(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023134
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】胚の品質を決定するための方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6895 20180101AFI20220131BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20220131BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20220131BHJP
C12N 15/10 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12Q1/6895 Z
C12Q1/04 ZNA
C12Q1/6806 Z
C12N15/10 100Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021169295
(22)【出願日】2021-10-15
(62)【分割の表示】P 2019095944の分割
【原出願日】2014-06-18
(31)【優先権主張番号】13305820.6
(32)【優先日】2013-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(71)【出願人】
【識別番号】513096967
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ユニヴェルシテール・ドゥ・モンペリエ
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE DE MONTPELLIER
(71)【出願人】
【識別番号】516032920
【氏名又は名称】アンスティテュ・レジオナル・デュ・カンセール・ドゥ・モンペリエ
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT REGIONAL DU CANCER DE MONTPELLIER
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ハママー,サミル
(72)【発明者】
【氏名】エル・メサウーディ,サフィア
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー,アラン
(72)【発明者】
【氏名】アスー,サイド
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA07
4B063QA08
4B063QA18
4B063QQ09
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生殖医療の分野に関する胚の品質を決定するための方法及びキットを提供する。
【解決手段】無細胞核酸のレベルを決定すること、並びに/又は核酸抽出物における少なくとも1つの特定の核酸配列の存在及び/若しくは発現レベルを決定することによって、胚の品質を決定するためのin vitro非侵襲方法及びキットに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胚の品質を決定するためのin vitro非侵襲方法であって、i)該胚を成長させる培養培地のサンプルを提供すること、ii)該サンプルから無細胞核酸を抽出すること、並びにiii)核酸抽出物における該無細胞核酸のレベルを決定すること、並びに/又は核酸抽出物における少なくとも1つの特定の核酸配列の存在及び/若しくは発現レベルを決定することからなる工程を含む、in vitro非侵襲方法。
【請求項2】
i)核酸抽出物における核酸のレベルを決定すること、ii)工程i)で決定したレベルを基準値と比較すること、及びiii)工程i)で決定したレベルが該基準値よりも低い場合、胚がコンピテントであると結論することからなる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
胚が、胚発生の5日目又は6日目に対応する胚盤胞期に達したときに、サンプルを調製する、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
基準値が、胚発生の3日目の培養培地で決定した核酸のレベルにある、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
i)核酸抽出物における少なくとも1つの突然変異を検出すること、及びii)該突然変異が検出された場合、胚が遺伝的異常を有すると結論することからなる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
i)少なくとも1つの特定の核酸配列のレベルを決定すること、ii)工程i)で決定したレベルを基準値と比較すること、及びiii)工程i)で決定したレベルが該基準値と異なる場合、胚が遺伝的異常を有すると結論することからなる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は一般に、生殖医療の分野に関する。より具体的には、本発明は、胚の品質を決定するための方法及びキットに関する。
【0002】
発明の背景:
現在、生殖補助技術(ART)中に胚の品質を決定するための信頼性の高い市販の遺伝的又は非遺伝的な手法はない。特に、適切な子宮環境に移植した場合に、胚が生存可能な子孫を生じることができるかを決定するという本質的な問題が依然としてある。別の重要な問題は、胎児及びさらに後の小児の発育を生存可能にする胚の遺伝的プロファイリングを決定することである。
【0003】
