IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 一丸ファルコス株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧

<>
  • 特開-炎症性サイトカイン抑制剤 図1
  • 特開-炎症性サイトカイン抑制剤 図2
  • 特開-炎症性サイトカイン抑制剤 図3
  • 特開-炎症性サイトカイン抑制剤 図4
  • 特開-炎症性サイトカイン抑制剤 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022672
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】炎症性サイトカイン抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7034 20060101AFI20220131BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20220131BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/24 20060101ALN20220131BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20220131BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20220131BHJP
【FI】
A61K31/7034 ZNA
A61P43/00 121
A61P29/00
A61P17/00
A61K8/49
A61Q17/04
A61P43/00 105
C12N15/24
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020113889
(22)【出願日】2020-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000119472
【氏名又は名称】一丸ファルコス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 悟
(72)【発明者】
【氏名】アルナシリ イダマルゴダ
(72)【発明者】
【氏名】光永 徹
【テーマコード(参考)】
4B063
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS32
4B063QS34
4B063QX01
4B063QX02
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC122
4C083AC352
4C083AC402
4C083AC432
4C083AC482
4C083AC662
4C083AD662
4C083CC02
4C083CC19
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE06
4C083EE12
4C083EE13
4C083EE17
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA08
4C086MA02
4C086MA04
4C086ZA89
4C086ZB11
4C086ZC75
(57)【要約】      (修正有)
【課題】イザヨイバラ果実抽出液に含まれる炎症性サイトカイン抑制剤の有効成分を同定すること、及びこれを含む皮膚外用剤を提供すること。
【解決手段】イザヨイバラ果実抽出液からカラムクロマトグラフィー等を用いて分画、精製した下式の化合物等を有効成分として含む、炎症性サイトカインを抑制するための剤。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化5】
で表される化合物、及び
下記式(II):
【化6】
で表される化合物又はそれらの塩、を有効成分として含む、炎症性サイトカインを抑制するための剤。
【請求項2】
前記式(I)で表される化合物と、前記式(II)で表される化合物との含有比率が、質量比で4:7~8:4である、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
皮膚の表皮細胞における炎症性サイトカイン惹起物質を実質的に含まない、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の剤を含有する皮膚外用剤。
【請求項5】
