(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022550
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】アピキサバンの新規製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 471/04 20060101AFI20220131BHJP
A61K 31/4545 20060101ALN20220131BHJP
A61P 7/02 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C07D471/04 106Z
A61K31/4545
A61P7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020110365
(22)【出願日】2020-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000207252
【氏名又は名称】ダイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083301
【弁理士】
【氏名又は名称】草間 攻
(72)【発明者】
【氏名】堀 瑶平
(72)【発明者】
【氏名】忠田 悠
【テーマコード(参考)】
4C065
4C086
【Fターム(参考)】
4C065AA05
4C065BB05
4C065CC01
4C065DD03
4C065EE02
4C065HH09
4C065JJ04
4C065KK08
4C065KK09
4C065LL01
4C065PP03
4C065PP13
4C065QQ05
4C086AA04
4C086CB05
4C086MA01
4C086MA04
4C086ZA54
(57)【要約】
【課題】 工業的に応用し得る、アピキサバンを直接製造し得る簡易な製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 次式(I)
【化1】
で示される化合物を、反応溶媒、好ましくはアセトニトリル、メタノール又はエタノールの存在下に、ホルムアミド及び塩基、好ましくはナトリウムメトキシドを加え反応させることにより、中間製造物を単離することなく、ワンポット反応で目的とするアピキサバンが直接調製される製造方法である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I)
【化1】
で示される化合物に、反応溶媒の存在下にホルムアミド及び塩基を加えて反応させることを特徴とする、次式:
【化2】
で示されるアピキサバンの製造方法。
【請求項2】
ホルムアミドの当量として、化合物(I)1当量に対して、1.5~30.0当量使用する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
使用する塩基が、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムアミド、水素化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムより選択される塩基である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
使用する反応溶媒が、アセトニトリル、メタノール、エタノール、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、トルエンまたはこれらの混合溶媒より選択される有機溶媒である請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
ワンポット反応として処理する請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アピキサバンの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次式:
【0003】
【0004】
で示される化学名:1-(4-メトキシフェニル)-7-オキソ-6-[4-(2-オキソピペリジン-1-イル)フェニル]-4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-ピラゾロ[3,4-c]ピリジン-3-カルボキサミドを有するアピキサバン(INN)は、経口活性化血液凝固第X因子(FXa)阻害剤として、臨床的にエリキュース(登録商標)錠の名称で、静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制に使用されている(非特許文献1)薬物である。
【0005】
これまでにアピキサバンの製造方法は、下記化学反応式:
【0006】
【0007】
に示すように、
<ステップ1(反応式1)>
化合物(I)に強塩基と相間移動触媒を加えて反応し、化合物(II)を結晶として得た後(特許文献1)、
<ステップ2(反応式2)>
得られた化合物(II)にホルムアミドおよび塩基を加えて反応することで、アピキサバン得る製法が知られている(特許文献2)。
