(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023259
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】衛生マスク及びその基材
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20220201BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020126062
(22)【出願日】2020-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】591032703
【氏名又は名称】群馬県
(71)【出願人】
【識別番号】303045719
【氏名又は名称】シロテックス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】下城 郁雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 徹郎
(72)【発明者】
【氏名】恩田 紘樹
(72)【発明者】
【氏名】須田 高史
(72)【発明者】
【氏名】吉野 功
(72)【発明者】
【氏名】渡部 貴志
(57)【要約】
【課題】気密保持性と顔面との密着性が向上した生地マスクを縫製することなく提供すること。
【解決手段】本発明によれば、筒状の空間を略井字形状型に配置させ生地マスクにおいて、タテ方向に2箇所にゴム紐を通し、生地を寄せ、ギャザー構造を発生させ、かつ、略井字形状型のヨコ方向のうち、少なくとも1カ所に支骨を挿入し、それを鼻の形状に合わせ変形させることにより、気密保持性と顔面との密着性が向上した生地マスクを生産することができる。筒状の空間を略井字形状型に配置させるために、袋織りを用いおり、生産工程の多い縫製を用いない。加えて、部分的に熱融着糸を用いることで、連続した生産された生地マスクの切り離し部分で、糸のほつれは発生しない。以上の様に縫製を用いることなく生産工程をシンプルにして衛生マスクを提供することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の空間を略井字形状型に配置させたことを特徴とする衛生マスク用基材。
【請求項2】
上記請求項1の基材をタテ方向、ヨコ方向に連続して配し、その切り離し部分では熱融着糸を用いることを特徴とする衛生マスク用基材。
【請求項3】
上記請求項1の基材において、略井字形状型のタテ方向2箇所にゴム紐を通すことのできることを特徴とする衛生マスク。
【請求項4】
上記請求項1の基材において、略井字形状型のヨコ方向のうち、少なくとも1カ所に支骨を挿入し、それを鼻の形状に合わせ変形できることを特徴とする衛生マスク。
【請求項5】
上記請求項1の基材において、略井字形状型のタテ方向に2箇所にゴム紐を通し、生地を寄せ、ギャザー構造を発生させ、かつ、略井字形状型のヨコ方向のうち、少なくとも1カ所に支骨を挿入し、それを鼻の形状に合わせ変形できることを特徴とする衛生マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密保持性と顔面との密着性が向上した生地マスクとその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
生地マスク(ここでは、織物を主体とするが、目の細かい編み物も含め不織布以外のものを指す)は、使い捨ての不織布マスクと異なり、肌触りが良く、洗濯することで再利用できる利点があるものの、気密保持性と顔面との密着性で劣っていた。
【0003】
例えば、市販の生地マスクでは、上記の不具合を改善する目的のために(1)マスク本体をプリーツ構造としたもの。(2)マスク上部中心に支骨(樹脂製チューブ又は成形材等、容易に変形でき、かつその形状を保持できるもの)を取り付け、鼻の形状に合わせ変形させるもの。(3)マスクの側面にタックをつけたもの。(4)マスクの側面をギャザー構造としたもの。(5)マスクを立体縫製としたもの。などが存在する。(上記記載した工夫を複数取り入れたものも存在する)
【0004】
特に(1)及び(2)の方法は、不織布マスクでは多く採用されている。(1)に関しては、プリーツ構造を維持するために熱融着し固定している。(2)に関しては、支骨をマスク本体と別の不織布で挟み込み熱融着し固定している。そのため、生産性は高く、廉価にマスクを提供せしめている。