着床の可能性が高い胚の選択は、生殖補助技術(ART)の主要な課題の1つである。当初は、妊娠率を最大化するために、複数胚移植(MET)が使用されていた。しかしながら、胚の品質の改善及び多胎妊娠率の上昇は、代替用の胚の数の減少をもたらした。したがって、「最良の」胚の選択が重要になっており、特に、選択的単一胚移植(SET)が強く推奨されている。したがって、新たな客観的な胚選択アプローチを開発する必要性がある。IVF及びICSI条件下で健全な胚を選択するための古典的な方法は、断片化の程度及び多核生成の存在、割球の数及びサイズ、初期胚の分裂などの主観的な形態学的基準に基づくものである(Ebner et al., 2003; Fenwick et al., 2002)。しかしながら、ほとんどの研究において、胚が適切な形態学的外観を有することのみでは、着床の成功を予測するのに十分ではないことが示唆されている。形態学的評価及び細胞遺伝学的スクリーニング方法の限界を考慮して、現在、より洗練された高性能な技術及び新たな「オミクス」科学、例えばトランスクリプトミクス及びメタボロミクスに向けた動きがある。これらのアプローチは、様々な体細胞及び胚培養培地に注目している。卵丘細胞(CCS)遺伝子発現のトランスクリプトームデータを使用して、本発明者らのチームは、胚及び妊娠転帰を予測するための間接的で魅力的なアプローチを報告した(Assou et al., 2011; Assou et al., 2008)。本発明者らは、胚の形態学的側面とCC遺伝子発現プロファイルとの間には関係がなかったことを観察した(Assou et al., 2010)。他の研究では、ラマン又は近赤外(NIR)分光法による使用済み培養培地のメタボロームプロファイルは、個々の胚の生殖能力と相関することが報告された(Seli et al., 2007; Vergouw et al., 2008)。胚の培養培地のメタボロームプロファイリングは、形態と無関係であったことも示された。
【0004】
着床率の減少の別の主な原因は、着床胚の遺伝的品質不良である。例えば、胚の消耗及び損失のほとんどは、全ての自然流産及び死産の約60%で発生する致死的な異数性(染色体数異常)によって引き起こされる。他の遺伝的異常としては、染色体異数性、増幅、転座、挿入/欠失、逆位、ショートタンデムリピート多型、マイクロサテライト多型、一塩基多型(SNP)及び他の構造的異常が挙げられる。遺伝的異常は、多くの表現型疾患を引き起こし得、いくつかは致死的でさえある。遺伝的異常が胚で発生した場合、多くの種類の出生前症状及び先天性疾患が発症する可能性がある。着床前遺伝子診断(PGD)によってこれらの異常をスクリーニングすることは、構造的に正常な胚の選択及び生存可能な着床を確実にするために非常に重要である。しかしながら、現在の方法は侵襲的であり、胚への不利益をもたらし得る。
【0005】
血液、腹水、尿、羊水、糞便、唾液又は脳脊髄液などの生体液中で無細胞DNAを検出し得ることが報告された。DNA、RNA、miRNAなどの様々な核酸が、無細胞形態で実際に単離及び検出された。cfDNAは、健常被験者では検出可能な量であることが見出され、いくつかの病理学的障害(ガン、心筋梗塞、自己免疫疾患、敗血症、外傷、...)又は特定の生理学的状態(懸命な努力、...)ではより多量であることが見出された。cfDNAの放出機構はあまり知られていないが、壊死、アポトーシス、食作用又は積極的放出に関与し得ることが示唆されている。cfDNA分析は、診断分野における活発な研究領域であり、現時点では特に2つの領域において精査されている。しかしながら、胚の品質の決定では、cfDNAの検出はまだ調査されていない。
【0006】
発明の概要:
本発明は、体外受精条件下で胚を成長させる培養培地中に無細胞核酸が存在するという劇的な発見に基づくものである。本発明者らは、培養培地中の前記無細胞核酸のレベルが、妊娠を生じさせる胚の能力に関する情報であることを実証する。また、本発明者らは、前記無細胞核酸の分析が、特定の配列の遺伝子の発現の検出及び発現を可能にし、胚の非侵襲的な遺伝子プロファイリング方法の開発への道を開くことを実証する。
【0007】
発明の詳細な説明:
本発明は、胚の品質を決定するためのin vitro非侵襲的方法であって、i)該胚を成長させる培養培地のサンプルを提供すること、ii)該サンプルから無細胞核酸を抽出すること、並びにiii)核酸抽出物における該無細胞核酸のレベルを決定すること、並びに/又は核酸抽出物における少なくとも1つの特定の核酸配列の存在及び/若しくは発現レベルを決定することからなる工程を含むin vitro非侵襲方法に関する。
【0008】
本明細書で使用される用語「胚」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、受精卵母細胞又は接合体を指す。用語「胚」はまた、受精卵母細胞又は接合体から5日又は6日(胚盤胞期)までの全ての発生段階にある細胞を指す。前記受精は、古典的な体外受精(cIVF)条件下、又は細胞質内精子注入(ICSI)法下で起こり得る。本発明の方法によって評価され得る胚の例としては、1細胞胚(また接合体とも称される)、2細胞胚、3細胞胚、4細胞胚、5細胞胚、6細胞胚、8細胞胚など(典型的には、最大で16細胞胚を含む)が挙げられ、これらはいずれも、任意の便利な方法によって、例えばin vivoで成熟した卵母細胞から、又はin vitroで成熟した卵母細胞から生じ得る。本明細書で使用される用語「胚盤胞」は、桑実胚の形成後に、哺乳動物の初期胚発生で形成された構造を指す。それは、内部細胞塊(ICM)又は胚結節(その後、これは胚を形成する)と、外側細胞層又はトロホブラスト(後に、これは胎盤を形成する)とを有する。トロホブラストは、内部細胞塊と、液体で満たされた胚盤胞腔(これは、胞胚腔として公知である)とを取り囲んでいる。ヒト胚盤胞は70~100個の細胞を含む。ヒトでは、胚盤胞形成は、受精後5/6日目から始まる。
【0009】
