(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022807
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】抗糖化用組成物、及び抗糖化用組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20220131BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20220131BHJP
A61K 35/748 20150101ALN20220131BHJP
A61K 35/744 20150101ALN20220131BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20220131BHJP
A61K 8/97 20170101ALN20220131BHJP
A61Q 19/00 20060101ALN20220131BHJP
A61Q 19/08 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
A23L33/10
C12P1/04 Z
A61K35/748
A61K35/744
A61P43/00 111
A61K8/97
A61Q19/00
A61Q19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020117235
(22)【出願日】2020-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】593206964
【氏名又は名称】マイクロアルジェコーポレーション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】久田 孝
(72)【発明者】
【氏名】加賀 優子
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕司
(72)【発明者】
【氏名】榊 節子
(72)【発明者】
【氏名】竹中 裕行
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
4C083
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018MD67
4B018MD86
4B018MD91
4B018ME01
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4B018MF01
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4B064CA02
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4B064DA10
4C083AA031
4C083AA032
4C083BB51
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4C083FF01
4C087AA01
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4C087BC55
4C087BC80
4C087NA14
4C087ZC01
4C087ZC41
(57)【要約】
【課題】終末糖化産物の生成を抑制する抗糖化用組成物を提供する。
【解決手段】抗糖化用組成物は、イシクラゲをラクトコッカス属の乳酸菌により発酵させてなる乳酸菌処理物の水溶性抽出物を有効成分として含有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イシクラゲをラクトコッカス属の乳酸菌により発酵させてなる乳酸菌処理物を有効成分として含有する抗糖化用組成物。
【請求項2】
イシクラゲをラクトコッカス属の乳酸菌により発酵させてなる乳酸菌処理物の水溶性抽出物を有効成分として含有する抗糖化用組成物。
【請求項3】
イシクラゲをラクトコッカス属の乳酸菌により発酵させることにより、イシクラゲの乳酸菌処理物を得る発酵工程を有する抗糖化用組成物の製造方法。
【請求項4】
水を含む抽出溶媒により前記乳酸菌処理物の水溶性抽出物を得る抽出工程を有する請求項3に記載の抗糖化用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗糖化用組成物、及び抗糖化用組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブドウ糖などの還元糖とタンパク質から終末糖化産物が生成する反応を糖化という。タンパク代謝によって血中に遊離した終末糖化産物は、通常は腎臓で体外へ排出されるが、生体内の組織タンパク、特に寿命の長いタンパク質が糖化を受けると終末糖化産物が長期に渡り体内にとどまることになる。このため加齢や生活習慣病により終末糖化産物が生体内に蓄積されると、肌の弾力の低下、動脈硬化、骨粗しょう症、白内障、認知症の原因になるとも考えられている。そのため、終末糖化産物の生成を抑制することにより各疾病リスク軽減や老化の抑制につながることが期待されている。
