(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023136
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】T細胞の拡張及び活性化の方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20220131BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220131BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20220131BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20220131BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20220131BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20220131BHJP
C07K 14/725 20060101ALN20220131BHJP
A61K 35/17 20150101ALN20220131BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20220131BHJP
A61P 35/02 20060101ALN20220131BHJP
A61P 31/04 20060101ALN20220131BHJP
A61P 31/12 20060101ALN20220131BHJP
A61P 31/10 20060101ALN20220131BHJP
A61P 33/00 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12N5/0783
C12N5/10
C07K16/28
C12N15/113 Z
C07K19/00
C07K16/18
C07K14/725
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61P35/02
A61P31/04
A61P31/12
A61P31/10
A61P33/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021169476
(22)【出願日】2021-10-15
(62)【分割の表示】P 2018548805の分割
【原出願日】2017-03-14
(31)【優先権主張番号】62/307,989
(32)【優先日】2016-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】591013274
【氏名又は名称】ウィスコンシン アラムニ リサーチ ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】ヘマッティ ペイマン
(72)【発明者】
【氏名】ブルーム デブラ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA92X
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065BA24
4B065BB19
4B065BB40
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087DA20
4C087DA32
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZB32
4C087ZB33
4C087ZB35
4C087ZB37
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA41
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】遺伝子操作及び養子T細胞免疫療法のためにT細胞集団を効率的に拡張及び活性化する方法を提供する。
【解決手段】方法として、(a)前記T細胞におけるBAFF-R受容体活性を低下させる工程、及び(b)抗CD3抗体又はそのCD3結合フラグメント及び抗CD28抗体又はそのCD28結合フラグメントの存在下で、工程(a)のT細胞を約3から約14日間細胞傷害性T細胞を活性化するための適切な条件下で培養する工程を含む。低下工程(a)及び培養工程(b)が、T細胞を活性化させ、活性化T細胞の分裂を誘発して、治療法で使用するために十分な数の活性化T細胞を含む集団を生じる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞の集団を調製する方法であって、以下の工程、
(a)前記T細胞におけるBAFF-R受容体活性を低下させる工程、及び
(b)抗CD3抗体又はそのCD3結合フラグメント及び抗CD28抗体又はそのCD28結合フラグメントの存在下で、工程(a)のT細胞を約3から約14日間細胞傷害性T細胞を活性化するための適切な条件下で培養する工程、
を含み、前記低下工程及び培養工程が、T細胞を活性化させ、活性化T細胞の分裂を誘発して、治療法で使用するために十分な数の活性化T細胞を含む集団を生じることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記T細胞が、白血球含有細胞混合物及び精製T細胞集団から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記白血球含有細胞混合物又は精製T細胞集団が、人間の対象者の末梢血アフェレーシスから入手される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記白血球含有細胞混合物又は精製T細胞集団が、人間の対象者の末梢血単核球から入手される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記集団が、活性化CD4+ T細胞及びCD8+ T細胞の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
細胞傷害性CD8+ T細胞が、前記活性化T細胞集団から優先的に拡張される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
工程(a)の方法が、以下の工程、
(i)BAFF-Rアンタゴニストの存在下でT細胞を培養する工程、及び
(ii)T細胞をBAFF-R特異的shRNAと接触させる工程、
から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記BAFF-Rアンタゴニストが、BAFF-R中和抗体である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法にしたがって調製されたヒトT細胞を含む、ex vivo培養T細胞集団。
【請求項10】
下記工程、
(c)前記T細胞でキメラ抗原受容体を提供して、前記キメラ抗原受容体を含む活性化T細胞の集団を生成する工程、
を追加的に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
提供工程(c)が、以下の工程、
(i)前記キメラ抗原受容体を前記T細胞に導入する工程、及び
(ii)前記キメラ抗原受容体をコードする核酸ベクターを前記T細胞にトランスフェクトし、それによって前記T細胞が、前記キメラ抗原受容体を発現する工程、
から成る群から選択される工程を含む、請求項10に記載の方法、
【請求項12】
低下工程(a)が、以下の工程、
(i)BAFF-Rアンタゴニストの存在下でT細胞を培養する工程、及び
(ii)T細胞をBAFF-R特異的shRNAと接触させる工程、
から成る群から選択される工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記BAFF-Rアンタゴニストが、BAFF-R中和抗体である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項10に記載の方法にしたがって調製されたヒトT細胞を含むex vivo培養T細胞集団。
【請求項15】
疾患を治療する必要がある対象者におけるその疾患を治療する方法であって、請求項9に記載のT細胞集団の治療的に有効な量を前記対象者に投与する工程を含み、投与工程が、前記対象者で前記疾患を治療し、前記疾患が、癌及び感染症から成る群から選択される、前記治療方法。
【請求項16】
前記癌が、血液の悪性疾患である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記血液の悪性疾患が、白血病又はリンパ腫である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記感染症が、細菌性、ウイルス性、真菌性、及び寄生動物性から成る群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記T細胞が、医薬組成物として投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記T細胞が、静脈内注射によって投与される、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互引用)本出願は米国仮特許出願No.62/307,989(2016年3月14日出願)に関し優先権を主張する(前記出願はその全体が完全に示されているかのように参照により本明細書に含まれる)。
