(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022784
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】素子保護構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/28 20060101AFI20220131BHJP
H01G 4/38 20060101ALI20220131BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20220131BHJP
H01L 21/56 20060101ALI20220131BHJP
H01G 4/40 20060101ALI20220131BHJP
H01M 50/20 20210101ALN20220131BHJP
【FI】
H01L23/28 E
H01G4/38
H05K3/28 G
H01L21/56 E
H01G4/40
H01M2/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020116922
(22)【出願日】2020-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】森内 英輝
(72)【発明者】
【氏名】池谷 拓速
【テーマコード(参考)】
4M109
5E082
5E314
5F061
5H040
【Fターム(参考)】
4M109AA01
4M109AA02
4M109BA04
4M109CA05
4M109CA22
4M109DB15
4M109EA02
4M109EA10
4M109EA12
4M109EE02
4M109EE04
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4M109GA03
5E082HH21
5E082HH25
5E314AA29
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5E314DD06
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5E314FF21
5E314GG11
5E314GG26
5F061AA01
5F061AA02
5F061BA04
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5F061CB02
5F061CB13
5F061FA02
5F061FA03
5H040AA06
5H040AY02
5H040LL06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】素子が外部からの衝撃、応力、熱等の影響を受け難く、破損し難い素子保護構造体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】複数の素子12が基板14に付いてなる電子部品10と、素子12の表面の少なくとも一部に密着し、複数の空隙を内部に分散して含み、主として粉体からなる保護層20と、を有する素子保護構造体1の製造方法であって、素子12の表面の少なくとも一部に、主として前記粉体を密着させて保護層20を形成する工程を備える、。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子と、前記素子の表面の少なくとも一部に密着し、複数の空隙を内部に分散して含み、主として粉体からなる保護層と、
を有する素子保護構造体。
【請求項2】
前記保護層の空隙率が10%~60%である、請求項1に記載の素子保護構造体。
【請求項3】
前記保護層が、前記粉体の一部が溶融してなる溶融部を含む、請求項1または2に記載の素子保護構造体。
【請求項4】
さらに、前記保護層の外表面の少なくとも一部を覆う、前記粉体の一部が溶融してなる結着層を有する、請求項1~3のいずれかに記載の素子保護構造体。
【請求項5】
さらに、前記結着層または前記保護層の外表面の少なくとも一部を覆うカバー層を有する、請求項1~4のいずれかに記載の素子保護構造体。
【請求項6】
前記保護層がポッティング樹脂を含む、請求項1~5のいずれかに記載の素子保護構造体。
【請求項7】
前記素子が凹凸部を形成し、
前記保護層が、前記凹凸部の少なくとも一部に密着している、請求項1~6のいずれかに記載の素子保護構造体。
【請求項8】
さらに基板を含み、複数の前記素子が前記基板に付いて前記凹凸部を形成している、請求項7に記載の素子保護構造体。
【請求項9】
前記素子の表面の少なくとも一部に、主として前記粉体を密着させて前記保護層を形成する工程を備え、請求項1~8のいずれかに記載の素子保護構造体が得られる、素子保護構造体の製造方法。
