(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023457
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】車両の走行制御システム、及びハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20220201BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20220201BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20220201BHJP
H02P 29/00 20160101ALI20220201BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20220201BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20220201BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20220201BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60L50/16
B60L50/60
H02P29/00
B60K6/46 ZHV
B60W10/08 900
B60W20/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020126408
(22)【出願日】2020-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 学
(72)【発明者】
【氏名】杉本 喬紀
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 勇輔
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
5H501
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB00
3D202BB16
3D202CC03
3D202DD05
3D202DD24
3D202DD44
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BD17
5H125CA02
5H125EE01
5H125EE42
5H501AA20
5H501BB05
5H501CC04
5H501CC07
5H501JJ03
5H501JJ17
5H501LL27
(57)【要約】
【課題】モータで損失する電力に起因する車両の振動を抑制できる。
【解決手段】車両の走行制御システムは、モータと、モータを制御する制御装置と、を備え、制御装置は、モータに供給される供給電力からモータの損失電力を差し引いた第1電力が、モータに要求されたトルクを出力するための要求電力以下であると、供給電力から予め設定された理論損失電力を差し引いた第2電力で駆動するようにモータを制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記モータに供給される供給電力から前記モータの損失電力を差し引いた第1電力が、前記モータに要求されたトルクを出力するための要求電力以下であると、前記供給電力から予め設定された理論損失電力を差し引いた第2電力で駆動するように前記モータを制御する、
車両の走行制御システム。
【請求項2】
前記理論損失電力は、単位時間当たりの変化量が所定の上限値未満であるように、予め設定されている、
請求項1に記載の車両の走行制御システム。
【請求項3】
前記上限値は、前記第1電力が前記要求電力以下になったときにおける前記損失電力の単位時間当たりの変化量よりも小さい、
請求項2に記載の車両の走行制御システム。
【請求項4】
前記理論損失電力は、単位時間当たりの変化量が一定であるように、予め設定されている、
請求項1から3の何れか一項に記載の車両の走行制御システム。
【請求項5】
前記理論損失電力は、前記第1電力が前記要求電力以下になってから前記損失電力が前記理論損失電力と一致するまで、時間の経過とともに単調増加するように、予め設定されている、
請求項1から4の何れか一項に記載の車両の走行制御システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記損失電力が前記理論損失電力と一致すると、前記第1電力で駆動するように前記モータを制御する、
請求項1から5の何れか一項に記載の車両の走行制御システム。
【請求項7】
電力を発電する発電機をさらに備え、