【0005】
しかし、生地マスクの場合には、(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)のいずれの方法も、縫製を利用しているため、生産性が劣っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
気密保持性と顔面との密着性を向上すべく、前記特許文献1におけるマスクでは、マスク本体側端部(耳掛け紐穴内部等)に支骨を取り付け、耳掛け紐の張力によりマスクの変形を防止し支骨の弾力によって顔面にそくした形状とし、気密保持性と顔面との密着性の向上を図っている。
【0008】
しかし、特許文献1において、上記の市販マスクと同様に縫製を利用しているため、生産性が劣っている。
【0009】
本発明は、この様な点に鑑みてなされたものであり、縫製することなく、気密保持性と顔面との密着性が向上した生地マスクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)
図1に示すとおり、生地マスクにおいて、袋織りを用いて、筒状の空間(生地が上面と下面に分かれ、筒状又は袋状になっている状態)を略井字形状型に配置させる。
【0011】
(2)前記(1)の生地マスクにおいて、マスクの両側部の略井字形状型のタテ方向2箇所にゴム紐を通し、生地を寄せ、ギャザー構造を発生させる。このことにより気密保持性と顔面との密着性が向上した衛生マスクを得ることができる。
【0012】
ギャザーとは、生地に1本の線を縫い、その縫い糸を引き絞って縮めた際にできる皺及びその手法をさす。ここで、「ギャザー構造」とは、その際にできたシワを持つ構造を言う。
【0013】
(3)前記(1)の生地マスクにおいて、マスクの上端部の略井字形状型のヨコ方向のうち、少なくとも1カ所に支骨を挿入し、それを鼻の形状に合わせ変形させる。このことにより気密保持性と顔面との密着性が向上した衛生マスクを得ることができる。
【0014】
(4)前記(1)及び(2)を同時に満たすことで、気密保持性と顔面との密着性がより向上した衛生マスクを得ることができる。
【0015】
(5)加えて、生産性を向上させるため、
図1に構造を示す本発明品をタテ方向、ヨコ方向に連続して配した
図7に示す生地を生産する。
【0016】
上記の生地を本発明品の状態にするために、
図7の破線のところで切り離す。その切り離し部分では熱融着糸を用いるため、糸のほつれが発生しない。また、マスク本体を構成する糸は、熱融着糸の融着を阻害しないものであれば、天然繊維や化学繊維などをあらゆる繊維を用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、筒状の空間を略井字形状型に配置させ生地マスクにおいて、タテ方向に2箇所にゴム紐を通し、生地を寄せ、ギャザー構造を発生させ、かつ、略井字形状型のヨコ方向のうち、少なくとも1カ所に支骨を挿入し、それを鼻の形状に合わせ変形させることにより、気密保持性と顔面との密着性が向上した生地マスクを生産することができる。
筒状の空間を略井字形状型に配置させるために、袋織りを用いおり、生産工程の多い縫製を用いることはない。さらに、袋織りは異なる2種類以上の織物組織を利用することで、この筒状の空間が独立させ、ゴム紐及び支骨が他の空間に移動することはない。
加えて、部分的に熱融着糸を用いているので、生地マスクの切り離し部分(
図7の破線部分)では、糸のほつれは発生しないため、糸のほつれの発生を防止するために縫製を用いることもない。以上の様に縫製を用いることなく生産工程をシンプルにして衛生マスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図4】(a)本発明品の各部分の織物組織を示す概念図 (b)A-Aでの断面図
【
図7】本発明品をタテ方向、ヨコ方向に連続して配し、生産する生地の概念図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて、本発明を詳しく説明する。
【0020】
本発明品は、袋織りを利用したもので、
図1に示す筒状部分である。袋織りを用いて、筒状の空間(生地が上面と下面に分かれ、筒状又は袋状になっている状態)を略井字形状型に配置している。
【0021】