本発明によれば、卵母細胞は、天然サイクル、改変された天然サイクル、又はcIVF若しくはICSIのために刺激されたサイクルから生じ得る。用語「天然サイクル」は、雌又は女性が卵母細胞を産生する天然サイクルを指す。用語「改変された天然サイクル」は、リコンビナントFSH又はhMGと併せてGnRHアンタゴニストによる穏やかな卵巣刺激の下で、雌又は女性が1つ又は2つの卵母細胞を産生する過程を指す。用語「刺激されたサイクル」は、リコンビナントFSH又はhMGと併せてGnRHアゴニスト又はアンタゴニストによる刺激の下で、雌又は女性が1つ以上の卵母細胞を産生する過程を指す。
【0010】
用語「古典的な体外受精」すなわち「cIVF」は、卵母細胞が体外(すなわち、in vitro)で精子と受精する過程を指す。IVFは、in vivoにおける受胎が失敗した場合の主な不妊処置である。用語「細胞質内精子注入」すなわち「ICSI」は、1つの精子を卵母細胞に直接注入する体外受精法を指す。この手法は、男性不妊要因を克服するために最も一般に使用されるが、精子が卵母細胞に容易に侵入し得ない場合にも使用され得、時には、精子提供に特に関連する体外受精方法として使用され得る。
【0011】
「胚の品質の決定」は、胚がコンピテントであり、及び/又は体外受精との関連で遺伝的異常又は特定の配列を有するかを本発明の方法により決定しようとすることを意味する。本発明の方法は、高い妊娠率を付与し、及び/又は健常者をもたらすという観点のいずれか又は両方において、胚が上手く機能する能力の評価を可能にする。したがって、本発明の方法は、妊娠を生じさせることができる最良の胚の着床前遺伝子検査及び選択を組み合わせることができる。
【0012】
用語「コンピテントな胚」は、妊娠につながる高い着床率を有する胚を指す。用語「高い着床率」は、子宮に移植した場合に、子宮環境に着床して、生存可能な胎児(そして今度はこれが、前記妊娠を終わらせる手順又は事象を伴わずに生存可能な子孫になる)を生じさせる胚の能力を意味する。
【0013】
本明細書で使用される用語「遺伝的異常」は、個体(すなわち、胚)のゲノム中に存在し得る任意の事象であって、表現型疾患及び致死性を生じさせ得るものを指す。遺伝的異常としては、限定されないが、異数性、転座、遺伝子/遺伝子座の増幅、挿入、欠失、復帰、ショートタンデムリピート(STR)多型、マイクロサテライト多型、一塩基多型(SNP)、遺伝性疾患に関与する単一遺伝子突然変異、又はそれらの組み合わせが挙げられる。特に、本発明の方法にしたがって、任意の遺伝的に伝達可能な疾患を検出し得る。例えば、遺伝子変化としては、遺伝子:CFTR、第VIII因子(F8遺伝子)、ベータグロビン、血色素症、G6PD、神経線維腫症、GAPDH、ベータアミロイド及びピルビン酸キナーゼの1つ以上に公知の変化が挙げられ得る。遺伝子の配列及び共通の突然変異(例えば、一塩基多型、すなわちSNP)は公知である。ヒト染色体で欠失している配列、転座若しくは逆位で移動している配列、又は染色体重複で重複している配列が関与するもの(前記配列は、公知の遺伝性障害の胎児遺伝物質において特徴付けられている)などの他の遺伝的異常を検出し得る。例えば、染色体異数性、例えばダウン症候群(又は21トリソミー)、エドワーズ症候群(トリソミー18)、パトー症候群(13トリソミー)、ターナー症候群(45X0)、クラインフェルター症候群(2本のX染色体を有する男性)、プラダー・ウィリー症候群及びディジョージ症候群。公知の遺伝的異常のリストは、OMIMデータベース(http://omim.org/)に見られ得る。
【0014】
本発明の方法は、好ましくは、女性に適用可能であるが、理論的には他の哺乳動物(例えば、霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、マウス...)に適用可能であり得る。
【0015】
本明細書で使用される用語「核酸」は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、コード核酸配列又は非コード核酸配列を指す。核酸としては、DNA(デオキシリボ核酸)及びRNA(リボ核酸)が挙げられる。したがって、核酸の例としては、限定されないが、DNA、mRNA、tRNA、rRNA、tmRNA、miRNA、piRNA、snoRNA及びsnRNAが挙げられる。本発明によれば、核酸は、胚の核、又は胚のミトコンドリア区画に由来し得る。「無細胞核酸」は、核酸が胚によって放出され、体外受精又は細胞質内精子注入(ICSI)後に胚を成長させる培養培地中に存在することを意味する。
【0016】
特定の実施態様では、胚が、胚発生の5日目又は6日目に対応する胚盤胞期に達したときに、サンプルを調製する。体外受精又は細胞質内精子注入(ICSI)後に胚を成長させた培養培地のサンプルを調製するために、当技術分野で周知の任意の方法を使用し得る。本発明の1つの本質的な特徴は、サンプルの調製中に、胚が生存可能であり続けることである。胚の完全性を維持するために、溶解酵素及び化学試薬系溶解溶液を使用しない。本発明の方法は、完全な非侵襲方法であり、胚が、未解明の機構によって核酸を培養培地中に放出することができるという事実にのみ依拠する。
【0017】
当業者であれば、調製したサンプルから無細胞核酸を抽出するために、当技術分野で周知の任意の方法を使用し得る。例えば、実施例に記載されている方法を使用し得る。
【0018】
特定の実施態様では、本発明の方法は、i)核酸抽出物における核酸のレベルを決定すること、ii)工程i)で決定したレベルを基準値と比較すること、及びiii)工程i)で決定したレベルが該基準値よりも低い場合、胚がコンピテントであると結論することからなる工程を含む。
【0019】
核酸のレベルの決定は、当技術分野で周知の様々な技術によって実施され得る。特定の実施態様では、DNAのレベルを決定するために、例えば、El Messaoudi et al., 2013; Mouliere et al., 2013; Thierry et al., 2013及び国際公開公報第2012/028746号に記載されているように、定量PCRを実施し得る。特に、核酸のレベルの決定は、実施例に記載されているように実施され得る。
