(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023194
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】自己免疫および同種免疫への治療的介入としてのキメラ抗原受容体(CAR)T細胞
(51)【国際特許分類】
A61K 35/17 20150101AFI20220131BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220131BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220131BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220131BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220131BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220131BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220131BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220131BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220131BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220131BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20220131BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20220131BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220131BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20220131BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20220131BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220131BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20220131BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220131BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220131BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220131BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20220131BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220131BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220131BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220131BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
A61K35/17 Z ZNA
A61P37/06
A61P43/00 105
A61P19/02
A61P29/00
A61P13/12
A61P27/02
A61P1/16
A61P3/10
A61P25/28
A61P17/02
A61P7/06
A61P7/04
A61P21/00
A61P19/08
A61P17/04
A61P9/00
A61P7/02
A61K48/00
C07K19/00
C07K16/28
C07K14/725
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/13
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177696
(22)【出願日】2021-10-29
(62)【分割の表示】P 2018516558の分割
【原出願日】2016-09-28
(31)【優先権主張番号】62/233,908
(32)【優先日】2015-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】305023366
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラザー,ブルース アール.
(72)【発明者】
【氏名】フリン,ライアン ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ペンネル,クリストファー エー.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
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4B065BA02
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4C087ZB08
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4H045AA10
4H045AA11
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4H045AA30
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4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】自己免疫もしくは同種免疫疾患を治療するための方法および材料を提供する。
【解決手段】治療上有効な量の遺伝子改変されたヒトT細胞集団を含有する医薬組成物を使用する。前記ヒトT細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)構築物をコードする核酸配列を含有するように改変されており、前記CAR構築物は抗原結合ドメインを含有するが、該抗原結合ドメインは、自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患に罹患したヒト患者のB細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に発現されるリガンドに対して特異的である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者において自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患を治療する方法であって、この方法は:
ヒト患者に医薬組成物を投与することを含み、該医薬組成物は治療上有効な量の遺伝子改変ヒトT細胞集団を含有するものであって、該ヒトT細胞はキメラ抗原受容体(CAR)構築物をコードする核酸配列を含有するように改変されており、該CAR構築物は抗原結合ドメインを含有するものであって、該抗原結合ドメインが自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患に罹患したヒト患者のB細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に発現されるリガンドに特異的である、前記方法。
【請求項2】
T細胞がヒト患者に対して自家性である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
T細胞がヒト患者に対して同種異系である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患に罹患したヒト患者のB細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に発現されるリガンドが、CD10、CD19、CD20、CD22、CD24、CD27、CD38、CD45R、CD138、CD319、およびBCMAからなる一群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
自己免疫疾患が、慢性宿主片対宿主病(GVHD)、ループス、関節炎、免疫複合体糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、ぶどう膜炎、肝炎、 全身性硬化症もしくは強皮症、I型糖尿病、多発性硬化症、寒冷凝集素症、尋常性天疱瘡、グレーブス病、自己免疫性溶血性貧血、血友病A、原発性シェーグレン症候群、血栓性血小板減少性紫斑病、視神経脊髄炎、エヴァンス症候群、IgM介在性ニューロパチー、クリオグロブリン血症、皮膚筋炎、特発性血小板減少症、強直性脊椎炎、水泡性類天疱瘡、後天性血管性浮腫、慢性蕁麻疹、抗リン脂質脱髄性多発ニューロパチー、および自己免疫性血小板減少症もしくは好中球減少症もしくは赤芽球癆からなる一群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
同種免疫疾患が、造血細胞もしくは固形臓器の移植に起因する同種感作または異種感作、輸血、胎児の同種感作を伴う妊娠、新生児同種免疫性血小板減少症、新生児溶血性疾患、酵素もしくはタンパク質補充療法、血液製剤、および遺伝子治療で治療される遺伝性もしくは後天性欠乏症の補充に伴って起こる可能性のある外来抗原への感作、からなる一群から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
遺伝子改変T細胞がヒト患者においてin vivoで増殖する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
