樹脂等の樹脂材料によって形成されている。
【0029】
カバー本体部19の厚み方向において、上記基材21よりも前方部分の一部は、透明部材22によって構成されている。透明部材22は、透明な樹脂材料であるPC(ポリカーボネート)によって形成されているが、そのほかにも、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、COP(シクロオレフィンポリマー)等の透明な樹脂材料によって形成されてもよい。
【0030】
透明部材22の前面には、同透明部材22よりも硬度の高いハードコート層23が形成されている。ハードコート層23は、上記透明部材22の前面に、樹脂に対する公知の表面処理剤を塗布することにより形成される。表面処理剤としては、例えば、アクリレート系、オキセタン系、シリコーン系等の有機系ハードコート剤、無機系ハードコート剤、有機無機ハイブリッド系ハードコート剤等が挙げられる。
【0031】
透明部材22と基材21との間には、前方から後方に向けて順に、光輝層24、加飾層31及び隠蔽層32が積層された状態で形成されている。
なお、
図3では、理解を容易にするために、上記ハードコート層23、光輝層24、加飾層31及び隠蔽層32の各層の厚みが実際の厚みよりも誇張されて示されている。
【0032】
光輝層24は、金属調の光沢感(光輝外観)を出すためのものであり、透明部材22の後面に形成されている。光輝外観を出すには、可視光を多く反射及び散乱させることが必要であり、その点では、アルミニウム等の金属のフィラーを光輝層24に含有させることが適している。しかし、光輝層24に金属が含有されると、可視光だけでなく近赤外線IR1,IR2も反射されてしまう(透過しない)。そこで、第1実施形態では、金属材料を用いずに光輝外観を出すべく、可視光の一部を反射し、かつ近赤外線IR1,IR2を透過するフィラー25を塗膜に分散させることにより、光輝層24が形成されている。
【0033】
図3及び
図4(a),(b)に示すように、各フィラー25は、コア26を、同コア26とは異なる屈折率を有するシェル(皮膜)27で被覆(コーティング)することによって構成されている。コア26及びシェル27のいずれも、近赤外線IR1,IR2を透過する材料によって形成されている。第1実施形態では、各フィラー25として、低屈折率材料によって形成されたコア26と、高屈折率材料によって形成されたシェル27とからなるものが用いられている。
【0034】
各フィラー25としては、例えば、コア26を、酸化アルミニウム、酸化チタン等のいずれかにより形成し、シェル27を酸化スズ、酸化ジルコニウム等のいずれかの金属酸化物によって形成したパールマイカを用いることができる。また、各フィラー25として、コア26をシリカ(二酸化ケイ素)により形成し、シェル27を酸化チタン等の金属酸化物によって形成したガラスフィラーを用いることができる。
【0035】
コア26及びシェル27を形成する材料としては、屈折率の差が大きいものが選ばれることが望ましい。これは、屈折率の差が大きくなるに従い多くの光が反射されるからである。
【0036】
光輝層24におけるフィラー25の含有量が多くなる(濃度が高く)なるに従い近赤外線IR1,IR2の光線透過率が低下する。近赤外線IR1,IR2の光線透過率を60%以上にする観点からは、フィラー25の濃度は2重量パーセント(wt%)以下であることが望ましい。
【0037】
光輝層24におけるフィラー25の濃度を一定とした場合、フィラー25の種類によって近赤外線IR1,IR2の光線透過率が異なる。フィラー25としてガラスフィラーを用いた場合には、パールマイカを用いた場合よりも、近赤外線IR1,IR2の光線透過率が高くなる傾向にある。
【0038】
図3に示すように、加飾層31は、光輝層24の後面に形成されている。加飾層31には着色剤として顔料が含有されている。なお、着色剤としては、顔料に代えて、又は加えて染料が用いられてもよい。
【0039】
上記光輝層24及び加飾層31で反射されて車両10の外部から見える色は、車両10における近赤外線センサカバー17の周辺の意匠部品の色に合わせられている。
