(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022869
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂硬化触媒組成物および熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造法
(51)【国際特許分類】
C08G 59/70 20060101AFI20220131BHJP
C07F 5/06 20060101ALN20220131BHJP
C07C 39/04 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C08G59/70
C07F5/06 D
C07C39/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020118501
(22)【出願日】2020-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】390003001
【氏名又は名称】川研ファインケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】馬場 琢朗
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 尚宗
【テーマコード(参考)】
4H006
4H048
4J036
【Fターム(参考)】
4H006AB40
4H006AB81
4H006FC52
4H006FE13
4H048AA03
4H048AB40
4H048AB81
4H048VA80
4H048VB10
4J036AA01
4J036AD08
4J036AF01
4J036AG07
4J036AH18
4J036AH19
4J036AJ08
4J036GA15
4J036GA16
4J036GA17
4J036JA06
(57)【要約】
【課題】
触媒単独で高い硬化触媒活性を示し、高い保存安定性と潜在的硬化活性を有したエポキシ硬化触媒を提供すること、および、このエポキシ硬化触媒を使用し、優れた機械的物性、熱物性を有し、さらには高価なシラン化合物などを使用しないことでトータルの製造コストが低いエポキシ樹脂硬化物となりうる熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造法を提供する。
【解決手段】
ヒドロキシ芳香族化合物が配位した金属キレートが、高価なシラン化合物などの補助硬化剤や他の硬化剤と併用することなく、触媒単独で硬化触媒活性を示し、高い保存安定性と潜在的硬化活性を有するエポキシ硬化触媒であることを見出した。さらに、このエポキシ樹脂硬化触媒を用いることで、エポキシ樹脂本来の優れた機械的物性、熱物性を有し、さらにはトータルの製造コストが低いエポキシ樹脂硬化物となりうる熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造法を見出し、本発明を完成させた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原子に対してヒドロキシ芳香族化合物の存在比が1~20倍モルであるキレート組成物からなるエポキシ硬化触媒組成物。
【請求項2】
請求項1記載のエポキシ硬化触媒組成物における金属原子がアルミニウム、亜鉛、チタニウムから選ばれる請求項1記載のエポキシ硬化触媒組成物。
【請求項3】
金属キレートの金属原子がアルミニウムである請求項1~請求項2に記載のエポキシ硬化触媒組成物。
【請求項4】
請求項1~請求項3記載のエポキシ硬化触媒組成物を、エポキシ樹脂に対して0.1~20wt%使用することで得られる熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂硬化に用いられる硬化触媒組成物およびエポキシ樹脂組成物の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は電気的、機械的、熱的物性に優れ、さらには比較的安価なことから電気絶縁材料、構造部材、接着剤等工業的に広く使用されている。エポキシ樹脂を合成するためには、エポキシモノマー単独を加熱しただけでは反応性が低いために、一般的には硬化剤および硬化促進剤などの触媒が使用されている。硬化剤および硬化促進剤として、チオール化合物、アミン系化合物、酸無水物系化合物、フェノール系化合物、アルミキレートとシラン化合物の錯体、ホウ素錯体、およびリン系化合物が用いられている。
【0003】
アミン系化合物、酸無水物系化合物およびフェノール系化合物などの硬化剤は硬化剤自体がエポキシ樹脂内に組み込まれることにより硬化するメカニズムとなっている。そのため、硬化剤の配合量としてはエポキシ樹脂に対し20~100%と高い割合で添加する必要があり、エポキシ樹脂特有の機械的物性や熱物性の特徴を生かすことが困難であり、さらには、エポキシ樹脂中に占める触媒コストが高いなどの問題があった。またアミン系は皮膚刺激性が懸念され、酸無水物については揮発性・昇華性があることから作業環境を汚染する問題があった。(非特許文献1および特許文献1)