前記制御装置は、前記発電機によって発電された電力が前記供給電力に含まれると、前記第1電力で駆動するように前記モータを制御する、
請求項1から6の何れか一項に記載の車両の走行制御システム。
【請求項8】
請求項7に記載の車両の走行制御システムと、
前記発電機に接続されるエンジンと、
前記発電機によって充電されるバッテリと、を備える、
ハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の走行制御システム、及びハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電気自動車やハイブリッド自動車などの車両は、バッテリから供給される電力によってモータを駆動させることで走行するように構成されている。このような車両の走行制御として、特許文献1には、バッテリの入出力許容電力に基づいて、バッテリからモータに電力を供給するまでの電力損失を変化させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、モータに供給される電力(以下、供給電力とする)は、トルクに変換される前に一部(以下、損失電力とする)が損失する。このため、例えば、車両の発進時のようにバッテリに充電されている電力のみでモータがトルクを出力することになる場合、供給電力と損失電力との差も小さくなる。このときに、損失電力が変動すると、トルクに変換可能な電力も変動する場合がある。この結果、出力されるトルクの大きさも変動し、車両の振動を発生させてしまう虞がある。
【0005】
本開示は上述の課題に鑑みなされたものであり、モータで損失する電力に起因する車両の振動を抑制可能な車両の走行制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の少なくとも一実施形態に係る車両の走行制御システムは、モータと、前記モータを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記モータに供給される供給電力から前記モータの損失電力を差し引いた第1電力が、前記モータに要求されたトルクを出力するための要求電力以下であると、前記供給電力から予め設定された理論損失電力を差し引いた第2電力で駆動するように前記モータを制御する。
【0007】
第1電力が要求電力以下であるときに、モータが第1電力をトルクに変換すると、出力されるトルクの大きさが変動し、車両の振動を発生させてしまう虞がある。これは、第1電力は、供給電力から損失電力を差し引いたものであり、損失電力は変動するためである。上記(1)に記載の構成によれば、制御装置は、第1電力が要求電力以下であると、供給電力から予め設定された理論損失電力を差し引いた第2電力で駆動するようにモータを制御する。このため、変動する虞のある第1電力に代わり、第1電力より変動が抑制される第2電力でモータを駆動させることで、損失電力(モータで損失する電力)に起因する車両の振動を抑制することができる。
【0008】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の構成において、前記理論損失電力は、単位時間当たりの変化量が所定の上限値未満であるように、予め設定されている。
【0009】
上記(2)に記載の構成によれば、理論損失電力を損失電力と比較して変動が小さくなるように設定することができる。よって、第2電力(供給電力から理論損失電力を差し引いた電力)を第1電力(供給電力から損失電力を差し引いた電力)より安定させ、損失電力に起因する車両の振動を抑制することができる。
【0010】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載の構成において、前記上限値は、前記第1電力が前記要求電力以下になったときにおける前記損失電力の単位時間当たりの変化量よりも小さい。
【0011】
第1電力が要求電力以下になったときにおける損失電力の単位時間当たりの変化量は、非常に大きくなっている場合がある。上記(3)に記載の構成によれば、理論損失電力の単位時間当たりの変化量の上限値は、第1電力が要求電力以下になったときにおける損失電力の単位時間当たりの変化量よりも小さい。このため、理論損失電力を損失電力と比較して変動が小さくなるように設定することができる。よって、第2電力を第1電力より安定させ、損失電力に起因する車両の振動を抑制することができる。
【0012】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)から(3)の何れか1つに記載の構成において、前記理論損失電力は、単位時間当たりの変化量が一定であるように、予め設定されている。
【0013】
上記(4)に記載の構成によれば、第2電力でモータを駆動させることで出力されるモータのトルクの大きさの変化を滑らかにし、車両の振動の発生を抑制することができる。
