(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022475
(43)【公開日】2022-02-04
(54)【発明の名称】細胞培養プロセス
(51)【国際特許分類】
C12N 5/00 20060101AFI20220128BHJP
C12N 5/02 20060101ALN20220128BHJP
C12N 5/07 20100101ALN20220128BHJP
C12P 21/00 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C12N5/00
C12N5/02
C12N5/07
C12P21/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180745
(22)【出願日】2021-11-05
(62)【分割の表示】P 2018551968の分割
【原出願日】2017-03-23
(31)【優先権主張番号】62/318,275
(32)【優先日】2016-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】593141953
【氏名又は名称】ファイザー・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100133927
【弁理士】
【氏名又は名称】四本 能尚
(74)【代理人】
【識別番号】100147186
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 眞紀
(74)【代理人】
【識別番号】100174447
【弁理士】
【氏名又は名称】龍田 美幸
(74)【代理人】
【識別番号】100185960
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 理愛
(72)【発明者】
【氏名】ブルーノ フィゲロア
(72)【発明者】
【氏名】イェン-タン ルアン
(72)【発明者】
【氏名】ウェンゲ ワング
(57)【要約】 (修正有)
【課題】哺乳動物細胞を高い密度で培養するため、およびタンパク質の最適な生産のために、チロシンの溶解性が増加している、改善された細胞培養培地を提供する。
【解決手段】いくつかの実施形態では、少なくとも3mMのチロシンおよびポリビニルアルコール(PVA)を含む細胞培養培地であって、いくつかの実施形態では、チロシンの濃度は少なくとも5mMであり、いくつかの実施形態では、PVAの濃度は少なくとも0.5g/Lであり、いくつかの実施形態では、培地は血清を含有せず、および/またはタンパク質を含有しない細胞培養培地。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも5mMの濃度のチロシン、およびポリビニルアルコール(PVA)を含む細胞培養培地。
【請求項2】
チロシンの濃度が、5~20mMの間である、請求項1に記載の細胞培養培地。
【請求項3】
PVAの濃度が、0.5~5g/Lの間である、請求項1または2に記載の細胞培養培地。
【請求項4】
前記培地が、血清を含有しない、請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項5】
前記培地が、タンパク質を含有しない、請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項6】
光の非存在下4℃における2週間の保存の後に、濁度が5NTU未満である、請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項7】
光の非存在下4℃における2週間の保存の後に、沈殿物が観察されない、請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項8】
培地が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、およびValを更に含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項9】
培地が、4~10mMのAla、30~60mMのArg、50~90mMのAsn、10~30mMのAsp、2~40mMのGlu、2~15mMのGly、8~20mMのHis、25~32mMのIle、35~60mMのLeu、28~60mMのLys、9~25mMのMet、10~30mMのPhe、15~40mMのPro、44~80mMのSer、20~45mMのThr、2~10mMのTrp、および20~50mMのValを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも3mMの濃度のチロシン、およびポリビニルアルコール(PVA)を含む細胞培養培地に関する。本発明はまた、細胞培養の方法であって、少なくとも3mMの濃度のチロシン、およびポリビニルアルコール(PVA)を含む細胞培養培地を使用する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は、診断剤および治療剤としての重要性がますます高まってきている。ほとんどの場合、商業的に適用するためのタンパク質は、細胞培養において、目的の特定のタンパク質の極めて高いレベルをもたらすように遺伝子工学により作製され、および/または選択された細胞から生産される。タンパク質の商業的生産の成功にとって、細胞培養培地を含めた、細胞培養条件の最適化が重要である。細胞培養培地中のほとんどのアミノ酸と同じように、チロシン(Tyr)は、細胞塊および抗体またはタンパク質の生産に必要である。生産培養におけるチロシンの枯渇は、細胞の増殖、生存能および/またはタンパク質の生産の減少をもたらす恐れがある。細胞培養プロセスが改善されたり、高い密度および高いタイターのプロセスが必要とされる結果として、細胞培養培地は、細胞の増殖および組換えポリペプチドの生産を確保するために、高い濃度のアミノ酸を含まなければならない。しかし、チロシンは、最大の細胞の増殖またはタンパク質の生産に所望される濃度では限定的な溶解性を有し、冷所で保存する間に溶液から沈殿する傾向がある。沈殿の問題を回避するための1つの方法は、濃縮チロシン原液を別途フィードすることである。しかし、そのようなアプローチでは、操作の複雑さが、とりわけ、大規模な製造プロセスの場合には加わる。さらに、濃縮チロシン原液はpHが高く、フィードする間にpH変化を引き起こすであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、哺乳動物細胞を高い密度で培養するため、およびタンパク質の最適な生産のために、チロシンの溶解性が増加している、改善された細胞培養培地を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、少なくとも3mMの濃度のチロシン、およびポリビニルアルコール(PVA)を含む細胞培養培地に関する。いくつかの実施形態では、チロシンの濃度は、少なくとも5mMである。いくつかの実施形態では、PVAの濃度は、少なくとも0.5g/Lである。いくつかの実施形態では、培地は、血清を含有せず、および/またはタンパク質を含有しない培地である。
【0005】
本発明はさらに、哺乳動物細胞、好ましくは、CHO細胞を、少なくとも3mMの濃度のチロシン、およびポリビニルアルコール(PVA)を含む細胞培養培地と接触させるステップを含む細胞培養の方法にも関する。いくつかの実施形態では、細胞培養は、流加培養であり、本発明の細胞培養培地を、基本培地および/または流加培地として使用する。いくつかの実施形態では、細胞培養の間の最大生存細胞密度が、1×106個超の細胞/mLである。いくつかの実施形態では、細胞が、組換えタンパク質を発現する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明は、細胞培養およびポリペプチドの生産のための方法および培地に関する。本発明は、高い濃度のチロシン、およびポリビニルアルコール(PVA)を含む細胞培養培地に関する。
【0007】
いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地中のチロシンの濃度は、少なくとも3mM、少なくとも4mM、少なくとも5mM、少なくとも6mM、少なくとも7mM、少なくとも8mM、少なくとも9mM、または少なくとも10mMである。いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地中のチロシンの濃度は、少なくとも4.5mMである。いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地中のチロシンの濃度は、少なくとも5mMである。いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地中のチロシンの濃度は、少なくとも6mMである。
【0008】
いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地中に、チロシンが3mM~50mMの間の濃度で含まれる。
【0009】
いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地中に、チロシンが5mM~20mMの間の濃度で含まれる。
【0010】