隠蔽層32は、加飾層31と基材21との間に形成されている。隠蔽層32は、主として、加飾層31よりも後側に位置するものが加飾層31を介して透けて見えるのを抑制するためのものであり、黒色、シルバー色等の塗料を塗布することによって形成されている。着色のために、塗料に染料が加えられてもよいし、顔料が加えられてもよいし、染料及び顔料の両者が加えられてもよい。隠蔽層32には、一般的に、カーボン、酸化鉄等が混入されるが、赤外線を吸収したり散乱したりするため、第1実施形態では、上記カーボン、酸化鉄等が用いられていない。
【0040】
上記カバー本体部19を構成する基材21、透明部材22、ハードコート層23、光輝層24、加飾層31及び隠蔽層32は、いずれも可視光を透過しにくく、かつ近赤外線IR1,IR2を透過しやすい性質を有している。そして、近赤外線センサカバー17における近赤外線IR1,IR2の光線透過率は60%以上であり、かつ可視光の光線透過率は70%以下である。
【0041】
次に、上記のように構成された第1実施形態の作用及び効果について説明する。
車両10の外部の光源(太陽、電灯等)から光が近赤外線センサカバー17に照射されると、光輝層24では、いわゆる薄膜干渉が起こる。すなわち、
図4(b)において矢印で示すように、照射された光の一部がシェル27の表面で反射する。また、光の別の一部は、シェル27の表面で屈折してから同シェル27の中に入り、シェル27とコア26との境界で反射して再びシェル27の外に出ていく。こうした2種類の光は、位相が揃うことで互いに強め合い(干渉し)、その色の光のみが強められる。どの色の光が強められるかは、シェル27の厚みによって異なる。そのため、シェル27の厚みを調整することで、その厚みに応じた特定の波長の色(構造色)の光を強めることが可能である。
【0042】
また、上記のように光源からの光が近赤外線センサカバー17に照射されると、加飾層31(
図3参照)ではその光の一部が反射される。
従って、車両10の外部からは、上記のように光輝層24で強められた色であり、かつ金属のような輝きを伴う色と、加飾層31で反射された光の色とが混ざって見えることとなる。
【0043】
光輝層24、加飾層31及び隠蔽層32は、近赤外線センサ11内であって、近赤外線センサカバー17よりも後方に配置された部材、例えば、ケース12、送信部15、受信部16等を隠す機能を発揮する。そのため、車両10の外部から近赤外線センサカバー17を見た場合、その奥に位置する送信部15や受信部16は見えにくい。従って、送信部15や受信部16が近赤外線センサカバー17を介して透けて見える場合に比べて見栄え(意匠性)が向上する。
【0044】
さらに、光輝層24のシェル27及びコア26で反射されて強められる光の色と、加飾層31で反射された光の色とが、車両10において近赤外線センサカバー17の周辺の意匠部品の色に合わせられることで、意匠部品との一体感が得られ、意匠性が高められる。
【0045】
特に、第1実施形態では、シェル27及びコア26で反射されて強められる光の色に加え、加飾層31で反射された光の色によって、近赤外線センサカバー17の色を意匠部品の色に合わせている。そのため、近赤外線センサカバー17の色を、光輝層24におけるシェル27及びコア26で反射されて強められる光の色のみで、上記意匠部品の色に合わせる場合に比べ、色合わせが容易となる。
【0046】
また、上記意匠部品が金属光沢を有する場合には、光輝層24の金属光沢により、意匠部品との一体感がより高められ、意匠性が一層良好なものとなる。
また、近赤外線センサカバー17では、透明部材22の前面に形成されたハードコート層23は、近赤外線センサカバー17の耐衝撃性を高める。従って、近赤外線センサカバー17の前面に飛び石等により傷が付くのを抑制することができる。また、ハードコート層23は、近赤外線センサカバー17の耐候性を高める。従って、太陽光、風雨、温度変化等が原因で、近赤外線センサカバー17が変質したり劣化したりするのを抑制することができる。
【0047】
ところで、
図2及び
