(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022968
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】抗微生物基体
(51)【国際特許分類】
A01N 25/34 20060101AFI20220131BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220131BHJP
A01N 59/20 20060101ALI20220131BHJP
A01N 55/02 20060101ALI20220131BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20220131BHJP
B32B 9/02 20060101ALI20220131BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20220131BHJP
C09D 201/00 20060101ALN20220131BHJP
C09D 7/63 20180101ALN20220131BHJP
C09D 5/14 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
A01N25/34 A
A01P1/00
A01N59/20 Z
A01N55/02 160
C08J7/04 Z
B32B9/02
B32B7/12
C09D201/00
C09D7/63
C09D5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067811
(22)【出願日】2021-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2020084684
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020214143
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀野 克年
(72)【発明者】
【氏名】古市 渉
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
4H011
4J038
【Fターム(参考)】
4F006AA17
4F006AB43
4F006AB62
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4F006EA03
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4H011DH02
4J038CG001
4J038JC38
4J038MA08
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4J038NA02
4J038NA12
4J038PA06
4J038PB05
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】 抗微生物性に優れるとともに、透明性等に優れ、基材の透明性や基材表面の色彩等の特性をそのまま維持することが可能で、しかもヒートサイクルによる抗微生物性の硬化物が剥離せず、かつ拭き取り耐久性にも優れた抗微生物基体を提供する。
【解決手段】 基材表面が易接着処理され、当該易接着処理された表面であって、抗微生物性が要求される表面に、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物が固着し、前記銅化合物の少なくとも一部は、前記バインダ硬化物の表面から露出してなることを特徴とする抗微生物基体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面が易接着処理され、当該易接着処理された表面であって、抗微生物性が要求される表面に、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物が固着し、前記銅化合物の少なくとも一部は、前記バインダ硬化物の表面から露出してなることを特徴とする抗微生物基体。
【請求項2】
前記易接着処理は、親水化処理もしくはプライマー層形成処理である請求項1に記載の抗微生物基体。
【請求項3】
前記親水化処理は、コロナ放電処理である請求項2に記載の抗微生物基体。
【請求項4】
前記親水化処理は、プラズマ放電処理である請求項2に記載の抗微生物基体。
【請求項5】
前記プライマー層は、ポリオレフィン樹脂からなる請求項2に記載の抗微生物基体。
【請求項6】
表面に凹凸が形成された可撓性の基材表面が易接着処理され、当該易接着処理された表面であって、抗微生物性が要求される表面に、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物が固着し、前記銅化合物の少なくとも一部は、前記バインダ硬化物の表面から露出してなる請求項1~5のいずれか1項に記載の抗微生物基体。
【請求項7】
前記バインダ硬化物は、光重合開始剤を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の抗微生物基体。
【請求項8】
前記バインダ硬化物は、水に不溶性の光重合開始剤を含む請求項1~7のいずれか1項に記載の抗微生物基体。
【請求項9】
前記バインダ硬化物は、第1領域と第2領域から構成され、前記第1領域は、銅化合物の含有量が前記第2領域と比べて相対的に多く、前記第2領域は、銅化合物の含有量が前記第1領域と比べて相対的に少ない請求項1~8のいずれか1項に記載の抗微生物基体。
【請求項10】
前記基材は光透過性であり、前記抗微生物基体の全光線透過率は、80%以上である請求項1~9のいずれか1項に記載の抗微生物基体。
【請求項11】
前記基材はフィルム状もしくはシート状である請求項1~10のいずれか1項に記載の抗微生物基体。
【請求項12】
前記基材の前記バインダ硬化物が固着している面の反対側の面には粘着剤層が形成されている請求項1~11のいずれか1項に記載の抗微生物基体。
【請求項13】
前記基材上のバインダ硬化物が固着した領域には、プライマー層が島状に形成されてなる請求項1~12のいずれか1項に記載の抗微生物基体。
【請求項14】
前記基材上にプライマー層が膜状に形成されてなる請求項1~12のいずれか1項に記載の抗微生物基体。
【請求項15】
前記基材上にプライマー層が膜状に形成されてなり、当該膜形成領域中には、基材表面が露出するように膜非形成領域が設けられてなる請求項1~12のいずれか1項に記載の抗微生物基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物基体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病原体である種々の微生物を媒介とした感染症が短時間で急激に広がる、いわゆる「パンデミック」が問題になっており、SARS(重症急性呼吸器症候群)や、ノロウィルス、鳥インフルエンザ等のウィルス感染による死者も報告されている。
【0003】
そこで、様々のウィルスに対して抗ウィルス効果を発揮する抗ウィルス剤の開発が活発に行われており、実際に様々な部材に抗ウィルス効果のあるPd等の金属や有機化合物からなる抗ウィルス剤を含む樹脂等を塗布したり、抗ウィルス剤が担持された材料を含む部材を製造することが行われている。
【0004】
特許文献1には、一価と二価が共存する銅化合物を含む抗ウィルス性のバインダを、基材表面に島状、不連続形状もしくは膜状に形成した抗ウィルス基体が開示されている。
また、特許文献2には、基体側からプライマー層、中間塗布層、第4級アンモニウム塩を含む表層塗膜層が積層された抗ウィルス抗菌性建築材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/74121号
【特許文献2】特開2013-71031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された抗ウィルス基体では、透明性やヒートサイクルによる剥離、拭き取り耐久性についてなお改善の余地があった。
また、特許文献2に記載された建築材料は、有機物である第4級アンモニウム塩を含む表層塗膜層の耐摩耗性や耐剥離性が低いという問題が見られた。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、抗微生物性に優れるとともに、透明性等に優れ、基材の透明性や基材表面の色彩等の特性をそのまま維持することが可能で、しかもヒートサイクルによる抗微生物性の硬化物が剥離せず、かつ拭き取り耐久性など、表面に摺動応力が加えられた場合でも、摩耗や剥離が生じない優れた耐久性を持つ抗微生物基体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の抗微生物基体について説明する。本発明の抗微生物とは、抗ウィルス、抗菌、抗カビ、防カビを含む概念である。
本発明の抗微生物基体については、抗ウィルス性基体であることが望ましい。本発明の効果が最も顕著だからである。
【0009】
本発明の抗微生物基体は、基材表面が易接着処理され、当該易接着処理された表面であって、抗微生物性が要求される表面に、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物が固着し、上記銅化合物の少なくとも一部は、上記バインダ硬化物の表面から露出してなることを特徴とする。
なお、一般に化合物は、共有結合性の化合物、イオン性化合物を指し、錯体は化合物には含まれない。従って、銅錯体(銅錯塩)は本発明の抗微生物基体でいう銅化合物には含まれず、銅のアミノ酸塩も本発明の抗微生物基体でいう銅化合物には含まれない。本発明の抗微生物基体における銅化合物は、銅を含む共有結合性の化合物、銅を含むイオン性化合物を言う。あえて換言すれば、本発明の抗微生物基体における銅化合物は、銅化合物(銅錯体を除く)ということである。
【0010】
本発明の抗微生物基体は、光触媒を含まない。このため、バインダとして有機バインダを用いた場合でも光触媒が有機バインダを分解して劣化させたり、変色させたりすることを防止することができる。
【0011】
なお、本明細書において、上記抗微生物基体は、抗ウィルス、抗菌、抗カビ及び防カビのうちいずれか1種の活性を示す基体であってもよく、抗ウィルス、抗菌、抗カビ及び防カビのうち、いずれか2種類の活性を示す基体であってもよく、いずれか3種類の活性を示す基体であってもよく、4種類全ての活性を示す基体であってもよい。
また、本明細書において、抗微生物活性を有するバインダ硬化物の厚さおよびプライマー層の厚さは、特に断りの無い限り、抗微生物基体の断面の走査型電子顕微鏡画像、透過型電子顕微鏡画像における任意の10点の平均値を指す。
【0012】
本発明の抗微生物基体では、基材表面が易接着処理され、当該易接着処理された表面であって抗微生物性が要求される表面に、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物が固着し、上記銅化合物の少なくとも一部は、上記バインダ硬化物の表面からウィルスなどの微生物と接触可能な状態で露出しているため、ウィルスなどの微生物の機能を失活させることができる。また、基材表面が易接着処理されることにより、銅化合物を含むバインダ硬化物と基材とが密着しやすく、抗微生物性を有するバインダが拭き取りや摺動による応力により基材から剥離せず、耐摩耗性等の耐久性に優れ、長期間にわたって抗微生物活性が保たれる。
【0013】
本発明の抗微生物基体において、上記易接着処理は、親水化処理もしくはプライマー層形成処理であることが望ましい。特に親水化処理は、コロナ放電処理または酸素ガスを含む雰囲気下で行うプラズマ放電処理であることが望ましい。また、プライマー層は、ポリオレフィン樹脂からなることが望ましい。なお、プライマー層とは、基材とその上の層との密着性等を向上させることを目的として形成される下地層のことをいう。
【0014】
本発明の抗微生物基体においては、表面に凹凸が形成された可撓性の基材表面が易接着処理され、当該易接着処理された表面であって、抗微生物性が要求される領域の表面に、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物が固着し、上記銅化合物の少なくとも一部は、上記バインダ硬化物の表面から露出してなることが望ましい。
