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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023675
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 31/04 20060101AFI20220201BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20220201BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20220201BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20220201BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20220201BHJP
【FI】
C08L31/04 S
C08L23/08
C08L23/12
C08L83/04
C08L23/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020126783
(22)【出願日】2020-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】三井 崇
(72)【発明者】
【氏名】真貝 美智子
(72)【発明者】
【氏名】池田 昌男
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC073
4J002BB035
4J002BB061
4J002BB122
4J002BF031
4J002CK023
4J002CP033
4J002CP034
4J002CP134
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】本発明は、優れた耐傷付き性を有する成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る組成物は、エチレン-酢酸ビニル共重合体と、オレフィン系ポリマーと、シリコーン化合物と、オレフィン粒子と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-酢酸ビニル共重合体と、オレフィン系ポリマーと、シリコーン化合物と、オレフィン粒子と、を含む、組成物。
【請求項2】
熱可塑性エラストマーをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記オレフィン系ポリマーがポリプロピレンである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記オレフィン粒子がポリエチレン粒子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物全量に対する前記オレフィン粒子の量が2質量%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記オレフィン粒子の平均粒子径が10~100μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン等のブリード性物質を配合した樹脂成形体は、自動車のシール部材等、摺動性が求められる部材の表皮層として用いられてきた。特許文献1には、架橋されたエチレン酢酸ビニル共重合体又は未架橋のエチレン酢酸ビニル共重合体からなるドメインと、シリコーン化合物とを、オレフィン系ポリマーからなるマトリックス中に含有する表皮材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-188623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の樹脂成形体は、表皮材として使用するには優れた特性を備えている。しかしながら、特許文献1の樹脂成形体を自動車のフロアマットなどの他の用途に使用するためには、特性にさらなる改善の余地があった。そこで、本発明は、優れた耐傷付き性を有する成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態に係る組成物は、エチレン-酢酸ビニル共重合体と、オレフィン系ポリマーと、シリコーン化合物と、オレフィン粒子と、を含む。
【0006】
上記組成物は、熱可塑性エラストマーをさらに含んでもよい。
【0007】
上記オレフィン系ポリマーはポリプロピレンであってもよい。
【0008】
上記オレフィン粒子はポリエチレン粒子であってもよい。
【0009】
上記組成物全量に対する上記オレフィン粒子の量は、2質量%以上であってよい。
【0010】
上記オレフィン粒子の平均粒子径は、10~100μmであってよい。
【0011】
本発明の一実施形態に係る成形体は、上記組成物の成形体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態に係る成形体は、優れた耐傷付き性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る成形体の斜視図である。
