(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022887
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】海苔養殖用支柱、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01G 33/02 20060101AFI20220131BHJP
B29B 15/08 20060101ALI20220131BHJP
B32B 5/00 20060101ALI20220131BHJP
B29K 105/06 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
A01G33/02 101B
B29B15/08
B32B5/00 A
B29K105:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020119054
(22)【出願日】2020-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】松原 真
【テーマコード(参考)】
2B026
4F072
4F100
【Fターム(参考)】
2B026BA02
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2B026BB05
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4F100YY00C
(57)【要約】 (修正有)
【課題】炭素繊維を併用することによって外径の細径化が図れ、手作業での取扱い性に優れ、軽量性と高剛性を両立でき、比較的安価で実用性に富み、かつ円周方向の部位(向き)による曲げ強さの均一化を図ることのできる、FRP製の海苔養殖用支柱を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなる中芯層1と、該中芯層の外周に形成されたFRP層2と、該FRP層の外周に形成された被覆層3とを有する密着一体化した複合構造の海苔養殖用支柱4であって、該FRP層は、FRP内層21とFRP外層22とを有し、該FRP内層は、該中芯層の長手方向の外周に長繊維状の炭素繊維を強化繊維の主体として縦添い状にマトリックス成分で結着され、該FRP外層は、該FRP内層の外周に長繊維状のガラス繊維を強化繊維の主体として縦添い状にマトリックス成分で結着されている海苔養殖用支柱である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる中芯層と、該中芯層の外周に形成されたFRP層と、該FRP層の外周に形成された被覆層とを有する密着一体化した複合構造の海苔養殖用支柱であって、
該中芯層は、少なくともその外周面が該FRP層を構成するマトリックス成分である熱硬化性樹脂と化学的親和性を有する熱可塑性樹脂から構成され、
該FRP層は、FRP内層とFRP外層とを有し、
該FRP内層は、該中芯層の長手方向の外周に長繊維状の炭素繊維を強化繊維の主体として縦添い状にマトリックス成分で結着され、該FRP外層は、該FRP内層の外周に長繊維状のガラス繊維を強化繊維の主体として縦添い状にマトリックス成分で結着されており、
該FRP層の横断面における該ガラス繊維と該炭素繊維の断面積比が60:40~90:10であり、
該被覆層は、少なくともその内周面が該FRP層を構成するマトリックス成分である熱硬化性樹脂と化学的親和性を有する熱可塑性樹脂から構成されることを特徴とする海苔養殖用支柱。
【請求項2】
前記FRP内層には複数の炭素繊維束が円周上に中心軸対称に配置され、かつ該炭素繊維束同士が隣接して配置されている請求項1に記載の海苔養殖用支柱。
【請求項3】
前記FRP層におけるガラス繊維と炭素繊維との断面積比が70:30~80:20である請求項1に記載の海苔養殖用支柱。
【請求項4】
下記の(i)~(vii)の工程を有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の海苔養殖用支柱の製造方法。
(i)長繊維状の強化繊維として所要本数の炭素繊維束及びガラス繊維束を準備し、集合ガイドの所定のガイド孔に、炭素繊維束及びガラス繊維束のそれぞれを挿通し、さらに、これらを平行に配列させて含浸槽の含浸操作ガイド、中芯層の外周に所定配置で縦添いさせるための絞りダイス、被覆層用押出機及び製造ラインを通して強化繊維束を引取り可能に準備する工程、
(ii)含浸槽に熱硬化性樹脂及び熱硬化剤を含む液状の硬化性樹脂組成物を注入する工程、
(iii)中芯層を形成する熱可塑性樹脂を溶融押出機から所定寸法の円管状に連続的に押出し、製造ラインを経て連続的に引取る中芯層製造工程、
(iv)前記(i)で準備された強化繊維束を引取りつつ、含浸槽に含浸操作ガイドを下降させて、強化繊維束に硬化性樹脂組成物を含浸し、これを絞りダイスの孔部の中央を走行する中芯層の外周に縦添いして、余剰の樹脂組成物を絞りダイスにより段階的に絞り、中芯層に強化繊維束が縦添された未硬化状管状物とする工程、
(v)該未硬化状管状物を、溶融押出機のクロスヘッドに通して、被覆層用の熱可塑性樹脂により円環状に押出被覆し、該被覆層を冷却する溶融被覆工程、
(vi)被覆された未硬化状管状物を、熱硬化槽に導いて内部の未硬化状熱硬化性樹脂組成物を熱硬化し、密着一体化した複合構造の管状物を引取る工程、及び
(vii)引取られた管状物を海苔養殖用支柱としての所定の長さに切断する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海苔養殖用支柱、及びその製造方法に関する。
