(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023594
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】超音波ソナー装置
(51)【国際特許分類】
G01S 15/60 20060101AFI20220201BHJP
G01S 7/62 20060101ALI20220201BHJP
G01S 15/96 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
G01S15/60
G01S7/62 B
G01S15/96
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020126637
(22)【出願日】2020-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174757
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】樋口 和樹
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA02
5J083AB01
5J083AB20
5J083AC30
5J083AD01
5J083AD12
5J083AD17
5J083AE04
5J083AE10
5J083AF16
5J083BD08
5J083BD11
5J083DA01
5J083EA10
5J083EA12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】所定範囲にわたり水中の探知を行うソナー機能と所定深度での潮流の速度を計測する潮流計機能とを短時間で実現できる超音波ソナー装置を提供すること。
【解決手段】回転制御された超音波ビームの方位角が、潮流計機能において使用する超音波ビームの送信方向の方位角(ここで「所定方位角」という)であるかをモータ制御71にて判断する。そして、超音波ビームの方位角が所定方位角以外であると判断される場合には、選択フラグに「ソナー」を設定し、ソナー処理72を実行する。一方、超音波ビームの方位角が所定方位角であると判断される場合には、選択フラグに「潮流」を設定し、潮流計測処理73を実行する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に搭載され、ビーム状に送信される超音波の方位角を回転させながら、所定範囲にわたり水中の探知を行う超音波ソナー装置であって、
ビーム状の超音波を水中に送信し、その反射波を受信可能な振動子と、
その振動子より第1送信条件にて超音波を送信し、その送信された超音波の反射波を前記振動子が受信して生じる受信信号に基づいて、前記水中の探知結果を示した探知画像を形成する第1処理手段と、
前記振動子より第2送信条件にて超音波を送信し、その送信された超音波の反射波を前記振動子が受信して生じる受信信号に基づいて、所定深度における潮流の速度を算出して出力する第2処理手段と、
前記振動子から送信される超音波の方位角を変化させる変化手段と、
その変化手段を駆動して、前記超音波の方位角を回転制御する回転制御手段と、
その回転制御手段により回転制御された前記超音波の方位角が所定方位角であるかを判断する方位角判断手段と、
その方位角判断手段により前記超音波の方位角が前記所定方位角以外であると判断される場合には前記第1処理手段を実行し、前記方位角判断手段により前記超音波の方位角が前記所定方位角であると判断される場合には前記第2処理手段を実行するように、処理を切換制御する処理切替手段と、を備えることを特徴とする超音波ソナー装置。
【請求項2】
前記処理切替手段により前記第2処理手段に切り替えて処理が実行される場合に、その第2処理手段の実行が行われる前に所定時間ウエイト処理を実行するウエイト処理実行手段を備えることを特徴とする請求項1記載の超音波ソナー装置。
【請求項3】
前記第1処理手段において超音波を送信する場合の前記超音波の俯角を設定する俯角設定手段を備え、
前記第2処理手段は、前記超音波の俯角を前記俯角設定手段により設定された俯角とすることを特徴とする請求項1又は2記載の超音波ソナー装置。
【請求項4】
前記第2処理手段は、算出した前記潮流の速度の向きと大きさを前記探知画像に対して模式的に表した潮流画像を形成し、
前記超音波ソナー装置は、
前記探知画像に対して前記潮流画像をオーバーレイ表示するように画像合成を行う画像合成手段を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の超音波ソナー装置。
【請求項5】
前記第2処理手段は、所定深度として複数の深度における潮流の速度を算出することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の超音波ソナー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に搭載され、ビーム状に送信される超音波の方位角を回転させながら、所定範囲にわたり水中の探知を行う超音波ソナー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波の送受信によって水中の魚群などの探知対象物を探知する装置として超音波ソナー装置が知られている(例えば、特許文献1)。超音波ソナー装置は、船舶の船底などに配置される振動子から細いビーム状の超音波を送信(照射)し、そのビーム状の超音波の反射波を振動子が受信するように構成されている。
【0003】
そして、超音波ソナー装置は、超音波を送受信する振動子の俯角および方位角を自由に変更できる機構を有している。超音波ソナー装置は、例えば、振動子の俯角を設定した状態で、その振動子の方位角を変化させることで、自船を中心として所定角度毎に振動子を回転させながら超音波の送受信を順次行い、結果として予め設定された所定範囲にわたって水中を探知するソナー機能を実現する。このソナー機能では、このようにして行われる水中の探知結果を探知画像として順次表示装置に表示する。
【0004】
即ち、超音波ソナー装置は、常に船舶の真下に向けて超音波を送信しその反射波を受信して探知画像を表示する一般的な魚群探知機とは異なるシステムであり、超音波の送信方向を能動的に変化させ、所定範囲にわたる探知画像を表示するものである。
【0005】
一方で、この超音波ソナー装置に設けられた振動子と同一の機構を利用して、水中に対して複数の方向に超音波を送信し、水中の散乱物等から反射された反射波のドップラシフト量に基づいて、所定の深度における潮流の速度を計測する潮流計が知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4781240号公報
【特許文献2】特許第3881209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この潮流計と超音波ソナー装置とは、上述した通り同一の振動子の機構を利用しているため、発明者は、超音波ソナー装置に設けられた1つの振動子の機構を利用して、超音波ソナー装置におけるソナー機能を実現しながら、潮流の速度を計測する潮流計機能を同時に実現する構想に至った。