いくつかの実施形態では、チロシンという用語は、細胞培養、好ましくは、動物細胞培養、好ましくは、哺乳動物細胞培養において、栄養素として使用されるのに適切な任意の形態のチロシンを含む。いくつかの実施形態では、チロシンは、L-チロシンである。いくつかの実施形態では、チロシンは、チロシンの遊離塩基またはチロシンの塩である。いくつかの実施形態では、チロシンは、二ナトリウム塩または二ナトリウム塩二水和物から選択されるチロシンの塩である。好ましい実施形態では、チロシンは、L-チロシン、L-チロシン二ナトリウム、またはL-チロシン二ナトリウム二水和物である。
【0011】
PVAは、式[-CH2CH(OH)-]nの高分子であり、式中、nは、整数であり、重合の程度を示す。いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地中で使用するPVAは、式[-CH2CH(OH)-]nの高分子であり、式中、nは、100~10000の間、300~8000の間、または500~5000の間の整数を含む。いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地中で使用するPVAは、約85%~約89%の加水分解の程度を有する。いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地中で使用するPVAは、10000~100000Daの間の分子量を有する。いくつかの実施形態では、本発明の培地中で使用するPVAは、10000~50000Daの間、好ましくは、13000~23000Daの間の分子量を有する。いくつかの実施形態では、本発明の培地中で使用するPVAは、1~10のセンチポアズ(cp)の間、好ましくは、3.0~4.5cpの間の粘度を有する。PVAの粘度は、20℃の温度におけるポリビニルアルコールの4%の水溶液の粘度に関して報告する。
【0012】
いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地中で使用するPVAは、Selvol(商標)PVA203(Sekisui)である。
【0013】
当業者であれば、特定(少なくとも3mM)のチロシンの濃度を含む、細胞培養培地の沈殿を阻止するのに適切なPVAの濃度を、例えば、実施例1に開示するものに類似する方法を使用して容易に決定することができる。いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地中のPVAの濃度は、少なくとも0.5g/L、少なくとも1g/L、少なくとも2g/L、少なくとも3g/L、少なくとも4g/L、または少なくとも5g/Lである。いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地中のPVAの濃度は、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5または10g/Lである。いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地中のPVAの濃度は、2.5g/Lである。
【0014】
いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地中に、PVAが0.5g/L~5g/Lの間の濃度で含まれる。いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地中、PVAが1g/L~3g/Lの間の濃度で含まれる。
【0015】
いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地は、光の非存在下4℃における1、2、3または4週間の保存の後に、5NTU(比濁法濁度単位)未満の濁度を有する。いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地は、光の非存在下4℃における2週間の保存の後に、5NTU未満の濁度を有する。いくつかの実施形態では、濁度を、実施例における開示に従って測定する。いくつかの実施形態では、濁度は、2100P濁度計(HACH)を使用して測定する。
【0016】
いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地は、光の非存在下4℃における1、2、3または4週間の保存の後に、沈殿物を本質的に含まない。いくつかの実施形態では、本発明の細胞培養培地は、光の非存在下4℃における2週間の保存の後に、沈殿物を本質的に含まない。
【0017】
用語「培地」、「細胞培養培地」および「培養培地」は、本明細書で使用する場合、増殖させている哺乳動物細胞に栄養を与える栄養素を含有する溶液を指す。典型的には、そのような溶液は、最低限の増殖および/または生存に細胞が必要とする必須および非必須アミノ酸、ビタミン、エネルギー供給源、脂質および微量元素を提供する。一実施形態では、培地は、Ala、Arg、Asn、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、Valならびにシスチンおよび/またはCysを含むことができる。
【0018】
そのような溶液はまた、増殖および/または生存を最低限の速度を上回って増強する補充構成成分を含有することもでき、それらとして、これらに限定されないが、ホルモンおよび/もしくはその他の増殖因子、特定(ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウムおよびリン酸等)のイオン、緩衝剤、ビタミン、ヌクレオシドもしくはヌクレオチド、微量元素(非常に低い最終的濃度で通常存在する無機化合物)、高い最終的濃度で存在する無機化合物(例えば、鉄)、アミノ酸、脂質、ならびに/またはグルコースもしくはその他のエネルギー供給源が挙げられる。いくつかの実施形態では、好都合には、培地を、細胞の生存および増殖に最適なpHおよび塩濃度に調合する。例えば、培地は、およそ7.1~7.3の間のpH、およびおよそ1000~1300mOsmの間の最終浸透圧に調合することができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、培地は、細胞培養を開始した後に添加する流加培地である。一実施形態では、培地は、4~10mMのAla、30~60mMのArg、50~90mMのAsn、10~30mMのAsp、2~40mMのGlu、2~15mMのGly、8~20mMのHis、25~32mMのIle、35~60mMのLeu、28~60mMのLys、9~25mMのMet、10~30mMのPhe、15~40mMのPro、44~80mMのSer、20~45mMのThr、2~10mMのTrp、および20~50mMのValを含む、培地、好ましくは、流加培地である。
【0020】
多種多様な哺乳動物増殖培地を、本発明に従って、使用するチロシンおよびPVAのレベルを調整することによって改変することができる。例えば、公知の細胞培養培地、例として、WO06026445、EP2243827、WO02066603またはWO06050050に開示されている培地中のチロシンおよびPVAの量を改変することによって、本発明に従った培地を得ることができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、培地は、培地の構成成分が公知であり、かつ制御される、化学的合成培地である。いくつかの実施形態では、培地は、培地の構成成分が全て公知であるとは限らず、かつ/または制御されるとは限らない、複合培地である。
【0022】
哺乳動物細胞培養のための化学的合成増殖培地が、過去数十年にわたって広範に開発され、公開されてきた。合成培地の全ての構成成分が、十分特徴付けられており、したがって、合成培地は、複雑な添加剤、例として、血清または加水分解産物を含有しない。初期の培地処方は、細胞の増殖および生存能の維持を可能にするために開発され、タンパク質の生産については、ほとんどまたは全く配慮されなかった。より最近になって、培地処方が、生産性の高い、組換えタンパク質を生産する細胞培養を支援するという明確な目的で開発されるようになってきた。そのような培地は、本発明の方法において使用するのに好ましい。そのような培地は一般に、細胞の増殖および/または高い密度での維持を支援するために、大量の栄養素、特に、アミノ酸を含む。必要であれば、当業者は、これらの培地を改変して、本発明の方法において使用することができる。例えば、当業者は、これらの培地においてPVAを添加し、チロシンの量を増加させて、本明細書に開示されるような方法において基本培地または流加培地としてそれらを使用することができる。
【0023】
複合培地の全ての構成成分が十分特徴付けられているとは限らず、したがって、複合培地は、とりわけ、単純なおよび/または複雑な炭素供給源、単純なおよび/または複雑な窒素供給源、ならびに血清等の添加剤を含有することができる。いくつかの実施形態では、本発明に適切な複合培地は、本明細書に記載されるような合成培地のその他の構成成分に加えて、加水分解産物等の添加剤を含有する。
【0024】
いくつかの実施形態では、合成培地は典型的には、水中におおよそ50種の化学実体を既知の濃度で含む。ほとんどの合成培地はまた、1種または複数の十分に特徴付けられたタンパク質、例として、インスリン、IGF-1、トランスフェリンまたはBSAも含有するが、その他の合成培地は、タンパク質構成成分を必要とせず、したがって、無タンパク質合成培地と呼ばれる。培地の典型的な化学的構成成分は、5つの広範なカテゴリー、すなわち、アミノ酸、ビタミン、無機塩、微量元素、および整然とカテゴリー化するのが難しい雑カテゴリーに分類される。
【0025】