【0002】
海苔養殖は海中に竹などを支柱として、等間隔に配置し、支柱間に網を設置してその網の上で養殖を行う。近年、竹材が入手しにくいことや、太さや長さが不均一であること、耐久性の問題などから、太さの均一化が可能な繊維強化合成樹脂(以下、「FRP」と称する。)製の支柱が使用されるようになった。
【0003】
海苔養殖用のFRP製支柱の製造方法としては、強化繊維に未硬化状の熱硬化性樹脂組成物を含浸して、加熱された円環状の金型でパイプ状に引抜きながら硬化させつつ連続的に引取る、いわゆる引抜き成形法(1)によるものや、パイプの内径に相当する外径の長尺状マンドレルに、未硬化状の熱硬化性樹脂組成物を含浸した強化繊維をトラバースしながら所定の巻角にて卷回してパイプ層を形成しつつ硬化してパイプ状の支柱を形成する方法(2)などが知られている。
さらに、強化繊維に合成樹脂としてエポキシ樹脂を用いたシート状の繊維強化樹脂材料を、支柱形成用のマンドレルに卷回積層して形成した繊維強化樹脂層を有する構成のFRP製支柱が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、前記の金型による引抜き成形法(1)では、金型から硬化ないし半硬化したFRP製支柱を引取るには、金型との摩擦抵抗力の存在により高い引取り力を要し、装置が大型化し、消費エネルギー及び設備コストの増大を余儀なくされる。
一方、特許文献1に記載のFRP製支柱の製造方法では、支柱形成用のマンドレルにシート状の繊維強化樹脂材料を卷回積層して形成するため、マンドレルの長さの制約等から、全長が6m程度のものが最大長となる。しかし、海苔養殖の漁場の水深としては、12m程度のところもあり、連続的に長い支柱を得る製造方法としては採用できない。
【0005】
また、海苔養殖用FRP製支柱は、取り扱い時にFRP層の一部が剥離して手指に突き刺って怪我をすることの防止や、海水中に立設して使用する際のFRP層の加水分解の防止、FRP層の耐候劣化の防止等を目的に、FRP層の外表面は、熱可塑性樹脂等で被覆されていることが好ましい。さらに、FRP層の内表面も、海水中に立設して使用する際のFRP層の加水分解の防止の観点から被覆されていることが望ましい。
本出願人は、このような機能を備える、熱可塑性樹脂による中芯層、その外周に長繊維状のガラス繊維をマトリックス樹脂で結着したFRP層、FRP層の外周に熱可塑性樹脂被覆層を備えた、熱可塑性樹脂中芯層/FRP層/熱可塑性樹脂被覆層の三層構造を有し、外径が35~57mmのFRP製支柱を商品名:「コンポーズ、登録商標」として海苔養殖用支柱として上市し、取り扱い性、耐久性、竹に比較した利点などに富むことから、海苔養殖業者に実用上の高い評価を得ている。
しかしながら、前記三層構造のFRP製の海苔養殖用支柱でも以下の様な課題が挙げられている。
(i)海苔養殖用支柱の設置は人の手作業で実施されるため、重量が重いと作業がし辛い。
(ii) 海苔養殖用支柱を手でつかむときに太いとつかみにくく作業がし辛く、一方、支柱を単純に細くすると、通常のFRPでは剛性が低下して海中で自立し辛く、網が流されやすくなる。
(iii)養殖場まで通常は船で養殖用支柱などの機材を運搬するが、支柱が嵩高いと運搬の頻度が増加して運搬作業により多くの時間を要する。
(iv)上記課題を解決するためにFRP材料として炭素繊維の利用が考えられるが、炭素繊維のみでFRP製支柱を作製した場合には非常にコスト高となり実用性に乏しい。
【0006】
一方、特許文献2には、熱可塑性樹脂と、熱可塑性樹脂100重量部に対して炭素繊維5~25重量部と、ガラス繊維20~70重量部とを含み、かつ、炭素繊維とガラス繊維との総和が前記熱可塑性樹脂100重量部に対して40~75重量部である繊維強化熱可塑性樹脂組成物が開示され、パイプ部材などのT字状、L字状などの連結部材への応用が提案されている。しかしながら、特許文献2に記載された発明の具体例では、熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート樹脂と、PET樹脂100重量部に対して、炭素繊維7.7重量部、ガラス繊維(平均直径5~20μm、平均繊維長100~500μm)46.2重量部を含み、全繊維量53.9重量部である混合物を作製するに際して、PET樹脂に炭素繊維(平均直径1~10μm、平均繊維長100~500μm)のみを配合したペレット状配合物と、PET樹脂にガラス繊維のみを配合したペレット状配合物と、PET樹脂からなるペレット状配合物とを、それぞれ作製し、所定のペレット状配合物を混合した混合物を得ている。そして、この混合物を射出成型して、成形物を得ている。しかしながら、特許文献2に記載の発明では、海苔養殖用支柱のごとき、連続長繊維状の強化繊維を用いて、曲げ強度及び曲げ剛性を確保する技術手法には、参照できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-259838号公報
