(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022750
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】エアフィルタ用濾材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/20 20060101AFI20220131BHJP
D21H 13/40 20060101ALI20220131BHJP
D21H 21/16 20060101ALI20220131BHJP
D21H 21/24 20060101ALI20220131BHJP
D06M 15/256 20060101ALI20220131BHJP
D06M 101/00 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
B01D39/20 B
D21H13/40
D21H21/16
D21H21/24
D06M15/256
D06M101:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020115748
(22)【出願日】2020-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】田代 希
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正
【テーマコード(参考)】
4D019
4L033
4L055
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019BA04
4D019BA13
4D019BA18
4D019BB05
4D019BC13
4D019BD01
4D019CB06
4D019DA03
4L033AA09
4L033AB07
4L033AC03
4L033CA17
4L055AF04
4L055AF47
4L055AF50
4L055AG69
4L055AH23
4L055AH29
4L055EA16
4L055EA25
4L055EA32
4L055FA19
4L055GA31
(57)【要約】
【課題】本開示は、PF値が高く且つ実用上十分な撥水性を有するエアフィルタ用濾材を提供すること及びその濾材を容易な製法で提供することである。
【解決手段】本開示に係るエアフィルタ用濾材は、ガラス繊維を含む湿式不織布からなるエアフィルタ用濾材において、該濾材は、フッ素樹脂及びカチオン性の界面活性剤を含み、且つバインダー樹脂を含まず、前記フッ素樹脂と前記界面活性剤との固形分質量比率が40/60~80/20の範囲にあることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維を含む湿式不織布からなるエアフィルタ用濾材において、
該濾材は、フッ素樹脂及びカチオン性の界面活性剤を含み、且つバインダー樹脂を含まず、
前記フッ素樹脂と前記界面活性剤との固形分質量比率が40/60~80/20の範囲にあることを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【請求項2】
前記湿式不織布が、更に溶融接着バインダー繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項3】
前記フッ素樹脂がノニオン性又はカチオン性のフッ素樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項4】
前記濾材に含まれる前記フッ素樹脂と前記界面活性剤を合計した固形分質量含有率は、濾材全体に対して0.01~2.00%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項5】
前記湿式不織布は、前記ガラス繊維として、繊維径が1~10μmのガラスウール繊維、繊維径が1μm未満のガラスウール繊維及び繊維径が4~30μmのチョップドガラス繊維を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項6】
ガラス繊維を含むスラリーを湿式抄紙法によりシート化して、湿潤状態のシートを形成する工程と、
前記湿潤状態のシートを、フッ素樹脂及びカチオン性の界面活性剤を含み、前記フッ素樹脂と前記界面活性剤との固形分質量比率が40/60~80/20の範囲にあり、且つバインダー樹脂を含まない水性分散液に含浸する工程と、
前記水性分散液に含浸した湿潤状態のシートを乾燥して、乾燥シートを得る工程と、を有することを特徴とするエアフィルタ用濾材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体、液晶、食品工業向けのクリーンルーム、ビル空調又は空気清浄機などに設置されるエアフィルタに用いられるエアフィルタ用濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中のサブミクロン又はミクロン単位の粒子を捕集除去するためには、一般的に、エアフィルタ用濾材を備えたエアフィルタが用いられる。エアフィルタは捕集可能な粒子径、捕集効率によって粗塵用フィルタ、中性能フィルタ、HEPAフィルタ、ULPAフィルタに分類され、後者になるほどより高性能となる。