図1に示す様に、1aから2aに至る空間は筒状になっている。このため、1aからゴム紐を入れ、2aからゴム紐を引きだし、結ぶことができる。同様に、1bから2bに至る空間も筒状になっている。このため、1bからゴム紐を入れ、2bからゴム紐を引きだし、結ぶことができる。
【0022】
また、同様に3aから3bに至る空間は筒状になっている。このため、3aから支骨を容易に挿入することができ、それを鼻の形状に合わせ変形させることができる。
【0023】
なお、本発明品の上端側にのみ支骨を挿入し、下端側には挿入しない。その理由は、
図7の様に生産した後に本発明品を切り離した後に、上下が入れ替わってしまった場合でも、その後の作業に問題を生じさせないためである。
【0024】
以上の様に支骨4を筒状の空間に入れ、ゴム紐5を通した後の着用前状態を
図2に示す。(ただし、
図2では、支骨4は筒状の空間に挿入されているので、直接見ることができない)また、同様に支骨4を筒状の空間に入れ、ゴム紐5を通した後の着用前状態を写真で
図3に示す。
【0025】
上記の筒状の空間を作り出すために、
図4(a)の10を袋織りとする。10に接する部分(20、30、40及び50)の織物組織は、10の織物組織と異なる織物組織を用いる。そのため、ゴム紐及び支骨は10以外の部分に移動することはない。
【0026】
その織物組織を具体的に述べると、10と織物組織が異なる袋織りを用いてもよく、袋織り以外の平織り、綾織り、繻子織りなどを用いてもよい。
【0027】
図5に示すタテ糸70は、熱融着糸が使用され、製織後に熱加工が行われ、
図5の30に示す部分が融着される。そのため、本発明品の右端及び左端を切断しても切り口に糸のほつれは発生しない。
【0028】
図6に示すヨコ糸90は、熱融着糸が使用され、製織後に熱加工が行われ、
図6の40に示す部分が融着される。そのため、本発明品の上端及び下端を切断しても切り口に糸のほつれは発生しない。
【0029】
当然のことながら、
図6の50に示す部分は、タテ糸とヨコ糸ともに熱融着糸が使用され、製織後に熱加工が行われ融着される。
【0030】
図6に示すヨコ糸80は、ハイカウント糸(長繊維の中で、その構成するフィラメント数の多いもの。ここでは、おおむね、220デシテックスの長繊維であれば、そのフィラメント数が220本以上を言う)を使用することがより望ましい。この糸を使用することで、通気性が向上し、ホコリなどの粒子をマスクがとらえやすくなる効果がある。
【0031】
この様に本発明品では、上記の様に熱融着糸を使用することで、縫製することなしに、糸のほつれが発生しない構造となっている。
【0032】
本発明品の上端部中央まで挿入した支骨を鼻の形状に合わせ変形せしめる。
【0033】
さらに、ゴム紐は耳に引っ掛け長さを調整する。その後、ゴム紐を引き絞って生地を縮め、
図8の様なギャザー構造を発生させる。
【0034】
以上のことで、生地マスクは平面的な生地から立体的なマスクに構造が変化し、気密保持性と顔面との密着性が向上したマスクとなる。
【実施例0035】
織物組織について、
図4(a)及び
図9に基づいて、詳しく説明する。
図9の織物組織図は、マス目一つがタテ糸とヨコ糸の交錯点を示し、×印のマス目はタテ糸が上であり、無印のマス目はヨコ糸が上であることを示す。また、記載した織物組織図は、わかりやすい様に基本織物組織をタテ方向に2回繰り返して記載している。実際の大きさに合わせ基本織物組織をタテ方向、ヨコ方向に繰り返し、組織される。
10は袋織りである。そのため、生地が上面と下面に分かれ、筒状になっている。その形は、
図1に示す略井字形状型である。
図9(a)にその織物組織を示す。
20は袋織りである。そのため、生地が上面と下面に分かれ、その2面の生地がずれないで重なっている状態になっている。袋織りを用いない場合に比べて、通気性が向上し、風合いが軟らかくなっている。
図9(b)にその織物組織を示す。
20の袋織りの織物組織は
図9(b)であり、10の袋織りの織物組織は
図9(a)であることからわかる様に織物組織が異なる。
30は綾織りの変形織物組織である。この部分は、タテ糸が熱融着糸であるため、製織後融着され、生地が上面と下面に分かれることはない。
図9(c)にその織物組織を示す。
40は袋織りである。この部分は、ヨコ糸が熱融着糸であるため、製織後、融着され、生地が上面と下面に分かれることはない。
図9(d)にその織物組織を示す。
40は袋織りの織物組織は
図9(d)であり、20の袋織りの織物組織は
図9(b)及び10の袋織りの織物組織は