細胞培養培地は、補充構成成分を任意選択により補充することができる。用語「補充構成成分」は、本明細書で使用する場合、増殖および/または生存を最低限の速度を上回って増強する構成成分を指し、それらとして、これらに限定されないが、ホルモンおよび/もしくはその他の増殖因子、特定(ナトリウム、クロライド、カルシウム、マグネシウムおよびリン酸等)のイオン、緩衝剤、ビタミン、ヌクレオシドもしくはヌクレオチド、微量元素(非常に低い最終的濃度で通常存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、ならびに/またはグルコースもしくはその他のエネルギー供給源が挙げられる。いくつかの実施形態では、補充構成成分は、最初の細胞培養物に添加することができる。いくつかの実施形態では、補充構成成分は、細胞培養を開始した後に添加することができる。
【0026】
典型的には、微量元素は、マイクロモルのまたはより低いレベルで含める多様な無機塩を指す。例えば、一般に含める微量元素は、亜鉛、セレニウム、銅等である。いくつかの実施形態では、鉄(二価鉄または三価鉄の塩)を、微量元素として、最初の細胞培養培地中にマイクロモル濃度で含めることができる。マンガンもまた、微量元素のうち二価カチオン(MnCl2またはMnSO4)としてナノモル~マイクロモルの濃度の範囲で頻繁に含められる。多数のあまり一般的ではない微量元素が通常、ナノモル濃度で添加される。
【0027】
いくつかの実施形態では、本発明の培地は、細胞培養において、高い生存細胞密度、例えば、1×106個の細胞/mL、5×106個の細胞/mL、1×107個の細胞/mL、5×107個の細胞/mL、1×108個の細胞/mL、または5×108個の細胞/mL等を支援するのに適切な培地である。いくつかの実施形態では、細胞培養は、哺乳動物細胞の流加培養、好ましくは、CHO細胞の流加培養である。
【0028】
用語「生存細胞密度」は、本明細書で使用する場合、所与の体積の培地中に存在する細胞の数を指す。生存細胞密度は、当業者に公知の任意の方法により測定することができる。好ましくは、自動細胞計数装置、例として、Bioprofile Flex(登録商標)を使用して、生存細胞密度を測定する。最大細胞密度という用語は、本明細書で使用する場合、細胞培養の間に達成される最大細胞密度を指す。用語「細胞の生存能」は、本明細書で使用する場合、所与のセットの培養条件または実験的変動の下で生存する培養中の細胞の能力を指す。当業者であれば、本発明においては、細胞の生存能を決定するための多くの方法のうちのいずれもが包含されることを理解するであろう。例えば、細胞の生存能を決定するために、生きている細胞の膜は通過しないが、死滅したまたは死にかけている細胞の破壊された膜を通過することができる色素(例えば、トリパンブルー)を使用することができる。
【0029】
細胞培養の方法
用語「培養」および「細胞培養」は、本明細書で使用する場合、細胞集団の生存および/または増殖に適切な条件下の培地中に懸濁している細胞集団を指す。当業者には明らかであろうが、いくつかの実施形態では、これらの用語は、本明細書で使用する場合、細胞集団と当該集団が懸濁している培地とを含む組合せを指す。いくつかの実施形態では、細胞培養の細胞は、哺乳動物細胞である。
【0030】
本発明の培地は、所望のプロセス(例えば、組換えタンパク質(例えば、抗体)の生産)に適している任意の細胞培養の方法に関して使用することができる。非限定的な例として、細胞を、回分または流加培養において増殖させることができ、この場合、組換えタンパク質(例えば、抗体)が十分発現した後、培養を終結させ、その後、発現したタンパク質(例えば、抗体)を収集する。代わって、別の非限定的な例として、細胞を、回分反復(batch-refeed)において増殖させることもでき、この場合、培養を終結させず、新たな栄養素およびその他の構成成分を、培養物に周期的または連続的に添加し、その間に、発現した組換えタンパク質(例えば、抗体)を、周期的または連続的に収集する。その他の適切な方法(例えば、スピン-チューブ培養)が、当技術分野で公知であり、これらの方法を使用して、本発明を実行することができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、本発明の培地と共に使用するのに適切な細胞培養は、流加(fed-batch)培養である。用語「流加培養」は、本明細書で使用する場合、培養プロセスの開始に続いて追加の構成成分を培養物に1回または複数回提供する、細胞を培養する方法を指す。提供するそのような構成成分は典型的には、培養プロセスの間に枯渇してしまった、細胞にとっての栄養構成成分を含む。典型的には、流加培養を何らかの点で停止し、培地中の細胞および/または構成成分を収集し、任意選択により精製する。いくつかの実施形態では、流加培養は、流加培地を補充する基本培地を含む。本発明の培地は、基本培地として、かつ/または流加培地として使用することができる。
【0032】
細胞を、実行者が選ぶ任意の好都合な体積で増殖させることができる。例えば、数ミリリットル~数リットルの体積の範囲に及ぶ小規模の反応槽中で、細胞を増殖させることができる。代わって、体積がおよそ少なくとも500、1000、2500、5000、8000、10,000、12,000、15000、20000もしくは25000リットル以上である、またはそれらの間の任意の体積の大規模な商業的バイオリアクター中で、細胞を増殖させることもできる。いくつかの実施形態では、細胞培養培地の体積は、少なくとも500Lである。いくつかの実施形態では、細胞培養培地の体積は、少なくとも5000Lである。
【0033】
細胞培養の温度は、細胞培養が生存可能な状態を維持する温度の範囲および高いレベルの所望の産物(例えば、組換えタンパク質)が生成する範囲に主として基づいて選択される。一般に、ほとんどの哺乳動物細胞が、約25℃~42℃の範囲内で、十分に増殖し、所望の産物(例えば、組換えタンパク質)を生産することができるが、本開示が教示する方法は、これらの温度に限定されない。特定の哺乳動物細胞は、約35℃~40℃の範囲内で、十分に増殖し、所望の産物(例えば、組換えタンパク質または抗体)を生産することができる。特定の実施形態では、細胞培養プロセスの間に、細胞培養物を、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44または45℃の温度で、1回または複数回増殖させる。当業者であれば、細胞の特定の必要性および実行者の特定の生産要件に応じて、細胞を増殖させるための、適切な1つまたは複数の温度を選択することが可能であろう。実行者の必要性および細胞自体の要件に応じて、任意の長さの時間にわたって細胞を増殖させることができる。いくつかの実施形態では、細胞は、35℃~40℃の間の温度で増殖させる。いくつかの実施形態では、細胞は、37℃で増殖させる。いくつかの実施形態では、細胞は、36.5℃で増殖させる。
【0034】
いくつかの実施形態では、実行者の必要性および細胞自体の要件に応じて、最初の増殖期(または増殖期)の間に、より多いまたはより少ない長さの時間にわたって、細胞を増殖させることができる。いくつかの実施形態では、あらかじめ定義された細胞密度を達成するのに十分な期間にわたって、細胞を増殖させる。いくつかの実施形態では、約1×106個の細胞/mL、約5×106個の細胞/mL、約1×107個の細胞/mL、約5×107個の細胞/mL、約1×108個の細胞/mL、または約5×108個の細胞/mLのあらかじめ定義された細胞密度を達成するのに十分な期間にわたって、細胞を増殖させる。いくつかの実施形態では、撹乱されずに増殖することが可能であれば、細胞が最終的には到達するであろう最大細胞密度の所与のパーセントである細胞密度を達成するのに十分な期間にわたって、細胞を増殖させる。例えば、最大細胞密度の1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または99パーセントの所望の生存細胞密度を達成するのに十分な期間にわたって、細胞を増殖させることができる。いくつかの実施形態では、細胞密度が、培養1日当たり、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%超増加することがなくなるまで、細胞を増殖させる。いくつかの実施形態では、細胞密度が、培養1日当たり、5%超増加することがなくなるまで、細胞を増殖させる。
【0035】
いくつかの実施形態では、細胞を定義された期間にわたって増殖させることが可能である。例えば、細胞培養の出発濃度、細胞を増殖させる温度、および細胞の内因性の増殖速度に応じて、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20日以上にわたって、好ましくは、4~10日にわたって、細胞を増殖させることができる。場合によっては、細胞を1カ月以上にわたって増殖させることが可能である場合がある。本発明の実行者であれば、タンパク質の生産要件および細胞自体の必要性に応じて、最初の増殖期の持続期間を選ぶことが可能であろう。
【0036】
細胞に対する酸素供給および栄養素の分散を増加させるために、細胞培養物を、最初の培養期の間に撹拌または振とうすることができる。本発明によれば、これらに限定されないが、pH、温度、酸素供給等を含めた、最初の増殖期の間のバイオリアクターの特定の内部条件を制御または調節することが有益である場合があることを当業者は理解するであろう。
【0037】
