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特開2022-23240ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)産生微生物、ならびにそれらを作製および使用する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023240
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)産生微生物、ならびにそれらを作製および使用する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20220131BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220131BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20220131BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20220131BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C12N1/19 ZNA
C12N1/15
C12N1/21
C12N5/10
C12P13/00
C12N15/54
C12N15/29
C12N15/31
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189131
(22)【出願日】2021-11-22
(62)【分割の表示】P 2019088152の分割
【原出願日】2014-03-14
(31)【優先権主張番号】61/788,560
(32)【優先日】2013-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】スモルク クリスティーナ ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ソーデイ キャサリーン
(72)【発明者】
【氏名】トレンチャード イシス
(72)【発明者】
【氏名】ギャラニー ステファニー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE01
4B064AH08
4B064BJ16
4B064CA06
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA83X
4B065AA87X
4B065AA87Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA16
4B065CA18
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)を産生するように操作された宿主細胞、ならびにそれらを作製および使用する方法の提供。
【解決手段】BIA化合物またはその前駆体を産生する宿主細胞であって、該宿主細胞と比較して異なる生物源から得られた1種または複数種の酵素の1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを含む、該宿主細胞。出発化合物からBIAへの宿主細胞の合成経路に関与する様々な酵素の異種コード配列を含む。また、宿主細胞の異種コード配列によってコードされる酵素の発現を促進する培養条件下で宿主細胞を培養することによって、関心対象のBIAを産生する方法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BIA化合物またはその前駆体を産生する宿主細胞であって、該宿主細胞と比較して異なる生物源から得られた1種または複数種の酵素の1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを含む、該宿主細胞。
【請求項2】
宿主細胞と比較して異なる2種以上の生物源から得られた2種以上の酵素を含む、請求項1記載の宿主細胞。
【請求項3】
宿主細胞が、図2、3、4、11および15のうちの1つの生合成経路を介して出発物質からBIA化合物またはその前駆体を産生することができ、該出発物質が、ノルラウダノソリン、ノルコクラウリン、レチクリンおよびテバインから選択される、請求項1記載の宿主細胞。
【請求項4】
酵母株である、請求項1記載の宿主細胞。
【請求項5】
細胞膜を横断する化合物の輸送に関与する1種または複数種のタンパク質の1つまたは複数の異種または内在性のコード配列を含む、請求項1記載の宿主細胞。
【請求項6】
1種または複数種の酵素が局在タグを含み、かつ酵母細胞内の一区画に空間的に局在し、該区画が、ミトコンドリア、小胞体(ER)、ゴルジ、液胞、核、形質膜、および周辺質から選択される、請求項1記載の宿主細胞。
【請求項7】
BIA化合物またはその前駆体がレチクリンであり、宿主細胞が6OMT、CNMTおよび4'OMTから選択される1種または複数種のメチルトランスフェラーゼの1つまたは複数の異種コード配列を含む、請求項1記載の宿主細胞。
【請求項8】
BIA化合物またはその前駆体がサンギナリンまたはサンギナリン前駆体であり、宿主細胞が、BBE、CFS、CPR、STS、TNMT、MSH、P6HおよびDBOXから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含み、該サンギナリン前駆体が、ケイランチホリン、スチロピン、シス-N-メチルスチロピン、スコウレリン、プロトピン、およびジヒドロサンギナリンから選択される、請求項1記載の宿主細胞。
【請求項9】
BIA化合物またはその前駆体がプロトベルベリンアルカロイドであり、宿主細胞が、BBE、S9OMT、CASおよびSTOXから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含み、該プロトベルベリンアルカロイドが、以下の構造のうちの1つによって表される、請求項1記載の宿主細胞:
式中、R1~R14は、各々独立して、H、アルキル、ヒドロキシルまたはアルコキシから選択される。
【請求項10】
BIA化合物またはその前駆体がテバインであり、宿主細胞がSalSyn、CYP2D6、CYP2D2、SalRおよびSalATから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含む、請求項1記載の宿主細胞。
【請求項11】
BIA化合物またはその前駆体がオピエート化合物であり、宿主細胞が
T6ODM、CORおよびCODMから選択される、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列;ならびに
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)morAおよびシュードモナス・プチダmorBから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列
を含み、
該オピエート化合物が、コデイン、モルヒネ、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、オキシコドン、ジヒドロコデイン、14-ヒドロキシコデイン、およびジヒドロモルヒネから選択される、
請求項1記載の宿主細胞。
【請求項12】
酵素T6ODM、CORおよびCODMの異種コード配列が、2:1:3、1:1:3、または2:1:2の比で存在する、請求項11記載の宿主細胞。
【請求項13】
対照酵母株と比較して増加した量の、グルタミン、2-オキソグルタル酸およびグルタミン酸のうちの1つまたは複数をさらに含み;
テバインからオリパビンまたはモルフィノンを全く産生せず;かつ
全オピエートの30%以上であるオピエート化合物の収率を生じることができる、
請求項11記載の宿主細胞。
【請求項14】
レチクリンを産生する宿主細胞であって、該宿主細胞が、該宿主細胞と比較して異なる生物源から得られた1種または複数種のメチルトランスフェラーゼの1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを含み、該1種または複数種のメチルトランスフェラーゼが、6OMT、CNMTおよび4'OMTから選択される、該宿主細胞。
【請求項15】
サンギナリンまたはサンギナリン前駆体を産生する宿主細胞であって、該宿主細胞が、該宿主細胞と比較して異なる生物源から得られた1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含み、該1種または複数種の酵素が、BBE、CFS、CPR、STS、TNMT、MSH、P6HおよびDBOXから選択され、かつ該サンギナリン前駆体が、ケイランチホリン、スチロピン、シス-N-メチルスチロピン、スコウレリン、プロトピン、およびジヒドロサンギナリンから選択される、該宿主細胞。
【請求項16】
プロトベルベリンアルカロイドを産生する宿主細胞であって、該宿主細胞が、該宿主細胞と比較して異なる生物源から得られた1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含み、該1種または複数種の酵素が、BBE、S9OMT、CASおよびSTOXから選択され、該プロトベルベリンアルカロイドが、以下の構造のうちの1つによって表される、該宿主細胞:
式中、R1~R14は、各々独立して、H、アルキル、ヒドロキシルまたはアルコキシから選択される。
【請求項17】
テバインを産生する宿主細胞であって、該宿主細胞が、該宿主細胞と比較して異なる生物源から得られた1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含み、該1種または複数種の酵素が、SalSyn、CYP2D6、CYP2D2、SalRおよびSalATから選択される、該宿主細胞。
【請求項18】
オピエート化合物を産生する宿主細胞であって、該宿主細胞が
T6ODM、CORおよびCODMから選択される、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列;ならびに
シュードモナス・プチダmorAおよびシュードモナス・プチダmorBから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列
を含み、
該オピエート化合物が、コデイン、モルヒネ、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、オキシコドン、ジヒドロコデイン、14-ヒドロキシコデイン、およびジヒドロモルヒネから選択される、
該宿主細胞。
【請求項19】
請求項1記載の宿主細胞を、タンパク質産生に適した条件下で培養する工程;
出発化合物を細胞培養物に加える工程;および
BIAを細胞培養物から回収する工程
を含み、
該宿主細胞が、グルタミン、2-オキソグルタル酸、グルタミン酸、および2%以下のジメチルスルホキシド(DMSO)のうちの1つまたは複数を含む培地中で培養される、
ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)を調製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利
本発明は、米国国立科学財団によって授けられた契約番号1066100の下でおよび米国国立衛生研究所によって授けられた契約番号AT007886の下で政府の支援を受けて行なわれた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
米国特許法第119(e)条によって、本出願は、2013年3月15日に出願された米国仮特許出願番号第61/788,560号の出願日の優先権を主張し;この出願の開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
序論
ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)は植物および他の生物からの二次代謝物の大きなグループである。これらの分子は、モルヒネおよびコデインの確立された鎮痛特性および鎮咳特性から、ベルベリンおよびサンギナリンなどの分子に観察される癌および感染に対する新規な活性まで、ヒト生体において治療機能を有する。これらすべてのBIA分子が研究者および医師に利用可能となるような供給に関心が持たれている。合成反応の数および選択的立体化学の必要性は、BIAの化学合成が低収率でありかつ大規模の生産のための有効な手段ではないことを意味する。その代わりに、広く使用されている薬物であるコデインおよびモルヒネのために、ケシ(パパヴェル・ソムニフェルム(Papaver somniferum))が育種され、生産用の穀物として開発されている。薬物および薬物前駆体として使用されるモルヒネ生合成の中間体は蓄積されない。なぜなら、植物の代謝は、最終のオピオイドへの経路の流れが最大限となるように進化しているからである。モルヒネのような最終産物の代謝物でさえ、蓄積は、芽および維管束組織内の特殊な細胞内でしか起こらず、かつ収穫植物材料の抽出過程中の過酷な化学処理を必要とし、典型的にはこれにより2乾燥重量%未満のモルヒネが得られる。
【発明の概要】
【0004】
概要
本発明の局面は、ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)を産生するように操作された宿主細胞を含む。宿主細胞は、出発化合物からBIAまでの宿主細胞の合成経路に関与する様々な酵素の異種コード配列を含む。異種コード配列は、宿主細胞と比較して異なる生物源から得ることができ、異種コード配列の複数のコピーが宿主細胞に存在し得る。いくつかの態様において、宿主細胞は、レチクリン産生宿主細胞、サンギナリン前駆体産生宿主細胞、プロトベルベリン産生宿主細胞、テバイン産生宿主細胞、およびオピエート産生宿主細胞から選択される。また、宿主細胞の異種コード配列によってコードされる酵素の活性を促進する培養条件下で宿主細胞を培養することによって、関心対象のBIAを産生する方法も提供される。本発明の局面は、本発明の方法に使用される、構成物、例えば宿主細胞、出発化合物、およびキットなどをさらに含む。
[本発明1001]
BIA化合物またはその前駆体を産生する宿主細胞であって、該宿主細胞と比較して異なる生物源から得られた1種または複数種の酵素の1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを含む、該宿主細胞。
[本発明1002]
宿主細胞と比較して異なる2種以上の生物源から得られた2種以上の酵素を含む、本発明1001の宿主細胞。
[本発明1003]
宿主細胞が、図2、3、4、11および15のうちの1つの生合成経路を介して出発物質からBIA化合物またはその前駆体を産生することができ、該出発物質が、ノルラウダノソリン、ノルコクラウリン、レチクリンおよびテバインから選択される、本発明1001の宿主細胞。
[本発明1004]
酵母株である、本発明1001の宿主細胞。
[本発明1005]
細胞膜を横断する化合物の輸送に関与する1種または複数種のタンパク質の1つまたは複数の異種または内在性のコード配列を含む、本発明1001の宿主細胞。
[本発明1006]
1種または複数種の酵素が局在タグを含み、かつ酵母細胞内の一区画に空間的に局在し、該区画が、ミトコンドリア、小胞体(ER)、ゴルジ、液胞、核、形質膜、および周辺質から選択される、本発明1001の宿主細胞。
[本発明1007]
BIA化合物またはその前駆体がレチクリンであり、宿主細胞が6OMT、CNMTおよび4'OMTから選択される1種または複数種のメチルトランスフェラーゼの1つまたは複数の異種コード配列を含む、本発明1001の宿主細胞。
[本発明1008]
BIA化合物またはその前駆体がサンギナリンまたはサンギナリン前駆体であり、宿主細胞が、BBE、CFS、CPR、STS、TNMT、MSH、P6HおよびDBOXから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含み、該サンギナリン前駆体が、ケイランチホリン、スチロピン、シス-N-メチルスチロピン、スコウレリン、プロトピン、およびジヒドロサンギナリンから選択される、本発明1001の宿主細胞。
[本発明1009]
BIA化合物またはその前駆体がプロトベルベリンアルカロイドであり、宿主細胞が、BBE、S9OMT、CASおよびSTOXから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含み、該プロトベルベリンアルカロイドが、以下の構造のうちの1つによって表される、本発明1001の宿主細胞:
式中、R1~R14は、各々独立して、H、アルキル、ヒドロキシルまたはアルコキシから選択される。
[本発明1010]
BIA化合物またはその前駆体がテバインであり、宿主細胞がSalSyn、CYP2D6、CYP2D2、SalRおよびSalATから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含む、本発明1001の宿主細胞。
[本発明1011]
BIA化合物またはその前駆体がオピエート化合物であり、宿主細胞が
T6ODM、CORおよびCODMから選択される、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列;ならびに
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)morAおよびシュードモナス・プチダmorBから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列
を含み、
該オピエート化合物が、コデイン、モルヒネ、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、オキシコドン、ジヒドロコデイン、14-ヒドロキシコデイン、およびジヒドロモルヒネから選択される、
本発明1001の宿主細胞。
[本発明1012]
酵素T6ODM、CORおよびCODMの異種コード配列が、2:1:3、1:1:3、または2:1:2の比で存在する、本発明1011の宿主細胞。
[本発明1013]
対照酵母株と比較して増加した量の、グルタミン、2-オキソグルタル酸およびグルタミン酸のうちの1つまたは複数をさらに含み;
テバインからオリパビンまたはモルフィノンを全く産生せず;かつ
全オピエートの30%以上であるオピエート化合物の収率を生じることができる、
本発明1011の宿主細胞。
[本発明1014]
レチクリンを産生する宿主細胞であって、該宿主細胞が、該宿主細胞と比較して異なる生物源から得られた1種または複数種のメチルトランスフェラーゼの1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを含み、該1種または複数種のメチルトランスフェラーゼが、6OMT、CNMTおよび4'OMTから選択される、該宿主細胞。
[本発明1015]
サンギナリンまたはサンギナリン前駆体を産生する宿主細胞であって、該宿主細胞が、該宿主細胞と比較して異なる生物源から得られた1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含み、該1種または複数種の酵素が、BBE、CFS、CPR、STS、TNMT、MSH、P6HおよびDBOXから選択され、かつ該サンギナリン前駆体が、ケイランチホリン、スチロピン、シス-N-メチルスチロピン、スコウレリン、プロトピン、およびジヒドロサンギナリンから選択される、該宿主細胞。
[本発明1016]
プロトベルベリンアルカロイドを産生する宿主細胞であって、該宿主細胞が、該宿主細胞と比較して異なる生物源から得られた1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含み、該1種または複数種の酵素が、BBE、S9OMT、CASおよびSTOXから選択され、該プロトベルベリンアルカロイドが、以下の構造のうちの1つによって表される、該宿主細胞:
式中、R1~R14は、各々独立して、H、アルキル、ヒドロキシルまたはアルコキシから選択される。
[本発明1017]
テバインを産生する宿主細胞であって、該宿主細胞が、該宿主細胞と比較して異なる生物源から得られた1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含み、該1種または複数種の酵素が、SalSyn、CYP2D6、CYP2D2、SalRおよびSalATから選択される、該宿主細胞。
[本発明1018]
オピエート化合物を産生する宿主細胞であって、該宿主細胞が
T6ODM、CORおよびCODMから選択される、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列;ならびに
シュードモナス・プチダmorAおよびシュードモナス・プチダmorBから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列
を含み、
該オピエート化合物が、コデイン、モルヒネ、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、オキシコドン、ジヒドロコデイン、14-ヒドロキシコデイン、およびジヒドロモルヒネから選択される、
該宿主細胞。
[本発明1019]
本発明1001の宿主細胞を、タンパク質産生に適した条件下で培養する工程;
出発化合物を細胞培養物に加える工程;および
BIAを細胞培養物から回収する工程
を含み、
該宿主細胞が、グルタミン、2-オキソグルタル酸、グルタミン酸、および2%以下のジメチルスルホキシド(DMSO)のうちの1つまたは複数を含む培地中で培養される、
ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)を調製する方法。
【図面の簡単な説明】
【0005】
本発明は、添付の図面と併せて読んだ際に、以下の詳細な説明から最も良く理解される。慣行によると、図面の様々な特徴は一定の縮尺ではないことが強調される。逆に、様々な特徴の寸法は明瞭化のために任意に拡大または縮小されている。図面には以下の図が含まれる。
図1】P.ソムニフェルムおよびタリクトラム・フラバム(Thalictrum flavum)由来のメチルトランスフェラーゼによる、ノルラウダノソリンのインビボでのメチル化と、液体クロマトグラフィー質量分析法(LCMS)によるメチル化産物の検出を示す。
図2】ノルラウダノソリンからレチクリンへの代替的なメチル化経路を示す。
図3】ノルコクラウリンからレチクリンへの代替的なメチル化経路を示す。
図4】レチクリンからサンギナリンを産生する生合成工程を示す。
図5】レチクリンからベルベリンへの関心対象の生合成工程を示す。
図6】酵母培養物中のプロトベルベリン産生に対する、エピソーム遺伝子コピー数および様々なチトクロムP450-NADPHレダクターゼ酵素の発現の効果を示す。
図7】微生物によるノルラウダノソリンからベルベリンの産生を示す。
図8】レチクリンからテバインまたはその産物への生合成経路を示す。
図9】テバイン産生株におけるサルタリジンレダクターゼ(SalR)およびサルタリジノール7-O-アセチルトランスフェラーゼ(SalAT)変異体の組合せの結果を示す。
図10】プロモーター活性を増強し、かつ配列類似性を共有する2つの遺伝子、すなわちT6ODMおよびCODMの不安定性を防ぐ、遺伝子構築物の設計を示す。
図11】サッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)において分岐点の中間体のレチクリンを介して前駆体分子のノルラウダノソリンからプロトベルベリンおよびプロトピンアルカロイドの生合成を操作するための経路を示す。最終の操作されたプロトピン産生株は、11個の異種発現カセット(7個の組み込まれた酵素、および酵母人工染色体から発現された4個の酵素)を含み、これには、チトクロムP450(EcSTS、PsMSH、EcCFS)、チトクロムP450レダクターゼ(ATR1)および他の酵素クラス(Ps6OMT、PsCNMT、Ps4'OMT、PsBBE、PsTNMT)が含まれる。
図12】微生物による(S)-ケイランチホリンの産生を示す。(a)ノルラウダノソリンから(S)-ケイランチホリンへの転換を示した図。(b)ノルラウダノソリンがフィードされた酵母株の増殖培地のLC-MS分析で、ベクター対照株(左)はスコウレリン(ピーク3、m/z=328)を産生することを示す。EcCFS酵素が発現されると(右)、代謝物のケイランチホリンが検出され(m/z=326、ピーク4)、これはMS-MSフラグメンテーションによって確認される(下)。(c)様々な酵素変異体とチトクロムP450 NADPHレダクターゼパートナーとの対形成による(S)-ケイランチホリンの産生。(d)P450の発現レベルにより、明確に異なるER形態が得られる。高コピー(上)または低コピー(中央)プラスミド上のGFPでC末端がタグ化されたEcCFSは、小胞体に局在するが、明確に異なるER増殖形態を示す。野生型ER(異種のP450は全く発現されていない)が比較のために示されている(下)。比率は酵母のGFP陽性率を示す。(e)CFSの安定な発現は、ケイランチホリンの産生およびスコウレリンの変換効率を改善する。(f)プロモーターの選択はCFS活性に影響を及ぼす。EcCFS は、5つの異なるプロモーターの制御下でURAの選択により低コピープラスミドから発現された。
図13】(S)-スチロピン産生の最適化を示す。(A)ノルラウダノソリンから(S)-スチロピンへの転換を示した図。(B)2mMのノルラウダノソリンがフィードされた酵母株の増殖培地のLC-MS分析で、ベクター対照株は、ケイランチホリン(ピーク4、m/z=326)を産生することを示す。EcSTS酵素が発現されると、標準との比較によりスチロピン(ピーク5、m/z=324)が検出される。(C)スチロピンの産生は、別々の低コピープラスミドから発現された、CFSおよびSTSの種変異体の組合せにより変化する。(D)25℃における操作された酵母株の増殖は、STS活性を改善する。(E)CFSおよびSTSの遺伝子コピー数はスチロピンの産生に影響を及ぼす。
図14】異種のプロトピン生合成経路の操作を示す。(A)ノルラウダノソリンからプロトピンへの転換を示した図。(B)2mMのノルラウダノソリンがフィードされた酵母株の増殖培地のLC-MS分析は、ベクター対照株がスチロピン(ピーク5、m/z=324)を産生することを示す。TNMT酵素が発現されると、代謝物のシス-N-メチルスチロピン(m/z=338、ピーク6)が検出され、これはMS-MSフラグメンテーションによって確認される。(C)MSHが加えられると、プロトピンが検出され(m/z=354)、これは標準およびMS-MSフラグメンテーションとの比較によって確認される。
図15】モルヒネ生合成酵素(ケシのP.ソムニフェルム由来のテバイン6-O-デメチラーゼ(T6ODM)、コデインO-デメチラーゼ(CODM)、およびコデイノンレダクターゼ(COR))によるテバインの転換を含む、酵母における異種モルヒネ生合成経路の操作を示す。中間体のコデイノンおよびコデイン(経路i)ならびにオリパビンおよびモルフィノン(経路ii)を経由したモルヒネへの2つの経路。さらに、ネオモルヒネへの新規に同定された経路(iii)で、この経路はCORおよびCODMに対してより幅広い基質範囲を示す。
図16】(a)宿主酵母細胞を操作するための方法、および(b)モルヒネ生合成経路の補助基質として2-オキソグルタル酸を与えることによって培養培地中の添加物を漸増して、モルヒネの産生を増強するための方法を示す。
図17】遺伝子コピー数を変化させてモルヒネへの経路の流れを増加させるための設計を示す。標的産物のモルヒネ(黒い棒グラフ)および標的ではないネオモルヒネ(灰色の棒グラフ)の力価を、種々のコピー数のT6ODM、COR1.3およびCODMを有する株から分析した。培養培地を、1mMのテバインを含むディープウェルプレート中で96時間増殖させた後にオピエートの産生についてLC-MSによって分析した。各株は、1コピーのT6ODM、COR1.3およびCODMをpYES1Lベクター上に発現した。追加の遺伝子コピーを宿主細胞ゲノムに組み込んだ。pYES1Lベクターから1コピーの各遺伝子(遺伝子比1:1:1)を発現している対照株は中間レベルのモルヒネを産生し、グラフ中に破線によって示されている。エラーバーは3回の生物学的再現実験の±1 SDを示す。
図18】モルヒネに対する経路特異性を改善するための空間的操作アプローチを示す。(a)標的産物のモルヒネに対する経路特異性を改善するために酵素非局在化に基づいた空間的操作アプローチを使用する原理を示した図。細胞小器官へのCOR1.3の局在化は、この酵素を、標的ではない基質ネオピノン(細胞質内T6ODM活性によって産生)から隔離させることができ、間に起こるネオピノンから標的基質であるコデイノンへの自発的な異性化が起こるための追加的な時間を与える。このようなスキームにおいて、異種経路は次の2つの部分に分けられる:(1)細胞質内T6ODM(環)はテバインをネオピノンへ変換し、これはその後、未知の速度で転位してコデイノンとなり;結果として、(2)隔離されたCOR1.3(環)はネオピノンよりもコデイノンにより近づき、この基質をコデインに変換し、これはその後、CODM(環)によって不可逆的に脱メチル化されてモルヒネとなる。この局在化スキームの全体的な効果は、標的である最終産物のモルヒネに向けて経路の流れを方向付けることである。COR1.3の局在化のための設計考察として、酵素は、次の3つのうち1つの配置で細胞小器官に方向付けられ得る:細胞小器官内腔の内側に遊離、膜に局在して酵素が細胞質内へと伸展する、または膜に局在して酵素が細胞小器官内腔へと伸展する。(b)細胞小器官ルーティングツールキットは、酵母宿主細胞内の特定の細胞小器官へのタンパク質のモジュラールーティングを可能とする。1セットのモジュラー局在タグ(ER1: SEQ ID NO:1、ER2: SEQ ID NO:2、ER3: SEQ ID NO:3および4、V1: SEQ ID NO:5、PM1: SEQ ID NO:6、ならびにMT1: SEQ ID NO:7)を設計して、N末端のGly6SerThr (SEQ ID NO:8)またはC末端のProGly6 (SEQ ID NO:9)のいずれかの7アミノ酸リンカーを介して任意の酵素に融合させた。タグを確認するために、各々を蛍光タンパク質GFPに融合させ、生酵母細胞において画像化した。細胞小器官マーカーのKAR2-DsRed-HDEL (SEQ ID NO:4)およびCOX4-mCherryを、それぞれER3およびMT1として細胞小器官ルーティングツールキットに含めた。タグ化されていないCOR1.3 (COR1.3-GFP)は、酵母細胞内の細胞質に局在した。尺度バー、4μm。
図19】細胞小器官ルーティングツールキットを使用して、異種COR1.3酵素を酵母細胞小器官へと局在化させて、モルヒネに対する力価および選択性を増強させ得ることを示す。局在化COR1.3変異体を、酵母宿主細胞においてタグ化されていないT6ODMおよびCODMと一緒に発現させた。株を、1mMのテバインを含む最適化培地中で培養し、96時間増殖させ、培養培地をモルヒネ(黒色の棒グラフ)およびネオモルヒネ(灰色の棒グラフ)についてLC-MSによって分析した。
図20】半合成オピオイドの生物学的合成を可能とするための、細菌酵素の取り込みにより操作された酵母株におけるオピエート生合成経路の展開を示す。シュードモナス・プチダM10に由来するmorA(モルヒネデヒドロゲナーゼ)およびmorB(モルヒネレダクターゼ)を異種経路に取り込むことによる、酵母におけるテバインの長い転換を示した図。
図21】多様なオピオイドの産生のために最適化された酵母株を示す。(a)クローズドバッチ発酵後の培養培地中の全オピオイド分子の濃度。酵母株CSY950、CSY951およびCSY952(表4)を、それぞれモルヒネ、ヒドロモルホン、およびヒドロコドン/オキシコドンの産生のために最適化した。指定された株を、1mMのテバイン(311mg/Lに等価である)が補充された培地中でクローズドバッチ発酵で培養した。培養培地を、LC-MSによって、一連のオピオイドについて発酵終了時に分析した。(b)酵母株CSY952の発酵時間の関数としての、細胞密度および重要なオピオイド(ヒドロコドン、ジヒドロコデイン、およびオキシコドン)の濃度。指定された時点において、試料を採取し、希釈し、分光光度計によって細胞密度についておよびLC-MSによってオピオイド産生について分析した。