【0014】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)から(4)の何れか1つに記載の構成において、前記理論損失電力は、前記第1電力が前記要求電力以下になってから前記損失電力が前記理論損失電力と一致するまで、時間の経過とともに単調増加するように、予め設定されている。
【0015】
損失電力と理論損失電力との間に差がある間において、第1電力でモータを駆動させると、損失電力の変動によって車両の振動が発生する虞がある。上記(5)に記載の構成によれば、損失電力が理論損失電力と一致するまで、第2電力でモータを駆動させるので、損失電力と理論損失電力との間に差がある間における車両の振動の発生を抑制することができる。
【0016】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)から(5)の何れか1つに記載の構成において、前記制御装置は、前記損失電力が前記理論損失電力と一致すると、前記第1電力で駆動するように前記モータを制御する。
【0017】
損失電力が理論損失電力と一致した後の損失電力の変動は、損失電力が理論損失電力と一致する前の損失電力の変動と比較して小さい。このため、損失電力が理論損失電力と一致してからは、第1電力でモータを駆動しても、損失電力に起因する車両の振動は発生しにくい。このため、上記(6)に記載の構成によれば、損失電力に起因する車両の振動が発生しにくい適切なタイミングで、モータを駆動するための電力を第1電力に切り換えることができる。
【0018】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)から(6)の何れか1つに記載の構成において、電力を発電する発電機をさらに備え、前記制御装置は、前記発電機によって発電された電力が前記供給電力に含まれると、前記第1電力で駆動するように前記モータを制御する。
【0019】
発電機によって発電された電力が供給電力に含まれるようになると、第1電力は要求電力を満たすことができる。このため、第1電力でモータを駆動しても、損失電力に起因した車両の振動が発生しなくなる。このため、上記(7)に記載の構成によれば、損失電力に起因する車両の振動が発生しなくなる適切なタイミングで、モータを駆動するための電力を第1電力に切り換えることができる。
【0020】
(8)幾つか実施形態では、ハイブリッド車両は、上記(7)に記載の車両の走行制御システムと、前記発電機に接続されるエンジンと、前記発電機によって充電されるバッテリと、を備える。
【0021】
上記(8)に記載の構成によれば、駆動源としてモータ及びエンジンを備えるハイブリッド車両に対して走行制御システムを適用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、モータで損失する電力に起因する車両の振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示の一実施形態に係る走行制御システムが適用される車両の構成を示す概略図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る制御装置の概略的な機能ブロック図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る発電電力を示すグラフである。
【
図4】本開示の一実施形態に係る理論損失電力を示すグラフである。
【
図5】本開示の一実施形態に係る出力トルクを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0025】
(走行制御システムの構成)
図1は、本開示の一実施形態に係る走行制御システム1が適用される車両100の構成を示す概略図である。
図1に示す例示的な形態では、車両100は、モータ2及びモータ2を制御する制御装置4を含む走行制御システム1と、バッテリ102と、エンジン104と、発電機106と、補機108と、駆動輪110と、を備える。尚、本開示では、車両100は、モータ2及びエンジン104を駆動源として備えるハイブリッド車両を例にして説明するが、ハイブリッド車両に限定されない。
【0026】
発電機106は、エンジン104と接続されており、エンジン104が駆動することでモータ2を駆動させるための電力を発電する。バッテリ102は、発電機106が発電した電力を充電する。モータ2及び補機108のそれぞれは、バッテリ102に充電された電力が供給されると駆動する。駆動輪110は、モータ2の駆動によって出力されるトルクが伝達されると回転駆動する。車両100は、駆動輪110が回転駆動することで、走行するように構成されている。尚、補機108は、バッテリ102に充電された電力で駆動するのであれば特に限定されないが、例えば、ヒータ、エアコンプレッサ、コンバータなどを含む。また、駆動輪110は、前輪又は後輪の何れか一方を含んでもよいし、前輪及び後輪の両方を含んでもよい(つまり、この場合、車両100は四輪駆動車であってもよい)。また、本開示では、発電機106によって発電された電力は、バッテリ102を介してモータ2に供給されているが、他の実施形態では、バッテリ102を介することなく、モータ2に直接供給されるように構成されてもよい。