(連邦政府支援研究に関する記載)本発明は、米国立衛生研究所のHHSN268201000010Cによる補助の下に政府の支援を受けて達成された。前記政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
T細胞系免疫療法は急速に進歩している分野であり、ここ数年で癌に対して目覚ましい臨床成果を上げている。特に、所望の特異性及び天然の免疫系と比較して強化された機能性を示すヒトT細胞を作り出すことは今や可能である。T細胞のex vivo拡張及び活性化は、T細胞免疫療法のいずれの形態でも必須条件である。下記を含む、いくつかの拡張及び活性化の方法論が開発されてきた:(i)固形腫瘍から単離される腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の拡張のためのIL-2の使用、(ii)抗原提示細胞の使用、及び(iii)キメラ抗原受容体(CAR)T細胞の活性化のための抗CD3及び抗CD28の使用。しかしながら悪性疾患及び感染症治療のためのT細胞免疫療法の広範囲な利用は、in vivoで分裂しかつ持続する臨床級の治療用T細胞製作物の選別及び拡張のための迅速で対費用効果が高くかつ効率の良い方法の欠如によって阻まれている。したがって、臨床治療薬として潜在能力を有するT細胞集団を拡張するより確実な方法論が当業界ではなお希求されている。
【発明の概要】
【0003】
ある特徴では、T細胞の集団を調製する方法が本明細書で提供される。前記方法は、T細胞でBAFF-R受容体活性を低下させる工程、さらに抗CD3抗体又はそのCD3結合フラグメント及び抗CD28抗体又はそのCD28結合フラグメントの存在下で、細胞傷害性T細胞を活性化するために適切な条件の下にT細胞を約3から約14日間培養する工程を含み、ここで、前記低下工程及び培養工程は、T細胞を活性化させ活性化T細胞の分裂を誘発して、治療法で使用するために十分な数の活性化T細胞を含む集団を生じる。
ある実施態様では、T細胞は、白血球含有細胞混合物及び精製T細胞集団から成る群から選択される。ある実施態様では、白血球含有細胞混合物又は精製T細胞集団は、対象者の末梢血のアフェレーシスから入手される。別の実施態様では、白血球含有細胞混合物又は精製T細胞集団は、人間の対象者の末梢血単核球から入手される。
ある実施態様では、活性化T細胞集団は、活性化CD4+ T細胞及びCD8+ T細胞の少なくとも1つを含む。別の実施態様では、細胞傷害性CD8+ T細胞が活性化T細胞集団から優先的に拡張される。
いくつかの実施態様では、T細胞でBAFF-R受容体活性を低下させる方法は、BAFF-Rアンタゴニストの存在下でT細胞を培養する工程、及びT細胞をBAFF-R特異的shRNAと接触させる工程から成る群から選択される。ある実施態様では、BAFF-RアンタゴニストはBAFF-R中和抗体である。
【0004】
別の特徴では、T細胞の集団を調製する方法が本明細書で提供される。前記方法は、T細胞でBAFF-R受容体活性を低下させる工程、抗CD3抗体又はそのCD3結合フラグメント及び抗CD28抗体又はそのCD28結合フラグメントの存在下で、細胞傷害性T細胞を活性化するために適切な条件の下にT細胞を約3から約14日間培養する工程、及びT細胞でキメラ抗原受容体を提供して前記キメラ抗原受容体を含む活性化T細胞の集団を生成する工程を含む。
本発明のいくつかの実施態様では、T細胞でキメラ抗原受容体を提供する工程は、キメラ抗原受容体をT細胞に導入する工程及びキメラ抗原受容体をコードする核酸ベクターをT細胞にトランスフェクトしてT細胞に前記キメラ抗原受容体を発現させる工程から成る群から選択される。
別の特徴では、本明細書に記載の方法にしたがって調製されるヒトT細胞を含むex vivo培養T細胞集団が本明細書で提供される。
別の特徴では、その必要がある対象者で疾患を治療する方法が本明細書で提供される。前記方法は、本明細書に記載の方法によって作製されるT細胞集団の治療的に有効な量を前記対象者に投与する工程を含み、ここで、投与工程は対象者の疾患を治療し、前記疾患は癌及び感染症から成る群から選択される。
いくつかの実施態様では、癌は血液の悪性疾患である。いくつかの実施態様では、血液の悪性疾患は白血病又はリンパ腫である。いくつかの実施態様では、感染症は、細菌性、ウイルス性、真菌性、及び寄生動物性から成る群から選択される。いくつかの実施態様では、T細胞は医薬組成物として投与される。ある実施態様では、T細胞は静脈内注射によって投与される。
(参照による取り込み)本明細書に記載される全ての刊行物、特許及び特許出願は、個々の刊行物、特許及び特許出願の各々が、参照により取り込まれると特別にかつ個々に指示されたと同じ程度に参照により本明細書に取り込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1A】siRNA遺伝子サイレンシングによるMSC-BAFFの下方調整を示す。BAFFレベルとT細胞分裂の相関関係。7つの異なるBAFF siRNA構築物をトランスフェクトした単一MSC株の代表的なグラフを示す。BAFFレベルはT細胞分裂と逆相関性を有した。相関係数は0.72-0.81の範囲であった。
【
図1B】siRNA遺伝子サイレンシングによるMSC-BAFFの下方調整を示す。MSCはまたIL-6を発現する。コントロールとして、IL-6レベルを各上清で分析し、前記レベルはT細胞分裂と相関関係を有した。IL-6発現はT細胞分裂の程度とは相関しなかった。
【
図2A】CD4+ T細胞分裂におけるBAFF受容体遮断の効果を示す。BAFF受容体BR3、TACI、及びBCMAとのリガンド(BAFF及びAPRIL)結合を遮断する抗体をPBL培養に添加した(前記培養でT細胞は抗CD3ε及び抗CD28により活性化される)。遮断抗体を0日目に添加し、抗CD4抗原提示細胞(APC)抗体を用いフローサイトメトリーによってT細胞分裂を4日目に分析した。ヤギIgGは、抗BR3及び抗BCMAに対するコントロール抗体である。マウスIgG1は抗TACIに対するコントロール抗体である。
図2A及び2Bは2つの異なるドナーPBLサンプルのデータを示す。
【
図2B】CD4+ T細胞分裂におけるBAFF受容体遮断の効果を示す。BAFF受容体BR3、TACI、及びBCMAとのリガンド(BAFF及びAPRIL)結合を遮断する抗体をPBL培養に添加した(前記培養でT細胞は抗CD3ε及び抗CD28により活性化される)。遮断抗体を0日目に添加し、抗CD4抗原提示細胞(APC)抗体を用いフローサイトメトリーによってT細胞分裂を4日目に分析した。ヤギIgGは、抗BR3及び抗BCMAに対するコントロール抗体である。マウスIgG1は抗TACIに対するコントロール抗体である。
図2A及び2Bは2つの異なるドナーPBLサンプルのデータを示す。
【
図3A】CD8+ T細胞活性化及び分裂におけるBAFF受容体遮断の効果を示す。BAFF受容体BR3、TACI、及びBCMAとのリガンド(BAFF及びAPRIL)結合を遮断する抗体をPBL培養に添加した(前記培養でT細胞は抗CD3ε及び抗CD28により活性化される)。遮断抗体を0日目に添加し、抗CD8 APC抗体を用いフローサイトメトリーによってT細胞分裂を4日目に分析した。ヤギIgGは、抗BR3及び抗BCMAに対するコントロール抗体である。マウスIgG1は抗TACIに対するコントロール抗体である。(A)BAFF受容体遮断下でのCD8+ T細胞の分裂。(B)PBL培養上清におけるIFN-γレベルのELISA分析。二人の別個のPBLドナーの弁別的レベルが示される。(C)PBL(活性化T細胞)培養上清におけるグランザイムBレベルのELISA分析。二人の別個のPBLドナーを用いて実験を実施した。
【
図3B】CD8+ T細胞活性化及び分裂におけるBAFF受容体遮断の効果を示す。BAFF受容体BR3、TACI、及びBCMAとのリガンド(BAFF及びAPRIL)結合を遮断する抗体をPBL培養に添加した(前記培養でT細胞は抗CD3ε及び抗CD28により活性化される)。遮断抗体を0日目に添加し、抗CD8 APC抗体を用いフローサイトメトリーによってT細胞分裂を4日目に分析した。ヤギIgGは、抗BR3及び抗BCMAに対するコントロール抗体である。マウスIgG1は抗TACIに対するコントロール抗体である。(A)BAFF受容体遮断下でのCD8+ T細胞の分裂。(B)PBL培養上清におけるIFN-γレベルのELISA分析。二人の別個のPBLドナーの弁別的レベルが示される。(C)PBL(活性化T細胞)培養上清におけるグランザイムBレベルのELISA分析。二人の別個のPBLドナーを用いて実験を実施した。
