(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022465
(43)【公開日】2022-02-04
(54)【発明の名称】ガラス傷消し方法、傷消し監視装置、および傷消し監視プログラム
(51)【国際特許分類】
C03C 19/00 20060101AFI20220128BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20220128BHJP
B24B 7/24 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C03C19/00 Z
B24B49/12
B24B7/24 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020126002
(22)【出願日】2020-07-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [掲載年月日]2019年7月25日 [掲載アドレス]https://youtu.be/hTnJQo4DYZg
(71)【出願人】
【識別番号】517148626
【氏名又は名称】株式会社Revive and design
(74)【代理人】
【識別番号】100210804
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 一
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏治
(72)【発明者】
【氏名】松田 耕一
【テーマコード(参考)】
3C034
3C043
4G059
【Fターム(参考)】
3C034AA15
3C034BB93
3C034CA05
3C034CA22
3C034CB01
3C034CB13
3C034DD09
3C043BB05
3C043CC04
3C043DD05
3C043DD06
4G059AA01
4G059AC03
(57)【要約】
【課題】ガラス傷消し方法において、研磨の進行に伴うガラスの脆弱化をモニタリングする技術を提供する。
【解決手段】
本発明の代表的なガラス傷消し方法の一つは、研磨工程、撮像工程、および調整工程を備える。前記研磨工程では、ガラスの傷およびその周囲を含む研磨範囲を研磨する。前記撮像工程では、前記ガラスを赤外線カメラで撮像し、前記ガラスの温度分布をサーモグラフ画像として得る。前記調整工程では、前記サーモグラフ画像に基づいて、前記研磨工程の研磨量を調整する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスの傷およびその周囲を含む研磨範囲を研磨する研磨工程と、
前記ガラスを赤外線カメラで撮像することにより前記ガラスの温度分布を求め、サーモグラフ画像を得る撮像工程と、
前記サーモグラフ画像に基づいて、前記研磨工程の研磨量を調整する調整工程と、
を備えることを特徴とするガラス傷消し方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガラス傷消し方法であって、
前記ガラスの温度分布に基づいて、前記ガラスの温度上昇分が予め定められた閾値を超えると警報部が警報を出力する警報工程を備え、
前記調整工程は、前記警報に応じて前記研磨量を下げる
ことを特徴とするガラス傷消し方法。
【請求項3】
請求項2に記載のガラス傷消し方法であって、
前記ガラスに対する前記研磨範囲の位置に応じて、前記閾値を次式を満足するように設定部が可変する設定工程を備える
(前記ガラスの角付近の閾値)<(前記ガラスの辺付近の閾値)<(前記ガラスの中央域の閾値)
ことを特徴とするガラス傷消し方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のガラス傷消し方法であって、
研磨によって温度上昇する以前に前記ガラスを前記赤外線カメラで撮像して、ガラス越しの撮像データをガラス越し記憶部が記憶する記憶工程を備え、
前記撮像工程では、前記赤外線カメラで撮像される撮像データから、記憶された前記ガラス越しの撮像データをガラス越し除去部が除去することにより、前記ガラスそれ自体の温度分布を得る
ことを特徴とするガラス傷消し方法。
【請求項5】
ガラスの傷およびその周囲を含む研磨範囲を研磨するガラス傷消しに際して、前記ガラスの脆弱化を監視するための傷消し監視装置であって、
