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  • 特開-ポリカーボネート樹脂製品の修復方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022250
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂製品の修復方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 73/02 20060101AFI20220127BHJP
【FI】
B29C73/02
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188708
(22)【出願日】2021-11-19
(62)【分割の表示】P 2019131576の分割
【原出願日】2019-07-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2018148991
(32)【優先日】2018-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】518242455
【氏名又は名称】株式会社AXEL
(74)【代理人】
【識別番号】100106404
【弁理士】
【氏名又は名称】江森 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 有子
(72)【発明者】
【氏名】宮本 勇一
(57)【要約】
【課題】外光等に含まれる紫外線によって黄変したポリカーボネート樹脂製品の修復方法を提供する。
【解決手段】外光等に含まれる紫外線によって黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去して、透明なポリカーボネート樹脂製品とする修復方法であって、修復液の主成分としてのジクロロメタンに対して、トルエン等の沸点向上剤を配合し、例えば、修復液の沸点(大気圧下)を45℃以上の値とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂製品の修復液(但し、着色剤を含む修復液を除く。)を用い、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去して、透明なポリカーボネート樹脂製品とするポリカーボネート樹脂製品の修復方法であって、下記工程(1)~(3)を含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂製品の修復方法。
(1)前記黄変したポリカーボネート樹脂製品を準備する工程
(2)前記修復液の主成分としてのジクロロメタン100重量部に対して、沸点向上剤を3~80重量部の割合で配合してなるポリカーボネート樹脂製品の修復液を準備する工程
(3)黄変したポリカーボネート樹脂製品に対して、前記修復液の蒸気を吹き付けて、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去する工程
【請求項2】
前記沸点向上剤が、エタノール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトンの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂製品の修復方法。
【請求項3】
前記沸点向上剤の沸点(大気圧下)を50℃以上の値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂製品の修復方法。
【請求項4】
前記工程(2)において、前記修復液の沸点を、通常、45~100℃の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂製品の修復方法。
【請求項5】
前記工程(2)において、前記修復液の粘度(測定温度:25℃)を5~1000mPa・secの重量部の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂製品の修復方法。
【請求項6】
前記修復液が、耐候性樹脂を更に含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の修復方法のポリカーボネート樹脂製品の修復液。
【請求項7】
前記工程(1)において、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面を研磨する工程を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂製品の修復方法。
【請求項8】
前記工程(3)において、前記修復液を収容する収容部と、前記修復液を所定温度に加熱する加熱部と、吹出口を介して、前記修復液の蒸気を吹き付けるチューブが装着された吹き付け部と、を備えた吹き付け装置を用いて、前記黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去する工程を実施することを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂製品の修復方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂製品(ポリカーボネート樹脂成型品と称する場合もある。)の修復方法に関する。
特に、沸点が所定温度以上だって、取り扱いが容易な、外光等に含まれる紫外線によって黄変したポリカーボネート樹脂製品の修復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のヘッドライトや電飾カバー等のポリカーボネート樹脂製品が、その透明性や耐久性が良好な点から多用されている。
しかしながら、ポリカーボネート樹脂製品の耐候性が低く、外光等に含まれる紫外線によって、黄変しやすいという問題が見られた。
そのため、ポリカーボネート樹脂製品中に紫外線吸収剤やヒンダードアミン等を所定量配合したとしても、比較的均一分散が困難であって、短時間で表面が膨潤し、やはり黄変しやすいという問題が見られた。
【0003】
そのため、ポリカーボネート樹脂成型品の表面に、紫外線吸収剤を付着させた後、ポリカーボネート樹脂に対して溶解性のある溶媒の蒸気と接触させることを特徴とするポリカーボネート樹脂成型品の表面処理方法が提案されている(特許文献1参照)。
より具体的には、射出成型したポリカーボネート樹脂に対して、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン4gを、エチレングリコールモノエチルエーテル100gに溶解させた溶液中に、5秒間浸漬させた。
