IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JRCモビリティ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-移動速度の検出装置および検出方法 図1
  • 特開-移動速度の検出装置および検出方法 図2
  • 特開-移動速度の検出装置および検出方法 図3
  • 特開-移動速度の検出装置および検出方法 図4
  • 特開-移動速度の検出装置および検出方法 図5
  • 特開-移動速度の検出装置および検出方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023614
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】移動速度の検出装置および検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/58 20060101AFI20220201BHJP
   G01S 13/34 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
G01S13/58 200
G01S13/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020126668
(22)【出願日】2020-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】318006365
【氏名又は名称】JRCモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】関口 隆
(72)【発明者】
【氏名】小田 康明
(72)【発明者】
【氏名】石原 正庸
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC06
5J070AD02
5J070AF03
5J070AH02
5J070AH19
5J070AH25
5J070AH31
5J070AH35
5J070AJ13
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】レーダデータに基づいてレーダ装置自身の移動速度を推定することを可能にする。
【解決手段】送信波を放射するとともに送信波が物体で反射して戻ってくる反射波を受信してレーダデータを出力するレーダ部3と、レーダデータの周波数解析を行い周波数スペクトルを生成するとともに物体との距離Rおよび相対速度Vを計算して距離R、相対速度V、および周波数スペクトルにおける受信強度Iの組み合わせデータを生成する信号処理部4と、距離Rの値が所定の範囲に入っている組み合わせデータのみを用いて受信強度Iを相対速度Vの値ごとに積算して相対速度Vの値別の受信強度積算値Isを算出する受信強度積算部5と、受信強度積算値Isの最大値Ismaxに対応する相対速度Vの値Vmを特定する移動速度推定部6と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信波を放射するとともに前記送信波が物体で反射して戻ってくる反射波を受信してレーダデータを出力するレーダ部と、
前記レーダデータの周波数解析を行い周波数スペクトルを生成するとともに前記物体との距離および相対速度を計算して前記距離、前記相対速度、および前記周波数スペクトルにおける受信強度の組み合わせデータを生成する信号処理部と、
前記距離の値が所定の範囲に入っている前記組み合わせデータのみを用いて前記受信強度を前記相対速度の値ごとに積算して前記相対速度の値別の受信強度積算値を算出する受信強度積算部と、
前記受信強度積算値の最大値に対応する前記相対速度の値を特定する移動速度推定部と、を有し、
前記特定された前記相対速度の値を自装置の移動速度として出力する、
ことを特徴とする移動速度の検出装置。
【請求項2】
前記受信強度積算値の前記最大値と少なくとも前記最大値を除く前記受信強度積算値の平均値との関係に基づいて速度信頼度を算出する信頼度判定部をさらに有し、
前記速度信頼度の値に応じて所定の間は前記自装置の移動速度の値を更新しない、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動速度の検出装置。
【請求項3】
前記受信強度積算値の前記最大値と少なくとも前記最大値を除く前記受信強度積算値の平均値との関係に基づいて速度信頼度を算出する信頼度判定部をさらに有し、
前記速度信頼度の値に応じて決定される重みを用いて過去の移動速度の値と最新の移動速度の値とを加重平均して算出される値を自装置の移動速度として出力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の移動速度の検出装置。
【請求項4】
前記レーダデータが、周波数変調連続波方式のレーダが用いられて取得されたデータである、
ことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の移動速度の検出装置。
【請求項5】
送信波を放射するとともに前記送信波が物体で反射して戻ってくる反射波を受信するレーダ装置から出力されるレーダデータの周波数解析を行い周波数スペクトルを生成するとともに前記物体との距離および相対速度を計算して前記距離、前記相対速度、および前記周波数スペクトルにおける受信強度の組み合わせデータを生成する処理と、
前記距離の値が所定の範囲に入っている前記組み合わせデータのみを用いて前記受信強度を前記相対速度の値ごとに積算して前記相対速度の値別の受信強度積算値を算出する処理と、
前記受信強度積算値の最大値に対応する前記相対速度の値を特定する処理と、を有し、
前記特定された前記相対速度の値を自装置の移動速度とする、
ことを特徴とする移動速度の検出方法。
【請求項6】