【
図3C】CD8+ T細胞活性化及び分裂におけるBAFF受容体遮断の効果を示す。BAFF受容体BR3、TACI、及びBCMAとのリガンド(BAFF及びAPRIL)結合を遮断する抗体をPBL培養に添加した(前記培養でT細胞は抗CD3ε及び抗CD28により活性化される)。遮断抗体を0日目に添加し、抗CD8 APC抗体を用いフローサイトメトリーによってT細胞分裂を4日目に分析した。ヤギIgGは、抗BR3及び抗BCMAに対するコントロール抗体である。マウスIgG1は抗TACIに対するコントロール抗体である。(A)BAFF受容体遮断下でのCD8+ T細胞の分裂。(B)PBL培養上清におけるIFN-γレベルのELISA分析。二人の別個のPBLドナーの弁別的レベルが示される。(C)PBL(活性化T細胞)培養上清におけるグランザイムBレベルのELISA分析。二人の別個のPBLドナーを用いて実験を実施した。
【
図4A】活性化マーカーと関係するCD4及びCD8 T細胞のBR3のフロー分析を示す。(A)抗BR3抗体クローン11C1を用いた、休止及び活性化ヒトT細胞のBR3パーセンテージ。T細胞サブセットを精製し、プレート結合抗CD3及び抗CD28で21時間刺激し、その後フローサイトメトリー分析のために前記を抗BR3-PEについて染色した。(B)CD25及びBR3の休止及び刺激ドットプロット。(C)活性化T細胞のBR3+ CD25とBR3- CD25発現。(D)BR3とIFN-ガンマのドットプロット。IFN-ガンマは細胞内フローサイトメトリーを用いて検出した。T細胞を上記のように18時間刺激し、ブレフェルジンAで6時間インキュベートした。続いて細胞を固定して透過性にし、抗BR3 PE及び抗IFN-ガンマAPCで染色した。
【
図4B】活性化マーカーと関係するCD4及びCD8 T細胞のBR3のフロー分析を示す。(A)抗BR3抗体クローン11C1を用いた、休止及び活性化ヒトT細胞のBR3パーセンテージ。T細胞サブセットを精製し、プレート結合抗CD3及び抗CD28で21時間刺激し、その後フローサイトメトリー分析のために前記を抗BR3-PEについて染色した。(B)CD25及びBR3の休止及び刺激ドットプロット。(C)活性化T細胞のBR3+ CD25とBR3- CD25発現。(D)BR3とIFN-ガンマのドットプロット。IFN-ガンマは細胞内フローサイトメトリーを用いて検出した。T細胞を上記のように18時間刺激し、ブレフェルジンAで6時間インキュベートした。続いて細胞を固定して透過性にし、抗BR3 PE及び抗IFN-ガンマAPCで染色した。
【
図4C】活性化マーカーと関係するCD4及びCD8 T細胞のBR3のフロー分析を示す。(A)抗BR3抗体クローン11C1を用いた、休止及び活性化ヒトT細胞のBR3パーセンテージ。T細胞サブセットを精製し、プレート結合抗CD3及び抗CD28で21時間刺激し、その後フローサイトメトリー分析のために前記を抗BR3-PEについて染色した。(B)CD25及びBR3の休止及び刺激ドットプロット。(C)活性化T細胞のBR3+ CD25とBR3- CD25発現。(D)BR3とIFN-ガンマのドットプロット。IFN-ガンマは細胞内フローサイトメトリーを用いて検出した。T細胞を上記のように18時間刺激し、ブレフェルジンAで6時間インキュベートした。続いて細胞を固定して透過性にし、抗BR3 PE及び抗IFN-ガンマAPCで染色した。
【
図4D】活性化マーカーと関係するCD4及びCD8 T細胞のBR3のフロー分析を示す。(A)抗BR3抗体クローン11C1を用いた、休止及び活性化ヒトT細胞のBR3パーセンテージ。T細胞サブセットを精製し、プレート結合抗CD3及び抗CD28で21時間刺激し、その後フローサイトメトリー分析のために前記を抗BR3-PEについて染色した。(B)CD25及びBR3の休止及び刺激ドットプロット。(C)活性化T細胞のBR3+ CD25とBR3- CD25発現。(D)BR3とIFN-ガンマのドットプロット。IFN-ガンマは細胞内フローサイトメトリーを用いて検出した。T細胞を上記のように18時間刺激し、ブレフェルジンAで6時間インキュベートした。続いて細胞を固定して透過性にし、抗BR3 PE及び抗IFN-ガンマAPCで染色した。
【
図5A】抗BR3媒介遮断は、CD25(IL2-R-アルファ)発現によって計測されるとおりT細胞活性化を増加させることを示す。(A)抗BR3で処理し21時間活性化したCD4+及びCD8+ T細胞におけるCD25発現増加のフローサイトメトリー。(B)CD4+及びCD8+ T細胞のCD25 mRNAの半定量PCR。CD25発現は、21時間活性化したT細胞サブセットのGAPDH発現について測定した。(C)CD25の細胞表面発現は、ナノグラム/mL濃度(腫瘍のミクロ環境で見いだされるレベル)で添加した外因性BAFFの存在下で抗BR3により増加する。
【
図5B】抗BR3媒介遮断は、CD25(IL2-R-アルファ)発現によって計測されるとおりT細胞活性化を増加させることを示す。(A)抗BR3で処理し21時間活性化したCD4+及びCD8+ T細胞におけるCD25発現増加のフローサイトメトリー。(B)CD4+及びCD8+ T細胞のCD25 mRNAの半定量PCR。CD25発現は、21時間活性化したT細胞サブセットのGAPDH発現について測定した。(C)CD25の細胞表面発現は、ナノグラム/mL濃度(腫瘍のミクロ環境で見いだされるレベル)で添加した外因性BAFFの存在下で抗BR3により増加する。
【
図5C】抗BR3媒介遮断は、CD25(IL2-R-アルファ)発現によって計測されるとおりT細胞活性化を増加させることを示す。(A)抗BR3で処理し21時間活性化したCD4+及びCD8+ T細胞におけるCD25発現増加のフローサイトメトリー。(B)CD4+及びCD8+ T細胞のCD25 mRNAの半定量PCR。CD25発現は、21時間活性化したT細胞サブセットのGAPDH発現について測定した。(C)CD25の細胞表面発現は、ナノグラム/mL濃度(腫瘍のミクロ環境で見いだされるレベル)で添加した外因性BAFFの存在下で抗BR3により増加する。
【
図6A】BR3が遮断された精製CD4+及びCD8+ T細胞サブセットのIFN-γの増加を示す。(A)抗BR3存在下及び非存在下における細胞内IFN-γ発現のドットプロット。(B)CD4+及びCD8+ T細胞のIFN-γ発現の21時間ELISA。(C)活性化後21時間の半定量PCR。ヤギIgGコントロール又は抗BR3で処理したCD4+及びCD8+ T細胞のIFN-γの相対的遺伝子発現を示す。
【
図6B】BR3が遮断された精製CD4+及びCD8+ T細胞サブセットのIFN-γの増加を示す。(A)抗BR3存在下及び非存在下における細胞内IFN-γ発現のドットプロット。(B)CD4+及びCD8+ T細胞のIFN-γ発現の21時間ELISA。(C)活性化後21時間の半定量PCR。ヤギIgGコントロール又は抗BR3で処理したCD4+及びCD8+ T細胞のIFN-γの相対的遺伝子発現を示す。
【
図6C】BR3が遮断された精製CD4+及びCD8+ T細胞サブセットのIFN-γの増加を示す。(A)抗BR3存在下及び非存在下における細胞内IFN-γ発現のドットプロット。(B)CD4+及びCD8+ T細胞のIFN-γ発現の21時間ELISA。(C)活性化後21時間の半定量PCR。ヤギIgGコントロール又は抗BR3で処理したCD4+及びCD8+ T細胞のIFN-γの相対的遺伝子発現を示す。
【
図7A】shRNAによる阻害はCD25及びIFN-γを増加させることを示す。(A)shRNAの使用はCD4+ T細胞のBR3発現を下方調整する。ダーマコン社(Dharmacon Inc.)のGIPZ BR3特異的shRNA構築物をGIPZコントロールベクターに加えて用いた。(B)shRNAによるT細胞の細胞表面CD25発現はBR3のダウンレギュレーションを高める。フローサイトメトリー分析は、ヌクレオポレーションとそれに続く21時間活性化期間の後の18時間T細胞休止後に実施した。(C)IFN-γの発現はBR3サイレント化CD4+ T細胞で増加した。細胞内フローサイトメトリーは、18時間の活性化とそれに続くブレフェルジンAの存在下での6時間インキュベーションの後に実施した。
【
図7B】shRNAによる阻害はCD25及びIFN-γを増加させることを示す。(A)shRNAの使用はCD4+ T細胞のBR3発現を下方調整する。ダーマコン社(Dharmacon Inc.)のGIPZ BR3特異的shRNA構築物をGIPZコントロールベクターに加えて用いた。(B)shRNAによるT細胞の細胞表面CD25発現はBR3のダウンレギュレーションを高める。フローサイトメトリー分析は、ヌクレオポレーションとそれに続く21時間活性化期間の後の18時間T細胞休止後に実施した。(C)IFN-γの発現はBR3サイレント化CD4+ T細胞で増加した。細胞内フローサイトメトリーは、18時間の活性化とそれに続くブレフェルジンAの存在下での6時間インキュベーションの後に実施した。
【