前記ガラスを撮像する赤外線カメラと、
研磨によって温度上昇する以前の前記ガラスを前記赤外線カメラで撮像して、ガラス越しの撮像データを記憶するガラス越し記憶部と、
前記赤外線カメラで撮像される撮像データから、記憶された前記ガラス越しの撮像データを除去することにより、前記ガラスそれ自体の温度分布を得るガラス越し除去部と、
前記ガラスそれ自体の温度分布に基づいて、前記ガラスの温度上昇分が予め定められた閾値を超えると警報を出力する警報部と
を備えることを特徴とする傷消し監視装置。
【請求項6】
コンピュータを
請求項5記載の前記ガラス越し記憶部、前記ガラス越し除去部、前記警報部として機能させる
ことを特徴とする傷消し監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス傷消し方法、傷消し監視装置、および傷消し監視プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス傷消し方法として、ガラス表面についた傷を、研磨処理によって傷の深さ程度まで平坦化させる方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「比較的浅い傷に対応可能なガラスを研磨する方法」が開示される。
【0004】
また例えば、特許文献2には、「研磨液の温度が高温であるほど研磨速度が高速化するので、研磨液の温度を設定することでガラスの研磨速度を所定速度にする方法」が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-071696号公報
【特許文献2】特開2006-315929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス傷消し方法では、作業者が研磨具をガラスに押し当てる力加減などを調整して、研磨の進行度合いを適度に調整する必要があった。
【0007】
この研磨の進行が急すぎる場合、研磨中のガラスに内部歪みが生じるなど脆弱化しやすく、最悪のケースではガラスが破損する。
【0008】
また逆に、研磨の進行が緩慢すぎる場合、傷消しに要する研磨時間が無駄に長くなって作業効率が悪くなる。
【0009】
このような研磨の進行は、ガラスの硬度、研磨具(液)の粒度、研磨具の摺動速度、研磨具を押し当てる力加減などによって毎回異なるため、一律に調整することは困難であった。そのため、研磨の進行度合いの調整は、熟練した作業者の経験と勘にたよることが多かった。
【0010】
特許文献1には、このような点について具体的な開示も示唆もない。
【0011】
また、特許文献2には、研磨液の温度設定によってガラスの研磨速度を所定速度にする点について開示がある。しかしながら、研磨液の温度は、研磨時に発生する摩擦熱の影響を受けやすく、それ自体を正確にコントロールすることが困難であった。
【0012】
そこで、本発明は、ガラス傷消し方法において研磨の進行に伴うガラスの脆弱化をモニタリングする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の代表的なガラス傷消し方法の一つは、研磨工程、撮像工程、および調整工程を備える。
前記研磨工程では、ガラスの傷およびその周囲を含む研磨範囲を研磨する。
前記撮像工程では、前記ガラスを赤外線カメラで撮像し、前記ガラスの温度分布をサーモグラフ画像として得る。
前記調整工程では、前記サーモグラフ画像に基づいて、前記研磨工程の研磨量を調整する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、研磨の進行に伴うガラスの脆弱化を、ガラスの温度分布(サーモグラフ画像)としてモニタリングすることが可能になる。
【0015】
上記した範囲以上の課題、構成および効果については、以下の実施形態の説明において、さらに詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、ガラス傷消し方法のための前準備を示す図である。
【
図2】
図2は、ガラス傷消し方法の各工程を説明するための図である。
【
図5】
図5は、サーモグラフ画像の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、作業者による研磨作業の様子を示す図である。
【
図7】
図7は、警報に応じて行われる研磨作業の様子を示す説明図である。
【
図8】
