(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022506
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】はんだペースト用フラックス組成物
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20220131BHJP
B23K 31/02 20060101ALI20220131BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20220131BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
B23K35/363 D
B23K35/363 E
B23K31/02 310A
B23K35/26 310A
C22C13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020109178
(22)【出願日】2020-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】592025786
【氏名又は名称】株式会社日本スペリア社
(72)【発明者】
【氏名】西村 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】三浦 孝之
(57)【要約】
【課題】本発明は、このような状況に鑑み、フラックス残渣が抑制されることは勿論のこと、無洗浄、且つボイドの発生や飛散防止といった従来の課題を克服したはんだペースト用フラックス組成物並びに当該フラックス組成物を用いたはんだペーストの提供を目的とする。
【解決手段】フラックス成分中にロジンを含有せずにフラックス残渣を抑制する効果に優れ、且つボイドやはんだ付け時に発生する飛散の防止効果に優れた効果を有するはんだペースト用フラックス組成物として、常温で高い粘性を有する液状溶剤と常温で液状の溶剤と分子量が300未満の脂肪酸とアミンからなるアミドとを含有させることにより、また、当該はんだペースト用フラックス組成物に沸点が250℃以下のジカルボン酸を添加することや、ギ酸ガス雰囲気ではんだ付けを行うことにより、印刷特性の向上やボイド及びはんだ付け時に発生する飛散を抑制する効果が相乗的に向上する。
【選択図】
なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で高い粘性を有する液状溶剤と、常温で液状の溶剤と、分子量が300未満の脂肪酸とアミンから形成されるアミドとを含有することを特徴とするはんだペースト用フラックス組成物。
【請求項2】
請求項1記載のはんだペースト用フラックス組成物とはんだ粉末とを混合してなることを特徴とするはんだペースト。
【請求項3】
請求項2記載のはんだペーストを用いたはんだ接合方法に於いて、ギ酸ガス雰囲気下にて加熱することにより接合することを特徴とするはんだ接合方法。
【請求項4】
請求項3のはんだ接合方法によりはんだ付けされたことを特徴とするはんだ接合部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス組成物に関し、電子部品等の接合に用いられるはんだペースト用フラックス組成物、及び当該フラックス組成物を用いたはんだペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にはんだペーストのフラックスは、ロジン、チキソ剤、活性剤及び溶剤からなり、溶剤でロジン等を溶解し均一な状態にした後、はんだ粉末と混合してはんだペーストとする。従来のはんだペーストは樹脂成分や固形成分が含まれており、リフロー後に固形成分や樹脂がフラックス残渣としてはんだ付け部に多量に残存していた。
このような残存するフラックス残渣は、経時に吸湿して電子部品の回路の絶縁抵抗値を下げ、そして、腐食性物質が発生して回路を遮断させるという不具合を発生することがある為、リフロー後にはんだ付け部を洗浄し、フラックス残渣を除去する作業がなされていた。
【0003】
更に、パワーモジュール等ではその信頼性を確保するために樹脂等の防湿保護剤ではんだ付け部をコーティングしたり、部品全体をモールドすることが行われている。
フラックス残渣は樹脂コーティングやモールド剤とワークの密着性等を阻害する為、部品全体を洗浄することが必要であった。
そこで、リフロー後に残るフラックス残渣を生じないはんだペーストが求められるようになってきた。
【0004】