【請求項10】
前記素子の表面の少なくとも一部に、主として前記粉体を密着させた後、熱を加えて前記粉体の少なくとも一部を溶融して前記結着層を形成する工程を備え、請求項1~8のいずれかに記載の素子保護構造体が得られる、素子保護構造体の製造方法。
【請求項11】
前記素子の表面の少なくとも一部に、主として前記粉体を密着させた後、熱を加えて前記粉体の少なくとも一部を溶融して前記溶融部を形成する工程を備え、請求項1~8のいずれかに記載の素子保護構造体が得られる、素子保護構造体の製造方法。
【請求項12】
第1カバー層の上に型枠を置き、前記型枠内に前記粉体を敷き、その上に前記素子を置いた後、さらに前記型枠内に前記粉体を充填する工程を備え、請求項1~8のいずれかに記載の素子保護構造体が得られる、素子保護構造体の製造方法。
【請求項13】
さらに、前記型枠内に前記粉体を充填した後、露出している前記粉体の表面を加熱して前記粉体の一部を溶融して前記結着層を形成する工程を備える、請求項12に記載の素子保護構造体の製造方法。
【請求項14】
さらに、前記型枠内に前記粉体を充填した後、露出している前記粉体の表面を加熱して前記粉体の一部を溶融して前記溶融部を形成する工程と、
前記型枠内に露出している前記粉体の表面、または前記粉体の一部が溶融してなる前記結着層の表面に、第2カバー層を密着させる工程と、
を備える、請求項12または13に記載の素子保護構造体の製造方法。
【請求項15】
さらに、前記第1カバー層と前記第2カバー層と近づけるようにプレスしつつ熱を加える熱プレス工程と、
前記第1カバー層の裏面に第3カバー層を密着させる工程と、
を備える、請求項12~14のいずれかに記載の素子保護構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は素子保護構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、素子の表面に樹脂層等を備える構造体が提案されている。
例えば特許文献1には、容器底板上に半導体素子片が支持され、該半導体素子片面上の電極と容器上部へ引き出されている外部導出端子導体とが導線のボンディングにより接続されており、これら半導体素子片および導線を埋没させるように容器内にゲル状樹脂が注入されており、さらにその上を硬化樹脂で被覆されているものにおいて、前記半導体素子片とゲル状樹脂との間に、半導体素子片、該素子片のボンディング部およびその近傍にある導線面を被覆するように、前記ゲル状樹脂に比して熱膨張係数が小さく硬さがより硬いオーバーコート樹脂層を介在させたことを特徴とする半導体装置が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、(a)底部を備える箱型のケースと、(b)上記底部の上に配された電子部品と、(c)上記電子部品を封止するように上記ケース内に充填され硬化した樹脂とを備える半導体装置であって、上記樹脂(c)は、(c-1)エポキシ樹脂成分10~30重量%、および(c-2)粒子状のフィラー成分90~70重量%を含み、硬化後の線膨張係数が5×10-6~25×10-6である半導体装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、パッケージが半導体素子と該半導体素子を保持するキャリア基板とからなり、該キャリア基板の裏面と配線基板との隙間がアンダーフィル剤で封止されており、該パッケージの全面が、(A)1分子中に2つ以上のエポキシ基を有する液状エポキシ樹脂100質量部、(B)フェノール系硬化剤5~95質量部、(C)硬化促進剤10~150質量部、(D)重量平均粒子径15μm以上30μm未満の粒子を50~75質量%、重量平均粒子径5μm以上15μm未満の粒子を15~25質量%、及び重量平均粒子径2μm以下の粒子を10~25質量%含む熱伝導性充填材(A)成分及び(B)成分の合計100質量部に対して200~1000質量部、及び、(E)1分子中に1つのエポキシ基を有する希釈剤50~200質量部を含有し、(A)成分及び(E)成分中のエポキシ基/(B)成分中のフェノール性水酸基が1.3~3.0(モル当量比)であるオーバーコート材で封止されていることを特徴とする半導体装置が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献4には、半導体素子と、前記半導体素子の一方の面に接合された絶縁基板と、前記半導体素子の他方の面に接合された外部回路との接続用プリント基板とを含む部材を、封止材で封止してなる半導体装置であって、前記封止材が、第1熱硬化性樹脂と、第2熱硬化性樹脂前駆物質を内包するマイクロカプセル粒子とを含んでなる、半導体装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63-143850号公報