遺伝子改変T細胞が、抗原結合ドメインにより認識されるリガンドを発現するB細胞、形質細胞、もしくは形質芽細胞に対して、ヒト患者においてメモリーT細胞を生じる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
遺伝子改変T細胞が、ヒト患者において、投与後少なくとも3か月、投与後少なくとも4か月、投与後少なくとも5か月、投与後少なくとも6か月、投与後少なくとも7か月、投与後少なくとも8か月、投与後少なくとも9か月、投与後少なくとも10か月、投与後少なくとも11か月、投与後少なくとも12か月、投与後少なくとも2年、ならびに投与後少なくとも3年、からなる一群から選択される一定期間のあいだ存続する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
T細胞の有効な量が、ヒト患者の体重kg当り約104~約109個の細胞である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
T細胞の有効な量が、ヒト患者の体重kg当り約105~約106個の細胞である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
抗原結合ドメインが、抗体、またはその抗原結合フラグメントである、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
抗原結合フラグメントがFabまたはscFvである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
遺伝子改変T細胞がヒト患者に対して静脈内に投与される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
キメラ抗原受容体(CAR)構築物であって、該CAR構築物が、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域、膜貫通ドメイン、シグナル伝達ドメイン、および場合により、共刺激シグナル伝達領域を含み、該抗原結合ドメインが、自己免疫疾患または同種免疫疾患に罹患したヒト患者のB細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に発現されるリガンドに特異的である、前記構築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)の下で、2015年9月28日出願の米国特許出願第62/233,908号に基づく優先権の利益を主張する。
連邦政府後援の研究開発
本発明は国立衛生研究所により認定されたP01 CA142106に基づく政府の支援によって行われた。政府は本研究に一定の権利を有する。
技術分野
本明細書は概して免疫学に関するが、より詳細には、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、自己免疫疾患および同種免疫疾患の治療には限界があり、通常、実際の病気ではなく症状を治療する。したがって、自己免疫疾患および同種免疫疾患に対する新規治療法は有益となるであろう。
【発明の概要】
【0003】
ある態様において、ヒト患者の自己免疫もしくは同種免疫疾患を治療する方法が提供される。このような方法は概して、医薬組成物をヒト患者に投与することを含む。本明細書に記載されるように、医薬組成物は典型的には、治療上有効な量の遺伝子改変されたヒトT細胞集団を含有するが、このヒトT細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)構築物をコードする核酸配列を含有するように改変されている。本明細書に記載のように、CAR構築物は、自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患に罹患したヒト患者のB細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に発現されるリガンドに対して特異的な、抗原結合ドメインを含む。
【0004】
一部の実施形態において、T細胞はヒト患者に対して自家性(自己性)である。一部の実施形態において、T細胞はヒト患者に対して同種異系である。一部の実施形態において、自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患に罹患したヒト患者のB細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に発現されるリガンドは、CD10、CD19、CD20、CD22、CD24、CD27、CD38、CD45R、CD138、CD319、およびBCMAからなる一群から選択される。
【0005】