【特許文献2】特開2019-214694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本出願人は、上記(i)~(iv)の問題、すなわち、手作業での取扱い性に優れ、軽量性と高剛性を両立でき、比較的安価で実用性に富む、FRP製の海苔養殖用支柱について鋭意検討し、先に特願2019-063246(平成32年3月31日出願)として出願した。この出願の発明は、熱可塑性樹脂からなる中芯層の外周に形成されたFRP層の外周側に炭素繊維、内周側にガラス繊維を配置させている。炭素繊維を外周側に配置することは、外径を細くして剛性を確保でき取扱い性、作業性の向上の観点では効果的であった。しかしながら、材料コストの制約から自ずと本数が制限される炭素繊維束をFRP層の外周側に配置するに際して、炭素繊維束を円周方向に対して均一な間隔で配置することが難しく、炭素繊維の偏在化が見られ、そのため、支柱に曲げ応力が加わったときに、応力が加わる円周方向の部位(向き)によって曲げ強さが大きく異なることが、海中への立設作業のし難さや、海中において海苔網を張設して使用する際の海苔養殖用支柱列における波浪による個々の支柱間の変位量のバラツキなど、使用機能上の改善点があった。一方、この改善点を解決するためには、炭素繊維の繊度(平均繊維径)を下げ、炭素繊維の使用本数を増やすことによっても円周方向に対して均一に配置することが可能となる。しかしながら、繊度の小さい炭素繊維は、繊度が大きい炭素繊維に比べて重量あたりの価格が高くなるため、海苔養殖用支柱の製品価格の上昇を来すことが問題となる。
そこで、本発明者らは、円周方向の部位(向き)による曲げ強さの均一化を図るべく、炭素繊維を円周方向に均一に配置することを鋭意検討して、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔4〕の発明を提供する。
〔1〕熱可塑性樹脂からなる中芯層と、該中芯層の外周に形成されたFRP層と、該FRP層の外周に形成された被覆層とを有する密着一体化した複合構造の海苔養殖用支柱であって、該中芯層は、少なくともその外周面が該FRP層を構成するマトリックス成分である熱硬化性樹脂と化学的親和性を有する熱可塑性樹脂から構成され、該FRP層は、FRP内層とFRP外層とを有し、該FRP内層は、該中芯層の長手方向の外周に長繊維状の炭素繊維を強化繊維の主体として縦添い状にマトリックス成分で結着され、該FRP外層は、該FRP内層の外周に長繊維状のガラス繊維を強化繊維の主体として縦添い状にマトリックス成分で結着されており、該FRP層の横断面における該ガラス繊維と該炭素繊維の断面積比が60:40~90:10であり、該被覆層は、少なくともその内周面が該FRP層を構成するマトリックス成分である熱硬化性樹脂と化学的親和性を有する熱可塑性樹脂から構成されることを特徴とする海苔養殖用支柱。
〔2〕前記FRP内層には複数の炭素繊維束が円周上に中心軸対称に配置され、かつ該炭素繊維束同士が隣接して配置されている前記〔1〕に記載の海苔養殖用支柱。
〔3〕前記FRP層におけるガラス繊維と炭素繊維との断面積比が70:30~80:20である前記〔1〕に記載の海苔養殖用支柱。
〔4〕下記の(i)~(vii)の工程を有することを特徴とする前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の海苔養殖用支柱の製造方法。
(i)長繊維状の強化繊維として所要本数の炭素繊維束及びガラス繊維束を準備し、集合ガイドの所定のガイド孔に、炭素繊維束及びガラス繊維束のそれぞれを挿通し、さらに、これらを平行に配列させて含浸槽の含浸操作ガイド、中芯層の外周に所定配置で縦添いさせるための絞りダイス、被覆層用押出機及び製造ラインを通して強化繊維束を引取り可能に準備する工程、
(ii)含浸槽に熱硬化性樹脂及び熱硬化剤を含む液状の硬化性樹脂組成物を注入する工程、
(iii)中芯層を形成する熱可塑性樹脂を溶融押出機から所定寸法の円管状に連続的に押出し、製造ラインを経て連続的に引取る中芯層製造工程、
(iv)前記(i)で準備された強化繊維束を引取りつつ、含浸槽に含浸操作ガイドを下降させて、強化繊維束に硬化性樹脂組成物を含浸し、これを絞りダイスの孔部の中央を走行する中芯層の外周に縦添いして、余剰の樹脂組成物を絞りダイスにより段階的に絞り、中芯層に強化繊維束が縦添された未硬化状管状物とする工程、
(v)該未硬化状管状物を、溶融押出機のクロスヘッドに通して、被覆層用の熱可塑性樹脂により円環状に押出被覆し、該被覆層を冷却する溶融被覆工程、
(vi)被覆された未硬化状管状物を、熱硬化槽に導いて内部の未硬化状熱硬化性樹脂組成物を熱硬化し、密着一体化した複合構造の管状物を引取る工程、及び
(vii)引取られた管状物を海苔養殖用支柱としての所定の長さに切断する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明の海苔養殖用支柱は、熱可塑性樹脂からなる中芯層と、該中芯層の外周に形成されたFRP層と、FRP層の外周に形成された被覆層とを有する密着一体化した複合構造の海苔養殖用支柱において、FRP層は、FRP内層とFRP外層とを有し、FRP内層は、中芯層の長手方向の外周に長繊維状の炭素繊維を強化繊維とし、FRP外層は、FRP内層の外周に長繊維状のガラス繊維を強化繊維とし、ガラス繊維と該炭素繊維の断面積比を所定の範囲としているので、炭素繊維が円周方向に均一に配置されないことによる曲げ強さのバラツキを解消できる海苔養殖用支柱を提供できる。そして、本発明の海苔養殖用支柱は、ガラス繊維のみで構成していた従来のFRP層よりも同外径では高剛性で軽量にできる。また、従来と同程度の剛性としたいのであれば、外径をより細径にすることができ、軽量化と、細径化による取扱い性の向上を図ることができる。
また、本発明の海苔養殖用支柱の製造方法は、手作業での取扱い性に優れ、軽量性と高剛性を両立でき、比較的安価で実用性に富む、本発明の海苔養殖用支柱を、再現性よく安定して、且つ経済的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例2による海苔養殖用支柱の模式断面図である。
【
図2】本発明の比較例2による海苔養殖用支柱の模式断面図である。