図2図1におけるII-II線断面図である。
図3】実施例における成形体のX線像及び元素マッピング像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(組成物)
本発明の一実施形態に係る組成物は、エチレン-酢酸ビニル共重合体と、オレフィン系ポリマーと、シリコーン化合物と、オレフィン粒子と、を含む。組成物は、粘性のある液状、半固体状、及び、ペレット等の固体状のいずれであってもよい。
【0015】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(以下、「EVA」ともいう。)は、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体であり、EVAはブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよい。EVAは、架橋されていても、架橋されていなくてもよい。
【0016】
EVAにおける、エチレンに由来するモノマー単位と酢酸ビニルに由来するモノマー単位の割合は特に限定されない。EVAは、例えば、酢酸ビニル20~90質量%とエチレン10~80質量%との共重合体であってもよい。架橋されたEVAを用いる場合、シリコーン化合物の過度なブリードを低減する観点、及び、耐熱性等の機械的特性、耐候性及び耐寒性の観点から、EVAは、例えば、酢酸ビニル30~90質量%とエチレン10~70質量%との共重合体、酢酸ビニル40~90質量%とエチレン10~60質量%との共重合体、又は酢酸ビニル40~80質量%とエチレン20~60質量%との共重合体であってよい。架橋されていないEVAを用いる場合、シリコーン化合物の過度なブリードを低減する観点から、EVAは、例えば、酢酸ビニル60~90質量%とエチレン10~40質量%との共重合体であってよい。
【0017】
EVAのムーニー粘度は、特に限定されず、例えば、3~60又は15~50であってよい。本明細書において、EVAのムーニー粘度とは、EVA試料を100℃に加熱し、試料中で毎分2回転する円板にかかるトルクから求められ、予備加熱1分間の後、回転開始から4分経過後での値である。
【0018】
EVAの重量平均分子量は、特に限定されず、例えば、5,000~1,000,000又は10,000~600,000であってよい。本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定して得られる標準ポリスチレン換算値である。
【0019】
オレフィン系ポリマーは、1種又は2種以上のオレフィンモノマーに由来するモノマー単位から実質的に構成されるポリマーである。ここで、1種又は2種以上のオレフィンモノマーに由来するモノマー単位から実質的に構成されるポリマーであるとは、オレフィン系ポリマー全量において、オレフィンモノマーに由来するモノマー単位から構成される部分が、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上である場合を意味する。オレフィン系ポリマーは、α-オレフィン、シクロオレフィン、共役ジエン、及び非共役ジエンからなる群より選ばれる1種又は2種以上のオレフィンモノマーの共重合体であってよい。あるいは、オレフィン系ポリマーは、上記群より選ばれるオレフィンモノマーと、上記群に属しない他のモノマー(以下、「非オレフィン系モノマー」と呼ぶ場合がある。)との共重合体であってもよい。ここで、非オレフィン系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、ビニルアルコール(例えば、酢酸ビニルの鹸化物として導入されるもの)、不飽和カルボン酸(α,β-不飽和カルボン酸が含まれる)、ビニルエステル、及びスチレンが挙げられる。なお、オレフィン系ポリマーは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本実施形態に係る組成物中、オレフィン系ポリマーは粒子の形態で存在しておらず、後述するオレフィン粒子とは区別される。
【0020】
オレフィン系ポリマーとしては、成形体の柔軟性がより優れたものとなること、及び、EVAの架橋に用いることのできる架橋剤との反応性が乏しいことから、プロピレン系ポリマーが好ましい。ここで、プロピレン系ポリマーとは、プロピレン単独の重合体、又はプロピレンと炭素数2~20のα-オレフィンとのブロック共重合体若しくはランダム共重合体である。プロピレン系ポリマーは、プロピレンに由来するモノマー単位を50モル%以上の量で含む。プロピレン系ポリマーとしては、例えば、ポリプロピレン(以下、「PP」ともいう。)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、及びプロピレン-エチレン-1-ブテンランダム共重合体が挙げられる。プロピレン系ポリマーの結晶構造は限定されず、アイソタクティック、シンジオタクティック、又はこれらの混合でもよい。さらに、プロピレン系ポリマーは、非結晶性又は低結晶性のプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、又は、結晶性のプロピレン系ポリマーと非結晶性若しくは低結晶性のプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体との二段重合体であってもよい。