【0008】
しかしながら、従来は、超音波ソナー装置のソナー機能として振動子を所定範囲に亘って回転させながら超音波を送受信した後に、潮流計機能として振動子を複数方向に順次移動させて超音波を送受信するといったように、ソナー機能と潮流計機能とを完全に別のタイミングで処理していた。このため、例えば、ソナー機能の処理に2秒、潮流計機能の処理に2秒かかるような場合、合計で4秒の処理時間を要することになり、両方の機能を実現するまでに長い時間を要するという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、所定範囲にわたり水中の探知を行うソナー機能と所定深度での潮流の速度を計測する潮流計機能とを短時間で実現できる超音波ソナー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために請求項1記載の超音波ソナー装置は、船舶に搭載され、ビーム状に送信される超音波の方位角を回転させながら、所定範囲にわたり水中の探知を行うものであって、ビーム状の超音波を水中に送信し、その反射波を受信可能な振動子と、その振動子より第1送信条件にて超音波を送信し、その送信された超音波の反射波を前記振動子が受信して生じる受信信号に基づいて、前記水中の探知結果を示した探知画像を形成する第1処理手段と、前記振動子より第2送信条件にて超音波を送信し、その送信された超音波の反射波を前記振動子が受信して生じる受信信号に基づいて、所定深度における潮流の速度を算出して出力する第2処理手段と、前記振動子から送信される超音波の方位角を変化させる変化手段と、その変化手段を駆動して、前記超音波の方位角を回転制御する回転制御手段と、その回転制御手段により回転制御された前記超音波の方位角が所定方位角であるかを判断する方位角判断手段と、その方位角判断手段により前記超音波の方位角が前記所定方位角以外であると判断される場合には前記第1処理手段を実行し、前記方位角判断手段により前記超音波の方位角が前記所定方位角であると判断される場合には前記第2処理手段を実行するように、処理を切換制御する処理切替手段と、を備える。
【0011】
請求項2記載の超音波ソナー装置は、請求項1記載の超音波ソナー装置において、前記処理切替手段により前記第2処理手段に切り替えて処理が実行される場合に、その第2処理手段の実行が行われる前に所定時間ウエイト処理を実行するウエイト処理実行手段を備える。
【0012】
請求項3記載の超音波ソナー装置は、請求項1又は2記載の超音波ソナー装置において、前記第1処理手段において超音波を送信する場合の前記超音波の俯角を設定する俯角設定手段を備え、前記第2処理手段は、前記超音波の俯角を前記俯角設定手段により設定された俯角とする。
【0013】
請求項4記載の超音波ソナー装置は、請求項1から3のいずれかに記載の超音波ソナー装置において、前記第2処理手段は、算出した前記潮流の速度の向きと大きさを前記探知画像に対して模式的に表した潮流画像を形成し、前記超音波ソナー装置は、前記探知画像に対して前記潮流画像をオーバーレイ表示するように画像合成を行う画像合成手段を備える。
【0014】
請求項5記載の超音波ソナー装置は、請求項1から4のいずれかに記載の超音波ソナー装置において、前記第2処理手段は、所定深度として複数の深度における潮流の速度を算出する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の超音波ソナー装置によれば、船舶に搭載されて、以下の効果を奏する。即ち、第1処理手段によって、第1送信条件にてビーム状の超音波が水中に送信され、その反射波が振動子により受信されて生じる受信信号に基づいて、水中の探知結果を示した探知画像が形成されて、ソナー機能が実現される。また、第2処理手段によって、第2送信条件にてビーム状の超音波が水中に送信され、その反射波が振動子により受信されて生じる受信信号に基づいて、所定深度における潮流の速度が算出され出力されて、潮流計機能が実現される。振動子から送信される超音波の方位角は変化手段により変化され、回転駆動手段によって変化手段が駆動されることにより、超音波の方位角が回転制御される。ここで、その回転制御手段により回転制御された超音波の方位角が所定方位角であるかが、方位角判断手段により判断される。そして、その方位角判断手段により超音波の方位角が所定方位角以外であると判断される場合には、処理切替手段の切替制御によって第1処理手段が実行される。一方、方位角判断手段により超音波の方位角が所定方位角であると判断される場合には、処理切替手段の切替制御によって第2処理手段が実行される。これにより、振動子の方位角が回転制御手段により1方向に回転する中で、第1処理手段と第2処理手段とが切り替えられながら実行されるので、ソナー機能と潮流計機能とを短時間で実現できるという効果がある。
【0016】
請求項2記載の超音波ソナー装置によれば、請求項1記載の超音波ソナー装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、処理切替手段により第2処理手段に切り替えて処理が実行される場合に、その第2処理手段の実行が行われる前に所定時間ウエイト処理がウエイト処理実行手段によって実行される。一般的に、潮流計機能において、潮流の速度を精度よく算出するために高い周波数分解能を必要とするため、超音波として長時間のバースト波を振動子より出力するので、大きな送信電力が必要となる。ウエイト処理実行手段により所定時間のウエイト処理が実行されることによって、第2処理手段により第2送信条件にて振動子から超音波が送信される前に、振動子に電力を供給する送信コンデンサのチャージ時間を、十分に確保できるという効果がある。
【0017】
請求項3記載の超音波ソナー装置によれば、請求項1又は2記載の超音波ソナー装置に奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、第1処理手段において超音波を送信する場合の超音波の俯角が俯角設定手段により設定される。そして、第2処理手段が実行される場合においても、超音波の俯角は俯角設定手段により設定された俯角とされる。つまり、処理切替手段により、第1処理手段から第2処理手段へ、又は、第2処理手段から第1処理手段へ処理が切り替えられる場合であっても、俯角は固定されるので、切り替え時に俯角を変更する必要がない。よって、振動子を動かして俯角を変更する時間を不要とするので、ソナー機能と潮流計機能とをより短時間で実現できるという効果がある。
【0018】
請求項4記載の超音波ソナー装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の超音波ソナー装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、第2処理手段によって、算出された潮流の速度の向きと大きさを探知画像に対して模式的に表した潮流画像が形成される。そして、探知画像に対して潮流画像をオーバーレイ表示するように、画像構成手段によって画像合成される。これにより、探知画像に対して模式的に潮流の速度が表示されるので、探知画像に表示された探知物と、潮流の速度との関係を、使用者が視覚的に把握し易くできるという効果がある。
