(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022703
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 171/02 20060101AFI20220131BHJP
C10M 169/04 20060101ALI20220131BHJP
C10M 143/00 20060101ALI20220131BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20220131BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20220131BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20220131BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220131BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220131BHJP
C10N 30/02 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C10M171/02
C10M169/04
C10M143/00
C10N10:04
C10N20:02
C10N20:04
C10N40:25
C10N30:00 Z
C10N30:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020114649
(22)【出願日】2020-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】517157134
【氏名又は名称】EMGルブリカンツ合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(72)【発明者】
【氏名】新居 正浩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛之
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BA07C
4H104BB32A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104CA01C
4H104CA04A
4H104DA02A
4H104EA02A
4H104EA02Z
4H104EA03C
4H104EB05
4H104EB07
4H104FA02
4H104LA01
4H104LA20
4H104PA41
4H104PA42
(57)【要約】
【課題】
本発明は、低粘度化しても、適度な高温せん断粘度を維持しつつ、省燃費性と低温粘度特性に優れた潤滑油組成物、好適な態様としては内燃機関用の潤滑油組成物、さらに好適にはディーゼルエンジン用の潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、(A)潤滑油基油、(B)粘度指数向上剤、及び(C)金属清浄剤を含有する潤滑油組成物であって、(A)潤滑油基油が100℃における動粘度2.0~10.0mm2/sを有し、(C)金属清浄剤が(C1)マグネシウムを有する金属清浄剤及び/又は(C2)カルシウムを有する金属清浄剤を含み、(C2)成分の量がカルシウム金属換算で潤滑油組成物中に0~2,000質量ppmであり、(C1)成分の量がマグネシウム金属換算で潤滑油組成物中に0~1000質量ppmであり、且つ、マグネシウム及びカルシウムの合計として潤滑油組成物中に1000~2,500質量ppmであることを特徴とし、且つ、該潤滑油組成物は、100℃における動粘度6.9mm2/s以上9.3mm2/s未満を有し、-35℃でのCCS粘度6.2Pa・s以下を有し、及び150℃での高温高せん断粘度(HTHS粘度)2.6mPa・s以上を有することを特徴とする、前記潤滑油組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)潤滑油基油、(B)粘度指数向上剤、及び(C)金属清浄剤を含有する潤滑油組成物であって、(A)潤滑油基油が100℃における動粘度2.0~10.0mm2/sを有し、(C)金属清浄剤が(C1)マグネシウムを有する金属清浄剤及び/又は(C2)カルシウムを有する金属清浄剤を含み、(C2)成分の量がカルシウム金属換算で潤滑油組成物中に0~2,000質量ppmであり、(C1)成分の量がマグネシウム金属換算で潤滑油組成物中に0~1000質量ppmであり、且つ、マグネシウム及びカルシウムの合計として潤滑油組成物中に1000~2,500質量ppmであることを特徴とし、且つ、該潤滑油組成物は、100℃における動粘度6.9mm2/s以上9.3mm2/s未満を有し、-35℃でのCCS粘度6.2Pa・s以下を有し、及び150℃での高温高せん断粘度(HTHS粘度)2.6mPa・s以上を有することを特徴とする、前記潤滑油組成物。
【請求項2】
前記(B)粘度指数向上剤が、(B1)重量平均分子量10万~40万を有するポリメタクリレートを含み、前記(B1)成分の量が潤滑油組成物全体の質量に対して0.5~5.0質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記(B)粘度指数向上剤が、(B2)SSI(せん断安定性指数)20~30を有するα-オレフィン共重合体を含み、前記(B2)成分の量が潤滑油組成物全体の質量に対して0.5~8.0質量%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記(C2)カルシウムを有する金属清浄剤の量が、カルシウム金属換算で潤滑油組成物中に800~1,700質量ppmであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記(C1)マグネシウムを有する金属清浄剤の量が、マグネシウム金属換算で潤滑油組成物中に50~800質量ppmであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記(C)金属清浄剤が、前記(C1)成分及び(C2)成分を含み、(C)成分の量がマグネシウム及びカルシウムの合計として潤滑油組成物中に1300~2,300質量ppmである、請求項1~5のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記潤滑油組成物が150℃におけるHTTS粘度2.9mPa・s以下を有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記(A)潤滑油基油が鉱油及び/又はGTLを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