フラックス残渣が発生しないはんだペーストは、これまでにもいくつかの提案がなされており、特許文献1では、常温で固体でリフロー温度で蒸発する固体溶剤と、常温で高粘性流体でリフロー温度で蒸発する高粘性溶剤と、常温で液体でリフロー温度で蒸発する液体溶剤とを含有したフラックスを用いた無残渣ソルダペーストの技術が記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、はんだ付け時の加熱過程で分解又は蒸発する量のメタクリル酸重合体としてポリアルキルメタクリレートと粘性調整剤としてステアリン酸アミドを含有したフラックスを用いたソルダペーストの技術が記載されている。
【0006】
更に、特許文献3では、粘凋剤、溶剤及びチクソ剤を含み、酸価値が100mgKOH/g以下であり、熱重量測定において300℃での減少率が80質量%以上、粘度が0.5Pa・s以上、タッキング力が1.0N以上であるはんだペースト用フラックスを用いた残渣発生を抑制できるはんだペーストの技術が記載されている。
【0007】
しかし、前記のフラックス残渣が発生しないはんだペーストの技術では、フラックス残渣の問題はある程度解消されたが、その他の課題であるボイドの抑制や無洗浄といった課題の克服には至っておらず、ボイドの発生が少なく、無残渣、且つ無洗浄が可能なはんだペーストが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-25305号公報
【特許文献2】特開2013-132654号公報
【特許文献3】特開2019-25546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような状況に鑑み、フラックス残渣が抑制されることは勿論のこと、無洗浄、且つはんだ付け時の飛散防止やボイドの発生防止といった従来の課題を克服したはんだペースト用フラックス組成物並びに当該フラックスを用いたはんだペースト及び当該はんだペーストで接合を行ったはんだ接合部の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題解決の為、ロジンを含有せずにフラックス残渣を抑制する効果に優れ、且つボイドやはんだ付け時に発生する飛散の防止効果に優れた効果を有するはんだペースト用フラックス組成物として、常温で高い粘性を有する液状溶剤と、常温で液状の溶剤と、分子量が300未満の脂肪酸とアミンからなるアミドとを含有させたフラックス組成物とすることで前記課題を克服できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
更に、前記の本発明のはんだペースト用フラックス組成物に沸点が250℃以下のジカルボン酸を加えること、更に、ギ酸ガス雰囲気下ではんだ付けを行うことにより、はんだ付け時に発生する飛散を抑制する効果やボイドを抑制する効果が相乗的に向上することを見出した。
【発明の効果】
【0012】
本発明のはんだペースト用フラックス組成物とはんだ粉末からなるはんだペーストを用いてはんだ付けを行うことにより、フラックス残渣の発生が極めて少量若しくはなくなり、はんだ付け時に発生する飛散の抑制やボイドの発生が抑制されるため、はんだ付け後の洗浄が不要になり、はんだ接合時の不具合も極めて抑制されるため、広く電子部品等のはんだ付けに応用が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のはんだペースト用フラックス組成物は、常温で高い粘性を有する液状溶剤と、常温で液状の溶剤と、分子量が300未満の脂肪酸とアミンからなるアミドとを含有することを特徴としている。
【0014】
本発明のはんだペースト用フラックスに用いることのできる常温で高い粘性を有する液状溶剤は、本発明の効果を有する範囲に於いて特に制限はないが、粘性が30℃で10,000mPa・s以上が好ましく、イソボルニルシクロヘキサノールが例示できる。
【0015】
また、本発明のはんだペースト用フラックスに用いることのできる常温で液状の溶剤は、本発明の効果を有する範囲に於いて特に制限はないが、粘性が20℃で500mPa・s以下であってテルペン系溶剤及びその誘導体が好ましく、ジプロピレングリコール、へキシレングリコール、オクタンジオール及びペンタンジオールのようなグリコール類、デカノールやフェノキシエタノールのようなアルコール類や芳香族アルコールを併用しても構わない。
【0016】
更に、本発明のはんだペースト用フラックス組成物に用いることのできる分子量が300未満の脂肪酸とアミンからなるアミドは、本発明の効果を有する範囲に於いて特に制限はないが、飽和脂肪酸とアミンからなるアミドが好ましく、脂肪酸としてステアリン酸やパルミチン酸のような飽和脂肪酸とのアミンからなるステアリン酸アミドやパルミチン酸アミドが例示できる。
【0017】
そして、本発明のはんだペースト用フラックス組成物には前記の必須成分に加え、沸点がはんだペーストに用いるはんだ粉末の融点よりも低い沸点を有する有機酸を添加することによって、はんだ付け時に発生する飛散の発生やボイドの発生が抑制される。
【0018】