【0019】
請求項5記載の超音波ソナー装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の超音波ソナー装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、第2処理手段によって、所定深度として複数の深度における潮流の速度が算出されるので、探知画像に表示された探知物と、複数の深度における潮流の速度との関係を使用者が把握できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態である超音波ソナー装置の構成を概略的に示す概略図である。
【
図2】同超音波ソナー装置が搭載された船舶によって水中の探知及び潮流の速度の計測を行う場合の状態を側面より示す模式図である。
【
図3】(a)は、同探知及び同計測を行う場合の状態を斜視した模式図であり、(b)は、同探知を行うための超音波ビームの送信方向と、同計測を行うための超音波ビームの送信方向と、同探知及び同計測を同時に行う超音波ソナー装置における超音波ビームの送信方向とを模式的に示した模式図である。
【
図4】同超音波ソナー装置の送受波ユニットの断面を模式的に示した断面図である。
【
図5】同超音波ソナー装置の電気的構成を示したブロック図である。
【
図6】同超音波ソナー装置の構成を機能的に示した機能的ブロック図である。
【
図7】同超音波ソナー装置の制御装置のCPUが実行するメイン処理を示すフローチャートである。
【
図8】同CPUが実行するモータ制御処理を示すフローチャートである。
【
図9】同CPUが実行する潮流計測処理を示すフローチャートである。
【
図10】同CPUが実行するソナー処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。まず、
図1~
図3を参照して、本発明の一実施形態である超音波ソナー装置12の概略について説明する。
図1は、その超音波ソナー装置12の構成を概略的に示す概略図であり、
図2は、超音波ソナー装置12が搭載された船舶11によって水中の探知及び潮流の速度の計測を行う場合の状態を側面より示す模式図であり、
図3(a)は、同探知及び同計測を行う場合の状態を斜視した模式図であり、
図3(b)は、同探知を行うための超音波ビームTB1の送信方向と、同計測を行うための超音波ビームTB2の送信方向と、同探知及び同計測を同時に行う超音波ソナー装置12における超音波ビームTB1,TB2の送信方向とを模式的に示した模式図である。
【0022】
図1~
図3に示す通り、超音波ソナー装置12は、船舶11に搭載され、該船舶11の周囲の所定範囲にわたり、水中の魚群などの探知対象物GFの探知を行うソナー機能を有するものである。また、超音波ソナー装置12は、ソナー機能を実現するために設けられた後述する1つの送受波ユニット16(より具体的には、
図4に示す振動子31)を使用して、所定深度での潮流の速度を計測する潮流計機能も併せて有している。
【0023】
超音波ソナー装置12は、本体13と、本体13に設けられた操作ボタン14と、本体13に一体形成された表示装置15と、超音波ビームTBを送受信する送受波ユニット16と、送受波ユニット16を昇降させる昇降装置17とを備えている。
【0024】
本体13と、操作ボタン14と、表示装置15とは、船舶11の操舵室内に配置されるとともに、送受波ユニット16と昇降装置17とは、船舶11の船底内に配置されている。そして、送受波ユニット16は、昇降装置17によって昇降されることで、船舶11の船底から水中に対して出没自在となっている。
【0025】
操作ボタン14は、使用者によって操作可能なボタンであり、使用者が超音波ソナー装置12に対し各種設定を行う場合に操作されるものである。例えば、ソナー機能により水中を探知する範囲(以下「所定範囲」という)や、超音波ビームTBを回転させながら送信するときの送り角度、超音波ビームTBを送信する俯角、潮流計機能のオン/オフや、潮流の速度を計測するする深度(水深)(以下、「所定深度」とも言う)等が、操作ボタン14によって使用者により設定される。
【0026】
超音波ソナー装置12は、
図2に示すように、送受波ユニット16を船舶11の船底から突出させた状態で、送受波ユニット16から細いビーム状の超音波ビームTBを1つの方向に送信(照射)し、探知対象物GFや、プランクトン等の散乱体GO、海底又は湖底などから反射された超音波ビームTBの反射波を送受波ユニット16にて受信する。
【0027】
送受波ユニット16は、全周型ソナーによって構成されており、送受波ユニット16により送受信される超音波ビームTBの方位角δ(スキャン角、
図3参照)と俯角θ(チルト角、
図2参照)とを変更できる。
【0028】
ここで、方位角δ(スキャン角)とは、船舶11が浮かぶ水面を上面視した場合の超音波ビームTBの送受信方向を表す角度である。本実施形態では、上記水面を上面視した場合に、船舶11の前方方向(船舶11が前進する方向、船首方向)に超音波ビームTBを送受信するときを0度とし、超音波ビームTBの送受信方向が船舶11の時計回りに変化するにつれて方位角δが増加するように、方位角δの大きさを定義する。
【0029】
また、俯角θ(チルト角)とは、超音波ビームTBの送受信方向と船舶11が浮かぶ水面(水平面)とがなす角度であり、超音波ビームTBを水面(水平面)と平行に送受信する場合を0度とし、超音波ビームTBの送受信方向が水面(水平面)から離れて水面と垂直な方向に向くにつれて俯角θが増加するように、俯角θの大きさを定義する。
【0030】
図3(b)に示す通り、超音波ソナー装置12は、操作ボタン14によって使用者により設定された所定範囲にわたり(
図3(b)では所定範囲を全周として示す)、超音波ビームTB1を100μ秒~200μ秒と短いバースト波となる第1送信条件で、送信方向の俯角θを設定値に固定したまま、方位角δを例えば時計回り(右回り)に設定された送り角δ1で送って順次回転させながら、送信する。
【0031】
そして、超音波ソナー装置12は、各々の送信方向に対して送信した超音波ビームTB1の反射波を受信することで、所定範囲にわたり水中の探知を行う。この水中の探知結果は、反射波の受信により生じる受信信号に基づいて形成される探知画像81を表示装置15に表示することで、使用者に示さる。これにより、超音波ソナー装置12は、ソナー機能を実現する。
【0032】
また、超音波ソナー装置12は、超音波ビームTB1の送信方向を時計回りで回転させる中で、その送信方向の方位角δが所定の4方向の方位角(例えば、0度、90度、180度及び270度)のいずれかと一致した場合、超音波ビームTB2を、第1送信条件ではなく、10m秒~30m秒と長いバースト波となる第2送信条件に切り替えて、その送信方向に送信する。このとき、送信方向の俯角θは、ソナー機能に対して使用者により設定された俯角と同一とする。
【0033】
そして、超音波ソナー装置12は、上述の4方向毎に、その方向に送信された超音波ビームTB2において、水塊中の散乱体GO等から反射された超音波ビームTB2の反射波を送受波ユニット16にて受信する。超音波ソナー装置12は、受信した各反射波において、所定深度から反射された反射波のドップラシフト周波数を導出し、その導出したドップラシフト周波数に基づいて、その所定深度における潮流の速度を算出することで、潮流計機能を実現する。
