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特開2022-22496カルボキシ基含有水溶性ポリマー濃度の測定方法及び測定試薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022496
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】カルボキシ基含有水溶性ポリマー濃度の測定方法及び測定試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20220131BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20220131BHJP
   C02F 5/00 20060101ALI20220131BHJP
   C02F 5/10 20060101ALI20220131BHJP
   C09B 23/14 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
G01N31/00 V
G01N21/78 C
C02F5/00 610F
C02F5/10 620A
C02F5/10 620B
C02F5/10 620C
C02F5/10 620D
C02F5/10 620E
C02F5/10 620F
C02F5/10 620G
C02F5/10 620Z
C09B23/14 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020108779
(22)【出願日】2020-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】590005081
【氏名又は名称】株式会社同仁化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】矢野 大作
(72)【発明者】
【氏名】村井 雅樹
【テーマコード(参考)】
2G042
2G054
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA01
2G042BA04
2G042BA07
2G042BD10
2G042BD18
2G042CA02
2G042DA08
2G042FA11
2G042FB02
2G054AA02
2G054AB07
2G054CA10
2G054CE01
2G054EA03
2G054GA03
2G054GB02
(57)【要約】
【課題】凝集誘起蛍光の発蛍光性化合物を用いた蛍光強度測定により、水処理剤であるカルボキシ基含有水溶性ポリマーの被検水中での濃度を正確に定量する。
【解決手段】被検水と、式(1)で表される発蛍光性化合物又はその塩とキレート剤とを含む混合液を調製し、混合液の蛍光を検出して蛍光強度から定量を行う。キレート剤は好ましくはカルシウムキレート剤である。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理剤であるカルボキシ基含有水溶性ポリマーの被検水中での濃度を定量する測定方法であって、
前記被検水と、下記式(1)で表される発蛍光性化合物又はその塩と、キレート剤とを含む混合液を調製する調製工程と、
前記混合液の蛍光を検出する検出工程と、
を備える、測定方法。
【化1】
[式(1)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はシアノ基、ハロゲン原子若しくはフェニル基を表し、少なくとも1つのRはシアノ基であり、Rはそれぞれ独立に、存在しないか又はハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、アミノ基若しくは炭素数1~3のアルコキシ基を表し、Rはそれぞれ独立に、存在しないか又は-C-が、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-に置換されることにより中断されていてもよく、ここで、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-が隣接することはない炭素数1~20のアルキレン基を表し、Xはそれぞれ独立に、存在しないか又は下記式(2)~(4)のいずれかで表されるカチオン性基若しくはリン酸基、カルボキシ基及び硫黄基から選択されるアニオン性基を表し、
【化2】
はそれぞれ独立に、存在しないか又は-C-が、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-CONH-に置換されることにより中断されていてもよく、ここで、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-が隣接することはない炭素数1~20のアルキル基若しくは-CHCHOH若しくは-N(R(ここで、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は-C-が、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-CONH-に置換されることにより中断されていてもよく、ここで、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-が隣接することはない炭素数1~20のアルキル基を表す。)を表す。pはそれぞれ独立に0~4の整数を表し、qはそれぞれ独立に0~5の整数を表し、少なくとも1つのXは前記カチオン性基又は前記アニオン性基である。]
【請求項2】
前記調製工程は、
予め、式(1)で表される発蛍光性化合物又はその塩と前記キレート剤とを調合した測定試薬を調製する工程と、
前記被検水と前記測定試薬とを混合して前記混合液を調製する工程と、
を有する、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記調製工程において前記混合液に緩衝剤を添加する、請求項1に記載の測定方法。
【請求項4】
前記調製工程は、
予め、式(1)で表される発蛍光性化合物又はその塩と前記キレート剤と前記緩衝剤とを調合した測定試薬を調製する工程と、