炎症終息作用を有する請求項4に記載の皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性サイトカイン抑制剤などに関し、より詳細には、ヒトなどにおいて、紫外線や熱、乾燥などの外界からの刺激によって生じる皮膚表皮細胞における炎症性サイトカインの発現を抑制する剤など、に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、本来は生体の防御システムのひとつであり、外因性因子によって引き起こされる。例えば、細菌やウイルス等の病原性微生物、外傷や放射線等の物理的因子、酸やアルカリ、金属等の化学的因子などは炎症を誘引する。皮膚では紫外線や熱、乾燥などの外界からの刺激によって、日焼けや紅斑、アトピー性皮膚炎などの炎症が引き起こされると考えられる。紫外線(近紫外線)は、波長により生体に対する影響がそれぞれ異なるが、例えば、UVA(320~400nm)の皮膚に対する効果は、コラーゲンなど真皮の細胞外マトリックスを構成するタンパク質が活性酸素により変性され、皮膚のしわ、たるみ、弾力低下等の原因となる。一方、UVB(320~280nm)は、UVAよりも大きなエネルギーを持っている。角化細胞にUVBが照射されると、炎症性サイトカインであるインターロイキン-1β(IL-1β)、インターロイキン-6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)等の発現が誘導され、炎症反応が起こる。この炎症反応は、炎症担当細胞である好中球やマクロファージ等の過度の集中による活性酸素の過剰産生をもたらし、皮膚組織を傷害する結果となる。
【0003】
本発明者らは、TLR-3アゴニストとして作用するPoly(I:C)で処理したヒト角化細胞が炎症性サイトカイン(IL-8,IL6、TSLP,TNFα等)やMMP3などの発現を誘導すること、そしてイザヨイバラ果実抽出物がこれら炎症性サイトカインやMMP3の産生亢進に対する抑制効果を有し、日焼け止め化粧料の有効成分となりうることをすでに報告している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】化学と生物、674から680ページ、Vol.54、No.9、2016
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-58806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明により解決しようとする課題は、TLR-3アゴニストであるPoly(I:C)により誘導されるIL-8の発現を指標として、イザヨイバラ果実抽出液に含まれる炎症性サイトカイン抑制剤の有効成分を同定すること、及びこれを含む皮膚外用剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために、イザヨイバラ果実抽出液から炎症性サイトカイン抑制剤の有効成分の単離について検討した結果、カラムクロマトグラフィー等を用いて分画、精製した特定の化合物が、Poly(I:C)により誘導されるIL-8の発現抑制作用、並びにヒトでの紫外線による日焼け防止効果を有することなどを見出すことによって、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の実施形態を含む。
(1)下記式(I):
【0009】
【化1】
で表される化合物、及び
下記式(II):
【0010】
【化2】
で表される化合物又はそれらの塩、を有効成分として含む、炎症性サイトカインを抑制するための剤。
(2)式(I)で表される化合物と、式(II)で表される化合物との含有比率が、質量比で4:7~8:4である、(1)に記載の剤。
(3)皮膚の表皮細胞における炎症性サイトカイン惹起物質を実質的に含まない、(1)又は(2)に記載の剤。
(4)(1)~(3)の何れか一項に記載の剤を含有する皮膚外用剤。
(5)炎症終息作用を有する(4)に記載の皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の剤は、例えば、ヒト表皮細胞において炎症性サイトカインの産生を抑制することができ、日焼け止め用皮膚外用剤などに含有される物などに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、イザヨイバラ果実抽出液からの有効成分の精製方法を示すフロー図である。
図2図2は、ヒト正常表皮細胞における本発明の剤による炎症性サイトカイン(IL-8)の発現抑制活性を示すグラフである。
図3図3は、ヒト正常表皮細胞におけるイザヨイバラ果実メタノール抽出液及び精製画分の炎症性サイトカイン(IL-8)の発現抑制活性を示すグラフである。
図4図4は、ヒト正常表皮細胞における化合物A及び化合物Bの炎症性サイトカイン(IL-8)の発現抑制活性を示すグラフである。
図5図5は、本発明の剤を含むローションを塗布したヒトモニター試験における日焼け予防効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(定義)
本明細書において、「炎症性サイトカインの抑制剤」とは、ヒトなどの生体内において、種々の外部刺激によって産生される炎症性サイトカインを抑制する薬剤又は組成物を意味する。1つの実施形態において、「剤」とは、皮膚外用剤(例えば、医薬品、化粧料)などに添加して、これらの製品に炎症性サイトカインを抑制する作用を付与するための添加剤であり、液体、固体又は粉体などの種々の形態をとりうる。「炎症性サイトカイン」とは、TNFα、IL-1α、IL-1β、IL-6、IFNγ、IL-8、IL-10、IL-12、IL-15、IL-18、及びGM-CSF等を含むが、これらに限定されない。
【0014】
