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特開2022-23194自己免疫および同種免疫への治療的介入としてのキメラ抗原受容体(CAR)T細胞
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  • 特開-自己免疫および同種免疫への治療的介入としてのキメラ抗原受容体(CAR)T細胞 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023194
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】自己免疫および同種免疫への治療的介入としてのキメラ抗原受容体(CAR)T細胞
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/17 20150101AFI20220131BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220131BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220131BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220131BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
A61K35/17 Z ZNA
A61P37/06
A61P43/00 105
A61P19/02
A61P29/00
A61P13/12
A61P27/02
A61P1/16
A61P3/10
A61P25/28
A61P17/02
A61P7/06
A61P7/04
A61P21/00
A61P19/08
A61P17/04
A61P9/00
A61P7/02
A61K48/00
C07K19/00
C07K16/28
C07K14/725
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/13
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177696
(22)【出願日】2021-10-29
(62)【分割の表示】P 2018516558の分割
【原出願日】2016-09-28
(31)【優先権主張番号】62/233,908
(32)【優先日】2015-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】305023366
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラザー,ブルース アール.
(72)【発明者】
【氏名】フリン,ライアン ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ペンネル,クリストファー エー.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA15
4C084ZA33
4C084ZA53
4C084ZA55
4C084ZA75
4C084ZA89
4C084ZA94
4C084ZA96
4C084ZB02
4C084ZB08
4C084ZB11
4C084ZB21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087CA04
4C087CA12
4C087DA20
4C087DA32
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA15
4C087ZA33
4C087ZA53
4C087ZA55
4C087ZA75
4C087ZA89
4C087ZA94
4C087ZA96
4C087ZB02
4C087ZB08
4C087ZB11
4C087ZB21
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自己免疫もしくは同種免疫疾患を治療するための方法および材料を提供する。
【解決手段】治療上有効な量の遺伝子改変されたヒトT細胞集団を含有する医薬組成物を使用する。前記ヒトT細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)構築物をコードする核酸配列を含有するように改変されており、前記CAR構築物は抗原結合ドメインを含有するが、該抗原結合ドメインは、自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患に罹患したヒト患者のB細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に発現されるリガンドに対して特異的である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者において自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患を治療する方法であって、この方法は:
ヒト患者に医薬組成物を投与することを含み、該医薬組成物は治療上有効な量の遺伝子改変ヒトT細胞集団を含有するものであって、該ヒトT細胞はキメラ抗原受容体(CAR)構築物をコードする核酸配列を含有するように改変されており、該CAR構築物は抗原結合ドメインを含有するものであって、該抗原結合ドメインが自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患に罹患したヒト患者のB細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に発現されるリガンドに特異的である、前記方法。
【請求項2】
T細胞がヒト患者に対して自家性である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
T細胞がヒト患者に対して同種異系である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患に罹患したヒト患者のB細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に発現されるリガンドが、CD10、CD19、CD20、CD22、CD24、CD27、CD38、CD45R、CD138、CD319、およびBCMAからなる一群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