図7C】shRNAによる阻害はCD25及びIFN-γを増加させることを示す。(A)shRNAの使用はCD4+ T細胞のBR3発現を下方調整する。ダーマコン社(Dharmacon Inc.)のGIPZ BR3特異的shRNA構築物をGIPZコントロールベクターに加えて用いた。(B)shRNAによるT細胞の細胞表面CD25発現はBR3のダウンレギュレーションを高める。フローサイトメトリー分析は、ヌクレオポレーションとそれに続く21時間活性化期間の後の18時間T細胞休止後に実施した。(C)IFN-γの発現はBR3サイレント化CD4+ T細胞で増加した。細胞内フローサイトメトリーは、18時間の活性化とそれに続くブレフェルジンAの存在下での6時間インキュベーションの後に実施した。
【
図8A】抗BR3はT細胞傷害性を増大させることを示す。(A)
図9Aは、抗CD3/CD28活性化CD4+ T細胞のグランザイムB発現を抗BR3又はヤギIgGコントロールを用いて示す(発現はPCR及びELISAにより測定)。グランザイムBの増大は、BR3中和に特異的であり、TACI又はBCMA中和では増加しない。パーフォリンは抗BR3で増加しない。(B)CRTAMは細胞溶解性CD4+及び活性化CD8+細胞で発現される。フローサイトメトリーで測定したとき、抗BR3はCRTAM+細胞のCD25発現を増加させるが、抗TACI及び抗BCMA中和抗体は増加させない。CD25のメディアンチャネル蛍光における増加は、CRTAM+CD8+ T細胞の場合よりCRTAM+CD4+ T細胞でより大きい。(C)抗BR3遮断は、CD4+ T細胞によるメラノーマ細胞株U266の殺滅を増加させる。殺滅は細胞傷害性キット(Bio-Rad, Inc.)を用いLDHの遊離によって測定した。(D)抗BR3は、メラノーマ細胞株A375のT細胞殺滅を高める。抗CD3/CD28、ヤギIgGコントロール又は抗BR3で刺激したT細胞と3日間共同培養した後の接着性A375細胞の激減を示す。
【
図8B】抗BR3はT細胞傷害性を増大させることを示す。(A)
図9Aは、抗CD3/CD28活性化CD4+ T細胞のグランザイムB発現を抗BR3又はヤギIgGコントロールを用いて示す(発現はPCR及びELISAにより測定)。グランザイムBの増大は、BR3中和に特異的であり、TACI又はBCMA中和では増加しない。パーフォリンは抗BR3で増加しない。(B)CRTAMは細胞溶解性CD4+及び活性化CD8+細胞で発現される。フローサイトメトリーで測定したとき、抗BR3はCRTAM+細胞のCD25発現を増加させるが、抗TACI及び抗BCMA中和抗体は増加させない。CD25のメディアンチャネル蛍光における増加は、CRTAM+CD8+ T細胞の場合よりCRTAM+CD4+ T細胞でより大きい。(C)抗BR3遮断は、CD4+ T細胞によるメラノーマ細胞株U266の殺滅を増加させる。殺滅は細胞傷害性キット(Bio-Rad, Inc.)を用いLDHの遊離によって測定した。(D)抗BR3は、メラノーマ細胞株A375のT細胞殺滅を高める。抗CD3/CD28、ヤギIgGコントロール又は抗BR3で刺激したT細胞と3日間共同培養した後の接着性A375細胞の激減を示す。
【
図8C】抗BR3はT細胞傷害性を増大させることを示す。(A)
図9Aは、抗CD3/CD28活性化CD4+ T細胞のグランザイムB発現を抗BR3又はヤギIgGコントロールを用いて示す(発現はPCR及びELISAにより測定)。グランザイムBの増大は、BR3中和に特異的であり、TACI又はBCMA中和では増加しない。パーフォリンは抗BR3で増加しない。(B)CRTAMは細胞溶解性CD4+及び活性化CD8+細胞で発現される。フローサイトメトリーで測定したとき、抗BR3はCRTAM+細胞のCD25発現を増加させるが、抗TACI及び抗BCMA中和抗体は増加させない。CD25のメディアンチャネル蛍光における増加は、CRTAM+CD8+ T細胞の場合よりCRTAM+CD4+ T細胞でより大きい。(C)抗BR3遮断は、CD4+ T細胞によるメラノーマ細胞株U266の殺滅を増加させる。殺滅は細胞傷害性キット(Bio-Rad, Inc.)を用いLDHの遊離によって測定した。(D)抗BR3は、メラノーマ細胞株A375のT細胞殺滅を高める。抗CD3/CD28、ヤギIgGコントロール又は抗BR3で刺激したT細胞と3日間共同培養した後の接着性A375細胞の激減を示す。
【
図8D】抗BR3はT細胞傷害性を増大させることを示す。(A)
図9Aは、抗CD3/CD28活性化CD4+ T細胞のグランザイムB発現を抗BR3又はヤギIgGコントロールを用いて示す(発現はPCR及びELISAにより測定)。グランザイムBの増大は、BR3中和に特異的であり、TACI又はBCMA中和では増加しない。パーフォリンは抗BR3で増加しない。(B)CRTAMは細胞溶解性CD4+及び活性化CD8+細胞で発現される。フローサイトメトリーで測定したとき、抗BR3はCRTAM+細胞のCD25発現を増加させるが、抗TACI及び抗BCMA中和抗体は増加させない。CD25のメディアンチャネル蛍光における増加は、CRTAM+CD8+ T細胞の場合よりCRTAM+CD4+ T細胞でより大きい。(C)抗BR3遮断は、CD4+ T細胞によるメラノーマ細胞株U266の殺滅を増加させる。殺滅は細胞傷害性キット(Bio-Rad, Inc.)を用いLDHの遊離によって測定した。(D)抗BR3は、メラノーマ細胞株A375のT細胞殺滅を高める。抗CD3/CD28、ヤギIgGコントロール又は抗BR3で刺激したT細胞と3日間共同培養した後の接着性A375細胞の激減を示す。
【
図9】
図8Dに記載したT細胞-A375共同培養の上清のIFN-γレベルを示す。T細胞をA375細胞と1-0、1-1、及び1-0.1比で、無抗体下、ヤギIgGコントロール存在下、及び抗BR3存在下で培養した。A375細胞はT細胞活性化を抑制する。抗BR3は、A375によって媒介されるIFN-ガンマ生成抑制を克服する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本明細書に開示する方法は、少なくとも部分的には、本発明者らのT細胞抑制におけるBAFF(B細胞活性化因子)及びAPRIL(分裂誘発リガンド)の役割の発見に基づく。BAFFは、B細胞分化のための重要な調節因子であり、末梢B細胞集団の生存及び活性化の調節に必須である。BAFFは下記の3つのTNF受容体サブファミリーメンバーと結合する:B細胞成熟抗原(BCMA/TNFRSF17)、トランスメンブレンアクチベーター及びカルシウム調節因子及びシクロフィリンリガンドインターアクター(TACI/TNFRSF13B)、並びにBAFF受容体(BAFF-R/BR3/TNFRSF13C/BLyS受容体3及びTNFRSF13Cとしても知られている)。これらの受容体は、シグナルペプチドを欠くIII型トランスメンブレンタンパク質である。TACI及びBCMAはBAFF及び別のTNFスーパーファミリーリガンド、APRIL(分裂誘発リガンド)の両方と結合するが、一方、BAFF-Rは選択的にBAFFと結合する。
本明細書で初めて記載するように、MSC由来BAFF/APRIL又は組換えBAFF/APRILのインターフェロンガンマ活性化MSC培養への添加は、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO1)酵素の発現及び活性を高めることができる(前記酵素は必須アミノ酸L-トリプトファンのN-フォルミルキヌレインへの分解を触媒する)。BAFF及びAPRILはIDO1発現のためのトグルスイッチとして機能するように思われる。いかなる特定の理論にも拘束されないが、発現を増大させるBAFF/APRIL受容体を特異的に遮断することによるIDO1のダウンレギュレーションは白血球機能を低下させ、エフェクターT細胞の分裂を高めるであろうと考える。
したがって、本開示は、養子細胞療法の細胞集団及び組成物を調製するための方法、細胞、及び組成物に関する。特に、遺伝子操作及び養子T細胞免疫療法のためのT細胞集団を確実に拡張及び活性化する効率的で効果的な方法を提供する。本発明の方法は、特定のT細胞集団を選択的に活性化することによって治療的方法で使用されるT細胞を提供する。さらにまた、前記方法によって作製される細胞及び組成物、並びにそれらを使用する方法が提供される。本開示はまた、T細胞のin vivo活性化及び拡張の刺激、及び抗BAFF-R剤のin vivo投与のための方法に関する。
【0007】
方法
第一の特徴では、ex vivoでT細胞を拡張及び活性化することによる、T細胞の集団を調製する確実な方法が本明細書で提供される。本明細書で用いられるように、“ex vivo”という用語は生物の外部で生じる状態を指す。本開示の関係では、免疫細胞のex vivo処置は、そのような細胞をある種の生物学的分子(例えばアゴニスト、アンタゴニスト)にin vitro(すなわち生物の外部)で、好ましくは無菌的条件下で暴露することを意味する。いくつかの事例では、ex vivo方法は、人間から単離した免疫細胞を同じ人間の対象者に投与し直す前に培養する工程を追加的に含む。
