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特開2022-22641セラミックス-金属接合体の残留応力緩和方法およびセラミックス-金属接合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022641
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】セラミックス-金属接合体の残留応力緩和方法およびセラミックス-金属接合体
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/02 20060101AFI20220131BHJP
   H05K 1/03 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C04B37/02 C
H05K1/03 610E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020113041
(22)【出願日】2020-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】小山内 英世
(72)【発明者】
【氏名】寺本 祐基
【テーマコード(参考)】
4G026
【Fターム(参考)】
4G026BA16
4G026BA17
4G026BB22
4G026BB27
4G026BE04
4G026BF52
4G026BG02
4G026BG13
4G026BH07
(57)【要約】
【課題】セラミックス部材と金属部材との接合体において、セラミックス部材の金属部材との接合境界に対して垂直方向の引張残留応力を低減させ、耐熱サイクル性を向上させる。
【解決手段】セラミックス部材2の表面に金属部材3が接合された接合体において、セラミックス部材2と金属部材3の側面の下端との接合境界11近傍におけるセラミックス部材2の表面に、圧縮応力の負荷または局所加熱のうち少なくとも一方を施し、セラミックス部材2の接合境界11近傍の接合境界11に対して垂直方向の引張残留応力を低減させる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス部材の表面に金属部材が接合された接合体において、
前記セラミックス部材と前記金属部材の側面の下端との接合境界近傍における前記セラミックス部材の表面に、圧縮応力の負荷または局所加熱のうち少なくとも一方を施し、前記セラミックス部材の前記接合境界近傍の前記接合境界に対して垂直方向の引張残留応力を低減させることを特徴とする、セラミックス-金属接合体の残留応力緩和方法。
【請求項2】
前記圧縮応力の負荷または局所加熱のうち少なくとも一方の手段は、機械的、レーザまたは電子線のエネルギービーム、イオンビーム、光束、超音波のいずれかの照射またはこれらの複合照射によることを特徴とする、請求項1に記載のセラミックス-金属接合体の残留応力緩和方法。
【請求項3】
前記圧縮応力の負荷または局所加熱のうち少なくとも一方の手段は、水柱レーザの照射であることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載のセラミックス-金属接合体の残留応力緩和方法。
【請求項4】
前記セラミックス部材は、主成分がAlNまたはSiであり、前記金属部材は、Cu、Al、あるいはCuまたはAlのいずれかを主成分とする合金であり、前記セラミックス部材と前記金属部材との接合は、活性金属法または溶湯接合法によって行われることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミックス-金属接合体の残留応力緩和方法。
【請求項5】
前記セラミックス部材および前記金属部材が板材であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミックス-金属接合体の残留応力緩和方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法で残留応力が緩和されたセラミックス-金属接合体であって、
前記セラミックス部材の前記接合境界近傍の前記接合境界に対して垂直方向の引張残留応力が200MPa以下であることを特徴とする、セラミックス-金属接合体。
【請求項7】
前記セラミックス部材の前記接合境界近傍の前記接合境界に対して垂直方向の引張残留応力が100MPa以下であることを特徴とする、請求項6に記載のセラミックス-金属接合体。
【請求項8】
前記セラミックス部材の前記接合境界近傍の前記接合境界に対して垂直方向の応力勾配が200MPa/0.1mm以下であることを特徴とする、請求項6または7のいずれか一項に記載のセラミックス-金属接合体。
【請求項9】
