(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022479
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】鮮度保持フィルム及び鮮度保持容器
(51)【国際特許分類】
B65D 65/40 20060101AFI20220131BHJP
A23L 3/00 20060101ALI20220131BHJP
B65D 85/50 20060101ALI20220131BHJP
A23L 3/358 20060101ALI20220131BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220131BHJP
A23B 7/00 20060101ALN20220131BHJP
A23B 9/30 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
B65D65/40 D
A23L3/00 101A
B65D85/50 200
B65D85/50 120
A23L3/358
C08J5/18 CES
A23B7/00 101
A23B9/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2018197919
(22)【出願日】2018-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】518372132
【氏名又は名称】佐々木 正人
(71)【出願人】
【識別番号】512100102
【氏名又は名称】株式会社ニッショー化学
(74)【代理人】
【識別番号】100190621
【弁理士】
【氏名又は名称】崎間 伸洋
(74)【代理人】
【識別番号】100207619
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 知晴
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正人
【テーマコード(参考)】
3E035
3E086
4B021
4B169
4F071
【Fターム(参考)】
3E035AA11
3E035AB01
3E035AB04
3E035BA01
3E035BA02
3E035BA08
3E035BC02
3E035BD02
3E035BD10
3E086AB01
3E086AD01
3E086AD05
3E086AD13
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA25
3E086BB02
3E086BB04
3E086BB05
3E086BB14
3E086CA17
3E086CA18
3E086CA19
3E086DA08
4B021LA13
4B021LA24
4B021LA26
4B021LW02
4B021MC10
4B021MK08
4B021MP08
4B169AA04
4B169AB04
4B169HA07
4B169HA09
4B169KA05
4B169KB07
4B169KC16
4B169KD08
4F071AA15
4F071AA19
4F071AB18
4F071AD02
4F071AE03
4F071AE22
4F071AF08
4F071AF09
4F071AF29
4F071AF52
4F071AH04
4F071BA01
4F071BB02
4F071BB06
4F071BB09
4F071BC01
4F071BC02
4F071BC12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光条件下だけでなく暗所下においても、植物等から発生したエチレンを効率よく水と二酸化炭素に分解することが可能な鮮度保持フィルム及び鮮度保持容器の提供。
【解決手段】酸素及び水蒸気を透過させにくい特性を有する樹脂製の鮮度保持フィルムであって、樹脂中に、光触媒活性部位を被覆剤で被覆処理した酸化亜鉛を含有させた鮮度保持フィルム。被覆剤の被覆量は、被覆処理した酸化亜鉛に対して0.2~10重量%とする。被覆剤で被覆処理した酸化亜鉛は、樹脂に対して、0.0000001~12質量%含有され、粒径が40~400nmであり、樹脂は、低密度ポリエチレンであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素及び水蒸気を透過させにくい特性を有する樹脂製の鮮度保持フィルムであって、