【特許文献2】特開平6-5742号公報
【特許文献3】特開2012-77098号公報
【特許文献4】特開2017-41496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような従来の素子は、使用時において外部から一定以上の衝撃、応力、熱等が加わった場合に破損してしまい、素子に求められる機能が発揮できなくなってしまう場合があった。また、製造過程で熱等が加わった場合に、同様に素子が破損してしまい、機能が発揮できなくなる場合があった。
【0008】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は素子が外部からの衝撃、応力、熱等の影響を受け難く、破損し難い素子保護構造体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)~(22)である。
(1)素子と、前記素子の表面の少なくとも一部に密着し、複数の空隙を内部に分散して含み、主として粉体からなる保護層と、
を有する素子保護構造体。
(2)前記保護層の空隙率が10%~60%である、上記(1)に記載の素子保護構造体。
(3)前記保護層が、前記粉体の一部が溶融してなる溶融部を含む、上記(1)または(2)に記載の素子保護構造体。
(4)さらに、前記保護層の外表面の少なくとも一部を覆う、前記粉体の一部が溶融してなる結着層を有する、上記(1)~(3)のいずれかに記載の素子保護構造体。
(5)さらに、前記結着層または前記保護層の外表面の少なくとも一部を覆うカバー層を有する、上記(1)~(4)のいずれかに記載の素子保護構造体。
(6)前記保護層がポッティング樹脂を含む、上記(1)~(5)のいずれかに記載の素子保護構造体。
(7)前記粉体が、樹脂、セラミックおよび金属からなる群から選ばれる少なくとも1つからなる、上記(1)~(6)のいずれかに記載の素子保護構造体。
(8)前記粉体が、セラミックおよび/または金属の核粒子を樹脂で被覆した複合粒子である、上記(7)に記載の素子保護構造体。
(9)前記素子が凹凸部を形成し、
前記保護層が、前記凹凸部の少なくとも一部に密着している、上記(1)~(8)のいずれかに記載の素子保護構造体。
(10)さらに基板を含み、複数の前記素子が前記基板に付いて前記凹凸部を形成している、上記(9)に記載の素子保護構造体。
(11)厚さが0.9mm以下のカード形状を備える、上記(1)~(10)のいずれかに記載の素子保護構造体。
(12)前記素子の表面の少なくとも一部に、主として前記粉体を密着させて前記保護層を形成する工程を備え、上記(1)~(11)のいずれかに記載の素子保護構造体が得られる、素子保護構造体の製造方法。
(13)前記素子の表面の少なくとも一部に、主として前記粉体を密着させた後、熱を加えて前記粉体の少なくとも一部を溶融して前記結着層を形成する工程を備え、上記(1)~(11)のいずれかに記載の素子保護構造体が得られる、素子保護構造体の製造方法。
(14)前記素子の表面の少なくとも一部に、主として前記粉体を密着させた後、熱を加えて前記粉体の少なくとも一部を溶融して前記溶融部を形成する工程を備え、上記(1)~(11)のいずれかに記載の素子保護構造体が得られる、素子保護構造体の製造方法。
(15)前記保護層または前記結着層の外側にカバー層を形成する工程を備える、上記(13)または(14)に記載の素子保護構造体の製造方法。
(16)第1カバー層の上に型枠を置き、前記型枠内に前記粉体を敷き、その上に前記素子を置いた後、さらに前記型枠内に前記粉体を充填する工程を備え、上記(1)~(11)のいずれかに記載の素子保護構造体が得られる、素子保護構造体の製造方法。
(17)さらに、前記型枠内に前記粉体を充填した後、露出している前記粉体の表面を加熱して前記粉体の一部を溶融して前記結着層を形成する工程を備える、上記(16)に記載の素子保護構造体の製造方法。
(18)さらに、前記型枠内に前記粉体を充填した後、露出している前記粉体の表面を加熱して前記粉体の一部を溶融して前記溶融部を形成する工程を備える、上記(16)または(17)に記載の素子保護構造体の製造方法。
(19)さらに、前記型枠内に露出している前記粉体の表面、または前記粉体の一部が溶融してなる前記結着層の表面に、第2カバー層を密着させる工程を備える、上記(16)~(18)のいずれかに記載の素子保護構造体の製造方法。
(20)さらに、前記第1カバー層の裏面に第3カバー層を密着させる工程を備える、上記(16)~(19)のいずれかに記載の素子保護構造体の製造方法。