前記受信強度積算値の前記最大値と少なくとも前記最大値を除く前記受信強度積算値の平均値との関係に基づいて速度信頼度を算出する処理をさらに有し、
前記速度信頼度の値に応じて所定の間は前記自装置の移動速度の値を更新しない、
ことを特徴とする請求項5に記載の移動速度の検出方法。
【請求項7】
前記受信強度積算値の前記最大値と少なくとも前記最大値を除く前記受信強度積算値の平均値との関係に基づいて速度信頼度を算出する処理をさらに有し、
前記速度信頼度の値に応じて決定される重みを用いて過去の移動速度の値と最新の移動速度の値とを加重平均して算出される値を自装置の移動速度とする、
ことを特徴とする請求項5に記載の移動速度の検出方法。
【請求項8】
前記レーダデータが、周波数変調連続波方式のレーダが用いられて取得されたデータである、
ことを特徴とする請求項5から7のうちのいずれか1項に記載の移動速度の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動速度の検出装置および検出方法に関し、特に、レーダから送信された電波が物体の表面で反射して戻ってくる反射波を処理して取得されるレーダデータに基づいてレーダ装置自身の移動速度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
物標を検知して前記物標の相対速度を推定する仕組みを有するレーダ装置として、水平面内で回転しながら信号の送受信を繰り返すように構成されたレーダアンテナと、自装置周囲の物標の位置を示すレーダ映像を表示する表示器と、自装置からの電波の放射方向成分における自装置と物標との相対速度を推定する速度推定部と、を備えるレーダ装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-266292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電波センサ/レーダ装置が用いられて取得されるレーダデータに基づいてレーダ装置自身の移動速度を推定することができれば、電波センサ/レーダ装置を取り付けることによって種々の機材や機器あるいは車両や設備などの移動速度を知ることができ、有用である。
【0005】
そこでこの発明は、レーダデータに基づいてレーダ装置自身の移動速度を推定することが可能な移動速度の検出装置および検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、送信波を放射するとともに前記送信波が物体で反射して戻ってくる反射波を受信してレーダデータを出力するレーダ部と、前記レーダデータの周波数解析を行い周波数スペクトルを生成するとともに前記物体との距離および相対速度を計算して前記距離、前記相対速度、および前記周波数スペクトルにおける受信強度の組み合わせデータを生成する信号処理部と、前記距離の値が所定の範囲に入っている前記組み合わせデータのみを用いて前記受信強度を前記相対速度の値ごとに積算して前記相対速度の値別の受信強度積算値を算出する受信強度積算部と、前記受信強度積算値の最大値に対応する前記相対速度の値を特定する移動速度推定部と、を有し、前記特定された前記相対速度の値を自装置の移動速度として出力する、ことを特徴とする移動速度の検出装置である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の移動速度の検出装置において、前記受信強度積算値の前記最大値と少なくとも前記最大値を除く前記受信強度積算値の平均値との関係に基づいて速度信頼度を算出する信頼度判定部をさらに有し、前記速度信頼度の値に応じて所定の間は前記自装置の移動速度の値を更新しない、ことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の移動速度の検出装置において、前記受信強度積算値の前記最大値と少なくとも前記最大値を除く前記受信強度積算値の平均値との関係に基づいて速度信頼度を算出する信頼度判定部をさらに有し、前記速度信頼度の値に応じて決定される重みを用いて過去の移動速度の値と最新の移動速度の値とを加重平均して算出される値を自装置の移動速度として出力する、ことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3に記載の移動速度の検出装置において、前記レーダデータが、周波数変調連続波方式のレーダが用いられて取得されたデータである、ことを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に記載の発明は、送信波を放射するとともに前記送信波が物体で反射して戻ってくる反射波を受信するレーダ装置から出力されるレーダデータの周波数解析を行い周波数スペクトルを生成するとともに前記物体との距離および相対速度を計算して前記距離、前記相対速度、および前記周波数スペクトルにおける受信強度の組み合わせデータを生成する処理と、前記距離の値が所定の範囲に入っている前記組み合わせデータのみを用いて前記受信強度を前記相対速度の値ごとに積算して前記相対速度の値別の受信強度積算値を算出する処理と、前記受信強度積算値の最大値に対応する前記相対速度の値を特定する処理と、を有し、前記特定された前記相対速度の値を自装置の移動速度とする、ことを特徴とする移動速度の検出方法である。