【0020】
特定の実施態様では、基準値は、胚発生の3日目の胚培養培地で決定した核酸のレベルにある。したがって、胚発生の3日目-5日目又は6日目(胚盤胞期)におけるレベルの低下は、胚がコンピテントであることを示す。
【0021】
特定の実施態様では、基準値は、実験的、経験的又は理論的に決定され得る閾値又はカットオフ値である。当業者であれば認識するように、閾値はまた、既存の実験条件及び/又は臨床状態に基づいて任意に選択され得る。試験及びベネフィット/リスクバランス(偽陽性及び偽陰性の臨床結果)に応じた最適な感度及び特異性を得るために、閾値を決定しなければならない。典型的には、最適な感度及び特異性(したがって、閾値)は、実験データに基づいて、受信者動作特性(ROC)曲線を使用して決定され得る。好ましくは、当業者であれば、(本発明の方法にしたがって得られた)核酸レベルを規定の閾値と比較し得る。本発明の一実施態様では、IVF又はISCIを受けている1人以上の患者由来の胚培養培地で決定された核酸レベル(又は比若しくはスコア)から、閾値を求める。さらに、IVF又はISCIを受けている患者の適切に保存された歴史的な胚培養培地中の核酸レベル(又は比若しくはスコア)のレトロスペクティブ測定を、これらの閾値を確立するのに使用し得る。
【0022】
特定の実施態様では、本発明の方法は、i)核酸抽出物における少なくとも1つの突然変異を検出すること、及びii)該突然変異が検出された場合、胚が遺伝的異常を有すると結論することからなる工程を含む。
【0023】
核酸、特にDNA又はmRNA中の突然変異を検出するための典型的な技術としては、限定されないが、制限フラグメント長多型、ハイブリダイゼーション技術、シークエンシング、エキソヌクレアーゼ耐性、マイクロシークエンシング、ddNTPを使用する固相伸長、ddNTPを使用する溶液中での伸長、オリゴヌクレオチドアッセイ、一塩基多型を検出するための方法、例えば動的アレル特異的ハイブリダイゼーション、ライゲーション連鎖反応、ミニシークエンシング、DNA「チップ」、PCR又は分子ビーコンと併せて一重又は二重標識プローブを用いるアレル特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションなどが挙げられる。
【0024】
典型的には、増幅後に突然変異を検出する。例えば、突然変異部位に対して特異的であるか、又は突然変異部位を含有する領域の増幅を可能にする特異的オリゴヌクレオチドプライマーを使用する共役型の逆転写及び増幅(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応による逆転写及び増幅(RT-PCR))に、単離したRNAを供し得る。第1の代替手段によれば、増幅産物の出現が特定の突然変異の存在の診断になるように、プライマーのアニーリング条件は、特異的な逆転写(適切な場合)及び増幅を確実にするように選択され得る。そうでなければ、RNAを逆転写及び増幅し得るか、又はDNAを増幅し得、その後、適切なプローブを用いてハイブリダイゼーションによって、又は直接的なシークエンシングによって、又は当技術分野で公知の任意の他の適切な方法によって、増幅配列中の突然変異部位を検出し得る。例えば、RNAから得られたcDNAをクローニング及びシークエンシングして、突然変異を同定し得る。
【0025】
特に、シークエンシングは、本発明との関連で使用され得る理想的な技術の代表的なものである。当業者であれば、ポリヌクレオチドをシークエンシングするためのいくつかの方法を熟知している。これらとしては、限定されないが、サンガーシークエンシング(ジデオキシシークエンシングとも称される)及びMetzger (Metzger ML 2005, Genome Research 1767)によって概説されている様々なsequencing-by-synthesis (SBS)法、ハイブリダイゼーションによる、ライゲーションによる(例えば、国際公開公報第2005/021786号)、分解による(例えば、米国特許第5,622,824号及び米国特許第6,140,053号)シークエンシング、ナノポアシークエンシングが挙げられる。好ましくは、多重アッセイでは、ディープシークエンシングが好ましい。用語「ディープシークエンシング」は、並行して複数の核酸をシークエンシングする方法を指す。例えば、Bentley et al, Nature 2008, 456:53-59を参照のこと。Roche/454 (Margulies et al., 2005a)、Illumina/Solexa (Bentley et al., 2008)、Life/APG (SOLiD) (McKernan et al., 2009)及びPacific Biosciences (Eid et al., 2009)が生産している主要な市販のプラットフォームをディープシークエンシングに使用し得る。例えば、454法では、シークエンシングすべきDNAを分画してアダプターに供給するか、又はアダプター含有プライマーを使用して、DNAのセグメントをPCR増幅し得る。アダプターは、DNA捕捉ビーズに対する結合、並びにエマルジョンPCR増幅プライマー及びシークエンシングプライマーのアニーリングに必要な25merのヌクレオチドである。DNAフラグメントを一本鎖にし、1本のDNAフラグメントのみが1個のビーズに結合するようにDNA捕捉ビーズに結合させる。次に、油中水型混合物でDNA含有ビーズを乳化して、1個のビーズのみを含有するマイクロリアクターを得る。マイクロリアクター内でフラグメントをPCR増幅して、ビーズ当たり数百万のコピー数を得る。PCR後、エマルジョンを破壊し、ビーズをピコタイタープレートにロードする。ピコタイタープレートの各ウェルは、1個のビーズのみを含有し得る。シークエンシング酵素をウェルに追加し、ヌクレオチドを一定順序でウェルに流す。