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特開2022-23215DPEP-1結合組成物および使用の方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023215
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】DPEP-1結合組成物および使用の方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220131BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220131BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20220131BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 31/662 20060101ALI20220131BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220131BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20220131BHJP
   A61K 38/55 20060101ALN20220131BHJP
   C07K 16/40 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P29/00 ZNA
A61P37/02
A61P35/04
A61P13/12
A61P9/10
A61K38/08
A61K38/10
A61K31/662
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
A61K38/55
C07K16/40
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021181238
(22)【出願日】2021-11-05
(62)【分割の表示】P 2018527025の分割
【原出願日】2016-08-11
(31)【優先権主張番号】62/264,032
(32)【優先日】2015-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/203,704
(32)【優先日】2015-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518049544
【氏名又は名称】アーチ バイオパートナーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン マーク ロビンズ
(72)【発明者】
【氏名】ドナル ロレイン センガー
(72)【発明者】
【氏名】ジェニファー ジョイ ラーン
(72)【発明者】
【氏名】サウラブ ロイ チョウドリー
(72)【発明者】
【氏名】アーサー ウィング ジィー ラウ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル アブラハム ムルベ
【テーマコード(参考)】
2G045
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CB01
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084BA18
4C084BA23
4C084CA59
4C084DC32
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC201
4C084ZC202
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA34
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA55
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA81
4C086ZB07
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZC20
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
【課題】炎症を低減またはブロックするための追加の治療用化合物、炎症性応答のブロッカー、サプレッサー、またはモジュレーターとして機能する組成物、新規標的およびこれらの標的を介して炎症をモジュレートする方法を提供する。
【解決手段】対象において炎症を低減し、白血球動員をブロックし、腫瘍転移を阻害し、敗血症を処置し、急性腎傷害を予防/低減するための医薬組成物およびその使用方法が提供される。第1の態様では、本発明は、DPEP-1と結合する有効量の化合物を含む、DPEP-1結合組成物を提供する。第2の態様では、本発明は、それを必要とする対象において炎症を処置するための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を対象に投与し、これにより炎症を処置するステップを含む方法を提供する。
【選択図】図7B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
【0002】
本出願は、2015年8月11日に出願された米国仮特許出願番号第62/203,704号および2015年12月7日に出願された米国仮出願番号第62/264,032号の利益を主張しており、これら出願の内容は、それらの全体が参考として本明細書に援用される。
【0003】
発明の分野
【0004】
本発明は、対象において炎症を低減し、白血球動員をブロックし、腫瘍転移を阻害し、敗血症を処置し、急性腎傷害を予防/低減するための医薬組成物およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0005】
発明の背景
【0006】
炎症は、有害な刺激に対する宿主防御反応である。急性炎症は、発赤、発熱、腫脹、および疼痛により特徴付けられる。炎症の第一の目的は、刺激物の局在化と根絶および周辺組織の修復促進である。ほとんどの場合、炎症は、必要で有益なプロセスである。
【0007】
炎症応答は、3つの主要な段階を含む:第1に、血流を増加させる細動脈の拡張;第2に、微小血管構造変化および血漿タンパク質の血流からの逸脱;ならびに第3に、内皮を通じた白血球遊走および傷害部位における蓄積。白血球の経内皮移動(TEM)は、炎症、傷害部位に対する白血球の動員、および免疫反応において重要なステップである。炎症部位への好中球の遊出は、細胞間の接着を必要とすると考えられている。
【0008】
炎症は、急性または慢性であり得る。急性炎症を促す有害な刺激を消散できなければ、慢性炎症を引き起こすおそれがあるが、いくつかの刺激によっては、慢性炎症を促す可能性がさらに高まる。ある場合は、炎症は二次的または慢性的な損傷を引き起こす。腫瘍微環境内の炎症も、がんの加速および腫瘍転移と関わっている(Wuら、Cell Cycle、2009年10月15日;8巻(20号):3267~73頁、Gengら、PLoS One、2013年;8巻(1号):e54959)。炎症促進性分子が存在すると、悪性がん細胞の内皮壁への接着が可能となり、転移を引き起こす。炎症促進性サイトカインは、がん細胞の増殖および凝集を誘発し、他のがん細胞がより多くのサイトカインを分泌するきっかけをつくり、正のフィードバック帰還ループを引き起こす。急性および慢性炎症における接着分子の役割は、白血球の内皮への接着をモジュレートする、またはブロックすることにより、炎症を制御する方法を開発する研究領域である。
【0009】
抗炎症剤は、炎症性応答のブロッカー、サプレッサー、またはモジュレーターとして機能する。他の組織内の応答を維持しつつ、1つの組織内の炎症をモジュレートするために、炎症の組織特異的制御が望ましい場合がある。抗炎症剤が、様々な急性および慢性の状態を処置するのに使用される。ほとんどの人々は、これらの薬剤を服用するのに苦労しないが、人によっては、重篤となり得る副作用を発症する。いくつかの群では、これらの薬は、代替案が存在しない場合に限り、必要な用量および期間の最低限度において慎重に製剤化される。
【0010】
パターン認識受容体による非自己分子パターンの認識は、先天性免疫の基本である。先天性免疫系の研究は、炎症性応答を活性化させる感覚およびシグナル伝達のためのジヌクレオチド受容体の存在も明らかにした(Caiら、2014年)。ジヌクレオチド受容体STINGが、I型IFNを誘発するのに使用される(Ishikawa、2009年)。これらの系は、哺乳動物および他の動物において普及している。ジヌクレオチド受容体が存在する場合は、同様に機能するジペプチド受容体が存在する可能性がある。炎症促進性のジペプチド受容体細胞内シグナル伝達システムは、炎症をモジュレートし、急性および慢性の炎症媒介型の疾患を処置する別の治療アプローチを提供する。
【0011】
炎症を低減またはブロックするための追加の治療用化合物に対する必要性が存続している。したがって、炎症性応答のブロッカー、サプレッサー、またはモジュレーターとして機能する組成物が必要とされている。新規標的およびこれらの標的を介して炎症をモジュレートする方法も必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Wuら、Cell Cycle、2009年10月15日;8巻(20号):3267~73頁
【非特許文献2】Gengら、PLoS One、2013年;8巻(1号):e54959
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
発明の要旨
DPEP-1経路は、炎症、白血球動員、および腫瘍転移をモジュレートするための新規経路である。本明細書に提示する組成物および方法は、炎症、腫瘍転移のモジュレーション、および関連した状態の処置に対する新規かつ特有のアプローチを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の態様では、本発明は、DPEP-1と結合する有効量の化合物を含む、DPEP-1結合組成物を提供する。
【0015】
一実施形態では、化合物は、DPEP-1の競合的アンタゴニスト、非競合的アンタゴニスト、および不競合的アンタゴニスト、またはサイレントアンタゴニストから選択される。
【0016】
一実施形態では、化合物は、ペプチドを含む。
【0017】
一実施形態では、ペプチドは、LSALT配列(LSALTPSPSWLKYKAL)を含む。
【0018】
一実施形態では、ペプチドは、LSALT配列、ならびにLSALT配列のN末端および/またはC末端に1、2、3、4、または5個のアミノ酸残基を含む。
【0019】
一実施形態では、LSALT配列は、ペグ化、アセチル化、グリコシル化、ビオチン化、または1つもしくは複数のD-アミノ酸および/もしくは非天然アミノ酸、ならびにそれらの組合せによる置換により修飾される。
【0020】
一実施形態では、LSALT配列、またはN末端もしくはC末端における追加の残基は、1つまたは複数の修飾されたアミノ酸残基またはアミノ酸類似体を含む。
【0021】
一実施形態では、アミノ酸類似体は、β-アラニン、ノルバリン、ノルロイシン、4-アミノ酪酸、オルニチン(orithine)、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、システイン酸、シクロヘキシルアラニン、2-アミノイソ酪酸、6-アミノヘキサン酸、t-ブチルグリシン、フェニルグリシン、o-ホスホセリン、N-アセチルセリン、N-ホルミルメチオニン、3-メチルヒスチジンから選択される。
【0022】
一実施形態では、修飾されるアミノ酸残基は、メチル化、アミド化、アセチル化、および/または他の化学基による置換により修飾される。
【0023】
一実施形態では、ペプチドは、GFEトリペプチド配列を含む。
【0024】
一実施形態では、ペプチドは、配列:X1-G-F-E-X2を含み、式中、X1およびX2は、それぞれ1~10個の独立に選択されたアミノ酸である。
【0025】
一実施形態では、GFEペプチドは、配列CGFECVRQCPERC(GFE-1)またはCGFELETC(GFE-2)を含む。
【0026】
一実施形態では、GFE-1またはGFE-2ペプチドは、ペプチドのN末端およびC末端上に、少なくとも1~5個の追加のアミノ酸をさらに含む。
【0027】
一実施形態では、GFE-1またはGFE-2ペプチドは、ペプチドのN末端またはC末端上に、少なくとも1~5個の追加のアミノ酸をさらに含む。
【0028】
一実施形態では、GFE-1またはGFE-2ペプチドは、シラスタチンとコンジュゲートしていない。
【0029】
一実施形態では、GFEペプチドは、ペグ化、アセチル化、グリコシル化、ビオチン化、または1つもしくは複数のD-アミノ酸および/もしくは非天然アミノ酸による置換により修飾される。
【0030】
一実施形態では、GFEペプチドまたはN末端もしくはC末端の追加の残基は、1つまたは複数の修飾されたアミノ酸残基またはアミノ酸類似体を含む。
【0031】
一実施形態では、アミノ酸類似体は、β-アラニン、ノルバリン、ノルロイシン、4-アミノ酪酸、オルニチン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、システイン酸、シクロヘキシルアラニン、2-アミノイソ酪酸、6-アミノヘキサン酸、t-ブチルグリシン、フェニルグリシン、o-ホスホセリン、N-アセチルセリン、N-ホルミルメチオニン、3-メチルヒスチジンから選択される。
【0032】
一実施形態では、修飾されるアミノ酸残基は、メチル化、アミド化、アセチル化、および/または他の化学基による置換により修飾される。
【0033】
一実施形態では、化合物は、遮断抗体を含む。
【0034】
一実施形態では、遮断抗体は、DPEP-1の活性を低下させる、アンタゴナイズする、またはブロックする。
【0035】
一実施形態では、化合物は、小分子を含む。
【0036】
一実施形態では、小分子は、DPEP-1の活性を低下させる、アンタゴナイズする、またはブロックする。
【0037】
一実施形態では、小分子は、シラスタチンである。
【0038】
一実施形態では、小分子は、アミノホスフィン酸誘導体である。
【0039】
一実施形態では、アミノホスフィン酸誘導体は、式:
【化1】
を有する。
【0040】
式中、Xは、任意のハロゲン、またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキル、CFNR’、またはF、Cl、Br、I125、I、CFNR’からなる群から選択される。Yは、任意のハロゲン、H、CH、OCH、NR’またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6アルコキシ基、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキルからなる群から選択される;NR’は、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択される;Zは、OまたはSであり得る。またXおよびYは、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択されるアミンであってもよい。
【0041】
一実施形態では、化合物および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物が提供される。
【0042】
一実施形態では、担体は、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、デキストロース溶液、血清含有溶液、ハンクス溶液、油、エステル、およびグリコールから選択される。
【0043】
一実施形態では、医薬組成物は、非経口投与に適する。
【0044】
一実施形態では、医薬組成物は、静脈内投与に適する。
【0045】
一実施形態では、化合物は、約0.01mg/kg~約100mg/kgの投薬量で投与される。
【0046】
第2の態様では、本発明は、それを必要とする対象において炎症を処置するための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を対象に投与し、これにより炎症を処置するステップを含む方法を提供する。一実施形態では、炎症は、急性腎傷害と関連する。
【0047】
一実施形態では、炎症は、IL-12、IP-10、IL-1b、IL-5、GM-CSF、IFNガンマ、またはIL-1aから選択される炎症マーカーのプロファイルにより特徴付けられる。
【0048】
一実施形態では、方法は、診断テストを実施して炎症を低減する必要性を決定することにより、処置を必要とする対象を識別するステップをさらに含む。処置の適応症には、急性腎傷害のリスクがある(手術前または造影剤の静脈内投与前において)任意の患者、または尿量が低下している、もしくは血清クレアチニンが増加している任意の患者、例えば全身感染症もしくは低血圧症の患者における臨床徴候および症状が含まれるが、これらに限定されない。
【0049】
第3の態様では、本発明は、それを必要とする対象において、白血球動員をブロックするための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を対象に投与し、これにより白血球動員をブロックするステップを含む方法を提供する。
【0050】
一実施形態では、方法は、診断テストを実施して、白血球動員をブロックする必要性を決定することにより、処置を必要とする対象を識別するステップをさらに含む。処置の適応症には、白血球動員が増加するリスクがある任意の患者の臨床徴候および症状が含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
第4の態様では、本発明は、それを必要とする対象において腫瘍転移を低減または予防する方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を対象に投与し、これにより腫瘍転移を低減または予防するステップを含む方法を提供する。
【0052】
一実施形態では、方法は、対象に由来する腫瘍サンプル中のDPEP-1を検出することにより、処置を必要とする対象を識別するステップをさらに含む。
【0053】
第5の態様では、本発明は、それを必要とする対象において敗血症期間中に白血球動員および炎症を処置または予防するための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を対象に投与し、これにより敗血症の臓器合併症、例えば急性の腎、肺、または肝傷害等を低減または予防するステップを含む方法を提供する。一実施形態では、方法は、敗血症と関連した臓器損傷を低減または予防する。