内燃機関用である、請求項1~8のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
ディーゼルエンジン用である、請求項9記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関する。より詳細には、内燃機関用の潤滑油組成物、特にディーゼルエンジン用の潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油組成物は、内燃機関用、自動変速機用、ギヤ油用など自動車分野で幅広く使用されている。近年、燃費を向上させるために低粘度化が求められているが、高温高せん断粘度を維持しながら優れた低温粘度特性も求められている。上記目的を達成するため、基油の選定や特定の添加剤を組み合わせた潤滑油組成物が知られている。例えば、特許文献1には特定の尿素アダクト値を有する基油と特定構造を有するポリメタクリレートからなる潤滑油組成物が開示されている。また、特許文献2には、更に構造を特定したポリメタクリレート系粘度指数向上剤を用いた潤滑油組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-155639号公報
【特許文献2】特開2015-13693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上記特許文献に記載のような潤滑油組成物は、省燃費性と高温せん断粘度との両立という点で未だ改善の余地がある。そこで本発明は、低粘度化しても、適度な高温せん断粘度を維持しつつ、省燃費性と低温粘度特性に優れた潤滑油組成物、好適な態様としては内燃機関用の潤滑油組成物、さらに好適にはディーゼルエンジン用の潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の潤滑油基油に、粘度指数向上剤、及び特定量の金属清浄剤を添加することによって、上記目的が達成されることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、
(A)潤滑油基油、(B)粘度指数向上剤、及び(C)金属清浄剤を含有する潤滑油組成物であって、(A)潤滑油基油が100℃における動粘度2.0~10.0mm2/sを有し、(C)金属清浄剤が(C1)マグネシウムを有する金属清浄剤及び/又は(C2)カルシウムを有する金属清浄剤を含み、(C2)成分の量がカルシウム金属換算で潤滑油組成物中に0~2,000質量ppmであり、(C1)成分の量がマグネシウム金属換算で潤滑油組成物中に0~1000質量ppmであり、且つ、マグネシウム及びカルシウムの合計として潤滑油組成物中に1000~2,500質量ppmであることを特徴とし、且つ、該潤滑油組成物は、100℃における動粘度6.9mm2/s以上9.3mm2/s未満を有し、-35℃でのCCS粘度6.2Pa・s以下を有し、及び150℃での高温高せん断粘度(HTHS粘度)2.6mPa・s以上を有することを特徴とする、前記潤滑油組成物
である。
【0007】
本発明の好ましい実施態様は、以下の(1)~(8)のうち少なくとも一の要件を満たす。
(1)前記(B)粘度指数向上剤が、(B1)重量平均分子量10万~40万を有するポリメタクリレートを含み、前記(B1)成分の量が潤滑油組成物全体の質量に対して0.5~5.0質量%であることを特徴とする。
(2)前記(B)粘度指数向上剤が、(B2)SSI(せん断安定性指数)20~30を有するα-オレフィン共重合体を含み、前記(B2)成分の量が潤滑油組成物全体の質量に対して0.5~8.0質量%であることを特徴とする。
(3)前記(C2)カルシウムを有する金属清浄剤の量が、カルシウム金属換算で潤滑油組成物中に800~1,700質量ppmであることを特徴とする。
(4)前記(C1)マグネシウムを有する金属清浄剤の量が、マグネシウム金属換算で潤滑油組成物中に50~800質量ppmであることを特徴とする。
(5)前記(C)金属清浄剤が、(C1)マグネシウムを有する金属清浄剤及び(C2)カルシウムを有する金属清浄剤を含み、マグネシウム及びカルシウムの合計として潤滑油組成物中に1300~2,300質量ppmである。
(6)前記潤滑油組成物が150℃におけるHTTS粘度2.9mPa・s以下を有することを特徴とする。
(7)前記(A)潤滑油基油が鉱油及び/又はGTLを含む。
(8)内燃機関用である潤滑油組成物。
(9)ディーゼルエンジン用である潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の潤滑油組成物は、高温せん断粘度を維持しつつ、省燃費性と低温粘度特性に優れた潤滑油組成物である。特に、内燃機関用の潤滑油組成物、さらにはディーゼルエンジン用の潤滑油組成物として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(A)潤滑油基油
本発明における潤滑油基油は特に制限されない。鉱油及び合成油のいずれであってもよく、これらを単独で、または混合して使用することができる。
【0010】
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、および水素化精製等の処理の1つ以上に付して精製したもの、或いは、ワックス異性化鉱油、GTL(Gas to Liquid)基油、ATL(Asphalt to Liquid)基油、植物油系基油またはこれらの混合基油を挙げることができる。
【0011】
合成油としては、例えば、ポリブテン又はその水素化物;1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー等のポリ-α-オレフィン又はその水素化物;ラウリン酸2-エチルヘキシル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、ステアリン酸2-エチルヘキシル等のモノエステル;ジトリデシルグルタレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等のジエステル;ネオペンチルグリコールジ-2-エチルヘキサノエート、ネオペンチルグリコールジ-n-オクタノエート、ネオペンチルグリコールジ-n-デカノエート、トリメチロールプロパントリ-n-オクタノエート、トリメチロールプロパントリ-n-デカノエート、ペンタエリスリトールテトラ-n-ペンタノエート、ペンタエリスリトールテトラ-n-ヘキサノエート、ペンタエリスリトールテトラ-2-エチルヘキサノエート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0012】
前記各々の潤滑油基油は100℃における動粘度(mm2/s)2.0~10.0mm2/sを有するのがよく、好ましくは2.5~9.5mm2/sを有し、さらに好ましくは3.0~9.0mm2/sを有し、最も好ましくは3.5~8.0mm2/sを有する。これにより、低粘度で潤滑性に優れ、かつ、蒸発損失がより小さい潤滑油組成物を得ることができる。
【0013】