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の移動速度の検出方法において、前記受信強度積算値の前記最大値と少なくとも前記最大値を除く前記受信強度積算値の平均値との関係に基づいて速度信頼度を算出する処理をさらに有し、前記速度信頼度の値に応じて所定の間は前記自装置の移動速度の値を更新しない、ことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の移動速度の検出方法において、前記受信強度積算値の前記最大値と少なくとも前記最大値を除く前記受信強度積算値の平均値との関係に基づいて速度信頼度を算出する処理をさらに有し、前記速度信頼度の値に応じて決定される重みを用いて過去の移動速度の値と最新の移動速度の値とを加重平均して算出される値を自装置の移動速度とする、ことを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項5から7に記載の移動速度の検出方法において、前記レーダデータが、周波数変調連続波方式のレーダが用いられて取得されたデータである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明や請求項5に記載の発明によれば、レーダデータに基づいてレーダ装置自身の移動速度を推定することができるので、レーダ装置を取り付けることにより、受信アンテナ1系統の受信データのみから、種々の機材や機器あるいは車両や設備などの移動速度を知ることが可能となる。請求項1に記載の発明や請求項5に記載の発明によれば、特に、距離の値が所定の範囲に入っているデータのみを用いて算出される相対速度の値別の受信強度積算値を用いて自装置の移動速度を推定するようにしているので、誤推定を防止して様々な環境での自装置の移動速度を一層的確に推定することが可能となる。
【0015】
請求項2に記載の発明や請求項6に記載の発明によれば、外乱などによって受信強度が著しく低下した時に推定される移動速度の異常値の出力を防ぐことができ、移動速度の推定値の急激な変動を回避して移動速度の推定値の連続性を保つことが可能となり、延いては、短期間の受信強度の低下による移動速度の推定値への影響を抑圧して移動速度を推定する技術としての信頼性を向上させることが可能となる。
【0016】
請求項3に記載の発明や請求項7に記載の発明によれば、外乱などによって受信強度が著しく低下した時に推定される移動速度の異常値のそのままの出力を防ぎつつ過去の移動速度の値と最新の移動速度の値とのそれぞれの信頼度で加重平均した値を出力することができ、移動速度の推定値の急激な変動を回避して移動速度の推定値の連続性を保つことが可能となり、延いては、短期間の受信強度の低下による移動速度の推定値への影響を抑圧して移動速度を推定する技術としての信頼性を向上させることが可能となる。
【0017】
請求項4に記載の発明や請求項8に記載の発明によれば、周波数変調連続波方式のレーダと組み合わせて、上述の作用効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明の実施の形態に係る移動速度の検出装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2図1の移動速度の検出装置における処理手順であるとともにこの発明の実施の形態に係る移動速度の検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
図3】(A)は信号処理部から出力されるVRデータの例を示す図である。(B)は(A)のVRデータに関する相対速度と受信強度積算値との間の関係を表す図である。
図4】(A)は信号処理部から出力されるVRデータに対する強度積算距離範囲の設定の例を示す図である。(B)は(A)のVRデータに関する、強度積算距離範囲を考慮した場合の相対速度と受信強度積算値との間の関係を表す図である。
図5】速度信頼度の計算の内容を説明する図である。
図6図1の移動速度の検出装置における他の処理手順であるとともにこの発明の他の実施の形態に係る移動速度の検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0020】
図1は、この発明の実施の形態に係る移動速度の検出装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。図2は、移動速度の検出装置1における処理手順であるとともにこの発明の実施の形態に係る移動速度の検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0021】
移動速度の検出装置1は、レーダによって取得されるレーダデータに基づいて装置自身の移動速度を推定する仕組みであり、主として、制御部2と、レーダ部3と、信号処理部4と、受信強度積算部5と、移動速度推定部6と、信頼度判定部7と、を備える。移動速度の検出装置1は、例えば、あくまで一例として挙げると、鉄道や自動車などの車両に搭載されて、移動速度の検出装置1自身の移動速度を推定することにより、前記車両の移動速度/走行速度を推定するために用いられる。
【0022】
制御部2は、移動速度の検出装置1の各部を制御するための機序であり、移動速度の検出に纏わる演算処理を行う中央処理装置21(CPU:Central Processing Unit の略)、読み出し可能な記憶装置であるROM22(ROM:Read Only Memory の略)、および、読み出し/書き込み可能な記憶装置であるRAM23(RAM:Random Access Memory の略)などを備える機序として構成される。
【0023】
制御部2は、ROM22に格納されている、移動速度の検出装置1の動作を制御するためのプログラムを中央処理装置21が実行することにより、RAM23を必要に応じて作業領域として使用しながら、前記プログラムに従って移動速度の検出装置1の各部の処理の開始、内容、および終了を統制して制御する。
【0024】
そして、この実施の形態に係る移動速度の検出装置1は、送信波を放射するとともに送信波が物体で反射して戻ってくる反射波を受信してレーダデータを出力するレーダ部3と、レーダデータの周波数解析を行い周波数スペクトルを生成するとともに物体との距離Rおよび相対速度Vを計算して距離R、相対速度V、および周波数スペクトルにおける受信強度Iの組み合わせデータを生成する信号処理部4と、距離Rの値が所定の範囲に入っている組み合わせデータのみを用いて受信強度Iを相対速度Vの値ごとに積算して相対速度Vの値別の受信強度積算値Isを算出する受信強度積算部5と、受信強度積算値Isの最大値Ismaxに対応する相対速度Vの値Vmを特定する移動速度推定部6と、を有する、ようにしている(図1参照)。
