(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023357
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】シグナルの低下を改善した検査試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/531 20060101AFI20220201BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20220201BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220201BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20220201BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
G01N33/531 B
G01N33/543 521
G01N33/53 D
G01N33/569 B
G01N33/569 G
G01N33/50 G
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020126241
(22)【出願日】2020-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 江里子
(72)【発明者】
【氏名】篠原 友樹
(72)【発明者】
【氏名】村松 志野
(72)【発明者】
【氏名】桑原 三和
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045AA28
2G045CB07
2G045CB21
2G045CB30
2G045DA36
2G045FB03
(57)【要約】
【課題】鼻腔ぬぐい検体、鼻腔吸引検体、鼻腔洗浄検体、鼻かみ鼻汁検体、咽頭ぬぐい検体、唾液検体等の体液に由来する検体からウイルス、細菌、検出対象とするタンパク質等の抗原を抗原抗体反応や相互作用を有する物質同士の反応を利用した検出試薬で検出するにあたり、従来の方法では抑制しきれなかった偽陰性反応および偽陽性反応を強く抑制することを目的とする。
【解決手段】抗原抗体反応または相互作用を有する物質同士の結合反応を利用して検体中の被検出物質を検出する検査試薬であって、キレート剤を含有する検体抽出液を含む検査試薬。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原抗体反応または相互作用を有する物質同士の結合反応を利用して検体中の被検出物質を検出する検査キットであって、キレート剤を含有する検体抽出液を含む検査試薬。
【請求項2】
シグナルの低下を抑制する、請求項1記載の検査試薬。
【請求項3】
検体抽出液に、さらに界面活性剤が含まれる、請求項1または2に記載の検査試薬。
【請求項4】
イムノクロマト用検査試薬であり、イムノクロマト用検査デバイスとキレート剤を含有する検体抽出液を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の検査試薬。
【請求項5】
キレート剤を含有する検体抽出液を含浸した部位を含むイムノクロマト用検査デバイスである、請求項1~3のいずれか1項に記載の検査試薬。
【請求項6】
検体抽出液が8 mM~300 mMのキレート剤を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の検査試薬。
【請求項7】
検体抽出液が25 mM~300 mMのキレート剤を含む、請求項6記載の検査試薬。
【請求項8】
キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)およびニトリロ三酢酸(NTA)からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の検査試薬。
【請求項9】
鼻腔ぬぐい検体、鼻腔吸引検体、鼻腔洗浄検体、鼻かみ鼻汁検体、咽頭ぬぐい検体および唾液検体からなる群から選択される検体中のウイルス抗原、細菌抗原、およびタンパク質抗原からなる群から選択される被検出物質を、抗原抗体反応または相互作用を有する物質同士の反応を利用して検出する方法において、検体を予めキレート剤と接触させることによって、シグナルの低下を抑制して検出する方法。
【請求項10】
被検出物質を検出する方法が、イムノクロマト法であり、キレート剤を含む検体抽出液に検体を入れ、該検体抽出液をイムノクロマト用検査デバイスに添加する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
被検出物質を検出する方法が、イムノクロマト法であり、検体をキレート剤を含む検体抽出液を含浸した部位を含むイムノクロマト用検査デバイスに添加する、請求項9記載の方法。
【請求項12】