【0003】
エアフィルタ用濾材の濾過性能を示す特性として、圧力損失及び捕集効率がある。圧力損失が高いほど、通風のために必要なエネルギー消費量が増加するとともにフィルタのランニングコストが高くなるため、圧力損失が低く且つ粒子の捕集効率が高い濾材が望ましい。この観点より示される濾過性能の指標としては、数1の式で定義されるPF値がある。尚、透過率[%]=100-捕集効率[%]であり、高いPF値を有する濾材が望ましい。
【数1】
【0004】
エアフィルタ用濾材のPF値を向上させる方法としては、エアフィルタ用濾材に4級アンモニウム塩であるカチオン性界面活性剤を付与する方法(例えば、特許文献1を参照。)、フッ素樹脂と界面活性剤を付与する方法(例えば、特許文献2を参照。)、バインダー樹脂とフッ素系界面活性剤の混合物を付与する方法(例えば、特許文献3を参照。)が提案されている。
【0005】
又、含窒素フッ素系界面活性剤を事前に付着させたガラス繊維を構成繊維の一部として用いる方法(例えば、特許文献4を参照。)も提案されている。
【0006】
一方で、エアフィルタ用濾材に求められる他の物性として、撥水性が挙げられる。撥水性を有する濾材を用いることにより、濾材をエアフィルタユニットに加工する際に使用されるシール剤やホットメルトが染み込む問題や、結露により生じた水滴が濾材の細孔をふさぐ問題の発生を防ぐことができる。更に、高い撥水性を有する濾材を用いることにより、沿岸地域でのフィルタ使用における海塩粒子の侵入を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010―94580号公報
【特許文献2】WO2014-171165号公報
【特許文献3】特開2015-85250号公報
【特許文献4】特開2019-51481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の通り、エアフィルタ用濾材のPF値を向上させる方法として特許文献1~3の技術が提案されているが、省エネルギーの観点から更なるPF値向上が求められている。例えば、特許文献2で提示されたフッ素樹脂と界面活性剤を付与する方法は、フッ素樹脂100質量部に対してアニオン性界面活性剤を20質量部以下の割合で付着させる事例が示されている。界面活性剤は濾材に吸着し、繊維の分散性を良くすることでPF値を向上させる効果があるが、ガラス繊維は負に帯電しているためアニオン性界面活性剤は繊維に吸着しにくく、繊維に吸着したフッ素樹脂へと優先的に吸着するため、界面活性剤の割合を増やすことによるPF値向上効果には限りがあり、且つ撥水性が低下しやすくなる問題があった。又、特許文献4の方法ではガラス繊維への界面活性剤の付着工程が必要なため、製造効率が低くなり製造コストが高くなる問題があった。
【0009】
前記の通り、エアフィルタ用濾材には、高いPF値と撥水性を有していることと、更には製造が容易であることが求められている。したがって、本開示の課題は、PF値が高く且つ実用上十分な撥水性を有するエアフィルタ用濾材を提供すること及びその濾材を容易な製法で提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るエアフィルタ用濾材は、ガラス繊維を含む湿式不織布からなるエアフィルタ用濾材において、該濾材は、フッ素樹脂及びカチオン性の界面活性剤を含み、且つバインダー樹脂を含まず、前記フッ素樹脂と前記界面活性剤との固形分質量比率が40/60~80/20の範囲にあることを特徴とする。フッ素樹脂とカチオン性の界面活性剤を前記の割合で共にガラス繊維に吸着させることにより、PF値が高く且つ実用上十分な撥水性を有するエアフィルタ用濾材が得られる。
【0011】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記湿式不織布が、更に溶融接着バインダー繊維を含むことが好ましい。濾材の強度をより高めることができる。
【0012】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記フッ素樹脂はノニオン性又はカチオン性が好ましい。ガラス繊維は負の表面電荷を有するため、フッ素樹脂がガラス表面により吸着しやすくなり、撥水効果が向上する。
【0013】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記濾材に含まれる前記フッ素樹脂と前記界面活性剤を合計した固形分質量含有率は、濾材全体に対して0.01~2.00%であることが好ましい。濾材の高強度と高PF値との両立が可能となる。
【0014】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記湿式不織布は、前記ガラス繊維として、繊維径が1~10μmのガラスウール繊維、繊維径が1μm未満のガラスウール繊維及び繊維径が4~30μmのチョップドガラス繊維を含むことが好ましい。高PF値及び高強度が得られやすくなる。