第一の工程では、BAFF受容体はT細胞の集団でダウンレギュレート又は遮断され、それによってBAFF受容体の活性は消失又は低下する。BAFF受容体は、当業界で公知の適切な方法又は技術によってダウンレギュレート又は遮断され得る。遺伝子発現のダウンレギュレーション又は受容体活性の低下のための公知の方法には、CRISPR、ミクロRNA、shRNA、RNAi、中和抗体、小分子阻害因子、下流のシグナリング経路を遮断する化学的阻害因子などが含まれるが、ただしこれらに限定されない。いくつかの実施態様では、BAFF受容体活性又は遺伝子発現は、1%-100%の間で(すなわち、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、100%)低下する。ある実施態様では、T細胞はBAFF受容体アンタゴニストの存在下で培養される。ある実施態様では、T細胞をBAFF-R特異的shRNAと接触させてBAFF-R遺伝子発現を低下させる。
ある実施態様では、T細胞はBAFF受容体アンタゴニストの存在下で培養される。例示的な実施態様では、BAFF受容体アンタゴニストは、B細胞活性化因子受容体(BAFF-R)と反応する中和抗体である。ヒト抗BAFF-R抗体は、市場の供給業者(例えばR&D Systems及びInvitrogen)から入手できる。
【0008】
好ましくは、T細胞は白血球含有細胞混合物又は精製T細胞集団に存在する。いくつかの事例では、白血球含有細胞混合物又は精製T細胞集団は、例えば人間の対象者の末梢血のアフェレーシス又は人間の対象者の末梢血単核球から入手される。本明細書で用いられるように、“白血球含有細胞混合物”は、白血球細胞タイプ(顆粒球、リンパ球及び単球を含む)を含む細胞集団又は細胞組成物を指す。白血球含有細胞混合物は、好ましくは1つ以上の特異的な白血球細胞タイプを含む。好ましい細胞タイプは、リンパ球(特にT-リンパ球(“T細胞”)である。本明細書で用いられるように、“精製T細胞集団”は、血液又は白血球環境(例えば白血球アフェレーシスによって得られる)から単離、分離、或いは除去されたT細胞を指し、それにより単離/分離されたT細胞は、それらがin vivoで存在する環境とは異なる生理的環境に存在する。前記用語はいかなる特定の純度も示唆せず、さらに純度の絶対的レベルは必須ではない。当業者は、本明細書で提供する方法にしたがって使用される適切な純度レベルを容易に決定できる。
ある実施態様では、T細胞をBAFF-R特異的shRNAと接触させてBAFF-R遺伝子発現を低下させる。本発明に適するshRNAは、相補性BR3 mRNAの切断及びその後の分解を指令できるものである。適切なshRNA構築物はダーマコン社から購入できる。
【0009】
次の工程では、BAFF受容体がダウンレギュレート又は遮断されたT細胞は、抗CD3抗体又はそのCD3結合フラグメント及び抗CD28抗体又はそのCD28結合フラグメントの存在下で約3日から約14日間(例えば約3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14日)、T細胞の活性化のために適切な条件下で培養される。この約3から14日培養工程を用いるin vitroのT細胞拡張はそのような培養T細胞を活性化し分裂を誘発して、治療法で使用するために十分な数の活性化された細胞傷害性T細胞を含む拡張集団を生じる。前記拡張T細胞集団はCD4陽性T細胞又はCD8陽性T細胞を含むことができる。いくつかの事例では、細胞傷害性CD8+ T細胞が前記活性化T細胞集団から優先的に拡張される。
T細胞の活性化のために適切な条件は、T細胞の生存能力の維持に適する任意の培地、並びに抗CD3抗体及びCD28抗体をT細胞と接触させることができる前記抗体の任意の処方を含む。いくつかの実施態様では、抗CD3及び抗CD28抗体は固体基材(例えばビーズ又はプレート表面)に固定できる。いくつかの実施態様では、抗CD3及び抗CD28抗体は可溶性である。ある実施態様では、白血球培養の例示的培養液はRPMI1640細胞培養液又は同様な細胞培養液である。場合によって、培地は約25%までの熱不活化ヒト血清アルブミンを含むことができる。BAFF-Rアンタゴニストを培養液に添加し、任意の適切な温度(例えば4℃、25℃又は37℃)でBAFF-Rアンタゴニストとのインキュベーションを実施することができる。好ましくは、BAFF-Rアンタゴニストインキュベーションは37℃で実施される。便利には当業者が適切な処置時間を最適化することができる。好ましくは、処置時間は約1時間から約24時間である。白血球との接触のための例示的BAFF-Rアンタゴニスト量には約0.1μg/mLから約100μg/mLが含まれる。当業者は有用なBAFF-Rアンタゴニスト量を容易に決定してBAFF-R活性を低下又は消失させることができる。
【0010】
T細胞は、その表面にCD4を発現する細胞(CD4陽性細胞とも称される)及びその表面にCD8を発現する細胞(CD8陽性細胞とも称される)におおまかに分けられる。本明細書で提供する方法にしたがって使用するために適切なT細胞は、人間のドナーの骨髄(BM)又は末梢血(PB)に由来する単核リンパ球(PBL)である。これらの細胞は、BM又はPBから直接採集するか、又は他家もしくは自家ドナーへの増殖因子及び/又はサイトカイン(例えば顆粒球-コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージ-コロニー刺激因子(GM-CSF))の投与により動員又は刺激した後で採集できる。末梢血から末梢血単核球(PBMC)を単離する確立された多くのプロトコルが存在することは当業者には理解されよう。静脈穿刺により簡便に人間の末梢血を採集することができる。PBMCの単離は密度勾配分離プロトコルによって補助され、血液中の他の成分からリンパ球を分離するために通常は密度勾配遠心分離技術を利用し、フィコール-ハイパーク(Ficoll(商標)-Hypaque)又はヒストパーク(Histopaque(商標))を用いることができる。好ましくは、PBMC単離は無菌条件下で実施される。また別には、細胞エルトリエーション法を利用して、単核球集団を分離することができる。細胞エルトリエーション法の利点には無菌性及び効率性が含まれる。
【0011】
例示的な実施態様では、本明細書で提供する方法は、T細胞活性化を誘発する刺激でBAFF-R接触白血球を活性化する工程を含む。例示的な刺激には、分裂促進因子(例えばコンカナバリンA)、IL-2、及び抗CD2-、抗CD3-又は抗CD28-ビーズが含まれるが、ただしこれらに限定されない。CD28(T90/44抗原又はTp44としても知られている)はT細胞表面発現抗原であり、前記はT細胞上で働く共刺激タンパク質の受容体である。CD3は、成熟Tリンパ球の少なくとも5つの膜結合ポリペプチドの複合体であり、前記ポリペプチドは互いにさらにT細胞受容体と非共有結合により結合する。CD3複合体は、ガンマ、デルタ、エプシロン、ゼータ及びエータサブユニットを含む。抗原がT細胞受容体に結合するとき、CD3複合体は活性化シグナルをT細胞の細胞質に形質導入する。例えば、T細胞受容体と抗CD3モノクローナル抗体(mAb)との架橋は、T細胞の活性化、分裂、サイトカイン合成、及び腫瘍標的に向けられる非特異的細胞傷害性を生じる。これらの活性化T細胞は、IL-2生成増加を特徴とし、非MHC拘束細胞傷害性を示し、さらにIFNγ、TNFα及びGM-CSFを生成する。
【0012】
いくつかの事例では、本開示の方法は、遺伝子操作受容体又はキメラ抗原受容体を活性化T細胞に導入する工程を含み、それによって前記方法は、前記遺伝子操作又はキメラ抗原受容体を発現するCD4+ T細胞及びCD8+ T細胞を含む拡張集団を生じる。キメラ抗原受容体(CAR)(キメラT細胞受容体、人工T細胞受容体及びキメラ免疫受容体としても知られる)は操作された受容体であり、前記は特異性を免疫エフェクター細胞に移植する。一般的に、キメラ抗原受容体は標的抗原結合ドメインを有するトランスメンブレンタンパク質であり、前記結合ドメインはスペーサー及びトランスメンブレンドメインを介してシグナリングエンドドメインに融合される。CARがその標的抗原と結合するとき、活性化シグナルがT細胞に伝達される。ある実施態様では、キメラ抗原受容体又は遺伝子操作受容体がT細胞に導入される。ある実施態様では、キメラ抗原受容体又は遺伝子操作受容体をコードする核酸ベクターがT細胞にトランスフェクトされ、それによってT細胞はキメラ抗原受容体を発現する。
ex vivo操作手順の間に用いられる試薬及び他の物質(例えば抗体、サイトカイン、血清、他の化学品、又は固体支持体(例えばビーズ))及び特にウイルス系遺伝子ベクターは、治療用細胞プロダクトの無菌的製造に適合していなければならない。
【0013】
