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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023591
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】車両用駆動伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 27/115 20060101AFI20220201BHJP
   F16D 28/00 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
F16D27/115
F16D28/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020126632
(22)【出願日】2020-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】波多野 龍
(72)【発明者】
【氏名】谷山 善大
(72)【発明者】
【氏名】大野 晃司
(72)【発明者】
【氏名】田中 翔麻
(57)【要約】
【課題】係合装置を備えた車両用駆動伝達装置のエネルギーロスを抑制すること、並びに車両用駆動伝達装置を小型化する。
【解決手段】第1回転部材10に連結された第1係合部材1と、第2回転部材20又は非回転部材60に連結された第2係合部材2と、第1係合部材1と第2係合部材2とが係合した連結状態と、第1係合部材1と第2係合部材2とが係合しない解放状態とに変化させる部材であって、予め規定された第1方向Lに沿って移動可能に支持部材7に支持された伝動部材3と、支持部材7に支持されて伝動部材3を第1方向Lに駆動する駆動部5とを備え、駆動部5は、第1方向Lに伸縮するように配置された電動アクチュエータを備え、第1係合部材1及び第2係合部材2は油により潤滑され、駆動部5は、支持部材7と伝動部材3とにより囲まれた油密室E内に収容されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の駆動力源と前記車輪とを結ぶ動力伝達経路を介して動力を伝達する車両用駆動伝達装置であって、
前記駆動力源に駆動連結された第1回転部材と、
前記第1回転部材よりも前記車輪の側の出力部材に駆動連結された第2回転部材と、
前記第1回転部材に連結された第1係合部材と、
前記第2回転部材又は非回転部材に連結され、前記第1係合部材と係合可能な第2係合部材と、
前記第1係合部材及び前記第2係合部材に作用して前記第1係合部材と前記第2係合部材とが係合した連結状態と、前記第1係合部材と前記第2係合部材とが係合しない解放状態とに変化させる部材であって、予め規定された第1方向に沿って移動可能に支持部材に支持された伝動部材と、
前記支持部材に支持されて前記伝動部材を前記第1方向に駆動する駆動部と、を備え、
前記駆動部は、前記第1方向に伸縮するように配置された電動アクチュエータを備え、
前記第1係合部材及び前記第2係合部材は、油により潤滑され、前記駆動部は、前記支持部材と前記伝動部材とにより囲まれた油密室内に収容されている、車両用駆動伝達装置。
【請求項2】
前記第1回転部材の回転軸及び前記第2回転部材の回転軸は平行しており、前記第1回転部材の回転軸及び前記第2回転部材の回転軸に沿う方向を軸方向として、
前記駆動部は、複数の電動アクチュエータユニットを備え、
それぞれの前記電動アクチュエータユニットは、円柱状に形成され、
前記支持部材は、それぞれの前記電動アクチュエータユニットが収容される複数の円柱状凹部を備え、
複数の前記円柱状凹部は、隣接する前記円柱状凹部と前記円柱状凹部の径方向又は周方向に連通し、
それぞれの前記電動アクチュエータユニットは、円柱の中心軸が前記軸方向に沿うように配置されている、請求項1に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項3】
前記第2係合部材は、前記第2回転部材に連結され、
前記伝動部材は、
前記第1回転部材又は前記第2回転部材と一体的に回転する回転部と、
前記支持部材に非回転状態で支持されて前記駆動部に連結された駆動連結部と、
前記回転部と前記駆動連結部との間に備えられて前記第1方向への駆動力を伝達する軸受と、を備える、請求項1又は2に記載の車両用駆動伝達装置。
【請求項4】
前記第1回転部材の回転軸及び前記第2回転部材の回転軸は平行しており、前記第1回転部材の回転軸及び前記第2回転部材の回転軸に沿う方向を軸方向とし、前記軸方向に直交する方向を径方向として、