代表的な自己免疫疾患には、慢性宿主片対宿主病(GVHD)、ループス、関節炎、免疫複合体糸球体腎炎、グッドパスチャー(抗糸球体基底膜抗体型糸球体腎炎)、ぶどう膜炎、肝炎、 全身性硬化症もしくは強皮症、I型糖尿病、多発性硬化症、寒冷凝集素症、尋常性天疱瘡、グレーブス病(バセドウ病)、自己免疫性溶血性貧血、血友病A、原発性シェーグレン症候群、血栓性血小板減少性紫斑病、視神経脊髄炎、エヴァンス症候群、IgM介在性ニューロパチー、クリオグロブリン血症、皮膚筋炎、特発性血小板減少症、強直性脊椎炎、水泡性類天疱瘡、後天性血管性浮腫、慢性蕁麻疹、抗リン脂質脱髄性多発ニューロパチー、および自己免疫性血小板減少症もしくは好中球減少症もしくは赤芽球癆があるがそれらに限定されない。代表的な同種免疫疾患には、造血細胞もしくは固形臓器の移植に起因する同種感作または異種感作、輸血、胎児の同種感作を伴う妊娠、新生児同種免疫性血小板減少症、新生児溶血性疾患、酵素もしくはタンパク質補充療法、血液製剤、および遺伝子治療で治療される遺伝性もしくは後天性欠乏症の補充に伴って起こる可能性のある外来抗原への感作があるがそれらに限定されない。
【0006】
一部の実施形態において、遺伝子改変T細胞はヒト患者においてin vivoで増殖する。一部の実施形態において、遺伝子改変T細胞は、抗原結合ドメインにより認識されるリガンドを発現するB細胞に対して、ヒト患者においてメモリーT細胞を生じる(形成する)。一部の実施形態において、遺伝子改変T細胞は、ヒト患者において一定期間(たとえば、投与後少なくとも3か月、投与後少なくとも4か月、投与後少なくとも5か月、投与後少なくとも6か月、投与後少なくとも7か月、投与後少なくとも8か月、投与後少なくとも9か月、投与後少なくとも10か月、投与後少なくとも11か月、投与後少なくとも12か月、投与後少なくとも2年、ならびに投与後少なくとも3年)存続する(持続する)。
【0007】
一部の実施形態において、T細胞の有効な量は、ヒト患者の体重kg当り約104~約109個の細胞(たとえば、患者の体重kg当り約105~約106個の細胞)である。一部の実施形態において、遺伝子改変T細胞はヒト患者に対して静脈内に投与される。
【0008】
一部の実施形態において、抗原結合ドメインは、抗体、またはその抗原結合フラグメント(断片)である。一部の実施形態において、抗原結合フラグメント(断片)はFabまたはscFvである。
【0009】
別の態様において、キメラ抗原受容体(CAR)構築物が提供される。こうしたCAR構築物は典型的には、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域、膜貫通ドメイン、シグナル伝達ドメイン、および必要に応じて、共刺激シグナル伝達領域を含む。本明細書に記載のように、抗原結合ドメインは、自己免疫疾患または同種免疫疾患に罹患したヒト患者の、B細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に発現されるリガンドに特異的である。
【0010】
特に明記しない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、方法および組成物の属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様もしくは同等の方法および材料を、方法および組成物の実施もしくは試験に使用することはできるが、好適な方法および材料は以下に記載される。さらに、材料、方法、および実例は、一例にすぎず、限定することを意図するものではない。本明細書で言及されるあらゆる出版物、特許出願、特許、および他の引用文献はその全体が参考として組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1Aは、x軸上に示す遺伝子型を有するマウスの末梢血中の、CD45R B細胞の出現頻度を示す散布図である。それぞれのしるしは異なるマウスを表す。”***”は、<0.001のp値を有する、集団間の統計的有意差を示す。
図1Bは、x軸上に示す遺伝子型を有するマウスの末梢血中の、マウス(m)CD19 B細胞の出現頻度を示す散布図である。それぞれのしるしは異なるマウスを表す。”***”は、<0.001のp値を有する、集団間の統計的有意差を示す。
図1Cは、ヒトCD19タンパク質の発現によって測定されるB細胞の出現頻度を示す散布図であって、他のB細胞特異的マーカーであるCD45RおよびマウスCD19で測定される値と矛盾しない。それぞれのしるしは異なるマウスを表す。”***”は、<0.001のp値を有する、集団間の統計的有意差を示す。
図1Dは、蛍光強度中央値(MFI)を示すグラフであるが、これはマウスB細胞上のヒトCD19タンパク質発現を求めるために測定された。それぞれのしるしは異なるマウスを表す。”***”は、<0.001のp値を有する、集団間の統計的有意差を示す。
【
図2】
図2は、ヒトCD19特異的CARをコードする構築物をレトロウイルスによって形質導入されたマウスT細胞が、適当な培養条件下で、in vitroで有意に増殖したことを示す折れ線グラフである。y軸は1日目の開始時の細胞数に対する、5日間にわたる細胞数の増殖倍率を示す。
【
図3】
