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特開2022-22657立体表示用ガラス基板およびこれを備えた非接触操作装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022657
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】立体表示用ガラス基板およびこれを備えた非接触操作装置
(51)【国際特許分類】
   G03B 35/18 20210101AFI20220131BHJP
   C03C 15/00 20060101ALI20220131BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20220131BHJP
   G09F 13/00 20060101ALI20220131BHJP
   G09F 13/04 20060101ALI20220131BHJP
   G06F 3/02 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
G03B35/18
C03C15/00 B
C03C23/00 D
G09F13/00 R
G09F13/04 J
G06F3/02 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020113295
(22)【出願日】2020-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】509154420
【氏名又は名称】株式会社NSC
(71)【出願人】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】100218903
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 龍也
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕紹
(72)【発明者】
【氏名】佐事 郁弥
(72)【発明者】
【氏名】林 篤嗣
(72)【発明者】
【氏名】柏原 康宏
(72)【発明者】
【氏名】谷口 信吾
(72)【発明者】
【氏名】福成 良介
(72)【発明者】
【氏名】鴇田 百栄
【テーマコード(参考)】
2H059
4G059
5B020
5C096
【Fターム(参考)】
2H059AC00
4G059AA01
4G059AA13
4G059AC01
4G059BB04
4G059BB14
5B020CC11
5C096AA27
5C096BA01
5C096BA06
5C096BC12
5C096CA04
5C096CA32
5C096CB01
5C096CC06
5C096EA01
5C096FA18
(57)【要約】
【課題】 安価で、かつ、部品点数を増やすことなく操作案内用の案内マークを立体表示可能な立体表示用ガラス基板および非接触操作装置を提供する。
【解決手段】 立体表示用ガラス基板10は、立体表示されるべき操作案内用の案内マークの形状に基づいて配置された複数の立体表示用微細溝(円弧状微細溝102)が設けられた立体像形成領域100を備えている。この立体像形成領域100は、複数の立体表示用微細溝に当てられた光を散乱もしくは反射またはこれらの両方をさせることによって、基板面から離れた位置において操作者に対して案内マーク像20を提示するように構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作案内用の案内マークを立体表示するように構成された立体表示用ガラス基板であって、
立体表示されるべき操作案内用の案内マークの形状に基づいて配置された複数の立体表示用微細溝が設けられた立体像形成領域を備えており、
前記立体像形成領域は、前記複数の立体表示用微細溝に当てられた光を、指向性をもって散乱、屈折、もしくは反射させることによって、基板面から離れた位置において操作者に対して案内マークの像を提示するように構成されることを特徴とする立体表示用ガラス基板。
【請求項2】
前記立体表示用微細溝の表面にエッチング処理面が設けられることを特徴とする請求項1に記載の立体表示用ガラス基板。
【請求項3】