【0054】
一実施形態では、本発明は、敗血症期間中に、白血球動員および炎症を処置または予防するための方法を提供する。
【0055】
別の実施形態では、DPEP-1との結合は、敗血症の臓器合併症、例えば急性の腎、肺、または肝傷害等を低減または予防する。
【0056】
一実施形態では、方法は、診断テストを実施して、敗血症を低減または予防する必要性を決定することにより、処置を必要とする対象を識別するステップをさらに含む。一実施形態では、方法は、敗血症期間中に、白血球動員および炎症の抑制または予防をさらに含む。処置の適応症には、敗血症、肺炎の臨床徴候および症状、好中球数増加、または細菌の血液培養陽性が含まれるが、これらに限定されない。
【0057】
一実施形態では、敗血症は、細菌、ウイルス、真菌、または寄生虫感染症により引き起こされる。
【0058】
一実施形態では、敗血症は、細菌感染、すなわち、細菌性の敗血症により引き起こされる。
【0059】
一実施形態では、本発明は、患者において敗血症の症状を処置する方法であって、患者にDPEP-1のアンタゴニスト化合物を含む有効量の組成物を投与するステップを含む方法を含む。
【0060】
一実施形態では、組成物は、敗血症の症状が低減または改善するまで投与される。
【0061】
第6の態様では、本発明は、それを必要とする対象において急性腎傷害を処置または予防するための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を対象に投与し、これにより急性腎傷害を低減または予防するステップを含む方法を提供する。一実施形態では、方法は、急性腎傷害と関連した白血球動員および炎症を低減または予防する。
【0062】
一実施形態では、方法は、診断テストを実施して、急性腎傷害を予防する必要性を決定することにより、処置を必要とする対象を識別するステップをさらに含む。
【0063】
例示的な実施形態では、急性腎傷害は、虚血/再灌流、ショック、敗血症により、または毒性の薬剤、例えば抗生物質もしくは静脈内X線写真造影剤等により引き起こされる。一実施形態では、組成物は、敗血症、アレルギー、または環境過敏症の期間中に腎炎を低減するのに使用される。
【0064】
一実施形態では、急性腎傷害は、敗血症と関連する。
【0065】
一実施形態では、急性腎傷害は、虚血再灌流と関連する。
【0066】
第7の態様では、本発明は、それを必要とする対象において虚血再灌流傷害を処置または予防するための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を対象に投与し、これにより虚血再灌流傷害を低減または予防するステップを含む方法を提供する。一実施形態では、方法は、虚血再灌流傷害と関連した白血球動員および炎症を低減または予防する。
【0067】
一実施形態では、方法は、診断テストを実施して、虚血再灌流傷害を低減または予防する必要性を決定することにより、処置を必要とする対象を識別するステップをさらに含む。処置の適応症には、虚血再灌流傷害の臨床徴候および症状、または対象が虚血再灌流傷害を有する可能性もしくはリスクが含まれるが、これらに限定されない。
【0068】
第8の態様では、本発明は、それを必要とする対象において虚血再灌流傷害関連の障害を低減または予防するための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を対象に投与し、これにより虚血再灌流傷害を低減または予防するステップを含む方法を提供する。
【0069】
一実施形態では、虚血再灌流傷害関連の障害は、臓器および組織における虚血事象および虚血後の事象と関連し、障害は、血栓性脳卒中;心筋梗塞;狭心症;塞栓性血管閉塞;末梢血管不全;内臓動脈閉塞;血栓もしくは塞栓症による動脈閉塞、腸間膜血流低下もしくは敗血症に後続するような非閉塞性プロセスによる動脈閉塞;腸間膜動脈閉塞;腸間膜静脈閉塞;腸間膜微小循環に対する虚血再灌流傷害;虚血性急性腎不全;脳組織に対する虚血再灌流傷害;腸重積症;乏血性ショック;組織機能障害;臓器不全(心不全、肝不全、腎不全等を含む);再狭窄;アテローム性動脈硬化症;血栓症;血小板凝集;ショック肝;脊髄傷害;脳傷害からなる群から選択されるか、または手術前後の手技、心臓手術;臓器手術;臓器移植;血管造影;心肺脳蘇生術等の手技からなるリストから選択される状態に続く障害である。
【0070】
一実施形態では、虚血再灌流傷害は、移植用のドナー臓器を採取することと関連する。
【0071】
一実施形態では、虚血再灌流傷害は、ドナー調達、ex vivoでの取り扱い、または移植レシピエントへの移植期間中の同種異系移植臓器と関連する。
【0072】
様々な実施形態では、組成物は、(i)移植されるドナー臓器の採取前、その期間中、もしくはその後、または(ii)虚血が予想される外科手技の前もしくはその期間中に投与され得る。
【0073】
第9の態様では、本発明は、DPEP-1に結合する化合物についてスクリーニングするための方法を提供する。
【0074】
一実施形態では、スクリーニング方法は、LSALTまたはGFEペプチドを使用する競合結合アッセイを含む。
【0075】
一実施形態では、スクリーニング方法は、(a)試験化合物のライブラリーを、組織内でDPEP-1に結合するその能力についてスクリーニングするステップと、(b)選択的結合親和性を示す候補試験化合物を選択するステップと、(c)候補化合物を、炎症抑制活性について試験するステップと、(d)候補化合物が炎症を低下させる場合は、その候補化合物を選択し、これにより炎症を低下させるのに有効な化合物を提供するステップとを含む、患者の組織内の炎症を低下させるのに有効な化合物を識別するステップを含む。
【0076】
一実施形態では、組織は、肺組織または肝組織である。
【0077】
一実施形態では、方法は、(e)固形腫瘍を担持する患者において、化合物を、腫瘍転移を阻害するその能力についてさらに試験するステップと、(f)ステップ(e)で、化合物が腫瘍転移を阻害する場合は、その化合物を選択するステップとをさらに含む。
【0078】
一実施形態では、方法は、(e)肺または肝臓に転移することが知られている固形腫瘍を担持する患者において、化合物を、肺および肝臓への腫瘍転移を阻害するその能力についてさらに試験するステップと、(f)ステップ(e)で、化合物が腫瘍転移を阻害する場合は、その化合物を選択するステップとをさらに含む。
【0079】
一実施形態では、方法は、(e)化合物を、患者において細菌性敗血症を処置するその能力についてさらに試験するステップと、(f)ステップ(e)で、化合物が敗血症を処置する場合は、その化合物を選択するステップとをさらに含む。
【0080】
一実施形態では、方法は、(e)化合物を、患者において急性腎損傷を処置するその能力についてさらに試験するステップと、(f)ステップ(e)で、化合物が急性腎損傷を処置する場合は、その化合物を選択するステップとをさらに含む。
【0081】
本明細書に記載する本発明の組成物は、いずれもこれらの方法で使用可能である。
【0082】
添付図面と共に、下記の本発明の詳細な説明を閲読すれば、本発明のこれらおよび他の目的および特徴がより完全に明らかとなる。
【0083】
図面の簡単な説明
【図面の簡単な説明】
【0084】
図1AB図1Aは、ヒト腎摘除術から単離、培養し、DPEP-1およびZO-1(TEC表面マーカー)で標識した尿細管上皮細胞(TEC)の代表的な顕微鏡写真を提示する。図1Bは、DPEP-1抗体で染色し、免疫ペルオキシダーゼを使用して可視化したマウス腎組織の代表的な顕微鏡写真を提示する。矢印は、暗褐色の染色が示す通り、DPEP-1について陽性の尿細管を示す。図1Cは、非トランスフェクトCOS-7細胞、DPEP-1を過剰発現するCOS-7細胞、ヒト腎組織、およびマウス腎組織から調製した全タンパク質溶解物のDPEP-1酵素活性を示すグラフを提示する。
図1C図1Aは、ヒト腎摘除術から単離、培養し、DPEP-1およびZO-1(TEC表面マーカー)で標識した尿細管上皮細胞(TEC)の代表的な顕微鏡写真を提示する。図1Bは、DPEP-1抗体で染色し、免疫ペルオキシダーゼを使用して可視化したマウス腎組織の代表的な顕微鏡写真を提示する。矢印は、暗褐色の染色が示す通り、DPEP-1について陽性の尿細管を示す。図1Cは、非トランスフェクトCOS-7細胞、DPEP-1を過剰発現するCOS-7細胞、ヒト腎組織、およびマウス腎組織から調製した全タンパク質溶解物のDPEP-1酵素活性を示すグラフを提示する。
【0085】
図2図2は、8~10週齢のC57/BL6動物から採取された臓器(肺、肝臓、脾臓、および腎臓)から単離された全タンパク質溶解物のDPEP-1酵素活性を示すグラフを提示する。
【0086】
図3図3は、DPEP-1発現を評価するためにDAB法を使用して、DPEP-1特異抗体(褐色(Abcam))により染色した腎臓および肺の切片の代表的な顕微鏡写真を提示する。
【0087】
図4A図4Aは、各実験条件(n=3)の代表的な顕微鏡写真を提示する。これらの結果を、グラフ形式で図4Bに示す。ウェスタンブロット分析の写真を図4Cに示す。
図4BC図4Aは、各実験条件(n=3)の代表的な顕微鏡写真を提示する。これらの結果を、グラフ形式で図4Bに示す。ウェスタンブロット分析の写真を図4Cに示す。
【0088】
図5AB図5は、ラットDPEP-1遺伝子(図5Aに示す)またはヒトDPEP-1遺伝子(図5Bに示す)に対応する、膜ジペプチダーゼ(DPEP-1)cDNAを一時的にトランスフェクトしたCos-1細胞の代表的な顕微鏡写真を提示する。ウェスタンブロットの写真は、図5Cに提示する。本手順の模式図、および得られたウェスタンブロットの写真を図5Dに提示する。
図5CD図5は、ラットDPEP-1遺伝子(図5Aに示す)またはヒトDPEP-1遺伝子(図5Bに示す)に対応する、膜ジペプチダーゼ(DPEP-1)cDNAを一時的にトランスフェクトしたCos-1細胞の代表的な顕微鏡写真を提示する。ウェスタンブロットの写真は、図5Cに提示する。本手順の模式図、および得られたウェスタンブロットの写真を図5Dに提示する。
【0089】
図6図6Aは、ヒトDPEP-1、DPEP-2、またはDPEP-3遺伝子を一時的にトランスフェクトしたCos-1細胞の代表的な顕微鏡写真を提示する。DPEP-1、DPEP2、およびDPEP3をトランスフェクトした細胞に由来するタンパク質を単離し、ウェスタンブロットの写真を図6Bに示す。
【0090】
図7A図7は、GFE-1およびLSALTが、LPSの存在下、肝シヌソイド内で、好中球の接着を阻害することを示すグラフを提示する。
図7B図7は、GFE-1およびLSALTが、LPSの存在下、肝シヌソイド内で、好中球の接着を阻害することを示すグラフを提示する。
【0091】
図8図8は、DPEP-1が発現すると、Cos-7細胞内で、LSALTおよびGFE-1の結合が増強されたことを示す顕微鏡写真を提示する。
【0092】
図9図9は、DPEP-1が発現すると、LSALTとCos-7細胞との結合が増強されたことを示す単一パラメーターヒストグラムを提示する。
【0093】
図10図10は、LSALTは膜ジペプチダーゼ酵素活性を阻害しないことを示すグラフを提示する。
【0094】
図11A図11は、LPSで誘発して敗血症にし、30分毎に最長90分間画像化したLysM(gfp/gfp)マウス腎臓の代表的な顕微鏡写真を提示する。図11Bは、単独および阻害剤を含むLPS後(90分)の腎臓の顕微鏡写真画像を提示する。様々なDPEP-1阻害剤と共にLPS注射した後、90分間の時間経過にわたり好中球を定量化し、グラフ形式で図11Cに示す。
図11BC図11は、LPSで誘発して敗血症にし、30分毎に最長90分間画像化したLysM(gfp/gfp)マウス腎臓の代表的な顕微鏡写真を提示する。図11Bは、単独および阻害剤を含むLPS後(90分)の腎臓の顕微鏡写真画像を提示する。様々なDPEP-1阻害剤と共にLPS注射した後、90分間の時間経過にわたり好中球を定量化し、グラフ形式で図11Cに示す。
【0095】
図12AB図12Aは、30分間、片側性腎虚血状態にし、120分間、再灌流を行い、多光子顕微鏡検査法を使用して画像化したLysM(gfp/gfp)マウス腎臓の代表的な顕微鏡写真を提示する。虚血10分前に、ジペプチダーゼの阻害剤を使用してマウスを事前処置し、画像化前に標識抗体を静脈内に注射した。様々な阻害剤とのIRI前(NT)および後(120分)の腎臓の画像を図12Bに提示する。IRI後に間質腔内に認められた接着性の好中球を定量化し、グラフ形式で図12Cに示す。様々な阻害剤とのIRI後(120分)に好中球を定量化し、グラフ形式で図12Dに示す。
図12CD図12Aは、30分間、片側性腎虚血状態にし、120分間、再灌流を行い、多光子顕微鏡検査法を使用して画像化したLysM(gfp/gfp)マウス腎臓の代表的な顕微鏡写真を提示する。虚血10分前に、ジペプチダーゼの阻害剤を使用してマウスを事前処置し、画像化前に標識抗体を静脈内に注射した。様々な阻害剤とのIRI前(NT)および後(120分)の腎臓の画像を図12Bに提示する。IRI後に間質腔内に認められた接着性の好中球を定量化し、グラフ形式で図12Cに示す。様々な阻害剤とのIRI後(120分)に好中球を定量化し、グラフ形式で図12Dに示す。
【0096】
図13図13Aは、造影剤を静脈内注射する前に、脱水により急性腎傷害に感作させたLysM(gfp/gfp)マウスの代表的な顕微鏡写真を提示する。造影剤注射の10分前に、シラスタチン(5mM)を静脈内で使用してマウスを事前処置し、造影剤注射から6時間後に、多光子顕微鏡検査法を使用して腎臓を画像化した。造影剤注射から6時間後に、好中球を定量化し、これらの結果を、グラフ形式で図13Bに示す。
【0097】
図14ABCDEFG図14A~Gは、LSALTペプチドの存在下で、LPSにより誘発された炎症性メディエーターの低下を示すグラフを提示する。図14HおよびIは、LPSチャレンジ中にLSALTペプチドにより誘発されたIL-10の増加を示すグラフを提示する。
図14HI図14A~Gは、LSALTペプチドの存在下で、LPSにより誘発された炎症性メディエーターの低下を示すグラフを提示する。図14HおよびIは、LPSチャレンジ中にLSALTペプチドにより誘発されたIL-10の増加を示すグラフを提示する。
【0098】
図15図15Aは、番号70Wのメラノーマ細胞が、DPEP-1を発現するCos-1単層の最上部に播種したトランスフェクトしたCos-1細胞に結合/接着したことを示すグラフを提示する。DPEP-1トランスフェクト細胞に由来するタンパク質を単離し、ウェスタンブロット分析を実施してDPEP-1発現を評価した。ウェスタンブロットの写真を図15Bに示す。図15Cは、70Wメラノーマ細胞のDPEP-1トランスフェクト細胞への結合を、模擬的トランスフェクト細胞の対照に対して比較するために実施した膜ジペプチダーゼ活性アッセイの結果を示す。
【0099】
図16図16は、尾静脈内注射によるLSALTまたはGFE-1ペプチドの注射から5分後に、100,000個のB16-F10マウスメラノーマ細胞を静脈内注射した、8~10週齢のC57-BL6マウス(Charles River)の組織外植片の代表的な顕微鏡写真を提示する。
【発明を実施するための形態】
【0100】
詳細な説明
【0101】
I.定義
【0102】
用語が単数形で提示される場合、本発明者らは、その用語の複数形で記載され本発明の態様についても検討する。本明細書および添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形「a」、「an」、および「the」には、文脈により別途明確に指示されない限り、複数の指示対象が含まれ、例えば、「ペプチド」には、複数のペプチドが含まれる。したがって、例えば、「1つの方法」という場合、1つもしくは複数の方法、および/または本明細書に記載するタイプのステップが含まれ、および/または本開示を一読すれば当業者に明らかとなる。
【0103】
用語「投与する」、「投与すること」、または「投与される」とは、生理学的な系(例えば、対象、またはin vivo、in vitro、もしくはex vivo細胞、組織、および臓器)に対して、薬剤または治療処置を付与する行為を意味する。
【0104】
用語「診断した」、「診断上の」、または「診断される」とは、病理的状態の存在または性質を識別することを意味する。診断方法は、観察およびアッセイを含み、それらの感度および特異性において異なる。診断的観察またはアッセイの「感度」とは、試験結果が陽性の罹患した個体の百分率(「真の陽性」の百分率)である。観察またはアッセイにより検出されない罹患した個体は、「偽陰性」である。罹患しておらず、かつ観察またはアッセイにおいて試験結果が陰性の対象は、「真の陰性」と呼ばれる。診断的観察またはアッセイの「特異性」は、(1-偽陽性率)であり、「偽陽性」率は、試験結果が陽性の疾患を有さない個体の割合として定義される。特定の診断方法は、状態について決定的な診断をもたらさない場合があるが、該方法が、診断に役立つポジティブな兆候を提供するのであれば、それで十分である。
【0105】
本明細書で使用する場合、用語「処置する」、「処置」、および「処置すること」とは、任意の状態または疾患の少なくとも1つの症状の進行、重症度、および/または期間の予防、抑制、または良化を指す。用語「処置」または「処置すること」とは、本発明の化合物の任意の投与を指し、(i)疾患もしくは疾患状態の病理もしくは症候を経験する、もしくは提示する個体において疾患もしくは疾患状態を阻害すること(すなわち、病理および/または症候のさらなる発症を阻止する)、または(ii)疾患もしくは疾患状態の病理もしくは症候を経験する、もしくは提示する個体の疾患を良化させること(すなわち、病理および/または症候を逆転させること)を含む。用語「制御すること」には、疾患または疾患状態の症状を予防すること、処置すること、根絶すること、良化させること、またはさもなければその重症度を低減することが含まれる。
【0106】