図3Aは、特異的溶解パーセントを示すが、これはヒトCD19+腫瘍標的の死滅のみを意味し、混じっているヒトCD19ネガティブ腫瘍細胞の死滅を意味しない。2つの細胞型の数は、さまざまな数のCART-19細胞を添加した4時間後および14時間後に測定された。エフェクターCART-19細胞のヒトCD19+腫瘍標的細胞に対する割合(E:T比)は、0から10までさまざまとした。
図3Bは、in vitroでCART-19細胞のオフターゲットの細胞傷害性がないことを示す棒グラフである。これは、さまざまな数のCART-19細胞を入れたウェル内のほぼ同数のTBL12(ヒトCD19ネガティブ)腫瘍細胞によって証明される;TBL12細胞は、in vitroでCART-19細胞の添加の4時間後および14時間後に計数された。
【
図4】
図4Aは、huCD19TG+/-マウスにおいて、CAR T-19細胞(緑色)がB細胞(赤色)を枯渇させることを示す写真である。
図4Bは、対照のhuCD19TG+/-マウスにおいて、CAR T細胞(緑色)は存在するが
図4Aで示されるほどには広がっていないこと、ならびにB細胞(赤色)は豊富にあって枯渇していないことを示す写真である。
【
図5A】
図5Aは、移植後60日目に機械的に換気された挿管マウスにおいて測定された、マウスにおける肺血管抵抗を示す棒グラフである。肺機能検査は、移植後60日目にFlexiVentシステム(Scireq)を用いて全身プレチスモグラフィによって測定された。すべてのマウスが骨髄移植を受けた。追加のT細胞なしでは、マウスは慢性GVHDを発症せず、骨髄移植(BMT)対照として機能した。BM+T細胞を受けたマウスは、慢性GVHDを引き起こすように追加のT細胞が与えられた。28日目に、指示群は、追加の治療を受けないか、またはドナーT細胞を受け入れたが、このドナーT細胞は、抗CD19 ScFv CARもしくは緑色蛍光タンパク質(GFP)対照タンパク質を発現するように形質導入され、in vitroで
図2のように増殖させたのち、in vivoで0.3 x 10
6 個のCAR-T細胞もしくはGFP-T細胞の用量で注入された。高い抵抗性は慢性GVHDを表し、これはCAR T細胞により改善されるがGFP T細胞によっては改善されない。**P≦0.01; ****P≦0.0001。
【
図5B】
図5Bは、
図5Aにしたがって60日後のマウスにおける肺エラスタンスを示す棒グラフである。慢性GVHDマウスにおける高いエラスタンスは、弾性収縮性の喪失を示し、これはCAR T細胞により回復されるがGFP T細胞によっては回復されない。**P ≦ 0.01; ***P ≦ 0.001。
【
図5C】
図5Cは、
図5Aにしたがって60日後のコンプライアンスを示す棒グラフである。慢性GVHDマウスにおける低いコンプライアンスは硬い肺を示しており、これはCAR-T細胞で回復するがGFP-T細胞では回復しない。**P ≦ 0.01; ***P ≦ 0.001; ****P ≦ 0.0001。
【
図6】
図6は、hCD19+細胞が、レシピエントマウスにおいて移植後4日目に存続することを示す(CD4-リンパ球から)、散布図である。
【
図7】
図7は、マウスの生存率を示すグラフである。
【
図9】
図9は、移植後のマウスの臨床スコアを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
ヒト患者において自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患を治療するために使用することができる、免疫治療の方法を本明細書に記載する。このような方法は典型的には、有効量の遺伝子改変ヒトT細胞を含有する医薬組成物をヒト患者に投与することを含む。本明細書で使用される遺伝子改変T細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現しコードする核酸配列を含有するように改変されたT細胞を指す。こうした遺伝子改変T細胞は、多くの場合CAR-T細胞と称される。CAR-T細胞の代わりに遺伝子改変ヒトT細胞を使用することができるが、この遺伝子改変ヒトT細胞は、T細胞受容体遺伝子がB細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上の抗原(すなわちペプチド)を認識するように改変されたT細胞を意味する。
【0013】
CAR-T細胞は当技術分野で知られており、典型的にはCAR構築物を含有する。B細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上に存在する任意のリガンドに特異的な、少なくとも1つの抗原結合ドメインをコードする核酸に加えて、典型的なCAR構築物は、シグナルペプチド(たとえば、scFv軽鎖に固有のシグナルペプチド、scFv重鎖に固有のシグナルペプチド)、ヒンジ領域(たとえば、CD8α、CD3またはIgG1由来)、膜貫通ドメイン(たとえば、CD8α、CD3ζまたはCD28由来)、シグナル伝達ドメイン(たとえば、CD3ζまたはCD28由来)、ならびに必要に応じて、共刺激シグナル伝達ドメイン(たとえば、CD27、CD28またはOX40由来)をコードする核酸を含有する。たとえば、米国特許第8,822,647号および第9,328,156号を参照されたい。本明細書に記載のCAR構築物に使用するのに適した抗原結合ドメインは、自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患を治療するのに役立つ抗原結合ドメインである。