ヌクレオチドが取り込まれると、化学発光シグナルをもたらす反応を触媒するピロリン酸塩が放出される。CCDカメラによってこのシグナルを記録し、ソフトウェアを使用してシグナルをDNA配列に翻訳する。イルミナ法(Bentley (2008))では、アダプターに供給する一本鎖フラグメントを光学的に透明な表面に結合させ、「ブリッジ増幅」に供する。この手法は、ユニークなDNAフラグメントのコピーをそれぞれ含有する数百万個のクラスタをもたらす。DNAポリメラーゼ、プライマー及び4つの標識された可逆的ターミネーターヌクレオチドを追加し、レーザー蛍光によって表面をイメージングして、標識の位置及び性質を決定する。次いで、保護基を除去し、このプロセスを数サイクル繰り返す。SOLiDプロセス(Shendure (2005))は454シークエンシングと類似しており、ビーズの表面上でDNAフラグメントを増幅する。シークエンシングは、標識プローブのライゲーション及び検出のサイクルを含む。現在、いくつかの他のハイスループットシークエンシング技術が開発中である。このような技術の例は、Helicosシステム(Harris (2008))、Complete Genomics (Drmanac (2010))及びPacific Biosciences (Lundquist (2008))である。これは、極めて急速に発達している技術分野であるので、様々なハイスループットシークエンシング方法を本発明に適用可能であることは、当業者には自明であろう。
【0026】
特定の実施態様では、本発明の方法は、i)少なくとも1つの特定の核酸配列のレベルを決定すること、ii)工程i)で決定したレベルを基準値と比較すること、及びiii)工程i)で決定したレベルが該基準値と異なる場合(すなわち、ロックド核酸に応じて低くなるか又は高くなる)、胚が遺伝的異常を有すると結論することからなる工程を含む。
【0027】
核酸(特に、遺伝子、miRNA、snRNA及びsnoRNA)の発現レベルの決定は、多種多様な周知の方法のいずれかによって評価され得る。典型的には、調製された核酸は、限定されないが、サザン分析又はノーザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応分析、例えば定量PCR(TaqMan)及びプローブアッセイ、例えばGeneChip(商標)DNAアレイ(AFF YMETRIX)を含むハイブリダイゼーションアッセイ又は増幅アッセイに使用され得る。有利には、核酸の発現レベルの分析は、例えば、RT-PCR(米国特許第4,683,202号に記載されている実験の実施態様)、リガーゼ連鎖反応(BARANY, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.88, p: 189-193, 1991)、自己持続配列複製(GUATELLI et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.57, p: 1874-1878, 1990)、転写増幅システム(KWOH et al., 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.86, p: 1173-1177, 1989)、Q-βレプリカーゼ(LIZARDI et al., Biol. Technology, vol.6, p: 1197, 1988)、ローリングサークル複製(米国特許第5,854,033号)又は任意の他の核酸増幅方法による核酸増幅、次いで、当業者に周知の技術を使用する増幅分子の検出のプロセスを含む。リアルタイム定量又は半定量RT-PCRが好ましい。特定の実施態様では、決定は、サンプルを選択試薬、例えばプローブ又はプライマーとハイブリダイゼーションさせ、それにより、核酸の存在を検出すること又は核酸の量を測定することを含む。ハイブリダイゼーションは、プレート、マイクロタイターディッシュ、試験管、ウェル、ガラス、カラムなどの任意の適切なデバイスによって実施され得る。関心対象の核酸に対して配列相補性又は相同性を示す核酸は、本明細書では、ハイブリダイゼーションプローブ又は増幅プライマーとして有用である。このような核酸は同一である必要はないが、典型的には、比較可能なサイズの相同領域と少なくとも約80%同一、より好ましくは85%同一、さらにより好ましくは90~95%同一であると理解される。特定の実施態様では、ハイブリダイゼーションを検出するために、検出可能な標識などの適切な手段と組み合わせて核酸を使用することが有利であろう。蛍光、放射能、酵素又は他のリガンド(例えば、アビジン/ビオチン)を含む多種多様な適切な指示薬が当技術分野で公知である。プローブ及びプライマーは、それらがハイブリダイゼーションする核酸に対して「特異的」である(すなわち、それらは、好ましくは、高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーション条件(最高融解温度Tm、例えば50%ホルムアミド、5×又は6×SCCに対応する。1×SCCは、0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウムである)下でハイブリダイゼーションする。Qiagen (S.A. Courtaboeuf, France)又はApplied Biosystems (Foster City, USA)から、多くの定量アッセイが市販されている。核酸の発現レベルは、絶対発現プロファイル又は正規化発現プロファイルとして表され得る。典型的には、関心対象の核酸の発現を、無関係な核酸(例えば、恒常的に発現しているハウスキーピングmRNA)の発現と比較することにより、関心対象の核酸の絶対発現プロファイルを補正することによって、発現プロファイルを正規化する。正規化に適切なmRNAとしては、ハウスキーピングmRNA、例えばU6、U24、U48及びS18が挙げられる。この正規化は、あるサンプル(例えば、患者サンプル)における発現プロファイルと別のサンプルとの比較、又は異なる供給源由来のサンプル間の比較を可能にする。