前記複数の立体表示用微細溝は、前記案内マークを構成する複数の点のそれぞれを中心とした所定半径でかつ所定角度の円弧形状部分をそれぞれ含むことを特徴とする請求項1または2に記載の立体表示用ガラス基板。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の立体表示用ガラス基板と、
前記立体表示用ガラス基板に対して光を照射するように構成された光源と、
前記案内マークの像が形成された位置への操作者の操作動作を検出するように構成された検出手段と、
を少なくとも備えた非接触操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、非接触操作装置の操作パネルに適用可能な立体表示用ガラス基板およびこれを備えた非接触操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
操作装置は、一般に、操作者による押圧操作等を受け付ける操作パネルを備えており、この操作パネル上の操作ボタンや案内マーク等への操作者の押圧操作等に応じた信号を出力して、操作対象の電子機器を動作させるものである。従来、操作パネルの利便性や意匠性の向上のためにさまざまな開発が行われており、操作装置は発展を遂げてきたと言える。
【0003】
ところが、近年、感染病の接触感染による感染拡大を防止する観点で、非接触の操作を可能にするタッチレス化の要請が急激に高まってきている。
【0004】
そこで、操作装置のタッチレス化に注目すると、従来、タッチレス操作装置の多くにおいて、操作パネルから手前に浮き出るようにされた操作案内用の立体視画像と、操作者の手指の存在を検出する検出手段と、を備える構成が広く採用されてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-223102号公報
【特許文献2】特開2012-194617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のタッチレス操作装置は、屈折率分布型レンズ素子等の高価な結像手段が必要になることが多く、安価にタッチレス化を図ることが困難であった。
【0007】
たとえ、結像手段の低コスト化を図ったとしても、操作の案内をするための案内マークの元絵を表示する手段と、この元絵を立体視させるための立体画像再生手段とをそれぞれ備える必要があるため、部品点数が多くなってしまうという不都合もあった。
【0008】
この発明の目的は、安価で、かつ、部品点数を増やすことなく操作案内用の案内マークを立体表示可能な立体表示用ガラス基板および非接触操作装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る立体表示用ガラス基板は、操作案内用の案内マークを立体表示するように構成されており、例えば、非接触操作装置の操作パネルの用途に用いられる。ただし、この用途に限定されるものではなく、案内マークの視認性を向上させるメリットがある様々なシーン(例:自動ドアのタッチ位置案内表示)で用いることが可能である。
この立体表示用ガラス基板は、立体表示されるべき操作案内用の案内マークの形状に基づいて配置された複数の立体表示用微細溝が設けられた立体像形成領域を備えている。
【0010】
立体像形成領域は、複数の立体表示用微細溝に当てられた光を、指向性をもって散乱、屈折、もしくは反射させることによって、基板面から離れた位置において操作者に対して案内マークの像を提示するように構成される。通常、立体表示用微細溝に当てられた光は、溝に対して垂直な面内に指向性をもって散乱、屈折、または反射する。操作者に対して案内マークの像を提示する際に、散乱、屈折、または反射の光学現象の1つだけを利用しても良いし、2つ以上を同時に利用しても良い。
【0011】
上述の構成においては、操作案内用の案内マークを空中に結像させるための屈折率分布型レンズ素子等の高価な結像手段や、案内マークを立体視させるための立体画像再生手段等を別途設ける必要がない。
【0012】
立体像形成領域の仕組みは、アーク3Dと呼ばれる、指向性のある光の散乱を用いた3D表示技術を原理とするものであり、その原理自体は従来から知られているものである。
【0013】
ただし、従来のアーク3Dでは、タッチレス操作パネルに適用して実用化することが困難であるとされていたものを、本発明において好適に実用化したものである。
【0014】
従来のアーク3D技術は、プラスチック板の主面に円弧状の傷をつけて実現しており、プラスチックの劣化や傷表面の微細な構造による散乱が目立った。特に傷が交差する点においては乱反射する課題があった。