前記樹脂中に、光触媒活性部位を被覆剤で被覆処理した酸化亜鉛を含有させたことを特徴とする鮮度保持フィルム。
【請求項2】
前記被覆剤の被覆量は、前記被覆処理した酸化亜鉛に対して0.2~10重量%であることを特徴とする請求項1に記載の鮮度保持フィルム。
【請求項3】
前記被覆剤で被覆処理した酸化亜鉛は、前記樹脂に対して、0.0000001~12質量%含有されることを特徴とする請求項1又は2に記載の鮮度保持フィルム。
【請求項4】
前記被覆剤で被覆処理した酸化亜鉛は、粒径が40~400nmであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の鮮度保持フィルム。
【請求項5】
前記樹脂は、低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の鮮度保持フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の鮮度保持フィルムを、袋状構造、筒状構造、トンネル構造、層状構造、及び入れ子構造のうちいずれか1つ以上を含む構造に形成してなることを特徴とする鮮度保持容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食物(特に生鮮食材、青果物など)及び食物以外の植物の鮮度保持(植物の生育保持を含む)に用いられる鮮度保持フィルム及び鮮度保持容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムは、材質、延伸方法等の製造方法、及び厚さ等の相違によって、種主の物性(水蒸気透過性、ガス透過性)を示す。例えば、一般に青果物の包装には、水蒸気透過性が低く、ガス透過性の高いフィルム(例えば、ポリエチレンフィルム)が用いられる。このようなフィルムを用いて青果物を包装する場合、包装袋又は包装容器の内部の湿度は100%に近くなる。その結果、青果物の蒸散が抑えられる。従って、プラスチックフィルム包装は青果物の蒸散作用によるしなびを完全に抑制できるので、流通中の青果物の生鮮消耗を抑えることができる。しかしながら、気温の高い時期では、青果物自体のガス障害や微生物の繁殖、及び、老化ホルモン、エチレンガス発生を促進させ、老化熟成・腐敗を引き起こす原因にもなるため、低温管理と組み合わせることが必要とされている。例えば、産地から消費地に至る青果物の各流通過程で、エチレンガス濃度がわずか0.005ppmという微量でも流通量全体の25~46%が取り返しのつかない損害を被る恐れがある。このように、エチレンガス濃度で安全なレベルというものはない。一般的に流通センターの貯蔵室では、完熟農産物とそうでないものが混ざった状態になっており、エチレンガスによる収穫後の損失は25~30%にも達すると算出されている。このようなエチレンガスを分解する技術は、これまでに多くの企業が光触媒により実現している(例えば特許文献1~3参照)。
【0003】
また、特許文献4では、鮮度の長期間維持のために光に不活性な無機物で部分的に被覆した被覆光触媒粒子を用いた老化防止輸送用容器が開示されている。この特許文献4では、「金平糖のように被覆したもの(金平糖型粒子)」や「マスクメロンのマスクのように被覆したもの(マスクメロン型粒子)」と記載されているように、光触媒粒子の部分的被覆が、光触媒粒子の表面に対して、一定割合の面積を覆うように被覆したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-196545号公報
【特許文献2】特開2009-35327号公報
【特許文献3】特開2010-207223号公報
【特許文献4】実用新案登録第3115187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、光触媒を用いる場合、光条件を必要とすること、さらに、光触媒作用により多くのヒドロキシルラジカルを発生させ、エチレンを分解すると同時に、野菜や果物など植物に障害を発生させてしまい、さらには、フィルム又は容器を構成する樹脂を分解、劣化又は変色させてしまう欠点を有している。