【0003】
特許文献1に開示されるように、藍藻綱ネンジュモ目ノストック属に属する藻体として、例えば、イシクラゲ(Nostoc commune)、ハッサイ(Nostoc flagelliforme)、葛仙米(Nostoc sphaericum)が知られている。これらの藻体は、蛋白質、ビタミン類、多糖類、各種ミネラルを豊富に含有しており、古来より中国や日本等において食用に供されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、本研究者らによる鋭意研究の結果、イシクラゲに由来する組成物が生体内における終末糖化産物の生成を抑制する効果を発揮することを新たに見出したことに基づいてなされたものである。本発明の目的は、終末糖化産物の生成を抑制する抗糖化用組成物、及び抗糖化用組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する抗糖化用組成物は、イシクラゲをラクトコッカス属の乳酸菌により発酵させてなる乳酸菌処理物を有効成分として含有する。
上記課題を解決する抗糖化用組成物は、イシクラゲをラクトコッカス属の乳酸菌により発酵させてなる乳酸菌処理物の水溶性抽出物を有効成分として含有する。
【0007】
上記課題を解決する抗糖化用組成物の製造方法は、イシクラゲをラクトコッカス属の乳酸菌により発酵させることにより、イシクラゲの乳酸菌処理物を得る発酵工程を有する。
上記抗糖化用組成物の製造方法において、水を含む抽出溶媒により前記乳酸菌処理物の水溶性抽出物を得る抽出工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、終末糖化産物の生成を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】乳酸菌処理の前後におけるグルコース及び乳酸の含有量の変化を示すHPLCチャート。
【
図2】乳酸菌処理の前後における抗糖化活性の変化を示すグラフ。
【
図3】乳酸菌処理の前後における総フェノール含有量、鉄還元能、及びO
2
-ラジカル消去能の各変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体化した実施形態の抗糖化用組成物、及び抗糖化用組成物の製造方法を詳細に説明する。
抗糖化用組成物は、イシクラゲを特定の乳酸菌により発酵させてなる乳酸菌処理物の水溶性抽出物を有効成分として含有する。抗糖化用組成物の製造方法は、イシクラゲを特定の乳酸菌により発酵させることにより、イシクラゲの乳酸菌処理物を得る発酵工程と、水を含む抽出溶媒により乳酸菌処理物の水溶性抽出物を得る抽出工程とを有する。以下、抗糖化用組成物の原料、及び抗糖化用組成物の製造方法の各工程について説明する。
【0011】
[原料]
抗糖化用組成物は、藍藻綱ネンジュモ目ノストック属に属する陸棲藍藻の一種であるイシクラゲ(Nostoc commune)を原料とする。
【0012】
[発酵工程]
発酵工程に供されるイシクラゲは、採取したままの状態、採取後に破砕処理した状態、採取後に乾燥処理した状態、並びに採取後に破砕処理及び乾燥処理した状態のいずれの状態であってもよい。発酵工程を効率的に行う観点から、粉砕処理した状態のイシクラゲを用いることが好ましい。上記粉砕処理には、例えば、カッター、裁断機、クラッシャー、ミル、グラインダー、ニーダー、乳鉢等を用いることができる。
【0013】
発酵工程に供されるイシクラゲは、イシクラゲの破砕物に水に懸濁させた懸濁液の状態、又はイシクラゲの破砕物に水を添加して混錬した混錬物の状態であることが好ましい。イシクラゲの懸濁液を調製する場合の水の添加量は、例えば、イシクラゲの質量に対して5~50倍量である。
【0014】
発酵工程に供されるイシクラゲには、殺菌処理されたものであることが好ましい。殺菌処理の方法としては、オートクレーブを用いた高圧加熱殺菌処理などの公知の方法を用いることができる。
【0015】
発酵工程では、上記の各処理が適宜施されたイシクラゲに特定の乳酸菌を接種し、特定の処理温度にて特定の処理時間、放置することによりイシクラゲを発酵させる。
発酵工程に用いるラクトコッカス属の乳酸菌としては、例えば、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・チュンガンゲンシス(Lactococcus chungangensis)、ラクトコッカス・プランタルム(Lactococcus plantarum)、ラクトコッカス・ラフィノラクチス(Lactococcus raffinolactis)が挙げられる。