「抑制」とは、炎症性サイトカインの産生を抑制すること、又はこれを不活性化することなど種々のメカニズムが考えられる。前者の例としては、例えば、角化細胞の細胞内情報伝達経路において、炎症性サイトカインの上流に位置するp38MAPキナーゼ阻害剤などが挙げられる。後者の例としては、炎症性サイトカインの一つであるTNF-αに対する抗体や拮抗体などが挙げられる。本実施形態において、「抑制」とは、炎症性サイトカインの産生を抑制することが好ましい。「炎症終息作用」とは、免疫能を低下させることなく炎症を終息に導くことができる作用(pro-resolution activity)をいう
【0015】
(有効成分)
本発明は、1つの実施形態において、以下の有効成分を含有する炎症性サイトカインを抑制する剤を提供する。本実施形態の剤は、下記式(I):
【0016】
【化3】
で表される化合物、及び
下記式(II):
【0017】
【化4】
で表される化合物又はそれらの塩、を有効成分として含む。上記式(I)及び(II)で表される化合物は、酸、アルカリ、酵素で多価フェノール酸と多価アルコールに加水分解される加水分解型タンニンの一種である。上記式(I)及び(II)で表される化合物のように、多価フェノール酸としてエラグ酸を生じるものをエラジタンニン類と称する。エラジタンニン類は、加水分解型タンニンの多様な種であり、1,2,3,4,6-ペンタガロイルグルコースにおけるガロイル基の酸化性結合から主に形成されるポリフェノールである。
式(I)で表される化合物は、ストリクチニン(Strictinin)と称される(非特許文献1)。式(II)で表される化合物は、カスアリクチン(casuarictin)と称される。
【0018】
本実施形態の有効成分をイザヨイバラから抽出する場合、抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉、茎、花、根、種子又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくはイザヨイバラ(Rosa roxburghii)の果実である。抽出方法としては、溶媒を用いて直接抽出することで得られるものの他、圧搾処理を施した後に得られる圧搾液及び/又は残渣に溶媒を加えて抽出することができる。好ましくは、50%エタノール水溶液を抽出溶媒として用いる。本実施形態においては、イザヨイバラの果実を用いたエタノール抽出物を用いることが好ましい。
【0019】
なお、本実施形態の有効成分は、遊離体のままでもよいが、ヒドロキシ基が適度な酸性を有する場合は塩の形態であってもよい。ヒドロキシ基の塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩類;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩類;トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩;N,N-ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩;ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩;アルギニン塩、リジン塩等の塩基性アミノ酸塩;テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アンモニウム塩等が挙げられる。また、本実施形態の化合物(I)及び(II)の遊離体又はヒドロキシ基の塩は、水和物として存在することもある。
【0020】
(炎症性サイトカイン抑制剤における有効成分の含有量)
本実施形態の炎症性サイトカイン抑制剤(以下、「本実施形態の剤」と称する場合がある。)における、上記式(I)及び(II)で表される化合物の含有比率は、特に限定されるものではないが、式(I)で表される化合物と、式(II)で表される化合物との含有比率が、質量比で4:7~8:4であることが好ましく、質量比で4:6~8:4であることがより好ましい。また、本実施形態の剤に含有される各有効成分の含有量は、好ましくは10μg/ml以上、より好ましくは20μg/ml以上であり、さらに好ましくは30μg/ml以上である。また、本実施形態の剤に含有される各有効成分の含有量は、好ましくは100μg/ml以下、より好ましくは90μg/ml以下、さらに好ましくは80μg/ml以下である。本実施形態の剤の形態は、液体だけでなく、例えば固形物等も挙げられる。
【0021】
(皮膚外用剤に含まれる有効成分の含有量)
本実施形態の剤を含有する皮膚外用剤における、上記有効成分の含有量は、その投与形態および投与方法等を考慮し、炎症性サイトカインの抑制効果が得られるような量であればよく、特に限定されるものではない。例えば、当該皮膚外用剤に含有される各有効成分の含有量は、好ましくは0.2μg/ml以上、より好ましくは0.4μg/ml以上であり、さらに好ましくは0.6μg/ml以上である。また、当該皮膚外用剤に含有される各有効成分の含有量は、好ましくは2.0μg/ml以下、より好ましくは1.8μg/ml以下、さらに好ましくは1.6μg/ml以下である。
【0022】
(皮膚外用剤の形態)