【0034】
超音波ソナー装置12は、複数方向(本実施形態では4方向)に送受信された超音波ビームTB2のドップラシフト周波数に基づいて潮流の速度を算出することにより、潮流の速度の速さと方向(ベクトル)が把握できる。なお、本実施形態では4方向に超音波ビームTB2を送受信して潮流の速度を算出するが、潮流の速度を算出するために送受信する超音波ビームTB2の送受信方向は、2以上の方向であればよい。また、超音波ビームTBの送受信方向の方位角δは、必ずしも、0度、90度、180度及び270度に固定されるものではない。
【0035】
このようにして、所定深度における潮流の速度が算出されると、その算出された潮流の速度が、ソナー機能で形成された探知画像81に対して視覚的に分かるように、その潮流の速度の向きと大きさとを探知画像81に対して模式的に表した潮流画像82a~82cが形成される。そして、この潮流画像82a~82cが探知画像81に対してオーバーレイ表示されるように、画像合成が行われる。潮流画像82a~82cについては、
図1を参照して後述する。
【0036】
次いで、
図4を参照して、送受波ユニット16の詳細構成について説明する。
図4は、送受波ユニット16の断面を模式的に示した断面図である。送受波ユニット16は、上端が開口され下端部が半球状をなす有底円筒状の下ケース21と、下端が開口され上端部が円板上をなす有蓋円筒状の上ケース22と、上ケース22の下端開口及び下ケース21の上端開口を閉塞する円板状の蓋体23とにより構成される。蓋体23の上面と上ケース22とで上側収納空間24が形成され、蓋体23の下面と下ケース21とで下側収納空間25が形成されている。
【0037】
蓋体23の中央部には、貫通孔26が形成されている。蓋体23上の中央部にはステッピングモータによって構成されたスキャンモータ27が固着され、スキャンモータ27の下面からはスキャンモータ27の出力軸27aが、貫通孔26に回転可能に挿通された状態で真下に向かって延びている。出力軸27aの先端(下端)は、下側収納空間25の上部まで達している。
【0038】
出力軸27aの先端には、円板上の支持板28が設けられており、支持板28の上面の中心部が出力軸27aの先端に接続されている。支持板28の下面には、略逆U字状をなす支持フレーム29が設けられており、支持フレーム29の下端部間には、水平に延びる回転軸30が回転可能に架設されている。
【0039】
回転軸30の中央部には、細いビーム状の超音波ビームTB(
図2参照)を1つの方向に送信し、その送信した超音波ビームTBの反射波を受信可能な振動子31が固着されている。回転軸30における振動子31と隣り合う位置には、略半円状のチルト歯車32が固着されており、回転軸30、振動子31及びチルト歯車32は、互いに一体して回転するように構成されている。
【0040】
支持フレーム29の上端部には、ステッピングモータによって構成されたチルトモータ33が固着されている。チルトモータ33は、チルト歯車32側に向かって延びる出力軸33aを備えている。出力軸33aの先端には、小歯車33bが設けられ、小歯車33bは、チルト歯車32と噛合している。
【0041】
スキャンモータ27が駆動されると、出力軸27aが回転し、それに伴って支持板28、支持フレーム29、及び、回転軸30が出力軸27aを軸として一体して回転することで、回転軸30に固着された振動子31が、やはり出力軸27aを軸として回転する。
【0042】
これにより、振動子31による超音波ビームTBの送信方向は、船舶11が浮かぶ水面を上面視した場合に時計回り又は反時計回りに変化させることができる。即ち、スキャンモータ27を駆動することにより、振動子31によって送信される超音波ビームTBの方位角(スキャン角)δが変更される。
【0043】
一方、チルトモータ33が駆動されると、出力軸33aが回転し、それに伴って小歯車33bが回転して、その小歯車33bと噛合するチルト歯車32が回転することで、チルト歯車32が固着された回転軸30がチルト歯車32の回転に合わせて回転し、その回転軸30に固着された振動子31が回転軸30を軸として回転する。
【0044】
これにより、振動子31の向く方向(振動子31から送信される超音波ビームTBの送信方向)と船舶11が浮かぶ水面とのなす角度である俯角(チルト角)θが、チルトモータ33を駆動することによって、変更される。
【0045】
次いで、
図5,
図6を参照して、超音波ソナー装置12の電気的構成及び機能的構成について説明する。まず、
図5は、超音波ソナー装置12の電気的構成を示したブロック図である。
【0046】
超音波ソナー装置12の本体13(
図1参照)は、制御装置50を有している。制御装置50は、超音波ソナー装置12の動作を制御するものである。制御装置50は、
図5に示す通り、CPU(Central Proccesing Unit)51と、フラッシュメモリ52と、RAM(Random Access Memory)53とを有しており、それらがバスライン55を介して入出力ポート54に接続されている。
【0047】
入出力ポート54には、上述した操作ボタン14、表示装置15、及び、昇降装置17(
図1参照)が接続されている。また、上述のスキャンモータ27及びチルトモータ33(
図4参照)は、モータドライバ61を介して入出力ポート54と接続され、振動子31(
図4参照)は、送受信回路62を介して入出力ポート54と接続される。
【0048】
CPU51は、フラッシュメモリ52に記憶されたプログラムデータ52aに従って、超音波ソナー装置12の動作を制御するための各種演算を実行する演算装置であり、例えば、
図7~
図10に示す各種処理を実行する。これらの処理については、
図7~
図10を参照しながら後述する。また、CPU51は、これらの各種処理以外にも、超音波ソナー装置12の各種機能を実現するための種々の制御を実行する。
【0049】
例えば、CPU51は、使用者による操作ボタン14の操作があったことを、操作ボタン14から入力される信号によって判断すると、その操作ボタン14の操作に応じた制御を実行する。例えば、操作ボタン14の操作によって各種設定値の変更があった場合、その設定変更に係る画面の表示や、変更後の設定値の入力受付、変更後の設定値のフラッシュメモリ52への記憶等の処理を実行する。
【0050】
フラッシュメモリ52は、CPU51によって実行されるプログラムデータ52aを記憶するほか、各種設定値など固定値データ等を記憶するための書き換え可能な不揮発性のメモリである。なお、プログラムデータ52aは、フラッシュメモリ52ではなく、別途書き換え不能なROMを用意してそちらに記憶させてもよい。
【0051】
フラッシュメモリ52は、各種設定値として、例えば、ソナー俯角データ52b、ソナー送り角データ52c、潮流計測深度データ52dを記憶する。なお、これらを含む各種設定値は、上述した通り、操作ボタン14の操作によって使用者により変更可能に構成されている。
【0052】