なお、可撓性の基材とは、外力によって、しなやかにたわむ性質を有する基材をいう。
【0015】
本発明の抗微生物基体においては、基材表面に凹凸が形成されていることにより、抗微生物性のバインダ硬化物との密着性が高くなるからである。また、可撓性の基材表面の凹凸の凸部がバインダ硬化物にアンカーのように食い込むため、バインダ硬化物を確実に可撓性の基材表面に固定できる。
このような構造は、可撓性の基材において特に有用である。可撓性の基材は、屈曲やヒートサイクルにより応力が発生しやすく、バインダ硬化物が基材から剥離しやすいからである。
【0016】
本発明の抗微生物基体においては、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まない抗微生物性のバインダ硬化物が、基材表面の凹凸を被覆していてもよい。凸部がバインダ硬物に対するアンカーとなり、基材とバインダ硬化物との密着性に優れるからである。
【0017】
また、上記バインダ硬化物は、上記基材表面に形成された凹凸の凹部に固着形成されてなり、上記基材表面の凸部は上記バインダ硬化物の表面から露出していてもよい。
上記バインダ硬化物が、上記形態で形成されている場合は、基材表面の凹凸の凸部がバインダ硬化物を貫通するため、バインダ硬化物を確実に基材表面に固定できる。
【0018】
上記バインダ硬化物からなる膜の厚さの平均値は、0.1~200μmが望ましく、0.1~50μmがより望ましく、0.1~20μmがさらに望ましい。厚すぎると応力が発生して膜が剥離して抗微生物性が低下し、膜が薄すぎても抗微生物性を十分に発揮できないからである。
【0019】
本発明の抗微生物基体では、上記バインダ硬化物は、光重合開始剤を含むことが望ましい。この光重合開始剤は、ラジカルやイオンを発生させ、その際に銅化合物を還元させることができるため、銅の抗微生物活性を高くすることができる。一般に銅イオン(I)の方が銅イオン(II)よりも抗微生物活性が高く、銅が還元されることで抗微生物活性が改善される。また、上記光重合開始剤を含むと、銅イオン(I)が酸化されて抗微生物性の劣る銅イオン(II)に変わることを抑制できる。
【0020】
本発明の抗微生物基体では、上記バインダ硬化物は、水に不溶性の光重合開始剤を含むことが望ましい。水に不溶性の光重合開始剤は水に触れても溶出しないため、耐水性に優れたバインダ硬化物を有する抗微生物基体となるからである。
【0021】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの光重合開始剤は、特に、銅に対する還元力が高く、銅イオン(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。
【0022】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤、ベンゾフェノン系の光重合開始剤からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの光重合開始剤は、特に、銅に対する還元力が高く、銅イオン(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。なお、本明細書においては、アルキルフェノン系の光重合開始剤にはアルキルフェノン及びその誘導体が含まれ、ベンゾフェノン系の光重合開始剤にはベンゾフェノン及びその誘導体が含まれるものとする。
【0023】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤及び上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤を含むことが好ましい。上記光重合開始剤の濃度は、上記未硬化の有機バインダに対して、0.5~20.0重量%であることが好ましい。また、上記光重合開始剤の濃度が上記未硬化の有機バインダに対して0.5~10.0重量%であることが好ましい。これにより、電磁波の照射時間が短くても高い架橋密度を実現できるからである。
【0024】
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤とベンゾフェノン系の光重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが望ましい。高い架橋密度を実現でき、バインダ硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅に対する還元力を高くすることができるからである。架橋密度は85%以上、特に95%以上が望ましい。
【0025】
また、光重合開始剤としては、アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤を使用でき、具体的には、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(2,4,6-トリメチルベンゾイルビフェニルホスフィンオキシドとも表記される)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチル等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、UV-LEDを紫外線の発生光源として用いた場合の光重合開始剤として用いられる。
【0026】
本発明の抗微生物基体では、上記バインダは、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダと無機バインダの混合物及び有機・無機ハイブリッドのバインダから選択される少なくとも1種以上であることが望ましい。比較的容易に密着性に優れたバインダ硬化物を、基材表面に固着形成させることができるからである。
【0027】
上記有機バインダは、電磁波硬化型樹脂および熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上であることが望ましい。これらの有機バインダは、電磁波の照射や加熱により、樹脂が硬化して基材表面に銅化合物を固着できるからである。また、これらの樹脂は、光重合開始剤の銅に対する還元力を低下させることがないため有利である。電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。
【0028】
本発明の抗微生物基体では、上記バインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0029】
本発明の抗微生物基体では、上記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4~50であることが望ましい。より抗微生物性に優れた抗微生物基体となるからである。特に、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.5~50であることが好ましい。上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が1.0~4.0がより望ましく、特に1.4~2.9がより望ましく、さらに1.4~1.9が最適であり、より抗ウィルス性に優れた抗ウィルス性基体となる。
【0030】
また、銅化合物中のCu(I)/Cu(II)が0.4/1~4.0/1に調整されていると、抗ウィルス性を高くできるため、望ましい。
本発明の抗微生物基体におけるCu(I)/Cu(II)の比率は、バインダ、光重合開始剤、銅化合物の選択、これらの濃度調整、及び、紫外線などの電磁波の照射時間や強度で調整することができる。
【0031】
本発明の抗微生物基体では、上記バインダ硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅は、0.1~500μmであり、その厚さの平均値は、0.1~200μmが望ましく、0.1~50μmがより望ましく、0.1~20μmがさらに望ましい。
上記バインダ硬化物の上記基材の表面に平行な方向の最大幅が0.1~500μmであると、基材の表面がバインダ硬化物により被覆されていない部分の割合が多くなり、光透過率の低下を抑制することができるからである。また、バインダ硬化物の厚さの平均値が0.1~200μmであると、バインダ硬化物の厚さが薄いので、バインダ硬化物の連続層を形成しにくく、抗微生物性が要求される領域の表面において、バインダ硬化物が島状に散在し易くなるか、基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域が形成され、そのバインダ硬化物が固着形成された領域中に、バインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している状態に調整し易く、光透過率が高くなり易く、また、抗微生物性の効果が発生し易い。なお、島状とは、基材表面のバインダ硬化物が他のバインダ硬化物と接触しない孤立した状態で存在していることをいう。
上記バインダ硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅は、1~100μmが望ましく、その厚さの平均値は、0.1~200μmが望ましく、1~50μmであることがより望ましい。
【0032】
本発明の抗微生物基体における銅化合物は、バインダ硬化物中に含まれており、当該バインダ硬化物は、第1領域と第2領域から構成され、第1領域は、銅化合物の含有量が第2領域に比べて相対的に多く、第2領域は、銅化合物の含有量が第1領域に比べて相対的に少ないものであることが望ましい。前記バインダ硬化物がこのような第1領域と第2領域とを有することで、バインダ硬化物中に銅化合物の粒子が分散している場合に比べて、拭き取り等により粒子状の銅化合物の脱落が発生しにしにくくなる。また、本発明の抗微生物基体におけるバインダ硬化物において、銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域は、網目状に形成されていることが好ましい。バインダ硬化物において上記第1領域が網目状に形成されることにより、微生物と銅化合物との接触確率を高くすることができ、微生物を失活、無害化しやすいからである。
【0033】
上記基材は光透過性であり、上記抗微生物基体の全光線透過率は、80%以上であることが望ましい。
また、本発明において抗微生物性のバインダ硬化物は、銅化合物を含み、かつ光触媒を含まない有機バインダ硬化物からなる。上記有機バインダ硬化物は、銅化合物および未硬化の有機バインダを含む有機バインダ組成物を硬化させることで得られる。
抗微生物性のバインダ硬化物は、基材表面の抗微生物性が要求される領域に形成される。
【0034】
抗微生物性のバインダ硬化物からなる抗微生物層は、第1領域および第2領域が混在してなることが望ましい。ここで、「混在」または「混在してなる」とは、バインダ硬化物中に、第1領域や第2領域が一部に局在あるいは偏在しているのではなく、略均一に散在または分散することで、第1領域と第2領域とが混ざり合って存在している状態を意味する(
図9、4参照)。なお、
図9、4は、本発明の抗微生物基体の表面を撮影した走査型電子顕微鏡の反射電子像であり、銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域が白く、銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域が黒く撮像されている。
【0035】
バインダ硬化物における第1領域と第2領域とは、上述の通り、銅化合物の含有量で区別され、第1領域は、第2領域よりもバインダ硬化物の含有量が多い。すなわち、第1領域は、「銅化合物の含有量が第2領域と比べて相対的に多い領域」であり、第2領域は「銅化合物の含有量が第1領域と比べて相対的に少ない領域」である。また、第2領域は、銅化合物を全く含まない形態も採用し得る。もちろん、第2領域はバインダ硬化物中に設けられているのであり、バインダ硬化物それ自体が存在しない領域は、第2領域ではない。
【0036】
本実施形態におけるバインダ硬化物が、均一に分散した粒子状の銅化合物を含有するのではなく、有機バインダと銅化合物の複合体から構成される第1領域と、銅化合物の含有量が第1領域よりも相対的に少ない第2領域とが混在した状態であることにより、抗微生物活性を高くすることができる。
【0037】
本実施形態の抗微生物性を有するバインダ硬化物において、銅化合物は有機バインダと混合されてなる。