【0016】
これらの中でもラクトコッカス・ラクチスが好ましい。なお、ラクトコッカス・ラクチスは、基準種、及びその亜種であるラクトコッカス・ラクチス亜種クレモリス(cremoris)、ラクトコッカス・ラクチス亜種ホルドニエ(hordniae)、ラクトコッカス・ラクチス亜種ラクチス(lactis)を含む。
【0017】
イシクラゲを発酵させるための処理温度は、例えば、15~40℃である。イシクラゲを発酵させる際の処理時間は特に限定されるものではなく、処理温度や乳酸菌の種類などに応じて、イシクラゲが十分に発酵されるまでの時間を適宜、設定すればよい。例えば、イシクラゲの懸濁液を用いた場合には、懸濁液のpHを測定し、懸濁液のpHが処理前と比較して低下した状態で安定したことをもって、イシクラゲが十分に発酵されたと判断することができる。上記処理時間は、例えば、2~7日間である。
【0018】
上記の発酵工程により、イシクラゲを特定の乳酸菌により発酵させてなる乳酸菌処理物が得られる。なお、発酵工程後の反応物全体をそのまま乳酸菌処理物としてもよいし、発酵工程後の反応物を濃縮したり、乾燥させたりしたものを乳酸菌処理物としてもよい。
【0019】
[抽出工程]
抽出工程は、乳酸菌処理物に含まれる水溶性成分を抽出溶媒に溶かす抽出ステップと、水不溶性成分を分離する分離ステップとを有する。
【0020】
抽出ステップに用いる抽出溶媒としては、水、又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒を用いることができる。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノールやエタノール等の炭素数1~5の低級アルコール、アセトン、及び酢酸エチルが挙げられる。抽出方法としては、公知の抽出方法、例えば、冷水抽出、温水抽出、熱水抽出、及び蒸気抽出のいずれの方法を用いてもよい。また、抽出溶媒には、例えば、有機塩、無機塩、緩衝剤、及び乳化剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0021】
抽出ステップの抽出操作としては、乳酸菌処理物と抽出溶媒とを所定時間、接触させる。乳酸菌処理物と抽出溶媒と混合比率は、抽出溶媒や抽出方法等に応じて適宜設定すればよい。抽出操作において、抽出効率を高めるために、必要に応じて攪拌処理、加圧処理、及び超音波処理等の処理を更に行ってもよい。また、抽出操作は同一の乳酸菌処理物に対して一回のみ行なってもよいし、複数回繰り返して行なってもよい。
【0022】
分離ステップでは、抽出ステップ後の懸濁液に対して、固液分離操作を行うことにより、懸濁液を抽出液と水不溶性成分とに分離する。固液分離処理の方法としては、ろ過や遠心分離等の公知の分離法を用いることができる。
【0023】
なお、発酵工程を、水を含む懸濁液中で行った場合には、抽出ステップを省略して分離ステップを行ってもよい。つまり、発酵工程により得られる乳酸菌処理物としての乳酸菌処理液を分離ステップに供する懸濁液と見なして、乳酸菌処理液に対して分離ステップを行ってもよい。
【0024】
上記の抽出工程により、乳酸菌処理物の水溶性抽出物が得られる。なお、抽出工程における固液分離処理後の抽出液全体をそのまま水溶性抽出物としてもよいし、抽出液を濃縮したり、乾燥させたりしたものを水溶性抽出物としてもよい。
【0025】
本実施形態の抗糖化用組成物は、イシクラゲを特定の乳酸菌により発酵させてなる乳酸菌処理物の水溶性抽出物を有効成分として含有するものであり、上記有効成分により、生体内における終末糖化産物の生成を抑制する効果を発揮する。よって、本実施形態の抗糖化用組成物は、終末糖化産物の生成を抑制する効果の発揮を目的とした飲食品、化粧品、皮膚外用材、医薬品、医薬部外品等の各分野に好ましく適用することができる。なお、上記有効成分をそのまま抗糖化用組成物として構成してもよいし、終末糖化産物の生成の抑制を目的とした飲食品、化粧品、皮膚外用材に上記有効成分を配合して飲食品、化粧品、皮膚外用材自体を抗糖化用組成物として構成してもよい。
【0026】
飲食品としては、例えば、各種飲料類(果汁又は野菜汁入り飲料、清涼飲料、ミネラル飲料、スポーツドリンク、茶類飲料、コーヒー、炭酸飲料、牛乳やヨーグルト等の乳製品等)、ゼリー状食品(ゼリー、寒天、ゼリー状飲料等)、カプセル(ソフトカプセル、ハードカプセル)、各種菓子類が挙げられる。飲食品には、ペクチンやカラギーナン等のゲル化剤、グルコース、ショ糖、果糖、乳糖、ステビア、アスパルテーム、糖アルコール等の糖類・甘味料、香料等の食品添加剤、植物性油脂及び動物性油脂等の油脂等を適宜、含有させることができる。また、飲食品の用途としては、特に限定されず、いわゆる一般食品、健康食品、機能性食品、栄養機能食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用食品として適用することができる。