自己免疫疾患が、慢性宿主片対宿主病(GVHD)、ループス、関節炎、免疫複合体糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、ぶどう膜炎、肝炎、 全身性硬化症もしくは強皮症、I型糖尿病、多発性硬化症、寒冷凝集素症、尋常性天疱瘡、グレーブス病、自己免疫性溶血性貧血、血友病A、原発性シェーグレン症候群、血栓性血小板減少性紫斑病、視神経脊髄炎、エヴァンス症候群、IgM介在性ニューロパチー、クリオグロブリン血症、皮膚筋炎、特発性血小板減少症、強直性脊椎炎、水泡性類天疱瘡、後天性血管性浮腫、慢性蕁麻疹、抗リン脂質脱髄性多発ニューロパチー、および自己免疫性血小板減少症もしくは好中球減少症もしくは赤芽球癆からなる一群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
同種免疫疾患が、造血細胞もしくは固形臓器の移植に起因する同種感作または異種感作、輸血、胎児の同種感作を伴う妊娠、新生児同種免疫性血小板減少症、新生児溶血性疾患、酵素もしくはタンパク質補充療法、血液製剤、および遺伝子治療で治療される遺伝性もしくは後天性欠乏症の補充に伴って起こる可能性のある外来抗原への感作、からなる一群から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
遺伝子改変T細胞がヒト患者においてin vivoで増殖する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
遺伝子改変T細胞が、抗原結合ドメインにより認識されるリガンドを発現するB細胞、形質細胞、もしくは形質芽細胞に対して、ヒト患者においてメモリーT細胞を生じる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
遺伝子改変T細胞が、ヒト患者において、投与後少なくとも3か月、投与後少なくとも4か月、投与後少なくとも5か月、投与後少なくとも6か月、投与後少なくとも7か月、投与後少なくとも8か月、投与後少なくとも9か月、投与後少なくとも10か月、投与後少なくとも11か月、投与後少なくとも12か月、投与後少なくとも2年、ならびに投与後少なくとも3年、からなる一群から選択される一定期間のあいだ存続する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
T細胞の有効な量が、ヒト患者の体重kg当り約104~約109個の細胞である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
T細胞の有効な量が、ヒト患者の体重kg当り約105~約106個の細胞である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
抗原結合ドメインが、抗体、またはその抗原結合フラグメントである、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
抗原結合フラグメントがFabまたはscFvである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
遺伝子改変T細胞がヒト患者に対して静脈内に投与される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
キメラ抗原受容体(CAR)構築物であって、該CAR構築物が、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域、膜貫通ドメイン、シグナル伝達ドメイン、および場合により、共刺激シグナル伝達領域を含み、該抗原結合ドメインが、自己免疫疾患または同種免疫疾患に罹患したヒト患者のB細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に発現されるリガンドに特異的である、前記構築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)の下で、2015年9月28日出願の米国特許出願第62/233,908号に基づく優先権の利益を主張する。
連邦政府後援の研究開発
本発明は国立衛生研究所により認定されたP01 CA142106に基づく政府の支援によって行われた。政府は本研究に一定の権利を有する。
技術分野
本明細書は概して免疫学に関するが、より詳細には、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、自己免疫疾患および同種免疫疾患の治療には限界があり、通常、実際の病気ではなく症状を治療する。したがって、自己免疫疾患および同種免疫疾患に対する新規治療法は有益となるであろう。
【発明の概要】
【0003】
ある態様において、ヒト患者の自己免疫もしくは同種免疫疾患を治療する方法が提供される。このような方法は概して、医薬組成物をヒト患者に投与することを含む。本明細書に記載されるように、医薬組成物は典型的には、治療上有効な量の遺伝子改変されたヒトT細胞集団を含有するが、このヒトT細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)構築物をコードする核酸配列を含有するように改変されている。本明細書に記載のように、CAR構築物は、自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患に罹患したヒト患者のB細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に発現されるリガンドに対して特異的な、抗原結合ドメインを含む。
【0004】
一部の実施形態において、T細胞はヒト患者に対して自家性(自己性)である。一部の実施形態において、T細胞はヒト患者に対して同種異系である。一部の実施形態において、自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患に罹患したヒト患者のB細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に発現されるリガンドは、CD10、CD19、CD20、CD22、CD24、CD27、CD38、CD45R、CD138、CD319、およびBCMAからなる一群から選択される。
【0005】
