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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023647
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】養生型枠用透水性シート
(51)【国際特許分類】
   E04G 9/10 20060101AFI20220201BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
E04G9/10 101B
E04G21/02 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020126731
(22)【出願日】2020-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松元 淳一
(72)【発明者】
【氏名】直町 聡子
(72)【発明者】
【氏名】堀口 賢一
(72)【発明者】
【氏名】臼井 達哉
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正和
【テーマコード(参考)】
2E150
2E172
【Fターム(参考)】
2E150AA23
2E150BA02
2E150BA05
2E150MA16W
2E150MA17W
2E172EA02
2E172EA08
(57)【要約】
【課題】繰り返し転用して利用することが可能で、メンテナンスに要する費用および手間の低減化を図ることを可能とした養生型枠用透水性シートを提案する。
【解決手段】保水性を備えた板状部材からなる保水層3を備える養生型枠1において、保水層3の表面に積層されて打設コンクリートCに接する養生型枠用透水性シートであって、保水層3側に配置されるポリエステル製の不織布からなる基層21と、打設コンクリートC側に配置されるポリプロピレン製の織布からなる表層22と、が積層されており、保水層3との間で水分および気体の移動が可能である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保水性を備えた板状部材からなる保水層を備える養生型枠において前記保水層の表面に積層されて打設コンクリートに接する養生型枠用透水性シートであって、
前記保水層側に配置されるポリエステル製の不織布からなる基層と、前記打設コンクリート側に配置されるポリプロピレン製の織布からなる表層と、が積層されており、
前記保水層との間で水分および気体の移動が可能であることを特徴とする、養生型枠用透水性シート。
【請求項2】
前記基層は、ポリエチレンテレフタラート製のスパンレース不織布からなることを特徴とする請求項1に記載の養生型枠用透水性シート。
【請求項3】
JIS L1096 A法(フラジール形法)にて測定した通気性が3.5cm/cm・s以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の養生型枠用透水性シート。
【請求項4】
JIS L1086にて測定した前記基層と前記表層間の剥離強さが経、緯とも80cN/cm以上であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の養生型枠用透水性シート。
【請求項5】
シート全体の厚みが0.5mm以上、0.6mm以下の範囲内で、かつ、シート全体の目付が100g/m以上、200g/m以下の範囲内で、なおかつ、前記基層の目付が20g/m以上、50g/m以下の範囲内であることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の養生型枠用透水性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養生型枠用透水性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物を施工する際には、コンクリートを高品質に施工することで、耐久性の向上を図り、ひいては、将来の維持管理に要する費用や労力を低減させることが求められる。
そのため、本出願人等は、特許文献1に示すように、コンクリートの強度、緻密性、ひび割れ抵抗性、耐久性を高めることを目的として、透水性または保水性を有した保水部と、保水部の内側面を覆う透水性を有する表面部を備える養生型枠を開発した。この養生型枠によれば、打ち込み直後の余剰水や気泡を排出することが可能となり、また、養生時には保水部に保水された水分が表面部を介してコンクリートに供給されるので、コンクリートの水和反応を促進させることが可能となる。