【0014】
CAR構築物およびCAR-T細胞を作製する方法は当技術分野で知られている。CARを作製する方法は典型的には、標準的な組換え技術および分子生物学の手法を含む。次にCAR構築物を、当技術分野で周知のトランスフェクション技術を用いてT細胞に導入することができる。あるいはまた、T細胞受容体遺伝子を、たとえばZnフィンガーヌクレアーゼを用いて改変することができる(たとえば、米国特許第8,956,828号を参照されたい)。
【0015】
CAR構築物は既知の方法によってT細胞に導入される。ある場合には、T細胞は患者にとって自家性である(患者から得られ、CAR構築物で改変されて、患者に戻し入れられる)が、他の例では、T細胞は患者にとって同種異系である(血縁もしくは非血縁個体から得られる)。
【0016】
本明細書に記載の方法は、自己免疫疾患および同種免疫疾患に適用することができる。自己免疫疾患の典型的な非限定的例としては、慢性移植片対宿主病(GVHD)、ループス、関節炎、免疫複合体糸球体腎炎、グッドパスチャー(抗糸球体基底膜抗体型糸球体腎炎)、ぶどう膜炎、肝炎、 全身性硬化症もしくは強皮症、I型糖尿病、多発性硬化症、寒冷凝集素症、尋常性天疱瘡、グレーブス病(バセドウ病)、自己免疫性溶血性貧血、血友病A、原発性シェーグレン症候群、血栓性血小板減少性紫斑病、視神経脊髄炎、エヴァンス症候群、IgM介在性ニューロパチー、クリオグロブリン血症、皮膚筋炎、特発性血小板減少症、強直性脊椎炎、水泡性類天疱瘡、後天性血管性浮腫、慢性蕁麻疹、抗リン脂質脱髄性多発ニューロパチー、および自己免疫性血小板減少症もしくは好中球減少症もしくは赤芽球癆があり、同種免疫疾患の典型的な非限定的例には、造血細胞もしくは固形臓器の移植に起因する同種感作(たとえば、Blazar et al., 2015, Am. J. Transplant., 15(4):931-41を参照されたい)または異種感作、輸血、胎児の同種感作を伴う妊娠、新生児同種免疫性血小板減少症、新生児溶血性疾患、酵素もしくはタンパク質補充療法、血液製剤、および遺伝子治療で治療される遺伝性もしくは後天性欠乏症の補充に伴って起こる可能性のある外来抗原への感作がある。
【0017】
B細胞、形質細胞もしくは形質芽細胞上のリガンドに特異的な抗原結合ドメインは、本明細書に記載の自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患を治療する方法において有用である。たとえば、CAR構築物は、CD19、CD20、CD22、CD138、BCMA、CD319、CD10、CD24、CD27、CD38、またはCD45Rに特異的であるがそれに限定されない、抗原結合ドメインを含有することができる。それに加えて、CAR構築物は、それに限定されないが自己免疫特異抗原に特異的な抗原結合ドメインを含有することができる。自己免疫特異抗原には、たとえば、全身性エリテマトーデス(SLE)、グレーブス病(バセドウ病)、セリアック病、1型糖尿病、関節リウマチ(RA)、サルコイドーシス、シェーグレン症候群、多発性筋炎(PM)および皮膚筋炎(DM)をもたらす抗原がある。たとえば、Ellebrecht et al., 2016, Science, 353:179-84を参照されたい。
【0018】
代表的なCAR構築物の核酸配列を配列番号1に示す。配列番号1に示されるCAR構築物は、CD19に特異的な抗原結合ドメインを有する(配列番号1のnt 1-810)が、任意の個数の抗原結合ドメインを発現するCAR構築物を本明細書に記載の方法に使用できることは当業者には当然であろう。たとえば、Uckun et al., 2011, Brit. J. Hematol., 153:15-23; US 2012/0141505;ならびに米国特許第5,484,892; 5,573,924; 6,379,668; 7,744,877; 8,362,211; 9,023,999; および9,034,324号は、本明細書に記載の組成物(たとえばCAR構築物)および方法に使用することができる、いくつかの抗原結合ドメインの配列を記載する。
【0019】
当然のことながら、抗原結合ドメインは、たとえば、免疫グロブリン、またはT細胞受容体(TCR)のα鎖もしくはβ鎖由来の抗原結合ドメインとすることができるが、抗原結合ドメインは抗原結合フラグメントとすることもできる(たとえば、scFvもしくはFab)。やはり当然のことながら、CAR構築物は、CARを構成的に、または誘導性に発現させるエレメントを有するようにデザインすることができるので、CAR-T細胞の治療能力をさらにコントロールすることができる。
【0020】