がんに関する場合、用語「処置する」、「処置」、および「処置すること」とは、がん、特に固形腫瘍、または1つもしくは複数の治療(例えば、1つもしくは複数の予防剤および/もしくは治療剤)の投与に起因する1つもしくは複数のその症状の進行、重症度、および/または期間の抑制または良化を指す。例示的な実施形態では、固形腫瘍の処置は、(i)がん細胞の数を低減すること;(ii)腫瘍細胞アポトーシスを増加させること;(iii)腫瘍サイズを低減すること;(iv)腫瘍体積を低減すること;(v)がん細胞が末梢臓器に浸潤するのをある程度阻害すること、阻止すること、遅らせること、および好ましくは停止させること;(vi)腫瘍転移を阻害すること(例えば、ある程度遅らせること、および好ましくは停止させること);(vii)腫瘍増殖を阻害すること;(viii)腫瘍の発生および/もしくは再発を予防すること、もしくは遅延させること;(ix)がんの存在と関連したがんマーカーを減らすこと;ならびに/または(ix)がんと関連した症状のうちの1つもしくは複数をある程度和らげることのうちの1つまたは複数を指す。また「処置」は、処置を受けなかった場合に予想される生存と比較して、生存を延ばすことも意味し得る。標準法、例えば精製された酵素を用いたin vitroアッセイ、細胞に基づくアッセイ、動物モデル、またはヒトでの試験等は、この効果の程度を測定するのに使用可能である。例えば、患者のがん腫瘍について免疫組織化学分析により、本発明が患者に投与されるとき、腫瘍細胞アポトーシスの有意な増加が示され得る。固形腫瘍として通常出現するがんの種類について言及する場合、「臨床的に検出可能な」腫瘍とは、例えば、CATスキャン、MR画像診断、X線、超音波、もしくは触診等の手順により、腫瘍質量に基づいて検出可能な腫瘍;および/または患者から取得可能な試料中の1つもしくは複数のがん特異抗原が発現しているので検出可能な腫瘍である。
【0107】
本明細書で使用する場合、用語「有効量」とは、臨床結果を含む、有益なまたは所望の結果を実現するのに十分な治療(例えば、予防剤または治療剤)の量を指す。有効量は、1回または複数回の投与で投与され得る。
【0108】
本明細書で使用する場合、用語「炎症性疾患」とは、a.白血球の動員、接着、または活性化、および好中球、単球、リンパ球、またはマクロファージと関係する他の障害、b.炎症性サイトカイン(例えば、TNF-α、インターロイキン(IL)-1β、IL-2、IL-6)の病理学的生成を伴う疾患、c.炎症性サイトカインをコードする遺伝子の転写を促進する核内因子の活性化を含むが、これらに限定されない疾患(本明細書に記載する化合物を用いて処置可能または予防可能な)を指す。これらの核転写因子の例として、核内因子-κB(NF-B)、活性化タンパク質-1(AP-1)、活性化T細胞の核内因子(NFAT)が挙げられるが、これらに限らない
【0109】
用語「対象」または「患者」、またはそれらの類義語には、本明細書で使用する場合、動物界、特にヒトを含む哺乳動物のすべてのメンバーが含まれる。対象または患者は、好適にはヒトである。
【0110】
用語「薬学的に許容される担体」とは、特定の投与様式に適することが当業者に公知の任意のそのような担体を指す。例えば、用語「薬学的に許容される担体」には、薬学的に許容される物質のための培地として使用可能であるあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張性吸収遅延剤等が含まれる。さらに、活性物質が、所望の作用を損なわない他の活性物質と、または所望の作用を補う、もしくは別の作用を有する物質と混合される場合もある。
【0111】
用語「薬学的に許容される塩」とは、本明細書で使用する場合、無毒性であることが公知であり、医薬品の文献で一般的に使用されている塩を指す。そのような塩を形成するのに使用される典型的な無機酸として、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、硝酸、硫酸、リン酸、次亜リン酸等が挙げられる。有機酸に由来する塩、例えば脂肪族モノおよびジカルボン酸、フェニル置換型のアルカノン酸、ヒドロキシアルカン酸、およびヒドロキシアルカンジオン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸等も使用可能である。そのような薬学的に許容される塩として、酢酸塩、フェニル酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、アクリル酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、o-アセトキシ安息香酸塩、ナフタレン-2-安息香酸塩、ブロミド、イソ酪酸塩、フェニル酪酸塩、ベータ-ヒドロキシ酪酸塩、クロリド、桂皮酸塩、クエン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グリコール酸塩、ヘプタン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、マロン酸塩、メシル酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、フタル酸塩、リン酸塩、モノヒドロゲンリン酸塩、ジヒドロゲンリン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、プロピオン酸塩、フェニルプロピオン酸塩、サリチル酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ピロ硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、スルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-ブロモフェニルスルホン酸塩、クロロベンゼンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、ナフタレン-1-スルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、酒石酸塩等が挙げられる。
【0112】
II.DPEP-1
【0113】
DPEP-1は、腎ジペプチダーゼ、ミクロソームジペプチダーゼ、またはデヒドロペプチダーゼ-1としても知られており、また現在EC3.4.13.19(これまではEC3.4.13.11)として分類される、原形質膜グリコシルホスファチジルイノシトールがアンカーされている糖タンパク質である(参照により本明細書に組み込まれているKeynanら、Hooper(編)、Zinc Metalloproteases in Health and Disease Taylor and Francis、London、285~309頁(1996年))。この亜鉛メタロプロテアーゼは、肺および腎臓の刷子縁内で主に発現しており、in vivoでグルタチオンの腎臓代謝、およびペプチジルロイコトリエンの肺代謝に関与している。さらに、DPEP-1は、哺乳動物のβ-ラクタマーゼの唯一知られている例であり、またグルタチオン、ロイコトリエン、およびD4の代謝にも関与している。DPEP-1は、モノマー分子量が元となる種に応じて約48~59kDaの範囲のジスルフィド結合型ホモ二量体を形成する(参照により本明細書に組み込まれるKeynanら、Biochem.、35巻:12511~12517頁(1996年);実施例IVBも参照)。
【0114】
ジペプチダーゼは、肺および腎臓で主に発現しているが、その発現はいくつかの組織で検出されている。肝臓、脾臓、小腸、および脳からの全抽出物内で低レベルのDPEP-1活性が報告されているが、他のジペプチダーゼは、これらの臓器において検出可能な活性は見出されていない。マウスでは、4つの異なるDPEP-1 mRNAが存在し、いくつかの臓器内で差次的に発現している(Habibら、J. Biol. Chem.、271巻:16273~16280頁(1996年))。ブタDPEP-1のN-結合型グリコシル化の性質および範囲における臓器特異的な相違についても報告されている(Hooperら、Biochem. J.、324巻:151~157頁(1997年))。
【0115】
腎臓では、DPEP-1発現は、近位尿細管の刷子縁領域内の上皮細胞に限定される。肺では、DPEP-1発現は、内皮細胞、ならびに誘導気道、肺胞管、毛細血管の上皮細胞、ならびに肺胞および終末細気管支の基底膜を含む多くの細胞型において検出されている(Habibら、前出、1996年);Inamuraら、Prostaglandins Leukotrienes and Essential Fatty Acids、50巻:85~92頁(1994年))。また、DPEP-1発現は、ヒト気管内の粘膜下微小血管の内皮細胞上でも認められる(Yamayaら、Resp. Physiol.、111巻:101~109頁(1998年))。DPEP-1活性レベルは、肺において最大である(Hirotaら、Eur. J. Biochem.、160巻:521~525頁(1986年);Habibら、Proc. Natl. Acad. Sci.、USA 95巻:4859~4863頁(1998年))。この発現パターンは、GFE-1(配列番号1)等の分子の強い肺ホーミングと相関する。
【0116】
特定の理論により拘束されるものではないが、DPEP-1受容体は、血管内皮、または腎尿細管上皮等の他の実質細胞上で発現する白血球接着分子または腫瘍細胞接着分子として機能すると考えられる。接着分子は、動員プロセスに関与し、これは白血球および/または内皮細胞上で発現する表面結合型糖タンパク質分子である。白血球動員における重要なステップは、内皮の表面への白血球の密着であり、それによって、白血球は、一連の接着および活性化事象を通じて血管壁内に移動するように配置され、炎症部位上でその効果を発揮する。DPEP-1は、臓器傷害または感染症の期間中に、ペプチド検出システムとしても機能し得る。1つのそのようなペプチド検出システムは、侵入性病原体の重要な分子識別特性、すなわち、病原体関連分子パターン(PAMP)を検出する、いわゆるパターン認識受容体(PRR)であり、これにより先天性免疫系を呼び起こす契機となる(Janeway, C.ら、Annu. Rev. Immunol、20巻(2002年)、197~216頁)。PRRの例は、(toll様受容体)TLRであり、これは細菌性またはウイルス性の産物、例えばLPS(TLR4)等を検出する(Bell, J. K.ら、Trends Immunol、24巻(2003年)、528~533頁)。
【0117】
TLRは、リガンド結合および自己調節に関わるその細胞外ドメイン内のロイシンに富む反復配列(LRR)を通じて、病原体関連分子パターン(PAMP)を認識する膜貫通受容体である(Kawaiら、Cell Death Differ.、13巻、816~825頁、2006年)。TLRは、宿主防御応答の最初期段階において微生物の構造を認識し、多くの免疫および炎症遺伝子の発現を誘発し、その生成物は、侵入性病原体を除去するのに必要な免疫機構を推進するように仕立てられている。TLRは、損傷関連の分子パターン(DAMP)の認識とも関わっており、腫瘍促進性の炎症の調節因子および腫瘍生存シグナルのプロモーターとしての認識度が高まっている。そのような細胞経路の他の活性化因子は、病原体および損傷関連の細胞性炎症を処置するための有効な治療標的を提供し得る。
【0118】
本明細書で使用する場合、用語「ジペプチダーゼ」および「膜ジペプチダーゼ」は、「DPEP-1」と同義であり、現在EC3.4.13.19(これまではEC3.4.13.11)として分類され、腎またはミクロソームジペプチダーゼまたはデヒドロペプチダーゼ-1としても知られている酵素を指す。
【0119】
用語「選択的に阻害する」とは、DPEP-1酵素活性と関連して本明細書で使用する場合、関連するが異なる酵素、例えば他のプロテアーゼ等と比較して、結合剤は、DPEP-1酵素について選択的にDPEP-1活性を低下させることを意味する。したがって、DPEP-1結合剤は、例えば、亜鉛メタロプロテアーゼの非特異的阻害剤とは異なる。したがって、DPEP-1結合剤は、DPEP-1活性を選択的に低下させることができる一方、例えば、ジペプチジルペプチダーゼIVの活性に対する効果をほとんどまたはまったく有さない。一実施形態では、結合剤は、DPEP-1への結合を阻止する競合的阻害剤である。
【0120】
用語「選択的に結合する」とは、DPEP-1結合剤と関連して本明細書で使用する場合、関連するが異なる受容体と比較して、結合剤は、DPEP-1受容体について選択的に、DPEP-1媒介型の白血球動員を低下させることを意味する。また、DPEP-1が、白血球または腫瘍細胞に対する接着分子として、その酵素活性とは独立に作用する場合、DPEP-1結合剤は、DPEP-1媒介型の白血球動員を低下させることも指す。したがって、DPEP-1結合剤は、DPEP-1媒介型の白血球動員を選択的に低下させることができる一方、例えば、ジペプチジルペプチダーゼIVの活性に対する効果を、ほとんどまたはまったく有さない。一実施形態では、結合剤は、DPEP-1への結合を阻止する競合的阻害剤である。
【0121】
特異的結合という用語は、本明細書で使用する場合、親和性が低い特異的結合と高い特異的結合の両方を含む。特異的結合は、例えば、膜ジペプチダーゼに対して約10-4M~約10-7MのKdを有する、親和性が低いDPEP-1結合分子により発揮され得る。また、特異的結合は、親和性が高いDPEP-1結合分子、例えば、膜ジペプチダーゼに対して少なくとも約10-7M、少なくとも約10-8M、少なくとも約10-9M、少なくとも約10-10M、または少なくとも約10-11M、または10-12M、またはそれよりも高いKdを有するDPEP-1結合分子により発揮され得る。LSALTまたはGFEペプチドを含むDPEP-1結合ペプチドは、XおよびXがそれぞれ、1~10個の独立に選択されたアミノ酸である場合、例えば、膜ジペプチダーゼに対して約2×10-5M~10-7MのKd、例えば、約10-6~10-7MのKdを有し得る。肺または腎臓の内皮に選択的に結合するDPEP-1結合分子は、その親和性が低くても高くても、いずれにせよ、本明細書に記載する方法で有用であり得る。
【0122】
III.DPEP-1結合剤
【0123】
本発明は、DPEP-1に結合し、またはそれをブロックすることは、例えば、敗血症または急性腎傷害期間中の肺および腎臓の炎症媒介型疾患を低減するのに有用であるという発見に基づく。また、本発明は、DPEP-1に結合し、またはそれをブロックすることは、腫瘍転移を低減するのにも有用であるという観察に基づく。DPEP-1に結合する薬剤は、本明細書に記載する方法において特に有用である。そのような薬剤として、ペプチド、抗体、および小分子薬剤を挙げることができるが、これらに限定されない。また、これらの方法で使用可能なこれらの結合剤の変形形態および修飾された実施形態も提供される。
【0124】
A.LSALTペプチド
【0125】
偏りのないコンビナトリアルファージin vivoバイオパニングアプローチを使用して、炎症促進性の刺激で処置した動物の肝臓および肺に局在し、白血球動員をブロックする特異的ペプチド提示ファージを単離した。このファージおよびその対応する提示ペプチド(LSALTまたはMetablok(商標)と呼ばれるN-LSALTPSPSWLKYKAL)は、腫瘍細胞株を注射した動物の肝臓または肺内の腫瘍負荷を劇的に低減することも判明した。LSALTは、DPEP-1に結合し、組織の炎症プロファイルを低減することができ、これによりいくつかの治療上有用な作用を提供する。該ペプチドは、敗血症のマウスモデルにおいて、肝臓への好中球動員も低減した。
【0126】
LSALTペプチド、ならびにその変異体および修飾バージョンについて本明細書に記載する。また、これらのペプチドを含む医薬組成物についても記載する。
【0127】
一部の実施形態では、LSALTペプチドは、プロテアーゼ抵抗性、血清安定性、および/またはバイオアベイラビリティーを増加させるために、1つまたは複数の修飾を含有する。一部の実施形態では、修飾は、ペグ化、アセチル化、グリコシル化、ビオチン化、D-アミノ酸および/もしくは非天然アミノ酸による置換、ならびに/またはペプチドの環化から選択される。
【0128】
ある特定の実施形態では、LSALTペプチドは、1つまたは複数のL-アミノ酸、D-アミノ酸、および/または非標準的アミノ酸を含有する。
【0129】
様々な実施形態では、LSALTペプチドは、C末端、N末端、またはC末端およびN末端の両方にアミノ酸残基または類似体をさらに含む。好ましくは、LSALTペプチドの活性担持配列は、これらの追加アミノ酸の追加により目立った影響を受けない。
【0130】
一実施形態では、LSALTペプチドは、1、2、3、4、または5個のアミノ酸残基を、LSALTペプチドのN末端およびC末端にさらに含む。
【0131】
別の実施形態では、LSALTペプチドは、1、2、3、4、または5個のアミノ酸残基を、LSALTPSPSWLKYKAL配列のN末端にさらに含む。
【0132】
別の実施形態では、LSALTペプチドは、1、2、3、4、または5個のアミノ酸残基を、LSALTPSPSWLKYKAL配列のC末端にさらに含む。
【0133】
様々な実施形態では、ペプチドは、
【化2】
から選択され、式中、Xは、任意の天然アミノ酸、またはXは、非従来型のアミノ酸、もしくは本明細書に記載するような、および当業者に公知のアミノ酸類似体である。
【0134】
様々な実施形態では、ペプチドは、
【化3】
から選択され、式中、Xは、任意の天然アミノ酸、またはXは、非従来型のアミノ酸、もしくは本明細書に記載するような、および当業者に公知のアミノ酸類似体である。
【0135】
様々な実施形態では、ペプチドは、
【化4】
から選択され、式中、Xは、任意の天然アミノ酸、またはXは、非従来型のアミノ酸、もしくは本明細書に記載するような、および当業者に公知のアミノ酸類似体である。
【0136】
B.GFEペプチド
【0137】
トリペプチドのGFEモチーフは、DPEP-1結合と関連する。GFE-1は、DPEP-1に結合するアミノ酸13個のペプチドであり、薬物送達用の肺ターゲティングペプチドとしての使用が提案されてきた(Rajotte, D.ら、J. Biol Chem.274巻(17号):11593~11598頁(1999年);米国特許第6,784,153号)。このトリペプチド「GFE」モチーフを有する特定のペプチドは、GFE-1:CGFECVRQCPERCおよびGFE-2:CGFELETCを含め、肺微小血管系においてDPEP-1結合活性を有するものとして識別されている。
【0138】
特に、これらのペプチドの使用は、肺および腎臓へのホーミングについてのみ報告されており、これらのペプチドの治療的使用は、さらなる治療剤とコンジュゲートした場合を除き、Rajotteらにより検討されなかった。
【0139】
C.修飾されたペプチドおよびペプチド類似体
【0140】
様々な実施形態では、ペプチドは、ペプチド内のカルボキシ末端および/もしくはアミノ末端のアミノ酸を含め、アミノ酸を含むか、またはメチル化、アミド化、アセチル化、および/もしくはペプチドの活性に悪影響を及ぼさずにその循環半減期を変化させ得る他の化学基による置換により修飾され得る。非従来型または非天然のアミノ酸の例として、シトルリン、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、4-(E)-ブテニル-4(R)-メチル-N-メチルトレオニン(MeBmt)、N-メチル-ロイシン(MeLeu)、アミノイソ酪酸、スタチン、およびN-メチル-アラニン(MeAla)が挙げられるが、これらに限定されない。アミノ酸は、ジスルフィド結合に関わる場合がある。ある特定の実施形態では、アミノ酸は、一般構造HN-C(H)(R)-COOHを有する。ある特定の実施形態では、アミノ酸は、天然アミノ酸である。ある特定の実施形態では、アミノ酸は、合成または非天然のアミノ酸(例えば、α,α-二置換型アミノ酸、N-アルキルアミノ酸)である;一部の実施形態では、アミノ酸は、d-アミノ酸である;ある特定の実施形態では、アミノ酸は、l-アミノ酸である。