特許文献1には、表面部を構成するシート材として、保水部の透水係数と同等以上の透水係数を有し、セメント粒子の通過を抑止することが可能な織布や不織布等を使用することが開示されている。
また、特許文献2には、コンクリート型枠の表面に貼り付けられ、コンクリート表面から水分や空気を取り込んで排出する排出シート(シート材)として、コンクリート側から、ポリエステル織布からなる透水層と、ポリプロピレン不織布からなる排水層とが積層されたものが開示されている。
ところで、養生型枠を転用して繰り返し使用できれば、型枠の製造コストの低減化を図ることが可能となる。ところが、養生型枠を転用すると、表面部を構成するシート材にセメント粒子が付着して、目詰まりを起こすおそれがある。そのため、シート材を通じて排出される水分の量は、転用回数が増えるにつれて低下してしまう。表面部の排水性が低下すると、コンクリート表面に気泡が残留するおそれがあり、さらには養生時の水分の供給にムラが生じるおそれがある。
そのため、従来のシート材は、比較的少ない回数しか転用できず、シート材の交換に費用および手間がかかってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-163785号公報
【特許文献2】特開2012-255323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、繰り返し転用して利用することが可能で、メンテナンスに要する費用および手間の低減化を図ることを可能とした養生型枠用透水性シートを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明は、保水性を備えた板状部材からなる保水層を備える養生型枠において前記保水層の表面に積層されて打設コンクリートに接する養生型枠用透水性シートであって、前記保水層との間で水分および気体の移動が可能である。前記養生型枠用透水性シートは、前記保水層側に配置されるポリエステル製の不織布からなる基層と、前記打設コンクリート側に配置されるポリプロピレン製の織布からなる表層と、が積層されている。前記基層は、ポリエチレンテレフタラート(PET)製のスパンレース不織布であるのが望ましい。また、JIS L1096 A法(フラジール形法)にて測定した通気性が3.5cm/cm・s以上であるのが望ましい。また、JIS L1086にて測定した前記基層と前記表層間の剥離強さが経、緯とも80cN/cm以上であるのが望ましい。また、シート全体の厚みが0.5mm以上、0.6mm以下の範囲内で、かつ、シート全体の目付が100g/m以上、200g/m以下の範囲内で、なおかつ、前記基層の目付が20g/m以上、50g/m以下の範囲内であるのが望ましい。
本発明の養生型枠用透水性シートによれば、交換せずに繰り返し転用しても、透水性および通気性が維持される。つまり、養生型枠の転用回数が増えても、コンクリート表面に気泡が残存し難く、高品質のコンクリート構造物が得られる。また、養生型枠用透水性シートの交換の頻度を少なくすることで、養生型枠のメンテナンスに要する費用や手間を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の養生型枠用透水性シートによれば、繰り返し転用して利用することが可能となり、ひいては、メンテナンスに要する費用および手間の低減化を図ることを可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る養生型枠を示す斜視図である。
図2】養生型枠用透水性シートを示す斜視図である。
図3】実験に使用した給水層の写真であって、(a)は基層、(b)は表層である。
図4】実験に使用した比較例1の写真であって、(a)は基層、(b)は表層である。
図5】実験に使用した比較例2の写真であって、(a)は基層、(b)は表層である。
図6】実験結果を示すグラフであって、転用回数と排水量の関係である。
図7】実施例の供試体の表面を示す写真であって、(a)は材齢1日後、(b)は材齢5日後、(c)は材齢10日後である。
図8】比較例の供試体の表面を示す写真であって、(a)は材齢1日後、(b)は材齢5日後、(c)は材齢10日後である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態では、型枠内に打設されたコンクリート(打設コンクリートC)の余剰水を排水し、脱型を要することなく給水養生を実施することを可能とした養生型枠1について説明する。図1に養生型枠1の斜視図を示す。
本実施形態の養生型枠1は、表面が打設コンクリートCに接する給水層2と、給水層2の裏面(打設コンクリートCと反対側の面)に積層された保水層3と、底部を遮蔽する底型枠4とを備えている。