前記セラミックス-金属接合体が回路基板であることを特徴とする、請求項6~8のいずれか一項に記載のセラミックス-金属接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス部材と金属部材との接合体に関し、詳しくは、セラミックス-金属接合体においてセラミックスに生じる残留応力を緩和する方法、および、そのセラミックス-金属接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば窒化アルミニウム(AlN)など、熱伝導率が高く電気絶縁性が高いセラミックス部材に金属部材を接合したセラミックス-金属接合体は、パワーモジュール用の電子部品の搭載基板(回路基板)などに広く用いられている。
【0003】
セラミックス-金属接合体は、例えばセラミックス基板にろう材を介して金属板を貼り付ける活性金属法、あるいはセラミックス基板上に金属の溶湯を接触させ、冷却して溶湯を固化させることによりセラミックス基板に金属板を直接接合する溶湯接合法等によって接合される。セラミックス-金属接合体が回路基板の場合は、さらに金属板にエッチング加工等を施して回路が形成される。セラミックス部材と金属部材とは、互いに熱膨張率が異なることから、接合時の加熱および接合後の冷却過程により、熱膨張差に起因して、セラミックス部材に引張残留応力が発生する。そして、その後、回路基板等として使用に伴う冷熱サイクルで、セラミックス部材にクラックや破壊などが生じる場合がある。
【0004】
例えば従来のAlN(窒化アルミニウム)-Cu(銅)接合体、あるいはAlN(窒化アルミニウム)-Al(アルミニウム)接合体によるパワー半導体搭載用の回路基板の場合、熱サイクル試験(TCT)50回程度で、CuまたはAlの接合金属部端近傍のAlNから亀裂が生じることがある。亀裂が生じる前の回路基板の接合金属部端近傍の応力分布を、X線を用いて実測すると、AlNと金属との接合部端(接合境界)から0.1mm以内のセラミックス表面において、金属との接合境界に直交する方向に、400MPa以上の引張応力が残留していることがわかり、それにより、回路基板のTCT中にAlNの材料強度を超えてクラックが発生したと考えられる。
【0005】
このようにセラミックス部材に生じる亀裂を防止する方法として、例えば特許文献1には、金属部材とセラミックス部材との接合境界近傍に、高硬度の粒子を打ち込んで、セラミックス部材に生じる引張の残留応力を解放・緩和する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、異種の金属同士または金属部材と結合様式の異なる物質との接合体における界面近傍に、keV級Arイオンビームを照射して残留応力を再分布させる方法が開示され、Si側の垂直応力において圧縮応力から引張応力にシフトする傾向が確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-178080号公報
【特許文献2】特開2015-168591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献はいずれも、接合体の平面状接合界面、すなわち180°界面をもつ表面に対して垂直方向に粒子を打ち込んだりビームを照射したりする処理であり、例えばセラミックス部材の表面に金属部材が接合されたパワーモジュール用の電子部品を搭載するセラミックス-金属接合回路基板のようなセラミックス-金属接合体に対しては適用しにくい。
【0009】
以上の問題を解決するために、本発明は、セラミックス部材と金属部材との接合体において、セラミックス部材の金属部材との接合境界に対して垂直方向の引張残留応力を低減させる、セラミックス-金属接合体の残留応力緩和方法および、残留応力を緩和したセラミックス-金属接合体を提供し、セラミックス-金属接合体のセラミックス部材への熱衝撃に対するクラックの発生を抑制し、耐熱サイクル性などの耐熱衝撃性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するため、本発明は、セラミックス部材の表面に金属部材が接合された接合体において、前記セラミックス部材と前記金属部材の側面の下端との接合境界近傍における前記セラミックス部材の表面に、圧縮応力の負荷または局所加熱のうち少なくとも一方を施し、前記セラミックス部材の前記接合境界近傍の前記接合境界に対して垂直方向の引張残留応力を低減させることを特徴とする、セラミックス-金属接合体の残留応力緩和方法を提供する。
【0011】
前記圧縮応力の負荷または局所加熱のうち少なくとも一方の手段は、機械的、レーザまたは電子線のエネルギービーム、イオンビーム、光束、超音波のいずれかの照射またはこれらの複合照射でもよい。また、前記圧縮応力の負荷または局所加熱のうち少なくとも一方の手段は、水柱レーザの照射であることが好ましい。
【0012】