次いで、ジクロロメタンを入れた容器内で、室温下、ジクロロメタンの蒸気と1分間接触させて、ポリカーボネート樹脂成型品の表面処理方法を実施した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62-96535号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1においては、修復液として、沸点が40℃(大気圧下、以下同様である。)のジクロロメタンの単体を用いていたため、夏場などに、周囲温度が沸点以上の温度になると、修復液が沸騰してしまい、取り扱いが困難になるという問題が見られた。
また、修復液として、沸点が101℃のジオキサンの単体も用いていたため、冬場などに、周囲温度が低くなると、かかる修復液を沸点以上に迅速に加熱して、均一な蒸気を発生させることが困難になるという問題が見られた。
【0006】
一方、ポリカーボネート樹脂成型品の表面に、紫外線吸収剤を均一に付着させる工程が必要であって、全体として、工程数が多くなったり、処理時間や製造コストが高くなったりするという問題が見られた。
【0007】
そこで、本発明の発明者は鋭意検討した結果、修復液として、ジクロロメタンを主成分とするものの、沸点向上剤を所定量配合することによって、夏場などの高温環境条件であっても、修復液の沸騰を有効に防止し、取り扱いが良好になることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、修復液の主成分としてのジクロロメタンの蒸気を吹き付けて、外光等に含まれる紫外線によって黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を迅速に溶解除去し、透明なポリカーボネート樹脂製品とするポリカーボネート樹脂製品の修復方法であって、使用時の環境温度等によらず、修復液の取り扱い性等を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂製品の修復液(但し、着色剤を含む修復液を除く。)を用い、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去して、透明なポリカーボネート樹脂製品とするポリカーボネート樹脂製品の修復方法であって、下記工程(1)~(3)を含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂製品の修復方法が提供され、上述した問題を解決することができる。
(1)前記黄変したポリカーボネート樹脂製品を準備する工程
(2)前記修復液の主成分としてのジクロロメタン100重量部に対して、沸点向上剤を3~80重量部の割合で配合してなるポリカーボネート樹脂製品の修復液を準備する工程
(3)黄変したポリカーボネート樹脂製品に対して、前記修復液の蒸気を吹き付けて、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去する工程
すなわち、主成分であるジクロロメタンに対して、所定量の沸点向上剤を配合してなる修復液の蒸気を、外光等に含まれる紫外線によって黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分に吹き付けることによって、黄変し、劣化した部分のみを溶解除去することができる。
したがって、所定量の沸点向上剤の配合によって、樹脂液の沸点が調整され、使用時の環境温度等によらず、取り扱い性が良好になるとともに、容易かつ短時間において、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分のみを、迅速に溶解除去して、透明なポリカーボネート樹脂製品とすることができる。
【0010】
また、本発明のポリカーボネート樹脂製品の修復方法を実施するにあたり、配合する沸点向上剤の沸点(大気圧下)を50℃以上の値とすることが好ましい。
このように構成することにより、修復液を使用する環境温度が40℃を多少超えたような場合であっても、修復液の自然沸騰を抑制し、保管時の安全性についても確保することができる。
【0011】
また、本発明のポリカーボネート樹脂製品の修復方法を実施するにあたり、沸点向上剤が、エタノール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトンの少なくとも一つであることが好ましい。
このように、所定の沸点向上剤を配合することにより、主成分であるジクロロメタンと幅広い範囲で均一に混合することができ、修復液としての沸点の調整が容易になる。また、これらの沸点向上剤であれば、主剤とともに、各種ポリマー成分(オリゴマ-やワニス成分を含む)も容易に溶解させることができ、ポリカーボネート樹脂製品の表面に耐候性が良好であって、かつ平滑性や密着性にすぐれた皮膜(保護膜)を同時に形成することができる。
【0012】
また、本発明のポリカーボネート樹脂製品の修復方法を実施するにあたり、工程(2)において、修復液の沸点を、通常、45~100℃の範囲内の値とすることが好ましい。
このように、修復液の沸点範囲を構成することにより、修復液を使用する環境温度が、夏場になって40℃を多少超えたような場合であっても、修復液の沸騰を抑制し、かつ、安全性も確保することができ、冬場などに、周囲温度が低くなった場合に、かかる修復液を沸点以上に迅速に加熱して、均一な蒸気を発生させることができる。
【0013】
また、本発明のポリカーボネート樹脂製品の修復方法を実施するにあたり、耐候性樹脂を更に含むことが好ましい。
このように耐候性樹脂を含むことによって、主剤とともに、アクリル樹脂等の各種樹脂成分(オリゴマ-やワニス成分を含む)も容易に溶解させることができ、ポリカーボネート樹脂製品の表面に対して、耐候性が良好な皮膜としての耐候性層を同時に形成することができる
【0014】
また、本発明のポリカーボネート樹脂製品の修復方法を実施するにあたり、工程(2)において、修復液の粘度(測定温度:25℃)を5~1000mPa・secの重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
このような粘度範囲を構成することにより、修復液としての取り扱い性と、臭気性と間のバランスを更に良好なものとすることができる。
【0015】
また、本発明のポリカーボネート樹脂製品の修復方法を実施するにあたり、工程(1)において、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面を研磨する工程を含むことが好ましい。
このように実施することにより、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を大まかに研磨処理で除去することができ、かつ、所定箇所のポリカーボネート樹脂製品のみを、修復液の蒸気で効率的に除去することができ、ひいては、全体としての処理時間を著しく短縮化することができる。
【0016】