【0009】
図2に給水層2の斜視図を示す。給水層2は、保水層3側に配置されるポリエチレンテレフタラート製のスパンレース不織布からなる基層21と、打設コンクリートC側に配置されるポリプロピレン製の織布からなる表層22とが積層されたシート材(養生型枠用透水性シート)からなる。基層21は、保水層3の表面に接しており、表層22は、打設コンクリートCに接している。
給水層2を構成する養生型枠用透水性シートの、JIS L1096 A法(フラジール形法)にて測定した通気性は、3.5cm/cm・s以上が好ましい。
給水層2を構成する養生型枠用透水性シートの、基層21と、表層22間のJIS L1086にて測定した剥離強さは、経、緯とも80cN/cm以上が好ましい。
給水層2を構成する養生型枠用透水性シートの厚みは0.5mm以上、0.6mm以下の範囲内であり、当該シート全体(給水層2全体)の目付(1mあたりの質量)は100g/m以上、200g/m以下の範囲内である。また、基層21の目付は、20g/m以上、50g/m以下の範囲内とする。
【0010】
給水層2は、通気性および通水性を備えており、打設コンクリートCの表面に生じた気泡や、余剰水を除去することを可能とし、また、打設コンクリートCの養生中に、コンクリート表面に水分を供給することを可能としている。JIS L1096(2010)に記載のA法(フラジール形法)にて測定した通気性が3.5cm/cm・s以上であれば、コンクリート表面の気泡や余剰水を排除しやすく、好ましい。より好ましい通気性は、5.0cm/cm・s以上である。
また、給水層2の表層22がポリプロピレン製の織布により構成されているため、コンクリートに付着し難い。また、不織布は、繊維の熱融着で製造されるスパンボンド不織布ではなく、水流などで繊維を交絡させて製造されるスパンレース不織布を用いることで、溶融して潰れた部分がなく、通水性を高められる。さらに、基層21がポリエチレンテレフタラート製の不織布からなるため、保水層3から浸透した水分が、毛細管現象等により給水層2全体に浸透しその結果、打設コンクリートCの表面に対して均一に行き渡る。このように、役割の異なる基層21と表層22を、上記の向きで型枠に設置することで、セメント粒子の通過抑制、透水性を高く確保しつつ、繰り返しの転用を可能とする。
【0011】
また、給水層2を構成する養生型枠用透水性シートの、基層21と、表層22間の剥離強さが経、緯とも80cN/cm以上であると、型枠を外す際、シートのコンクリートと一部付着してしまった部分と、取り外される型枠とに引っ張られても層間剥離を起こしにくく、転用回数が増えても傷みにくい。具体的には、グラビアロール等で基層21または表層22上に直接、格子柄またはドット柄などの不連続状に接着剤を配置し、積層する接着剤を配置しなかった生地を貼り合せればよい。用いられる接着剤としては、水に侵されることがないものがよく、具体的にはエポキシ系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、シリコン系接着剤、ウレタン系接着剤などが挙げられる。より好ましい剥離強さは150cN/cm以上である。なお、剥離強さはJIS L1086(2013)に準じて測定される。
また、養生型枠用透水性シートの厚み、当該シート全体の目付、基層21の目付が上記範囲内であると、セメント粒子の通過抑制、透水性、シートの裂けや破れ等機械物性といった各種特性を高い水準で満足させることができる。
本実施形態では、一対の給水層2,2が底型枠4の上面に間隔をあけて配置されている。給水層2同士の間隔は、構築するコンクリート部材の幅である。
【0012】
保水層3は、保水性を備えた板状部材からなる。
保水層3は、中空の板材からなる。保水層3は、給水層2の外面に添設されている。また、保水層3は、打設コンクリートCの側圧によって変形することない強度を有していて、せき板としての機能も備えている。また、保水層3の表面(給水層2との当接面)には、多数の孔が形成されていて、保水層3と給水層2との間では、水分および気体の移動が可能である。そのため、打設コンクリートCの表面に発生した気泡や余剰水は、給水層2を介して保水層3へ排出される。その結果、コンクリートの表面に気泡などが生じることを防止できる。また、打設コンクリートCの養生時には、保水層3に水を貯留することで、給水層2を介して打設コンクリートCの表面に水分を供給することが可能となる。
保水層3には、開閉可能な水抜き弁5が接続されている。水抜き弁5を切り替えることにより、保水層3に水を貯留する状態(保水)と、保水層3から水を排出する状態を選択できる。水抜き弁5の構成は限定されるものではない。