本発明による皮膚外用剤は、アンプル、カプセル、粉末、顆粒、液体、ゲル、気泡、エマルジョン、シート、ミスト、スプレー剤等利用上の適当な形態の1)医薬品類、2)医薬部外品類、3)局所用又は全身用の皮膚外用剤類(例えば、化粧水、乳液、クリーム、軟膏、ローション、オイル、パック等の基礎化粧料、固形石鹸、液体ソープ、ハンドウォッシュ等の洗顔料や皮膚洗浄料、マッサージ用剤、クレンジング用剤、除毛剤、脱毛剤、髭剃り処理料、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、シェービングクリーム、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ等のメークアップ化粧料、香水類、美爪剤、美爪エナメル、美爪エナメル除去剤、パップ剤、プラスター剤、テープ剤、シート剤、貼付剤、エアゾール剤等)、4)頭皮・頭髪に適用する薬用又は/及び化粧用の製剤類(例えば、シャンプー剤、リンス剤、ヘアートリートメント剤、プレヘアートリートメント剤、パーマネント液、染毛料、整髪料、ヘアートニック剤、育毛・養毛料、パップ剤、プラスター剤、テープ剤、シート剤、エアゾール剤等)、5)浴湯に投じて使用する浴用剤、6)その他、腋臭防止剤や消臭剤、制汗剤、衛生用品、衛生綿類、ウエットティシュ等が挙げられる。
【0023】
これらの中でも、日焼け止め用化粧料として、例えば、クリーム、ミルク、ジェル又はクリームジェル、パウダー又は固形スティックの形態で使用でき、またエアゾールとして使用する場合ムースやスプレーの形態であってもよいし、剤型が液状、乳液状であれば、不織布やコットンなどの担体に含浸させて用いることもできる。
【0024】
上記日焼け止め用化粧料には、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、通常日焼け止め用化粧品に用いられる成分、エタノール、ブチレングリコールなどの各種アルコール;モノステアリン酸グリセリル、サポニンなどの非イオン性界面活性剤;N-ステアロイル-L-グルタミン酸ナトリウムなどの陰イオン性界面活性剤;N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩などの陽イオン性界面活性剤;ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインなどの両性界面活性剤;キサンタンガム、カルボキシビニルポリマーなどの水溶性増粘剤;トコフェロールおよびその誘導体、アスコルビン酸およびその誘導体などのビタミン類;フェノキエタノール、オクトキシグリセリン、パラベンなどの防腐成分;紫外線吸収剤;紫外線散乱剤;無機顔料、パール化剤、植物抽出エキス、金属イオン封鎖剤、香料、pH調整剤などを目的に応じて適宜配合することができる。
【0025】
上記日焼け止め用化粧料に配合する、紫外線吸収剤としてはベンゾフェノン誘導体、メトキシケイ皮酸誘導体、ベンゾイル安息香酸誘導体、クマリン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体等;紫外線散乱剤としてはクロロフィル類、キサントフィル類、エスカロール、酸化亜鉛、タルク、カオリン等利用する事ができるが、溶解性や安定性を考慮すると、紫外線吸収剤の中でもジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、エチルヘキシルトリアゾンと本実施形態の剤の組み合わせが好ましく、紫外線吸収剤の皮膚刺激による炎症も本実施形態の剤が抑制することから相乗効果が期待できる。
【0026】
(医薬用途)
本実施形態の剤は、炎症性サイトカインの産生を抑制することから医薬品に配合することもできる。医薬品としての適用方法は、経口投与又は非経口投与のいずれも採用することができる。投与に際しては、有効成分を経口投与、直腸内投与、注射、塗布、貼布等の投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬製剤の形態で投与することができる。このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥製剤、軟膏、貼布剤等が挙げられ、これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。
【0027】
また、炎症性サイトカインが関与する疾患としては、急性炎症、慢性炎症、関節リウマチ、痛風、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、ベーチェット病、急性感染症、乾癬、アトピー性皮膚炎等が挙げられ、特にIL6、TNFαそれぞれを標的とした医薬品も存在し(抗IL6受容体モノクローナル抗体である免疫疾患治療薬のトシリマズブ、TNFαの抗体である関節リウマチ、乾癬、強直性脊髄炎、ベーチェット病治療薬のインフリマキシマブ、アダリムバブ)、免疫能を低下させることなく炎症を終息に導くことができる炎症終息作用も期待されることから、本実施形態の剤を前記疾患の治療目的で配合することが可能である。
【0028】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。なお、以下の実施例において、各種成分の添加量を示す数値の単位%は、質量%を意味する。