検体抽出液に、さらに界面活性剤が含まれる、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
キレート剤を8 mM~300 mM含む検体抽出液を用いる、請求項9~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
キレート剤を25 mM~300 mM含む検体抽出液を用いる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)およびニトリロ三酢酸(NTA)からなる群から選択される、請求項9~14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鼻腔ぬぐい検体、鼻腔吸引検体、鼻腔洗浄検体、鼻かみ鼻汁検体、咽頭ぬぐい検体、唾液検体等の体液に由来する検体からウイルス・細菌、検出対象とするタンパク質等の被検出物質を抗原抗体反応や相互作用を有する物質同士の結合反応を利用した検出試薬で検出するにあたり、検体抽出液にキレート剤を使用することで、従来の方法では抑制しきれなかった偽陰性反応および偽陽性反応を強く抑制できる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗原抗体反応や相互作用を有する物質同士の結合反応を利用した、ウイルスや細菌等の病原体感染の有無、妊娠の有無などを検出する様々な検査試薬やキットが次々と開発されている。いずれの検査試薬も患者から検体を採取した後、検出反応に適した条件を作り出すための前処理工程が含まれており、この工程は正確な結果を得るために重要である。特に簡易検査試薬の多くは、特別な設備を必要とせず操作も簡単で安価であるという特徴を有し、大病院や医療検査センター以外にも一般の病院や診療所で広く使用されており、検査の専門家以外のユーザーが使用することも多い。そのため、試薬の検査精度が高いことが非常に重要となっている。現在市場にある簡易検査試薬の例としては、病原体の感染を検査する簡易検査試薬や妊娠診断のための簡易検査試薬が挙げられる。これらの検査試薬は患者が最初に訪れる医療機関で実施される場合が多く、患者から採取した検体についてその場で感染の有無や妊娠の有無が判別でき、早い段階で治療措置等を施すことができるため、簡易検査試薬の医療における重要性は益々高まっている。そして簡易検査試薬の利用増に伴い、ユーザーからは試薬の性能として、より再現性の高い検査結果や検査精度が求められている。
【0003】
現在、簡易検査方法の代表的な試薬として、抗原抗体反応を利用した免疫測定法、特にイムノクロマト法が一般に知られている。イムノクロマト法は被検出物質に特異的に結合する捕捉体(捕捉物質)、および被検出物質に特異的に結合する標識体の複合体をメンブレン上に形成させて、標識を検出/定量することで、被検出物質の検出(測定あるいは定量)を行う。イムノクロマト法は測定装置が簡単で、またコストの点でも優れているため多種多様の被検出物質の検出に広く用いられている。
【0004】
イムノクロマト法の一つの形態においては、ニトロセルロース等のメンブレンストリップ上に被検出物質に特異的に結合する抗体を捕捉物質として固相化した検出部、および被検出物質に特異的に結合する標識体を含む標識体部を備えた検査デバイスに、被検出物質を含む検体試料を滴下して、被検出物質-標識体の複合体を形成させながら展開して検出部でこの複合体を捕捉することで標識を検出あるいは定量する。
【0005】
近年、イムノクロマト法を含む臨床診断薬に関しては、診断結果がより信頼性の高いものとなることが臨床現場から望まれており、試薬の信頼性のさらなる向上が課題となっている。信頼性の高い検査試薬とは、感度と特異性が高く、誤判定を引き起こしにくい検査試薬である。特に特異性に関しては、患者それぞれのバックグラウンドの違いに由来する検体成分の多様性に、いかに試薬設計で対応することができるかという技術的課題が常に存在しており、より効果的な非特異反応の解消は簡易検査法において極めて重要な課題である。これらの課題を解決するためにアルギニンやリジンなどの塩基性アミノ酸や、無機塩類、グリシンエチルエステル、界面活性剤、動物由来免疫グロブリンなどを検体に接触させることで、特異性の改善に一定の効果が見られることが報告されているが(特許文献1、2および3を参照)、いずれも効果が限定的であり、抑制できない非特異反応が未だ存在する。そのためより強く特異性を改善し、感度も低下させない技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-279577号公報
【特許文献2】特開2005-24323号公報