【0027】
制御装置4は、モータ2、バッテリ102、発電機106、及び補機108のそれぞれと電気的に接続されており、互いに電気的な情報のやり取りが可能であるように構成されている。このような制御装置4は、電子制御装置などのコンピュータであって、図示しないCPUやGPUといったプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、及びI/Oインターフェイスなどを備える。制御装置4は、メモリにロードされたプログラムの命令に従ってプロセッサが動作(演算等)することで、制御装置4が備える各機能部を実現する。
図2を参照して、制御装置4の各機能部について説明する。
【0028】
図2は、本開示の一実施形態に係る制御装置4の概略的な機能ブロック図である。
図2に示す例示的な形態では、制御装置4は、第1電力算出部6と、第2電力算出部8と、要求電力算出部10と、駆動制御部12と、記憶部14と、発電指示部16と、を含む。
【0029】
第1電力算出部6は、バッテリ102に充電されている電力(以下、充電電力e1とする)、補機108の駆動のために消費される電力(以下、補機消費電力e2とする)、及びモータ2の駆動によって実際に損失される電力(以下、モータ2の損失電力e3とする)を取得する。そして、第1電力算出部6は、充電電力e1から補機消費電力e2及びモータ2の損失電力e3を差し引いて第1電力e5を算出する。つまり、第1電力e5はモータ2に供給された供給電力e4(=充電電力e1-補機消費電力e2)からモータ2の損失電力e3を差し引いた電力であって、モータ2の駆動によって出力されるトルク(以下、出力トルクTr)に変換可能な実電力である。尚、第1電力算出部6は、充電電力e1をバッテリ102から取得してもよいし、例えば、バッテリ102の充電電力e1を監視する装置のように、バッテリ102以外の装置から取得してもよい。同様に、第1電力算出部6は、補機消費電力e2を補機108から取得してもよいし、例えば、補機の動作を監視する装置のように、補機108以外の装置から取得してもよい。
【0030】
第2電力算出部8は、バッテリ102に充電されている充電電力e1、補機108の駆動のために消費された補機消費電力e2、及び記憶部14に記憶されている予め設定された電力(以下、理論損失電力e6とする)を取得する。そして、第2電力算出部8は、充電電力e1から補機消費電力e2及び理論損失電力e6を差し引いて第2電力e7を算出する。つまり、第2電力e7はモータ2に供給された供給電力e4(=充電電力e1-補機消費電力e2)から理論損失電力e6を差し引いた理論上の電力である。尚、理論損失電力e6の説明は後述するが、本開示では、以降において、第2電力e7が第1電力e5より大きい場合を例にして説明している。
【0031】
要求電力算出部10は、例えばアクセルペダルの踏み込み量などに基づいて、運転員からモータ2に要求された要求トルクTqを取得する。そして、要求電力算出部10は、この要求トルクTqを出力するための要求電力e8を算出する。
【0032】
駆動制御部12は、第1電力e5、第2電力e7、及び要求電力e8のそれぞれを取得する。そして、駆動制御部12は、第1電力e5が要求電力e8を超えていると、第1電力e5で駆動するようにモータ2に駆動信号S1を送信する。モータ2は、駆動信号S1を受信すると、第1電力e5で駆動する。この場合、第1電力e5が要求電力e8を超えているので、モータ2は第1電力e5の全部を出力トルクTrに変換するのではなく、第1電力e5の一部(要求電力e8に相当する電力)を出力トルクTrに変換する。
【0033】
他方で、第1電力e5が要求電力e8以下であると、第2電力e7で駆動するようにモータ2に駆動信号S2を送信する。モータ2は駆動信号S2を受信すると、第2電力e7で駆動する。この場合、バッテリ102は、充電電力e1を超える電力を放出する。具体的に説明すると、バッテリ102は、バッテリ102の品質保持のため、充電電力e1とは別の予備電力がバッテリ102内に残り続けるように構成されている。駆動制御部12は、第1電力e5が要求電力e8以下であると、充電電力e1に加え、この予備電力もバッテリ102から放出させる。よって、第2電力e7が第1電力e5より大きくても、モータ2は第2電力e7で駆動することができるようになっている。尚、第2電力e7を変換することで出力される出力トルクTrは、要求トルクTqを満たしていてもよいし、要求トルクTqより小さくてもよい。