【0015】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法は、ガラス繊維を含むスラリーを湿式抄紙法によりシート化して、湿潤状態のシートを形成する工程と、前記湿潤状態のシートを、フッ素樹脂及びカチオン性の界面活性剤を含み、前記フッ素樹脂と前記界面活性剤との固形分質量比率が40/60~80/20の範囲にあり、且つバインダー樹脂を含まない水性分散液に含浸する工程と、前記水性分散液に含浸した湿潤状態のシートを乾燥して、乾燥シートを得る工程と、を有することを特徴とする。これにより、PF値が高く且つ実用上十分な撥水性を有するエアフィルタ用濾材が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によって、PF値が高く且つ実用上十分な撥水性を有するエアフィルタ用濾材を提供すること及びその濾材を容易な製法で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】フッ素樹脂/カチオン性界面活性剤の固形分質量比率と0.10~0.15μmのPF値との関係を表したグラフである。
【
図2】フッ素樹脂/カチオン性界面活性剤の固形分質量比率と撥水性との関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0019】
本実施形態に係るエアフィルタ用濾材は、ガラス繊維を含む湿式不織布からなるエアフィルタ用濾材であり、濾材は、フッ素樹脂及びカチオン性の界面活性剤を含み、且つバインダー樹脂を含まず、フッ素樹脂と界面活性剤との固形分質量比率が40/60~80/20の範囲にある。又、濾材の製造工程において、フッ素樹脂及びカチオン性の界面活性剤を含み、フッ素樹脂と界面活性剤との固形分質量比率が40/60~80/20の範囲にあり、且つバインダー樹脂を含まない水性分散液の含浸液を、ガラス繊維を含むスラリーを湿式抄紙法によりシート化した湿潤状態のシートに含浸させる。含浸によってガラス繊維にフッ素樹脂と界面活性剤が共に吸着する。次に含浸したシートを乾燥させる。このような工程を経た濾材は、ガラス繊維が均一に分散してガラス繊維どうしの凝集が防止され、濾材の表面積が大きくなることで捕集効率が向上し、高いPF値を有する濾材となると推定される。
【0020】
本実施形態で用いるフッ素樹脂は、分子内にフルオロアルキル基を含有する樹脂であり、フッ素原子によりもたらされる反撥力により、撥水性、撥油性、非粘着性等の特性を有するものである。撥水剤、撥油剤又は防汚剤として市販されているパーフルオロアルキル基含有樹脂からなる水性エマルジョンタイプ又は水性ディスパージョンタイプのものを用いることが好ましい。フッ素樹脂はノニオン性又はカチオン性が好ましく、ガラス繊維に吸着しやすいカチオン性のフッ素樹脂がより好ましい。ガラス繊維は負の表面電荷を有するため、フッ素樹脂がガラス表面により吸着しやすくなり、撥水効果が向上する。ここでいうカチオン性とは、フッ素樹脂自体又は乳化剤等がカチオン性であり、水中に分散されたフッ素樹脂のコロイド粒子が正の表面電荷を有することを意味する。カチオン性のフッ素樹脂を用いることにより、水中において負の表面電荷を有するガラス繊維に吸着しやすくなる。
【0021】
本実施形態で用いる界面活性剤は、カチオン性のものから選択され、例えば1~3級アミン塩、4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0022】
本実施形態においては、フッ素樹脂と界面活性剤を含む含浸液の中に、バインダー樹脂を含まない。ここで言うバインダー樹脂とは、含浸や塗布等の方法を用いて不織布に付与した際に不織布の強度を向上させる効果を持つ、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリスチレンブタジエン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂等の樹脂からなる水性分散液である。このようなバインダー樹脂を用いて十分な強度を得るためには、本実施形態で用いるフッ素樹脂と界面活性剤に比べて大量のバインダー樹脂を用いることが必要となるため、本実施形態の効果を妨げる。尚、本実施形態で用いるフッ素樹脂は、前記の通りフッ素原子による反撥力のために強度付与に対する効果が小さいため、ここで言うバインダー樹脂には含まれない。
【0023】
本実施形態におけるフッ素樹脂と界面活性剤の濾材中の固形分質量比率(フッ素樹脂/界面活性剤)は、40/60~80/20である。この質量比率とすることで、非常に高いPF値(例えば、13以上)と、実用上十分な撥水性(例えば、150mm水柱高以上)の両方を有するエアフィルタ用濾材を得ることができる。フッ素樹脂の固形分質量比率が40部未満、界面活性剤の固形分質量比率が60部を超えると、フッ素樹脂がガラス繊維に十分吸着しないために撥水性が得られなくなり、フッ素樹脂の固形分質量比率が80部を超え、界面活性剤の固形分質量比率が20部未満であると、界面活性剤がガラス繊維に十分吸着しないためにPF値が低くなる。
【0024】
濾材中におけるフッ素樹脂と界面活性剤を合計した固形分質量含有率は、濾材全体に対して0.01~2.00%であることが好ましく、0.10~1.00%であることがより好ましい。これらの成分の含有率が0.01%よりも低いとPF値向上効果が十分でなくなり、含有率が2.00%よりも高いと増量にともなうPF値の更なる向上が望めなくなる。