図3に示すように、送信部15から近赤外線IR1が送信されると、その近赤外線IR1は、近赤外線センサカバー17のカバー本体部19を透過する。この近赤外線IR1は、先行車両、歩行者等を含む対象物に当たって反射される。反射された近赤外線IR2は、再びカバー本体部19を透過し、受信部16によって受信される。カバー本体部19における近赤外線IR1,IR2の光線透過率が60%以上であるため、同カバー本体部19は近赤外線IR1,IR2の透過の妨げとなりにくい。近赤外線IR1,IR2のうち、カバー本体部19によって減衰される量を許容範囲にとどめることができる。そのため、近赤外線センサ11に、車両10と対象物との距離や相対速度を検出する機能を適正に発揮させることができる。
【0048】
(第2実施形態)
次に、近赤外線センサカバー17の第2実施形態について、
図5を参照して説明する。
近赤外線センサカバー17が、車両10の前部を装飾するガーニッシュとしての機能を有するとともに、近赤外線センサ11のカバーとしての機能を有している点は、第1実施形態と同様である。また、近赤外線センサカバー17が周壁部18及びカバー本体部19を備えている点、基材21がカバー本体部19の厚み方向における後部を構成している点は、第1実施形態と同様である。
【0049】
第2実施形態では、透明部材22が基材21の前側に隣接した状態で配置されている。透明部材22及び基材21は、前方へ膨らむように湾曲している。透明部材22の前面にはフィルム体41が配置されている。フィルム体41は、真空成形、TOM成形等により、透明部材22の前面に沿って変形させられている。
【0050】
フィルム体41の主要部は、透明フィルム42によって構成されている。透明フィルム42の前面には、ハードコート層43が形成されている。第2実施形態では、透明フィルム42の前面にハードコート層43が形成された積層体44として、三菱ガス化学株式会社製の表面硬度改良フィルム(製品名:DF02PU)が用いられている。この表面硬度改良フィルムは、ハードコートフィルムとも呼ばれ、高い表面硬度を有しながら、熱成形を可能にしたもので、熱成形性、耐擦傷性、耐候性等に優れている。
【0051】
透明フィルム42の後面には、加飾層45、光輝層46及び隠蔽層47が順に積層されている。なお、
図5では、理解を容易にするために、上記ハードコート層43、加飾層45、光輝層46及び隠蔽層47の各層の厚みが実際の厚みよりも誇張されて示されている。
【0052】
加飾層45は、赤、青、黄等の色(色調)を出す層である。第2実施形態では、加飾層45として、帝国インキ製造株式会社製の加飾インキ(製品名:MIX-HF)が用いられている。
【0053】
光輝層46は、金属材料を用いることなく、金属調の光沢(光輝外観)を出すためのものである。第2実施形態では、光輝層46として、東レ株式会社製の樹脂フィルム(製品名:PICASUS)が用いられている。この樹脂フィルムは、互いに屈折率の異なる2種類の高分子樹脂材料(低屈折率ポリマー及び高屈折率ポリマー)を数百~数千の層数で積層したもの、すなわち、有機の光学多層膜である。光輝層46は、干渉反射により可視光を反射することで、金属調を表現するとともに近赤外線IR1,IR2を透過する。
【0054】
隠蔽層47は、近赤外線IR1,IR2の光線透過率が高く、かつ可視光の光線透過率が低い材料として知られている赤外線透過インキ(IRインキ)によって形成されている。隠蔽層47として、第2実施形態では、透明部材22を見えにくくする隠蔽機能に加え、バインダー機能を有する帝国インキ製造株式会社製のバインダーインキ(製品名:IMB-HF 006)が用いられている。
【0055】
上記加飾層45及び光輝層46で反射されて車両10の外部から見える色は、車両10において近赤外線センサカバー17の周辺の意匠部品の色に合わせられている。
そして、上記透明フィルム42、ハードコート層43、加飾層45、光輝層46及び隠蔽層47によりフィルム体41が構成されている。フィルム体41は、隠蔽層47において透明部材22に接着されている。
【0056】
上記カバー本体部19を構成する基材21、透明部材22、ハードコート層43、透明フィルム42、加飾層45、光輝層46及び隠蔽層47は、いずれも可視光を透過しにくく、かつ近赤外線IR1,IR2を透過しやすい性質を有している。そして、近赤外線センサカバー17における近赤外線IR1,IR2の光線透過率は60%以上であり、かつ可視光の光線透過率は70%以下である。