本明細書で提供する方法にしたがって入手される拡張T細胞集団は、細胞免疫療法(T細胞療法、養子細胞療法(ACT)及びCAR T細胞療法を含む(ただしこれらに限定されない))で有用である。本明細書で用いられるように、“養子細胞療法”という用語は、エフェクター機能を媒介するリンパ球の移転を指す。例えば、本明細書の記載にしたがって入手される拡張T細胞集団をACT方法で用いて、癌(例えばリンパ腫)患者の機能的T細胞欠損をin vivo及びin vitroで逆転させることができる。養子T細胞療法は、キメラ抗原受容体を発現するように操作したT細胞の投与、遺伝子改変されていない腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の投与、及びT細胞受容体(TCR)操作を実施したT細胞の投与を含む。T細胞チェックポイント療法及びTIL療法は、T細胞区画の本来備わっている腫瘍認識能力を活用する。遺伝子改変T細胞による養子療法は、他の状況では患者に存在しない腫瘍特異的T細胞区画を作り出すことによって完全に異なる要求を満たす潜在能力を有する。したがって、遺伝子改変ACTは、T細胞チェックポイント療法又はTIL療法に応答し得ない腫瘍タイプ(例えば小児に生じる大半の癌及び多くの血液学的悪性疾患)に対して潜在能力を有する。加えて、T細胞チェックポイント療法及び遺伝子改変ACTは相乗的に機能する潜在能力を有する。したがって、本明細書で提供する方法にしたがって入手されるT細胞を用いる養子細胞療法は、追加の治療技術(例えばチェックポイント遮断抗体、ワクチン及び標的誘導下薬剤療法)と組合わせ得ることが意図される。
【0014】
ドナーリンパ球輸液(DLL)は直接的でかつ強力な移植片対腫瘍(GVT)効果を誘発する。前記はドナー移植片の同種異系幹細胞移植(SCT)後に再発する患者に特に有効である。Ex vivo活性化DLI(aDLI)の使用はいくつかの白血病の患者で有益であり得る。そのような事例では、活性化ドナーT細胞は、抗CD3(OKT3)及び/又は抗CD28被覆磁性ビーズへの暴露に続いて共同刺激及び拡張することによって得られる。一般的には、CD3及びCD28によるT細胞の共同刺激は活性化T細胞を生成することができ、前記T細胞は、疾患誘発アネルギーを克服し、CD4機能を保全及び増大させ、さらにGVT活性を強化することができる。本明細書で提供する方法にしたがって入手されるT細胞は、対象者(例えば同種異系SCT後に再発を示す対象者)に輸液できる。
いくつかの事例では、PBMC物からT細胞を同時に単離及び活性化(刺激)するのが有利であり得る。例えば、抗CD3及び抗CD28被覆磁性ビーズ(すなわちCTSダイナビーズCD3/CD28)を大きな磁石と一緒に用いて、磁性ビーズ結合細胞を磁性ビーズに結合しないものから分離することができる。
さらにまたT細胞をin vivoで活性化及び拡張するために、対象者に抗BAFF-R剤を投与する方法が本明細書で意図される。本明細書で用いられるように、“抗BAFF-R剤”は、BAFF-R受容体の活性又は遺伝子発現を阻害し又は低下させるものを指す。抗BAFF-R剤には、阻害性抗BAFF-Rモノクローナル抗体、小分子阻害剤、shRNA、shRNAベクター、ミクロRNA、ミクロRNAベクターなどが含まれるが、ただしこれらに限定されない。本明細書で提供する方法にしたがって入手されるT細胞の拡張集団を利用する治療手段は、T細胞のin vivo活性化のための補充となるか、又は代用となり得る。
【0015】
本明細書で提供する方法にしたがって入手されるT細胞の拡張集団は、多様な疾患、例えば癌(血液の悪性疾患(例えばリンパ腫又は白血病)又は固形腫瘍(例えばメラノーマ又は腎癌))又は感染症(例えばHIV)の治療もしくは予防に有用である。本明細書で用いられるように、“治療する”又は“治療”は、治療的及び予防的又は防止的手段の両方を指し、この場合、目標は望ましくない生理学的変化又は病理学的異常を防止するか又は遅らせる(減少させる)ことである。本発明の目的のためには、癌の治療には、1つ以上の臨床指標の緩和、腫瘍の成長又は腫瘍細胞分裂の減少、癌の様態の1つ以上の臨床指標の重篤度の低下、前記様態の程度の軽減、対象者の病期の安定化(すなわち悪化しないこと)、癌進行の遅延、停止又は逆転、及び部分的又は完全な緩解の発生が含まれるが、ただしこれらに限定されない。癌の治療にはまた、本明細書で提供する方法にしたがって入手されるT細胞を取り入れない標準的医療で治療した場合の予後と比較して日数、週数、月数又は年数による生存延長が含まれる。治療を必要とする対象者には、すでに癌であるか又は癌と診断された人々とともに、癌に罹患しやすいもしくは癌発生の蓋然性が高い、又は癌(例えばリンパ腫又は多発性骨髄腫)もしくは感染症が疑われる人々が含まれ得る。いくつかの事例では、対象者は自己免疫疾患を有することがある。本明細書で用いられるように、“防止する”及び“防止”という用語は、望ましくない生理学的変化又は異常もしくは様態の発生の阻害を意図する予防的又は防止的手段を指す。例示的実施態様では、疾患又は様態の予防は、前記疾患又は様態(又はその症状)が出現もしくは存在する以前の時点で本明細書で提供する方法にしたがって入手されるT細胞の投与を開始することを含み、したがって、前記疾患もしくは様態、又はその症状、病理学的特色、結果、又は有害作用は出現しない。
【0016】
本明細書で提供する方法にしたがって入手されるT細胞は、癌(血液類リンパ系悪性疾患(白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫)を含む悪性疾患を含む)の治療のために養子細胞療法の方法で用いることができる。本明細書に記載する治療に適する癌には、血液学的悪性疾患、例えば急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄腫、非ホジキン及びホジキンリンパ腫(例えば再発性、難治性、又は化学療法耐性非ホジキンリンパ腫)、及び脊髄形成異常症候群(MDS)が含まれる。“癌”及び“腫瘍”という用語は本明細書では互換的に用いられる。治療に適する他の癌には固形腫瘍(例えばメラノーマ、腎癌、結腸癌、肺癌、脳の癌、及び肝癌)が含まれる。
本明細書で提供する方法にしたがって入手されるT細胞は、感染の治療のために養子細胞療法の方法で用いることができる。本明細書で用いられるように、“感染”という用語は、微生物又は他の感染性因子が健康な細胞に侵入する病的状態を指し、細菌性、ウイルス性又は寄生性(例えば原生動物)感染因子によって引き起こされる任意の様態又は病的状態が含まれる。例えば、“ウイルス感染”という用語は健康な細胞のウイルス(例えばHIV)による侵入を指し、この場合、ウイルスは細胞の増殖機構を使用して増加又は複製し、最終的には細胞を溶解させて細胞死、ウイルス粒子の放出、及び新規生成子孫ウイルスによる他の細胞の感染をもたらす。感染に関しては、“治療”という用語はさらに治療薬の適用又は投与を指し、この場合、その目的は、治癒(cure, heal)、緩和、軽減、改変、修復、好転、改善、又は前記感染、前記感染に関係する任意の症状もしくは感染発症素因に影響を与えることである。
【0017】
本明細書で用いられるように、“対象者”又は“患者”という用語は互換的に用いられ、任意の脊椎動物(人間、哺乳動物、爬虫類、両生動物及び魚類を含む(ただし前記に限定されない))を包含する。しかしながら、有利には対象者又は患者は、例えば人間のような哺乳動物、又は哺乳動物(例えば飼い慣らされた哺乳動物(例えばイヌ、ネコ、ウマ)又は家畜(例えば乳牛、ヒツジ、ブタなど))である。例示的な実施態様では、対象者は人間である。本明細書で用いられるように、“その必要がある”という語句は、治療的又は予防的手段が所望される対象者の状態を指す。そのような状態には、疾患又は様態(例えば癌)を有する対象者が含まれ得る(ただし前記に限定されない)。
いくつかの事例では、本明細書で提供する方法にしたがって入手されるT細胞を医薬組成物として投与することができ、前記組成物は、治療薬剤として(すなわち治療的な適用のために)有効な量のT細胞を含む。本明細書で用いられるように、“医薬組成物”という用語は、哺乳動物への投与に適する化学的又は生物学的組成物を指す。そのような治療的な適用に適する組成物の例には、非経口投与、皮下、経皮、皮内、筋肉内、冠状動脈内、心筋内、脳内、腫瘍内、腹腔内、静脈内(例えば注射可能)、又は気管内投与のための調製物(例えば無菌的懸濁物、乳濁液及びエーロゾル)が含まれる。気管内投与は、治療的に有効な量のT細胞を含む医薬組成物に肺組織(例えば肺胞)を接触又は暴露する工程を必要とする。いくつかの事例では、治療的な適用に適した医薬組成物は、1つ以上の医薬的に許容できる賦形剤、希釈剤又は担体(例えば滅菌水、生理学的食塩水、グルコースなど)との混合物中に存在し得る。例えば、本明細書に記載するT細胞は、食塩水溶液を含む医薬組成物として対象者に投与され得る。例示的な実施態様では、本明細書で提供する方法にしたがって拡張されるT細胞は、対象者に投与されるとき所望の治療的又は予防的効果を誘発することができる。
【0018】