本明細書で使用されるCAR-T細胞の有効量は、ヒト患者に毒性をもたらすことなく、望ましい治療のエンドポイント(たとえば、症状の減少、改善もしくは除去、ヒト患者の自己抗体もしくは同種抗体の減少もしくは除去)をもたらす量を意味する。ほんの一例として、ヒト患者に投与されるCAR-T細胞の有効量は、ヒト患者の体重kg当り約104~約109個のCAR-T細胞(たとえば、約105~約106個のCAR-T細胞)を意味することがある。当然のことながら、CAR-T細胞は、典型的にはヒト患者に静脈内投与される。
【0021】
本明細書で使用される「治療」は、自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患の進行、またはそうした自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患に伴う1つもしくは複数の症状を改善し、緩和し、または阻止することを意味する。当然のことながら、治療が達成されたか否か(たとえば、患者が治療されたか否か)を判定する、1つもしくは複数の具体的な治療のエンドポイントは、患者が罹患しているのが自己免疫疾患か同種免疫疾患かによって、ならびに自己免疫もしくは同種免疫疾患の個別のタイプによって、決まってくる。それに加えて、多くの自己免疫もしくは同種免疫疾患の症状は広範で、非特異的で、ならびに/または、不明瞭なので、1つもしくは複数の具体的な治療のエンドポイントも、それぞれの患者の個別の自己免疫もしくは同種免疫疾患の所見(たとえば、侵された組織もしくは臓器、疾患の重症度もしくは進行度、または2つ以上の疾患の併存)によって決まる。単に一例として、Lee et al. (2015, Biol. Blood Marrow Transplant., 21:984-999) および Jagasia et al. (2015, Biol. Blood Marrow Transplant., 21:389-401)は、GVHDの臨床ガイドラインを提供する。
【0022】
当業者には当然のことながら、遺伝子改変T細胞のヒト患者におけるin vivoでの増殖は、治療の成功を示す。それに加えて、当業者には当然のことながら、ヒト患者におけるメモリーT細胞の生成も成功の指標となる。当業者にはやはり当然のことながら、遺伝子改変T細胞は、投与後少なくとも3か月(投与後少なくとも4か月、少なくとも5か月、少なくとも6か月、少なくとも7か月、少なくとも8か月、少なくとも9か月、少なくとも10か月、少なくとも11か月、少なくとも12か月、少なくとも2年、または少なくとも3年)の間、ヒト患者において存続することができる。
【0023】
免疫治療のほかに、本明細書に記載の方法を、細胞機構によるB細胞コンパートメントの破壊の研究に使用することもできる。たとえば、化合物をスクリーニングして、B細胞を枯渇させる(たとえば、T細胞が疾患を引き起こすのに適したシグナルを受け取らないように)、またはB細胞とT細胞の間に生じ、B細胞による抗体産生に必要とされる協同性を妨害し、もしくはそれに干渉するような、化合物を同定することができる。スクリーニングすることができる代表的な化合物には、細胞、薬物、小分子、核酸(たとえば、DNA、RNA(たとえば、干渉RNA(RNAi);例、shRNAもしくはsiRNA))、タンパク質、ペプチド、および小分子があるがそれに限定されない。
【0024】
本発明にしたがって、当技術分野の技能に含まれる従来の分子生物学、微生物学、生化学、および組換えDNA技術を用いることができる。このような技術は、文献中に十分に説明されている。以下の実施例において本発明をさらに説明することとするが、これは特許請求の範囲に記載される方法および組成物の範囲を限定しない。
(実施例)
【実施例0025】
ヒトCD19特異的CAR T細胞のon-target/off-tumor毒性(標的毒性/腫瘍外毒性)を評価するためのマウスモデルの最適化
ヒトCD19導入遺伝子(huCD19TG)をもっぱら健全なB細胞において発現するマウスを使用した。この細胞はヒトCD19特異的CAR T細胞の移入により死滅するはずであり、on-target/off-target毒性を測る指標となるはずである。これは、ヒトCD19特異的CAR T細胞のヒト臨床試験において観察されるon-target/off-tumor毒性にもっとも近い動物モデルを提供する。
【0026】
最初の決断は、huCD19TGホモ接合体(+/+)のマウスを使用するか、ヘミ接合体(+/-)のマウスを使用するかである。2つの重要な基準は、B細胞出現頻度、およびB細胞のhuCD19TG発現レベルである。本発明者らのゴールは、ヒトの状態にもっともよく似たマウスを選択することである。huCD19TGマウスはC57BL/6をベースとする。以下の実験は、B細胞出現頻度およびhuCD19TG発現レベルを測定する方法を説明する。
【0027】