【特許文献3】特開2004-301684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鼻腔ぬぐい検体、鼻腔吸引検体、鼻腔洗浄検体、鼻かみ鼻汁検体、咽頭ぬぐい検体、唾液検体等の体液に由来する検体からウイルス、細菌、検出対象とするタンパク質等の被検出物質を抗原抗体反応や相互作用を有する物質同士の結合反応を利用した検出試薬で検出するにあたり、従来の方法では抑制しきれなかった偽陽性反応や偽陰性反応がいまだに存在し、正確な診断を妨げる一因となっている。本発明では、感度を低下させることなく、偽陰性反応および偽陽性反応を強く抑制できる成分を含む検体抽出液や検体抽出方法を使用した検査試薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鼻腔ぬぐい検体、鼻腔吸引検体、鼻腔洗浄検体、鼻かみ鼻汁検体、咽頭ぬぐい検体、唾液検体等の体液に由来する検体を試験試料とした際に発生する非特異反応をより強く抑制する方法を鋭意探索した結果、従来の方法よりも顕著にシグナルの低下を抑制しうる成分を見出し、さらにこれを検体抽出液や検出反応より前の工程や検出反応と同時の工程で検体と接触する部材等に添加することによって、従来法で検出されていた偽陰性反応を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1] 抗原抗体反応または相互作用を有する物質同士の結合反応を利用して検体中の被検出物質を検出する検査キットであって、キレート剤を含有する検体抽出液を含む検査試薬。
[2] シグナルの低下を抑制する、[1]の検査試薬。
[3] 検体抽出液に、さらに界面活性剤が含まれる、[1]または[2]の検査試薬。
[4] イムノクロマト用検査試薬であり、イムノクロマト用検査デバイスとキレート剤を含有する検体抽出液を含む、[1]~[3]のいずれかの検査試薬。
[5] キレート剤を含有する検体抽出液を含浸した部位を含むイムノクロマト用検査デバイスである、[1]~[3]のいずれかの検査試薬。
[6] 検体抽出液が8 mM~300 mMのキレート剤を含む、[1]~[5]のいずれかの検査試薬。
[7] 検体抽出液が25 mM~300 mMのキレート剤を含む、[6]の検査試薬。
[8] キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)およびニトリロ三酢酸(NTA)からなる群から選択される、[1]~[7]のいずれかの検査試薬。
[9] 鼻腔ぬぐい検体、鼻腔吸引検体、鼻腔洗浄検体、鼻かみ鼻汁検体、咽頭ぬぐい検体および唾液検体からなる群から選択される検体中のウイルス抗原、細菌抗原、およびタンパク質抗原からなる群から選択される被検出物質を、抗原抗体反応または相互作用を有する物質同士の反応を利用して検出する方法において、検体を予めキレート剤と接触させることによって、シグナルの低下を抑制して検出する方法。
[10] 被検出物質を検出する方法が、イムノクロマト法であり、キレート剤を含む検体抽出液に検体を入れ、該検体抽出液をイムノクロマト用検査デバイスに添加する、[9]の方法。
[11] 被検出物質を検出する方法が、イムノクロマト法であり、検体をキレート剤を含む検体抽出液を含浸した部位を含むイムノクロマト用検査デバイスに添加する、[9]の方法。
[12] 検体抽出液に、さらに界面活性剤が含まれる、[10]または[11]の方法。
[13] キレート剤を8 mM~300 mM含む検体抽出液を用いる、[9]~[12]のいずれかの方法。
[14] キレート剤を25 mM~300 mM含む検体抽出液を用いる、[13]の方法。
[15] キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)およびニトリロ三酢酸(NTA)からなる群から選択される、[9]~[14]のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鼻腔ぬぐい検体、鼻腔吸引検体、鼻腔洗浄検体、鼻かみ鼻汁検体、咽頭ぬぐい検体、唾液検体等の体液に由来する検体などから抗原抗体反応や相互作用を有する物質同士の結合反応を利用して特定のウイルス、細菌、タンパク質、低分子化合物等を検出する検出試薬において、検体の混入により発生するシグナルの低下をより強く抑制し、再現性が高く検査精度の高い検査試薬を提供できる。また非特異反応による誤った臨床診断をより防ぐことができ、患者およびユーザーである医師、検査技師および看護師の双方にとって有益である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明で用いる検査デバイスの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、検体中の被検出物質を抗原抗体反応や相互作用を有する物質同士の結合反応を利用した検出試薬で検出するにあたり、キレート剤と検体を接触させることにより、偽陰性反応および偽陽性反応を抑制し、シグナルの低下、すなわち感度の低下を防止する方法である。
【0013】
本発明において、抗体は抗体の抗原結合性断片も含む。
【0014】
(検体)
用いる検体は限定されない。例えば、検体として、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、鼻腔吸引液、咽頭洗浄液、鼻腔洗浄液、鼻かみ鼻汁液、唾液等が挙げられる。これらを咽頭ぬぐい検体、鼻腔ぬぐい検体、鼻腔吸引検体、咽頭洗浄検体、鼻腔洗浄検体、鼻かみ鼻汁検体、唾液検体等と呼ぶ。これらの検体は、緩衝液で希釈して用いることもでき、希釈せずにそのまま用いることができる。