代表的な自己免疫疾患には、慢性宿主片対宿主病(GVHD)、ループス、関節炎、免疫複合体糸球体腎炎、グッドパスチャー(抗糸球体基底膜抗体型糸球体腎炎)、ぶどう膜炎、肝炎、 全身性硬化症もしくは強皮症、I型糖尿病、多発性硬化症、寒冷凝集素症、尋常性天疱瘡、グレーブス病(バセドウ病)、自己免疫性溶血性貧血、血友病A、原発性シェーグレン症候群、血栓性血小板減少性紫斑病、視神経脊髄炎、エヴァンス症候群、IgM介在性ニューロパチー、クリオグロブリン血症、皮膚筋炎、特発性血小板減少症、強直性脊椎炎、水泡性類天疱瘡、後天性血管性浮腫、慢性蕁麻疹、抗リン脂質脱髄性多発ニューロパチー、および自己免疫性血小板減少症もしくは好中球減少症もしくは赤芽球癆があるがそれらに限定されない。代表的な同種免疫疾患には、造血細胞もしくは固形臓器の移植に起因する同種感作または異種感作、輸血、胎児の同種感作を伴う妊娠、新生児同種免疫性血小板減少症、新生児溶血性疾患、酵素もしくはタンパク質補充療法、血液製剤、および遺伝子治療で治療される遺伝性もしくは後天性欠乏症の補充に伴って起こる可能性のある外来抗原への感作があるがそれらに限定されない。
【0006】
一部の実施形態において、遺伝子改変T細胞はヒト患者においてin vivoで増殖する。一部の実施形態において、遺伝子改変T細胞は、抗原結合ドメインにより認識されるリガンドを発現するB細胞に対して、ヒト患者においてメモリーT細胞を生じる(形成する)。一部の実施形態において、遺伝子改変T細胞は、ヒト患者において一定期間(たとえば、投与後少なくとも3か月、投与後少なくとも4か月、投与後少なくとも5か月、投与後少なくとも6か月、投与後少なくとも7か月、投与後少なくとも8か月、投与後少なくとも9か月、投与後少なくとも10か月、投与後少なくとも11か月、投与後少なくとも12か月、投与後少なくとも2年、ならびに投与後少なくとも3年)存続する(持続する)。
【0007】
一部の実施形態において、T細胞の有効な量は、ヒト患者の体重kg当り約104~約109個の細胞(たとえば、患者の体重kg当り約105~約106個の細胞)である。一部の実施形態において、遺伝子改変T細胞はヒト患者に対して静脈内に投与される。
【0008】
一部の実施形態において、抗原結合ドメインは、抗体、またはその抗原結合フラグメント(断片)である。一部の実施形態において、抗原結合フラグメント(断片)はFabまたはscFvである。
【0009】
別の態様において、キメラ抗原受容体(CAR)構築物が提供される。こうしたCAR構築物は典型的には、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域、膜貫通ドメイン、シグナル伝達ドメイン、および必要に応じて、共刺激シグナル伝達領域を含む。本明細書に記載のように、抗原結合ドメインは、自己免疫疾患または同種免疫疾患に罹患したヒト患者の、B細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に発現されるリガンドに特異的である。
【0010】
特に明記しない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、方法および組成物の属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様もしくは同等の方法および材料を、方法および組成物の実施もしくは試験に使用することはできるが、好適な方法および材料は以下に記載される。さらに、材料、方法、および実例は、一例にすぎず、限定することを意図するものではない。本明細書で言及されるあらゆる出版物、特許出願、特許、および他の引用文献はその全体が参考として組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aは、x軸上に示す遺伝子型を有するマウスの末梢血中の、CD45R B細胞の出現頻度を示す散布図である。それぞれのしるしは異なるマウスを表す。”***”は、<0.001のp値を有する、集団間の統計的有意差を示す。 図1Bは、x軸上に示す遺伝子型を有するマウスの末梢血中の、マウス(m)CD19 B細胞の出現頻度を示す散布図である。それぞれのしるしは異なるマウスを表す。”***”は、<0.001のp値を有する、集団間の統計的有意差を示す。 図1Cは、ヒトCD19タンパク質の発現によって測定されるB細胞の出現頻度を示す散布図であって、他のB細胞特異的マーカーであるCD45RおよびマウスCD19で測定される値と矛盾しない。それぞれのしるしは異なるマウスを表す。”***”は、<0.001のp値を有する、集団間の統計的有意差を示す。 図1Dは、蛍光強度中央値(MFI)を示すグラフであるが、これはマウスB細胞上のヒトCD19タンパク質発現を求めるために測定された。それぞれのしるしは異なるマウスを表す。”***”は、<0.001のp値を有する、集団間の統計的有意差を示す。
図2図2は、ヒトCD19特異的CARをコードする構築物をレトロウイルスによって形質導入されたマウスT細胞が、適当な培養条件下で、in vitroで有意に増殖したことを示す折れ線グラフである。y軸は1日目の開始時の細胞数に対する、5日間にわたる細胞数の増殖倍率を示す。
図3図3Aは、特異的溶解パーセントを示すが、これはヒトCD19+腫瘍標的の死滅のみを意味し、混じっているヒトCD19ネガティブ腫瘍細胞の死滅を意味しない。2つの細胞型の数は、さまざまな数のCART-19細胞を添加した4時間後および14時間後に測定された。エフェクターCART-19細胞のヒトCD19+腫瘍標的細胞に対する割合(E:T比)は、0から10までさまざまとした。 図3Bは、in vitroでCART-19細胞のオフターゲットの細胞傷害性がないことを示す棒グラフである。これは、さまざまな数のCART-19細胞を入れたウェル内のほぼ同数のTBL12(ヒトCD19ネガティブ)腫瘍細胞によって証明される;TBL12細胞は、in vitroでCART-19細胞の添加の4時間後および14時間後に計数された。
図4図4Aは、huCD19TG+/-マウスにおいて、CAR T-19細胞(緑色)がB細胞(赤色)を枯渇させることを示す写真である。 図4Bは、対照のhuCD19TG+/-マウスにおいて、CAR T細胞(緑色)は存在するが図4Aで示されるほどには広がっていないこと、ならびにB細胞(赤色)は豊富にあって枯渇していないことを示す写真である。