【0141】
別途定義しない限り、本明細書で使用する科学的および技術的用語、ならびに命名法は、本発明が関係する当業者により一般的に理解される意味と同一の意味を有する。一般的に、細胞培養、感染の手順、分子生物学の方法等は、当技術分野において使用される一般的な方法である。そのような標準技術は、例えば、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley Interscience、New York、2001年;およびSambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、N.Y.、2001年等の参照マニュアルに見出され得る。
【0142】
ペプチドは、in vitroで生物活性を誘発するのに有効であり得るが、そのin vivoでの有効性は、プロテアーゼの存在により低下するおそれがある。血清プロテアーゼは、特定の基質要件を有する。基質は、L-アミノ酸と切断のためのペプチド結合の両方を有さなければならない。さらに、エキソペプチダーゼは、血清においてプロテアーゼ活性の最も際立った構成要素を代表し、ペプチドの第1のペプチド結合に通常作用し、遊離したN末端を必要とする(Powellら、Pharm. Res.、10巻:1268~1273頁(1993年))。この点に照らし、ペプチドの修飾バージョンを使用することが多くの場合有利である。修飾されたペプチドは、LSALTの所望の生物活性を付与する、オリジナルのL-アミノ酸ペプチドの構造的特徴を保持するが、プロテアーゼおよび/またはエキソペプチダーゼにより容易に切断されにくい利点を有する。
【0143】
コンセンサス配列の1つまたは複数のアミノ酸について、同一タイプのD-アミノ酸による系統的置換(例えば、L-リジンの代わりにD-リジン)は、より安定なペプチドを生成するためにに使用可能である。したがって、本発明のペプチド誘導体またはペプチド模倣体は、順番通りまたは逆順ですべてL、すべてD、またはD、L混合のペプチドであり得る。N末端またはC末端にD-アミノ酸が存在すると、ペプチダーゼは基質としてD-アミノ酸を利用することができないので、ペプチドのin vivo安定性が高まる(Powellら、Pharm. Res.、10巻:1268~1273頁(1993年))。逆転-Dペプチドは、D-アミノ酸を含有するペプチドであり、L-アミノ酸を含有するペプチドと比較して、逆転した配列で配置されている。したがって、L-アミノ酸ペプチドのC末端残基は、D-アミノ酸ペプチドではN末端等となる。逆転D-ペプチドは、同一の二次立体構造、したがってL-アミノ酸ペプチドと類似した活性を保持するが、in vitroおよびin vivoでの酵素的分解に対してより抵抗性であり、したがって、オリジナルのペプチドよりも大きな治療効果を有し得る(BradyおよびDodson、Nature、368巻:692~693頁(1994年);Jamesonら、Nature、368巻:744~746頁(1994年))。同様に、逆転-Lペプチドは、標準法を使用して生成され得るが、その場合、親ペプチドのC末端が、逆転-LペプチドのN末端の位置を占めることとなる。重要な二次構造を有さないL-アミノ酸のペプチド(例えば、短いペプチド)の逆転L-ペプチドは、L-アミノ酸ペプチドの側鎖について同一の間隔および立体構造を保持し、したがってオリジナルのL-アミノ酸ペプチドと類似した活性を多くの場合有すると考えられる。さらに、逆転したペプチドは、L-およびD-アミノ酸の組合せを含有し得る。アミノ酸間の間隔および側鎖の立体構造は保持可能であり、オリジナルのL-アミノ酸ペプチドと類似した活性をもたらす。
【0144】
一実施形態では、ペプチドは、ペプチド末端に化学基を付加することによって、ペプチドのN末端またはC末端残基に作用するペプチダーゼに対する抵抗性を付与するために化学修飾され、その結果、修飾されたペプチドはもはやペプチダーゼに対する基質ではなくなる。一実施形態では、1つのそのような化学修飾は、いずれか一方または両方の末端におけるペプチドのグリコシル化である。他の実施形態では、血清安定性を増強する化学修飾として、アセチル基等の、炭素が1~20個の低級アルキルからなるN末端アルキル基の付加、および/またはC末端アミドもしくは置換型アミド基の付加が挙げられるが、これらに限定されない。特に、本発明は、N末端セチル基および/またはC末端アミド基を担持するペプチドからなる修飾されたペプチドを含む。
【0145】
一実施形態では、ペプチド内で、ある特定の天然アミノ酸を非天然アミノ酸と置換すると、タンパク質分解に対する抵抗性が付与される。そのような置換は、例えば、N末端に作用するエキソペプチダーゼによるタンパク質分解に対する抵抗性を、生物活性に影響を及ぼさずに付与することができる。非天然アミノ酸の例として、α,α-二置換型アミノ酸、N-アルキルアミノ酸、C-α-メチルアミノ酸、β-アミノ酸、およびβ-メチルアミノ酸が挙げられる。本発明で有用なアミノ酸類似体として、β-アラニン、ノルバリン、ノルロイシン、4-アミノ酪酸、オルニチン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、システイン酸、シクロヘキシルアラニン、2-アミノイソ酪酸、6-アミノヘキサン酸、t-ブチルグリシン、フェニルグリシン、o-ホスホセリン、N-アセチルセリン、N-ホルミルメチオニン、3-メチルヒスチジン、および他の非従来型のアミノ酸を挙げることができるが、これらに限定されない。さらに、非天然アミノ酸を含むペプチドの合成は、分野において公知である。
【0146】
ペプチド類似体は、テンプレートペプチドの特性と類似した特性を有する非ペプチド薬物として製薬業界で一般的に使用される。非ペプチド化合物は、「ペプチド模倣物(peptide mimetics)」またはペプチド模倣体(peptidomimetics)と呼ばれる(Fauchereら、Infect. Immun.54巻:283~287頁(1986年);Evansら、J. Med. Chem.、30巻:1229~1239頁(1987年))。ペプチド模倣物は、治療上有用なペプチドと構造的に関連し、また同等のまたは増強した治療効果または予防効果を生成するのに使用可能である。一般的に、ペプチド模倣体は、規範となるポリペプチド(すなわち、生物学的活性または薬理学的活性を有するポリペプチド)、例えば天然の受容体結合ポリペプチド等と構造的に類似しているが、当技術分野において周知の方法によって、-CHNH-、-CHS-,-CH-、-CH=CH-(シスおよびトランス)、-CHSO-、-CH(OH)CH-、-COCH-等の結合と任意選択で置き換わった1つまたは複数のペプチド結合を有する(Spatola、Peptide Backbone Modifications、Vega Data、1巻(3号):267頁(1983年);Spatolaら、Life Sci.、38巻:1243~1249頁(1986年);Hudsonら、Int. J. Pept. Res.、14巻:177~185頁(1979年);およびWeinstein. B.、1983年、Chemistry and Biochemistry, of Amino Acids, Peptides and Proteins、Weinstein編、Marcel Dekker、New-York)。そのようなペプチド模倣物は、天然のポリペプチドに対して、より経済的な製造、より高い化学安定性、増強された薬理学的特性(例えば、半減期、吸収、効力、効率等)、低下した抗原性等を含む、有意な長所を有し得る。
【0147】
薬学的に許容される塩は、毒性副作用を伴わずに親ペプチドの所望の生物活性を保持する。
【0148】
D.DPEP-1に対する抗体
【0149】
一実施形態では、DPEP-1結合剤は、DPEP-1と選択的に結合する抗体である。一実施形態では、抗体は、白血球が内皮上で発現するDPEP-1分子と結合するのを阻止する遮断抗体である。本明細書で使用する場合、「DPEP-1と選択的に反応する」抗体は、無関係のポリペプチド、例えば別の亜鉛メタロプロテアーゼ等に対する親和性よりも実質的に高い膜ジペプチダーゼに対する親和性で結合する。用語「抗体」は、本明細書ではその最も広い意味合いで使用され、ポリクロナールおよびモノクロナール抗体、ならびに膜ジペプチダーゼに対して少なくとも約1×10-1の選択的親和性を保持する抗体のポリペプチド断片が含まれる。Fab、F(ab’)、およびFv断片等の抗体断片は、膜ジペプチダーゼと選択的に反応することができ、したがって、本明細書で定義する抗体という用語の意味に含まれる。抗体という用語には、本明細書で使用する場合、天然の抗体、ならびに非天然の抗体、および断片、例えば膜ジペプチダーゼと選択的に反応するキメラ抗体およびヒト化抗体等が含まれる。
【0150】
抗体を生成するための方法は、当技術分野では日常的である。天然源から調製され得る、もしくは上記のように組換えにより生成され得るジペプチダーゼ、またはその断片、例えば合成ペプチド等は、免疫原として使用可能である。非免疫原性の断片または合成ペプチドは、ハプテンを、担体分子、例えばウシ血清アルブミン(BSA)またはスカシガイヘモシアニン(KLH)等とカップリングさせることにより免疫原性にすることができる。さらに、ハプテンを担体分子とカップリングさせるための様々な他の担体分子および方法は、例えば、参照により本明細書に組み込まれているHarlowおよびLane、Antibodies: A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press、1988年)により記載されているように、当技術分野において周知である。非天然抗体、例えばキメラ抗体およびヒト化抗体等を含む抗体は、参照により本明細書に組み込まれているBorrebaeck(編)、Antibody Engineering (第2版) New York: Oxford University Press(1995年)により記載されるように、固相ペプチド合成を使用して構築され得る、組換えにより生成され得る、または、例えば、可変重鎖および可変軽鎖からなるコンビナトリアルライブラリーのスクリーニングにより取得され得る。
【0151】
一実施形態では、抗体は、DPEP-1の位置Cys-361においてシステイン残基と結合して、DPEP-1モノマーの二量化を阻止する(Keynon, S.ら、Biochem、35巻(38号):12511~12517頁(1996年))。
【0152】
一実施形態では、抗体は、位置His219、Glu125、His152、His20、またはHis198においてDPEP-1の触媒部位と結合する(Keynon, S.ら、Biochem J.、326巻(1号):47~51頁(1997年)。
【0153】
一実施形態では、抗体は、DPEP-1のジペプチド結合部位と結合する。
【0154】
一実施形態では、抗体は、DPEP-1のジペプチド検知部位と結合する。
【0155】
一実施形態では、抗体は、DPEP-1の白血球接着部位と結合する。
【0156】
E.小分子化合物
【0157】
別の実施形態では、DPEP-1アンタゴニスト化合物は、小分子化合物である。そのような化合物は、合成小分子化合物のコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすること、どの化合物(単数または複数)が有効治療を提供する最高確率を有するか決定し、次に構造的に関連する類似体を合成することによって、識別された小分子化合物(単数または複数)の治療特性を最適化すること、および標的分子との結合について、これら化合物を分析することにより識別される(Gallopら、J. Med. Chem.、37巻:1233~1251頁(1994年)、Gordonら、J. Med. Chem.、37巻:1385~1401頁(1994年)、CzarnikおよびEllman、Acc. Chem. Res.、29巻:112~170頁(1996年)、ThompsonおよびEllman、Chem. Rev.、96巻:555~600頁(1996年)、ならびにBalkenhohlら、Angew. Chem. Int. Ed.、35巻:2288~2337頁(1996年))。
【0158】
目的とする分子標的に対して高い親和性のリガンドを識別するための別の最近報告されたアプローチは、核磁気共鳴法分析から構造-活性の関係を、すなわち「NMRによりSAR」を決定することによる(Shukerら、Science、274巻:1531~1534頁(1996年)、およびFesikらによる米国特許第5,698,401号)。このアプローチでは、標的タンパク質の物理的構造は、NMRにより決定され、次にタンパク質表面上の隣接するポイントにおいてタンパク質に結合する小分子構成ブロックが識別される。隣接して結合した小分子は、連結していない化合物単独よりも親和性が高い標的タンパク質と結合する化合物が得られるように、次にリンカーと共にカップリングされる。したがって、標的タンパク質のNMR構造を入手できるようにすることにより、隣接して結合した2つの小分子をカップリングするためのリンカーの長さを求めることができ、小分子リガンドは、合理的に設計され得る。
【0159】
他の方法、例えば米国特許第6,344,330号に記載されている方法等は、高い親和性を伴って生体分子標的に結合する能力を有する小分子リガンドを、迅速かつ効率的に識別する分子アプローチを提供し、その場合、本方法により識別されるリガンド化合物は、例えば、新規小分子の薬物リードとして使用し得る。標準的なコンビナトリアルライブラリーアプローチでは、可能性のある小分子化合物およびその組合せのすべてを、標的との結合についてスクリーニングする必要があるが、この方法は、そのような必要もなく、最も好ましい化合物のみの集団を、標的生体分子との結合についてアッセイできるようにする。
【0160】
一実施形態では、小分子は、DPEP-1の位置Cys-361においてシステイン残基と結合して、DPEP-1モノマーの二量化を阻止する(Keynon, S.ら、Biochem、35巻(38号):12511~12517頁(1996年))。
【0161】
一実施形態では、抗体は、位置His219、Glu125、His152、His20、またはHis198において、DPEP-1の触媒部位(Keynon, S.ら、Biochem J.、326巻(1号):47~51頁(1997年)と結合する。
【0162】
一実施形態では、小分子は、DPEP-1のジペプチド結合部位と結合する。
【0163】
一実施形態では、小分子は、DPEP-1のジペプチド検知部位と結合する。
【0164】
一実施形態では、小分子は、DPEP-1の白血球接着部位と結合する。
【0165】
一実施形態では、小分子は、シラスタチン((Z)-7-[(2R)-2-アミノ-3-ヒドロキシ-3-オキソプロピル]スルファニル-2-{[(1S)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボニル]アミノ}ヘプタ-2-エン酸)(CAS登録番号82009-34-5)である。シラスタチンは、イミペネム抗生物質を分解するジペプチダーゼ酵素を阻害して抗生物質の半減期を延ばすために、イミペネムと共に一般的に製剤化される。シラスタチン/イミペネムは、副作用として粘膜の炎症を引き起こすことが示唆されている。これは、本明細書で記載および例示される、DPEP-1のブロックによる白血球動員に対する抗炎症作用とは正反対である。
【0166】
一実施形態では、小分子は、シラスタチン誘導体である。
【0167】
ある特定の実施形態では、小分子は、アミノホスフィン酸誘導体である。これらのアミノホスフィン酸誘導体の例は、当技術分野において公知である(その内容が参照により本明細書に組み込まれている、Gurulingappa, H.ら、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters、14巻(2004年)3531~3533頁、2004年;米国特許第7,785,564号および米国特許第6,927,212号を参照)。
【0168】
一実施形態では、アミノホスフィン酸誘導体は、式:
【化5】
を有する。
【0169】
式中、Xは、任意のハロゲン、またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキル、CFNR’、またはF、Cl、Br、I125、I、CFNR’からなる群から選択される。Yは、任意のハロゲン、H、CH、OCH、NR’またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6アルコキシ基、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキルからなる群から選択される;NR’は、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択される;Zは、OまたはSであり得る。またXおよびYは、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択されるアミンであってもよい。ベンゼン環は、カルボン酸基の二重結合と同じ側にあっても、または反対側にあってもよい。いずれの異性体も、本明細書に記載する方法において活性である。
【0170】
特定の実施形態では、アミノホスフィン酸化合物は、式:
【0171】
【化6】
を有する化合物から選択される。
【0172】
式中、R1はHであり、R2はHであり、R3はFである;R1はHであり、R2はHであり、R3はBrである;またはR1はHであり、R2はHであり、R3はIであり、ZまたはEのコンフィギュレーションを有する。
【0173】
IV.医薬製剤および医薬
I.別の態様では、本明細書に記載する化合物または薬剤、ならびにその改変形態および修飾形態は、治療的使用の医薬組成物として提供される。一実施形態では、医薬製剤は、配列LSALTPSPSWLKYKALを含有する単離されたペプチドを含み、本明細書では「LSALT」と命名する。別の実施形態では、医薬製剤は、ファージウイルス内への挿入物として含有される単離されたペプチドを含み、ならびに/またはLSALTPSPSWLKYKAL配列のN末端および/もしくはC末端に、1、2、3、4、5個の追加のアミノ酸残基をさらに含み得る。
【0174】