また、脱酸素剤を併用した食品鮮度保持剤においては、アセトアルデヒドが生成することが知られており、これらの臭気は、開袋時刺戟臭・異臭として感知されるばかりでなく、食品の喫食時、食品に移行した臭気が消費者に不快感や違和感を与えるため、該臭気を除去する必要がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたもので、光条件下だけでなく暗所下においても、食物(特に生鮮食材、青果物など)及び食物以外の植物から発生したエチレンを効率よく水と二酸化炭素分子に分解することが可能な鮮度保持フィルム及び鮮度保持容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の鮮度保持フィルムは、酸素及び水蒸気を透過させにくい特性を有する樹脂製の鮮度保持フィルムであって、前記樹脂中に、光触媒活性部位を被覆剤で被覆処理した酸化亜鉛を含有させたことを特徴としている。
【0008】
(2)本発明の鮮度保持フィルムは、前記被覆剤の被覆量は、前記被覆処理した酸化亜鉛に対して0.2~10重量%であることを特徴としている。
【0009】
(3)本発明の鮮度保持フィルムは、前記被覆剤で被覆処理した酸化亜鉛は、前記樹脂に対して、0.0000001~12質量%含有されることを特徴としている。
【0010】
(4)本発明の鮮度保持フィルムは、前記被覆剤で被覆処理した酸化亜鉛は、粒径が40~400nmであることを特徴としている。
【0011】
(5)本発明の鮮度保持フィルムは、前記樹脂は、低密度ポリエチレンであることが好ましい。
【0012】
(6)本発明の鮮度保持容器は、上記(1)~(5)のいずれかの鮮度保持フィルムを、袋状構造、筒状構造、トンネル構造、層状構造、及び入れ子構造のうちいずれか1つ以上を含む構造に形成してなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
上記構成によれば、光条件下だけでなく暗所下でも、食物(特に生鮮食材、青果物など)及び食物以外の植物の鮮度を保持したまま長期間貯蔵できるプラスチック包装貯蔵を行うことが可能となる。ここで、プラスチック包装貯蔵とは、プラスチックフィルムの水蒸気とガス体との透過性の違いを利用し、食物(特に生鮮食材、青果物など)及び食物以外の植物をプラスチックフィルムで包装することにより貯蔵中の蒸散及び呼吸作用を抑え、長期間にわたり鮮度を保持することができることをいう。なお、密封されたフィルム内のガス環境は、食物(特に生鮮食材、青果物など)及び食物以外の植物自体の呼吸作用によってフィルム内の酸素が消費され、炭酸ガスが蓄積される。環境温度や包装資材の材質及び包装する食物(特に生鮮食材、青果物など)及び食物以外の植物によってフィルム内のガス環境は変わり、例えば低温下(5℃以下)で葉菜類を厚さ0.03mmの低密度ポリエチレンで密封包装すると、フィルム内部のガス環境は、酸素濃度が2~3%、炭酸ガスが5~10%で安定する。大気中の酸素濃度は20.9%、炭酸ガスは0.1%未満なので、大気に比べると低酸素-高炭酸ガス濃度の環境になり、この環境下で貯蔵すると大気で貯蔵したものに比べ、鮮度の低下を抑える効果(CA効果)が得られる。
【0014】
上述のプラスチックフィルム又はプラスチック容器による包装貯蔵は、MA貯蔵(Modified Atmosphere)とも呼ばれ、多くの食物(特に生鮮食材、青果物など)及び食物以外の植物を流通する際の内装資材として利用されている。包装貯蔵する目的としては前述のCA効果以外にも、1.青果物等の植物又は食物自体の蒸散作用によるしおれ抑制、2.表面の機械的損傷抑制、3.温度変動による青果物表面の結露抑制、等の効果を得るためである。
【0015】
また、光触媒活性部位を被覆剤で被覆処理された酸化亜鉛は、酸化亜鉛の光触媒としての活性部位を被覆剤で被覆処理することにより、光触媒の活性を抑制し、活性酸素の発生を抑えるとともに、酸化亜鉛から亜鉛イオンを溶出させて、抗菌、抗カビ、消臭等の効果を発揮させる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る実施例における0.02mmの鮮度保持袋の30ppmと100ppmエチレン減衰効果を説明するための図である。
【
図2】本発明に係る実施例における0.006mmの鮮度保持袋の30ppmと100ppmエチレン減衰効果を説明するための図である。
【
図3】本発明に係る実施例における鮮度保持袋と比較例の低密度ポリエチレン袋の標準エチレンガスの計測データ比較結果を示す図である。
【
図4】本発明に係る実施例におけるエチレンの分解過程の様子を示す図である。
【