有機バインダと混合される銅化合物としては、有機バインダの硬化前の状態で、水溶液もしくは液状のものを使用できる。これにより、銅化合物をイオンもしくは分子レベルで有機バインダと複合化でき、その結果、ウィルス等を失活させる抗微生物性能を高くすることができる。これは、銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域は、有機バインダ層の表面のスキン層で被覆されることなく、有機バインダ層から露出しているため、露出した第1領域がウィルスと接触することが可能となるためである。
【0038】
本実施形態において、抗微生物層または有機バインダ硬化物は、光触媒を含まない。
これにより、光触媒による酸化、還元により有機バインダ等が劣化することを防止できるからである。ここで、光触媒とは、光を吸収して触媒作用を示す物質を意味する。
【0039】
本発明の抗微生物基体において、上記基材はフィルム状もしくはシート状であることが望ましい。
本発明の抗微生物基体において、上記基材はフィルム状もしくはシート状であると、タッチパネルの保護用フィルム、ディスプレー用のフィルムやシート、デスクマット、体液飛沫遮蔽用のカーテン等、種々の有用な用途に使用できるからである。
本発明の抗微生物基体において、上記基材は、金属、ガラス等のセラミック、樹脂、繊維織物、木材等でもよい。また、基材となる部材も、建築物内部の内装材、壁材、窓ガラス、手すり等であってもよい。また、ドアノブ、トイレのスライド鍵等でもよい。さらに事務機器や家具等であってもよく、上記内装材の外、種々の用途に用いられる化粧板等であってもよい。
【0040】
本発明の抗微生物基体において、上記基材の上記バインダ硬化物が固着している面の反対側の面には粘着剤層が形成されていることが望ましい。
本発明の抗微生物基体において、上記基材の上記バインダ硬化物が固着している面の反対側の面に粘着剤層が形成されていると、タッチパネル、ディスプレー、壁、テーブル、台、ガラス板等に容易に張り付け、固定して使用することができるからである。
【0041】
本発明の抗微生物基体において、上記基材に上記バインダ硬化物が固着している面の抗微生物基体の面粗さは、Ra=0.1~10μmであることが望ましい。Raが小さすぎると抗微生物性能が低下し、逆に大きすぎると光透過性の低下、拭き取り耐久性の低下がみられるからである。
本発明の抗微生物基体において、上記基材にバインダ硬化物が固着している面の抗微生物基体の面粗さはバインダ硬化物の表面の面粗さともいえる。
上記基材の面粗さはRa=1μm~50μmであることが望ましい。Raが小さすぎるとバインダ硬化物と基材との密着性が低下し、逆に大きすぎると光透過性の低下、拭き取り耐久性の低下がみられるからである。
また、本発明の抗微生物基体において、上記基材にバインダ硬化物が固着している面の抗微生物基体の面粗さは、上記基材の面粗さよりも小さいことが好ましい。
本明細書における抗微生物基体の面粗さ及び上記基材の表面の面粗さは、JIS B0601に基づき測定される表面粗さである。
【0042】
本発明の抗微生物基体においては、上記光重合開始剤は、水に不溶性の光重合開始剤であり、上記バインダは、電磁波硬化型樹脂であり、上記銅化合物(銅錯体を除く)は、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4~50であることが望ましい。
【0043】
上記水に不溶性の光重合開始剤は、還元力のある光重合開始剤であることが望ましい。
上記バインダ硬化物は、化合物中のCu(I)/Cu(II)が0.4/1~4.0/1に調整されていることが望ましい。
本発明の抗微生物基体は、抗ウィルス性基体および/または抗カビ性基体であることが望ましい。本発明の抗微生物基体は、抗ウィルス性基体であることがより望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】
図1は、本発明の抗微生物基体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の抗微生物基体の別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の抗微生物基体のさらに別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の抗微生物基体(実施例9)を構成するウィルス性を示すバインダ硬化物を5000倍に拡大した電子顕微鏡(反射電子像)写真である。
【
図5】
図5は、樹脂中にヨウ化銅粒子を分散させた樹脂を10000倍に拡大した電子顕微鏡(反射電子像)写真である。
【
図6】
図6は、基材表面に連続膜からなるプライマー層が形成され、そのプライマー層上に抗微生物活性を有するバインダ硬化物の連続膜がコートされた形態の抗微生物基体を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、基材表面に島状のプライマー層が形成され、そのプライマー層上に抗微生物活性を有するバインダ硬化物の連続膜がコートされた形態の抗微生物基体を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8は、基材表面に膜状のプライマー層が形成され、その膜形成領域内に、基材表面の一部が露出するように、膜非形成領域を設け、そのプライマー層上にバインダ硬化物の連続膜をコートした形態の抗微生物基体を模式的に示す断面図である。
【
図9】
図9は、実施例5で得られた抗ウィルス性基体における抗微生物性のバインダ硬化物からなる抗微生物層の電子顕微鏡(反射電子像)写真であり、第1領域および第2領域が混在してなる。
【
図10】
図10は、連続膜からなるプライマー層を基材表面に設け、その上に抗微生物性のバインダ硬化物からなる連続膜を形成した実施例5に係る抗微生物基体の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【
図11】
図11は、連続膜からなるプライマー層を基材表面に設け、その上に抗微生物性のバインダ硬化物からなる連続膜を形成した実施例8に係る抗微生物基体の断面の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0045】
(発明の詳細な説明)
本発明の抗微生物基体について説明する。
本発明の抗微生物基体は、基材表面が易接着処理され、当該易接着処理された表面であって、抗微生物性が要求される表面に、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物が固着し、上記銅化合物の少なくとも一部は、上記バインダ硬化物の表面から露出してなることを特徴とする。
【0046】
本発明の抗微生物基体では、基材表面が易接着処理され、当該易接着処理された表面であって、抗微生物性が要求される表面に、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物が固着し、上記銅化合物の少なくとも一部は、上記バインダ硬化物の表面から露出している。そのため、銅化合物が微生物と接触しやすく、銅化合物に基づく抗微生物活性を有する基体としての効果を充分に発揮することができる。また、基材表面が易接着処理されているので、銅化合物を含むバインダ硬化物と基材とが密着しやすく、抗微生物性を有するバインダが拭き取りや摺動による応力により基材から剥離せず、長期間にわたって抗微生物活性が保たれる。
【0047】
本発明の抗微生物基体においては、表面に凹凸が形成された可撓性の基材表面が易接着処理され、当該易接着処理された表面であって、抗微生物性が要求される表面に、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物が固着し、上記銅化合物の少なくとも一部は、上記バインダ硬化物の表面から露出してなることが望ましい。
【0048】
図1は、本発明の抗微生物基体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図1に示す抗微生物基体100では、基材10の表面に凹部11と凸部12からなる凹凸が形成され、凹凸を有する基材10の表面にプライマー層30が形成され、さらにプライマー層30の上に抗微生物性のバインダ硬化物20が膜状に固着している。バインダ硬化物20は、可撓性の基材10の表面に形成されたプライマー層30の凹凸(凹部11及び凸部12)を被覆しており、凸部12はバインダ硬化物20の表面から露出していない。
バインダ硬化物20には銅化合物40が含まれており、銅化合物40の少なくとも一部は、バインダ硬化物20の表面から露出している。
【0049】
図2は、本発明の抗微生物基体の別の実施形態を模式的に示す断面図である。
図2に示す抗微生物基体200では、基材10の表面に凹部11と凸部12からなる凹凸が形成され、凹凸を有する基材10の表面に親水化処理層31が形成され、さらに親水化処理層31の上に抗微生物性のバインダ硬化物20が膜状に固着している。バインダ硬化物20は、可撓性の基材10の表面に形成された親水化処理層31の凹凸(凹部11及び凸部12)を被覆しており、凸部12はバインダ硬化物20の表面から露出していない。
バインダ硬化物20には銅化合物40が含まれており、銅化合物40の少なくとも一部は、バインダ硬化物20の表面から露出している。
【0050】
図3は、本発明の抗微生物基体のさらに別の実施形態を模式的に示す断面図である。
図3に示す抗微生物基体300では、基材10の表面に凹部11と凸部12からなる凹凸が形成され、凹凸を有する基材10の表面にプライマー層30が形成され、さらにプライマー層30の上に抗微生物性のバインダ硬化物20が固着しているが、バインダ硬化物20は、可撓性の基材10の表面に形成されたプライマー層30の凹凸(凹部11及び凸部12)を完全に被覆しておらず、プライマー層30からなる凸部12の一部は、バインダ硬化物20の表面から露出している。
バインダ硬化物20には銅化合物40が含まれており、銅化合物40の少なくとも一部は、バインダ硬化物20の表面から露出している。
【0051】
本発明の抗微生物基体において、上記基材に上記バインダ硬化物が固着している面の抗微生物基体の面粗さは、Ra=0.1~10μmであることが望ましい。Raが小さすぎると抗微生物性能が低下し、逆に大きすぎると光透過性の低下、拭き取り耐久性の低下がみられるからである。
本発明の抗微生物基体において、基材にバインダ硬化物が固着している面の抗微生物基体の面粗さはバインダ硬化物の表面の面粗さともいえる。
上記基材の面粗さはRa=1μm~50μmであることが望ましい。Raが小さすぎるとバインダ硬化物と基材との密着性が低下し、逆に大きすぎると光透過性の低下、拭き取り耐久性の低下がみられるからである。
また、本発明の抗微生物基体において、基材にバインダ硬化物が固着している面の抗微生物基体の面粗さは、基材の面粗さよりも小さいことが好ましい。
本明細書における抗微生物基体の面粗さ及び基材の表面の面粗さは、JIS B0601に基づき測定される表面粗さである。
上記基材は可撓性の基材であることが望ましい。
【0052】
本発明の抗微生物基体では、基材表面が易接着処理されている。
易接着処理とは、基材表面がその上に形成するバインダ硬化物と良好に接着されるように所定の処理がなされていることを意味する。上記易接着処理の方法は特に限定されるものではないが、例えば、
図1及び
図3に示すようなプライマー層の形成や
図2に示すような親水化処理層の形成が挙げられる。
【0053】
上記プライマー層形成処理では、基材の表面にプライマー層を形成する。プライマー層としては、ポリオレフィン樹脂が適している。プライマー層の形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン樹脂等の樹脂を含む液状の組成物を基材表面に吹き付け、乾燥させることにより形成することができる。
上記プライマー層の厚さの平均値は、0.1~100μmが望ましく、0.1~10μmがよりに望ましく、1~10μmがさらに望ましい。薄すぎても厚すぎても基材と抗微生物性のバインダ硬化物との密着性を確保できないからである。
【0054】
図6は、基材表面に連続膜からなるプライマー層が形成され、そのプライマー層上に抗微生物活性を有するバインダ硬化物の連続膜がコートされた形態の抗微生物基体を模式的に示す断面図である。
図7は、基材表面に島状のプライマー層が形成され、そのプライマー層上に抗微生物活性を有するバインダ硬化物の連続膜がコートされた形態の抗微生物基体を模式的に示す断面図である。