前記被検水と前記測定試薬とを混合して前記混合液を調製する工程と、
を有する、請求項3に記載の測定方法。
【請求項5】
前記混合液のpHを3以上11以下とする、請求項3または4に記載の測定方法。
【請求項6】
前記カルボキシ基含有水溶性ポリマーはポリアクリル酸またはポリマレイン酸である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項7】
式(1)で表される発蛍光性化合物又はその塩が、下記式(5)で表される化合物である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の測定方法。
【化3】
【請求項8】
水処理剤であるカルボキシ基含有水溶性ポリマーの被検水中での濃度を定量するために用いられる測定試薬であって、
下記式(6)で表される発蛍光性化合物又はその塩と、キレート剤とを調合した測定試薬。
【化4】
[式(6)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はシアノ基、ハロゲン原子若しくはフェニル基を表し、少なくとも1つのRはシアノ基であり、Rはそれぞれ独立に、存在しないか又はハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、アミノ基若しくは炭素数1~3のアルコキシ基を表し、Rはそれぞれ独立に、存在しないか又は-C-が、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-に置換されることにより中断されていてもよく、ここで、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-が隣接することはない炭素数1~20のアルキレン基を表し、Xはそれぞれ独立に、存在しないか又は下記式(7)~(9)のいずれかで表されるカチオン性基若しくはリン酸基、カルボキシ基及び硫黄基から選択されるアニオン性基を表し、
【化5】
はそれぞれ独立に、存在しないか又は-C-が、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-CONH-に置換されることにより中断されていてもよく、ここで、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-が隣接することはない炭素数1~20のアルキル基若しくは-CHCHOH若しくは-N(R(ここで、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は-C-が、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-CONH-に置換されることにより中断されていてもよく、ここで、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-が隣接することはない炭素数1~20のアルキル基を表す。)を表す。pはそれぞれ独立に0~4の整数を表し、qはそれぞれ独立に0~5の整数を表し、少なくとも1つのXは前記カチオン性基又は前記アニオン性基である。]
【請求項9】
緩衝剤をさらに含む、請求項8に記載の測定試薬。
【請求項10】
式(6)で表される発蛍光性化合物又はその塩が、下記式(10)で表される化合物である、請求項8または9に記載の測定試薬。
【化6】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検水における薬剤の濃度を測定する方法及び測定試薬に関し、特に、水処理剤であるカルボキシ基含有水溶性ポリマーの被検水中での濃度を定量するための測定方法及び測定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
水処理の分野では、カルボキシ基含有水溶ポリマーが各種の用途において水処理剤として水に添加される。例えば、冷却水やボイラー水においてスケールの発生を防止するスケール防止剤として、これらの水に対してカルボキシ基含有水溶性ポリマーが添加される。カルボキシ基含有水溶性ポリマーは、スケール防止剤以外にも、例えば、防食剤、分散剤、洗浄剤、あるいはその他の用途の水処理剤として使用されており、冷却水やボイラー水のほか、汚泥処理水、屎尿処理水、膜利用処理水(膜分離処理水)、製造プロセス水やその他の工業利用される水などに添加される。水処理剤であるカルボキシ基含有水溶性ポリマーを含む水では、適切な濃度管理を行うために、カルボキシ基含有水溶性ポリマーの定量分析を行うことが必要である。
【0003】
被検水中のカルボキシ基含有水溶性ポリマーの定量方法として特許文献1は、カルボキシ基含有水溶性ポリマーと反応して白濁を生じさせる試薬を添加し、生じた白濁を波長が400~900nmのいずれかの可視光を用いて比濁する方法を開示している。しかしながらこの方法は、被検水が着色している場合には適用することができない。白濁を生じされる必要があることから、低濃度のアニオン性ポリマーの測定には適用が困難である。
【0004】
特許文献2には、蛍光物質により標識された水処理用ポリマーを水処理剤として用い、被検水における水処理剤の濃度を測定するときには、被検水中の蛍光物質濃度を測定することが開示されている。しかしながらこの方法は、水処理用ポリマーを合成するときにポリマーの蛍光標識化を行うことから、ポリマーの合成に多大な製造設備を必要とするとともにコストがかさむ、という問題点を有する。
【0005】
特許文献3には、被検水中のカルボキシ基含有水溶性ポリマーを鉄-チオシアネート比色法により定量する方法が開示されている。しかしながらこの方法は、比色前に被検水から他のイオン性物質等を予め除去する必要があり、操作が煩雑である。
【0006】
特許文献4には、被検水中のカルボキシ基含有水溶性ポリマーをフローインジェクション装置を用いた化学発光法により定量する方法が開示されている。しかしながらこの方法は、化学発光を生じさせるために高価な遷移金属錯体を必要としてコストが嵩むという課題を有する。
【0007】