【0057】
なお、前述した第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
次に、上記のように構成された第2実施形態の作用及び効果について説明する。
【0058】
車両10の外部の光源(太陽、電灯等)から光が近赤外線センサカバー17に照射されると、加飾層45ではその光の一部が反射される。
また、光輝層46では、いわゆる多層膜干渉が起こる。すなわち、複数の層で光の屈折、回折及び反射(干渉反射)が起こり、可視光が反射され、金属光沢を伴う色が強められる。膜の厚さ、層の数、層の並び方等を組み替えることで、特定の波長の色の光を強めることが可能である。
【0059】
従って、車両10の外部からは、加飾層45で反射された光の色と、光輝層46で強められた色であり、かつ金属のような輝きを伴う色とが混ざって見えることとなる。
加飾層45、光輝層46及び隠蔽層47は、それよりも後方部分の部材であるケース12、送信部15、受信部16等を隠す機能を発揮する。そのため、車両10の外部から近赤外線センサカバー17を見た場合、その奥に位置する送信部15や受信部16は見えにくい。従って、送信部15や受信部16が近赤外線センサカバー17を介して透けて見える場合に比べて見栄え(意匠性)が向上する。
【0060】
さらに、加飾層45で反射された光の色と、光輝層46で強められた色であり、かつ金属のような輝きを伴う色とが、車両10において近赤外線センサカバー17の周辺の意匠部品の色に合わせられることで、意匠部品との一体感が得られ、意匠性が高められる。
【0061】
特に、第2実施形態では、光輝層46で強められる光の色に加え、加飾層45で反射された光の色によって、近赤外線センサカバー17の色を意匠部品の色に合わせている。そのため、近赤外線センサカバー17の色を、光輝層46で強められる光の色のみで、上記意匠部品の色に合わせる場合に比べ、色合わせが容易となる。
【0062】
また、上記意匠部品が金属光沢を有する場合には、光輝層46の金属光沢により、意匠部品との一体感がより高められ、意匠性が一層良好なものとなる。
また、近赤外線センサカバー17では、透明部材22の前面に形成されたハードコート層43が近赤外線センサカバー17の耐衝撃性及び耐候性を高める。
【0063】
第2実施形態でも、送信部15から送信された近赤外線IR1はカバー本体部19を透過する。この近赤外線IR1は対象物に当たって反射された後、再びカバー本体部19を透過し、受信部16によって受信される。このカバー本体部19における近赤外線IR1,IR2の光線透過率が60%以上であるため、カバー本体部19は、近赤外線IR1,IR2の透過の妨げとなりにくい。近赤外線IR1,IR2のうち、カバー本体部19によって減衰される量を許容範囲にとどめることができる。そのため、第2実施形態によっても、近赤外線センサ11に、車両10と対象物との距離や相対速度を検出する機能を適正に発揮させることができる。
【0064】
第2実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
・積層体44に対し加飾層45、光輝層46、隠蔽層47等を積層することにより加飾してなるフィルム体41を、真空成形、TOM成形等により透明部材22の湾曲した形状に沿うように撓ませている。そのため、フィルム体41は形状追従性がよく、湾曲した透明部材22に対しても適用可能である。
【0065】
なお、フィルム体41と透明部材22とを一体化する方法として、フィルム加工工程と射出成形工程とを備えてなるフィルムインサート法が採用されてもよい。フィルムインサート成形は、フィルム体41を金型に配置し、溶融状態の樹脂材料を加圧して金型に流し込んで冷却固化させることで、フィルム体41と樹脂材料とを一体化させる樹脂成形法の一態様である。
【0066】
・光輝層46が樹脂フィルムによって形成されているため、無機材料によって形成された場合よりも撓みやすい。そのため、透明部材22の湾曲した形状に沿って変形させることがより容易となる。