【0015】
また、従来のアーク3D技術は、円弧状の傷を形成するための加工に時間とコストを要するため、産業上の利用が難しかった。しかも、操作パネルにそのまま適用すると、円弧状の傷自体が目立ってしまい、操作パネルの美観性が損なわれることが懸念されており、実用化が試みられていなかった。
【0016】
これに対して、本発明においては、アーク3D技術を好適にガラス基板に応用し、これをタッチレス操作パネル等に適用して実用化することに成功したものである。
【0017】
上述の立体表示用微細溝は、透明なガラス基板に設けられた目立たない溝であり、傷とは異なって、微細な溝自体が操作者によってほとんど視認されないため、立体表示用微細溝の存在によって美観性が損なわれにくい。
【0018】
立体表示用微細溝は、円弧状であることが好ましいが、円弧部分を一部に含む曲線やこれと直線を組み合わせた形状であっても好適に立体表示機能を発揮する。また、立体表示微細溝が、直線のみで構成されている場合であっても、立体表示される像の距離が遠方になる、もしくは観察距離が長くなるだけで、立体表示機能自体は失われない。
【0019】
板状のガラスに対して立体表示用微細溝を形成する手法の例としては、ウェットエッチングやドライエッチング等のエッチング処理や、これにレーザ加工を併用したレーザアシストエッチング処理等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
上述の構成において、立体表示用微細溝の表面にエッチング処理面が設けられることが好ましい。エッチング処理面とは、エッチング処理等の化学処理によって得られる平滑面(物理的処理の場合に比較して表面粗さが小さい)である。
また、上述の構成において、複数の立体表示用微細溝が、案内マークを構成する複数の点のそれぞれを中心とした所定半径でかつ所定角度の円弧形状部分をそれぞれ含むことが好ましい。
【0021】
円弧形状部分の半径や角度を適宜調整することにより、所望の奥行きや明るさを有する案内マーク像を空中に表示させることが可能になる。
【0022】
また、上述の立体表示用ガラス基板と、立体表示用ガラス基板に対して光を照射するように構成された光源と、案内マークの像が形成された位置への操作者の操作動作を検出するように構成された検出手段と、を少なくとも備えた非接触操作装置を構成することが好ましい。
【0023】
このような非接触操作装置によれば、簡易な構成で、かつ、安価に、接触感染予防効果が高いタッチレス化された操作装置を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、安価で、かつ、部品点数を増やすことなく操作案内用の案内マークを立体表示可能な立体表示用ガラス基板および非接触操作装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係るタッチレス操作装置の概略構成を示す図である。
図2】立体表示用ガラス基板の概略構成を説明する図である。
図3】立体表示用ガラス基板の製造プロセスにおけるレーザ加工処理の一例を示す図である。
図4】立体表示用ガラス基板の製造プロセスにおけるエッチング処理の一例を示す図である。
図5】立体表示用ガラス基板の製造プロセスにおけるエッチング処理のバリエーションの例を示す図である。
図6】立体表示用ガラス基板の製造プロセスの他の例を示す図である。
図7】立体表示用ガラス基板の製造プロセスの他の例を示す図である。
図8】操作案内用の案内マークのバリエーションの例を示す図である。
図9】立体表示用ガラス基板の構成のバリエーションの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1(A)は、本発明の一実施形態に係る立体表示用ガラス基板が適用されるタッチレス操作装置30の概略を示している。タッチレス操作装置30は、非接触の操作が可能な操作装置である。タッチレス操作装置30は、立体表示用ガラス基板10、光源12、センサ14、および装置の各部の動作を統括的に制御する制御部(図示省略)を少なくとも備える。
【0027】
立体表示用ガラス基板10は、透明な板状を呈しており、光源12から照射される光を散乱させて、視点40の位置の操作者に、立体表示用ガラス基板10の主面から離れた位置で、案内マーク像20を見せるように構成された立体像形成領域100を備える。
【0028】