図22】操作された酵母株によって培養培地中に分泌された代謝物の液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(LCMS)を示す。該株は、パパヴェル・ソムニフェルムT6ODM、COR1.3およびCODMを発現し、テバインの存在下で96時間培養した。LCMSピーク1~5は、コデイノン、コデイン、ネオピン、モルヒネ、およびネオモルヒネについてのMS2フラグメンテーションパターンに相当する。
図23】P.ソムニフェルムおよびP.プチダM10に由来する酵素を発現している操作された酵母株によって培養培地中に分泌された代謝物のLCMS分析を示す。CSY946株(T6ODMおよびmorBを発現している)およびCSY945株(T6ODM、CODM、morAおよびmorBを発現している)をテバインの存在下で96時間培養した。LCMSピーク6~11は、ヒドロコドン、オキシコドン、ヒドロモルホン、ジヒドロコデイン、14-ヒドロキシコデインおよびジヒドロモルヒネに相当する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
詳細な説明
上記に要約されているように、本発明の局面は、ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)を産生するように操作された宿主細胞を含む。宿主細胞は、出発化合物からBIAへの宿主細胞の合成経路に関与する様々な酵素の異種コード配列を含む。いくつかの態様において、宿主細胞は、レチクリン産生宿主細胞、サンギナリン前駆体産生宿主細胞、プロトベルベリン産生宿主細胞、テバイン産生宿主細胞、およびオピエート産生宿主細胞から選択される。また、宿主細胞の異種コード配列によってコードされる酵素の発現を促進する培養条件下で宿主細胞を培養することによって関心対象のBIAを産生する方法も提供される。
【0007】
本発明をより詳細に記載する前に、本発明は、記載された特定の態様に限定されず、従ってもちろん変更され得ることを理解されたい。また、本明細書において使用される用語は、特定の態様を説明する目的のためだけであって、限定する意図はないと理解されたい。なぜなら、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ制限されるからである。
【0008】
一連の数値が与えられている場合、範囲の上限から下限までの間の、内容から明らかに違うと指摘されない限り下限の単位の10分の1までの中間の各値、およびその記述の範囲内の任意の他の記述された値またはその中間の値が、本発明に包含されると理解される。これらのより狭い範囲の上限および下限は、独立して、より狭い範囲に含められ得、これもまた、本発明に包含され、これには記述の範囲内の任意の特に除外された限界が課される。記載の範囲が限界の一方または両方を含む場合、こうした含まれる限界の一方または両方を除外した範囲も本発明に含まれる。
【0009】
ある範囲は、数値の前に「約」という用語を付けて本明細書に提示される。「約」という用語は本明細書において、その後にくる正確な数字、ならびに、その用語の後にくる数字に近いまたは近似している数字のための文字による支援を与えるために使用される。数字が具体的に列挙された数字に近いかまたは近似しているかどうかを決定する際に、近いまたは近似の列挙されていない数字は、それが提示された脈絡において、具体的に列挙された数字の実質的な同等性を与える数字である場合もある。
【0010】
特記されていない限り、本明細書において使用された全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似または等価な任意の方法および材料を、本発明の実施または試験に使用することができるが、代表的な例示的方法および材料がここに記載されている。
【0011】
本明細書において引用された全ての刊行物および特許が、各々の個々の刊行物または特許が具体的にかつ個々に参照により組み入れられることが示されたかのように、参照により本明細書に組み入れられ、また、方法および/または材料(これに関連して刊行物が引用されている)を開示および説明するために参照により本明細書に組み入れられる。あらゆる刊行物の引用は、出願日前のその開示についてであり、本発明が、先行発明のためにこのような刊行物より先行する権限はないという承認として捉えられるべきではない。さらに、与えられる公開日は、実際の公開日とは異なる場合があり、これは独立して確認される必要があり得る。
【0012】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されているように、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、内容から明らかに違うと示されない限り複数の指示対象を含む。特許請求の範囲は、あらゆる任意選択の要素を除外するために起草され得ることがさらに注記される。従って、この声明は、特許請求の範囲の構成要素の列挙に関連した「唯一」、「のみ」などの排他的な用語の使用のための、または「否定的な」制限の使用のための先行詞として作用することを意味する。
【0013】
この開示を読めば当業者には明らかであろうように、本明細書において記載および例示された個々の各々の態様は、本発明の範囲または精神から逸脱することなく、他のいくつかの態様のいずれかの特徴から容易に分離またはそれと合わせられ得る個別の構成要素および特徴を有する。任意の列挙された方法を、列挙された事象の順序で、または理論的に可能な任意の他の順序で実施することができる。
【0014】
ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)
本発明の局面は、ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)として特徴付けられた化合物、ならびに、その生合成前駆体、中間体および代謝物を産生する宿主細胞を含む。レチクリン、サンギナリン、プロトベルベリン、ベルベリン、ベンゾフェナントリジンアルカロイド、テバイン、オピエート化合物、ケイランチホリン、スチロピン、シス-N-メチルスチロピン、サルタリジノール、サルタリジノール-7-O-アセタート、プロトピン、およびジヒドロサンギナリン、(S)-カナジン、オリパビン、コデイノン、ネオピン、ネオモルヒネ、モルヒネ、コデイン、ヒドロモルホン、ヒドロコドン、オキシコドン、オキシモルホン、ジヒドロコデイン、14-ヒドロキシコデイン、およびジヒドロモルヒネを含むがこれらに限定されない、様々なBIA、その生合成前駆体、中間体および代謝物が、対象の宿主細胞によって産生され得る。
【0015】
宿主細胞において生成される合成経路は、任意の好都合な化合物から出発し得る。関心対象の出発化合物としては、ラウダノソリン、メチルラウダノソリン、ノルラウダノソリン、メチルノルラウダノソリン、ノルコクラウリン、サルタリジン、レチクリン、チラミン、ドーパミン、4-HPA、4-HPPA、コクラウリン、N-メチルコクラウリン、3'-ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン、スコウレリン、テトラヒドロコルンバミン、カナジン、ラウダニン、サンギナリン、テバイン、モルヒネ、コデイン、コデイノン、およびジメチルテトラヒドロイソキノリン、例えば6,7-ジメチル-1-2-3-4-テトラヒドロイソキノリン、または内在性BIA経路に通常存在し得るもしくは存在しないことがあり得る別の化合物が挙げられるがそれに限定されるわけではない。特定の態様において、出発化合物は、レチクリン、ノルラウダノソリン、またはノルコクラウリンである。従って、出発物質は非天然であっても、または出発物質は天然であってもよい。他の化合物も、宿主細胞に存在する合成経路に基づいた、所望の合成経路において出発物質として使用され得る。出発物質の入手源は、宿主細胞それ自体からであっても(例えばチロシン)、または出発物質は、外来源から宿主細胞に添加もしくは補充されてもよい。例えば、宿主細胞が液体培養で(インビボ環境)増殖している場合、細胞培地に出発物質、例えばチロシンまたはノルラウダノソリンを補充してもよく、これは細胞内に輸送され、所望の産物へと変換される。
【0016】
宿主細胞
上記に要約されているように、本発明の1つの局面は、1種または複数種のBIAを産生する宿主細胞である。任意の好都合な型の宿主細胞を、対象のBIA産生細胞の作製に使用してもよく、例えば米国特許第2008/0176754号を参照されたい(その開示はその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。いくつかの場合において、宿主細胞は酵母である。いくつかの場合において、宿主細胞は、関心対象のBIAを産生するように操作された酵母株に由来する。いくつかの態様において、宿主細胞は、レチクリン産生宿主細胞、サンギナリン前駆体産生宿主細胞、プロトベルベリン産生宿主細胞、テバイン産生宿主細胞、およびオピエート産生宿主細胞から選択される。
【0017】
任意の好都合な細胞を、対象の宿主細胞および方法に使用してもよい。いくつかの場合において、宿主細胞は非植物細胞である。特定の場合において、宿主細胞は昆虫細胞、哺乳動物細胞、細菌細胞、または酵母細胞である。関心対象の宿主細胞としては、細菌細胞、例えば枯草菌(Bacillus subtilis)細胞、大腸菌(Escherichia coli)細胞、ストレプトマイセス(Streptomyces)細胞、およびネズミチフス菌(Salmonella typhimuium)細胞、ならびに、昆虫細胞、例えばキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)S2細胞、およびヨトウガ(Spodoptera frugiperda)Sf9細胞が挙げられるがそれに限定されるわけではない。いくつかの態様において、宿主細胞は酵母細胞または大腸菌細胞である。特定の態様において、酵母細胞は、サッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)種であることができる。酵母が宿主細胞として関心対象である。なぜなら、チトクロムP450タンパク質(これは関心対象のいくつかの生合成経路に関与している)は、小胞体膜内に適切に折り畳まれることができ、よってその活性が維持されるからである。本発明に使用される関心対象の酵母株としては、米国特許第2008/0176754号(この開示はその全体が参照により本明細書に組み入れられる)においてSmolkeらによって記載されたもの、例えば、CEN.PK(遺伝子型: MATa/α ura3-52/ura3-52 trp1-289/trp1-289 leu2-3_112/leu2-3_112 his3 Δ1/his3Δ1 MAL2-8C/MAL2-8C SUC2/SUC2)、S288C、W303、D273-10B、X2180、A364A、Σ1278B、AB972、SK1およびFL100が挙げられるがそれに限定されるわけではない。特定の場合において、酵母株は、S288C(MATα; SUC2 mal mel gal2 CUP1 flo1 flo8-1 hap1)、BY4741(MATα; his3Δ1; leu2Δ0; met15Δ0; ura3Δ0)、BY4742 (MATα; his3Δ1; leu2Δ0; lys2Δ0; ura3Δ0)、BY4743(MATa/MATα; his3Δ1/his3Δ1; leu2Δ0/leu2Δ0; met15Δ0/MET15; LYS2/lys2Δ0; ura3Δ0/ura3Δ0)、および、シロイナズナ(Arabidopsis thaliana)NADPH-P450レダクターゼATR1および酵母NADPH-P450レダクターゼCPR1をそれぞれ発現するW303-B株の誘導体(MATa; ade2-1; his3-11, -15; leu2-3,-112; ura3-1; canR; cyr+)であるWAT11またはW(R)のいずれかである。別の態様において、酵母細胞はW303α(MATα; his3-11,15 trp1-1 leu2-3 ura3-1 ade2-1)である。関心対象の追加の酵母株の実体および遺伝子型は、EUROSCARF(web.uni-frankfurt.de/fb15/mikro/euroscarf/col_index.html)において見ることができる。
【0018】
本明細書において使用される「宿主細胞」という用語は、宿主細胞が例えば本明細書に記載のような所望のBIAを産生することを可能とする活性をコードする1つまたは複数の異種コード配列を有する細胞である。異種コード配列は、宿主細胞のゲノムに安定に組み込まれることができるか、または異種コード配列は、宿主細胞に一過性に挿入されることができる。本明細書において使用される「異種コード配列」という用語は、宿主生物に通常は存在せず、かつ適切な条件下で宿主細胞において発現されることができる、ペプチドまたはタンパク質またはその等価なアミノ酸配列、例えば酵素をコードするかまたは最終的にコードする、任意のポリヌクレオチドを示すために使用される。従って、「異種コード配列」は、宿主細胞に通常存在するコード配列の複数のコピーを含み、よって該細胞は、該細胞に通常存在しないコード配列の追加のコピーを発現している。異種コード配列は、RNAもしくはその任意の種類、例えばmRNA、DNAもしくはその任意の種類、例えばcDNA、またはRNA/DNAのハイブリッドであることができる。コード配列の例としては、コード配列、イントロン、プロモーター領域、3'-UTRおよびエンハンサー領域などのような特徴を含む完全長の転写単位が挙げられるがそれに限定されるわけではない。
【0019】
本明細書において使用される「異種コード配列」という用語はまた、ペプチドまたは酵素のコード部分、すなわち、ペプチドまたは酵素のcDNAまたはmRNA配列、ならびに、完全長の転写単位のコード部分、すなわち、イントロンおよびエキソンを含む遺伝子、ならびに、酵素をコードするもしくはその等価なアミノ酸配列をコードする「コドンの最適化された」配列、切断短縮された配列、または他の形態の変化した配列(ただし、等価なアミノ酸配列は、機能的タンパク質を産生する)を含む。このような等価なアミノ酸配列は、1つまたは複数のアミノ酸の欠失を有することができ、この欠失はN末端、C末端またはその中間である。切断短縮された形態は、それらが本明細書に示された触媒能を有する限り想定される。2種以上の酵素の融合もまた、触媒活性が維持されているならば、経路における代謝物の転位を促進するために想定される。
【0020】
作動可能なフラグメント、突然変異体、または切断短縮形は、モデリングおよび/またはスクリーニングによって同定され得る。これは、例えば、段階的にタンパク質のN末端、C末端または内部領域を欠失させ、続いて、元来の配列と比較して所望の反応に対するその活性について、得られた誘導体を分析することによって可能となる。当該誘導体がこの能力を発揮する場合、等価な酵素誘導体の構成は適切であると考えられる。
【0021】
本発明の局面はまた、様々な酵素に対応する天然アミノ酸配列に対して等価であるアミノ酸配列をコードする異種コード配列に関する。「等価」であるアミノ酸配列は、特定のアミノ酸配列と同一ではない、所望の目的のために使用される場合に、特定のアミノ酸配列の類似の活性と比較して、タンパク質の生物学的活性に本質的に影響を及ぼさない少なくともいくつかのアミノ酸変化(欠失、置換、逆位、挿入など)をむしろ含む、アミノ酸配列と定義される。生物学的活性は、デカルボキシラーゼの例においては、その触媒活性を指す。等価な配列はまた、元来のアミノ酸配列とは異なる特性を有するように操作されたおよび/または進化させた配列を含むことを意味する。関心対象の突然変異可能な特性は、触媒活性、基質特異性、選択性、安定性、溶解性、局在化などを含む。特定の態様において、「等価な」アミノ酸配列は、特定のアミノ酸配列に対してアミノ酸レベルで少なくとも80~99%の同一性を含み、いくつかの場合においては、アミノ酸レベルで少なくとも約85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%およびそれ以上、特定の場合においては少なくとも95%、96%、97%、98%および99%の同一性を含む。いくつかの場合において、アミノ酸配列は同一であり得るが、DNA配列は、例えば宿主生物のためのコドン使用頻度を最適化するように改変されている。
【0022】
宿主細胞はまた、異種コード配列に順応するように1つまたは複数の遺伝子変化を有するように改変され得る。天然宿主ゲノムの変化は、ゲノムを改変して所望の経路に干渉し得る特定のタンパク質の発現を低減または除去することを含むがそれに限定されるわけではない。このような天然タンパク質の存在は、経路の中間体のうちの1つまたは最終産物を、所望の経路で使用できない代謝物または他の化合物へと急速に変換する可能性がある。従って、天然酵素の活性を低減させるかまたは完全になくせば、産生される中間体は、所望の産物への組み込みにより容易に使用可能となるであろう。いくつかの場合において、宿主細胞が酵母細胞であり、所望の経路が補助基質である2-オキソグルタル酸を必要とする場合、所望の補助基質(2-オキソグルタル酸)をそれぞれグルタミン酸またはスクシニル-CoAへと変換することもできる、天然の内在性グルタミン酸および/または2-オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素の発現を低減または除去してもよい。ATP結合カセット(ABC)輸送体、多剤耐性(MDR)ポンプ、および関連転写因子を含むがそれに限定されるわけではない多面的薬物応答に関与するタンパク質においてタンパク質の発現の除去が関心が持たれ得るいくつかの場合において、これらのタンパク質は、培養培地へのBIA分子の搬出に関与し、従って、欠失は、培地への該化合物の搬出を制御し、よって所望の産物への組み込みのためにより多くが利用可能となる。いくつかの態様において、関心対象の宿主細胞遺伝子の欠失は、小胞体ストレス応答(unfolded protein response)および小胞体(ER)の増殖に関連した遺伝子を含む。このような遺伝子の欠失は、改善されたBIAの産生をもたらし得る。チトクロムP450の発現は、小胞体ストレス応答を誘導し得、ERの増殖を引き起こし得る。これらのストレス応答に関連した遺伝子の欠失は、宿主細胞に対する全体的な負荷を制御または低減させ得、経路の成績を改善し得る。遺伝子の変化はまた、内在性遺伝子のプロモーターを改変して発現を増加させることおよび/または追加の内在性遺伝子のコピーを導入することを含み得る。この例は、異種P450酵素の活性を増加させるために内在性酵母NADPH-P450レダクターゼCPR1を過剰発現する株の構築/使用を含む。さらに、内在性酵素、例えばARO8、9、および10(これは中間体の代謝物の合成に直接関与している)もまた過剰発現されていてもよい。
【0023】
関心対象の異種コード配列としては、植物におけるBIAの産生に通常関与している、酵素をコードする配列(野生型または等価な配列のいずれか)が挙げられるがそれに限定されるわけではない。いくつかの場合において、異種配列がコードする酵素は、BIA経路における酵素のいずれかであり得、任意の好都合な入手源に由来し得る。いくつかの場合において、ケイランチホリンシンターゼ(CFS; EC 1.14. 21.2)が、少なくともパパヴェル・ソムニフェルム、ハナビシソウ(Eschscholzia californica)、およびアザミゲシ(Argemone mexicana)において見られ、(S)-スコウレリンから(S)-ケイランチホリンを合成することが知られている。特定の合成経路についての異種コード配列によってコードされる酵素の選択および数は、所望の産物に基づいて選択され得る。特定の態様において、本発明の宿主細胞は、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、13個以上、14個以上、またはさらには15個以上の異種コード配列、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個の異種コード配列を含み得る。
【0024】
特記しない限り、異種コード配列は、GENBANKに報告されている通りである。関心対象の酵素のリストを表2および3に示す。本発明の宿主細胞は、任意の入手源に由来する、列挙された酵素の任意の組合せを含み得る。特記しない限り、表3のアクセッション番号は、GenBankを指す。いくつかのアクセッション番号は、www.yeastgenome.orgのワールドワイドウェブで利用可能なサッカロマイセスゲノムデータベース(SGD)を指す。
【0025】
いくつかの態様において、宿主細胞(例えば酵母株)は、細胞内の一区画に1種または複数種の酵素を局在化させることによって、関心対象のBIAの選択的産生のために操作される。図18に示された本発明の1つの態様において、酵素は、タンパク質のC末端にER2標的化配列を融合させることによって、酵母小胞体に局在化され得る。
【0026】
いくつかの場合において、酵素は、この酵素によって産生される化合物が自発的に転位するか、または該化合物を所望ではない代謝物へと変換し得る局在化酵素に達する前に、別の酵素によって所望の代謝物へと変化されるように、宿主細胞内に位置し得る。2つの酵素間の空間的距離は、一方の酵素が化合物に対して直接作用して所望ではない代謝物を生成することを防ぎ、かつ所望ではない最終産物(例えば、所望ではないオピオイド副産物)の産生を制限するように選択され得る。特定の態様において、本明細書に記載の酵素のいずれかは、単独でまたは第二の酵素と一緒に、細胞小器官、小胞体、ゴルジ、液胞、核、形質膜、または周辺質を含むがそれに限定されるわけではない、宿主細胞内の任意の好都合な区画に局在化し得る(例えば図18参照)。
【0027】
いくつかの態様において、宿主細胞は、局在タグを含む1種または複数種の酵素を含む。任意の好都合なタグが使用され得る。いくつかの場合において、局在タグは、酵素のN末端およびまたはC末端に付着しているペプチド配列である。酵素にタグを付着させるために任意の好都合な方法を使用してもよい。
【0028】
いくつかの場合において、局在タグは、内在性酵母タンパク質から得られる。このようなタグは、様々な酵母細胞小器官(小胞体(ER)、ミトコンドリア(MT)、形質膜(PM)および液胞(V))への経路を提供し得る。
【0029】
特定の態様において、タグは、ERルーティングタグである(例えばER1)。特定の態様において、タグは液胞タグである(例えばV1)。特定の態様において、タグは形質膜タグである(例えばP1)。特定の場合において、タグは、尾部アンカー型タンパク質内の膜貫通ドメインを含むか、またはそれから得られる。
【0030】
いくつかの態様において、局在タグは、酵素を細胞小器官の外側に局在化させる。特定の態様において、局在タグは、酵素を細胞小器官の内側に局在化させる。
【0031】
いくつかの場合において、各タイプの酵素の発現は、追加の遺伝子コピー(すなわち複数のコピー)を通して増加し、これにより、中間体の蓄積および最終的にはBIAおよび/またはBIA前駆体の産生が増加する。本発明の態様は、単一または複数の酵素の複数の種変異体の同時発現を通した、宿主細胞における増加したBIAの産生を含む。いくつかの場合において、単一または複数の酵素の追加の遺伝子コピーが、宿主細胞に含まれる。宿主細胞に酵素の異種コード配列の複数のコピーを含めるために任意の好都合な方法を使用してもよい。
【0032】
いくつかの態様において、宿主細胞は、酵素の異種コード配列の複数のコピー、例えば2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、またはさらには10個以上のコピーを含む。特定の態様において、宿主細胞は、1種または複数種の酵素の異種コード配列の複数のコピー、例えば2個以上、3個以上、4個以上などの複数のコピーを含む。いくつかの場合において、酵素の異種コード配列の複数のコピーは、宿主細胞と比較して2つ以上の異なる生物源から得られる。例えば、宿主細胞は、1種類の異種コード配列の複数のコピーを含み得、各コピーは異なる生物源から得られる。従って、各コピーは、異種コード配列によってコードされる関心対象の酵素の種間の差異に基づき顕在配列における幾分のばらつきを含み得る。
【0033】
操作された宿主細胞の培地をサンプリングしてもよく、関心対象のBIA化合物の産生についてモニタリングしてもよい。BIA化合物は、任意の好都合な方法を使用して観察および測定され得る。関心対象の方法としては、LC-MS法(例えば本明細書に記載のもの)が挙げられるがそれに限定されるわけではなく、この方法では関心対象の試料は、既知量の標準化合物との比較によって分析される。実体は、例えばm/zおよびMS/MSフラグメンテーションパターンによって確認され得、該化合物の定量または測定は、既知の保持時間のLCトレースピークおよび/または既知量の標準化合物の対応するLC-MS分析への参照によるEIC MSピーク分析を介して達成され得る。
【0034】
レチクリン産生宿主細胞
レチクリンは、BIAの合成における主要な分岐点の中間体であり、この中間体の高い収率は、モルヒネ、サンギナリンまたはベルベリンなどの最終産物を産生する試みを画策する際に関心対象である。いくつかの場合において、ノルラウダノソリンからレチクリンを産生するために、次の3つの酵素を宿主細胞内に発現させる:ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼ(6OMT; EC 2.1.1.128)、コクラウリンN-メチルトランスフェラーゼ(CNMT; EC 2.1.1.140)および3'ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン4'-O-メチラーゼ(4'OMT; EC 2.1.1.116)。一般的に、酵素は、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる。ノルコクラウリンからレチクリンを産生するために、追加のチトクロムP450酵素、例えばCYP80B3またはCYP80B1(EC 1.14.13.71)を、3つのメチルトランスフェラーゼと共に発現させてもよい。レチクリンを産生するためのS.セレビシエの操作は、任意の好都合な最適化法を使用してもよい。いくつかの場合において、2つ以上の種(例えばP.ソムニフェルムおよびタリクトラム・フラバム)に由来する3つのメチルトランスフェラーゼの全ての組合せを一緒に発現させることにより、最善のレチクリン産生体を見つける。別の場合において、メチルトランスフェラーゼの最適な組合せ(3つ全てがP.ソムニフェルムに由来)を酵母染色体に組込んでもよく、各々の発現は、レチクリンの収率に影響を及ぼすことなく漸増した。メチルトランスフェラーゼ酵素の発現の量を増減させてもよく、メチルトランスフェラーゼは、順次、協奏して、またはその2つの組合せで、基質に対して作用し得る。
【0035】
本発明の局面は、いくつかの異なる種に由来する6OMT、CNMTおよび/または4'OMT遺伝子の過剰発現を通して改善されたレチクリン産生を有するS.セレビシエ株を含む。改善されたまたは増加した産生によって、対照が全くレチクリンの産生を有しない場合の幾分かの量のレチクリンの産生、ならびに、対照が幾分かのレチクリン産生を有する状況における、約10%以上、例えば約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約80%以上、約100%以上、例えば2倍以上、例えば5倍以上、例えば10倍以上の増加、の両方を意味する。異なる種に由来するメチルトランスフェラーゼは、僅かに異なる基質特異性を有する[Choi et al. (2002). J Biol Chem 277, 830-835; Liscombe et al. (2009). Plant J 60, 729-74; Morishige et al., (2000) J Biol Chem 275, 23398-23405; Ounaroon et al. (2003) Plant J 36, 808-819; Sato et al., (1994) Eur J Biochem 225, 125-131]。異なる種を起源とするメチルトランスフェラーゼが、単一の株において一緒に発現される場合、異なる基質特異性を活用し、複数のメチル化経路を通して流れを増加させてレチクリンの収率を増加させることが可能である。いくつかの場合において、メチルトランスフェラーゼの種変異体としては、P.ソムニフェルム、タリクトラム・フラバム、およびオウレン(Coptis japonica)が挙げられるがそれに限定されるわけではない(表2)。特定の場合において、メチルトランスフェラーゼの種変異体は、P.ソムニフェルムから得られる。特定の場合において、メチルトランスフェラーゼの種変異体は、タリクトラム・フラバムから得られる。いくつかの場合において、メチルトランスフェラーゼの種変異体は、オウレンから得られる。
【0036】
いくつかの態様において、宿主細胞は、6OMT、CNMTおよび4'OMTから選択される2種以上のメチルトランスフェラーゼの2つ以上の異種コード配列を含む。特定の場合において、2種以上のメチルトランスフェラーゼは、宿主細胞と比較して異なる2種以上の生物源から得られる。
【0037】
いくつかの場合において、宿主細胞は、メチルトランスフェラーゼ6OMTおよびCNMTの異種コード配列を含む。特定の場合において、宿主細胞は、メチルトランスフェラーゼCNMTおよび4'OMTの異種コード配列を含む。
【0038】
いくつかの場合において、宿主細胞は、メチルトランスフェラーゼ6OMTおよび4'OMTの異種コード配列を含む。
【0039】
特定の態様において、宿主細胞は、メチルトランスフェラーゼ6OMT、CNMTおよび4'OMTの全てについての異種コード配列を含む。
【0040】
いくつかの場合において、各タイプのメチルトランスフェラーゼの発現を、追加の遺伝子コピー(すなわち複数のコピー)を通して増加させ、これにより、中間体の蓄積および最終的にはレチクリンの産生が増加する。本発明の態様は、単一または複数のメチルトランスフェラーゼの複数の種変異体の同時発現および単一または複数のメチルトランスフェラーゼの追加の遺伝子コピーの取り込みを通した、酵母株における増加したレチクリンの産生を含む。
【0041】
いくつかの態様において、宿主細胞は、メチルトランスフェラーゼの複数のコピー、例えば2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、またはさらには10個以上のコピーを含む。特定の態様において、宿主細胞は、1種または複数種のメチルトランスフェラーゼの複数のコピー、例えば2個以上、3個以上、4個以上などのメチルトランスフェラーゼの複数のコピーを含む。いくつかの場合において、メチルトランスフェラーゼの複数のコピーは、宿主細胞と比較して異なる2種以上の生物源から得られる。例えば、宿主細胞は、1種類の異種コード配列の複数のコピーを含み、各コピーは、異なる生物源から得られる。従って、各コピーは、異種コード配列によってコードされる関心対象の酵素の種間差異に基づき顕在配列において幾分かのばらつきを含み得る。
【0042】
いくつかの場合において、複数のコピーは、CNMTの異種コード配列である。特定の場合において、CNMTの異種コード配列の2つのコピーが含まれる。いくつかの場合において、複数のコピーは、6OMTの異種コード配列である。特定の場合において、6OMTの異種コード配列の2つのコピーが含まれる。いくつかの場合において、複数のコピーは、4'OMTの異種コード配列である。特定の場合において、4'OMTの異種コード配列の2つのコピーが含まれる。
【0043】
いくつかの場合において、宿主細胞は、1種または複数種のメチルトランスフェラーゼの1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを欠失している対照宿主細胞と比較して増加した量のレチクリンをノルコクラウリンから産生することができる。特定の場合において、増加した量のレチクリンは、対照宿主細胞と比べて約10%以上、例えば対照宿主細胞と比べて約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約80%以上、約100%以上、2倍以上、5倍以上、またはさらには10倍以上である。
【0044】
いくつかの場合において、宿主細胞は、1種または複数種のメチルトランスフェラーゼの1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを欠失している対照宿主細胞と比較して増加した量のレチクリンをノルラウダノソリンから産生することができる。特定の場合において、増加した量のレチクリンは、対照宿主細胞と比べて約10%以上、例えば対照宿主細胞と比べて約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約80%以上、約100%以上、2倍以上、5倍以上、またはさらには10倍以上である。
