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  • 特開-ガン化の可能性評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022300
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】ガン化の可能性評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20220127BHJP
   C12N 5/0784 20100101ALI20220127BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALI20220127BHJP
   C12N 5/0787 20100101ALI20220127BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALI20220127BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20220127BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N5/0784
C12N5/0786
C12N5/0787
C12N5/0793
C12N5/071
G01N33/50 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193463
(22)【出願日】2021-11-29
(62)【分割の表示】P 2018513207の分割
【原出願日】2017-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2016083949
(32)【優先日】2016-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】塚本 圭
(72)【発明者】
【氏名】北野 史朗
(72)【発明者】
【氏名】入江 新司
(57)【要約】
【課題】被験者のガン化の可能性を迅速、簡便且つより低侵襲に評価するための方法を提供する。
【解決手段】ガン化の可能性を評価する方法は、正常細胞から形成され、脈管網構造を備える細胞構造体を、被験者に由来する血清の存在下で培養する培養工程と、前記培養工程後の前記細胞構造体中の脈管の状態を指標として、前記被験者がガン化している可能性を評価する評価工程と、を有し、細胞構造体が、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞からなる群より選択される1種以上と、繊維芽細胞と、をさらに含み、細胞構造体中の血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞の総細胞数が、繊維芽細胞の細胞数の0.1~5.0%であり、前記評価工程において、血清の非存在下で培養した場合と比較して、細胞構造体中の脈管を構成する細胞数が多い場合、又は細胞構造体中の脈管網構造が伸長している場合に、被験者がガン化している可能性が高いと評価する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガン化の可能性を評価する方法であって、
正常細胞から形成され、脈管網構造を備える細胞構造体を、被験者に由来する生体試料の存在下で培養する培養工程と、
前記培養工程後の前記細胞構造体中の脈管の状態を指標として、前記被験者がガン化している可能性を評価する評価工程と、
を有し、
前記生体試料が、前記被験者から採取された血清であり、
前記細胞構造体が、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞からなる群より選択される1種以上と、繊維芽細胞と、をさらに含み、
前記細胞構造体中の前記血管内皮細胞及び前記リンパ管内皮細胞の総細胞数が、前記繊維芽細胞の細胞数の0.1%以上5.0%以下であり、
前記評価工程において、前記血清の非存在下で培養した場合と比較して、前記細胞構造体中の前記脈管を構成する細胞数が多い場合、又は前記細胞構造体中の前記脈管網構造が伸長している場合に、前記被験者がガン化している可能性が高いと評価する、
ガン化の可能性を評価する方法。
【請求項2】
前記生体試料がエクソソームを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞構造体が、さらに、神経細胞、樹状細胞、マクロファージ、及び肥満細胞からなる群より選択される1種以上を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞構造体の厚さが5μm以上500μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞構造体を構成する細胞層の数が2層以上60層以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記培養工程において、3日以上14日以下培養を行う、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記培養工程において、前記正常細胞2×10個に対する前記エクソソームの数が1×10個以上である、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正常細胞から形成され、血管網構造を備える細胞構造体を用いて、被験者のガン化の可能性を評価するための方法及びキットに関する。
本願は、2016年4月19日に日本に出願された特願2016-083949号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、リキッドバイオプシー(液体生検)を対象に、ガンの早期発見や悪性化及び転移の予測等のバイオマーカー探索が盛んに行われている。
リキッドバイオプシー中の代表的なバイオマーカーとしては、例えば、タンパク質、核酸(例えば、ccfDNA、microRNA等)、循環腫瘍細胞(CTCs)、細胞外分泌物質小胞体(Exosome、エクソソーム)等が挙げられる。その中でも、エクソソームは、ガンを代表とした疾患の発症、悪性化、進行、及び転移等に様々な場面に深く係わりを持つバイオマーカーとして、近年盛んに研究が進められている。
【0003】
エクソソームとは、ほとんどの細胞で分泌される直径40nm~150nm程度の膜小胞である。
生体では唾液、血液、尿、羊水、悪性腹水等の体液中で観察され、培養細胞からも分泌される。近年、エクソソームは、離れた細胞や組織に情報を伝達するための役割を担っている可能性が指摘されている。エクソソームには様々なタンパク質や脂質、核酸が含まれており、別の細胞に運搬されることによって機能的変化や生理的変化を引き起こすと考えられている。その具体例としては、感染性病原体や腫瘍に対する適応免疫応答の媒介、組織修復、神経伝達や病原性タンパク質の運搬等の役割を持つことが示唆されている。
【0004】
最新の研究では、エクソソームに内包されるmicroRNAのサブセットが、これらを分泌する腫瘍細胞種によって異なることが明らかになっている。また、ガン患者(膵臓ガン)由来のエクソソーム内に特異的に内包されているグリピカン1(GPC1)というタンパク質が発見されており、エクソソームが内包する核酸、タンパク質がガンの早期発見、予後診断及び疾患状態モニタリングにおいて有益な情報をもたらすと示されている(例えば、非特許文献1参照。)。
また、エクソソームがガンの転移、悪性化(血管新生、増殖効率向上)に深く係わっていることをも報告されている(例えば、非特許文献2、3、4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sonia A. M., et al., “Glypican-1 identifies cancer exosomes and detects early pancreatic cancer”, NATURE, vol.523, p177-182, 2015.
【非特許文献2】Ayuko H., et al., “Tumour exosome integrins determine organotropic metastasis”, NATURE, vol.527, p329-335, 2015.
【非特許文献3】Hillary E. M., et al., “Extracellular vesicle-mediated phenotype switching in malignant and non-malignant colon cells”,BMC Cancer, 15:571, p1-14, 2015.