一実施形態では、医薬製剤は、本明細書で「GFE-1」と命名する単離されたペプチドを含む。別の実施形態では、医薬製剤は、ファージウイルス内の挿入物として含有される単離されたペプチドを含み、ならびに/またはLSALTPSPSWLKYKAL配列のN末端および/もしくはC末端に、1、2、3、4、5個の追加のアミノ酸残基をさらに含み得る。
【0175】
一実施形態では、医薬製剤は、本明細書では「GFE-2」と命名する単離されたペプチドを含む。別の実施形態では、医薬製剤は、ファージウイルス内の挿入物として含有される単離されたペプチドを含み、ならびに/またはLSALTPSPSWLKYKAL配列のN末端および/もしくはC末端に、1、2、3、4、5個の追加のアミノ酸残基をさらに含み得る。
【0176】
代表的な送達レジメンには、経口、非経口(皮下、筋肉内、および静脈内注射を含む)、直腸、バッカル(舌下を含む)、経皮、吸入、点眼、および鼻腔内が含まれる。一実施形態では、化合物の送達は、制御放出型の注射可能な製剤の皮下注射を必要とする。一部の実施形態では、本明細書に記載する化合物は、皮下、鼻腔内、および吸入投与に有用である。
【0177】
正確な用量および組成物および最適な送達レジメンの選択は、特に、選択されたペプチドの薬理学的特性、処置される状態の性質および重症度、ならびにレシピエントの身体状態および知的鋭敏さにより影響を受ける。さらに、投与経路は、吸収される物質の量に相違を引き起こす。異なる経路を通じて化合物を投与した際のバイオアベイラビリティーは、1%未満の量からほぼ100%の量が認められるように、極めて変化しやすい。典型的には、静脈内、腹腔内、または皮下注射以外の経路からのバイオアベイラビリティーは50%またはそれ未満である。
【0178】
本発明の医薬組成物または製剤は、医薬組成物を調製するための生理学的に許容される担体または添加剤と共に製剤化され得る。担体および組成物は、無菌であり得る。製剤は、投与様式、例えば、静脈内または皮下投与に適合すべきである。組成物を製剤化する方法は当技術分野において公知である(例えば、Remington's Pharmaceuticals Sciences、第17版、Mack Publishing Co.、(Alfonso R. Gennaro編)(1989年)を参照)。
【0179】
適する薬学的に許容される担体として、水、塩溶液(例えば、NaCl)、生理食塩水、緩衝生理食塩水、アルコール、グリセロール、エタノール、アラビアゴム、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、炭化水素、例えばラクトース、アミロースまたはスターチ等、糖、例えばマンニトール、スクロース等、デキストロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘稠性パラフィン、香油、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等、ならびにそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。医薬調製物は、所望の場合は、活性化合物と有害な反応を引き起こさない、または活性化合物の活性を妨害しない補助剤(例えば、潤滑剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を及ぼすための塩、緩衝剤、呈色および/または芳香族物質等)と混合可能である。好ましい実施形態では、静脈内投与に適する水溶性担体が使用される。
【0180】
組成物または医薬は、所望の場合は、微量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝化剤も含有することができる。組成物は、液体溶液、懸濁物質、エマルジョン、徐放性製剤、または粉末であり得る。また、組成物は、従来のバインダーおよび担体、例えばトリグリセリド等と共に坐薬としても製剤化され得る。
【0181】
組成物または医薬は、ヒトへの投与用として適応させた医薬組成物として、ルーチン手順に従って製剤化され得る。例えば、好ましい実施形態では、静脈内投与用の組成物は、典型的には無菌の等張性水性緩衝液中の溶液である。必要な場合は、注射部位の疼痛を和らげるために、組成物は可溶化剤および局所麻酔薬も含み得る。一般的に、配合物質が別途供給される、または活性な薬剤の量を表示するアンプルもしくはサシェ等の密封容器内の、例えば、乾燥した凍結乾燥粉末もしくは無水濃縮物として単位剤形中に共に混合される。組成物が輸液により投与される場合、無菌の医薬品グレードの水、生理食塩水、またはデキストロース/水を含有する輸液ボトルを用いて分注され得る。組成物が、注射により投与される場合、投与前に配合物質が混合可能なように、無菌の注射用水または生理食塩水のアンプルが提供され得る。
【0182】
一部の実施形態では、医薬組成物は、液体担体、例えば、これらに限定されないが、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、デキストロース溶液、血清含有溶液、ハンクス溶液、他の水性生理的平衡液、油、エステル、およびグリコール等を含む。
【0183】
本明細書に記載する化合物は、中性または塩形態として製剤化され得る。上記したように、薬学的に許容される塩には、遊離アミノ基と共に塩、例えば塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等に由来する塩、および遊離カルボキシル基と共に形成される塩、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等に由来する塩等が含まれる。
【0184】
本発明の医薬製剤は、添加剤と混合され得る、添加剤により希釈され得る、または担体内に封入され得る結合剤を有効成分として含有し、周知の方法に従うカプセル、サシェ、ペーパー、または他の容器と医薬組成物の形態であり得る。組成物は、非経口、静脈内、皮下、または筋肉内投与を含む、ペプチドの投与に適する任意の経路で投与され得る。典型的には、ペプチドは、0.5~2mlまたはそれ未満で必要用量を提供するのに十分な濃度で、無菌の注射液中に溶解または懸濁される。非経口投与に適する本発明の医薬組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容される無菌等張性の水性もしくは非水性溶液、分散物、懸濁物、またはエマルジョン、あるいは使用直前に無菌の注射液または分散物に再構成可能であり、酸化防止剤、緩衝剤、製剤を意図したレシピエントの血液と等張にせしめる溶質、または懸濁剤もしくは増粘剤を含有し得る無菌の粉末と組み合わせた、1つまたは複数の本発明の化合物を含む。
【0185】
注入式デポの形態は、ポリラクチド-ポリグリコリド等の生分解性ポリマー中で薬物のマイクロカプセル化されたマトリックスを形成することにより作製される。ポリマーに対する薬物の比、および採用した具体的なポリマーの性質に応じて、薬物放出速度は制御可能である。他の生分解性ポリマーの例として、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が挙げられる。また、デポ注入式製剤も、身体組織と適合性のあるリポソームまたはマイクロエマルジョン中で薬物を捕捉することによって調製される。注入式の材料は、例えば、細菌保持フィルターを通じて濾過することにより滅菌処理され得る。
【0186】
医薬組成物は、単位投与用または複数回投与用の密閉容器、例えば、アンプルおよびバイアル内に存在し得、また使用直前に、無菌の液体担体、例えば注射用水の添加のみを必要とする、凍結乾燥された状態で保管され得る。即時注射用の溶液および懸濁物は、上記タイプの無菌の粉末、顆粒、および錠剤から調製され得る。
【0187】
V.処置方法
【0188】
処置方法は、特に、炎症が組織または臓器に対する虚血/再灌流傷害により引き起こされる疾患および状態を含む、炎症と関連した疾患および状態について検討される。臓器内での虚血、その後の再灌流により、当該臓器の組織等に構造的および機能的異常が発生する。好中球浸潤、出血、浮腫、および壊死のすべてが、虚血/再灌流傷害後の組織に認められる。DPEP-1標的は、これまでに記載されていない炎症の経路を代表し、ジペプチダーゼ阻害剤、例えば炎症により媒介される疾患および状態を処置または予防するのに使用される、本明細書に記載の阻害剤等の利用機会をもたらす。
【0189】
炎症と直接関連する一般的な疾患および医学的問題の非限定的なリストには、関節炎、腎不全、狼瘡、喘息、乾癬、膵炎、アレルギー、線維症、外科合併症、貧血、および線維筋痛症が含まれる。慢性炎症と関連した他の疾患として、慢性炎症により引き起こされるがん;慢性炎症が冠状動脈アテローム性硬化症に寄与する心臓発作;慢性炎症が脳細胞を破壊するアルツハイマー病;慢性炎症が心筋の消耗を引き起こすうっ血性心不全;慢性炎症が血栓塞栓性の事象を促進する脳卒中;および慢性炎症が心臓弁に損傷を与える大動脈弁狭窄が挙げられる。動脈硬化症、骨粗鬆症、パーキンソン病、感染症、クローン病および潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、ならびに多発性硬化症。
【0190】
特定の実施形態では、本明細書に記載の方法は、これらに限定されないが、敗血症誘発性傷害、急性臓器傷害(例えば、低血圧症の状態における急性腎傷害)等の状態と関連した損傷から組織および臓器を保護するのに有用である。
【0191】
他の実施形態では、本明細書に記載の方法は、呼吸窮迫症候群、エンセファロパシー、敗血症誘発性肝不全、敗血症誘発性腎不全、または敗血症誘発性心不全等の敗血症誘発性の状態と関連した損傷から組織および臓器を保護するのに有用である。
【0192】
他の実施形態では、本明細書に記載の方法は、これらに限定されないが、手術前後の手技、心不全、肝不全、脳卒中、心筋梗塞、ショック肝、脊髄傷害、脳傷害等の虚血再灌流傷害と関連した損傷から組織および臓器を保護するのに有用である。これらの組成物は、高リスク患者において虚血再灌流傷害を予防または処置するのにも使用可能である。
【0193】
他の実施形態では、方法は、血管形成術もしくは血栓溶解治療前、または手術、血管形成術、もしくは血栓溶解治療に続く、虚血臓器の移植もしくは再灌流後においても有用である。
【0194】
これらの手技の期間中に虚血再灌流傷害のリスクがある外科手技および臓器の他の例として、頸動脈手術期間中の脳傷害、脳血管手術ならびに心臓および大動脈の手術;脳、脊髄、腸、および腎傷害;血栓塞栓除去後、または肺および心臓手術期間中に心肺バイパス術を使用した後の肺傷害;血管再建(冠状動脈バイパス移植術)後の心臓傷害;腸間膜動脈に対する手術後の腸傷害;ならびに皮膚グラフト採取後の皮膚傷害が挙げられるが、これらに限定されない。
【0195】
この方法が有用であるさらなる外科手技として、移植用ドナー臓器の採取が挙げられる。他の実施形態では、方法は、ドナー調達、ex vivoでの取り扱い、および移植レシピエントへの移植期間中の同種異系移植臓器の保護にも有用である。本発明の組成物は、移植されるドナー臓器の採取前、その期間中、またはその後において、虚血が予想される外科手技の前または期間中に投与され得る。
【0196】
したがって、本発明は、対象において虚血再灌流傷害を予防、制限、または処置するための方法であって、虚血事象を経験した、または虚血事象が急迫した、または虚血事象を有するリスクがある対象を識別するステップと、治療上有効または予防上有効な量の本明細書に記載する組成物を投与するステップとを含む方法に関する。
【0197】
特定の機構のいずれにも拘束されるものではないが、本明細書に提示する組成物の保護効果は、DPEP-1標的への結合、ならびにDPEP-1調節型の白血球動員、炎症、および腫瘍細胞接着の直接的な抑制を通じて媒介される。炎症媒介型の疾患および腫瘍転移に対する、本明細書に記載のこれらの効果は、DPEP-1ジペプチダーゼ活性または尿細管輸送を調節する際のその役割とは独立に生ずる。過去の研究では、抗生物質化合物の半減期を延ばして細菌感染を処置するために、DPEP-1アンタゴニストの組合せが必要であった。他の研究では、化学療法剤または他の腎毒性の薬剤が腎尿細管に取り込まれるのを防止することによって、臓器損傷を予防または処置するために、DPEP-1アンタゴニストのシラスタチンが使用された(Humanesら、Kidney Intl、82巻:652~553頁(2012年);Kollerら、Biochem Biophys Res Comm、131巻(2号):974~979頁(1985年))。DPEP-1アンタゴニストの使用による、DPEP-1調節型の炎症、炎症媒介型の疾患、または腫瘍転移の直接的な処置は、これまでに識別されていない。
【0198】
したがって、ある特定の実施形態では、毒性の化合物、例えば腎毒性の化合物、または化学療法剤等により直接誘発される組織損傷を処置または抑制するために、本明細書に記載の組成物は使用されない。他の実施形態では、本明細書に記載の組成物は、ベータ-ラクタム抗生物質化合物と組み合わせて投与されない。他の実施形態では、本明細書に記載の組成物は、カルバペネム抗生物質化合物と組み合わせて投与されない。
【0199】
本発明は、炎症を低減またはモジュレートする方法であって、DPEP-1と結合する有効量の化合物を投与して炎症を低減またはモジュレートするステップを含む方法を提供する。
【0200】
一実施形態では、炎症は、IL-12、IP-10、IL-1B、IL-5、GM-CSF、IFNガンマ、またはIL-1aから選択される炎症マーカーのプロファイルにより特徴付けられる。
【0201】
一実施形態では、組成物は、ペプチド、遮断抗体、または小分子化合物を含む。
【0202】
一実施形態では、組成物は、シラスタチン、その誘導体、または薬学的に許容されるその塩を含む。
【0203】
ある特定の実施形態では、組成物は、アミノホスフィン酸誘導体を含む。
【0204】
一実施形態では、アミノホスフィン酸誘導体は、式:
【化7】
を有する。
【0205】
式中、Xは、任意のハロゲン、またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキル、CFNR’、またはF、Cl、Br、I125、I、CFNR’からなる群から選択される。Yは、任意のハロゲン、H、CH、OCH、NR’またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6アルコキシ基、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキルからなる群から選択される;NR’は、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択される;Zは、OまたはSであり得る。またXおよびYは、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択されるアミンであってもよい。ベンゼン環は、カルボン酸基の二重結合と同じ側にあっても、または反対側にあってもよい。いずれの異性体も、本明細書に記載する方法において活性である。
【0206】
一実施形態では、炎症は、胃炎、痛風、痛風性関節炎、関節炎、リウマチ性関節炎、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、潰瘍、慢性気管支炎、喘息、アレルギー、急性肺傷害、肺の炎症、気道過敏症、脈管炎、敗血症性ショック、炎症性の皮膚障害、乾癬、アトピー性皮膚炎、および湿疹からなる群から選択される炎症性障害と関連する。
【0207】
本発明は、対象の白血球動員をブロックする方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を投与して白血球動員をブロックするステップを含む方法を提供する。
【0208】
一実施形態では、組成物は、ペプチド、遮断抗体、または小分子化合物を含む。
【0209】
一実施形態では、組成物は、シラスタチン、その誘導体、または薬学的に許容されるその塩を含む。
【0210】
ある特定の実施形態では、組成物は、アミノホスフィン酸誘導体を含む。
【0211】
一実施形態では、アミノホスフィン酸誘導体は、式:
【化8】
を有する。
【0212】
式中、Xは、任意のハロゲン、またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキル、CFNR’、またはF、Cl、Br、I125、I、CFNR’からなる群から選択される。Yは、任意のハロゲン、H、CH、OCH、NR’またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6アルコキシ基、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキルからなる群から選択される;NR’は、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択される;Zは、OまたはSであり得る。またXおよびYは、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択されるアミンであってもよい。ベンゼン環は、カルボン酸基の二重結合と同じ側にあっても、または反対側にあってもよい。いずれの異性体も、本明細書に記載する方法において活性である。
【0213】
一実施形態では、方法は、炎症を低減する必要性に関する診断テストにより、処置を必要とする対象を識別するステップをさらに含む。処置の適応には、急性腎傷害のリスクがある(手術前または静脈内造影剤を投与する前において)任意の患者、または尿量が低下している、もしくは血清クレアチニンが増加している任意の患者、例えば全身感染症または低血圧症の患者等における臨床徴候および症状が含まれるが、これらに限定されない。
【0214】
本発明は、対象において腫瘍転移を低減または予防するための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を投与し、これにより腫瘍転移を低減または予防するステップを含む方法を提供する。一実施形態では、DPEP-1は、その酵素活性とは独立に、腫瘍細胞上では白血球に対する接着分子として作用することができ、また本明細書に記載する選択的DPEP-1結合剤がDPEP-1に結合すると、腫瘍転移が低減または予防される可能性がある。別の実施形態では、DPEP-1は、腫瘍転移を促進する炎症に寄与し、選択的DPEP-1結合剤がDPEP-1に結合すると、腫瘍転移が低減または予防される。
【0215】