ところで、被検水に含まれる特定化合物を高感度に微量分析する手法として、凝集誘起発光(AIE;Aggregation-induced emission)を用いる方法が提案されている。凝集誘起発光とは、凝集に伴って蛍光が増大する現象である。例えば特許文献5は、凝集誘起発光を示す新規の発蛍光性化合物と、その新規の発蛍光性化合物を用いた蛍光強度測定により、例えば、水中の酒石酸濃度あるいはポリアクリル酸(PAA)濃度を測定することを開示している。したがって、特許文献5に開示された発蛍光性化合物を用いた蛍光強度測定を行うことにより、特許文献1~4に開示された方法における課題を解決して、被検水の着色に左右されず、低濃度測定が可能であり、操作が簡便であり、かつ水処理用ポリマーの蛍光標識化は不要である、被検水中のカルボキシ基含有水溶性ポリマーの定量方法が得られるものと期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-38462号公報
【特許文献2】特開平5-163591号公報
【特許文献3】特開平11-337491号公報
【特許文献4】特開2000-354856号公報
【特許文献5】特開2016-196447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献5に開示された発蛍光性化合物を用いて被検水中のカルボキシ基含有水溶性ポリマーの定量を行ったところ、例えば被検水がボイラーや熱交換器の冷却系を循環する水であって、スケール防止剤としてカルボキシ基含有ポリマーが添加される水である場合に、正しく定量を行えない場合があった。
【0010】
本発明の目的は、凝集誘起蛍光の発蛍光性化合物を用いた蛍光強度測定により、水処理剤として添加されている被検水中のカルボキシ基含有水溶性ポリマー濃度を測定する方法であって、カルボキシ基含有水溶性ポリマー濃度を正確に定量できる方法と、そのような測定方法に用いられる測定試薬とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、例えばボイラーの循環水などに対してスケール防止剤として添加されているカルボキシ基含有水溶性ポリマーの定量に特許文献5に開示された方法を用いたときに正確に定量を行えない現象について検討したところ、被検水中のある種の金属イオンが関与していること、そして、キレート剤を被検水に添加することによりカルボキシ基含有水溶性ポリマーの正確な定量を行うことが可能になることを見出して、本発明を完成させた。
【0012】
したがって本発明の測定方法及び測定試薬は、以下の通りのものである。
【0013】
[1] 水処理剤であるカルボキシ基含有水溶性ポリマーの被検水中での濃度を定量する測定方法であって、被検水と、式(1)で表される発蛍光性化合物又はその塩と、キレート剤とを含む混合液を調製する調製工程と、混合液の蛍光を検出する検出工程と、を備える。
【0014】
【化1】
【0015】
式(1)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はシアノ基、ハロゲン原子若しくはフェニル基を表し、少なくとも1つのRはシアノ基であり、Rはそれぞれ独立に、存在しないか又はハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、アミノ基若しくは炭素数1~3のアルコキシ基を表し、Rはそれぞれ独立に、存在しないか又は-C-が、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-に置換されることにより中断されていてもよく、ここで、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-が隣接することはない炭素数1~20のアルキレン基を表し、Xはそれぞれ独立に、存在しないか又は下記式(2)~(4)のいずれかで表されるカチオン性基若しくはリン酸基、カルボキシ基及び硫黄基から選択されるアニオン性基を表す。
【0016】
【化2】
【0017】
はそれぞれ独立に、存在しないか又は-C-が、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-CONH-に置換されることにより中断されていてもよく、ここで、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-が隣接することはない炭素数1~20のアルキル基若しくは-CHCHOH若しくは-N(R(ここで、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は-C-が、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-CONH-に置換されることにより中断されていてもよく、ここで、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-が隣接することはない炭素数1~20のアルキル基を表す。)を表す。pはそれぞれ独立に0~4の整数を表し、qはそれぞれ独立に0~5の整数を表し、少なくとも1つのXは上記のカチオン性基又は上記のアニオン性基である。
【0018】
[2] 調製工程は、予め、式(1)で表される発蛍光性化合物又はその塩と、キレート剤とを調合した測定試薬を調製する工程と、被検水と測定試薬とを混合して混合液を調製する工程と、を有する、[1]に記載の測定方法。
【0019】
[3] 調製工程において混合液に緩衝剤を添加する、[1]に記載の測定方法。
【0020】
[4] 調製工程は、予め、式(1)で表される発蛍光性化合物又はその塩と、キレート剤と、緩衝剤を調合した測定試薬を調製する工程と、被検水と測定試薬とを混合して混合液を調製する工程と、を有する、[3]に記載の測定方法。
【0021】
[5] 混合液のpHを3以上11以下とする、[3]または[4]に記載の測定方法。
【0022】
[6] キレート剤はカルシウムキレート剤である、[1]-[5]のいずれか1つに記載の測定方法。
【0023】
[7] カルボキシ基含有水溶性ポリマーはポリアクリル酸またはポリマレイン酸である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の測定方法。
【0024】
[8] 式(1)で表される発蛍光性化合物又はその塩が、下記式(5)で表される化合物である、[1]-[7]のいずれか1つに記載の測定方法。
【0025】
【化3】
【0026】