(21)さらに、前記第1カバー層と前記第2カバー層と近づけるようにプレスしつつ熱を加える熱プレス工程を備える、上記(16)~(20)のいずれかに記載の素子保護構造体の製造方法。
(22)複数の前記素子が前記基板に付いて凹凸部を形成している、上記(12)~(21)のいずれかに記載の素子保護構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、素子が外部からの衝撃、応力、熱等の影響を受け難く、破損し難い素子保護構造体およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】基板の主面に垂直方向(主面の法線方向)の断面を表す図(概略断面図)である。
【
図2】
図1に示した素子における凹凸部に保護層を密着させてなる本発明の素子保護構造体を例示する概略断面図である。
【
図3】
図2に示した本発明の素子保護構造体に類似する態様であって、さらに溶融部および結着層を有する場合を示す、本発明の素子保護構造体の概略断面図である。
【
図4】
図2に示した本発明の素子保護構造体に類似する態様であって、さらに保護層がポッティング樹脂を含む場合を示す、本発明の素子保護構造体の概略断面図である。
【
図5】
図3に示した本発明の素子保護構造体に類似する態様であって、さらにカバー層を有する場合を示す、本発明の素子保護構造体の概略断面図である。
【
図6】本発明の素子保護構造体の別の態様を例示する概略断面図である。
【
図7】
図6に示した態様の本発明の素子保護構造体の変形例を例示する概略断面図である。
【
図8】本発明の素子保護構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
【
図9】本発明の素子保護構造体の製造方法において結着層の形成方法を説明するための概略断面図である。
【
図10】本発明の素子保護構造体の製造方法において溶融部の形成方法を説明するための概略断面図である。
【
図11】本発明の素子保護構造体の製造方法においてカバー層の形成方法を説明するための概略断面図である。
【
図12】別の態様を本発明の素子保護構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
【
図13】別の態様を本発明の素子保護構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
【
図14】別の態様を本発明の素子保護構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
【
図15】別の態様を本発明の素子保護構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
【
図16】別の態様を本発明の素子保護構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
【
図17】別の態様を本発明の素子保護構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<本発明の素子保護構造体>
本発明の素子保護構造体について説明する。
本発明の素子保護構造体は、素子と、前記素子の表面の少なくとも一部に密着し、複数の空隙を内部に分散して含み、主として粉体からなる保護層と、を有する素子保護構造体である。
【0013】
本発明の素子保護構造体について図を用いて説明する。
図1は、複数の素子12が基板14に付いてなる電子部品10における、基板14の主面に垂直方向(主面の法線方向)の断面を表す図(概略断面図)である。
なお、
図1は、本発明の素子保護構造体が有する素子および素子を含む電子部品の例示であって、本発明の素子保護構造体において素子および電子部品は、これに限定されない。
【0014】
図1では、複数の素子12が基板14に付いて凹凸部16を形成している。
図1に示すように、本発明の素子保護構造における素子は凹凸部16を形成していることが好ましい。また、
図1に示すように、素子12が複数存在してもよい。本発明の素子保護構造体が含む素子12の個数は限定されない。
【0015】
ここで基板14の材質、大きさ、厚さ等は特に限定されない。パソコン等の電子機器のCPU等を付ける一般的な基板と同様の物であってもよい。基板の厚さは0.025mm~3.000mmであってよい。また、例えばクレジットカードのようなカードを本発明の素子保護構造体によって構成する場合、基板の厚さは例えば0.025~0.500mmであってよい。
【0016】
素子の種類は限定されない。素子として、例えばコイル、薄型LIB、コンデンサー、キャパシター、センサー、リチウムイオン電池、アンテナ、半導体部品(ICチップ、センサー部品等)等が挙げられる。