【非特許文献4】Mara F. R., et al., “Exosomes Function in Pro- and Anti-Angiogenesis”, NIH-PA, 2(1), p54-59, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在診断方法として応用化検討されている手法は、体液中のエクソソームが内包している特定の核酸、タンパク質の量等を計測する手法がほとんどであり、実際にエクソソームが体内でどういった作用及び効果を引き起こすのかという観点で検査及び診断できる技術又は方法の報告はない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、被験者のガン化の可能性を迅速、簡便且つより低侵襲に評価するための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ガン患者から採取された体液試料等の生体試料には、ガン細胞から分泌されたガン化に寄与する因子が含まれており、ガン患者又はガンを有する疑いのある患者由来の生体試料が、正常細胞から形成される細胞構造体中の脈管網構造に与える影響を調べることによって、当該患者におけるガン化の可能性を評価する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の第一態様に係るガン化の可能性を評価する方法は、正常細胞から形成され、脈管網構造を備える細胞構造体を、被験者に由来する生体試料の存在下で培養する培養工程と、前記培養工程後の前記細胞構造体中の脈管の状態を指標として、前記被験者がガン化している可能性を評価する評価工程と、を有し、前記生体試料が、前記被験者から採取された血清であり、前記細胞構造体が、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞からなる群より選択される1種以上と、繊維芽細胞と、をさらに含み、前記細胞構造体中の前記血管内皮細胞及び前記リンパ管内皮細胞の総細胞数が、前記繊維芽細胞の細胞数の0.1%以上5.0%以下であり、前記評価工程において、前記血清の非存在下で培養した場合と比較して、前記細胞構造体中の前記脈管を構成する細胞数が多い場合、又は前記細胞構造体中の前記脈管網構造が伸長している場合に、前記被験者がガン化している可能性が高いと評価する。
前記生体試料がエクソソームを含んでいてもよい。
前記細胞構造体が、さらに、神経細胞、樹状細胞、マクロファージ、及び肥満細胞からなる群より選択される1種以上を含んでいてもよい。
前記細胞構造体の厚さが5μm以上500μm以下であってもよい。
前記細胞構造体を構成する細胞層の数が2層以上60層以下であってもよい。
前記培養工程において、3日以上14日以下培養を行ってもよい。
前記培養工程において、前記正常細胞2×10個に対する前記エクソソームの数が1×10個以上であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記態様によれば、ガン化が疑われている被験者がガン化している可能性の評価を、血液等の体液試料を用いて行うことができるため、被験者のガン化をより低侵襲に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1におけるエクソソーム添加個数が0個、1×10個、1×10個、1×10個での血管網由来蛍光発光領域及びエクソソーム由来蛍光発光領域を示す画像である。
図2】(左図)実施例1におけるエクソソーム添加個数が1×10個である細胞構造体について、右図に示す蛍光発光領域の蛍光強度プロファイルを示すグラフである。(右図)実施例1におけるエクソソーム添加個数が1×10個である細胞構造体について、血管網由来蛍光発光領域及びエクソソーム由来蛍光発光領域を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<<被験者のガン化の可能性を評価するための方法>>
本発明の一実施形態に係るガン化の可能性を評価する方法は、正常細胞から形成され、脈管網構造を備える細胞構造体を、被験者に由来する生体試料の存在下で培養する培養工程と、前記培養工程後の前記細胞構造体中の脈管の状態を指標として、前記被験者がガン化している可能性を評価する評価工程と、を有するガン化の可能性の評価方法を提供する。被験者がガンを発症している場合には、当該被験者に由来する生体試料中には、ガン細胞から分泌されるmicroRNA等のガン因子が含まれている。本実施形態に係る方法では、生体試料中にガン因子が含まれているか否かを、正常細胞から形成された脈管網構造に対する影響を調べることによって評価し、この評価に基づいて被験者のガン化の可能性を評価する。
【0013】
本実施形態に係る方法によれば、ガン組織自体の生検は必ずしも必要ではなく、より低侵襲に採取可能な体液試料を用いてもガン化の可能性を評価することができる。また、ガン化の可能性の評価に遺伝子解析を必要としないため、ガン化評価をより簡便に行うことができる。特に、エクソソームは、ガンの早期発見にも利用されており、本実施形態に係る方法を用いることで、原発性ガンや再発性ガンの早期発見など、診断技術への応用が期待できる。
【0014】
一般的に、「エクソソーム」とは、様々な細胞が分泌する直径40nm~150nmの膜小胞である。この膜小胞の中には、miRNA、mRNA等の核酸、タンパク質、脂質等が含まれていることが知られている。ガン細胞から分泌されたエクソソームには、ガン化に関与するmicroRNAやタンパク質が含まれているため、正常細胞から形成された細胞構造体をガン細胞から分泌されたエクソソームの存在下で培養すると、当該細胞構造体を構成する細胞のガン化が引き起こされる。
【0015】
本実施形態に係る方法について、以下に詳細に説明する。
【0016】
[細胞構造体]
本実施形態及び本願明細書において、「細胞構造体」とは、複数の細胞層が積層された3次元構造体である。本実施形態において用いられる細胞構造体(以下、「本実施形態に係る細胞構造体」ということがある。)は、脈管網構造を備えており、脈管を構成する内皮細胞と、脈管を構成していない細胞(内皮細胞以外の細胞)と、により構成される。すなわち、本実施形態に係る細胞構造体は、脈管を形成していない細胞の積層体の内部に、リンパ管及び/又は血管等の脈管網構造が三次元的に構築され、より生体内に近い組織を構築している構造体である。脈管網構造は、細胞構造体の内部にのみ形成されていてもよく、少なくともその一部が細胞構造体の表面又は底面に露出されるように形成されていてもよい。
【0017】
本実施形態に係る細胞構造体に含まれる内皮細胞としては、血管内皮細胞であってもよく、リンパ管内皮細胞であってもよい。また、血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞の両方を含んでいてもよい。
【0018】
本実施形態に係る細胞構造体に含まれる内皮細胞以外の細胞の細胞種としては、内皮細胞が脈管網を形成することを阻害しない細胞種であれば特に限定されなく、体液試料の種類や、生体内の環境等を考慮して、適宜選択することができる。本実施形態に係る細胞構造体中の内皮細胞以外の細胞としては、内皮細胞が本来の機能及び形状を保持する脈管網を形成しやすいことから、生体内において脈管の周辺組織を構成する細胞であることが好ましい。このような細胞としては、例えば、繊維芽細胞、神経細胞、樹状細胞、マクロファージ、肥満細胞、上皮細胞、心筋細胞、肝細胞、膵島細胞、組織幹細胞、平滑筋細胞等が挙げられる。細胞構造体に含まれる内皮細胞以外の細胞は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。本実施形態に係る細胞構造体としては、内皮細胞以外の細胞として少なくとも繊維芽細胞を含む細胞が好ましく、血管内皮細胞と繊維芽細胞を含む細胞、リンパ管内皮細胞と繊維芽細胞を含む細胞、又は血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞と繊維芽細胞を含む細胞がより好ましい。なお、細胞構造体に含まれる内皮細胞以外の細胞としては、内皮細胞と同種の生物種由来の細胞であってもよく、異種の生物種由来の細胞であってもよい。
【0019】
本実施形態に係る細胞構造体中の内皮細胞の数は、脈管網構造が形成されるのに充分な数であれば特に限定されなく、細胞構造体の大きさ、内皮細胞や内皮細胞以外の細胞の細胞種等を考慮して適宜決定することができる。例えば、本実施形態に係る細胞構造体を構成する全細胞に対する内皮細胞の存在比(細胞数比)を0.1%以上にすることによって、脈管網構造が形成された細胞構造体を調製できる。内皮細胞以外の細胞として繊維芽細胞を用いる場合、本実施形態に係る細胞構造体における内皮細胞数は、繊維芽細胞数の0.1%以上であることが好ましく、0.1~10.0%であることがより好ましく、0.1~5.0%であることがさらに好ましい。内皮細胞として血管内皮細胞とリンパ管内皮細胞の両方を含む場合、血管内皮細胞及びリンパ管内皮細胞の総細胞数が、繊維芽細胞数の0.1%以上であることが好ましく、0.1~10.0%であることがより好ましく、0.1~5.0%であることがさらに好ましい。
【0020】
本実施形態に係る細胞構造体を構成する細胞の種類は特に限定されなく、動物から採取された細胞であってもよく、動物から採取された細胞を培養した細胞であってもよく、動物から採取された細胞に各種処理を施した細胞であってもよく、培養細胞株であってもよい。動物から採取された細胞の場合、採取部位は特に限定されず、骨、筋肉、内臓、神経、脳、骨、皮膚、血液などに由来する体細胞であってもよく、生殖細胞であってもよく、胚性幹細胞(ES細胞)であってもよい。また、本実施形態に係る細胞構造体を構成する細胞が由来する生物種は特に限定されなく、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等の動物に由来する細胞を用いることができる。動物から採取された細胞を培養した細胞としては、初代培養細胞であってもよく、継代培養細胞であってもよい。また、各種処理を施した細胞としては、誘導多能性幹細胞細胞(iPS細胞)や、分化誘導後の細胞が挙げられる。また、本実施形態に係る細胞構造体は、同種の生物種由来の細胞のみから構成されていてもよく、複数種類の生物種由来の細胞により構成されていてもよい。
【0021】
本実施形態に係る細胞構造体を構成する細胞は、全て正常細胞である。一般的に、正常細胞とは、ガン化していない細胞であって、体や周囲の状況によって、増殖し、又は増殖を停止する能力を有する細胞である。
本実施形態に係る細胞構造体を構成する正常細胞としては、ガン化していない動物から採取された細胞や、ガン化していない動物から分離され不死化能を獲得して体外で安定して維持される細胞(細胞株)、ガン化していない動物から分離された後に人為的に遺伝子改変されたガン化していない細胞であってもよい。また、ガン化していない培養細胞株であってもよい。
【0022】