【0034】
発電指示部16は、モータ2の損失電力e3を取得して、モータ2を駆動させるための電力を発電するように発電機106に発電信号S3を送信する。発電機106は、発電信号S3を受信すると、エンジン104の駆動によってモータ2を駆動させるための電力を発電する。このように、発電機106が、モータ2の損失電力e3に基づいて電力を発電することで、発電電力の不足を抑制できる。発電機106によって発電された電力(以下、発電電力egとする)は、バッテリ102に充電される。つまり、充電電力e1は、発電電力egを含むようになる。そして、駆動制御部12は、発電電力egがモータ2に供給される供給電力e4に含まれると、モータ2に駆動信号S1を送信して、第1電力e5で駆動するようにモータ2を制御する。
【0035】
次に、
図4を参照して、理論損失電力e6について具体的に説明する。
図3は、本開示の一実施形態に係るモータ2で出力トルクTrに変換される発電電力egを示す図である。
図4は、本開示の一実施形態に係る理論損失電力e6を示す図である。
図5は、本開示の一実施形態に係る出力トルクTrを示す図である。
図3~
図5のそれぞれにおいて、横軸は時間であり、t1は、車両100を発進させるために運転員がアクセルペダルを踏み込んだタイミングである。つまりは、モータ2に要求トルクTqが要求されたタイミングである。t2は、モータ2が発電電力egを出力トルクTrに変換し始めるタイミングである。また、
図4には、モータ2の損失電力e3が一点鎖線で図示されている。また、
図5には、第1電力e5でモータ2を駆動したときの出力トルクTrが一点鎖線で図示されている。また、走行制御システム1の動作の説明のため、t1において、第1電力e5が要求電力e8以下になったものとする。
【0036】
図3に示すように、モータ2は、要求トルクTqが要求されると同時に発電電力egを出力トルクTrに変換し始めるのではなく、要求トルクTqが要求された後に発電電力egを出力トルクTrに変換し始める。t1とt2の間の時間差は、制御装置4の発電指示部16から発電信号S3が送信されてから発電電力egがモータ2に供給されるまでの時間差である。
【0037】
図4に示す例示的な形態では、理論損失電力e6は、t1からt2の間において、単位時間当たりの変化量が一定であるように、予め設定されている。この理論損失電力e6は、t1を始点として、単調増加している。そして、この単調増加は、損失電力e3と理論損失電力e6とが一致するまで継続している。尚、本開示は、理論損失電力e6の単位時間当たりの変化量が一定であることに限定するものではない。例えば、理論損失電力e6の単位時間当たりの増加量が、t1からt2に向かうにつれて徐々に減少していてもよい。
【0038】
また、理論損失電力e6は、単位時間当たりの変化量が所定の上限値未満であるように、予め設定される。この上限値は、t1(第1電力e5が要求電力e8以下になったとき)における損失電力e3の単位時間当たりの変化量よりも小さい。
図4に示す例示的な形態では、上限値は、50kw/s(0.5kw/10ms)であって、理論損失電力e6の単位時間当たりの変化量は、10kw/s(0.1kw/10ms)から40kw/s(0.4kw/10ms)の範囲内で設定されている。
【0039】
(作用・効果)
本開示の一実施形態に係る車両100の走行制御システム1の作用・効果について説明する。本発明者らの知見によると、第1電力e5が要求電力e8以下であるときに、モータ2が第1電力e5をトルクに変換すると、出力トルクTrの大きさも変動し、車両100の振動を発生させてしまう虞があることを見出した。これは、第1電力e5は、供給電力e4からモータ2の損失電力e3を差し引いたものであり、モータ2の損失電力e3は変動するためである(
図4参照)。
【0040】
より具体的に説明すると、例えば、車両100の発進時のように、供給電力e4が車両100の発進前にバッテリ102に充電されている充電電力e1から補機消費電力e2を差し引いた電力であると、モータ2に供給される供給電力e4が小さく、供給電力e4とモータ2の損失電力e3との差が小さい場合が多い。この時に、
図4において一点鎖線で図示されるように、モータ2の損失電力e3が変動すると、供給電力e4からモータ2の損失電力e3を差し引いた第1電力e5が要求電力e8以下になる場合がある。この結果、
図5において一点鎖線で図示されるように、第1電力e5でモータ2を駆動していると、モータ2から出力される出力トルクTrの大きさも変動し、車両100の振動を発生させてしまう虞がある。
【0041】