また、本発明のポリカーボネート樹脂製品の修復方法を実施するにあたり、工程(3)において、修復液を収容する収容部と、修復液を所定温度に加熱する加熱部と、吹出口を介して、修復液の蒸気を吹き付けるチューブが装着された吹き付け部と、を備えた吹き付け装置を用いて、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去する工程を実施することが好ましい。
このように実施することにより、黄変したポリカーボネート樹脂製品の所望部分のみに、更に集中的かつ安定的に所定蒸気を吹き付け、所定箇所の黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面のみを、効率的かつ短時間に修復することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明のポリカーボネート樹脂製品の修復液における、沸点向上剤(トルエン)の配合量と、修復液の沸点との関係及び変色したポリカーボネート樹脂製品の溶解性との関係を、それぞれ説明するために供する図である。
図2図2は、本発明のポリカーボネート樹脂製品の修復方法を説明するために供するフロー図である。
図3図3(a)~(d)は、本発明のポリカーボネート樹脂製品の修復液の蒸気を吹き付けるための装置を説明するために、それぞれ供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去して、透明なポリカーボネート樹脂製品とする修復液であって、修復液の主成分としてのジクロロメタン100重量部に対して、沸点向上剤を3~80重量部の割合で配合してなることを特徴とするポリカーボネート樹脂製品の修復液である。
以下、第1の実施形態の修復液について、適宜図面を参照しながら、具体的に説明する。
【0019】
1.主成分
修復液の主成分は、ジクロロメタン(Cl2CH2)である。
但し、ジクロロメタン以外の塩素系溶剤、例えば、トリクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2-ジクロロエチレン等の少なくとも一種であれば、ジクロロメタンとの混合性も良好であり、かつ、ポリカーボネート樹脂製品の溶解性も良好であることから、併用することも好ましい。
より具体的には、修復液の主成分であるジクロロメタン100重量部に対して、ジクロロメタン以外の塩素系溶剤の配合量を0.1~30重量部の範囲内の値とすることが好ましく、0.5~20重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、1~10重量部の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0020】
2.沸点向上剤
(1)沸点向上剤の沸点
沸点向上剤の沸点(大気圧下)を、主成分であるジクロロメタンの沸点以上の値とすることが好ましいが、通常、50℃以上の値とすることが好ましい。
この理由が、このような沸点を有する沸点向上剤であれば、修復液全体としての沸点の調整が容易になって、幅広い環境温度において、修復液の取り扱いが容易になり、ひいては安全性も確保することができるためである。
したがって、沸点向上剤の沸点を55~120℃の範囲内の値とすることが好ましく、60~100℃の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0021】
(2)沸点向上剤の種類
また、沸点向上剤の種類に関して、主成分であるジクロロメタンと溶解し、修復液としての沸点を調整できる化合物であれば特にその種類は制限されるものではない、
したがって、例えば、エタノール(沸点:78.4℃)、ジオキサン(沸点:101℃)、テトラヒドロフラン(沸点:66℃)、シクロヘキサン(沸点:80.7℃)、ヘキサン(沸点:68℃)、ヘプタン(沸点:98.4℃)、トルエン(沸点:110.6℃)、酢酸メチル(沸点:57.1℃)、酢酸エチル(沸点:77.1℃)、メチルエチルケトン(沸点:79.6℃)、アセトン(56.5℃)の少なくとも一つの有機溶剤であることが好ましい。
この理由が、このような沸点向上剤であれば、主成分であるジクロロメタンと幅広い範囲で混合することができ、かつ、沸点がいずれも50℃以上であって、比較的少量の配合により、修復液としての沸点の調整が容易になるためである。
【0022】
また、これらの沸点向上剤であれば、主剤とともに、アクリル樹脂等の各種樹脂成分(オリゴマ-やワニス成分を含む)も容易に溶解させることができ、ポリカーボネート樹脂製品の表面に耐候性が良好な皮膜を同時に形成することができるためである。
したがって、このような沸点向上剤を配合した修復液であれば、幅広い環境温度において、修復液の取り扱いが容易になって、かつ、修復液による黄変したポリカーボネート樹脂製品の除去性のみならず、ポリカーボネート樹脂製品の耐候性も向上させることができる。
【0023】
(3)沸点向上剤の配合量
沸点向上剤の配合量についても、修復液を使用する環境温度や、ポリカーボネート樹脂製品の黄変の程度、すなわち、黄色度によって、適宜変更できるが、通常、ジクロロメタン100重量部に対して、3~80重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このような配合比で構成した修復液であれば、修復液としての沸点の調整と、黄変し、劣化した部分のみのポリカーボネート樹脂製品の除去性と、のバランスを更に良好なものとすることができるためである。
【0024】
したがって、沸点向上剤の配合量を、ジクロロメタン100重量部に対して、5~60重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、8~50重量部の範囲内の値とすることが更に好ましく、10~40重量部の範囲内の値とすることが最も好ましい。
【0025】
ここで、図1を参照して、ポリカーボネート樹脂製品の修復液における、沸点向上剤の配合量と、ポリカーボネート樹脂製品の溶解性と、修復液の沸点との関係を説明する。
かかる図1の横軸に、主剤であるジクロロメタン100重量部に対する、沸点向上剤(トルエン)の配合量(重量部)が採って示してあり、左軸に、修復液の沸点(℃)が、特性曲線Aとして示してあり、右軸に、黄変したポリカーボネート樹脂製品の溶解性の評価点(相対値)との関係が、特性曲線Bで示してある。
【0026】
なお、黄変したポリカーボネート樹脂製品の溶解性の評価点の5は、20秒以内に、黄変したポリカーボネート樹脂製品(面積:約10cm2)を溶解除去できる程度を意味している。
また、同様に評価点の4は、40秒以内に、黄変したポリカーボネート樹脂製品を溶解除去できる程度を意味し、評価点3は、60秒以内に、黄変したポリカーボネート樹脂製品を溶解除去できる程度を意味し、評価点2は、120秒以内に、黄変したポリカーボネート樹脂製品を溶解除去できる程度を意味し、評価点1は、120秒以上経過しても、黄変したポリカーボネート樹脂製品を溶解除去できない程度をそれぞれ意味している。
【0027】
そして、図1中の特性曲線Aから、沸点向上剤(トルエン)の配合量が所定範囲内の値であれば、修復液の沸点が所定温度(例えば、40度超)を超え、所定範囲(例えば、60℃未満)に適宜変更することが理解できる。