【0027】
抗糖化用組成物を化粧品として使用する場合の剤形は特に限定されるものではない。具体的な剤形としては、例えば、液状、粉末状、ペースト状、固形状が挙げられる。また、添加剤として、例えば、賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を含有してもよい。
【0028】
抗糖化用組成物を皮膚外用材として使用する場合の形態は特に限定されるものではない。具体的な形態としては、例えば、乳液、石鹸、洗顔料、入浴剤、クリーム、乳液、化粧水、日焼け・日焼け止めローション、パック、シャンプー、リンス、トリートメント、洗浄料が挙げられる。
【0029】
抗糖化用組成物を医薬品、医薬部外品として使用する場合の投与方法は特に限定されるものではない。具体的な投与方法としては、例えば、服用(経口摂取)による投与、血管内投与、経腸投与、経皮投与、腹腔内投与が挙げられる。また、抗糖化用組成物を医薬品、医薬部外品として使用する場合の剤形は特に限定されるものではない。具体的な剤形としては、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤が挙げられる。また、添加剤として、例えば、賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を含有してもよい。
【0030】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)抗糖化用組成物は、イシクラゲをラクトコッカス属の乳酸菌により発酵させてなる乳酸菌処理物の水溶性抽出物を有効成分として含有する。
【0031】
上記構成によれば、生体内における終末糖化産物の生成を抑制する効果が得られる。また、終末糖化産物の生成を抑制することにより、肌の弾力の低下、動脈硬化、骨粗しょう症、白内障、認知症、メタボリックシンドローム、血管の老化、皮膚の老化等の終末糖化産物に起因する症状の改善効果及び予防効果が期待できる。
【0032】
(2)抗糖化用組成物の製造方法は、イシクラゲをラクトコッカス属の乳酸菌により発酵させることにより、イシクラゲの乳酸菌処理物を得る発酵工程と、水を含む抽出溶媒により乳酸菌処理物の水溶性抽出物を得る抽出工程とを有する。
【0033】
上記構成によれば、生体内における終末糖化産物の生成を抑制する効果を発揮する抗糖化用組成物を製造できる。
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0034】
・抗糖化用組成物は、乳酸菌処理物をそのまま有効成分として含有する構成であってもよい。この抗糖化用組成物を製造する場合、抽出工程は省略される。
・抗糖化用組成物は、目的とする効果を損なわない範囲において、他の成分を含有していてもよい。
【0035】
・抗糖化用組成物の摂取量及び摂取期間は、特に限定されず、摂取者の身体機能の状態、年齢、性別、及びその他の条件を考慮し、適宜、決定される。
・抗糖化用組成物は、ヒトを対象として適用することができるのみならず、家畜等の飼養動物に対する飼料、薬剤等に適用してもよい。
【実施例0036】
次に、試験例を挙げて上記実施形態をさらに具体的に説明する。
(第1サンプルの調製)
微細藻の粉末に10倍量又は40倍量の蒸留水を添加し、pH7.0に調整した後、オートクレーブを用いて121℃で15分間、加熱したものを第1サンプルとした。微細藻としては、イシクラゲ、ノストコプシス、ハッサイ、アシツキ、スピルリナ、デュナリエラ、クロロゴニウム、チノリモ、エンセキソウ、ユーグレナを用いた。なお、イシクラゲは、沖縄の宮古島にて採取したものを用いた。
【0037】
(乳酸菌による発酵)
調製した各第1サンプルの10%水懸濁液(5mL)に、MRSブイヨンで37°C、24時間、前培養した下記の乳酸菌A及び乳酸菌Bのいずれかの乳酸菌(5μL)を接種し、37℃で4日間培養したものを第2サンプルとした。また、乳酸菌を接種しない点を除いて同様に処理したブランクを用意した。
【0038】
乳酸菌A:Lactococcus lactis sp lactis
乳酸菌B:Lactobacillus plantarum
各第2サンプル及び各ブランクのpHを測定するとともに、第2サンプルのpHとブランクのpHの差分であるΔpHを求めた。その結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