図8は、ガラス100の研磨処理前(Before)と研磨処理後(After)とを比較する図である。
【
図9】
図9は、実施例2の傷消し監視装置500の構成を示す図である。
【
図10】
図10は、実施例2のガラス傷消し方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例0018】
<ガラス傷消し方法の前準備>
図1は、ガラス傷消し方法のための前準備を示す図である。
【0019】
同図において、ガラス100の表面には、打撃痕などの傷110がついている。この傷110およびその周囲を囲むように、養生テープ120がガラス100の表面に貼り付けられる。この養生テープ120によって囲まれた範囲が、研磨範囲130になる。
【0020】
電動研磨具200は、先端に軸支された研磨パッドを駆動する。作業者は、駆動される研磨パッドを研磨範囲130に押し当てながら上下左右に移動させることにより、研磨範囲130を研磨する。
【0021】
乾式研磨の場合、研磨パッドには乾式研磨用の砥材や研磨シートなどが装着される。また、湿式研磨の場合は、研磨パットと研磨範囲130との間に研磨液や冷却液が注入される。
【0022】
赤外線カメラ300は、三脚310の雲台に固定されることによって、研磨範囲130を撮影アングルに収めるように配置される。
図1では、赤外線カメラ300が、ガラス100の傷110を有する面(以下「傷面」という)の側に配置され、作業者の脇から研磨範囲130を撮像する。赤外線カメラ300の撮像画像に基づいて、サーモグラフ画像が生成される。
【0023】
タブレットPC400は、GUI画面430、警報部440、および設定部450を備える。
【0024】
<ガラス傷消し方法の各工程>
続いて、ガラス傷消し方法の各工程について個別に説明する。
図2は、ガラス傷消し方法の各工程を説明するための図である。
以下、同図に示す工程の番号順に沿って説明する。
【0025】
P110: 作業者は、タブレットPC400のGUI画面430を操作して、ガラス100に対する研磨範囲130の位置(つまり傷110のガラス100上の位置)を設定入力する。
【0026】
このGUI画面430の一例は、
図3および
図4に図示される。これらのGUI画面430は、ガラス100の情報バラメータを入力するための情報入力域431と、研磨範囲130の位置をタップ入力するための位置入力域433とを備える。
情報入力域431は、例えば、次の項目を入力するためのGUI要素を備える。
【0027】
・ガラス種類…ガラス100の材質や性質や種類や製法や設置箇所や使用用途などを一つまたは複数組み合わせでメニューリストから選択可能なGUI要素である。例えば、ソーダ石灰ガラス、透明ガラス、網入りガラス、硬度、屋外用、屋内用、窓用、ガラステーブル用、設置向き、設置状態などが選択入力される。
【0028】
・縦サイズ…窓ガラスのように垂直設置されるガラス100については、鉛直方向の高さが入力される。また、ガラステーブルなどの天板ガラスのように水平設置されるガラス100については、例えば長辺方向の長さが入力される。
【0029】
・横サイズ…窓ガラスのように垂直設置されるガラス100については、水平方向の幅が入力される。また、ガラステーブルなどの天板ガラスのように水平設置されるガラス100については、例えば短辺方向の長さが入力される。
【0030】
・厚み…ガラス100の厚みが入力される。
【0031】
位置入力域433は、情報入力域431に入力されたガラス100の縦サイズおよび横サイズの縦横比に応じて、ガラス100を縮尺した図形を表示する。作業者は、この図形に対して研磨範囲130の位置をタップ入力により指定する。設定部450は、タップ位置の座標を図形の縮尺率で除算することにより、実際のガラス100に対する研磨範囲130の座標位置に変換する。
【0032】
P120(設定工程): タブレットPC400の設定部450は、情報入力域431に入力されたガラス100の情報パラメータと、位置入力域433に入力された研磨範囲130の座標位置を、内部またはクラウド上のデータベースに照会することにより、ガラス100の温度上昇分が脆弱化の許容限界を超えないための閾値を情報取得する。情報取得された閾値は、警報部440に設定される。
【0033】
このようなデータベースは、ガラス100の研磨実験や温度上昇実験によるデータ収集によって作成してもよいし、過去の研磨作業の経験に基づく予想値によって作成してもよいし、物理計算や化学計算などのシミュレーション結果によって作成してもよい。