最初の増殖期の終わりに、培養条件のうちの少なくとも1つをシフトさせることができ、したがって、第2のセットの培養条件を適用し、培養物中で代謝シフトを生じさせる。代謝シフトは、例えば、細胞培養物の温度、pH、浸透圧、または化学的誘導物質のレベルの変化により達成することができる。非限定的な一実施形態では、培養条件を、培養物の温度を減少させることによってシフトさせる。しかし、当技術分野で公知であるように、温度をシフトさせることが、適切な代謝シフトを達成することができる唯一の機構ではない。例えば、そのような代謝シフトはまた、これらに限定されないが、pH、浸透圧、および酪酸ナトリウムのレベルを含めた、その他の培養条件をシフトさせることによっても達成することができる。培養のシフトのタイミングは、タンパク質の生産要件または細胞自体の必要性に基づいて、本発明の実行者により決定されるであろう。
【0038】
培養物の温度をシフトさせる場合、温度シフトは、比較的緩やかであり得る。例えば、温度変化を完了させるのに、数時間または数日かかる場合がある。代わって、温度シフトは、比較的突然であり得る。例えば、温度変化は、数時間未満で完了させる場合がある。ポリペプチドまたはタンパク質の商業的大規模生産における標準であるような、適切な生産用および制御用機器があれば、温度変化は、1時間未満で完了させることさえできる。
【0039】
いくつかの実施形態では、上記で論じたように、ひとたび細胞培養の条件がシフトするに至ったら、その後の生産期では、細胞培養物の生存および生存能に貢献し、所望のポリペプチドまたはタンパク質を商業的に適切なレベルで発現させるのに適切な第2のセットの培養条件下で、細胞培養物を維持する。
【0040】
上記で論じたように、これらに限定されないが、温度、pH、浸透圧、および酪酸ナトリウムのレベルを含めた、いくつかの培養条件のうちの1つまたは複数をシフトさせることによって、培養物をシフトさせることができる。いくつかの実施形態では、培養物の温度をシフトさせる。この実施形態によれば、その後の生産期の間、培養物を、最初の増殖期の温度または温度範囲よりも低い温度または温度範囲で維持する。上記で論じたように、複数の別個の温度シフトを利用して、細胞密度もしくは生存能を増加させること、または組換えタンパク質の発現を増加させることができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、その後の生産期において、所望の細胞密度または生産タイターに到達するまで、細胞を維持することができる。本発明の別の実施形態では、その後の生産期の間に、細胞を定義された期間にわたって増殖させることが可能である。例えば、細胞培養物のその後の増殖期が始まる際の濃度、細胞を増殖させる温度、および細胞の内因性の増殖速度に応じて、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20日以上にわたって、細胞を増殖させることができる。場合によっては、細胞を1カ月以上にわたって増殖させることが可能である場合がある。本発明の実行者であれば、ポリペプチドまたはタンパク質の生産要件および細胞自体の必要性に応じて、その後の生産期の持続期間を選ぶことが可能であろう。
【0042】
細胞に対する酸素供給および栄養素の分散を増加させるために、細胞培養物を、その後の生産期の間に撹拌または振とうすることができる。本発明によれば、これらに限定されないが、pH、温度、酸素供給等を含めた、その後の増殖期の間のバイオリアクターの特定の内部条件を制御または調節することが有益である場合があることを当業者は理解するであろう。
【0043】
いくつかの実施形態では、細胞は、組換えタンパク質を発現し、本発明の細胞培養の方法は、増殖期および生産期を含む。
【0044】
細胞
細胞培養を行い得る任意の哺乳動物細胞を、本発明に従って利用することができる。本発明に従って使用することができる哺乳動物細胞の非限定的な例として、BALB/cマウス骨髄腫系(NSO/l、ECACC番号:85110503);ヒト網膜芽細胞腫(PER.C6、CruCell、Leiden、オランダ);SV40により形質転換された、サル腎臓CV1系(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胚性腎臓系(293細胞、または懸濁培養において増殖させるためにサブクローニングされた293細胞、Grahamら、J.Gen Virol.、36:59,1977);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞+/-DHFR(CHO、UrlaubおよびChasin、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、77:4216、1980);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、Biol.Reprod.、23:243~251、1980);サル腎臓細胞(CV1、ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1 587);ヒト子宮頚部癌細胞(HeLa、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2、HB8065);マウス乳房腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら、Annals N.Y.Acad.Sci.、383:44~68、1982);MRC5細胞;FS4細胞;およびヒト肝細胞腫系(Hep G2)が挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、細胞は、CHO細胞である。いくつかの好ましい実施形態では、細胞は、GS-CHO細胞である。
【0045】
さらに、任意の数の市販および非市販のハイブリドーマ細胞株も、本発明に従って利用することができる。用語「ハイブリドーマ」は、本明細書で使用する場合、不死化細胞および抗体産生細胞の融合の結果として生じる細胞または細胞の子孫を指す。結果として得られたそのようなハイブリドーマは、抗体を産生する不死化細胞である。ハイブリドーマを作り出すために使用する個々の細胞は、これらに限定されないが、ラット、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびヒトを含めた、任意の哺乳動物供給源に由来し得る。いくつかの実施形態では、ハイブリドーマは、トリオーマ細胞株であり、これは、ヒト細胞とマウス骨髄腫細胞株との間の融合産物であるヘテロハイブリッド骨髄腫融合体の子孫を続いて、形質細胞と融合させる場合に得られる。いくつかの実施形態では、ハイブリドーマは、例えば、クアドローマ等の抗体を産生する任意の不死化ハイブリッド細胞株である(例えば、Milsteinら、Nature、537:3053、1983を参照されたい)。当業者であれば、ハイブリドーマ細胞株は、異なる栄養要件を有し得るであろうこと、および/または最適な増殖に異なる培養条件を必要とし得るであろうことを理解し、必要に応じて条件を改変することが可能であろう。
【0046】
タンパク質の発現
上記で示したように、多くの場合、細胞を、高いレベルの所望の産物(例えば、組換えタンパク質または抗体)を生産するように選択するか、または遺伝子工学により作製する。しばしば、例えば、目的のタンパク質をコードする遺伝子を導入することによって、および/またはそうした遺伝子の発現を調節する遺伝子の制御エレメントを(内在性エレメントであれ、導入されるエレメントであれ)導入することによって、細胞を人の手により操作して、高いレベルの組換えタンパク質を生産する。
【0047】
特定のタンパク質は、細胞の増殖、細胞の生存能、または細胞の何らかのその他の特徴に対して、目的のタンパク質の生産を何らかの様式で最終的に制限する有害作用を示す恐れがある。特定のタンパク質を発現するように遺伝子工学により作製された1つの特定のタイプの細胞の集団においてさえ、当該細胞集団内の変動が存在し、したがって、特定の個別の細胞が、より良好に増殖し、目的のタンパク質をより多く生産し、またはより高い活性(例えば、酵素活性)のレベルを示すタンパク質を生産するであろう。特定の実施形態では、実行者が、細胞を培養するために選ばれた特定の条件下においてロバストに増殖するように、細胞株を経験により選択する。いくつかの実施形態では、細胞の増殖、最終細胞密度、パーセント細胞生存度、発現したタンパク質のタイターもしくはこれらの任意の組合せ、または実行者が重要であると考える任意のその他の条件に基づいて、大規模生産のために、特定のタンパク質を発現するように遺伝子工学により作製された個別の細胞が選ばれる。
【0048】
宿主細胞中で発現可能である任意のタンパク質を、本教示に従って生産することができる。用語「宿主細胞」は、本明細書で使用する場合、本明細書に記載されるような目的のタンパク質を生産するために、本発明に従って操作する細胞を指す。タンパク質は、細胞に内在する遺伝子または細胞内に導入される異種の遺伝子から発現させることができる。タンパク質は、自然界に存在するものであってもよく、または代わって、遺伝子工学により作製された配列もしくは人の手により選択された配列を有してもよい。
【0049】
本発明に従って望ましく発現させることができるタンパク質はしばしば、興味深いまたは有用な生物学的または化学的活性に基づいて選択される。例えば、本発明を利用して、任意の薬学的または商業的に適切な酵素、受容体、抗体、ホルモン、調節因子、抗原、結合性物質等を発現させることができる。いくつかの実施形態では、培養中の細胞により発現されるタンパク質は、抗体もしくはそれらの断片、ナノボディ、単一ドメイン抗体、糖タンパク質、治療用タンパク質、増殖因子、凝固因子、サイトカイン、融合タンパク質、医薬品原薬、ワクチン、酵素、またはSmall Modular ImmunoPharmaceutical(商標)(SMIP)から選択される。当業者は、任意のタンパク質を本発明に従って発現させることができることを理解し、当業者の特定の必要性に基づいて、生産しようとする特定のタンパク質を選択することが可能であろう。