図8は、基材表面に膜状のプライマー層が形成され、その膜形成領域内に、基材表面の一部が露出するように、膜非形成領域を設け、そのプライマー層上にバインダ硬化物の連続膜をコートした形態の抗微生物基体を模式的に示す断面図である。
図10は、連続膜からなるプライマー層を基材表面に設け、その上に抗微生物性のバインダ硬化物からなる連続膜を形成した抗微生物基体の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
図11は、連続膜からなるプライマー層を基材表面に設け、その上に抗微生物性のバインダ硬化物からなる連続膜を形成した実施例8に係る抗微生物基体の断面の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0055】
上述したように、
図6に示す形態の抗微生物基体400では、基材50の表面に連続膜からなるプライマー層70が形成され、そのプライマー層70上に、銅化合物80を含むバインダ硬化物の連続膜60がコートされており、銅化合物80の一部は、バインダ硬化物の連続膜60から露出している。
図6に示すような、基材表面に連続膜からなるプライマー層が形成され、そのプライマー層上に抗微生物活性を有するバインダ硬化物の連続膜がコートされた形態の抗微生物基体は、耐摩耗性等の耐久性において、特に優れている。
【0056】
図7に示す形態の抗微生物基体500では、基材50の表面に島状のプライマー層70が形成され、そのプライマー層70上に銅化合物80を含むバインダ硬化物の連続膜60がコートされており、銅化合物80の一部は、バインダ硬化物の連続膜60から露出している。また、バインダ硬化物の連続膜60は、プライマー層70が形成されていない部分では、直接、基材50の表面に接触している。
【0057】
図8に示す形態の抗微生物基体600では、基材表面に膜状のプライマー層70が形成され、その膜形成領域内に、プライマー層70が形成されていない膜非形成領域71が設けられ、そのプライマー層70上にバインダ硬化物の連続膜60がコートされており、銅化合物80の一部は、バインダ硬化物の連続膜60から露出している。また、バインダ硬化物の連続膜60は、プライマー層70が形成されていない膜非形成領域71では、直接、基材50の表面に接触している。
【0058】
上記プライマー層は、
図6や
図10、
図11に示すように、連続膜であることが望ましい。密着性に優れるからである。なお、連続膜とは、膜が形成された領域内に膜が形成されていない膜非形成領域が存在せず、膜形成領域の全体に膜が形成されたものをいう。
【0059】
また、前記プライマー層は、
図7に示されるように、バインダ硬化物固着領域内で島状に設けられていてもよい。この場合、抗微生物性のバインダ硬化物が島状に形成されたプライマーの間を充填してプライマーが存在しない基材表面に接触するため、プライマーが、バインダ硬化物中にアンカーのように嵌入して、バインダ硬化物を固定することができ、バインダ硬化物が基材より剥離しにくく、有利である。
【0060】
さらに、前記プライマー層は、
図8に示されるように、バインダ硬化物が固着された領域内で、膜状に形成され、そのプライマー膜形成領域内において、プライマー層70が形成されていないプライマー層非形成領域71が設けられていてもよい。この場合、抗微生物性のバインダ硬化物がプライマー層非形成領域71に充填されて、基材表面に接触するため、プライマー層が、抗微生物性のバインダ硬化物中にアンカーのように嵌入して、バインダ硬化物を固定することができるため有利である。
なお、上述の「基材表面の一部が露出する」とは、バインダ硬化物の層を考慮しない、又は、バインダ硬化物の層を形成する前の状態をいう。
【0061】
親水化処理方法としては、基材表面をコロナ放電処理することにより基材表面を親水化する処理、基材表面を、酸素を含んだ雰囲気とし、酸素を含んだ雰囲気下でプラズマ処理する方法が挙げられる。いずれの方法でも基材が樹脂の場合には、基材表面に-OH基、-COOH基、>C=O基を導入することができる。
【0062】
コロナ放電処理は、100mmHg~3気圧の圧力を有する気体中に一対の電極を配し、両電極間に高電圧を印加することにより生じるコロナに基材を接触させてその表面を親水化処理するものである。コロナ放電処理としては、特開2007-83714号公報、特公昭57-30854号公報に準じて下のような条件で行うことができる。
【0063】
すなわち、コロナ放電処理における印加エネルギーは、通常600~12,000J/m2(10~ 200W・分/m2)、好ましくは720~9,000J/m2(12~150W・分/m2)、より好ましくは900~7,800J/m2(15~130W・分/m2)の範囲である。熱と温度によって空気中の酸素をプラズマ化させるフレーム処理の場合、用いる印加エネルギーは通常5,000~200,000J/m2、好ましくは10,000~100,000J/m2の範囲が用いられる。雰囲気気体としては、窒素と二酸化炭素の混合気体が望ましく、窒素:二酸化炭素の体積比が99.5:0.5~50:50であることが望ましい。
【0064】
プラズマ放電処理は、大気圧近傍の圧力雰囲気下において、対向電極の少なくとも一方の対向面に固体誘電体を設置し、上記対向電極と固体誘電体の間又は固体誘電体同士の間に樹脂基材を配置し、当該対向電極間に電圧を印加することによりプラズマ放電を発生させて上記基材表面を親水化処理する方法である。プラズマとしては、特開2002-226616号公報に準じて以下の条件が望ましい。
【0065】
すなわち、雰囲気気体は、酸素ガスを含む雰囲気中でプラズマ放電を行うことが望ましい。
ここで、上記大気圧近傍の圧力とは100~800Torr(約1.33×104 ~10.6×104 Pa)の圧力を意味する。特に、圧力調整が容易で、装置が簡便になる700~780Torr(約9.31×104 ~10.4×104 Pa)の範囲が好ましい。電極間の距離は、雰囲気気体の圧力、酸素濃度、固体誘電体の厚さ、印加電圧の大きさ、プラズマ放電処理された基材を利用する目的等を考慮して決定される。電極間距離が小さいほど安定した放電プラズマが得られる傾向にあるが、電極間距離は、0.5~50mmであることが好ましい。パルス電圧の周波数は、0.5~100kHzであることが好ましい。
プラズマ放電を発生させる雰囲気ガスは、少なくとも酸素ガスを含むガスである。酸素ガス以外の混合ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられる。
【0066】
本発明の抗微生物基体では、易接着処理された基材表面に、銅化合物及びバインダを含み、光触媒を含まないバインダ硬化物が固着している。
【0067】
本発明の抗微生物基体で使用される基材としては、樹脂、金属、繊維織物、セラミック(ガラス、大理石、陶器等を含む)、紙、木材からなるものを使用できる。このなかでは特に、可撓性の基材が望ましい。可撓性の基材の材料は、特に限定されるものでなく、例えば、金属、樹脂、繊維織物、紙等が挙げられる。
【0068】
また、本発明の抗微生物基体の可撓性の基材となる部材も、特に限定されるものではなく、フィルムもしくはシートであってよい。具体的には、タッチパネルの保護用フィルム、ディスプレー用のフィルムやシート、デスクマット、体液飛沫遮蔽用のカーテン等が挙げられる。
【0069】
また、当該フィルムやシートのバインダ硬化物が固着している面の反対側の面には、粘着剤層が形成されていてもよい。粘着剤層を形成する粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤が挙げられる。粘着剤の表面には、離型シートを積層してあってもよい。具体的には、離型剤層を設けた離型シートを離型剤層が粘着剤層に接触するように積層するか、四フッ化エチレン製の樹脂シートを積層して粘着剤層を保護してもよい。このような粘着剤層が形成された抗微生物基体は、シールとして使用でき、エレベータのボタンや、内壁に抗微生物基体を張り付け施工することができる。
【0070】
上記バインダ硬化物を形成するためのバインダは、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダと無機バインダの混合物及び有機・無機ハイブリッドのバインダから選択される少なくとも1種以上であることが望ましい。
【0071】
また、無機バインダとしては、無機ゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。さらに、有機・無機ハイブリッドのバインダとしては有機金属化合物を使用することができる。上記無機ゾルにおけるシリカ等の無機酸化物の含有割合は、固形分換算で1~80重量%が好ましい。
【0072】
上記有機バインダとしては熱硬化性樹脂、電磁波硬化型樹脂を使用することができる。
これらの有機バインダは、電磁波の照射や加熱により、樹脂が硬化して基材表面に銅化合物を含むバインダ硬化物を固着できるからである。また、これらの樹脂は、重合開始剤の銅に対する還元力を低下させることがないため有利である。電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用できる。
【0073】
具体的には、上記バインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。金属アルコキシドとしては、アルコキシシランを使用することができる。加水分解によりシロキサン結合を形成してゾルとなり、乾燥によってゲル化してバインダ硬化物となるからである。シリカゾル、アルミナゾル及び水ガラスについても、加熱、乾燥させることによりバインダ硬化物となる。
【0074】
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
【0075】
上記エポキシ樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂やグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂とオキセタン樹脂を組みわせたもの等が挙げられる。
アルキッド樹脂としては、ポリエステルアルキッド樹脂等が挙げられる。
これらの樹脂は、透明性を有するとともに、基材に対する密着性にも優れる。
【0076】
本発明において、上記バインダ硬化物に含まれる銅化合物は、銅のカルボン酸塩、銅の水酸化物、銅の酸化物、又は、銅の水溶性無機塩であることが望ましい。
上記銅のカルボン酸塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、酢酸銅、安息香酸銅、フタル酸銅等が挙げられる。
上記銅の水溶性無機塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、例えば、硝酸銅、硫酸銅等が挙げられる。
【0077】
その他の銅化合物としては、例えば、銅(メトキシド)、銅エトキシド、銅プロポキシド、銅ブトキシドなどが挙げられ、銅の共有結合性化合物としては銅の酸化物、銅の水酸化物などが挙げられる。銅のカルボン酸塩、銅の水酸化物は、有機バインダ、無機バインダとの親和性が高く、水により溶出しないため、耐水性に優れる。
このような銅化合物は、バインダ硬化物を製造する際に用いる抗微生物組成物を調製する際に添加する銅化合物と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0078】
本発明の抗微生物基体では、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4~50であることが望ましい。Cu(II)と共存した方が、Cu(I)のみの場合に比べて、抗ウィルス性能が高くなる。この理由は明確ではないが、不安定なCu(I)のみの場合と比較して、安定なCu(II)と共存することで、Cu(I)が酸化されることを防止できるためではないかと推定している。特に、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.5~50であることが好ましい。
【0079】
また、Cu(I)の銅は、Cu(II)の銅と比較して抗微生物性により優れているため、本発明の抗微生物基体において、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が1.0~4.0であると、より抗微生物性に優れた抗微生物基体となる。