潤滑油基油の粘度指数(VI)は特に制限されないが、好ましくは100以上であり、より好ましくは120以上、最も好ましくは130以上である。これにより、高温での油膜を確保しつつ、低温での粘度を低減することができる。
【0014】
潤滑油基油は鉱油及び又はGTLを含むことが好ましく、少なくとも1の鉱油を含むことが好ましく、少なくとも1のGTLを含むことが更に好ましい。少なくとも1の鉱油と少なくとも1のGTLを含むことがより好ましく、少なくとも1のGTLを含むことが特に好ましい。合成油を含まないことが最も好ましい。
【0015】
本発明の(A)潤滑油基油は、100℃における動粘度(mm2/s)2.0~10.0mm2/sを有するものである。好ましくは100℃における動粘度(mm2/s)2.0~5.8mm2/s、より好ましくは2.5~5.5mm2/s、さらに好ましくは3.0~5.0mm2/s、最も好ましくは3.5~4.5mm2/sを有する基油(A1)と、100℃における動粘度(mm2/s)5.8mm2/s超~12.0mm2/s、好ましくは6.5~10.0mm2/s、さらに好ましくは7.0~9.0mm2/s、最も好ましくは7.5~8.5mm2/sを有する基油(A2)との併用であるのが好ましい。基油(A1)と基油(A2)の質量比は、(A1):(A2)が99:1~80:20(質量比)が好ましく、より好ましくは98:2~85:15、更に好ましくは97:3~90:10、特に好ましくは96:4~92:8であるのがよい。
【0016】
(B)粘度指数向上剤
本発明の潤滑油組成物は、粘度指数向上剤を含有することが必須である。粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタアクリレート、分散型ポリメタアクリレート、オレフィンコポリマー(ポリイソブチレン、エチレン-プロピレン共重合体)、分散型オレフィンコポリマー、ポリアルキルスチレン、スチレン-ブタジエン水添共重合体、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体、星状イソプレン等を含むものが挙げられる。さらに、少なくともポリオレフィンマクロマーに基づく繰返し単位と炭素数1~30のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに基づく繰返し単位とを主鎖に含む櫛形ポリマーを用いることもできる。
【0017】
粘度指数向上剤として好ましくは、(B1)ポリメタクリレート及び又は(B2)α-オレフィン共重合体を含有することが好ましい。(B1)ポリメタクリレートは、好ましくは重量平均分子量100,000~400,000を有し、より好ましくは150,000~350,000、更に好ましくは200,000~300,000を有するのがよい。ポリメタクリレートの含有量は、潤滑油組成物全体の質量に対して、好ましくは0.5~5.0質量%以下であり、より好ましくは0.8~3.0質量%、更に好ましくは1.0~2.0質量%、特に好ましくは1.2~1.8質量%であるのがよい。ポリメタクリレートは分散型でも非分散型のいずれでも良い。
【0018】
(B2)α-オレフィン共重合体は、好ましくはSSI(せん断安定性指数)20~30を有し、より好ましくは21~28を有し、更に好ましくは23~27を有する。(B2)α-オレフィン共重合体の重量平均分子量は好ましくは50,000~300,000であり、より好ましくは80,000~250,000であり、更に好ましくは100,000~200,000である。(B2)α-オレフィン共重合体の量は、潤滑油組成物全体の質量に対して、好ましくは0.5~8.0質量%であり、より好ましくは1.0~7.0質量%、更に好ましくは2.0~5.0質量%、特に好ましくは2.5~4.5質量%、最も好ましくは3.0~4.0質量%である。該α-オレフィン共重合体としては、例えば、オレフィンコポリマー(ポリイソブチレン、エチレン-プロピレン共重合体)、分散型オレフィンコポリマーが挙げられる。
尚、本発明においてSSIは(せん断安定性指数)は、例えば下記の計算式から算出することができる。
SSI=[(KV0-KV1)/(KV0-KVvm)]×100
上記式において、KV0は、粘度指数向上剤を含む潤滑油組成物(A)の100℃における動粘度の値であり、KV1は、粘度指数向上剤を含む潤滑油組成物(A)のせん断安定性試験後の100℃における動粘度の値である。KVvmは前記潤滑油組成物(A)から粘度指数向上剤のみを除いた潤滑油組成物(B)の100℃における動粘度の値である。せん断安定性試験後の100℃における動粘度とは、CEC L45-A-99に準拠してKRLせん断安定性試験を行った後の100℃における動粘度である。
【0019】
尚、本発明においてポリメタクリレート及びα-オレフィン共重合体の重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより以下の条件で測定することができる。
<α-オレフィン共重合体のMwの測定条件>
装置 :「HLC-8320」[東ソー(株)製]
カラム :「TSK gel SuperMultiporeHZ-M」3本
測定温度 :40℃
試料溶液 :0.2(w/v)%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:30μl
検出装置 :屈折率検出器
基準物質 :ポリスチレン(PS t Quick MP-M)
【0020】
(B1)ポリメタクリレート及び又は(B2)α-オレフィン共重合体と併せて、上記に記載した、その他の粘度指数向上剤を含有してもよい。その他の粘度指数向上剤の量は、潤滑油組成物全体の質量に対して、0.1~5質量%であればよく、好ましくは0.5~3.0質量%、より好ましくは1.0~2.0質量%であればよい。
【0021】
(C)金属清浄剤
本発明の潤滑油組成物は、金属清浄剤を必須に含有する。該金属清浄剤は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を有する清浄剤であることが好ましい。本発明は、(C)金属清浄剤が(C1)マグネシウムを有する金属清浄剤及び/又は(C2)カルシウムを有する金属清浄剤を含み、(C2)成分の量がカルシウム金属換算0~2,000質量ppmであり、(C1)成分の量がマグネシウム金属換算で潤滑油組成物中に0~1000質量ppmであり、且つ、マグネシウム及びカルシウムの合計として潤滑油組成物中に1000~2,500質量ppmであることを特徴とする。
【0022】
上記の通り本発明の潤滑油組成物は、(C1)マグネシウムを有する金属清浄剤及び/又は(C2)カルシウムを有する金属清浄剤を含み、(C2)成分の量がカルシウム金属換算0~2,000質量ppmであり、好ましくは500~1900質量ppm、より好ましくは600~1800質量ppm、更に好ましくは800~1700質量ppm、更に好ましくは900~1600質量ppm、特に好ましくは1000~1500質量ppm、最も好ましくは1100~1400質量ppmである。(C1)成分の量は、マグネシウム金属換算で潤滑油組成物中に0~1000質量ppmであり、好ましくは50~800質量ppm、より好ましくは100~700質量ppm、更に好ましくは200~600質量ppm、特に好ましくは300~500質量ppmである。好ましくは(C1)マグネシウム系清浄剤と(C2)カルシウム系清浄剤の併用である。