マウスごとに75-200 μlの血液を、顔面静脈の静脈穿刺によって採取した。血液は、野生型(huCD19TG-/-)、ヘミ接合体(huCD19TG+/-)、およびホモ接合体(CD19+/+)マウスから採取され、抗凝固薬ヘパリンを入れた1.5 mlエッペンドルフチューブに集められた。B細胞特異的タンパク質に特異的なフルオロフォア結合抗体を、マウス当り75 μlの血液に添加した。抗体特異性は、マウス CD19 (B細胞特異的マーカー)、ヒトCD19 (導入遺伝子によりコードされる)、およびマウスCD45R (B細胞特異的マーカー)とした。サンプルを暗所で室温にて15-30分間インキュベートした。1X ACK溶解バッファーを用いて赤血球を溶解した。残った白血球をFACSバッファーで2回洗浄した。
【0028】
次に、各サンプルをフローサイトメトリーで分析して、リンパ球集団におけるB細胞の出現頻度を測定した。これを行うために、特徴的な前方散乱(FSC)および側方散乱(SSC)光の特性に基づいてリンパ球が選択された。前方散乱はサイズを測り、側方散乱は細胞内の複雑性を測っている。マウスCD19、ヒトCD19、およびマウスCD45Rを発現するリンパ球の出現頻度は、リンパ球ゲート内の抗体結合細胞数をリンパ球ゲート内の全細胞数で割って求められた。
【0029】
図1A、1B、および1Cのデータは、y軸が抗体結合リンパ球の出現頻度を表し、x軸がリンパ球源を表す散布図として与えられる。
図1Dのデータは、huCD19TG
+/+ およびhuCD19TG
+/- マウス由来の末梢血B細胞上に発現されるヒトCD19タンパク質の相対レベルを示す。MFIは蛍光強度中央値の略語であるが、これは特異的抗体結合の直接的な指標であり、したがって、抗体(この場合ヒトCD19)により検出されるタンパク質の細胞表面上の量の間接的な指標である。
【0030】
野生型 (-/-)、huCD19ヘミ接合体 (+/-)、およびhuCD19ホモ接合体 (+/+) マウスの末梢血リンパ球におけるB細胞の平均出現頻度は、それぞれ、43%、26%、および10%である。これらの出現頻度は、マウスCD45RもしくはマウスCD19のいずれかを用いて末梢血B細胞を確認した場合と一致する。これらの出現頻度は、ヒトCD19を用いてhuCD19TG+/+ およびhuCD19TG+/- マウス由来の末梢血B細胞を確認した場合も一致する。野生型マウス(huCD19TG-/-)はヒトCD19タンパク質を発現しないので、抗ヒトCD19抗体を用いて検出できるリンパ球がないことは注目される。huCD19TGヘミ接合体 (+/-) マウス由来の末梢血B細胞は、huCD19TG ホモ接合体 (+/+) マウス由来の末梢血B細胞と比べて、約半分のレベルのヒトCD19を発現する。この発現レベルは、ヘミ接合体huCD19TGマウスに対してホモ接合体のゲノムには2倍のコピー数のhuCD19TGが存在することと相関する。
【0031】
図1に示すデータに基づいて、養子移植されるヒトCD19特異的CAR-T細胞のレシピエントとして、huCD19TGホモ接合体(+/+)マウスではなくhuCD19TGヘミ接合体(+/-)マウスを使用することを決定したが、それは、ヘミ接合体マウスにおける末梢血B細胞の出現頻度のほうが、正常な、非トランスジェニックマウスにおける末梢血B細胞の出現頻度に近いからである。腫瘍治療実験において、ヒトの状況をもっともよく模したモデルとするために、腫瘍上のヒトCD19の発現レベルを、huCD19TGヘミ接合体(+/-)由来の末梢血B細胞上の発現レベルと合わせることができる。
スピノキュレーション(spinoculation)#1(1日目)の準備をするために、24ウェル組織培養プレートをPBS中100 μg/mL RetroNectinでコーティングした。サンプルを室温にて3時間、または4℃にて一晩インキュベートした。
マウスT細胞の形質導入は、次のように、スピノキュレーション#1(1日目)によってウイルス上清を用いて実施された。それぞれの条件から一定量をピペットで採取して、適当な大きさのFalconチューブに集め、活性化されたT細胞を1日目から計数した。細胞を緩やかに遠心分離し(たとえば1200 rpmで10分間)、100 IUのrHuman IL-2を添加した完全RPMI(DMEM)中に再懸濁して2 x 106 細胞/mLとした。スピノキュレーションの前に、RetroNectinでコーティングしたプレートからRN/PBS溶液を吸引した。ウェルを1 mL PBSで洗浄して吸引した。事前に凍結していない、または解凍された、ウイルス上清の1 mL(または希釈物)を各ウェルに添加した。ウイルス上清を添加したらすぐに、T細胞1 mLを添加した。各ウェルには、2 x 106 個のT細胞およびウイルス上清を有する全量2 mLが入った。プレートをただちに、30℃にて2,000 g(2960 rpm)で1時間遠心分離した(1回目のスピノキュレーション)。細胞を5% CO2中37℃にて一晩インキュベートした。
スピノキュレーション#2(2日目)のために、ウェルの底にあるT細胞を乱さないように注意して、各ウェルから培地を吸引した。除去される培地の量は、1日目にウェルに添加されたウイルスの量と同じとした。新調製の、または解凍された、ウイルス上清の1 mL(または希釈物)を各ウェルに補充した。プレートを30℃にて2,000 g(2960 rpm)で1時間遠心分離した(2回目のスピノキュレーション)。細胞を5% CO2中37℃にて一晩インキュベートした。