本実施形態に係る細胞構造体の大きさや形状は、脈管網構造が形成可能なものであれば特に限定されない。より生体内の組織に形成された脈管と近い状態の脈管網構造が形成可能であることから、当該細胞構造体の厚さは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましく、100μm以上がよりさらに好ましい。当該細胞構造体の厚さとしては、また、500μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。本実施形態に係る細胞構造体の細胞層の数としては、2~60層程度が好ましく、5~60層程度がより好ましく、10~60層程度がさらに好ましい。
【0023】
なお、細胞構造体を構成する細胞層数は、三次元構造を構成する細胞の総数を、1層当たりの細胞数(1層を構成するために必要な細胞数)で除することにより測定される。1層当たりの細胞数は、細胞構造体を構成させる際に使用する細胞培養容器に、予め細胞をコンフルエントになるように平面的に培養して調べることができる。具体的には、ある細胞培養容器に形成された細胞構造体の細胞層数は、当該細胞構造体を構成する全細胞数を計測し、当該細胞培養容器の1層当たりの細胞数で除することにより算出できる。
【0024】
一般的に、本実施形態に係る細胞構造体は、細胞培養容器中に構築される。当該細胞培養容器としては、細胞構造体の構築が可能であり、かつ構築された細胞構造体の培養が可能な容器であれば特に限定されない。当該細胞培養容器としては、具体的には、ディッシュ、セルカルチャーインサート(例えば、Transwell(登録商標)インサート、Netwell(登録商標)インサート、Falcon(登録商標)セルカルチャーインサート、Millicell(登録商標)セルカルチャーインサート等)、チューブ、フラスコ、ボトル、プレート等が挙げられる。本実施形態に係る細胞構造体の構築においては、当該細胞構造体を用いたガン化予測をより適正に行うことができるため、ディッシュ又は各種セルカルチャーインサートが好ましい。
【0025】
本実施形態に係る細胞構造体は、脈管網構造が形成された多層の細胞から形成された構造体であればよく、その構築方法は特に限定されない。例えば、一層ずつ構築して順次積層させて構築する方法であってもよく、2層以上の細胞層を一度に構築する方法であってもよく、両構築方法を適宜組み合わせて多層の細胞層を構築する方法であってもよい。また、本実施形態に係る細胞構造体は、各細胞層を構成する細胞種が層ごとに異なる多層構造体であってもよく、各細胞層を構成する細胞種が、構造体の全層で共通する細胞構造体であってもよい。例えば、細胞種毎に層を形成し、この細胞層を順次積層させることによって構築する方法であってもよく、複数種類の細胞を混合した細胞混合液を予め調製し、この細胞混合液から多層構造の細胞構造体を一度に構築する方法であってもよい。
【0026】
一層ずつ構築して順次積層させて構築する方法としては、例えば、特許第4919464号公報に記載されている方法、すなわち、細胞層を形成する工程と、形成された細胞層をECM(細胞外マトリックス)の成分を含有する溶液に接触させる工程と、を交互に繰り返すことにより、連続的に細胞層を積層する方法が挙げられる。例えば、当該方法を行うに際し、予め、細胞構造体を構成する全ての細胞を混合した細胞混合物を調製しておき、この細胞混合物によって各細胞層を形成することによって、構造体全体に脈管網構造が形成されている細胞構造体が構築できる。また、各細胞層を、細胞種ごとに形成することによって、内皮細胞から形成された層にのみ脈管網構造が形成されている細胞構造体が構築できる。
【0027】
2層以上の細胞層を一度に構築する方法としては、例えば、特許第5850419号公報に記載されている方法が挙げられる。すなわち、予め細胞の表面全体をインテグリンが結合するアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)配列を含む高分子と前記RGD配列を含む高分子と相互作用をする高分子によって被覆しておき、この接着膜で被覆された被覆細胞を細胞培養容器に収容した後、遠心処理等によって被覆細胞同士を集積させることにより、多層の細胞層から形成された細胞構造体を構築する方法が挙げられる。例えば、当該方法を行うに際し、予め、細胞構造体を構成する全ての細胞を混合した細胞混合物を調製しておき、この細胞混合物に接着性成分を添加することによって調製された被覆細胞を用いる。これにより、1度の遠心処理によって、構造体全体に脈管網構造が形成されている細胞構造体が構築できる。また、例えば、内皮細胞を被覆した被覆細胞と、繊維芽細胞を被覆した被覆細胞とを、それぞれ別個に調製し、繊維芽細胞の被覆細胞から形成された多層を形成させた後、その上に内皮細胞の被覆細胞から形成された1層を積層させ、さらにその上に繊維芽細胞の被覆細胞から形成された多層を積層させる。これにより、厚みのある繊維芽細胞層に挟まれた脈管網構造を備える細胞構造体が構築できる。
【0028】
本実施形態に係る細胞構造体は、下記(a)~(c)の工程を有する方法により構築することもできる。
(a)カチオン性緩衝液中で、細胞と細胞外マトリックス成分とを混合して混合物を得る工程と、
(b)前記工程(a)により得られた混合物を、細胞培養容器中に播種する工程と、
(c)前記工程(b)の後、前記細胞培養容器中の細胞混合物から液体成分を除去し、当該細胞培養容器中に細胞が多層に積層された細胞構造体を得る工程。
本実施形態においては、工程(a)において、細胞を、カチオン性物質を含む緩衝液(カチオン性緩衝液)および細胞外マトリックス成分と混合し、この細胞混合物から細胞集合体を形成することにより、内部に大きな空隙が少ない立体的細胞組織を得ることができる。また、得られた立体的細胞組織は、比較的安定であるため、少なくとも数日間の培養が可能であり、かつ培地交換時にも組織が崩壊し難い。
また、本実施形態においては、工程(b)において、細胞培養容器内に播種した細胞混合物を当該細胞培養容器内に沈降させることを含み得る。細胞混合物の沈降は、遠心分離等によって積極的に細胞を沈降させてもよいし、自然沈降させてもよい。
工程(a)において、細胞をさらに強電解質高分子と混合することが好ましい。細胞をカチオン性物質、強電解質高分子および細胞外マトリックス成分と混合することにより、工程(b)において遠心分離等の細胞を積極的に集合させる処理を要することなく、自然沈降させた場合であっても、空隙が少なく厚みのある立体的細胞組織が得られる。
【0029】
前記カチオン性緩衝液としては、例えば、トリス-塩酸緩衝液、トリス-マレイン酸緩衝液、ビス-トリス-緩衝液、又はHEPES等が挙げられる。当該カチオン性緩衝液中のカチオン性物質(例えば、トリス-塩酸緩衝液におけるトリス)の濃度及びpHは、細胞の生育及び細胞構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、カチオン性緩衝液中のカチオン性物質の濃度は、10~100mMとすることができ、40~70mMであることが好ましく、50mMであることがより好ましい。また、当該カチオン性緩衝液のpHは、6.0~8.0とすることができ、6.8~7.8であることが好ましく、7.2~7.6であることがより好ましい。
【0030】
前記強電解質高分子としては、例えば、ヘパリンや、コンドロイチン硫酸(例えば、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸)、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸等のグリコサミノグリカン;デキストラン硫酸や、ラムナン硫酸、フコイダン、カラギナン、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、およびポリアクリル酸、又はこれらの誘導体等が挙げられるが、これらに限定されない。工程(a)において調製される混合物には、強電解質高分子を1種類のみ混合させてもよく、2種類以上を組み合わせて混合させてもよい。本実施形態に係る細胞構造体の構築においては、高分子電解質はグリコサミノグリカンであることが好ましい。また、ヘパリン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、およびデルマタン硫酸のうち少なくとも1つを用いることがより好ましい。本実施形態で用いられる強電解質高分子はヘパリンであることがさらに好ましい。
前記カチオン性緩衝液に混合する強電解質高分子の量は、細胞の生育及び細胞構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、カチオン性緩衝液中の強電解質高分子の濃度は、0mg/mL超1.0mg/mL未満とすることができ、0.025~0.1mg/mLであることが好ましく、0.05~0.1mg/mLであることがより好ましい。また、本実施形態においては、前記強電解質を混合せずに前記混合物を調整し、細胞構造体の構築を行うこともできる。
【0031】
前記細胞外マトリックス成分としては、例えば、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、テネイシン、エンタクチン、フィブリリン、プロテオグリカン、又はこれらの改変体若しくはバリアント等が挙げられる。プロテオグリカンには、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカン等が挙げられる。工程(a)において調製される混合物には、細胞外マトリックス成分を1種類のみ混合させてもよく、2種類以上を組み合わせて混合させてもよい。本実施形態に係る細胞構造体の構築においては、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンを用いることが好ましく、コラーゲンを用いることがより好ましい。細胞の生育および細胞構造体の形成に悪影響を及ぼさない限り、上述の細胞外マトリックス成分の改変体およびバリアントを用いてもよい。前記カチオン性緩衝液に混合する細胞外マトリックス成分の量は、細胞の生育及び細胞構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、カチオン性緩衝液中の細胞外マトリックス成分の濃度は、0mg/mL超1.0mg/mL未満とすることができ、0.025~0.1mg/mLであることが好ましく、0.05~0.1mg/mLであることがより好ましい。