前記セラミックス部材は主成分がAlNまたはSiであり、前記金属部材はCu、Al、あるいはCuまたはAlのいずれかを主成分とする合金であり、前記セラミックス部材と前記金属部材との接合は活性金属法または溶湯接合法によって行われてもよい。また、前記セラミックス部材および前記金属部材が板材でもよい。
【0013】
また、本発明は、前記残留応力緩和方法で残留応力が緩和されたセラミックス-金属接合体であって、前記セラミックス部材の前記接合境界近傍の前記接合境界に対して垂直方向の引張残留応力が200MPa以下であることを特徴とする、セラミックス-金属接合体を提供する。また、前記セラミックス部材の前記接合境界近傍の前記接合境界に対して垂直方向の引張残留応力が100MPa以下でもよい。前記セラミックス部材の前記接合境界近傍の前記接合境界に対して垂直方向の応力勾配が200MPa/0.1mm以下であることが好ましい。
【0014】
前記セラミックス-金属接合体が回路基板でもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、セラミックス部材と金属部材の側面との接合境界近傍のセラミックス部材の表面に、圧縮応力の負荷または局所加熱のうち少なくとも一方を施すことにより、セラミックス部材の表面の接合境界に対して垂直方向の残留引張応力を低減させ、セラミックス部材へのヒートサイクル等の熱衝撃によるクラックの発生を抑制し、セラミックス-金属接合体の耐熱衝撃性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明が適用されるセラミックス-金属接合体の例を示し、(a)は上面図、(b)は縦断面図、(c)は底面図である。
図2図1(a)のA部の拡大図である。
図3図1(b)のB部の拡大図である。
図4図2のC部におけるセラミックス部材の接合境界に垂直方向の残留応力分布を示すグラフである。
図5】比較例1、実施例1および実施例2の結果を示すグラフである。
図6】比較例2および実施例3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
図1は、セラミックス-金属接合体1の一例を示す図である。セラミックス部材2としては、例えばAlN(窒化アルミニウム)またはSi(窒化珪素)等を主成分とする(例えばAlNまたはSiを80質量%以上含有する)セラミックスが用いられ、金属部材3としては、例えばCu、Al、あるいはCuまたはAlのいずれかを主成分とする合金等が用いられる。セラミックス部材2と金属部材3とは、活性金属を含有するろう材を用いた活性金属法、または金属溶湯を固化させる溶湯接合法等によって接合される。
【0019】
図1はセラミックス-金属接合体1の一実施形態としての回路基板を示すものである。活性金属法による接合では、セラミックス基板(板材)からなるセラミックス部材2と金属板からなる金属部材3がチタン等の活性金属を含有するろう材を介して接合され、接合後に金属部材3にエッチングを施して回路パターン等を形成することにより、パワーモジュール用などの回路基板を作製することができる。
【0020】
また、溶湯接合法による接合では、鋳型内にセラミックス基板(セラミックス部材2)を設置した後、このセラミックス基板に接触するようにアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を鋳型内に注湯し、冷却して溶湯を固化させることにより、セラミックス基板に直接接合したアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属板(金属部材3)を形成し、例えば図1に示すような形状の回路基板(セラミックス-金属接合体1)が製造される。
【0021】
セラミックス-金属接合体1が回路基板の場合、セラミックス部材2の厚さは0.2~2.0mm、さらには0.3~1.0mmであることが好ましく、金属部材3の厚さは0.2~5.0mmであることが好ましい。また金属部材3が回路パターンの場合、金属部材3の厚さは0.2~2.0mm、さらには0.25~1.0mm程度であることが好ましい。
【0022】
図2図1(a)のA部を拡大した平面図である。図3は、図1(b)のB部を拡大した縦断面図であり、セラミックス部材2の表面と金属部材3の側面の下端との接合の境界である接合境界11付近を示す縦断面図である。図3の例では、金属部材3の側面がセラミックス部材2の表面に対してなす角度は90°である。なお、本発明において、金属部材3の側面とセラミックス部材2の表面のなす角度は90°に限定されず、例えば15°以上120°以下、好ましくは45°以上90°以下であるセラミックス-金属接合体1に適用できる。
【0023】