【0025】
本実施形態におけるエアフィルタ用濾材は、ガラス繊維を含む湿式不織布からなる。ガラス繊維は高い剛性を有しているため、濾材内において、空気が通過するために必要な空隙を十分に維持することができ、高いPF値を得ることができる。ガラス繊維としてはガラスウール繊維とチョップドガラス繊維を使用することができる。ここで言うガラスウール繊維は、火焔延伸法又はロータリー法により延伸されて製造される、繊維径がある程度の分布幅を有する不定形で不連続なウール状のガラス繊維である。繊維径の範囲は一般的に約0.1~約10μmであり、ある程度の分布幅を有することから繊維径の値は一般的に平均繊維径として表され、本実施形態において用いているガラスウール繊維の繊維径も平均繊維径である。一方で、チョップドガラス繊維は、所定の直径を有する口金から紡糸された連続したガラス繊維を所定の繊維長に切断した定形で直線状のガラス繊維であり、繊維径の範囲は一般的に約4~約30μm、繊維長の範囲は一般的に約1.5~約25mmである。本実施形態の濾材において、繊維径が細く不定形のガラスウール繊維は、捕集効率を高くするとともに濾材中の空隙を保持する効果を有する。繊維径が太く直線状のチョップドガラス繊維は、フィルタユニットの加工時及び使用時に必要とされる強度及び剛度を付与する効果を有するが、濾材の製造中に繊維が水平方向に堆積しやすいため、チョップドガラス繊維の配合比率が高いと、濾材の密度を高くする傾向にある。本実施形態において、ガラス繊維としてチョップドガラス繊維を用いる場合、チョップドガラス繊維の配合率は、濾材中の繊維の全繊維質量に対して、1~50質量%が好ましく、3~30%質量%がより好ましく、5~10質量%が更に好ましい。
【0026】
本実施形態においては、ガラスウール繊維の平均繊維径は特に限定するものではないが、0.1~10μmであることが好ましく、0.2~7μmであることがより好ましい。又、高いPF値を得るためには、ガラス繊維の少なくとも一部が繊維径1μm未満のガラス繊維であることが好ましい。
【0027】
本実施形態においては、エアフィルタ用濾材に必要とされる強度を付与するために、バインダー繊維を用いることができる。バインダー繊維は、ガラス繊維を含むスラリーに添加され、溶融接着、水素結合、物理的な絡み合い等により強度を付与する繊維であり、本実施形態の効果を損なわない範囲で自由に選択される。例を挙げると、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維等である。本実施形態においては、これらの中でも溶融接着バインダー繊維を用いることが好ましい。溶融接着バインダー繊維の形態としては、溶融する部分と溶融しない部分とが隣り合わせで複合化されたサイドバイサイド型バインダー繊維や、溶融しない芯部と溶融する鞘部を有する芯鞘型バインダー繊維や、全体が溶融してガラス繊維等の主体繊維同士の接着に寄与する全融型バインダー繊維などがある。バインダー繊維の配合率は、濾材中の繊維の全繊維質量に対して、10~70質量%が好ましく、20~60%質量%がより好ましく、30~50質量%が更に好ましい。溶融接着バインダー繊維は、サイドバイサイド型バインダー繊維、芯鞘型バインダー繊維及び全融型バインダー繊維のうち、いずれか一種をエアフィルタ用濾材に含ませる形態のほか、2種又は3種を含ませてもよい。2種を含ませる例としては、サイドバイサイド型バインダー繊維と芯鞘型バインダー繊維の組み合わせ、サイドバイサイド型バインダー繊維と全融型バインダー繊維の組み合わせ、又は芯鞘型バインダー繊維と全融型バインダー繊維の組み合わせがある。
【0028】
本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造工程においては、原料繊維を水中で分散して原料スラリーを得て、これを湿式抄紙法によりシート化して、湿潤状態のシートを得る。分散及び抄紙に用いる水は、酸性であることが好ましく、pH2~4であることがより好ましい。酸性下で分散及び抄紙を行うことにより、ガラス繊維の分散が容易になる他、湿紙強度を高くすることができ、操業が容易になる。
【0029】
本実施形態に係るエアフィルタ用濾材の製造工程においては、前記の方法で得られた乾燥前の湿潤状態のシートに、フッ素樹脂と界面活性剤を含む水性分散液を含浸させ、シートを乾燥することでエアフィルタ用濾材が得られる。乾燥前のシートにフッ素樹脂と界面活性剤を含浸させることにより、本実施形態の効果を高めることができる。シートの乾燥は、抄紙機においては、多筒式ドライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥機、手抄装置においては、ロータリードライヤー、循環乾燥機等を用いて、例えば、100~170℃、より好ましくは120~160℃の温度にて乾燥させることが好ましい。
【0030】
本実施形態においては、フッ素樹脂と界面活性剤を含む水性分散液に対して、本発明の効果を妨げない範囲で、消泡剤等の添加剤を適宜添加することができる。
【実施例0031】