本発明の潤滑油組成物は、上記(C1)成分及び又は(C2)成分を、金属量換算で(すなわち、マグネシウム及びカルシウムの合計として)潤滑油組成物中に1,000~2,500質量ppm、好ましくは1,300~2,300質量ppmで含むことを特徴とし、好ましくは1,400~2,200質量ppmであり、より好ましくは1,500~2,000質量ppmであり、さらに好ましくは1,600~1,800質量ppmであるのがよい。2種以上の金属清浄剤を併用する場合は、金属換算量の合計が上記範囲を満たすように調整される。
【0023】
上記の通り、本発明の潤滑油組成物は、(C1)マグネシウムを有する清浄剤(以下、マグネシウム系清浄剤という)を含むことが好ましい。例えば、マグネシウムスルホネート、マグネシウムフェネートおよびマグネシウムサリシレート等を使用することができ、これらの中で、特にマグネシウムサリシレート若しくはマグネシウムスルホネートが好ましく、特にマグネシウムスルホネートが好ましい。マグネシウム系清浄剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0024】
(C1)マグネシウム系清浄剤を含有することにより、潤滑油として必要な高温清浄性および防錆性を確保することができる。また、摩擦を低減し、したがって、トルクを低減させることができる。これは、特に燃費特性の点で有利である。
【0025】
(C1)マグネシウム系清浄剤は、好ましくは、該潤滑油組成物の質量に対するマグネシウムの質量ppmによる濃度[Mg]が20~900質量ppmであるのがよく、より好ましくは50~800質量ppm、より好ましくは100~700質量ppmの範囲、更に好ましくは200~600質量ppm、特に好ましくは300~500質量ppmの範囲となるような量で添加されるのがよい。マグネシウム系清浄剤の量が上記上限を超えると摩耗が大きくなり過ぎ、上記下限を下回ると摩擦の低減効果が低い。
【0026】
(C1)マグネシウム系清浄剤は、特に、過塩基性であるのが好ましい。これにより、潤滑油に必要な中和性を確保できる。過塩基性のマグネシウム系清浄剤を使用した場合には、中性のマグネシウムまたはカルシウム系清浄剤を混合してもよい。
【0027】
(C1)マグネシウム系清浄剤の全塩基価は、限定的ではないが、好ましくは20~600mgKOH/g、より好ましくは50~500mgKOH/g、最も好ましくは100~450mgKOH/gである。これにより、潤滑油に必要な酸中和性、高温清浄性および防錆性を確保できる。なお、2種以上の金属清浄剤を混合して使用する場合は、混合して得られた塩基価が、前記の範囲となることが好ましい。
【0028】
(C1)マグネシウム系清浄剤中のマグネシウム含有量は、好ましくは0.5~20質量%であり、より好ましくは1~16質量%、最も好ましくは2~14質量%である。潤滑油組成物中に上記範囲の量のマグネシウムが含まれるように添加されれば良い。
【0029】
また本発明の潤滑油組成物は、(C2)カルシウムを有する清浄剤(以下、カルシウム系清浄剤という)を単独で、又は上記(C1)マグネシウム系清浄剤に併せて含むことが好ましい。潤滑油組成物が(C2)カルシウム系清浄剤を含むことにより、潤滑油として必要な高温清浄性、及び防錆性を更に確保することができる。さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の金属系清浄剤として、ナトリウム系清浄剤を含んでいてもよい。ナトリウム系清浄剤とは、ナトリウムを有する化合物であり、例えば、ナトリウムスルホネート、ナトリウムフェネートおよびナトリウムサリシレートが好ましい。これらのナトリウム系清浄剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。ナトリウム系清浄剤を含むことにより、潤滑油として必要な高温清浄性および防錆性を確保することができる。ナトリウム系清浄剤は、上述した(C1)マグネシウム系清浄剤および任意的な(C2)カルシウム系清浄剤と併用することができる。ただし、(C1)マグネシウム系清浄剤の量に応じて、(C2)カルシウム系清浄剤及びナトリウム系清浄剤の添加量は制限され得る。
【0030】
(C2)カルシウム系清浄剤としては、例えばカルシウムスルホネート、カルシウムフェネートおよびカルシウムサリシレートが挙げられ、好ましくはカルシウムスルホネート、カルシウムサリシレートであり、より好ましくはカルシウムサリシレートである。これらの(C2)カルシウム系清浄剤は、1種を使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
(C2)カルシウム系清浄剤の含有量は、好ましくはカルシウム金属換算で潤滑油組成物中に500~1,900質量ppmとなる量であり、より好ましくは600~1800質量ppm、更に好ましくは800~1700質量ppm、更に好ましくは900~1600質量ppm、特に好ましくは1000~1500質量ppm、最も好ましくは1,100~1,400質量ppmである。但し、カルシウム系清浄剤とマグネシウム系清浄剤の合計量は、金属量換算の合計として、潤滑油組成物中に1,000~2,500質量ppm、好ましくは1,300~2,500質量ppmで含むことを特徴とし、好ましくは1,400~2,200質量ppm、より好ましくは1,500~2,000質量ppm、更に好ましくは1,600~1,800質量ppmとなる量である。
さらに好ましくは、下記式(i)を満たす量が好ましい。
{[Mg]/([Mg]+[Ca])}×100≧5 (i)
ここで、[Ca]は、潤滑油組成物の質量に対するカルシウムの質量ppmによる濃度を示す。
{[Mg]/([Mg]+[Ca])}×100の値は、より好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上、特に好ましくは20以上である。当該値が上記下限未満だと、摩擦の低減効果が小さいおそれがある。{[Mg]/([Mg]+[Ca])}×100の上限値は好ましくは100、より好ましくは80、更に好ましくは60、最も好ましくは40である。
【0032】
(C2)カルシウム系清浄剤は、過塩基性であるのが好ましい。これにより、潤滑油に必要な酸中和性を確保できる。過塩基性のカルシウム含有清浄剤を使用する場合には、中性のカルシウム系清浄剤を併用してもよい。
【0033】
(C2)カルシウム系清浄剤の全塩基価は、限定的ではないが、好ましくは20~500mgKOH/g、より好ましくは50~400mgKOH/g、最も好ましくは100~350mgKOH/gである。これにより、潤滑油組成物に必要な酸中和性、高温清浄性および防錆性を確保できる。なお、2種以上の金属清浄剤を混合して使用する場合は、混合して得られた塩基価が前記範囲内となることが好ましい。