【0004】
また、チタンキレート、アルミニウムキレートに代表される金属キレート化合物は、エポキシ樹脂内に水酸基がある場合にチタニウムおよびアルミニウム原子が樹脂側の水酸基と配位し架橋構造を形成することにより硬化することが知られている。また、フェノール系硬化剤と組み合わせることによりエポキシ硬化を促進することは報告されているが、これら金属キレート単独でエポキシ基の開環重合反応についての触媒活性は確認されていない。
そのため、硬化剤としてフェノール樹脂を使用し、効果促進剤として金属キレートを添加したエポキシ樹脂製造方法が報告されている。しかし、フェノール樹脂を硬化促進剤と併用した場合、エポキシ樹脂に対するフェノール樹脂の添加量が1~50重量部必要があり、フェノール樹脂は、熱処理中に着色しやすく、場合によってはムラの原因となることがあった。
また、一般にフェノール樹脂は固体であることから、添加量が多くなると粘度が高くなることや、無溶媒のワニスを作製することができなく、溶媒ワニスか、溶融混練り法での製造となり、製法が限定されていた。(特許文献2)
【0005】
そこで、昭57-10623公報にはアルミニウムキレートと補助硬化剤としてシラン化合物を併用したカチオン硬化型触媒が報告されている。しかし、高い活性を有するフェニル基含有シラン化合物は、極めて高価であり、製造コスト面から優位性は非常に低く、さらには製造上PCBなどの有害物質を含むなど環境面での課題があった。(特許文献3)
【0006】
また、熱硬化性樹脂を潜在的に使用する場合、予め硬化剤と樹脂を混合した状態で保存すると経時的に粘度が上昇し、保存安定性が低く、使用条件が限られるという課題があった。このような課題を解決する手段として硬化剤をマイクロカプセル化した硬化剤粒子が使用されている。
しかしながら、マイクロカプセルは有機溶剤や樹脂が浸透しやすいことや、硬化剤の保持量に制限があるなど課題があった。さらには、このようなマイクロカプセルを調製する特殊な工程が増えることから作業性・コスト面でも課題があった。(特許文献4および特許文献5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4826256号
【特許文献2】特開2017-165705
【特許文献3】特開昭57-10623
【特許文献4】特開2008-156570
【特許文献5】国際公開第2005/033173号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本接着学会誌Vol.53 No.4(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高価なシラン化合物などの補助硬化剤や他の硬化剤と併用することなく、触媒単独で高い硬化触媒活性を示し、高い保存安定性と潜在的硬化活性を有したエポキシ硬化触媒を提供すること、および、このエポキシ硬化触媒を使用し、優れた機械的物性、熱物性を有し、さらには高価なシラン化合物などを使用しないことでトータルの製造コストが低いエポキシ樹脂硬化物となりうる熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前項記載のエポキシ硬化触媒および、これを用いたエポキシ樹脂組成物を開発することを目標として鋭意検討を重ねた結果、ヒドロキシ芳香族化合物が配位した金属キレートが、高価なシラン化合物などの補助硬化剤や他の硬化剤と併用することなく、触媒単独で硬化触媒活性を示し、高い保存安定性と潜在的硬化活性を有するエポキシ硬化触媒であることを見出した。さらに、このエポキシ樹脂硬化触媒を用いることで、エポキシ樹脂本来の優れた機械的物性、熱物性を有し、さらにはトータルの製造コストが低いエポキシ樹脂硬化物となりうる熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造法を見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明のエポキシ硬化触媒組成物は、
(1)金属原子に対してヒドロキシ芳香族化合物の存在比が1~20倍モルであるキレート組成物からなるエポキシ硬化触媒組成物。
【0012】
(2)(1)記載のエポキシ硬化触媒組成物における金属原子がアルミニウム、亜鉛、チタニウムから選ばれる(1)記載のエポキシ硬化触媒組成物。
【0013】
(3)金属キレートの金属原子がアルミニウムである前述(1)~(2)に記載のエポキシ硬化触媒組成物。
【0014】
(4)(1)~(3)記載のエポキシ硬化触媒組成物を、エポキシ樹脂に対して0.1~20wt%使用するエポキシ樹脂組成物の製造法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のエポキシ硬化触媒は、高価なシラン化合物などの補助硬化剤や他の硬化剤と併用することなく、触媒単独で高い硬化活性を示し、高い保存安定性と潜在的硬化活性を有する触媒として使用することができる。また、少量の触媒で十分な効果活性を示すため、エポキシ樹脂本来の優れた機械的物性、熱安定性を有し、さらにはトータルの製造コストが低いエポキシ樹脂組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に具体例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの説明により何ら限定されるものでは無い。