図5】本発明に係る実施例における二酸化炭素の生成過程の様子を示す図である。
【
図6】本発明に係る実施例における鮮度保持袋と比較例の低密度ポリエチレン袋内のミニトマトから発生するエチレン濃度変化の様子を示す図である。
【
図7】本発明に係る実施例における鮮度保持袋内と比較例の低密度ポリエチレン袋内のホウレンソウから発生するエチレン濃度変化の様子を示す図である。
【
図8】本発明に係る実施例における保存試験後のミニトマトの保存状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施の形態に係る鮮度保持フィルム及び鮮度保持容器は、光触媒活性部位が被覆剤で被覆処理された酸化亜鉛を含む樹脂フィルム及びこのフィルムを含む容器である。鮮度保持フィルムに用いられる樹脂としては、酸素及び水蒸気を透過させにくい素材であれば特に制限されない。具体的には、LDPE:低密度ポリエチレン、HDPE:高密度ポリエチレン、OPP:延伸ポリプロピレン、CPP:無延伸ポリプロピレン、ON:延伸ナイロン(ポリアミド)、CN:無延伸ナイロン(ポリアミド)、BDR:ポリブタジェン、PMP:ポリメチルベンテン、BOV:延伸ビニロン、OV:PVDC塗布延伸ビニロン、PET:ポリエチレンテレフタレート、PVDC:ポリ塩化ビニルデン、KOP:ポリ塩化ビニルデン塗布OPP、KON:ポリ塩化ビニリデン塗布ON、EVOH:エチレン・ビニルアルコール共重合体、EVA:エチレン・酢酸ビニル共重合体、PS:ポリスチレン、PT:普通セロファン、MST:ポリマータイプ防湿セロファン等が挙げられる。これらは、単独又は組み合わせて使用することができる。これらの中でも、酸素及び水蒸気の透過度、透明性、取り扱い性等の観点から、低密度ポリエチレンが好ましい。ここで、酸素及び素性気を透過させにくいとは、通常の使用状態においては、酸素及び水蒸気が樹脂フィルムを透過しないことを意味する。酸素の透過度が高いと、被包装物が酸化してしまうといった問題を生ずる。また、水蒸気の透過度が高いと、フィルムを袋状とした際の内部の湿度が低下しすぎて植物がしおれてしまう。
【0018】
被覆剤としては、具体的には、信越化学(株)製のシランカップリング剤である、KBM-403(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、及びKBM-503(γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)が挙げられるが、酸化亜鉛のような無機酸化物粒子表面との反応に主として関与するのは、シランカップリング剤の加水分解性基が加水分解を受けて生成したシラノール基であり、エポキシ基やメタクリル基のような有機官能基は主として種々の樹脂と反応して結合し得ることは良く知られている。光触媒活性を抑える目的に対しては、その他のシランカップリング剤、即ち、ビニル基、メルカプト基、アミノ基等を持つシランカップリング剤を使用しても良い。
【0019】
なお、シランカップリング剤による被覆処理は、無機物による被覆処理よりも何故少量で酸化亜鉛の光触媒活性を抑制し得るのかは明確ではないが、酸化亜鉛粒子表面の光触媒活性を司る活性点とシランカップリング剤との反応性は、酸化亜鉛粒子表面の光触媒活性を司る活性点と無機の表面処理剤との反応性に比較して選択性が一層高く、それ故にシランカップリング剤は少量の被覆量で無駄なく酸化亜鉛粒子表面の光触媒活性を司る活性点を殺しているのではないかと推察される。
【0020】
また、光触媒活性部位を被覆剤であるシランカップリング剤で被覆処理された酸化亜鉛(以下、「シランカップリング酸化亜鉛」とも記す)は、所謂湿式合成法で得られたものであっても、所謂乾式合成法で得られたものであってもよい。シランカップリング剤による酸化亜鉛粉末の被覆処理方法としては、酸化亜鉛粉末のスラリーを攪拌しつつシランカップリング剤を添加する所謂湿式法でも良く、また高速回転が可能なヘンシェルミキサーやハイスピードミキサー等で酸化亜鉛粉末を高速攪拌しつつシランカップリング剤をスプレー又は滴下する所謂乾式法でも良く、また酸化亜鉛粉末を入れた反応容器内に窒素等の不活性ガスでキャリーしたシランカップリング剤を導入し、被覆処理する所謂気相法でも良い。
【0021】