図5A図5Aは、移植後60日目に機械的に換気された挿管マウスにおいて測定された、マウスにおける肺血管抵抗を示す棒グラフである。肺機能検査は、移植後60日目にFlexiVentシステム(Scireq)を用いて全身プレチスモグラフィによって測定された。すべてのマウスが骨髄移植を受けた。追加のT細胞なしでは、マウスは慢性GVHDを発症せず、骨髄移植(BMT)対照として機能した。BM+T細胞を受けたマウスは、慢性GVHDを引き起こすように追加のT細胞が与えられた。28日目に、指示群は、追加の治療を受けないか、またはドナーT細胞を受け入れたが、このドナーT細胞は、抗CD19 ScFv CARもしくは緑色蛍光タンパク質(GFP)対照タンパク質を発現するように形質導入され、in vitroで図2のように増殖させたのち、in vivoで0.3 x 106 個のCAR-T細胞もしくはGFP-T細胞の用量で注入された。高い抵抗性は慢性GVHDを表し、これはCAR T細胞により改善されるがGFP T細胞によっては改善されない。**P≦0.01; ****P≦0.0001。
図5B図5Bは、図5Aにしたがって60日後のマウスにおける肺エラスタンスを示す棒グラフである。慢性GVHDマウスにおける高いエラスタンスは、弾性収縮性の喪失を示し、これはCAR T細胞により回復されるがGFP T細胞によっては回復されない。**P ≦ 0.01; ***P ≦ 0.001。
図5C図5Cは、図5Aにしたがって60日後のコンプライアンスを示す棒グラフである。慢性GVHDマウスにおける低いコンプライアンスは硬い肺を示しており、これはCAR-T細胞で回復するがGFP-T細胞では回復しない。**P ≦ 0.01; ***P ≦ 0.001; ****P ≦ 0.0001。
図6図6は、hCD19+細胞が、レシピエントマウスにおいて移植後4日目に存続することを示す(CD4-リンパ球から)、散布図である。
図7図7は、マウスの生存率を示すグラフである。
図8図8は、マウスの体重を示すグラフである。
図9図9は、移植後のマウスの臨床スコアを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
ヒト患者において自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患を治療するために使用することができる、免疫治療の方法を本明細書に記載する。このような方法は典型的には、有効量の遺伝子改変ヒトT細胞を含有する医薬組成物をヒト患者に投与することを含む。本明細書で使用される遺伝子改変T細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現しコードする核酸配列を含有するように改変されたT細胞を指す。こうした遺伝子改変T細胞は、多くの場合CAR-T細胞と称される。CAR-T細胞の代わりに遺伝子改変ヒトT細胞を使用することができるが、この遺伝子改変ヒトT細胞は、T細胞受容体遺伝子がB細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上の抗原(すなわちペプチド)を認識するように改変されたT細胞を意味する。
【0013】
CAR-T細胞は当技術分野で知られており、典型的にはCAR構築物を含有する。B細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に存在する任意のリガンドに特異的な、少なくとも1つの抗原結合ドメインをコードする核酸に加えて、典型的なCAR構築物は、シグナルペプチド(たとえば、scFv軽鎖に固有のシグナルペプチド、scFv重鎖に固有のシグナルペプチド)、ヒンジ領域(たとえば、CD8α、CD3またはIgG1由来)、膜貫通ドメイン(たとえば、CD8α、CD3ζまたはCD28由来)、シグナル伝達ドメイン(たとえば、CD3ζまたはCD28由来)、ならびに必要に応じて、共刺激シグナル伝達ドメイン(たとえば、CD27、CD28またはOX40由来)をコードする核酸を含有する。たとえば、米国特許第8,822,647号および第9,328,156号を参照されたい。本明細書に記載のCAR構築物に使用するのに適した抗原結合ドメインは、自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患を治療するのに役立つ抗原結合ドメインである。
【0014】
CAR構築物およびCAR-T細胞を作製する方法は当技術分野で知られている。CARを作製する方法は典型的には、標準的な組換え技術および分子生物学の手法を含む。次にCAR構築物を、当技術分野で周知のトランスフェクション技術を用いてT細胞に導入することができる。あるいはまた、T細胞受容体遺伝子を、たとえばZnフィンガーヌクレアーゼを用いて改変することができる(たとえば、米国特許第8,956,828号を参照されたい)。
【0015】
CAR構築物は既知の方法によってT細胞に導入される。ある場合には、T細胞は患者にとって自家性である(患者から得られ、CAR構築物で改変されて、患者に戻し入れられる)が、他の例では、T細胞は患者にとって同種異系である(血縁もしくは非血縁個体から得られる)。
【0016】
本明細書に記載の方法は、自己免疫疾患および同種免疫疾患に適用することができる。自己免疫疾患の典型的な非限定的例としては、慢性移植片対宿主病(GVHD)、ループス、関節炎、免疫複合体糸球体腎炎、グッドパスチャー(抗糸球体基底膜抗体型糸球体腎炎)、ぶどう膜炎、肝炎、 全身性硬化症もしくは強皮症、I型糖尿病、多発性硬化症、寒冷凝集素症、尋常性天疱瘡、グレーブス病(バセドウ病)、自己免疫性溶血性貧血、血友病A、原発性シェーグレン症候群、血栓性血小板減少性紫斑病、視神経脊髄炎、エヴァンス症候群、IgM介在性ニューロパチー、クリオグロブリン血症、皮膚筋炎、特発性血小板減少症、強直性脊椎炎、水泡性類天疱瘡、後天性血管性浮腫、慢性蕁麻疹、抗リン脂質脱髄性多発ニューロパチー、および自己免疫性血小板減少症もしくは好中球減少症もしくは赤芽球癆があり、同種免疫疾患の典型的な非限定的例には、造血細胞もしくは固形臓器の移植に起因する同種感作(たとえば、Blazar et al., 2015, Am. J. Transplant., 15(4):931-41を参照されたい)または異種感作、輸血、胎児の同種感作を伴う妊娠、新生児同種免疫性血小板減少症、新生児溶血性疾患、酵素もしくはタンパク質補充療法、血液製剤、および遺伝子治療で治療される遺伝性もしくは後天性欠乏症の補充に伴って起こる可能性のある外来抗原への感作がある。
【0017】