【0034】
(C2)カルシウム系清浄剤中のカルシウム含有量は、好ましくは0.5~20質量%であり、より好ましくは1~16質量%、最も好ましくは2~14質量%である。
【0035】
(D)ジアルキルジチオリン酸亜鉛
本発明の潤滑油組成物はさらにジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP(ZDDPともいう))を含むのが好ましい。該化合物は摩耗防止剤として機能するものであり、下記式(1)で表される。
【0036】
【化1】
上記式(1)において、R
2及びR
3は、各々、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子または炭素数1~26の一価炭化水素基である。一価炭化水素基としては、炭素数1~26の第1級(プライマリー)または第2級(セカンダリー)アルキル基;炭素数2~26のアルケニル基;炭素数6~26のシクロアルキル基;炭素数6~26のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基;またはエステル結合、エーテル結合、アルコール基またはカルボキシル基を含む炭化水素基である。R
2及びR
3は、好ましくは炭素数1~26の第1級(プライマリー)または第2級(セカンダリー)アルキル基である。ここで、1級アルキル基とは、置換基R
2及びR
3において、ジアルキルジチオリン酸亜鉛中の酸素原子に直接結合する炭素原子が1級炭素原子であるという意味である。同様に2級アルキル基とは、置換基R
2、R
3において、ジアルキルジチオリン酸亜鉛中の酸素原子に直接結合する炭素原子が2級炭素原子であるという意味である。R
2及びR
3は、好ましくは、互いに独立に、炭素数3~12の、第1級または第2級アルキル基、炭素数8~18のシクロアルキル基、又は炭素数8~18のアルキルアリール基である。
ただし、本発明において、R
2及びR
3の少なくとも1は、第1級または第2級アルキル基である。第1級アルキル基は、炭素数3~12を有することが好ましく、より好ましくは炭素数4~10を有する。例えば、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、2-エチル-ヘキシル基、及び2,5-ジメチルヘキシル基等が挙げられる。第2級アルキル基は、炭素数3~12を有することが好ましく、より好ましくは炭素数3~10を有する。例えば、イソプロピル基、セカンダリーブチル基、イソペンチル基、及びイソヘキシル基等が挙げられる。
【0037】
潤滑油組成物中のジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有量は、潤滑油組成物の全質量に対し、ジアルキルジチオリン酸亜鉛が有するリンの質量ppmによる濃度[P]として、300~1,500質量ppmとなる量であり、好ましくは400~1,200質量ppmであり、より好ましくは500~1,000質量ppmであり、特に好ましくは600~900質量ppmである。
【0038】
本発明の潤滑油組成物は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛以外の摩耗防止剤をさらに含んでもよい。例えば、上記式で表され、R2及びR3が、互いに独立に、水素原子、または炭素数1~26の、アルキル基でない一価炭化水素基である化合物が挙げられる。該一価炭化水素基としては、炭素数2~26のアルケニル基;炭素数6~26のシクロアルキル基;炭素数6~26のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基;またはエステル結合、エーテル結合、アルコール基またはカルボキシル基を含む炭化水素基である。R2及びR3は、好ましくは炭素数8~18のシクロアルキル基、炭素数8~18のアルキルアリール基であり、各々、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)を組合せて使用してもよい。
【0039】
また、下記式(2)及び(3)で示されるホスフェート、ホスファイト系のリン化合物、並びにそれらの金属塩及びアミン塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を併用することもできる。
【0040】
【化2】
上記一般式(2)中、R
6は炭素数1~30の一価炭化水素基であり、R
4及びR
5は互いに独立に、水素原子又は炭素数1~30の一価炭化水素基であり、kは0又は1である。
【化3】
上記一般式(3)中、R
9は炭素数1~30の一価炭化水素基であり、R
7及びR
8は互いに独立に水素原子又は炭素数1~30の一価炭化水素基であり、tは0又は1である。
【0041】
上記一般式(2)及び(3)中、R4~R9で表される炭素数1~30の一価炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。特には、炭素数1~30のアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基であることが好ましく、より好ましくは炭素数3~18のアルキル基、最も好ましくは炭素数4~15のアルキル基である。
【0042】
上記一般式(2)及び(3)で表されるリン化合物としては、例えば、上記炭素数1~30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル及び(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸、ホスホン酸モノエステル、酸性リン酸モノエステル;上記炭素数1~30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル、ホスホン酸ジエステル、酸性リン酸ジエステル及び(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸モノエステル;上記炭素数1~30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル、及び(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸ジエステル;及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0043】