【0032】
前記カチオン性緩衝液に混合する強電解質高分子と細胞外マトリックス成分との配合比は、1:2~2:1である。本実施形態に係る細胞構造体の構築においては、強電解質高分子と細胞外マトリックス成分の配合比が、1:1.5~1.5:1であることが好ましく、1:1であることがより好ましい。
【0033】
工程(a)~(c)を繰り返す、具体的には、工程(c)で得られた細胞構造体の上に、工程(b)として、工程(a)で調製した混合物を播種した後、工程(c)を行うことを繰り返すことにより、充分な厚みの細胞構造体を構築することができる。工程(c)で得られた細胞構造体の上に新たに播種する混合物の細胞組成は、既に構築されている細胞構造体を構成する細胞組成と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0034】
例えば、まず、工程(a)において細胞としては繊維芽細胞のみを含む混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行って細胞培養容器に10層の繊維芽細胞層から形成された細胞構造体を得る。次いで、工程(a)として細胞として血管内皮細胞のみを含む混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行って細胞培養容器内の10層の繊維芽細胞層の上に1層の血管内皮細胞層を積層させる。さらに、工程(a)として細胞として繊維芽細胞のみを含む混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行って細胞培養容器内の血管内皮細胞層の上に、10層の繊維芽細胞層を積層させる。これにより、繊維芽細胞層10層―血管内皮細胞層1層―繊維芽細胞層10層と細胞種毎に順番に層状に積層された細胞構造体が構築できる。工程(b)において播種される細胞数を調節することにより、工程(c)において積層される細胞層の厚みを調整できる。工程(b)において播種される細胞数が多いほど、工程(c)において積層される細胞層の数が多くなる。また、工程(a)において、繊維芽細胞層20層分の繊維芽細胞と血管内皮細胞層1層分の血管内皮細胞を全て混合した混合物を調製し、工程(b)及び(c)を行うことにより、21層分の厚みを有し、血管網構造が構造体内部に散在している細胞構造体が構築できる。
【0035】
工程(a)~(c)を繰り返す場合に、工程(c)の後、工程(b)を行う前に、得られた細胞構造体を培養してもよい。培養に用いる培養培地の組成、培養温度、培養時間、培養時の大気組成等の培養条件は、当該細胞構造体を構成する細胞の培養に適した条件で行う。培養培地としては、例えば、D-MEM、E-MEM、MEMα、RPMI-1640、Ham’s F-12等が挙げられる。
【0036】
工程(a)の後に、(a’-1)得られた混合物から液体部分を除去し、細胞集合体を得る工程、および(a’-2)細胞集合体を溶液に懸濁する工程を行い、工程(b)へ進んでも良い。
また、工程(a)の後に、前記工程(b)に代えて、下記工程(b’-1)及び(b’-2)を行ってもよい。本実施形態及び本願明細書において、「細胞粘稠体」とは、非特許文献2に記載されるようなゲル様の細胞集合体を指す。
(b’-1)工程(a)で得られた混合物を細胞培養容器内に播種した後、混合物から液体成分を除去し、細胞粘稠体を得る工程と、
(b’-2)細胞培養容器内に細胞粘稠体を溶媒に懸濁する工程。上述の工程(a)~(c)を実施することで所望の組織体を得ることができるが、工程(a)の後に(a’-1)および(a’-2)を実施し、工程(b)を実施することで、より均質な組織体を得ることができる。
【0037】
細胞懸濁液を調製するための溶媒としては、細胞に対する毒性がなく、増殖性や機能を損なわないものであれば特に限定されなく、水、緩衝液、細胞の培養培地等を用いることができる。当該緩衝液としては、例えば、リン酸生理食塩水(PBS)、HEPES、Hanks緩衝液等が挙げられる。培養培地としては、D-MEM、E-MEM、MEMα、RPMI-1640、Ham’s F-12等が挙げられる。
【0038】
前記工程(c)に代えて、下記工程(c’)を行ってもよい。
(c’)播種した混合物から液体成分を除去し、基材上に細胞の層を形成する工程。
【0039】
工程(c)及び(c’)における液体成分の除去処理の方法は、細胞の生育及び細胞構造体の構築に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されず、液体成分と固体成分の懸濁物から液体成分を除去する方法として当業者に公知の手法により適宜行うことができる。当該手法としては、例えば、遠心分離処理、磁性分離処理、またはろ過処理等が挙げられる。例えば、細胞培養容器としてセルカルチャーインサートを用いた場合には、混合物を播種したセルカルチャーインサートを、10℃、400×gで1分間の遠心分離処理に供することによって、液体成分を除去することができる。
【0040】
[培養工程]
本実施形態に係る細胞構造体を、被験者に由来する生体試料の存在下で培養する。本実施形態における被験者とは、ガン患者又はガンを有する疑いのある患者を意味する。具体的には、被験者に由来する生体試料を混合した培養培地中で、細胞構造体を培養する。培養培地に混合する生体試料の量は、生体試料の種類、細胞構造体を構成する細胞の種類や数、培養培地の種類、培養温度、培養時間等の培養条件を考慮して実験的に決定することができる。
【0041】
本実施形態に係る方法において、適用対象となるガンとしては、特別な限定はなく、例えば、乳ガン(例えば、浸潤性乳管ガン、非浸潤性乳管ガン、炎症性乳ガン等)、前立腺ガン(例えば、ホルモン依存性前立腺ガン、ホルモン非依存性前立腺ガン等)、膵ガン(例えば、膵管ガン等)、胃ガン(例えば、乳頭腺ガン、粘液性腺ガン、腺扁平上皮ガン等)、肺ガン(例えば、非小細胞肺ガン、小細胞肺ガン、悪性中皮腫等)、結腸ガン(例えば、消化管間質腫瘍等)、直腸ガン(例えば、消化管間質腫瘍等)、大腸ガン(例えば、家族性大腸ガン、遺伝性非ポリポーシス大腸ガン、消化管間質腫瘍等)、小腸ガン(例えば、非ホジキンリンパ腫、消化管間質腫瘍等)、食道ガン、十二指腸ガン、舌ガン、咽頭ガン(例えば、上咽頭ガン、中咽頭ガン、下咽頭ガン等)、頭頚部ガン、唾液腺ガン、脳腫瘍(例えば、松果体星細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫等)、神経鞘腫、肝臓ガン(例えば、原発性肝ガン、肝外胆管ガン等)、腎臓ガン(例えば、腎細胞ガン、腎盂と尿管の移行上皮ガン等)、胆嚢ガン、胆管ガン、膵臓ガン、肝ガン、子宮内膜ガン、子宮頸ガン、卵巣ガン(例、上皮性卵巣ガン、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣性胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍等)、膀胱ガン、尿道ガン、皮膚ガン(例えば、眼内(眼)黒色腫、メルケル細胞ガン等)、血管腫、悪性リンパ腫(例えば、細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病等)、メラノーマ(悪性黒色腫)、甲状腺ガン(例えば、甲状腺髄様ガン等)、副甲状腺ガン、鼻腔ガン、副鼻腔ガン、骨腫瘍(例えば、骨肉腫、ユーイング腫瘍、子宮肉腫、軟部組織肉腫等)、転移性髄芽腫、血管線維腫、隆起性皮膚線維肉腫、網膜肉腫、陰茎癌、精巣腫瘍、小児固形ガン(例えば、ウィルムス腫瘍、小児腎腫瘍等)、カポジ肉腫、AIDSに起因するカポジ肉腫、上顎洞腫瘍、線維性組織球腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、慢性骨髄増殖性疾患、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病等)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0042】
本実施形態において用いられる被験者に由来する生体試料としては、被験者から採取された体液試料、被験者から採取された細胞の細胞抽出液、又は被験者から採取された細胞の培養上清が挙げられる。細胞抽出液や培養上清にも、細胞から分泌されたエクソソームが含まれているため、被験者から採取された体液試料と同様に、細胞抽出液や培養上清を用いることができる。
【0043】
本実施形態において用いられる被験者から採取された体液試料としては、ガン細胞に由来し、ガン化に関与する核酸やタンパク質等を含む試料であればよく、特に限定されない。本実施形態においては、エクソソームを含む体液試料が好ましい。エクソソームはほとんどの体液に含まれている。このため、本実施形態において用いられる被験者から採取された体液試料としては、特に限定されなく、血液、血清、血漿、尿、バフィーコート、唾液、精液、胸部滲出液、脳脊髄液、涙液、痰、粘液、リンパ液、腹水、胸水、羊水、膀胱洗浄液、気管支肺胞洗浄液等の一般的にリキッドバイオプシーにおいて採取される体液を用いることができる。
【0044】
培養工程において、細胞構造体の培養培地に添加する体液試料としては、被験者から直接採取された体液であってもよく、採取された体液に対して、緩衝液等により希釈したり、特定の成分を抽出する等の前処理を行った試料であってもよい。例えば、体液試料からエクソソームを回収、濃縮、精製、単離してもよい。回収、濃縮、精製、単離方法については、上述の例示した体液試料の種類、状態などによって任意に選択することができる。