【0017】
本発明のエポキシ硬化触媒組成物は、金属原子に対してヒドロキシ芳香族化合物の存在比が1~20倍モルとなるキレート組成物である。
【0018】
本発明におけるヒドロキシ芳香族化合物は、ベンゼン環の置換基にヒドロキシ基を持つこと以外は特に制限されず、フェノール類、ビスフェノール類、フェノール樹脂などが使用できる。
【0019】
例えば、フェノール類の場合はフェノールの他に、フェノールのベンゼン環に1つ以上の鎖式炭化水素を持つ化合物でもよい。例えば2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、2-エチルフェノール、2-アリルフェノール、4-アリルフェノール、ドデシルフェノール、オルト-イソプロピルフェノール、パラ-sec-ブチルフェノール、オルト-tert-ブチルフェノール、オルト-sec-ブチルフェノール、4-tert-アミルフェノール、パラ-ノニルフェノール、ジ-sec-ブチルフェノール、2,4-キシレノール、3,5-キシレノール、2,3,6-メチルフェノールなどが挙げられる。
入手のしやすさや、取り扱いのしやすさから、フェノール、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、2-エチルフェノール、2-アリルフェノール、オルト-イソプロピルフェノール、オルト-sec-ブチルフェノール、パラ-ノニルフェノールなどがより好ましい。
【0020】
また、フェノールのベンゼン環に鎖式炭化水素だけでなく、1つ以上の環式炭化水素を持つ化合物の場合でもよい。例えばオルト-フェニルフェノール、パラ-フェニルフェノール、スチレン化フェノール、2,6-ジフェニルフェノール、2,2‘-ジヒドロキシビフェニル、4-シアノ-4‘-ヒドロキシビフェニル、2-ベンジル-6-フェニルフェノール、2-ベンジル-4-フェニルフェノール、4,4’‘’-ジヒドロキシクォーターフェニルなどが挙げられる。
入手のしやすさや、取り扱いのしやすさから、オルト-フェニルフェノール、パラ-フェニルフェノール、スチレン化フェノールなどがより好ましい。
【0021】
フェノールのベンゼン環に前述以外の置換基を持ってもよい。例えばヒドロキシ基であれば2,6-ジヒドロキシトルエン、1,2-ジヒドロキシベンゼン、1,3-ジヒドロキシベンゼンなどが挙げられる。例えばアミノ基であれば、2-アミノフェノール、3-アミノフェノール、4-アミノフェノール、4-(アミノメチル)フェノール、3―アミノ―オルト―クレゾール、5―アミノ―オルト―クレゾール、4-アミノ-2,6-ジフェニルフェノール、3-アミノ-2-ナフトール、5-アミノ-2-ナフトール、8-アミノ-2-ナフトールなどが挙げられる。例えばカルボキシル基であればサリチル酸、メタ―ヒドロキシ安息香酸、パラ―ヒドロキシ安息香酸、4―ヒドロキシフェニル安息香酸などが挙げられる。例えばアルデヒド基であれば4-ヒドロキシベンズアルデヒドなどが挙げられる。例えばシアノ基であれば2-シアノフェノールなどが挙げられる。例えばフルオロ基であれば2-フルオロフェノールなどが挙げられる。例えばベンジルオキシカルボニル基であれば4-(ベンジルオキシ)フェノールなどが挙げられる。
入手のしやすさや、取り扱いのしやすさから、サリチル酸、2-フルオロフェノールなどがより好ましい。
【0022】
さらに、多環芳香族炭化水素のフェノールでもよい。例えば1-ナフトール、2-ナフトール、3-アミノ-2-ナフトール、5-アミノ-2-ナフトール、8-アミノ-2-ナフトール、5,6,7,8-テトラヒドロ-1-ナフトール、5,6,7,8-テトラヒドロ-2-ナフトール、1,1‘-ビ-2-ナフトール、8-キノリノール、9,10-ジヒドロキシアントラセン、1,8,9-アントラセントリオール、アントラセン-1,4,9,10-テトラオール、2,6-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノールなどが挙げられる。
【0023】
フェノール類の他に、ビスフェノール類でもよい。例えば2,2―ビス(4―ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、5,5‘ -(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンが挙げられる。
【0024】
フェノール樹脂も使用できる。特に構造に制限はなく、ノボラック型およびレゾール型共に使用できる。
【0025】
本発明のエポキシ硬化触媒組成物は、金属原子に対してヒドロキシ芳香族化合物がモル比で1以上配位していればよく、前記を満たしていれば、配位していないヒドロキシ芳香族化合物が存在してもよい。
【0026】