ソナー俯角データ52bは、ソナー機能において送信する超音波ビームTB1の送信方向の俯角θを設定するための設定値である。ソナー俯角データ52bにおいて、俯角θの値を0度に近い値に設定するほど、広範囲にわたって水中の探知が可能となり、俯角θの値を90度に近い値に設定するほど、船舶11直下の狭い範囲で水中の探知が可能となる。本実施形態に係る超音波ソナー装置12では、潮流計機能において送信する超音波ビームTB2においても、ソナー俯角データ52bにより設定された俯角θで送信するように構成されている。
【0053】
ソナー送り角データ52cは、超音波ビームTBの送信方向の方位角δを時計回り(右回り)に回転させるときの送り角δ1を設定するための設定値である。CPU51は、超音波ビームTBの送信およびその反射波の受信を行うと、スキャンモータ27を駆動し、振動子31の方位角δを時計回りに送り角δ1だけ回転させることで、超音波ビームTBの送信方向の方位角δも時計回りに送り角δ1だけ回転させる。送り角δ1を小さく設定すれば、より詳細に水中の探知が可能となる一方、所定範囲にわたる水中の探知に時間がかかる。一方、送り角δ1を大きく設定すれば、水中の探知が荒くなる一方で、所定範囲にわたる水中の探知が短時間で可能となる。
【0054】
潮流計測深度データ52dは、潮流の速度を計測する所定深度を設定する設定値である。潮流計機能では、潮流計測深度データ52dにより設定された所定深度における潮流の速度を計測する。潮流計測深度データ52dは、複数の所定深度(例えば、最大で3つの所定深度)を設定可能としており、複数の所定深度が設定された場合は、各々の所定深度での潮流の速度が計測されるように、超音波ソナー装置12は構成されている。
【0055】
なお、フラッシュメモリ52に記憶される各種設定値としては、これらの他、ソナー機能において水中の探知を行う所定範囲を設定するための設定値や、潮流計機能のオン・オフを設定するための設定値が設けられている。
【0056】
ソナー機能において水中の探知を行う所定範囲を設定するための設定値では、同所定範囲を超音波ビームTB1の方位角δで設定する。たとえば、同所定範囲として45度~135度で設定された場合、超音波ビームTB1の送信方向を方位角45度~135度の範囲で回転させることで、その範囲における水中の探知が行われる。また、同所定範囲として0度~0度で設定された場合は、超音波ビームTBの送信方向を全方位角の範囲で回転させる。つまり、超音波ビームTBは、全周にわたって回転しながら送信される。これにより、船舶11(の送受波ユニット16)を中心とした全周にわたって水中の探知が行われる。
【0057】
そして、ソナー機能に対して設定された同所定範囲に、潮流計機能において使用する超音波ビームTB2の送信方向の少なくとも一部が含まれる場合、その送信方向において、超音波ビームTB1から切り替えて超音波ビームTB2を送受信する。この処理の詳細については、後述する。一方、ソナー機能に対して設定された同所定範囲に、潮流計機能において使用する超音波ビームTB2の送信方向の少なくとも一部が含まれない場合、CPU51は、ソナー機能における超音波ビームTB1の送受信を所定範囲に対して行った後、超音波ビームTB2の送信方向まで振動子31の方位角を変更させたうえで、超音波ビームTB2を送受信する。これにより、ソナー機能に対して設定された同所定範囲に、潮流計機能において使用する超音波ビームTB2の送信方向の少なくとも一部が含まれない場合であっても、確実に潮流計機能を実現できる。
【0058】
RAM53は、書き換え可能な揮発性のメモリであり、CPU51によるプログラムの実行時に各種のデータを一時的に記憶する。RAM53は、例えば、選択フラグ53aを少なくとも記憶する。
【0059】
選択フラグ53aは、超音波ビームTBとして第1送信条件で送信される超音波ビームTB1を水中へ送信し、その反射波を受信して探知画像81を形成するソナー処理を実行するか、超音波ビームTBとして第2送信条件で送信された超音波ビームTB2を水中へ送信し、その反射波を受信して所定深度における潮流の速度を計測する潮流計測処理を実行するかを示すフラグである。選択フラグ53aは、これから送信する超音波ビームTBの方位角δに応じて、つまり、振動子31が向く方位角に応じて、ソナー処理を実行する場合に「ソナー」、潮流計測処理を実行する場合に「潮流」が設定される。
【0060】
次いで、
図6は、超音波ソナー装置12の構成を機能的に示した機能ブロック図である。制御装置50は、CPU51により実行される各種処理によって、主として、モータ制御71、ソナー処理72、潮流計測処理73、画像合成74の各種機能を実現する。
【0061】
モータ制御71は、
図8に示すモータ制御処理をCPU51が実行することによって実現される。モータ制御71の詳細については、
図8を参照しながら後述するが、概略を説明すると、超音波ビームTBの送信方向を制御するために、振動子31を回転動作させるスキャンモータ27及びチルトモータ33を制御するモータ位置信号を、モータドライバ61に対して出力する。
【0062】
なお、モータドライバ61は、制御装置50から出力されたモータ位置信号に基づいて、スキャンモータ27又はチルトモータ33に対してこれらのモータを動かすためのステップ制御信号を送信する。スキャンモータ27及びチルトモータ33は、このステップ制御信号に基づいて駆動され、振動子31を回転動作させる。
【0063】
また、モータ制御71は、超音波ビームTBの送信方向の方位角δに基づいて、超音波ビームTBを第1送信条件で送信される超音波ビームTB1として送受信してソナー機能を動作させるか、第2送信条件で送信される超音波ビームTB2として送受信して潮流計機能を動作させるか、を決定する。モータ制御71は、その決定結果を、選択フラグ53aに「ソナー」又は「潮流」として設定し、設定後の選択フラグ53aをソナー処理72及び潮流計測処理73に送信する。
【0064】
ソナー処理72は、選択フラグ53aが「ソナー」に設定されている場合に動作するものであり、送信制御(ソナー用)72aと受信信号処理(ソナー用)72bとにより少なくとも構成される。送信制御(ソナー用)72aは、第1送信条件で超音波ビームTB1を送信するように送受波ユニット16(厳密には送受信回路62)に超音波電気信号を送信する。受信信号処理(ソナー用)72bは、超音波ビームTB1の反射波を送受波ユニット16によって受信することによって送受信回路62にて生成される受信信号を、超音波電気信号として取得し、探知画像81を形成する。なお、ソナー処理72の詳細は、
図10を参照して後述する。
【0065】
潮流計測処理73は、選択フラグ53aが「潮流」に設定されている場合にソナー処理72から切り替えて動作されるものであり、送信制御(潮流用)73aと受信信号処理(潮流用)73bとにより少なくとも構成される。送信制御(潮流用)73aは、第2送信条件で超音波ビームTB2を送信するように送受波ユニット16(厳密には送受信回路62)に超音波電気信号を送信する。受信信号処理(潮流用)73bは、超音波ビームTB2の反射波を送受波ユニット16によって受信することによって送受信回路62にて生成される受信信号を、超音波電気信号として取得する。
【0066】