最も望ましい範囲は、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が1.4~2.9がより望ましく、特に1.4~1.9が最適である。
本発明の抗微生物基体において、銅イオン(I)の抗微生物性は、ウィルスおよび/またはカビに対して最も効果が高い。一価の銅イオンがウィルスとカビを構成する蛋白を最も効果的に破壊するからである。
【0080】
また、銅化合物中のCu(I)/Cu(II)が0.4/1~4.0/1に調整されていると、抗ウィルス性を高くできるため、望ましい。
本発明における抗微生物基体における銅化合物中のCu(I)/Cu(II)の比率は、バインダ、重合開始剤、銅化合物の選択、これらの濃度調整、及び、紫外線などの電磁波の照射時間や強度で調整することができる。
【0081】
なお、Cu(I)とは、銅のイオン価数が1であることを意味し、Cu+と表す場合もある。一方、Cu(II)とは、銅のイオン価数が2であることを意味し、Cu2+と表す場合もある。なお、一般的に、Cu(I)の結合エネルギーは、932.5eV±0.3(932.2~ 932.8eV)、Cu(II)の結合エネルギーは、933.8eV±0.3(933.5 ~ 934.1eV)である。
【0082】
バインダ硬化物を構成する樹脂の硬化物は、電磁波硬化型樹脂の硬化物であることが好ましい。
未硬化の電磁波硬化型樹脂であるモノマー又はオリゴマーと光重合開始剤と各種添加剤を含んだ組成物に電磁波を照射することにより、光重合開始剤は、開裂反応、水素引き抜き反応、電子移動等の反応を起こし、これにより生成した光ラジカル分子、光カチオン分子、光アニオン分子等が上記モノマーや上記オリゴマーを攻撃してモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応が進行し、樹脂の硬化物が生成する。このような反応により樹脂の硬化物を生成する樹脂を電磁波硬化型樹脂という。
【0083】
本発明においては、電磁波硬化型樹脂の硬化物に含まれる光重合開始剤が、銅イオン(II)を還元して銅イオン(I)を生成せしめる。そして、銅イオン(I)の還元力によって、銅イオン(I)が空気中の水や酸素を還元することで、活性酸素、過酸化水素水やスーパーオキサイドアニオン、ヒドロキシラジカルなどを発生させて、微生物を構成する蛋白質を破壊してウィルスなどの微生物を失活させることができる。銅イオン(I)は空気中の水や酸素を還元すると、銅イオン(II)に変わるが、電磁波硬化型樹脂に含まれる光重合開始剤によって、再び銅イオン(I)に還元されるため、還元力が常に維持される。このため、還元性糖などの還元剤は不要となる。また、光重合開始剤は、樹脂と結合しており、水に溶出しないので、耐水性にも優れる。
なお、銅イオン(II)の錯体を銅イオン(I)に還元すると錯体を形成し得ないため、銅イオン(II)から銅イオン(I)のような還元反応が生じにくく、銅のアミノ酸塩などの錯塩を本発明に使用することは不適切である。
【0084】
本発明の抗微生物基体では、バインダ硬化物は、光重合開始剤を含むことが望ましい。上記光重合開始剤を含むと、上記銅化合物を、抗微生物効果を持つ銅イオン(I)に還元するとともに、銅イオン(I)が酸化されて抗微生物性の劣る銅イオン(II)に変わることを抑制できるからである。本発明の抗微生物基体では、銅イオン(I)の抗微生物性は、ウィルスおよび/またはカビに対して最も効果が高い。
【0085】
本発明の抗微生物基体では、上記バインダ硬化物は、水に不溶性の光重合開始剤を含むことが望ましい。水に不溶性の光重合開始剤は水に触れても溶出しないため、耐水性に優れたバインダ硬化物を有する抗微生物基体となるからである。
【0086】
本発明の抗微生物基体では、上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤、及び、ベンゾフェノン系の光重合開始剤から選ばれる少なくとも1種以上であることが望ましく、特に、上記重合開始剤は、ベンゾフェノン系の光重合開始剤を含むことが望ましい。
これらの光重合開始剤は、特に、銅に対する還元力が高く、銅イオン(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。
【0087】
本発明の抗微生物基体では、上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤およびベンゾフェノン系の光重合開始剤を含み、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して、0.5~3.0wt%、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して0.5~2.0wt%であることが望ましい。電磁波の照射時間が短くても高い架橋密度を実現できるからである。
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤とベンゾフェノン系の光重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが望ましい。高い架橋密度を実現でき、バインダ硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅に対する還元力を高くすることができるからである。架橋密度は、85%以上、特に95%以上が望ましい。
【0088】
本発明の抗微生物基体におけるバインダ硬化物の厚さの平均値は、0.1~200μmが望ましく、0.1~50μmがより望ましく、0.1~20μmがさらに望ましい。全光線透過率は80%以上であることが望ましい。
【0089】
上記バインダ硬化物の厚さの平均値が200μmを超えると、バインダ硬化物の厚さが厚くなりすぎるため、バインダ硬化物の大きさが大きくなりすぎ、バインダ硬化物を、基材表面の凸部を露出させた状態で基材表面に固着させることが難しくなり、透明性も低下してしまうおそれがある。一方、バインダ硬化物の厚さの平均値が0.1μm未満であると、十分な抗微生物性能を発揮できない、あるいは銅化合物が脱落しやすくなるなどの問題が発生するおそれがある。
【0090】
本発明の抗微生物基体において、上記基材が光透過性であり、抗微生物基体の全光線透過率が80%以上であると、可視光等の光線を透過するので、光の透過性を利用した用途に用いることができる。本発明においては、抗微生物基体の全光線透過率が85%以上であることが好ましく、さらに90%以上であることが好適である。
【0091】
上記バインダ硬化物からなる膜の厚さの平均値は、0.1~200μmが望ましく、0.1~50μmがより望ましく、0.1~20μmがさらに望ましい。厚すぎると応力が発生して膜が剥離して抗微生物性が低下し、膜が薄すぎても抗微生物性を十分に発揮できないからである。
基材に意匠が施されていない場合や、表面がエンボス加工された可撓性の基材である場合、バインダ硬化物による外観毀損の影響が少ないため、バインダ硬化物からなる膜が基材上に形成されていることが望ましい。
【0092】
次に、本発明の抗微生物基体を製造する方法について各工程毎に説明する。
以下の説明では、基材として表面に凹凸が形成された可撓性の基材を例示するが、本発明で用いる基材は、これに限定されない。
(1)付着工程
まず、付着工程として、表面に凹凸が形成されるとともに、易接着処理された可撓性の基材の表面であって、抗微生物性が要求される表面に、銅化合物と未硬化のバインダと分散媒と光重合開始剤とを含む抗微生物組成物を付着せしめる。
可撓性の基材の表面に凹凸を形成する方法としては、表面に凹凸を形成したロール金型や賦形板を加熱等により軟化させた可撓性の基材表面に押圧して凹凸を転写する方法や、サンドブラストなどのブラスト処理により、表面に凹凸を形成する方法などがある。
易接着処理の前に基材の表面をアルコールもしくは洗剤により洗浄し、表面の油分を除去することが望ましい。このような洗浄処理がなされた基材表面を易接着処理する。
【0093】
易接着処理の方法としては、上述したように、コロナ放電処理、プラズマ放電処理等により基材表面を親水化処理する方法、プライマー層形成処理により基材表面にポリオレフィン樹脂層を形成する方法が挙げられる。
【0094】
上述のように、プライマー層としてはポリオレフィン樹脂層を形成する方法が挙げられる。プライマーとしては、プライマー樹脂が有機溶剤や水中に溶解あるいは分散したものを使用でき、市販品も存在している。市販品としては、商品名「ミッチャクロンマルチ、ミッチャクロンAQUA(いずれも染めQテクノロジィ社製)」等を使用することができる。これらの市販品はスプレー缶に充填されて販売されており、スプレー缶から噴射されるプライマー樹脂溶液のミストを基材に吹き付けてスプレー塗布することができる。また、プライマー樹脂が溶解あるいは分散したプライマー樹脂溶液、分散液をスプレーガンに充填して、スプレーガンにて基材に噴霧塗布することも可能である。
プライマー層を連続膜とするか、島状あるいは膜中にプライマー非形成領域を設けた形態とするかは、噴霧塗布時間により調整する。
プライマー樹脂溶液、分散液としては、固形分濃度は1~10wt%、粘度は1~10mPa・sであることが望ましい。また、噴霧塗布時の送り速度は、10~15cm/sで、基材から10~20cm離間させて噴霧することが望ましい。さらに、塗布した後、60分以上25℃以上で乾燥させることが望ましい。
【0095】
本発明の抗微生物基体を製造する方法では、銅化合物と未硬化のバインダと分散媒と光重合開始剤とを含む抗微生物組成物を使用する。
【0096】
上記抗微生物組成物に含まれる銅化合物は、銅のカルボン酸塩、銅の水酸化物、銅の酸化物、又は、銅の水溶性無機塩であることが望ましい。特に、二価の銅化合物(銅化合物(II))が望ましい。二価の銅化合物は、分散媒である水に溶解して、銅イオンがバインダ中に均一分散しやすくなるためである。これに対して、一価の銅化合物(銅化合物(I))は、水に溶解せず、粒子状に懸濁してしまい、均一性に劣る。
【0097】
また、二価の銅化合物を抗微生物組成物中に加えることで、この二価の銅化合物を還元することで、一価と二価の銅化合物がバインダ硬化物中に共存した状態を簡単に形成できるという利点も有する。水溶性の二価の銅化合物を用いることが最適である。
さらに、分散媒として、水と極性溶媒(例えばアルコール)からなる混合分散媒を使用することが望ましい。二価の銅化合物が溶解し、さらに重合開始剤も溶解させることができるため、銅化合物が銅イオン、銅原子の状態で重合開始剤と均一混合し、銅(II)を銅(I)に還元させやすくなるからである。
【0098】
図4は、本発明の抗微生物基体(実施例9)を構成するウィルス性を示すバインダ硬化物を5000倍に拡大した電子顕微鏡(反射電子像)写真である。
図4のような反射電子像写真において、バインダ硬化物において銅化合物が第2領域と比べて相対的に多く存在する領域(第1領域)は明るく白く見えるが、バインダ硬化物中に銅化合物が存在しないか、ほとんど存在しない領域(すなわち、銅化合物の含有量が第1領域と比べて相対的に少ない第2領域)では、黒っぽい画像となる。反射電子像は、原子番号の大きい元素ほど白く映るため、このような判断が可能となる。
【0099】
上記銅のカルボン酸塩としては、酢酸銅(II)、安息香酸銅(II)、フタル酸銅(II)等が挙げられる。上記銅化物としては、二価の銅のカルボン酸塩が望ましい。
上記銅の水溶性無機塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、例えば、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)等が挙げられる。
その他の銅化合物としては、例えば、銅(II)(メトキシド)、銅(II)エトキシド、銅(II)プロポキシド、銅(II)ブトキシドなどが挙げられ、銅の共有結合性化合物としては銅の酸化物、銅の水酸化物などが挙げられる。
【0100】
上記未硬化のバインダは、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダと無機バインダの混合物及び有機・無機ハイブリッドのバインダから選択される少なくとも1種以上であることが望ましく、有機バインダとしては熱硬化性樹脂、電磁波硬化型樹脂を使用することができる。
また、無機バインダとしては、無機ゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。さらに、有機・無機ハイブリッドのバインダとしては有機金属化合物を使用することができる。
【0101】