フェノール樹脂などの高分子の場合、金属原子1molに対して1~20セグメントの割合で存在していればよく、その一部が金属原子に配位していればよい。前述を満たせば配位していないOH基を持つフェノール樹脂等が存在してもよい。
【0027】
本発明のエポキシ硬化触媒組成物は、低温域で組成物中の金属キレートが、高会合体を形成しており、ヒドロキシ芳香族化合物は過剰状態で存在しているが、エポキシ硬化温度域では、低会合状態になり、ヒドロキシ芳香族化合物が中心金属に配位した状態となり活性が発現すると推察される。このためエポキシ硬化温度域以下で、高い保存安定性が得られていると推察される。
硬化活性は、本発明により得られる、金属原子との相互作用によって活性化されたヒドロキシ芳香族化合物がエポキシ基に付加する反応(開始反応)と、開始反応によって生じた水酸基が金属原子によって活性化を受けて、別のエポキシ基に付加する反応(成長反応)の二つの反応の組み合わせにより示すと推察される。
【0028】
前述の金属に対するヒドロキシ芳香族化合物の比は、硬化させる樹脂、硬化条件、金属およびヒドロキシ芳香族化合物の組み合わせにより最適値は異なるが、1~20倍が好ましく、さらに好ましくは1~10倍である。1倍以下の場合は硬化活性が低く、20以上では活性に寄与しないヒドロキシ芳香族化合物が増え、樹脂内に多く残存するため、得られるエポキシ樹脂硬化物の強度や熱安定性が低下する場合があり、またコスト高となる場合がある。
【0029】
本発明のエポキシ硬化触媒組成物中のヒドロキシ芳香族化合物は、ヒドロキシ芳香族化合物の合計が前述の存在比を満たしていれば、複数種を用いても問題ない。また、複数種を用いた場合でも、金属原子に対してヒドロキシ芳香族化合物類がモル比で合計1以上配位していればよく、前記を満たしていれば、配位していないヒドロキシ芳香族化合物が存在してもよい。
【0030】
また、本発明のエポキシ硬化触媒組成物中の金属にヒドロキシ芳香族化合物が配位しているのであれば、他にβ-ケトエステル化合物、β-ジケトン化合物、アルコール化合物が配位しても活性は良好である。
【0031】
β-ケトエステル化合物としては、アセト酢酸エチル、アセト酢酸ブチル、アセト酢酸オクチル、アセト酢酸ラウリル、アセト酢酸ミリスチル、アセト酢酸ステアリル、アセト酢酸オレイルなどが挙げられる。
【0032】
また、β-ジケトン化合物としてアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタンなどが挙げられる。
【0033】
さらに、アルコール化合物としてメタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ヘキサノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、1-テトラコサノール、シクロヘキサノール、フェノール、クレゾール、キノリノールなどが挙げられる。
【0034】
本発明のエポキシ硬化触媒組成物における金属原子はアルミニウム、亜鉛、チタニウムが好ましく、原料コストの低さや、硬化触媒活性の高さ、樹脂への着色が最も少ないことからアルミニウムがより好ましい。
【0035】
前述の金属原子の原料としては、金属水酸化物、金属酸化物、金属塩、金属アルコキシ・キレート化合物、などが挙げられ、後工程の簡便さから金属アルコキシ・キレート化合物がより好ましい。
【0036】
金属水酸化物として、水酸化アルミニウム、オキシ水酸化チタニウム、水酸化亜鉛などが挙げられる。 金属酸化物としては酸化アルミニウムとしてベーマイト、バイヤライト、ギブサイト、γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナなどが好ましい。酸化チタンとしてはアナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型が好ましい。酸化亜鉛については限定されるものはない。
【0037】
金属塩としては塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩などが好ましい。具体的には、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸、炭酸アンモニウムアルミニウム、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテートなどである。
【0038】
金属アルコキシ・キレート化合物についてアルミニウムアルコキサイドとしては、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn-ブトキシド、アルミニウムsec-ブトキシドなどのアルミニウムアルコキシド、環状アルミニウムオリゴマー、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセタト)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウムなどのアルミニウムキレートなどが挙げられる。チタンアルコキシ・キレート化合物としてはテトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラオクチルチタネート、チタンアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、チタンオクチレングリコレートなどが挙げられる。亜鉛アルコキシ化合物としては亜鉛ジメトキシド、亜鉛ジエトキシドなどが挙げられる。