前記支持部材は、前記径方向に延在する支持壁部を備え、
前記駆動部は、第1駆動部と、前記第1駆動部よりも径方向内側又は径方向外側に配置された第2駆動部とを備え、
前記第1駆動部と前記第2駆動部とは、前記支持壁部に対して前記軸方向の一方側に隣接して配置され、且つ、前記径方向視で重複するように配置されている、請求項1から3の何れか一項に記載の車両用駆動伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の駆動力源と、車輪とを結ぶ動力伝達経路を介して動力を伝達する車両用駆動伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平6-339248号公報には、係合装置(クラッチ(C)、ブレーキ(B))を備えた車両用駆動伝達装置が開示されている(以下、背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。このような係合装置は、一般的に油圧制御によって駆動されており、当該公報においても、油圧を制御するバルブボディの配置スペース(39)が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-339248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような油圧式の係合装置では、係合装置を係合状態に維持させる場合に継続的に油圧を発生させておく必要がある。このため、油圧を保持するための保持エネルギーが必要となり、エネルギーロスを生じる。また、油圧を発生させるためのオイルポンプや油圧を制御するバルブボディを必要とするため、車両用駆動伝達装置の規模が大きくなる傾向がある。ここで、油圧制御に代えて電動制御によって係合装置を駆動することが考えられる。但し、電動制御される電動アクチュエータには、係合装置などを潤滑するための油に対する耐性が高くない場合があり、単純に油圧制御から電動制御に制御方式を変更することは容易ではない。
【0005】
上記背景に鑑みて、車両用駆動装置に備えられた係合装置を電動アクチュエータにより適切に駆動可能な技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑みた、車輪の駆動力源と前記車輪とを結ぶ動力伝達経路を介して動力を伝達する車両用駆動伝達装置は、前記駆動力源に駆動連結された第1回転部材と、前記第1回転部材よりも前記車輪の側の出力部材に駆動連結された第2回転部材と、前記第1回転部材に連結された第1係合部材と、前記第2回転部材又は非回転部材に連結され、前記第1係合部材と係合可能な第2係合部材と、前記第1係合部材及び前記第2係合部材に作用して前記第1係合部材と前記第2係合部材とが係合した連結状態と、前記第1係合部材と前記第2係合部材とが係合しない解放状態とに変化させる部材であって、予め規定された第1方向に沿って移動可能に支持部材に支持された伝動部材と、前記支持部材に支持されて前記伝動部材を前記第1方向に駆動する駆動部と、を備え、前記駆動部は、前記第1方向に伸縮するように配置された電動アクチュエータを備え、前記第1係合部材及び前記第2係合部材は、油により潤滑され、前記駆動部は、前記支持部材と前記伝動部材とにより囲まれた油密室内に収容されている。
【0007】
この構成によれば、電動アクチュエータを備えた駆動部によって伝動部材を駆動するので、油圧を必要とすることなく、第1係合部材と第2係合部材との係合状態を連結状態と解放状態とに変化させることができる。電動アクチュエータは、油圧制御のためのバルブボディ等を必要とする油圧制御システムと比べ、駆動回路等を設けるだけで、駆動部を構成することができるため、車両駆動伝達装置を小型化することができる。また、電動アクチュエータには油に対する耐性が低いものもある。しかし、本構成によれば駆動部が油密室に収容されることにより、駆動部が油に弱い電動アクチュエータを備えて構成されていても、駆動部を油から遮断することができる。このように、本構成によれば、車両用駆動装置に備えられた係合装置を電動アクチュエータにより適切に駆動することができる。
【0008】
車両用駆動伝達装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車両用駆動伝達装置の一例を模式的に示す軸方向断面図
図2】車両用駆動伝達装置の一例を模式的に示す軸方向視の平面図