B細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上のリガンドに特異的な抗原結合ドメインは、本明細書に記載の自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患を治療する方法において有用である。たとえば、CAR構築物は、CD19、CD20、CD22、CD138、BCMA、CD319、CD10、CD24、CD27、CD38、またはCD45Rに特異的であるがそれに限定されない、抗原結合ドメインを含有することができる。それに加えて、CAR構築物は、それに限定されないが自己免疫特異抗原に特異的な抗原結合ドメインを含有することができる。自己免疫特異抗原には、たとえば、全身性エリテマトーデス(SLE)、グレーブス病(バセドウ病)、セリアック病、1型糖尿病、関節リウマチ(RA)、サルコイドーシス、シェーグレン症候群、多発性筋炎(PM)および皮膚筋炎(DM)をもたらす抗原がある。たとえば、Ellebrecht et al., 2016, Science, 353:179-84を参照されたい。
【0018】
代表的なCAR構築物の核酸配列を配列番号1に示す。配列番号1に示されるCAR構築物は、CD19に特異的な抗原結合ドメインを有する(配列番号1のnt 1-810)が、任意の個数の抗原結合ドメインを発現するCAR構築物を本明細書に記載の方法に使用できることは当業者には当然であろう。たとえば、Uckun et al., 2011, Brit. J. Hematol., 153:15-23; US 2012/0141505;ならびに米国特許第5,484,892; 5,573,924; 6,379,668; 7,744,877; 8,362,211; 9,023,999; および9,034,324号は、本明細書に記載の組成物(たとえばCAR構築物)および方法に使用することができる、いくつかの抗原結合ドメインの配列を記載する。
【0019】
当然のことながら、抗原結合ドメインは、たとえば、免疫グロブリン、またはT細胞受容体(TCR)のα鎖もしくはβ鎖由来の抗原結合ドメインとすることができるが、抗原結合ドメインは抗原結合フラグメントとすることもできる(たとえば、scFvもしくはFab)。やはり当然のことながら、CAR構築物は、CARを構成的に、または誘導性に発現させるエレメントを有するようにデザインすることができるので、CAR-T細胞の治療能力をさらにコントロールすることができる。
【0020】
本明細書で使用されるCAR-T細胞の有効量は、ヒト患者に毒性をもたらすことなく、望ましい治療のエンドポイント(たとえば、症状の減少、改善もしくは除去、ヒト患者の自己抗体もしくは同種抗体の減少もしくは除去)をもたらす量を意味する。ほんの一例として、ヒト患者に投与されるCAR-T細胞の有効量は、ヒト患者の体重kg当り約104~約109個のCAR-T細胞(たとえば、約105~約106個のCAR-T細胞)を意味することがある。当然のことながら、CAR-T細胞は、典型的にはヒト患者に静脈内投与される。
【0021】
本明細書で使用される「治療」は、自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患の進行、またはそうした自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患に伴う1つもしくは複数の症状を改善し、緩和し、または阻止することを意味する。当然のことながら、治療が達成されたか否か(たとえば、患者が治療されたか否か)を判定する、1つもしくは複数の具体的な治療のエンドポイントは、患者が罹患しているのが自己免疫疾患か同種免疫疾患かによって、ならびに自己免疫もしくは同種免疫疾患の個別のタイプによって、決まってくる。それに加えて、多くの自己免疫もしくは同種免疫疾患の症状は広範で、非特異的で、ならびに/または、不明瞭なので、1つもしくは複数の具体的な治療のエンドポイントも、それぞれの患者の個別の自己免疫もしくは同種免疫疾患の所見(たとえば、侵された組織もしくは臓器、疾患の重症度もしくは進行度、または2つ以上の疾患の併存)によって決まる。単に一例として、Lee et al. (2015, Biol. Blood Marrow Transplant., 21:984-999) および Jagasia et al. (2015, Biol. Blood Marrow Transplant., 21:389-401)は、GVHDの臨床ガイドラインを提供する。
【0022】
当業者には当然のことながら、遺伝子改変T細胞のヒト患者におけるin vivoでの増殖は、治療の成功を示す。それに加えて、当業者には当然のことながら、ヒト患者におけるメモリーT細胞の生成も成功の指標となる。当業者にはやはり当然のことながら、遺伝子改変T細胞は、投与後少なくとも3か月(投与後少なくとも4か月、少なくとも5か月、少なくとも6か月、少なくとも7か月、少なくとも8か月、少なくとも9か月、少なくとも10か月、少なくとも11か月、少なくとも12か月、少なくとも2年、または少なくとも3年)の間、ヒト患者において存続することができる。
【0023】
免疫治療のほかに、本明細書に記載の方法を、細胞機構によるB細胞コンパートメントの破壊の研究に使用することもできる。たとえば、化合物をスクリーニングして、B細胞を枯渇させる(たとえば、T細胞が疾患を引き起こすのに適したシグナルを受け取らないように)、またはB細胞とT細胞の間に生じ、B細胞による抗体産生に必要とされる協同性を妨害し、もしくはそれに干渉するような、化合物を同定することができる。スクリーニングすることができる代表的な化合物には、細胞、薬物、小分子、核酸(たとえば、DNA、RNA(たとえば、干渉RNA(RNAi);例、shRNAもしくはsiRNA))、タンパク質、ペプチド、および小分子があるがそれに限定されない。
【0024】
本発明にしたがって、当技術分野の技能に含まれる従来の分子生物学、微生物学、生化学、および組換えDNA技術を用いることができる。このような技術は、文献中に十分に説明されている。以下の実施例において本発明をさらに説明することとするが、これは特許請求の範囲に記載される方法および組成物の範囲を限定しない。
(実施例)
【実施例0025】
ヒトCD19特異的CAR T細胞のon-target/off-tumor毒性(標的毒性/腫瘍外毒性)を評価するためのマウスモデルの最適化
ヒトCD19導入遺伝子(huCD19TG)をもっぱら健全なB細胞において発現するマウスを使用した。この細胞はヒトCD19特異的CAR T細胞の移入により死滅するはずであり、on-target/off-target毒性を測る指標となるはずである。これは、ヒトCD19特異的CAR T細胞のヒト臨床試験において観察されるon-target/off-tumor毒性にもっとも近い動物モデルを提供する。