【
図3】本発明の海苔養殖用支柱の製造方法に用いられる製造ラインの一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる代表的な実施形態の一例を説明するための図面であり、寸法などは実体に適合したものでなく、これらの図面により本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
本発明の海苔養殖用支柱は、熱可塑性樹脂からなる中芯層と、該中芯層の外周に形成されたFRP層と、該FRP層の外周に形成された被覆層とを有する密着一体化した複合構造の海苔養殖用支柱であって、該中芯層は、少なくともその外周面が該FRP層を構成するマトリックス成分である熱硬化性樹脂と化学的親和性を有する熱可塑性樹脂から構成され、該FRP層は、FRP内層とFRP外層とを有し、該FRP内層は、該中芯層の長手方向の外周に長繊維状の炭素繊維を強化繊維の主体として縦添い状にマトリックス成分で結着され、該FRP外層は、該FRP内層の外周に長繊維状のガラス繊維を強化繊維の主体として縦添い状にマトリックス成分で結着されており、該FRP層の横断面における該ガラス繊維と該炭素繊維の断面積比が60:40~90:10であり、該被覆層は、少なくともその内周面が該FRP層を構成するマトリックス成分である熱硬化性樹脂と化学的親和性を有する熱可塑性樹脂から構成されることを特徴としている。
【0014】
本発明の海苔養殖用支柱4は、長手方向に直交する断面の層構成の一例を
図1に示すように、熱可塑性樹脂からなる中芯層1、強化繊維として所定断面積比率の炭素繊維束(一般的に「炭素繊維トウ」と呼ばれる。)2aとガラス繊維束(一般的に「ガラス繊維ロービング」と呼ばれる。)2bをマトリックス成分としての熱硬化性樹脂硬化物2cで結着したFRP内層21、及びFRP外層22の外周に形成された熱可塑性樹脂からなる被覆層3から形成されている。
本発明の海苔養殖用支柱4は、海苔網を支持し、海中に立設して使用される際の波浪に耐えるのに必要な剛性等から、外径が概ね35mm~60mmであって、この外径のものを海底に立設する主体部とする。海底側の先端には円錐状の先端部があり、海面側には、接手を介して、外径が10~20mm、長さが1m~2.0mのアンテナと称し、満潮時に網綱の保持を確保するための先端部が接続されている。本発明は、上記の海苔養殖用支柱の主体部に係る発明であり、その長さは、漁場の海深との関係から、概ね4~15mである。
【0015】
(中芯層の熱可塑性樹脂)
本発明の海苔養殖用支柱の製造方法との関連において、中芯層は熱可塑性樹脂を溶融押出して製造される。そして、当該中芯層は、少なくともその外周面がFRP内層の界面と化学的親和性によって密着(接着)していることを要する。そのため、中芯層に用いられる熱可塑性樹脂は、FRP層を構成するマトリックス成分である熱硬化性樹脂と化学的親和性を有する熱可塑性樹脂から選択され、たとえばABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂)、AES(アクリロニトリル・エチレンプロピレンゴム・スチレン樹脂)、AS(アクリロニトリル-スチレン樹脂)、AAS(アクリロニトリル-アクリル-スチレン樹脂)、PS(ポリスチレン樹脂)、PC(ポリカーボネート樹脂)、PPE(変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンとポリスチレンとのグラフト共重合体)、ポリ塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
中芯層の内径は概ね30.5~50.5mm、層厚みが概ね1.5~3.0mmである。中芯層は、少なくとも外周面がFRP層を構成するマトリックス成分である熱硬化性樹脂と化学的親和性を有していればよく、外周面のみにマトリックス成分と相溶性を有する上記の熱可塑性樹脂や、接着性向上のために変性された熱可塑性樹脂共重合体等を複層押出して形成してもよい。
【0016】
〔FRP層〕
本発明の海苔養殖用支柱のFRP層は、FRP内層とFRP外層とを有し、該FRP内層は、該中芯層の長手方向の外周に長繊維状の炭素繊維を強化繊維の主体として縦添い状にマトリックス成分で結着され、該FRP外層は、該FRP内層の外周に長繊維状のガラス繊維を強化繊維の主体として縦添い状にマトリックス成分で結着されており、該FRP層の横断面における該ガラス繊維と該炭素繊維の断面積比が60:40~90:10である。
前述の本発明の海苔養殖用支柱の製造方法との関連において、FRP層は、先ず、連続して押出成形される中芯層の外周に、(iv)強化繊維として所定の断面積比率で集合された長尺状の炭素繊維束及びガラス繊維束に硬化性樹脂組成物を含浸して縦添いして、余剰の樹脂組成物を絞りダイスにより段階的に絞り、中芯層に接する側に炭素繊維を強化繊維とするFRP内層用の、その外周側に強化繊維としてガラス繊維が縦添されたFRP外層用の2層からなる未硬化状管状物を形成する工程を経て、次工程に移行する。
次いで、(v)該未硬化状管状物を、溶融押出機のクロスヘッドに通して、被覆層用の熱可塑性樹脂により円環状に押出被覆し、該被覆層を冷却する溶融被覆工程を経て、(vi)被覆された未硬化状管状物を、熱硬化槽に導いて内部の2層からなる未硬化状熱硬化性樹脂組成物を熱硬化し、中芯層、FRP内層及びFRP外層からなるFRP層、及び被覆層を密着一体化した複合構造の管状物を引取る工程により形成される。
【0017】
(強化繊維及びFRP層における断面積比率)