図3】車両用駆動伝達装置の動力伝達経路の一例を模式的に示すスケルトン図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、車両用駆動伝達装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1の軸方向断面図は、車両用駆動伝達装置100の一例を模式的に示しており、図3のスケルトン図は、車両用駆動伝達装置100の動力伝達経路の一例を模式的に示している。車両用駆動伝達装置100は、車輪Wの駆動力源と、駆動力源と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路を介して動力を伝達する。図3に示すように、車両用駆動伝達装置100は、例えば、車両の車輪Wの駆動力源となる回転電機MGと、回転電機MGと車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に設けられて複数の係合装置CL(係合要素)の選択的な係合によって複数の変速段を切り替え可能な自動変速機ATとを備えている。ここでは、自動変速機ATとして、遊星歯車機構PGを備えた2段変速の変速装置を例示している。
【0011】
以下の説明において、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力(トルクと同義)を伝達可能に連結された状態を意味する。この概念には、2つの回転要素が一体回転するように連結された状態や、1つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態が含まれる。このような伝動部材には、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材(軸、歯車機構、ベルト等)が含まれ、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置(摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等)が含まれても良い。また、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータの何れをも含む。
【0012】
駆動力源としての回転電機MGのロータは、自動変速機ATへの変速入力部材INと一体回転するように変速入力部材INに連結されている。自動変速機ATに備えられた遊星歯車機構PGは、リングギヤRGと、サンギヤSGと、リングギヤRG及びサンギヤSGの双方に噛み合う複数のピニオンギヤPを支持するキャリヤCAとを備え、複数の係合装置CLとして、クラッチC及びブレーキBを備えている。変速入力部材INは、リングギヤRGに連結され、自動変速機ATの変速出力部材OUTはキャリヤCAに連結されている。サンギヤSGは、ブレーキBを介して非回転部材であるケース60に選択的に固定されると共に、クラッチCを介してキャリヤCAに選択的に連結される。自動変速機ATの変速出力部材OUTは、車輪Wに駆動力を分配する差動歯車機構DFの差動入力部材DGに駆動連結されている。尚、変速出力部材OUTと差動歯車機構DFとの間にカウンタギヤ機構(不図示)等の他の動力伝達機構が備えられていてもよい。
【0013】
本実施形態において、サンギヤSGは、駆動力源に駆動連結された第1回転部材10に相当し、変速出力部材OUTは、動力伝達経路において第1回転部材10よりも車輪Wの側の出力部材に駆動連結された第2回転部材20に相当する。また、ケース60は、非回転部材に相当する。第1回転部材10の回転軸及び第2回転部材20の回転軸は平行しており、第1回転部材の回転軸及び第2回転部材の回転軸に沿う方向を軸方向Lと称し、軸方向Lに直交する方向を径方向Rと称する。
【0014】
自動変速機ATは、係合装置CLとしてのクラッチCとブレーキBとの何れかを選択的に係合させることで、2段の変速段を形成する。第1速段1stでは、ブレーキBが係合された連結状態、クラッチCが解放された解放状態となる。ブレーキBが係合された連結状態となることにより、サンギヤSGが固定され、変速入力部材INに連結されたリングギヤRGの回転が減速されて、キャリヤCAを介して変速出力部材OUTから出力される。第2速段2ndでは、ブレーキBが解放された解放状態、クラッチCが係合された連結状態となる。クラッチCが係合された連結状態となることにより、サンギヤSGとキャリヤCAとが一体的に回転する状態となり、変速入力部材INに連結されたリングギヤRGの回転が等速のままで変速出力部材OUTから出力される。
【0015】