また、受信信号処理(潮流用)73bは、4方向において超音波ビームTB2を送受信すると、その4方向の受信信号から、潮流計測深度データ52dにて設定された所定深度における潮流の速度を算出する。さらに、受信信号処理(潮流用)73bは、算出された潮流が、ソナー機能で形成された探知画像81に対して視覚的に分かるように、その潮流の速度の向きと大きさとを探知画像81に対して模式的に表した潮流画像82a~82cを形成する。なお、潮流計測処理73の詳細は、
図9を参照して後述する。
【0067】
画像合成74は、ソナー処理72にて形成された探知画像81に対して、潮流計測処理73にて形成された潮流画像82a~82cをオーバーレイ表示させるように、画像合成を行う。画像合成された画像は、表示装置15の表示領域15a(
図1参照)に表示される。
【0068】
次に、
図7~
図10を参照して、超音波ソナー装置12の機能を実現するためにCPU51にて実行される主要な処理について説明する。なお、ここでは、フラッシュメモリ52において、潮流計機能のオン・オフの設定値がオンに設定され、また、ソナー機能において水中の探知を行う所定範囲の設定値が0度~0度、即ち、全周に設定されている場合を前提として説明する。
【0069】
図7は、CPU51が実行するメイン処理を示すフローチャートである。メイン処理は、電源がオンされた場合、または、使用者による操作ボタン14の操作などによってソナー機能が開始される場合にCPU51によって実行が開始される。このメイン処理は、使用者による操作ボタン14の操作などによってソナー機能を終了するまで、継続して実行され続ける。
【0070】
メイン処理では、まず、昇降装置17を駆動し、送受波ユニット16を降下させる(S11)。これにより、送受波ユニット16が船舶11の船底から水中に突出され、振動子31による超音波ビームTBの送受信が可能となる。
【0071】
次いで、モータ制御処理を実行する(S12)。ここで、
図8を参照して、モータ制御処理(S12)について説明する。
図8は、CPU51が実行するモータ制御処理(S12)を示すフローチャートである。モータ制御処理(S12)は、モータドライバ61に対してモータ位置信号を送信することで、送受波ユニット16に設けられたスキャンモータ27及びチルトモータ33を駆動して、振動子31の向きを制御するものである。
【0072】
モータ制御処理(S12)が開始されると、まず、現在が初期化された段階であるか否かを判断する(S31)。初期化された段階とは、(a)電源が投入された段階、(b)使用者による操作ボタン14の操作などによってソナー機能が開始された段階、又は、(c)使用者による操作ボタン14の操作などによってソナー俯角データ52bが変更された段階、のいずれかのことである。
【0073】
S31の処理の結果、初期化された段階であると判断される場合は(S31:Yes)、振動子31の俯角がソナー俯角データ52bに設定された俯角となるように、モータ位置信号をモータドライバ61に対して出力する(S32)。さらに、振動子31の方位角が初期位置(ここでは、0度)となるように、モータ位置信号をモータドライバ61に対して出力する(S33)。
【0074】
これにより、モータドライバ61が、ステップ制御信号をチルトモータ33とスキャンモータ27とへ出力し、振動子31の俯角がソナー俯角データ52bに設定された俯角とされ、振動子31の方位角が初期位置0度とされる。よって、以後、振動子31から送信される超音波ビームTBは、ソナー俯角データ52bに設定された俯角θで送信される。また、その超音波ビームTBは、方位角δの初期位置として、まず0度の位置から送信される。
【0075】
一方、S31の処理の結果、初期化された段階ではないと判断される場合は(S31:No)、振動子31の方位角を、ソナー送り角データ52cにて示された送り角δ1だけ送るように、モータ位置信号をモータドライバ61に対して出力する(S34)。これにより、モータドライバ61が、ステップ制御信号をスキャンモータ27へ出力し、振動子31の方位角が送り角δ1だけ時計回り(右回り)に回転される。よって、超音波ビームTBの方位角δは、S34の処理が繰り返されることにより、送り角δ1ずつ時計回り(右回り)に回転制御されることとなる。
【0076】
S33の処理、又は、S34の処理が終了すると、次に、S33の処理、又は、S34の処理によって得られた超音波ビームTBの方位角δが、潮流の速度を算出するために送受信する超音波ビームTB2の所定の4つの方位角(0度、90度、180度及び270度)のいずれかとなったか否かを判断する(S35)。
【0077】
なお、超音波ビームTBの送信方向の方位角δは、ソナー送り角データ52cにて示された送り角δ1ずつ送られることとなるため、S33の処理、又は、S34の処理によって得られた超音波ビームTBの方位角δが、0度~δ1度、90度~(90+δ1)度、180度~(180+δ1)度、270度~(270+δ1)度のいずれかの範囲に入った場合に、S35の処理では、潮流の速度を算出するために送受信する超音波ビームTB2の所定の4つの方位角のいずれかとなったと判断する。
【0078】
S35の処理の結果、超音波ビームTBの方位角δが、潮流の速度を算出するために送受信する超音波ビームTB2の所定の4つの方位角のいずれかとなったと判断される場合は(S35:Yes)、選択フラグ53aを「潮流」に設定して(S36)、メイン処理に戻る。一方、S35の処理の結果、超音波ビームTBの方位角δが、潮流の速度を算出するために送受信する超音波ビームTB2の所定の4つの方位角のいずれにもなっていないと判断される場合は(S35:No)、選択フラグ53aを「ソナー」に設定して(S37)、メイン処理に戻る。
【0079】
図7に戻り、メイン処理の説明を続ける。モータ制御処理(S12)を終了すると、次に、モータ制御処理(S12)にて設定された選択フラグ53aを判断する(S13)。S13の処理の結果、選択フラグ53aが「潮流」であると判断される場合に(S13:「潮流」)、まず、50ミリ秒のウエイト処理を実行する(S14)。この処理は、次に実行する潮流計測処理(S15)において、10m秒~30m秒と長いバースト波を超音波ビームTB2として送信することになるので、大きな送信電力が必要となることに備えたものである。即ち、潮流計測処理では、大きな送信電力が必要となる。よって、50ミリ秒のウエイト処理を実行することで、その期間、別途設けられた送信電力を蓄えるための送信コンデンサのチャージ(充電)時間を十分に確保できる。
【0080】
そして、50ミリ秒のウエイト処理(S14)を実行後、潮流計測処理を実行する(S15)。ここで、
図9を参照して、潮流計測処理(S15)について説明する。
図9は、CPU51が実行する潮流計測処理(S15)を示すフローチャートである。潮流計測処理は、潮流計機能を実現するために、第2送信条件にて超音波ビームTB2を送信し、水中の散乱体GOからの超音波ビームTB2の反射波を受信して得られた受信信号から、所定深度での潮流の速度を算出する処理である。
【0081】
この潮流計測処理(S15)が実行されると、まず、潮流計測用の超音波送信条件として、第2送信条件を設定する(S51)。第2送信条件とは、具体的には、10m秒~30m秒と長いバースト波である。次いで、S51の処理にて設定された第2送信条件にて、超音波ビームTB2を送信するように、超音波電気信号を送受信回路62に送信する(S52)。送受信回路62は、この超音波電気信号を受けて送受波ユニット16の振動子31を駆動し、第2送信条件にて超音波ビームTB2を送信する。