【0025】
この実施の形態に係る移動速度の検出装置1は、さらに、受信強度積算値Isの最大値Ismaxと少なくとも最大値Ismaxを除く受信強度積算値Isの平均値Isavgとの関係に基づいて速度信頼度IRを算出する信頼度判定部7をさらに有し、速度信頼度IRの値に応じて所定の間は自装置の移動速度の値を更新しない、ようにしている(図1参照)。
【0026】
また、この実施の形態に係る移動速度の検出方法は、送信波を放射するとともに送信波が物体で反射して戻ってくる反射波を受信するレーダ部3から出力されるレーダデータの周波数解析を行い周波数スペクトルを生成するとともに物体との距離Rおよび相対速度Vを計算して距離R、相対速度V、および周波数スペクトルにおける受信強度Iの組み合わせデータを生成する処理(ステップS1~S4)と、距離Rの値が所定の範囲に入っている組み合わせデータのみを用いて受信強度Iを相対速度Vの値ごとに積算して相対速度Vの値別の受信強度積算値Isを算出する処理(ステップS5)と、受信強度積算値Isの最大値Ismaxに対応する相対速度Vの値Vmを特定する処理(ステップS6)と、を有する、ようにしている(図2参照)。
【0027】
この実施の形態に係る移動速度の検出方法は、さらに、受信強度積算値Isの最大値Ismaxと少なくとも最大値Ismaxを除く受信強度積算値Isの平均値Isavgとの関係に基づいて速度信頼度IRを算出する処理(ステップS7)をさらに有し、速度信頼度IRの値に応じて所定の間は自装置の移動速度の値を更新しない(ステップS8,S10,S11)、ようにしている(図2参照)。
【0028】
レーダ部3は、送信部31と受信部32とを備えて電波を送信するとともに受信する機能を備え、レーダ方式として例えばFMCW(Frequency Modulated-Continuous Wave の略;周波数変調連続波)方式のレーダスキャンを行って取得されるレーダデータを出力する。
【0029】
FMCW方式では、周波数変調した連続波(具体的には電波;送信信号に相当する)を送信波として送信するとともに物体の表面で反射して戻ってくる反射波(具体的には電波;受信信号に相当する)を受信し、送信波と受信波(即ち、反射波)との差分(言い換えると、送信波と受信波との間の周波数差)を解析することにより、レーダ部3と物体との間の距離が計算され、また、計算された距離の周波数の位相を連続波ごとに計測して解析することにより、レーダ部3と物体との相対速度が計算される。
【0030】
FMCW方式のレーダは、時間の経過に応じて周波数変調を行う連続発振レーダであり、複数のチャープを含むバースト波を生成して送信する(別言すると、出射する、放射する)。バースト波に含まれる各チャープは、周波数が時間的に掃引されて、時間の経過に伴って周波数が線形的に変化する(具体的には、上昇/下降する)ように生成される。なお、チャープの周波数の変調幅や変調の周期(即ち、チャープの繰返し周期)は適宜調節されるようにしてよい。
【0031】
ここで、複数のチャープが所定の時間周期で送信され、一連で1つの纏まりとして構成される複数のチャープのことを「チャープフレーム」と呼ぶ。1つのチャープフレームが1回のレーダスキャンに相当し、各チャープフレームは独立して処理される。
【0032】
レーダ部3の送信部31は、例えば、電圧発生器、電圧制御発振器、および送信アンテナなどを含む機序として構成される。
【0033】
電圧発生器は、時間軸上でレベルが次第に高くなる区間とレベルが次第に低くなる区間とが交互に連続して三角波状(または、鋸波状)に変化する制御電圧を生成して出力する。
【0034】
電圧制御発振器は、前記制御電圧に応じて時間軸上で周波数が次第に高くなる変調区間と周波数が次第に低くなる変調区間とが交互に連続して三角波状(または、鋸波状)に変化する送信信号を生成して出力する。
【0035】
送信アンテナは、前記送信信号に基づいて送信波を生成し、移動速度の検出装置1が搭載されている車両などの周辺の空間(「周辺空間」と呼ぶ;尚、前記車両などの進行方向に沿う空間を含む空間であることが好ましい)へと送信波として放射する。送信信号の一部は、所定の分配比で、ローカル信号として受信部32へも伝送される。
【0036】
送信部31は、例えば79GHz帯、76GHz帯、或いは60GHz帯の周波数を有する電波(尚、「ミリ波」とも呼ばれる)を生成して送信アンテナを介して周辺空間へと放射する。なお、この発明では、高周波数帯の電波を利用することが好ましい。
【0037】
レーダ部3の受信部32は、例えば、受信アンテナ、ミキサ、およびA/D変換器などを含む機序として構成される。
【0038】
受信アンテナは、送信部31の送信アンテナから放射された電波(即ち、送信波)が周辺空間に存在する物体の表面で反射して戻ってくる電波(即ち、反射波;「ドップラ反射波」とも呼ばれる)を含む電波を受信波として受信して、受信した受信波/反射波を受信信号へと変換して出力する。
【0039】
ミキサは、送信部31から分配されて伝送される電波(送信信号;即ち、ローカル信号)と受信アンテナから出力される電波(受信信号)とをミキシングして差分信号(尚、アナログ信号である)を生成して出力する。
【0040】
A/D変換器は、ミキサから出力される差分信号に対して所定のサンプリング周波数を用いてサンプリング処理(別言すると、アナログ-デジタル変換処理)を施して前記差分信号をデジタルデータに変換してデジタル信号化された差分信号を出力する。
【0041】