[9] 水処理剤であるカルボキシ基含有水溶性ポリマーの被検水中での濃度を定量するために用いられる測定試薬であって、上記式(1)で表される発蛍光性化合物又はその塩と、キレート剤とを調合した測定試薬。
【0027】
[10] 緩衝剤をさらに含む、[9]に記載の測定試薬。
【0028】
[11] キレート剤はカルシウムキレート剤である、[9]または[10]に記載の測定試薬。
【0029】
[12] 式(1)で表される発蛍光性化合物又はその塩が、上記式(5)で表される化合物である、[9]-[11]のいずれか1つに記載の測定試薬。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、凝集誘起蛍光の発蛍光性化合物を用いた蛍光強度測定により、水処理剤として添加されている被検水中のカルボキシ基含有水溶性ポリマー濃度を測定する方法であって、カルボキシ基含有水溶性ポリマー濃度を正確に定量できる方法と、そのような測定方法に用いられる測定試薬とが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施例1及び比較例1の結果を示すグラフである。
図2】実施例2の結果を示すグラフである。
図3】参考例1の結果を示すグラフである。
図4】参考例2の結果を示すグラフである。
図5】参考例3の結果を示すグラフである。
図6】参考例4の結果を示すグラフである。
図7】実施例3の結果を示すグラフである。
図8】実施例4の結果を示すグラフである。
図9】参考例5の結果を示すグラフである。
図10】参考例6の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明に基づく測定方法は、被検水における、水処理剤として添加されたカルボキシ基含有ポリマーの濃度を定量するものであり、被検水と、式(6)で表される凝集誘起蛍光の発蛍光性化合物又はその塩と、キレート剤を含む混合液を調製する調製工程と、混合液の蛍光を検出する検出工程と、を備えることを特徴とするものである。
【0033】
【化4】
【0034】
式(6)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はシアノ基、ハロゲン原子若しくはフェニル基を表し、少なくとも1つのRはシアノ基であり、Rはそれぞれ独立に、存在しないか又はハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、アミノ基若しくは炭素数1~3のアルコキシ基を表し、Rはそれぞれ独立に、存在しないか又は-C-が、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-に置換されることにより中断されていてもよく、ここで、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-が隣接することはない炭素数1~20のアルキレン基を表し、Xはそれぞれ独立に、存在しないか又は下記式(7)~(9)のいずれかで表されるカチオン性基若しくはリン酸基、カルボキシ基及び硫黄基から選択されるアニオン性基を表す。
【0035】
【化5】
【0036】
はそれぞれ独立に、存在しないか又は-C-が、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-CONH-に置換されることにより中断されていてもよく、ここで、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-が隣接することはない炭素数1~20のアルキル基若しくは-CHCHOH若しくは-N(R(ここで、Rはそれぞれ独立に、水素原子又は-C-が、-O-、-S-、-NH-、-CO-、-CONH-に置換されることにより中断されていてもよく、ここで、-O-、-S-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-が隣接することはない炭素数1~20のアルキル基を表す。)を表す。pはそれぞれ独立に0~4の整数を表し、qはそれぞれ独立に0~5の整数を表し、少なくとも1つのXは上記のカチオン性基又は上記のアニオン性基である。
【0037】
式(6)に記載される発蛍光性化合物又はその塩は、例えば特許文献5に記載された方法によって合成することができる。式(6)に記載される発蛍光性化合物又はその塩のうち、本実施形態では、式(10)に表される物質(OPV-ImDEO)を用いることが好ましい。式(10)に示す発蛍光性化合物又はその塩によれば、幅広いカルボキシ基含有水溶性ポリマーの定量が可能である。
【0038】
【化6】
【0039】
本発明においては、発蛍光性化合物又はその塩として、式(10)に示す化合物のほかにも、例えば特許文献5において、OPV-G、OPV-A、OPV-ImMe、OPV-ImC2OMe、OPV-ImC2OH、OPV-ImTEOとして示されている化合物を用いることが可能である。
【0040】
式(6)に示す発蛍光性化合物の分子は、液中においてカルボキシ基含有水溶性ポリマーにおけるカルボキシ基に誘引され、ポリマー分子に沿って凝集し、凝集誘起蛍光による蛍光を発する。蛍光強度は、液中でのポリマー分子の濃度に依存すると考えられるから、蛍光強度の測定により、液中のカルボキシ基含有ポリマーの濃度の定量が可能になる。
【0041】
発蛍光性化合物又はその塩の添加量としては、被検水中のカルボキシ基含有水溶性ポリマーに含まれるカルボキシ基の当量以上となるように設定することが好ましい。発蛍光性化合物又はその塩の添加量が被検水中のカルボキシ基の未満以下の場合、カルボキシ基による発蛍光性化合物の凝集が不十分となり、カルボキシ基含有水溶性ポリマーの定量結果が真値より低い値となる。また、発蛍光性化合物又はその塩の添加量の上限を、被検水中のカルボキシ基含有水溶性ポリマーに含まれるカルボキシ基の当量の10倍以下、より好ましくは5倍以下とすることが好ましい。未反応となる発蛍光性化合物を多く発生させることは不経済である。また、発蛍光性化合物の濃度が増すと、発蛍光性化合物自体の蛍光強度が増大するため、蛍光測定のバックグラウンドが高くなり、S/N(信号/雑音)比が悪化するという問題が生じる。
【0042】