【0045】
培養工程において、使用する培養培地としては、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)等を含む基本培地であればよく、細胞の種類により適宜選択することができる。例えば、DMEM、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI-1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:Nutrient Mixture F-12(DMEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0046】
培養工程において、培養温度としては、25℃以上40℃以下が好ましく、30℃以上39℃以下がより好ましく、35℃以上39℃以下がさらに好ましい。培養環境は、薬剤、細胞及び組織の維持に直接的に影響することなく、かつ、用いた細胞培養に適した環境を任意の期間保持できる環境であれば、任意に設定してもよい。また、必要に応じて培養環境を著しく変化させなければ還流等の流体力学的な付加を加えてもよい。また、培養環境は、例えば、約5%のCO条件下であってもよい。
【0047】
培養工程において、培養時間としては、液性物質の由来や量等によって任意に設定すればよい。培養時間としては、例えば、3日以上14日以下が好ましく、4日以上10日以下がより好ましく、4日以上8日以下がさらに好ましい。
【0048】
培養工程において、前記エクソソームの数としては、前記正常細胞の種類や数等によって、任意に設定すればよい。前記エクソソームの数としては、例えば、前記正常細胞2×10個に対して、1×10個以上であることが好ましく、1×10個以上あることがより好ましく、1×10個以上1×1012個以下であることがさらに好ましい。
【0049】
[評価工程]
続いて、培養工程後の前記細胞構造体中の脈管の状態を指標として、前記被験者がガン化している可能性を評価する。具体的には、生体試料の非存在下で培養した場合と比較して、細胞構造体中の脈管を構成する細胞数が多い場合、又は細胞構造体中の脈管網構造が伸長している場合に、当該被験者がガン化している可能性が高いと評価する。一方で、生体試料の非存在下で培養した場合と比較して、細胞構造体中の脈管を構成する細胞数が少ない場合、又は細胞構造体中の脈管網構造が伸長していない場合に、当該被験者がガン化している可能性は低いと評価する。
【0050】
脈管の伸展の有無は、例えば、脈管を構成する細胞をその他の細胞と区別するように標識し、当該標識からのシグナルを指標として調べることができる。例えば、脈管を構成する細胞を蛍光標識することにより、細胞構造体中の脈管を直接観察することができる。また、画像解析技術を用いて、生体試料の存在下で培養した細胞構造体の蛍光画像と、生体試料の非存在下で培養した細胞構造体の蛍光画像とを比較し、生体試料により脈管網構造の伸展が加速しているかどうかを調べることができる。なお、脈管を構成する細胞の蛍光標識は、例えば、脈管を構成する細胞の細胞表面に特異的に発現している物質に対する抗体を一次抗体とし、当該一次抗体と特異的に結合する蛍光標識二次抗体を用いる免疫染色法等の公知の手法で行うことができる。
【0051】
脈管を構成する細胞数も同様に、脈管を構成する細胞(内皮細胞)を標識し、当該標識からのシグナルを指標として調べることができる。例えば、脈管を構成する細胞を蛍光標識した場合には、細胞構造体の蛍光画像における総蛍光強度又は蛍光発光領域面積は、脈管を構成する細胞数に依存する。脈管を構成する細胞数が多い場合には、総蛍光強度は大きくなり、蛍光発光領域面積は多くなる。そこで、生体試料存在下で培養した細胞構造体の蛍光画像と生体試料非存在下で培養した細胞構造体の蛍光画像とについて、蛍光強度又は蛍光発光領域面積を比較することにより、脈管を構成する細胞数を比較することができる。その他、脈管を構成する細胞を標識した後の細胞構造体の立体構造を破壊した後、FACS(fluorescence activated cell sorting)等により標識された細胞のみを直接計数することもできる。
【0052】
内皮細胞を標識する標識物質としては、例えば、蛍光色素、蛍光ビーズ、量子ドット、ビオチン、抗体、抗原、エネルギー吸収性物質、ラジオアイソトープ、化学発光体、酵素等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、蛍光色素を用いることが好ましく、蛍光色素としては、より具体的には、例えば、FAM(カルボキシフルオレセイン)、JOE(6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ2’ ,7’-ジメトキシフルオレセイン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、TET(テトラクロロフルオレセイン)、HEX(5'-ヘキサクロロ-フルオレセイン-CEホスホロアミダイト)、Cy3、Cy5、Alexa568、Alexa647、PKH26、PKH67GL等が挙げられる。
<<ガン化の可能性を評価するためのキット>>
本発明の一実施形態に係る被験者のガン化の可能性を評価するためのキットは、細胞培養容器と、前記細胞培養容器上に構築された正常細胞から形成され、脈管網構造を備える細胞構造体と、を含むキットを提供する。
【0053】
本実施形態に係るキットによれば、より迅速且つ簡便に被験者のガン化の可能性を評価することができる。
【0054】
本実施形態において、細胞培養容器及び細胞構造体としては、上述の<<被験者のガン化の可能性を評価するための方法>>において例示された細胞構造体と同様の細胞構造体が挙げられる。
【0055】
本実施形態に係るキットは、さらに、細胞構造体の培養培地、内皮細胞により形成される脈管細胞を標識するための標識物質、細胞構造体を構築する際に使用する物質(例えば、カチオン性緩衝液、強電解質高分子、細胞外マトリックス成分等)、細胞構造体の細胞数を計測するための検出装置等を含んでいてもよい。
培養培地等としては、上述の<<被験者のガン化の可能性を評価するための方法>>において例示された培養培地と同様の培養培地が挙げられる。また検出装置としては、マイクロプレートリーダー、蛍光スキャナー、2光子励起スキャナー、蛍光顕微鏡等が挙げられる。
【実施例0056】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0057】
[実施例1]大腸ガン細胞株由来のエクソソームを用いたガン化評価(1)
正常細胞で構成された血管網構造形成体の構成細胞としては、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Lonza社製、CC-2509、NormalHuman Dermal Fibroblasts:NHDF)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Lonza社製、CC-2517A、Human Umbilical Vein Endothelial Cell:HUVEC)の2種を用い、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、#3470)を用い、培地としては、10vol/vol%ウシ血清(System Biosciences社製、EXO-FBS-50A-1)、1vol/vol%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、043-30085)を用いた。
評価に関しては、anti-CD31抗体(DAKO社製、JC70A M082329)と二次抗体(Invitrogen社製、A-11001)とによる蛍光標識と直接観察法による画像解析を組み合わせにて、血管網形成を評価した。
エクソソームについては、ヒト結腸直腸腺ガン細胞株HCT116(ATCC(登録商標)、CCL-247)の培養上清から超遠心処理にて回収したエクソソームを用い、0個、1×10個、1×10個、1×10個の4条件について評価を実施した。
画像解析については、キーエンス社製BOX型顕微鏡(BZ-X700)にて蛍光発光領域面積を計測して評価した。
詳細な手順は以下に示すとおりである。
【0058】
[1]正常細胞で構成された血管網構造形成体の構築
(1)2×10個のNHDFと3×10個のHUVECとを、ヘパリンとコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁した(工程(a))。
(2)この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後(工程(a’-1))、適量の培地で再懸濁した(工程(a’-2))。
(3)この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種し(工程(b))、室温、400×gで1分間、遠心処理し、液体成分を除去した。
(4)適量の培地を当該トランズウェルセルカルチャーインサートに追加後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0059】
[2]エクソソームの添加と共培養
(1)適量の培地とエクソソームを混合し、0個、1×10個、1×10個、1×10個を含むエクソソーム溶液を調製した。
(2)トランズウェルセルカルチャーインサートに各エクソソーム溶液をそれぞれ添加後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて96~192時間培養した。
【0060】
[3]血管網形成の評価