【0008】
また、ステップ2の別の製法として、化合物(II)にアンモニアを吹き込み反応することでアピキサバンを得る製法が知られている(特許文献3)。
【0009】
上記の製造方法にあっては、化合物(I)から一旦中間体化合物(II)を製造し、当該化合物(II)を結晶として単離し、アピキサバンへと誘導するものであり、また、化合物(II)の製造にあたっては、反応溶媒として環境負荷の大きいジクロロメタンを使用する必要があり、さらには反応後の後処理操作において、濃縮操作等も必要となる欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】CN104045637A
【特許文献2】WO2003049681A2
【特許文献3】WO2016035007A2
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】エリキュース(登録商標)錠 薬品インタビューフォーム 2020年1月改訂(第10版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はかかる現状を鑑み、工業的に応用し得るアピキサバンの簡易な製造方法を提供することを課題とする。
かかる課題を解決するべく本発明者らは鋭意検討した結果、上記ステップ1の出発化合物である化合物(I)に、塩基の存在下ホルムアミドを加えることで、中間製造物として化合物(II)を単離することなく、ワンポット反応で目的とするアピキサバンが直接製造されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって本発明は、次式(I):
【0014】
【0015】
で示される化合物に、反応溶媒の存在下に、ホルムアミド及び塩基を加え反応させることを特徴とする、次式:
【0016】
【0017】
で示されるアピキサバンの製造方法である。
【0018】
より具体的には、使用するホルムアミドの当量として、化合物(I)1当量に対して、1.5~30.0当量使用する上記の製造方法である。
【0019】
さらに具体的には、使用する塩基が、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムアミド、水素化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムより選択される塩基である上記の製造方法である。
【0020】
またさらに具体的な本発明は、使用する反応溶媒が、アセトニトリル、メタノール、エタノール、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、トルエンまたはこれらの混合溶媒より選択される有機溶媒である上記の製造方法であり、さらには、ワンポット反応として処理する製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、工業的に応用し得るアピキサバンの簡易な製造方法、特に化合物(I)からワンポット合成によりアピキサバンが直接合成される製造方法が提供される。
化合物(I)から化合物(II)を単離して得る従来の製造方法は、強塩基性条件でテトラブチルアンモニウムブロミドのような相間移動触媒を使用し、反応溶媒に環境負荷の大きいジクロロメタンを用いている。
本発明による製造方法では、ジクロロメタンの使用を回避することができ、工業生産時の環境負荷の軽減につながる。
【0022】
また、化合物(II)を単離する従来の製造方法では、化合物(I)からアピキサバンを得るのに最短でも2日間かかり、総収率も76.6%であった。
本発明による製造方法では、化合物(I)からアピキサバンを得るまで8時間程度しか必要とせず(後記実施例参照)、大幅な製造時間の短縮が見込める。さらに、収率も87.8%と高収率である。
したがって、本発明が提供するアピキサバンの簡易な製造方法は、化合物(I)からアピキサバンへの反応が定量的に進行し、反応時間も短いため、極めて効率の良い工業的に有用性の高い製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明者らが検討した内容を逐次記載することにより、本発明を詳細に説明する。
【0024】
まず、化合物(II)からアピキサバンを得る反応は、ホルムアミドやアンモニアガスを使用する報告例のみであった(特許文献1及び2)。
ホルムアミドを使用する(特許文献1)と、次式で示されるアピキサバンのホルミル保護体(III):
【0025】
【0026】
を経由すると推定されるため、処理に多段階を要し、反応経路としてはスムーズではないと考えられた。
また、アンモニアガスを用いる方法(特許文献2)では、アンモニアガスが気体であるために、反応容器中への吹き込み操作や、アンモニアガス濃度の調整が必要であって、扱いにくいものである。
そこで、下記反応式(3)に示すように、固体であるナトリウムアミドを使用することで化合物(II)からアピキサバンへの反応が進行するのではないかと予想した。
【0027】
【0028】