このようなセラミックス-金属接合体1は、金属部材3との接合部において、セラミックス部材2の表面に残留応力が生じる。図4は、図2のC部における、セラミックス部材2の表面と金属部材3の側面との接合境界11に対して垂直方向(図2のC部の矢印方向)のセラミックス部材2の表面の残留応力を示し、縦軸の「+」が引張応力で「-」が圧縮応力、横軸は図2のC部であり、左右の一点鎖線は金属部材3の側面の下端の位置(接合境界11)を示す。図4に示すように、セラミックス部材2の表面に生じる残留応力は、セラミックス部材2と金属部材3の側面との接合境界11において、最も大きい引張方向の応力が生じており、接合境界11の近傍にも大きな引張応力が生じている。また、接合境界11から離れた金属部材3の中央部(図4の縦軸)付近は、接合境界11およびその近傍と比べて引張応力が小さく、圧縮応力となる領域も存在している。本発明は、この接合境界11近傍に外部から圧縮応力の負荷または局所加熱のうち少なくとも一方を施すことにより、セラミックス部材2の特に接合境界11の近傍に生じる引張応力の緩和を図る。
【0024】
引張応力の緩和手段は、例えば水柱レーザの照射等が好適であり、その他、機械的、レーザまたは電子線のエネルギービーム、イオンビーム、光束、超音波のいずれかの照射または複合照射でもよい。水柱レーザは、接合境界近傍を狙って狭い領域に照射し局所加熱することができ、好ましい。なお、水柱レーザとは、レーザの導波路に細径の噴流水柱を用いる方式であり、これにより、冷却しながら局所加熱することができる。
【0025】
圧縮応力の負荷または局所加熱の少なくとも一方を施すときには、セラミックス部材2の金属部材3との接合境界11から離れた位置にはなるべく施されないように、且つ、金属部材3(の回路部分)を損傷しないように、セラミックス部材2の表面の接合境界11からなるべく狭い範囲の接合境界11の近傍に、セラミックス部材2と金属部材3との接合界面に対し略垂直な方向から施すことが好ましい。なお、本明細書において、接合境界11の近傍とは、前述の引張応力が大きくなる部分であり、接合境界11から垂直方向に0.25mm以内の範囲(距離)のセラミックス部材2の表面の領域を意味する。したがって、例えば図3に示すように水柱レーザ12を用いる場合、水柱レーザ12の導波路水柱の直径を例えばφ0.1mm程度とし、接合境界11に沿ってセラミックス部材2の表面に照射する。レーザは例えばYAGパルスレーザが好ましく、5~50W、好ましくは10~30W程度で10~120秒、好ましくは20秒~80秒程度照射すればよい。これにより、例えばAlNからなるセラミックス部材2の接合境界11近傍(圧縮応力の負荷または局所加熱を施した(例えば水柱レーザを照射した)部位におけるセラミックス部材2の表面)の残留応力(引張応力)を200MPa以下、接合境界11近傍(接合境界11から垂直方向に0.1~0.2mmの距離の間におけるセラミックス部材2の表面)の応力勾配を200MPa/0.1mm以下とし、熱サイクル試験(TCT)500回に耐えるセラミックス-金属接合体1を実現できる。本発明にかかるセラミックス-金属接合体の残留応力緩和方法の効果は非常に大きく、接合境界11近傍の前記残留応力(引張応力)を130MPa以下、または100MPa以下、さらには50MPa以下まで低減することができる。また、前記応力勾配は、130MPa/0.1mm以下、または100MPa/0.1mm以下であることがより好ましい。
【0026】
残留応力は、例えば照射部直径0.1mmのCrKαX線束、または照射部直径0.2mmのCuKαX線束とX線2次元検出器により2D法やcosα法で測定することができる。また、X線束はCrKα、CuKαの他、MnKα、CoKαやVKαでも測定可能である。
【0027】
なお、圧縮応力の負荷または局所加熱の少なくとも一方を施すときは、セラミックス-金属接合体1の接合境界11全体に行ってもよいが、特に残留応力が大きくなる接合境界11近傍のセラミックス部材2の表面の応力集中部を選択して行うことが好ましい。
【0028】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例0029】
〈比較例1〉
高熱伝導性AlNからなる縦54mm、横108mm、厚さ0.635mmの平板状のセラミックス部材(株式会社トクヤマ製のAlN基板)の一方の主面(表面)に、縦50mm、横104mm、厚さ0.4mmのAl板からなる回路形成用の金属部材を、セラミックス部材の他方の主面(表面)に、縦58mm、横142mm、厚さ4.2mmのAl板からなる放熱板(ベース板)としての金属部材を溶湯接合法によって接合し、AlN-Al接合体(接合基板)を作成した。なお、AlN基板は放熱板の中央部に接合し、回路形成用のAl板はAlN基板の中央部に接合した。さらに、AlN基板の一方の主面に形成された厚さ0.4mmの前記Al板の表面に、スクリーン印刷により回路形状のエッチングレジスト(インク)を形成、紫外線で硬化させた後、薬液によりAl板の不要部分をエッチングにより除去し、次いでエッチングレジストを除去して、複数のアイランド(Al回路板)からなる回路パターンを形成した。アイランド間(回路間)の距離は1.15mmとした。また、AlN基板の表面とAl回路板の側面とのなす角を90°とした。その後、Al回路板の一部にNiめっき(部分めっき)を施し、セラミックス-金属接合体である回路基板を作製した。