この実施形態では、立体表示(浮上表示)させるべき案内マークとして、呼び出しチャイムのマークが採用されており、立体表示用ガラス基板10の主面から距離Dだけ離れた位置に呼び出しチャイムの形状を呈する案内マーク像20が見えるようになっている。
【0029】
光源12は、例えば、LEDユニット等の指向性の高い光を立体表示用ガラス基板10に対して照射するように構成される。光源12の光の指向性が高いほど、案内マーク像20を構成する輝点パターンが明るく見えるため、案内マーク像20として必要な明るさに応じて適宜好適な指向性の光源12を選択すると良い。
【0030】
センサ14は、案内マーク像20が形成されている位置に、操作者の手指が存在するか否かを検出するように構成される。センサ14の構成の例としては、赤外線センサが挙げられる。
【0031】
ただし、その他の形式のセンサ(例えば、測定すべき位置に向けて照射した光の反射光や透過光の検出状態に基づいて、測定位置における操作者の手指の存在を検出する光学式センサ等)を用いることも可能である。
【0032】
ここで、図1(B)を用いて、上述の立体像形成領域100について、より具体的に説明する。立体像形成領域100は、所望する案内マークの形状に基づいて、所定の法則に従って設計される複数の円弧状微細溝102(本発明の立体表示用微細溝に対応)を有している。
【0033】
立体像形成領域100は、複数の円弧状微細溝102における光の散乱特性を利用して、所望の案内マークの立体視を可能にしている。
【0034】
これは、図1(C)に示すように、光源12と視点40の位置とを結ぶ直線60を軸とした円70に接する条件を満たした部分が明るく見えるという原理(いわゆる、ARC 3D(アーク3D)の原理として、1992年のW.T.Plummer氏を始めとして多くの研究者が研究中の原理)を利用したものである。
【0035】
立体像形成領域100に設けられた複数の円弧状微細溝102は、図1(C)で示した円70と接する部分を多く有しているため、視点40の位置から見る操作者にとって、明るく見えることになる。ただし、円弧状微細溝102に代えて直線状の立体表示微細溝を採用した場合であっても、円70と接する部分は選択的に明るく見えるため、立体表示機能自体が失われることはない。
【0036】
いわゆるアーク3D表示技術においては、立体表示用ガラス基板10の立体像形成領域に複数の円弧状微細溝102を設け、これを光源12によって照明することによって所望の案内マークの形状を呈する立体像(案内マーク像20)を提示できる。
【0037】
ここでは、複数の円弧状微細溝102に光が入射し、それぞれの円弧状微細溝102において光が指向性をもって散乱、屈折、または反射のいずれか1つ以上をするとき、円弧状微細溝102から円錐状の方向に強く光が放射されて、これが視点40の位置の操作者の眼に入って輝点として感じられる。
【0038】
そして、視点40の位置の移動と共に円弧状にある輝点が円弧上を連続的に移動する現象を利用している。左右眼では、視点40となる位置が異なるためそれぞれ別の視差をもった像が入射されて、連続的なステレオ視によって操作者が立体感を得ていると推察される。
【0039】
続いて、図2(A)~図2(C)を用いて、上述した立体像形成領域100をより詳細に説明する。これらの図が示すように、立体像形成領域100において、円弧状微細溝102のそれぞれは、立体表示されるべき案内マークを構成する複数の点80、言い換えると、この案内マークの形状に沿って所定間隔で配置される点(画素)、のそれぞれを中心とした所定半径でかつ所定角度の円弧形状を呈している。
【0040】
案内マークを構成する複数の点80の間隔は、実現可能な円弧状微細溝102の幅等に基づいて適宜決定すれば良い。通常は、5~20mm程度の間隔を設けて点80を配置することによって、操作の案内の用途に利用可能な程度の解像度の案内マーク像20を形成することができる。
【0041】
ここで、図2(C)に示す円弧状微細溝102の半径Rの大きさによって、図1(A)に示す距離Dが影響されることが分かっている。
【0042】
例えば、半径Rが大きくなるほど、距離D(奥行き)は大きくなる。また、立体表示用ガラス基板10に対する光源12から照明される光の角度(入射角)が大きくなるほど、距離D(奥行き)は小さくなる。また、操作者の視点40の位置を実効的に左右に変化させても、距離D(奥行き)はほとんど変化しない。
【0043】
続いて、図3図5を用いて、立体表示用ガラス基板10の製造方法の一例を説明する。
【0044】