【0021】
シリコーン化合物は、シロキサン結合により構成される主骨格を有する高分子化合物である。シリコーン化合物は、例えば、シリコーンオイル、シリコーンガム、及びシリコーン系共重合体からなる群より選ばれる1種以上であってよい。
【0022】
シリコーンオイル又シリコーンガムとしては、例えば、ジメチルポリシロキサン(ジメチルシリコーン)、メチルフェニルポリシロキサン(メチルフェニルシリコーン)、ハイドロジェンポリシロキサン(例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサン)、及び、シラノール基を有するオルガノシロキサンと、アミノ基又はアミド基を有するオルガノシロキサンとの縮合物が挙げられる。シリコーンオイルは、アルキル変性、ポリエーテル変性、高級脂肪酸アミド変性、高級脂肪酸エステル変性、フッ素変性(フルオロシリコーン)等の変性シリコーンオイルであってもよい。
【0023】
シリコーン系共重合体は、シリコーンオイル又はシリコーンガムと他の樹脂との共重合体である。シリコーン系共重合体としては、例えば、「シャリーヌ」(日信化学工業株式会社製、商品名)、「X-22-8171」(信越化学工業株式会社製、商品名)等のシリコーン-アクリル共重合体(アクリルシリコーン)、及び「シリコーンコンセントレート」(東レ・ダウコーニング社製、商品名)等のシリコーン-オレフィン共重合体が挙げられる。シリコーン系共重合体の他の例として、ジメチルビニルポリシロキサンと、不飽和基の含有量が0~5質量%のエチレン-プロピレンジエンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、又はスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)との部分架橋物が挙げられる。
【0024】
オレフィン粒子は、微粒子状のポリオレフィン系ポリマーであって、上述したオレフィン系ポリマーとの相溶性を有するものであれば特に限定されない。上述したオレフィン系ポリマーとの相溶性を有する粒子は、後述するように、オレフィン系ポリマーを含むマトリックス中に均一に分散することができる。オレフィン粒子を構成するポリマーとしては、上述のオレフィン系ポリマーのいずれを使用してもよい。オレフィン粒子は、例えば、ポリエチレン(PE)粒子又はポリプロピレン(PP)粒子であってよい。
【0025】
オレフィン粒子の形状は特に限定されず、例えば、球又はフレーク状であってよい。より優れた耐傷付き性を有する成形体を得る観点から、オレフィン粒子は、好ましくは球形であり、より好ましくは真球形である。
【0026】
オレフィン粒子の平均粒子径は、例えば、100μm以下、75μm以下、65μm以下、又は60μm以下であってよい。オレフィン粒子の平均粒子径は、例えば、10μm以上、20μm以上、又は25μm以上であってよい。本明細書において、平均粒子径は、コールターカウンター法により得られる体積基準の粒度分布における算術平均粒子径を意味する。
【0027】
オレフィン粒子は、例えば、チーグラー・ナッタ触媒又はメタロセン触媒を用いた中低圧法により作製することができる。あるいは、オレフィン粒子としては、三井化学社製のミペロン(登録商標)、住友精化株式会社製のフローセン(登録商標)、旭化成株式会社製のサンファイン(登録商標)、宇部興産株式会社製のUBE粉末ポリエチレン等の市販品を用いることもできる。
【0028】
本実施形態に係る組成物は、熱可塑性エラストマー(TPE)をさらに含んでもよい。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、動的架橋系熱可塑性エラストマー(TPV)、及びポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)が挙げられる。オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)と、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、又はエチレン-プロピレンゴム(EPM)等のエチレン-α-オレフィン共重合体とのブレンドが挙げられる。オレフィン系熱可塑性エラストマーには、リアクターTPOも包含される。
【0029】
本実施形態に係る組成物には、公知の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、顔料、シリカ、補強剤(例えば、カーボンブラック)、酸化防止剤、耐候性向上剤、防徽剤、抗菌剤、難燃剤、軟化剤(例えば、パラフィン系軟化剤)、滑剤、潤滑剤(例えば、フッ素系潤滑剤)等が挙げられる。