【0067】
なお、上述した各実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
<第1実施形態に関する事項>
・光輝層24と加飾層31との位置関係が逆にされてもよい。すなわち、加飾層31が透明部材22の後面に形成され、その加飾層31の後面に光輝層24が形成されてもよい。このように変更された場合であっても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0068】
・フィラー25として、上記第1実施形態とは逆に、高屈折率材料によって形成されたコア26と、低屈折率材料によって形成されたシェル27とからなるものが用いられてもよい。
【0069】
・加飾層31が省略されてもよい。このようにすると、車両10の外部から見える近赤外線センサ11の色は、光輝層24で反射されて干渉により強められた光の色によって決定される。シェル27の厚みを調整することで、厚みに対応した波長を有する特定の色の光を強めることが可能である。車両10の外部からは、反射された光が、特定の色を帯びた状態で金属のように輝いて見える(金属光沢を伴う色が見える)。
【0070】
さらに、シェル27及びコア26で反射されて強められる光の色が、車両10において近赤外線センサカバー17の周辺の意匠部品の色に合わせられることで、意匠部品との一体感が得られ、意匠性が高められる。
【0071】
また、上記意匠部品が金属光沢を有する場合には、光輝層24の金属光沢により、意匠部品との一体感がより高められ、意匠性が一層良好なものとなる。
<第2実施形態に関する事項>
・第2実施形態における光輝層46が、第1実施形態における光輝層24と同様の構成に変更されてもよい。
【0072】
<第1及び第2実施形態に共通する事項について>
・ハードコート層23,43の前面に撥水層が形成されてもよい。撥水層は、例えば、有機系塗装膜、シリコーン膜等によって構成される。この撥水層により、近赤外線センサカバー17の前面に付着した水を弾き、同近赤外線センサカバー17を濡れにくくすることで、同近赤外線センサカバー17の前面に水の膜が形成されるのを抑制することができる。
【0073】
・ハードコート層23,43として、撥水機能を有するものが用いられてもよい。
・第1及び第2実施形態とは異なり、近赤外線センサカバー17から、車両10の前部を装飾するガーニッシュとしての機能が省略されてもよい。この場合、
図6に示すように、近赤外線センサカバー17は、筒状をなす周壁部18と、周壁部18の前端部に形成された板状のカバー本体部19とを備えている点で第1及び第2実施形態と共通する。ただし、カバー本体部19は、第1及び第2実施形態におけるカバー本体部19よりも小さい大きさ、より具体的には、周壁部13の前端開放部分を塞ぐことのできる最小の大きさに形成されている。また、
図6の変形例の近赤外線センサカバー17では、基材21が用いられていない。なお、カバー本体部19の層構造は、第1又は第2実施形態と同様である。従って、この場合にも、第1又は第2実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0074】
・第1実施形態、第2実施形態、及び上記
図6の変形例は、近赤外線センサカバー17が近赤外線センサ11の一部を構成するものであったが、
図7に示すように、近赤外線センサカバー17が近赤外線センサ11とは別に設けられてもよい。
【0075】
すなわち、近赤外線センサ11が、送信部15及び受信部16を組み付けられたケース12と、ケース12の前側に配置されて、送信部15及び受信部16を覆うカバー51とによって構成される。
【0076】
図7の変形例では、第1又は第2実施形態で説明したものと同様の構成を有する近赤外線センサカバー17が、近赤外線センサ11のカバー51の前方に配置される。この場合、近赤外線センサカバー17は、近赤外線センサ11とは別に車両10のボディに固定される。この場合にも、第1又は第2実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