また、図1中の特性曲線Bから、沸点向上剤の配合量が所定範囲内の値であれば、ポリカーボネート樹脂製品の溶解性を良好な範囲に維持できることが理解される。
したがって、ジクロロメタン100重量部に対して、通常、3~80重量部の範囲内の値とすることによって、ポリカーボネート樹脂製品の除去性と、修復液としての沸点の調整とのバランスを更に良好なものとできる。
【0028】
3.着色剤
(1)種類
また、着色剤の種類は、ジクロロメタンへの溶解性(着色性)や、着色剤を配合した場合の修復液のポリカーボネート樹脂製品の溶解性等を考慮して定めることが好ましいが、例えば、アルカリブルー、リゾールレッド、カーミン6B、モノアゾイエロー(ピグメントイエロー1やピグメントイエロー3等)、ジスアゾイエロー(ピグメントイエロー83等)、キノキサリンイエロー(ピグメントイエロー175等)、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、酸化クロム、キナクリドンレッド、イソインドリノンエロー等の少なくとも一の顔料であることが好ましい。
【0029】
これらの顔料のうち、アルカリブルーやフタロシアニンブルーあるいはフタロシアニングリーンや酸化クロム等であれば、青色顔料や緑色の代表的顔料であって、少量の配合で識別性高いばかりか、当該着色剤を配合した場合の修復液のポリカーボネート樹脂製品の溶解性等への影響が少ないことより、より好ましい顔料と言える。
【0030】
一方、モノアゾイエロー、ジスアゾイエロー、キノキサリンイエロー等の黄色顔料であれば、ポリカーボネート樹脂製品に付着したり、あるいは吹き付け装置内に沈降したりしたような場合であっても、比較的目立つことが少ないという利点がある。
その上、黄色顔料であれば、吹き付け装置の密封蓋におけるシール材(シリコーン材料等)を侵すことが少ないことより、更に好ましい顔料と言える。
【0031】
(2)配合量
また、着色剤の配合量は、ジクロロメタンへの着色性や、ポリカーボネート樹脂製品の溶解性等を考慮して定めることが好ましいが、通常、ジクロロメタン100重量部に対して、0.01~20重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
このように着色剤を配合することにより、ポリカーボネート樹脂製品の良好な溶解性等が得られるばかりか、黄変した部分のみのポリカーボネート樹脂製品を、選択的に除去することができるためである。
したがって、着色剤の配合量を、ジクロロメタン100重量部に対して、0.1~10重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、0.5~5重量部の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0032】
4.修復液の沸点
また、沸点向上剤等を含む修復液の沸点を、通常、45~100℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、沸点向上剤等を含む修復液の沸点が45℃未満の値になると、修復液を使用する環境温度が、夏場になって40℃を多少超えたような場合であっても、修復液の沸騰を抑制し、かつ、安全性も確保しやすいためである。
一方、沸点向上剤等を含む修復液の沸点が100℃を超えた値になると、冬場などに、周囲温度が低くなった場合に、かかる修復液を沸点以上に迅速に加熱して、均一な蒸気を発生させることが困難になる場合があるためである。
【0033】
したがって、環境温度にかかわらず、安定的に所定蒸気が発生するように、沸点向上剤等を含む修復液の沸点を、50~90℃の範囲内の値とすることがより好ましく、60~80℃の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0034】
5.修復液の粘度
また、沸点向上剤等を含む修復液の粘度(測定温度:25℃)を、通常、5~1000mPa・secの重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このような粘度範囲に構成することにより、修復液としての取り扱い性と、臭気性と間のバランスを更に良好なものとすることができるためである。
したがって、修復液の粘度(測定温度:25℃)を10~500mPa・secの重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、100~300mPa・secの範囲内の値とすることが更に好ましい。
なお、所定量のアクリル樹脂等を含んで、修復液の粘度(測定温度:25℃)が多少高い場合には、蒸気(スプレーも含む)を効率的に発生させる装置であるものの、塗装用の静電塗装ガン等を用いても良い。
【0035】
6.粘度調整剤
また、修復液に粘度調整剤を更に配合し、修復液の粘度(測定温度:25℃)を、所定範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、修復液の粘度が向上すると、その蒸気を吹き付けたときに、黄変したポリカーボネート樹脂製品の黄変部分に留まる時間(接触時間)が長くなって、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去する工程時間を短くすることができ、また、過度に所定場所から垂れることを抑制するためである。
但し、修復液の粘度が過度に上昇すると、均一に沸騰して、安定した蒸気を発生させることが困難となる場合がある。
【0036】
したがって、粘度調整剤を含む修復液の粘度(測定温度:25℃)を、通常、5~2000mPa・secの重量部の範囲内の値とすることが好ましく、10~1000mPa・secの重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、20~300mPa・secの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0037】
なお、粘度調整剤の種類は特に制限されるものではないが、例えば、各種樹脂成分、エチレングリコール、プロピレングリコール、アルギン酸、アルギン酸ソーダ、シランカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、チタンカップリング剤等の少なくとも一つが挙げられる。
【0038】
そして、このような粘度調整剤を、通常、修復液の全体量の、0.01~10重量部の範囲内で配合することが好ましく、0.05~8重量部の範囲内で配合することがより好ましく、0.1~5重量部の範囲内で配合することが更に好ましい。
【0039】
7.各種添加剤
また、修復液に各種添加剤を配合し、所定の機能を発揮させることが好ましい。