レーダスキャンが行われてレーダ部3から出力されるレーダデータとしての差分信号は、送信部31から分配されて伝送される電波(送信信号;即ち、ローカル信号)の周波数成分と受信アンテナから出力される電波(受信信号)の周波数成分との差の周波数成分を有する信号(つまり、ビート周波数を有する信号であり、「ビート信号」とも呼ばれる)である。
【0042】
レーダスキャンが行われるたびに、レーダ部3からレーダデータが出力されて、前記レーダデータが信号処理部4へと入力される(ステップS1)。
【0043】
信号処理部4は、レーダ部3から出力されるレーダデータの周波数解析を行うとともに、周波数解析結果を用いて送信波を反射させた物体に関する距離情報および運動情報を計算する。信号処理部4は、周波数解析部41、距離計算部42、および速度計算部43を含んで構成される。
【0044】
周波数解析部41は、レーダ部3(具体的には、受信部32のA/D変換器)から出力されるレーダデータ(別言すると、ビート波形データ)としての差分信号(ビート信号)の周波数解析を行う(ステップS2)。
【0045】
周波数解析部41は、具体的には、1回のレーダスキャンあたりのサンプリング時間幅(例えば、100ミリ秒間)ぶんのビート波形データ、具体的には差分信号(ビート信号)の振幅に対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform の略)処理を施して前記差分信号の振幅の周波数分布を示す周波数スペクトル(ビート周波数スペクトラム)を生成して出力する。周波数スペクトルは、差分信号に含まれる各周波数成分の振幅を示す。
【0046】
周波数スペクトルにおける振幅の大きさおよび周波数ビン(別言すると、FFTビン)は、物体からの反射波の受信強度およびビート周波数に相当する。そして、周波数スペクトルにおける受信強度およびビート周波数から、物体に関する距離情報や運動情報として、送信波を反射させた物体に関する相対距離および相対速度が求められる。
【0047】
距離計算部42は、周波数解析部41から出力される周波数スペクトルに基づいて、レーダ部3と物体との間の距離Rを計算して出力する(ステップS3)。距離Rは、ステップS2の処理における周波数解析の結果としての周波数スペクトルにおける周波数ビンごとに求められる。
【0048】
周波数スペクトルに基づく距離の計算の仕法は、公知の手法が存在し、また、この発明では特定の手法には限定されないので、ここでは詳細の説明は省略する。例えば、レーダ部3と送信波を反射する物体との間の距離は、送信波の周波数と受信波の周波数との差がレーダ部3と物体との間の距離に比例して増減する、ことを利用する手法などの公知の手法によって計算され得る。
【0049】
速度計算部43は、周波数解析部41から出力される周波数スペクトルに基づいて、レーダ部3と物体との相対速度V(具体的には、送信波が物体の表面で反射した時の瞬時の相対速度)を計算して出力する(ステップS4)。相対速度Vは、ステップS2の処理における周波数解析の結果としての周波数スペクトルにおける周波数ビンごとに求められる。
【0050】
周波数スペクトルに基づく相対速度の計算の仕法は、公知の手法が存在し、また、この発明では特定の手法には限定されないので、ここでは詳細の説明は省略する。例えば、レーダ部3と物体との相対速度は、レーダ部3と送信波を反射する物体とが相対的に移動しているときの前記物体の表面で反射して受信アンテナによって受信される電波(即ち、受信波)の周波数は、送信アンテナから送信される電波(即ち、送信波)の周波数に対して、前記物体の表面で反射した際に電波がレーダ部3との相対速度による影響を受け、ドップラ効果により、レーダ部3と前記物体との間の相対速度に応じてシフトする、ことを利用する手法などの公知の手法によって計算され得る。
【0051】
信号処理部4は、上記の処理により、レーダ部3から出力されるレーダデータに基づく、周波数解析の結果としての周波数スペクトルにおける周波数ビンごとに計算される、レーダ部3と物体との相対速度V(単位:km/h)と、レーダ部3と物体との間の距離R(単位:m)と、前記周波数ビンごとの振幅の絶対値である受信強度Iとの組み合わせからなるデータ(V,R,I)を出力する。信号処理部4から出力されるデータ(V,R,I)のことを「VRデータ」と呼ぶ。
【0052】
なお、周波数スペクトルにおける周波数ビンごとに距離Rおよび相対速度Vを計算して、距離Rの値と相対速度Vの値とが同じ組み合わせが複数存在する場合には、距離Rの値と相対速度Vの値とが同じ組み合わせ各々の受信強度Iの値の合計値を当該の距離Rの値と相対速度Vの値との組み合わせの受信強度Iの値とする。
【0053】
信号処理部4による処理は、所定の時間周期(別言すると、サンプリング時間幅)のレーダスキャンごとに行われる。すなわち、1回のレーダスキャンが行われるたびに、当該のレーダスキャンに関する、VRデータ(V,R,I)の集合が生成されて出力される。
【0054】
VRデータ(V,R,I)の例を図3(A)に示す。図3(A)では、横軸を相対速度Vとするとともに縦軸を距離Rとしたうえで、(V,R)の組み合わせに対応する受信強
度Iの値を、前記値の大きさに応じて色を変えて表示している。
【0055】
ここで、VRデータ(V,R,I)には、周囲の静止物(例えば、地面/路面や構造物、また、地面/土地に対して固定的に設置されている設備;「静止ターゲット」と呼ぶ)からの反射波に起因する、移動速度の検出装置1自身の移動速度に対応する(別言すると、相当する)速度成分が含まれる。この発明では、静止ターゲットからの反射波に着目して、移動速度の検出装置1自身の移動速度を推定する。この発明では、つまり、静止ターゲットを基準とする自装置の相対速度を割り出すことにより、移動速度の検出装置1自身の移動速度を推定する。
【0056】
受信強度積算部5は、信号処理部4から出力されるVRデータ(V,R,I)の集合について、相対速度の値別の受信強度積算値を算出する(ステップS5)。
【0057】