本発明において強化繊維には、FRP内層には炭素繊維を強化繊維の主体として使用し、FRP外層にはガラス繊維を主体として使用する。本発明において「強化繊維の主体として」とは、炭素繊維或いはガラス繊維にこれらの強化機能を損なわない範囲で目的に応じて他の機能性繊維等を混入することを除外しないことを意味する。FRP層を構成する強化繊維は、平均直径5~10μmである強化繊維の単繊維を1,000~50,000本束ねた繊維束状のものを利用できる。強化繊維の比強度は1,000kN・m/kg以上、比弾性率は20,000kN・m/kg以上が好ましい。
本発明の海苔養殖用支柱のFRP内層とFRP外層からなるFRP層に用いられる長繊維の強化繊維は、FRP内層には炭素繊維、FRP外層にはガラス繊維が用いられ、ガラス繊維の使用比率を高くする。海苔養殖用支柱の長手方向のFRP層断面におけるガラス繊維と炭素繊維の断面積比は、60:40~90:10であり、より好ましくは、65:35~85:15であり、さらに好ましくは、70:30~80:20である。FRP層断面におけるガラス繊維と炭素繊維の断面積比が60:40~90:10、すなわち炭素繊維が面積比で40%以下であれば、炭素繊維による原料コストの増加を許容できる安価で、かつ、曲げ強さ、曲げ剛性、軽量性、作業性の向上効果を発現できる海苔養殖用支柱を提供することができ、90:10、すなわち炭素繊維が面積比で10%以上であれば、炭素繊維による曲げ強さ、曲げ剛性、軽量性、作業性の向上効果が発現でき、かつ、FRP内層に円周上に炭素繊維を均等に配置することが容易となり、曲げ強さのバラツキが小さい海苔養殖用支柱を提供することができる。
FRP層断面におけるガラス繊維と炭素繊維の断面積比を70:30~80:20とすれば、より安価であり、実用上において十分な曲げ強さ、及び曲げ剛性を持つ海苔養殖用支柱を提供できる。
なお、FRP層断面における強化繊維の断面積比は、FRP層に使用するガラス繊維及び炭素繊維の断面積を、それぞれの使用本数、繊度、密度から計算して求めることができる。
【0018】
さらに、FRP内層に使用する炭素繊維は、中芯層の外周に複数の炭素繊維束が円周上に中心軸対称に配置され、かつ該炭素繊維束同士が隣接して配置されていることが好ましい。「隣接している」とは、
図1に模式断面図として示すように炭素繊維束同士が隣り合って、好ましくは、円周状の層を形成している状態を意味する。
また、支柱の中心に対して炭素繊維(束)をFRP内層において略同一の中心角θで対称に配置していることにより、高弾性率の炭素繊維が円周上に均等にあるので、支柱が長手方向に偏奇したり、使用時に異方性が生じたりする弊害を生じることなく、実用上必要な程度の真直性や真直回復性が保たれる。
なお、炭素繊維量の軽減、並びに強度保持の観点からは、炭素繊維束の扁平率は、0.33~0.83が好ましく、アスペクト比は3:2~6:1が好ましい。
【0019】
本発明の海苔養殖用支柱のFRP外層の強化繊維として使用できるガラス繊維としては、例えば、Eガラス繊維(電気用)、Cガラス繊維(耐食用)、Sガラス繊維、Tガラス繊維などが挙げられる。繊維の形態としては、ガラス繊維(フィラメント)を束ねたガラスロービングが、FRP層の使用に適している。使用できるガラス繊維としては例えば、日東紡績株式会社製の品名:RS110QL-533AH、RS220RL-510AH、RS440RR-531AHや、セントラル硝子株式会社製の品名:ERS2200-820/LX、ERS4400-820/LX、重慶国際複合材料有限公司(CPIC社)製の品名:ER469-4400、ER469-2200、及び巨石集団有限公司製の品名:EDR17-1150-386T、巨石集団有限公司 EDR22-2200-312T、などが挙げられる。
【0020】
本発明の海苔養殖用支柱のFRP内層の強化繊維として使用できる炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を原料とするPAN系炭素繊維、石油タールや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、ビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とするセルロース系炭素繊維、炭化水素などを原料とする気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが挙げられる。これら炭素繊維のうち、強度と弾性率のバランスに優れる点で、PAN系炭素繊維が好ましく用いられる。入手して使用できる炭素繊維としては、例えば、三菱ケミカル株式会社製、品名:TRW40 50L 3750tex、及び Zoltek Companies, Inc.製、品名:PX35(50K)などが挙げられる。
【0021】
(マトリックス成分)
本発明の海苔養殖用支柱のFRP内層及び外層のマトリックス成分は熱硬化性樹脂組成物を硬化して形成される。熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、不飽和カルボン酸変性ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
これらのうち、熱硬化性であり、汎用性、経済性等の観点から不飽和ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。
また、不飽和ポリエステル樹脂はモノマー成分としてスチレンを含み、中芯層及び被覆層の熱可塑性樹脂に化学的親和性を有するものを選択でき、熱硬化後において、これらの三層を密着一体化したものを用いることもできる。