【0017】
素子の大きさも特に限定されず、用途によって異なる。例えばクレジットカードのようなカードを本発明の素子保護構造体によって構成する場合、素子の厚さ(高さ)は例えば0.7mm以下であることが求められる。
ここで素子の厚さ(高さ)は、次のように測定するものとする。
後述する
図2に示すような本発明の素子保護構造体の断面写真を得た後、ランダムに選択した30か所についてノギスを用いて素子の厚さを測定し、それらの値を単純平均することで素子の厚さとする。
【0018】
次に、
図2を用いて、本発明の素子保護構造体1について説明する。
図2は、
図1に示した素子における凹凸部16に保護層20を密着させてなる本発明の素子保護構造体1を例示する概略断面図である。
図2に示すように、本発明の素子保護構造体1は、素子12と、保護層20とを有する。
【0019】
図2に例示する保護層20は全て粉体からなる。ただし、本発明の素子保護構造体において保護層は主として粉体からなるものであり、粉体以外のものを含んでもよい。粉体以外のものとしては繊維状物、液状物(樹脂等)を含んでいてもよい。
ここで、「主として」とは保護層20の50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であること意味するものとする。
なお、保護層における粉体の含有率は、次のように測定するものとする。
初めに、走査型電子顕微鏡を用いて100倍に拡大し、
図2に示すような断面の拡大写真を得る。次に、その拡大写真の保護層(素子の存在しない部分)における空隙以外の部分において、単位面積当たり(1,000μm×1,000μm)に含まれる100μm以下の粒径の粉体の合計面積を求める。そしてその合計面積の、保護層における空隙以外の部分に対する比率(100μm以下の粒径の粉体の合計面積/保護層の空隙以外の部分の面積×100)を求め、これを粉体の含有率とする。尚、100μm以下の粒径とは、粒子断面積の円相当径を言う。
【0020】
粉体は、樹脂、セラミックおよび金属からなる群から選ばれる少なくとも1つからなることが好ましい。
ここで樹脂は軟化点が60℃以上であるものが好ましく、120℃以上であるものがより好ましい。
具体的には、樹脂として、アクリル、ウレタン、エポキシ、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、PET、非晶質PET、ワックス、ポリイミド、アラミド等が挙げられる。
また、セラミックとしては、アルミナ、ムライト、ジルコニア、酸化マグネシウム等が挙げられる。
さらに金属としては、ステンレス、銅、ニッケル等の粒子を樹脂で被覆した、絶縁性金属内包粒子等が挙げられる。
【0021】
また、粉体はセラミックおよび/または金属からなる核粒子を樹脂で被覆した複合粒子であることが好ましい。この場合、複合粒子間を部分結着させやすいため、後述する溶融部や結着層を形成しやすいからである。
【0022】
保護層における粉体の粒子径は特に限定されないが、例えば平均粒子径が0.1μm~100μmであることが好ましく、1μm~50μmであることがより好ましい。
ここで粉体の平均粒子径は、次のように測定するものとする。
走査型電子顕微鏡を用いて100倍に拡大し、
図2に示すような断面の拡大写真を得た後、保護層における1,000μm×1,000μmの視野内の全ての粉体について径を測定する。径は、各粒子毎に最も長い径を測定し、その径を長径とし、次に、長径を二等分する点において長径と直行する方向の径を測定し、その径を短径とし、長径と短径との平均値をその粒子の粒子径とする。このようにしてその視野内の全ての粉体における粒子径を求め、任意の場所を10点測定し、単純平均値を求め、粉体の平均粒子径とする。
【0023】
このように保護層20は、主として粉体からなるので、粉体間に複数の空隙を含む。
保護層20における空隙率は10%~60%であることが好ましく、10%~50%であることがより好ましく、10%~40%であることがさらに好ましい。
ここで保護層20における空隙率は、次のように測定するものとする。
走査型電子顕微鏡を用いて100倍に拡大し、
図2に示すような断面の拡大写真を得た後、保護層における1,000μm×1,000μmの視野内の空隙の面積を白黒で2値化し、空隙の面積比率を算出するという方法によって測定し、保護層内に含まれる全ての空隙の面積比率を測定する。任意の場所を10点測定し、得られたその面積比率の平均値を空隙率とする。
【0024】
このような保護層20は、素子12の表面に密着しているが、前述の素子12が形成している凹凸部16の少なくとも一部に密着していることが好ましい。保護層20は