【0015】
(検出対象物質)
被検出物質も何ら限定されず、検出しようとするいかなる物質であってもよい。具体例として、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、RS(respiratory syncytial)ウイルス、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)、A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ノロウイルス、SARS-CoVやMERS-CoVやSARS-CoV2などのコロナウイルス等のウイルス抗原、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、A群溶連菌、B群溶連菌、レジオネラ属菌等の細菌抗原;細菌等が産生する毒素;マイコプラズマ抗原;クラミジア・トラコマティス等のクラミジア抗原;原生動物の抗原;真菌の抗原;ヒト絨毛性ゴナドトロピン等のホルモン;C反応性タンパク質、ミオグロビン、心筋トロポニン、プロカルシトニン等のタンパク質;各種腫瘍マーカー;農薬、環境ホルモン等の抗原を挙げることができ、さらに、上記細菌、ウイルス等に対する抗体を挙げることができる。
【0016】
(検体の採取)
検体の採取方法も何ら限定されないが、咽頭ぬぐい検体、鼻腔ぬぐい検体、鼻腔吸引検体、咽頭洗浄検体、鼻腔洗浄検体、鼻かみ鼻汁検体、唾液検体を、綿棒等の検体採取器具を用いて採取する方法や吸引器による吸引等を利用して採取する方法が挙げられる。
【0017】
(キレート剤と採取した検体の接触)
本発明の方法においては、検体とキレート剤とを接触させる。ここで、検体をキレート剤と接触させることにより、その結果、検体を測定した場合に、偽陰性および偽陽性を抑制することができる。なお、検体とキレート剤と接触させるときに、被検物質とキレート剤が接触するので、本発明の方法においては、被検出物質とキレート剤とを接触させるともいう。また、検体をキレート剤と接触させることを、検体をキレート剤で処理するということもある。
【0018】
また、検体抽出液は、検体中の被検出物質を浮遊させ測定しやすくする液体をいうが、例えば、細胞等から特定の被検出物質を溶解等により抽出する必要はなく、単に検体処理液や検体希釈液、検体浮遊液ということもできる。
【0019】
本発明において検体とキレート剤を試験に供する前に予め接触する必要がある。ここで、試験に供する前とは、検体中の被検出物質とそれに対する抗体または抗原と反応する前、または検体中の被検出物質が相互作用を有する物質と反応する前をさす。抗体または抗原との反応は、抗体または抗原との結合をいい、検体中の被検出物質と相互作用を有する物質との反応は、相互作用を有する物質との結合をいう。
【0020】
本発明のキレート剤と検体との接触方法として、検体をキレート剤を含む溶液に入れて混合して接触させる方法、および測定に用いる検査デバイスにキレート剤を含む検体抽出液を含ませておき、検体を検査に用いる検査デバイスに添加することにより検体をキレート剤と接触させる方法が挙げられる。
【0021】
検体をキレート剤を含む溶液と混合して接触させる方法の具体例として、採取した検体を浮遊、分散させる検体抽出液にキレート剤を含ませておき、検体を検体抽出液に添加し混合するときに検体とキレート剤と接触させる方法が挙げられる。例えばキレート剤を含有した検体抽出液を使用する場合、検体が鼻腔ぬぐい液の場合、綿棒を使用して鼻腔ぬぐい液を採取し、採取した検体を浸み込ませた綿棒を前記検体抽出液に入れて検体を浮遊、分散させ抽出することにより、検体とキレート剤とを接触させることができる。
【0022】
測定に用いる検査デバイスにキレート剤を含む検体抽出液を含ませておき、検体を検査デバイスに添加することにより検体をキレート剤と接触させる方法の具体例として、検査デバイスが有するろ過フィルターなどの繊維状または多孔性基材にキレート剤を含む検体抽出液を含ませておき、採取した検体を検査デバイスに添加したときに、検体を繊維状または多孔性基材に含ませておいたキレート剤と接触させる方法が挙げられる。このように検査デバイスとして、後述のイムノクロマト法用デバイスが挙げられる。
【0023】