【0013】
底型枠4は、打設コンクリートCの底面を覆う板材である。底型枠4を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、木板等が使用可能である。底型枠4は、コンクリート部材の底形状以上の大きさを有している。本実施形態では、底型枠4の上面に給水層2および保水層3が立設されている。
【0014】
本実施形態の養生型枠1によれば、コンクリート側に配設された給水層(養生型枠用透水性シート)2を交換せずに養生型枠1を繰り返し転用しても、給水層2の透水性および通気性が維持される。つまり、養生型枠1の転用回数が増えても、コンクリート表面に気泡が残存し難く、高品質のコンクリート構造物が得られる。また、給水層2の交換の頻度を少なくすることで、養生型枠1のメンテナンスに要する費用や手間を低減することが可能となる。
給水層2の表層22として、ポリプロピレン製の織布を使用しているため、セメント粒子が付着し難く、また、通気性および浸透性に優れている。また、基層21にポリエチレンテレフタラート製のスパンレース不織布を使用しているため、保水層3から浸透した水分を、毛細管現象等を利用して全面的に行き渡らせることができ、養生中のコンクリートの表面に対して、均一に水分を供給することができる。そのため、水中養生に近い環境でコンクリートを養生することが可能となり、より高品質なコンクリート部材を製造することが可能となる。
また、養生型枠1を複数回転用しても、排水機能が維持されるため、表面部の水セメント比W/Cを低減させることができ、その結果、コンクリートの耐久性が向上する。
【0015】
以下、本実施形態の養生型枠1の効果を確認するために実施した実証実験の結果について説明する。
(1)物性測定結果
まず、本実施形態の養生型枠1の給水層2に使用したシート材(養生型枠用透水性シート)の物性を測定した。なお、通気性はJIS L1096(2010)に記載のA法(フラジール形法)にて測定し、基層21と、表層22間の剥離強さは、JIS L1086(2013)にてシート材の経方向、緯方向についてそれぞれ測定した。実施例の養生型枠用透水性シート(給水層2)には、基層21にポリエチレンテレフタラート製(PET30g)のスパンレース不織布を使用し、表層22にポリプロピレン製(PP516D)の織布を使用した。表層22の上に直接、グラビアロールを用いてウレタン系接着剤をドット柄に配置した後、基層21を貼り合せることで実施例のシート材を得た。
また、比較例1,2に係るシート材の物性も実施例1と同様に測定した。比較例1のシート材には、基層21にポリエチレンテレフタラート製(PET30g)のスパンレース不織布を使用し、表層22にポリエチレンテレフタラート製(PET500D)の織布を使用した。表層22の上に直接、グラビアロールを用いてウレタン系接着剤をドット柄に配置した後、基層21を貼り合せることで実施例のシート材を得た。比較例2のシート材は、従来から型枠に使用されているシート材である(基層21がポリプロピレン製(PP70g)のスパンボンド不織布、表層22がポリエチレンテレフタラート製(PET640D)の織布)。図3(a)に実施例の基層21、(b)に実施例の表層22の写真を示す。また、図4(a)に比較例1の基層、(b)に比較例1の表層を示し、図5(a)に比較例2の基層、(b)に比較例2の表層の写真を示す。
表1に実験結果を示す。
【0016】
【表1】
【0017】
表1に示すように、実施例のシート材(養生型枠用透水性シート)は、比較例1,2と比較して、通気性が高かった。そのため、コンクリート表面の気泡や余剰水を排除しやすく、また、養生用の水分の浸透能力が高いことが推測される。また、比較例2はスペーサー頂上部と基層21が接着されているため、接着面積が少なかったり、スペーサーが脱落したりするため、剥離強さが低い。
【0018】
次に、本実施形態の養生型枠1を10回転用してコンクリート部材を作成した際の打設コンクリートから排出される余剰水の量を測定するとともに、コンクリート部材表面の気泡の有無を確認した。また、比較例2のシート材を使用した養生型枠についても、同様に、1~10回転用した場合の排水量とコンクリート表面を確認した。
本実験では、幅210mm、高さ300mmの保水層3を、保水層3同士の間隔が215mmになるように養生型枠1を組み立てた。保水層3の表面には、給水層2(シート材)を予め積層しておく。そして、養生型枠1内にコンクリートを流し込み、棒状バイブレータにより締め固めた。コンクリート表面の余剰水や気泡は、給水層2を介して排出される。これにより、コンクリート表層部の水セメント比が低減される。コンクリートの凝結終了後に水抜き弁5を遮蔽して、保水層3に水を供給する。保水層3の水は、給水層2を介してコンクリート表面に供給される。コンクリート打ち込みから24時間経過後に脱型し、コンクリート表面を目視により確認した。