【0028】
プローブ及び又はプライマーは、典型的には、検出可能な分子又は物質、例えば蛍光分子、放射性分子又は当技術分野で公知の任意の他の標識で標識される。シグナルを(直接的又は間接的に)一般に提供する標識が、当技術分野で公知である。用語「標識」は、検出可能な物質をカップリング(すなわち、物理的に連結)することによるプローブ及びプライマーの直接的な標識、並びに直接的に標識される別の試薬との反応性による間接的な標識を包含することを意図する。検出可能な物質の例としては、限定されないが、放射性薬剤又はフルオロフォア(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)又はフィコエリトリン(PE)又はインドシアニン(Cy5))が挙げられる。
【0029】
基準値は、上記のように決定され得、胚が遺伝的異常又は特定の核酸配列を有すると結論するために発現レベルの決定が必要な核酸に依存するであろう。
【0030】
本発明の方法は、臨床判断を下すのに特に適切である。本明細書で使用される用語「臨床判断」は、胚の健康又は生存に影響を与える転帰をもたらす措置を取る又は取らないという任意の判断を指す。特に、本発明との関連では、臨床判断は、胚を患者の子宮内に移植するか否かの判断を指す。臨床判断はまた、さらなる試験を行うという判断、望ましくない表現型を緩和するための措置を取るという判断、又は異常を有する子供の誕生について準備するために措置を取るという判断を指し得る。したがって、特に、上記方法は、発生学者が、妊娠転帰の可能性が低い胚を子宮内に移植するのを回避するのに役立つであろう。上記方法はまた、着床及び妊娠をもたらすことができるコンピテントな胚を選択することによって、多胎妊娠を回避するのに特に適切であるので、各サイクルで移植可能な胚はより少なくなり、その結果、多胎妊娠の発生率が低下する。
【0031】
本発明の方法は、遺伝的異常を有するリスクが最小の子供の妊娠転帰を高めるのに特に適切である。したがって、本発明はまた、患者の妊娠転帰を高めるための方法であって、i)複数の胚を提供すること、ii)本発明による方法によって、該胚の品質を決定すること、及びiii)遺伝的異常を有するリスクが最小の最もコンピテントな胚を選択すること、及びiv)工程iii)で選択した胚を前記患者の子宮内に移植することからなる工程を含む方法に関する。
【0032】
本発明はまた、上記方法を実施するためのキットであって、無細胞核酸のレベルを決定するための手段、及び/又は少なくとも1つの特定の核酸の発現レベルを決定するための手段、及び/又は核酸抽出物における少なくとも1つの突然変異、1つのSNP若しくは特定の配列を検出するための手段を含むキットに関する。典型的には、前記キットは、上記プローブ、プライマー、マクロアレイ又はマイクロアレイを含む。例えば、前記キットは、予め標識され得る上に定義したプローブのセットを含み得る。あるいは、プローブを標識しなくてもよいし、又は標識のための成分を別個の容器でキットに含めてもよい。前記キットは、ハイブリダイゼーション試薬又は特定のハイブリダイゼーションプロトコールに必要な他の適切にパッケージングされた試薬及び材料(固相マトリックスを含み、場合によっては標準物質を含む)をさらに含み得る。あるいは、本発明のキットは、予め標識され得るか、又はアフィニティ精製部分若しくは付着部分を含有し得る増幅プライマー(例えば、ステムループプライマー)を含み得る。前記キットは、増幅試薬と、さらには特定の増幅プロトコールに必要な他の適切にパッケージングされた試薬及び材料とをさらに含み得る。
【0033】
以下の図面及び実施例によって、本発明をさらに例証する。しかしながら、これらの実施例及び図面は、決して本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】3日目における2人の患者由来のいくつかの胚の培養培地中のcfDNA濃度。
【
図2】5/6日目における9人の患者由来のいくつかの胚の培養培地中のcfDNA濃度。
【
図3】3日目及び5日目における2人の患者由来のいくつかの胚の培養培地中のcfDNA濃度。黒色のヒストグラム、5/6日目の濃度。白色のヒストグラム、3日目の濃度。
【
図4A】各胚グレードの3日目と5/6日目との間のcfDNA濃度の差。シリーズ1のヒストグラム、3日目-5/6日目の濃度(ng/mL cfDNA);シリーズ2のヒストグラム、各成長グレード(1~10)のランキング。HSC患者の胚のシリーズにおいて、cfDNA濃度値を求めた。
【
図4B】各胚グレードのcfDNA濃度。シリーズ1のヒストグラム、5/6日目の濃度(ng/mL cfDNA);シリーズ2のヒストグラム、各成長グレード(1~10)のランキング。HSC患者の胚のシリーズにおいて、cfDNA濃度値を求めた。
【
図5】培養培地中のcfDNAと妊娠転帰との間の関係。陽性妊娠患者及び陰性妊娠患者に由来する5/6日目の胚培養培地中の平均cfDNA量を比較するヒストグラム。
【
図6A】ヒストグラムは、卵巣、精巣、MII卵母細胞、3日目胚、5/6日目胚盤胞、栄養外胚葉及び子宮内膜サンプルにおける遺伝子のマイクロアレイシグナル値を示す。MII卵母細胞、3日目胚、5/6日目胚盤胞、栄養外胚葉及び子宮内膜サンプルからのマイクロアレイデータは、本発明者らのチームから入手し、卵巣及び精巣サンプルのものは、仮アクセッションナンバー(GPL570)によってGene Expression Omnibus (GEO)から入手した。
【
図6B】ヒストグラムは、卵巣、精巣、MII卵母細胞、3日目胚、5/6日目胚盤胞、栄養外胚葉及び子宮内膜サンプルにおける遺伝子のマイクロアレイシグナル値を示す。MII卵母細胞、3日目胚、5/6日目胚盤胞、栄養外胚葉及び子宮内膜サンプルからのマイクロアレイデータは、本発明者らのチームから入手し、卵巣及び精巣サンプルのものは、仮アクセッションナンバー(GPL570)によってGene Expression Omnibus (GEO)から入手した。