まず、図3(A)および図3(B)に示すように、所望の案内マークの形状によって定められる円弧状微細溝102の形成予定位置にレーザビームを走査させて、微細溝形成用の改質ライン104を形成する。
【0045】
レーザビームは、立体表示用ガラス基板10における円弧状微細溝102の形成予定位置をエッチングされ易い性質に改質できる限り、その種類および照射条件は限られない。
【0046】
この実施形態では、レーザヘッドから、短パルスレーザ(例えばピコ秒レーザ、フェムト秒レーザ)から発振されるレーザビームが照射されているが、例えば、CO2レーザ等のガスレーザやその他の種類のレーザ等を用いても良い。この実施形態では、レーザビームの平均レーザエネルギが、約10μJ~1000μJ程度になるように出力制御が行われている。
【0047】
円弧状微細溝102の形成予定位置に形成される改質ライン104は、例えば、ピコ秒レーザまたはフェムト秒レーザ等のパルスレーザから照射されるレーザビームパルス(ビーム径は1~10μm程度)によって形成される複数のフィラメント層を配列したフィラメントアレイの形状を呈する。
【0048】
改質ライン104は、立体表示用ガラス基板10における他の箇所よりもエッチングされ易い性質を有するのであれば、その形状は特定のものに限定されるものではない。
【0049】
レーザビームは、適宜、その集光領域が調整されることが好ましい。ここでは、レーザビームの集光領域を適宜調整することによって、円弧状微細溝102の深さを調整している。
【0050】
上述のレーザ加工処理によって改質ライン104が形成された後は、エッチング処理によって、改質部分が他の箇所よりも迅速に溶解し、図3(C)に示すように、改質ライン104が円弧状微細溝102となる。
【0051】
ここで、本実施形態におけるエッチング処理について、図4(A)および図4(B)を用いて簡単に説明する。上述の立体表示用ガラス基板10は、エッチング装置50に導入されることによってエッチング処理が行われる。
【0052】
ここでは、例えば、フッ酸および塩酸等を含むエッチング液によるエッチング処理が施される。通常、フッ酸1~10重量%、塩酸5~20重量%程度を含むエッチング液が用いられ、必要に応じて適宜、界面活性剤等が併用される。
【0053】
エッチング装置50では、搬送ローラによって立体表示用ガラス基板10を搬送しつつ、エッチングチャンバ52内で立体表示用ガラス基板10の主面にエッチング液を接触させることによって、立体表示用ガラス基板10に対するエッチング処理が行われる。
【0054】
なお、エッチング装置50におけるエッチングチャンバ52の後段には、立体表示用ガラス基板10に付着したエッチング液を洗い流すための洗浄チャンバが設けられている。このため、立体表示用ガラス基板10はエッチング液が取り除かれた状態でエッチング装置50から排出される。
【0055】
以上のように、立体表示用ガラス基板10における円弧状微細溝102を形成すべき位置に対して、適宜、レーザ照射による改質処理とエッチング処理とを行うことによって、微細で滑らかな円弧状微細溝102を実現することができる。しかも、円弧状微細溝102の表面には傷がほとんどない平滑面が形成される。
【0056】
立体表示用ガラス基板10にエッチング液を接触させる手法の代表例は、図4(B)および図5(A)に示すように、エッチング装置50の各エッチングチャンバ52において、立体表示用ガラス基板10に対してエッチング液をスプレイする枚葉式かつスプレイ式のエッチング処理である。
【0057】
ただし、エッチング処理は、スプレイ式のエッチング処理に限定されるものではなく、図5(B)に示すように、オーバーフロー型のエッチングチャンバ54において、オーバーフローしたエッチング液に接触させながら立体表示用ガラス基板10を搬送するオーバーフロー式のエッチング処理であっても良い。
【0058】
さらには、図5(C)に示すように、エッチング液が収納されたエッチング槽56に、キャリアに収納された単数または複数の立体表示用ガラス基板10を浸漬されるディップ式のエッチングを採用することも可能である。
【0059】
上述のエッチング処理によって、円弧状微細溝102の形成予定位置の改質ライン104が溶解し、円弧状微細溝102が形成される。上述の手法によって幅が極限まで最小化された円弧状微細溝102を形成することが可能である。円弧状微細溝102の幅は、5μm~500μm程度の範囲で適宜調整することが可能である。
【0060】