ある特定の実施形態では、腫瘍は、転移の可能性を有する、または現に転移する能力を有するがんを引き起こすことが知られている腫瘍から選択される。例えば、がんは、膵がん、腎がん、例えば、腎細胞癌(RCC)、泌尿生殖器がん、例えば、膀胱、腎臓、骨盤、および尿管における尿路上皮癌、メラノーマ、前立腺癌、肺癌(非小細胞癌、小細胞癌、神経内分泌癌、およびカルチノイド腫瘍)、乳癌(腺管癌、小葉癌、および腺管小葉混合癌)、甲状腺癌(甲状腺乳頭癌、濾胞状癌、および髄様癌)、脳がん(髄膜腫、星状細胞腫、神経膠芽腫、小脳腫瘍、髄芽細胞腫、上衣腫)、卵巣癌(血清、粘液性、および類子宮内膜のタイプ)、子宮頸がん(扁平上皮内癌、侵襲性の扁平上皮癌および子宮頸部腺癌)、子宮内膜癌(類子宮内膜、血清、および粘液性のタイプ)、原発性腹膜癌、中皮腫(胸膜および腹膜)、眼のがん(網膜芽細胞腫)、筋肉(横紋肉腫(rhapdosarcoma)および平滑筋肉腫)、リンパ腫、食道がん(腺癌および扁平上皮癌)、胃がん(胃腺癌および消化管間質腫瘍(gastrointestinal stroma tumor))、肝がん(肝細胞癌および胆管がん)、小腸腫瘍(小腸間質腫瘍およびカルチノイド腫瘍)、結腸がん(結腸の腺癌、結腸高度異形成、および結腸カルチノイド腫瘍)、精巣がん、皮膚がん(メラノーマおよび扁平上皮癌)、および副腎癌であり得る。
【0216】
一実施形態では、組成物は、ペプチド、遮断抗体、または小分子化合物を含む。
【0217】
一実施形態では、組成物は、シラスタチン、その誘導体、または薬学的に許容されるその塩を含む。
【0218】
ある特定の実施形態では、組成物は、アミノホスフィン酸誘導体を含む。
【0219】
一実施形態では、アミノホスフィン酸誘導体は、式:
【化9】
を有する。
【0220】
式中、Xは、任意のハロゲン、またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキル、CFNR’、またはF、Cl、Br、I125、I、CFNR’からなる群から選択される。Yは、任意のハロゲン、H、CH、OCH、NR’またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6アルコキシ基、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキルからなる群から選択される;NR’は、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択される;Zは、OまたはSであり得る。またXおよびYは、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択されるアミンであってもよい。ベンゼン環は、カルボン酸基の二重結合と同じ側にあっても、または反対側にあってもよい。いずれの異性体も、本明細書に記載する方法において活性である。
【0221】
一実施形態では、方法は、患者の腫瘍上でDPEP-1結合分子の存在を明確にすることにより、腫瘍転移を低減または予防する必要性を決定する診断テストを通じて、処置を必要とする対象を識別するステップをさらに含む。
【0222】
本発明は、対象において、敗血症期間中に、白血球動員および炎症を低減または予防するための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を投与し、これにより敗血症の臓器合併症を低減または予防するステップを含む方法を提供する。
【0223】
一実施形態では、組成物は、ペプチド、遮断抗体、または小分子化合物を含む。
【0224】
一実施形態では、組成物は、シラスタチン、その誘導体、または薬学的に許容されるその塩を含む。
【0225】
ある特定の実施形態では、組成物は、アミノホスフィン酸誘導体を含む。
【0226】
一実施形態では、アミノホスフィン酸誘導体は、式:
【化10】
を有する。
【0227】
式中、Xは、任意のハロゲン、またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキル、CFNR’、またはF、Cl、Br、I125、I、CFNR’からなる群から選択される。Yは、任意のハロゲン、H、CH、OCH、NR’またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6アルコキシ基、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキルからなる群から選択される;NR’は、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択される;Zは、OまたはSであり得る。またXおよびYは、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択されるアミンであってもよい。ベンゼン環は、カルボン酸基の二重結合と同じ側にあっても、または反対側にあってもよい。いずれの異性体も、本明細書に記載する方法において活性である。
【0228】
一実施形態では、方法は、虚血再灌流傷害を低減または予防する必要性を決定する診断テストを通じて、処置を必要とする対象を識別するステップをさらに含む。処置の適応には、虚血再灌流傷害の臨床徴候および症状、または虚血再灌流傷害のリスクが高い外科手技を経験することが含まれるが、これらに限定されない。
【0229】
本発明は、患者において虚血再灌流傷害の症状を処置する方法であって、患者にDPEP-1のアンタゴニスト化合物を含む、薬学的に有効な量の組成物を投与するステップを含む方法を含む。
【0230】
一実施形態では、組成物は、虚血再灌流傷害の症状が低減または良化するまで投与される。
【0231】
一実施形態では、単離されたペプチドまたはその変異形態は、約0.01mg/kg~100mg/kgの間の投薬量で投与される。
【0232】
本発明は、対象において虚血再灌流傷害関連の障害を低減または予防するための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を投与し、これにより虚血再灌流傷害を低減または予防するステップを含む方法を提供する。一実施形態では、方法は、虚血再灌流傷害と関連した白血球動員および炎症を低減または予防する。
【0233】
一実施形態では、組成物は、ペプチド、遮断抗体、または小分子化合物を含む。
【0234】
一実施形態では、組成物は、シラスタチン、その誘導体、または薬学的に許容されるその塩を含む。
【0235】
ある特定の実施形態では、組成物は、アミノホスフィン酸誘導体を含む。
【0236】
一実施形態では、アミノホスフィン酸誘導体は、式:
【化11】
を有する。
【0237】
式中、Xは、任意のハロゲン、またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキル、CFNR’、またはF、Cl、Br、I125、I、CFNR’からなる群から選択される。Yは、任意のハロゲン、H、CH、OCH、NR’またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6アルコキシ基、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキルからなる群から選択される;NR’は、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択される;Zは、OまたはSであり得る。またXおよびYは、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択されるアミンであってもよい。ベンゼン環は、カルボン酸基の二重結合と同じ側にあっても、または反対側にあってもよい。いずれの異性体も、本明細書に記載する方法において活性である。
【0238】
一実施形態では、虚血再灌流傷害関連の障害は、臓器および組織における虚血事象および虚血後の事象と関連し、障害は、血栓性脳卒中;心筋梗塞;狭心症;塞栓性血管閉塞;末梢血管不全;内臓動脈閉塞;血栓もしくは塞栓症による動脈閉塞、腸間膜血流低下もしくは敗血症に後続するような非閉塞性プロセスによる動脈閉塞;腸間膜動脈閉塞;腸間膜静脈閉塞;腸間膜微小循環に対する虚血再灌流傷害;虚血性急性腎不全;脳組織に対する虚血再灌流傷害;腸重積症;乏血性ショック;組織機能障害;臓器不全(心不全、肝不全、腎不全等を含む);再狭窄;アテローム性動脈硬化症;血栓症;血小板凝集;ショック肝;脊髄傷害;脳傷害からなる群から選択される、または手術前後の手技、心臓手術;臓器手術;臓器移植;血管造影;心肺脳蘇生術等の手技からなるリストから選択される状態に後続する。
【0239】
一実施形態では、虚血再灌流傷害は、移植用のドナー臓器を採取することと関連する。
【0240】
一実施形態では、虚血再灌流傷害は、ドナー調達、ex vivoでの取り扱い、または移植レシピエントへの移植期間中に、同種異系移植臓器に生ずる。
【0241】
様々な実施形態では、組成物は、(i)移植されるドナー臓器の採取前に、その期間中、もしくはその後、または(ii)虚血が予想される外科手技の前または期間中に投与され得る。
【0242】
本発明は、対象において急性腎傷害を低減または予防するための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を投与し、これにより急性腎傷害を低減または予防するステップを含む方法を提供する。一実施形態では、方法は、急性腎傷害と関連する白血球動員および炎症を低減または予防する。
【0243】
一実施形態では、組成物は、ペプチド、遮断抗体、または小分子化合物を含む。
【0244】
一実施形態では、組成物は、シラスタチン、その誘導体、または薬学的に許容されるその塩を含む。
【0245】
ある特定の実施形態では、組成物は、アミノホスフィン酸誘導体を含む。
【0246】
一実施形態では、アミノホスフィン酸誘導体は、式:
【化12】
を有する。
【0247】
式中、Xは、任意のハロゲン、またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキル、CFNR’、またはF、Cl、Br、I125、I、CFNR’からなる群から選択される。Yは、任意のハロゲン、H、CH、OCH、NR’またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6アルコキシ基、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキルからなる群から選択される;NR’は、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択される;Zは、OまたはSであり得る。またXおよびYは、NH、N(C1~C6アルキル)、およびNH(C1~C6アルキル)から選択されるアミンであってもよい。ベンゼン環は、カルボン酸基の二重結合と同じ側にあっても、または反対側にあってもよい。いずれの異性体も、本明細書に記載する方法において活性である。
【0248】
一実施形態では、方法は、急性腎傷害を低減または予防する必要性を決定する診断テストを通じて、処置を必要とする対象を識別するステップを含む。
【0249】
一実施形態では、急性腎傷害は、敗血症の結果である。
【0250】
一実施形態では、急性腎傷害は、虚血再灌流の結果である。
【0251】
一実施形態では、急性腎傷害は、毒素誘発型の腎傷害である。
【0252】
一実施形態では、急性腎傷害は、造影剤誘発型の腎傷害である。
【0253】
VI.投与経路
【0254】
本明細書に記載のDPEP-1結合剤(または本明細書に記載のDPEP-1結合剤を含有する組成物もしくは医薬)は、任意の適する経路で投与され得る。一部の実施形態では、DPEP-1結合剤は、非経口投与される。一部の実施形態では、非経口投与は、静脈内、皮内、吸入、経皮(局所的)、眼内、筋肉内、皮下、筋肉内、および/または経粘膜投与から選択される。一部の実施形態では、本明細書に記載のDPEP-1結合剤は、皮下投与される。本明細書で使用する場合、用語「皮下組織」は、皮膚直下の緩みのある不規則な結合組織の層として定義される。例えば、皮下投与は、大腿部、腹部、臀部、または肩甲部を含むが、これらに限定されない部位内に組成物を注射することにより実施され得る。一部の実施形態では、本明細書に記載のDPEP-1結合剤は、静脈内投与される。他の実施形態では、本明細書に記載のDPEP-1結合剤は、標的組織、例えば心臓または筋肉(例えば、筋肉内)、腫瘍(腫瘍内)、神経系(例えば、脳内への直接注射;脳室内;髄腔内)等に対する直接投与により投与される。あるいは、本明細書に記載のDPEP-1結合剤(または本明細書に記載のDPEP-1結合剤を含有する組成物もしくは医薬)は、吸入、非経口、皮内、経皮、または経粘膜(例えば、経口または経鼻腔)投与され得る。所望の場合は、1つより多くの経路が同時に使用可能である。
【0255】
一部の実施形態では、本明細書に記載のDPEP-1結合剤は、経口投与される。一部の実施形態では、本発明は、(a)DPEP-1結合剤、(b)少なくとも1つの薬学的に許容されるpH降下剤、(c)DPEP-1結合剤のバイオアベイラビリティーを促進するのに有効な少なくとも1つの吸収促進薬、および(d)保護媒体を含む、本明細書に記載のDPEP-1結合剤の固体剤形を、経口投与用として提供する。一部の実施形態では、固体剤形は、カプセルまたは錠剤である。
【0256】
VII.投与
【0257】
目的の化合物の有効な量が、処置に採用される。本発明に従って使用される化合物の投薬量は、化合物および処置される状態に応じて変化する。例えば、レシピエント患者の年齢、体重、および臨床状態;ならびに治療を投与する臨床医または開業医の経験および判断は、選択される投薬量に影響を及ぼす要因に含まれる。他の要因として:投与経路、患者、患者の既往歴、疾患プロセスの重症度、および具体的な化合物の効力が挙げられる。用量は、患者にとって受け入れがたい毒性を生じさせることなく、処置される疾患の症状または徴候を良化させるのに十分であるべきである。一般的に、化合物の有効な量とは、症状の主観的緩和、または臨床医もしくは他の資格認定された観察者により指摘されるような客観的に識別可能な改善を提供する量である。
【0258】
様々な実施形態は、異なる投与レジメンを含み得る。一部の実施形態では、DPEP-1結合剤は、連続注入により投与される。一部の実施形態では、連続注入は、静脈内である。他の実施形態では、連続注入は皮下である。二者択一的または付加的に、一部の実施形態では、DPEP-1結合剤は、2ヶ月毎、毎月、月2回、3週間毎、2週間毎、毎週、週2回、週3回、毎日、1日2回、または別の臨床的に望ましい投与スケジュールに基づき投与される。一人の対象に対する投与レジメンは、固定された間隔である必要はなく、対象の必要性に応じて時間経過と共に変化し得る。
【0259】
一実施形態では、局所的投薬が、治療結果が実現するまで少なくとも1日1回投与される。投薬は、1日2回投与され得るが、より高頻度または低頻度の投与が、臨床医により推奨される場合がある。治療結果が実現したら、化合物は、漸減または中止され得る。時に、副作用により、治療の中止が余儀なくされる。目的の化合物の有効な量が、処置に採用される。本発明に従って使用される化合物の投薬量は、化合物および処置される状態に応じて変化する。レシピエント患者の年齢、除脂肪体重、総重量、体表面積、および臨床状態;ならびに治療を投与する臨床医または開業医の経験および判断は、選択される投薬量に影響を及ぼす要因に含まれる。他の要因として、投与経路、患者、患者の既往歴、疾患プロセスの重症度、および具体的な化合物の効力が挙げられる。用量は、患者とって受け入れがたい毒性を生じさせることなく、処置される疾患の症状または徴候を良化させるのに十分であるべきである。
【0260】
医薬品として採用される場合、本発明の化合物は、医薬組成物の形態で投与され、これらの医薬組成物は、本発明のさらなる実施形態を代表する。これらの化合物は、経口、直腸、経皮、皮下、静脈内、筋肉内、および鼻腔内を含む様々な経路により、または気管内点滴もしくはエアゾール吸入により投与され得る。
【0261】
本発明の化合物は、炎症を低減する、または組織の炎症プロファイルを修正するのに有用であり、例えば、肝臓内への投与方式は、化合物の適用法により定義され、最適用量を見出すための臨床試験に関するルーチン法により決定可能である。
【0262】
一実施形態では、投薬量は、活性ペプチド約0.01mg/kg~約100mg/kgの間、約0.01mg/kg~約50mg/kgの間、または約0.01mg/kg~約25mg/kgの間である。
【0263】
他の実施形態では、投薬量は、約0.1mg/kg~約100mg/kgの間、約0.1mg/kg~約50mg/kgの間、約0.1mg/kg~約25mg/kgの間、または約0.1mg/kg~約10mg/kgの間である。
【0264】
他の実施形態では、投薬量は、約0.5mg/kg~約100mg/kg、約0.5mg/kg~約50mg/kg、約0.5mg/kg~約25mg/kg、または約0.5mg/kg~約10.0mg/kgの間である。
【0265】
他の実施形態では、投薬量は、約1.0mg/kg~約25mg/kgの間、約1.0mg/kg~約50mg/kgの間、約1.0mg/kg~約70mg/kgの間、約1.0mg/kg~約100mg/kgの間、約5.0mg/kg~約25mg/kgの間、約5.0mg/kg~約50mg/kgの間、約5.0mg/kg~約70mg/kgの間、約5.0mg/kg~約100mg/kgの間、約10.0mg/kg~約25mg/kgの間、約10.0mg/kg~約50mg/kgの間、約10.0mg/kg~約70mg/kgの間、または約10.0mg/kg~約100mg/kgの間である。
【0266】
別の実施形態では、投薬量は、約50μΜ~約500μΜの間である。
【0267】
しかし、実際に投与されるDPEP-1結合剤の量は、処置される状態、選択される投与経路、投与される実際の化合物、個々の患者の年齢、重量、および応答、患者の症状の重症度等を含む、関連する状況に照らして、医師により決定されることが理解される。
【0268】
様々な実施形態では、本明細書に記載の化合物、またはその塩は、1日当たり、体重1kgにつき約0.001~約20mgの間、1日当たり、体重1kgにつき約0.01~約10mgの間、1日当たり、体重1kgにつき約0.1~約1000μgの間、または1日当たり、体重1kgにつき約0.1~約100μgの間の量で投与される。投与経路は変化する。例えば、本明細書に記載の化合物、またはその塩は、1日当たり、体重1kgにつき約0.1~約1000μgの間、または1日当たり、体重1kgにつき約0.1~約100μgの間の量で、皮下注射により投与される。例として、50kgのヒト女性対象の場合、有効成分の1日用量は、約5~約5000μg、または皮下注射により約5~約5000μgである。投与経路、化合物の効力、薬物動態プロファイル、および認められる適用されるバイオアベイラビリティー、および活性な薬剤、および処置される疾患に応じて、異なる用量が必要とされる。投与が吸入による代替的実施形態では、1日用量は、1000~約20,000μg、1日2回である。他の哺乳動物、例えばウマ、イヌ、およびウシ等では、より高用量が必要とされ得る。この投薬量は、最も有効な結果を実現するために、必要に応じて単回投与により、複数回の適用により、または制御放出により、従来型の医薬組成物で送達され得る。