検査デバイスの多孔性基材の材質は、何ら限定されるものではないが、パルプ、綿、羊毛、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン、アクリルガラス繊維、ニトロセルロース等が挙げられる。測定に用いる検査デバイスにキレート剤を含む検体抽出液を含ませておき、検体を検査デバイスに添加することにより検体をキレート剤と接触させる場合は、例えば、キレート剤を含む検体抽出液を多孔性基材に含浸させ乾燥させておき、検査デバイス上で被検出物質を検出するための反応が起こる前の工程または同時の工程で検体と該多孔性基材と接触させればよい。例えば、検査デバイスに検体を添加した場合、検体は検査デバイス上を展開し、デバイス上の反応が起こる部位に達して抗体抗原反応等の反応が起こる。検査デバイス上の反応が起こる部位より前の部位にキレート剤を含む検体抽出液を含ませた多孔性基材を設けておくことにより、検体は反応前にキレート剤と接触する。例えば、多孔性基材としてろ過フィルターを用い、検体を添加する部位にキレート剤を含む検体抽出液を含むろ過フィルターを設ければよい。この場合においては、検体として鼻腔ぬぐい液を用いる場合、綿棒を使用して鼻腔ぬぐい液を採取し、採取した検体を浸み込ませた綿棒をキレート剤を含まない任意の組成の検体抽出液に入れて検体を分散、溶解させた後、検査デバイスの構成部材である、キレート剤を含ませたろ過フィルターに上述の検体抽出液を含浸させておくことにより検体とキレート剤を接触させることができる。
【0024】
(キレート剤およびその濃度)
本発明の方法で用いるキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)等が挙げられる。これらのキレート剤は、ナトリウム塩やカリウム塩も含む。
【0025】
前述のように、キレート剤は、検体抽出液やろ過フィルター等に検体抽出液として含有される。偽陰性反応の抑制のためには、キレート剤の濃度は8 mM以上が好ましく、10 mM以上がさらに好ましく、50 mM以上がさらに好ましい。またこれらのキレート剤を同時に複数種類使用することもでき、その場合のキレート剤のトータル濃度も8 mM以上が好ましく、10 mM以上がさらに好ましく、50 mM以上がさらに好ましい。また、偽陽性反応の抑制のためには、キレート剤の濃度は25 mM以上が好ましく、40 mM以上がさらに好ましく、50 mM以上がさらに好ましい。キレート剤の濃度の上限は定める必要はないが、例えば、1000mM以下、500 mM以下、300 mM以下、または150 mM以下である。例えば、25mM~300mM、40mM~300mM、もしくは50mM~300mMの範囲で用いることにより、偽陰性反応と偽陽性反応の両方を良好に抑制することができる。また、150 mM以下で用いる場合、発色強度の低下を抑えることができる。なお、ろ過フィルター等の多孔性基材にキレート剤を含む検体抽出液を含ませる場合も上記の濃度のキレート剤を多孔性基材に含ませればよい。
【0026】
(キレート剤以外のその他の成分)
本発明における検体抽出液や検出反応より前の工程で検体と接触する多孔性基材等の部材等に含侵させる検体抽出液には、キレート剤以外に、非特異反応を軽減できる既知の物質や、界面活性剤、pH緩衝性の成分、各種タンパク質、塩類、糖類を含んでもよい。例えば、非特異反応を軽減できる成分として、アルギニン、アルギニンエチルエステル、アルギニンメチルエステル、グリシンエチルエステル、グリシンメチルエステル、リジンおよび上述の化合物の各種異性体等が挙げられる。また界面活性剤としては、例えばポリエチレングリコールモノ‐p-イソオクチルフェニルエーテルやモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどの非イオン性界面活性剤、CHAPSやラウリルアミドスルホベタインなどの両イオン性界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム等の陽イオン性界面活性剤が挙げられる。検体抽出液中の界面活性剤の濃度は0.5~5(w/v)%が好ましく、1~3(w/v)%がさらに好ましく、1.5~2.5(w/v)%がさらに好ましい。界面活性剤はウイルス破壊作用があり、界面活性剤によるウイルスの破壊時にキレート剤が存在すると効果が高まる。従って、検体抽出液に界面活性剤とキレート剤が共存していることが好ましい。
【0027】
緩衝性成分としてはリン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液などが挙げられる。タンパク質成分としては、BSA(ウシ血清アルブミン)、カゼイン、ゼラチン、IgG等が挙げられる。塩類としては塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなどが挙げられる。
【0028】
(検出方法)
本発明の方法においては、抗原抗体反応や相互作用を有する物質同士の結合反応を利用した方法により検出する。相互作用を有する物質同士の組合せとしては、リガンドとレセプターの組合せ、受容体とレセプターの組合せ、ビオチンとアビジン若しくはストレプトアビジンの組合せ等が挙げられる。
【0029】