【実施例0029】
[製造例1]イザヨイバラ果実抽出物の製造(1)
イザヨイバラ果実の乾燥物100gを、3kgの50%エタノール水溶液に常温で2週間浸漬させた後にろ過し、粗抽出液約2.4kgを得た。次に粗抽出液を濃縮しエタノールをとばした後、50%ブチレングリコール溶液を加え2.4kgの液体のイザヨイバラ果実抽出物を得た。
【0030】
[製造例2]イザヨイバラ果実抽出物の製造(2)
イザヨイバラ果実の乾燥物100gを、3kgの30%エタノール水溶液に常温で2週間浸漬させた後にろ過し、粗抽出液約2.4kgを得た。次に粗抽出液を濃縮しエタノールをとばした後、50%ブチレングリコール溶液を加え2.4kgの液体のイザヨイバラ果実抽出物を得た。
【0031】
なお、下記実施例及び試験例で用いたイザイバラ果実抽出物(炎症性サイトカインを抑制するための剤)は、製造例1で製造した液体のイザヨイバラ果実抽出物を用いた。当該抽出液では、式(I)の化合物が57.2μg/ml、式(II)の化合物が49.5μg/ml含有された。
【0032】
[実施例1]イザヨイバラ果実抽出物に含まれる化合物の精製
イザヨイバラ果実の100%メタノール抽出液から図1に示した手順にて精製を行った。イザヨイバラのメタノール粗抽出物16.9gを、セファデックスLH-20ゲルを充填したカラム(80mmφ×450mm)にて、水:メタノール=1:9容量の溶媒で溶出して粗分画した。画分(Fr.8)を分取し、この画分をさらにセファデックスLH-20ゲルカラム(35mmφ×450mm)にて、水:メタノール=1:9→2:8→3:7→4:6容量の溶媒で溶出し、10の画分(Fr.8-1~8-10)に分画した。Fr.8-5及びFr.8-10の2つの画分から、以下の条件による分取用HPLCを行って、それぞれ化合物A(5.1mg)及び化合物B(27.6mg)を単離した。
【0033】
上記分取用HPLCの条件は、以下のとおりである。
装置:Agilent 1290 Infinity II LC システム
カラム:ODS-3(4.6mmφ×250mm)
溶出液:MeOH:0.05%ギ酸=5:95→50:50(40分間)
流速:10mL/min
温度:室温
検出器:330nm
【0034】
[実施例2]有効成分の構造決定
実施例2で得られた化合物A及び化合物BをNMR及びMALDI-TOF-MS等で分析した結果、化合物Aは、1-O-galloyl-4,6-O-hexahydroxydiphenoyl-β-D-glucopyranose(式(I)で表される化合物)であり、化合物Bは、1-O-galloyl-2,3-4,6-bis-O-hexahydroxydiphenoyl-β-D-Glucopyranose(式(II)で表される化合物)であることが分かった。化合物A及び化合物Bの最大吸収波長、MALDI-TOF-MS(Shimadzu Biotech Axima Resonance: Mode positive, Low 100+, power:120)により測定した分子量、及び核磁気共鳴装置JEOL(日本電子株式会社)JNM-ECA600で測定したNMR測定データは、それぞれ以下のとおりである。
【0035】
化合物A:λmax208,269nm;MALDI-TOF-MSにより測定した分子量:657.0975m/z[M+Na]+
【0036】
H-NMR(Methanol-d4,JEOL ECA-600,600MHz): δppm Glc,3.59(1H,t,J=8.28,H-2),3.70(1H,t, J=9.66,H-3),3.80(1H,d,J=12.4,H-3),4.02(1H, dd,J=5.52,8.94,H-5),4.77(1H,t,J=15.5,H-4),5.21(1H,dd,J=6.9,13.7,H-6α),5.65(1H,d,J=8.22,H-1);4,6-HHDP,6.53(1H,s,H-3’’’),6.67(1H,s,H-3’’);galloyl,7.12(2H,s,H-2’,6’)
【0037】
13C-NMR((Methanol-d4,JEOL ECA-600,150MHz):δppm Glc,62.9(C-6α),71.9(C-4),72.3(C-5),73.4(C-2),74.7(C-3),94.9(C-1);galloyl,109.2(C-2’,6’),119.2(C-1’),139.1(C-4’),145.2(C-3,5),165.5(C-7’);4,6-HHDP,106.9(C-3’’’),107.3(C-3’’),115.3(C-1’’’),115.5(C-1’’),125.0,125.2(C-2’’or 2’’’),136.0(C-5’’’),136.3(C-5’’),143.4,143.5(C-4’’or 4’’’),144.5,144.6(C-6’’or6’’’),168.3(C-7’’),168.5(C-7’’’)
【0038】
13C-NMR(125MHz,CD3OD),δ:168.2(C-9’),150.7(C-4’),149.4(C-3’),147.5(C-7’),127.7(C-1’),124.3(C-6’),116.4(C-5’),114.9(C-8’),111.6(C-2’),56.4(3’-OCH),37.5(C-3).