表1に示すように、イシクラゲは、特定の乳酸菌に該当する乳酸菌Aを用いた場合には、pHが1.0低下し、特定の乳酸菌に該当しない乳酸菌Bを用いた場合よりもpHの低下は大きかった。イシクラゲに近縁なネンジュモ属の藻体であるハッサイ及びアシツキを含めて、イシクラゲ以外の微細藻は、ラクトコッカス属の乳酸菌A及びラクトバチルス属の乳酸菌Bのいずれの乳酸菌を用いた場合にも、pHの低下は小さかった。
【0040】
次に、pHが大きく変化したイシクラゲと乳酸菌Aとの組み合わせに関して、乳酸菌処理の前後におけるグルコース及び乳酸の各含有量を測定した。また、乳酸菌処理の前後における抗糖化活性を評価した。さらに、糖化反応には酸化反応が関与するため、総フェノール含有量、及び抗酸化活性として鉄還元能とO2
-ラジカル消去能の変化も評価した。
【0041】
(測定サンプルの調製)
イシクラゲの第2サンプルを遠心機で遠心分離処理(4000g×5min、4℃)した後、上清を分離し、これを測定サンプルとした。このとき、上清を分離できなかった場合には、更に等量の蒸留水を加え、1時間振とうした後、再度、同様の遠心分離処理を行った後、上清を分離し、これを測定サンプルとした。
【0042】
(グルコース及び乳酸の各含有量の測定)
測定サンプルを高速液体クロマトグラフィーに供し、下記の分析条件にて分析を行った。スタンダードには、0.5%グルコース溶液及び0.5%乳酸溶液を用いた。その結果を
図1のHPLCチャートに示す。
図1に示すように、乳酸菌処理を行うことにより、グルコースを示すピークが減少し、乳酸を示すピークが出現した。
【0043】
カラム :Trangenomic ICSep ORH-801 (Transgenomic, NE)
カラム温度:35℃
移動相 :0.01mol/LのH2SO4溶液
流速 :0.8 mL/min
検出 :示差屈折計
(抗糖化活性の測定)
抗糖化活性の測定は、ウシ血清アルブミン(BSA)+フルクトース(Fru)モデル及びBSA+メチルグリオキサール(MGO)モデルを用いた。前者は生体内糖化反応の全般と、後者は生体内糖化反応の中盤以後のモデルとして用いられている。
【0044】
1.5mol/LのFru溶液あるいは60mmol/LのMGO溶液(0.5mL)に測定サンプル(0.5mL)、50mmol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4,0.02%アジ化ナトリウム)(0.5mL)を添加し、37℃で2時間、放置した。その後、30mg/mLのBSA溶液(0.5mL)を添加し、37℃で5日間、反応させた。
【0045】
反応開始直後、反応5日後にそれぞれ96ウェルプレートに反応液(0.2mL)をとり、マイクロプレートリーダーを用いて終末糖化産物の蛍光強度を測定した。このとき、BSA+Fruモデルの場合には、励起波長340nm-蛍光波長420nmにおける終末糖化産物の蛍光強度を測定し、BSA+MGOモデルの場合には、励起波長340nm-蛍光波長380nmにおける終末糖化産物の蛍光強度を測定した。
【0046】
反応開始直後における測定値を「Sample(0day)」、反応5日後における測定値を「Sample(5day)」とする。測定サンプルに代えて同量の蒸留水を添加した点を除いて同様に処理したブランク試験を行い、同様のタイミングにて終末糖化産物の蛍光強度を測定した。「Sample(0day)」と同じタイミングで測定した測定値を「blank(0day)」とし、「Sample(5day)」と同じタイミングで測定した測定値を「blank(5day)」とする。得られた各測定値から下記式を用いて抗糖化活性(%)を算出した。
【0047】
【数1】
また、測定サンプルをイシクラゲの第1サンプルに変更した点を除いて同様の方法により乳酸菌処理前の抗糖化活性(%)を算出した。それらの結果を
図2のグラフに示す。
図2に示すように、乳酸菌処理を行うことにより、いずれの活性評価モデルにおいても抗糖化活性が約2倍に増加した。
【0048】
なお、「*」及び「**」はそれぞれ、乳酸菌処理前と乳酸菌処理後の有意差がP<0.05である場合、及びP<0.01である場合を示す。
(総フェノール化合物含有量の測定)
蒸留水を用いて適宜希釈した測定サンプルを96ウェルマイクロプレートに0.03mLずつ分注した(n=3)。10%(w/v)Folin-Ciocalteu’sフェノール試薬(0.06mL)を加え、室温で3分間放置した後、グレーティングマイクロプレートリーダーでOD750nmにおける吸光度を測定した。この測定値の平均値を「Sample(Abs1)」とする。その後、10%(w/v)炭酸ナトリウム溶液(0.12mL)を加え、室温で60分間放置し、同様に吸光度を測定した。この測定値の平均値を「Sample(Abs2)」とする。
【0049】