電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用できる。
また、上記バインダの具体例としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド及び水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用することが望ましい。
【0102】
なお、上記電磁波硬化型樹脂とは、電磁波照射により原料であるモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応等が進行して製造される樹脂を意味している。
従って、上記抗微生物組成物は、上記電磁波硬化型樹脂の原料となるモノマーやオリゴマー(未硬化の電磁波硬化型樹脂)を含有している。
【0103】
上記分散媒の種類は特に限定されるものではないが、安定性を考慮した場合にはアルコール類や水を使用する事が好ましい。アルコール類としては、粘性を下げる事を考慮して、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。これらのアルコールのなかでは、粘度が高くなりにくいメチルアルコール、エチルアルコールが好ましく、アルコールと水との混合溶媒が望ましい。
【0104】
上記方法では、光重合開始剤として、水に不溶性の光重合開始剤を含むことが望ましい。水に不溶性の光重合開始剤は、水に触れても溶出しないため、バインダ硬化物を劣化させることがなく、銅化合物の脱離を招かないからである。
銅化合物が水溶性であってもバインダ硬化物で保持されていれば、脱離を抑制できるが、バインダ硬化物中に水溶性物質が含まれていると、バインダ硬化物の銅化合物に対する保持力が低下して、銅化合物の脱離が生じると推定される。
また、上記水に不溶性の光重合開始剤を電磁波硬化型樹脂と共に用いた場合、可視光線、紫外線等の光により、容易に重合反応を進行させることができる。
【0105】
上記方法では、還元力のある光重合開始剤を用いることが望ましい。抗微生物組成物に含まれる上記銅化合物を抗ウィルス効果などの抗微生物効果を持つ銅イオン(I)に還元するとともに、銅イオン(I)が酸化して抗微生物効果の劣る銅イオン(II)に変わることを抑制できるからである。
抗微生物組成物は、ウィルスおよび/またはカビに最も効果的に作用する。銅イオン(I)の還元力によって、銅イオン(I)が空気中の水や酸素を還元することで、活性酸素、過酸化水素水やスーパーオキサイドアニオン、ヒドロキシラジカルなどを発生させてウィルスまたはカビを構成する蛋白を効果的に破壊するからである。
【0106】
上記光重合開始剤は、具体的にはアルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系からなる群から選択される少なくとも1種が望ましい。
【0107】
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(実施例1、比較例1、2の光重合開始剤に相当)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホニル)フェニル]-1-ブタノン等が挙げられる。
【0108】
アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(実施例9の光重合開始剤に相当)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0109】
分子内水素引き抜き型の光重合開始剤としては、例えば、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、オキシフェニルサクサン、2-[2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルトオキシフェニル酢酸と2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステルとの混合物等が挙げられる。
【0110】
オキシムエステル系の光重合開始剤としては、例えば、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)等が挙げられる。
【0111】
光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤、ベンゾフェノン系の光重合開始剤から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが望ましい。紫外線等の電磁波により還元力を発現するからである。上記光重合開始剤のなかで、特に、ベンゾフェノン又はその誘導体が好ましい。
【0112】
上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤およびベンゾフェノン系の光重合開始剤を含み、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して、0.5~3.0wt%、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して0.5~2.0wt%であることが望ましい。上記アルキルフェノン系の光重合開始剤とベンゾフェノン系の光重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが望ましい。高い架橋密度を実現でき、硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅に対する還元力を高くすることができるからである。架橋密度は85%以上、特に95%以上が望ましい。
【0113】
バインダとして未硬化の電磁波硬化型樹脂(モノマー又はオリゴマー)を用いた場合は、上記抗微生物組成物中の銅化合物の含有割合は、2.0~30.0重量%が望ましく、未硬化の電磁波硬化型樹脂(モノマー又はオリゴマー)の含有割合は、15~40重量%が望ましく、分散媒の含有割合は、30~80重量%が望ましい。
また、バインダとして未硬化の無機バインダを用いた場合は、上記抗微生物組成物中の銅化合物の含有割合は、2~30重量%が望ましく、分散媒の含有割合は、30~80重量%が望ましい。この場合、上記抗微生物組成物中のシリカ等の無機酸化物の含有割合は、5~20重量%となる。
【0114】
抗微生物組成物中には、必要に応じて、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、接着促進剤、レオロジー調整剤、レベリング剤、消泡剤等が配合されていてもよい。
【0115】
上記抗微生物組成物を調製する際には、分散媒に銅化合物とバインダ成分と光重合開始剤を添加した後、ミキサー等で充分に攪拌し、均一な濃度で分散する組成物とした後、この抗微生物組成物を可撓性の基材の表面に付着せしめることが望ましい。
【0116】
表面が易接着処理された可撓性の基材表面に抗微生物組成物を付着させるためには、例えば、塗布用のバーコーター、ラバースキージ、アプリケーター等の塗布冶具を用い、抗微生物組成物を塗布する方法等が挙げられる。
また、ダイコーターによる塗布やグラビア印刷などの印刷法によっても抗微生物組成物を可撓性の基材表面に付着させることができる。ラバースキージやバーコーターを利用して複数回塗布することもできる。
さらに、スプレーガン等を用いることにより、抗微生物組成物を基材表面に噴霧し、表面が易接着処理された可撓性の基材表面に抗微生物組成物を付着させてもよい。
【0117】
(2)乾燥工程
上記付着工程により可撓性の基材の表面に付着させた、銅化合物と未硬化のバインダと分散媒と光重合開始剤とを含む抗微生物組成物を乾燥させ、分散媒を蒸発、除去し、銅化合物等を含むバインダ硬化物を可撓性の基材表面に仮固定させるとともに、バインダ硬化物の収縮により、銅化合物をバインダ硬化物の表面から露出させることができる。乾燥条件としては、20~100℃、0.5~5.0分が望ましい。乾燥は、赤外線ランプやヒータなどで行うことができる。また、減圧(真空)乾燥させてもよい。なお、上記方法では、乾燥工程と硬化工程を同時に行ってもよい。
【0118】
(3)硬化工程
硬化工程として、上記乾燥工程で分散媒を除去した抗微生物組成物中、もしくは、分散媒を含む抗微生物組成物中の上記未硬化のバインダを硬化させ、バインダ硬化物とする。
未硬化のバインダを硬化させる方法としては、乾燥による分散媒除去、加熱や電磁波照射によるモノマー、オリゴマーの重合促進などがある。乾燥は、減圧乾燥、加熱乾燥などが挙げられる。また、バインダが熱硬化性樹脂の場合は、加熱により硬化が進行する。加熱はヒータ、赤外線ランプ、紫外線ランプなどで行うことができる。未硬化のバインダが電磁波硬化型樹脂である場合に照射する電磁波としては、特に限定されず、例えば、紫外線(UV)、赤外線、可視光線、マイクロ波、電子線(ElectronBeam:EB)等が挙げられるが、これらのなかでは、紫外線(UV)が望ましい。
これらの工程により、上記した本発明の抗微生物基体を製造することができる。
【0119】
上記抗微生物組成物中には、上記した光重合開始剤が添加されているので、未硬化のバインダとしてモノマーやオリゴマーを含む場合は、それらの重合反応が進行する。また、光重合開始剤は銅を還元するため、銅イオン(II)を銅イオン(I)に還元でき、銅イオン(I)の量を増やすことができるため、ウィルスなどに対する抗微生物活性の高いバインダ硬化物が得られる。
【0120】
その後、紫外線等の電磁波の照射を行い、重合開始剤の還元力を発現せしめる。本発明の製造方法におけるいずれかの工程中で、重合開始剤の還元力を発現せしめるために、所定の波長の電磁波、例えば紫外線等を照射することが望ましい。特に光重合開始剤を用いた場合は、電磁波の照射により、ラジカルを発生させ、銅イオンを還元することで、抗微生物活性、特に抗ウィルス活性の高い銅イオン(I)の量を増やすことができ、有効である。
【実施例0121】
(実施例1)
(1)酢酸銅の濃度が1.75wt%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フイルム和光純薬製)を純水とエチルアルコールの重量比2:1の混合溶液に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して酢酸銅溶液を調製した。紫外線硬化樹脂液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製 UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)、光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)を重量比97:2:1で混合し、ホモジナイザーを用いて、8000rpmで10分間撹拌して調製した。上記1.75wt%酢酸銅溶液と紫外線硬化樹脂液を重量比1.9:1.0で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗ウィルス性組成物を調製した。なお、IGM社製 Omnirad500は、BASF社のIRGACURE500と同じもので、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)とベンゾフェノンの1:1の混合物である。この光重合開始剤は、水に不溶性であり、紫外線を吸収することで還元力を発現する。一方、光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)は、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)であり、結局光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンは重量比で2:1の割合で存在している。
【0122】
(2)ついで、A4サイズの塩化ビニル樹脂シートを85℃に加熱して面粗さ(JIS B 0601に準拠して測定)Ra=5.7μmのロール金型を押し当てて、当該ロール金型を塩化ビニルシート表面で回動させることにより、塩化ビニル樹脂シートの表面に面粗さRa=5.6μmの凹凸を形成した。
(3)上記処理を施した塩化ビニル樹脂シートに、ポリオレフィン樹脂製のプライマー(染めQテクノロジィ社製 ミッチャクロン)をスプレーにて吹き付けて、厚さ7μmのプライマー層を設けた。
【0123】