anti-CD31抗体(DAKO社製、JC70A M082329)と二次抗体(Invitrogen社製、A-11001)とによる蛍光標識と直接観察法による画像解析を組み合わせて、蛍光発光領域面積を計測した。結果を図1及び表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
図1及び表1から、エクソソーム添加個数が0個に対して、1×10個、1×10個、1×10個の方が、優位に血管網形成が促進されていた、すなわちガン化が起きていたことが確かめられた。また、蛍光発光領域についても、エクソソーム添加個数が0個では190×10μmであったのに対して、1×10個では211×10μm、1×10個では298×10μm、1×10個では311×10μmであり、エクソソームの添加個数に比例して、血管網形成が促進されていた、すなわちガン化が進行していたことが示された。
【0063】
また、図2に、エクソソーム添加個数が1×10個である細胞構造体について、左図に示す箇所の蛍光強度プロファイルを示す。図中、実線部が血管網を構成する細胞に由来する蛍光強度であり、点線部がエクソソームに由来する蛍光強度である。エクソソームに由来する蛍光強度が強い箇所では、比較的血管網を構成する細胞に由来する蛍光強度が強く、エクソソームによって血管網形成が促進されていることが確認された。
【0064】
[実施例2]大腸ガン細胞株由来のエクソソームを用いたガン化評価(2)
NHDF数に対するHUVEC数の割合(HUVEC含有率)を、0.05、0.25、0.5、又は1.5%となるように変更した以外は実施例1と同様にして、細胞構造体を構築した。この結果、HUVEC含有率を0.25、0.5、又は1.5%として構築した細胞構造体では血管網構造が形成されていたのに対して、HUVEC含有率を0.05%として構築した細胞構造体では血管網構造が形成されていなかった。
【0065】
エクソソーム添加個数が0又は1×10個となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、細胞構造体をエクソソーム存在下で培養し、血管網形成を評価した。結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2から、NHDFの細胞数に対するHUVECの細胞数の割合を0.05、0.25、0.5、1.0、1.5%の全ての条件において、エクソソーム添加個数0個に対して、エクソソーム1×10個の場合で血管網形成が促進されていた、すなわちガン化が起きていたことが確かめられた。
【0068】
[実施例3]大腸ガン細胞株由来のエクソソームを用いたガン化評価(3)
エクソソーム添加個数が0又は1×10個となるように添加し、培養日数を4日、6日、8日の3条件とした以外は、実施例1と同様にして細胞構造体をエクソソーム存在下で培養し、血管網形成を評価した。結果を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
表3から、培養日数4日、6日、8日の全ての条件でエクソソーム添加個数0個に対して、エクソソーム1×10個の場合で血管網形成が促進されていた、すなわちガン化が起きていたことが確かめられた。
【0071】
[実施例4]肺由来の間質細胞で構成された細胞構造体を用いたがん化の可能性評価
実施例4では、上記実施例1~3のNHDFとHUVECとで構成された細胞構造体に代えて、肺由来の間質細胞で構成された細胞構造体を用いた場合についても検討した。
正常細胞で構成された血管網構造形成体の構成細胞としては、ヒト肺線維芽細胞(Normal Human Pulomonary Fibroblasts:NHPF)(Promocell社製、製品番号:C-12360)、ヒト肺微小血管内皮細胞(Human Dermal Microvascular Endothelial Cell:HMVEC-L)(Lonza社製、製品番号:CC-2527)の2種を用い、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、#3470)を用い、培地としては、10vol/vol%ウシ血清(System Biosciences社製、EXO-FBS-50A-1)、1vol/vol%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、043-30085)を用いた。
評価に関しては、anti-CD31抗体(DAKO社製、JC70A M082329)と二次抗体(Invitrogen社製、A-11001)とによる蛍光標識と直接観察法による画像解析を組み合わせることにて、血管網形成を評価した。
血清については、ステージIV大腸がん患者由来血清V1を用いた。エクソソームについては、ステージIV大腸がん患者由来血清V1から超遠心処理にて回収し、元の血清量と同じ容量の培地で再懸濁したものを用いた。血清、エクソソームについて、それぞれ添加量0μL、10μL、50μLの3条件について評価を実施した。
画像解析については、キーエンス社製BOX型顕微鏡(BZ-X700)にて蛍光発光領域面積を計測して評価した。
詳細な手順は以下に示すとおりである。
【0072】
[1]正常細胞で構成された血管網構造形成体の構築
(1)2×10個のNHPFと1×10個のHMVEC-Lとを、ヘパリンとコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁した(工程(a))。
(2)この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後(工程(a’-1))、適量の培地で再懸濁した(工程(a’-2))。
(3)この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種し工程(b))、室温、400×gで1分間、遠心処理した。
(4)適量の培地を当該トランズウェルセルカルチャーインサートに追加後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0073】
[2]血清、エクソソームの添加と共培養
(1)適量の培地と血清0μL、10μL、50μLとを混合し、血清培地溶液を調製した。また、適量の培地とエクソソーム0μL、10μL、50μLとを混合し、エクソソーム培地溶液を調製した。
(2)トランズウェルセルカルチャーインサートに血清培地溶液、エクソソーム培地溶液をそれぞれ添加後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて144時間培養した。
【0074】
[3]血管網形成の評価
anti-CD31抗体(DAKO社製、JC70A M082329)と二次抗体(Invitrogen社製、A-11001)とによる蛍光標識と直接観察法による画像解析を組み合わせて、蛍光発光領域面積を計測した。結果を表4および表5に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
表4から、血清添加量が0μLに対して、10μL、50μLの方が、優位に血管網形成が促進されていた。また、蛍光発光領域についても、血清添加量が0μLでは252×10μmであったのに対して、10μLでは359×10μm、50μLでは481×10μmであり、血清添加量に比例して、血管網形成が促進されていた。
【0078】
また、表5に示すように、エクソソーム添加量が0μLに対して、10μL、50μLの方が、優位に血管網形成が促進されていた。また、蛍光発光領域についても、エクソソーム添加量が0μLでは252×10μmであったのに対して、10μLでは351×10μm、50μLでは438×10μmであり、エクソソーム添加量に比例して、血管網形成が促進されていた。
実施例1~3で用いたようなNHDFとHUVECとで構成された細胞構造体に代えて、肺由来の間質細胞であるNHPFとHMVEC-Lとで構成された細胞構造体を用いた場合においても、がん患者由来血清、または、がん患者由来エクソソームを細胞構造体に添加することにより血管網形成が促進されていた、すなわちガン化が起きていたことが確かめられた。
【0079】
[実施例5]市販臨床大腸がん患者由来血清(ステージIII/IV)を用いたがん化の可能性評価
正常細胞で構成された血管網構造形成体の構成細胞としては、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Lonza社製、CC-2509、Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Lonza社製、CC-2517A、Human Umbilical Vein Endothelial Cell:HUVEC)の2種を用い、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、#3470)を用い、培地としては、10vol/vol%ウシ血清(System Biosciences社製、EXO-FBS-50A-1)、1vol/vol%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、043-30085)を用いた。
評価に関しては、anti-CD31抗体(DAKO社製、JC70A M082329)と二次抗体(Invitrogen社製、A-11001)とによる蛍光標識と直接観察法による画像解析とを組み合わせることにて、血管網形成を評価した。
血清については、ステージIII大腸がん患者由来血清024301S(Proteogenex社、006-20000)、ステージIV大腸がん患者由来血清024249S(Proteogenex社、006-20000)を用い、それぞれ添加量0μL、10μL、50μLの3条件について評価を実施した。
画像解析については、キーエンス社製BOX型顕微鏡(BZ-X700)にて蛍光発光領域面積を計測して評価した。
詳細な手順は以下に示すとおりである。
【0080】
[1]正常細胞で構成された血管網構造形成体の構築