【0034】
ちなみに、ガラス100の角付近では、自由端が2辺存在するために温度上昇に伴う内部歪みが大きくなる。そのため、閾値は低めに設定される。
【0035】
逆に、ガラス100の中央域では、自由端が存在しないために温度上昇に伴う内部歪みが小さい。そのため、閾値は高めに設定される。
【0036】
また、ガラス100の辺付近では、自由端が1辺のみになるために温度上昇に伴う内部歪みが中間的になる。そのため、「辺付近の閾値」は、「角付近の閾値」と「中央域の閾値」の中間に設定される。
【0037】
そのため、
図3および
図4に示すように、研磨範囲130の位置に応じて、設定部450が設定する閾値は次式を満足するようになる。
【0038】
(ガラス100の角付近の閾値)<(ガラス100の辺付近の閾値)<(ガラス100の中央域の閾値)
【0039】
なお、
図3はガラス100が透明ガラスの場合を示し、
図4はガラス100が網入りガラスの場合を示す。
【0040】
一般に、網入りガラスは、透明ガラスに比べて、網入りの分だけ温度上昇に伴う内部歪みが小さい。そのため、網入りガラスの閾値は、透明ガラスの閾値よりも例えば5°C程度高く設定される。
【0041】
P130(撮像工程): 赤外線カメラ300は、研磨範囲130の温度に応じて放射される赤外線を、赤外域を透過して可視域をカットする光学フィルタを介して受光する。赤外線カメラ300は、受光した赤外線を結像して赤外線像を生成する。赤外線カメラ300は、この赤外線像を画素単位に光電変換して、縦横に所定画素数を有する撮像データを生成する。
【0042】
赤外線カメラ300内の信号処理IC(またはタブレットPC400)は、撮像データの各画素に対して画素値(画素単位の赤外線光量に相当)が示す温度に応じた疑似カラー化を実施する。この疑似カラー化によって、ガラス100(特に研磨範囲130)の温度分布を画素単位の色で示すサーモグラフ画像が生成される。
【0043】
タブレットPC400は、GUI画面430にサーモグラフ画像を時系列(略リアルタイム)に表示することにより、作業者に対してガラス100(特に研磨範囲130)の温度分布を報せる。
【0044】
【0045】
同図のサーモグラフ画像において、赤色系統の暖色領域は、研磨範囲130において研磨量が多いために摩擦熱が生じて温度上昇する高温領域を示す。また、青緑色系統の寒色領域は、研磨範囲130において研磨量が少ないために放熱が進行して温度平衡した常温領域を示す。
【0046】
P140(警報工程): タブレットPC400の警報部440は、赤外線カメラ300の撮像データに基づいて、ガラス100の温度分布を情報取得する。警報部440は、温度分布について高温領域(例えば温度分布の最大温度)と常温領域(例えば温度分布の最低温度)との間の温度差を算出することによって、研磨作業に伴うガラス100の温度上昇分を求める。
【0047】
警報部440は、P120で設定された閾値を基準にして、ガラス100の温度上昇分の閾値判定を実施する。なお、閾値判定が不安定にならないように、閾値の判定に際してヒステリシス(いわゆるシュミットトリガ)を設けることが好ましい。
【0048】
警報部440は、ガラス100の温度上昇分が閾値以下の状況では、ガラス100の脆弱化の許容限界を超えないと判断する。この場合、警報部440は、警報を出力しない。なお、警報ではなく、安全な研磨状況をGUI画面430などを用いて報知してもよい。
【0049】
警報部440は、ガラス100の温度上昇分が閾値を上回って、ガラス100の脆弱化の許容限界を超える可能性があると判断すると、音声や画面表示を用いて警報を出力する。
【0050】
P150(研磨工程): 作業者は、電動研磨具200を用いて、研磨範囲130の研磨作業を行う。
図6は、作業者による研磨作業の様子を示す図である。
なお、
図1と同じ構成要素については、
図6に同一の参照符号を付与して示し、ここでの重複説明を省略する。
【0051】
作業者は、研磨作業を行いながら、GUI画面430にほぼリアルタイムに表示されるサーモグラフ画像を目視で確認する。
【0052】
このサーモグラフ画像における高温領域(赤系統の暖色領域)は、それまでの研磨によって生じた摩擦熱に起因する。そのため、高温領域は、直前まで研磨が行われ、研磨量が局所的に進んだことを意味する。
【0053】