(4)プライマー層を設けた塩化ビニル樹脂シート上(抗ウィルス性は表面全体に要求されるため、全面が処理対象)に、(1)の抗ウィルス性組成物を4g滴下し、ラバースキージを用いて押圧しながら塗布して、この塩化ビニルシートを80℃で3分間乾燥させた。さらに、抗ウィルス性組成物を4g滴下、ラバースキージでの塗布を9回繰り返し、抗ウィルス性組成物40gを塗布した。次に紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cm2の照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、基材表面に厚さ15μmのバインダ硬化物が形成された抗ウィルス性基体(シート状)を得た。なお、酢酸銅は、水酸化銅および一部は酸化銅に変化していると推定される。抗ウィルス性基体の表面粗さは、Ra=0.7μmであった。
【0124】
(5)参考までに樹脂中にヨウ化銅粒子を分散させた電子顕微鏡写真(10000倍)の反射電子像を
図5に示す。
図4、
図9及び
図5を比較すると、実施例1のバインダ硬化物においては銅化合物が粒子状に分散しているのではなく、銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域が銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域中に分散した状態で存在していることが分かる。また、
図9を確認すると、銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域が、銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域に網目状に分散していることが分かる。
なお、本実施例において抗ウィルス性基体は抗微生物基体と読み替えることができ、また、抗ウィルス性組成物は抗微生物組成物と読み替えることができる。
【0125】
(6)上記(1)~(4)の工程を経て製造した抗ウィルス性基体を構成する塩化ビニル樹脂シートの凹凸が形成されていない面に、アクリル系粘着剤を塗布してテフロン(登録商標)シートからなる離型シートを積載し、粘着機能付きの抗ウィルス性基体(シート状)を得た。
【0126】
(実施例2)
基本的には実施例1と同様であるが、(3)のプライマー層形成に代えて、以下の条件でコロナ放電処理を行い、塩化ビニル樹脂シートの表面を親水化処理した。
すなわち、塩化ビニル樹脂シートの凹凸形成面に、コロナ放電処理装置(春日電気(株)社製 HF 400F)を使用して、長さ0.8mのアルミニウム製電極を用い、トリーターロールにはシリコーン被膜ロールを用い、電極とロールとのギャップを5mmとし、ライン処理速度15m/分、印加エネルギー密度2,000J/m2(33W・分/m2)にてコロナ放電処理を行った。
【0127】
(実施例3)
基本的には実施例1と同様であるが、(3)のプライマー層形成に代えて、以下の条件でプラズマ放電処理を行い、塩化ビニル樹脂シートの凹凸形成面を親水化処理した。
すなわち、金属製チャンバー内に、上部電極(ステンレス(SUS304)製、大きさ:150mm×100mm)と、下部電極(ステンレス(SUS304)製、大きさ:150mm×100mm)が金属チャンバーと絶縁された状態で配置されており、電極間距離は2mmである。また、上部電極及び下部電極の電極対向面は、1.5mm厚のAl2O3の溶射膜によって被覆されている。
【0128】
上記塩化ビニル樹脂シートを上部電極と下部電極の中間に配置した後、装置内が1Torr(約133Pa)になるまで油回転ポンプで排気を行った。排気後、アルゴンガス:酸素ガスを70:30の体積比で混合したガスを、ガス導入管5から装置内が760Torr(約1.01×105Pa)になるまで導入した。パルス電源より電極間に立ち上がり時間5μs、パルス幅100μs、周波数10kHz、電圧±5kVの交流パルス電圧を上記電極間に印加してプラズマ放電を行い、シートの凹凸形成面にプラズマ放電処理を行った。なおシートは、上部電極と下部電極との間を4m/分の速度で移動させながらプラズマ放電処理を行った。
【0129】
(実施例4)
実施例1と同様であるが、(4)のラバースキージによる塗布工程に代えて、以下の条件でスプレーコートを行った。
実施例1の(1)で調製した混合組成物をスプレーガン(明治機械製作所製 FINER SPOT G12)を用い、0.1MPaのエアー圧力、1.2g/分の噴出速度で、分散媒を含んだ状態で、16.7g/m2に相当する混合組成物の液滴を30cm/secのストローク速度で霧状に散布し、塩化ビニル樹脂シートの凹凸形成面(プライマー層形成面)に島状に付着させた。この塩化ビニルシートを80℃で3分間乾燥させ、ついで紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cm2の照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、抗ウィルス性が要求される領域表面、即ち、基材表面全体にバインダ硬化物が島状に固着した抗ウィルス性基体(シート状)を得た。なお、酢酸銅は、水酸化銅および一部は酸化銅に変化していると推定される。
【0130】
(実施例5)
(1)A液(酢酸銅溶液)の調製
酢酸銅の濃度が1.53重量%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フイルム和光純薬製)210重量部を純水12300重量部に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、700rpmで15分撹拌して酢酸銅溶液を調製した。
【0131】
(2)B液(紫外線硬化樹脂液)の調製
光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)160重量部と光重合開始剤であるベンゾフェノン80重量部を混合した。IGM社製 Omnirad184は、BASF社製のIrgacure184と同一物質であり、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)であり、光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンは重量比で2:1の割合で存在している。
この光重合開始剤の混合物195重量部と光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製 UCECOAT7200)6300重量部を混合した後、プロペラ型攪拌浴で700rpm、60分間の条件で攪拌混合し、紫外線硬化樹脂液を調製した。
紫外線硬化樹脂液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製 UCECOAT7200)と光重合開始剤である1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)と光重合開始剤であるベンゾフェノンが重量比97:2:1で混合されている。
【0132】
(3)保管(養生)
調製したA液及びB液を抗ウィルス性組成物調製用の液とした。
抗ウィルス組成物調製用の液(A液とB液)を暗所にて35℃で120時間静置した。
【0133】
(4)A液とB液の混合による付着用抗ウィルス性組成物の調製
A液を470重量部、B液を250重量部それぞれ混合して、1分間攪拌することにより付着用抗ウィルス性組成物とした。
【0134】
(5)プライマー層の形成
30cm×30cmの黒色光沢メラミン基材表面に、ポリオレフィン製プライマー樹脂溶液(商品名「ミッチャクロンマルチ」 染めQテクノロジィ社製)をスプレーにより送り速度10cm/秒で噴霧し、これを12回繰り返した後、25℃で120分乾燥させて、平均厚さ0.25μmの連続したプライマー層を形成した。
【0135】
(6)付着用抗ウィルス性組成物の噴霧塗布
(4)で調製した付着用抗ウィルス性組成物を、スプレーガンの塗料カップに充填し、スプレー圧力:0.1MPa、スプレーノズルから基材である黒色光沢メラミン基材表面までの塗工距離が20cmとなるようにセットした。
液噴出量は0.1g/秒の吐出流量で、黒色光沢メラミン基板の抗ウィルス活性が要求される領域(本実施例では全表面)に、付着用抗ウィルス性組成物を霧状にスプレー塗工した。なお、塗工は、スプレーの1往復を1ストロークとし、2回ストローク(つまり4回塗り)を基本とし、2回ストロークを1単位として3セット(12回塗り)の塗布作業を行って、黒色光沢メラミン化粧板の表面、すなわち化粧板表面に設けた上記プライマー層が、抗ウィルス性組成物の液膜により覆われた黒色光沢メラミン基板を得た。
【0136】
(7)乾燥・硬化
この後、25℃で30分乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、5.0mW/cm2の照射強度で240秒間紫外線を照射することにより、黒色メラミン基板表面に平均厚さ4.9μmの銅化合物を含むバインダ硬化物が連続した膜状(塗工膜)に固着形成された抗ウィルス性基体を得た。
【0137】
図9は、実施例5で得られた抗ウィルス性基体の上面から撮影した電子顕微鏡画像(反射電子像)である。銅化合物の含有量が相対的に多い第1領域が白く、銅化合物の含有量が相対的に少ない第2領域が黒く撮像されており、
図9は、第1領域と第2領域とが混ざり合って存在していることを示している。
また、
図10は、実施例5で得られた抗ウィルス性基体の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。この抗ウィルス性基体700では、続膜からなるプライマー層70が基材50の表面に設けられ、その上に抗微生物性のバインダ硬化物60からなる連続膜が形成されている。
【0138】
(実施例6)
基本的には実施例5と同様であるが、ポリオレフィン製プライマー樹脂溶液(商品名「ミッチャクロンマルチ」 染めQテクノロジィ社製)をスプレーにより送り速度10cm/秒で噴霧し、これを2回繰り返した後、25℃で120分乾燥させて、平均厚さ0.2μmの島状に分布したプライマー層を形成した。
【0139】
(実施例7)
基本的には実施例5と同様であるが、ポリオレフィン製プライマー樹脂溶液(商品名「ミッチャクロンマルチ」 染めQテクノロジィ社製)をスプレーにより送り速度10cm/秒で噴霧し、これを5回繰り返した後、25℃で120分乾燥させて、平均厚さ0.25μmで膜形成領域の一部に膜が形成されていない膜非形成領域が形成されたプライマー層を形成した。
【0140】
(実施例8)基本的には実施例5と同様であるが、30cm×30cmの黒色光沢メラミン基材表面に、ポリオレフィン製プライマー樹脂溶液(商品名「ミッチャクロンマルチ」 染めQテクノロジィ社製)をスプレーにより送り速度1cm/秒で噴霧し、これを24回繰り返した後、25℃で120分乾燥させて、平均厚さ40.3μmの連続したプライマー層を形成した。また、液噴出量は1g/秒の吐出流量とし、黒色光沢メラミン基板の抗ウィルス活性が要求される領域(本実施例では全表面)に、付着用抗ウィルス性組成物を霧状にスプレー塗工を6セット(24回塗り)行った。また、
図11に実施例8で得られた抗ウィルス性基体の断面の電子顕微鏡(SEM)写真を記載した。バインダ硬化物60の厚さの平均値は、59.1μmであり、プライマー層の厚さの平均値は40.3μmであった。
【0141】
(実施例9)
(1)A液の調製
酢酸銅の濃度が5.0重量%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フイルム和光純薬製)1.19重量部を純水23.05重量部に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、700rpmで15分撹拌して酢酸銅水溶液を調製した。
(2)B液の調製
光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)67.2重量部と光重合開始剤である2,4,6-trimethylbenzoyl-diphenyl phosphine oxide(IGM社製、Omnirad TPO-H)4.3重量部、エタノール4.3重量部を混合した。
(3)保管(養生)
調製したA液及びB液を抗ウィルス性組成物とした。
抗ウィルス性組成物(A液とB液)を暗所にて20℃で120時間静置した。
(4)A液とB液の混合
A液とB液を重量比1:0.32で混合して、1分間撹拌することにより付着用抗ウィルス性組成物とした。付着用抗ウィルス性組成物の粘度は35mPa・sであった。粘度はB型回転式粘度計を用いて、回転数12rpmで測定した。