本発明者らの検討によれば、被検水中のある種の金属イオンが、凝集誘起蛍光の発蛍光性化合物を用いたカルボキシ基含有水溶性ポリマーの定量を妨害する。そこで本発明では、キレート剤を添加して妨害金属イオンをマスクし、それにより、カルボキシ基含有水溶性ポリマーの定量を正確に行えるようにする。キレート剤としては、妨害金属イオンとキレートを形成して妨害金属イオンをマスクするものであれば、そのキレート剤が単独で発蛍光性化合物の凝集に影響を与えるようなものでない限り、公知のものを使用することができる。
【0043】
後述する実施例及び比較例からも明らかになるように、妨害金属イオンにはカルシウムイオンが含まれる。そこで本発明では、キレート剤として、カルシウムイオンとキレートを形成するキレート剤すなわちカルシウムキレート剤を用いることが好ましい。カルシウムキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、1,2-ビス(o-アミノフェノキシド)エタン-N,N,N’,N’-テトラ酢酸(BAPTA)、N’-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N,N’-三酢酸(HEDTA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)等、公知の化合物を用いることができる。カルシウムキレート剤の添加量は、被検水中のカルシウム濃度の当量以上となるように設定することが好ましい。カルシウムキレート剤の添加量がカルシウム当量未満の場合、カルシウムキレート剤とカルシウムとのキレート形成が不十分となり、その結果、カルボキシ基含有水溶性ポリマーの定量結果は真値より低い値となる。また、カルシウムキレート剤の添加量の上限を、被検水中のカルシウムの当量の50倍以下、より好ましくは10倍以下となるようにすることが好ましい。未反応となるカルシウムキレート剤を多く発生させることは不経済である。
【0044】
本発明に基づく測定方法では、調製工程を、予め、式(6)で表される発蛍光性化合物又はその塩とキレート剤とを調合した測定試薬を調製する工程と、被検水と測定試薬とを混合して混合液を調製する工程とに分割することが好ましい。発蛍光性化合物又はその塩とキレート剤とを調合した測定試薬は、液状であっても固体状であっても構わない。固体状の場合、錠剤であっても紛体であっても構わない。
【0045】
本発明に基づく被検水中のカルボキシ基含有水溶性ポリマーの定量においては、蛍光強度が混合液のpHに依存することから、緩衝剤を併用し混合液のpHを一定にすることが好ましい。混合液のpHは任意に設定することが可能であるが、測定操作途中、あるいは測定終了後の混合液の廃棄等を考慮し、pHが3以上11以下となるように設定することが好ましく、pHが4以上10以下となるようにすることがより好ましい。
【0046】
緩衝剤としては公知の緩衝液を用いることができ、無機系の緩衝液としては、例えば、フタル酸水素カリウム-水酸化ナトリウム緩衝液、リン酸二水素カリウム-水酸化ナトリウム緩衝液、ホウ酸-水酸化ナトリウム緩衝液、炭酸水素ナトリウム-水酸化ナトリウム緩衝液などが挙げられる。有機系の緩衝液としては、例えば、グッド緩衝液と知られるACES、ADA、BES、Bicine、Bis-Tris、CAPS、CAPSO、CHES、DIPSO、EPPS、HEPES、HEPPSO、MES、MOPS、MOPSO、PIPES、POPSO、TAPS、TAPSO、TES、Tricineなどの各緩衝液を好適に用いることができる。緩衝液ごとに蛍光強度特性が異なる可能性があるため、カルボキシ基含有水溶性ポリマーの定量を行うときは、選定した緩衝液ごとに予め検量線を取得しておくことが好ましい。
【0047】
緩衝液を添加する場合には、調製工程を、予め、式(6)で表される発蛍光性化合物又はその塩とキレート剤と緩衝剤とを調合した測定試薬を調製する工程と、被検水と測定試薬とを混合して混合液を調製する工程とに分割することが好ましい。発蛍光性化合物又はその塩とキレート剤と緩衝剤とを調合した測定試薬は、液状であっても固体状であっても構わない。固体状の場合、錠剤であっても紛体であっても構わない。
【0048】
混合液の蛍光を測定するための蛍光測定手段としては、公知の蛍光測定装置を用いることが可能である。蛍光測定装置は固定式であっても、蛍光式であっても構わない。また励起波長及び/または蛍光波長が可変の装置であっても、固定の装置であっても構わない。波長が固定である装置を用いる場合は、予め、使用する発蛍光性化合物の励起スペクトル及び蛍光スペクトルを取得し、計測された励起波長及び蛍光波長に適した装置を用いる必要がある。また本発明では、測定試薬を被検水に混合する部分と蛍光測定装置とを組み合わせたフローインジェクション装置を用いることもできる。フローインジェクション装置には、被検水をサンプリングするサンプリング手段を設けることが好ましい。
【0049】
本発明において定量対象となるカルボキシ基含有水溶性ポリマーは、カルボキシ基及び不飽和二重結合を有する重合性単量体からなる単独重合体や共重合体、及びそれらの塩である。このような重合性単量体の若干の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、フマル酸、シトラコン酸、1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸及びそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩や、マレイン酸無水物、1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物、3,6-エポキシ-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、ビシクロ〔2.2.2〕-5-オクテン-2,3-ジカルボン酸無水物、3-メチル-1,2,6-テトラヒドロフタル酸無水物、2-メチル-1,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物等が挙げられる。これらの重合性単量体のうち、特に好ましいのは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸無水物である。したがって本発明において定量対象となるカルボキシ基含有水溶性ポリマーの代表的なものは、ポリアクリル酸およびポリマレイン酸である。