【符号の説明】
【0077】
10…車両、11…近赤外線センサ、15…送信部、16…受信部、17…近赤外線センサカバー、24,46…光輝層、25…フィラー、26…コア、27…シェル、31,45…加飾層、IR1,IR2…近赤外線。
【手続補正書】
【提出日】2021-12-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の外部へ向けて近赤外線を送信する送信部と、前記車両の外部の対象物に当たって反射されて戻ってきた近赤外線を受信する受信部とを備える近赤外線センサに適用され、前記送信部及び前記受信部を覆う近赤外線センサカバーであり、
コアと、前記コアとは異なる屈折率を有する材料により前記コアを被覆するシェルとからなるフィラーを塗膜に分散させることにより形成された光輝層を備え、近赤外線の光線透過率が60%以上であり、かつ可視光の光線透過率は70%以下であり、
前記フィラーは、低屈折率材料によって形成された前記コアと、前記コアを形成する材料より高屈折率な高屈折率材料によって形成された前記シェルとからなり、
前記光輝層における前記フィラーの含有量は2重量%以下である近赤外線センサカバー。
【請求項2】
前記光輝層は、金属調の光沢感を有している請求項1に記載の近赤外線センサカバー。
【請求項3】
顔料及び染料の少なくとも一方が着色剤として含有された塗膜からなる加飾層をさらに備え、
前記加飾層は、前記光輝層の内面に形成されている請求項1又は2に記載の近赤外線センサカバー。
【請求項4】
前記フィラーは、前記コアが酸化アルミニウムにより形成され、かつ前記シェルが酸化スズ又は酸化ジルコニウムにより形成されたパールマイカにより構成されている請求項1~3のいずれか一項に記載の近赤外線センサカバー。
【請求項5】
前記フィラーは、前記コアが二酸化ケイ素により形成され、かつ前記シェルが酸化チタンにより形成されたガラスフィラーにより構成されている請求項1~3のいずれか一項に記載の近赤外線センサカバー。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
上記課題を解決する近赤外線センサカバーは、車両の外部へ向けて近赤外線を送信する送信部と、前記車両の外部の対象物に当たって反射されて戻ってきた近赤外線を受信する受信部とを備える近赤外線センサに適用され、前記送信部及び前記受信部を覆う近赤外線センサカバーであり、コアと、前記コアとは異なる屈折率を有する材料により前記コアを被覆するシェルとからなるフィラーを塗膜に分散させることにより形成された光輝層を備え、近赤外線の光線透過率が60%以上であり、かつ可視光の光線透過率は70%以下であり、前記フィラーは、低屈折率材料によって形成された前記コアと、前記コアを形成する材料より高屈折率な高屈折率材料によって形成された前記シェルとからなり、前記光輝層における前記フィラーの含有量は2重量%以下である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
上記近赤外線センサカバーにおいて、顔料及び染料の少なくとも一方が着色剤として含有された塗膜からなる加飾層をさらに備え、前記加飾層は、前記光輝層の内面に形成されていることが好ましい。
上記の構成によれば、車両外部の光源から光が近赤外線センサカバーに照射されると、加飾層では光の一部が反射される。車両の外部からは、光輝層におけるシェル及びコアで反射されて強められる光の色と、加飾層で反射された光の色とが混ざって見えることとなる。
従って、近赤外線センサカバーの色を、光輝層におけるシェル及びコアで反射されて強められる光の色のみで、車両において近赤外線センサカバーの周辺の意匠部品の色に合わせる場合に比べ、色合わせが容易となる。
上記近赤外線センサカバーにおいて、前記フィラーは、前記コアが酸化アルミニウム又は酸化チタンにより形成され、かつ前記シェルが酸化スズ又は酸化ジルコニウムにより形成されたパールマイカにより構成されているものであってもよい。また、前記フィラーは、前記コアが二酸化ケイ素により形成され、かつ前記シェルが酸化チタンにより形成されたガラスフィラーにより構成されているものであってもよい。