【0039】
本発明のエポキシ硬化触媒組成物は、例えば以下のような方法により製造することができる。
金属をアルミニウム、ヒドロキシ芳香族化合物をフェノールとした場合は、例えばアルミニウムイソプロポキシドに対して、モル比で1~20倍のフェノールを添加する。また、例えばフェノールの添加量が1~2当量である場合は、β-ケトエステル化合物、β-ジケトン化合物、アルコール化合物のうち1つ以上を、フェノールの添加量と合わせて3当量となるように添加することもできる。その後、60℃~200℃の範囲で、より好ましくは80℃~180℃の範囲で加熱反応させ、副生するイソプロピルアルコールを留去することによりエポキシ硬化触媒組成物を得る。これは、精製することなく使用でき、また、その後使用するエポキシ樹脂などに混入して問題ない場合は、生成した一価のアルコールを減圧にて留出除去せず、そのまま溶液として扱っても差し支えない。
他のヒドロキシ芳香族化合物や他の金属化合物を原料とした場合も、同様に製造することができる。
【0040】
本発明における熱硬化性エポキシ樹脂組成物とは、エポキシ樹脂および本発明のエポキシ硬化触媒組成物が必須として存在する樹脂硬化前の混合物である。
【0041】
熱硬化性エポキシ樹脂組成物へのエポキシ硬化触媒組成物の添加量
本発明のエポキシ硬化触媒組成物を使用した、熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造条件は硬化させる樹脂、硬化条件、金属およびヒドロキシ芳香族化合物の組み合わせにより異なるが、熱硬化性エポキシ樹脂組成物へのエポキシ硬化触媒組成物の配合量は、エポキシ樹脂に対して0.1~20wt%が好ましいく、さらに好適には1~10wt%である。0.1wt%以下の場合は十分な硬化活性が得られない場合があり、20%以上の場合硬化活性は得られるが、エポキシ樹脂の比率が下がり、エポキシ樹脂特有の機械的強度等の特徴が維持しにくくなる場合や、熱物性が低下する場合がある。また、触媒のコストの比率が高くなり、コスト高となる場合がある。
【0042】
熱硬化性エポキシ樹脂組成物製造方法
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、例えば、下記の方法により製造することができる。
すなわち、前述のエポキシ硬化触媒組成物を、エポキシ樹脂に対して0.1wt%~20wt%の任意量を添加し、撹拌・混合することにより、目的の熱硬化性エポキシ樹脂組成物を製造することができる。
撹拌混合時の温度は、十分な撹拌・混合が可能で、概ね均一な熱硬化性エポキシ樹脂組成物が得られる温度であればよい。使用するエポキシ樹脂やエポキシ硬化触媒組成物により異なるが、概ね常温~80℃が好ましい。
使用するエポキシ樹脂やエポキシ硬化触媒組成物により異なるが、常温以下の場合、均一化が難しく混合不良となり硬化にムラが発生する場合がある。80℃以上の場合、撹拌・混合中に部分的に硬化する場合がある。
なお、成形法によっては、熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造と樹脂硬化を同時に実施する場合もあるため、必ずしも前述のような撹拌混合工程を経る必要はない。
【0043】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、各成分を、サンドミル、ビーズミル、ペイントシェーカー等で混合する一般的な方法により得ることができる。
【0044】
エポキシ樹脂
本発明において用いるエポキシ樹脂の具体例としては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型等)、環状脂肪族エポキシ樹脂(脂環式ジエポキシアセタール、脂環式ジエポキシアジペート等)、グリシジルエステル型エポキシ樹脂(フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル等)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルp-アミノフェノール等)、複素環式エポキシ樹脂(ジグリシジルヒダントイン等のヒダントイン型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート)及びこれらエポキシ樹脂をアミンあるいはポリアミドで変性した樹脂等を挙げることができ、これらのエポキシ樹脂にはモノマーやオリゴマーも含まれる。
【0045】
硬化剤および硬化促進剤
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、前述のエポキシ用硬化触媒組成物の他に、他の一般的に使用される硬化剤や硬化促進剤との併用も可能である。