【0045】
いくつかの態様において、宿主細胞は、ノルコクラウリンから10%以上の収率のレチクリンを、例えばノルコクラウリンから20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、約80%以上、またはさらには90%以上の収率のレチクリンを産生することができる。
【0046】
いくつかの態様において、宿主細胞は、ノルラウダノソリンから10%以上の収率のレチクリンを、例えばノルラウダノソリンから20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、またはさらには90%以上の収率のレチクリンを産生することができる。
【0047】
特定の態様において、宿主細胞は、以下の代替的なメチル化経路の任意の組合せを取り込みかつ増加したレチクリンの産生をもたらす生合成経路を含む、操作された株である。いくつかの場合において、宿主細胞は、図2の生合成経路を介してノルラウダノソリンからレチクリンを産生することができる。特定の態様において、宿主細胞は、図3の生合成経路を介してノルコクラウリンからレチクリンを産生することができる。いくつかの場合において、経路の出発物質がノルラウダノソリンである場合(図2、(1))、6OMT、CNMTおよび/または4'OMTは、この化合物に作用して、3つの明確に異なってメチル化された中間体を産生し得る:BIA2は、最初に6OMTによってメチル化され、その後、CNMTまたは4'OMTのいずれかによってメチル化される;BIA3は、最初にCNMTによってメチル化され、その後、6OMTまたは4'OMTのいずれかによってメチル化される;BIA4は、最初に4'OMTによってメチル化され、その後、6OMTまたはCNMTのいずれかによってメチル化される:前以て6OMTおよび4'OMTによってメチル化されたBIA5は、CNMTによってメチル化され、レチクリンを産生する;前以て6OMTおよびCNMTによってメチル化されたBIA6は、4'OMTによってメチル化され、レチクリンを産生する;前以てCNMTおよび4'OMTによってメチル化されたBIA7は、6OMTによってメチル化され、レチクリンを産生する。
【0048】
いくつかの場合において、経路の出発物質がノルコクラウリンである場合、6OMTまたはCNMTはこの化合物に作用して、2つの明確に異なってメチル化された産物を産生し得る(図3):BIA10は、最初に6OMTによってメチル化され、その後、CNMTによってメチル化される;BIA11は、最初にCNMTによってメチル化され、その後、6OMTによってメチル化される。前以て6OMTおよびCNMTによってメチル化されているBIA12は、N-メチルコクラウリンとしても知られているが、これはその後、CYP80B1またはCYP80B3および4'OMTによって順次作用を受けて、レチクリンを産生する。
【0049】
特定の場合において、宿主細胞は酵母株である。いくつかの場合において、酵母株はS.セレビシエである。
【0050】
サンギナリンおよびサンギナリン前駆体産生宿主細胞
本発明の局面は、プロトベルベリンおよびベンゾフェナントリジンアルカロイド(これはケイランチホリン、スチロピン、シス-N-メチルスチロピン、スコウレリン、プロトピン、ジヒドロサンギナリン、およびサンギナリンを含むがそれに限定されるわけではない)を産生する宿主細胞を含む。図4は、本発明の態様による宿主細胞の態様に存在する合成経路を示す。ノルラウダノソリン、ノルコクラウリンまたは例えば他の図に示されているような任意の他の好都合なBIAから出発すると経路はより長くなり得るが、この特定の経路の描写は、レチクリンで始まり、サンギナリンで終わる。経路は、所望の最終結果が、ノルラウダノソリンからサンギナリンへの経路における中間体のうちの1つである場合、示されたよりも少ない酵素を含み得る。本発明は、様々なプロトベルベリンおよびベンゾフェナントリジン化合物を産生するための、操作された酵母株内での、例えば、酵素BBE(EC 1.21.3.3)、CFS(EC 1.14.21.2)、CPR(EC 1.6.2.4)、STS(EC 1.14.21.1)、TNMT (EC 2.1.1.122)、MSH(EC 1.14.13.37)、P6H(EC 1.14.13.55)およびDBOX(EC 1.5.3.12)によって触媒される、複数の酵素工程の生合成経路を含む。さらに、本発明は、操作された酵母株に関連して、プロトベルベリンおよびベンゾフェナントリジン化合物の産生を最適化させるためのツールおよび方法を含む。
【0051】
いくつかの態様において、宿主細胞は、サンギナリンまたはサンギナリン前駆体を産生することができ、該宿主細胞は、BBE、CFS、CPR、STS、TNMT、MSH、P6HおよびDBOXから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含み、該1種または複数種の酵素は、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる。特定の態様において、サンギナリン前駆体は、プロトベルベリンまたはベンゾフェナントリジンアルカロイドである。
【0052】
特定の場合において、生物源は、P.ソムニフェルム、ハナビシソウ、シロイナズナ、ハカマオニゲシ(Papaver bracteatum)、またはアザミゲシである。特定の場合において、生物源は、P.ソムニフェルムである。いくつかの場合において、生物源はハナビシソウである。いくつかの場合において、生物源はシロイナズナである。特定の態様において、生物源はハカマオニゲシである。いくつかの場合において、生物源はアザミゲシである。
【0053】
いくつかの場合において、1種または複数種の酵素は、宿主細胞と比較して異なる2種以上の生物源から得られた2種以上の酵素である。
【0054】
いくつかの態様において、宿主細胞は、1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを含む。特定の態様において、1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーは、宿主細胞と比較して異なる2種以上の生物源から得られる。例えば、宿主細胞は、1種類の異種コード配列の複数のコピーを含み得、各コピーは異なる生物源から得られる。従って、各コピーは、異種コード配列によってコードされる関心対象の酵素の種間差異に基づき顕在配列における幾分のばらつきを含み得る。
【0055】
いくつかの場合において、宿主細胞は、BBE、CFS、CPR、STS、TNMT、MSH、P6HおよびDBOXから選択される2種以上の酵素の、2個以上、例えば3個以上、4個以上、5個以上、またはさらにはそれ以上の異種コード配列を含む。
【0056】
特定の場合において、宿主細胞はさらに、天然宿主細胞と比較して1つまたは複数の遺伝子欠失を含み、1つまたは複数の欠失遺伝子は、IRE1、HAC1、OPI1、INO1、INO2、INO3、PDR1、STB5、PDR3、PDR5、SNQ2、YOR1、TPO1、TPO2、TPO3、TPO4、PDR10、PDR11、PDR15、PDR16、PDR17、QDR1、QDR2、QDR3、FLR1、AQR1、AQR2およびCIN5から選択される。
【0057】
いくつかの場合において、宿主細胞は酵母株(例えば本明細書に記載のもの)である。
【0058】
特定の態様において、宿主細胞は、図4の生合成経路を介してノルラウダノソリンからサンギナリンまたはサンギナリン前駆体を産生することができる。いくつかの場合において、宿主細胞は、図11の生合成経路を介してノルラウダノソリンからサンギナリンまたはサンギナリン前駆体を産生することができる。
【0059】
いくつかの場合において、宿主細胞は、BBE酵素の異種コード配列を含む。BBE酵素の異種コード配列は、宿主細胞染色体に組み込まれ得る。いくつかの場合において、宿主細胞は、CFS酵素の異種コード配列を含む。いくつかの場合において、宿主細胞は、CPR酵素の異種コード配列を含む。いくつかの場合において、宿主細胞は、STS酵素の異種コード配列を含む。いくつかの場合において、宿主細胞は、TNMT酵素の異種コード配列を含む。いくつかの場合において、宿主細胞は、MSH酵素の異種コード配列を含む。いくつかの場合において、宿主細胞は、P6H酵素の異種コード配列を含む。いくつかの場合において、宿主細胞は、DBOX酵素の異種コード配列を含む。
【0060】
いくつかの場合において、宿主細胞は、スコウレリンを産生する酵母株であり、ベルベリンブリッジ酵素(BBE; EC 1.21.3.3)(例えば、P.ソムニフェルムまたはハナビシソウに由来)が、例えばPs6OMT、PsCNMTおよび/またはPs4'OMTが染色体に組み込まれた酵母株において低コピー構築物に基づいて(例えば低コピープラスミド、YAC、または染色体への組み込み)発現されている。酵素の任意の好都合な変異体、例えば、表2に示された酵素変異体のうちの1つまたは複数を、使用してもよい。
【0061】
いくつかの場合において、サンギナリン前駆体はケイランチホリンである。特定の場合において、宿主細胞は、ケイランチホリンシンターゼ(CFS; EC 1.14.21.2)およびチトクロムP450 NADPHレダクターゼ(CPR; EC 1.6.2.4)酵素の異種コード配列を含む。いくつかの場合において、CPR酵素は、ATR酵素、例えばATR1である。いくつかの場合において、宿主細胞は、ケイランチホリンを産生する酵母株であり、ケイランチホリンシンターゼ(CFS)(例えばハナビシソウ(EcCFS)、P.ソムニフェルム(PsCFS)および/またはアザミゲシ(AmCFS)由来の)が、例えばPs6OMT、PsCNMT、Ps4'OMT、PsBBEおよび/またはATR1が染色体に組み込まれた酵母株において低コピー構築物に基づいて(例えば低コピープラスミド、YAC、または染色体への組み込み)発現されている。酵素の任意の好都合な変異体、例えば、表2に示された酵素変異体のうちの1つまたは複数を、使用ししてもよい。
【0062】
いくつかの態様において、宿主細胞はスチロピンを産生し、スチロピンシンターゼ(STS; EC 1.14.21.1)(例えばハナビシソウ(EcSTS)、P.ソムニフェルム(PsSTS)および/またはアザミゲシ(AmSTS))が、ケイランチホリン産生株の宿主細胞において低コピー構築物に基づいて(例えば低コピープラスミド、YAC、または染色体への組み込み)発現されている。酵素の任意の好都合な変異体、例えば、表2に示された酵素変異体のうちの1つまたは複数を、使用してもよい。
【0063】
特定の場合において、宿主細胞はシス-N-メチルスチロピンを産生し、テトラヒドロプロトベルベリンN-メチルトランスフェラーゼ(TNMT; EC 2.1.1.122)(例えば、P.ソムニフェルム(PsTNMT)またはハナビシソウ(EcTNMT)に由来)が、スチロピン産生株の宿主細胞において低コピー構築物に基づいて(例えば低コピープラスミド、YAC、または染色体への組み込み)発現されている。酵素の任意の好都合な変異体を、例えば、表2に示されたより多くの酵素変異体のうちの1つを、使用してもよい。
【0064】
いくつかの場合において、宿主細胞はプロトピンを産生する。特定の場合において、シス-N-メチルスチロピン14-ヒドロキシラーゼ(MSH, EC 1.14.13.37)(例えばP.ソムニフェルム(PsMSH)に由来)が、シス-N-メチルスチロピン産生株の宿主細胞において低コピー構築物に基づいて(例えば低コピープラスミド、YAC、または染色体への組み込み)発現されている。特定の場合において、宿主細胞は、TNMTまたはMSH酵素の異種コード配列を含む。酵素の任意の好都合な変異体を、例えば、表2に示されたより多くの酵素変異体のうちの1つを、使用してもよい。
【0065】
いくつかの場合において、宿主細胞はジヒドロサンギナリンを産生し、プロトピン6-ヒドロキシラーゼ(P6H; EC 1.14.13.55)(例えばハナビシソウ(EcP6H)またはP.ソムニフェルム(PsP6H)に由来)が、プロトピン産生株の宿主細胞において低コピー構築物から(例えば低コピープラスミド、YAC、または染色体への組み込み)発現されている。酵素の任意の好都合な変異体を、例えば、表2に示されたより多くの酵素変異体のうちの1つを、使用してもよい。
【0066】
いくつかの場合において、宿主細胞はサンギナリンを産生し、ジヒドロベンゾフェナントリジンオキシダーゼ(DBOX; EC 1.5.3.12)(例えばP.ソムニフェルム(PsDBOX)に由来)が、ジヒドロサンギナリン産生株の宿主細胞において低コピー構築物から(例えば低コピープラスミド、YAC、または染色体への組み込み)発現されている。酵素の任意の好都合な変異体を、例えば、表2に示されたより多くの酵素変異体のうちの1つを、使用してもよい。
【0067】
いくつかの態様において、宿主細胞は、対照株よりもより多くのケイランチホリンを産生する操作された株であり、CFSの追加のコピーが、操作された株において発現されている。より多くとは、対照が全くケイランチホリンの産生を有しない場合の幾分かの量のケイランチホリンの産生、および、対照が幾分かのケイランチホリンの産生を有する状況における、約10%以上、例えば約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約80%以上、約100%以上、例えば2倍以上、例えば5倍以上、例えば10倍以上の増加、の両方を意味する。遺伝子コピー数、プロモーター強度またはプロモーター調節を通して関心対象のチトクロムP450の発現レベルを変化させると、標的化合物の産生が改善され得る。特定の場合において、高コピープラスミドからの発現は、測定可能なケイランチホリンの産生をもたらさない。特定の場合において、CFS遺伝子の1つまたは複数のコピーが宿主細胞において低コピー構築物から発現されると、ケイランチホリンの産生はより多くなる。いくつかの態様において、CFS遺伝子のより多くのコピーが宿主細胞に含まれると、ケイランチホリンのレベルはより高くなる。
【0068】
特定の場合において、より多くのスチロピンを産生するために、異なる種に由来する酵素CFSおよびSTSの変異体を組み合わせて宿主細胞において発現させる。関心対象の酵素の所望の発現を含まない対照細胞と、操作された宿主細胞との比較によって、増加したレベルのスチロピンが観察され得る。増加したとは、対照が全くスチロピンの産生を有しない場合の幾分かの量のスチロピンの産生、および、対照が幾分かのスチロピンの産生を有する状況における、約10%以上、例えば約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約80%以上、約100%以上、例えば2倍以上、例えば5倍以上、例えば10倍以上の増加、の両方を意味する。例えば、種々のSTS変異体と共に発現された種々のCFS変異体からのスチロピンの産生の測定が図13(c)に示されている。酵素の任意の好都合な組合せを使用して、増加したレベルのスチロピンを産生し得る。
【0069】
いくつかの場合において、より多くのケイランチホリンを産生するために、宿主細胞(例えば酵母株)は、チトクロムP450の活性を最適化するために、様々な種に由来する染色体に組み込まれたNADPHチトクロムP450レダクターゼを含むように操作される。例えば、チトクロムP450 NADPHレダクターゼ酵素の変異体と共に発現された様々なケイランチホリンシンターゼ酵素からのケイランチホリンの産生の測定を実施し得る。これらの酵素の任意の好都合な組合せを使用して、対照と比較して増加したレベルのケイランチホリンを産生し得る。
【0070】
特定の場合において、より多くのケイランチホリンまたはスチロピンを産生するために、チトクロムb5を過剰発現する宿主細胞(例えば酵母株)を使用して、チトクロムP450の活性を最適化する。例えば、過剰発現したチトクロムbを有するまたは有しない宿主細胞からのケイランチホリンまたはスチロピンの産生の測定を実施し得る。いくつかの場合において、宿主細胞はチトクロムb5を過剰発現し、対照細胞と比較して増加したレベルのケイランチホリンまたはスチロピンを産生する。
【0071】
特定の態様において、より多くのプロトベルベリンアルカロイドを産生するために、宿主細胞を、改善されたチトクロムP450活性を与える条件において培養する。関心対象の条件は、低温(例えば約10℃、約15℃、約20℃、約22℃、約25℃、約28℃、約30℃、約33℃、または約35℃)および通気性の高い容器(例えばバッフル付フラスコなどのフラスコ)中での増殖を含むがそれに限定されるわけではない。例えば、種々の培養条件において増殖させた宿主細胞からの様々なプロトベルベリンアルカロイドが測定され得る。特定の態様において、宿主細胞を低下した温度(例えば約25℃)および通気性の高い条件下(例えばフラスコ中)でインキュベートする。このような条件下、酵素レベルおよび/または酵素活性(例えばケイランチホリンおよびスチロピンの産生)は対照と比較して増加し得る。
【0072】
いくつかの態様において、宿主細胞は、BIAの産生を改善するために、小胞体ストレス応答および小胞体(ER)増殖に関連した遺伝子の欠失によって該宿主細胞が最適化されている場合、より多くのプロトベルベリンアルカロイドを産生する。関心対象の遺伝子欠失は、IRE1、HAC1、OPI1、INO1、INO2およびINO3を含むがそれに限定されるわけではない(表3)。いくつかの場合において、チトクロムP450の発現は、小胞体ストレス応答を誘導し、ERの増殖を引き起こす。これらのストレス応答に関連した遺伝子の欠失は、宿主細胞に対する全体的な負荷を制御または低減させ得、かつ経路の成績を改善させ得る。より多くのとは、対照が全くプロトベルベリンアルカロイドの産生を有しない場合には幾分かの量のプロトベルベリンアルカロイドの産生、および、対照が幾分かのプロトベルベリンアルカロイドの産生を有する状況においては約10%以上、例えば約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約80%以上、約100%以上、例えば2倍以上、例えば5倍以上、例えば10倍以上の増加、の両方を意味する。
【0073】
特定の場合において、宿主細胞は、細胞膜を横断する化合物輸送に関与する1種または複数種のタンパク質の1つまたは複数の異種または内在性コード配列を含む。特定の場合において、細胞膜を横断する化合物輸送に関与する1種または複数種のタンパク質は、PDR1、PDR5、SNQ2、YOR1、PDR3、CIN5およびPDR3から選択される。
【0074】
特定の態様において、ATP結合カセット(ABC)輸送体、多剤耐性(MDR)ポンプおよび関連転写因子を含むがそれに限定されるわけではない宿主細胞内の多面的薬物応答に関与する遺伝子を欠失させて、培養培地中へのBIA分子の搬出を減少させる。遺伝子の例としては、PDR1、STB5、PDR3、PDR5、SNQ2、YOR1、TPO1、TPO2、TPO3、TPO4、PDR10、PDR11、PDR15、PDR16、PDR17、QDR1、QDR2、QDR3、FLR1、AQR1、AQR2およびCIN5が挙げられるがそれに限定されるわけではない。遺伝子の欠失は、単一の欠失または任意の組合せの複数の欠失を含む。いくつかの場合において、宿主細胞は、関心対象の1つまたは複数の遺伝子の欠失を含み、関心対象の1つまたは複数の遺伝子欠失を含まない対照細胞よりも低いレベルのレチクリン、スコウレリン、ケイランチホリンまたはスチロピンを産生する。
【0075】
別の態様において、対象の宿主細胞において、ATP結合カセット(ABC)輸送体、多剤耐性(MDR)ポンプおよび関連転写因子を含むがそれに限定されるわけではない多面的薬物応答に関与する遺伝子を、調節された(例えば誘導性または増殖期依存性)プロモーターの制御下に置くことにより、BIA輸送の時間的制御を行なう。特定の場合において、輸送体遺伝子を、関心対象のBIAを静止期まで細胞内に留める静止期プロモーターの制御下に置く。このような宿主細胞において、所望の最終産物への出発物質の変換が増加し得る。
【0076】
プロトベルベリン産生宿主細胞
本発明の局面は、プロトベルベリンアルカロイドを産生する操作された宿主細胞を含む。いくつかの場合において、プロトベルベリンアルカロイドは、以下の構造のうちの1つを有する:
式中、R1~R14は、各々独立して、-H、アルキル(例えば、低級アルキル、例えばメチル(CH3)またはエチル)、ヒドロキシルまたはアルコキシ(OR)(例えば低級アルコキシ、例えばメトキシまたはエトキシ)である。
【0077】
特定の場合において、プロトベルベリンアルカロイドは、例えば培養培地(例えば、本明細書に記載のような、例えばレチクリン産生細胞の培養培地)に存在するか、または細胞溶解液もしくは溶解液画分に導入された、レチクリンもしくはその他の類似体、もしくはその誘導体から産生される。特定の場合において、宿主細胞は、ベルベリンブリッジ酵素(BBE)、スコウレリン9'-O-メチルトランスフェラーゼ(S9OMT)、カナジンシンターゼ(CAS)、および(S)-テトラヒドロベルベリンオキシダーゼ(STOX)である酵素のうちの1つもしくは複数、またはその任意の組合せを発現させるための1つまたは複数の異種コード配列を含み得る(ただし1種または複数種の酵素は、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる)。
【0078】
いくつかの場合において、生物源は、P.ソムニフェルム、ハナビシソウ、オウレン、タリクトラム・フラバム、ベルベリス・ストロニフェラ(Berberis stolonifer)、タリクトラム・フラバムの亜種グロウカム(T. flavum subsp. glaucum)、トウオウレン(Coptis chinensis)、タリクトラム属の種(Thalictrum spp)、コプティス属の種、パパヴェル属の種、ヒロハコガネメギ(Berberis wilsonae)、アザミゲシまたはベルベリス属の種である。
【0079】
特定の態様において、宿主細胞は、1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを含む。いくつかの場合において、1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーは、宿主細胞と比較して異なる2種以上の生物源から得られる。例えば、宿主細胞は、1種類の異種コード配列の複数のコピーを含み得、各コピーは異なる生物源から得られる。従って、各コピーは、異種コード配列によってコードされる関心対象の酵素の種間の差異に基づき顕在配列における幾分のばらつきを含み得る。
【0080】
いくつかの場合において、宿主細胞は、BBE、S9OMT、CASおよびSTOXから選択される2種以上の酵素の2つ以上の異種コード配列を含む。いくつかの場合において、宿主細胞は、BBE、S9OMT、CASおよびSTOXから選択される3種以上の酵素の3つ以上の異種コード配列を含む。いくつかの場合において、宿主細胞は、酵素BBE、S9OMT、CASおよびSTOXの各々の異種コード配列を含む。
【0081】
いくつかの態様において、宿主細胞は、CASの異種コード配列およびATR1の異種コード配列を含む。特定の態様において、宿主細胞は、STOXの異種コード配列を含む。
【0082】
いくつかの態様において、宿主細胞(例えば操作された酵母株)は、図5に示されたような生合成経路を支援する。
【0083】
いくつかの場合において、宿主細胞は、天然に存在するヒロハコガネメギの(S)-テトラヒドロプロトベルベリンオキシダーゼ遺伝子に対して75%以上(例えば78%)の核酸配列同一性を共有するSTOX遺伝子を含む(表3)。該遺伝子は、酵母における発現のためにコドンが最適化された非天然ヌクレオチド配列であってもよい。
【0084】
本発明の局面は、生酵母培養物中におけるSTOXまたはその相同体の機能的発現を含む。特定の態様において、宿主細胞は、ベルベリンをその前駆体の(S)-カナジンから産生するように操作されている。
【0085】
本発明の1つの態様において、酵素の発現レベルは、BBE、CASおよびSTOX(例えば図6a参照)について比較的低く(例えばCEN/ARSベクターまたはゲノム発現)、S9OMT(例えば図6b参照)について比較的高い(例えば2μmのベクターまたは複数のゲノムコピー)。発現レベルは、任意の好都合な方法を使用して変化させてもよい。関心対象の方法は、構成的プロモーターの強度を変化させること、誘導性プロモーターを使用すること、エピソームもしくはゲノムにある各遺伝子のコピー数を変化させること(例えば図6c参照)、選択マーカーを変化させること、および/またはプロモーター活性もしくは選択に対応する培養条件、を含むがそれに限定されるわけではない。
【0086】
いくつかの態様において、1種または複数種の酵素が、酵母人工染色体から組換え発現される(例えば図10)。
【0087】
本発明の局面は、より大きな生合成経路の一部としての、生酵母培養物中のCASまたはその相同体の機能的発現を含む。特定の態様において、宿主株は、ノルラウダノソリンまたはその前駆体からベルベリンを産生するように操作されている(例えば、図5、7、または表2による)。いくつかの場合において、宿主細胞は、図5の生合成経路を介してレチクリンからベルベリンを産生することができる。本発明の別の態様において、宿主細胞は、ATR1であるCASのためのチトクロムP450レダクターゼパートナーを含み、その共発現により、ハナビシソウCPR、シロイナズナATR2、P.ソムニフェルムCPR、または内在性酵母CPRよりも高いCAS活性がもたらされ得る(例えば図6d)。
【0088】
本発明の局面は、生酵母培養物中におけるSTOXまたはその相同体の機能的発現を含む。特定の態様において、宿主細胞は、ノルラウダノソリンから、ベルベリンの前駆体である(S)-カナジンを産生するように操作されている。いくつかの態様において、宿主細胞は、ノルラウダノソリンから(S)-カナジンを産生することができる。
【0089】
酵母細胞内でのBIAの蓄積を増強させるために、異種輸送体(これはBIA産生植物に由来する植物ATP結合カセットタンパク質を含むがそれに限定されるわけではない)を、操作された株において発現させてもよい。いくつかの態様において、CjABCB1、CjABCB2および/またはCjABCB2から選択される1種または複数種の輸送体に対応する1つまたは複数の異種コード配列を、宿主細胞内にベルベリンを蓄積させるために含めてもよい。
【0090】
いくつかの場合において、宿主細胞は酵母株である。
【0091】
テバイン産生宿主細胞
本発明の局面は、レチクリンまたはその前駆体から、中間体または最終産物のいずれかとして、テバインを産生する操作された宿主細胞を含む。レチクリンまたはその前駆体は、培養培地中に存在する既存の株によって産生され得るか、または細胞溶解液もしくは溶解液画分に導入され得る。いくつかの場合において、宿主細胞は、サルタリジンシンターゼ(SalSyn)、チトクロムP450 2D6(CYP2D6)、チトクロムP450 2D2(CYP2D2)、サルタリジンレダクターゼ(SalR)、および/またはサルタリジノール7-O-アセチルトランスフェラーゼ(SalAT)から選択される1種または複数種の酵素を発現させるための1つまたは複数の異種コード配列を含む。1種または複数種の酵素は、宿主細胞と比較して異なる生物源から得ることができる。
【0092】
いくつかの場合において、生物源は、P.ソムニフェルム、ハカマオニゲシ、オニゲシ(Papaver orientale)、パパヴィル属の種、ホモサピエンス、またはドブネズミ(Rattus norvegicus)である。
【0093】
特定の場合において、宿主細胞は、図8に示されたような宿主における生合成経路を支援する操作された酵母株である。
【0094】
特定の態様において、宿主細胞は、1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを含む。いくつかの場合において、1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーは、宿主細胞と比較して異なる2種以上の生物源から得られる。
【0095】
いくつかの場合において、宿主細胞は、2つの異種コード配列を含む。特定の場合において、2つの異種コード配列は、酵素SalRおよびSalATについてのものである。
【0096】
いくつかの場合において、宿主細胞は、レチクリンからサルタリジンを産生することのできる、CYP2D6、CYP2D2および/もしくはSalSyn、ならびに/または別の天然のもしくは操作されたP450の遺伝子を含む。該遺伝子は、酵母における発現のためにコドンが最適化された、天然または非天然ヌクレオチド配列であり得る。
【0097】
いくつかの態様において、宿主細胞は、哺乳動物CPRおよび/またはATR1である、CYP2D6、CYP2D2および/またはSalSynに対するチトクロムP450レダクターゼパートナーを含み、その共発現により、ハナビシソウCPR、シロイナズナATR2、P.ソムニフェルムCPR、または内在性酵母CPRよりも高いCYP2D6、CYP2D2および/またはSalSyn活性がもたらされ得る。
【0098】
いくつかの態様において、宿主細胞は、表2に列挙された1つまたは複数の任意のSalR変異体を発現するための1つまたは複数の異種コード配列を含み得る。いくつかの場合において、宿主細胞は、表2に列挙された1つまたは複数の任意のSalAT変異体を発現し得る。さらに、SalR変異体は、F104Aおよび/もしくはI275A突然変異、ならびに/または任意の他の好都合な突然変異を含み得る(例えば図9)。本発明の局面は、SalRおよびSalATの両方の機能的発現を含み、これにより、サルタリジンからテバインが産生される。
【0099】
本発明の1つの態様において、宿主細胞は、以下の酵素の組合せを含む:F104AまたはI275A突然変異を有するコドンの最適化されたハカマオニゲシSalRと、コドンの最適化された任意のSalAT変異体(例えば図9)。SalAT遺伝子は、その天然に存在する対応物と80%以下の核酸配列同一性を共有し得る(表3)。これらの遺伝子は、酵母における発現のためにコドンが最適化された、非天然ヌクレオチド配列であってもよい。
【0100】
本発明の別の態様において、SalRおよびSalATによって触媒されるサルタリジンからテバインへの変換は、補因子NADPHが補充された両方の酵素を発現している対象の宿主細胞の粗溶解液中で起こる。本発明の別の態様において、テバインが前駆体であるような産物を株が産生するように、任意の好都合な追加の酵素を発現している操作された宿主細胞において、SalATおよびSalRを発現させ得る。いくつかの場合において、該株は、オリパビン、モルヒネ、コデイン、ヒドロモルホン、ヒドロコドン、オキシコドン、および/またはオキシモルホンを、テバインから産生し得る。
【0101】
いくつかの場合において、宿主細胞はさらに、T6ODMおよびmorB(例えばmorBまたはmorB-E160G)の異種コード配列を含む。特定の場合において、該株は、1種または複数種のオピエート化合物、例えばヒドロコドンを産生し得る。
【0102】
本発明のさらに別の態様において、SalRおよびSalATによって触媒されるレチクリンからテバインへの変換は、対照宿主細胞(例えば天然酵母株)と比較して増加した量のNADPHを産生するように改変された宿主細胞(例えば操作された酵母株)において起こる(例えば表2参照)。
【0103】
本発明の1つの態様において、SalRおよび/またはSalATならびにレチクリンからサルタリジンへの変換を触媒するCYP2D2またはCYP2D6またはSalSynまたは操作されたチトクロムP450酵素は、酵母人工染色体から発現される。
【0104】
いくつかの場合において、宿主細胞は酵母株である。特定の場合において、宿主細胞は、酵母細胞内の細胞小器官にSalRおよび/またはSalATを局在化させることによって、サルタリジノールもしくはテバインまたはテバインが前駆体である産物の、レチクリンまたはその前駆体からの産生を増加させるように、操作され得る。SalRおよび/またはSalATと、レチクリンからサルタリジンへの変換を触媒するCYP2D2またはCYP2D6またはSalSynまたは操作されたチトクロムP450酵素との間の空間的な距離を減少させるために、SalRおよび/またはSalATを酵母の小胞体内に局在化させてもよい。増加した産生とは、対照が関心対象の化合物の産生を全く有しない場合の幾分かの量の関心対象の化合物の産生、および、対照が幾分かの関心対象の化合物の産生を有する状況における、10%以上、例えば50%以上、例えば2倍以上、例えば5倍以上、例えば10倍以上の増加、の両方を意味する。