そこで、作業者は、サーモグラフ画像を確認することで研磨範囲130の高温領域が一箇所に留まらないよう配慮しながら、研磨パットの位置を上下左右に移動させる。
【0054】
そのため、研磨範囲130内の一箇所が集中的に研磨される恐れが低くなり、研磨範囲130の研磨深さを全体的に揃えることが容易になる。
【0055】
その結果、研磨範囲130において局所的なデコボコや傾斜を小さく抑えることが可能になり、ガラス越しやガラス映り込みに生じる像歪みを研磨後に目立たなくすることが可能になる。
【0056】
P160(調整工程): さらに、作業者は、研磨作業を行いながら、警報部440が出力する警報にも注意する。
【0057】
この警報部440の警報によって、研磨作業の進行に伴う過度な温度上昇に起因するガラス100の脆弱化に、作業者は逸早く気付くことが可能になる。
【0058】
そこで、作業者は、警報に応じて、研磨パッドを傷面に押し当てる力を適度に手加減するなどして研磨量を下げる。
【0059】
図7は、警報に応じて行われる研磨作業の様子を示す説明図である。
【0060】
同図の縦軸は、ガラス100の温度分布から求めた温度上昇分に相当する。また、横軸は、時間経過に相当する。ガラス100の温度上昇分が閾値を超えるたびに警報が発せられ、作業者は研磨量を適時に下げるため、ガラス100の温度上昇が脆弱化の許容限界を超えるおそれが低くなる。
【0061】
なお、作業者が警報に対して即座に反応して研磨パッドを傷面から瞬間的に離した場合、研磨面の平坦性が損なわれるおそれがある。そこで、警報部440は「作業者を驚かせないように、閾値を超えた直後は警報音を小さな音量(または聴覚感度の低い周波数音)や長間隔の繰り返し音(ピー、ピー、ピー…)で出力し、閾値越えの状態が継続するほど徐々に大きな音量(または1キロヘルツほどの聴覚感度の高い周波数音)や短間隔の繰り返し音(ピッピッピッ…)に変化させる」ことが好ましい。
【0062】
<実施例1の効果>
【0063】
(1)実施例1では、研磨中のガラス100を赤外線カメラ300で撮像することによって、研磨作業によるガラス100の温度分布を、サーモグラフ画像として得る。
【0064】
作業者は、このサーモグラフ画像を監視することにより、研磨の進行に伴うガラス100の脆弱化の状況を、ガラス100の温度分布(サーモグラフ画像)によってモニタリングすることが可能になる。
【0065】
(2)実施例1では、作業者は、サーモグラフ画像を確認することで研磨範囲130の高温領域が一箇所に留まらないよう配慮しながら、研磨パットの位置を上下左右に移動させることによって、研磨範囲130内の箇所ごとの研磨量を調整する。その結果、作業者は研磨範囲130をほぼ平坦に研磨することが容易に可能になる。
【0066】
図8は、ガラス100の研磨処理前(Before)と研磨処理後(After)とを比較する図である。
【0067】
同図に示されるように、実施例1では、研磨処理前のガラス100の打撃痕(傷110)は、傷深さまで傷面を研磨することによって、研磨処理後のガラス100から視覚的に完全消去される。
【0068】
さらに、実施例1では研磨範囲130がほぼ平坦に研磨できるので、研磨処理後においてもガラス越しやガラス映り込みに生じる像歪みは目立たない。
【0069】
(3)実施例1では、警報部440は、ガラス100の温度上昇分が予め定められた閾値を超えると警報を出力する。この警報によって、作業者は、研磨作業の進行に伴う過度な温度上昇に起因するガラス100の脆弱化に、逸早く気付くことが可能になる。
【0070】
この警報に対して、作業者は、研磨パッドを傷面に押し当てる力を適度に手加減するなどして研磨量を下げる。したがって、ガラス100の温度上昇が脆弱化の許容限界を超える事態を未然に防ぐことが可能になる。
【0071】
(4)実施例1では、設定部450が、ガラス100に対する研磨範囲130の位置に応じて、閾値を次式を満足するように可変する。
【0072】
(ガラス100の角付近の閾値)<(ガラス100の辺付近の閾値)<(ガラス100の中央域の閾値)
【0073】
このような閾値の可変調整は、ガラス100の角付近は研磨時に破損しやすく、ガラス100の中央域は研磨時に破損しづらく、ガラス100の辺付近は両者の中間になるという実際上の経験則に合致する。
【0074】
そのため、ガラス100の角付近の傷消し研磨に際しては、閾値を低めに調整することによって脆弱化を報せる警報が早めに出るようになり、作業者は角付近では傷消し研磨を慎重に進めることが可能になる。