【0269】
VIII.キット
【0270】
一部の実施形態では、本発明は、DPEP-1結合剤もしくは本明細書に記載の医薬組成物、ならびにその再構成(凍結乾燥されている場合)および使用のための説明書を含有する、キットまたは他の製造物品をさらに提供する。キットまたは他の製造物品として、容器、シリンジ、バイアル、および投与(例えば、皮下、吸入による)で有用な任意の他の物品、デバイス、または機器を挙げることができる。適する容器として、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ(例えば、事前充填されたシリンジ)、アンプル、カートリッジ、リザーバー、またはリオジェクト(lyo-ject)が挙げられる。容器は、様々な材料、例えばガラスまたはプラスチック等から形成され得る。一部の実施形態では、容器は、事前充填されたシリンジである。適する事前充填されたシリンジとして、焼成シリコーンコーティングされたホウケイ酸ガラスシリンジ、シリコーンがスプレーされたホウケイ酸ガラスシリンジ、またはシリコーンを含まないプラスチック樹脂シリンジが挙げられるが、これらに限定されない。
【0271】
典型的には、容器は、製剤、ならびに該容器上の、または容器と関連付けられたラベルを保持することができ、再構成および/または使用に関する指示を表示することができる。例えば、ラベルは、上記のような濃縮物に再構成されることを表示することができる。製剤は、例えば、皮下投与に有用である、またはそのように意図されていることを、ラベルはさらに表示することができる。一部の実施形態では、容器は、DPEP-1結合剤を含有する安定な製剤の単回用量を含有し得る。様々な実施形態では、安定な製剤の単回用量は、約15ml、約10ml、約5.0ml、約4.0ml、約3.5ml、約3.0ml、約2.5ml、約2.0ml、約1.5ml、約1.0ml、または約0.5ml未満の容積で存在する。あるいは、製剤を保持する容器は、製剤の反復投与(例えば、2~6回投与)を可能にする複数回使用バイアルであり得る。キットまたは他の製造物品は、適する賦形剤(例えば、BWFI、生理食塩水、緩衝生理食塩水)を含む第2の容器をさらに含み得る。賦形剤と製剤を混合したら、再構成された製剤中の最終タンパク質濃度は、一般的に少なくとも約1mg/mlである(例えば、少なくとも約5mg/ml、少なくとも約10mg/ml、少なくとも約20mg/ml、少なくとも約30mg/ml、少なくとも約40mg/ml、少なくとも約50mg/ml、少なくとも約75mg/ml、少なくとも約100mg/ml)。キットまたは他の製造物品は、他の緩衝剤、賦形剤、フィルター、針、シリンジ、および使用説明を伴う添付書類を含む、商業上およびユーザーの立場から望ましい他の材料をさらに含み得る。一部の実施形態では、キットまたは他の製造物品は、自己投与用の説明書を含み得る。
【0272】
IX.スクリーニング方法
【0273】
本発明の一態様によると、本発明は、DPEP-1に結合する化合物についてスクリーニングするための方法を提供する。
【0274】
一実施形態では、スクリーニング方法は、LSALTまたはGFEペプチドを使用する競合結合アッセイを含む。
【0275】
一実施形態では、スクリーニング方法は、(a)試験化合物のライブラリーを、組織内でDPEP-1に結合するその能力についてスクリーニングするステップと、(b)選択的結合親和性を示す候補試験化合物を選択するステップと、(c)候補化合物を炎症抑制活性について試験するステップと、(d)候補化合物が炎症を低下させる場合は、その候補化合物を選択し、これにより炎症を低下させるのに有効な化合物を提供するステップとを含む、患者の組織内の炎症を低下させるのに有効な化合物を識別するステップを含む。
【0276】
ライブラリー内の標的ペプチドのうちの1つに対して、ランダム配列のペプチドよりも結合親和性が、例えば、少なくとも10~100倍高い、選択的結合親和性を示すライブラリー化合物の場合、該化合物は、以下に詳記する方法に従って、組織内の炎症を低減するその能力についてさらに試験される。組織内の炎症を低減することが示された試験化合物は、次に、さらなる化合物試験および開発のためのリード化合物として識別される。
【0277】
一実施形態では、組織は、肺組織または肝組織である。
【0278】
一実施形態では、患者の脈管構造内で白血球動員をブロックするのに有効な化合物を識別するための方法が提供される。
【0279】
一実施形態では、本発明は、患者の組織内の炎症を低減するのに有効な化合物を識別する方法であって、(a)試験化合物のライブラリーを、DPEP-1に結合するその能力についてスクリーニングするステップと、(b)選択的結合親和性を示す化合物を選択するステップと、(c)化合物を、白血球動員阻害活性について試験するステップと、(d)化合物が組織内の炎症を低減する場合は、その化合物を選択するステップとを含む方法を提供する。
【0280】
一実施形態では、組織は、肺組織または肝組織である。
【0281】
一実施形態では、方法は、(e)固形腫瘍を担持する動物において、化合物を、白血球動員をブロックするその能力についてさらに試験するステップと、(f)化合物が、ステップ(e)で白血球動員をブロックする場合は、その化合物を選択するステップとをさらに含む。
【0282】
一実施形態では、方法は、(e)固形腫瘍を担持する動物において、化合物を、腫瘍転移を阻害するその能力についてさらに試験するステップと、(f)化合物が、ステップ(e)で腫瘍転移を阻害する場合は、その化合物を選択するステップとをさらに含む。
【0283】
一実施形態では、方法は、(e)肺または肝臓に転移することが知られている固形腫瘍を担持する動物において、化合物を、肺および肝臓への腫瘍転移を阻害するその能力についてさらに試験するステップと、(f)化合物が、ステップ(e)で腫瘍転移を阻害する場合は、その化合物を選択するステップとをさらに含む。
【0284】
一実施形態では、方法は、(e)化合物を、患者において敗血症を処置するその能力についてさらに試験するステップと、(f)化合物が、ステップ(e)で敗血症を処置する場合は、その化合物を選択するステップとをさらに含む。
【0285】
一実施形態では、方法は、(e)化合物を、患者において細菌性敗血症を処置するその能力についてさらに試験するステップと、(f)化合物が、ステップ(e)で敗血症を処置する場合は、その化合物を選択するステップとをさらに含む。
【0286】
一実施形態では、方法は、(e)化合物を、患者において急性腎損傷を処置するその能力についてさらに試験するステップと、(f)化合物が、ステップ(e)で急性腎損傷を処置する場合は、その化合物を選択するステップとをさらに含む。
【0287】
一実施形態では、方法のステップ(a)は、試験化合物のライブラリーを、DPEP-1に結合するその能力についてスクリーニングするステップを含む。
【0288】
本明細書で言及するすべての刊行物および特許出願は、独立した刊行物または特許出願のそれぞれが、参照により組み込まれることが具体的かつ個々に示されるのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例0289】
(実施例1)
腎臓内の腎ジペプチダーゼ(DPEP-1)の特徴付け
【0290】
ヒト腎摘除術から腎尿細管上皮細胞(TEC)を単離し、培養した。細胞を次にDPEP-1およびZO-1(TEC表面マーカー)抗体で標識し、共焦点顕微鏡検査法を使用して画像化した。画像を倍率60×で取得した。代表的な顕微鏡写真を図1Aに示す。マウス腎組織を、DPEP-1抗体で染色し、免疫ペルオキシダーゼを使用して可視化した。矢印は、暗褐色の染色が示すように、DPEP-1について陽性の尿細管を示す。代表的な顕微鏡写真を図1Bに示す。全タンパク質溶解物を、非トランスフェクトCOS-7細胞、DPEP-1を過剰発現するCOS-7細胞、ヒト腎組織、およびマウス腎組織から調製した。溶解物を、次にDPEP-1に対するジペプチド基質であるグリシン-デヒドロ-フェニルアラニン(Gly-D-Phe)の分解を蛍光検出することにより、DPEP-1酵素活性について試験した。これらの結果を、グラフ形式で図1Cに示す。
【0291】
(実施例2)
in vivoでの内因性DPEP-1活性
【0292】
臓器(肺、肝臓、脾臓、および腎臓)を、8~10週齢のC57/BL6動物(Charles River)から採取した。タンパク質を、プロテアーゼ阻害剤カクテルの非存在下でRIPA/オクチルグルコシドを使用し、組織ホモジナイザーを使用して組織から単離した。各条件/臓器に由来するタンパク質溶解物10μlを、DPEP-1酵素活性アッセイを実施するのに使用した。これらの結果を、グラフ形式で図2に示す。
【0293】
(実施例3)
DPEP-1の肺発現
【0294】
臓器(肺および腎臓)を、8~10週齢のC57/BL6動物(Charles River)から採取し、組織を、組織学検査用にパラフィン包埋した。DPEP-1発現を評価するために、腎臓および肺の切片を、DAB法を使用してDPEP-1特異抗体(褐色(Abcam))で染色した。代表的な顕微鏡写真を図3に示す。
【0295】
(実施例4)
DPEP-1の触媒活性は、in vitroでの結合には必要でない
【0296】
リポフェクトアミン2000(Invitrogen)試薬を使用して、Cos-1細胞に、3μgの野生型膜ジペプチダーゼ(DPEP-1)の触媒的に不活性な突然変異体(E>D)、またはヒトDPEP-1遺伝子に対応する突然変異体の対照(H>K)を一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後、DPEP-1発現細胞を、24ウェルのコラーゲンコーティングされた(中和された)プレート上に再播種し、37℃で24時間増殖させた。播種から24時間後、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄した。細胞を、PBS中のFBS/NBSA/Tweenを用いて、30分間、氷上にてブロックした。細胞を次にPBSで洗浄し、Alexa-488(緑色)がコンジュゲートしたLSALT、GFE-1、対照ペプチド、またはDPEP-1抗体(1/100)(Sigma)と共に、30分間、氷上にてインキュベートした。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、DAPIで、4分間、氷上にて染色した。細胞をPBSで再度洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを使用して固定化し、免疫蛍光(immunofluoresence)顕微鏡検査を実施して結合を評価した。各実験条件(n=3)の代表的な顕微鏡写真を図4Aに示す。ヒトDPEP-1をトランスフェクトした細胞に由来するタンパク質を、プロテアーゼ阻害剤の非存在下でオクチル-グルコシド/RIPAを使用して48時間後に単離した。膜ジペプチダーゼ活性アッセイおよびD-Pheの蛍光検出を、HeywoodおよびHooper(1995年)により最初に確立された原理に従って、これまでに記載された通り正確に実施した。これらの結果を、グラフ形式で図4Bに示す。示す値は、6回の独立した実験から得られた平均値±s.e.m.である;アスタリスク(***)は、DPEP-1をトランスフェクトした細胞と比較してP<0.001であることを示す(ニューマン-コイルスの事後検定を用いた一元ANOVA)(n=5)。トランスフェクトした細胞に由来するタンパク質を、オクチル-グルコシド/RIPA溶解緩衝液を使用して48時間後に単離し、DPEP-1抗体(Sigma)を使用してDPEP-1発現を評価するために、ウェスタンブロット分析を実施した。ウェスタンブロット分析の写真を図4Cに示す。
【0297】
(実施例5)
RACINEおよびヒトDPEP-1に対するLSALT結合
【0298】
OptiMEM培地中でリポフェクトアミン2000(Invitrogen)試薬を使用して、Cos-1細胞に、3または5μgのラット遺伝子(図5Aに示す)またはヒトDPEP-1遺伝子(図5Bに示す)に対応する膜ジペプチダーゼ(DPEP-1)cDNAを一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後、DPEP-1発現(expresisng)細胞を、24ウェルプレート内のコラーゲンコーティングされた(中和された)ウェル上に再播種し、37℃で24時間増殖させた。播種から24時間後、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄した。細胞を、PBS中のFBS/NBSA/Tweenで、30分間、氷上にてブロックした。細胞を、次にPBSで洗浄し、Alexa-488(緑色)がコンジュゲートしたLSALT、GFE-1、対照ペプチド、またはDPEP-1抗体(1/100)(Sigma)と共に、30分間、氷上にてインキュベートした。DPEP-1抗体と共にインキュベートした細胞をPBSで洗浄し、蛍光的に(flourescently)コンジュゲートした抗ウサギ二次抗体(PBS中、1/500)と共に30分間、氷上にてインキュベートした。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、DAPIで5分間、氷上にて染色した。細胞を、次にPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを使用して固定化し、免疫蛍光顕微鏡検査を実施して結合を評価した。各実験条件(n=5)の代表的な顕微鏡写真を示す。オクチル-グルコシド/RIPA溶解緩衝液を使用して、ヒトDPEP-1がトランスフェクトされた細胞に由来するタンパク質を48時間後に単離し、DPEP-1特異抗体(Sigma)を使用してDPEP-1発現を評価するために、ウェスタンブロット分析を実施した。ウェスタンブロットの写真を、図5Cに提示する。Cos-1細胞に、ヒトDPEP-1遺伝子をコードする3μgのDPEP-1を一時的にトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を、OptiMEM培地内で、2時間、血清欠乏状態にし、メチル-ベータ-シクロデキストリンで30分間処置した。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、10mg/mlのビオチントランスファーペプチド(LSALT、GFE-1、または対照ペプチド(KGAL))で10分間処置した。細胞を、次にPBSで洗浄し、アリールアジド基を363nmにて15分間、UV活性化することにより、ビオチントランスファーを可能にした。残留液を除去し、単層を、オクチル-グルコシド/RIPAまたは8M尿素により溶解した。単離した上清を、ニュートラアビジンアガロースビーズ、50μlと共に、4℃で24時間、回転させた。ビーズを、対応する緩衝液で洗浄し、レムリー緩衝液中で沸騰させ、DPEP-1特異抗体(Proteintech)を使用して、ウェスタンブロットにより分析した。この手順の概略図、および得られたウェスタンブロットの写真を、図5Dに提示する。
【0299】
(実施例6)
LSALTおよびGFE-1は、in vitroでは、ヒトDPEP2およびDPEP3と結合しない
【0300】
OptiMEM培地中でリポフェクトアミン2000(Invitrogen)試薬を使用して、Cos-1細胞に、3μgのヒトDPEP-1、DPEP2、またはDPEP3遺伝子を一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後、DPEP-1、DPEP2、またはDPEP3を発現する細胞を、24ウェルプレート内のコラーゲンコーティングされた(中和された)ウェル上に再播種し、37℃で24時間増殖させた。播種から24時間後、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄した。細胞を、PBS中のFBS/NBSA/Tweenで、30分間、氷上にてブロックした。細胞を、次にPBSで洗浄し、Alexa-488(緑色)とコンジュゲートしたLSALTまたはGFE-1と共にインキュベートした。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、DAPIを用いて、5分間、氷上にて染色した。細胞を、次にPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを使用して固定化し、免疫蛍光顕微鏡検査を実施して結合を評価した。代表的な顕微鏡写真を、実験条件(n=3)毎に、図6Aに示す。DPEP-1、DPEP2、およびDPEP3をトランスフェクトした細胞に由来するタンパク質を、オクチル-グルコシド/RIPA溶解緩衝液を使用して48時間後に単離し、特異抗体;DPEP-1抗体(Sigma)、DPEP2(Abcam)、およびDPEP3(Santacruz)を使用してDPEP-1、DPEP2、およびDPEP3タンパク質の発現を評価するために、ウェスタンブロット分析を実施した。ブロットを剥離し、抗β-アクチンを用いて再検出した。ウェスタンブロットの写真を図6Bに示す。
【0301】
(実施例7)
GFE-1およびLSALTは、LPSの存在下、肝シヌソイドにおいて好中球接着を阻害する:
【0302】
6~10週齢のLysMeGFPマウスに、0.5mg/kgのリポ多糖類を注射(腹腔内)してから5分後に、1mM用量のLSALTまたはGFE-1ペプチドを注射した(静脈内)。3時間後、動物に、ケタミンおよびキシラジンを注射して全身麻酔した。頸静脈カニューレ挿入により、蛍光的にコンジュゲートしたF4/80およびPECAM-1抗体を次に投与し、生体内スピニングディスク共焦点顕微鏡検査を実施した。肝臓を1時間画像化し、好中球の数を異なる時点で計測した。肝シヌソイド内で30秒以上静止した好中球を、接着細胞として計測した。データは、3回の独立した実験を代表する。LPS処置群に対して、LSALT、GFE-1、または対照処置群を比較する、対応のない両側スチューデントのt検定を実施した(*p<0.05)。結果を図7に示す。
【0303】
(実施例8)
DPEP-1が発現すると、COS-7細胞内でLSALTおよびGFE-1の結合が増強された
【0304】
リポフェクトアミン2000(Invitrogen)試薬を使用して、Cos-7細胞に、5μgのラット腎膜ジペプチダーゼ(DPEP-1)プラスミドを一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄した。細胞を、Alexa-488(緑色)とコンジュゲートしたLSALT、Alexa-568(赤色)とコンジュゲートしたGFE-1ペプチド、またはAlexa-488(緑色)とコンジュゲートした対照ペプチドと共に、30分間、氷上にてインキュベートした。細胞を洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを使用して固定化し、免疫蛍光顕微鏡検査を実施して結合を評価した。各実験条件(n=2)の代表的な顕微鏡写真を示す。結果を図8に示す。