【0030】
この回路基板の回路間のセラミック基板表面の残留応力を、X線応力測定法の2D法により測定した。X線応力測定装置として、空冷X線源(IμS)と2次元検出器(VANTEC-500)を備えたDiscover(Bruker社製)を使用した。測定は、管電圧50kV、管電流1mAとし、直径0.2mmのCuKα線のX線束を用い回折角2θ=148.3deg付近に現れるAlNの(205)回折環を測定、ヤング率(縦弾性係数)E=315GPa、ポアソン比ν=0.24として応力を求めた。
【0031】
回路基板のNiめっきが形成されていないAl回路板の全長20mmにわたる回路間(幅1.15mm)の長さ方向の中央部において、AlN基板の表面とAl回路板の側面との接合境界(接合端)から垂直方向に0.11mm、0.18mm、0.3mm離れた部位と、回路間の中央の部位をそれぞれ中心としてAlN基板表面にX線束を照射し、上記の条件でそれぞれ残留応力を測定した。残留応力の測定結果を図5に示す。図5において、縦軸の「+」が引張応力で「-」が圧縮応力、横軸は接合境界に対して垂直方向の距離、左右の一点鎖線は両側(左側、右側)の接合境界を示し、黒丸印が比較例1の測定値である。その結果、左側および右側の接合境界から0.11mmの部位のφ0.2mm領域におけるAlN基板の表面において、接合境界に垂直方向にそれぞれ、266MPa、289MPaに達する残留引張応力が生じていた。また、接合境界から垂直方向に0.18mmの部位の残留応力の測定値と、0.11mmの部位の残留応力の測定値から外挿した接合端(接合境界)の残留応力値は600MPaを超えている。
【0032】
また、図5において、接合境界から垂直方向に0.18mmの部位の残留応力の測定値と、0.11mmの部位の残留応力の測定値を結んだ直線より、接合境界から垂直方向に0.1~0.2mmの距離の間の傾きの絶対値を算出し、これをセラミックス部材の接合境界近傍における接合境界に対して垂直方向の応力勾配とした。その結果、比較例1では、図5における左側および右側の接合境界近傍の応力勾配がそれぞれ、574MPa/0.1mm、400MPa/0.1mmであった。
【0033】
〈実施例1〉
比較例1と同じ条件でAlN-Al接合体(回路基板)を作製し、ウォータレーザ加工システム(澁谷工業株式会社 LAMICS AQL-1900)を使用して、AlN基板の表面とAl回路板の側面との接合境界から垂直方向に0.05mm離れたAlN基板表面の部位を中心とし、15W、520μJのパルス発振の直径0.1mm水柱YAGレーザを60秒間照射した後、比較例1と同様の方法で残留応力を測定した。その結果、図5の左側に相当する接合境界から0.11mmの部位のφ0.2mm領域におけるAlN基板の表面において、接合境界に垂直方向の残留応力は、圧縮応力62MPaになった(図5の左側の黒四角印)。
【0034】
また、比較例1と同様に図5の左側に相当する、セラミックス部材の接合境界近傍における接合境界に対して垂直方向の応力勾配を算出したところ、106MPa/0.1mmであった。
【0035】
〈実施例2〉
AlN-Al接合体(回路基板)に水柱YAGレーザを30秒間照射した以外は実施例1と同様に回路基板を作製した後、比較例1と同様の方法で残留応力を測定した。その結果、図5の右側に相当する接合境界から0.11mmの部位のφ0.2mm領域におけるAlN基板の表面において、接合境界に垂直方向の残留応力は圧縮応力79MPaになった。なお、Al回路板の表面にNiめっきが形成されている部分と形成されていない部分の両方の位置で残留応力の測定を比較例1と同様に実施したが、いずれも、接合境界から0.11mmの部位のφ0.2mm領域におけるAlN基板の表面において、大幅に接合境界に垂直方向の残留応力が低下し、圧縮応力になった。
【0036】
また、比較例1と同様に図5の右側に相当する、セラミックス部材の接合境界近傍における接合境界に対して垂直方向の応力勾配を算出したところ、126MPa/0.1mmであった。
【0037】
すなわち、上記のように水柱レーザを照射することにより、AlN(セラミックス)基板の表面の引張の残留応力を著しく緩和(減少)させることができた。
【0038】
〈比較例2〉
高熱伝導性AlNからなる縦34mm、横34mm、厚さ0.635mmの平板状のセラミックス部材(株式会社トクヤマ製のAlN基板)の両面に、縦32mm、横32mm、厚さ0.25mmのCu板からなる金属部材を、活性金属としてTiを含むAg-Cu系ろう材を用いた活性金属法(AMC)でAlN基板に接合し、AlN-Cu接合体(接合基板)を作製した。
【0039】