シランカップリング剤の被覆量に関しては、被覆処理される酸化亜鉛粉末の比表面積を考慮する必要がある。例えば、使用した酸化亜鉛粉末のBET法による比表面積は20m2/gであり、これにシランカップリング剤を1重量%被覆処理することによりほぼ完全に酸化亜鉛の持つ光触媒活性を抑制できたが、これよりも大きな比表面積を持つより微細な酸化亜鉛粉末に同様の目的で被覆処理する場合には、その被覆率を目安として被覆量を増加させないと光触媒活性を充分に抑制できないことは容易に推察される。即ち、著しく大きい比表面積を持つ酸化亜鉛粉末(例えば400m2/g)への被覆処理を行う場合には20%程度の被覆量が必要となり、逆に、比表面積が数m2/g程度の比較的粒径の大きい酸化亜鉛粉末に被覆処理する場合には0.1%程度の被覆量でも充分な効果が期待できる。従って、被覆量の通常の範囲としては0.1~20重量%、分散性を考慮すると好ましくは0.2~15重量%、コスト面を考慮すると好ましくは0.1~10重量%、総合的には好ましくは0.2~10重量%となる。
【0022】
本発明の鮮度保持フィルムに含有されるシランカップリング酸化亜鉛においては、より少量の被覆量で、即ち、酸化亜鉛の相対的含有量を極力減らさずに光触媒活性を抑制できるので、酸化亜鉛自体の紫外線吸収作用をそのまま維持しており、さらに光触媒活性が抑制されるにも係わらず、殺菌、抗菌、防黴、脱臭等の作用がそのまま維持されている。この理由については、シランカップリング酸化亜鉛に含まれる亜鉛イオンによるものである。即ち、微量金属作用によるものである。なお、本発明である鮮度保持フィルムに含有される酸化亜鉛をカップリング剤で完全被覆処理した場合、亜鉛イオンが溶出できなくなる。そのため、本発明の鮮度保持フィルムにおいて、酸化亜鉛の被覆は、光触媒活性部分のみであることが必須である。
【0023】
樹脂への分散性を一層向上させるためには、使用する樹脂とシランカップリング剤の有機官能基との相性を考慮してシランカップリング剤を選定する必要がある。このことは、従来技術に基づくAl、Si、ZrあるいはSnの酸化物もしくは水酸化物といった無機物による表面被覆処理ではなし得なかった分散性向上のポイントであり、例えば、低密度ポリエチレン樹脂内で使用する場合には、信越化学(株)製シランカップリング剤KBM-503(γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)で酸化亜鉛粉末を被覆処理することが好ましい。
【0024】
本発明の鮮度保持フィルムに含有されるシランカップリング酸化亜鉛は、紫外線吸収、殺菌、抗菌、防黴、脱臭作用を有するが、光触媒活性の抑制されている添加剤として用いられ、例えば、樹脂組成物や油脂組成物に添加して用いることにより、紫外線吸収、殺菌、抗菌、防黴、脱臭等の効果が達成され、且つ光触媒活性が抑制されているので樹脂組成物や油脂組成物が分解したり、劣化したり、変色したりすることがない。本発明において添加剤として用いる場合にはシランカップリング酸化亜鉛粉末単独で用いても、あるいは他の成分との混合物として用いてもよい。
【0025】
上記のシランカップリング酸化亜鉛を樹脂組成物に練り込み、例えばフィルム状に成形し、それを食品等の包装材料として用いた場合には、紫外線による食品の変色を防止し、且つ同時に殺菌、抗菌、防黴作用による腐敗の防止や脱臭作用による開封時の嫌な臭いも防止できる。
【0026】
本発明においては、上記のシランカップリング酸化亜鉛は、粒径が40nm~400nm程度であることが好ましく、100nm~200nmであることがより好ましい。また、シランカップリング酸化亜鉛は、上記樹脂からなるフィルム素材に、少なくともppmオーダー又はppbオーダー(1ppb~12ppc(0.0000001%~12%)程度、好ましくは1ppb~5ppc(0.0000001%~5%)程度)の質量割合で混和(含有)、もしくは、フィルム素材表面に塗布する。なお、粒径が40nm未満又は含有量が1ppb未満であると、エチレンガスとの接触頻度が減少し、エチレン分解能が低下してしまう。一方、粒径が400nmを超える又は含有量が12ppcを超えると、鮮度保持フィルムの透明性が悪化してしまう。ここで、フィルム素材表面に塗布する場合には、上述のシランカップリング酸化亜鉛を10ppb~10ppcの質量割合で添加した展着剤を噴霧塗布し、自然乾燥することによって行う。展着剤の基材としては、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、可溶デンプン、カゼイン溶液、豆乳汁、大豆粉、等が挙げられる。