図2に示すように凹凸部の全てに密着していてもよいし、凹凸部の一部に密着していてもよいし、凹凸部の全てとその他の部分とに密着していてもよい。
【0025】
次に、
図3を用いて溶融部および結着層について説明する。
図3は、
図2に示した本発明の素子保護構造体1に類似する態様であって、さらに溶融部および結着層を有する場合を示す、本発明の素子保護構造体1の概略断面図である。
【0026】
図3に示すように、保護層20は、粉体の一部が溶融してなる溶融部22を含んでいてもよい。溶融部22は主に製造過程(製造後も有り得る)において保護層20へ熱が加わることで、保護層20内の粉体の一部が溶融し、隣接する粉体と付き、その後、冷却されることで粉体ではなくなった態様のものである。
ここで1つの粒子が全て溶融し、隣接する粉体との空隙を埋め、または隣接する粉体も溶融することでそれらと混然一体となり、その後、固化したものであってもよいし、1つの粒子の表面部分のみが溶融して粘性を生じ、隣接する他の粒子と付いて固化した状態のものであってよい。
保護層20が溶融部22を含むと、保護層20内における粉体の流動性が低下し、使用時等において保護層20内における粉体の偏在を防止しやすくなる。
【0027】
また、
図3に示すように、保護層20は、外表面の少なくとも一部を覆う結着層24を有していてもよい。結着層24は
図2に示した態様の本発明の素子保護構造体1における保護層20へ熱が加わることで、保護層20の外表面に存在する粉体の少なくとも一部が溶融し、隣接する粉体と付き、その後、冷却されることで層状となったものである。
ここで1つの粒子が全て溶融し、隣接する粉体との空隙を埋め、または隣接する粉体も溶融することでそれらと混然一体となり、その後、固化したものであってもよいし、1つの粒子の表面部分のみが溶融して粘性を生じ、隣接する他の粒子と付いて固化した状態のものであってよい。
保護層20は、加熱源に近い場所から粒子の溶融状態がグラデーションを形成した態様であってもよい。
本発明の素子保護構造体が結着層24を有すると、保護層20を素子12に密着させやすい。
【0028】
結着層24に厚さは特に限定されない。例えば10μm~500μmであることが好ましく、200μm~500μmであることがより好ましい。
ここで結着層24の厚さは、次のように測定するものとする。
図3に示すような本発明の素子保護構造体の断面写真を得た後、ランダムに選択した30か所についてノギスを用いて結着層24の厚さを測定し、それらの値を単純平均することで結着層24の厚さとする。
【0029】
次に、
図4を用いてポッティング樹脂について説明する。
図4は、
図2に示した本発明の素子保護構造体1に類似する態様であって、さらに保護層20がポッティング樹脂26を含む場合を示す、本発明の素子保護構造体1の概略断面図である。
【0030】
図4に示すように、本発明の素子保護構造体1は保護層20がポッティング樹脂26を含んでもよい。ポッティング樹脂26は保護層20内の粉体の空隙を埋めるように存在する。
図4では、保護層20の外表面側に層状にポッティング樹脂26が存在している例が示されているが、ポッティング樹脂は保護層20のいずれの部分に存在してもよく、保護層20の全体に存在してもよい。また、ポッティング樹脂26は層状に存在していなくてもよい。
保護層20がポッティング樹脂26を含むと、保護層20内における粉体の流動性が低下し、使用時等において保護層20内における粉体の偏在を防止しやすくなる。
【0031】
ポッティング樹脂は熱硬化型樹脂、光硬化型樹脂または湿気硬化型樹脂であることが好ましく、熱硬化型樹脂であることがより好ましい。
ポッティング樹脂は熱硬化型のエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂であることがさらに好ましい。
【0032】
次に、
図5を用いてカバー層について説明する。
図5は、
図3に示した本発明の素子保護構造体1に類似する態様であって、さらにカバー層30を有する場合を示す、本発明の素子保護構造体1の概略断面図である。
【0033】
図5に示すように、本発明の素子保護構造体1は、結着層24の外表面を覆うカバー層30を有することが好ましい。
図5に例示する本発明の素子保護構造体1では、結着層24の全体をカバー層30で覆っているが、本発明の素子保護構造体は、結着層24の外表面の少なくとも一部を覆うことが好ましい。
また、
図5では、結着層24の外側にカバー層30が存在しているが、結着層24が存在せず、保護層20の外表面の少なくとも一部をカバー層30が覆っていてもよい。
【0034】