【0026】
最初の決断は、huCD19TGホモ接合体(+/+)のマウスを使用するか、ヘミ接合体(+/-)のマウスを使用するかである。2つの重要な基準は、B細胞出現頻度、およびB細胞のhuCD19TG発現レベルである。本発明者らのゴールは、ヒトの状態にもっともよく似たマウスを選択することである。huCD19TGマウスはC57BL/6をベースとする。以下の実験は、B細胞出現頻度およびhuCD19TG発現レベルを測定する方法を説明する。
【0027】
マウスごとに75-200 μlの血液を、顔面静脈の静脈穿刺によって採取した。血液は、野生型(huCD19TG-/-)、ヘミ接合体(huCD19TG+/-)、およびホモ接合体(CD19+/+)マウスから採取され、抗凝固薬ヘパリンを入れた1.5 mlエッペンドルフチューブに集められた。B細胞特異的タンパク質に特異的なフルオロフォア結合抗体を、マウス当り75 μlの血液に添加した。抗体特異性は、マウス CD19 (B細胞特異的マーカー)、ヒトCD19 (導入遺伝子によりコードされる)、およびマウスCD45R (B細胞特異的マーカー)とした。サンプルを暗所で室温にて15-30分間インキュベートした。1X ACK溶解バッファーを用いて赤血球を溶解した。残った白血球をFACSバッファーで2回洗浄した。
【0028】
次に、各サンプルをフローサイトメトリーで分析して、リンパ球集団におけるB細胞の出現頻度を測定した。これを行うために、特徴的な前方散乱(FSC)および側方散乱(SSC)光の特性に基づいてリンパ球が選択された。前方散乱はサイズを測り、側方散乱は細胞内の複雑性を測っている。マウスCD19、ヒトCD19、およびマウスCD45Rを発現するリンパ球の出現頻度は、リンパ球ゲート内の抗体結合細胞数をリンパ球ゲート内の全細胞数で割って求められた。
【0029】
図1A、1B、および1Cのデータは、y軸が抗体結合リンパ球の出現頻度を表し、x軸がリンパ球源を表す散布図として与えられる。図1Dのデータは、huCD19TG+/+ およびhuCD19TG+/- マウス由来の末梢血B細胞上に発現されるヒトCD19タンパク質の相対レベルを示す。MFIは蛍光強度中央値の略語であるが、これは特異的抗体結合の直接的な指標であり、したがって、抗体(この場合ヒトCD19)により検出されるタンパク質の細胞表面上の量の間接的な指標である。
【0030】
野生型 (-/-)、huCD19ヘミ接合体 (+/-)、およびhuCD19ホモ接合体 (+/+) マウスの末梢血リンパ球におけるB細胞の平均出現頻度は、それぞれ、43%、26%、および10%である。これらの出現頻度は、マウスCD45RもしくはマウスCD19のいずれかを用いて末梢血B細胞を確認した場合と一致する。これらの出現頻度は、ヒトCD19を用いてhuCD19TG+/+ およびhuCD19TG+/- マウス由来の末梢血B細胞を確認した場合も一致する。野生型マウス(huCD19TG-/-)はヒトCD19タンパク質を発現しないので、抗ヒトCD19抗体を用いて検出できるリンパ球がないことは注目される。huCD19TGヘミ接合体 (+/-) マウス由来の末梢血B細胞は、huCD19TG ホモ接合体 (+/+) マウス由来の末梢血B細胞と比べて、約半分のレベルのヒトCD19を発現する。この発現レベルは、ヘミ接合体huCD19TGマウスに対してホモ接合体のゲノムには2倍のコピー数のhuCD19TGが存在することと相関する。
【0031】
図1に示すデータに基づいて、養子移植されるヒトCD19特異的CAR-T細胞のレシピエントとして、huCD19TGホモ接合体(+/+)マウスではなくhuCD19TGヘミ接合体(+/-)マウスを使用することを決定したが、それは、ヘミ接合体マウスにおける末梢血B細胞の出現頻度のほうが、正常な、非トランスジェニックマウスにおける末梢血B細胞の出現頻度に近いからである。腫瘍治療実験において、ヒトの状況をもっともよく模したモデルとするために、腫瘍上のヒトCD19の発現レベルを、huCD19TGヘミ接合体(+/-)由来の末梢血B細胞上の発現レベルと合わせることができる。
【実施例0032】
ヒトCD19特異的キメラ抗原受容体(CAR)をコードしたレトロウイルスによるマウス初代リンパ球の感染ならびにその細胞のex vivo増殖
臨床試験に使用されたCAR構築物、hCD19CARは、Michael Jensen博士 (University of Washington, Seattle)により提供された。たとえば配列番号1を参照されたいが、これは、CD19RscFv部分(配列番号1のnt 1-810)、 IgG4ヒンジ部分(配列番号1のnt 811-846)、CD28tm部分(配列番号1のnt 847-930)、4-1BB部分(配列番号1のnt 931-1056)、Zeta部分(配列番号1のnt 1057-1392)、T2A部分(配列番号1のnt 1393-1464)、およびEGFRt 部分(配列番号1のnt 1465-2538)を含有する。マウスT細胞を増殖させ、レトロウイルスに感染させる、公開されたプロトコルを次のように変更した。
【0033】
レトロウイルス形質導入前のT細胞濃縮(富化)
通常のCD3+α/βT細胞について、マウス脾細胞をネガティブ濃縮するために磁性ビーズを使用した。脾細胞の単個細胞浮遊液を、骨髄細胞(CD11b、CD11c)、B細胞(CD19、CD45R)、NK細胞(NK1)、γ/δT細胞、および制御性T細胞(CD25)に特異的なビオチン化抗体とともにインキュベートした。ストレプトアビジンと結合した鉄粒子を添加した。そこで、ビオチン化抗体が特異的に結合した細胞は、鉄粒子で覆われた。細胞/鉄粒子混合物の入ったチューブを強磁場におき、未結合細胞を取り除いた。この「ネガティブ濃縮された」細胞は、91-95% CD3+ T細胞を含有した。社内実験プロトコルにしたがって、マウスT細胞を増殖させて感染させた(下記を参照されたい)。
【0034】
T細胞増殖(拡張)/レトロウイルス形質導入
2:1のビーズ:細胞比を得るために必要とされるビーズ(Gibco by Life Technologies DynabeadsマウスTアクチベーターCD3/CD28)の量を計算した。FACSまたは15 mLチューブ内で約3mL PBS + 2% FCS中に必要数のビーズを希釈することによって、ビーズを洗浄した。懸濁したビーズをMPC-50マグネットの中に入れ、1分間ビーズがチューブの側面に集まるようにした。PBS + 2% FCS溶液を用いてサンプルを吸引してから、チューブをマグネットから取り外した。ビーズを新たなPBS + 2% FCS4中に再懸濁して、さらに2回洗浄した。最後の洗浄後、ビーズを、最大1 mLの完全RPMI(DMEM)に再懸濁した。洗浄し再懸濁したビーズをT細胞に加え、ビーズ対細胞比が2:1で、細胞の終濃度が2 x 106 細胞/mLであることを確認した。細胞溶液に100 IU/mL rHuman IL-2を添加した。2 mLの細胞溶液を、24ウェル細胞培養処理プレートの各ウェルに加えた。細胞を37℃にて5% CO2で48時間インキュベートした。