本実施形態では、係合装置CLは、例えば多板クラッチなどの摩擦係合要素である。クラッチC、ブレーキBは、それぞれ、ピストン(伝動部材3)、複数の摩擦プレートF、複数のセパレータプレートSを有している。具体的には、図1に示すように、ブレーキBは、ブレーキ第1係合部材1Bとしての摩擦プレートFと、ブレーキ第2係合部材2BとしてのセパレータプレートSと、ブレーキ伝動部材3Bとしての伝動部材3とを備えている。また、クラッチCは、クラッチ第1係合部材1CとしてのセパレータプレートSと、クラッチ第2係合部材2Cとしての摩擦プレートFと、クラッチ伝動部材3Cとしての伝動部材3とを備えている。
【0016】
ブレーキ第1係合部材1B及びクラッチ第1係合部材1Cは、第1回転部材10としてのサンギヤSGに連結された第1係合部材1に相当する。また、ブレーキ第2係合部材2Bは、非回転部材としてのケース60に連結され、第1係合部材1としてのブレーキ第1係合部材1Bと係合可能な第2係合部材2に相当する。また、クラッチ第2係合部材2Cは、第2回転部材20としての変速出力部材OUT(出力部材)に連結され、第1係合部材1としてのクラッチ第1係合部材1Cと係合可能な第2係合部材2に相当する。伝動部材3(ブレーキ伝動部材3B及びクラッチ伝動部材3C)は、第1係合部材1及び第2係合部材2に作用して第1係合部材1と第2係合部材2とが係合した連結状態と、第1係合部材1と第2係合部材2とが係合しない解放状態とに変化させる伝動部材に相当する。図1に示すように、伝動部材3は、予め規定された第1方向に沿って移動可能に支持部材7に支持されている。本実施形態では、軸方向Lが第1方向に相当する。詳細は後述するが、支持部材7は、ケース60、及びケース60に固定されたブラケット6を含む。
【0017】
ブレーキ伝動部材3B及びクラッチ伝動部材3Cは、一般的には、油圧サーボを用いた駆動部によって駆動される。しかし、本実施形態では、伝動部材3としてのブレーキ伝動部材3B及びクラッチ伝動部材3Cは、電動アクチュエータを備えた駆動部5によって駆動される。駆動部5は、支持部材7に支持されて伝動部材3を第1方向(ここでは軸方向L)に駆動する。駆動部5は、第1方向に伸縮するように配置された電動アクチュエータを備えて構成されている。
【0018】
駆動部5としての電動アクチュエータが伸張すると、伝動部材としての伝動部材3が軸方向第1側L1に移動する。これによって、第1係合部材1と第2係合部材2とが連結状態となる。駆動部5としての電動アクチュエータが縮退すると、伝動部材としての伝動部材3が軸方向第2側L2に移動する。これによって、第1係合部材1と第2係合部材2とが解放状態となる。尚、電動アクチュエータとして、例えば、ソレノイドやモータを用いることができる。また、通電することによって、一方向に沿って伸縮可能な構造を有するものであれば、これらに限らず駆動部5を構成する電動アクチュエータとして利用することができる。
【0019】
車両用駆動伝達装置100の軸方向視の平面図である図2に示すように、駆動部5は、複数の電動アクチュエータユニット55を備えて構成されている。具体的には、ブレーキ伝動部材3Bを駆動するブレーキ駆動部5B、及び、クラッチ伝動部材3Cを駆動するクラッチ駆動部5Cのそれぞれは、複数の電動アクチュエータユニット55を備えて構成されている。図2に示すように、それぞれの電動アクチュエータユニット55は、円柱状に形成されている。支持部材7としてのブラケット6には、それぞれの電動アクチュエータユニット55が収容される複数の円柱状凹部77が備えられている。それぞれの電動アクチュエータユニット55は、円柱の中心軸が軸方向Lに沿うように配置されている。また、それぞれの円柱状凹部77は、隣接する円柱状凹部77と、円柱状凹部77の径方向又は周方向に連通している。
【0020】
1つの電動アクチュエータユニット55では、第1方向(軸方向L)へ伸縮する際に発生する力が伝動部材3を移動させるのに十分ではない場合がある。駆動部5が、複数の電動アクチュエータユニット55を備えて構成されていることにより、複数の電動アクチュエータユニット55が伸縮する際に生じる力を合算させて伝動部材3を移動させるための力を得ることができる。また、複数の電動アクチュエータユニット55が配置される複数の円柱状凹部77は、径方向又は周方向に連通するように形成されているため、円柱状の電動アクチュエータユニット55を複数個並べて配置する場合、隣り合う円柱状凹部77の間の無駄な隙間を減じることができ、車両用駆動伝達装置100が大型化することを抑制することができる。
【0021】