カバー層30の材質は特に限定されない。カバー層30は熱可塑性樹脂または熱硬化型樹脂からなることが好ましい。また、カバー層30はシート状であることが好ましく、熱可塑性樹脂シートまたは熱硬化型樹脂シートからなることがより好ましい。具体的にカバー層30の材質として、塩化ビニル樹脂、ポリエステル(PET、PETG)樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0035】
ここでカバー30の厚さは、次のように測定するものとする。
図5に示すような本発明の素子保護構造体の断面写真を得た後、ランダムに選択した30か所についてノギスを用いてカバー層30の厚さを測定し、それらの値を単純平均することでカバー層30の厚さとする。
【0036】
本発明の素子保護構造体は、厚さが1.500mm以下、好ましくは0.800mm以下である。本発明の素子保護構造体がカード形状である場合には、厚さは0.9mm以下であってよく、0.680~0.840mmであってもよい。
本発明の素子保護構造体がカード形状である場合、例えば
図6のような態様であってよい。
図6に例示する本発明の素子保護構造体40は、素子42と、素子42の表面を覆う保護層44と、を有する。
ここで、素子42は複数存在し、それらは基板46に付いて凹凸部を形成している。そして、保護層44はその凹凸部および基板46全体を覆うように、基板46の裏面側(素子42が付いていない側の主面)にも保護層44が存在している。
また、保護層44の外表面の全体を覆う結着層48を有している。
さらに、結着層48の両主面には第1カバー層50と第2カバー層52が付いており、第1カバー層50の外側には、さらに第3カバー層54が付いている。なお、結着層48の両端面には型枠56が設置されている。すなわち、
図6は、型枠56および結着層48を備える保護層44を第1カバー層50および第2カバー層52とで挟み込む態様となっている。
【0037】
なお、
図6に示した態様の本発明の素子保護構造体40において、素子42の少なくとも一部が外に露出していてもよい。
図7は、
図6に示した態様の本発明の素子保護構造体40における素子42の一部が外に露出したものである。素子42における露出部分は第2カバー層52の外表面から外側へ凸部を形成していてもよいし、素子42における露出部分の表面が第2カバー層52の表面と一つの表面を形成してもよい。
図7に示した本発明の素子保護構造体40に、ICが表面に露出しているカード等や、指紋センサー(生体認証センサー)が露出しているカード等が相当する。
【0038】
<製造方法>
次に、本発明の素子保護構造体の製造方法について説明する。
本発明の素子保護構造体は、例えば、前記素子の表面の少なくとも一部に、主として前記粉体を密着させて保護層を形成することで得ることができる。
このような製造方法について図を用いて説明する。
図8は本発明の素子保護構造体70の製造方法を説明するための概略断面図(
図2と同様、基板の主面に垂直方向(主面の法線方向)の概略断面図)である。
【0039】
例えば
図8(a)に示すような保護層60と、
図8(b)に示すような素子62を用意する。素子62は複数存在し、これらが基板64に付いて電子部品66を構成している。素子62が基板64に付くことで凹凸部68を形成している。
ここで
図8(a)に示す保護層60が備える凹凸は、電子部品66が備える凹凸部68に嵌る。このような凹凸を備える保護層60は、例えば粉体を押し固めて形成することができる。具体的には、例えば打錠成形することで得ることができ、または電子部品66の周囲を型枠で囲んだ後に粉体を充填し、押し固めて形成することができる。
素子62が形成する凹凸部68に、保護層60の凹凸が嵌るように、これらを密着させ、必要に応じて接着剤等によってこれらを接着することで、
図8(c)に示したような本発明の素子保護層70を得ることができる。
図8(c)に示す本発明の素子保護構造体70は、
図2に示した本発明の素子保護構造体1と同様の態様のものである。
【0040】
図8(c)に示す本発明の素子保護構造体70を得た後、これに熱を加え、保護層60の外表面部分を構成する粉体の少なくとも一部が溶融することで、
図9に示すような結着層69を形成することができる。
ここで本発明の素子保護構造体70に加える熱の温度は特に限定されず、保護層60を構成する粉体の種類等によって異なる。粉体として、軟化温度が60℃以上、120℃未満のものを用いる場合、この温度は60℃~180℃であることが好ましく、この温度は80℃~140℃であることがより好ましい。また、粉体として、軟化温度が120℃以上、200℃未満のものを用いる場合、この温度は140℃~220℃であることが好ましく、この温度は160℃~180℃であることがより好ましい。また、基板上に熱に弱い部品がある場合には、素子保護構造体70とその近傍を局所加熱することが好ましい。
【0041】
また、
図10(a)に示す