(1)2×10個のNHDFと3×10個のHUVECとを、ヘパリンとコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁した(工程(a))。
(2)この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後(工程(a’-1))、適量の培地で再懸濁した(工程(a’-2))。
(3)この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種し(工程(b))、室温、400×gで1分間、遠心処理した。
(4)適量の培地を当該トランズウェルセルカルチャーインサートに追加後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0081】
[2]血清の添加と共培養
(1)適量の培地と血清0μL、10μL、50μLを混合し、血清培地溶液を調製した。
(2)トランズウェルセルカルチャーインサートに血清培地溶液をそれぞれ添加後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて144時間培養した。
【0082】
[3]血管網形成の評価
anti-CD31抗体(DAKO社製、JC70A M082329)と二次抗体(Invitrogen社製、A-11001)とによる蛍光標識と直接観察法による画像解析とを組み合わせて、蛍光発光領域面積を計測した。結果を表6および表7に示す。
【0083】
【表6】
【0084】
【表7】
【0085】
表6から、ステージIII大腸がん患者由来024301S血清添加量が0μLに対して、10μL、50μLの方が、優位に血管網形成が促進されていた。また、蛍光発光領域についても、血清添加量が0μLでは133×10μmであったのに対して、10μLでは619×10μm、50μLでは628×10μmであり、血清添加量に比例して、血管網形成が促進されていた。
【0086】
表7から、ステージIV大腸がん患者由来血清24249S添加量が0μLに対して、10μL、50μLの方が、優位に血管網形成が促進されていた。また、蛍光発光領域についても、血清添加量が0μLでは133×10μmであったのに対して、10μLでは310×10μm、50μLでは269×10μmであった。
【0087】
この結果から、本発明の上記実施形態に係る評価方法によれば、少なくともステージIII以降の大腸がん患者であることを判別できることを確認した。
【0088】
[実施例6]市販臨床肺がん患者由来血清(ステージIV)を用いたがん化の可能性評価
正常細胞で構成された血管網構造形成体の構成細胞としては、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Lonza社製、CC-2509、Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Lonza社製、CC-2517A、Human Umbilical Vein Endothelial Cell:HUVEC)の2種を用い、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、#3470)を用い、培地としては、10vol/vol%ウシ血清(System Biosciences社製、EXO-FBS-50A-1)、1vol/vol%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、043-30085)を用いた。
評価に関しては、anti-CD31抗体(DAKO社製、JC70A M082329)と二次抗体(Invitrogen社製、A-11001)とによる蛍光標識と直接観察法による画像解析を組み合わせにて、血管網形成を評価した。
血清については、ステージIV肺がん患者由来血清024427S、024435S(Proteogenex社、006-20000)を用い、それぞれ添加量0μL、2μLの2条件について評価を実施した。
画像解析については、キーエンス社製BOX型顕微鏡(BZ-X700)にて蛍光発光領域面積を計測して評価した。
詳細な手順は以下に示すとおりである。
【0089】
[1]正常細胞で構成された血管網構造形成体の構築
(1)2×10個のNHDFと3×10個のHUVECとを、ヘパリンとコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁した(工程(a))。
(2)この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後(工程(a’-1))、適量の培地で再懸濁した(工程(a’-2))。
(3)この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種し(工程(b))、室温、400×gで1分間、遠心処理した。
(4)適量の培地を当該トランズウェルセルカルチャーインサートに追加後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0090】
[2]血清の添加と共培養
(1)適量の培地と血清0μL、2μLを混合し、血清培地溶液を調製した。
(2)トランズウェルセルカルチャーインサートに血清培地溶液をそれぞれ添加後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて144時間培養した。
【0091】
[3]血管網形成の評価
anti-CD31抗体(DAKO社製、JC70A M082329)と二次抗体(Invitrogen社製、A-11001)とによる蛍光標識と直接観察法による画像解析とを組み合わせて、蛍光発光領域面積を計測した。結果を表8および表9に示す。
【0092】
【表8】
【0093】
【表9】
【0094】
表8および表9から、いずれのステージIV肺がん患者由来血清を用いた場合でも、血清添加量が0μLに対して、2μLの方が、優位に血管網形成が促進されていた。また、蛍光発光領域についても、血清添加量が0μLでは383×10μmであったのに対して、血清024427S2μLでは668×10μm、血清024435S2μLでは533×10μmであり、血清添加によって、血管網形成が促進されていた。
【0095】
この結果から、本発明の上記実施形態に係る評価方法によれば、肺がんにおいても少なくともステージIVのがん患者であることを判別できることを確認した。
【0096】
[実施例7]臨床大腸がん患者血清(ステージIV)を用いたがん化の可能性評価
ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Lonza社製、CC-2509、Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)、GFPたんぱく質発現ヒト臍帯静脈内皮細胞(フナコシ社製、cAP-0001GFP、GFP Expression Human Umbilical Vein Endothelial Cell:GFP-HUVEC)の2種を用い、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、#3470)を用い、培地としては、10vol/vol%ウシ血清(System Biosciences社製、EXO-FBS-50A-1)、1vol/vol%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、043-30085)を用いた。
評価に関しては、GFPたんぱく質と直接観察法による画像解析を組み合わせにて、血管網形成を評価した。
血清については、実際に臨床大腸がん患者から得られたステージIV大腸がん患者由来血清V1、V2(実際に臨床大腸がん患者から得られたステージIV大腸がん患者由来の2つの血清試料)を用い、それぞれ添加量0μL、10μL、50μLの3条件について評価を実施した。また、参考として健常人血清についても同様に評価した。
画像解析については、キーエンス社製BOX型顕微鏡(BZ-X700、BZ-9000)にて蛍光発光領域面積を計測して評価した。
詳細な手順は以下に示すとおりである。
【0097】
[1]正常細胞で構成された血管網構造形成体の構築
(1)2×10個のNHDFと3×10個のGFP-HUVECとを、ヘパリンとコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁した(工程(a))。
(2)この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後(工程(a’-1))、適量の培地で再懸濁した(工程(a’-2))。
(3)この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種し(工程(b))、室温、400×gで1分間、遠心処理した。
(4)適量の培地を当該トランズウェルセルカルチャーインサートに追加後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0098】
[2]血清の添加と共培養
(1)適量の培地と血清0μL、10μL、50μLを混合し、血清培地溶液を調製した。
(2)トランズウェルセルカルチャーインサートに血清培地溶液をそれぞれ添加後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて144時間培養した。
【0099】
[3]血管網形成の評価
GFPたんぱく質と直接観察法による画像解析とを組み合わせて、蛍光発光領域面積を計測した。結果を表10~表12に示す。
【0100】
【表10】
【0101】
【表11】
【0102】
【表12】
【0103】