【0039】
化合物B:λmax216,399,481nm;MALDI-TOF-MSにより測定した分子量:959.3599 m/z[M+Na]+
【0040】
H-NMR(Acetone-d6,JEOL ECA-600,600MHz):δppm Glc,3.85(1H,d,J=13.1,H-6),4.48(1H,dd,J=6.2,9.7,H-5),5.15(m,H-4),5.16(1H,m,H-2),5.35(1H,dd,J =6.9,13.1,H-6),5.39(1H,t,J=9.7,H-3),6.19(1H,d,J=8.9,H-1);galloyl,7.15 (2H,s,H-2,6);2,3-HHDP,6.34(1H,s,H-3’),6.43 (1H,s,H-3);4,6-HHDP,6.52(1H,s,H-3),6.65(1H,s,H-3’);
【0041】
13C-NMR(Acetone-d6,JEOL ECA-600,150MHz):δ ppm Glc,62.2(C-6),68.4(C-4),72.7(C-5),75.1(C-2),76.4(C-3),91.4(C-1);galloyl,109.5(C-2,6),119.1(C-1),139.1(C-4),145.5(C-3,5),164.2(C-7);2,3-HHDP,106.5(C-3’’,3’’’),167.7(C-7’’),168.4(C-7’’’);4,6-HHDP,106.8(C-3’’’’),107.5(C-3’’’’’),167.0(C-7’’’’),167.2(C-7’’’’’);HHDP,113.3-115.2(C-1’’,1’’’,1’’’’,1’’’’’),125.1-125.7(C-2’’,2’’’,2’’’’,2’’’’’),135.4-135.8(C-5’’,5’’’,5’’’’,5’’’’’),143.7-143.8(C-6’’,6’’’,6’’’’,6’’’’’),144.3-144.5(C-4’’,4’’’,4’’’’,4’’’’’)
【0042】
[試験例1]IL-8mRNA発現量を指標としたTLR-3活性化抑制能の評価
(インビトロ試験方法)
正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)は、クラボウから購入し、ケラチノサイト増殖無血清培地(KGM,ロンザ社製)中、37℃、5%CO条件下に炭酸ガスインキュベータで培養した。RNA調製のために、3~6継代したNHEKを35mmの組織培養ディッシュ(ファルコン製)に播種して培養し、70~80%コンフルエントになったときに、ヒドロコルチゾン及びエピネフリンを除去した培地に交換した。さらに24時間培養後、種々の濃度のサンプルを添加して1時間培養し、その後、1μg/mLのPoly(I:C)(シグマアルドリッチ社)を添加し、4時間後、全RNAを回収した。
【0043】
正常ヒト表皮角化細胞からの全RNAの回収は、RNeasyキット(キアゲン)を用いて行った。450ngの全RNAを、PrimeScript(タカラバイオ株式会社)を用いて、10μLの終濃度にてcDNAへ逆転写した。IL-8のmRNA量を、以下のプライマーセットとThermal Cycler Dice(登録商標)リアルタイムシステム(タカラバイオ株式会社)を用いて、TB Green Premix Ex Taq (タカラバイオ株式会社)により定量PCR法で測定した。
【0044】
IL-8用プライマー:5’-CCACACTGCGCCAACA-3’(配列番号1)及び5’-GCATCTTCACTGATTCTTGGAT-3’(配列番号2)
RPS18用プライマー:5’-TTTGCGAGTACTCAACACCAACATC-3’(配列番号3)及び
5’-GAGCATATCTTC GGCCCACAC-3’(配列番号4)
【0045】
ここで、RPS18遺伝子の発現は、データ標準化のために用い、アニーリング温度は、IL-8の場合55℃、RPS18の場合は60℃である。RPS18に対する発光量比(fold induction)は、比較Ct法(ΔΔCt法)を用いた。測定データは平均値±SEMで表示した。統計的有意差は、ANOVA及びテューキーの検定を行い、P値<0.05で有意差ありとした。
【0046】
(イザヨイバラ果実メタノール抽出液及びその分画物の評価)