【0075】
また、ガラス100の中央域の傷消し研磨に際しては、閾値を高めに調整することによって脆弱化を報せる警報がぎりぎりまで遅く出るようになり、作業者は中央域の傷消し研磨を強めで効率良く進めることが可能になる。
この種のタブレットPC400は、ハードウェアとしてCPU(Central Processing Unit)やメモリなどを備えたコンピュータによって構成される。このハードウェアがコンピュータ可読媒体に記憶された傷消し監視プログラムを実行することにより、ガラス越し記憶部410、ガラス越し除去部420、GUI画面430、警報部440、および設定部450の各種機能が実現する。このハードウェアの一部または全部については、専用の装置、汎用の機械学習マシン、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、PLD(programmable logic device)などで代替してもよい。また、ハードウェアやプログラムの一部または全部をネットワーク上のサーバに集中または分散してクラウドシステムを構成することにより、複数のクライアント端末(ユーザ)に対して各種機能をサービス提供してもよい。
P200(記憶工程): ガラス越し記憶部410は、赤外線カメラ300から「研磨によって温度上昇する以前のガラス100」の撮像データを取得して記憶する。この撮像データには、ガラス越しに存在する高温物体などに起因する温度分布と、ガラス映り込みに存在する高温物体などに起因する温度分布とが重畳して含まれる。
P210(撮像工程): ガラス越し除去部420は、赤外線カメラ300で撮像される撮像データから、ガラス越し記憶部410に記憶されたガラス越しおよびガラス映り込みによる撮像データ(偽りの温度分布)を除去する。このような除去処理によって、ガラス100それ自体の温度分布を示す撮像データを得ることができる。
(1)ガラス100のガラス越しに高温物体が存在した場合、赤外線カメラ300の撮像データには、この高温物体から放射される赤外線量とガラス100の赤外透過率とに応じて、偽の温度分布が出現する。この偽の温度分布が出現すると、傷消し研磨に伴うガラス100それ自体の温度分布を正確に検出することが困難になる。
しかしながら、実施例2では、傷消し監視装置500(記憶工程および撮像工程)を用いて、赤外線カメラ300の撮像データから「ガラス越しの高温物体による偽りの温度分布」を除去する。そのため、ガラス越しの高温物体に影響されず、ガラス100それ自体の温度分布を検出することが可能になる。
(2)ガラス100のガラス映り込みに高温物体が存在した場合、赤外線カメラ300の撮像データには、この高温物体から放射される赤外線量とガラス100の赤外反射率とに応じて、偽の温度分布が出現する。この偽の温度分布が出現すると、傷消し研磨に伴うガラス100それ自体の温度分布を正確に検出することが困難になる。
しかしながら、実施例2では、傷消し監視装置500(記憶工程および撮像工程)を用いて、赤外線カメラ300の撮像データから「ガラス映り込みの高温物体による偽りの温度分布」を除去する。そのため、ガラス映り込みの高温物体に影響されず、ガラス100それ自体の温度分布を検出することが可能になる。
(3)上述したように、実施例2では、傷消し研磨に伴うガラス100それ自体の温度分布を正確に検出できる。したがって、実施例1で述べた各種効果をより正確に実現することが可能になる。
なお、上述した実施形態では、作業者が研磨工程や調整工程の一部または全部を行うことを前提として説明を行った。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、作業者による研磨工程や調整工程の一部または全部を、NC制御装置や作業ロボットなどに置き換えることで自動化を行ってもよい。
また、上述した実施形態では、赤外線カメラ300は、ガラス100の傷面の側に配置した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、研磨する傷面の温度分布を傷面の反対面(以下「裏面」)の側から撮像可能であれば、赤外線カメラ300をガラス100の裏面側に配置して撮像を行ってもよい。
なお、本発明は上記した各実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は必ずしも説明した全ての構成や工程を備えるものに限定されるものではない。