【0082】
なお、このときの超音波ビームTB2の送信方向の俯角θは、
図8に示すモータ制御処理(S12)のS32の処理によって、ソナー俯角データ52bからソナー機能のために設定された俯角である。また、このときの超音波ビームTB2の送信方向の方位角δは、同モータ制御処理(S12)のS35の処理によって、潮流の速度を算出するために送受信する超音波ビームTB2の所定の4つの方位角のいずれかとなったと判断された場合の、その方位角である。
【0083】
ここで、S51及びS52の処理が、
図6に示した送信制御(潮流用)73aに該当する。
【0084】
次いで、振動子31が水中の散乱体GOから反射された超音波ビームTB2の反射波を受信することによって、送受信回路62により生成された受信信号(超音波電気信号)を、送受信回路62より受信する(S53)。そして、反射波の受信によって生じる受信信号に基づいて周波数解析を実行し、ドップラシフト量を算出して、潮流計測深度データ52dにより設定された所定深度における潮流の速度vを算出する(S54)。
【0085】
ここで、S54により算出される潮流の速度vは、超音波ビームTB2の送受信によって算出されるものであり、それによって算出される潮流の速度vは、超音波ビームTB2の送信方向(俯角θと方位角δとで示される方向)と同一方向の成分となる。
【0086】
そこで、S54の処理に次ぐS55の処理では、水面(水平面)に対して平行に流れる潮流の速度を求めるために、S54の処理で算出した潮流の速度vに対して、以下の式(1)による俯角補正を行い、潮流の速度の俯角0度(水平方向)と方位角δとで示される方向の成分v’を算出する(S55)。S55の処理で算出された潮流の速度の成分v’は、RAM53に一時的に保持される。
【0087】
v’=v/cosθ ・・・(1)
次に、4方向(方位角0度、90度、180度及び270度)の超音波ビームTB2の送受信が完了したか否かを判断し(S56)、完了していなければ(S56:No)、メイン処理に戻る。一方、4方向の超音波ビームTB2の送受信が完了している場合は(S56:Yes)、これら4方向の超音波ビームTB2のそれぞれの反射波のドップラシフト量から、潮流計測深度データ52dにて設定された所定深度における、俯角0度と各方位角δ(0度、90度、180度及び270度)とで示される4つの方向の潮流の速度の成分v’がそれぞれ算出された状態にある。そこで、所定深度毎に、これら4つの方向の潮流の速度の成分v’をベクトル合成することで、各所定深度での潮流の速度(向きと大きさ)をそれぞれ算出する(S57)。
【0088】
そして、S57の処理により算出された各所定深度における潮流の速度を示す潮流画像82a~82cを形成して(S58)、メイン処理に戻る。ここで、潮流画像82a~82cは、S57の処理により算出された潮流の速度が、ソナー機能で形成された探知画像81に対して視覚的に分かるように、その潮流の速度の向きと大きさとを探知画像81に対して模式的に表したものである。
【0089】
ここで
図1を参照して、潮流画像82a~82cの詳細について説明する。なお、ここでは、所定深度として3つの深度における潮流の速度がS57の処理により算出されたものとする。
図1に示す通り、表示装置15の表示領域15aには、ソナー機能により得られた探知画像81が表示されるとともに、所定深度毎に算出された潮流の速度が、それぞれ潮流画像82a~82cとして、探知画像81に対してオーバーレイ表示される。
【0090】
各潮流画像82a~82cは、それぞれ、探知画像81の中心(船舶が表示されている位置)から円周に向けて棒状に延びている。その延びる方向が、その探知画像81に対して潮流が流れる向きを示す。また、また潮流画像82a~82cのそれぞれにおいて、潮流が流れる向きにそって棒状に伸びている長さが、潮流の速度の大きさを相対的に表している。
【0091】
これら潮流画像82a~82cが、探知画像81に対してオーバーレイ表示されることにより、潮流の速度の向きと大きさが、ソナー機能で形成された探知画像81に対して視覚的に分かるように表示されるので、探知画像81に表示された探知物と、潮流の速度との関係を、使用者が視覚的に把握し易くできる。
【0092】
ここで、S53~S58の処理が、
図6に示した受信信号処理(潮流用)73bに該当する。
【0093】
図7に戻り、メイン処理の説明を続ける。S13の処理の結果、選択フラグ53aが「ソナー」であると判断される場合に(S13:「ソナー」)、ソナー処理を実行する(S16)。ここで、
図10を参照して、ソナー処理(S16)について説明する。
図10は、CPU51が実行するソナー処理(S16)を示すフローチャートである。ソナー処理は、ソナー機能を実現するために、第1送信条件にて超音波ビームTB1を送信し、探知対象物GF等からの超音波ビームTB1の反射波を受信して得られた受信信号から、探知結果として探知画像81を生成する処理である。
【0094】
このソナー処理(S16)が実行されると、まず、ソナー用の超音波送信条件として、第1送信条件を設定する(S71)。第1送信条件とは、具体的には、100μ秒~200μ秒と短いバースト波である。次いで、S71の処理にて設定された第1送信条件にて、超音波ビームTB1を送信するように、超音波電気信号を送受信回路62に送信する(S72)。送受信回路62は、この超音波電気信号を受けて送受波ユニット16の振動子31を駆動し、第1送信条件にて超音波ビームTB1を送信する。ここで、S71及びS72の処理が、
図6に示した送信制御(ソナー用)72aに該当する。
【0095】
次いで、振動子31が水中の探知対象物GFや海底又は湖底などから反射された超音波ビームTB1の反射波を受信することによって、送受信回路62により生成された受信信号(超音波電気信号)を、送受信回路62より受信する(S73)。そして、S73の処理により受信した受信信号に基づいて探知画像81(
図1参照)を形成し(S74)、メイン処理へ戻る。ここで、S73及びS74の処理が、
図6に示した受信信号処理(ソナー用)72bに該当する。
【0096】
図1に戻り、メイン処理の説明を続ける。潮流計測処理(S15)又はソナー処理(S16)の後、ソナー処理(S16)にて形成された探知画像81に対し、潮流計測処理(S15)にて形成された潮流画像82a~82cを合成してオーバーレイ表示させた画像を生成する画像合成処理を実行する(S17)。ここで合成された画像は、表示装置15に送られて表示装置15の表示領域15aに表示される。
【0097】
S17の処理の後、S12の処理に戻り、ソナー機能が終了されるまで、S12~S17の処理を繰り返しループする。
【0098】
以上説明したように、本発明の一実施形態である超音波ソナー装置12によれば、ソナー処理72によって、第1送信条件にて超音波ビームTB1が水中に送信され、その反射波が振動子31により受信されて生じる受信信号に基づいて、水中の探知結果を示した探知画像81が形成されて、ソナー機能が実現される。また、潮流計測処理によって、第2送信条件にて超音波ビームTB2が水中に送信され、その反射波が振動子31により受信されて生じる受信信号に基づいて、所定深度における潮流の速度が算出され出力されて、潮流計機能が実現される。振動子31から送信される超音波ビームTBの方位角δはスキャンモータ27によって変化され、モータ制御71によりスキャンモータ27が駆動されることにより、超音波ビームTBの方位角δが回転制御される。