【0105】
オピエート産生宿主細胞
本発明の局面は、次の1種または複数種の酵素を発現している操作された宿主細胞を含む:テバイン6-O-デメチラーゼ(T6ODM: EC 1.14.11.31)、コデイノンレダクターゼ(COR; EC 1.1.1.247)、コデインO-デメチラーゼ(CODM: EC 1.14.11.32)、モルヒネデヒドロゲナーゼ(morA: EC 1.1.1.218およびEC 1.1.1.247)、およびモルフィノンレダクターゼ(morB: EC 1.3.1.-)(例えば表2参照)。宿主細胞は、コデイン、モルヒネ、ヒドロコドン、およびヒドロモルホン、オキシコドン、ジヒドロコデイン、14-ヒドロキシコデイン、およびジヒドロモルヒネを含むものから選択されるオピエート化合物を産生し得る。より多くのとは、対照が全く関心対象の化合物の産生を有しない場合の幾分かの量の関心対象の化合物の産生、および、対照が幾分かの関心対象の化合物の産生を有する状況における、約10%以上、例えば約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約80%以上、約100%以上、例えば2倍以上、例えば5倍以上、例えば10倍以上の増加、の両方を意味する。宿主細胞は、培養培地中に供給されたか、または宿主細胞自体によって産生されたか、または、オピエート産生宿主細胞と共培養された1つもしくは複数の株によって産生されたテバインから、これらの産物を合成し得る。いくつかの態様において、これらの宿主細胞が含む遺伝子改変を、テバイン産生宿主細胞の遺伝子改変と組み合わせて、上流の中間体であるチロシンまたは発酵可能な炭素源からオピエートを生合成することのできるマスター株を産生してもよい。
【0106】
オピエート化合物は、任意の好都合な方法を使用して観察および測定され得る。関心対象の方法としては、LC-MS法(例えば本明細書に記載のもの)が挙げられ、この方法では関心対象の試料を既知量の標準オピエート化合物との比較によって分析する。実体は、例えばm/zおよびMS/MSフラグメンテーションパターンによって確認され得、該化合物の定量または測定は、対応する量の標準化合物への参照によってLCおよび/またはEIC MS分析を介して達成され得る。
【0107】
いくつかの態様において、宿主細胞は、図15の生合成経路を介してテバインからオピエート化合物を産生することができる。
【0108】
いくつかの場合において、宿主細胞は、テバインから全くオリパビンまたはモルフィノンを産生しない。特定の場合において、宿主細胞は、ネオピンおよびネオモルヒネのうちの1つまたは複数を産生する。
【0109】
いくつかの場合において、宿主細胞は、宿主細胞において全オピエートの10%以上の、例えば20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、50%以上、50%以上、50%以上、またはさらには全オピエートの90%以上である、オピエート化合物収率を生じる。特定の場合において、宿主細胞は、全オピエートの30%以上、例えば50%以上である、オピエート化合物収率を生じる。
【0110】
いくつかの態様において、宿主細胞はオピエート化合物を産生し、該宿主細胞は、T6ODM、CORおよびCODMから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含み、該1種または複数種の酵素は、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られ;1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列は、morAおよびmorBから選択され、該1種または複数種の酵素は、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる。特定の態様において、morAはP.プチダmorAであり、morBはP.プチダmorBである。特定の態様において、宿主細胞は、4つ以上の異種コード配列を含む。
【0111】
いくつかの場合において、宿主細胞は、オピエート化合物を産生する細胞であり、該宿主細胞は、テバイン6-O-デメチラーゼ(T6ODM)、コデイノンレダクターゼ(COR)、コデインO-デメチラーゼ(CODM)、モルヒネデヒドロゲナーゼ(morA)、およびモルフィノンレダクターゼ(morB)から選択される4種以上の酵素の4つ以上の異種コード配列を含み、4種以上の酵素は、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる。
【0112】
特定の態様において、生物源はP.ソムニフェルム、パパヴィル属の種、またはP.プチダである。
【0113】
いくつかの場合において、宿主細胞は、T6ODM、COR、CODMおよびmorAの異種コード配列を含む。特定の場合において、宿主細胞は、T6ODM、COR、CODMおよびmorBの異種コード配列を含む。特定の場合において、宿主細胞は、T6ODM、CODM、morAおよびmorBの異種コード配列を含む。いくつかの態様において、宿主細胞は、酵素T6ODM、COR、およびCODMの異種コード配列を含む。
【0114】
特定の場合において、宿主細胞は、1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを含む。異種コード配列の複数のコピーは、宿主細胞と比較して1つまたは2つまたはそれ以上の異なる生物源から得ることができる。例えば、宿主細胞は、1種類の異種コード配列の複数のコピーを含み得、各コピーは、異なる生物源から得られる。従って、各コピーは、異種コード配列によってコードされる関心対象の酵素の種間の差異に基づき顕在配列における幾分のばらつきを含み得る。
【0115】
いくつかの場合において、宿主細胞は、テバイン6-O-デメチラーゼ(T6ODM)、コデイノンレダクターゼ(COR)およびコデインO-デメチラーゼ(CODM)遺伝子のうちの1つまたは複数を発現する。特定の場合において、これらの遺伝子(T6ODM、CORおよびCODM)は、P.ソムニフェルムに由来する天然の遺伝子に対して、それぞれ76.2%、76.8%~77.7%および75.2%のヌクレオチド配列類似性を共有する(表3参照)。特定の場合、操作された宿主細胞に発現される遺伝子は、宿主細胞のS.セレビシエのコドン使用頻度について最適化された、非天然ヌクレオチド配列を示す。
【0116】
いくつかの場合において、宿主細胞は、図15に示されるような代謝経路を支援する。特定の場合において、第一工程でT6ODMはテバインに作用してネオピノンを生成する。しかしながら、その後、酵母細胞内のネオピノンのいくらかのプールが、CORによって作用を受けて、ネオピンを生成し、一方、ネオピノンのいくらかの他の分子は、自発的に転位してコデイノンを形成する。コデイノンもまたCORによって作用を受けて、コデインを生成する。その後、ネオピンおよびコデインは、CODMによって代謝されて、ネオモルヒネおよびモルヒネをそれぞれ生成する。この経路により、標的ではない産物であるネオピンおよびネオモルヒネ、ならびに、期待される標的のコデインおよびモルヒネが産生され得る。いくつかの態様において、宿主細胞は、T6ODM、CORおよびCODMという3種類の酵素を使用してモルヒネへの経路を提供したが(図15)、操作された株は、オリパビンまたはモルフィノンを殆どまたは全く産生しない。
【0117】
本発明の1つの態様において、経路におけるCOR酵素は、P.ソムニフェルム由来のアイソフォーム1.3である。CORのこのアイソフォームは、試験された他の変異体と類似したレベルのコデインを産生し得るが、標的ではないネオピンの量を最小限とし得る。
【0118】
別の態様において、宿主細胞(例えば酵母株)は、酵母細胞内の区画にCORを局在化させることによって、ネオピンおよびネオモルヒネを上回るコデインおよびモルヒネの選択的産生のために操作される。図18に示された本発明の1つの態様において、ER2標的化配列をタンパク質のC末端に融合させることによって、CORを酵母小胞体に局在化させる。T6ODMは、この酵素によって産生されるネオピノンが、ミトコンドリアに局在するCOR酵素に達する前に、自発的にコデイノンへと転位するように、このような宿主細胞の細胞質に配置させ得る。2つの酵素間の空間的な距離は、CORがネオピノンに対して直接作用してネオピンを生成することを防ぎ、かつ標的ではないネオピンおよび下流のネオモルヒネの産生を制限するように選択され得る。本発明の別の態様において、CORによって産生されたコデインがモルヒネに変換されるように、CODMをCORと共局在させる。さらに別の態様において、CORは、単独でまたはCODMと一緒に、小胞体、ゴルジ、液胞、核、形質膜、および周辺質を含むがそれに限定されるわけではない、宿主細胞(例えば酵母細胞)内の任意の好都合な区画に局在化している(図18参照)。
【0119】
特定の態様において、宿主細胞(例えば酵母株)は、染色体に組み込まれているかまたはエピソームDNA内にある細胞内に存在する各異種コード配列の数個のコピーを有する。異種コード配列の任意の好都合な比を対象の宿主細胞に使用してもよい。モルヒネの産生のために最適化されたいくつかの場合において、T6ODM:COR:CODMの異種コード配列の全コピー数の比は、1:1:3、2:1:2または2:1:3である(例えば図17参照)。
【0120】
培養培地は、2-オキソグルタル酸依存性酵素T6ODMおよびCODMの活性を支援するために過剰の2-オキソグルタル酸が利用可能となるように最適化され得る。培養培地は、個々にまたは組み合わせて使用される次の添加剤のいずれかを含み得る:2-オキソグルタル酸、グルタミン酸、およびグルタミン(図16)。特定の態様において、宿主細胞は、対照酵母株と比較して増加した量の2-オキソグルタル酸を産生することのできる、操作された酵母株である。他の態様において、2-オキソグルタル酸は培養培地に直接加えられる。
【0121】
いくつかの態様において、宿主細胞はさらに、対照宿主細胞(例えば酵母株)と比較して増加した量の2-オキソグルタル酸を含み、増加した量の2-オキソグルタル酸は、宿主細胞の培養培地への直接的な添加を介して導入される。いくつかの場合において、宿主細胞はさらに、対照酵母株と比較して増加した量の、グルタミン、2-オキソグルタル酸およびグルタミン酸のうちの1つまたは2つまたは3つを含む。
【0122】
いくつかの場合において、宿主細胞は、2-オキソグルタル酸依存性酵素T6ODMおよびCODMの活性を支援し、よって、追加の補助基質の2-オキソグルタル酸は、宿主細胞の代謝の異種酵素に利用可能となる(例えば図16参照)。宿主細胞遺伝子型に対する関心対象のこのような改変が表3に示され、これは次のいずれかのうちの1つまたは複数を含み得る:(1)グルタミン酸から2-オキソグルタル酸を生成するための、天然または異種のいずれかのグルタミン酸デヒドロゲナーゼ酵素(GDH)の過剰発現、(2)グルタミン産生におけるグルタミン酸の損失を防ぐためのグルタミンシンターゼ(GLN1)の欠失、および/または、グルタミン酸産生における2-オキソグルタル酸の損失を防ぐためのグルタミン酸シンターゼ(GLT1)の欠失、(3)グルタミン酸から2-オキソグルタル酸およびアンモニアへの可逆的な変換を防ぐための、1つまたはいくつかのグルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(GDH1、GDH2、GDH3)の欠失、(4)スクシニル-CoAへの2-オキソグルタル酸の損失を遮断するための、1つまたはいくつかの2-オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(KGD1、KGD2、LPD1)の欠失、(5)さらに、1つまたはいくつかのミトコンドリア2-オキソグルタル酸輸送体(ODC1およびODC2を含むがそれに限定されるわけではない)が、宿主細胞において過剰発現されるかまたはノックアウトされ得る。
【0123】
いくつかの場合において、宿主細胞は、GLN1、GLT1、GDH1、GDH2、GDH3、ODC1、ODC2、KGD1、KGD2およびLPD1から選択される1種または複数種のタンパク質の1つまたは複数のコード配列を含む。
【0124】
特定の場合において、産生株において経路遺伝子の発現を調節するプロモーターは互いに隣接して配置され、逆の方向に作用し、よって並んで置かれた2つの遺伝子はセンス鎖およびアンチセンス鎖から発現される(例えば図10に示されているように)。プロモーター、遺伝子およびターミネーターを含む遺伝子カセットを、対でこのような背中合わせのプロモーター設計を用いて整列させて、発現を増加させ、一方向に配置された同一カセットを上回る、モルヒネ産生の対応する増加がもたらされ得る。このような配置を有する関心対象のDNA構築物は、エピソームDNAまたは染色体DNAまたはその両方に組み込まれ得る。いくつかの場合において、奇数の遺伝子カセットが存在する場合、対をなさない遺伝子のプロモーターはベクターまたは染色体DNAに隣接して配置される。
【0125】
いくつかの態様において、宿主細胞は、局在タグを含む1種または複数種の酵素を含む。特定の態様において、宿主細胞内の1種または複数種の酵素は、宿主細胞内の区画に空間的に局在している。特定の場合において、宿主細胞は酵母細胞である。宿主細胞内の任意の好都合な位置を、1種または複数種の酵素の局在のために使用してもよい。特定の場合において、宿主細胞の区画は、ミトコンドリア、小胞体(ER)、ゴルジ、液胞、核、形質膜、および周辺質から選択される。
【0126】
いくつかの場合において、1種または複数種の酵素は、酵母細胞内の区画の外側に空間的に局在している。特定の場合において、1種または複数種の酵素は、酵母細胞内の区画の内側に空間的に局在している。いくつかの場合において、1種または複数種の酵素はCORである。いくつかの場合において、COR酵素は、酵母細胞内のミトコンドリアに局在している。いくつかの態様において、宿主細胞は、細胞内で互いに空間的に離れているCORおよびT6ODM酵素を含む。
【0127】
特定の場合において、互いに最小で約80%以上(例えば80.1%)の類似性を共有しているT6ODMおよびCODMを宿主細胞内の同じDNA構築物から発現させる場合、遺伝子を背中合わせに配置し、よって一方はセンス鎖から発現され、他方はアンチセンス鎖から発現される。この設計は、相同性を共有する2つの配列の安定性を増強し得る。
【0128】
いくつかの場合において、細胞と培養培地との間の代謝物の動きを変化させることによって、取り込みまたは保持を改善させ得る。テバインの取り込みおよびT6ODMによるネオピノンへの変換(および自発的なコデイノンへの転位)などの1回の転換のために、2%以下のジメチルスルホキシド(DMSO)を培養培地に含めることにより、培養培地内での代謝物の交換を増強させることができ、よってより多くの基質が細胞によって取り込まれ、より多くの産物が放出される。2回以上の転換のために、ATP結合カセットクラスにおける形質膜輸送体を欠失させてもよく、これにより、異種経路における中間体は対象の宿主細胞内に保持される。これは経路に至る流れを支援し、結果として最終産物の増強された産生がもたらされる。あるいは、いくつかの場合において、輸送体を時間的に調節してもよく、よって発現を指数関数増殖期の間はオフにして、中間体を保持し、その後、静止期の間に増強させて、最終代謝産物を培養培地に放出する。
【0129】
特定の態様において、モルフィノンレダクターゼ(morB)(例えばP.プチダに由来する)M10酵素を、T6ODMと一緒に宿主細胞内で発現させ、ヒドロコドンを産生する宿主細胞株を生成する(例えば図20参照)。morB酵素はE160G突然変異を含み得る。
【0130】
本発明の別の態様において、モルヒネデヒドロゲナーゼ(morA)(例えばP.プチダM10に由来する)を、morBと一緒に宿主細胞内で発現させる。このような宿主細胞は、インビトロ(例えば粗溶解液中)およびインビボ(例えば生細胞)の両方においてモルヒネからヒドロモルホンを生成する。特定の場合において、morAは、C81S突然変異を含む。いくつかの態様において、morA変異体およびmorBを、一緒に宿主細胞内で、T6ODM、CORおよびCODMのうちの1つまたは複数と共に発現させ、これによりテバインからヒドロモルホンを生成する。特定の態様において、T6ODM、COR、CODM、morAおよびmorBのうちの1つまたは複数の変異体を、テバイン産生株において発現させて、ヒドロモルホンのための全生合成経路を形成する(図20)。
【0131】
本発明の別の態様において、morAは、この酵素の活性を支援するために、補因子NADP+/NADPHの増強された供給を有する。特定の態様において、宿主細胞内の窒素代謝を、NADPH依存性アンモニア同化が減少し、NADH依存性同化によって置き換えられるように変化させる。このような宿主細胞は、次の遺伝子改変のいずれか1つまたは複数を含み得る:NADPH依存性GDH1の欠失、NADPH依存性GDH3の欠失、NADH依存性GDH2の過剰発現、または異種グルタミン酸デヒドロゲナーゼの過剰発現(表3)。
【0132】
(表1)関心対象の宿主細胞株
【0133】
いくつかの態様において、宿主細胞は、表1に記載の酵母株1~7のうちの1つから選択される。特定の態様において、宿主細胞は、異種コード配列を含みかつ表1の項目に記載のような化合物を産生することができる、酵母株1である。特定の態様において、宿主細胞は、異種コード配列を含みかつ表1の項目に記載のような化合物を産生することができる、酵母株2である。特定の態様において、宿主細胞は、異種コード配列を含みかつ表1の項目に記載のような化合物を産生することができる、酵母株3である。特定の態様において、宿主細胞は、異種コード配列を含みかつ表1の項目に記載のような化合物を産生することができる、酵母株4である。特定の態様において、宿主細胞は、異種コード配列を含みかつ表1の項目に記載のような化合物を産生することができる、酵母株5である。特定の態様において、宿主細胞は、異種コード配列を含みかつ表1の項目に記載のような化合物を産生することができる、酵母株6である。特定の態様において、宿主細胞は、異種コード配列を含みかつ表1の項目に記載のような化合物を産生することができる、酵母株7である。いくつかの態様において、宿主細胞は、表4に記載の酵母株のうちの1つから選択される。特定の態様において、宿主細胞は、酵母株CSY905(例えば本明細書に記載のもの)である。特定の態様において、宿主細胞は酵母株CSY906(例えば本明細書に記載のもの)である。特定の態様において、宿主細胞は酵母株CSY950(例えば本明細書に記載のもの)である。特定の態様において、宿主細胞は酵母株CSY951(例えば本明細書に記載のもの)である。特定の態様において、宿主細胞は酵母株CSY952(例えば本明細書に記載のもの)である。
【0134】
(表2)酵母において操作された代謝経路の構成要素として使用される遺伝子
【0135】
(表3)宿主細胞の代謝過程の改変
【0136】
(表4)使用した操作されたS.セレビシエ株
略称:P、プロモーター、T、ターミネーター。
* CSY907は対照株としてのその使用を示すために、この表において繰り返されている。
【0137】
方法
上記に要約されているように、本発明の局面は、関心対象のベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)を調製する方法を含む。従って、本発明の局面は、異種コード配列が機能的に発現され、関心対象の出発化合物を関心対象のBIA化合物へと変換するように、タンパク質産生に適した条件下で宿主細胞を培養することを含む。
【0138】
いくつかの場合において、該方法は、宿主細胞(例えば本明細書に記載のもの)をタンパク質産生に適した条件下で培養し;出発化合物を細胞培養物に加え、細胞培養物からBIAを回収することを含む、ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)を調製する方法である。
【0139】
該方法のいくつかの態様において、出発化合物、BIA産物および宿主細胞は、表1の項目の1つによって記載されている。特定の態様において、宿主細胞は、表4の株のうちの1つによって記載されている。特定の態様において、宿主細胞は、表2に記載の1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含む。
【0140】
宿主細胞を培養する任意の好都合な方法を、関心対象のBIAの産生のために使用してもよい。使用される具体的なプロトコールは、例えば、宿主細胞、異種コード配列、所望のBIAなどに依存して変化し得る。細胞は、任意の好都合な環境、例えば、細胞が1つまたは複数の機能的な異種酵素を発現することができる環境に存在し得る。本明細書において使用されるインビトロは単純に、細胞の場所に関係なく、生細胞の外を意味する。本明細書において使用されるインビボという用語は、細胞の場所に関係なく、細胞内を示す。いくつかの態様において、細胞は、酵素の発現を行なえる条件下で、インビボでBIAの産生を可能とするために利用可能な適切な基質と共に培養される。いくつかの態様において、機能的な酵素は、インビトロ条件下でのBIAの産生のために宿主から抽出されることができる。いくつかの場合において、宿主細胞は、多細胞宿主生物へと戻されることができる。宿主細胞は、静止期およびlog増殖期などを含むがそれに限定されるわけではない任意の増殖期にあることができる。さらに、培養それ自体は、連続培養であっても、またはそれらはバッチ培養であってもよい。
【0141】
特定の細胞型のために任意の好都合な細胞培養条件が使用され得る。特定の態様において、様々な異種コード配列を含む宿主細胞を、標準的な細胞培養培地および補足物質を含む標準的または容易に最適化される条件下で培養することができる。一例として、プラスミド維持のための選択圧が必要とされない場合の標準的な増殖培地は、20g/Lの酵母抽出物、10g/Lのペプトン、および20g/Lのデキストロースを含み得る(YPD)。プラスミドを含有する宿主細胞を、増殖および選択のために必要とされる適切なアミノ酸が補充された、1.7g/Lの酵母ニトロゲンベース、5g/Lの硫酸アンモニウム、および20g/Lのデキストロースを含有する合成完全(SC)培地中で増殖させることができる。誘導性酵素発現のために有用であり得る代替的な炭素源としては、スクロース、ラフィノースおよびガラクトースが挙げられるがそれに限定されるわけではない。細胞を、任意の好都合な温度(例えば30℃)で、容器中、例えば試験管またはフラスコ中、1~1000mLまたはそれ以上の範囲の容量中で、任意の好都合な速度(例えば200rpm)で振とうしながら研究室において増殖させることができる。培養容量はまた、例えば工業用過程の一部として、より大きな発酵容器中での増殖のためにスケールアップすることができる。
【0142】
宿主細胞における異種ポリヌクレオチドの発現を最適化するための任意の好都合なコドン最適化技術を、対象の宿主細胞および方法における使用のために適応させてもよく、例えば、Gustafsson, C. et al. (2004) Trends Biotechnol, 22, 346-353を参照されたい(これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0143】
対象の方法はまた、出発化合物を細胞培養物に加えることを含む。任意の好都合な追加法を、対象の方法における使用のために適応させてもよい。細胞培養物に、十分量の関心対象の出発物質(例えば本明細書に記載のもの)、例えばmMからμMの量、例えば約1~5mMの出発化合物を補充してもよい。加えられる出発物質の量、添加の時期および速度、加えられる材料の形態などは、様々な因子に応じて変化し得ることが理解される。出発物質は、水等で割らずに加えられても、または適切な溶媒(例えば細胞培養培地、水、または有機溶媒)に予め溶解されていてもよい。出発物質は、濃縮形態で加えられ(例えば所望の濃度の10倍以上)、添加時の細胞培養培地の希釈率を最小限とし得る。出発物質は、1つまたは複数のバッチに添加され得るか、または連続添加によってより長い時間(例えば数時間または数日間)に及び添加され得る。
【0144】
対象の方法はまた、細胞培養物からBIAを回収することを含む。任意の好都合な分離法および単離法(例えばクロマトグラフィー法または沈降法)を、対象の方法への使用のために適応させて、細胞培養物から関心対象のBIAを回収することができる。ろ過法を使用して、細胞培養物の不溶性画分から可溶性画分を分離することができる。いくつかの場合において、液体クロマトグラフィー法(例えば逆相HPLC、サイズ排除クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー)を使用して、細胞培養物の他の可溶性成分からBIAを分離する。
【0145】
また、関心対象のBIAを産生する目的で宿主細胞を操作する方法も含まれる。宿主細胞へのDNAの挿入は、任意の好都合な方法を使用して達成され得る。該方法を使用して異種コード配列を宿主細胞に挿入し、これにより宿主細胞は酵素を機能的に発現し、かつ関心対象の出発化合物を関心対象のBIA産物へと変換する。
【0146】
任意の好都合なプロモーターを、対象の宿主細胞および方法に使用してもよい。異種コード配列の発現を駆動するプロモーターは、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターであり得、ただし、該プロモーターは宿主細胞において活性であり得る。異種コード配列は、その天然のプロモーターから発現され得るか、または非天然プロモーターが使用され得る。このようなプロモーターは、それらが使用される宿主において低強度から高強度であり得る。プロモーターは、調節され得るかまたは構成的であり得る。特定の態様において、グルコースで抑制されないか、または培養培地中のグルコースの存在によってほんの軽度に抑制されるプロモーターが使用される。関心対象のプロモーターとしては、解糖遺伝子のプロモーター、例えば枯草菌tsr遺伝子のプロモーター(フルクトースビスリン酸アルドラーゼをコードする)、または酵母S.セレビシエ由来のGAPDHプロモーター(グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼをコードする)、パン酵母のADH1プロモーター、リン酸欠乏誘導性プロモーター、例えば酵母のPHO5プロモーター、バチルス・リケニフォルミス(B.licheniformis)由来のアルカリホスファターゼプロモーター、酵母誘導性プロモーター、例えばGal1-10、Gal1、GalL、GalS、抑制性プロモーターMet25、tetO、および構成的プロモーター、例えばグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター(GPD)、アルコールデヒドロゲナーゼプロモーター(ADH)、翻訳伸長因子-1-αプロモーター(TEF)、チトクロムc-オキシダーゼプロモーター(CYC1)、MRP7プロモーターなどが挙げられるがそれに限定されるわけではない。グルココルチコイド、ステロイドおよび甲状腺ホルモンなどのホルモンによって誘導可能なプロモーターを含有する自律複製酵母発現ベクターもまた使用され得、これには、グルココルチコイド応答配列(GRE)および甲状腺ホルモン応答配列(TRE)が含まれるがそれに限定されるわけではない。これらおよび他の例は、米国特許第7,045,290号に記載されており、これは、そこに引用された参考文献を含めて参照により組み入れられる。α因子、アルコールオキシダーゼおよびPGHなどの構成的または誘導性プロモーターを含有する追加のベクターも使用され得る。さらに、任意のプロモーター/エンハンサーの組合せ(真核生物のプロモーターのデータベースEPDBによる)もまた遺伝子の発現を駆動するために使用され得る。任意の好都合な適切なプロモーターが、宿主細胞、例えば大腸菌のために選択され得る。また、転写物、および従って酵素レベルを最適化して、エネルギー源を最小限としつつ産生を最大限とするためにプロモーターの選択を使用することができる。
【0147】
任意の好都合なベクターを、対象の宿主細胞および方法に使用してもよい。関心対象のベクターは、酵母および他の細胞において使用するためのベクターを含む。酵母ベクターは、次の4つの一般的な分類に分割することができる:組込みベクター(YIp)、自律複製型高コピー数ベクター(YEp)、自律複製型低コピー数ベクター(YCp)、および大きなフラグメントをクローニングするためのベクター(YAC)。ベクターDNAを、任意の好都合な形質転換またはトランスフェクション技術を介して原核細胞または真核細胞に導入することができる。
【0148】
有用性
例えば上記されているような本発明の宿主細胞および方法は、様々な用途に使用される。関心対象の用途としては、研究用途および治療用途が挙げられるがそれに限定されるわけではない。本発明の方法は、BIAの産生が関心対象である任意の好都合な用途をはじめとする、様々な異なる用途に使用される。
【0149】
対象の宿主細胞および方法は、様々な治療用途に使用される。関心対象の治療用途としては、BIAを含む医薬品の調製に関心が持たれる用途が挙げられる。従って、対象の宿主細胞は、治療的に活性なBIAまたはその前駆体の供給に使用される。いくつかの場合において、宿主細胞および方法は、これらの化合物の化学合成が低収率であり、大規模生産のための有効な手段ではない場合の、商業的規模の量のBIAを生産するために使用される。特定の場合において、宿主細胞および方法は、治療用製品のための関心対象のBIAの迅速な生産を可能とする例えば5,000~200,000リットルの容量のバイオリアクター(発酵槽)を含む発酵施設において使用される。このような用途は、セルロース、デンプン、および遊離糖などの発酵可能な炭素源からの関心対象のBIAの工業規模の生産を含み得る。
【0150】
対象の宿主細胞および方法は、様々な研究用途に使用される。対象の宿主細胞および方法は、様々な関心対象のBIAの生合成経路に対する、様々な酵素の作用を分析するために使用され得る。さらに、宿主細胞は、まだ明らかとなっていない治療機能における関心対象の生物活性について試験する際に使用されるBIAを産生するように操作され得る。いくつかの場合において、様々な酵素をコードする様々な異種コード配列を含むように宿主細胞を操作することは、関心対象のBIAまたはその前駆体に向けての高収率の生合成経路を解明する。特定の場合において、研究用途は、所望の産物へとさらに化学的に改変もしくは誘導体化することのできる関心対象の治療用分子のための前駆体の産生、または関心対象の向上した治療活性についてスクリーニングするための前駆体の産生を含む。いくつかの場合において、宿主細胞株は、このような経路において関心のある酵素活性についてスクリーニングするために使用され、これにより、これらの株において産生されたBIA代謝物の変換を介して酵素が発見され得る。
【0151】
対象の宿主細胞および方法は、植物に特殊な代謝物のための産生プラットフォームとして使用され得る。
【0152】
対象の宿主細胞および方法は、薬物ライブラリーの開発ならびに植物酵素の発見のためのプラットフォームとして使用され得る。例えば、対象の宿主細胞および方法は、プロトピンなどの興味深い骨格分子を産生する酵母株を採取し、さらにコンビナトリアル生合成を通してまたは化学的手段によって化合物の構造を官能基化することによる、天然物をベースとした薬物ライブラリーの開発に使用され得る。このように薬物ライブラリーを産生することによって、あらゆる可能性あるヒット薬物はすでに、大規模培養および生産に適用できる産生宿主と関連している。別の例として、これらの対象の宿主細胞および方法は、植物酵素の発見に使用され得る。対象の宿主細胞は規定の代謝物の明瞭なバックグラウンドを提供し、新規な酵素活性を同定するための植物ESTライブラリーを発現する。対象の宿主細胞および方法は、酵母における植物酵素の機能的発現および増加した活性のための発現方法および培養条件をもたらす。
【0153】
キットおよびシステム
本発明の局面はさらに、キットおよびシステムを含み、該キットおよびシステムは、本発明の方法に使用された1つまたは複数の構成要素、例えば、本明細書に記載されているような宿主細胞、出発化合物、異種コード配列、ベクター、培養培地などを含み得る。いくつかの態様において、対象のキットは、宿主細胞(本明細書に記載のもの)、ならびに出発化合物、異種コード配列、および/またはそれを含むベクターから選択される1つまたは複数の構成要素、ならびに培養培地を含む。
【0154】