処方物は、経口投与、直腸、鼻内、局部又は経粘膜投与(頬用、舌下用、眼用、膣用及び直腸用を含む)、及び非経口投与(皮下用、筋肉内用、静脈内用、皮内用、腹腔内用、眼内用及び硬膜外用を含む)のために設計又は提供され得る。一般的には、水性もしくは非水性液状又はクリーム状処方物が非経口、経口又は局部ルートによってデリバリーされる。他の実施態様では、組成物は水性もしくは非水性液状処方物又は固形処方物として存在でき、前記処方物は、任意のルート(例えば経口、局部、頬、舌下、非経口)、エーロゾル、デポ剤(例えば皮下デポ剤又は腹腔もしくは筋肉内デポ剤)による投与に適切である。いくつかの事例では、医薬組成物は凍結乾燥される。他の事例では、本明細書で提供する医薬組成物は、所望される投与ルート及び調製に応じて、補助物質(例えば湿潤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、ゲル化もしくは粘性強化添加物、保存料、香料、着色剤など)を含む。医薬組成物は、通常の製薬慣行にしたがって処方することができる(例えば以下を参照されたい: Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th edition, 2000, ed.A.R.Gennaro, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia;及びEncyclopedia of Pharmaceutical Technology, eds.J.Swarbrick and J.C.Boylan, 1988-1999, Marcel Dekker, New York)。
好ましいルートは、例えば、対象者の病理学的状態もしくは体重、又は対象者の治療方法に対する応答、又は状況に見合う治療方法により変動し得る。処方物はまた2つ以上のルートによって投与することが可能であり、この場合、デリバリーの方法は本質的に同時であるか、或いは組成物が対象者に投与される時間において本質的に時間的オーバーラップがほとんどないかもしくは全くない。
最初の投与及び更なる投与のための又は連続投与のための適切なレジメンもまた変動可能であり、最初の投与とその後に投与が続くレジメンが含まれ得るが、それにもかかわらず、当業者は、本開示、本明細書に引用する資料及び当業界の知識から適切なレジメンを確認することができる。
【0019】
いくつかの事例では、T細胞は場合によって1つ以上の活性な薬剤と組合わせて投与され得る。そのような活性な薬剤には、抗炎症剤、抗サイトカイン剤、鎮痛剤、解熱剤、抗生物質及び抗ウイルス剤とともに増殖因子並びに免疫調節薬剤のアゴニスト、アンタゴニスト及び調節物質が含まれる(例えば、BAFF、APRIL、TNF-α、IL-2、IL-4、IL-6、IL-10、IL-12、IL-13、IL-17、IL-18、IL-21、IL-35、IFN-α、IFN-γ、CXCL13、IP-10、VEGF、EPO、EGF、HRG、肝細胞増殖因子(HGF)、ヘプシジン、前述のいずれかに対して反応する抗体、及びそれらの受容体のいずれかに対して反応する抗体)。そのような活性薬剤の任意の適切な組み合わせもまた意図される。1つ以上の活性薬剤と組合わせて投与されるとき、T細胞は他の活性薬剤と同時に又は連続して投与され得る。例えば、対象者には、回復を支援しさらに疾患もしくは様態を治療し緩和し又は重篤度を軽減するために十分な期間又は投薬レジメンにしたがって、T細胞及び本明細書に記載の薬剤の1つ以上を同時に投与できる。
いくつかの実施態様では、T細胞は、その必要がある対象者に輸液、局部適用、外科的移植又は埋め込みを用いて投与される。例示的な実施態様では、投与は全身性である。そのような事例では、T細胞は、その必要がある対象者に静脈内投与に適合させた医薬組成物として対象者に投与される。典型的には、静脈内投与用組成物は無菌的な等張水性緩衝液中の溶液である。そのような緩衝液及び希釈剤の使用は当業界で周知である。必要な場合には、組成物はまた局所麻酔剤を含み、注射部位のいずれの痛みも緩和することができる。一般的には、成分は別々に供給されるか、又はユニット投薬形として(例えば密閉容器(例えば活性薬剤の量を示すアンプル)中の冷凍保存濃縮物として)一緒に混合される。組成物が輸液によって投与される場合、組成物は無菌的な医薬等級水又は食塩水を含む輸液瓶に分注できる。組成物が注射によって投与される場合は、注射用滅菌水又は食塩水のアンプルを提供し、組成物を投与前に混合することができる。いくつかの事例では、本発明のT細胞を含む組成物は投与前には冷凍保存される。
【0020】
本明細書で提供するT細胞の治療的に有効な量がその必要のある対象者に投与される。本明細書で用いられるように、“治療的に有効な用量”という用語は、進行を防ぐために、又は問題の疾患もしくは様態の軽減を引き起こすために十分な任意の用量を指すか、又は、治療的に有効な量は、前記疾患もしくは様態によって引き起こされる症状(例えば痛み又は腫脹)を緩和することができる。有効な用量又は量(前記は1回以上の投与で投与することができる)は、T細胞が投与される対象者で治療的効果を引き出すために十分なヒトT細胞の量である。治療的に有効な量は、ex vivoで拡張したT細胞培養の約50x106細胞から約700x106細胞の量であり得る。いくつかの事例では、有効な量は、レシピエントの体重1キログラム(kg)につき少なくとも1x106細胞を含む投薬量として投与される。例えば、有効な量は、少なくとも1x106細胞/kg、少なくとも10x106細胞/kg、少なくとも30x106細胞/kg、少なくとも100x106細胞/kg、又は少なくとも1000x106細胞/kgを含む用量で対象者に投与され得る。
有効な量は、投与に際して細胞の作用を改変する多様な要因及び細胞に対する対象者の生物学的応答(例えば患者の年齢、性別及び食事、炎症の重篤度、投与時期、並びに他の臨床的要因)によって影響を受けるであろう。本明細書で提供する方法にしたがって入手されるT細胞の治療的に有効な量を対象者に投与することができる。
【0021】
人間の対象者への投与のために治療的に有効な量は、動物試験及び動物に対して有効と決定される量を人間の投与のための目盛りとする任意の業界許容方法で決定することができる。例えば、最初に動物モデルで(例えば有益な又は所望の臨床結果を達成するために)有効な量を測定することができる。動物モデルから得られた量を、当業界で公知の変換係数を用いることによって人間のために有効な量の処方に用いることができる。ある動物モデルで得られた有効な量はまた、適切な変換係数(例えば体表面積係数)を用いることによって別の動物のために変換することができる。
個々の任意の対象者について、規定の投薬レジメンは、各個体の必要性及びT細胞を投与する者又は投与を監督する者の専門的な判断にしたがって時間をかけて調整されねばならないことは理解されるべきである。例えば、個々の対象者のT細胞投薬量は、より低い用量が検出可能な又は十分な改善を引き出さない場合には増加させることができる。
いくつかの事例では、T細胞の治療的に有効な量は、所望の症候緩和レベルに達するまで投薬量を徐々に増加させることにより治療薬の効果を対象者で測定することによって決定できる。持続投与又は反復投与レジメンもまた、所望の結果の達成又は維持のために用いることができる。当業界で公知の任意の他の技術も同様に用いて有効な量の範囲を決定することができる。もちろんのこと、規定の有効量は、治療される個々の様態、対象者の生理的様態、治療される動物のタイプ、治療期間、及び任意の同時実施療法の性質のような要件により変動するであろう。本明細書に記載の疾患もしくは様態の影響下にあるか、又はそれら疾患もしくは様態を発生させやすいか又は発生の蓋然性が高い個々の対象者へのT細胞の投与に続いて、臨床症状又は前記疾患もしくは様態の特質における正又は負の変化について前記対象者を観察及び評価する。例えば、対象者で癌を治療する方法の場合、治療の間又は治療後の正又は負の変化は、当業者に公知の任意の手段(腫瘍サイズの変化の測定を含むが、ただし前記に限定されない)によって決定され得る。
【0022】
本発明の方法のいずれにおいても、T細胞のドナーとレシピエントは同じ個体でも又は異なる個体でもよい。本明細書で用いられるように、“自家”という用語は、ある個体から入手され同じ個体に移植し直される細胞又は組織を指す。本明細書で用いられるように、“同種異系”という用語は同じ種の異なる個体から入手された細胞又は組織を指し、この場合ドナー及びレシピエントは遺伝的に同一ではない。本開示に関しては、同種異系細胞移植又は組織移植は、ドナーとレシピエントが同じ種の異なる個体である細胞又は組織の移植を必要とする。“異種間”という用語は、どちらかが異なる種の生物に由来するか又は異なる種の生物から入手されることを意味する。本開示に関しては、異種間細胞移植又は組織移植は、ドナーとレシピエントが異なる種の異なる個体である細胞又は組織の移植を必要とする。
対象者への投与は、局所注射もしくは全身注射によるか、又は局部適用によることができる。例えば、T細胞は、静脈内注射(例えば点滴輸液)、筋肉内注射、腹腔内注射、器官内注射、又は皮下注射によって投与され得る。いくつかの事例では、対象者は、組織の維持、組織の修復もしくは機能、又は全体的な様態に関して観察もしくは評価される。
【0023】
製造物品
別の特徴では、本発明は養子細胞療法に有用な製造物品を提供する。いくつかの事例では、本発明のキットは人間のT細胞を収納する1つ以上の容器を含む。具体的な実施態様では、本明細書で提供する方法にしたがって拡張及び活性化される細胞がキットとして提供され、いくつかの事例では、前記細胞がキットの唯一の成分であり得る。キットは追加的に試薬及び材料を含むことができ、前記は、本明細書で提供するT細胞を拡張及び活性化して所望の細胞プロダクトを得るために有用である。例えば、キットは1つ以上のBAFF-Rアンタゴニストを含むことができる。