上記一般式(2)及び(3)で表されるリン化合物の金属塩又はアミン塩は、一般式(2)又は(3)で表されるリン化合物に、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基、アンモニア、炭素数1~30の炭化水素基又はヒドロキシル基含有炭化水素基のみを分子中に有するアミン化合物等の窒素化合物等を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和することにより得ることができる。上記金属塩基における金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等の重金属(但し、モリブデンは除く)等が挙げられる。これらの中でも、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及び亜鉛が好ましく、亜鉛が特に好ましい。
【0044】
(E)無灰分散剤
本発明の潤滑油組成物はさらに無灰分散剤を有するのが好ましい。無灰分散剤は、特に制限されるものでなく、従来公知のものを使用すればよい。例えば、炭素数40~400の、直鎖構造又は分枝構造を有するアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。無灰分散剤は1種類を単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。また、ホウ素化無灰分散剤を使用する場合は、上記したような無灰分散剤をホウ素化したものであればよい。ホウ素化は一般に、含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和することにより行われる。
【0045】
上記アルキル基又はアルケニル基の炭素数は、好ましくは40~400であり、より好ましくは60~350である。アルキル基及びアルケニル基の炭素数が前記下限値未満であると、化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下する傾向にある。また、アルキル基及びアルケニル基の炭素数が上記上限値を超えると、潤滑油組成物の低温流動性が悪化する傾向にある。上記アルキル基及びアルケニル基は、直鎖構造を有していても分枝構造を有していてもよい。好ましい態様としては、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマー、エチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基又は分枝状アルケニル基等が挙げられる。
【0046】
コハク酸イミドには、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとがある。本発明の潤滑油組成物は、モノタイプ及びビスタイプのうちいずれか一方を含有してもよいし、あるいは双方を含有してもよい。
【0047】
モノタイプのコハク酸イミド誘導体は例えば下記式(a)で表すことができる。ビスタイプのコハク酸イミド誘導体は例えば下記式(b)で表すことができる。
【化4】
【化5】
【0048】
上記式において、R1は互いに独立に炭素数40~400のアルキル基またはアルケニル基であり、mは1~20の整数であり、nは0~20の整数である。特にはビスタイプのコハク酸イミド化合物が好ましい。コハク酸イミド誘導体は、モノタイプ及びビスタイプの併用、2種以上のモノタイプの併用、2種以上のビスタイプの併用であってもよい。
上記コハク酸イミド誘導体とホウ素化合物とを反応させることにより、ホウ素化されたコハク酸イミド誘導体が得られる。ホウ素化合物とは、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル、酸化ホウ素、及びハロゲン化ホウ素などである。ホウ素化コハク酸イミド誘導体は1種単独であっても、2種以上の組合せであってもよい。
【0049】
例えば、ホウ素化コハク酸イミドの製造方法としては、特公昭42-8013号公報及び同42-8014号公報、特開昭51-52381号公報、及び特開昭51-130408号公報等に開示されている方法等が挙げられる。より詳細には、アルコール類やヘキサン、キシレン等の有機溶媒、軽質潤滑油基油等にポリアミンとポリアルケニルコハク酸(無水物)にホウ酸、ホウ酸エステル、又はホウ酸塩等のホウ素化合物を混合し、適当な条件で加熱処理することにより得ることができる。この様にして得られるホウ素化コハク酸イミドに含まれるホウ素含有量は通常0.1~4質量%とすることができる。特に、アルケニルコハク酸イミド化合物のホウ素変性化合物(ホウ素化コハク酸イミド)は耐熱性、酸化防止性及び摩耗防止性に優れるため好ましい。
【0050】
無灰分散剤の数平均分子量(Mn)は、限定的ではないが2000以上であることが好ましく、より好ましくは2500以上、より一層好ましくは3000以上、最も好ましくは5000以上であり、また、15000以下であることが好ましい。無灰分散剤の数平均分子量が上記下限値未満では、分散性が十分でない可能性がある。一方、無灰分散剤の数平均分子量が上記上限値を超えると、粘度が高すぎ、流動性が不十分となり、デポジット増加の原因となるおそれがある。
【0051】
潤滑油組成物全体の質量に対する無灰分散剤由来のホウ素含有量が250質量ppm以下であることが好ましく、200質量ppm以下であることがより好ましく、150質量ppm以下であることがさらに好ましい。無灰分散剤がホウ素を有する場合、ホウ素を1.0質量%以下有する無灰分散剤であることが好ましく、ホウ素を0.8質量%以下有する無灰分散剤であることがより好ましい。無灰分散剤はホウ素を含有する無灰分散剤とホウ素を含有しない無灰分散剤のいずれも使用することができ、併用することもできる。ホウ素を含有する無灰分散剤の潤滑油組成物中の含有量は、ホウ素含有無灰分散剤中のホウ素含有量にもよるが、特にはホウ素含有無灰分散剤の配合量が、組成物全量基準で0~5.0量%、好ましくは0.1~4.0質量%、より好ましくは0.5~3.0質量%、特に好ましくは1.0~2.0質量%であるのがよい。ホウ素を含まない無灰分散剤の配合量は、組成物全量基準で0.1~10質量%、好ましくは0.5~9.0質量%、より好ましくは1.0~8.0質量%、特に好ましくは2.5~7.0質量%、最も好ましくは4.0~6.0質量%であるのがよい。
【0052】
(F)摩擦調整剤
本発明の潤滑油組成物はさらに摩擦調整剤を含有することができる。摩擦調整剤は特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。摩擦調整剤は、例えば、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)およびモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物、モリブデン化合物と硫黄含有有機化合物又はその他の有機化合物との錯体、ならびに硫化モリブデンおよび硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。上記モリブデン化合物としては、例えば、二酸化モリブデンおよび三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸および(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩およびアンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデンおよびポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩又はアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等が挙げられる。上記硫黄含有有機化合物としては、例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイドおよび硫化エステル等が挙げられる。特に、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)およびモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の有機モリブデン化合物が好ましい。