本明細書に記載の構成要素のいずれか、例えば、1つまたは複数の異種コード配列を含む宿主細胞、出発化合物、発現系における使用に適した構成要素(例えば細胞、クローニングベクター、マルチクローニングサイト(MCS)、双方向プロモーター、配列内リボソーム進入部位(IRES)など)、培養培地などがキットで提供され得る。異種コード配列、クローニングベクター、および発現系を作製および使用するのに適した様々な構成要素が、対象のキットに使用され得る。キットはまた、チューブ、緩衝液など、および使用説明書を含み得る。キットの様々な試薬成分は、別々の容器に存在しても、または所望であればそれらのいくらかもしくは全てが単一の容器中に予め配合されて試薬混合物へとなっていてもよい。
【0155】
いくつかの場合において、キットは、レチクリン産生宿主細胞、サンギナリン前駆体産生宿主細胞、プロトベルベリン産生宿主細胞、テバイン産生宿主細胞、およびオピエート産生宿主細胞から選択される宿主細胞を含む。宿主細胞は、1つまたは複数の異種コード配列(例えば本明細書に記載のもの)を含み得る。特定の場合において、細胞は関心対象のBIA(例えば本明細書に記載のもの)を発現する。
【0156】
本発明の局面は、関心対象のBIAを産生するためのシステムを含み、該システムは、異種コード配列(例えば本明細書に記載のもの)を含む操作された宿主細胞、出発化合物、培養培地、発酵槽、および発酵装置、例えば宿主細胞のための増殖条件の維持、サンプリング、ならびに装置および構成要素のモニタリングに適した装置などを含み得る。酵母細胞の大規模発酵に使用するのに適した様々な構成要素が対象のシステムに使用され得る。
【0157】
いくつかの場合において、システムは、操作された宿主細胞の大規模発酵のための、ならびに、発酵した宿主細胞によって産生されたBIA化合物のモニタリングおよび精製のための構成要素を含む。特定の態様において、1つまたは出発化合物(例えば本明細書に記載のもの)を、発酵槽中の操作された宿主細胞が1つまたは複数の所望のBIA産物を産生する条件下で、システムに加える。特定の場合において、関心対象のBIA産物は、オピオイド産物、例えばコデイン、ネオピン、モルヒネ、ネオモルヒネ、ヒドロコドン、オキシコドン、ヒドロモルホン、ジヒドロコデイン、14-ヒドロキシコデイン、またはジヒドロモルヒネである。
【0158】
いくつかの場合において、システムは、対象の宿主細胞によって産生された1種または複数種のBIA化合物をモニタリングおよびまたは分析するための手段を含む。例えば、本明細書に記載のLC-MS分析システム、クロマトグラフィーシステム、または任意の好都合なシステムで、試料を分析し、例えば本明細書に記載のような標準物質に対して比較してもよい。発酵培地は、発酵前および発酵中の任意の好都合な時間に、サンプリングおよび分析によってモニタリングされ得る。出発化合物から関心対象のBIA産物への変換が完了すると、発酵が停止され得、BIA産物の精製が行われ得る。従って、いくつかの場合において、対象のシステムは、宿主細胞培地(これにBIA産物が産生される)から関心対象のBIA産物を精製するのに適した精製用構成要素を含む。精製用構成要素は、発酵のBIA産物を精製するのに使用され得る任意の好都合な手段(これは、シリカクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、HICクロマトグラフィー、およびサイズ排除クロマトグラフィーを含むがそれに限定されるわけではない)を含み得る。いくつかの場合において、対象のシステムは、システムへの1つまたは複数の出発化合物の投入後に、関心対象のBIA発酵産物の産生および単離を提供する。
【0159】
以下の実施例は、当業者に、本発明をどのように作製および使用するかの完全な開示および説明を提供するために示され、本発明者らがその発明として考えるものの範囲を制限する意図はなく、また、以下の実験が実施された全てまたは唯一の実験であることを示すためのものでもない。使用された数字(例えば量、温度など)に関して正確さを確実とするように努力が払われたが、幾分の実験誤差および逸脱があるだろう。特記しない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧または大気圧付近である。
【実施例0160】
実験
I. レチクリン産生酵母株
いくつかの異なる種に由来する6OMT、CNMT、または4'OMT遺伝子の過剰発現を通して、改善されたレチクリン産生を有するS.セレビシエ株を開発した。
【0161】
図1は、P.ソムニフェルムおよびタリクトラム・フラバム由来のメチルトランスフェラーゼによるノルラウダノソリンのインビボでのメチル化を示す。各パネルにおいて、各メチルトランスフェラーゼを個々に発現している宿主細胞の培養物を、ノルラウダノソリンの存在下で増殖させ、メチル化産物をLCMSを用いて検出した。データは、メチルトランスフェラーゼが幅広い基質特異性を有し、代替的なメチル化経路を支援することを実証する。(a)両方の種に由来する6OMT酵素は、ノルラウダノソリンに対して類似したメチル化活性を示す。メチル化産物のフラグメンテーションが挿入図に示されている。(b)PsCNMTは、基質としてのノルラウダノソリンに対してTfCNMTよりも高いメチル化活性を示す。メチル化産物のフラグメンテーションが挿入図に示されている。(c)両方の種に由来する4'OMT酵素は、ノルラウダノソリンに対して類似したメチル化活性を示す。メチル化産物のフラグメンテーションが挿入図に示されている。
【0162】
図2は、ノルラウダノソリンからレチクリンへの代替的なメチル化経路を示す。経路の出発物質がノルラウダノソリン(1)である場合、6OMT、CNMTまたは4'OMTはこの化合物に対して作用することができ、それにより、3つの明確に異なってメチル化された中間体が生成される。最初に6OMTによってメチル化されたBIA2は、その後、CNMTまたは4'OMTのいずれかによってメチル化されることができる。同様に、最初にCNMTによってメチル化されたBIA3は、その後、6OMTまたは4'OMTのいずれかによってメチル化されることができる。同様に、最初に4'OMTによってメチル化されたBIA4は、その後、6OMTまたはCNMTのいずれかによってメチル化されることができる。前以て6OMTおよび4'OMTによってメチル化されたBIA5は、CNMTによってメチル化されてレチクリンを産生することができる。前以て6OMTおよびCNMTによってメチル化されたBIA6は、4'OMTによってメチル化されてレチクリンを産生することができる。前以てCNMTおよび4'OMTによってメチル化されたBIA7は、6OMTによってメチル化されてレチクリンを産生することができる。
【0163】
図3は、ノルコクラウリンからレチクリンへの代替的なメチル化経路を示す。経路の出発物質がノルコクラウリンである場合、6OMTまたはCNMTのいずれかがこの化合物に対して作用することができ、それにより、2つの明確に異なってメチル化された産物が生成される。最初に6OMTによってメチル化されたBIA10は、その後、CNMTによってメチル化され得る。最初にCNMTによってメチル化されたBIA11は、その後、6OMTによってメチル化され得る。前以て6OMTおよびCNMTによってメチル化されたN-メチルコクラウリンとしても知られるBIA12は、その後、順次、CYP80B1および4'OMTによって作用を受けてレチクリンを産生する。
【0164】
N-メチルコクラウリンの産生:PsCNMTの発現の漸増
ノルコクラウリンのフィードされた株においてPsCNMT遺伝子コピー数をTf6OMTまたはPs6OMTのいずれかと共に変化させた場合の、N-メチルコクラウリン(BIA 12)の産生の測定を行なった。ノルコクラウリンのフィードされた株においてPsCNMT遺伝子コピー数をTf6OMTまたはPs6OMTのいずれかと共に変化させた場合のN-メチルコクラウリン(BIA 12)の産生が示される。Ps6OMTまたはTf6OMTのいずれかおよび1または2コピーのPsCNMTを含む宿主細胞の発現の粗細胞溶解液をノルコクラウリンと共にインキュベートした。2回メチル化された産物であるN-メチルコクラウリンをLCMSを使用して測定した。Ps6OMTと共に、2×PsCNMTを1×PsCNMTの代わりに使用した場合、イオンの数は、2×107から5.5×107に増加した。Tf6OMTと共に、2×PsCNMTを1×PsCNMTの代わりに使用した場合、イオンの数は、1.5×107から6×107に増加した。データは、より高い遺伝子コピー数のメチルトランスフェラーゼCNMTは、N-メチルコクラウリンの産生を増加させるができることを実証する。
【0165】
II. サンギナリン前駆体産生酵母株
ケイランチホリン、スチロピン、シス-N-メチルスチロピン、プロトピンおよびジヒドロサンギナリンをはじめとする、プロトベルベリンおよびベンゾフェナントリジンアルカロイドを産生する株を開発した。
【0166】
図4は、レチクリンからサンギナリンを生成するための宿主細胞に存在する合成経路を示す。他の図に示されているようなノルラウダノソリンまたはノルコクラウリンから出発すると経路はより長くなり得るが、この特定の経路の描写はレチクリンから始まり、サンギナリンで終わる。経路は、所望の最終結果が、ノルラウダノソリンからサンギナリンへの経路における中間体のうちの1つであるならば、示される酵素よりも少ない酵素を含み得る。操作された酵母株内での、複数の酵素の工程、具体的には酵素CFS、STS、TNMT、MSH、P6HおよびDBOXによって触媒される工程の添加は、様々なプロトベルベリンおよびベンゾフェナントリジン化合物を産生する。
【0167】
1. 序論
BIA生合成経路のサンギナリン分岐におけるいくつかのプロトベルベリンおよびプロトピンアルカロイドのための微生物産生宿主が操作された。具体的には、酵母株は、ケイランチホリン(4)、スチロピン(5)、(S)-シス-N-メチルスチロピン(6)、およびプロトピン(7)である化合物を、フィードされた基質であるノルラウダノソリン(1)から産生するように操作された(図11)。これらの経路は、異種酵素の数および酵素の種類に基づいて、微生物宿主において再構築された複雑な植物天然物の経路を示す。特に、チトクロムP450によって触媒される3つの酵素工程を含む8つの酵素工程および全部で11個の異種発現カセットを含む経路が実証された。植物に特殊な代謝物の生合成のための効率的な微生物プラットフォームのための、酵母におけるこれらの複雑な経路の再構築のためのいくつかの経路最適化戦略が開発された。特に、多くの多段階経路の状況で複数の植物チトクロムP450酵素の機能的発現を支援する戦略が使用され、これには、発現のバランスを取ること、CPRの調和、および培養条件の最適化が含まれる。これらの一般的な設計戦略をより幅広く適用して、酵母における多様な植物天然物経路の操作を支援することができる。
【0168】
図11は、S.セレビシエにおけるプロトベルベリンおよびプロトピンアルカロイドの生合成の操作を示す。最適化されたプロトピン産生株に、前駆体分子のノルラウダノソリンをフィードし、これは染色体に組み込まれた3種類のメチルトランスフェラーゼ酵素(Ps6OMT、PsCNMT、Ps4'OMT)によって重要な分岐点の中間体であるレチクリンへと変換される。染色体に組み込まれたベルベリンブリッジ酵素(PsBBE)は、(S)-レチクリンを(S)-スコウレリンへと転換する。チトクロムP450ケイランチホリンシンターゼ(EcCFS)およびスチロピンシンターゼ(EcSTS)の2コピー(1つは染色体に組み込まれ、1つは酵母人工染色体から発現される)を、染色体に組み込まれたシロイナズナ由来の1コピーのチトクロムP450-NADPHレダクターゼ(ATR1)と共に発現させ、(S)-ケイランチホリンおよび(S)-スチロピン化合物をそれぞれ産生した。次に、テトラヒドロプロトベルベリン-N-メチルトランスフェラーゼ(PsTNMT)は(S)-スチロピンを(S)-シス-N-メチルスチロピンへと変換し、その後、チトクロムP450シス-N-メチルスチロピン14-ヒドロキシラーゼ(PsMSH)はシス-N-メチルスチロピンからプロトピンを産生する。PsTNMTおよびPsMSHの両方を、酵母人工染色体から発現させた。最終の操作されたプロトピン産生株は、11個の異種発現カセットを含む(7個の組み込まれた酵素、および酵母人工染色体から発現された4個の酵素)。チトクロムP450(EcSTS、PsMSH、EcCFS)、チトクロムP450レダクターゼ(ATR1)、他の酵素クラス(Ps6OMT、PsCNMT、Ps4'OMT、PsBBE、PsTNMT)。
【0169】
2. 結果
a. プロトベルベリンおよびプロトピンアルカロイドのための最適化された骨格を産生する微生物株の操作
酵母産生宿主において、いくつかのプロトベルベリンおよびプロトピンアルカロイドを包含する、BIA生合成経路のサンギナリン分岐の再構築が標的化された。サンギナリン分岐は、ノルラウダノソリン(市販されている、フィードされた基質)からサンギナリン(経路の最終産物)に到達するための、10個の酵素工程(その4つは植物チトクロムP450によって触媒される)からなる。この経路におけるいくつかの下流酵素がクローニングされ特徴付けられ、これにより、サンギナリン分岐に沿った中間体の代謝物のための微生物産生株の操作が可能となる。
【0170】
BIA代謝物のスコウレリンは、これからサンギナリン分岐におけるプロトベルベリンおよびプロトピンアルカロイド構造を得ることができる骨格である。フィードされた基質であるノルラウダノソリンからスコウレリンを産生するように前以て操作された酵母株を使用した(Hawkins, K. & Smolke, C. Production of benzylisoquinoline alkaloids in Saccharomyces cerevisiae. Nat. Chem. Biol. 4, 564-573 (2008))。この株は、4種類の植物酵素を発現し;3種類のメチルトランスフェラーゼ(パパヴェル・ソムニフェルム・ノルコクラウリン6-O-メチルトランスフェラーゼ、Ps6OMT;P.ソムニフェルム・コクラウリン-N-メチルトランスフェラーゼ、PsCNMT;P.ソムニフェルム・3'ヒドロキシ-N-メチルコクラウリン4'-O-メチルトランスフェラーゼ、Ps4'OMT)の発現カセットが染色体に組み込まれ、重要な分岐点の代謝物であるレチクリンをスコウレリン骨格へと変換する酵素(P.ソムニフェルムベルベリンブリッジ酵素、PsBBE)をコードする発現カセットが高コピープラスミド中に配置された。
【0171】
サンギナリン分岐を通る流れがより多くなるように株を最適化するために、PsBBE発現カセットを酵母染色体に組み込むことによってスコウレリンの産生を増加させた。該株に4mMのノルラウダノソリンをフィードし、96時間増殖させた。増殖培地の試料を、質量分析と連動させた高圧液体クロマトグラフィー(LC-MS)を使用して分析し、スコウレリンの産生を、報告されているフラグメンテーションパターンとのフラグメンテーションパターン(MS-MS)の比較によって確認した(Schmidt, J. & Raith, K. Analysis of benzylisoquinoline-type alkaloids by electrospray tandem mass spectrometry and atmospheric pressure photoionization. Eur. J. Mass Spectrom. 11, 325-333 (2005))。高コピープラスミドから染色体へとPsBBEの発現を変化させることによって、スコウレリンの産生は1.5mg/Lまで3倍増加し、レチクリンからスコウレリンへの変換効率は20%から64%に改善した。
【0172】
b. ケイランチホリンのための最適化された微生物産生宿主の操作
サンギナリン分岐において最初に行なわれた工程は、この経路における最初のチトクロムP450であるケイランチホリンシンターゼ酵素(CFS)による、骨格分子であるスコウレリンのケイランチホリンへの変換である(図12a)。植物チトクロムP450は、微生物宿主において機能的に発現するか課題であったので、このP450酵素の機能的異種発現を支援し、酵母におけるその活性を最適化するために様々な戦略が調べられた。
【0173】
様々な植物チトクロムCPRと、種々のレベルで発現されたCFS変異体との対形成をまず調べた。3つの天然植物宿主からのCFSの変異体をコドン最適化して合成した(ハナビシソウ(EcCFS)、アザミゲシ(AmCFS)、およびP.ソムニフェルム(PsCFS))。CFS変異体を、強力な酵母プロモーター(pGPD)から高コピープラスミドまたは低コピープラスミドのいずれかの上で発現させた。シロイナズナ(ATR1)、ハナビシソウ(EcCPR)およびP.ソムニフェルム(PsCPR)CPRをコードする3つの植物CPR発現カセットを酵母染色体に組込み、各々のCFS変異体を用いて試験した。EcCPRおよびPsCPRはCFS変異体と同じ植物種を起源とするが、植物は複数のCPR変異体を有し、選択された特定のCPRはCFS活性を支援しない場合もある。ATR1は、BIA分子を産生しない植物種を起源とするが、このCPRを使用して、酵母における異種P450活性が支援された(Urban, P., Mignotte, C., Kazmaier, M., Delorme, F. & Pompon, D. Cloning, yeast expression, and characterization of the coupling of two distantly related Arabidopsis thaliana NADPH-cytochrome P450 reductases with P450 CYP73A5. J. Biol. Chem. 272, 19176-86 (1997))。CPR変異体とCFS変異体の全ての組合せを有する株に2mMのノルラウダノソリンをフィードし、96時間増殖させた。増殖培地の試料をLC-MSを使用して分析した。ケイランチホリンの産生は、報告されているフラグメンテーションパターンと観察されたフラグメンテーションパターンの比較を通して確認された(図12b)。
【0174】
データは、特定のCPRの対形成およびP450発現レベルが、異種微生物宿主における植物P450の機能的活性に実質的に影響を及ぼす可能性があることを実証する。具体的には、ATR1により支援された全てのCFS変異体の活性は、試験された他のあらゆるCPR変異体よりも20~50倍良好であり、600μg/L以下のケイランチホリンを産生した(図12c)。天然酵母のCPRおよびEcCPRは、EcCFSおよびAmCFSからの低い活性レベルを支援することができたが、一方、PsCPRは発現された全てのP450と連動しなかった。全てのCFS変異体は、適切なCPRと対にした場合にはケイランチホリンを産生したが、EcCFSおよびAmCFSは、PsCFSよりも実質的により活性が高かった。酵母におけるEcCFS変異体とAmCFS変異体の間に観察される活性の差は、これらの酵素について報告されているKm値の差によって裏付けられる(EcCFS、900nM:AmCFS、1.9μM;PsCFS、Kmは報告されていない)。データはまた、ケイランチホリン産生レベルは、CFS変異体が高コピープラスミドから発現された場合よりも、低コピープラスミドから発現された場合の方が実質的に高かったことを実証する。
【0175】
P450は天然には小胞体(ER)に局在し、酵母におけるこれらの酵素の過剰発現は、ER膜が増殖するストレス応答を引き起こすことができる。活性データは、酵母における植物P450の高レベルの発現はERを圧倒し、かつ酵素の活性を損なう可能性があることを示唆する。生細胞内の発現レベルの関数としてのP450の濃度および細胞下局在を調べるために、高コピープラスミドおよび低コピープラスミドにおけるCFS変異体のC末端をEGFPを用いてタグ化し、これらの構築物を有する細胞を共焦点顕微鏡によって分析した。タグ化酵素のER局在が、ERマーカーのDsRed-Kar2-HDELとの共局在によって確認された(図12d)。
【0176】
高コピープラスミドまたは低コピープラスミドからタグ化CFS変異体を発現している細胞間に2つの大きな差が観察された。第一に、GFP陽性細胞数の有意な減少が、GFPのみの構築物と比較して、P450-GFP融合構築物を有する細胞において観察され、融合物を、低コピープラスミド(56%)からよりも高コピープラスミド(27%)から発現させた場合に、差はより有意であった。データは、細胞がチトクロムP450酵素を発現しているプラスミドを維持する能力は、蛍光レポーターを発現しているプラスミドと比較して減少しており、低コピープラスミドからの植物P450の発現は、細胞個体群間でより安定な発現をもたらし、従って、より高い原体の活性をもたらし得ることを示唆する。第二に、ERの形態は、高コピープラスミドと低コピープラスミドにおいてP450-GFP発現カセットを有する細胞間で明確に異なっていた。高コピープラスミドを有する細胞においては、P450-GFP融合タンパク質は、一般的に、核または形質膜に隣接する高濃度の明るいパッチにおいて観察された。対照的に、低コピープラスミドを有する細胞においては、ER膜は依然として細胞全体に分布し、GFP蛍光レベルはかすかであり、このことはP450の低い濃度を示す。従って、植物P450が低いレベルで発現される条件下では、これらの操作された細胞におけるER膜の形態は、野生型細胞のものとより類似していた。要するに、共焦点顕微鏡および機能的活性データは、植物P450の高レベル発現は、極端なER増殖を引き起こし得、これは、酵母宿主にとって非常にストレスとなり、酵素の活性にとって有害であることを示唆する。従って、異種酵母宿主における植物P450のための最適な発現戦略は、低コピープラスミドから、または染色体への安定な組込みである(図12e)。
【0177】
最後に、酵母宿主におけるケイランチホリン産生に対する植物P450発現レベルおよび調節の影響を調べた。ケイランチホリンの産生を、CFSが低コピープラスミドにおいて5つの異なるプロモーター(pGPD(レベル:強力、調節:初期)、pTEF1(強力、構成的)、pPGK1(中程度、初期)、pTPI1(中程度、初期)、およびpHXT7(強力、後期))の制御下で発現されている操作された経路の変異体から調べた。以前のように、指定された構築物を有する株に2mMのノルラウダノソリンをフィードし、指定された条件で96時間増殖させた。増殖培地の試料をLC-MSを用いて分析した。GPDプロモーターは、試験された他のプロモーターと比較して、ケイランチホリンの産生において最大12倍の改善をもたらした(図12f)。データは、発現レベルおよび調節戦略の両方が、異種酵母宿主における植物P450の活性の最適化において役割を果たすことを示す。例えば、TEFプロモーターは、pGPDと類似した強度と、異なる調節プロファイルを示し、pPGK1は、pGPDと類似した調節プロファイルと、異なる強度を示し;しかしながら、これらの各プロモーターは、異なるケイランチホリン産生レベルをもたらした。これらの結果は、最適化されたケイランチホリン産生酵母株が、植物P450 EcCFSを低いレベルで発現し(GPDプロモーターの制御下で低コピープラスミドからまたは染色体に組み込まれたものから)、かつこの植物のP450がATR1 CPRと対になるように操作されたことを示す。この操作された株は、600μg/L以下のケイランチホリンを産生し、38%以下のスコウレリンへと変換することができた。
【0178】
図12は、微生物による(S)-ケイランチホリンの産生を示す。(a)最適化された酵素工程が強調されている、ノルラウダノソリンから(S)-ケイランチホリンへの転換を示した図。破線の矢印は、複数の酵素工程を示す。図の表示は、図11に示されたものに従う。(b)2mMのノルラウダノソリンがフィードされかつ96時間増殖させた酵母株の増殖培地のLC-MS分析。LC-MSのトレースは、ベクター対照株(左)はスコウレリン(ピーク3)を産生するが、326 EICにはピークが全くないことを示す。EcCFS酵素が発現されると(右)、ピークが326 EIC(ピーク4)に検出され、フラグメンテーション(MS-MS、以下)は、代謝物の実体をケイランチホリンであると確認する。(c)(S)-ケイランチホリンの産生は、酵素変異体とチトクロムP450NADPHレダクターゼパートナーとの対形成に依存する。ハナビシソウ(EcCFS)、アザミゲシ(AmCFS)およびP.ソムニフェルム(PsCFS)由来のケイランチホリンシンターゼ(CFS)の変異体を、TRP遺伝子座に組み込まれた天然酵母または様々な植物入手源(シロイナズナ、ハナビシソウ、P.ソムニフェルム)のいずれかに由来するチトクロムP450レダクターゼ酵素(CPR)と共に、酵母株において低コピープラスミドから発現させた。(d)P450発現レベルは、明確に異なるER形態をもたらす。高コピープラスミド(上)または低コピープラスミド(中央)上でC末端がGFPを用いてタグ化されたEcCFSは小胞体に局在するが、明確に異なるER増殖形態を示す。野生型ER(異種のP450は全く発現されていない)が比較のために示されている(下)。比率は、指定された発現条件下でGFP陽性である酵母個体群の比率を示す。(e)CFSの安定な発現(低コピープラスミドまたは染色体への組込み)は、ケイランチホリンの産生およびスコウレリンの変換効率を改善する。EcCFSは、高コピープラスミド上(2μm、TRP選択マーカー)、低コピープラスミド上(CEN/ARS、TRP選択マーカー)で発現されるか、または酵母染色体のMET15遺伝子座に組み込まれた。(f)プロモーターの選択はCFS活性に影響を及ぼす。EcCFSは、5つの異なるプロモーター(GPD、HXT7、PGK1、TEF、TPI1)の制御下でURAの選択により低コピープラスミドから発現された。(c、d)のデータは少なくとも3回の独立した実験の代表であり、(e、f)のデータは少なくとも3回の独立した実験の平均値±標準偏差として報告される。
【0179】
c. スチロピンのための最適化された微生物産生宿主の操作
サンギナリン分岐における次の工程は、CFSに密接に関連した植物チトクロムP450であるスチロピンシンターゼ(STS)によるケイランチホリンのスチロピンへの変換である(図13)。スチロピン産生株の操作における出発点として、CFSを用いて解明されたP450の最適化戦略を使用した;具体的には、(i)低コピープラスミドからの植物P450の発現、(ii)GPDプロモーターからのP450の発現の制御、および(iii)P450とATR1 CPRの対の形成。しかしながら、スチロピンへの生合成経路は2つの植物P450を含むので、多段階経路の状況でこれらの酵素の活性をさらに最適化するために追加の戦略を調べた。
【0180】
STSおよびCFSの植物変異体の対形成をまず調べて、特定の対形成の間の何らかの相乗作用を探索した。ハナビシソウ(EcSTS)、アザミゲシ(AmSTS)およびP.ソムニフェルム(PsSTS)由来のSTSの変異体を酵母のコドンに最適化させて合成した。染色体に組み込まれたATR1 CPR発現カセットを有し、かつ低コピープラスミド上にCFS変異体およびSTS変異体の種々の組合せを有する酵母株に、2mMのノルラウダノソリンをフィードし、96時間増殖させた。増殖培地の試料をLC-MSを用いて分析した。スチロピンの産生を、標準(ChromoDex)および報告されたフラグメンテーションパターンに対する、溶出時間およびフラグメンテーションパターンの比較を通して確認した(図13b)。データは、EcSTSおよびPsSTSの両方の異種発現により、操作された酵母株においてスチロピンが産生され、一方、AmSTSは、これらの条件下で活性ではなかったことを実証する。AmSTSもまた、スコウレリンをナンジニンに変換することが報告されているが、この産物は検出されなかった。最も生産性の高いP450酵素の対は、EcCFSとEcSTSであり、これは14μg/Lのスチロピンを産生し、これは他の酵素の組合せに対して最大6倍の改善であった(図13c)。酵母におけるSTS変異体間に観察された活性の差は、これらの酵素について報告されたKm値の差によって裏付けられる(EcSTS、400nM;AmSTS、5.2μM;PsSTS、Kmは報告されなかった)。しかしながら、最も生産性の高いP450対でさえ、ケイランチホリンからスチロピンへの変換効率は僅か25%であった。
【0181】
次に、ケイランチホリンからスチロピンへの変換効率を改善するための方法を調べた。本発明者らの異種酵母宿主における植物P450活性に対する増殖温度の効果を調べた。EcCFSが各々のSTS変異体と対になった生合成経路を有する酵母株を、30℃および25℃で増殖させた。以前のように、指定された構築物を有する株に2mMのノルラウダノソリンをフィードし、指定の条件で96時間増殖させた。増殖培地の試料をLC-MSを使用して分析した。EcCFSおよびEcSTSを発現している株におけるスチロピンの産生は、株を30℃と比較して25℃で増殖させた場合に40μg/Lの力価まで3倍増加した(図13d)。データは、該株が、ODに基づいてより生産的であることを示し、このことはスチロピンの改善された産生が、より高い細胞密度に起因するのではなく、酵素の原体の活性の増加に起因することを意味する。これらの条件の変化の結果としての一般的な酵母細胞過程に対する効果は、P450の改善された折り畳みおよび局在化、従って改善された活性をもたらしたようである。
【0182】
CFSとSTSの遺伝子コピー数の比の変化を調べた。プラスミドから酵素を発現している実験は、2:2の比のCFS対STSが1:1の比と比較して3倍のスチロピン産生の増加をもたらしたことを示した(図13e)。要するに、データは、最適化されたスチロピン産生酵母株は、2:2の最適な遺伝子コピー数の比でEcCFSおよびEcSTSを発現するように操作され、25℃で増殖させた場合にスチロピンを産生し、かつスコウレリンからケイランチホリンへの変換効率およびケイランチホリンからスチロピンへの変換を改善したことを示す。
【0183】
図13は、(S)-スチロピンの産生の最適化を示す。(A)最適化された酵素工程が強調された、ノルラウダノソリンから(S)-スチロピンへの転換を示した図。破線の矢印は、複数の酵素工程を示す。図の表示は、図11に示されたものに従う。(B)2mMのノルラウダノソリンがフィードされ、96時間増殖させた酵母株の増殖培地のLC-MS分析を実施した。LC-MSトレースは、ベクター対照株はケイランチホリン(ピーク4、m/z=326)を産生するが、m/z=324 EICにピークは全くないことを示す。EcSTS酵素が発現されると、m/z=324 EIC(ピーク5)にピークが検出され、これはスチロピン標準物質と同じ時間に溶出する。スチロピン標準物質のフラグメンテーション(MS-MS)は、ピーク5のフラグメンテーションに一致し、代謝物の実体はスチロピンであることが確認される。LC-MSトレースは少なくとも3回の独立した実験の代表であった。(C)スチロピンの産生は、CFSおよびSTSの種変異体の組合せにより変化する。CFS変異体およびSTS変異体の全ての対を、別々の低コピープラスミドから発現させた。(D)25℃における操作された酵母株の増殖は、STS活性を改善させる。STSの各変異体をEcCFSと共に発現させ(別々の低コピープラスミド上で)、25℃または30℃のいずれかで増殖させた。CFSおよびSTSの遺伝子コピー数はスチロピンの産生に対して影響を及ぼす。(E)EcCFS発現カセットを染色体のMET15遺伝子座に組込み、低コピープラスミド上でEcCFSおよびEcSTSの追加のコピーを発現させることによって、遺伝子コピー数を変化させた。この実験における株変異体は全て、P450のコピー数に関わらず3つのプラスミドを有し、これにより、プラスミド積載量および培地組成は確実に一貫したものとなった。データは、2つの植物P450のコピーの増加により一般的にスチロピンの産生は増加したことを実証する。最も高いスチロピン産生は、2コピーのEcCFSおよび2コピーのEcSTSから生じ、これは、元来の発現系(1コピーの各酵素)と比較して産生レベルを約3倍改善させた。
【0184】
d. (S)-シス-N-メチルスチロピンおよびプロトピンのための微生物産生宿主の操作
経路における次の工程は、テトラヒドロプロトベルベリン-N-メチルトランスフェラーゼ(TNMT)酵素によるスチロピンから(S)-シス-N-メチルスチロピンへの変換である(図14a)。TNMTを、EcCFSおよびEcSTSを含有するYACに加え、これをEcCFSおよびEcSTSのコピーが組み込まれた株において発現させた。指定された構築物を有する株に2mMのノルラウダノソリンをフィードし、25℃で96時間増殖させ、増殖培地の試料をLC-MSを用いて分析した。シス-N-メチルスチロピンの産生が、報告されたフラグメンテーションパターンと比べたフラグメンテーションパターンの比較によって確認された(図14b)。TNMTを最適化されたスチロピン産生株において発現させると、シス-N-メチルスチロピンが産生され、スチロピンは培地中に検出されず、このことはTNMTは、高度に効率的で100%の変換効率に達することができることを示唆する。