この実施形態では、円弧状微細溝102を目立たなくするために、その幅が500μm以下になるようにしている。特に、円弧状微細溝102の幅が100μm以下になれば、円弧状微細溝102が無意識ではほとんど視認できないようになる。
【0061】
円弧状微細溝102の深さについては、特定の範囲に限定されるものではないが、一般的に深さが大きくなるほど案内マーク像20の明るさが増すというメリットがある一方で、円弧状微細溝102が視認され易くなるというデメリットがある。このため、タッチレス操作装置30の用途に応じて、適宜、好適な深さ(一般的には、1μm~100μm程度)を設定すると良い。
【0062】
また、上述した、立体表示用ガラス基板10の生産効率をさらに高めるために、図6(A)および図6(B)に示すように、立体表示用ガラス基板10を多面取りするためのガラス母材200に対してレーザ加工処理やエッチング処理等を行い、その後に分断する手法を採用することも可能である。
【0063】
例えば、図6(A)に示すように、立体表示用ガラス基板10になるべき複数の領域を4行×4列のマトリックス状に配置したガラス母材200は、スクライブブレーク法によって、16枚の立体表示用ガラス基板10に分断することが可能である。
【0064】
スクライブブレーク法以外では、エッチング処理によって分断することも可能である。エッチング処理によって分断する場合は、ガラス母材200の両主面(必要に応じて端面)を保護膜で被覆した後、切断箇所に対応する箇所の保護膜を除去してからエッチング処理すると良い。
【0065】
上述の方法によって製造した立体表示用ガラス基板10をタッチレス操作装置30において用いることによって、各種の操作ボタンをタッチレス化(非接触化)することが可能になる。
【0066】
具体的には、立体表示用ガラス基板10から案内マーク像20が空中に浮かび上がり、空中の案内マーク像20に案内されつつ容易にタッチレス操作を行うことが可能になる。
【0067】
このように、円滑なタッチレス操作を実現することによって、立体表示用ガラス基板10を搭載したタッチレス操作装置30を、接触感染防止のためのタッチレスインターフェースとして活用することができる。
【0068】
公共空間にあるドアの開閉スイッチや電灯のオンオフスイッチをタッチレス化することにより、高い接触感染防止効果が期待できる。例えば、エレベータや洗面所などの不特定多数の人間が接触する各種ボタンをタッチレス化することにより、感染病に感染するリスクを低減することができる。
【0069】
特に、センサのみによってタッチレス化する場合に比較しても、空中に浮かび上がった案内マーク像20の案内によって、どこの空間に手指を移動させれば良いのかを把握し易いため、老若男女を問わず、使い勝手の良いタッチレスインターフェースを実現できる。
【0070】
本実施形態のように、透明なガラス基板に立体表示用ガラス基板10、微細かつ滑らかな複数の円弧状微細溝102を設けることによって、所望の案内マークの空中ガイド表示が実現し、しかも、円弧状微細溝102自体は操作者がほとんど視認できないため、円弧状微細溝102の存在によって美観性が損なわれることがない。
【0071】
立体表示用ガラス基板10は、耐薬品性に優れるガラスを素材とするものであるため、例えば、アルコールや次亜塩素酸ナトリウム等の消毒剤を用いて払拭しても劣化しない。
【0072】
しかも、ガラスは一般に樹脂等に比較して、透明性が高いため、立体表示用ガラス基板10を、ドアや壁材に貼り付けて使用した場合でも、これらの美観性を損なうことがない。
【0073】
さらには、立体表示用ガラス基板10を、ガラスミラーや液晶パネルの表明に貼り付けても、これらのガラスと熱膨張率がほぼ等しいため、熱膨張の差に起因する歪みが生じにくい。
【0074】
上述の実施形態においては、立体表示用ガラス基板10をレーザ加工処理およびエッチング処理によって製造する例を説明したが、立体表示用ガラス基板10の製造方法はこれ限定されるものではない。
【0075】
例えば、図7(A)~図7(D)に示すように、立体表示用ガラス基板10に、耐エッチング液性を有するマスク剤106を塗布し、円弧状微細溝102の形成位置のみ露出するようにマスク剤106を除去してからエッチング処理を行う手法を用いることも可能である。
【0076】
マスク剤106としては、耐酸性レジストやクロムマスク等を適宜用いると良い。マスク剤106は、円弧状微細溝102を形成した後に図7(D)に示すように剥離する必要があるため、剥離性も考慮して適宜選択することが好ましい。