【0050】
抗体
多数の抗体が、医薬品またはその他の商業的物質として、現時点で使用されているかまたは検討されつつあることを考慮すると、本発明に従った抗体の生産は特に興味深い。抗体は、特定の抗原に特異的に結合する能力を有するタンパク質である。宿主細胞中で発現させることができる任意の抗体を、本発明に従って生産することができる。いくつかの実施形態では、発現させようとする抗体は、モノクローナル抗体である。
【0051】
いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体は、キメラ抗体である。キメラ抗体は、2つ以上の生物に由来するアミノ酸断片を含有する。キメラ抗体分子は、例えば、ヒト定常領域と共に、マウス、ラットまたはその他の種の抗体に由来する抗原結合性ドメインを含むことができる。キメラ抗体を作製するための多様なアプローチが記載されている。例えば、Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、81、6851(1985);Takedaら、Nature 314、452(1985);Cabillyら、米国特許第4,816,567号;Bossら、米国特許第4,816,397号;Tanaguchiら、欧州特許公開EP171496;欧州特許公開0173494;英国特許GB2177096Bを参照されたい。
【0052】
いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体は、例えば、リボゾームディスプレイもしくはファージディスプレイライブラリーの使用(例えば、Winterら、米国特許第6,291,159号;およびKawasaki、米国特許第5,658,754号を参照されたい)、またはネイティブの抗体遺伝子が、不活性化され、ヒト抗体遺伝子で機能的に置き換えられており、かつネイティブの免疫系のその他の構成成分はインタクトな状態で残されている異種移植種(xenographic species)の使用(例えば、Kucherlapatiら、米国特許第6,657,103号を参照されたい)により誘導されたヒト抗体である。
【0053】
いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体は、ヒト化抗体である。ヒト化抗体は、キメラ抗体であり、この場合、大半のアミノ酸残基は、ヒト抗体から誘導され、したがって、ヒト対象に送達する場合には、可能性のある免疫反応はいずれも最小限に留まる。ヒト化抗体においては、相補性決定領域中のアミノ酸残基が、少なくとも部分的に、所望の抗原特異性または親和性を付与する非ヒト種に由来する残基で置き換えられている。そのような変化させた免疫グロブリン分子は、当技術分野で公知のいくつかの技法のうちのいずれかにより作製することができ(例えば、Tengら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、80、7308~7312(1983);Kozborら、Immunology Today、4、7279(1983);Olssonら、Meth.Enzymol.、92、3~16(1982))、好ましくは、PCT公開WO92/06193またはEP0239400の教示に従って作製される;これらの参考文献は全て、参照により本明細書に組み込まれている)。ヒト化抗体は、例えば、Scotgen Limited、2 Holly Road、Twickenham、Middlesex、英国により商業的に生産され得る。さらなる参考文献として、Jonesら、Nature 321:522~525(1986);Riechmannら、Nature 332:323~329(1988);およびPresta、Curr.Op.Struct.Biol.2:593~596(1992)を参照されたい;これらは全て、参照により本明細書に組み込まれている。
【0054】
いくつかの実施形態では、上記に記載したモノクローナル、キメラまたはヒト化抗体は、自然界においてはいずれの種のいずれの抗体中にも天然には存在しないアミノ酸残基を含有することができる。これらの外来の残基を利用して、例えば、モノクローナル、キメラまたはヒト化抗体に対して、新規のまたは改変された特異性、親和性またはエフェクター機能を付与することができる。いくつかの実施形態では、上記に記載した抗体を、毒素等の全身性薬物療法のための薬物、低分子量細胞傷害性薬物、生物学的応答改変物質および放射性核種にコンジュゲートすることができる(例えば、Kunzら、Calicheamicin derivative-carrier conjugates、US20040082764A1を参照されたい)。
【0055】
一般に、本発明の実行者は、目的のタンパク質を選択し、その正確なアミノ酸配列を解明するであろう。本発明に従って発現させようとする所与のタンパク質はいずれも、それ自体の特定の特徴を有する場合があったり、培養した細胞の細胞密度または生存能に影響する場合があったり、同一の培養条件下で増殖させた別のタンパク質よりも低いレベルで発現する場合があったり、実施した培養の正確な条件およびステップに依存して、異なる生物学的活性を有する場合があったりする。当業者であれば、細胞の増殖、ならびに任意の所与の発現させるタンパク質の生産および/または活性レベルを最適化するために、特定のタンパク質を生産するために使用するステップおよび組成を本発明の教示に従って適切に改変することが可能であろう。
【0056】
タンパク質の発現のための遺伝子の、宿主細胞内への導入
本発明によれば、一般に、細胞内に導入される核酸分子が、発現が所望されるタンパク質をコードする。代わって、核酸分子が、細胞による所望のタンパク質の発現を誘発する遺伝子産物をコードすることもできる。例えば、導入される遺伝子材料が、内在するまたは異種のタンパク質の転写を活性化する転写因子をコードする場合がある。代わってまたは加えて、導入される核酸分子が、細胞が発現するタンパク質の翻訳または安定性を増加させる場合もある。
【0057】
哺乳動物宿主細胞内に目的のタンパク質の発現を達成するのに十分な核酸を導入するのに適切な方法は、当技術分野で公知である。例えば、Gethingら、Nature、293:620~625、1981;Manteiら、Nature、281:40~46、1979;Levinsonら、EP117,060;およびEP117,058を参照されたい;これらはそれぞれ、参照により本明細書に組み込まれている。哺乳動物細胞の場合、哺乳動物細胞内に遺伝子材料を導入する一般的な方法には、Grahamおよびvan der Erb(Virology、52:456~457、1978)のリン酸カルシウム沈殿法、またはHawley-Nelson(Focus、15:73、1993)のlipofectamine(商標)(Gibco BRL)による方法が含まれる。哺乳動物細胞宿主系による形質転換の一般的な態様が、1983年8月16日発行の米国特許第4,399,216号においてAxelにより記載されている。哺乳動物細胞内に遺伝子材料を導入するための多様な技法については、Keownら、Methods in Enzymology、1989;Keownら、Methods in Enzymology、185:527~537、1990;およびMansourら、Nature、336:348~352、1988を参照されたい。
【0058】
いくつかの実施形態では、導入しようとする核酸は、裸の核酸分子の形態をとる。例えば、細胞内に導入される核酸分子は、タンパク質をコードする核酸、および遺伝子に必要な制御エレメントだけからなる場合がある。代わって、(必要な調節エレメントを含む)タンパク質をコードする核酸を、プラスミドベクター内に含有させる場合もある。哺乳動物細胞中でのタンパク質の発現に適切なベクターの非限定的な代表的な例として、pCDNA1;pCD(Okayamaら、Mol.Cell Biol.5:1136~1142、1985を参照されたい);pMClneo Poly-A(Thomasら、Cell 51:503~512、1987を参照されたい);バキュロウイルスベクター、例として、pAC373またはpAC610;CDM8(Seed,B.Nature 329:840、1987を参照されたい);およびpMT2PC(Kaufmanら、EMBO J.6:187~195、1987を参照されたい)が挙げられる;これらの引用文献はそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。いくつかの実施形態では、細胞内に導入しようとする核酸分子は、ウイルスベクター内に含有させる。例えば、タンパク質をコードする核酸を、ウイルスゲノム(または部分的なウイルスゲノム)内に挿入する場合がある。タンパク質の発現を導く調節エレメントは、ウイルスゲノム内に挿入する核酸と共に含める(すなわち、ウイルスゲノム内に挿入する遺伝子に連結する)場合、またはウイルスゲノム自体が提供する場合がある。
【0059】