【0185】
プロトピン合成の最終工程は、チトクロムP450である(S)-シス-N-メチルスチロピン14-ヒドロキシラーゼ(MSH)による、(S)-シス-N-メチルスチロピンのヒドロキシル化である。チトクロムP450のための最適化技術をMSH発現に適用し、この技術には、安定な構築物(この場合YAC)からの発現、および、ATR1レダクターゼパートナーとの対形成が含まれる。指定された構築物を有する株に2mMのノルラウダノソリンをフィードし、25℃で96時間増殖させた。プロトピンの産生が、標準および報告されているフラグメンテーションパターンに対する、溶出時間およびフラグメンテーションパターンの比較を通して確認された(図14c)。データは、MSHが高度に効率的な酵素であり、よって、最適化されたプロトピン産生株はプロトピンを産生し、シス-N-メチルスチロピンからプロトピンへの変換を達成することを示す。
【0186】
図14は、異種プロトピン生合成経路の操作を示す。(A)最適化された酵素工程が強調されている、ノルラウダノソリンからプロトピンへの転換を示した図。破線の矢印は、複数の酵素工程を示す。図の表示は、図11に示されたものに従う。(B)2mMのノルラウダノソリンがフィードされかつ96時間増殖させた酵母株の増殖培地のLC-MS分析を実施した。LC-MSトレースは、ベクター対照株はスチロピン(ピーク5、m/z=324)を産生するが、m/z=338または354 EICにはピークが全くないことを示す。TNMT酵素が発現されると、ピークがm/z=338 EIC(ピーク6)に検出され、フラグメンテーション(MS-MS)は、代謝物の実体がシス-N-メチルスチロピンであることを確認する。(C)MSHが添加されると、ピークがm/z=354 EICに検出され、これはプロトピン標準物質と同じ時間に溶出し、プロトピン標準物質のフラグメンテーション(MS-MS)は、ピーク7(m/z=354)のフラグメンテーションに一致し、代謝物の実体がプロトピンであることが確認される。LC-MSトレースは少なくとも3回の独立した実験の代表であった。
【0187】
5. プロトベルベリンおよびプロトピンアルカロイド産生のための培養条件の最適化
より多くのケイランチホリンまたはスチロピンを産生するために、チトクロムb5を過剰発現してチトクロムP450の活性を最適化するように酵母株を構築した。CFSおよびSTSと共にチトクロムb5。チトクロムb5が過剰発現されたまたは過剰発現されていない宿主細胞からのケイランチホリンおよび/またはスチロピンの産生を測定した。培養物をノルラウダノソリンの存在下で増殖させ、培地中の産物をLCMSを用いて検出した。データは、いくつかの場合において、ケイランチホリン(例えばAmCFSを用いて)および/またはスチロピン(例えばEcCFS/AmSTSを用いて)のレベルは、チトクロムb5が発現されている場合に増加することを実証する。
【0188】
より多くのプロトベルベリンアルカロイドを産生するために、酵母株を、小胞体ストレス応答および小胞体(ER)増殖に関連した遺伝子を欠失させてBIAの産生を改善することによって最適化する。遺伝子欠失の例としては、IRE1、HAC1、OPI1、INO1、INO2およびINO3が挙げられる(表3)。チトクロムP450の発現は、小胞体ストレス応答を誘導し、ERの増殖を引き起こす。これらのストレス応答に関連した遺伝子の欠失は、宿主細胞に対する全体的な負荷を制御または低減することができ、経路の成績を改善することができる。
【0189】
宿主株内の多面的薬物応答に関与する遺伝子(ATP結合カセット(ABC)輸送体、多剤耐性(MDR)ポンプおよび関連転写因子を含む)を欠失させて、培養培地中へのBIA分子の搬出を減少させる。遺伝子の例としては、PDR1、STB5、PDR3、PDR5、SNQ2、YOR1、TPO1、TPO2、TPO3、TPO4、PDR10、PDR11、PDR15、PDR16、PDR17、QDR1、QDR2、QDR3、FLR1、AQR1、AQR2およびCIN5が挙げられる。遺伝子の欠失は、単一の欠失または任意の組合せの複数の欠失を含む。
【0190】
輸送体ノックアウトにおけるBIAの産生
細胞膜を横断する化合物の輸送に関与する様々なタンパク質の改変を有する宿主細胞からのレチクリン、スコウレリン、ケイランチホリン、およびスチロピンの産生の測定を実施した:dPDR1、dPDR5、dsNQ2、dYOR1、dPDR3、dClN5およびdPDR1dPDR3ノックアウトを、WT対照と比較した。培養物を、ノルラウダノソリンの存在下で増殖させ、培地中の産物を96時間増殖させた後にLCMSを用いて検出した。データは、いくつかの改変(例えば欠失)が、他よりもより高いレベルのレチクリン、スコウレリン、ケイランチホリン、またはスチロピンを産生することを実証する。
【0191】
多面的薬物応答に関与する遺伝子(ATP結合カセット(ABC)輸送体、多剤耐性(MDR)ポンプおよび関連転写因子を含む)を、調節された(誘導性または増殖期依存性)プロモーター下に配置して、BIA輸送の時間的制御を行なう。一例は、重要な輸送体遺伝子を静止期プロモーターの制御下に置くことであり、これによりBIAは静止期まで細胞内に留まり、これにより出発物質が最終産物へと変換される確率が高くなる。
【0192】
4. 方法
a. プラスミドおよび酵母株の構築
オリゴヌクレオチドを、慣用的な方法を使用して合成した。クローニングを、化学的にコンピテントな大腸菌(TOP10, LifeTech, F- mcrA Δ(mrr-hsdRMS-mcrBC) φ80lacZΔM15 ΔlacX74 nupG recA1 araD139 Δ(ara-leu)7697 galE15 galK16 rpsL(StrR) endA1 λ-)を用いて実施した。大腸菌を、適切な抗生物質(100μg/mLのアンピシリン(EMD Chemicals)または50μg/mLのカナマイシン(EMD Chemicals))を含むルリア・ベルターニ培地(EMD Chemicals)中で培養した。スピンカラムを使用して、製造業者の説明書(Epoch Life Science)に従って大腸菌培養物からプラスミドを精製した。配列決定をElim Biopharmaceuticals (Hayward, CA) によって実施した。本研究において記載されたS.セレビシエ株は全て、W303α (MATα leu2-3,112 trp1-1 can1-100 ura3-1 ade2-1 his3-11,15)から得られる。標準的な酢酸リチウムプロトコールを酵母の形質転換のために使用した。酵母を、プラスミド維持のためのおよび2%デキストロース(w/v)が補充された、YPDまたは適切な合成ドロップアウト培地のいずれかにおいて培養した。
【0193】
EcCFS (BAG75113)、EcCPR (AAC05022)、EcSTS (BAD98250)およびAmSTS (ABR14721)に対応する遺伝子配列を酵母のコドンに最適化し、DNAWorks (Hoover, D. M. & Lubkowski, J. DNAWorks: an automated method for designing oligonucleotides for PCR-based gene synthesis. Nucleic Acids Res. 30, e43 (2002))を用いて設計されたオリゴヌクレオチドから組み立てた。AmCFS (ABR14722)、PsCFS (ADB89213)、PsSTS (ADB89214)およびPsMSH (AGC92398)を酵母のコドンに最適化し、GeneArt (Life Technologies)によって合成した。
【0194】
本研究において記載された殆どの酵母発現ベクターは、Gateway Cloning Technology (Life Technologies)を用いて構築された。酵素を、PfuUltraII Fusion HS DNAポリメラーゼ(Life Technologies)またはExpand High Fidelityポリメラーゼ(Roche)を使用してPCR増幅し、QIAquick PCR精製キット(Qiagen)を使用してクリーンアップし、BP clonase IIおよびpDONR221ベクター(Life Technologies)を使用してTOPOクローニングまたはBP組換え反応のいずれかによってpENTRベクターにクローニングした。続いて全ての遺伝子を、Lindquist lab(Addgeneから入手可能)(Alberti, S., Gitler, A. D. & Lindquist, S. A suite of Gateway(登録商標) cloning vectors for high-throughput genetic analysis in Saccharomyces cerevisiae. 913-919 (2007). doi:10.1002/yea)からの選択されたpAG発現ベクターに、LR clonase II(Life Technologies)を使用して組み込んだ。様々なプライマーおよびプラスミドを本研究に使用した。EcCFSと共に様々なプロモーターを試験するアッセイのために、pCS2238をSacI/SpeIを用いて消化し、GPDプロモーターを除去し、TEF1、PGK1、TPI1またはHXT7プロモーターを標準的なライゲーション技術を使用してこの部位にライゲートした。
【0195】
酵母人工染色体(YAC)を、GeneArt Higher Order Genetic Assembly System (Life Technologies)を用いて構築した。DNAフラグメントを、DNA Designer for Higher Order Genetic AssemblyおよびExpand High Fidelityポリメラーゼ(Roche)を用いて設計されたプライマーを使用してPCR反応によって作製した。DNAフラグメントを、QIAquick PCR精製キット(Qiagen)を用いてクリーンアップし、100ngの各DNAフラグメントおよび鎖状pYES1Lベクターを、電気穿孔法を介して、適切な上流の酵素を含有する操作された酵母株へと形質転換した。組み立てたYACを製造業者の説明書に従って酵母細胞から回収した。
【0196】
染色体への組込みのために、関心対象の遺伝子をLR clonase II(Life Technologies)を使用してpCS2643またはpCS2644に組込み、完全な組込みカセット(遺伝子発現カセットおよび選択マーカー)を適切な組込み用プライマーおよびExpand High Fidelityポリメラーゼ(Roche)を使用してPCR増幅し、相同な約80ヌクレオチドを付加した。2つの100μLの反応液からのPCR産物をエタノールで沈降させ、標準的な酢酸リチウム手順を使用して酵母に形質転換した。組込みは、標的化遺伝子座と発現カセットの接合部にかけてのPCRスクリーニングを通して確認された。組込み選択マーカーは、選択マーカーのレスキューを容易にするためにloxP部位に隣接し、株を、CREリコンビナーゼ(Guldener et al. A new efficient gene disruption cassette for repeated use in budding yeast. Nucleic Acids Res. 24, 2519-24 (1996))の発現をコードするpCS277(pSH63)を用いて形質転換した。株を、YPD中、36時間かけて、12時間毎に100倍の戻し希釈(back-dilution)を行なって増殖させ、その後、蒔いて1つのコロニーとした。選択マーカーのおよびプラスミドの消失は、適切な選択培地上でコロニーを再度画線培養することによって確認された。
【0197】
b. 共焦点顕微鏡を用いた生細胞におけるP450の局在の画像化
酵母細胞培養物を、選択培地 3mL中に接種し、8~12時間増殖させ、およそ0.1のOD600とした。培養物 1mLを6000rpmで30秒間かけてペレット化し、上清を廃棄し、細胞を25~50μLの培地中に再懸濁した。培養物 1~3μLを、適切なドロップアウト培地を用いて作製された2%アガロースパッド上にのせて、栄養分を細胞に与えて、生細胞の画像化を容易とした。生酵母細胞を、倍率63.0のグリセリン液浸対物レンズの具備されたLeica SP5 multiphoton/共焦点顕微鏡を用いて画像化した。
【0198】
c. アッセイのための増殖条件
一晩酵母培養物を、3mLの試験管培養物中の2%デキストロース(w/v)を含むドロップアウト培地中で開始し、30℃で260rpmで増殖させるか、または、AeraSealフィルムで覆われたディープウェル96ウェルプレート中の500μLの培養物中で開始し、Kuhner Lab-Therm LX-T 96ウェルプレート振とう機中、30℃で480rpmで湿度80%で増殖させた。
【0199】
一晩培養物を、2~4mMのノルラウダノソリンが補充された適切なドロップアウト培地中に75~100倍に戻し希釈した。より具体的には、いくつかのアッセイを、AeraSealフィルムで覆われたディープウェル96ウェルプレート中の500μLの培養物中で実施し、Kuhner Lab-Therm LX-T 96ウェルプレート振とう機中、30℃で480rpmで湿度80%で増殖させた。他のアッセイは、New Brunswick Scientific I24 振とうインキュベーター中、25℃、260rpmで125mLのバッフル付フラスコ中で増殖させた培養物 5mLを使用して実施された。特に記載のない限り、培養物は、戻し希釈後、96時間サンプリングした。
【0200】
e. 代謝物産生の分析
酵母培養物のアリコートを、6000rpmで10分間遠心分離にかけ、増殖培地試料をLC-MS/MSによる分析のために採取した。試料を、溶媒Aとしての0.1%酢酸および溶媒Bとしての0.1%酢酸を含むメタノールを用いて、Agilent ZORBAX SB-Aq 4.6x50 mm、5μmのカラムに流した。関心対象の代謝物の分離のための以下の方法を、0.5mL/分の一定の流速で使用した: 0~1分、0%から27.5%のB; 1~2分、27.5%のB; 2~8分、27.5%から60%のB; 8~8.5、35から100%のB; 8.5~14分、100%のB; その後、0%の溶媒Bで6分間かけて平衡化。HPLCによる分離後、代謝物を検出および同定のためにAgilent 6320イオントラップ質量分析計に注入した。
【0201】
代謝物の定量は、6300シリーズイオントラップLC/MS version 3.4 (Bruker Daltonik GmbH)についてのデータ分析を使用して計算された抽出イオンクロマトグラムピークの積分ピーク面積に基づき、平均値±標準偏差として報告された。本発明者らは、レチクリン、スチロピンおよびベルベリンについての標準曲線を作成し、最も類似した標準的な化学構造を使用して、標準物質が入手できない中間体の濃度を推定した。
【0202】
III. プロトベルベリン産生酵母株
培養培地中に存在する既存の操作された株によって産生されたかまたは細胞溶解液もしくは溶解液画分に導入された(S)-スコウレリンまたはその前駆体から、中間体またはその最終産物として(S)-テトラヒドロコルンバミン、(S)-カナジン、およびベルベリンを含むプロトベルベリンアルカロイドを産生する、S.セレビシエ株を開発した。より具体的には、これらの株は、(S)-スコウレリン9-O-メチルトランスフェラーゼ(S9OMT)、(S)-カナジンシンターゼ(CAS)、(S)-テトラヒドロプロトベルベリンオキシダーゼ(STOX)の任意の組合せを発現する。
【0203】
操作された酵母株によって産生されるプロトベルベリンアルカロイドの構造は上記されており、-Rは、-H、-CH3、-OH、または-ORであり得る。これらのプロトベルベリンアルカロイドは、培養培地中に存在する既存の操作された株によって産生されたかまたは細胞溶解液もしくは溶解液画分に導入された、レチクリンまたは他の類似の化学種から産生される。これらの株は、次の酵素の任意の組合せを発現し得る:ベルベリンブリッジ酵素(BBE)、スコウレリン9'-O-メチルトランスフェラーゼ(S9OMT)、カナジンシンターゼ(CAS)、およびS-テトラヒドロプロトベルベリンオキシダーゼ(STOX)。
【0204】
図5は、操作された酵母株によって支援された異種生合成経路を示す。STOX遺伝子は、天然に存在するヒロハコガネメギの(S)-テトラヒドロプロトベルベリンオキシダーゼ遺伝子と78%の核酸配列同一性を共有する(表2)。この遺伝子は、酵母における発現のためにコドンが最適化された、非天然ヌクレオチド配列である。
【0205】
図6は、酵母培養物中のプロトベルベリン産生に対するエピソーム遺伝子コピー数の効果を示す。酵素のための好ましい発現レベルはBBE、CASおよびSTOX(図6a)について比較的低く(例えばCEN/ARSベクターまたはゲノム発現)、S9OMT(図6b)については比較的高い(例えば2μmのベクターまたは複数のゲノムコピー)。発現レベルは、構成的プロモーターの強度を変化させることによって、誘導性プロモーターを使用することによって、エピソームまたはゲノムの各遺伝子のコピー数を変化させることによって(図6c)、選択マーカーを変化させることによって、および/またはプロモーター活性もしくは選択に対応する培養条件によって、変化させることができる。
【0206】
プロトベルベリン産生に対するエピソーム遺伝子コピー数の効果を、酵母培養物中で実施されたアッセイによって決定した(図6)。(a)CASについては、4mMのノルラウダノソリンを、マルチコピー2μmプラスミドまたはシングルコピーCEN/ARSプラスミドのいずれかから発現されたCASを含むテトラヒドロコルンバミン産生株の培地に加えた。STOXについては、250μMのカナジンを、マルチコピー2μmプラスミドまたはシングルコピーCEN/ARSプラスミドのいずれかから発現された株の培地に加えた。(b)4mMのノルラウダノソリンを、列挙されたプラスミドを発現しているスコウレリン産生株の培地に加えた。両方の実験について、72時間の増殖後、酵母を遠心分離によってペレット化し、培地をLC-MSによって分析した。陽イオンエレクトロスプレーイオン化(ESI)マススペクトルを、Agilent Zorbax SB-Aqカラム(3.0 x 50 mm 1.8μm)およびAgilent Zorbax SB-Aqガードカラム(2.1 x 12.5 mm 5μm)の具備されたAgilent 1200シリーズHPLCに連動させたAgilent 6320イオントラップ(エレクトロスプレキャピラリー電圧-3.5kV;加熱キャピラリー温度350℃:シースガス:窒素)を用いて得た。LC分離法は、0.6mL/分の流速で、H20を用いて1分間の均一溶媒での溶出、3分間かけてH2O:CH3OH 75:25までの勾配溶出、1分間かけて100% CH3OHまでの勾配溶出、および最後に4分間かけて均一溶媒での溶出であった。どちらの溶媒も0.1%酢酸であった。産物についての抽出イオンクロマトグラムと分子イオンについての抽出イオンクロマトグラムをプロットし、手作業で積分した。エラーバーは3回の生物学的再現実験の標準偏差である。(c)コピー数は発現レベルとランキング順に相関している。試料を、Kushnirov et al. (2000). Yeast 16, 857-860(これはその全体が参照により組み入れられる)によって記載のような指定されたプラスミドを含む酵母株の一晩培養物から調製した。SDS-PAGE後、タンパク質をニトロセルロース膜に転写し、これを5%BSA中で1時間かけてブロッキングし、その後、HRPコンジュゲート抗HA抗体を用いて一晩かけて探索した。膜を、増強化学発光HRP基質とのインキュベート後に画像化した。
【0207】
CAS活性に対するチトクロムP450-NADPHレダクターゼパートナーの効果を調べた(図6d)。チトクロムP450レダクターゼATR1とCASの共発現により、ハナビシソウCPR、シロイナズナATR2、P.ソムニフェルムCPR、または内在性酵母CPRよりも高いCAS活性がもたらされた。アッセイを、マルチコピープラスミドからCASを発現している酵母において4mMのノルラウダノソリンを用いてインビボで実施した。陽イオンエレクトロスプレーイオン化(ESI)マススペクトルが、本明細書に記載のように得られた。産物の標準分子イオンについての抽出イオンクロマトグラムをプロットし、手作業で積分した。データをCPRの非存在下で1となるように標準化した。
【0208】
酵母培養物中のSTOXの機能的発現が観察された。アッセイを、CEN/ARSプラスミドからSTOXを発現している酵母において250μMのカナジン(m/z=340)を用いてインビボで実施した。陽イオンエレクトロスプレーイオン化(ESI)マススペクトルが図6に記載のように得られた。ベルベリン産物(m/z=336)および1μMのベルベリンの標準分子イオンについての抽出イオンクロマトグラムをプロットし、6300シリーズイオントラップLC/MS v. 3.4のデータ分析において、デフォルトのスムージング幅で1サイクルのためにガウスプロセシングツールを使用してスムージングした。
【0209】
酵母細胞内のBIAの蓄積を増強するために、異種輸送体、例えばBIA産生植物に由来する植物ATP結合カセットタンパク質を、操作された株において発現させる。これらの輸送体は、CjABCB1、CjABCB2および/またはCjABCB2であり、酵母細胞内でベルベリンを蓄積するように作用する。
【0210】
図7は、ノルラウダノソリンからのベルベリンのインビボでの産生を示す。YACからSOMT、CAS、BBEおよびSTOXを発現し、高コピー2μmプラスミド上に第2のコピーのSOMTを有し、ATR1が組み込まれ、かつノルラウダノソリンからレチクリンへと変換するための3種類の酵素が組み込まれた宿主細胞の培養物から、レチクリン、スコウレリン、テトラヒドロコルンバミン、カナジン、およびベルベリンの産生が実証された。アッセイを、酵母培養物中で4mMのノルラウダノソリンを用いて96時間実施した。培地中の産物を図6に記載のようにLC-MSによって同定した:レチクリンm/z330、スコウレリンm/z328、テトラヒドロコルンバミンm/z342、カナジンm/z340、およびベルベリンm/z336。m/z336についてのMS/MSスペクトルは、産物5がベルベリンであることを実証する。なぜなら、このスペクトルは、ベルベリン標準物質のスペクトルと一致したからである。
【0211】
IV. テバイン産生酵母株
培養培地中に存在する既存の操作された株によって産生されたかまたは細胞溶解液もしくは溶解液画分に導入されたサルタリジンまたはその前駆体から中間体またはその最終産物としてテバインを産生する酵母株が操作された。より具体的には、これらの株は、サルタリジンレダクターゼ(SalR)およびサルタリジノール7-O-アセチルトランスフェラーゼ(SalAT)の任意の組合せを発現する。
【0212】
図8は、操作された酵母株によって支援される異種生合成経路を示す。
【0213】
図9は、操作された酵母の粗溶解液中におけるサルタリジンからテバインへの変換を示す。サルタリジンからテバインの産生をもたらす、SalRおよびSalATの両方の機能的発現は、イオン数(EIC)m/z=312ピーク面積をモニタリングすることによって観察された。ハカマオニゲシSalRを含有する株は、P.ソムニフェルムSalRを含有する株よりも多くのテバインを産生した。F104AまたはI275A突然変異を有するSalRを含有する株は、これらの突然変異を有しないSalRを含有する株よりも多くのテバインを産生した。酵素の組合せはまた、表2に列挙された任意のSalATのコドン最適化変異体を含み得る。アッセイを、ゲノムからSalRおよびSalATを発現している酵母の粗溶解液中の100μMのサルタリジンおよび50μMのNADPHを用いて実施した。陽イオンエレクトロスプレーイオン化(ESI)マススペクトルが、図6に記載されているように得られた。産物の標準分子イオンの抽出イオンクロマトグラムをプロットし、手作業で積分した。
【0214】
SalAT遺伝子は、その天然に存在する対応物と80%以下の核酸配列同一性を共有する(表3)。これらの遺伝子は、酵母における発現のためにコドンが最適化された非天然ヌクレオチド配列である。
【0215】
SalRおよびSalATによって触媒されるサルタリジンからテバインへの変換は、補因子NADPHが補充された、両方の酵素を発現している酵母株の粗溶解液中で起こる(図9)。
【0216】
SalATおよびSalRをまた、テバインが前駆体である産物を株が産生するように、追加の酵素を発現している操作された株においても発現される。例えば、該株は、オリパビン、モルヒネ、コデイン、ヒドロモルホン、ヒドロコドン、オキシコドン、および/またはオキシモルホンを産生し得る。
【0217】
SalRおよびSalATによって触媒されるサルタリジンからテバインへの変換は、増加した量のNADPHを産生するように改変された操作された酵母株において起こる(表2)。
【0218】
酵母株は、酵母細胞内の細胞小器官にSalRおよび/またはSalATを局在化させることによって、レチクリンまたはその前駆体からの、サルタリジノールもしくはテバインまたはテバインが前駆体である産物の産生を増加させるように操作される。例えば、SalRおよび/またはSalATは、SalRおよび/またはSalATと、レチクリンからサルタリジンへの変換を触媒するCYP2D6またはSalSynまたは操作されたチトクロムP450酵素との間の空間的距離を減少させるために、酵母小胞体レチクリンに局在化させてもよい。
【0219】
V. オピエート産生酵母株
A. 実施例1
1. 序論
以下の章は、オピエート生合成の最終工程を支援する酵母の産生および特徴付けを説明し、これにより、天然のオピエートおよび半合成オピオイドを産生することのできる株が得られる。本明細書に記載の結果は、微生物宿主への植物生合成経路の導入時の天然の調節戦略の消失により、所望ではない副産物に向かう流れを方向付ける新規な経路の分岐がもたらされ得ることを強調する。経路の特異性を再建および制御するために、酵素を特定の天然の細胞区画へと方向付ける、一般的な細胞小器官ルーティングツールキットを作製した。このツールキットは、植物経路酵素を酵母内膜に活発に非局在化させるための新規な空間的操作アプローチに使用され、よって、副産物のネオモルヒネに対するモルヒネの産生の特異性は44%から96%までに増加した。異種モルヒネ生合成は、補助基質の2-オキソグルタル酸の供給を増加させ、遺伝子コピー数の量を漸増させて、経路の流れのバランスを取ることによってさらに最適化された。細菌酵素を異種経路内に取り込むことによって、本発明者らは、典型的には天然オピエートの化学的修飾によって産生される、51mg/Lまでのヒドロコドン、70mg/Lまでのオキシコドンおよび1mg/Lまでのヒドロモルホンを含む、一連の価値ある半合成オピエートの生合成を実証した。最適化され操作された酵母株は、31~132mg/Lの全オピオイド産物を産生し、これは、天然および半合成オピオイドを医薬品産業に供給するための微生物バイオマニュファクチュアリングプラットフォームの開発を実証する。
【0220】
2. 結果
a. 酵母におけるモルヒネ生合成経路の構築
テバインからのモルヒネの生合成は、P.ソムニフェルムにおける3種類の酵素によって触媒される:2-オキソグルタル酸/Fe2+依存性ジオキシゲナーゼT6ODMおよびCODM、ならびにNADPH依存性アルド・ケトレダクターゼCOR。これらの酵素は、テバインからモルヒネへの2つの生合成経路を形成する。1つの経路は、(i)非酵素的な転位を含み、中間体のネオピノン、コデイノン(1)、コデイン(2)、およびモルヒネ(4)を生成する(図15)。T6ODMおよびCODMの報告されている基質親和性に基づいて、これは、ポピーにおける優先的な経路である。マイナーな経路は(ii)モルヒネへの中間体として、オリパビンおよびモルフィノンを生成する(図15)。
【0221】
図15は、酵母における異種モルヒネ生合成経路の操作を示す。図は、ケシのp.ソムニフェルム由来のモルヒネ生合成酵素(テバイン6-O-デメチラーゼ(T6ODM)、コデインO-デメチラーゼ(CODM)、およびコデイノンレダクターゼ(COR))による観察されたテバインの転換を示す。中間体のコデイノンおよびコデイン(経路i)ならびにオリパビンおよびモルフィノン(経路ii)を経由するモルヒネへの2つの経路がケシにおいて起こる。経路(i)およびネオモルヒネへの新規に同定された経路(iii)は、異種の酵母細胞において起こり、このことはCORおよびCODMに対するより幅広い基質範囲を実証する。
【0222】
S.セレビシエにおけるモルヒネ生合成経路を再構築するために、本発明者らは、各々独特な酵母プロモーターおよびターミネーターに隣接した、単一の酵母人工染色体(YAC)ベクター(pYES1L)中に組み立てられた、酵母のコドンに最適化されたT6ODM、COR1.3およびCODMを発現させた。4つの特徴付けられたP.ソムニフェルムCORアイソフォームから、COR1.3が選択された。なぜなら、それはコデイノンに対する最も高い親和性を有していたからである。この株をテバインと共に96時間培養した後、本発明者らは、培養培地中にコデイノン、コデインおよびモルヒネを観察し、このことは、これらの異種植物酵素が、酵母におけるオピエートの転換を触媒することができることを実証する(図15)。しかしながら、検出されたオピエートレベルは低く、モルヒネの産生は0.2mg/Lという低さであり、このことは変換効率を高めるために最適化努力が必要とされることを示唆する。ネオピノンはこのアッセイでは検出されなかった。なぜなら、この中間体は不安定であり、実験の経過中にコデイノンへと転位するからのようである。
【0223】
培養培地中に検出されたさらなるオピエートは、天然系および異種系に観察された生合成経路間の差を示した。植物に観察されたモルヒネへのマイナーな経路からの中間体(オリパビンおよびモルフィノン)は、操作された酵母株においては検出されず、このことは、その代替的な基質に対するこれらの各酵素の低い活性が検出可能なレベルを妨げたことを示唆する。しかしながら、2つの他の産物が、コデインおよびモルヒネと同じような量で観察された。最初のものはコデインと同じ質量/荷電(m/z)比を有し、MS/MS分析によってネオピン(3)であると決定された。ネオピンは、T6ODMの直接的な産物であるネオピノンに対するCORの活性によって産生され得、その前に、それは転位してコデイノンとなる(図15)。二番目の未知の産物はモルヒネと同じm/z比を有し、CODMによって触媒されたネオピンの脱メチル化によって産生されたネオモルヒネ(5)であると決定された。それ故、分析により、操作された酵母株における、新規であるが望ましくないオピエート経路(iii)が明らかとなった(図15)。
【0224】
b. モルヒネ生合成のための補助基質2-オキソグルタル酸の供給の増加
重要な補助基質である2-オキソグルタル酸の供給が、異種モルヒネ生合成経路において限られているかどうかを調べた。ジオキシゲナーゼT6ODMおよびCODMは、それぞれテバインおよびコデインの酸化的脱メチル化において1つの酸素原子を受け入れるために2-オキソグルタル酸を必要とする。従って、2-オキソグルタル酸の供給の増加が、本発明者らの操作された生合成経路に至る流れを増強するかどうかを調べた。
【0225】
内因的な酵母の窒素代謝において、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)酵素は、グルタミン酸および2-オキソグルタル酸の相互変換を触媒する(図16)。従って、グルタミン酸の供給の増加は、細胞内2-オキソグルタル酸のプールを増加させることができる。一般的な窒素源であるグルタミン酸一ナトリウム(MSG)を酵母培養培地中に少しずつ加えた。グルタミンを、窒素源として培養培地に含めることにより、培養物では窒素が制限されていないことを確実とし、従って、MSG補充による正の増殖効果を防ぐ。MSGレベルの変化による、最終的な細胞密度の差は観察されなかった。MSG濃度を0から2.5g/Lまで増加させると、0.24から0.45mg/Lへのモルヒネ産生の増加が、96時間の増殖後に観察された(図16b)。
【0226】