【0027】
次に、鮮度保持フィルムの製造方法について説明する。
本発明の鮮度保持フィルムの製造方法は、上述の樹脂のフィルムを形成する方法であれば特に限定されない。鮮度保持フィルムの典型的な製造方法としては、ラミネート法や共押出し法等が挙げられる。具体的には、Tダイ法やインフレーション成形法等の加工方法によって鮮度保持フィルムが得られる。
【0028】
鮮度保持フィルムの厚さは、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、特に限定されない。鮮度保持フィルムの厚さは、使用しやすい柔軟性や加工性と、容易に伸びたり破断したりしない耐久性とを両立できる厚さが好ましい。また、原材料費の点で、鮮度保持フィルムの製造コストを低く抑えることが可能なことから、より薄いことが好ましい。
【0029】
鮮度保持フィルムは、上述の樹脂層以外に、種々の機能層を備えてもよい。鮮度保持フィルムの最外層には、例えば、鮮度保持フィルムの意匠性を高めるために、印刷法やエンボス加工等により表面に模様や図柄が付与された加飾層が設けられたり、鮮度保持フィルムの表面に物理的耐久性や化学的耐久性を付与するために、ハードコード層が設けられたりしてもよい。
【0030】
また、本発明の鮮度保持フィルムは、上記の樹脂フィルムの形状をさらに加工して、袋状構造、筒状構造、トンネル状構造、層状構造、又は入れ子構造とした鮮度保持容器とすることもでき、さらに、射出成形等によって例えば鮮度保持フィルムを内側に備えた蓋付きの箱型形状に固形形成された鮮度保持容器であってもよい。このような態様の製造方法としては、箱型形状など一定の形状に固形形成できる方法であれば、どのような成形方法であってもよい。また、本実施の形態の別形態に係る鮮度保持容器は、上述の光触媒活性部位をシランカップリング剤でコーティングしたシランカップリング酸化亜鉛を上記鮮度保持フィルムの場合と同様の割合で混和(含有)、もしくは、箱型形状に固形形成した後、表面に塗布させてもよい。なお、ここでの箱型形状の例としては、立方体、直方体、三角柱、円柱、三角錐等が挙げられるが、内部に物を保管できるような状態のものであれば、どのような形状のものであってもよい。また、この別形態に係る鮮度保持容器に用いられる容器素材としては、酸素及び水蒸気を透過させにくい素材であれば特に制限されるものではないが、具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE)(高圧法)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)(低圧法)、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)、架橋ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリロニトリル・スチレン(AS)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート=高耐熱性のエンプラ(PCT)、飽和ポリエステル樹脂、ポリメチルペンテン(TPX)等が挙げられ、これらを単独又は組み合わせて使用できる。
【0031】
また、本発明の鮮度保持フィルムにおける樹脂フィルムとしては、エチレン吸着能を有するものを用いてもよい。これにより、食物(特に生鮮食材、青果物など)及び食物以外の植物からエチレンが発生した際、本発明に係る鮮度保持フィルムそのものがエチレンの吸着剤として機能することができるので、従来のエチレン吸着剤よりも、エチレンを吸着しやすくなる。また、エチレン分解により発生した水分、二酸化炭素によって誘導される呼吸の抑制と蒸散抑制効果を従来よりも向上することができ、引いては、食物(特に生鮮食材、青果物など)及び食物以外の植物の鮮度保持に寄与することができる。
【0032】
また、本発明の鮮度保持フィルムの施用方法は、例えば、該鮮度保持フィルムを袋状又は容器に加工して、鮮度保持袋又は鮮度保持容器として、内部に青果物等の植物又は食物を封入し、または、該鮮度保持フィルムで青果物等の植物又は食物を覆い、青果物等の植物又は食物に直接接種させたり、青果物等の植物又は食物を保存する段ボール、コンテナなどの内面に鮮度保持フィルムを直接貼り付けたり、青果物等の植物又は食物を保存するための貯蔵庫などの設備の内面に貼付して活用したりすることができる。また、例えば、青果物等の植物又は食物の貯蔵庫などで換気装置、吸気装置に鮮度保持フィルムを取り付け使用してもよい。