【0050】
なお、本発明において検出対象となるカルボキシ基含有水溶性ポリマーは、重合体が水溶性である限り、カルボキシ基は含まないが不飽和二重結合を有する重合性単量体の単位を80重量%未満の量で含んでいてもよい。そのような重合性単量体の若干の例としては、アクリル酸又はメタクリル酸の炭素数1~4のアルキルとのエステル(具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート等)、アクリル酸又はメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル(具体例としては、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等)、その他のアクリル酸又はメタクリル酸のエステル(具体例としては、アクリル酸2-スルホエチル、アクリル酸3-スルホプロピル、アクリル酸2-スルファートエチル、2-N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、メタクリル酸2-スルホエチル、メタクリル酸3-スルホプロピル、メタクリル酸2-スルファートエチル、メタクリル酸ホスホエチル、エチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等)、無置換および置換アクリルアミド(具体例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、3-N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリルアミドグリコール酸等)、アクリロニトリル(具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル)、スルホン酸基含有単量体(具体例としては、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、メタリルスルホン酸、1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルスルホン酸等)、ホスホン酸基含有単量体(具体例としては、アリルホスホン酸、ビニルホスホン酸等)、その他の単量体(具体例としては、アリルアルコール、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルイミダゾリン、2-ビニルイミダゾール、2-ビニルイミダゾリン、N-アクリロイルモルホリン、アクロレイン、ジアリルフタレート、酢酸ビニル、スチレン等)、並びに、上記単量体の中で塩を形成し得る単量体はそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。より具体的には、アクリル酸やメタクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体、アクリル酸やメタクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体と置換アクリルアミドの三元共重合体などが挙げられる。
【0051】
本発明において定量対象となるカルボキシ基含有水溶性ポリマーの重量平均分子量は、特に制限されるものではないが、500~20000000の範囲の分子量のカルボキシ基含有水溶性ポリマーが検出可能である。また、これらのカルボキシ基含有水溶性ポリマーは、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0052】
本発明において定量対象となるカルボキシ基含有水溶性ポリマーは、水処理剤として各種の水系に添加されたものである。カルボキシ基含有水溶性ポリマーが水処理剤として添加される水系には、例えば、開放循環式冷却水系、密閉循環式冷却水系、ボイラー等の蒸気発生設備を含む水系、集塵水系、紙パルプ工場の水系などが挙げられる。カルボキシ基含有水溶性ポリマーは、これらの水系に対し、例えば、スケール防止剤、防食剤、あるいは汚れ防止剤として添加される。さらに本発明は、これらの水系に限定されず、カルボキシ基含有水溶性ポリマーが水処理に使用される水系において、その水系におけるカルボキシ基含有水溶性ポリマー濃度の測定及び管理にひろく適用することができる。
【実施例0053】
(実験例1:OPV-ImDEOの合成)
以下に、実施例、参考例及び比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、まず、実施例、参考例及び比較例において用いる発蛍光性化合物として、上記の式(10)で示す発蛍光性化合物の塩すなわちOPV-ImDEOを合成した。OPV-ImDEOの合成は、特許文献5の[0057]-[0067]に記載されたスキームによって行った。以下の説明において定量用試薬液とは、実験例1において合成されたOPV-ImDEOを含み、被検水中のカルボキシ基含有水溶性ポリマーの定量に用いられる液状の測定試薬のことである。
【0054】
(実施例4)
キレート剤を添加することの効果を調べた。定量用試薬液として、CHES緩衝液(20mM、pH 9.0、同仁化学研究所製)にOPV-ImDEOが50mg/L、キレート剤であるEDTA-3Na(エチレンジアミン四酢酸水素三ナトリウム、同仁化学研究所製)が1600mg/Lとなるよう溶解した定量用試薬液を準備した。EDTA-3Naは、よく知られているようにカルシウムイオンに対して安定したキレートを形成するので、カルシウムキレート剤であると言える。被検水として、開放循環式冷却水と同レベルで無機イオン成分が含まれるように調製した模擬冷却水に対し、カルボキシ基含有水溶性ポリマーであるポリアクリル酸(シグマアルドリッチ製、重量平均分子量1800)を0~20mg/Lの濃度となるように溶解させたものを用意した。模擬冷却水の組成や水質を表1に示す。被検水150μLと定量用試薬液450μLとを混合した後、この混合液を10mm×2mmの大きさの石英セルに充填し、分光蛍光光度計(島津製作所製RF-5300)を用い、励起波長378nm、蛍光波長514nmの条件で混合液の蛍光強度の測定を行った。結果を図1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