【0053】
モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)は下記式[I]で表される化合物であり、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)は下記[II]で表される化合物である。
【化6】
【化7】
【0054】
上記一般式[I]および[II]において、R1~R8は、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~30の一価炭化水素基である。炭化水素基は直鎖状でも分岐状でもよい。該一価炭化水素基としては、炭素数1~30の直鎖状または分岐状アルキル基;炭素数2~30のアルケニル基;炭素数4~30のシクロアルキル基;炭素数6~30のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基等を挙げることができる。アリールアルキル基において、アルキル基の結合位置は任意である。より詳細には、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基およびオクタデシル基等、およびこれらの分岐状アルキル基を挙げることができ、特に炭素数3~8のアルキル基が好ましい。また、X1およびX2は酸素原子または硫黄原子であり、Y1およびY2は酸素原子または硫黄原子である。
【0055】
摩擦調整剤として、硫黄を含まない有機モリブデン化合物も使用できる。このような化合物としては、例えば、モリブデン-アミン錯体、モリブデン-コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、およびアルコールのモリブデン塩等が挙げられる。
【0056】
さらに本発明における摩擦調整剤として、米国特許第5,906,968号に記載されている三核モリブデン化合物を用いることもできる。
【0057】
摩擦調整剤は、潤滑油組成物の質量に対するモリブデンの質量ppmとしての濃度[Mo]が0~100質量ppm、好ましくは0~50質量ppm、より好ましくは0~10質量ppmとなる量で添加され、特に好ましくは0質量%である。摩擦調整剤の量が上記上限を超えると清浄性が悪化する場合があり、上記範囲内で配合すれば、良好な清浄性が得られ、また、十分な摩擦低減効果も確保できる。
【0058】
その他の添加剤
本発明の潤滑油組成物は、その性能を向上させるために、目的に応じてその他の添加剤をさらに含有することができる。その他の添加剤としては一般的に潤滑油組成物に使用されているものを使用できるが、例えば、酸化防止剤、上記以外の摩擦調整剤、腐食防止剤、防錆剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤および消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0059】
上記酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。例えば、フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が、アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキルフェニル-α-ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。酸化防止剤は、通常、潤滑油組成物中に0.1~5質量%で配合される。
【0060】
本発明の潤滑油組成物は、上記以外の摩擦調整剤として有機摩擦調整剤を含有することができる。有機摩擦調整剤とは、金属を有しない摩擦調整剤のことを意味する。例えば、アミン系摩擦調整剤、アミド系摩擦調整剤、エステル系摩擦調整剤、及びエーテル系摩擦調整剤など、有機化合物により構成されるものである。特に好ましくはエステル系摩擦調整剤であり、リン捕捉剤として好適に機能する。有機摩擦調整剤を含まないと、優れた耐摩耗性及び耐焼付き性を確保することが困難となる。有機摩擦調整剤の潤滑油組成物中の含有量は好ましくは0.1~2質量%であり、より好ましくは0.2~1.5質量%であり、さらに好ましくは0.2~1質量%である。有機摩擦調整剤は、1種単独であってもよいし、2種以上の併用であってもよい。
【0061】
上記腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系化合物等が挙げられる。上記防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。腐食防止剤及び防錆剤は、通常、潤滑油組成物中にそれぞれ0.01~5質量%で配合される。
【0062】
上記流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が使用できる。ポリメタクリレートとしては、例えば重量平均分子量10万未満、好ましくは10,000~90,000、より好ましくは20,000~80,000、更に好ましくは30,000~70,000を有するポリメタクリレート系ポリマーが挙げられ、上述した粘度指数向上剤として用いるポリメタクリレートとは異なる重量平均分子量を有するものである。該流動点降下剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01~3質量%で配される。
【0063】
上記抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。抗乳化剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01~5質量%で配合される。
【0064】