【0099】
ここで、その回転制御された超音波ビームTBの方位角が、潮流計機能において使用する超音波ビームTB2の送信方向の方位角(ここで「所定方位角」という)であるかが、
図8に示すモータ制御処理(S12)のS35の処理によって判断される。そして、超音波ビームTBの方位角δが所定方位角以外であると判断される場合には、選択フラグ53aに「ソナー」が設定されて、ソナー処理72が実行される。一方、超音波ビームTBの方位角δが所定方位角であると判断される場合には、選択フラグ53aに「潮流」が設定されて、潮流計測処理73が実行される。これにより、振動子31の方位角が1方向に回転する中で、ソナー処理72と潮流計測処理73とが切り替えられながら実行されるので、ソナー機能と潮流計機能とを短時間で実現できる。
【0100】
また、選択フラグ53aによって潮流計測処理73に切り替えて処理が実行される場合に、その潮流計測処理73の実行が行われる前に所定時間(上記実施形態では50ミリ秒)ウエイト処理が実行される(
図7に示すメイン処理のS14)。一般的に、潮流計機能において、潮流の速度を精度よく算出するために高い周波数分解能を必要とするため、超音波ビームTB2として長時間のバースト波を振動子31より出力するので、大きな送信電力が必要となる。ここで、所定時間のウエイト処理が実行されることによって、潮流計測処理73により第2送信条件にて振動子31から超音波ビームTB2が送信される前に、振動子31に電力を供給する送信コンデンサのチャージ時間を、十分に確保できる。
【0101】
また、ソナー処理72において超音波ビームTB1を送信する場合の超音波の俯角θがソナー俯角データ52bにより設定される。そして、潮流計測処理73が実行される場合においても、超音波ビームTB2の俯角θはソナー俯角データ52bにより設定された俯角θのままとされる。つまり、選択フラグ53aによってソナー処理72から潮流計測処理73へ、又は、潮流計測処理73からソナー処理72へ処理が切り替えられる場合であっても、俯角θは固定されるので、切り替え時に俯角θを変更する必要がない。よって、振動子31を動かして俯角θを変更する時間を不要とするので、ソナー機能と潮流計機能とをより短時間で実現できる。
【0102】
また、潮流計測処理73によって、算出された潮流の速度の向きと大きさを探知画像81に対して模式的に表した潮流画像82a~82cが形成される。そして、探知画像81に対して潮流画像82a~82cをオーバーレイ表示するように、
図7に示すメイン処理のS17の処理により、画像合成される。これにより、探知画像81に対して模式的に潮流の速度が表示されるので、探知画像81に表示された探知物と、潮流の速度との関係を、使用者が視覚的に把握し易くできる。
【0103】
また、潮流計測深度データ52dによって、潮流の速度を計測する所定深度として複数の深度が設定され、潮流計測処理73によって、所定深度として設定された複数の深度における潮流の速度が算出されるので、探知画像81に表示された探知物と、複数の深度における潮流の速度との関係を使用者が把握できる。
【0104】
なお、
図7~
図10の説明では、フラッシュメモリ52において、潮流計機能のオン・オフの設定値がオンに設定され、また、ソナー機能において水中の探知を行う所定範囲の設定値が0度~0度、即ち、全周に設定されている場合を前提として説明した。
【0105】
一方、潮流計機能がオフに設定されていた場合は、
図8に示したモータ制御処理(S12)において、S35の処理を省略し、選択フラグ53aを常に「ソナー」に設定すればよい。
【0106】
また、ソナー機能において水中の探知を行う所定範囲の設定値を、全周ではなく、一部の範囲(例えば、90度~270度)とした場合、モータ制御処理(S12)のS34の処理において、設定された所定範囲の中で方位角δを送り角δ1ずつ進めていけばよい。ただし、潮流計機能において使用する超音波ビームTB2の送信方向の少なくとも一部が含まれない場合、一度、所定範囲にわたって超音波ビームTB1の送受信を行った後、その所定範囲に含まれていない超音波ビームTB2の送信方向の方位角となるまでスキャンモータ27を駆動して振動子31を回転させ、その方位角で超音波ビームTB2の送受信を行えばよい。また、所定範囲に含まれてない超音波ビームTB2の送信方向が複数ある場合は、順次、その送信方向の方位角となるようにスキャンモータ27を駆動して振動子31を回転させ、各々の方位角で超音波ビームTB2の送受信を行えばよい。
【0107】
そして、全ての超音波ビームTB2の送信方向に対して超音波ビームTB2の送受信が行えたら、再び、所定範囲にわたって超音波ビームTB1の送受信を行えばよい。その所定範囲に超音波ビームTB2の送信方向が含まれていれば、振動子31の方位角が、その超音波ビームTB2の送信方向の方位角となったときに、選択フラグ53aを「潮流」に設定して、その方向の超音波ビームTB2の送受信を行えばよい。
【0108】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記各実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0109】
また、上記実施形態では、超音波ビームTBの送信条件である第1送信条件および第2送信条件との間で、バースト波の長さ(時間)を変化させて設定する場合について説明したが、必ずしもこれだけに限られるものではなく、超音波の振幅や周波数を変化させて設定するものであってもよい。
【0110】
また、上記実施形態では、潮流計測処理73により、算出した潮流の速度の向きと大きさを探知画像81に対して模式的に表した潮流画像82a~82cを形成し、その潮流画像82a~82cを探知画像81に対してオーバーレイ表示する場合について説明したが、算出した潮流の速度の出力方法はこれに限られるものではない。例えば、潮流画像82a~82cとあわせて、又は、潮流画像82a~82cに代えて、従来の潮流計のように、潮流の速度の向きと大きさを数値等の文字で表示するものであってもよい。当該文字での表示は、探知画像81に対してオーバーレイ表示されるものであってもよいし、探知画像81の表示領域とは別の領域に表示されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0111】
11 船舶
12 超音波ソナー装置
31 振動子
27 スキャンモータ(変化手段)
53a 選択フラグ(処理切替手段の一部)
81 探知画像
82a~82c 潮流画像
S13 (処理切替手段の一部)
S14 (ウエイト処理実行手段)
S15 潮流計測処理(第2処理手段)
S16 ソナー処理(第1処理手段)
S17 (画像合成手段)
S32 (俯角設定手段)
S34 (回転制御手段)
S35 (方位角判断手段)
TB 超音波ビーム
TB1 第1送信条件での超音波ビーム
TB2 第2送信条件での超音波ビーム
δ 超音波ビームの方位角
θ 超音波ビームの俯角