【0305】
(実施例9)
DPEP-1が発現すると、COS-7細胞に対するLSALTの結合が増強された
【0306】
リポフェクトアミン2000(Invitrogen)試薬を使用して、Cos-7細胞を、5μgのラット腎膜ジペプチダーゼ(DPEP-1)プラスミドで一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後、細胞を、Alexa-488(緑色)にコンジュゲートしたLSALTと共に、30分間、氷上にてインキュベートした。細胞を洗浄し、フローサイトメトリーを実施して結合を評価した。実験条件(n=2)毎に単一パラメーターヒストグラフを示す。結果を図9に示す。
【0307】
(実施例10)
LSALTは、膜ジペプチダーゼ(DPEP-1)酵素活性を阻害しない
【0308】
リポフェクトアミン2000(Invitrogen)試薬を使用して、Cos-1細胞を、3μgのヒト膜ジペプチダーゼ(DPEP-1)プラスミドで一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄した。タンパク質を、プロテアーゼ阻害剤の非存在下でオクチルグルコシドを使用して単離した。HeywoodおよびHooperによりこれまでに記載された通り正確に、膜ジペプチダーゼアッセイ、およびD-Pheの蛍光検出を実施した。要するに、タンパク質を、最初に、膜ジペプチダーゼ基質のGly-D-Pheと共に、LSALTまたはGFE-1ペプチドの存在下または非存在下において、37℃で3時間インキュベートした。D-アミノ酸オキシダーゼおよびペルオキシダーゼの存在下で、D-Pheの6,69-ジヒドロキシ-(1,19-ビフェニル)-3,39-二酢酸への変換により生成する蛍光シグナルを、蛍光プレートリーダーを使用して測定した。結果を図10A~Cに示す。
【0309】
(実施例11)
敗血症期間中に腎ジペプチダーゼを阻害すると、炎症が低減される
【0310】
リポ多糖類(LPS)を5mg/kgの用量で静脈内注射することにより、LysM(gfp/gfp)マウスを敗血症にした。多光子顕微鏡検査法を使用して30分毎に、最長90分間、腎臓を画像化した。ジペプチダーゼの阻害剤を静脈内で使用して、LPS注射の10分前にマウスを事前処置した。顕微鏡写真を図11Aに示す。図11Bは、様々な阻害剤と共にLPSを注射する前(NT)および注射した後(90分)における腎臓の顕微鏡写真画像を提示する。接着性の好中球が、IRI後に間質腔内に認められた。様々なDPEP-1阻害剤と共にLPS注射した後、好中球を90分間の時間経過にわたり定量化した。n=2~3匹/群、*:p<0.05。これらの結果を、グラフ形式で図11Cに示す。
【0311】
(実施例12)
腎虚血再灌流傷害期間中にジペプチダーゼを阻害すると、炎症が低減される
【0312】
LysM(gfp/gfp)マウスを、血管クランプにより、37℃で30分間、片側性腎虚血状態にし、120分間、再灌流を行い、影響を受けた腎臓を、多光子顕微鏡検査法を使用して画像化した。代表的な顕微鏡写真を図12Aに示す。ジペプチダーゼの阻害剤を使用して、虚血10分前にマウスを事前処置した。画像化する前に、標識抗体を静脈内注射した。様々な阻害剤と共にIRIを実施する前(NT)および実施した後(120分)における腎臓の画像を図12Bに提示する。接着性の好中球が、IRI後に間質腔内に認められた。好中球を120分間の時間経過にわたり定量化し、グラフ形式で図12Cに示す(n=3匹/群、***:p<0.01)。D)様々な阻害剤と共にIRIを実施した後(120分)、好中球を定量化し、グラフ形式で図12Dに示す(n=3~5匹/群、***:p<0.001)。
【0313】
(実施例13)
静脈内造影剤期間中にジペプチダーゼ(DPEP-1)を阻害すると、炎症が低減される
【0314】
造影剤(5mL/kg)の静脈内注射前に、LysM(gfp/gfp)マウスを脱水により急性腎傷害に感作させた。シラスタチン(5mM)を静脈内で使用して、造影剤注射の10分前にマウスを事前処置した。多光子顕微鏡検査法を使用して、造影剤注射から6時間後に腎臓を画像化した。代表的な顕微鏡写真を図13Aに提示する。造影剤注射から6時間後に好中球を定量し、これらの結果をグラフ形式で図13Bに示す。
【0315】
(実施例14)
DPEP-1結合による炎症性メディエーターの阻害
【0316】
LSALTペプチドがDPEP-1と結合したら、LPSに応答する特定の血清サイトカインレベルに対して効果を有するかを評価するために下記の実験を実施した。
【0317】
LSALTペプチドまたは対照ペプチドの静脈内注射5分前に、6~8週齢のSCIDマウスにLPS(0.5mg/kg)の腹腔内注射を実施した。LPS注射から4時間後に、心臓穿刺により血液を収集し、Luminexサイトカインアレイを使用して血漿サイトカインレベルの変化を評価した。棒グラフは、LSALTペプチドおよび対照ペプチドの存在下または非存在下において、血漿中に放出された異なる炎症性メディエーターのレベルを示す。(図14A図14G)LSALTペプチドは、いくつかの異なる血清サイトカインのレベルを減弱する。
【0318】
LSALTペプチドまたは対照ペプチドの静脈内注射5分前に、6~8週齢のSCIDマウスに、LPS(0.5mg/kg)の腹腔内注射を実施した。LPS注射から4時間後、血液を心臓穿刺により収集し、Luminexサイトカインアレイを使用して血漿サイトカインレベルの変化を評価した。棒グラフは、2つの独立した実験において、LSALTペプチドまたは対照ペプチドを注射した際に、血漿中に放出された抗炎症性サイトカインIL-10のレベルを示す。(図14Hおよび図14I)LSALTペプチドは、LPS応答性の抗炎症メディエーターIL-10の生成を増加させる。
【0319】
(実施例15)
70Wヒトメラノーマ細胞は、DPEP-1を発現するCOS-1単層にin vitroで結合する
【0320】
Cos-1細胞を、3μgのヒトDPEP-1cDNAでトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞を、24時間後、12または24ウェル上に再播種した。48時間後、PuckのEDTAを使用して、安定なGFP-ルシフェラーゼを発現する70Wメラノーマ細胞を採取し、細胞10×10個を、DPEP-1を発現するCos-1単層の最上部に播種した。細胞を、37℃で4時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞をPBSで2回激しく洗浄した。細胞を、次にパラホルムアルデヒド(4%)を使用して固定化した。倒立型蛍光顕微鏡を使用して、倍率10×の下、異なる視野10箇所について、結合/接着した70Wメラノーマ細胞の数を計測した。これらの結果を、グラフ形式で図15Aに示す。DPEP-1をトランスフェクトした細胞に由来するタンパク質を、オクチル-グルコシド/RIPA溶解緩衝液を使用して48時間後に単離し、DPEP-1特異抗体(Proteintech)を使用してDPEP-1発現を評価するために、ウェスタンブロット分析を実施した。ウェスタンブロットの写真を図15Bに示す。HeywoodおよびHooper(1995年)により記載された通り正確に、膜ジペプチダーゼ活性アッセイおよびD-Pheの蛍光検出を実施した。DPEP-1をトランスフェクトした細胞への70Wメラノーマ細胞の結合を、模擬的にトランスフェクトした細胞の対照と比較するために、対応のない両側スチューデントのt検定を実施した。これらの結果を、グラフ形式で図15Cに示す。示す値は、3回の独立した実験に由来する;アスタリスク(***)は、模擬的にトランスフェクトした細胞と比較してP<0.001であることを示す。
【0321】
(実施例16)
LSALTは、同遺伝子型動物モデルにおけるメラノーマ肺転移をin vivoで阻害する
【0322】
尾静脈内注射により、LSALTまたはGFE-1ペプチド(1mM)を注射してから5分後に、8~10週齢のC57-BL6マウス(Charles River)に、100,000個のB16-F10マウスメラノーマ細胞を静脈内注射した。2週間後に動物を屠殺し、肺を採取した。これまでに記載された通りに、組織を組織学検査用に処理し、ヘマトキシリン-エオシン染色を実施して腫瘍負荷を評価した。組織外植片の写真を図16に示す。
【0323】
(実施例17)
腎虚血再灌流傷害期間中にアミノホスフィン酸誘導体を用いてジペプチダーゼを阻害すると、炎症が低減される
【0324】
LysM(gfp/gfp)マウスを、血管クランプにより、37℃で30分間、片側性腎虚血状態にし、120分間、再灌流を行い、多光子顕微鏡検査法を使用して影響を受けた腎臓を画像化した。アミノホスフィン酸誘導体を使用して、虚血10分前にマウスを事前処置した。アミノホスフィン酸誘導体は、式:
【化13】
を有する。
【0325】
式中、R1はHであり、R2はHであり、R3はFである。
【0326】
画像化前に、標識抗体を静脈内注射する。様々な阻害剤と共にIRIを実施する前(NT)および実施した後(120分)の腎臓画像を取得する。IRI後、間質腔内の接着性の好中球が観察される。好中球を120分間の時間経過にわたり定量化する。
【0327】
(実施例18)
静脈内造影剤期間中に、アミノホスフィン酸誘導体によりジペプチダーゼ(DPEP-1)を阻害すると、炎症が低減される
【0328】
造影剤(5mL/kg)の静脈内注射前に、脱水によりLysM(gfp/gfp)マウスを急性腎傷害に感作させる。アミノホスフィン酸誘導体を静脈内で使用して、造影剤注射の10分前にマウスを事前処置する。造影剤注射から6時間後に、多光子顕微鏡検査法を使用して腎臓を画像化する。造影剤注射から6時間後に好中球を定量する。
【0329】
本発明から逸脱せずに様々な変更および修正を加えることができるものと認識される。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
それを必要とする対象において炎症を処置するための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の化合物を前記対象に投与し、これにより炎症を処置するステップを含む方法。
(項目2)
前記化合物が、DPEP-1の競合的アンタゴニスト、非競合的アンタゴニスト、および不競合的アンタゴニスト、もしくはサイレントアンタゴニスト、またはそれらの組合せから選択される、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記化合物が、ペプチドを含む、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記ペプチドが、LSALT配列(LSALTPSPSWLKYKAL)を含む、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記ペプチドが、
CGFECVRQCPERC(GFE-1)またはCGFELETC(GFE-2)
から選択されるGFEトリペプチド配列を含む、項目3に記載の方法。
(項目6)
前記ペプチドが、シラスタチンとコンジュゲートしていない、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記化合物が、DPEP-1の遮断抗体を含む、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記化合物が、小分子を含む、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記小分子が、式:
【化14】
を有するアミノホスフィン酸誘導体であり、
式中、Xは、任意のハロゲン、またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキル、NH2、N(C1~C6アルキル)2、およびNH(C1~C6アルキル)、CF3NR’、またはF、Cl、Br、I125、I、CF3NR’からなる群から選択され、Yは、任意のハロゲン、H、CH3、OCH3、NH2、N(C1~C6アルキル)2、およびNH(C1~C6アルキル)、NR’、またはC1~C6ハロアルキル、またはC1~C6アルコキシ基、またはC1~C6ジもしくはトリハロアルキル、またはC1~C6アルキルからなる群から選択され、NR’は、NH2、N(C1~C6アルキル)2、およびNH(C1~C6アルキル)から選択され、Zは、OまたはSから選択される、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記化合物が、医薬組成物として提供される、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記医薬組成物が、非経口または静脈内投与に適する、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記有効量が、約0.01mg/kg~約100mg/kgの間にある、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記炎症が、急性腎傷害と関連する、項目1に記載の方法。
(項目14)
診断テストを実施して炎症を低減する必要性を決定することにより、前記対象を識別するステップをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目15)
それを必要とする対象において白血球動員をブロックするための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を前記対象に投与し、これにより白血球動員をブロックするステップを含む方法。
(項目16)
それを必要とする対象において腫瘍転移を低減または予防するための方法であって、有効量のDPEP-1結合剤を投与し、これにより腫瘍転移を低減または予防するステップを含む方法。
(項目17)
それを必要とする対象において敗血症と関連した臓器損傷を処置または予防するための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を前記対象に投与し、これにより敗血症と関連した臓器損傷を低減または予防するステップを含む方法。
(項目18)
診断テストを実施して、敗血症と関連した臓器損傷を低減または予防する必要性を決定することにより、前記対象を識別するステップをさらに含む、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記敗血症が、細菌、ウイルス、真菌、または寄生虫感染症と関連する、項目17に記載の方法。
(項目20)
前記組成物が、敗血症の症状が低減または良化するまで投与される、項目17に記載の方法。
(項目21)
それを必要とする対象において急性腎傷害を処置または予防するための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を前記対象に投与し、これにより急性腎傷害を低減または予防するステップを含む方法。
(項目22)
診断テストを実施して、急性腎傷害を処置または予防する必要性を決定することにより、前記対象を識別するステップをさらに含む、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記急性腎傷害が、虚血/再灌流、ショック、敗血症と関連する、または毒性の薬剤、例えば抗生物質もしくは静脈内X線写真造影剤等による、項目21に記載の方法。
(項目24)
前記急性腎傷害が、敗血症と関連する、項目21に記載の方法。
(項目25)
前記急性腎傷害が、虚血再灌流の結果である、項目21に記載の方法。
(項目26)
それを必要とする対象において虚血再灌流傷害を処置または予防するための方法であって、DPEP-1と結合する有効量の組成物を前記対象に投与し、これにより虚血再灌流傷害を低減または予防するステップを含む方法。
(項目27)
診断テストを実施して、虚血再灌流傷害を低減または予防する必要性を決定することにより、前記対象を識別するステップをさらに含む、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記虚血再灌流傷害が、移植用のドナー臓器を採取することと関連する、項目26に記載の方法。
(項目29)
前記虚血再灌流傷害が、ドナー調達、ex vivoでの取り扱い、または移植レシピエントへの移植期間中の同種異系移植臓器と関連する、項目26に記載の方法。
(項目30)
炎症を阻害する化合物を識別するための方法であって、(a)試験化合物のライブラリーを、組織内でDPEP-1に結合するその能力についてスクリーニングするステップと、(b)選択的結合親和性を示す試験化合物を選択し、これにより候補化合物を提供するステップと、(c)前記候補化合物を、炎症阻害活性について試験するステップと、(d)候補化合物が炎症を阻害する場合は、その候補化合物を選択し、これにより炎症を阻害する化合物を提供するステップとを含む方法。
(項目31)
前記組織が、肺組織または肝組織である、項目30に記載の方法。
(項目32)
(e)炎症を阻害する前記化合物を、固形腫瘍を担持する患者において、腫瘍転移を阻害するその能力について試験するステップと、(f)ステップ(e)で、前記化合物が腫瘍転移を阻害する場合は、前記化合物を選択するステップとをさらに含む、項目30に記載の方法。
(項目33)
(e)炎症を阻害する前記化合物を、肺または肝臓に転移することが知られている固形腫瘍を担持する患者において、肺および肝臓への腫瘍転移を阻害するその能力について試験するステップと、(f)ステップ(e)で、前記化合物が腫瘍転移を阻害する場合は、前記化合物を選択するステップとをさらに含む、項目30に記載の方法。
(項目34)
(e)前記化合物を、患者において敗血症を処置するその能力について試験するステップと、(f)ステップ(e)で、前記化合物が敗血症を処置する場合は、前記化合物を選択するステップとをさらに含む、項目30に記載の方法。
(項目35)
(e)前記化合物を、患者において急性腎損傷を処置するその能力について試験するステップと、(f)ステップ(e)で、前記化合物が急性腎損傷を処置する場合は、前記化合物を選択するステップとをさらに含む、項目30に記載の方法。
図1AB
図1C
図2
図3
図4A
図4BC
図5AB
図5CD
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11A
図11BC
図12AB
図12CD
図13
図14ABCDEFG
図14HI
図15
図16
【配列表】
2022023215000001.app
【外国語明細書】