例えば、二官能フェノールとしてビスフェノールA、ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールF、テトラブロモビスフェノールA、ナフタレンジオールなどが例示され、多官能フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂などが挙げられる。
【0046】
シラン化合物
使用するエポキシ樹脂の種類によっては、硬化温度低減、硬化時間短縮を目的にシラン化合物を添加することも可能である。具体的には、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどのエポキシ系、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミン系シラン処理剤のほかp-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシランなどである。
【0047】
成形法
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物の成形法としては、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、注型成形、積層成形等の一般的な方法を用いることができる。
【0048】
本発明におけるエポキシ樹脂硬化物とは、前述熱硬化性エポキシ樹脂組成物を加熱等により硬化・成形したものである。
【0049】
硬化条件
本発明のエポキシ硬化触媒組成物を用いた熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化条件は、使用するエポキシ樹脂やエポキシ硬化触媒組成物により異なるが、概ね60~220℃が望ましく、さらに望ましくは100~200℃である。使用するエポキシ樹脂やエポキシ硬化触媒組成物により異なるが、60℃未満では硬化が不十分となり所望の硬化度が得られない場合があり、220℃を超えると熱分解する場合がある。硬化時間は、硬化温度および使用するエポキシ樹脂やエポキシ硬化触媒組成物により異なるが、15~300分程度であり、硬化雰囲気は空気中で十分である。硬化温度および使用するエポキシ樹脂やエポキシ硬化触媒組成物により異なるが、硬化時間が15分未満では硬化が不十分となり所望の硬化度が得られない場合があり、300分以上の場合、すでに十分に硬化している場合があり、過剰なエネルギーの使用となる場合がある。
【0050】
また、エポキシ樹脂に金属種およびヒドロキシ芳香族化合物をそれぞれ添加して加熱することで、樹脂組成物内で疑似的に本発明のようなエポキシ硬化触媒組成物が形成され、一定の硬化活性を発現させることができる。しかし、ヒドロキシ芳香族化合物が金属種に配位する際に外れる配位子が、エポキシ樹脂組成物中に残存することにより、例えば気泡の発生や、樹脂表面の荒れ等が発生する場合がある。
【実施例0051】
次に、製造例および実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の製造例および実施例によって何ら限定されるものではない。
製造するにあたり使用したアルミニウムトリイソプロポキシドはAIPD(川研ファインケミカル社製)、チタンテトライソプロポキシドはA-1(日本曹達株式会社製)、ノボラック樹脂はKAYAHARD GPH-65(日本化薬社製)、スチレン化フェノールはSP-F(三光株式会社製)、その他の原料は富士フィルム和光純薬株式会社製の特級もしくは1級の試薬を使用した。
【0052】
製造例1
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながらフェノール47g(0.5mol)を滴下し、90℃で1時間還流した。生成した2-プロパノールを留出させると褐色固体が120g得られた。
【0053】
製造例2
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながらフェノール95g(1.0mol)を滴下し、90℃で1時間還流した。生成した2-プロパノールを留出させると褐色固体が135g得られた。
【0054】
製造例3
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながらo-フェニルフェノール851g(5mol)を滴下し、95℃時間還流した。生成した2-プロパノールを留出させ、褐色固体893gが得られた。
【0055】
製造例4
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながら2-メチルフェノール1082g(10mol)を滴下し、90℃で1時間還流した。生成した2-プロパノールを留出させ、褐色固体1094gが得られた。
【0056】
製造例5
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながら3-メチルフェノール1082g(10mol)を滴下し、90℃で1時間還流した。生成した2-プロパノールを留出させ、褐色粘調液体1094gが得られた。