図1及び図2に示すように、複数の円柱状凹部77が形成されたブラケット6は、締結部材9によってケース60に固定される。円柱状凹部77に電動アクチュエータユニット55を配置した状態でブラケット6をケース60に固定することで、駆動部5の組み付けを簡素化することができる。
【0022】
図1に示すように、本実施形態では、ブレーキBは、クラッチCよりも径方向外側R1に配置されており、ブレーキ伝動部材3Bもクラッチ伝動部材3Cよりも径方向外側R1に配置されている。このため、図1及び図2に示すように、ブレーキ駆動部5Bを構成する電動アクチュエータユニット55も、クラッチ駆動部5Cを構成する電動アクチュエータユニット55よりも径方向外側R1に配置されている。尚、本実施形態では、ブレーキ駆動部5B及びクラッチ駆動部5Cは径方向R視で互いに重複するように配置されている。
【0023】
具体的には、ブレーキ駆動部5B及びクラッチ駆動部5Cは以下のように配置されている。上述したように、第1回転部材10の回転軸及び第2回転部材20の回転軸は平行しており、第1回転部材10の回転軸及び第2回転部材20の回転軸に沿う方向を軸方向Lとし、軸方向Lに直交する方向を径方向Rとする。図1に示すように、支持部材7は、径方向Rに延在する支持壁部63を備える。駆動部5は、第1駆動部としてのブレーキ駆動部5Bと、第1駆動部よりも径方向内側R2に配置された第2駆動部としてのクラッチ駆動部5Cとを備えている。ブレーキ駆動部5Bとクラッチ駆動部5Cとは、支持壁部63に対して軸方向Lの一方側(ここでは軸方向第1側L1)に隣接して配置され、且つ、径方向R視で重複するように配置されている。支持壁部63には、電動アクチュエータユニット55の第1電極5a及び第2電極5bへの配線を通る配線用貫通孔65が形成されている。本実施形態では、配線用貫通孔65は、軸方向Lに沿って形成されている。
【0024】
尚、ここでは、第1駆動部をブレーキ駆動部5Bとし、第2駆動部をクラッチ駆動部5Cとする形態を例示したが、第1駆動部をクラッチ駆動部5Cとし、第2駆動部をブレーキ駆動部5Bとしてもよい。この場合、本実施形態では、第1駆動部よりも径方向外側R1に第2駆動部が配置されることになる。従って、第2駆動部は、支持壁部63に対して第1駆動部と径方向R視で重複するように、第1駆動部と第2駆動部とは、支持壁部63に対して軸方向Lの一方側である軸方向第1側L1に隣接して配置され第1駆動部と共に軸方向Lの一方側に隣接して配置されていれば、第1駆動部よりも径方向内側R2又は径方向外側R1のどちらに配置されていてもよい。
【0025】
このように、第1駆動部と第2駆動部とが、支持壁部63に対して軸方向の一方側に隣接して配置されることで、支持壁部63の側に、それぞれの駆動部5に備えられた電動アクチュエータへの配線を、支持壁部63を介して容易に配置することができる。
【0026】
ところで、図2に示すように、ブレーキ駆動部5Bを構成する電動アクチュエータユニット55は、外周側(クラッチ駆動部5Cよりも径方向外側R1)において、周方向CRに沿って一列に並んで配置されている。クラッチ駆動部5Cを構成する電動アクチュエータユニット55は、内周側(ブレーキ駆動部5Bよりも径方向内側R2)において、周方向CRに沿って同心円状に二列に並んで配置されている。従って、クラッチ駆動部5Cは、相対的に径方向外側R1に配置された電動アクチュエータユニット55を備えたクラッチ第1駆動部51と、相対的に径方向内側R2に配置された電動アクチュエータユニット55を備えたクラッチ第2駆動部52とを備えている。
【0027】
クラッチ駆動部5Cに着目し、クラッチ第1駆動部51を第1駆動部に対応させ、クラッチ第2駆動部52を第2駆動部に対応させた場合も、第1駆動部と第2駆動部とは、図1に示すように、駆動部5は、第1駆動部としてのブレーキ駆動部5Bと、第1駆動部よりも径方向内側R2に配置された第2駆動部としてのクラッチ駆動部5Cとは、支持壁部63に対し軸方向Lの一方側(ここでは軸方向第1側L1)に隣接して配置されている。
【0028】
図1に示すように、駆動部5は、支持部材7と伝動部材3とにより囲まれた油密室E内に収容されている。第1係合部材1及び第2係合部材2を含む自動変速機ATの構成部材は、油によって潤滑されている。一方、電動アクチュエータは、油に対する耐性が低い場合があり、油から遮断されていることが好ましい。このため、ブレーキ駆動部5B及びクラッチ駆動部5Cは、油密室E内に収容されている。
【0029】
駆動部5(ブレーキ駆動部5B及びクラッチ駆動部5C)が油密室Eに収容されることにより、油に弱い電動アクチュエータを備えて構成された駆動部5を油から遮断することができる。