熱硬化性樹脂は、熱硬化触媒(硬化剤)、粘度調整のための炭酸カルシウムなど、必要に応じて超微粒子シリカであるアエロジル(商品名)などの揺変剤を添加混合した熱硬化性樹脂組成物として準備され、強化繊維に含浸されて、最終的に熱硬化されてマトリックス成分を構成する。
【0022】
(被覆層)
本発明の海苔養殖用支柱の被覆層は、被覆層の少なくとも内周面を構成する熱可塑性樹脂が、スチレンを成分として含む熱可塑性樹脂から選択され、前記FRP層のマトリックス成分を構成する熱硬化性樹脂がスチレンモノマーを単量体成分として含む不飽和ポリエステル樹脂との未硬化状での接触によって、化学的親和性により熱硬化性樹脂の硬化後に、FRP層/被覆層が相互に接着一体化してなる、構成とすることもできる。
【0023】
〔海苔養殖用支柱の製造方法〕
本発明の海苔養殖用支柱の製造方法は、下記の(i)~(vii)の工程を含むことを特徴とする。以下、各工程について順次説明する。
【0024】
(i)強化繊維の準備工程
図3に示すように繊維状の強化繊維としてクリール12にFRP内層用に所要本数の炭素繊維束2a及びクリール13にFRP外層用にガラス繊維束2bを準備し、FRP層での配置を考慮して、FRP内層用の炭素繊維には含浸槽11aを、FRP外層用のガラス繊維には含浸槽11bを準備し、それぞれの集合ガイド(目板)(図示省略)の所定のガイド孔(図示省略)に、炭素繊維束及びガラス繊維束のそれぞれを挿通し、さらに、これらを平行に配列させて含浸槽11a、11bの含浸操作ガイド(図示省略)を経て、定常走行時に中芯層1の外周に所定配置で縦添いさせ、余剰の熱硬化性樹脂を絞るための絞りダイス7、被覆層用押出機8及びそれ以降(下流側)の製造ラインを通して引取り可能に準備する工程である。なお、この強化繊維の準備工程の段階では、中芯層1の押出、熱硬化性樹脂含浸槽11での強化繊維束への樹脂含浸操作、絞り成形、被覆押出機8での被覆は、行わず、定常運転時の製造ラインに強化繊維の配置を可能に準備する工程である。
【0025】
(ii)硬化性樹脂組成物の準備工程
含浸槽11a、11bに熱硬化性樹脂及び熱硬化剤を含む液状の硬化性樹脂組成物を注入する工程である。熱硬化性樹脂としては、前記のものから選択して使用され、熱硬化性樹脂は、所定量の熱硬化触媒(硬化剤)、粘度調整のための炭酸カルシウムなど、及び要すれば超微粒子シリカであるアエロジル(商品名)などの揺変剤を添加して攪拌混合したものを熱硬化性樹脂組成物として攪拌混合して含浸槽11a、11bに注入される。攪拌混合は事前に行ってもよいし、定常生産状態に移行した後には、熱硬化性樹脂組成物を構成する物質につきそれぞれ所定量を計量して、ミキシング装置で混合しながら、熱硬化性樹脂組成物の消費量に対応して連続的に含浸槽に注入してもよい。
【0026】
(iii)中芯層製造工程
中芯層1を形成する熱可塑性樹脂を溶融押出機5から内径をマンドレルで、若しくは、外径を型で規制しながら所定寸法の円管状に連続的に押出し、冷却槽6で冷却され、以降の製造ラインを経て連続的に引取る中芯層製造工程によって、事後において長繊維の強化繊維に含浸された未硬化状樹脂組成物を所定の外径に絞り成形し、被覆用溶融押出機8で被覆可能とする工程である。
【0027】
(iv)未硬化状管状部の製造工程
前記(i)で準備された強化繊維を引取りつつ、含浸槽11a、11bに向けて、含浸操作ガイド(図示省略)を下降させて、強化繊維束に硬化性樹脂組成物を含浸し、これを絞りダイス7の孔部の中央を走行する中芯層1の外周に縦添いして、余剰の樹脂を絞りダイスにより段階的に絞り、中芯層の外周に炭素繊維がさらにその外周にガラス繊維が強化繊維として縦添された未硬化状管状物14とする工程である。
【0028】
(v)未硬化状管状物の溶融被覆、冷却工程
前記未硬化状管状物14を、被覆用溶融押出機8のクロスヘッドに通して、被覆層用の熱可塑性樹脂により円環状に押出被覆し、直ちに該被覆層を冷却槽9で冷却固化して被覆層付き未硬化状管状物15を得る溶融被覆、冷却工程である。
【0029】
(vi)被覆層付き未硬化状管状物の熱硬化、及び引取工程
被覆層付き未硬化状管状物15を、熱硬化槽10に導いて内部の未硬化状熱硬化性樹脂組成物を熱硬化し、中芯層1、FRP内層21、FRP外層22、被覆層3の各層が密着一体化した複合構造の管状物(複合管状物)16をゴムベルト式、或いはキャタピラー式引取機(図示省略)等で引取る工程である。
【0030】
(vii)複合管状物を所定の長さに切断する工程
引取られた複合管状物16は高剛性でありドラム等に巻取ることは困難なので、使用時の長さに応じて所定の長さに切断される。
【0031】
(その他の工程)
本発明の主要部ではないので詳細な記載は割愛するが、上記のようにして得られた切断された複合管状物は、海苔養殖用支柱の主体部として使用され、一端側には海底への突き刺し用円錐状先端部材(図示省略)、他端側には接続部材を介して細径の所定長さの複合管状物が先端部材(いわゆる「アンテナ」)として接続されて、海苔養殖用支柱として供される。これらの部材の接続は、切断工程に連続したラインで行われることが効率的である。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下、図面も参照して説明する。
【0033】
実施例1
以下に示す材料を使用して海苔養殖用支柱の主体部の複合管状物を作製した。
〔材料構成〕
(中芯層用熱可塑性樹脂)
・ABS樹脂:東レ株式会社製、トヨラック(登録商標)600-309N
(熱硬化性樹脂組成物)
・不飽和ポリエステル樹脂100質量部:日本ユピカ株式会社製、ユピカ(登録商標)3464
・炭酸カルシウム10質量部:清水工業株式会社製、LW350