このような各種添加剤として、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、外光線反射剤、HALS、蛍光剤、微細有機粒子、微細無機粒子、アクリルポリマー、アクリルオリゴマー、フッ素ポリマー、フッ素オリゴマー等の少なくとも一つを、通常、修復液の全体量100重量部に対して、0.01~10重量部の範囲内で配合することも好ましい。
【0040】
その他、各種添加剤の一つとして、耐候性樹脂を配合し、それを修復液の一部として吹き付けることが好ましい。
その場合、修復液の全体量に対して、0.01~10重量部の耐候性樹脂を配合することが好ましい。
この理由は、かかる耐候性樹脂の配合量が0.01重量部未満になると、所定厚さの耐候性層を同時形成することが困難となり、所定の耐候性が得られない場合があるためである。
一方、かかる耐候性樹脂の配合量が10重量部を超えると、修復液を安定的に沸騰させて、変色したポリカーボネート樹脂製品に吹き付けることが困難となる場合があるためである。
【0041】
したがって、修復液の全体量に対して、0.1~8重量部の耐候性樹脂を配合することがより好ましく、1~5重量部の耐候性樹脂を配合することが更に好ましい。
なお、耐候性樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、アクリルオリゴマー、アクリルモノマー、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリカーボネート変性樹脂等の少なくとも一つが挙げられる。
【0042】
8.黄変したポリカーボネート樹脂製品
黄変したポリカーボネート樹脂製品としては、外光等に含まれる紫外線によって黄変したポリカーボネート樹脂製品、例えば、自動車やバイクのポリカーボネート樹脂製ヘッドランプカバー、照明のポリカーボネート樹脂製カバー、画像表示装置(PC、携帯電話、TV等)のポリカーボネート樹脂製基板等が対象である。
より具体的には、黄変したポリカーボネート樹脂製品として、JIS K7103(1977)に準拠して測定される黄色度(YI)を、50以上の値としたものを対象とすることが好ましい。
この理由は、このように黄色度(YI)を有するポリカーボネート樹脂製品であれば、目視によっても、明らかに黄変を確認することができ、例えば、ヘッドランプや照明等の光透過率が、80%以下の値に低下し、光透過性が著しく低下していることが別途判明しているためである。
【0043】
したがって、より早い段階で、ポリカーボネート樹脂製品の黄変を、透明化したいという場合には、かかる黄色度(YI)が20~50未満の範囲内の値であっても好ましいし、かかる黄色度(YI)が30~45の範囲内の値であることが更に好ましい。
【0044】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、上述したいずれかのポリカーボネート樹脂製品の修復液を用い、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去して、透明なポリカーボネート樹脂製品とするポリカーボネート樹脂製品の修復方法であって、下記工程(1)~(3)を含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂製品の修復方法である。
(1)黄変したポリカーボネート樹脂製品を準備する工程
(2)修復液の主成分としてのジクロロメタン100重量部に対して、沸点向上剤を3~80重量部の割合で配合してなるポリカーボネート樹脂製品の修復液を準備する工程
(3)黄変したポリカーボネート樹脂製品に対して、修復液の蒸気を吹き付けて、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去する工程
以下、第2の実施形態のポリカーボネート樹脂製品の修復方法に関する事項を中心に、適宜図2図3を参照しつつ、具体的に説明する。
【0045】
1.工程(1)
工程(1)は、図2の記号S1で示されるように、黄変したポリカーボネート樹脂製品を準備する工程である。
例えば、黄変したポリカーボネート樹脂製品として、自動車のヘッドランプカバーを、自動車から外して、それを修復するための準備工程である。
【0046】
したがって、黄変の程度や黄変したポリカーボネート樹脂製品の場所については、目視にて概略的に確認することもできるし、黄色度(YI)を、JIS K7103(1977)に準拠して、数値として測定しておくことが好ましい。
更には、処理時間に影響することから、ポリカーボネート樹脂製品の表面からどの程度の厚さの範囲で黄色化していることを予め測定しておくことも好ましい。
なお、黄変したポリカーボネート樹脂製品を準備する工程で、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面に対して、後述する研磨工程を実施することも好ましい。
【0047】
2.工程(2)
工程(2)は、図2の記号S2で示されるように、ポリカーボネート樹脂製品の修復液を準備する工程である。
すなわち、第1の実施形態で説明した、主成分としてのジクロロメタンに対して、沸点向上剤を配合してなるポリカーボネート樹脂製品の修復液を準備する工程である。
【0048】
したがって、この段階で、修復液の沸点、粘度、外観(着色性)、臭気等を予め検査し、所定範囲の評価基準を満足することを確認しておくことが好ましい。
なお、工程(2)は、図2の便宜上、黄変したポリカーボネート樹脂製品を準備した後に実施されていることになっているが、工程(1)の前に、予め修復液を準備しても良いし、工程(1)と平行して、修復液を準備しても良い。
【0049】
3.工程(3)
工程(3)の前半は、図2の記号S3で示されるように、準備した修復液を加熱し、安定的な蒸気とする工程である。
そして、工程(3)の後半は、図2の記号S4で示されるように、黄変したポリカーボネート樹脂製品に対して、修復液の蒸気を吹き付けて、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去する工程である。
【0050】
すなわち、第1の実施形態で説明した、主成分としてのジクロロメタンに対して、沸点向上剤を配合してなるポリカーボネート樹脂製品の修復液の蒸気を、図3(a)~(c)に示すような吹き付け装置10を用いて均一に吹き付け、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去する工程である。
より具体的には、工程(3)において、修復液18を収容する収容部10aと、修復液18を所定温度に加熱する加熱部10bと、吹出口12aを介して、修復液18の蒸気を吹き付けるチューブ14が装着された吹き付け部12と、を備えた吹き付け装置10を用いて、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去する工程である。
したがって、図3(a)等に示す吹き付け装置10は、少なくとも所定量の修復液の収容部10aと、修復液を加熱して一部を蒸気とする加熱部10bと、を備えていることが好ましい。
【0051】
(修復液の収容部)