測定サンプルに代えて同量の蒸留水を添加した点を除いて同様に処理したブランク試験を行い、同様のタイミングにてOD750nmにおける吸光度を測定した。このとき、「Sample(Abs1)」と同じタイミングで測定した測定値の平均値を「blank(Abs1)」とし、「Sample(Abs2)」と同じタイミングで測定した測定値の平均値を「blank(Abs2)」とする。
【0050】
測定サンプルに代えて、標準試料としてのカテキン溶液を添加した点を除いて同様に処理した標準試験を行い、同様のタイミングにてOD750nmにおける吸光度を測定した。このとき、「Sample(Abs1)」と同じタイミングで測定した測定値の平均値を「standard(Abs1)」とし、「Sample(Abs2)」と同じタイミングで測定した測定値の平均値を「standard(Abs2)」とする。得られた各測定値の平均値から下記式を用いて総フェノール化合物含有量をカテキン当量として算出した。なお、下記式中の「C濃度」は、標準試験に用いたカテキン溶液の濃度である。
【0051】
【数2】
また、測定サンプルをイシクラゲの第1サンプルに変更した点を除いて同様の方法により乳酸菌処理前の総フェノール化合物含有量を算出した。
【0052】
(鉄還元能の測定)
蒸留水を用いて適宜希釈した測定サンプルをマイクロプレートに0.05mL分注し、0.1mol/LのpH7.2リン酸緩衝液(0.025mL)、1%(w/v)フェリシアン化カリウム溶液(0.025mL)を加え、アルミホイルで覆い、37℃、60分間放置した。10%トリクロロ酢酸溶液(0.025mL)、蒸留水(0.1mL)を加え、OD700nmにおける吸光度を測定した。この測定値を「Sample(Abs1)」とする。次に、0.1%Fe2Cl3溶液(0.025mL)を加え、同様に吸光度を測定した。この測定値を「Sample(Abs2)」とする。
【0053】
測定サンプルに代えて同量の蒸留水を添加した点を除いて同様に処理したブランク試験を行い、同様のタイミングにてOD700nmにおける吸光度を測定した。このとき、「Sample(Abs1)」と同じタイミングで測定した測定値を「blank(Abs1)」とし、「Sample(Abs2)」と同じタイミングで測定した測定値を「blank(Abs2)」とする。得られた各測定値から下記式を用いてOD700nmにおける鉄還元能を算出し、鉄還元能が0.5となるサンプル濃度を算出した。標準物質にカテキンを用いて同様の操作を行うことにより算出した濃度を用いて、鉄還元能が0.5となるサンプル濃度をカテキン当量に換算した。
【0054】
【数3】
また、測定サンプルをイシクラゲの第1サンプルに変更した点を除いて同様の操作を行うことにより、乳酸菌処理前の鉄還元能のカテキン当量を算出した。
【0055】
(O2
-ラジカル消去能の測定)
蒸留水を用いて適宜希釈した測定サンプルをマイクロプレートに0.1mL分注し、0.25mol/LのpH7.2リン酸緩衝液(0.05mL)、2mmol/Lのβ-NADH溶液(0.025mL)、0.5mmol/Lのニトロブルーテトラゾリウム溶液(0.025mL)をそれぞれ加え、OD560nmにおける吸光度を測定した。この測定値を「Sample(Abs1)」とする。次に、0.03mLのフェナジンメトサルフェート溶液(0.025mL)を加え、アルミホイルで覆い、室温で5分間放置し、同様に吸光度を測定した。この測定値を「Sample(Abs2)」とする。
【0056】
測定サンプルに代えて同量の蒸留水を添加した点を除いて同様に処理したブランク試験を行い、同様のタイミングにてOD560nmにおける吸光度を測定した。このとき、「Sample(Abs1)」と同じタイミングで測定した測定値を「blank(Abs1)」とし、「Sample(Abs2)」と同じタイミングで測定した測定値を「blank(Abs2)」とする。得られた各測定値から下記式を用いてO2
-ラジカル消去能を算出し、O2
-ラジカル消去能が50%となるサンプル濃度(IC50%)を算出した。標準物質にカテキンを用いて同様の操作を行うことにより算出した濃度を用いて、測定サンプルのIC50%をカテキン当量に換算した。
【0057】
【数4】
また、測定サンプルをイシクラゲの第1サンプルに変更した点を除いて同様の操作を行うことにより、乳酸菌処理前のO
2
-ラジカル消去能のカテキン当量を算出した。
【0058】
(総フェノール化合物含有量、及び抗酸化活性の評価)
総フェノール含有量の測定結果、並びに抗酸化活性としての鉄還元能及びO
2
-ラジカル消去能の各測定結果を
図3のグラフに示す。
図3に示すように、乳酸菌処理を行うことにより、総フェノール化合物含有量及び鉄還元能はわずかに低下したが、O
2
-ラジカル消去能は抗糖化活性と同様に約2倍上昇した。
【0059】
なお、「*」及び「**」はそれぞれ、乳酸菌処理前と乳酸菌処理後の有意差がP<0.05である場合、及びP<0.01である場合を示す。