図1と同様の複数の素子62が基板64に付いてなる電子部品66を用意し、粉体72を電子部品66の凹凸部に密着させる。ここで、保護層を形成するために用意した粉体の全てではなく、その一部を凹凸部に密着させる。
そして、これに熱を加え粉体の一部を溶融することで、
図10(b)に示すような溶融部74を形成することができる。なお、ここで加える熱の温度は特に限定されず、
図9に示した結着層68を得る場合と同様であってよい。
その後、素子62へ、さらに粉体を密着させて保護層60を形成してもよい。この場合、
図10(c)に示すように、保護層60の内部に溶融部74を形成することができる。
【0042】
また、
図9に示した結着層69を備える本発明の素子保護構造体70を得た後、その外側にカバー層を形成することで、
図11に示すカバー層76を有する本発明の素子保護構造体70を得ることができる。
カバー層76を形成する方法は特に限定されない。例えば結着層69の外側を覆うようにカバー層を配置した後、加熱することで、結着層68の外側にカバー層76を密着して固定することができる。
なお、例えば
図2に示したような結着層68を有していない態様の本発明の素子保護構造体1について、保護層20の外側にカバー層を配置した後、加熱することで、保護層20の外側にカバー層を形成することもできる。この場合、結着層68を有しない態様の本発明の素子保護構造体が得られる。
【0043】
保護層内にポッティング樹脂を含有させる場合、結着層やカバー層を形成する前に、保護層を形成する粉体にポッティング樹脂を含侵させる。例えば
図2に示した態様の本発明の素子保護構造体1における保護層20にポッティング樹脂を含侵させれば、
図4に示したポッティング樹脂26からなる層を形成することができる。
【0044】
次に、
図6に示した態様の本発明の素子保護構造体40の製造方法について、
図12~17を用いて説明する。
図12~17は、いずれも
図6と同様、基板の主面に垂直方向(主面の法線方向)の断面を表す概略断面図である。
【0045】
初めに、
図12に示すように、第1カバー層50の表面上に型枠56を配置し、型枠56内に粉体43を敷く。ここで型枠56内の全てが埋まるように粉体43を充填するのではなく、
図12に示すように第1カバー層50の表面が露出しない程度に、型枠56内に粉体43を敷く。また、粉体43の上面が第1カバー層50の主面と平行となるようにする。
【0046】
次に、
図13に示すように、粉体43の上面に、素子42が付いた基板46を置く。
【0047】
次に、
図14に示すように、素子42を埋めるように、型枠56内に粉体43を充填する。
【0048】
次に、
図15に示すように、型枠56の上面に露出している粉体43の表面を加熱して粉体43の一部を溶融し、結着層58を形成する。
ここで結着層58と同時に保護層44内に溶融部を形成してもよい。
【0049】
次に、
図16に示すように、結着層58の表面に、第2カバー層52を密着させ、さらに、第1カバー層50の裏面に第3カバー層54を密着させる。
そして、第1カバー層50と第3カバー層54との各々の外側から挟み込むように熱プレスを行う。すなわち、第1カバー層50と2カバー層52と近づけるようにプレスしつつ熱を加える熱プレス工程を施す。
その結果、第1カバー層50、第2カバー層52、第3カバー層54、型枠56は密着して固定される。また、熱プレスによって、粉体43の外側の少なくとも一部が溶融し、保護層44の外側に結着層48が形成される。
ここで結着層58と同時に保護層44内に溶融部を形成してもよい。
【0050】
このようにして
図17に示される本発明の素子保護構造体40が製造される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の素子保護構造体は、例えばパソコン等の電子機器のCPU等を保護するために用いることができる。また、例えば、本発明の素子保護構造体によってクレジットカードのようなカードを構成することできる。その他、例えば、薄型リチウムイオンバッテリーや熱に弱い素子等を搭載する電子機器等に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 本発明の素子保護構造体
10 電子部品
12 素子
14 基板
16 凹凸部
20 保護層
22 溶融部
24 結着層
26 ポッティング樹脂
30 カバー層
40 本発明の素子保護構造体
42 素子
43 粉体
44 保護層
46 基板
48 結着層
50 第1カバー層
52 第2カバー層
54 第3カバー層
56 型枠
57 結着層
60 保護層
62 素子
64 基板
66 電子部品
68 凹凸部
69 結着層
70 本発明の素子保護構造体
72 粉体
74 溶融部
76 カバー層