次に、培養培地への補助基質2-オキソグルタル酸の直接的な添加が、経路に至る流れをさらに増強するかどうかを調べた。2-オキソグルタル酸を、100mMの濃度まで培養培地中に少しずつ加えた。2.5g/LのMSGに加えて、この補助基質の直接的な供給は、2.5mg/Lまでモルヒネの力価を増加させ、標準培地中で観察された力価を10倍以上上回った(図16b)。全てのその後のオピエート産生培養物を、0.5g/Lのグルタミン、2.5g/LのMSG、および50mMの2-オキソグルタル酸の補充された、この最適化された培養培地中で増殖させた。
【0227】
図16は、増強された補助基質の2-オキソグルタル酸の供給は、モルヒネ生合成力価を増加させることを示す。(a)酵母代謝において、2-オキソグルタル酸は、トリカルボン酸(TCA)サイクルおよび窒素同化に関与し、そこではそれはグルタミン酸デヒドロゲナーゼGdh1p、Gdh2pおよびGdh3pの活性によりグルタミン酸へと可逆的に変換される。(b)窒素塩基として0.5g/Lのグルタミンを含有する合成完全培地に、2.5g/Lまでのグルタミン酸一ナトリウム(MSG)を、その後、100mMまでの2-オキソグルタル酸を補充した。pYES1LベクターからT6ODM、COR1.3およびCODMを発現している酵母株(CSY907)を、指定された培養培地組成で1mMのテバインと共にディープウェルプレート中で96時間かけて培養した。モルヒネ産生レベルを、培養培地のLC-MS分析によって決定した。エラーバーは、3回の生物学的再現実験の±1SDを示す。
【0228】
c. 酵素発現レベルのバランスを取ることにより、モルヒネ力価を増加させる
次に、相対的酵素発現レベルの最適化は、モルヒネに至る経路の流れを増加させるかどうかを調べた。COR酵素は、モルヒネ生合成におけるコデイノンからコデインへの可逆的還元を触媒する。CORはまた、酵母におけるネオピノンからネオピンへの可逆的な還元を触媒する(図15)。これらの可逆反応の存在は、コデインおよび結果としてモルヒネの産生に向けての経路の流れが、経路の酵素の発現レベルの漸増によってさらに増加され得ることを示唆した。
【0229】
T6ODM、COR、およびCODMの発現レベル周辺のコンビナトリアル設計空間を調べるために、各酵素についての遺伝子コピー数を変化させた株を構築した。全ての株において、1コピーのT6ODM、COR、およびCODMをYACベクターから発現させた。1つまたは複数の遺伝子の追加のコピーを、構成的GPDプロモーターと共に、宿主細胞ゲノムの栄養要求遺伝子座に組み込んだ。株を、96ウェルプレート中の、最適化培地(0.5g/Lのグルタミン、2.5g/LのMSG、および50mMの2-オキソグルタル酸)中1mMのテバインと共に96時間培養した。モルヒネおよびネオモルヒネ力価を、YACベクターのみを含む対照株(T6ODM:COR:CODMの遺伝子比1:1:1)と比較した。
【0230】
経路遺伝子のコピー数の変化は、全オピエートの力価ならびに相対的なモルヒネおよびネオモルヒネのレベルを変化させた。CORのみのコピー数の増加(例えば1:3:1)またはT6ODMと共に増加(例えば2:2:1)させると、モルヒネの産生は減少したが、ネオモルヒネの産生は増加し、よって、全オピエート産生量は類似していたが、最終産物の比において異なっていた(図17)。例えば、対照1:1:1株は、2.5mg/Lのモルヒネおよび3.7mg/Lのネオモルヒネ、合計で6.2mg/Lの最終産物オピエートを産生した。対照的に、1:3:1株は、2.0mg/Lのモルヒネおよび4.1mg/Lのネオモルヒネを産生し、モルヒネとネオモルヒネの比は異なっていたが、全体の最終産物の力価は類似していた。設計空間内での他の遺伝子コピー数の組合せは、モルヒネおよび全最終産物の力価における増加をもたらした。例えば、増加したCODMコピー数は、モルヒネおよびネオモルヒネの両方のより高い産生レベルをもたらした(図17)。この効果は、T6ODMの追加の遺伝子コピーによって増強され、よって、T6ODM:COR:CODMの関心対象の1つの比は2:1:3であり、これは、5.2mg/Lのモルヒネおよび4.8mg/Lのネオモルヒネ、合計で10.0mg/Lの最終産物オピエートを培養培地中に産生した(図17)。
【0231】
モルヒネ力価と遺伝子コピー数の比との間の観察された関係は、操作された株における2つの改善機序を示唆した。第一に、最終酵素CODMの追加の遺伝子コピーの提供は、例えば、コデインおよびネオピンからそれぞれモルヒネおよびネオモルヒネへの変換速度を増加させ、従って、可逆的なCOR反応の正方向の速度を増加させることによって産生された、最終産物の総量を増加させた。第二に、全最終産物の力価を改善させた発現レベルの変化はまた、副産物のネオモルヒネを上回る、標的遺伝子産物モルヒネに対する特異性も改善した。具体的には、低収率の1:3:1の株においてはモルヒネは全最終産物オピエートの33%を構成したが、高収率の2:1:3の株においてはモルヒネは52%を構成した。経路変換効率の分析は、CODMが基質としてコデインを好み、従って、高コピー数のモルヒネ産生経路に偏ることを示した。バランスの取れたコピー数の株のいくつかの場合において、標的ではないネオモルヒネは依然として最終産物のほぼ半分を占めた。
【0232】
d. 局在化ツールキットを開発および実施することにより、経路特異性を改善する
より初期の操作努力は、潜在的なモルヒネ収量のほぼ半分が、所望ではない副産物のネオモルヒネへと逸れ(図18)、経路の特異性が重要な操作上の課題となっていることを示した。操作された経路間の変換効率を調べ、その結果モルヒネから標的ではないネオモルヒネへの分岐の1つの原因は、T6ODMおよびCORによって触媒される反応間の途中の自発的な工程であると決定された。T6ODMおよびCORが細胞内で空間的に離れている操作戦略は、間に起こるネオピノンからコデイノンへの自発的な転位のための追加的な時間を与え得る(図18)。具体的には、CORを酵母細胞小器官に隔離することによって、この酵素が、細胞質内T6ODMによって産生されるネオピノンに近づくことを制限することが可能となり、このことは、ネオピノンに、コデイノンへと転位し、最終的にはモルヒネへと変換されるための追加的な時間を提供する。
【0233】
この特異性の課題に取り組み、酵母における空間的な操作アプローチをより広範に可能とするために、モジュラー細胞小器官ルーティングツールキットを開発した。ツールキットは、内在性酵母タンパク質から得られた6つの認証された局在タグから構成される。これらのタグは、様々な酵母細胞小器官(小胞体(ER)、ミトコンドリア(MT)、形質膜(PM)および液胞(V))に至る(図21a、b)。ERルーティングタグER1、液胞タグV1、および形質膜タグP1を、尾部アンカー型のタンパク質クラス内の3つのタンパク質に由来する膜貫通ドメインに基づいて開発した。これらの31~35アミノ酸タグは、標的タンパク質の転写後局在を方向付けるのに十分であり、よって、C末端は割り当てられた細胞小器官の内膜に挿入され、タンパク質は細胞質へと伸展する。細胞小器官内部の環境に近づけるために、ER2と呼ばれる第二のERルーティングタグが、膜内在性タンパク質カルネキシンの28アミノ酸の膜貫通ドメインに基づいて設計された。ER内腔(ER3)およびミトコンドリアマトリックス(MT1)内に遊離してタンパク質を局在化させるための2つの追加の配列を、それぞれ確立されたERおよびミトコンドリアのマーカーであるKAR2-DsRed-HDELおよびCOX4-mCherryから採用した。標的化局在を確認するために、細胞小器官ルーティングツールキットの各メンバーをGFPに融合させ、共焦点顕微鏡によって調べた(図18b)。
【0234】
細胞小器官ルーティングツールキットをモルヒネ経路におけるCOR酵素に適用して、経路酵素の物理的非局在化が、所望の産物(モルヒネ)への流れを増加させ得、かつ、所望ではない産物(ネオモルヒネ)への流れを減少させ得るかどうかを決定した。COR1.3がタグ化されておらず、従って、T6ODMおよびCODMと共に細胞質(CYT)に局在化した対照株は、96時間の増殖後に44%の特異性で2.5mg/Lのモルヒネを産生した(図19)。細胞小器官ルーティングツールキットを使用して、各局在タグをCORに融合させてこの酵素を種々の細胞区画へと活発に向かわせた場合、モルヒネについての増加した特異性(所望の産物の相対的な産生)および力価(所望の産物の絶対産生レベル)が観察された。細胞質に面しているER(ER1タグ)および液胞(V1タグ)へのCORの局在化により、約3.5mg/Lの高いモルヒネ力価を有する株が得られた。対照的に、ER内腔に局在化したER3でタグ化されたCORを有する株は、モルヒネに対してほぼ100%の特異性を有していたが、1mg/L未満の低下した力価であった。ER2タグと共にER内腔へのCORの局在化は、増強された収率および特異性のバランスを与え、結果として、86%の特異性で3.1mg/Lのモルヒネ力価がもたらされ、これは続く実験へと進展させた。
【0235】
表5(以下)は、細胞小器官ルーティングツールキットを示す。モジュラー標的化配列を使用して、操作された酵母株内の細胞小器官に酵素を局在化させた。局在化のために選択された酵素を、N末端におけるGly6SerThr (SEQ ID NO:8)またはC末端におけるProGly6 (SEQ ID NO:9)のいずれかの介在7アミノ酸リンカーを使用して標的配列に融合させた。
【0236】
(表5)
略称:ER、小胞体; MT、ミトコンドリア; PM、形質膜; TM、膜貫通ドメイン; V、液胞
* 命名されていないタグは、予測される区画への、モジュラーの安定な局在化を与えなかった。
表5続く
ER1 (SEQ ID NO: 1)
ER2 (SEQ ID NO: 2)
ER3 (SEQ ID NO: 3)
V1 (SEQ ID NO: 5)
PM1 (SEQ ID NO: 6)
MT1 (SEQ ID NO: 7)
* FIS1 (SEQ ID NO: 10)
* PRC1 (SEQ ID NO: 11)
【0237】
e. 微生物酵素の取り込みにより、半合成オピオイドの生物学的合成を達成する
ケシ加工工場からの廃液中に同定された細菌株シュードモナス・プチダM10は、オピオイドの酵素的転換を行なう。この株からの2つの特徴付けられた酵素(NADP+依存性モルヒネデヒドロゲナーゼ(morA)およびNADH依存性モルフィノンレダクターゼ(morB))は、これらの多くの反応を触媒する。アルド・ケトレダクターゼであるmorAおよびα/β-バレル・フラボタンパク質オキシドレダクターゼであるmorBを大腸菌において異種的に発現させて、モルヒネからヒドロモルホンへと変換する。
【0238】
morAおよびmorBが、モルヒネ産生酵母株の生合成能を、価値ある最終産物であるヒドロコドン、オキシコドン、およびヒドロモルホンへと拡張するかどうかを調べた(図20)。1つのYACに、P.ソムニフェルム遺伝子T6ODM、CORおよびCODMと、P.プチダ遺伝子morAおよびmorBとを含めた。このYACを用いて形質転換され1mMのテバインと共に培養された酵母株は、96時間の増殖後に、微量のヒドロコドンを産生し、検出可能なヒドロモルホンは全く産生しなかった。
【0239】
pYES1LベクターからP.ソムニフェルムおよびP.プチダM10酵素の種々の組合せを発現している操作された酵母株は、種々のレベルの標的オピオイドを産生する。
【0240】
半合成オピオイドのヒドロコドンおよびヒドロモルホンへの代替的な生合成経路を開発した。まず、モルヒネ産生をコードするYACにおいてCORをmorAで置換することによって、morAが、モルヒネ生合成経路においてCORの代わりにコデイノンからコデインへと還元することができるかどうかが判定された。morA活性によるCORの置換は、あらゆるタグ化されていないCORアイソフォーム株の選択性よりも高い、2.4mg/Lのモルヒネおよび69%の選択性をもたらした。morBを含めて、T6ODM、CODM、morAおよびmorBを有する4つのYAC遺伝子を作製した。このYACを有する株は、1.3mg/Lのヒドロコドンおよび0.10mg/Lのヒドロモルホンを産生した。ヒドロコドンおよびヒドロモルホンに対するmorAおよびmorB活性に起因して、オピオイドのジヒドロコデインおよびジヒドロモルヒネも検出された(図20および23)。14-ヒドロキシコデイノンが観察され、これはおそらく、14-ヒドロキシコデイノンに対するmorA活性から生じた(図23)。コデイノンから14-ヒドロキシコデイノンへのヒドロキシル化はインビトロで自発的に起こることが観察されている。微量の別の14-ヒドロキシル化産物であるオキシコドンが、おそらく14-ヒドロキシコデイノンに対するmorBの活性に起因して観察された。これらの結果に基づいて、T6ODMおよびmorBのみを発現している株を操作して、morB産物のヒドロコドンおよびオキシコドンへの経路の流れを増加させた。この2つの酵素を有する株は、6.5mg/Lのヒドロコドンおよび2.1mg/Lのオキシコドンを産生し、このことは14-ヒドロキシル化が経路の一部として起こることを立証する(図20)。
【0241】
次に、morAおよびmorB突然変異体がヒドロモルホンへの流れを増加させる能力を調べた。具体的には、酵素表面上のCys81でモルフィノンによる不可逆的な産物の阻害を妨げる、morA Cys81Serを試験した。さらに、元来の報告されている配列(UniProtKB: Q51990)と比べてGlu160Gly突然変異を有する代替的なmorBアミノ酸配列(RCSB PDB: 1GWJ_A)を試験した。morAC81SおよびmorBE160G変異体を操作された経路において個々におよび組み合わせて調べた。T6ODM、CODM、morAおよびmorBを発現している対照株は、1.3mg/Lのヒドロコドンおよび0.10mg/Lのヒドロモルホンを産生した。morAをmorAC81S変異体で置換することにより、ヒドロコドンおよびヒドロモルホンの両方の力価は0.9mg/Lおよび0.09mg/Lへとそれぞれ減少した。morBをmorBE160Gで置換することにより、培養培地中のヒドロモルホンのレベルは増加した。例えば、T6ODM、CODM、morAおよびmorBE160Gを発現している株は、0.9mg/Lのヒドロコドンおよび0.14mg/Lのヒドロモルホンを産生した。減少したヒドロコドンの力価は、morBE160G変異体が、コデイノンに対して低下した活性を有し、ヒドロモルホンへの流れを再度方向付けることを示唆した。
【0242】
f. 株操作アプローチを組み合わせて、天然および半合成オピオイドを産生する
本明細書に記載の遺伝子設計エレメントを使用して、標的オピオイド生合成のための3種類の産生株を構築した。モルヒネ産生株(CSY950)は、ゲノムに組み込まれた1コピーのT6ODM、組み込まれた2コピーのCODM、ならびにCOR1.3-ER2、T6ODMおよびCODMをコードするYACを取り込んだ。この株は、ER局在COR1.3を用いてモルヒネへの経路の流れを方向付け、全体的な経路の流れを最適なT6ODM:COR1.3:CODMの比である2:1:3で増強した。ヒドロモルホン産生株(CSY951)は、ゲノムに組み込まれた1コピーのT6ODM、組み込まれた2コピーのCODM、ならびにT6ODM、CODM、morAおよびmorBE160GをコードするYACを取り込んだ。このヒドロモルホン産生株は、morBE160G変異体を用いてヒドロモルホンへの流れを方向付け、全体的な産生を、最適な遺伝子コピー数の比で増強した。ヒドロコドン/オキシコドン産生株(CSY952)は、組み込まれた2コピーのT6ODM、ならびにT6ODMおよびmorBをコードするYACを取り込んだ。これらの産生株を、平行的な0.25Lのクローズドバッチ発酵で増殖させた。10個の重要なオピオイド最終産物(コデイン、ネオピン、モルヒネ、ネオモルヒネ、ヒドロコドン、オキシコドン、ヒドロモルホン、ジヒドロコデイン、14-ヒドロキシコデイン、およびジヒドロモルヒネ)を発酵の経過にわたってモニタリングした。標的オピオイドが24時間後に培養培地中に検出され、細胞密度の増加と共に濃度が増加し、静止期に蓄積し続けた。CSY950株、CSY951株およびCSY952株は、発酵の経過中に培養培地中にそれぞれ31、68、および132mg/Lの標的オピオイド分子を蓄積した(図24)。
【0243】
最終時点における株間の全代謝物のプロファイルの分析は、経路の流れにおける重要な差を明らかとした(図24)。CORをERに局在化させたCSY950株は、コデインおよびモルヒネに比べて低い力価のネオピンおよびネオモルヒネを産生し(7.7および4.7mg/Lに対して、2.6および0.76mg/L)、このことは、空間的操作アプローチが、ベンチスケールの発酵において標的ではない副産物に向かう経路の流れを制限する上で、依然として効果的であったことを示す(図24a)。しかしながら、この株からのモルヒネの全収率は低かった。全BIAプロファイルの検証は、副産物の14-ヒドロキシコデインが、産生された全オピオイド分子の大きな成分であることを明らかとした(15mg/L)。この株においてコデイノンは、14-ヒドロキシコデイノンを形成し得、これはその後、CORによって還元されて14-ヒドロキシコデインとなる。さらに、モルヒネよりも高い力価のコデインは、CODM活性に影響を及ぼす因子が、モルヒネへの経路の流れの支障となり得ることを示唆する。
【0244】
CSY951の発酵培養培地の分析は、コデインからモルヒネへの経路の流れにおける支障についてのより多くの証拠を与えた。CODMの下流の産物(モルヒネ、ヒドロモルホン、ジヒドロモルヒネ)は、他のBIA産物と比較して低いレベルで(それぞれ0.54、1.0および1.5mg/L)蓄積し、このことは、CODMの活性が制限されている可能性があることを示唆する。これは、この分子の中等度の極性によって促進される細胞外への受動拡散の結果としてCODMがその基質であるコデインに近づくことが制限されることに起因して起こり得るか、または、培養培地中に豊富であるテバインとの結合部位の競合に起因し得る。CSY951はまた、低いレベルのヒドロコドンおよびオキシコドンを蓄積し(それぞれ1.6および0.55mg/L)、これは、morBE160Gがこれらの副産物の産生を制限し、ヒドロモルホンへの経路の流れを方向付けることと一致する。この株において、morA活性は、副産物であるネオピンおよびネオモルヒネの蓄積を増加させ(それぞれ21および4.4mg/L)、おそらく標的最終産物のヒドロモルホンの収率に影響を及ぼす。データは、ヒドロモルホン産生株のさらなる最適化は、空間的時間的な二重の調節戦略を通して達成され得ることを示す。例えば、morAをERに局在化させる空間的操作アプローチの実施は、モルヒネの増加した産生を支援し得、ER-COR1.3に観察されるようなネオモルヒネ分岐への流れを制限し得る。morA発現は、一旦、適切なレベルのモルヒネが蓄積されると「スイッチが入る」ように時間的にさらに調節され得、その後、この中間体をモルフィノンおよび最終的にはヒドロモルホンへと変換され得る。morBに適用された類似した時間的調節戦略は、ヒドロコドンおよびオキシコドンなどの副産物の合成を制限し得る。
【0245】
CSY952株は、ヒドロコドンおよびオキシコドンの産生のために操作され、単純な経路構造を有する。該株は、morA/CORまたはCODMを取り込まず、従って、ネオモルヒネ分岐へと流れを失うこともなく、コデインとモルヒネの間の支障に遭遇することもない。CSY952は、テバインを、それぞれ51および70mg/Lの力価でヒドロコドンおよびオキシコドンへと変換した(図24a)。ヒドロコドンの蓄積は、発酵の経過にわたるジヒドロコデインへのその変換によって制限され、最終力価は11mg/Lであった(図24)。ヒドロコドンからジヒドロコデインへの還元は、morBによる2回目の還元反応に起因し得るか、または、内在性酵母酵素活性の結果であり得る。ジヒドロコデインのMS/MSスペクトルは、公開されているマススペクトルと一致した。CSY952は、標的化合物への大量の流れが、酵母において高い活性を有する異種酵素の最小限に分岐された経路によって達成されることができることを実証する。
【0246】
3. 考察
S.セレビシエは、多くの価値あるBIA標的分子のための生合成プラットフォームとして、例えば、テバインから、コデイン、モルヒネ、ヒドロコドン、オキシコドン、およびヒドロモルホンをはじめとするオピオイドへの転換のための産生宿主として実証されている。ツールおよび方法は、異種経路酵素の局在化を調節し、標的最終産物への経路の流れを再度方向付けることによって、酵母におけるBIA生合成を支援する。遺伝子コピー数の最適化および補助基質の供給増強もまた適用して、酵母のオピエート生合成を増強させた。例えば、3種類の例示的な操作された株は、ベンチスケールのバッチ発酵において、7.7mg/Lのコデインおよび4.7mg/Lのモルヒネ(CSY950)、1mg/Lのヒドロモルホン(CSY951)、ならびに51mg/Lのヒドロコドン、11mg/Lのジヒドロコデイン、および70mg/Lのオキシコドン(CSY952)を産生した。
【0247】
ケシにおいては、テバインは、2つの生合成経路を介してモルヒネに変換される。最初の二分岐は、T6ODMまたはCODMが別個の位置においてテバインを脱メチル化する場合に起こる。どちらの生合成経路もケシにおいてはモルヒネに到達するので、この二分岐は植物体での収率には影響を及ぼさないようである。しかしながら、対象の操作された酵母株は、それぞれネオピノンおよびネオピンに対するCORおよびCODMの活性に起因するさらなる分岐を示し、その結果、ネオモルヒネの産生および減少したモルヒネの産生がもたらされる。
【0248】
植物酵素は、天然の植物宿主と比べて酵母において発現させた場合に、天然の調節機序が存在しないこと、ならびに変化した細胞内因子、例えばタンパク質プロセシング、タンパク質の局在化および微小環境に起因して、異なって機能し得る。対象の操作された酵母株において、中間体であるオリパビンまたはモルフィノンの産生は観察されなかった。水性溶液中では、ネオピノンは急速に転位してコデイノンとなるが、この分子は、酵母細胞内の条件によって安定化され得る。従って、インビトロ条件ではコデインの産生に傾くが、酵母におけるインビボ条件は、ネオピノンの転位を減速させ得、よってCORがこの中間体に作用してネオピンを産生することを可能とし得る。
【0249】
T6ODMおよびCODMは、幅広い基質特異性を示し、スコウレリンおよびアロクリプトピンなどの非モルフィナンアルカロイド基質のO-脱メチル化を触媒する。これらの酵素はまた、アロクリプトピン、クリプトピンおよびプロトピンをはじめとする多様なBIAにおけるメチレンジオキシ橋を切断するO-脱メチル化反応を触媒する。無差別なBIA酵素の他の例としては、多くのBIA基質をメチル化するO-およびN-メチルトランスフェラーゼが挙げられる。異種微生物宿主においては、天然の時間的および空間的な調節機序が存在しないことでさらに、BIA生合成酵素に利用され得る基質の範囲が広がるようであり、これにより新規に観察された経路の分岐および代謝物がもたらされる。さらに、1つの宿主細胞において異なる種に由来する酵素を合わせることはさらに、任意の所与の酵素に利用され得る天然および非天然の基質の数、ならびに、様々なBIA分子の産生を増加させる。標的化された微生物BIA生合成経路の再構築を達成して、高度に分岐した経路に至る流れを管理して、個々の標的最終産物の最適な収率を達成することができる。
【0250】
酵母における生合成経路の空間的操作を容易にするために、選択された細胞小器官および内膜の場所への酵素のルーティングを支援する細胞小器官ルーティングツールキットを作製した。これらの空間的に操作されたツールを適用して、所望ではない副産物の産生を制限して、標的産物のモルヒネへの流れを再度方向付けた。ネオピノンからコデイノンへの自発的変換は、本発明者らの経路における重要な分岐点であり、ネオピノンに対するCORの活性は、ネオモルヒネへの流れを方向付け、コデイノンに対するその活性はモルヒネへの流れを方向付ける。T6ODMからのCORの隔離は、自発的反応が起こり、モルヒネ分岐への流れを再度方向付けるための追加的な時間を与え得る。結果は、種々の細胞小器官へとCORを活発にルーティングすることは、おそらく経路の酵素の非局在化およびCOR活性の減少の組み合わされた作用によりさらに経路の流れのバランスを取ることを通して、モルヒネへの経路特異性および全体的なモルヒネ力価を増加させることを実証する。
【0251】
結果は、酵母におけるオピエート生合成の最終工程を構築して、テバインをコデインおよびモルヒネに変換すること、ならびに、この経路を拡張して、半合成薬物、例えばヒドロコドン、オキシコドンおよびヒドロモルホンを産生することを示す。上流のBIAであるレチクリンの微生物による全生合成と組み合わせて、対象の方法および宿主細胞を、単糖源から標的オピエートを産生することのできる酵母株を操作するために使用またはそれに適応させ得る。このような株は、(R)-レチクリンからサルタリジンへの変換を触媒する1つのチトクロムP450をはじめとする3種類の公知の酵素の機能的発現を含み得る。
【0252】
4. 方法
a. プラスミドおよび酵母株の構築
現代の分子微生物学技術を使用してプラスミドおよび株を構築した。S.セレビシエ親株(この株から実施例に記載された株が構築された)は、ハプロイドのW303α(MATα leu2-3,112 trp1-1 can1-100 ura3-1 ade2-1 his3-11,15)であった。2%デキストロースを含む酵母合成完全(SC)アミノ酸ドロップアウト培地および200mg/LのG418スルフェートを含有する複合酵母ペプトンデキストロース(YPD)培地を株の構築のために使用した。化学的にコンピテントな大腸菌株TOP10をクローニング目的のために使用し、指定された抗生物質濃度を有するLB培地中で増殖させた。注文に応じて作られるオリゴヌクレオチドは、標準的な方法を使用して合成された。全ての異種遺伝子配列は、GenBankからダウンロードされ、GeneArt GeneOptimizerプログラムを使用してS.セレビシエにおける発現のためにコドンが最適化され、標準的な方法を使用して合成された。全ての酵素内在性プロモーター、ターミネーター、および細胞小器官標的化配列は、W303αゲノムDNAから増幅された(表S3)。PCRのために使用されるポリメラーゼは、2kb未満の産物についてはPfu Hotstartであり、2kbを超える産物についてはExpand High Fidelity PCR Systemであった。プラスミドは、QIAprepカラムおよびEconospinカラムを使用して大腸菌から調製された。配列決定は、標準的な方法を使用して実施された。
【0253】
表S3は、YAC発現カセットを示す。独特なプロモーターおよびターミネーターを各遺伝子と対にして、YES1ベクターへの組込みのための発現カセットを構築した。
【0254】
a 異種遺伝子はS.セレビシエにおける発現に最適化されたコドンである。
b 示される構築物においてCOR1.3に置き換わるCORのアイソフォームは、COR1.1、AAF13736.1、COR1.2、AAF13737.1、およびCOR1.4、AAF13739.1である。
c 示される構築物においてmorAおよびmorBに置き換わる変異体はそれぞれ、morAC81SおよびmorBE160Gである。
【0255】
W303αにおいてP.ソムニフェルムおよびP.プチダ由来の異種遺伝子を発現させるために、独特なプロモーターおよびターミネーターに隣接したオープンリーディングフレームを含む個々の発現カセットを構築し(表S3)、pYES1Lベクターに組み込んだ。発現カセットの最初の構築において、個々の遺伝子を、オーバーラップ・エクステンション(SOEing)PCRによるスプライシングによってプロモーターおよびターミネーターと結合させ、配列の確認および保存のためにGatewayベクターpDONR221 (BP Clonase II)に組み込んだ。その後、発現カセットを、酵母におけるギャップ修復のために相同性領域を付加する、GeneArt High-Order Genetic Assemblyオンラインツールによって設計されたオリゴヌクレオチドを使用してPCR増幅した。100ngの各発現カセットPCRを、100ngの鎖状化されたpYES1Lと合わせ、電気穿孔法によってW303αに形質転換した。pYES1Lベクターは、トリプトファンドロップアウト培地上での選択のためのTRP1、およびARS4/CEN5領域を含み、よって、各々の新規に構築されたベクターは、酵母において1コピーのエピソームプラスミドとして維持された。pYES1L構築物は、PCRスクリーニングおよび配列決定によって確認された。他の酵母バックグラウンド株に形質転換され得るようなプラスミドを増殖するために、pYES1Lベクターを酵母から単離し、TOP10大腸菌に形質転換し、そこでそれを1コピーで維持し、50mg/Lのスペクチノマイシン二塩酸塩五水和物を含むLB培地上で選択した。10個までの酵母株を形質転換するのに十分である約2μgのプラスミドを、100mLの一晩大腸菌培養物から調製した。
【0256】
追加の遺伝子コピーを酵母ゲノムに組み込むために、プロモーターおよびターミネーターに隣接した遺伝子を含む発現カセットを、Gatewayクローニング(Life Technologies)を可能とするように改変されたpUGベクターのPCR増幅によって産生した。KanMXおよびクルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)LEU2選択マーカーをそれぞれ含有するベクターpUG6およびpUG73を、GatewayカセットattR1-ccdB/CamR-attR2に隣接するGPDプロモーターおよびCYC1ターミネーターを含むように改変して、pCS2643およびpCS2644と呼ばれる2つの新規なpDESTベクターを作製した。コザック配列によって予め固定された遺伝子オープンリーディングフレームを各々含有する個々のpENTRベクターを、pDESTベクターと組換えた。得られたベクターから、遺伝子発現カセットおよびloxP部位に隣接している隣接選択マーカー(KanMXまたはLEU2)を、酵母ゲノムの標的組込み部位に対して相同である103bpを付加したオリゴヌクレオチドを用いてPCR増幅した。PCR産物を、標準的な酢酸リチウム形質転換によってW303αに形質転換した。組込み事象は、G418またはロイシンドロップアウト培地上での増殖によって選択され、両方の組込み境界のPCRスクリーニングおよび配列決定によって確認された。loxP部位は、Creリコンビナーゼの発現により選択マーカーを除去するために使用された(Guldener et al. A new efficient gene disruption cassette for repeated use in budding yeast. Nucleic Acids Res 24, 2519-2524 (1996))。
【0257】
他のプラスミドは、一式のLindquistのデスティネーションベクター、特にpAG416GPD-ccdB(Alberti, S., Gitler, A.D. & Lindquist, S. A suite of Gateway cloning vectors for high-throughput genetic analysis in Saccharomyces cerevisiae. Yeast 24, 913-919 (2007))から構築された。顕微鏡用のベクターは、それぞれN末端またはC末端においてGly6SerThrリンカーまたはProGly6リンカーによって隔てられたGFPに融合した細胞小器官標的化配列を用いて構築された。標的化配列、リンカーおよびGFPをSOEing PCRによって組み合わせ、BP clonase IIを使用してpDONR221にクローニングした。得られたエントリーベクターをpAG416GPD-ccdBまたは別のデスティネーションベクターに、LR clonase IIを使用して組み換え、酵母における発現のためのシャトルベクターを作製した。ミトコンドリアおよび小胞体のための確立されたマーカーを含有するプラスミドは、それぞれ、pHS12-mCherry (Addgeneプラスミド25444)およびYIPlac204TKC-DsRed-Express2-HDEL (Addgeneプラスミド21770)であった。
【0258】
b. 培養および発酵の条件
オピオイド産生についてアッセイするために、酵母株を、1ウェルあたり0.4mLのSC増殖培地(トリプトファン欠損、2%デキストロース)を含む96ウェルプレート中で培養し、30℃で、480rpmの回転数で、1.24cmの軌道直径で、湿度80%の振とう機でインキュベートした。株を最初に、窒素塩基として硫酸アンモニウムの代わりに使用された0.5g/Lのグルタミンを含むSC培地に接種し、16時間増殖させた。その後、培養物を0.5g/Lのグルタミン、2.5g/Lのグルタミン酸一ナトリウム、50mMの2-オキソグルタル酸、および1mMのテバインを含むSC培地中に40倍の戻し希釈を行なった。96時間または対照株によるモルヒネの産生が約2.5mg/Lに達するまで株を増殖させた。細胞密度を決定するために、最終OD600(10倍希釈後)を測定した。