(5)プライマー層の形成
基材である30cm×30cmの黒色光沢メラミン基板表面に、ポリオレフィン樹脂からなるプライマー溶液(染めQテクノロジィ社製 商品名「ミッチャクロンマルチ」)をスプレー塗布、乾燥させて、平均厚さ3.7μmのプライマー層を形成した。
(6)付着用抗ウィルス性組成物の塗布・乾燥
(4)で調製した付着用抗ウィルス性組成物をスプレーガンの塗料カップに充填し、スプレー圧力:0.4MPa、塗布ピッチ間隔:4cm、スプレーノズルから(5)の工程でプライマー層を形成した30cm×30cmの黒色光沢メラミン基板(基材)表面までの塗布距離が20cmとなるようにスプレーガンをセットした。液噴出量は0.20g/秒の吐出流量で、プライマー層を設けた黒色光沢メラミン基板に対してスプレー塗布を行った。塗布後に、常温で30分乾燥させた後、さらに上記スプレー条件にてスプレー塗布を行い、上記乾燥条件で乾燥させた。この塗布、乾燥を合計4回行った。
(7)乾燥・硬化
この後、LED-UV照射装置を用い、135mW/cm
2の照射強度で10秒間紫外線を照射することにより、基材である黒色光沢メラミン基板上にプライマー層と、銅化合物を含む抗ウィルス性組成物の硬化物とが塗膜として連続膜状に固着形成された抗ウィルス性基体を得た。
抗ウィルス性組成物の硬化物の連続膜の平均厚さは37μmであった。また、表面の電子顕微鏡写真(反射電子像)を
図4に記載した。白く見える部分が銅化合物の含有量が相対的に多い領域(第1の領域)であり、黒く見える領域が銅化合物の含有量が相対的に多い領域(第2の領域)である。
【0142】
(比較例1)
(1)酢酸銅の濃度が6wt%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フイルム和光純薬製)を純水に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して酢酸銅溶液を調製した。紫外線硬化樹脂液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製 UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)を重量比98:2で混合し、撹拌棒で撹拌して作成した。上記6wt%酢酸銅溶液と紫外線硬化樹脂液を重量比4.8:1.0で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗ウィルス性組成物を調製した。
【0143】
(2)ついで、300mm×300mmの大きさのガラス板上に、分散媒を含んだ状態で23g/m2に相当する抗ウィルス性組成物をスプレーガン(明治機械製作所製 FINER SPOT G12)で霧化状に散布し、抗ウィルス性組成物の液滴をガラス板表面に島状に散在させた。
【0144】
(3)この後、80℃で1分間乾燥させることにより、基材であるガラス板表面(Ra=0.03μm)に銅化合物を含む電磁波硬化型樹脂の硬化物が島状に散在する抗ウィルス性基体を得た(Ra=0.6μm)。
【0145】
(4)次に、紫外線照射装置を用いて1250mJの積算光量となるように抗ウィルス性組成物に紫外線を照射することにより、未硬化の光ラジカル重合型アクリレート樹脂(モノマー)を重合、硬化させ、樹脂硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅が1~100μmの島状の塗膜を得た。
このようにして、基材であるガラス板表面に銅化合物を含む電磁波硬化型樹脂の硬化物が島状に散在する抗ウィルス性基体を得た。酢酸銅は、水酸化銅および一部は酸化銅に変化していると推定される。
【0146】
(比較例2)
(1)酢酸銅の濃度が0.7wt%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フイルム和光純薬製)を純水に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して酢酸銅溶液を調製した。紫外線硬化樹脂液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)を重量比98:2で混合し、ホモジナイザーを用いて、8000rpmで10分間撹拌して調製した。上記0.7wt%酢酸銅溶液と紫外線硬化樹脂液を重量比1.9:1.0で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗ウィルス性組成物を調製した。
【0147】
(2)ついで、200mm×200mmの大きさのガラス板の表面に、分散媒を含んだ状態で、No.13のバーコーターを用いて抗ウィルス性組成物を表面塗工し、抗ウィルス性組成物の被膜をガラス板の表面(Ra=0.03μm)にコーティングした。
【0148】
(3)この後、80℃で1分間乾燥させることにより、基材であるガラス板の表面に銅化合物を含む透明色の抗ウィルス性基体を得た。
【0149】
(4)さらに、紫外線照射装置を用いて2400mJの積算光量となるように抗ウィルス性組成物に紫外線を照射することにより、未硬化の光ラジカル重合型アクリレート樹脂(モノマー)を重合、硬化させ、ガラス板の表面に厚み10μmの膜状の塗工被膜(Ra=0.07μm)を得た。酢酸銅は、水酸化銅および一部は酸化銅に変化していると推定される。
【0150】
(比較例3)
実施例5と同様であるが、A液として、酢酸銅溶液ではなく、第4級アンモニウム塩として、炭素数10の臭化デシルトリメチルアンモニウム(アクロス社製)の濃度が3重量%になるように、369重量部を純水11931重量部に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、700rpmで15分撹拌して臭化デシルトリメチルアンモニウム水溶液を調製した。比較例3で形成された抗ウィルス層の平均厚さは4.9μm、プライマー層は0.25μmであった。
【0151】
(電子顕微鏡による撮像)
実施例5で得られた抗ウィルス性基体の断面の透過型電子顕微鏡画像(
図10)、上面の走査型電子顕微鏡画像(
図9)は、以下の前処理および装置により実施した。
・走査型電子顕微鏡
日立ハイテクノロジーズ製 S-4800 5000倍の電子顕微鏡画像(反射電子像)を撮影した。
・透過型電子顕微鏡
日立ハイテクノロジーズ製 FB-2200を用い、FIB(集束イオンビーム)によるマイクロサンプリングを実施し、サンプリングされた試料を四酸化ルテニウムにより染色した。
さらに、日本電子製 JEM-2800により100000倍の透過型電子顕微鏡画像を撮影した。
【0152】
(砂消しゴムによる耐久試験)
実施例5、6、7、8、9および比較例2、3について、砂消しゴムを抗ウィルス性基体の抗ウィルス層表面(バインダ硬化物の表面)に500gの荷重をかけて、往復運動を行い、抗ウィルス層が摩耗して基材が露出するか、抗ウィルス層が剥離するまでの回数を測定した。
【0153】
(拭き取り処理前後のバクテリオファージを用いた抗ウィルス性評価)
実施例1~7及び比較例1~3で得られる抗ウィルス性基体の抗ウィルス性を評価するために、JIS R1756 可視光応答形光触媒材料の抗ウィルス性試験方法を改変した手法でウィルス不活性度を測定した。すなわち、得られた抗ウィルス性基体を1辺50±2mm角にカットし、バクテリオファージ液を試料に滴下してフィルムで被覆し、4時間放置してウィルスを不活化させた。その後バクテリオファージを大腸菌に感染させ一晩放置することで、感染能力を保持しているウィルス数を測定した。
【0154】
測定結果は、大腸菌に対して不活化されたウィルス濃度を、ウィルス不活性度として表示する。ここで、ウィルス濃度の指標として、大腸菌に対して不活化されたウィルスの濃度(ウィルス不活度)を使用し、このウィルス不活度に基づいてウィルス不活性度を算出した。
【0155】
ウィルス不活度とは、バクテリオファージを用いた抗ウィルス性試験で、ファージウィルスQβ濃度:830万個/ミリリットルを用いて、大腸菌に感染することができるウィルスの濃度を測定することにより、大腸菌に対して不活化されたウィルスの濃度を算出した結果である。すなわち、ウィルス不活度は、ファージウィルスQβ濃度に対して、大腸菌に感染することができない濃度の度合いであり、(ファージウィルスQβ濃度-大腸菌に感染することができるウィルスの濃度)/(ファージウィルスQβ濃度)×100で算出することができる。
【0156】
このウィルス不活度からウィルス不活性度を計算する。
ウィルス不活性度とは、元のウィルスの量を1とし、ウィルス失活処理後に失活したウィルスの相対量をXとした場合に、常用対数log(1-X)で示される数値(負の値で示される)であり、絶対値が大きい程ウィルスを不活性化する能力が高い。例えば、元のウィルスの99.9%が失活した場合、ウィルス不活性度は、log(1-0.999)=-3.00で表記される。なお、ウィルス失活処理前の全ウィルス量に対するウィルス失活処理後に失活したウィルス量の割合を%で表したもの(上記の場合、99.9%)をウィルス不活度という。上記のようにして求めたウィルス不活度に基づいて抗ウィルス活性値を算出した。実施例1~4及び比較例1、2の結果を表1に示す。
【0157】
(抗ウィルス性基体の表面の拭き取り処理)
実施例1~4及び比較例1、2の抗ウィルス性基体に対しては、水道水を染み込ませたマイクロファイバークロスを用いて、150Paの圧力で25600回の拭き取り処理を実施した。拭き取り処理前後にウィルス不活性度を測定し、抗ウィルス活性値を算出した。
【0158】
(樹脂硬化物(バインダ硬化物)の基材に対する密着性評価(引きはがし試験))
以下の方法で測定した。
(1)実施例1~4及び比較例1、2で得られた抗ウィルス性基体の試験面にカッターナイフを用いて、基材に達する11本の切り傷をつけ100個の碁盤目を作る。切り傷の間隔は2mmを用いる。
【0159】
(2)碁盤目部分にセロテープ(登録商標)を強く圧着させ、テープの端を45°の角度で一気に引き剥がし、碁盤目の状態を標準図と比較して評価する。
(3)全ての碁盤目にはがれが無い場合(分類0に相当)に、はがれ無と定義する。
なお、実施例4、比較例1は、抗ウィルス性のバインダ硬化物が島状に固着しているが、条件を他の実施例、比較例と整合させるため、碁盤目の切込みを設けている。
【0160】
(4)実施例1~4及び比較例1、2で得られた抗ウィルス性基体に対し、-10℃~80℃で200回冷熱サイクル試験を行い、その後、(1)~(3)と同様の方法により密着性評価試験を行う。
【0161】
表1に、実施例1~4及び比較例1、2で得られた抗ウィルス性基体の拭き取り処理前後の抗ウィルス活性値、密着性(引きはがし試験)の評価結果を記載している。
【0162】
【0163】
実施例5~9に係る抗ウィルス性基体の抗ウィルス活性(ふき取り試験は実施せず)は、いずれも5.0であり、高い抗ウィルス活性を示した。一方、比較例3に係る基体の抗ウィルス活性値(ふき取り試験は実施せず)は3.0であり、実施例1~7に係る抗ウィルス性基体と比較して低い抗ウィルス活性を示した。
【0164】
基材表面の抗ウィルス処理が要求される領域の表面(実施例1~4、比較例1、2では基材表面全域)にプライマー層を設けた実施例1、4およびコロナ放電処理した実施例2、プラズマ処理した実施例3では、拭き取り試験後の抗ウィルス活性の低下率が、実施例1では、4.4%、実施例2では、6.5%、実施例3では、4.4%、実施例4では5.9%と低い値であるのに対して、比較例1では30%、比較例2では10.8%と大きい値となった。また、密着性試験(引きはがし試験)でも、実施例1~4の抗ウィルス基材は、はがれが見られなかったが、基材表面を易接着処理していない比較例1、2では剥がれが見られた。
【0165】
さらに、砂消しゴムを用いた耐久性試験の結果は、実施例5では、2500回、実施例6では、830回、実施例7では850回、実施例8では7540回、実施例9では10000回であったが、比較例2では370回、比較例3では500回であった。砂消しゴムを用いた試験からでも、プライマー層形成の効果は確認される。なお、プライマー層は、連続膜である実施例5、8、9の方が、耐久性等において、島状もしくは不連続膜である実施例6、7よりも優れている。また、抗ウィルス層(バインダ硬化物の連続膜)に銅化合物を含む実施例5~9の方が、第4級アンモニウム塩を含む比較例3よりも耐久性に優れていることも理解できる。