DNAおよびリン酸カルシウムを含有する沈殿物を形成することによって、裸のDNAを細胞内に導入することができる。代わって、裸のDNAはまた、DNAとDEAE-デキストランとの混合物を形成し、この混合物を細胞とインキュベートすること、または適切な緩衝液中で細胞およびDNAを一緒にインキュベートし、この細胞を(例えば、電気穿孔により)高電圧電気パルスに付すことによって、細胞内に導入することもできる。細胞に裸のDNAを導入するためのさらなる方法は、DNAを、カチオン性脂質を含有するリポソーム懸濁液と混合することによる方法である。次いで、DNA/リポソーム複合体を、細胞と共にインキュベートする。裸のDNAはまた、例えば、マイクロインジェクションにより、細胞内に直接注入することもできる。
【0060】
代わって、また、DNAの、カチオン、例として、ポリリジンに対する複合体を形成し、これを、細胞表面受容体に対するリガンドにカップリングさせることによっても、裸のDNAを細胞内に導入することができる(例えば、Wu,G.およびWu,C.H. J.Biol.Chem.263:14621、1988;Wilsonら、J.Biol.Chem.267:963~967、1992;および米国特許第5,166,320号を参照されたい;これらのそれぞれは、その全体が参照により本明細書に組み込まれている)。DNA-リガンド複合体が受容体に結合することによって、DNAの取込みが、受容体媒介性エンドサイトーシスにより促進される。
【0061】
タンパク質をコードする特定の核酸配列、例えば、cDNAを含有するウイルスベクターを使用することが、細胞内に核酸配列を導入するための一般的なアプローチである。細胞にウイルスベクターを感染させることには、大きな比率の細胞が核酸を受容し、このことにより、核酸を受容するに至った細胞を選択する必要性が不要になり得るという利点がある。加えて、ウイルスベクター内にあるコードされる分子、例えば、ウイルスベクター中に含有されるcDNAによりコードされる分子は、一般に、ウイルスベクターの核酸を取り込むに至った細胞において、効率的に発現される。
【0062】
不完全レトロウイルスは、遺伝子療法の目的での遺伝子移入において使用するために十分特徴付けられている(総説については、Miller,A.D.Blood、76:271、1990を参照されたい)。目的のタンパク質をコードする核酸がレトロウイルスゲノム内に挿入されている組換えレトロウイルスを構築することができる。加えて、レトロウイルスゲノムの部分を除去して、このレトロウイルスを複製不完全となすこともできる。次いで、そのような複製不完全レトロウイルスを、ウイルス粒子内にパッケージングし、これを使用して、標準的な技法により、ヘルパーウイルスを使用することによって、標的細胞を感染させることができる。
【0063】
アデノウイルスのゲノムを操作して、それが、目的のタンパク質をコードし、発現させるが、正常な溶菌性ウイルス生活環において複製するその能力の点で不活性化されるようにすることができる。例えば、Berknerら、BioTechniques 6:616、1988;Rosenfeldら、Science 252:431~434、1991;およびRosenfeldら、Cell、68:143~155、1992を参照されたい。アデノウイルス株Ad5型dl324またはアデノウイルスのその他の株(例えば、Ad2、Ad3、Ad7等)から誘導された適切なアデノウイルスベクターが、当業者に公知である。組換えアデノウイルスが好都合であり、というのは、それらは、有効な遺伝子送達ビヒクルとなるのに、分裂しつつある細胞を必要とせず、気道上皮(上記に引用したRosenfeldら、1992)、内皮細胞(Lemarchandら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:6482~6486、1992)、肝細胞(HerzおよびGerard、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:2812~2816、1993)、ならびに筋肉細胞(Quantinら、Proc.Natl.Acad.Sci.、USA、89:2581~2584、1992)を含めた、多種多様な細胞型に感染させるために使用することができるからである。加えて、導入されたアデノウイルスDNA(およびそこに含有されている外来DNA)は、宿主細胞のゲノム内には組み入れられないが、エピソーム状態を維持し、それにより、導入されたDNAが宿主ゲノム(例えば、レトロウイルスのDNA)内に組み入れられるようになる状況下における挿入突然変異誘発の結果として発生する恐れがある潜在的な問題が回避される。さらに、その他の遺伝子送達ベクターに比して、外来DNAについてのアデノウイルスゲノムの運搬能力も大きい(最大8キロベース)(上記に引用したBerknerら;Haj-AhmandおよびGraham、J.Virol.57:267、1986)。現時点で使用されているほとんどの複製不完全アデノウイルスベクターは、ウイルスのE1およびE3遺伝子の全部または一部が欠失しているが、80%ものアデノウイルス遺伝子材料が保持されている。
【0064】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、天然に存在する不完全ウイルスであり、このウイルスは、効率的な複製および生産的な生活環には、別のウイルス、例として、アデノウイルスまたはヘルペスウイルスを、ヘルパーウイルスとして必要とする。(総説については、Muzyczkaら、Curr.Topics in Micro.and Immunol.、158:97~129、1992を参照されたい)。AAVはまた、分裂していない細胞内にそのDNAを組み入れることができ、高い頻度の安定な組入れを示す少数のウイルスのうちの1つでもある(例えば、Flotteら、Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.7:349~356、1992;Samulskiら、J.Virol.63:3822~3828、1989;およびMcLaughlinら、J.Virol.62:1963~1973、1989を参照されたい)。AAVのうちのわずか300個の塩基対を含有するベクターは、パッケージングすることができ、組入れを行うことができる。外因性DNAのための空間は、約4.5kbに限定される。AAVベクター、例として、Tratschinら(Mol.Cell.Biol.5:3251~3260、1985)に記載されたベクターを使用して、細胞内にDNAを導入することができる。AAVベクターを使用して、多様な核酸が異なる細胞型に導入されてきた(例えば、Hermonatら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81:6466~6470、1984;Tratschinら、Mol.Cell.Biol.4:2072~2081、1985;Wondisfordら、Mol.Endocrinol.2:32~39、1988;Tratschinら、J.Virol.51:611~619、1984;およびFlotteら、J.Biol.Chem.268:3781~3790、1993を参照されたい)。
【0065】
細胞集団に核酸分子を導入するために使用する方法により、大きな比率の細胞の改変、および当該細胞によるタンパク質の効率的な発現が生じる場合には、改変された細胞集団を、当該集団内の個々の細胞のさらなる単離またはサブクローニングを行わずに使用することができる。換言すると、細胞集団により十分なタンパク質を生産させることができ、したがって、細胞のさらなる単離は必要でなく、当該集団を即時に使用し、細胞培養物を播種して、タンパク質の生産を行うことができる。代わって、タンパク質を効率的に生産するいくつかの細胞または単一の細胞を単離し、そこから均質な細胞集団を拡大増殖するのが望ましい場合もある。
【0066】
細胞内に目的のタンパク質をコードする核酸分子を導入することに代わって、細胞が内因性に生産するタンパク質の発現を誘発するかまたはそうした発現のレベルを増加させる別のポリペプチドもしくはタンパク質を、導入された核酸がコードすることもできる。例えば、細胞が、特定のタンパク質を発現することが可能であり得るが、細胞の追加の処理なしでは、そうすることができない場合がある。同様に、細胞が、不十分な量の所望の目的のタンパク質しか発現しない場合もある。したがって、目的のタンパク質の発現を刺激する物質を使用して、細胞がそうしたタンパク質の発現を誘発するかまたは増加させることができる。例えば、導入された核酸分子が、目的のタンパク質の転写を活性化させるかまたは上方制御する転写因子をコードする場合がある。続いて、そのような転写因子の発現が、目的のタンパク質の発現、またはよりロバストな発現をもたらす。
【0067】
特定の実施形態では、タンパク質の発現を導く核酸を、宿主細胞内に安定に導入する。特定の実施形態では、タンパク質の発現を導く核酸を、宿主細胞内に一過性に導入する。当業者であれば、細胞内に核酸を安定にまたは一過性にのいずれで導入するのかを、当業者の実験の必要性に基づいて選ぶことが可能であろう。
【0068】