抗原抗体反応や相互作用を有する物質同士を利用した検出方法であれば特に限定されないが、イムノクロマト法、ラテックス凝集法、免疫比濁法、免疫比ろう法、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、酵素免疫測定吸着法(ELISA)などの酵素免疫測定法(EIA)等が挙げられ、ラテックス凝集法、免疫比濁法、免疫比ろう法が挙げられる。これらの多くは免疫学的手法であり、抗原抗体反応を利用するが、抗原抗体反応の代わりに相互作用を有する物質同士の反応を利用することもできる。これらの方法の中でも、サンドイッチ法が好ましい。典型的なサンドイッチ法においては、被検出物質と結合する第1の物質を特定の担体に被検出物質捕捉物質として固相化しておき該物質に被検出物質を結合させ、さらに被検出物質に結合する第2の物質であって、標識した物質を被検出物質に結合させ、「被検出物質と結合する第1の物質-被検出物質-被検出物質と結合する第2の物質であって標識した物質」(「-」は結合を示す)の複合体を形成させ、標識物質から発せられるシグナルを測定することにより、被検出物質を測定する。被検出物質と結合する第1の物質と被検出物質と結合する第2の物質は同じ物質でもよい。被検出物質と被検出物質と結合する物質は抗原と抗体または抗体と抗原であってもよいし、互いに相互作用を有する物質であってもよい。被検出物質と結合する第1の物質が固定化される固相としては、タンパク質等の物質を公知技術により固定可能なものは全て用いることができ、例えば、毛細管作用を有する多孔性薄膜(メンブレン)、粒子状物質、試験管、樹脂平板など公知のものを任意に選択できる。また、被検出物質と結合する第2の物質を標識する物質としては、酵素、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、有色粒子、コロイド粒子などを用いることができる。
【0030】
サンドイッチ法の中でも臨床検査の簡便性と迅速性の観点から、メンブレンを用いたラテラルフロー式の免疫測定法であるイムノクロマト法が特に好ましい。以下に、抗原抗体反応を利用した一般的なイムノクロマト法について説明する。イムノクロマト法用検査デバイスを
図1に示す。
【0031】
図1の上が上面図、下が切断断面図である。検査デバイスは、プラスチック板(ヘ)上に積層されたニトロセルロースメンブレン(イ)上に種々の部位が積層されている。図示の具体例では、プラスチック板(ヘ)上に、抗体等の被検出物質捕捉物質等で2個の検出部(ハ)が形成されたニトロセルロースメンブレン(イ)、濾紙で形成された吸収パッド部(ホ)、標識体部(ロ)、およびガラス繊維フィルターで形成された試料添加部(ニ)がそれぞれ積層されている。
【0032】
そして、図示のように、吸収パッド部(ホ)の一方の端部領域と、ニトロセルロースメンブレン(イ)の一方の端部領域、ニトロセルロースメンブレン(イ)の他方の端部領域と標識体部(ロ)の一方の端部領域、標識体部(ロ)の他方の端部領域と試料添加部(ニ)の一方の端部領域がそれぞれ重ね合わされており、これにより、連続したラテラルフローの流路が形成されている。
【0033】
標識体部(ロ)には、抗体等の被検出物質捕捉物質に標識物質が化学的または物理的に結合した標識体が含まれている。標識物質としては、金コロイド粒子、白金コロイド粒子、カラーラテックス粒子、磁性粒子、酵素、量子ドット、蛍光色素や蛍光体、量子ドットなどが挙げられる。標識体部は、上記標識体を含む多孔性基材から成り、基材の材質は一般的に用いられているガラス繊維(グラスファイバー)や不織布等を用いることができる。前記標識体を含浸させ乾燥させた多孔性基材を安定化乾燥標識体パッドとも呼ぶ。すなわち、標識体部は、被検出物質と抗原抗体反応により結合する抗体であって着色ラテックス粒子で標識した抗体を含む、上記の安定化乾燥標識体パッドを含む部位である。
【0034】
また、検出部(ハ)は、被検出物質と抗原抗体反応により結合する抗体を捕捉物質としてライン状に固相化された部位である。
【0035】
被検出物質の検出反応より前の工程や検出反応と同時の工程で検体と接触する部材等の例として、上記の(イ)(ロ)(ニ)などが挙げられるが、被検出物質の検出反応より前の工程や検出反応と同時の工程で検体と接触する部材であればこれに限定されるものではない。検体を試料添加部(ニ)に添加すると、検体は試料添加部(ニ)から吸収パッド部(ホ)に向かって流れる。試料添加部(ニ)から吸収パッド部(ホ)への流れを上流から下流への流れと表現した場合、被検出物質の検出反応より前の工程や検出反応と同時の工程で検体と接触する部材は、検出反応が起こる部位よりも上流に存在するということができる。
【0036】
次にこの検査デバイスを用いた免疫測定法について説明する。先ず、検体を検体抽出液に浮遊し、被検出物質を抽出させた検体試料を調製する。メンブレン次いで、検査デバイスの試料添加部(ニ)に前記検体試料を滴下する。被検出物質を含む検体試料は、メンブレン上を水平方向に移動しながら標識体部(ロ)に含浸されて標識体を溶解させ、展開する。検体試料中に被検出物質が存在すれば、被検出物質-標識体の複合体を形成する。該複合体が検出部(ハ)に到達するとそのライン上に、捕捉抗体-被検出物質-標識体の複合体が形成される。この複合体中の標識物質から発せられるシグナルにより、複合体の存在を検出することにより検体中の被検出物質の有無を判定することができる。反応に関与しなかった他の成分等は、吸収パッド部(ホ)に吸収される。なお、