【0035】
実施例
材料及び方法
IVF法
女性は、ゴナドトロピン放出ホルモン(Gn-RH)の長期処置又はアンタゴニストプロトコール処置を受け、次いで、hMG(ヒト閉経ゴナドトロピン)又はリコンビナント卵胞刺激ホルモン(FSH)による卵巣刺激を受けた。経膣超音波検査において、少なくとも3つの卵胞が平均直径17mmに達したら、hCG 5000IUを投与した。次いで、36時間後に、超音波経膣穿刺によって、卵母細胞を回収した。示されているように、通常のIVF又はICSIを使用した。卵母細胞受精又はマイクロインジェクションの16~20時間後に、倒立顕微鏡下における2つの異なる前核+2つの極体の存在によって、受精を確認した。次いで、接合体を培養培地(G1.5, Vitolife, Sweden)の新鮮な液滴 30μlに個別に入れて鉱油でカバーし、5%酸素環境を提供するトリガスインキュベーター内で維持した。常に、全ての胚を個別の液滴で培養した。胚を拡大培養培地中に入れ、5日目まで継続した。G2.5培地(Vitolife, Sweden)を拡大培養に使用した。
【0036】
本発明の培養培地中のcfDNAの定量
胚培養培地のサンプリング
胚を取り出した後、ラベルしたクライオバイアルに培養培地を個別に入れ、次いで、ランダムに割り当てたアクセッションナンバーで再度ラベルした。収集した試料を急速凍結し、-80℃で保存した。胚を含まない同じ条件下でインキュベーションしたコントロールサンプルも収集した。最大50μLを培養培地からサンプリングし得る。
【0037】
cfDNAの抽出
3日目又は5/6日目のサンプルの場合、初期容量30μLをPBS 1×170μLで200μLにした。5日目のサンプルの場合、初期容量10μLをPBS 1×190μLで200μLにした。続いて、DNA抽出のために、サンプルをどちらか直ぐに処理した。「血液及び体液プロトコール」にしたがって、QIAmp DNA Mini Blood Kit (Qiagen, Hilden, Germany)を使用して、サンプル 200μLからCcfDNAを抽出した。DNAサンプルを使用まで-20℃で保存した。
【0038】
Q-PCRによるcfDNAの定量
MIQEガイドラインにしたがって、前記方法及びデータ記述を行った。CFXマネージャ(商標)ソフトウェア(Bio-Rad, Hercules, CA)を使用してCFX 96(商標)リアルタイムPCR検出システムによって、q-PCR増幅を反応容量25μlで少なくとも2回反復で行った。各PCR混合物は、PCRミックス(Bio-Rad Supermix SYBR Green)12.5μl、各増幅プライマー(0.3pmol/μl)2.5μl、PCR分析水 2.5μl及びDNA抽出物 5μlから構成されていた。熱サイクリングは、3回繰り返す工程から構成されていた:ホットスタートポリメラーゼの活性化-変性工程を95℃で3分間、次いで、95℃で10秒間を40サイクル繰り返し、次いで、60℃で30秒間。0.2℃ごとのプレートリーディングで、温度を55℃から90℃に増加させることによって、融解曲線を求めた。ヒト胎盤細胞(Sigma, Munich, Germany)由来のゲノムDNAの系列希釈物を定量用の標準として使用し、それらの濃度及び品質を、Qubit(登録商標)2.0蛍光光度計(Life Technologies)を使用して評価した。全てのQ-PCRのランには、ルーチンな品質のネガティブコントロール及びポジティブコントロールが含まれていた。各サンプルを3回反復で分析し、各アッセイを少なくとも1回繰り返した。得られたcfDNA濃度を、標準曲線を使用して正確な濃度に対して正規化した。2回の実験(n=12)から、cfDNA抽出及びQ-PCR分析による濃度値の変動係数を24%と計算した。表1に記載されているプライマーシステム(KRAS B1 inv kセンス:配列番号:1;及び KRAS B2 inv kアンチセンス:配列番号:2)を使用することによって、サンプル中のcfDNAの定量及び標準曲線の作成を実施した。試験によって決定した濃度値は、24%の変動係数を示す。
【0039】
【0040】
プライマーの設計
選択したプライマーの配列及び特徴を表1に示す。プライマー3ソフトウェアを使用してプライマーを設計し、核酸フォールディングソフトウェア(mfold and oligoAnalyzer 1.2)を用いて、自己分子アニーリング又は分子間アニーリングについて、全ての配列を検査した。本発明者らは、設計したプライマーの特異性を確認するために、BLASTプログラムによるローカルアライメント分析を実施した。オリゴヌクレオチドを合成し、Eurofins (Ebersberg, Germany)によって高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製し、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF)によってオリゴヌクレオチドの品質コントロールを実施した。
【0041】
2コピーのヒトゲノム中に存在する配列を定量することができるように、Q-PCRシステムを設計した。それは、1つのアレル中のこの配列を高特異的かつ高感度に定量することを可能にする。同じプライマーを用いてAllele Specific with Blocker PCRを使用することによって、より高い特異性が得られる(Mouliere, 2011)。この方法は、0.005の突然変異体/WT比で、わずか1つのヌクレオチド差異を有する2つの配列を区別することを可能にする。したがって、特定の配列の検出及び定量は、WT配列に対して、数個のヌクレオチド差異からわずか1つのヌクレオチド差異を有する配列(例えば、点突然変異又はSNPを有する配列)とを区別することに相当し得る。したがって、本明細書に示されている胚培養培地中のcfDNAの定量の実証は、この方法が、単一ヌクレオチド突然変異、SNP又は他の遺伝子変化の存在を検出する可能性を示す。