本実施形態によれば、制御装置4は、第1電力e5が要求電力e8以下であると、供給電力e4から予め設定された理論損失電力e6を差し引いた第2電力e7で駆動するようにモータ2を制御する。理論損失電力e6は、
図4に例示して説明したように、損失電力e3と比較して変動が小さくなるように設定されている。このため、第1電力e5に代わり、第2電力e7でモータ2を駆動させることで、
図5に示すように、安定した出力トルクTrを出力することができる。よって、損失電力e3に起因する車両100の振動を抑制することができる。尚、モータ2の損失電力e3は、特にモータ2の低回転域において大きく変動する。このため、本開示に係る車両100の走行制御システム1は、車両100の発進時における振動を抑制する場合に有利であるが、これに限定するものではない。例えば、制御装置4は、車両100の走行中に、第1電力e5が要求電力e8以下であると、第2電力e7で駆動するようにモータ2を制御してもよい。
【0042】
また、本実施形態によれば、理論損失電力e6は、t1からt2の間において、単位時間当たりの変化量が一定であるように、予め設定されている。このため、
図5に示すように、t1からt2の間において、第1電力e5で出力トルクTrを出力する場合と比較して、出力トルクTrの大きさの変化を滑らかにし、モータ2の損失電力e3に起因する車両100の振動の発生を抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態によれば、理論損失電力e6は、単位時間当たりの変化量が所定の上限値未満であるように、予め設定されている。このため、理論損失電力e6の変化量をモータ2の損失電力e3の変化量と比較して小さくすることができる。よって、第2電力e7を第1電力e5より安定させ、モータ2の損失電力e3に起因する車両100の振動を抑制することができる。
【0044】
図4に示すように、モータ2の損失電力e3の単位時間当たりの変化量は、第1電力e5が要求電力e8以下になったときにおいて、非常に大きくなっている場合がある。本実施形態によれば、理論損失電力e6の単位時間当たりの変化量の上限値は、第1電力e5が要求電力e8以下になったときにおけるモータ2の損失電力e3の単位時間当たりの変化量よりも小さい。このため、理論損失電力e6をモータ2の損失電力e3と比較して変動が小さくなるように設定することができる。よって、第2電力e7を第1電力e5より安定させ、モータ2の損失電力e3に起因する車両100の振動を抑制することができる。
【0045】
発電電力egが供給電力e4に含まれるようになると、第1電力e5は要求電力e8を満たすようになる。このため、第1電力e5でモータ2を駆動しても、モータ2の損失電力e3に起因する車両100の振動が発生しなくなる。本実施形態によれば、モータ2の損失電力e3に起因する車両100の振動が発生しなくなる早いタイミングで、モータ2を駆動するための電力を第1電力e5に切り換えることができる。尚、バッテリ102は、上述した予備電力を速やかに確保することができる。
【0046】
モータ2の損失電力e3と理論損失電力e6との間に差がある間において、第1電力e5でモータ2を駆動させると、モータ2の損失電力e3の変動によって車両100の振動が発生する虞がある。本実施形態によれば、モータ2の損失電力e3が理論損失電力e6と一致するまで、第2電力e7でモータ2を駆動させるので、モータ2の損失電力e3と理論損失電力e6との間に差がある間における車両100の振動の発生を抑制することができる。
【0047】
幾つかの実施形態では、制御装置4の駆動制御部12は、損失電力e3が理論損失電力e6と一致すると、第1電力e5で駆動するようにモータ2を制御する。モータ2の損失電力e3が理論損失電力e6と一致した後のモータ2の損失電力e3の変動は、モータ2の損失電力e3が理論損失電力e6と一致する前のモータ2の損失電力e3の変動と比較して小さい。このため、モータ2の損失電力e3が理論損失電力e6と一致してからは、第1電力e5でモータ2を駆動しても、モータ2の損失電力e3に起因する車両100の振動は発生しにくい。このため、モータ2の損失電力e3に起因する車両100の振動が発生しにくい早いタイミングで、モータ2を駆動するための電力を第1電力e5に切り換えることができる。
【0048】
以上、本開示の車両の走行制御システムについて説明したが、本開示は上記の形態に限定されるものではなく、本開示の目的を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 走行制御システム
2 モータ
4 制御装置
100 車両
102 バッテリ
104 エンジン
106 発電機
Tq 要求トルク
Tr 出力トルク
e1 充電電力
e2 補機消費電力
e3 損失電力
e4 供給電力
e5 第1電力
e6 理論損失電力
e7 第2電力
e8 要求電力
eg 発電電力