図1に示す例では、検出部(ハ)が2個存在するが、これは、例えばA型インフルエンザウイルスとB型インフルエンザウイルスのような2種類の被検出物質をそれぞれ捕捉するためのものである。このような検出部(ハ)を複数設けることにより、複数種類の被検出物質を同時に免疫測定することが可能である。
【0037】
上記のイムノクロマト法において、検体と混合し被検出物質を抽出するための検体抽出液にキレート剤を含ませておいてもよいし、イムノクロマト法用検査デバイスのニトロセルロースメンブレン(イ)、標識体部(ロ)、および/または試料添加部(ニ)にキレート剤を含ませておいてもよい。
【0038】
本発明は、抗原抗体反応や相互作用を有する物質同士の結合反応を利用した検査試薬を含む。該検査試薬は検査デバイス自体をいうこともあり、検査デバイスとその他の試薬を含む検査キットをいうこともある。本発明の検査試薬は、例えば、イムノクロマト法検査デバイスとキレート剤を含む検体抽出液を含む検査キットを含む。また、本発明の検査試薬はキレート剤を含む検体抽出液を含む部位を備えたイムノクロマト法検査デバイスを含む。
【実施例0039】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0040】
以下の実施例では、本発明の検体抽出液を用いた場合に、hMPV(ヒトメタニューモウイルス)を検出するイムノクロマト法キットにおいて検体での非特異反応が抑制された実施例について説明する。
【0041】
調製例
1.抗hMPVモノクローナル抗体の作製
hMPV抗原をBALB/cマウスに免疫し、一定期間飼育したマウスから脾臓を摘出し、ケラーらの方法(Kohler et al., Nature, vol. 256, p495-497(1975))によりマウスミエローマ細胞(P3×63)と融合した。得られた融合細胞(ハイブリドーマ)を、37℃インキュベーター中で維持し、hMPV抗原を固相したプレートを用いたELISAにより上清の抗体活性を確認しながら細胞の純化(単クローン化)を行った。取得した該細胞2株をそれぞれプリスタン処理したBALB/cマウスに腹腔投与し、約2週間後、抗体含有腹水を採取した。
【0042】
得られた腹水からプロテインAカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィー法により、それぞれIgGを精製し、2種類の精製抗hMPV抗体を得た。
【0043】
2.抗hMPV抗体のニトロセルロースメンブレンへの固定化
精製した抗hMPV抗体を1.0 mg/mLになるように精製水で希釈した液をPETフィルムで裏打ちされたニトロセルロースメンブレンの所定の位置に線状に塗布し、45℃、30分間乾燥させ、抗hMPV抗体固定化メンブレンを得た(以下抗体固定化メンブレンとする)。
【0044】
3.抗hMPV抗体の着色ポリスチレン粒子への固定化
ニトロセルロースメンブレンへの固定化に使用しなかったもう一つの精製した抗hMPV抗体を1.0 mg/mLになるように精製水で希釈し、これに着色ポリスチレン粒子(Thermo scientific社製)を0.1(w/v)%になるように加え、攪拌後、カルボジイミドを1(w/v)%になるように加え、さらに攪拌する。遠心操作により上清を除き、50 mM Tris(pH9.0)、3(w/v)%BSAに再浮遊し、抗hMPV抗体結合着色ポリスチレン粒子を得た。
【0045】
4.抗hMPV抗体結合着色ポリスチレン粒子の塗布・乾燥
3.で得た抗hMPV抗体結合着色ポリスチレン粒子をグラスファイバー不織布に所定量1.0 μgを塗布し、45℃、30分間乾燥させた。
【0046】
5.固定化メンブレン、乾燥パッド、他部材との貼り合わせ
2.および4.で調製した抗体固定化メンブレンと乾燥パッドを他部材(バッキングシート、吸収帯、サンプルパッド)と貼り合せて5 mm幅に切断し、hMPV試験片(検査デバイス)とした。
【0047】
6.検体抽出液の作製
以下のそれぞれの実施例に記載する。
【0048】
実施例1 hMPV抗原検出イムノクロマト法における鼻腔吸引検体による偽陰性化抑制効果の検証
50 mMトリス緩衝液(pH8.0)、2%(w/v)ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(商品名TritonX-100(ナカライ社製)、以下TritonX-100)を含む混合液を作製し、対照1の検体抽出液とした。次にキレート剤としてEDTA、EGTAについて検証を行うべく、各組成の検体抽出液を調製した(詳細は表1参照)。
【0049】
綿棒(Exスワブ-002;デンカ社製)に鼻腔吸引液を吸わせて、これを各組成の検体抽出液400μLにそれぞれ浮遊させた。これに不活化hMPVを30μL加え、混合した。混合液50μLをhMPV試験片のサンプルパッド部分に滴加し、5分後に目視判定を行った。