【0033】
本実施形態における鮮度保持袋、鮮度保持容器を用いて保存する青果物については、植物の種類、育成方法、気候などに基づいて適宜決定すべきである。
【0034】
なお、上述のシランカップリング酸化亜鉛は、青果物等の植物又は食物から発生するエチレンと共に、腐食の原因となるアルデヒド等の腐生ガスも分解することが可能である。保存後、エチレン分解を行いながら、腐生ガスの分解処理を同時に行うことにより、鮮度保持効果を向上させる。なお、鮮度保持の条件としては、暗所化でもほぼ光条件下と同様にエチレン分解が機能する。また、青果物等の植物又は食物の保存において重要な要素である湿度保持条件下においても低湿度条件と同様に、ガス成分を変化させても、エチレン分解性能を発揮する。具体的には、個別包装内に加湿施用したり、ガス分圧を調整することが鮮度保持に好ましく、特に植物又は食物の表面(例えば、青果物の果実部の表面)の近傍に配置するように鮮度保持シートを施用することがより好ましい。
【0035】
ここで、上記鮮度保持袋は、空隙率及び比表面積の高い中空構造を有しているので、植物の呼吸に担持される最低限の酸素の補給、より呼吸を抑制する二酸化炭素をエチレン分解により提供することができる。これにより、青果物等の植物又は食物の呼吸抑制を介して鮮度保持がしやすくなり、日持ちを促進することが可能となる。鮮度保持袋及び鮮度保持容器は、表面に高い吸水力(水分を吸着する力)を有し、青果物等の植物又は食物に対して保水性、保湿性を付与することができる。
【0036】
よって、青果物等の植物又は食物を保存するにあたり、鮮度保持袋又は鮮度保持容器を施用することにより、効果的にエチレンの分解及び鮮度保持フィルムが有するエチレンの二酸化炭素・水への分解のため、結果的に青果物等の植物又は食物の呼吸を抑制するとともに、青果物等の植物又は食物に湿度を付与することにより鮮度保持を促進させることを図ることができる。
【実施例0037】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
上記鮮度保持袋として低密度ポリエチレンを用いて、エチレンガス分解試験を実施した。ここで用いた低密度ポリエチレン袋の材料には、低密度ポリエチレンに株式会社ニッショー化学のAP-MOマスターバッチ分散剤を添加し、光触媒活性部位をシランカップリング剤でコーティングしたシランカップリング酸化亜鉛が全体の0.5%の質量割合となるように混和したものを使用した。
【0038】
エチレン吸収・分解に関する実証試験は、先ず鮮度保持袋内の空気を、エチレンを含まない乾燥空気でエチレンの標準ガスを希釈することにより、エチレン濃度が30ppm、100ppm、300ppmのガスの入った1000ccのテドラーバック(フッ化ビニル樹脂製のガス分析用サンプリングバッグ)を用いて作成した。鮮度保持袋(厚み、0.02mm、もしくは0.006mm)の中に前述の標準エチレンガスを挿入し、経時変化に伴いエチレンの吸収・分解量を測定した。また、エチレンガスが分解されているか検証するために検知管を用いてテドラーバック内の二酸化炭素の排出量を測定した。計測時間は0、3、12、24時間後に計測した。
【0039】
図1~
図3に示すように、試験開始から48時間後までエチレン標準ガスの減衰効果について計測した。標準エチレンガスは実施例の鮮度保持袋内では24時間後にはほとんど分解されていることが明らかとなった。
【0040】
図1及び
図2の結果から、実施例の鮮度保持袋の厚み0.02mmと0.006mmとの差にかかわらず、30ppmと100ppmの標準エチレンガス共に分解していることが示された。
図3に示すように、実施例の鮮度保持袋の厚みによるエチレン分解効果を詳細に比較すると、薄い鮮度保持袋(0.006mm)の方が、より効率よく、エチレンを分解していた。また、
図3の結果から、本発明に係る鮮度保持袋は、標準のエチレン(300ppm)の濃度という高濃度のエチレンガスでも、低濃度のエチレン(30ppm、100ppm)と同様に効率よくエチレンを分解することが示された。よって、本発明の鮮度保持袋が、植物の鮮度保持に寄与することが確認された。なお、
図3の結果から、鮮度保持袋の厚み0.02mmと0.006mmとでは、鮮度保持袋の厚み0.006mmの方が、より効率よく、エチレンを分解していた。
【0041】
また、