【0030】
EVAの量は、良好な硬度を有する成形体を得る観点から、組成物全量に対して、例えば、30~90質量%、30~55質量%、33~54質量%、35~50質量%、又は、40~46質量%であってよい。
【0031】
オレフィン系ポリマーの量は、良好な流動性を得る観点から、組成物全量に対して、例えば、5~40質量%、10~35質量%、10~20質量%、11~18質量%、12~19質量%、又は13~16質量%であってよい。
【0032】
EVAとオレフィン系ポリマーの合計量は、良好な硬度、耐傷付き性、及び摺動性を有する成形体を得る観点から、組成物全量に対して、25~80質量%、35~70質量%、44~72質量%、又は50~65質量%であってよい。
【0033】
シリコーン化合物の量は、高い摺動性を有する成形体を得る観点から、組成物全量に対して、例えば、1質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、6.5質量%以上、7質量%以上、7.5質量%以上、10質量%以上、又は19質量%以上であってよい。シリコーン化合物の量は、シリコーン化合物の過度なブリードを低減する観点から、組成物全量に対して、例えば、25質量%以下、19質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、又は7.5質量%以下であってよい。
【0034】
オレフィン粒子の量は、優れた耐傷付き性及び摺動性を有する成形体を得る観点から、2質量%以上、2.5質量%以上、3質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、又は8質量%以上であることが好ましい。オレフィン粒子の量は、混練性及び成型性の観点から、20質量%以下、15.6質量%以下、又は15質量%以下であることが好ましい。
【0035】
熱可塑性エラストマーの量は、組成物全量に対して、例えば、45質量%以下であってよく、18~45質量%、15~35質量%、又は20~32質量%であってよい。
【0036】
一実施形態において、組成物は、上述の各成分を混練することにより調製できる。混練方法は特に限定されず、全成分を同時に混練してもよいし、一部の成分を他の成分の混練先立って混練してもよい。例えば、EVAとオレフィン系ポリマーを最初に混練し、次いで、得られた混練物とシリコーン化合物及びオレフィン粒子以外の成分とを混練してもよい。シリコーン化合物及びオレフィン粒子は最後に混練してもよい。混練には、例えば、2軸押出機及び1軸押出機等の押出機、又はニーダー等の混練機を用いることができる。
【0037】
(成形体)
一実施形態において、本発明は、上記組成物の成形体を提供する。かかる成形体は、例えば、フロアマット、インストルメントパネル、ドアトリム、座席、天井などの自動車内装部品、家具、靴、履物、鞄、建装用内外装部材、又は表皮材として使用することができる。
【0038】
上記表皮材を基材の上に備える多層体は、シール部材、内層部材、摺動部材等に好適に用いることができる。例えば、自動車用ダイナミックシール、自動車用スタテックシール等のシール部材、自動車用内装材等の内装部材、及び、二層マット、二層チューブ等の摺動部材が例として挙げられる。自動車用ダイナミックシールとしては、例えば、ドアシール、トランクリッド、フードシール、ウインドウクリーナー、シルシール、スプリットフェンダー、スプリットラインシール、及びセカンダリーシールが挙げられる。自動車用スタテックシールとしては、例えば、ウエザーストリップ、ガラスラン、及び水切りモールが挙げられる。自動車用内装材としては、例えば、インパネ、コンソールボックス、ステアリングカバー、シフトレバーノブ、ブレーキパッド、アクセルパッド、フットブレーキカバー、及びサイドブレーキカバーが挙げられる。基材は、特に限定されないが、例えば、鉱油とエラストマーを含有してもよい。基材は、一つ又は複数の層からなってもよい。
【0039】
成形体における各成分及びそれらの量の詳細は、上記組成物について述べたとおりである。成形体の形は、特に限定されず、表皮材として使用する場合には、基材の形状に合わせて成形体の形を決定することができる。成形体は、例えば、シート状であってもよい。
【0040】
成形体のショア-A硬度は、95~65、90~70、又は90~80であってよい。成形体のショア-A硬度は、例えば、組成物の流動性を調整することにより制御することができる。本発明によれば、ショア-A硬度を過度に上げることなく耐傷付き性の優れた成形体を得ることができるため、かかる成形体は幅広い用途に使用することができる。本明細書において、ショア-A硬度は、JIS K 6253-3:2012に準拠して測定され、タイプAデュロメータの加圧板を試験片に接触させた直後の測定値を意味する。
【0041】