【0259】
増強されたクローズドバッチ培養条件のために、株を、0.5Lの容器サイズのBiostat Q-plusバイオリアクター中で培養した。最初の培地の量は250mLであり、5g/Lのグルタミン、25g/LのMSG、100mMの2-オキソグルタル酸、および1mMのテバインが補充された10× SCトリプトファンドロップアウト培地成分を含んだ。グルコース濃度は10%であり、培地にさらに、2g/Lのアデニンヘミ硫酸塩が補充された。各容器に、ペレット化された、選択培地中で増殖させた10mLの一晩培養物を接種し、細胞を発酵培地中に再懸濁し、その後、容器に加えた。プロセスパラメーターを、30℃、200rpmの回転数、および2L/分の圧縮空気流速での発酵のあいだ一定に保った。適切な時点で、Nanodrop 2000c分光光度計のキュベットにおいて測定された希釈試料からの細胞密度を記録し、追加の試料を代謝物の分析のために採取した。
【0260】
c. オピエート産生の分析
操作された酵母株によって培養培地中に分泌されたオピエートを、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)によって同定および定量した。培養物を遠心分離によってペレット化し、5μLの上清をZorbax SB-Aqカラム(3.0 x 50 mm、1.8 μM粒径)で分離した。カラムを、水、0.1%の酢酸、および0.1%のメタノール(溶媒A)で平衡化させ、試料を、メタノールおよび0.1%の酢酸(溶媒B)の移動相を以下の順序で用いて溶出させ(100%のAで0~1分間、0~25%のBで1~4分間、25%のBで4~7分間)、その後、100%のBを用いてカラムを洗浄し、その後、Aを用いて再度平衡化させる工程が続いた。流速を0.6mL/分に一定に保った。溶出されたオピエートを、全イオンのモニタリングのためにスキャンモードで作動されたAgilent 6320イオントラップ質量分析計で同定した。関心対象の各代謝物についての抽出イオンクロマトグラムを、消費された酵母培養培地中に添加された市販の標準物質と比較した。試料および標準物質の両方についての標的分子に対するフラグメントイオンをMS/MSで同定し、公表されているスペクトルと比較して、各オピエートの実体を確認した。定量のために、抽出イオンクロマトグラムのピーク面積を積分し、各分子についての標準曲線と比較した。標準物質は、テバイン、コデイン硫酸塩、モルヒネ硫酸塩五水和物、ヒドロコドン重酒石酸塩、オキシコドン塩酸塩、ヒドロモルホン塩酸塩であった。
【0261】
バイオリアクター培養培地の分析のために、試料を2倍から10倍に希釈し、Zorbax SB-Aqカラム(3.0 x 250 mm、5μMの粒径)で分離した。カラムを水、0.1%の酢酸、および0.1%のメタノール(溶媒A)を用いて平衡化させ、試料を、メタノールおよび0.1%の酢酸(溶媒B)の移動相を以下の順序で用いて溶出し(100%のAで0~10分間、0~90%のBで10~30分間)、その後、100%のBでカラムを洗浄し、その後、Aで再度平衡化する工程が続いた。流速を0.8mL/分に一定に保った。
【0262】
d. 共焦点顕微鏡
適切なプラスミドを有する酵母細胞を、SCドロップアウト培地中で一晩かけて増殖させ、その後、1.5mLをペレット化し、高細胞密度(100μL未満の培地中)で再懸濁した。顕微鏡スライド上に酵母培地と合わせた2%の低融点アガロースパッドを置き、1μlの酵母細胞をアガロースパッド上にスポットし、1番のカバーガラスで覆い、密封することによって、スライドを調製した。細胞を、倍率63.0のグリセリン浸漬対物レンズ、1.30×の開口数、および8倍以下のデジタルズームを有するLeica TCS SP5共焦点顕微鏡で画像化した。ハイブリッド検出器(HyD)smart gainを、試料蛍光強度に応じて30~200%に調整した。蛍光設定の一例として、GFPの単色画像化のために、試料をレーザー線488nmで励起し、発光された蛍光を500~550nmの範囲のHyDチャンネルによって記録した(ダイクロニックミラー=DD 488/594)。画像を、エアリー1のピンホールサイズ(108.4μm)、最小で2回のline averaging、30~100nmのピクセルサイズ、および0.856μmの光学的断面厚を用いて記録した。
【0263】
発明の態様
態様1. レチクリンを産生する宿主細胞であって、該宿主細胞が、6OMT、CNMTおよび4'OMTから選択される1種または複数種のメチルトランスフェラーゼの1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを含み、該1種または複数種のメチルトランスフェラーゼが、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる、該宿主細胞。
【0264】
態様2. 生物源が、パパヴェル・ソムニフェルム、タリクトラム・フラバム、またはオウレンである、態様1に記載の宿主細胞。
【0265】
態様3. 1種または複数種のメチルトランスフェラーゼの複数のコピーが、宿主細胞と比較して2種以上の異なる生物源から得られる、態様1に記載の宿主細胞。
【0266】
態様4. 宿主細胞が、CNMTの異種コード配列の複数のコピーを含む、態様1に記載の宿主細胞。
【0267】
態様5. 宿主細胞が、CNMTの異種コード配列の2コピーを含む、態様4に記載の宿主細胞。
【0268】
態様6. 宿主細胞が、1種または複数種のメチルトランスフェラーゼの1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを欠失した対照宿主細胞と比較して、ノルコクラウリンから増加した量のレチクリンを産生することができる、態様1に記載の宿主細胞。
【0269】
態様7. 増加した量のレチクリンが、対照宿主細胞と比較して10%以上である、態様6に記載の宿主細胞。
【0270】
態様8. 宿主細胞が、ノルコクラウリンからレチクリンを産生することができる、態様6に記載の宿主細胞。
【0271】
態様9. 宿主細胞が、6OMT、CNMTおよび4'OMTから選択される2種以上のメチルトランスフェラーゼの2つ以上の異種コード配列を含む、態様1に記載の宿主細胞。
【0272】
態様10. 2種以上のメチルトランスフェラーゼが、宿主細胞と比較して異なる2種以上の生物源から得られる、態様9に記載の宿主細胞。
【0273】
態様11. 宿主細胞が、メチルトランスフェラーゼ6OMT、CNMTおよび4'OMTの全てについての異種コード配列を含む、態様9に記載の宿主細胞。
【0274】
態様12. 宿主細胞が、図2の生合成経路を介してノルラウダノソリンからレチクリンを産生することができる、態様1に記載の宿主細胞。
【0275】
態様13. 宿主細胞が、図3の生合成経路を介してノルコクラウリンからレチクリンを産生することができる、態様1に記載の宿主細胞。
【0276】
態様14. 宿主細胞が酵母株である、態様1に記載の宿主細胞。
【0277】
態様15. 酵母株がS.セレビシエである、態様14に記載の宿主細胞。
【0278】
態様16. サンギナリンまたはサンギナリン前駆体を産生する宿主細胞であって、該宿主細胞が、BBE、CFS、CPR、STS、TNMT、MSH、P6HおよびDBOXから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含み、該1種または複数種の酵素が、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる、該宿主細胞。
【0279】
態様17. サンギナリン前駆体が、プロトベルベリンまたはベンゾフェナントリジンアルカロイドである、態様16に記載の宿主細胞。
【0280】
態様18. サンギナリン前駆体が、ケイランチホリン、スチロピン、シス-N-メチルスチロピン、スコウレリン、プロトピン、およびジヒドロサンギナリンから選択される、態様16に記載の宿主細胞。
【0281】
態様19. 生物源が、P.ソムニフェルム、ハナビシソウ、シロイナズナ、ハカマオニゲシ、またはアザミゲシである、態様16に記載の宿主細胞。
【0282】
態様20. 1種または複数種の酵素が、宿主細胞と比較して異なる2種以上の生物源から得られる2種以上の酵素である、態様16に記載の宿主細胞。
【0283】
態様21. 宿主細胞が、1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを含む、態様16に記載の宿主細胞。
【0284】
態様22. 1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーが、宿主細胞と比較して異なる2種以上の生物源から得られる、態様21に記載の宿主細胞。
【0285】
態様23. 宿主細胞が、BBE、CFS、CPR、STS、TNMT、MSH、P6H、およびDBOXから選択される2種以上の酵素の2つ以上の異種コード配列を含む、態様16に記載の宿主細胞。
【0286】
態様24. 宿主細胞が、BBE、CFS、CPR、STS、TNMT、MSH、P6H、およびDBOXから選択される3種以上の酵素の3つ以上の異種コード配列を含む、態様23に記載の宿主細胞。
【0287】
態様25. 宿主細胞が、BBE、CFS、CPR、STS、TNMT、MSH、P6H、およびDBOXから選択される4種以上の酵素の4つ以上の異種コード配列を含む、態様23に記載の宿主細胞。
【0288】
態様26. 宿主細胞が、BBE、CFS、CPR、STS、TNMT、MSH、P6H、およびDBOXから選択される5つ以上の酵素の5つ以上の異種コード配列を含む、態様25に記載の宿主細胞。
【0289】
態様27. 宿主細胞が、酵素BBE、CFS、CPR、STS、TNMT、MSH、P6H、およびDBOXの各々の異種コード配列を含む、態様26に記載の宿主細胞。
【0290】
態様28. 宿主細胞が、天然宿主細胞と比較して1つまたは複数の遺伝子欠失をさらに含み、1つまたは複数の欠失遺伝子が、IRE1、HAC1、OPI1、INO1、INO2、INO3、PDR1、STB5、PDR3、PDR5、SNQ2、YOR1、TPO1、TPO2、TPO3、TPO4、PDR10、PDR11、PDR15、PDR16、PDR17、QDR1、QDR2、QDR3、FLR1、AQR1、AQR2およびCIN5から選択される、態様16に記載の宿主細胞。
【0291】
態様29. 宿主細胞が酵母株である、態様16に記載の宿主細胞。
【0292】
態様30. 宿主細胞が、図4の生合成経路を介してノルラウダノソリンからサンギナリンまたはサンギナリン前駆体を産生することができる、態様16に記載の宿主細胞。
【0293】
態様31. 宿主細胞が、図11の生合成経路を介してノルラウダノソリンからサンギナリンまたはサンギナリン前駆体を産生することができる、態様16に記載の宿主細胞。
【0294】
態様32. 宿主細胞が、BBE酵素の異種コード配列を含む、態様16に記載の宿主細胞。
【0295】
態様33. BBE酵素の異種コード配列が、宿主細胞染色体に組み込まれる、態様16に記載の宿主細胞。
【0296】
態様34. サンギナリン前駆体がケイランチホリンである、態様16に記載の宿主細胞。
【0297】
態様35. 宿主細胞が、CFSおよびCPR酵素の異種コード配列を含む、態様34に記載の宿主細胞。
【0298】
態様36. CPR酵素がATR1である、態様35に記載の宿主細胞。
【0299】
態様37.サンギナリン前駆体がスコウレリンである、態様16に記載の宿主細胞。
【0300】
態様38. 宿主細胞が、STS酵素の異種コード配列を含む、態様37に記載の宿主細胞。
【0301】
態様39.サンギナリン前駆体がプロトピンである、態様16に記載の宿主細胞。
【0302】
態様40. 宿主細胞が、TNMTおよびMSH酵素の異種コード配列を含む、態様39に記載の宿主細胞。
【0303】
態様41. 宿主細胞が、チトクロムb5酵素の異種または内在性コード配列を含む、態様16に記載の宿主細胞。
【0304】
態様42. 宿主細胞が、細胞膜を横断する化合物輸送に関与する1種または複数種のタンパク質の1つまたは複数の異種または内在性コード配列を含む、態様16に記載の宿主細胞。
【0305】
態様43. タンパク質が、PDR1、PDR5、SNQ2、YOR1、PDR3、CIN5およびPDR3から選択される、態様42に記載の宿主細胞。
【0306】
態様44. 宿主細胞が、態様1~15のうちの1つに記載の宿主細胞である、態様16に記載の宿主細胞。
【0307】
態様45. 宿主細胞が、6OMT、CNMTおよび4'OMTから選択される1種または複数種のメチルトランスフェラーゼの1つまたは複数の異種コード配列をさらに含み、該1種または複数種のメチルトランスフェラーゼが、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる、態様16に記載の宿主細胞。
【0308】
態様46. プロトベルベリンアルカロイドを産生する宿主細胞であって、該宿主細胞が、BBE、S9OMT、CASおよびSTOXから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含み、該1種または複数種の酵素が、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる、該宿主細胞。
【0309】
態様47. プロトベルベリンアルカロイドが以下の構造のうちの1つによって表される、態様46に記載の宿主細胞:
式中、R1~R14は、各々独立して、H、アルキル、ヒドロキシルまたはアルコキシから選択される。
【0310】
態様48. 生物源が、パパヴェル・ソムニフェルム、ハナビシソウ、オウレン、タリクトラム・フラバム、ベルベリス・ストロニフェラ、タリクトラム・フラバム亜種グロウカム、トウオウレン、タリクトラム属の種、コプティス属の種、パパヴェル属の種、ヒロハコガネメギ、アザミゲシ、またはベルベリス属の種である、態様46に記載の宿主細胞。
【0311】
態様49. 宿主細胞が、1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを含む、態様46に記載の宿主細胞。
【0312】
態様50. 1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーが、宿主細胞と比較して異なる2種以上の生物源から得られる、態様49に記載の宿主細胞。
【0313】
態様51. 宿主細胞が、BBE、S9OMT、CASおよびSTOXから選択される2種以上の酵素の2つ以上の異種コード配列を含む、態様46に記載の宿主細胞。
【0314】
態様52. 宿主細胞が、BBE、S9OMT、CASおよびSTOXから選択される3種以上の酵素の3つ以上の異種コード配列を含む、態様51に記載の宿主細胞。
【0315】
態様53. 宿主細胞が、酵素BBE、S9OMT、CASおよびSTOXの各々の異種コード配列を含む、態様52に記載の宿主細胞。
【0316】
態様54. 宿主細胞が、CASおよびCPR酵素の異種コード配列を含む、態様46に記載の宿主細胞。
【0317】
態様55. CPR酵素がATR1である、態様54に記載の宿主細胞。
【0318】
態様56. 宿主細胞がSTOXの異種コード配列を含む、態様46に記載の宿主細胞。
【0319】
態様57. 宿主細胞が、ノルラウダノソリンから(S)-カナジンを産生することができる、態様56に記載の宿主細胞。
【0320】
態様58. 宿主細胞が、CjABCB1、CjABCB2およびCjABCB2から選択される1つまたは複数の異種輸送体の1つまたは複数の異種コード配列をさらに含む、態様46に記載の宿主細胞。
【0321】
態様59. 宿主細胞が酵母株である、態様46に記載の宿主細胞。
【0322】
態様60. 宿主細胞が、図5の生合成経路を介してレチクリンからベルベリンを産生することができる、態様46に記載の宿主細胞。
【0323】
態様61. 宿主細胞が、態様1~15のうちの1つに記載の宿主細胞である、態様46に記載の宿主細胞。
【0324】
態様62. 宿主細胞が、6OMT、CNMTおよび4'OMTから選択される1種または複数種のメチルトランスフェラーゼの1つまたは複数の異種コード配列をさらに含み、該1種または複数種のメチルトランスフェラーゼが、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる、態様46に記載の宿主細胞。
【0325】
態様63. テバインを産生する宿主細胞であって、該宿主細胞が、SalSyn、CYP2D6、CYP2D2、SalRおよびSalATから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列を含み、該1種または複数種の酵素が、宿主細胞とは異なる生物源から得られる、該宿主細胞。
【0326】
態様64. 生物源が、パパヴェル・ソムニフェルム、ハカマオニゲシ、オニゲシ、パパヴェル属の種、ホモサピエンス、またはラッタス属の種である、態様63に記載の宿主細胞。
【0327】
態様65. 宿主細胞が、1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを含む、態様63に記載の宿主細胞。
【0328】
態様66. 1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーが、宿主細胞と比較して2つ以上の異なる生物源から得られる、態様65に記載の宿主細胞。
【0329】
態様67. 宿主細胞が、酵素SalRおよびSalATの各々の異種コード配列、ならびに、SalSyn、CYP2D2およびCYP2D6から選択される1種または複数種の酵素の異種コード配列を含む、態様63に記載の宿主細胞。
【0330】
態様68. 宿主細胞が、F104AまたはI275A突然変異を有するハカマオニゲシSalRの異種コード配列を含む、態様67に記載の宿主細胞。
【0331】
態様69. 宿主細胞が、テバインから、オリパビン、モルヒネ、コデイン、ヒドロモルホン、ヒドロコドン、オキシコドン、およびオキシモルホンから選択される1種または複数種のオピエート化合物を産生することができる酵素をさらに含む、態様63に記載の宿主細胞。
【0332】
態様70. 宿主細胞が、T6ODMおよびmorB-E160Gの異種コード配列をさらに含み、1種または複数種のオピエート化合物がヒドロコドンである、態様69に記載の宿主細胞。
【0333】
態様71. 宿主細胞が、天然酵母株と比較して増加した量のNADPHを産生するように改変された操作された酵母株である、態様63に記載の宿主細胞。
【0334】
態様72. 宿主細胞が酵母株である、態様63に記載の宿主細胞。
【0335】
態様73. 宿主細胞が、酵母細胞内の細胞小器官に局在化したSalRおよびSalAT酵素を含む、態様72に記載の宿主細胞。
【0336】
態様74. 宿主細胞が、態様1~15のうちの1つに記載の宿主細胞である、態様63に記載の宿主細胞。
【0337】
態様75. 宿主細胞が、6OMT、CNMTおよび4'OMTから選択される1種または複数種のメチルトランスフェラーゼの1つまたは複数の異種コード配列をさらに含み、該1種または複数種のメチルトランスフェラーゼが、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる、態様63に記載の宿主細胞。
【0338】
態様76. オピエート化合物を産生する、以下を含む宿主細胞:
T6ODM、CORおよびCODMから選択される、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列;ならびに、
シュードモナス・プチダmorAおよびシュードモナス・プチダmorBから選択される1種または複数種の酵素の1つまたは複数の異種コード配列。
【0339】
態様77. 宿主細胞が、4つ以上の異種コード配列を含む、態様76に記載の宿主細胞。
【0340】
態様78. 生物源が、パパヴェル・ソムニフェルム、パパヴェル属の種、およびシュードモナス・プチダから選択される、態様76に記載の宿主細胞。
【0341】
態様79. 宿主細胞が、1種または複数種の異種コード配列の複数のコピーを含む、態様76に記載の宿主細胞。
【0342】
態様80. 異種コード配列の複数のコピーが、宿主細胞と比較して異なる2種以上の生物源から得られる、態様79に記載の宿主細胞。
【0343】
態様81. 宿主細胞が、T6ODM、COR、CODMおよびmorBの異種コード配列を含む、態様76に記載の宿主細胞。
【0344】
態様82. 宿主細胞が、酵素T6ODM、CORおよびCODMの異種コード配列を含む、態様76に記載の宿主細胞。
【0345】
態様83. 酵素T6ODM、CORおよびCODMの異種コード配列が、2:1:3の比で存在する、態様82に記載の宿主細胞。
【0346】
態様84. 酵素T6ODM、CORおよびCODMの異種コード配列が、1:1:3または2:1:2の比で存在する、態様82に記載の宿主細胞。
【0347】
態様85. オピエート化合物が、コデイン、モルヒネ、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、オキシコドン、ジヒドロコデイン、14-ヒドロキシコデイン、およびジヒドロモルヒネから選択される、態様76に記載の宿主細胞。
【0348】
態様86. 宿主細胞が、図15の生合成経路を介してテバインからオピエート化合物を産生することができる、態様76に記載の宿主細胞。
【0349】
態様87. 宿主細胞が、テバインから殆どまたは全くオリパビンまたはモルフィノンを産生しない、態様86に記載の宿主細胞。
【0350】
態様88. 宿主細胞が、ネオピンおよびネオモルヒネのうちの1つまたは複数を産生する、態様86に記載の宿主細胞。
【0351】
態様89. 宿主細胞が、全オピエートの30%以上であるオピエート化合物収率を生じる、態様88に記載の宿主細胞。
【0352】
態様90. 宿主細胞が、全オピエートの50%以上であるオピエート化合物収率を生じる、態様89に記載の宿主細胞。
【0353】
態様91. 宿主細胞が酵母株である、態様76に記載の宿主細胞。
【0354】
態様92. 宿主細胞が、対照酵母株と比較して増加した量の2-オキソグルタル酸を産生することができる操作された酵母株である、態様91に記載の宿主細胞。
【0355】
態様93. 宿主細胞が、GLN1、GLT1、GDH1、GDH2、GDH3、ODC1、ODC2、KGD1、KGD2およびLPD1から選択される1種または複数種のタンパク質の1つまたは複数の内在性または異種コード配列を含む、態様92に記載の宿主細胞。
【0356】
態様94. 宿主細胞が、GLN1、GLT1、GDH1、GDH2、GDH3、ODC1、ODC2、KGD1、KGD2およびLPD1から選択される1種または複数種のタンパク質の1つまたは複数の内在性コード配列における欠失を含む、態様93に記載の宿主細胞。
【0357】
態様95. 宿主細胞が、対照酵母株と比較して増加した量の2-オキソグルタル酸をさらに含み、増加した量の2-オキソグルタル酸が、宿主細胞の培養培地中への直接添加を介して導入される、態様91に記載の宿主細胞。
【0358】
態様96. 宿主細胞が、対照酵母株と比較して増加した量のグルタミン、2-オキソグルタル酸およびグルタミン酸をさらに含む、態様91に記載の宿主細胞。
【0359】
態様97. 1種または複数種の酵素が、局在タグを含む、態様76に記載の宿主細胞。
【0360】
態様98. 1種または複数種の酵素が、酵母細胞内の一区画に空間的に局在し、該区画が、ミトコンドリア、小胞体(ER)、ゴルジ、液胞、核、形質膜、および周辺質から選択される、態様91に記載の宿主細胞。
【0361】
態様99. 1種または複数種の酵素が、酵母細胞内の区画の外側に空間的に局在する、態様98に記載の宿主細胞。
【0362】
態様100. 1種または複数種の酵素が、酵母細胞内の区画の内側に空間的に局在する、態様98に記載の宿主細胞。
【0363】
態様101. 1種または複数種の酵素がCORである、態様91に記載の宿主細胞。
【0364】
態様102. 1種または複数種の酵素がT6ODMである、態様91に記載の宿主細胞。
【0365】
態様103. 宿主細胞が、細胞内で互いに空間的に離れているCOR酵素およびT6ODM酵素を含む、態様91に記載の宿主細胞。
【0366】
態様104. COR酵素が、酵母細胞内の小胞体に局在している、態様101に記載の宿主細胞。
【0367】
態様105. 宿主細胞が、morBおよびT6ODMの異種コード配列を含み、オピエート化合物が、ヒドロコドンおよびオキシコドンである、態様76に記載の宿主細胞。
【0368】
態様106. 宿主細胞が、E160G突然変異を含む酵素morBを含む、態様76に記載の宿主細胞。
【0369】
態様107. 宿主細胞が、morA、morB、CODMおよびT6ODMの異種コード配列を含み、オピエート化合物が、ヒドロコドン、オキシコドンおよびヒドロモルホンから選択される、態様76に記載の宿主細胞。
【0370】
態様108. 宿主細胞が、E160G突然変異を含む酵素morBを含む、態様107に記載の宿主細胞。
【0371】
態様109. 宿主細胞が、2つ以上の遺伝子カセットを含み、各カセットが、プロモーター、遺伝子およびターミネーターを含み、該遺伝子カセットが、背中合わせのプロモーター設計を有する対になって整列している、態様76に記載の宿主細胞。
【0372】
態様110. 宿主細胞が、天然宿主細胞と比較して1つまたは複数の遺伝子欠失をさらに含み、1つまたは複数の欠失遺伝子が、PDR1、STB5、PDR3、PDR5、SNQ2、YOR1、TPO1、TPO2、TPO3、TPO4、PDR10、PDR11、PDR15、PDR16、PDR17、QDR1、QDR2、QDR3、FLR1、AQR1、AQR2およびCIN5から選択される、態様76に記載の宿主細胞。
【0373】
態様111. 宿主細胞が、態様1~15および62~75のうちの1つに記載の宿主細胞である、態様76に記載の宿主細胞。
【0374】
態様112. 宿主細胞が、6OMT、CNMTおよび4'OMTから選択される1種または複数種のメチルトランスフェラーゼの1つまたは複数の異種コード配列をさらに含み、該1種または複数種のメチルトランスフェラーゼが、宿主細胞と比較して異なる生物源から得られる、態様76に記載の宿主細胞。
【0375】
態様113. タンパク質の産生のために適した条件下で、レチクリン産生宿主細胞、サンギナリンまたはサンギナリン前駆体産生宿主細胞、プロトベルベリン産生宿主細胞、テバイン産生宿主細胞、およびオピエート産生宿主細胞から選択される宿主細胞を培養する工程;
出発化合物を細胞培養物に加える工程;ならびに
細胞培養物からBIAを回収する工程
を含む、ベンジルイソキノリンアルカロイド(BIA)を調製する方法。
【0376】
態様114. 宿主細胞が態様1に記載の細胞であり、出発化合物がノルラウダノソリンおよびノルコクラウリンから選択され、かつBIAがレチクリンである、態様113に記載の方法。
【0377】
態様115. 宿主細胞が態様16に記載の細胞であり、出発化合物がレチクリン、ノルラウダノソリンまたはノルコクラウリンであり、かつBIAがサンギナリンまたはサンギナリン前駆体である、態様113に記載の方法。
【0378】
態様116. サンギナリン前駆体が、ケイランチホリン、スチロピン、シス-N-メチルスチロピン、スコウレリン、プロトピン、およびジヒドロサンギナリンから選択される、態様115に記載の方法。
【0379】
態様117. 宿主細胞の培養が、通気性の高い容器中で低温で実施される、態様115に記載の方法。
【0380】
態様118. 宿主細胞が態様46に記載の細胞であり、出発化合物がレチクリン、ノルラウダノソリン、またはノルコクラウリンであり、かつBIAがプロトベルベリンアルカロイドである、態様113に記載の方法。
【0381】
態様119. BIAが(S)-カナジンであり、かつ出発化合物がノルラウダノソリンである、態様118に記載の方法。
【0382】
態様120. BIAがベルベリンであり、かつ出発化合物がレチクリンである、態様118に記載の方法。
【0383】
態様121. プロトベルベリンアルカロイドが以下の構造のうちの1つによって表される、態様118に記載の方法:
式中、R1~R14は、各々独立して、H、アルキル、ヒドロキシルまたはアルコキシから選択される。
【0384】
態様122. 宿主細胞が態様63に記載の細胞であり、出発化合物がレチクリン、ノルラウダノソリン、またはノルコクラウリンであり、かつBIAがテバインである、態様113に記載の方法。
【0385】
態様123. テバインから、オリパビン、モルヒネ、コデイン、ヒドロモルホン、ヒドロコドン、オキシコドン、およびオキシモルホンから選択される1種または複数種のオピエート化合物を産生することをさらに含む、態様122に記載の方法。
【0386】
態様124. 宿主細胞が態様76に記載の細胞であり、出発化合物がレチクリン、ノルラウダノソリン、ノルコクラウリンまたはテバインであり、かつBIAがオピエート化合物である、態様113に記載の方法。
【0387】
態様125. オピエート化合物が、コデイン、モルヒネ、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、オキシコドン、ジヒドロコデイン、14-ヒドロキシコデインおよびジヒドロモルヒネから選択される、態様124に記載の方法。
【0388】
態様126. 宿主細胞が、殆どまたは全くオリパビンまたはモルフィノンを産生しない、態様124に記載の方法。
【0389】
態様127. 宿主細胞が、グルタミン、2-オキシグルタル酸、およびグルタミン酸のうちの1つまたは複数を含む培地中で培養される、態様124に記載の方法。
【0390】
態様128. 宿主細胞が、培養培地を用いた代謝物の交換を増強するために、約2%以下のジメチルスルホキシド(DMSO)を含む培地中で培養される、態様124に記載の方法。
【0391】
態様129. 回収されるBIAの量が、グルタミン、2-オキソグルタル酸およびグルタミン酸のうちの1つまたは複数を排除した対照培地中で培養された宿主細胞と比較して増強されている、態様124に記載の方法。
【0392】
態様130. 宿主細胞が態様75に記載の細胞であり、出発化合物がコデインおよびモルヒネから選択され、かつBIAが、ヒドロモルホン、ヒドロコドン、オキシコドン、ジヒドロコデイン、14-ヒドロキシコデイン、およびジヒドロモルヒネから選択されるオピオイドである、態様113に記載の方法。
【0393】
前記の本発明は、理解の明瞭さのために例示および実施例を用いて幾分詳細に記載されているが、添付の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなく、ある変化または改変を本発明に行なうことができることが本発明の教示に鑑みて当業者には容易に明らかである。
【0394】
従って、前記は単に本発明の原理を説明する。当業者は、本明細書に明確に記載または示されてはいないが、本発明の原理を具現し、その精神および範囲内に含まれる、様々なアレンジを考案することができることが理解されるだろう。さらに、本明細書に列挙された全ての実施例および条件の言葉は、主に、本発明の原理および当技術分野を促進するために本発明者らによって与えられた概念を理解する際に読者を助けるためのものであり、このような具体的に列挙された実施例および条件に限定されるとは捉えるべきではない。さらに、本発明の原理、局面および態様、ならびにその具体的な実施例を列挙した本明細書の全ての記述は、その構造的および機能的均等物の両方を包含することを意図する。さらに、このような均等物は、現在公知の均等物および将来に開発される均等物の両方、すなわち構造に関係なく同じ機能を遂行する開発された任意の要素を含むことを意図する。本発明の範囲は、それ故、本明細書において示され記載された例示的な態様に限定されないことが意図される。むしろ、本発明の範囲および精神は、添付の特許請求の範囲によって具現される。
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【配列表】
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【手続補正書】
【提出日】2021-12-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願の明細書に記載される発明