図9(a)であることからわかる様に織物組織が異なる。
50は綾織の変形織物組織である。この部分は、タテ糸及びヨコ糸が熱融着糸であるため、製織後、融着され、生地が上面と下面に分かれることはない。織物組織は30と同様である。
【0036】
織物組織が異なることからわかる様に、10は、20、30、40及び50と接しているが、筒状の独立した空間である。
図4(a)におけるA-Aでの断面図を
図4(b)に示す。
図4(b)からわかる様に、10の筒の中にあるゴム紐及び支骨は10以外の部分に移動することはない。
【0037】
タテ糸について、
図5に基づいて、詳しく説明する。
図5では、一点鎖線より上は生地を示し、一点鎖線より下はタテ糸のみを示す。60のタテ糸は、167デシテックスのポリエステル糸を糸密度63.3本/センチで配置した。10を構成する部分の幅は、7ミリであり、20を構成する部分の幅は160ミリとした。70のタテ糸は、167デシテックスの熱融着糸を糸密度31.7本/センチで配置した。70を構成する部分の幅は3ミリとした。
【0038】
糸通しを用いてゴム紐を通す10の幅は、15ミリから3ミリが望ましい。さらに望ましい幅は7ミリである。
【0039】
これらを1単位(幅180ミリ)として、5回繰り返す様に糸を配置した。
【0040】
ヨコ糸について、
図6に基づいて、詳しく説明する。
図6では、一点鎖線より左は生地を示し、一点鎖線より右はヨコ糸のみを示す。80のヨコ糸は、220デシテックスのハイカウントポリエステル糸(576フィラメント)を糸密度34.3本/センチで配置した。10を構成する部分の長さは、5ミリ、30を構成する部分の長さは148ミリとした。90のヨコ糸は、167デシテックスの熱融着糸を糸密度34.3本/センチで配置した。90を構成する部分の幅は4ミリとした。
【0041】
支骨を挿入する10の長さは、15ミリから3ミリが望ましく。さらに望ましくは5ミリである。
【0042】
図7に示す様に本発明品をタテ方向、ヨコ方向に連続して配し、生産計画に従って、生産を行った。
図7での破線が本発明品の区切りであり、その囲まれた四辺形の寸法は、タテ166ミリ、ヨコ180ミリである。
【0043】
また、実施例の大きさは成人男子用であって、本発明の要旨の範囲いおいて種々の大きさの異なる実施形態が可能である。
【0044】
次に、
図7に示す生地を染色し、染色後、熱加工を行った。
【0045】
図7に示す破線のところで、ハサミを用いて本発明品を切り離した。前述の様に
図4(a)に示す30、40及び50の部分は融着されているので、本発明品の四辺では、糸のほつれが発生しない。
【0046】
切り出した1枚について、
図1に示す様に、3aから支骨をマスク上端部中央まで挿入した。上端側と下端側に支骨を挿入できる部分があるが、上端のみに挿入する実施例である。
【0047】
また、切り出した1枚について、
図1に示す様に、糸通しを用いて、1aから2aへゴム紐を通した。同様に、糸通しを用いて、1bから2bへゴム紐を通した。この状態を
図3に写真で示す。
【0048】
マスクを装着し、ゴム紐の長さを適切に調整した。その後、紐を引き絞ってギャザー構造を発生させた。この時、ゴム紐に結び玉を作り、ギャザー構造を固定化した。
【0049】
さらに、マスクを装着し、支骨を鼻の形状に合わせ変形せしめた。
【0050】
以上のことで、気密保持性と顔面との密着性が向上させた衛生マスク1を得た。実施例に示す様に、筒状の空間を構成するのに、縫製を用いることはない。加えて、生地マスクの切り離し部分(
図7の破線部分)では、糸のほつれは発生しないため、糸のほつれの発生を防止するために縫製を用いることもない。以上の様に縫製を用いることなく生産工程をシンプルにして衛生マスクを提供することができる。
【0051】
実施例では、気密保持性と顔面との密着性が向上のために、略井字形状型のタテ方向にゴム紐を通し、ヨコ方向に支骨を挿入したが、いずれか一方のみ行うことも当然、可能である。
【0052】
上記以外の方法として、生地に限らず、不織布の場合も、融着、接着、及び物理的な結合(ニードルパンチ、水流交絡など)などを用いることで、同様に、略井字形状型の筒状の構造を作り、衛生マスクとすることも当然、可能である。
本発明は、気密保持性と顔面との密着性が向上した衛生マスクを縫製することなく提供でき、日常生活で、ほこりなどの粒子が体内に侵入するのを抑制する。また、咳やくしゃみなどの飛沫飛散の抑制し、飛沫感染の低減に役立つ。