【0035】
スピノキュレーション(spinoculation)#1(1日目)の準備をするために、24ウェル組織培養プレートをPBS中100 μg/mL RetroNectinでコーティングした。サンプルを室温にて3時間、または4℃にて一晩インキュベートした。
【0036】
マウスT細胞の形質導入は、次のように、スピノキュレーション#1(1日目)によってウイルス上清を用いて実施された。それぞれの条件から一定量をピペットで採取して、適当な大きさのFalconチューブに集め、活性化されたT細胞を1日目から計数した。細胞を緩やかに遠心分離し(たとえば1200 rpmで10分間)、100 IUのrHuman IL-2を添加した完全RPMI(DMEM)中に再懸濁して2 x 106 細胞/mLとした。スピノキュレーションの前に、RetroNectinでコーティングしたプレートからRN/PBS溶液を吸引した。ウェルを1 mL PBSで洗浄して吸引した。事前に凍結していない、または解凍された、ウイルス上清の1 mL(または希釈物)を各ウェルに添加した。ウイルス上清を添加したらすぐに、T細胞1 mLを添加した。各ウェルには、2 x 106 個のT細胞およびウイルス上清を有する全量2 mLが入った。プレートをただちに、30℃にて2,000 g(2960 rpm)で1時間遠心分離した(1回目のスピノキュレーション)。細胞を5% CO2中37℃にて一晩インキュベートした。
【0037】
スピノキュレーション#2(2日目)のために、ウェルの底にあるT細胞を乱さないように注意して、各ウェルから培地を吸引した。除去される培地の量は、1日目にウェルに添加されたウイルスの量と同じとした。新調製の、または解凍された、ウイルス上清の1 mL(または希釈物)を各ウェルに補充した。プレートを30℃にて2,000 g(2960 rpm)で1時間遠心分離した(2回目のスピノキュレーション)。細胞を5% CO2中37℃にて一晩インキュベートした。
【0038】
3日目に、0.5-1 mLの培地を各ウェルから取り出し、100 IU rHuman IL-2を添加した0.5-1 mLの新調製の完全RPMI(DMEM)培地を添加して元に戻した。4-7日目には、T細胞数を毎日または1日おきに測定し、最適な増殖および生存のために1-2 x 106 個/mLのT細胞濃度を維持した。条件ごとに1-2ウェルを、最終的な役割の実行のためではなく計数のためにとっておいた。5日目に、T細胞の形質導入効率をFACSで分析した。細胞は、必要に応じて、機能分析のために回収された。7日目に、T細胞の形質導入効率をFACSで分析した。最適な効率は、おおむね6日目から7日目の間に観察された。細胞は、典型的には養子移植の日に、機能分析のために回収された。
図2に示すように、これらの実験は、レトロウイルスによるex vivo形質導入および増殖が成功していることを示した。
【実施例0039】
CAR T細胞のin vitro機能性ならびにヒトCD19+標的細胞を死滅させる能力
ヒトCD19遺伝子は、緑色蛍光タンパク質(GFP)およびルシフェラーゼをコードするレポーター遺伝子とともに、TBL12と呼ばれるマウスB細胞腫瘍に導入された。この派生体はTBL12.huCD19と称された。親TBL12および派生体TBL12.huCD19株はいずれも、マウスCD19を発現するが、派生株TBL12.huCD19だけがヒトCD19およびGFPを発現する。これら2つのタンパク質はともに、フローサイトメトリーで検出可能である。
【0040】
同数のTBL12およびTBL12.huCD19腫瘍細胞を、形質導入プロトコルの7日目に採取されたさまざまな個数のCAR T細胞とともに、24ウェル組織培養プレート内で混合した。細胞は、37℃にて4時間、または14時間、合わせた状態でインキュベートした後、次のようにフローサイトメトリーで分析した。定められた個数のCountBrightビーズを、それぞれのFACSチューブ内の一定容量の細胞に添加した。ソーティングは、mCD19+標的にゲートをかけ(2つのTBL12株はいずれもmCD19+である)、GFP+およびGFP-細胞を定量した(GFP+ = TBL12.hCD19; GFP- = TBL12)。条件ごとに3連の測定値を得た。
【0041】
特異的溶解パーセントの測定は、次のように計算された。標的細胞の総数/FACSチューブは、(“d”): a/b = c/dとなり、式中a = 集められたビーズ事象数(5000)、b = ビーズの総数/FACSチューブ(ビーズ940個/μlで20 μlに基づいて18800個);c = GFP+またはGFP-ゲート集団の細胞数;ならびにd = ゲートをかけられた細胞の総数/FACSチューブとした。TBL12/TBL12.hCD19比は、ゲートをかけられた細胞の絶対数(“d”)を用いて計算された。特異的溶解パーセント = (1 - [対照比/実験比]) x 100、式中、対照 = 0:1 E:TサンプルにおけるTBL12/TBL12.hCD19比、ならびに、実験 = 1:1, 3:1, 10:1 E:TサンプルにおけるTBL12/TBL12.hCD19比。
【0042】
図3Aのデータは、標的細胞に対するさまざまなエフェクター(CAR T細胞)比(x軸)におけるTBL12.huCD19標的細胞の特異的溶解パーセント(y軸)として提示される。データは平均特異的溶解パーセント(三連サンプルから得られる)±標準誤差として示される。図3Bのデータは、さまざまな実験条件におけるウェル当りのTBL12(親、非標的)細胞の絶対数として提示される。黒の棒グラフは4時間培養した後の細胞数を表し、白抜きの棒グラフは14時間培養した後の細胞数を示す。すべてのE:T比は、グループ内で対照(0:1)と有意に異なっていた(図3A);グループ間のすべてのE:T比は有意に異なる(図3A);ならびに、所与の培養期間において、処理群の間でTBL12細胞数に有意な差異はなかった(図3B)。
【0043】
図3Aおよび3Bに示すように、抗ヒトCAR T細胞はin vitroで有意に、ヒトCD19を有する腫瘍標的を死滅させる。