図3(a)に示す修復液の収容部10aの形態は特に制限されるものではないが、使い勝手や処理時間等、あるいは黄変したポリカーボネート樹脂製品に応じて、円筒状、矩形状、平板状等、各種の態様とすることが好ましい。
特に、図3(a)に示すように、金属製やガラス製等の円筒状物からなる修復液の収容部10aであって、当該修復液の収容量として、通常、100~2000cm3の容積を有することが好ましい。
【0052】
また、図示しないものの、修復液18の収容部10aの内部温度を測定するための温度センサや、修復液18の収容部10aに収容した、複数の修復液や着色料等を均一混合するための、攪拌装置を備えていることがより好ましい。
なお、同様に図示しないものの、後述する加熱部10bにおける加熱装置(ヒーター)11の数や、使用する複数の修復液の沸点等に応じて、一つの収容部10aのみならず、二つ以上の収容部を設けることも好ましい。
【0053】
(修復液の加熱部)
図3(b)に示すように、修復液の加熱部10bは、通常、サーモスタット付きの、収容部10aの少なくとも底部に設けてある電熱ヒーターやガスヒーター、あるいは熱交換器や、発熱カイロに用いる酸化鉄等の加熱装置11を備えていることが好ましい。
また、図示しないものの、均一な修復液の蒸発を促すため、収容部の側壁にも加熱部を設けても良く、あるいは、収容部のほぼ全体を覆うような箱型の加熱部であっても良い。
【0054】
そして、加熱部10bにおける修復液の加熱温度は、修復液の種類や収容量、更には、周囲の環境温度にもよるが、通常、50~100℃の範囲内の値とすることが好ましく、60~95℃の範囲内の値とすることが好ましく、70~90℃の加熱温度とすることが好ましい。
なお、かかる加熱部10bの数についても、使用する収容部の数等に対応させて、一つのみならず、二つ以上の加熱温度が異なる加熱部を設けることも好ましい。
【0055】
その他、図3(a)や図3(b)に図示しないものの、修復液の収容量を測定して、その値を示す収容表示部や、修復液の温度を測定して、その値を示したり、通電の有無を示すLEDライト等を含む修復液温度表示部や、加熱装置(ヒーター)11の温度を制御したり、その温度を示す電熱制御表示部を設けることが好ましい。
【0056】
(修復液の蒸気の吹き付け部)
また、吹き付け部12において、沸騰した修復液を、ポリカーボネート樹脂製品の黄変した所定場所のみに、選択的かつ集中的に照射できるように、図3(c)に示すように、逆ロート状のガイド部材を設けることが好ましい。
したがって、図3(c)に示すように、吹き付け部12は、全体的には先細った円錐形のロート状であって、その先端付近に吹出口12aが設けてある構成が好ましい。
【0057】
更に、図3(d)に示すように、密封蓋16を介して、任意に曲げたり、変形したりできるフレキシブルチューブ14を設けることも好ましい。その上で、片手で操作できるように、フレキシブルチューブ14の内部又は外部に、形状保持性を発揮する形成維持部材Aとして、金属管や金属線を挿入することが好ましい。
このように、形成維持部材15を備えたチューブ(フレキシブルチューブ)14を用いることにより、チューブ14を所望の形態に維持できることから、片手でもって、所定場所や所定角度から、修復液の蒸気を吹き付けることが極めて容易になる。
また、形成維持部材15を備えることによって、断熱性や平滑性が良好になって、チューブ14の内部における蒸気の液化(凝縮)や、チューブ14の出口における、液だれを有効に防止することができる。
【0058】
なお、図示しないものの、修復液18の蒸気の吹き付け部12の内部、あるいは吹き出し口の近傍に風の流れをつくり、発生した蒸気を集中的に吹き付けられるようにファンを設けたり、あるいは、蒸気発生を中断するための弁構造を設けたりすることも好ましい。
その上、吹き付け部12の途中で蒸気が液化するのを防止すべく、加熱部10bとは異なる加熱部を、チューブ14の途中に設けることも好ましい。
【0059】
更に言えば、チューブ14の少なくとも先端部の周囲をスポンジ材料で被覆することによって、所定の断熱効果が得られ、それによって、チューブ14の出口における、液だれを更に有効に防止することができる。
その他、同様に図示しないものの、かかる蒸気の吹き付け部12の数についても、使用する収容部の数や加熱温度等に対応させて、一つのみならず、二つ以上設けることも好ましい。
【0060】
4.その他の工程
(1)研磨工程
黄変したポリカーボネート樹脂製品を準備する工程で、研磨工程を実施し、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面に対して、エメリーペーパー(500番~5000番等)やグラインダーで、予め、黄色部分を機械的に研磨して、除去することが好ましい。
このように研磨工程を実施することにより、耐候性を付与するため予め設けてある紫外線吸収層についても除去することになるが、予め研磨工程を実施することにより、修復液の蒸気の吹き付けによる、黄色したポリカーボネート樹脂製品の表面の除去量を、著しく低下させることができるためである。
なお、この研磨工程を実施した段階で、黄変したポリカーボネート樹脂製品のJIS K7103(1977)に準拠して測定される黄色度(YI)を40以下の値とすることが好ましく、50以下の値とすることがより好ましくい。
【0061】
(2)検査工程1
また、検査工程を設けて、修復液による修復したポリカーボネート樹脂製品のJIS K7103(1977)に準拠して測定される黄色度(YI)が20以下の値であることを確認することが好ましい。
この理由は、かかる黄色度(YI)が20以下の値であれば、目視した場合、透明性が高いポリカーボネート樹脂製品とみることができるためである。
したがって、修復したポリカーボネート樹脂製品の黄色度(YI)を15以下の値であることを確認することがより好ましく、10以下の値であることを確認することが更に好ましい。
【0062】
(3)検査工程2
また、修復したポリカーボネート樹脂製品の硬度(鉛筆硬度)を測定し、B以上の値であることを確認することが好ましい。
この理由は、修復したポリカーボネート樹脂製品の硬度がB以上の値であれば、黄変したポリカーボネート樹脂製品が十分除去されていることが確認できるためである。
したがって、修復したポリカーボネート樹脂製品の硬度(鉛筆硬度)をB以上の値とすることがより好ましく、H以上の値であることがより好ましく、3H以上の値であることを確認するのが更に好ましい。
【0063】
(4)耐光性層の形成工程
また、ポリカーボネート樹脂製品の修復と同時に、例えば、アクリル樹脂(MMA等)等を含む耐光性層を形成しても良いが、別途、修復したポリカーボネート樹脂製品の表面に、新たに耐光性層を形成することがより好ましい。
この理由は、ポリカーボネート樹脂製品の用途にもよるが、例えば、厚さ0.1~50μmの耐光性層を形成することによって、修復したポリカーボネート樹脂製品が、外光等に含まれる紫外線によって、劣化することを有効に防止するためである。