・有機過酸化物-1 4質量部:化薬ヌーリオン株式会社製、カヤエステル(登録商標)O-50E
・有機過酸化物-2 1質量部:化薬ヌーリオン株式会社製、トリゴノックス(登録商標)117
(強化繊維)
・炭素繊維トウ 16本:三菱ケミカル株式会社製、PYROFIL(登録商標)、 TRW40 50L
・ガラス繊維ロービング 114本:日東紡績株式会社製、RS220RL-510AH(2200tex)
(被覆用熱可塑性樹脂)
・ABS樹脂:東レ株式会社製、トヨラック(登録商標)600-309N、FB-1682(黒色着色マスターバッチ)
(未硬化状熱硬化性樹脂組成物の調合、準備)
FRP内層及び外層を構成する強化繊維に含浸させる未硬化状の熱硬化性樹脂組成物として、上記の不飽和ポリエステル樹脂、有機過酸化物、及び充てん剤としての炭酸カルシウムをそれぞれ所定量計量し、攪拌装置を備える調合タンクで攪拌混合し、含浸槽11a及び11bに注入した。
【0034】
図3に示すように中芯用溶融押出機5より上記ABS樹脂を外径37.6mm、内径33.6mmのパイプ状に中芯層1として連続状に押出した。
その中芯の外周側に形成されるFRP層は、2段階による強化繊維の絞り方法に基づき内層及び外層を形成することとした。FRP内層には、炭素繊維を用い、FRP層の内周側に配置するために、クリール12 (詳細な図示省略) に配置された炭素繊維束を集束して含浸層11aの熱硬化性樹脂組成物を含浸させて、炭素繊維のみを配置させたときの繊維密度 [繊維体積/(繊維体積+熱硬化性樹脂体積]が48体積%になるように、段階的に複数の絞りダイス装置7に導いた。FRP外層には、ガラス繊維を用い、FRP層の外周側に配置するために、クリール13 (詳細な図示省略) に配置されたガラス繊維束を集束して含浸層11bの熱硬化性樹脂組成物を含浸させて、既に絞られている炭素繊維より外周側に沿わせて、内径が段階的に最終的にFRP層の外径41.5mmに収斂する複数の絞りダイス装置7に導いた。
すなわち、中芯層の外周に炭素繊維とそれに含浸された硬化性樹脂組成物により形成された層とその外周に配置されたガラス繊維とそれに含浸された硬化性樹脂組成物とを縦添いして最終の絞りダイスで成形して、外径41.5mmの未硬化状管状物14とし、引き続いて、被覆層用溶融押出機8のクロスヘッド部に導いて、被覆層付き未硬化状管状物15を得た。
次いで、被覆層付き未硬化状管状物15を熱媒として熱湯を用いた熱硬化槽10に導いて、内部の未硬化状FRP層を熱硬化し、冷却水槽 (図示省略)で冷却して、中芯層、内層及び外層からなるFRP層及び被覆層から構成される三層構造の複合管状物16を得、切断装置(図示省略)で10mの長さに切断した。得られた支柱(複合管状物)の外径は、42.8mm、FRP層厚み2.0mmであった。得られた支柱のガラス繊維/炭素繊維の断面積比、曲げ強さ等をまとめて、表1に示す。
【0035】
実施例2
実施例1において、外径が41.0 mm、内径が37.0 mmの中芯をパイプ状に押出して、炭素繊維トウ16本、ガラス繊維ロービング150本に変更し、FRP層外径45.1mm、FRP層厚み2.1mm、被覆層外径を46.2mmとした以外は実施例1と同様の方法により、長さ10mの支柱サンプルを得た。得られた支柱の外径は46.2 mmであった。得られた支柱の模式断面図を
図1に示す。FRP内層21には、炭素繊維(束)2aが16本隣接して配置されていた。
【0036】
実施例3
実施例2において、炭素繊維トウ24本、ガラス繊維ロービング114本に変更した以外は実施例2と同様の方法により、長さ10mの支柱サンプルを得た。外径は46.2mmであった。
【0037】
実施例4
実施例2において、炭素繊維トウ12本、ガラス繊維ロービングを日東紡績株式会社製、RS440RR-531AH(4400tex)78本、に変更した以外は実施例2と同様の方法により、長さ10mの支柱サンプルを得た。外径は46.2mmであった。
【0038】
比較例1
実施例1において、クリール12にガラス繊維ロービング114本、クリール13に炭素繊維トウ16本を準備し、これらに硬化性樹脂組成物を含浸して中芯層の長手方向に縦添いする順番を、実施例1とは逆にした以外は同様の方法により、長さ10mの支柱サンプルを得た。外径は42.8mmであった。
【0039】
比較例2
実施例2において、クリール12にガラス繊維ロービング150本、クリール13に炭素繊維トウ16本を準備し、これらに硬化性樹脂組成物を含浸して中芯層の長手方向に縦添いする順番を、実施例2とは逆にした以外は同様の方法により、長さ10mの支柱サンプルを得た。外径は46.2mmであった。
断面における炭素繊維は、
図2の模式断面図に示すように、FRP層の最外周側において、炭素繊維束同士は隣接しておらず隙間を有している状態を呈していた。
【0040】
比較例3
実施例3において、クリール12にガラス繊維ロービング114本、クリール13に炭素繊維トウ24本を準備し、これらに硬化性樹脂組成物を含浸して中芯層の長手方向に縦添いする順番を、実施例3とは逆にした以外は同様の方法により、長さ10mの支柱サンプルを得た。外径は46.2mmであった。
【0041】
比較例4
実施例4において、クリール12にガラス繊維ロービング78本、クリール13に炭素繊維トウ12本を準備し、これらに硬化性樹脂組成物を含浸して中芯層の長手方向に縦添いする順番を、実施例4とは逆にした以外は同様の方法により、長さ10mの支柱サンプルを得た。外径は46.2mmであった。
【0042】
比較例5
実施例2において、ガラス繊維ロービングを188本に変更し、炭素繊維トウを使用しなかったこと以外は実施例2と同様の方法により、長さ10mの支柱サンプルを得た。外径は46.2mmであった。