【0057】
製造例6
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながら4-メチルフェノール1082g(10mol)を滴下し、90℃で1時間還流した。生成した2-プロパノールを留出させ、褐色固体1094gが得られた。
【0058】
製造例7
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、アセチルアセトン50g(0.5mol)添加し、さらに、2-メチルフェノール108g(1mol)を滴下し、1時間還流した。生成した2-プロパノールを留出させ、褐色固体170gが得られた。
【0059】
製造例8
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、アセト酢酸エチル65g(0.5mol)添加し、さらに、2-メチルフェノール270g(2.5mol)を滴下し、90℃で1時間還流した。生成した2-プロパノールを留出させ、褐色固体347gが得られた。
【0060】
製造例9
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)およびキシレン100gを仕込み、100℃に加熱し均一になるまで攪拌した。さらに、ノボラック樹脂400g(製品名KAYAHARD GPH-65:日本化薬社製)(OH:2mol相当)添加し、100℃で1時間加熱した。生成した2-プロパノールおよびキシレンを留出させると褐色固体411gが得られた。
【0061】
製造例10
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながらスチレン化フェノール(製品名:SP-F 三光株式会社製)215.8g(1mol)を滴下し、90℃で1時間還流した。生成した2-プロパノールを留出させ、褐色固体258gが得られた。
【0062】
製造例11
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、スチレン化フェノール(製品名:SP-F 三光株式会社製)539.5g(2.5mol)添加し、さらに、アセト酢酸エチル65g(0.5mol)を滴下し、1時間還流した。生成した2-プロパノールを留出させ、褐色粘調液体616gが得られた。
【0063】
製造例12
四ツ口フラスコにチタンテトライソプロポキシド142g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながら2-メチルフェノール162g(1.5mol)を滴下した後、95℃で1時間加熱した。生成した2-プロパノールを留出させ、粘稠液体215gが得られた。
【0064】
製造例13
四ツ口フラスコに亜鉛ジメトキシド64g(0.5mol)を仕込み、加熱溶解させ、さらに、撹拌しながら2-メチルフェノール108g(1.0mol)を滴下した後、80℃加熱を行い、1時間還流し、生成したメタノールを留去し褐色液体140g得た。
【0065】
比較製造例1
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながらフェノール23.5g(0.25mol)を滴下し、90℃で1時間還流した。生成した2-プロパノールを留出させると褐色固体110g得られた。
【0066】
比較製造例2
四ツ口フラスコにアルミニウムトリイソプロポキシド102.1g(0.5mol)を仕込み、撹拌しながら2-メチルフェノール1620g(15mol)を滴下し、90℃で1時間還流した。生成した2-プロパノールを留出させると褐色固体1632gが得られた。
【0067】
熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造
実施例1~13及び比較例1~9
製造例1~13で示されたエポキシ硬化触媒組成物を、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(製品名:JER828三菱ケミカル社製)に対し5wt%添加し、60℃で硬化触媒が均一に分散するまで攪拌を行い、実施例1~13の熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
また、比較として比較製造例1~2およびSec-ブトキシアルミニウム(製品名ASBD:川研ファインケミカル社製)、エチルアセトアセテートジイソプロポキシアルミニウム(製品名ALCH:川研ファインケミカル社製)、アルミニウムトリスアセチルアセトネート(製品名:アルミキレートA 川研ファインケミカル社製)、2-メチルフェノール、ノボラック樹脂(製品名KAYAHARD GPH-65:日本化薬社製)を用い、前述と同様に熱硬化性エポキシ樹脂組成物を調製し、比較例1~8を得た。さらに、一般的な硬化剤としてm-キシレンジアミンを25wt%用いて熱硬化性エポキシ樹脂組成物を調製し、比較例9を得た。それぞれの実施例に用いたエポキシ硬化触媒組成物および添加量を表1に示す。比較例に用いた組成物および添加量を表2に示す。