【0050】
【0051】
結果、対照が鼻腔吸引液により偽陰性化してしまうのに対して、キレート剤であるEDTA、EGTAは10 mM以上の濃度で偽陰性化を抑制でき、特に50 mMから300 mMの範囲で効果が高かった。得られた結果を表2に示す。
【0052】
【0053】
実施例2 hMPV抗原検出イムノクロマト法におけるhMPV陽性鼻腔吸引検体による偽陰性化抑制効果の検証
実施例1で効果の高かった50 mMのキレート剤を含む検体抽出液No.5を用いて、hMPV抗原検出イムノクロマト法におけるhMPV陽性鼻腔吸引液検体による偽陰性化抑制効果の検証を行った。
【0054】
綿棒(Exスワブ-002;デンカ社製)にhMPV陽性鼻腔吸引液を吸わせて、これを各組成の検体抽出液400μLにそれぞれ浮遊させた。混合液50μLをhMPV試験片のサンプルパッド部分に滴加し、5分後に目視判定を行った。
【0055】
結果、実施例1と同様に検体抽出液No.5を使用することで、hMPV陽性鼻腔吸引検体においても偽陰性化を抑制することが出来た。結果を表3にまとめた。
【0056】
【0057】
実施例3 hMPV抗原検出イムノクロマト法における唾液検体による偽陰性化抑制効果の検証
表1の各組成の検体抽出液を用いて、hMPV抗原検出イムノクロマト法における唾液検体による偽陰性化抑制効果の検証を行った。
【0058】
綿棒(Exスワブ-001;デンカ社製)を口に含み、よく唾液を吸わせて、これを各組成の検体抽出液400μLにそれぞれ浮遊させた。これに不活化hMPVを30μL加え、混合した。混合液50μLをhMPV試験片のサンプルパッド部分に滴加し、5分後に目視判定を行った。
【0059】
結果、対照が唾液により偽陰性化してしまうのに対して、キレート剤であるEDTAは10 mM以上の濃度で偽陰性化を抑制でき、特に50 mMから300 mMの範囲で効果が高かった。得られた結果を表4に示す。
【0060】
【0061】
実施例4 hMPV抗原検出イムノクロマト法における唾液検体による偽陽性化抑制効果の検証
表1の各組成の検体抽出液を用いて、hMPV抗原検出イムノクロマト法における唾液検体による偽陽性化抑制効果の検証を行った。
【0062】
綿棒(Exスワブ-001;デンカ社製)を口に含み、よく唾液を吸わせて、これを各組成の検体抽出液400μLにそれぞれ浮遊させた。これに不活化hMPVを30μL加え、混合した。混合液50μLをhMPV試験片のサンプルパッド部分に滴加し、5分後に目視判定を行った。
【0063】
結果、対照が唾液により偽陽性化してしまうのに対して、キレート剤であるEDTAは50 mM以上の濃度で偽陽性化を抑制できた。得られた結果を表5に示す。
【0064】
【0065】
実施例5 hMPV抗原検出イムノクロマト法において検体、検体内の抗原とキレート剤の接触するタイミングによるhMPV陽性鼻腔吸引検体における偽陰性化抑制効果の検証
hMPV抗原検出イムノクロマト法において検体、検体内の抗原とキレート剤の接触するタイミングによるhMPV陽性鼻腔吸引検体における偽陰性化抑制効果の検証を、表6に示す各条件で行った。
【0066】
【0067】
綿棒(Exスワブ-002;デンカ社製)にhMPV陽性鼻腔吸引液を吸わせて、これを各組成の検体抽出液400μLにそれぞれ浮遊させた。浮遊液にそれぞれ表6に記す条件で2%(w/v)TritonX-100、50 mM EDTAを添加し、2%(w/v)TritonX-100によるウイルスの破壊時のEDTAの有無によって偽陰性化抑制効果に影響があるかの検証を行った。各条件の混合液50μLをhMPV試験片のサンプルパッド部分に滴加し、5分後に目視判定を行った。
【0068】
その結果、条件1、2が鼻腔吸引液により偽陰性化してしまうのに対して、条件3、4では偽陰性化を抑制できた。得られた結果を表7に示す。
【0069】
【0070】
このことから、TritonX-100によるウイルスの破壊時にEDTAが存在することでhMPV陽性鼻腔吸引検体における偽陰性化の抑制効果が得られると考えられた。
【0071】
実施例6 hMPV抗原検出イムノクロマト法における検体抽出液と対照検体抽出液の発色強度比較
表1の各組成の検体抽出液を用いて、hMPV抗原検出イムノクロマト法における検体抽出液と従来検体抽出液の発色強度の比較試験を行った。
【0072】
各組成の検体抽出液400μLに、不活化hMPVを30μL加え、混合する。混合液50μLをhMPV試験片のサンプルパッド部分に滴加し、5分後に目視判定を行った。
【0073】
結果、対照の検体抽出液と検体抽出液No.1~7では発色が見られたが、検体抽出液No.8では発色は見られなかった。また、発色強度は検体抽出液No.7で低下しており、EDTAが10~150 mMの範囲ではシグナル強度を低下させずに特異性を向上させることができた。得られた結果を表8に示す。なお発色強度の数値は+、++、+++の順に、シグナルが強く出ていることを示し、0は発色が見られなかったことを示している。
【0074】