【0030】
クラッチ駆動部5Cを収容する第1油密室E1は、ケース60の径方向内側R2の第1周壁部61と、ケース60の軸方向Lの一方の端部に形成された支持壁部63に固定されたブラケット6の第1フランジ部67と、クラッチ伝動部材3Cとによって形成されている。クラッチ伝動部材3Cは、第1周壁部61及びブラケット6の第1フランジ部67を摺動する。第1周壁部61においてクラッチ伝動部材3Cが摺動する摺動部4、及び、ブラケット6の第1フランジ部67においてクラッチ伝動部材3Cが摺動する摺動部4には、シール部材8が配置されて第1油密室E1が形成されている。
【0031】
上述したように、ケース60及びブラケット6は、支持部材7に相当する。支持部材7は、円筒状に形成された内側筒状部71と内側筒状部71よりも径方向外側R1に内側筒状部71と同軸に配置された外側筒状部72とを備えている。ここで、第1周壁部61は内側筒状部71に相当し、第1フランジ部67は外側筒状部72に相当する。クラッチ伝動部材3Cは、内側筒状部71及び外側筒状部72と同軸に配置され、内側筒状部71及び外側筒状部72のそれぞれに対して上述したように摺動可能に支持されている。内側筒状部71及び外側筒状部72のそれぞれの摺動部4には、シール部材8が配置され、内側筒状部71と外側筒状部72とクラッチ伝動部材3Cとで囲まれる空間(E1)にクラッチ駆動部5Cが収容されている。
【0032】
ブレーキ駆動部5Bを収容する第2油密室E2は、ケース60の径方向外側R1の第2周壁部62と、ケース60の軸方向Lの一方の端部に形成された支持壁部63に固定されたブラケット6の第2フランジ部68と、ブレーキ伝動部材3Bとによって形成されている。ブレーキ伝動部材3Bは、第2周壁部62及びブラケット6の第2フランジ部68を摺動する。第2周壁部62においてブレーキ伝動部材3Bが摺動する摺動部4、及び、ブラケット6の第2フランジ部68においてブレーキ伝動部材3Bが摺動する摺動部4には、シール部材8が配置されて第2油密室E2が形成されている。
【0033】
ブレーキBについても、クラッチCと同様に、内側筒状部71と外側筒状部72とブレーキ伝動部材3Bとによって第2油密室E2を定義することができる。この場合、第2フランジ部68が内側筒状部71に相当し、第2周壁部62が外側筒状部72に相当する。ブレーキ伝動部材3Bは、内側筒状部71及び外側筒状部72と同軸に配置され、内側筒状部71及び外側筒状部72のそれぞれに対して上述したように摺動可能に支持されている。内側筒状部71及び外側筒状部72のそれぞれの摺動部4には、シール部材8が配置され、内側筒状部71と外側筒状部72とブレーキ伝動部材3Bとで囲まれる空間(E2)にブレーキ駆動部5Bが収容されている。
【0034】
このように、クラッチCにおいてもブレーキBにおいても、内側筒状部71と外側筒状部72と伝動部材3とで囲まれる空間に適切に油密室Eが形成される。
【0035】
ところで、ブレーキBにおいては、ブレーキ第1係合部材1Bが第1回転部材10としてのサンギヤSGに連結され、ブレーキ第2係合部材2Bが非回転部材としてのケース60に連結されている。ブレーキ第1係合部材1Bとブレーキ第2係合部材2Bとが解放状態の場合は、ブレーキ伝動部材3Bが作用するセパレータプレートSとしてのブレーキ第2係合部材2Bには、ブレーキ第1係合部材1Bを介して第1回転部材10の動力は伝達されない。また、ブレーキ第1係合部材1Bとブレーキ第2係合部材2Bとが連結状態の場合も、非回転部材としてのケース60に連結されているブレーキ第2係合部材2Bとブレーキ第1係合部材1Bとが連結されるので、第1回転部材10からの動力はブレーキ伝動部材3Bに伝達されない。つまり、ブレーキ伝動部材3Bは回転力が伝達される。
【0036】
一方、クラッチCにおいては、クラッチ第1係合部材1C及びクラッチ第2係合部材2Cが共に回転部材に連結されている。クラッチ第1係合部材1Cとクラッチ第2係合部材2Cとが解放状態の場合は、クラッチ伝動部材3Cと、クラッチ伝動部材3Cが作用するセパレータプレートSとしてのクラッチ第1係合部材1Cとは接触しておらず、第1回転部材10からの動力はブレーキ伝動部材3Bには伝達されない。また、クラッチCが解放状態であるから、当然ながら、第2回転部材20からの動力もクラッチ伝動部材3Cには伝達されない。しかし、クラッチ第1係合部材1Cとクラッチ第2係合部材2Cとが連結状態の場合は、第1回転部材10及び第2回転部材20からの動力がクラッチ伝動部材3Cに伝達される。つまり、クラッチ伝動部材3Cに回転力が伝達される。