(比較例1)
CHES緩衝液(20mM、pH 9.0、同仁化学研究所製)にOPV-ImDEOが50mg/Lとなるよう溶解した定量用試薬液を準備した以外は実施例1と同様にして、すなわちキレート剤を含まない定量用試薬液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、混合液の蛍光強度を測定した。結果を図1に示す。
【0057】
図1から明らかなように、キレート剤を添加した定量用試薬液を用いた実施例1では、被検水中のポリアクリル酸濃度に対して明瞭かつ直線的に変化する蛍光強度が得られた。すなわち、検量線法などを用いることにより、蛍光強度に基づいて被検水中のポリアクリル酸の定量を行えることが分かった。これに対し、キレート剤(ここではカルシウムキレート剤であるEDTA-3Na)を含まない定量用試薬液を用いた比較例1では、ポリアクリル酸濃度の変化に対する蛍光強度の応答が微弱であり、蛍光強度に基づいては被検水中のポリアクリル酸濃度の定量は困難であることが分かった。
【0058】
(実施例2)
被検水と定量用試薬液との混合液におけるカルシウムイオンとカルシウムキレート剤との物質量比に対する蛍光強度の変化を調べた。定量用試薬液として、CHES緩衝液(20mM、pH 9.0、同仁化学研究所製)にOPV-ImDEOが50mg/L、EDTA-3Na(同仁化学研究所製)が300~9600mg/Lとなるよう溶解したものを準備した。被検水としては、ポリアクリル酸(シグマアルドリッチ製、重量平均分子量1800)を7.5mg/L溶解した純水に、塩化カルシウムをカルシウム濃度が0~54mg/Lとなるよう溶解させた水を用意した。被検水150μLと定量用試薬液450μLを混合して混合液を得たのち、この混合液を10mm×2mmの石英セルに充填し、実施例1と同じ条件で蛍光強度の測定を行った。結果を図2に示す。被検水中のカルシウム濃度と定量用試薬液におけるEDTA-3Na濃度とにより、物質量基準での混合液中のEDTA濃度対カルシウムの比が異なることになる。図2の横軸は、混合液における物質量基準でのEDTA濃度対カルシウム濃度の比(EDTA/Ca日)である。図2の縦軸は、被検水に塩化カルシウムを添加しなかったとき、すなわち混合液におけるカルシウム濃度が0mg/Lのときの蛍光強度に対する蛍光強度の比である。なお、混合液におけるカルシム濃度が0mg/Lであるときの結果は、図2の横軸の範囲外となるので、図2には示していない。
【0059】
図2では、EDTA/Ca比が1以上であるとき、すなわちEDTAの添加量がカルシムの当量以上であるときは、カルシウムイオンを含まないときのほぼ同じ蛍光強度が得られている。これに対し、EDTA/Ca比が1未満であってEDTAの添加量がカルシウムの当量未満であるときは、カルシウムイオンを含まないときに比べて蛍光強度が低下した。EDTAはカルシウムイオンとキレートを形成してカルシウムイオンをマスクするから、カルシウムイオンが完全にマスクされた状態では蛍光強度の低下は起こらないことになる。したがって、被検水あるいは混合液中のカルシウムイオンが、カルボキシ基含有水溶性ポリマーの定量に対する妨害物質となること、キレート剤を添加してカルシウムイオンをマスクすれば妨害は起こらなくなることが分かる。比較例1においてポリアクリル酸濃度の変化に対して蛍光強度が応答を示さなかったことは、カルシウムイオンの妨害のためであり、実施例1ではキレート剤として添加されたEDTA-3Naによってカルシウムイオンがマスクされているので、ポリアクリル酸濃度に応じた蛍光強度が得られていることが分かる。
【0060】
(参考例1)
発蛍光性化合物であるOPV-ImDEOの蛍光スペクトルをカルボキシ基含有水溶性ポリマーが存在するときと存在しないときについて調べた。定量用試薬液として、CHES緩衝液(20mM、pH 9.0、同仁化学研究所製)にOPV-ImDEOが43mg/Lとなるよう溶解したものを準備した。被検水としては、ポリアクリル酸(シグマアルドリッチ製、重量平均分子量1800)を7.5mg/L溶解した純水(「PAAあり」とする)と、ポリアクリル酸を含まない純水(「PAAなし」)とを用意した。被検水150μLと定量用試薬液450μLを混合して混合液を得たのち、混合液を10mm×2mmの石英セルに充填し、分光蛍光光度計(島津製作所製RF-5300)を用い、励起波長378nmにて蛍光強度の波長スキャン測定を行った。結果を図3に示す。
【0061】
図3から明らかになるように、OPV-ImDEOは、ポリアクリル酸の存在によって波長514nm付近をピークとする蛍光を発する。この蛍光は、凝集誘起蛍光であると考えられる。また、OPV-ImDEO自体も波長480nm付近をピークとする弱い蛍光を有する。
【0062】
(参考例2)
発蛍光性化合物であるOPV-ImDEOの濃度と蛍光強度との関係を調べた。CHES緩衝液(20mM、pH 9.0、同仁化学研究所製)にOPV-ImDEOが0~50mg/Lとなるよう溶解した溶液を用意し、この溶液450μLと純水150μLとを混合して10mm×2mmの石英セルに充填し、分光蛍光光度計(島津製作所製RF-5300)を用い、励起波長378nm、蛍光波長480nmにて蛍光強度の測定を行った。結果を図4に示す。
【0063】
図4から明らかになるように、OPV-ImDEO自体が有する波長480nm付近をピークとする弱い蛍光の強度は、OPV-ImDEOの濃度に比例し増加する。図3に示すようにこの蛍光のピークはブロードであって、その裾の部分は、ポリアクリル酸の存在下でOPV-ImDEOが発する波長514nm付近のピークを有する蛍光と重なるから、定量用試薬液に必要以上のOPV-ImDEOを含むことは有害であることが分かる。
【0064】
(参考例3)
ポリアクリル酸に含まれるカルボキシ基の濃度と発蛍光性化合物であるOVP-ImDEOの濃度との比に対する蛍光強度の関係を調べた。定量用試薬液として、CHES緩衝液(20mM、pH 9.0、同仁化学研究所製)にOPV-ImDEOが43mg/Lとなるよう溶解したものを準備した。被検水としては、純水にポリアクリル酸(シグマアルドリッチ製、重量平均分子量1800)を0~20mg/Lとなるよう溶解した水を用意した。被検水150μLと定量用試薬液450μLとを混合して混合液を得たのち、混合液を10mm×2mmの石英セルに充填して実施例1と同じ測定条件で蛍光強度の測定を行った。結果を図5に示す。図中、各測定点の上に示す数字は、混合液におけるポリアクリル酸中に含まれるカルボキシ基の濃度に対するOPV-ImDEO濃度の物質量基準での比である。