これらを用いて硬化活性評価、保存安定性評価、機械的物性評価、熱安定性評価を実施した。
【0068】
【0069】
【0070】
保存安定性評価
各種硬化触媒とエポキシ樹脂を混合した硬化性樹脂組成物における経時的な粘度の変化を観察し、保存安定性として評価した。実施例1~13および比較例1~9で示した熱硬化性エポキシ樹脂組成物の、調製直後と25℃で1ヶ月経過後の粘度を測定した。この粘度測定においては、東機産業株式会社製のTVB-15を用いた。
調製直後と1ヶ月経過後(25℃保存)の粘度を比較し、粘度変化を測定した。粘度が10%以上変化すると、製品としての取り扱いが難しくなり、使用条件が限定される場合があるため、粘度変化が10%未満を保存安定性評価が〇、10%以上の変化および固化した場合を×とした。各評価を表3および表4に示す。
【0071】
硬化活性評価
エポキシ樹脂組成物硬化後の硬化度は赤外分光法(FT-IR)にて分析し算出した。
熱処理前の硬化触媒を添加していないビスフェノールA型エポキシ樹脂(製品名:JER828三菱ケミカル社製)をFT-IRにて測定し、950cm-1付近のエポキシ基吸収由来のピーク面積(e0)および1500cm-1付近のフェニル基由来の吸収ピーク面積(f0)を測定した。次に、実施例1~10および比較例1~9で示した熱硬化性エポキシ樹脂組成物に、前述の硬化条件に従い180℃で2時間の熱処理を実施後、950cm-1付近のエポキシ基吸収由来のピーク面積(e1)および1500cm-1付近のフェニル基由来の吸収ピーク面積(f1)を測定した。この測定においては、日本分光株式会社製のFT-IR-4100を用いた。
これらの分析値から下記の式(e)を用い硬化度を算出した。値が大きいほど硬化活性が高いと判断できる。
硬化度(%)=[1-(e1/F1)/(e0/F0)]×100 - (e)
硬化度が80%未満では、硬化後の樹脂の機械的強度が低下し、使用に耐えない場合があるため、硬化度が80%以上を硬化活性評価が〇、それ未満を×と評価した。各評価を表3および表4に示す。
【0072】
機械的物性評価
島津製作所製卓上形精密万能試験機(AGS-J)を用いて、下記条件で引張強度を測定し、機械的強度の評価を実施した。
幅25mm、長さ100mmのSUS304の基板に、評価する実施例1~13および比較例1~9で示した熱硬化性エポキシ樹脂組成物を、前述基板の端10mm×25mmの範囲に塗布し、もう1枚の同形状SUS基板により塗布面を完全に覆うように挟み、180℃、2時間熱処理を行った。前述試験機にて両端から引張荷重を加え、エポキシ樹脂組成物部分が破断するまでに耐えた最大荷重を測定した。
同条件でサンプルを5枚作成し、得られた最大荷重の平均値を引張強度とした。
一般的に使用されている硬化剤であるm-キシレンジアミンの、25wt%添加(比較例9)時の、引張強度が5Mpaであるのを基準とし、それ以上である6Mpa以上の場合に機械的強度評価を○、さらに高い10Mpa以上の場合を◎評価とした。なお、硬化活性評価において硬化不良と判断され、×評価となったものに関しては、評価を実施せず「―」とした。各評価を表3および表4に示す。
【0073】
熱安定性評価
熱重量測定装置(TG-DTA2000SA BRUKER製)を用いて、実施例1~13および比較例1~9で示した熱硬化性エポキシ樹脂組成物を180℃で2時間の硬化処理し、得られた硬化物を測定した。
昇温速度が10℃/分で、室温~400℃まで測定を行い、重量変化を観察し、重量が5wt%減少した時点の温度を測定した。
一般的に使用されている硬化剤であるm-キシレンジアミンを用いた比較例9を基準(288℃)として、これよりも高い290℃以上場合、熱安定性評価を〇とし、290℃未満を×とした。なお、硬化活性評価において硬化不良と判断され、×評価となったものに関しては、評価を実施せず「―」とした。各評価を表3および表4に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
発明であるエポキシ樹脂硬化触媒およびエポキシ樹脂組成物である、実施例1~13においては硬化活性評価、保存安定性評価、機械的物性評価、熱安定性評価のすべてにおいて〇以上の評価となり、課題であった触媒単独で硬化触媒活性、高い保存安定性、高い機械的物性および熱安定性を満たすものであった。
比較例で示したものは、すべて〇以上となるものは無かった。
この発明の技術を用いることにより、高価なシラン化合物などの補助硬化剤や他の硬化剤と併用することなく、触媒単独で硬化活性を示し、高い保存安定性と潜在的硬化活性を有するエポキシ硬化用金属キレート触媒を提供することができ、また、少量の触媒で十分な効果活性を示すため、エポキシ樹脂本来の優れた機械的物性、熱安定性を有し、さらにはトータルの製造コストが低いエポキシ樹脂組成物を製造することができることから、より広く産業界の発展に寄与することができる。
一般的にエポキシ樹脂が使用される分野において制限なく使用することができ、例えば塗料、インキ、接着剤、粘着剤、電気絶縁材料等に利用することができることから、より広く産業界の発展に寄与することができる。