さらに、AlN-Cu接合体のAlN基板の一方の主面(表面)に形成されたCu板の表面に、スクリーン印刷により回路形状のエッチングレジスト(インク)を形成し、紫外線で硬化させた後、薬液によりCu板およびろう材の不要部分をエッチングにより除去し、次いでエッチングレジストを除去して、複数のアイランド(回路板)からなる回路パターンを形成し、セラミックス-金属接合体である回路基板を作製した。AlN基板の表面とCu回路板の側面とのなす角を90°とした。アイランド間(回路間)の距離は0.9mmとした。
【0040】
そして、回路基板のCu回路板の全長20mmにわたる回路間(幅0.9mm)の長さ方向の中央部において、AlN基板の表面とCu回路板の側面との接合境界(回路パターン端部)から垂直方向に0.05mm、0.1mm、0.2mm離れた部位と、回路間の中央の部位をそれぞれ中心としてAlN基板表面にX線束を照射し、X線応力測定法の2D法により、セラミックス基板表面の残留応力をそれぞれ測定した。その測定条件は、管電圧38kV、管電流16mAとし、直径0.1mmのCrKα線のX線束を用い回折角2θ=150.3deg付近に現れるAlNの(202)回折環を測定し、ヤング率(縦弾性係数)E=315GPa、ポアソン比ν=0.24として応力を求めた。
【0041】
残留応力の測定結果を図6に示す。図6において、縦軸の「+」が引張応力で「-」が圧縮応力、横軸は接合境界に対して垂直方向の距離、左右の一点鎖線は両側(左側、右側)の接合境界を示し、黒丸印が比較例2の測定値である。その結果、左側および右側の接合境界から0.05mmの部位のφ0.1mm領域におけるAlN基板の表面において、接合境界に垂直方向に、それぞれ、350MPa、333MPaに達する残留引張応力が生じていた。また、接合境界から垂直方向に0.1mmの部位の残留応力の測定値と、0.05mmの部位の残留応力の測定値から外挿した接合端(回路パターン端部、接合境界)の残留応力値は400MPaを越えている。この回路基板に対して、100℃から-50℃の熱サイクル試験(TCT)を行ったところ、200回でAlN接合端部から亀裂が生じた。
【0042】
また、図6に示すように、接合境界から垂直方向に0.2mmの部位の残留応力の測定値と、0.05mmの部位の残留応力の測定値を結んだ直線より、接合境界から垂直方向に0.1~0.2mmの距離の間の傾きの絶対値を算出し、これをセラミックス部材の接合境界近傍における接合境界に対して垂直方向の応力勾配とした。その結果、比較例2では、図6における左側および右側の接合境界近傍の応力勾配が、それぞれ、281MPa/0.1mm、222MPa/0.1mmであった。
【0043】
〈実施例3〉
比較例2と同じ条件でAlN-Cu接合体(回路基板)を作成し、ウォータレーザ加工システム(澁谷工業株式会社 LAMICS AQL-1900)を使用して、AlNとCuの側面との接合境界から垂直方向に0.05mm離れた部位に、15W、520μJ、パルス発振の直径0.1mmの水柱YAGレーザを60秒間照射した後、比較例1および実施例1、2と同様のCuKα線を用いたX線応力測定法の2D法で残留応力を測定した。その結果、図6の左側に相当する接合境界から0.05mmの部位のφ0.1mm領域におけるAlN基板の表面において、接合境界に垂直方向の残留応力は、引張応力20MPaになった(図6の黒四角印)。また、比較例2と同様にTCTを行ったところ、600回までAlN基板に亀裂が発生しなかった。
【0044】
また、比較例2と同様に、図6の左側に相当する、セラミックス部材の接合境界近傍における接合境界に対して垂直方向の応力勾配を算出したところ、61MPa/0.1mmであった。
【0045】
すなわち、上記のように水柱レーザを照射することにより、AlN(セラミックス)基板の表面の引張の残留応力を著しく緩和(減少)させることができ、接合基板のヒートサイクル特性を向上させることができた。
【0046】
以上のように、本発明によれば、セラミックス部材と金属との接合境界近傍のセラミックス部材の表面に圧縮応力の負荷または局所加熱のうち少なくとも一方を施すことにより、接合境界近傍における接合境界に対して垂直方向の引張残留応力が200MPa以下(130MPa以下)、接合境界近傍における接合境界に対して垂直方向の応力勾配が200MPa/0.1mm以下(130MPa/0.1mm以下)を実現することができ、耐TCTを2倍以上に向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、セラミックス部材の表面に金属部材を接合した接合体に適用できる。さらに、パワーモジュール用の半導体搭載用セラミックス-金属接合体(セラミックス-金属接合回路基板)として好適である。
【符号の説明】
【0048】
1 セラミックス-金属接合体
2 セラミックス部材
3 金属部材
11 接合境界
12 水柱レーザ
図1
図2
図3
図4
図5
図6