以下に本発明について具体的な実施例を示して説明するが、本発明はこれらの記載に限定されるものではない。尚、例中の「部」は、原料スラリー中の繊維の固形分質量比率、又は含浸液中の成分の固形分質量比率を示し、原料スラリーにおいては全ての繊維の合計量を100部とし、含浸液においてはフッ素樹脂と界面活性剤の合計量を100部とした。又、例中の「%」は、含浸液中の成分の固形分質量濃度、又は濾材中の成分の固形分質量含有率を示す。
【0032】
<実施例1>
平均繊維径0.65μmのガラスウール繊維(B-06-F、Unifrax Co.製)42部、平均繊維径2.44μmのガラスウール繊維(B-26-R、Unifrax Co.製)5部、繊維径6μm、カット長6mmのチョップドガラス繊維(EC-6-6-SP、Unifrax Co.製)5部、繊度1.1dtex、カット長5mmの芯/鞘がポリエステル/ポリエステルである芯鞘バインダー繊維(メルティ4080、ユニチカ(株)製)18部及び繊度2.2dtex、カット長5mmのポリエステル全融バインダー繊維(メルティ4000、ユニチカ(株)製)30部を、テーブル離解機にてpH3.0の酸性水を用いて離解し、原料スラリーを得た。次に、pH3.0の酸性水を張った手抄装置に原料スラリーを投入し、脱水して湿潤シートを得た。次に、フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)40部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)60部及び水を混合して濃度0.10%に調製した含浸液を湿潤シートに含浸付与し、130℃のロータリードライヤーを用いて乾燥して、坪量75g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は0.12%であった。
【0033】
<実施例2>
フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)60部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)40部及び水を混合して濃度0.10%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量75g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は0.30%であった。
【0034】
<実施例3>
フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)80部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)20部及び水を混合して濃度0.10%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量75g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は0.39%であった。
【0035】
<実施例4>
平均繊維径0.65μmのガラスウール繊維(B-06-F、Unifrax Co.製)42部、平均繊維径2.44μmのガラスウール繊維(B-26-R、Unifrax Co.製)53部、繊維径6μm、カット長6mmのチョップドガラス繊維(EC-6-6-SP、Unifrax Co.製)5部を、テーブル離解機にてpH3.0の酸性水を用いて離解し、フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)60部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)40部及び水を混合して濃度0.10%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は0.27%であった。
【0036】
<実施例5>
フッ素樹脂(アサヒガードAG-E550D、AGC(株)製)60部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)40部及び水を混合して濃度0.10%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量75g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は0.20%であった。
【0037】
<比較例1>
カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)100部及び水を混合して濃度0.10%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量75g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は0.20%であった。
【0038】
<比較例2>
フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)20部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)80部及び水を混合して濃度0.10%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量75g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は0.12%であった。
【0039】
<比較例3>
フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)90部、カチオン性界面活性剤(カチオーゲンTMP、第一工業製薬(株)製)10部及び水を混合して濃度0.10%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量75g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は0.92%であった。
【0040】
<比較例4>
フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)100部及び水を混合して濃度0.10%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量75g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は1.0%であった。
【0041】
<比較例5>
含浸を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、坪量75g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。
【0042】
<比較例6>
フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)60部、ノニオン性界面活性剤(ノイゲンEA-137、第一工業製薬(株)製)40部及び水を混合して濃度0.10%に調製した含浸液を用いた以外は、実施例1と同様にして、坪量75g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。尚、濾材中の含浸成分の含有率は0.39%であった。
【0043】
<比較例7>
フッ素樹脂(アサヒガードAG-E060、AGC(株)製)60部、アニオン性界面活性剤(ハイテノール330T、第一工業製薬(株)製)40部及び水を濃度0.10%となるように混合したところ凝集物を発生した。そのため、この含浸液を用いたエアフィルタは作製しなかった。
【0044】
実施例及び比較例において得られたエアフィルタ用濾材の評価は、以下に示す方法を用いて行った。
【0045】
<圧力損失>
圧力損失は、有効面積100cm2のエアフィルタ用濾材に面風速5.3cm/秒で通風した際の差圧として、マノメーター(マノスターゲージWO81、(株)山本電機製作所社製)を使用して測定した。
【0046】
<透過率>
透過率は、ラスキンノズルで発生させた多分散ポリアルファオレフィン(PAO)粒子を含む空気が有効面積100cm2のエアフィルタ用濾材に面風速5.3cm/秒で通風した際の上流及び下流のPAO粒子の個数をレーザーパーティクルカウンター(KC-18、リオン(株)社製)を用いて測定し、上流と下流の粒子数の比から求めた。対象粒子径は0.10~0.15μm及び0.30~0.40μmとした。
【0047】
<PF値>
PF値は、圧力損失及び透過率の値から、数1に示す式を用いて計算した。対象粒子径は0.10~0.15μm及び0.30~0.40μmとした。
【0048】
<引張強度>
引張強度はオートグラフAGX-S((株)島津製作所社製)を用いて試験幅1inch、試験長100mm、引張速度15mm/minの条件で測定を行った。
【0049】
<撥水性>
撥水性はMIL-STD-282に準拠して測定を行った。
【0050】
前記の方法で行ったエアフィルタ用濾材の評価結果を表1及び表2に示した。又、実施例1~3及び比較例1~4の結果を用いて、フッ素樹脂/カチオン性界面活性剤の固形分質量比率と0.10~0.15μmのPF値及び撥水性の関係を表したグラフを、各々、
図1及び
図2に示した。
【0051】
【0052】
【0053】
実施例1~実施例4より、カチオン性フッ素樹脂とカチオン性界面活性剤の質量比率を40/60~80/20の範囲とした場合、非常に高いPF値(13以上)と高い撥水性(200mm以上)を有する濾材を得ることができた。実施例5より、ノニオン性フッ素樹脂とカチオン性界面活性剤を使用した場合、非常に高いPF値(13以上)と実用上必要な撥水性(150mm以上)を有する濾材を得ることができた。
【0054】
比較例1及び比較例2によれば、フッ素樹脂の質量比率が40部未満の場合、十分な撥水性が得られなかった。比較例3及び比較例4によれば、フッ素樹脂の質量比率が80部を超える場合、PF値が低かった。比較例5によれば、フッ素樹脂と界面活性剤の両方を含有させない場合、撥水性が得られず且つPF値が低かった。比較例6によれば、界面活性剤がノニオン性の場合、PF値が低かった。比較例7によれば、界面活性剤がアニオン性の場合、今回使用したフッ素樹脂と界面活性剤の相性により含浸液が凝集を起こしたため、濾材を作製できなかった。