上記金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4-チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4-チアジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカーバメート、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。金属不活性化剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01~3質量%で配合される。
【0065】
上記消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000~10万mm2/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo-ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。消泡剤は、通常、潤滑油組成物中に0.001~1質量%で配合される。
【0066】
潤滑油組成物
本発明の潤滑油組成物は、100℃での動粘度が6.9mm2/s以上9.3mm2/s未満の範囲であることを要する。好ましくは7.2以上9.0mm2/s未満、より好ましくは7.5以上8.7mm2/s未満である。これにより潤滑油組成物を低粘度化させることができる。これにより、SAE0W-20の要件を満たす。なお、100℃での動粘度(KV100)は、ASTM D445に準拠し、100℃で測定した。
【0067】
本発明の潤滑油組成物の-35℃でのCCS粘度は6.2Pa・s以下であり、好ましくは5.5Pa・s以下であり、更に好ましくは5.0Pa・s以下であり、最も好ましくは4.5Pa・s以下である。なお、-35℃でのCCS粘度(CCS粘度)は、ASTMD5293に準拠して測定した。
【0068】
本発明の潤滑油組成物の150℃での高温高せん断粘度(HTHS粘度)は2.6mPa・s以上であり、好ましくは2.7mPa・s以上であるのがよい。上限は2.9mPa・s以下であるのが好ましい。 なお、150℃での高温高せん断粘度(HTHS150)は、ASTMD4683に準拠して測定した。
【実施例0069】
以下、本発明を、実施例及び比較例によってより詳細に示すが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0070】
実施例および比較例で使用した各成分は以下の通りである。
(A)潤滑油基油
(A1-1)GTL由来基油(100℃での動粘度=4.1mm2/s、VI=129)
(A1-2)鉱油(100℃での動粘度=4.1mm2/s、VI=134)
(A2-1)GTL由来基油(100℃での動粘度=7.6mm2/s、VI=140)
(A2-2)鉱油(100℃での動粘度=7.2mm2/s、VI=125)
(A2-3)ポリ-α-オレフィン(PAO)(100℃での動粘度=5.9mm2/s、VI=132)
(B)粘度指数向上剤
(B1-1)非分散型ポリメタクリレート(Mw=200,000)
(B1-2)非分散型ポリメタクリレート(Mw=240,000)
(B1-3)非分散型ポリメタクリレート(Mw=400,000)
(B2)α-オレフィン共重合体(SSI=24、Mw=150,000)
(C)金属清浄剤
(C1)マグネシウムスルホネート(全塩基価400mgKOH/g、マグネシウム含有量9.4質量%)
(C2)カルシウムサリシレート(全塩基価146mgKOH/g、カルシウム含有量5.2量%)
【0071】
[その他の添加剤1]
摩耗防止剤(ZnDTP)、無灰分散剤(ポリイソブテニルコハク酸イミド、またはホウ素化ポリイソブテニルコハク酸イミド)、摩擦調整剤(エステル系)、酸化防止剤(フェノール系)、消泡剤(ジメチルシリコーン)、流動点降下剤(Mw10万未満を有するPMA)、及びその他の粘度指数向上剤
[その他の添加剤2]
摩耗防止剤(ZnDTP)、無灰分散剤(ポリイソブテニルコハク酸イミド、またはホウ素化ポリイソブテニルコハク酸イミド)、摩擦調整剤(エステル系)、酸化防止剤(フェノール系)、消泡剤(ジメチルシリコーン)、流動点降下剤(Mw10万未満を有するPMA)
【0072】
実施例及び比較例
下記表1及び表2に示す量で、潤滑油基油、粘度指数向上剤、金属清浄剤及びその他の成分を混合して潤滑油組成物を調製した。表に記載の質量部は、潤滑油組成物の総量(100質量部)に対する質量部である。なお、その他の添加剤の量は組成物の総質量が100質量部となる残部である。得られた組成物について、-35℃でのCCS粘度、150℃での高温高せん断粘度(HTHS150)、及び100℃での動粘度(KV100)を測定した。各測定方法は上述した通りである。さらに下記方法に従い、高温清浄性の評価及び硫酸灰分量測定を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0073】
ホットチューブテスト(高温清浄性の評価)
JPI-5S-55-99に準拠してホットチューブテストを行った。試験方法の詳細を以下に記載する。
内径2mmのガラス管中に、潤滑油組成物を0.3ミリリットル/時で、空気を10ミリリットル/秒で、ガラス管の温度を280℃に保ちながら16時間流し続けた。ガラス管中に付着したラッカーと色見本とを比較し、透明の場合は10点、黒の場合は0点として評点を付けた。評点が高いほど高温清浄性が良いことを示す。評点が6.0以上を合格とした。
【0074】
硫酸灰分量の測定
JIS K 2272「原油及び石油製品-灰分及び硫酸灰分試験方法」に準拠して、硫酸灰分量(質量%)を測定した。硫酸灰分量の値が0.8質量%以下を合格とした。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
上記表3に示すように、比較例1の潤滑油組成物は100℃における動粘度が6.9mm2/s未満である。また、150℃での高温高せん断粘度(HTHS粘度)は2.6mPa・s未満である(比較例1)。比較例4及び5の潤滑油組成物は100℃における動粘度が9.3mm2/s以上であり、-35℃でのCCS粘度が6.2Pa・s超である。また、150℃での高温高せん断粘度(HTHS粘度)が2.9mPa・s超である。これら比較例の潤滑油組成物は、低温粘度特性と高温粘度特性のバランスに劣る(比較例4及び比較例5)。さらに比較例3及び比較例6の潤滑油組成物はSAE 0W-20の要件は満たすものの硫酸灰分量が0.8質量%以上である。比較例2の潤滑油組成物はSAE 0W-20の要件は満たすものの、HTTが6.0以下であり清浄性に劣る。
これに対し、表1及び2に示す通り、本発明の潤滑油組成物は100℃における動粘度6.9mm2/s以上9.3mm2/s未満を有し、低温粘度特性(-35℃でのCCS粘度)及び高温粘度特性(150℃での高温高せん断粘度(HTHS粘度))が良好であり、且つ、硫酸灰分量及び清浄性(HTT)のバランスに優れる。
【0079】
本発明の潤滑油組成物は、高温せん断粘度を維持しつつ、省燃費性と低温粘度特性に優れた潤滑油組成物である。特に、内燃機関用の潤滑油組成物、さらにはディーゼルエンジン用の潤滑油組成物として好適である。