その上、耐光性層を設けることによって、表面硬度を高めることができ、耐擦傷性を併せて向上させることができるためである。
したがって、紫外線吸収剤やHALSを所定量、例えば、全体量に対して、0.01~10重量%配合した透明樹脂層(アクリル樹脂層やポリカーボネート樹脂層)や、透明ガラス層(シリカ層、窒化シリカ層等)を、新たに耐光性層として形成することが好ましい。
【0064】
なお、耐光性層に紫外線吸収剤やHALSを配合する場合、その種類についても、特に制限されるものではないが、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリチレート系化合物、シアノアクリレート系、蓚酸誘導体、ヒンダードフェノール、テトラキスペンタメチルピリジディルブタンテトラカルボキレート等の少なくとも一つが挙げられる。 また、樹脂自体が紫外線吸収性を有するポリイミド樹脂からなる紫外線吸収剤であれば、他の紫外線吸収剤を配合することなく、あるいは、全体量に対して、0.01重量%未満の紫外線吸収剤やHALSを配合するだけであっても、良好な耐候性を示すことが別途判明している。
【実施例0065】
以下、実施例を参照して、本発明を更に詳細に説明する。
【0066】
[実施例1]
1.ポリカーボネート樹脂製品の修復方法の実施
(1)黄変したポリカーボネート樹脂製品を準備する工程
4年間使用した自動車(走行距離:約4万km)の黄変したヘッドランプカバーを、自動車から取り外し、修復方法の実施するために準備した。
そのため、エメリーペーパー(#1000)を用いて、黄変したヘッドランプカバー表面に対して、研磨処理を行った。
なお、JIS K7103(1977)に準拠して、例えば、色差計ZE-2000(日本電飾工業((株))を用いて、黄変したヘッドランプカバーの黄色度(YI)を測定したところ、40であった。
【0067】
(2)修復液の準備工程
次いで、所定攪拌装置付きの容器内に、ジクロロメタン(DCM)100重量部に対して、沸点向上剤としてのトルエン(TOL)を50重量部と、メチルメタクリレート樹脂(平均重量分子量:30万)を5重量部の割合で配合した後、均一になるまで5分間攪拌して、修復液とした。
なお、得られた修復液の粘度は50mPa・sec(25℃)、外観色は、無色透明であった。
【0068】
(3)修復液による修正工程
次いで、図3(a)~(c)に示す吹き付け装置を用いて、修復液を60℃で沸騰させ、発生した蒸気を黄変したヘッドランプカバーの表面の所定箇所に対して、3分間、直接的かつ均一に吹き付けた。
【0069】
3.評価
(1)修復液の沸点
得られた修復液の沸点を、JIS K 0066(1992)に準拠して測定し、下記基準に沿って、評価した。なお、修復液の沸点が二つ観察された場合には、低い沸点温度と、高い沸点温度の平均値を、修復液の沸点とした。
◎:沸点が50~70℃の範囲内の値である。
〇:沸点が45~50℃未満、又は70~80℃の範囲内の値である。
△:沸点が40~45℃未満、又は80~100℃未満の範囲内の値である。
×:沸点が40℃未満、又は100℃を超えた値である。
【0070】
(2)黄色度(YI)
修復方法の実施したヘッドランプカバーの黄色度(YI)を、JIS K7103(1977)に準拠して、色差計ZE-2000(日本電飾工業((株))を用いて測定し、下記基準に沿って、評価した。
◎:黄色度が10以下の値である。
〇:黄色度が15以下の値である。
△:黄色度が20以下の値である。
×:黄色度が20を超えた値である。
【0071】
(3)硬さ
修復方法の実施したヘッドランプカバーの硬さを、JIS K5400-5-4に準拠して、鉛筆硬度として測定し、下記基準に沿って、評価した。
◎:鉛筆硬度が、3H以上の値である。
〇:鉛筆硬度が、H以上の値である。
△:鉛筆硬度が、B以上の値である。
×:鉛筆硬度が、B未満の値である。
【0072】
(4)耐候性層の形成
修復方法の実施したヘッドランプカバーの表面に形成された耐候性層の厚さを測定し、下記基準に沿って、評価した。
◎:耐候性層の厚さが、50μm以上の値である。
〇:耐候性層の厚さが、5μm以上の値である。
△:耐候性層の厚さが、0.1μm以上の値である。
×:耐候性層の厚さが、0.1μm未満の値である。
【0073】
[実施例2]
実施例2においては、ジクロロメタン(DCM)100重量部に対して、沸点向上剤としての1,4-ジオキサン(DOx)を25重量部、メチルメタクリレート樹脂(平均重量分子量:30万)を5重量部、着色剤である青色顔料(フタロシアニンブルー)を0.1重量部の割合で配合してなる修復液を用いたほかは、実施例1と同様に、黄変したヘッドランプカバーの修復性等を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0074】
[実施例3]
実施例3においては、ジクロロメタン(DCM)100重量部に対して、沸点向上剤としてのメチルエチルケトン(MEK)を30重量部、メチルメタクリレート樹脂(平均重量分子量:30万)を5重量部、着色剤である青色顔料(フタロシアニンブルー)を0.1重量部の割合で配合してなる修復液を用いたほかは、実施例1と同様に、黄変したヘッドランプカバーの修復性等を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0075】
[実施例4]
実施例4においては、ジクロロメタン(DCM)100重量部に対して、沸点向上剤としてのヘキサン(He)を35重量部、メチルメタクリレート樹脂(平均重量分子量:30万)を5重量部、着色剤である緑色顔料(フタロシアニングリーン)を0.1重量部の割合で配合してなる修復液を用いたほかは、実施例1と同様に、黄変したヘッドランプカバーの修復性等を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0076】
[実施例5]
実施例5においては、ジクロロメタン100重量部に対して、沸点向上剤としてのヘプタン(Hp)を35重量部、メチルメタクリレート樹脂(平均重量分子量:30万)を5重量部、着色剤である緑色顔料(フタロシアニングリーン)を0.1重量部、粘度向上剤としてのエチレングリコールを1重量部の割合で配合してなる修復液を用いたほかは、実施例1と同様に、黄変したヘッドランプカバーの修復性等を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0077】
[実施例6]
実施例6においては、ジクロロメタン100重量部に対して、沸点向上剤としてのトルエン(Tol)を15重量部、メチルメタクリレート樹脂(平均重量分子量:30万)を5重量部、着色剤である黄色顔料(モノアゾ黄色顔料、pigment yellow 3)を0.1重量部、粘度向上剤としてのエチレングリコールを1重量部の割合で配合してなる修復液を用いたほかは、実施例1と同様に、黄変したヘッドランプカバーの修復性等を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0078】