さらに、ナトリウムアミドはアミド構造のプロトンを引き抜くために十分な塩基性を有しているため、下記反応式(4)に示すように、化合物(I)に対してナトリウムアミドを作用させれば、分子内6員環形成とエステル骨格からアミド骨格への反応の両方が進行し、化合物(II)を単離せずに、直接アピキサバンを得られるのではないかと考えられ、それらの検討を行ったが、望ましい反応が進行せず、期待した結果を得ることができなかった。
【0029】
【0030】
すなわち、これらの反応においては、ナトリウムアミドの塩基性が高いものであることから、加水分解反応が優先的に進行し、例えば、式(I)の化合物との反応の場合には、下記反応式(5):
【0031】
【0032】
に示したように、アピキサバンの加水分解体(IV)が得られてしまうものであった。
【0033】
そこで、求核性を抑え、かつアミド結合形成可能な塩基として、ホルムアミドアニオンを用いることで、化合物(I)から直接アピキサバンとすることができるのではないかと考えた(下記反応式6)。
【0034】
【0035】
なおこの際、アピキサバンのホルミル保護体(III)を経由する可能性があるが、ホルミル保護体(III)は加水分解されやすいので、容易にアピキサバンへと誘導できるものと考えられた。
また、化合物(II)からアピキサバンへ変換する反応条件は、ホルムアミドアニオンを使用していると考えられる(特許文献2)。
以上を踏まえ、化合物(II)の代わりに化合物(I)を用いて、直接アピキサバンへ誘導する反応条件を種々検討し、化合物(I)を反応溶媒の存在下に、ホルムアミド及び塩基を作用させることで、目的のアピキサバンを得ることに成功し、本発明に至ったのである。
【0036】
上記したとおり、本発明は、化合物(I)に反応溶媒の存在下に、ホルムアミド及び塩基を加え反応させることを特徴とするアピキサバンの製造方法である。
反応に使用するホルムアミドの当量は、化合物(I)1当量に対して、1.5~30.0当量、より好ましくは10.0~20.0当量である。
【0037】
使用する塩基としては、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、カリウムtert-ブトキシド、水素化ナトリウム、ナトリウムアミド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムより選択することによりができるが、これらに限定されるものではない。
なかでも、塩基としてナトリウムメトキシドもしくはカリウムメトキシドが好ましく、ナトリウムメトキシドがより好ましい。
【0038】
反応は溶媒の存在下に行われるが、そのような溶媒としては、アセトニトリル、メタノール、エタノール、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、トルエン、ジメチルスルホキシド、アセトン、ジクロロメタン、テトラヒドロフランまたはこれらの混合溶媒より選択できるが、これらに限定されるものではない。
アピキサバンの収率および純度ならびに環境負荷の軽減を考慮すると、アセトニトリル、メタノール、エタノール、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、トルエン、アセトン、ジメチルスルホキシドが好ましく、なかでも特に、アセトニトリル、メタノール、エタノールがより好ましい。
【0039】
反応時間は、用いる溶媒等により一概に限定し得ないが、0.5~24時間程度の範囲である。加水分解抑制のため、塩基は10℃以下で添加するのが好ましい。その後の反応温度も一概に限定し得ないが、0℃~60℃程度、好ましくは15℃~45℃以下、より好ましくは25℃~35℃で行うのが良い。
【0040】
反応終了後、反応混合物より目的とするアピキサバンを結晶物として濾取し、減圧乾燥することにより白色結晶として、純度良くアピキサバンを得ることができる。
したがって、本発明のアピキサバンの製造方法は、ワンポット反応として目的のアピキサバンを調製し得るものであり、工業的な製造方法として特に優れたものである。
【実施例0041】
以下に、本発明を実施例/比較例を記載することにより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
なお、下記の実施例/比較例における反応率分析条件は、以下のとおりである。
<反応率分析条件>
高速液体クロマトグラフ:Shimazu LC-2010HT
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:224nm)
カラム: YMC-Pack ODS-AQ 250×4.6mm 5.0μm
カラム温度:30℃
移動相:緩衝液600mLとアセトニトリル400mLの混液
緩衝液:リン酸二水素カリウム1.36gを水1000mLに溶解し、水酸化カリウム試液を加えてpH6.0に調整した溶液
流量:1.0mL/分
面積測定範囲:70分
試料注入量:10μL
サンプル希釈液:移動相
サンプル濃度:反応液1滴に移動相を加えて5mLに希釈
【0043】
実施例1:
アセトニトリル(70mL)とメタノール(10mL)の混合溶媒に化合物(I)(10.0g、19.1mmol)、ホルムアミド(8.6g、190.3mmol;10当量)を加えて5℃以下に冷却した。
その後、同温度にて28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(11.0g、57.4mmol;3当量)を加えて30分攪拌した後、30℃に加熱して2時間攪拌した。
HPLCで反応率を確認した後、反応溶液を5℃に冷却し、水(140mL)を加えて1時間攪拌した後、ろ過した。ろ過物を水(20mL)とエタノール(20mL)で洗浄した後、40℃で減圧乾燥し、アピキサバンを白色結晶として7.7g得た。
収率は87.8%(アピキサバン無水物として算出)であった。純度は99.1%であった。
【0044】
実施例2:
アセトニトリル(14mL)とメタノール(2mL)の混合溶媒に化合物(I)(2.0g、3.8mmol)、ホルムアミド(1.5~30.0当量、下記表1)を加えて5℃以下に冷却した。
その後、同温度にて28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(2.2g、11.4mmol;3当量)を加えて30分攪拌した後、30℃に加熱して2時間攪拌した。
HPLCで反応率を確認した後、反応溶液を5℃に冷却し、水(28mL)を加えて1時間攪拌した後、ろ過した。ろ過物を水(4mL)とエタノール(4mL)で洗浄した後、40℃で減圧乾燥し、アピキサバンを白色結晶として得た。
【0045】
使用したホルムアミドの当量に対する反応率、アピキサバンの収率(アピキサバン無水物として算出)及び純度を、下記表1にまとめて示した。
【0046】
【0047】
実施例3:
下記表2に記載した溶媒に化合物(I)(1.0g、1.9mmol)、ホルムアミド(0.9g、19.1mmol;10当量)を加えて5℃以下に冷却した。
その後、同温度にて28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(1.1g、5.7mmol;3当量)を加えて30分攪拌した後、30℃から45℃で攪拌した。
HPLCで反応率を確認した後、反応溶液を5℃に冷却し、水を加えて1時間攪拌した後、ろ過した。ろ過物を水(2mL)とエタノール(2mL)で洗浄した後、40℃で減圧乾燥し、アピキサバンを白色結晶として得た。
【0048】
下記表2に、使用した溶媒に対する反応率、アピキサバンの収率(アピキサバン無水物として算出)及び純度をまとめて示した。
【0049】
【0050】
実施例4:
アセトニトリル(14mL)とメタノール(2mL)の混合溶媒に化合物(I)(2.0g、3.8mmol)、ホルムアミド(1.7g、38.2mmol;10当量)を加えて5℃以下に冷却した。
その後、同温度にて下記表3に記載した塩基(3当量)を加えて30分攪拌した後、30℃に加熱して2時間攪拌した。
HPLCで反応率を確認した後、反応溶液を5℃に冷却し、水(28mL)を加えて1時間攪拌した後、ろ過した。ろ過物を水(4mL)とエタノール(4mL)で洗浄した後、40℃で減圧乾燥し、アピキサバンを白色結晶として得た。
【0051】
下記表3に、使用した塩基に対する反応率、アピキサバンの収率(アピキサバン無水物として算出)及び純度をまとめて示した。
【0052】
【0053】
比較例1:化合物(II)の製造(特許文献1を参考)
ジクロロメタン(90mL)に化合物(I)(1.8g、3.4mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(0.2g、0.7mmol;0.2当量)と水酸化ナトリウム(0.3g、6.8mmol;2.0当量)を加えて、室温で3時間攪拌した後、水(15mL)を加えた。
ジクロロメタン層と水層を分離し、ジクロロメタン層を水(15mL)で洗浄した。ジクロロメタン層を減圧下、濃縮乾固した。得られた油状物質に酢酸エチル(18mL)を加えて、再結晶し、結晶をろ過した。ろ過物を40℃で減圧乾燥し、化合物(II)を白色結晶性の粉末として1.4g得た。収率は86.4%であった。純度は99.2%であった。
【0054】
比較例2:アピキサバンの製造(特許文献2を参照)
N,N-ジメチルホルムアミド(6.0mL)に化合物(II)(1.2g、2.5mmol)、ホルムアミド(1.1g、24.4mmol;10当量)と28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(1.0g、4.9mmol;2.0当量)を加え、25℃で1時間攪拌した後、反応溶液に水(25mL)を加え、ろ過した。ろ過物を40℃で減圧乾燥し、アピキサバンを白色結晶の粉末として1.0g得た。収率は88.6%(アピキサバン無水物として算出)であった。純度は98.3%であった。
以上記載のように、本発明により、工業的に応用し得るアピキサバンの簡易な製造方法、特に化合物(I)からワンポット合成により直接アピキサバンが合成される製造方法が提供される。
本発明が提供するアピキサバンの製造方法は、従来方法に比較して極めて簡便な条件により、純度よく高収率で製造し得るものであり、その産業上の利用可能性は多大なものである。