表10および表11から、いずれのステージIV大腸がん患者由来血清を用いた場合でも、血清添加量が0μLに対して、10μL、50μLの方が、優位に血管網形成が促進されていた。また、蛍光発光領域についても、表10に示すように、V1血清添加量が0μLでは341×10μmであったのに対して、10μLでは403×10μm、50μLでは622×10μmであり、表11に示すように、V2血清添加量が0μLでは341×10μmであったのに対して、10μLでは773×10μm、50μLでは705×10μmであり、血清添加量に比例して、血管網形成が促進されていた。
【0104】
それに対し、表12に示すように、健常人血清を用いた場合では、血清添加量が0μLに対して、10μL、50μLいずれの条件においても血管網形成はほぼ同程度であった。また、蛍光発光領域についても、表12に示すように、健常人血清添加量が0μLでは341×10μmであったのに対して、10μLでは331×10μm、50μLでは360×10μmであり、血清添加量に係らず、血管網形成はほぼ同程度であった。
本発明の上記実施形態に係る評価方法によれば、実際の臨床大腸がん患者から得られた血清を用いても、ガン化の可能性を判別できることを確認した。
【0105】
[実施例8]臨床大腸がん患者血清由来エクソソーム(ステージIV)を用いたがん化の可能性評価
ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Lonza社製、CC-2509、Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)、GFPたんぱく質発現ヒト臍帯静脈内皮細胞(フナコシ社製、cAP-0001GFP、GFP Expression Human Umbilical Vein Endothelial Cell:GFP-HUVEC)の2種を用い、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、#3470)を用い、培地としては、10vol/vol%ウシ血清(System Biosciences社製、EXO-FBS-50A-1)、1vol/vol%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、043-30085)を用いた。
評価に関しては、GFPたんぱく質と直接観察法による画像解析を組み合わせにて、血管網形成を評価した。
エクソソームについては、実際に臨床大腸がん患者から得られたステージIV大腸がん患者由来血清V1から超遠心処理にて回収し、元の血清量と同じ容量の培地で再懸濁したものを用い、それぞれ添加量0μL、10μL、50μLの3条件について評価を実施した。また、参考として健常人血清由来エクソソーム及びステージIV大腸がん患者由来血清V1からエクソソーム画分を取り除いた液体成分(以下、血清上清と呼ぶこともある。)についても同様に評価した。
画像解析については、キーエンス社製BOX型顕微鏡(BZ-X700、BZ-9000)にて蛍光発光領域面積を計測して評価した。
詳細な手順は以下に示すとおりである。
【0106】
[1]正常細胞で構成された血管網構造形成体の構築
(1)2×10個のNHDFと3×10個のGFP-HUVECとを、ヘパリンとコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁した(工程(a))。
(2)この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後(工程(a’-1))、適量の培地で再懸濁した(工程(a’-2))。
(3)この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種し(工程(b))、室温、400×gで1分間、遠心処理した。
(4)適量の培地を当該トランズウェルセルカルチャーインサートに追加後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて24時間培養した(工程(c))。
【0107】
[2]エクソソーム、血清上清の添加と共培養
(1)適量の培地とエクソソーム0μL、10μL、50μLとを混合し、エクソソーム培地溶液を調製した。適量の培地と血清上清0μL、10μL、50μLとを混合し、血清上清培地溶液を調製した。
(2)トランズウェルセルカルチャーインサートにエクソソーム培地溶液、血清上清培地溶液培地溶液をそれぞれ添加後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて144時間培養した。
【0108】
[3]血管網形成の評価
GFPたんぱく質と直接観察法による画像解析を組み合わせて、蛍光発光領域面積を計測した。結果を表13~表15に示す。
【0109】
【表13】
【0110】
【表14】
【0111】
【表15】
【0112】
表13から、ステージIV大腸がん患者血清V1由来エクソソーム添加量が0μLに対して、10μL、50μLの方が、優位に血管網形成が促進されていた。また、蛍光発光領域についても、エクソソーム添加量が0μLでは344×10μmであったのに対して、10μLでは423×10μm、50μLでは617×10μmであり、エクソソーム添加量に比例して、血管網形成が促進されていた。
【0113】
それに対し、表14に示すように、ステージIV大腸がん患者血清V1由来血清上清を用いた場合、血清上清添加量が0μLに対して、10μL、50μLの方が、僅かに血管網形成が促進されていた。また、蛍光発光領域についても、血清上清添加量が0μLでは344×10μmであったのに対して、10μLでは354×10μm、50μLでは387×10μmであり、エクソソーム添加量に比例して、僅かに血管網形成が促進されていた。しかしながら、エクソソームを添加した場合と比較すると、エクソソームを遠心分離により除いた試料である血清上清を添加した場合は明らかに血管網形成の促進効果は小さかった。
このように、血管網形成のような本発明の上記実施形態に係る主たる効果がエクソソームにより得られた。
【0114】
また、表15に示すように、健常人血清由来エクソソームを用いた場合、エクソソーム添加量が0μLに対して、10μL、50μLいずれの条件においても血管網形成はほぼ同程度であった。また、蛍光発光領域についても、表15に示すように、エクソソーム添加量が0μLでは344×10μmであったのに対して、10μLでは334×10μm、50μLでは343×10μmであり、エクソソーム添加量に係らず、血管網形成はほぼ同程度であった。
これらの結果より、エクソソームが血管網形成のような本発明の上記実施形態に係る主たる効果を有する成分であると考えられる。
本発明の上記実施形態に係る評価方法においてエクソソームを用いることにより、ガン化の可能性を判別できることを確認した。
【0115】
[実施例9]脈管構造を有する細胞構造体の作製
繊維芽細胞と血管内皮細胞からなり、血管網構造を備える細胞構造体を作製し、血管網構造を観察した。
なお、実施例9においては、脈管構造を有する細胞構造体の作製において、繊維芽細胞に対する血管内皮細胞の添加量を変化させることにより、血管網構造を備える細胞構造体が形成可能な繊維芽細胞に対する血管内皮細胞の比率に着目した検討を行った。
血管網構造を含む細胞構造体としては、ヒト新生児由来皮膚線維芽細胞(Lonza社製、CC-2509、Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Lonza社製、CC-2517A、Human Umbilical Vein Endothelial Cell:HUVEC)の2種の2種類の細胞からなる細胞構造体を用いた。また、細胞培養容器としては、トランズウェルセルカルチャーインサート(Corning社製、製品番号:#3470)を用い、培養培地としては、10容量%ウシ血清(System Biosciences社製、EXO-FBS-50A-1)及び1容量%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光純薬社製、製品番号:168-23191)含有D-MEM(和光純薬社製、製品番号:043-30085)を用いた。評価対象となる血管新生阻害剤はベバシズマブ(R&D Systems社製、製品番号:MAB293)を用いた。
【0116】
<細胞構造体の構築>
まず、2×10個のNHDFとNHDF細胞数の0.05、0.1、0.25、0.5、1.0、1.5、5.0%のHUVECを、ヘパリンとコラーゲンを含有するトリス-塩酸緩衝液(0.1mg/mL ヘパリン、0.1mg/mL コラーゲン、50mM トリス、pH7.4)に懸濁し、細胞懸濁液を調製した(NHDF数に対するHUVEC 数の割合:5%)(工程(a))。この細胞懸濁液を、室温、400×gで1分間、遠心処理し、上清を取り除いた後(工程(a’-1))、適量の培養培地で再懸濁した(工程(a’-2))。次いで、この細胞懸濁液を、トランズウェルセルカルチャーインサート内に播種した後(工程(b))、当該トランズウェルセルカルチャーインサートを室温、400×gで1分間、遠心処理した。その後、当該トランズウェルセルカルチャーインサートに、適量の培養培地を追加した後、COインキュベーター(37℃、5%CO)にて96時間培養した(工程(c))。
【0117】
<血管を構成する細胞の蛍光標識及び評価>
培養後の細胞構造体に対して、anti-CD31抗体(DAKO社製、製品番号:JC70A M082329)と二次抗体(Invitrogen社製、製品番号:A-11001)を用いた蛍光免疫染色を行い、当該構造体中の血管を緑色蛍光標識した。この蛍光標識された細胞構造体を直接観察して血管網形成有無を確認した。結果を表16に示す。
【表16】
【0118】
表16より、NHDF数の0.1%以上に相当するHUVECを含有する場合に、血管網構造の形成を確認できた。
すなわち、表16よりNHDF数の0.05%のHUVECを含有する場合を除いた全ての条件で血管網構造の形成を確認できた。
図1
図2