受信強度積算部5は、VRデータ(V,R,I)の集合を用いて、相対速度Vの値ごとに受信強度Iの値を積算して相対速度Vの値別の受信強度積算値Isを算出する。受信強度積算値Isは、すなわち、VRデータ(V,R,I)の集合によって構成される図3に示すようなVR平面における、相対速度Vの値ごとの、距離Rの方向についての受信強度Iの積算値である。なお、受信強度積算部5は、必要に応じて、相対速度Vの値を所定の幅で区切って速度ランク(別言すると、速度ビン)ごとに受信強度Iの値を積算するようにしてもよい。
【0058】
図3(A)に示すVRデータ(V,R,I)の集合を用いて算出される、相対速度Vと受信強度積算値Isとの組み合わせデータ(V,Is)の集合を図3(B)に示す。図3(B)では、横軸を相対速度Vとするとともに縦軸を受信強度積算値Isとして表示している。
【0059】
図3(B)における、ピークAは、レーダ部3(特に、送信アンテナ,受信アンテナ)の近傍の物体からの反射波、例えば車両の構造の一部からの反射波についての受信強度に関するピークである。この場合、前記物体はレーダ部3とともに移動しているので相対速度Vの値は0であり、したがって、横軸の相対速度Vの値が0の位置におけるピークとして現れている。
【0060】
一方、ピークBは、静止ターゲットからの反射波についての受信強度に関するピークであり、移動速度の検出装置1自身の移動速度に対応する受信強度に関するピークである。なお、移動速度の検出装置1と周囲の物体とが相互に近づくように相対的に移動している場合には、移動速度の検出装置1自身の移動速度に対応する受信強度に関するピークは、相対速度Vの値がマイナスの領域に現れる(尚、使う計算式によってプラスの領域に現れるようにすることもできる)。
【0061】
上記のことから、静止ターゲットを基準とする自装置の相対速度を割り出すためには、レーダ部3の近傍の物体/構造であってレーダ部3とともに移動している物体/構造からの反射波についての受信強度を除外する必要がある。
【0062】
また、自装置の相対速度を割り出す際の基準となる静止ターゲットは、ステップS3の処理において計算される距離Rの全範囲に分布しているわけではない。このため、VRデータ(V,R,I)の集合について、ステップS3の処理において計算される距離Rの全範囲を対象として相対速度Vの値ごとに受信強度Iの値を積算すると、雑音が多く積算されてS/N比(Signal-to-Noise ratio)が小さくなるという問題がある。
【0063】
そこで、この発明では、受信強度積算値Isを計算する際に、ステップS3の処理において計算される距離Rのうちの特定の範囲に限定して相対速度Vの値ごとに受信強度Iの値を積算する。受信強度積算値Isを計算する際の、距離Rの範囲のことを「強度積算距離範囲」と呼ぶ。
【0064】
具体的には、受信強度積算値Isを計算する際に、例えば、送信/受信アンテナの指向性が考慮されるとともに下記の事項が考慮されるなどしたうえで、距離Rの範囲が限定されて強度積算距離範囲が適当な範囲に適宜設定される。
ア) レーダ部3の近傍に存在して移動速度の検出装置1とともに移動し、移動速度の検出装置1との相対速度Vの値が0になる物体が存在する範囲を除く。
イ) 地面/土地に対して移動する物体が存在することが明らかな範囲を除く。例えば、移動速度の検出装置1が鉄道に搭載されて前記鉄道の走行速度を推定する場合に他の鉄道が走行する範囲(例えば、隣接する線路の範囲)を除いたり、移動速度の検出装置1が自動車に搭載されて前記自動車の走行速度を推定する場合に他の自動車が走行する範囲(例えば、隣接する車線の範囲)を除いたりする。
ウ) 静止ターゲットが存在しない範囲や、静止ターゲットが存在しても反射波の受信強度が極端に弱くなる範囲を除く。
【0065】
強度積算距離範囲として、距離Rの範囲について、下限のみが設定されたり(即ち、距離Rの値が所定の値以上であるVRデータの受信強度Iの値のみを積算する)、上限のみが設定されたりする(即ち、距離Rの値が所定の値以下であるVRデータの受信強度Iの値のみを積算する)ようにしてもよく、或いは、下限と上限との両方が設定される(即ち、距離Rの値が所定の値以上かつ所定の値以下であるVRデータの受信強度Iの値のみを積算する)ようにしてもよい。
【0066】
図3(A)に示すVRデータ(V,R,I)について、図4(A)に示すように強度積算距離範囲を設定して受信強度積算値Isを計算すると図4(B)に示すようになる。図4に示す例では、あくまで一例として、強度積算距離範囲の下限が12mに設定されているとともに上限が30mに設定されている。
【0067】
図4(B)に示す例では、レーダ部3(特に、送信アンテナ,受信アンテナ)の近傍の物体からの反射波についての受信強度に関するピーク(図3(B)におけるピークA)は現れておらず、静止ターゲットからの反射波についての受信強度に関するピークB(図3(B)も参照)が現れており、すなわち、レーダ部3の近傍の物体の影響が排除されるとともに、静止ターゲットのS/N比が大きくとれるようになっており、自装置の相対速度が的確に割り出され、延いては移動速度の検出装置1自身の移動速度が的確に推定され得る。
【0068】
受信強度積算部5は、VRデータ(V,R,I)について強度積算距離範囲を設定して、距離Rの値が強度積算距離範囲に入っているVRデータ(V,R,I)のみを用いて相対速度Vの値別に受信強度Iの値を積算し、相対速度Vと受信強度積算値Isとの組み合わせからなるデータ(V,Is)の集合を出力する。受信強度積算部5から出力されるデータ(V,Is)のことを「受信強度積算値データ」と呼ぶ。
【0069】
移動速度推定部6は、受信強度積算部5から出力される受信強度積算値データ(V,Is)の集合を用いて、移動速度の検出装置1自身の移動速度を推定する(ステップS6)。
【0070】