目的のタンパク質をコードする遺伝子を、調節性の、遺伝子の制御エレメント1つまたは複数に任意選択により連結することができる。特定の実施形態では、遺伝子の制御エレメントは、タンパク質の構成的発現を導く。特定の実施形態では、目的のタンパク質をコードする遺伝子の誘導性の発現をもたらす、遺伝子の制御エレメントを使用することができる。遺伝子の誘導性の制御エレメント(例えば、誘導性プロモーター)を使用することによって、細胞におけるタンパク質の生産を調整することが可能になる。真核細胞中で使用するのに有用である可能性のある、遺伝子の誘導性の制御エレメントの非限定的な例として、ホルモン調節性エレメント(例えば、Mader,S.およびWhite,J.H.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:5603~5607、1993を参照されたい)、合成リガンド調節性エレメント(例えば、Spencer,D.M.ら、Science 262:1019~1024、1993を参照されたい)、ならびに電離放射線調節性エレメント(例えば、Manome,Y.ら、Biochemistry 32:10607~10613、1993;Datta,R.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10149~10153、1992を参照されたい)が挙げられる。当技術分野で公知の追加の、細胞特異的なまたはその他の調節系を、本発明に従って使用することもできる。
【0069】
当業者であれば、本発明の教示に従って、細胞に目的のタンパク質を発現させる遺伝子を導入する方法を選ぶこと、およびそうした方法を任意選択により適切に改変することが可能であろう。
【0070】
発現したタンパク質の単離
一般に、本発明によれば、発現させたタンパク質を単離および/または精製することが典型的には望ましい。特定の実施形態では、発現したタンパク質は、培地中に分泌され、したがって、細胞およびその他の固体を、精製プロセスにおける最初のステップとして、例えば遠心分離またはろ過により除去する場合のように、除去することができる。
【0071】
代わって、発現したタンパク質を、宿主細胞の表面に結合させることもできる。例えば、精製プロセスにおける最初のステップとして、培地を除去することができ、タンパク質を発現している宿主細胞を溶解させる。哺乳動物宿主細胞の溶解は、ガラスビーズによる物理的破壊および高いpH条件に対する曝露を含めた、当業者に周知のいくつもある手段によって達成することができる。
【0072】
発現したタンパク質は、これらに限定されないが、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、分子ふるい、およびヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー)、ゲルろ過、遠心分離もしくは溶解性の差、エタノール沈殿を含めた、標準的な方法、ならびに/またはタンパク質を精製するための任意のその他の利用可能な技法により、単離および精製することができる(例えば、Scopes,Protein Purification Principles and Practice 2nd Edition、Springer-Verlag、New York、1987;Higgins,S.J.およびHames,B.D.(編)、Protein Expression:A Practical Approach、Oxford Univ Press、1999;ならびにDeutscher,M.P.、Simon,M.I.、Abelson,J.N.(編)、Guide to Protein Purification:Methods in Enzymology(Methods in Enzymology Series、Vol.182)、Academic Press、1997を参照されたい;これらはそれぞれ、参照により本明細書に組み込まれている)。特に、免疫親和性クロマトグラフィーの場合には、タンパク質に対して生成され、不動の支持体に貼り付けられた抗体を含む親和性カラムに当該タンパク質を結合させることによって、当該タンパク質を単離することができる。代わって、適切な親和性カラムに通すことによる容易な精製を可能にするために、親和性タグ、例として、インフルエンザコート配列、ポリ-ヒスチジン、またはグルタチオン-S-トランスフェラーゼを、タンパク質に、標準的な組換え技法により付加することもできる。精製プロセスの間のタンパク質の分解を低下させるまたは排除するために、プロテアーゼ阻害剤、例として、フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)、ロイペプチン、ペプスタチンまたはアプロチニンをいずれかまたは全ての段階で添加することができる。発現したタンパク質を単離および精製するために、細胞を溶解させなければならない場合には、プロテアーゼ阻害剤は特に好都合である。
【0073】
当業者は、正確にどの精製技法を用いるかは、精製しようとするタンパク質の特徴、タンパク質を発現させる細胞の特徴、および/または細胞を増殖させた培地の組成に依存して変化することを理解するであろう。
【0074】
医薬製剤
本発明の特定の実施形態では、生産されたポリペプチドまたはタンパク質は、薬理活性を有し、医薬品の調製において有用である。そのような生産されたポリペプチドまたはタンパク質は、対象に投与することができ、最初に、これらに限定されないが、非経口(例えば、静脈内)、経皮内、経皮下、経口、経鼻、経気管支、経眼部、経皮(外用)、経粘膜、経直腸および経膣を含めた、任意の利用可能な経路により送達するために製剤化することができる。医薬組成物は典型的には、哺乳動物細胞株から発現される精製されたポリペプチドまたはタンパク質、送達剤(すなわち、カチオン性高分子、ペプチド分子輸送体、界面活性剤等)を、薬学的に許容できる担体と組み合わせて含む。本明細書で使用する場合、言語「薬学的に許容できる担体」には、医薬品の投与に適合する溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤等が含まれる。補助的な活性化合物もまた、組成物中に組み込むことができる。
【0075】
医薬組成物は、それが意図する投与経路に適合するように製剤化する。非経口、皮内または皮下適用のために使用する液剤または懸濁剤は、以下の構成成分、すなわち、無菌の希釈剤、例として、注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたはその他の合成溶媒;抗細菌剤、例として、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例として、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム;キレート化剤、例として、エチレンジアミン四酢酸;緩衝剤、例として、酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩;および浸透圧を調整するための物質、例として、塩化ナトリウムまたはデキストロースを含むことができる。pHを、酸または塩基、例として、塩酸または水酸化ナトリウムを用いて調整することができる。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチックで作製されたアンプル、使い捨てシリンジまたは多回用量バイアル中に収容することができる。
【0076】
注射剤として使用するのに適切な医薬組成物は典型的には、無菌の水性液剤(水溶性である場合)または分散剤、および無菌の注射用の液剤または分散剤を用時調製するための無菌の散剤を含む。静脈内投与の場合、適切な担体には、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF、Parsippany、NJ)またはリン酸緩衝溶液(PBS)が含まれる。いずれの場合も、組成物は、無菌でなければならず、容易なシリンジ充填性が存在する程度の流動性を示さなければならない。好ましい医薬製剤は、製造および保管の条件下で安定であり、微生物、例として、細菌および真菌の汚染作用に対して保存されなければならない。一般に、適切な担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール等)、およびそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性を、例えば、レシチン等のコーティングを使用すること、分散剤の場合には、必要な粒子サイズを維持すること、および界面活性剤を使用することによって維持することができる。微生物の作用の阻止は、多様な抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等により達成することができる。多くの場合、組成物中に、等張化剤、例えば、糖、ポリアルコール、例として、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射用組成物の吸収の延長を、組成物中に、吸収を遅らせる物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含めることによってもたらすことができる。
【0077】
無菌の注射用液剤は、適切な溶媒中に、必要量の精製されたポリペプチドまたはタンパク質を、必要に応じて、上記に列挙した成分の1つまたは組合せと共に組み込み、続いて、ろ過滅菌を行うことによって調製することができる。一般に、分散剤は、基剤の分散媒および上記に列挙した成分のうちの必要なその他の成分を含有する無菌のビヒクル中に、哺乳動物細胞株から発現した精製されたポリペプチドまたはタンパク質を組み込むことによって調製する。無菌の注射用液剤を調製するための無菌の散剤の場合、調製の好ましい方法は、活性成分と任意の追加の所望の成分とのあらかじめ無菌ろ過した溶液から、それらの成分の散剤をもたらす真空乾燥および凍結乾燥である。
【0078】