本発明のはんだペースト用フラックス組成物に用いることができる有機酸は、本発明の効果を有する範囲に於いて特に制限はないが、ジカルボン酸が好ましく、はんだ粉末の融点が250℃以下の場合は、マロン酸(沸点:135℃)、マレイン酸(分解温度:135度)、コハク酸(沸点:235℃)、グルタル酸(沸点:200℃)が例示でき、150℃以下の沸点や分解温度を有する有機酸がより好ましい。
【0019】
一方、本発明のはんだペースト用フラックス組成物に用いることができる添加成分としては、本発明の効果を有する範囲に於いて特に制限はなく、酸化防止剤やチクソ剤を任意に添加することも可能である。
【0020】
本発明のはんだペースト用フラックス組成物を用いたはんだペーストに関して、当該はんだペーストに用いることができるはんだ粉末は、本発明の効果を有する範囲に於いて、特に制限はないが、鉛フリーはんだが好ましく、Sn単体、Sn-Cu系はんだ、Sn-Cu-Ni系はんだ、Sn-Ag-Cu系はんだ、Sn-Bi系はんだ、Sn-Zn系はんだ等が例示でき、これらのはんだ合金に、Sb,Bi,Cu,Ag,In,Ni,Zn,Co,Fe,Ge,Ga,Ti,Si,Zr,P等の元素を添加した組成のはんだ粉末でも構わない。
また、これらはんだ粉末の粒径は、本発明の効果を有する範囲に於いて特に制限はなく、0.1~100μmが好ましい。
更に、はんだペースト用フラックス組成物を用いたはんだペーストには、本発明の効果を有する範囲に於いて、はんだ合金粉末に加えて金属粒子を添加することも可能で、CuやNi、及びCuとNiの合金、Cu6Sn5等の金属化合物が例示でき、平均粒径5μm以上が好ましく、50μm以上が更に好ましい。
【0021】
次に、本発明に関し、詳細に説明する。
表1に示す組成ではんだペースト用フラックス組成物を作製した。
また、はんだペーストは、はんだペースト用フラックス組成物と次のはんだ合金組成がSn-0.7Cu-0.05Ni-0.005Geで粒径45~75μmのはんだ粉末をはんだペースト100に対して、フラックス組成物9質量%、はんだ粉末91質量%の比率にて混合して作製した。
【0022】
【0023】
表1記載のはんだペースト用フラックス組成物を用いて作製したはんだペーストの評価結果を表に2に示す。
また、はんだペーストの評価基準を表3に示す。
【0024】
【0025】
【0026】
はんだペーストの評価に際し、2種類の無酸素銅板を用いて行い、そのサイズは(1)大きさ:50mm×50mm、厚さ:0.5mm、(2)大きさ:35mm×35mm、厚さ:0.5mmを夫々用い、(1)の銅板上に評価するはんだペーストを約35mm×35mmのサイズにて50μmの厚さで印刷し、印刷したはんだペーストの上に(2)の銅板を載せ、PINK社製真空リフロー装置VADU100を用いてはんだ接合し、接合状態を評価した。
リフロー条件は下記のとおりである。
・プリヒート温度迄の昇温スピード:5.7℃/秒
・プリヒート温度:190-200℃ (8分)
・ピーク温度:255℃ (6分保持)
・ギ酸ガス雰囲気:100mbar
・プリヒート温度からピーク温度までの昇温速度:0.87℃/秒
・ピーク時の減圧30秒、窒素パージ60秒
・冷却速度::-2.2℃/秒
【0027】
表2に示す通り、本発明の実施例1~7は、フラックス残渣が抑制され、印刷性にも優れ、はんだ付け時に発生する飛散やボイドの発生も△以上の評価を得ており、はんだ付けに使用でき本発明の効果を有することがわかる。
特に、沸点が150℃以下の後の有機酸であるマロン酸を添加した実施例1~3は優れた評価を示している。
一方、比較例1、比較例4及び比較例5はフラックス残渣は殆ど見られないが印刷性が著しく劣り、比較例2及び比較例3はフラックス残渣が多く本発明の課題を克服できていない。
【0028】
更に、実施例1のはんだペーストを用いてギ酸ガスを投入せずに窒素ガス雰囲気下のみではんだ付けを行ったところ、はんだ接合に使用することは可能であるが、ギ酸ガス雰囲気にてはんだ付けを行った実施例1よりもフラックス残渣は勿論のことはんだ付け時の飛散やボイドの発生が多く確認された。
このことにより、本発明のはんだペースト用フラックス組成物を用いたはんだペーストがギ酸ガス雰囲気下にてはんだ付けを行うことで、よりフラックス残渣を減少させてはんだ付け時の飛散やボイドを相乗的に抑制させる効果を有することが判明した。
そして、本発明のはんだペースト用フラックス組成物を用いたはんだペーストによりはんだ付けを行ったはんだ接合部は、フラックス残渣やはんだ付け時の飛散やボイドが抑制されるため、高い接合信頼性を有するはんだ接合部を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のはんだペースト用フラックス組成物を用いたはんだペーストはフラックス残渣が殆ど発生しない上に、はんだ付け時の飛散やボイドが抑制されるため、信頼性の高いはんだ接合が実現でき、しかも、はんだ付け後の洗浄が不要となるため、従来の電子部品接合に加え、半導体の接合に広く応用が期待できる。