移動速度推定部6は、受信強度積算値データ(V,Is)の集合の中から、受信強度積算値Isの最大値Ismaxを特定し、特定された受信強度積算値Isの最大値Ismaxと組み合わされている相対速度Vの値Vmを特定して出力する。
【0071】
ここで、移動速度の検出装置1自身の移動速度として特定されるべき相対速度Vの値Vmは、送信波を反射する周囲の静止物(例えば、構造物や、地面/土地に対して固定的に設置されている設備;即ち、静止ターゲット)に対する相対速度である。しかしながら、静止ターゲットが検出できない環境や、静止ターゲットが検出できるものの受信強度が雑音レベルを下回る環境では、静止ターゲットが実際には存在していない速度、言い換えると、静止ターゲットからではない反射波に対応する速度が、移動速度の検出装置1自身の移動速度として誤検出されることがあり得る。
【0072】
そこで、この実施の形態では、静止ターゲットからではない反射波に対応する相対速度Vの値が移動速度の検出装置1自身の移動速度として誤検出された場合に移動速度の推定値への影響を抑圧するための仕組みとして、信頼度判定部7を有するようにしている。
【0073】
信頼度判定部7は、移動速度推定部6から出力される相対速度Vの値Vmの、移動速度の検出装置1自身の移動速度としての信頼性を判定して、前記相対速度Vの値Vmの扱いを決定する。信頼度判定部7は、信頼度計算部71、信頼度評価部72、およびホールド判断部73を含んで構成される。
【0074】
信頼度計算部71は、相対速度Vの値Vmの、移動速度の検出装置1自身の移動速度としての信頼性を評価するための指標としての速度信頼度IRを算出する(ステップS7)。
【0075】
信頼度計算部71は、具体的には、下記の数式1により、相対速度Vの値別の受信強度積算値Isの分布に基づく、速度信頼度IR[dB]を算出する。数式1において、Ismaxは、受信強度積算値Isの最大値であり、すなわち、受信強度積算値データ(V,Is)の集合において相対速度Vの値Vmと組み合わされている受信強度積算値Isの値であり、IsavgはIsmaxを除く受信強度積算値Isの平均値である(図5参照)。
(数1) IR = 20×log10(Ismax/Isavg)
【0076】
なお、受信強度積算値Isの平均値Isavgを算出する際に、受信強度積算値Isの最大値Ismaxに加えて、前記最大値Ismaxに対応する相対速度Vの値Vmの近傍の相対速度Vの値に対応する受信強度積算値Isの値も除くようにしてもよい。例えば、受信強度積算値Isの値が速度ビンごとに積算されている場合に、受信強度積算値Isの最大値Ismaxに対応する速度ビンの両隣1つずつの速度ビンの受信強度積算値Isの値も除くようにしたり、受信強度積算値Isの最大値Ismaxに対応する速度ビンの両隣2つずつの速度ビンの受信強度積算値Isの値も除くようにしたりしてもよい。
【0077】
信頼度評価部72は、信頼度計算部71によって算出される速度信頼度IRに基づいて、移動速度推定部6から出力される相対速度Vの値Vmの、移動速度の検出装置1自身の移動速度としての信頼性を評価する(ステップS8)。
【0078】
具体的には、速度信頼度IRの値が信頼度閾値TRより大きい場合には(ステップS8:Yes)、信頼度評価部72は、移動速度推定部6から出力される相対速度Vの値Vmを移動速度の検出装置1自身の移動速度として出力するとともに前記相対速度Vの値Vmをホールド用相対速度の値VHとして記憶し(具体的には例えば、ROM23などに記憶させ)、また、ホールドカウントCの値を0にする(ステップS9)。そのうえで、信頼度評価部72は、移動速度の検出の処理手順をステップS1の処理に戻す。
【0079】
一方、速度信頼度IRの値が信頼度閾値TR以下の場合には(ステップS8:No)、信頼度評価部72は、ホールド用相対速度の値VHを移動速度の検出装置1自身の移動速度として出力し、また、ホールドカウントCの値に1を加える(ステップS10)。
【0080】
つまり、速度信頼度IRの値が信頼度閾値TR以下の場合には(ステップS8:No)、当該の回のレーダスキャン(ステップS1)によって取得されるレーダデータから生成されるVRデータ(V,R,I)の集合に基づいて推定されて移動速度推定部6から出力される相対速度Vの値Vmが移動速度の検出装置1自身の移動速度として出力されるのではなく、前回の処理における移動速度の検出装置1自身の移動速度の値がホールドされる(即ち、移動速度の検出装置1自身の移動速度の値が更新されない)。
【0081】
信頼度閾値TR[dB]は、特定の値に限定されるものではなく、レーダ部3の出力に纏わる特性が考慮されたり、外乱などが無い(若しくは、少ない)良好な状態で受信されて送信波を反射する物体に対応する受信強度のピークが的確に現れ得るレーダデータであるのか、或いは、外乱などによって良好とは言えない状態で受信されて送信波を反射する物体に対応する受信強度のピークが的確には現れ得ないレーダデータであるのか、を判別することができるような値であることが考慮されたりなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。信頼度閾値TR[dB]は、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、2~8[dB]程度の範囲のうちの適当な値に設定されることが考えられる。
【0082】
ホールド判断部73は、ホールドカウントCの値に基づいて、移動速度の検出装置1自身の移動速度の値のホールド状態を継続するか否かを判断する(ステップS11)。
【0083】
具体的には、ホールドカウントCの値がホールド閾値TCと等しい場合には(ステップS11:Yes)、ホールド判断部73は、速度信頼度IRの値が信頼度閾値TR以下の場合の対応としての、移動速度の値のホールド状態を解除して、当該の回のレーダスキャン(ステップS1)におけるVRデータ(V,R,I)の集合に基づいて推定されて移動速度推定部6から出力される相対速度Vの値Vmをホールド用相対速度の値VHとして記憶し、また、ホールドカウントCの値を0にする(ステップS12)。そのうえで、ホールド判断部73は、移動速度の検出の処理手順をステップS1の処理に戻す。