【0042】
核ゲノム中の反復配列、例えばlyne配列又はミトコンドリア配列をターゲティングすると、より高い濃度値が得られ得る。
【0043】
結果
胚培養培地中のcfDNAの検出
ターゲティング配列は、二倍体細胞の核の1ゲノム当たり2コピーを有する。3日目又は5/6日目の胚培養培地中で、cfDNAを有意に検出することができた(
図1)。この試験は、最小で1.5ng/ml培地を検出することができ、例えば、最小2GEコピーが培養培地中に見られた。最大27ng/ml cfDNA又は36GEが、5/6日目の培養培地中で観察された(
図2)。これらの数は胚発生に関係し得ることに留意する。このデータはそれ自体として、特定のDNA配列(二倍体細胞1個当たり最大2コピー)の存在の検出の可能性、したがってホモ接合性又はヘテロ接合性の遺伝的又は後成的な変化の存在可能性を示している。各患者について、全てのサンプルにおいて、cfDNAを有意に検出することができた(
図2)。
【0044】
サンプル間には有意な(1Log)内変動及び間変動があるが、これは、ダイナミクス測定がサンプル間の比較を可能にするという考えを支持している。
【0045】
cfDNAとin vitro胚転帰との間の関係
胚培養培地のcfDNA含量とin vitro胚発生との間の関係も調査した:
【0046】
11個の胚の培養培地中で、3日目及び5/6日目に決定したcfDNA濃度を比較することができた。(
図4A)に示されているように、形態学的基準によって評価したところ、3日目と5/6日目との間のcfDNA濃度の差の値は、良好な胚発生ではそれぞれ大きくなっている。(
図4B)に示されているように、cfDNA濃度値は、良好な胚発生に反比例している。したがって、5/6日目のcfDNA濃度及び3日目-5/6日目の濃度の減少は両方とも、in vitro胚発生のマーカーであると思われる。
【0047】
3日目に良い品質の8細胞胚に発生し、5/6日目に胚盤胞期になった胚培養培地から単離したcfDNAを選択し、3つの群に分けた:i)5/6日目に良い品質の胚盤胞に発生し(グレード4AA、4AB又は4BA、5AA、5AB又は5BA)、妊娠をもたらした3日目の胚由来のcfDNA、(ii)5/6日目に中間品質の胚盤胞に発生した3日目の胚由来のcfDNA(グレード4BB又は5BB)、(iii)5/6日目に悪い品質の胚盤胞に発生した3日目の胚由来のcfDNA(グレード4CC又は5CC)(患者HSCについては、表2を参照のこと)。5/6日目に良い品質の胚盤胞に発生し(グレード4AA、4AB、4BA)、妊娠をもたらした3日目の胚由来の培養培地中のcfDNAの量は、3日目及び5/6日目においてそれぞれ22.16ng/ml及び2.75ng/mlであった(88%、減少)。3日目と5/6日目との間のcfDNA値の変動は、中間グレードでは7.55ng/ml及び1.80ng/mlに減少し(76%、減少)、悪いグレードの胚盤胞では6.46ng/ml(3日目)及び3.78(5/6日目)に減少した(41%、減少)(表3)。興味深いことに、溶解した胚(lyzed embryo)では、この変動は非常に小さく、8.36ng/ml(3日目)及び5.57(5/6日目)である(33%、減少)。加えて、患者の転帰にしたがって、5/6日目の胚培養培地中のcfDNA量を評価した。本発明者らは、非妊娠患者由来の5/6日目の胚培養培地中のcfDNAが、妊娠患者のものよりも多かったことを示す(
図5)。
【0048】
胚培養培地中cfDNAを使用して男性胚を検出することができた
TSPY1(Testis specific protein, Y-linked 1)及びRPS4Y1(Ribosomal protein S4, Y-linked 1)などの遺伝子を使用して、胚の性別を明らかにすることができた。これは、X連鎖性疾患のリスクを有することが既知のカップル由来の胚をスクリーニングするための適切な戦略への道を開く。高密度オリゴヌクレオチドAffymetrix HG-U133Pマイクロアレイチップを使用して、XXサンプル及びXYサンプルにおけるTSPY1及びRPS4Y1の発現を調査した。本発明者らの結果は、胚培養培地中のこれらの多コピー遺伝子(cfDNA)を増幅することによって、TSPY1及びRPS4Y1が、胚の性別判定のバイオマーカーとして有益であり得ることを明らかにしている(
図6A及び6B)。この方法は、Y染色体上に位置する他の遺伝子:DDX3Y(DEAD (Asp-Glu-Ala-Asp) box polypeptide 3, Y-linked)、EIF1AY(Eukaryotic translation)及びY染色体遺伝子(SRY)に適用でき得る。
【0049】
表2:胚培養培地中で検出されたcfDNAに関する患者(HSC)のICSI転帰。各成熟MII卵母細胞(受精、胚分割及び胚盤胞発生)から作成したデータを、発生学者が、Gardner and Schoolcraft 1999の形態学的基準にしたがって記録した。
【表2】
【0050】
表3:培養培地中のcfDNAとin vitro胚発生との間の関係。5/6日目の胚盤胞の3つのグレード(良い(AA)、中間(BB)又は悪い品質(CC))を、3日目の良好な8細胞胚から求めた。結果は、3日目と5/6日目との間の培養培地中のcfDNA変動が、胚盤胞のグレードに応じて異なることを示している。
【表3】
【0051】
参考文献:
本出願を通して、本発明が関係する現状技術を様々な参考文献によって説明している。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
【表4】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2021-11-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【外国語明細書】