【0077】
このようなマスク剤106を用いる場合、上述したようなウェットエッチングを行っても良いが、ドライエッチングを行うことによっても円弧状微細溝102を形成することが可能である。
【0078】
ここで、エッチング処理後の円弧状微細溝102の平滑さによって、案内マーク像20の明るさや奥行きが変化するため、所望の案内マーク像20の仕様に応じて、エッチング処理条件を調整することによって円弧状微細溝102の平滑さを調整することが好ましい。
【0079】
また、この実施形態では、タッチレス操作のための案内マーク像20として、図8(A)に示すような呼び出しチャイムのマークを採用したが、案内マーク像20の構成はこれには限定されない。
【0080】
例えば、図8(B)に示すような、エレベータの階数を示す数字を案内マーク像20として採用しても良いし、図8(C)に示すような、呼び出しの「呼」という漢字を案内マーク像20として採用しても良い。
【0081】
また、これら以外に照明のオンオフを切り替えるためのスイッチのマークや、その他さまざまな文字やアイコンや絵文字等を案内マーク像20として用いることが可能である。
【0082】
さらには、単一の案内マーク像20ではなく、複数の位置に複数種類の案内マーク像20を同時に表示するようにして、操作者の手指が検出された位置に応じて、その位置の案内マーク像20に対応する処理を行うようなタッチレス操作装置30を構成することも可能である。
【0083】
例えば、10個またはそれ以上の案内マーク像20によって、階数を入力できるようにすることで、タッチレス操作装置30をエレベータの操作装置として利用することが可能になる。
【0084】
上述の実施形態では、光源12からの透過光を利用して案内マーク像20が操作者に見えるようにしていたが、透過光だけでなく反射光を用いるような構成を採用することも可能である。
【0085】
さらに、図9(A)に示すように、立体表示用ガラス基板10の円弧状微細溝102をカバーガラス108で覆うように構成しても良い。このとき、カバーガラス108と円弧状微細溝102とによって構成される空間に所望の屈折率を有する充填剤(接着剤等)を充填するようにしても良い。例えば、充填剤としてガラスよりも屈折率が高いものを採用すると、溝部分に凸状部を配置したときと同様の光学的効果が得られる。
【0086】
このようなカバーガラス108を用いることによって、円弧状微細溝102の防塵効果や汚損防止効果を高めることが可能である。このため、円弧状微細溝102において経時的に指向性のある光の散乱が得られなくなるといった不具合の発生を防止することが可能になる。
【0087】
また、図9(B)に示すように、立体表示用ガラス基板10の両面に円弧状微細溝102を設けるようにしても良い。このような構成を採用すると、円弧状微細溝102が互いに交差することを防止しつつ、より密接して配置することが可能になる。その結果、円弧状微細溝102が交差する箇所を減じることが可能となり、乱反射がより一層発生しにくくなるため、指向性を高めることが可能になる。
【0088】
同様に、図9(C)に示すように、立体表示用ガラス基板10を積層して配置することによっても、円弧状微細溝102が互いに交差することを防止しつつ、より密接して配置することが可能になる。このとき、立体表示用ガラス基板10を超薄化すれば、積層数を増やすことも可能である。
【0089】
図9(B)および図9(C)のように、異なる平面に円弧状微細溝102を設ける際において、第1の面および第2の面において互いに直交する方向の運動視差が再現されるように円弧状微細溝102を設けても良い。
【0090】
このような構成を採用することによって、上下左右の運動視差のある立体表示が可能となる。例えば、左右眼の視点40が左右方向(水平方向)において異なるシーンだけでなく、左右眼の視点40が上下方向(垂直方向)において異なるシーン(例:顔を傾けていたり寝転がったりしているシーン)においても、操作者が立体感を得られ、立体像を見ることができる。
【0091】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0092】
10-立体表示用ガラス基板
12-光源
14-センサ
20-案内マーク像
30-タッチレス操作装置
100-案内マーク形成領域
102-円弧状微細溝
図1
図2
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図9