経口組成物は一般に、不活性な希釈剤、または食用の担体を含む。経口治療剤を投与する目的のためには、錠剤、トローチ剤、またはカプセル剤、例えば、ゼラチンカプセル剤の形態に、精製されたポリペプチドまたはタンパク質を、賦形剤と共に組み込み、使用することができる。経口組成物はまた、流動性担体を使用して調製して、口腔洗浄液として使用することもできる。薬学的に適合する結合性物質および/またはアジュバント材料を、組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤等は、以下の成分:結合剤、例として、微細結晶セルロース、ガムトラガントもしくはゼラチン;賦形剤、例として、デンプンもしくはラクトース;崩壊剤、例として、アルギン酸、Primogelもしくはコーンスターチ;滑沢剤、例として、ステアリン酸マグネシウムもしくはSterotes;流動促進剤、例として、コロイド状二酸化ケイ素;甘味剤、例として、スクロースもしくはサッカリン;または香味剤、例として、ハッカ、サリチル酸メチルもしくはオレンジ香料のうちのいずれかを、または、類似の性質の化合物を含有することができる。経口送達のための製剤は、好都合には、胃腸管内での安定性を改善し、および/または吸収を増強するための物質を組み込むことができる。
【0079】
吸入により投与するためには、哺乳動物細胞株から発現される精製されたポリペプチドまたはタンパク質、および送達剤を含む本発明の組成物を、好ましくは、適切な噴霧剤、例えば、二酸化炭素等のガスを含有する加圧された容器もしくはディスペンサー、またはネブライザーから、エアロゾルスプレーの形態で送達する。本発明は、鼻スプレー、吸入器、または上気道および/もしくは下気道へのその他の直接送達を使用する組成物の送達を特に企図する。インフルエンザウイルスに対するDNAワクチンの鼻腔内投与がCD8T細胞応答を誘発することが示されており、このことは、この経路により送達する場合に、呼吸器中の少なくともいくつかの細胞が、DNAを取り込むことができ、本発明の送達剤が、細胞の取込みを増強するであろうことを示している。本発明の特定の実施形態によれば、哺乳動物細胞株から発現される精製されたポリペプチド、および送達剤を含む組成物を、大きな多孔性粒子として製剤化して、エアロゾルとして投与する。
【0080】
全身投与はまた、経粘膜または経皮手段による場合もある。経粘膜または経皮投与の場合、透過させようとするバリアに対して適切な浸透剤を、製剤中で使用する。そのような浸透剤は一般に、当技術分野で公知であり、それらとして、例えば、経粘膜投与の場合には、洗剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻スプレーまたは坐剤を使用することにより達成することができる。経皮投与の場合、精製されたポリペプチドまたはタンパク質、および送達剤を、一般に当技術分野で公知であるような軟膏剤(ointment)、軟膏(salve)、ジェル剤またはクリーム剤中に製剤化する。
【0081】
組成物はまた、(例えば、従来の坐剤用基剤、例として、カカオバターおよびその他のグリセリドを用いて)坐剤の形態にかまたは滞留浣腸の形態に調製して、直腸へ送達することもできる。
【0082】
いくつかの実施形態では、インプラント、およびマイクロカプセル化された送達系を含めた、制御放出製剤等、組成物を、ポリペプチドまたはタンパク質を身体からの迅速な排出から保護する担体と共に調製する。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸等の、生分解性、生体適合性高分子を使用することができる。そのような製剤を調製するための方法は、当業者には明らかであろう。また、材料は、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.からも商業的に得ることができる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を有し、感染細胞を標的とするリポソームが含まれる)もまた、薬学的に許容できる担体として使用することができる。これらは、当業者に公知の方法、例えば、米国特許第4,522,811号の記載に従って調製することができる。
【0083】
投与を簡便にし、投与量を一様にするために、経口または非経口組成物を単位剤形に製剤化することが好都合である。単位剤形は、本明細書で使用する場合、治療しようとする対象のための1回投与量として適切な物理的に別個の単位を指し、各単位は、必要な薬学的担体が伴う、所望の治療効果をもたらすように計算された所定の分量の活性なポリペプチドまたはタンパク質を含有する。
【0084】
本発明に従って発現させたポリペプチドまたはタンパク質は、必要に応じて、多様な間隔で、種々の期間にわたって、例えば、1週間に1回、約1~10週間、2~8週間、約3~7週間、約4、5、または6週間等にわたって投与することができる。当業者であれば、これらに限定されないが、対象の疾患または障害の重症度、以前の治療、全身健康状態および/または年齢、ならびに存在するその他の疾患を含めた、特定の要因が、対象を有効に治療するのに必要な投与量およびタイミングに影響し得ることを理解するであろう。一般に、本明細書に記載されるようなポリペプチドまたはタンパク質を用いる対象の治療は、単回治療を含むことができ、多くの場合、一連の治療を含むことができる。適切な用量は、ポリペプチドまたはタンパク質の効力に依存し得、特定のレシピエントに対して、例えば、あらかじめ選択された所望の応答を達成するまで用量を増加させて投与することによって、任意選択により手直しすることができることがさらに理解される。任意の特定の動物対象についての特定の用量レベルは、利用する特定のポリペプチドまたはタンパク質の活性、対象の年齢、体重、全身健康状態、性別および食餌、投与時期、投与経路、排泄速度、任意の薬物の組合せ、ならびに調整しようとする発現または活性の程度を含めた、多様な要因に依存し得ることが理解される。
【0085】
本発明は、非ヒト動物を治療するための組成物の使用を含む。したがって、投与する用量および方法は、動物についての薬理学および医学の公知の原理に従って選択することができる。例えば、Adams,R.(編)、Veterinary Pharmacology and Therapeutics,8th edition、Iowa State University Press;ISBN:0813817439;2001に、手引きを見出すことができる。
【0086】
医薬組成物は、投与のための使用説明と一緒に、容器、パックまたはディスペンサー中に含めることができる。
【実施例0087】
(実施例1)
多様な濃度のL-チロシン(チロシン2Na2H2O)、PVA(Sekisui Chemical Co、Selvol(商標)203)およびPluronic F68(Kolliphor P188、Sigma)、ならびに一定の濃度のAla、Arg、Asn、Asp、シスチン、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrおよびValを含む培地を、流加培地Aを出発物質として使用して調製した。5g/LのPVAおよび3または12mMのTyrを含む培地については表1に、PVAは含まず、5g/LのPluronic F68および3または12mMのTyrを含む培地ついては表2に、PVAおよびPluronic F68は含まず、3または12mMのTyrを含む培地については表3に記載する手順に従って、培地を作製した。残りの培地は、上記6つの培地を混合して、対応するPVA、Pluronic F68およびTyr濃度を得ることによって作製した。全ての培地が、1000~1300mOsmの最終容積モル浸透圧濃度、および7.1~7.3のpHを有していた。全ての培地を、0.2μmのフィルターユニットを通して無菌ろ過し、0.2μmのNalgenフィルターボトル中に冷所(2~8℃)で遮光して保管した。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
試料を、表4に示す日に採取して、濁度の測定を、2100P濁度計(HACH)により、製造元の使用説明に従って行った。D0が、全ての条件について、培地の保管を始めた日である。沈殿が生じた培地については、沈殿後は、残りの試料採取時に、濁度の測定のための試料採取は行わなかったが、冷暗所(2~8℃)での保管は継続した。50NTU以上の濁度を示す培地では、沈殿が目視できる。
【0092】
【0093】
PVAを有せず、6mMよりも高いチロシンの濃度を有する培地は、沈殿物を4日以内に形成した(試料3および4を参照されたい)。Pluronic F68を有する全ての培地が、保管時期(4週間)の間に沈殿してしまい、より高いチロシン濃度の培地は、より低いチロシン濃度を有する培地よりも早期に沈殿した。PVAの存在下では、濁度は、低い状態を維持し、27日間保管した後でさえ、沈殿は観察されない。
培地が、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、およびValを更に含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
培地が、4~10mMのAla、30~60mMのArg、50~90mMのAsn、10~30mMのAsp、2~40mMのGlu、2~15mMのGly、8~20mMのHis、25~32mMのIle、35~60mMのLeu、28~60mMのLys、9~25mMのMet、10~30mMのPhe、15~40mMのPro、44~80mMのSer、20~45mMのThr、2~10mMのTrp、および20~50mMのValを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の細胞培養培地。