場合によって、キットはさらに1つ以上の試薬又は他の成分を含むことができ、前記は、本発明の方法にしたがってT細胞をその必要がある人間の対象者に投与するために必要である。いくつかの事例では、医薬的に許容できる冷凍保存料中の冷凍アリコットとしてT細胞を提供することは適切であり得る。
いくつかの事例では、本明細書で提供するT細胞に加えて、キットはまた第二の治療薬(例えば化学療法剤、ホルモン治療剤及び/又は免疫治療剤)を含む。キットは、ある個体の特定の癌に合わせて仕立て直し、前記個体のために対応する第二の治療薬を含むことができる。いくつかの事例では、キットはさらに、1つ以上の活性薬剤(例えば抗炎症剤、抗サイトカイン剤、鎮痛剤、解熱剤、抗生物質及び抗ウイルス剤)とともに増殖因子並びに免疫調節薬剤のアゴニスト、アンタゴニスト及び調節物質を含む(例えば、TNF-α、インターロイキン2(IL-2)、IL-4、IL-6、IL-10、IL-12、IL-13、IL-18、IFN-α、IFN-γ、BAFF、CXCL13、IP-10、VEGF、EPO、EGF、HRG、肝細胞増殖因子(HGF)、ヘプシジン、(前述のいずれかに対して反応する抗体、及びそれらの受容体のいずれかに対して反応する抗体を含む))。癌治療に有用な医薬クラスには以下が含まれる(ただしこれらに限定されない):グルココルチコイド(例えばプレドニソロン)、免疫抑制剤(例えばシクロスポリン、メトトレキセート、タクロリムス、ピメクロリムス、シロリムス、ミコフェノレート、モフェチル、ビジリズマブ、抗胸腺細胞グロブリン(ATG))、抗新生物剤(例えばペントスタチン)、及び抗リウマチ剤(例えばヒドロキシクロロキン、インフリキシマブ、エタネルセプト)。そのような活性な薬剤の適切な組合せを含むキットもまた意図される。そのような容器とともに、人間への投与のための指示及び生物学的製剤の製造、使用又は販売に関する規制庁の所定の形式の通知が提供される(前記通知は人間への投与について官庁の製造、使用又は販売の承認を示す)。
本発明は、以下の非限定的な実施例を考慮するときより完全に理解されるであろう。本明細書に開示する全ての成書、論文及び特許は参照によってその全体が本明細書に含まれる。
実施例
以下の例についてこれから述べる。これらの例は、上記の説明と一緒になって本発明を非限定的な態様で解説するであろう。
【実施例0024】
BAFFはMSC媒介T細胞抑制をin vitroで妨げる
我々は、間葉系幹細胞(MSC)由来BAFFがMSC媒介T細胞抑制をin vitroで妨げるか否かを決定するために、健康なドナーの骨髄由来MSCを調べてきた。我々は、‘免疫潜在能アッセイ’を設計し(Bloom et al., 2015.Cytotherapy 17:140-151)、健康なドナーから入手してカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)で標識した末梢血白血球(PBL)を滴定数のMSCと共培養した。PBL環境内のT細胞を可溶性抗CD3/抗CD28で刺激した。T細胞サブセットの分裂をフローサイトメトリーで測定した。MSC非存在下の活性化T細胞の陽性コントロールに対してMSC媒介阻害を計測した。TACI-Fc(Atacicept)は、BAFF及びAPRILと効果的に結合する可溶性TACI受容体である。PBL:MSC共培養に添加したとき、TACI-FcはCD4
+ T細胞阻害を
逆転させた。T細胞阻害に対するMSC-BAFF下方調整の効果を測定した。
PBL共培養を伴う5つの実験(5つの異なるMSC株を用いる)の各々で、7つの異なるBAFF特異的shRNAプラスミドを用いた。驚くべきことに、MSC-BAFFのサイレンシングはT細胞抑制を逆転させた。BAFFレベルはCD4
+ T細胞分裂と逆の相関性を示した(R
2=0.81、
図1A)。しかしながら、MSCによるIL-6の発現はBAFFの下方調整の影響を受けず(
図1B)、MSC生存率にも変化はなかった。IDO1(インドールアミン-ピロール2,3-ジオキシゲナーゼ)mRNAレベル及び酵素活性の低下は下方調整BAFFレベルと相関性を示し、BAFFがこのT細胞抑制因子の発現を調節することを示唆する。
次に、BR3中和抗体(R&D Systems, Inc.)を用いてBR3機能を遮断した。4日間の共培養アッセイで、我々は、抗BR3はMSC共培養でCD4
+ 分裂を増大させるが、MSC非存在下T細胞活性化PBLのCD4
+ 分裂もまたPBLドナーに応じて様々な程度で強化されることを見出した。これらのデータは、BR3は少なくとも1つのCD4
+ 細胞サブセットの正常な恒常的抑制を制御していることを示唆する。
【0025】
CD8
+細胞を調べているときに、一貫した分裂増加が抗BR3で観察されたが、抗BCMA又は抗TACI遮断では認められなかった(
図3A)。加えて、BR3遮断によりIFN-γ及びグランザイムBの発現は9-40倍及び3-7倍それぞれ増加した(
図3B-3C)。重要なことに、IFN-γ及びグランザイムB発現の増加は、無差別的T細胞刺激を媒介する抗BR3遮断抗体が原因ではなかった。対照的に、ヒトサイトカイン多重分析は、他のT細胞サイトカインレベルは低下するか又は変化しないことを示した。予備的評価では、上清のIDO活性/キヌレニンレベルは抗BR3処理培養(24時間)で低下することが示されている。重要なことに、抗TACIは反対の効果(T細胞分裂及びIFN-γ発現は顕著に低下する)を示し、これはBAFFのT細胞に対する二元的作用を説明することができる。
総合すれば、これらのデータは、BAFFはIDO1の発現を増大させること、さらにBR3は、細胞傷害性(CD4
+及びCD8
+)T細胞分裂、IFN-γ発現及びグランザイムB生成の主要な負の調節因子であることを強く示している。我々は、細胞傷害性T細胞活性化のBR3媒介抑制のメカニズムの1つはIDO1発現を強化するその能力であると仮説を立てる。我々のin vitroデータは、BAFFは免疫抑制因子発現を媒介するという仮説を支持する。末梢血リンパ球がT細胞刺激抗体(抗CD3及び抗CD28)で刺激されるとき、CD4
+ T細胞及びCD8
+ T細胞の両方の分裂が増加する。BAFF受容体BR3を特異的に中和する抗体を添加したとき、CD4
+ T細胞及びCD8
+ T細胞の両方の分裂が顕著に増加する。興味深いことに、データはまた、BR3の遮断はIFN-γ生成とともにCD8
+ T細胞毒素グランザイムBの生成及び/又は分泌を強化することを明示した。これらのデータは、BR3がCD8
+ 細胞傷害性T細胞活性化及び分裂の必須の抑制因子の1つであることを強く示唆する。
【0026】
方法及び材料
末梢血白血球の調製:健康な個体から採取した血液からPBLを単離した。アフェレーシスプロダクト又は全血を用いてもよい。細胞をフィコール-パークグラジエントに適用して、以前に記載されたように赤血球及び血小板夾雑物から白血球を精製する(Corkum et al., 2015.BMC Immunol.Aug 26;16:48)。PBLが生存可能なようにDMSOを用いてバイアルで凍結し液体窒素中で冷凍保存した。
抗体及び試薬:抗CD3εは、ヒトT細胞上のTCR複合体のエプシロン鎖を刺激するモノクローナル抗体である。クローンUCHT1をR&Dシステムズ社(cat# MAB100)から購入した。凍結乾燥生成物を500μg/mLでPBSに再懸濁し、適量ずつに分けて-20℃で長期間保存した。
抗CD28は、抗CD3εと一緒になってヒトT細胞を共刺激するモノクローナル抗体である。。クローン37407をR&Dシステムズ社(cat# MAB342)から購入した。凍結乾燥生成物を500μg/mLでPBSに再懸濁し、適量ずつに分けて-20℃で長期間保存した。
抗BAFF-R遮断抗体はヒトBR3を遮断する。前記はR&Dシステムズ社(cat# AF1162)から購入したヤギモノクローナル抗体である。凍結乾燥生成物を200μg/mLでPBSに再懸濁し、適量ずつに分けて-20℃で長期間保存した。
ヤギIgGコントロールはR&Dシステムズ社(cat# AB-108-C)から購入した。凍結乾燥生成物を200μg/mLでPBSに再懸濁し、適量ずつに分けて-20℃で長期間保存した。
完全RPMI培養液: 10%FBS(55℃で30分間熱不活化(Atlanta Biologicals))、グルタミン、非必須アミノ酸、HEPES、ピルビン酸ナトリウムを含むRPMI-1640。ペニシリン/ストレプトマイシン(Pen/Strep)は決まって用いられるわけではなく、その添加は結果を左右しない。培養液を使用前にろ過滅菌した。
CFSE(カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル):DMSO中に1mMのストック濃度。蛍光色素はInvitrogenから購入した。
フローサイトメトリーのための抗huCD4 APC標識抗体及び抗huCD8 APC標識抗体はR&Dシステムズ社から購入した。