表2に実験に使用したコンクリートの配合を示す。
【0019】
【表2】
【0020】
図6に転用回数と排水量との関係を示す。
図6に示すように、実施例の養生型枠1は、1回目の75mg/cmから2回目に52mg/cm程度まで排水量が低下するものの、3回目以降の排水量は50mg/cm程度で略変わらない結果となった。したがって、実施例1のシート材(本実施形態の給水層2)を使用すれば、複数回転用した場合であっても、転用初期の段階と同程度の排水量を確保でき、通気性(通水性)も維持されることが確認できた。水セメント比W/Cの低減効果により、コンクリート表面から30mmの範囲の空隙率が低減すると仮定すると、実施例の転用10回中の排水量は最低でも約40mg/cmであり、コンクリート表面から30mm部分の領域の水セメント比(W/C)に換算すると49%となり、配合時の水セメント比W/Cの55%から6%低減していた。したがって、10回転用後もコンクリート表層の水セメント比W/Cを低減させる効果があることが確認できた。
一方、比較例2のシート材を使用した養生型枠は、転用回数2回目以降も排水量が低下し続ける結果となった。これは、シート材にセメント等が付着することで通気性(通水性)が低下したことが原因と推測される。比較例の10回転用後の排水量は3mg/cmであり、コンクリート表面から30mmの領域の水セメント比W/Cは配合時とほとんど変化しなかった。このように、本実施形態の養生型枠1によれば、複数回転用しても、水セメント比W/Cを低減させる効果を得ることができる。
【0021】
図7に実施例のコンクリート表面状況を示し、図8に比較例2のコンクリート表面状況を示す。なお、図7図8において、(a)は転用回数1回目、(b)転用回数5回目、(c)は転用回数10回目である。
実施例の養生型枠1を使用した場合は、図7(a)および(b)に示すように、転用回数5回目までは、コンクリート表面に気泡がほとんど確認できなかった。一方、図7(c)に示すように、転用回数10回目では、わずかに気泡が確認できたものの、目立つものではなかった。したがって、実施例のシート材(本実施形態の給水層2)は、複数回転用した場合であっても、コンクリートの表面状況が良好であることが確認できた。
一方、比較例2のシート材は、図8(b)に示すように、転用回数5回目の段階で、コンクリート部材の表面に気泡が確認できた。また、図8(c)に示すように、転用回数10回目の段階では、コンクリート部材の表面に大きな気泡が生じていた。これは、シート材の転用によりシート材の表面にセメントなどが付着して通気性が低下したため、打設コンクリートCの表面に生じた気泡や余剰水を排出できなかったことが原因と推測される。
このように、給水層2(養生型枠用透水性シート)の表層22をポリプロピレン製の織布、基層21のポリエチレンテレフタラート製の不織布にすることで、転用回数を増やしても、給水層2としての機能が維持されることが確認できた。
【0022】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、養生型枠1により製造されるコンクリート部材は限定されるものではなく、例えば、箱桁、壁部材、擁壁、カルバートの壁面、床版コンクリート、トンネルの覆工コンクリート等、あらゆるコンクリート部材に適用可能である。
基層21を構成する材料は、ポリエチレンテレフタラート製のスパンレース不織布に限定されるものではなく、例えば、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PEN)など他のポリエステル製の不織布を使用することも可能であり、スパンボンド不織布を使用することも可能である。
前記実施形態では、保水層3がせき板も兼ねる場合について説明したが、保水層3とは別にせき板を備えていてもよい。このとき、保水層3は、せき板の内側面に添設(せき板と給水層2との間に介設)する。
前記実施形態では、保水層3に水抜き弁5が取り付けられている場合について説明したが、水抜き弁5は、省略してもよい。なお、水抜き弁5を省略する場合には、保水層3の下部外面に排水孔を形成しておくのが望ましい。このとき、排水孔には、蓋材が着脱可能に設置されているのが望ましい。
【符号の説明】
【0023】
1 養生型枠
2 給水層(養生型枠用透水性シート)
21 基層
22 表層
3 保水層
4 底型枠
5 水抜き弁
C 打設コンクリート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8