【実施例0044】
CAR T細胞のin vivoでの機能性ならびにhuCD19TG +/- マウスにおけるヒトCD19+ B細胞死滅能力
抗ヒトCD19 CAR T細胞(0.3 x 106)、またはレポータータンパク質GFPをコードしたレトロウイルスで形質導入された対照T細胞(0.3 x 106)を、huCD19TG+/-マウスに静脈内注射した。4日後、マウスを安楽死させ、脾臓を摘出して、Optimal Cutting Temperature組織保存液(凍結組織切片作製用包埋剤)中で凍結した。薄い(10μm)切片をクリオスタット上で切り出して、固定し、内在性B細胞または養子移植T細胞に特異的なフルオロフォア結合抗体で染色した。組織画像を共焦点顕微鏡によって20Xの倍率で捉えた。
【0045】
図4Aは、huCD19TG+/-マウスの脾臓におけるCAR T細胞(緑色)の大量の蓄積を示すが、検出可能な内在性B細胞(赤色)はないことを示す。図4Bは、抗ヒトCD19 CARではなくGFPをコードするレトロウイルスである以外はCAR T細胞と完全に同じように処理されたT細胞を注射された対照huCD19TG+/-マウスの脾臓を示す。内在性B細胞(赤色)は豊富に存在し、浸潤するT細胞(緑色)は検出可能であるが図4Aで認められるほどには広がっていない。図4Aおよび4Bに示す実験結果は、遺伝子操作されex vivoで増殖させたCAR T細胞が、huCD19TG+/-マウスに移植されると、ヒトCD19+ B細胞を死滅させることを実証する。したがって、huCD19TG+/-モデルは、on-target/off-tumor毒性の評価に適している。
【0046】
【表1】
【実施例0047】
CAR CD19 TregはhCD19マウスにおいてGVHDの重症度および発症率を低下させる
Tregは、EasySep CD4ネガティブ選択およびCD25ポジティブ選択によって、115の野生型(WT)B6マウスのLN + SPから精製された。分析によって、精製産物は99.9% CD4+ CD25+を含有することが明らかになった。精製後、プレート結合抗CD3+(2 μg)およびCD28+抗体(4 μg)を用いて、Tregを4日間活性化した。
【0048】
次に通常の方法でCAR hCD19-EGFRまたは対照RV-EGFR のいずれかを用いてTregに形質導入した。形質導入後5日目に、形質導入効率が低いので、同じ方法で2回目の形質導入を行った。導入後7日目に、形質導入効率はCAR hCD19 Treg細胞および対照Treg細胞のいずれについても約30%であった。形質導入後7日目に、各群について精製度は>93%で、収量は2.675 x 106 CAR hCD19 Treg細胞および 2.25 x 106 対照Treg細胞であった。
【0049】
【表2】
【0050】
図5は、60日後の肺機能を示す;図5Aは、慢性GVHD未発症または発症マウス、ならびに28日目にCAR-T細胞もしくはGFP-T細胞で処理された慢性GVHDマウスの抵抗性を示す。慢性GVHDを示唆する高い抵抗性は、CAR-T細胞によって元に戻ったが、GFP-T細胞によっては戻らなかった;図5Bは、慢性GVHD未発症または発症の移植マウス、ならびに28日目にCAR-T細胞もしくはGFP-T細胞で処理された慢性GVHDマウスの弾性率を示す。慢性GVHDを示唆する高い弾性率は、CAR-T細胞によって元に戻ったが、GFP-T細胞によっては戻らなかった;慢性GVHD未発症または発症の移植マウス、ならびに28日目にCAR-T細胞もしくはGFP-T細胞で処理された慢性GVHDマウスの低いコンプライアンスを示す。慢性GVHDを示唆する低いコンプライアンスは、CAR-T細胞によって元に戻ったが、GFP-T細胞によっては戻らなかった。
【0051】
図6は、hCD19+細胞が、レシピエントマウスにおいて移植後4日目に存続することを示す(CD4-リンパ球から)。図7は、骨髄およびT細胞のみを移植したマウス、または骨髄および対照Treg細胞を移植したマウスと比較して、CAR CD19 Treg細胞の追加は、移植マウスの生存率を有意に向上させたことを示す。図8は、T細胞および/またはCAR CD19 Treg細胞がマウスに投与されるか否かにかかわらず、移植マウスの体重減少が同じようであったことを示す。重要なことに、図9は、骨髄、T細胞、およびCAR CD19 Treg細胞を移植されたマウスが、骨髄のみを移植されたマウスよりよい臨床スコアを示し、骨髄およびT細胞、または骨髄、T細胞および対照Treg細胞を移植されたマウスと同様の臨床スコアを示したことを明らかにする。CAR-T細胞は体重減少を引き起こすがGFP-T細胞は体重減少を起こさないという事実、ならびにCD19ヘテロ接合体マウスにおけるサイトカイン放出症候群と一致する臨床所見にもかかわらず、予想外にも、CAR-T細胞もGFP-T細胞も生存に悪影響を及ぼさなかった。
【0052】
当然のことながら、方法および組成物はいくつかの異なる態様とともに本明細書に記載されたが、前記のさまざまな態様の記載は、説明を意図するものであって、方法および組成物の範囲を限定するものではない。その他の態様、利点、および改変が以下の請求の範囲に含まれる。
【0053】
開示されるのは方法および組成物であるが、それらは、開示された方法および組成物の産物のために使用され、開示された方法および組成物の産物とともに使用され、開示された方法および組成物の産物の形成中に使用することが可能なものであるか、または開示された方法および組成物の産物である。上記および他の材料が本明細書に記載されるが、これらの方法および組成物の、組み合わせ、一部、相互作用、グループなどが開示されると理解される。すなわち、上記の組成物および方法の、すべてのさまざまな個別および集団の組み合わせおよびその並び替えに対する、具体的な言及が明確に明らかにされていなくても、そのそれぞれが本明細書において具体的に考慮され説明されている。たとえば、特定の組成物もしくは特定の方法が開示され検討される場合、ならびにいくつかの組成物もしくは方法が検討される場合、その組成物および方法のそれぞれのすべての組み合わせおよびその並び替えは、明確にそうでないと示されない限り、具体的に考慮されている。同様に、これらの任意の一部もしくは組み合わせも、明確に検討および開示されている。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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