図1は、本実施形態に係る成形体100の斜視図である。図2は、図1におけるII-II線断面図である。図2に示すように、成形体100において、EVAはドメイン20を形成し、オレフィン系ポリマーを含むマトリックス30中に、シリコーン化合物10及びオレフィン粒子40とともに分散されていると考えられる。成形体100に熱可塑性エラストマーが含まれる場合、熱可塑性エラストマーもオレフィン系ポリマーとともにマトリックス30を構成する。シリコーン化合物10は、成形体100を製造した直後の段階では、EVAのドメイン20の周りに局在しており、徐々にブリードして成形体100の表面へと移動していくと考えられる。一方、オレフィン粒子40は、オレフィン系ポリマーと相溶性を有するため、マトリックス30中に均一に分散している。
【0042】
マトリックス30における、シリコーン化合物10、ドメイン20、及びオレフィン粒子40の分散は、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いた、形状観察及び元素マッピングにより確認することができる。例えば、シリコーン化合物10、ドメイン20、マトリックス30、及びオレフィン粒子40は、元素マッピングにおける、C元素濃度、O元素濃度、及びSi元素濃度の分布に基づいて判別することができる。シリコーン化合物10、ドメイン20、マトリックス30、及びオレフィン粒子40における各元素の濃度を表1に示す。マトリックス30とオレフィン粒子40とは同じ又は似たような濃度分布を示すが、二次電子像によりオレフィン粒子40の粒子形状を捉えることにより、これらを判別することができる。また、マトリックス30とドメイン20とでは、ドメイン20においてより高いC濃度が検出される。
【0043】
【表1】
【0044】
一実施形態において、成形体は、上述の組成物を成形することにより得ることができる。成形方法は特に限定されず、例えば、押出成形、射出成形、又はブロー成形であってよい。
【実施例0045】
表4及び表5に示す材料を、同方向高速二軸機を用いて混錬し、組成物1~19のペレットを作成した。各材料の詳細は表2に示すとおりである。表中、PP/EVA-1、PP/EVA-2、及びPP/EVA-3は、表3に示す原料をブレンドし、高速二軸押出機にて混練することにより調製した。なお、表3中、EVA(40%VA)及びEVA(80%VA)は、酢酸ビニルに由来するモノマー単位をそれぞれ40質量%及び80質量%含むEVAである。また、表2中、PE粒子-1及びPE粒子-2の平均粒子径は、コールターカウンター法により得られる体積基準の粒度分布における算術平均粒子径である。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
(耐傷付き性試験)
80tスケールの射出成形機を用いて、上記ペレットから厚さ3mmの射出成形シートを作製した。幅4mm及び厚さ0.5mmのステンレス刃をシートに垂直に当てて、刃に1000gの荷重をかけながら、3.2cm/分で刃に対して垂直方向にシートをスライドさせた。シート表面の変化を目視で観察し、シートの耐傷付き性を評価した。評価基準は次のとおりである。
A:傷がほとんど確認できない。
B:傷が確認できる。
【0051】
(摩擦係数の測定)
ペレットをミキシングロールにて混錬し、シート状に成形した後、油圧式プレス機を用いて、シート状成形体から厚さ1mmのプレスシートを作製した。表面性測定機「HEIDON TYPE:14D」(新東科学株式会社製)を用いて、荷重500g及び試験速度100mm/分にて、プレスシートの静摩擦係数及び動摩擦係数を測定した。
【0052】
(硬度の測定)
上記と同様にして、ペレットから厚さ2mmのプレスシートを作製した。シート片を3枚重ね、プレスシートの表面のショア-A硬度を、JIS K 6253-3:2012に準拠して測定した。ショア-A硬度とは、タイプAデュロメータの加圧板を試験片に接触させた直後の測定値を意味する。
【0053】
組成物1~19についての評価及び測定値を表4及び表5に示す。組成物1、2、10、及び11以外の組成物から作製したシート(成形体)は、良好な摺動性に加えて優れた耐傷付き性を有していた。一方、オレフィン粒子を含まない組成物1、2、10、及び11から作製したシートの耐傷付き性試験の結果は、良好ではなかった。
【0054】
組成物3のペレットを射出成型によりシート状に成形し、EPMA(日本電子株式会社製のJXA-8100)を用いて形状観察及び元素マッピングを行った。図3に結果を示す。図3の左上は、元素濃度によるマッピングを施していないX線像を示し、右上、左下、右下はそれぞれSi濃度、C濃度、O濃度によるマッピング像を示す。元素マッピング像中、元素濃度は寒色から暖色へのグラデーションで表されており、寒色から暖色に移るにつれ元素濃度が高くなる。これらの像から、オレフィン系ポリマー及び熱可塑性エラストマーから構成されるマトリックス30における、シリコーン化合物10、EVAのドメイン20、及びオレフィン粒子40の分散を確認することができた。オレフィン系ポリマーと相溶性を有するオレフィン粒子40は、マトリックス30中に均一に分散していた。
【符号の説明】
【0055】
10…シリコーン化合物、20…ドメイン、30…マトリックス、40…オレフィン粒子、100…成形体。
図1
図2
図3