【0037】
本実施形態では、駆動部5は電動アクチュエータによって駆動力を発生させる。従って、電動アクチュエータへの電気的な配線が必要である。駆動部5が伝動部材3と共に回転するとこの配線が撚れてしまうため、直流モータにおけるブラシのように回転に対応する機構が必要となり、クラッチCの構造が複雑化する。このため、本実施形態では、クラッチ伝動部材3Cに回転力が伝達されてもクラッチ駆動部5Cに回転力が伝達されないように構成されている。この構造は、第2係合部材2が、第2回転部材20に連結されているクラッチCにのみ備えられている。尚、当然ながら、上述したブラシのように、電気的な配線の側を分離する構造とすることを妨げるものではない。
【0038】
具体的には、図1に示すように、クラッチ伝動部材3Cは、第1回転部材10又は第2回転部材20と一体的に回転する回転部31と、支持部材7に非回転状態で支持されてクラッチ駆動部5Cに連結された駆動連結部32と、回転部31と駆動連結部32との間に備えられて第1方向(ここでは軸方向L)への駆動力を伝達する軸受33とを備える。図1には、軸受33がスラスト軸受である形態を例示しているが、軸受33はボール軸受であってもよい。
【0039】
回転部31と駆動連結部32とを軸受33を介して分離することで、第1回転部材10又は第2回転部材20からの回転力が駆動連結部32に伝搬しないようにすることができる。一方、第1方向(軸方向L)に沿った伝動部材3への駆動力は、駆動連結部32から軸受33を介して回転部31へと伝達され、回転部31から第1係合部材1及び第2係合部材2へと伝達される。従って、駆動部5は、第1回転部材10又は第2回転部材20の回転によって回転することなく、伝動部材3に駆動力を作用させることができる。
【0040】
また、図1に示すように、軸受33は、第1回転部材10の回転軸及び第2回転部材20の回転軸(本実施形態では、同軸配置のため同一の回転軸X)を基準とする径方向Rにおいて、クラッチ第1係合部材1C及びクラッチ第2係合部材2Cよりも径方向内側R2に配置されている。
【0041】
軸受33を径方向内側R2寄りに配置することによって軸受33の周速を抑制することができる。
【0042】
また、図1に示すように、クラッチ駆動部5Cは、クラッチ第1係合部材1C及びクラッチ第2係合部材2Cよりも径方向内側R2に配置されている。
【0043】
軸受33は、クラッチ駆動部5Cに連結される駆動連結部32と回転部31との間に配置される。クラッチ駆動部5Cが径方向内側R2寄りに配置されると、駆動連結部32も径方向内側R2寄りに配置され易くなる。その結果、軸受33も径方向内側R2寄りに配置し易くなる。
【0044】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0045】
(1)上記においては、1つのブレーキB、1つのクラッチCを有する構成、つまり、第1係合部材1と第2係合部材2との対を2つ有する構成の車両用駆動伝達装置100を例示して説明した。しかし、車両用駆動伝達装置100は1つのブレーキBのみ、又は1つのクラッチCのみ、つまり、第1係合部材1と第2係合部材2との対を1つ有して構成されていてもよい。また、車両用駆動伝達装置100は、複数のブレーキB及び複数のクラッチCの少なくとも一方を含み、第1係合部材1と第2係合部材2との対を3つ以上有してもよい。
【0046】
(2)上記においては、油密室Eに駆動部5が収容されている形態を例示した。しかし、駆動部5をコーティングするなどにより、駆動部5が耐油性を有する場合には、駆動部5が油密室Eに収容されなくてもよい。
【0047】
(3)上記においては、円柱状の電動アクチュエータユニット55が、円柱状凹部77に配置される形態を例示した。しかし、例えば電動アクチュエータユニット55が四角柱状に形成される形態を妨げるものではない、当然ながらこの場合には、ブラケット6には、四角柱状凹部が形成されると好適である。
【符号の説明】
【0048】
1:第1係合部材、2:第2係合部材、3:伝動部材、5:駆動部、7:支持部材、10:第1回転部材、20:第2回転部材、31:回転部、32:駆動連結部、33:軸受、55:電動アクチュエータユニット、60:ケース(非回転部材)、63:支持壁部、77:円柱状凹部、100:車両用駆動伝達装置、CR:周方向、E:油密室、L:軸方向(第1方向)、MG:回転電機(駆動力源)、OUT:変速出力部材(第2回転部材)、R:径方向、R1:径方向外側、R2:径方向内側、SG:サンギヤ(第1回転部材)、W:車輪、X:回転軸
図1
図2
図3