【0065】
図5から明らかなように、OPV-ImDEOの添加量がカルボキシ基の当量以下であると、OPV-ImDEOの添加量に相当する当量以上でのカルボキシ基の定量を行えない可能性がある。このことは、凝集誘起蛍光の発光原理からも予想されたことである。
【0066】
(参考例4)
カルボキシ基を含む低分子量化合物に対するOPV-ImDEOの蛍光強度を調べた。定量用試薬液として、CHES緩衝液(20mM、pH 9.0、同仁化学研究所製)にOPV-ImDEOが43mg/Lとなるよう溶解したものを準備した。被検水としては、純水に酢酸、クエン酸、フタル酸(いずれも関東化学製)をそれぞれ0~10mg/Lとなるよう溶解した水を用意した。被検水150μLと定量用試薬液450μLを混合して10mm×2mmの石英セルに充填し、実施例1と同じ条件で蛍光強度の測定を行った。結果を図6に示す。
【0067】
図6に示すように、凝集誘起蛍光の発蛍光性化合物であるOPV-ImDEOはカルボキシ基を含むが低分子量である化合物に対しては蛍光応答をしない。
【0068】
(実施例3)
カルボキシ基含有水溶性ポリマーであるポリカルボン酸の分子量と蛍光強度との関係を調べた。定量用試薬液として、CHES緩衝液(20mM、pH 9.0、同仁化学研究所製)にOPV-ImDEOが50mg/L、キレート剤であるEDTA-3Na(同仁化学研究所製)が1600mg/Lとなるよう溶解したものを準備した。被検水としては、実施例1で示した模擬冷却水に、ポリアクリル酸(シグマアルドリッチ製、重量平均分子量1800または450000)を0~30mg/Lの濃度となるよう溶解させた水を用意した。また、重量平均分子量1800と450000の2種類のポリアクリル酸を1:1で混合して模擬冷却水に溶解させた水も被検水として用意した。被検水150μLと定量用試薬液450μLとを混合して混合液を得たのち、この混合液を10mm×2mmの石英セルに充填して実施例1と同じ測定条件で蛍光強度の測定を行った。結果を図7に示す。
【0069】
図7から明らかになるように、測定対象となるポリアクリル酸の分子量により応答すなわち蛍光強度が変化した。本発明が測定対象とする水では、それぞれの性状に応じ、種々のカルボキシ基含有水溶性ポリマーが用いられる。また、カルボキシ基含有水溶性ポリマーが共重合体であるときは、カルボキシ基の含有割合がポリマーごとに異なる。したがって、検量線法によりカルボキシ基含有水溶性ポリマーの定量を行うときは、定量対象のポリマーごとに検量線を取得することが必要となる。
【0070】
(実施例4)
スケール防止剤としてカルボキシ基含有水溶性ポリマーを含むとともに、防食剤や殺菌剤も含む被検水におけるカルボキシ基含有水溶性ポリマー濃度の定量を行った。定量用試薬液として、CHES緩衝液(20mM、pH 9.0、同仁化学研究所製)にOPV-ImDEOが50mg/L、キレート剤であるEDTA-3Na(同仁化学研究所製)が1600mg/Lとなるよう溶解したものを準備した。被検水としては、実施例1で示した模擬冷却水に、水処理薬剤(オルガノ製SP-91)を0~500mg/Lの濃度となるよう溶解した水を用意した。SP-91は、スケール分散剤としてカルボキシ基含有水溶性ポリマーを含有するとともに、防食剤、殺菌剤も混合された複合水処理薬剤である。被検水150μLと定量用試薬液450μLを混合して混合液を得たのちに、この混合液を10mm×2mmの石英セルに充填し、実施例1と同じ測定条件で蛍光強度の測定を行った。結果を図8に示す。
【0071】
図8から分かるように、水処理用の薬剤として市販され一般的に利用されるような薬剤を含む被検水であっても、検量線法などを用いることにより、その薬剤に由来するカルボキシ基含有水溶性ポリマーの濃度を定量できる。
【0072】
(参考例5)
被検水のpHと蛍光強度との関係を調べた。定量用試薬液として、純水にOPV-ImDEOが50mg/Lとなるよう溶解したものを準備した。被検水としては、純水にポリアクリル酸(シグマアルドリッチ製、重量平均分子量1800)を10mg/Lとなるよう溶解した後、塩酸または水酸化ナトリウム溶液を用い所望のpHとなるよう調整した水を用意した。被検水150μLと定量用試薬液450μLを混合して混合液とし、この混合液を10mm×2mmの石英セルに充填し、実施例1と同じ測定条件で蛍光強度の測定を行った。結果を図9に示す。
【0073】
図9から明らかな通り、蛍光強度は被検水のpHにより変化した。蛍光強度は、被検水のpHが中性(pH 7)の近傍であるときに高い傾向を示した。したがって、正確な定量のためには、被検水あるいは混合水のpHを測定ごとに一定とすることが好ましいことが分かった。より好ましくは、定量用試薬液に緩衝剤を添加して混合液におけるpHが一定となるよう調整する。
【0074】
(参考例6)
定量用試薬液に加える緩衝剤の種類と蛍光強度との関係を調べた。定量用試薬液に用いる緩衝液として、いずれも20mM、pH 9.0であるCHES緩衝液(同仁化学研究所製)、CAPS緩衝液(同仁化学研究所製)及びTAPS緩衝液(同仁化学研究所製)を使用し、緩衝液にOPV-ImDEOが50mg/Lとなるよう溶解させて定量用試薬液を準備した。被検水としては、純水にポリアクリル酸(シグマアルドリッチ製、重量平均分子量1800)を0~20mg/Lとなるよう溶解した水を用意した。被検水150μLと定量用試薬液450μLとを混合して混合液としたのち、この混合液を10mm×2mmの石英セルに充填し、実施例1と同じ測定条件で蛍光強度の測定を行った。結果を図10に示す。
【0075】
図10に示す結果では、緩衝液の違いが蛍光強度に与える影響は小さかった。図10から明らかになるように、種類を問わずに緩衝剤を定量用試薬液に添加してpHが一定となるよう調整を図ることで、安定した測定が可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10