[実施例7]
実施例7においては、ジクロロメタン100重量部に対して、沸点向上剤としてのMEKを40重量部、メチルメタクリレート樹脂(平均重量分子量:30万)を5重量部、着色剤である黄色顔料(モノアゾ黄色顔料、pigment yellow 3)を0.5重量部、粘度向上剤としてのエチレングリコールを1重量部の割合で配合してなる修復液を用いたほかは、実施例1と同様に、黄変したヘッドランプカバーの修復性等を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0079】
[実施例8]
実施例8においては、ジクロロメタン100重量部に対して、沸点向上剤としてのヘキサン(He)を60重量部、メチルメタクリレート樹脂(平均重量分子量:30万)を5重量部、着色剤である黄色顔料(モノアゾ黄色顔料、pigment yellow 3)を1重量部、粘度向上剤としてのエチレングリコールを1重量部の割合で配合してなる修復液を用いたほかは、実施例1と同様に、黄変したヘッドランプカバーの修復性等を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0080】
[比較例1]
比較例1においては、修復液として、ジクロロエタン(DCM)の単体を用いたほかは、実施例1と同様に、修復液を用いて評価した。得られた結果を表1に示す。
【0081】
[比較例2]
比較例2においては、修復液として、1,4-ジオキサン(DOx)の単体を用いたほかは、実施例1と同様に、修復液を用いて評価した。得られた結果を表1に示す。
【0082】
[比較例3]
比較例3においては、ジクロロメタン100重量部に対して、沸点向上剤としてのトルエン(Tol)を1重量部、メチルメタクリレート樹脂(平均重量分子量:30万)を5重量部、着色剤である青色顔料(フタロシアニンブルー)を0.1重量部、粘度向上剤としてのエチレングリコールを1重量部の割合で配合してなる修復液を用いたほかは、実施例1と同様に、黄変したヘッドランプカバーの修復性等を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のポリカーボネート樹脂製品の修復液及びその使用方法によれば、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を溶融除去して、透明なポリカーボネート樹脂製品とする修復液であって、修復液の主成分としてのジクロロメタンに対して、所定量の沸点向上剤や着色剤を配合してなるポリカーボネート樹脂製品の修復液が提供できるようになった。
【0085】
また、修復液に着色剤等を配合することによって、修復液の識別性が向上し、他の用途用の溶剤等と誤使用することを防止できるようになった。
【0086】
更に、修復液中に、アクリル樹脂等を配合することによって、ポリカーボネート樹脂製品の修復と同時に耐候性層を形成し、耐候性や耐スクラッチ性を向上することも可能になった。
【0087】
したがって、本発明の修復液は、夏場のような暑い環境条件下においては、例えば、環境温度に対応させて、沸点が比較的高い青色の修復液を使用し、冬場のような温度が低い環境条件下においては、例えば、沸点が比較的低い黄色や緑色の修復液を使用するなどして、ポリカーボネート樹脂製品の修復方法を効果的に実施して、ポリカーボネート樹脂製品の黄変を抑制して、確実に所定効果(透明化)を得ることが期待される。
【符号の説明】
【0088】
10:吹き付け装置、10a:収容部、10b:加熱部、11:加熱装置(ヒーター)、12:吹き付け部、12a:吹出口、14:チューブ(フレキシブルチューブ)、15:形成維持部材、16:密封蓋、18:修復液
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2021-12-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂製品の修復液(但し、着色剤を含む修復液を除く。)を用い、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去して、透明なポリカーボネート樹脂製品とするポリカーボネート樹脂製品の修復方法であって、下記工程(1)~(3)を含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂製品の修復方法。
(1)前記黄変したポリカーボネート樹脂製品を準備する工程
(2)前記修復液の主成分としてのジクロロメタン100重量部に対して、沸点向上剤を3~80重量部の割合で配合してなるポリカーボネート樹脂製品の修復液を準備する工程
(3)黄変したポリカーボネート樹脂製品に対して、前記修復液の蒸気を吹き付けて、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去する工程
【請求項2】
前記沸点向上剤が、エタノール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトンの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂製品の修復方法。
【請求項3】
前記沸点向上剤の沸点(大気圧下)を50℃以上の値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂製品の修復方法。
【請求項4】
前記工程(2)において、前記修復液の沸点を、45~100℃の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂製品の修復方法。
【請求項5】
前記工程(2)において、前記修復液の粘度(測定温度:25℃)を5~1000mPa・secの重量部の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂製品の修復方法。
【請求項6】
前記修復液が、耐候性樹脂を更に含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂製品の修復方法。
【請求項7】
前記工程(1)において、黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面を研磨する工程を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂製品の修復方法。
【請求項8】
前記工程(3)において、前記修復液を収容する収容部と、前記修復液を所定温度に加熱する加熱部と、吹出口を介して、前記修復液の蒸気を吹き付けるチューブが装着された吹き付け部と、を備えた吹き付け装置を用いて、前記黄変したポリカーボネート樹脂製品の表面部分を除去する工程を実施することを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂製品の修復方法。