図4及び5の結果から、約300ppmのエチレンから約600ppmの二酸化酸素が発生していることがわかるので、本実施例により、1分子のエチレンが2分子の二酸化炭素に完全に分解していることを明らかにした。詳細には、
図4から、約300ppmほどあるエチレンが、67時間後には、鮮度保持袋の厚み0.02mmと0.006mm共に、10ppm以下にまで減少していることがわかる。そして、
図5から
図4のエチレンの減少に反比例して、67時間後には、鮮度保持袋の厚み0.02mmと0.006mm共に、約2倍となる約600ppmの二酸化酸素が発生していることがわかる。従って、本実施例により、1分子のエチレンが2分子の二酸化炭素に完全に分解していることを明らかにした。
【0042】
次に、果実はできる限り大きさのそろった発育正常な果実を選んで使用し、採取後直ちに本発明に係る鮮度保持袋に入れ、呼吸量及びエチレン生成量を5日程度測定した。呼吸量は検知管を用いて鮮度保持袋内の二酸化炭素の排出量を測定した。具体的には、ポジティブコントロールとして果物を入れただけのポリ袋、及びエチレン吸着剤を入れた鮮度保持袋を作成し、エチレン生成・除去効果を比較検証した。エチレン生成量は、呼吸量測定直後に鮮度保持袋内の空気を、エチレンを含まない空気で完全に入れかえた後、1テドラーバック内に果実を任意時間密閉し、そのヘッドスペースから約20mlの空気を採取し、さらにその中から1mlを採って、ガスクロマトグラフによりエチレン濃度を測定し、果実によるエチレン生成・吸着量を求めた。なお、使用カラムはパックドカラム、カラム温度100℃、キャリアーは空気、FID検出器を使用した。エチレンの測定は1試料につき2回以上行い、結果は平均値で示した。エチレンの検出限界濃度は0.5ppmである。実験は、1品種3サンプル及び5日間連続して測定を行った。
【0043】
図6はミニトマトを本発明に係る鮮度保持袋に封入し、常温25℃で5日間鮮度保持効果を検証した時の、エチレン濃度変化を示したものである。比較例である無加工の低密度ポリエチレン袋では徐々に袋内のエチレン濃度が上昇していくのに対して、本発明に係る鮮度保持袋では時間の経過にかかわらず、エチレン濃度の上昇は見られなかった。また、66時間後、本発明に係る鮮度保持袋ではエチレン濃度が検出限界以下(0.1ppm)となり、測定が困難であった。これらの結果は、本発明に係る鮮度保持袋がトマトから発生したエチレンを効率よく分解し、分解した結果、鮮度保持の向上効果があることを示している。なお、
図8に保存試験一週間後のミニトマト保存状況の写真を示す。比較例である無加工のLDPE低密度ポリエチレン袋では果実の表面に結露すると共に、果実の軟化が進行し、トマトの形が崩れているものも多々みられた。一方、本発明に係る鮮度保持袋を用いた場合ではトマト表面に結露が起きず、また、果実の身持ちも良く、鮮度保持されていることを明らかにした。
【0044】
図7はホウレンソウを本発明に係る鮮度保持袋に封入し、常温25℃で1週間鮮度保持効果を検証した時の、エチレン濃度変化を示したものである。比較例である無加工の低密度ポリエチレン袋では0.2ppmから0.3ppmのエチレン濃度がコンスタントに計測されているのに対して、本発明に係る鮮度保持袋では時間の経過にかかわらず、エチレンの検出が92時間まで困難であった。これらの結果は、本発明に係る鮮度保持袋がホウレンソウから発生したエチレンを効率よく分解し、分解した結果、鮮度保持の向上効果があることを示している。
【0045】
以上の結果から、酸素及び水蒸気を透過させにくい特性を有するフィルム素材に、光触媒活性部位をシランカップリング剤で被覆処理した酸化亜鉛を混和させることにより、エチレンを短時間で二酸化炭素と水への完全分解を達成させることにより、エチレンの老化・熟成効果の減退、青果物の呼吸抑制、及び果実表面からの蒸散抑制を達成することが確認された。従って、本発明の鮮度保持フィルムにおいては、青果物の鮮度保持などの効果が得られた。
【0046】
本発明の鮮度保持フィルムにおいては、鮮度保持フィルムのほか、袋、トレー、タッパー等の正規層フィルムを用いた包装容器、エアキャップ、梱包材、塗料、シート状ラップ(PVC)等の用途がある。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。例えば、トマトなどの青果物はもちろん根菜類栽培、蘭などの花卉栽培、植物工場での葉物栽培、及び、きのこ類の鮮度保持などにも有効である。