【0084】
一方、ホールドカウントCの値がホールド閾値TCと等しくない場合には(ステップS11:No)、ホールド判断部73は、移動速度の検出の処理手順をステップS1の処理に戻す。これにより、所定の間は、移動速度の検出装置1自身の移動速度が更新されないこととなる。
【0085】
ホールド閾値TCは、特定の値に限定されるものではなく、1回のレーダスキャンあたりのサンプリング時間幅が考慮されたり、速度の乗っ取りなどが発生して異常な相対速度Vの値のホールド状態を継続してしまうことを防止することが考慮されたりなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。
【0086】
上記のような移動速度の検出装置1や移動速度の検出方法によれば、レーダデータに基づいてレーダ装置(レーダ部3)自身の移動速度を推定することができるので、レーダ装置を取り付けることにより、受信アンテナ1系統の受信データのみから、種々の機材や機器あるいは車両や設備などの移動速度を知ることが可能となる。上記のような移動速度の検出装置1や移動速度の検出方法によれば、特に、距離Rの値が強度積算距離範囲に入っているデータのみを用いて算出される相対速度Vの値別の受信強度積算値Isを用いて自装置の移動速度を推定するようにしているので、誤推定を防止して様々な環境での自装置の移動速度を一層的確に推定することが可能となる。
【0087】
上記のような移動速度の検出装置1や移動速度の検出方法によれば、また、信頼度判定部7による処理(即ち、ステップS7~S12の処理)により、外乱などによって受信強度が著しく低下した時に推定される移動速度の異常値の出力を防ぐことができ、移動速度の推定値の急激な変動を回避して移動速度の推定値の連続性を保つことが可能となり、延いては、短期間の受信強度の低下による移動速度の推定値への影響を抑圧して移動速度を推定する技術としての信頼性を向上させることが可能となる。
【0088】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0089】
具体的には、上記の実施の形態ではレーダ方式としてFMCW方式が用いられるようにしているが、レーダ方式としてFMCW方式が用いられることはこの発明において必須の構成ではなく、上記の実施の形態におけるVRデータ(V,R,I)を作成することができるのであれば、どのようなレーダ方式が用いられてもよい。この点において、上記の実施の形態におけるレーダ部3や信号処理部4の具体的な構成は、上記の実施の形態における構成には限定されない。
【0090】
また、上記の実施の形態では信頼度判定部7が備えられたうえで相対速度Vの値Vmの、移動速度の検出装置1自身の移動速度としての信頼性が判定されるようにしているが、信頼度判定部7による処理(即ち、ステップS7~S12の処理)はこの発明において必須の構成ではなく、移動速度の検出装置1としては移動速度推定部6によって相対速度Vの値Vmが特定されて(ステップS6)移動速度の検出装置1自身の移動速度として出力されるようにしてもよい。
【0091】
また、上記の実施の形態では数式1によって速度信頼度IR[dB]を算出するようにしているが、速度信頼度IRの算出の仕方は数式1には限定されない。具体的には例えば、受信強度積算値Isの最大値Ismaxや平均値Isavgについて常用対数がとられないようにしてもよい。
【0092】
また、速度信頼度IRの値が信頼度閾値TR以下の場合(ステップS8:No)について、ステップS10の処理として、上記の実施の形態の他に、信頼度評価部72は、下記の数式2に従って、ホールド用相対速度の値VHと相対速度Vの値Vmとを、速度信頼度IRの値に応じて決定される重み係数WHとWmとで加重平均した値VNを移動速度の検出装置1自身の移動速度として出力するようにしてもよい(尚、ステップS10の処理としては、さらに、ホールドカウントCの値に1を加える)(図6参照)。
(数2) VN = (WH×VH+Wm×Vm)/(WH+Wm)
【0093】
この場合は、すなわち、移動速度の検出装置1は、受信強度積算値Isの最大値Ismaxと少なくとも最大値Ismaxを除く受信強度積算値Isの平均値Isavgとの関係に基づいて速度信頼度IRを算出する信頼度判定部7をさらに有し、速度信頼度IRの値に応じて決定される重み係数WH,Wmを用いて過去の移動速度の値(具体的には、ホールド用相対速度の値VH)と最新の移動速度の値(具体的には、相対速度Vの値Vm)とを加重平均して算出される値VNを自装置の移動速度として出力する。
【0094】
数式2における、ホールド用相対速度の値VHにかかる重み係数WHは、当該のホールド用相対速度の値VHとして記憶された相対速度Vの値Vmに関する速度信頼度IRの値に応じて決定され、また、相対速度Vの値Vmにかかる重み係数Wmは、当該の相対速度Vの値Vmに関する速度信頼度IRの値に応じて決定される。この場合、速度信頼度IRの値と重み係数WH,Wmの値との間の関係について、基本的には速度信頼度IRの値が大きいほど重み係数WH,Wmの値が大きくなるような関係が、具体的には例えば速度信頼度IRの値を説明変数として重み係数WH,Wmの値を算出する関数として、予め定められる。
【符号の説明】
【0095】
1 移動速度の検出装置
2 制御部
21 中央処理装置
22 ROM
23 RAM
3 レーダ部
31 送信部
32 受信部
4 信号処理部
41 周波数解析部
42 距離計算部
43 速度計算部
5 受信強度積算部
6 移動速度推定部
7 信頼度判定部
71 信頼度計算部
72 信頼度評価部
73 ホールド判断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6