【0043】
<実施例及び比較例により得られた海苔養殖用支柱サンプルの評価>
(支柱サンプル断面の寸法)
長手方向に直交して丸鋸型チップソーカッターにより切断し、断面における中芯層の内径、外径、FRP層の外径、被覆層の外径をノギス((株)Mitutoyo製、CD-20CPX)により測定した。測定個数nを5点としその平均で表した。
(FRP層の強化繊維の体積含有率、及びFRP層横断面におけるガラス繊維と炭素繊維の断面積比)
上記断面寸法からFRP層の断面積Sfを計算する。各実施例、比較例におけるガラス繊維ロービング、及び炭素繊維トウについて使用本数及び、それぞれの繊度、密度からガラス繊維の断面積Sg、炭素繊維の断面積Scを算出して,〔(Sg+Sc)/Sf〕×100により計算した。
また、FRP層断面におけるガラス繊維と炭素繊維の断面積比は、上記ガラス繊維の断面積Sgと、炭素繊維の断面積Scを用いて表記した。
なお、ガラス繊維ロービング(日東紡績株式会社製、RS220RL-510AH、及びRS440RR-531AH:Eガラス)の密度を2.54g/cm3、炭素繊維トウ(三菱ケミカル株式会社製、PYROFIL(登録商標)、 TRW40 50L)の密度を1.81g/cm3として計算した。
【0044】
(曲げ強さ)
JIS K 7074:1988を参考として、3点曲げ試験(n=10)で以下の条件で測定した。
・曲げ方向:海苔養殖用支柱の主体として使用される複合管状物(繊維強化樹脂管状体)のサンプルの長手方向に対し、垂直方向かつ繊維強化樹脂管状体の径がもっとも短くなる方向(平行部に直交する方向)に曲げた。
・試験片の径D:圧子直下における、荷重方向の繊維強化樹脂管状体の幅をノギスにより測定(n=1)
・支点の半径 :2.0mm
・圧子の半径 :5.0mm
・支点間距離Lm:(40±8)×D mm (JISでは中実の厚みHで算出しているところを試験片の径Dで算出した)
・試験片長さlm:Lm+660 mm
・試験速度:20mm/min (JISでは0.01Lm
2/6H)
・曲げ強さ(N):試験片に加わる最大曲げ応力
【0045】
(曲げ強力のバラツキ)
上記の方法で実施例、比較例の海苔養殖用支柱の各サンプルにつきn=10で測定し、曲げ強さ(N)の最小値、最大値、平均値、標準偏差を求め、標準偏差を平均で除し、パーセント表示により変動係数(%)とした。
【0046】
各実施例、比較例の海苔養殖用支柱サンプルのFRP層の外径及び厚み、ガラス繊維束、炭素繊維束(トウ)の繊度(tex)及び使用本数、FRP層の強化繊維の体積含有率(%)、FRP層におけるガラス繊維/炭素繊維の断面積比、支柱外径、FRP層における炭素繊維の配置部位、曲げ強さについてまとめて表1に示す。
【0047】
【0048】
表1に示すように、実施例1と比較例1はガラス繊維ロービング114本と炭素繊維トウ16本と使用本数は同じで、実施例1では、FRP内層に炭素繊維を使用しているが、比較例1では、炭素繊維をFRP層の外側(最外層側)に配置している。両者を比較すると、比較例1では、実施例1と比較して曲げ強さの標準偏差が大きく、変動係数が15.1%と実施例1の7.3%に対して2倍以上であった。
FRP層の強化繊維の体積含有率を58.8体積%として、炭素繊維の配置をFRP内層とした実施例2、FRP層の外側とした比較例2では、変動係数が6.0%と11.9%で約2倍の開きがあった。
また、炭素繊維の断面積比率を33.5に高めた実施例3と比較例3において、炭素繊維の配置をFRP内層とした実施例3では、変動係数が4.7%、FRP層の外側とした比較例3では、変動係数が9.2%で約2倍の開きがあった。
一方、炭素繊維の断面積比率を15.6とした実施例4と比較例4においては、炭素繊維の前述同様の配置位置の違いによって、変動係数が7.3%と13.6%で約1.9倍の開きがあった。
【0049】
一方、比較例5は炭素繊維を使用することなく、ガラス繊維のみを強化繊維とし、ガラス繊維の体積含有率を58.7%とし、実施例2、比較例2と強化繊維の体積含有率が近似しているが、比較例5の変動係数が5.0%、実施例2が、6.0%、比較例2が11.9%であり、実施例2では、従来のガラス繊維強化FRPによる海苔養殖用支柱である比較例5の支柱サンプルと同等の曲げ強さのバラツキであることが確認できた。
また、その他の実施例においても、4.7~7.3%の変動係数であり、従来のガラス繊維強化FRPの海苔養殖用支柱とほぼ同等の曲げ強さのバラツキであることが確認された。
本発明の海苔養殖用支柱は、FRP内層に炭素繊維を配置したので、従来においてガラス繊維のみで構成していたFRP層よりも同外径では高剛性で軽量な海苔養殖用支柱として利用できるのは当然として、応力を付加する長手方向断面における円周上の部位による曲げ強さの均一化を図ることができるので、海中への設置作業の能率が向上し、海苔網を張設して海苔養殖する際の支柱の機能としてもバラツキがないので、養殖作業における管理上においても好適な海苔養殖用支柱として有効に利用できる。
また、従来のガラス繊維のみを強化繊維とするFRP支柱と同程度の剛性としたいのであれば、外径をより細径にすることができ、軽量化と、細径化による取扱い性の向上を図ることができる海苔養殖用支柱として利用できる。
また、本発明の海苔養殖用支柱の製造方法は、応力を付加する長手方向断面における円周上の部位による曲げ強さのより均一化が達成できるので、手作業等での取扱い性に優れ、軽量性と高剛性を両立でき、比較的安価で実用性に富む、本発明の海苔養殖用支柱を、再現性よく安定して、且つ経済的に製造する方法として利用することができる。