最初に、製造例1で調製したイザヨイバラ果実抽出物を用いて、上述したインビトロ試験方法によるIL-8の発現量を測定した。その結果を図2に示す。図2の横軸において、n.t.は、Poly(I:C)処理しなかった対照群、N.C.はPoly(I:C)のみ処理した陰性対照群、各数値は添加したイザヨイバラ抽出物の添加量(μg/mL)である。図2の縦軸は、4重測定(n=4)したときのIL-8mRNA発現量の相対値を示す。Poly(I:C)のみ処理した対照群(N.C.)に対し、イザヨイバラ抽出物を3.33μg/mL、10μg/mL又は30μg/mL添加した場合は、濃度依存的にIL-8mRNAの発現量が低下し、いずれの測定値も、p<0.01で有意差を示した。
【0047】
次に、実施例1で用いたイザヨイバラ果実メタノール粗抽出液と、精製過程におけるFr.1~Fr.8の各分画物について、同様の方法にて炎症性サイトカイン(IL-8)の発現抑制活性を調べた。その結果を図3に示す。図3の横軸において、n.t.は、Poly(I:C)処理しなかった対照群、N.C.はPoly(I:C)のみ処理した陰性対照群、各数値は添加した各分画物の添加量(μg/mL)である。縦軸は、Poly(I:C)のみ処理した陰性対照群のIL-8mRNAの発現量と比較しての各試料の発現量を示す。Fr.5~6について、濃度依存的にIL-8mRNAの発現抑制効果が認められた。一方、Fr.1~4は、0.4μg/mLの濃度においてIL-8の発現抑制活性は認められなかった。
【0048】
TLR-3活性化抑制活性を数値化するために、Poly(I:C)のみ処理した表皮細胞で発現したIL-8のmRNA量(N.C.陰性対照)を50%まで抑制する試料濃度(ID50)を求めた。試料のTLR-3活性化抑制活性を以下のように表記した。ID50を与える試料の活性を1AU/mLと定義し、これに試料の希釈倍率をかけた値を試料の総活性、また総活性を固形分濃度で割った値を比活性とし、固形分に含まれる効力の強弱の指標として表した。実施例1で精製したFr.1~8の総活性および比活性は以下の通りである。TLR-3活性化抑制活性はFr.5以降に認められた。
【0049】
【表1】
【0050】
(精製された化合物A及び化合物Bの評価)
実施例1で精製した化合物A及び化合物Bについて、上記と同様の方法で炎症性サイトカイン(IL-8)の発現抑制活性を測定した。その結果を図4及び表2に示す。当該結果は、N.C.群と比較しての発現量を示している。図4(A)は化合物Aについて、図4(B)は化合物Bについての測定結果である。いずれも濃度依存的に炎症性サイトカイン(IL-8)の発現抑制活性を示した。表2の結果から、化合物Bよりも化合物のAの方が、若干非活性が高いことが分かった。
【0051】
【表2】
【0052】
[試験例2]ヒトモニター試験による日焼け予防の評価
本臨床試験は、18~45歳の女性15人を被験者として、以下の表3に記載したイザヨイバラ果実抽出物を配合したローションを8週間の期間、毎日朝夕1日2回洗顔後、顔に塗布した。参加した被験者の肌の輝度はクロノメーター測定でL≧50であった。被験者はこの間、当該ローションの効果を観察するのに妨げとなるサンスクリーン剤等は使用しないよう指示を受けていた。被験者は医師による肌の状態の診察を受けるため当該ローションの適用後1日目、14日目、28日目及び56日目にクリニックを訪れるが、肌に太陽光照射負荷をかけるため太陽光の照射量が多い午前11:30から午後3:30の間を訪問時間とした。
【0053】
【表3】
【0054】
当該ローションの塗布開始後1日目、14日目、28日目及び56日目に、以下の基準に基づいて肌の紅斑指数を測定した。
紅斑指数
0:紅斑認められない
1:かすかな紅斑が認められる
2:明らかな紅斑が認められる
3:強い紅斑が認められる
【0055】
その結果を図5に示す。図5に示したように、ローション適用後1日目の紅斑指数は:1.2±0.41であり、14日目の紅斑指数は:0.87±0.64であり、28日目の紅斑指数は:0.87±0.64であり、56日目の紅斑指数は:0.47±0.64となって、ローション適用後2週間目から紫外線により誘発される皮膚の紅斑が顕著に抑制されることが分かった。この改善効果は2か月間持続していた。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2022022672000001.app